古村治彦です。
ウクライナ戦争は「ウクライナ対ロシア」という枠組みを超えて、「西側対それ以外」という構図にもなっている。戦費や武器の支援から見れば、この戦いは「ウクライナ・アメリカ対ロシア」の戦いということになる。アメリカが約6兆円をつぎ込んでいる。
西側諸国は対ロシア制裁で結束し、ロシアに大打撃を与えようとした。しかし、その効果は限定的だ。ロシア産の石油を西側諸国は禁輸としたが(イギリスは今年いっぱい輸入するとし、ドイツは全面禁輸には踏み切らない)、西側諸国に代わって、中国とインドがロシア産石油を少し安い値段で買い入れを行っており、石油の代金収入が戦費を上回るということが起きている。ロシアは石油の購入をルーブルで行うように要請し、一度大幅に下落したルーブルの価値も上昇した。
このように、西側諸国の方策は効果を発揮していない。それは、西側以外の、それ以外の国々がロシアに対して積極的に支援をしている訳ではないが、西側の対ロシア制裁に同調しないからだ。その代表格がインド、中国、サウジアラビアといった国々だ。これらの国々が西側に同調しなければ、西側の制裁は効果を持たない。それではこれらの国々を西側の味方に引き入れられるかというと、それは難しい。それぞれの国が自国の国益を守るために行動している。これらの国々にとって西側に同調しないように行動すること、バランスを取ることが国益になるので、そのように行動する。それに対して何からの矯正をすることは難しい。
下記の論稿にあるドイツとハンガリーはEUとNATOの加盟国であり、本来であれば、アメリカとイギリスに同調すべき立場にある。しかし、両国はやはり自国の国益に沿った行動を取っている。ドイツもハンガリーもロシアからのエネルギー資源に依存している。ロシアとは決定的な断絶を避けたいということは当然のことだ。
ウクライナ戦争が長期化し、「戦争疲れ」「ゼレンスキー疲れ」がたまっていく中で、西側諸国の結束は揺らいでいくことになるだろう。その結果、現在の世界体制の大きな転換、アメリカの終わりの始まりを印象付けることになる。
(貼り付けはじめ)
アメリカがロシアに関して味方にしようと試みている5カ国(Five countries
US is trying to sway on Russia)
ブレット・サミュエルズ、ロウラ・ケリー筆
2022年4月12日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/policy/international/3264413-five-countries-us-is-trying-to-sway-on-russia/
ジョー・バイデン政権は、ロシアに対する圧力キャンペーンを支援するために多くの西側同盟国を集めることに成功したが、モスクワのウクライナ侵攻に反対するために他の多くの同盟諸国や主要な競争相手を味方につけることはより困難であることが判明した。
ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は「世界の国内総生産50%以上の国々を世界的な同盟に構築したが、失敗とは言えないだろう。誰もそれを失敗とは言わないと思う」と述べた。
それでも米政府関係者は、紛争にほぼ中立の立場を維持しているか、ロシアにさらに圧力をかけるという申し出を断っている世界中の国々と関わってきた。
Still, U.S. officials have engaged with
nations around the world that have largely remained neutral in the conflict or
declined overtures to further pressure Russia.
これから、ロシアに圧力をかけ、ロシアの侵略による世界的な経済的波及効果を鈍らせるためにバイデン政権が説得を試みている5カ国を紹介する。
(1)インド
バイデン大統領は月曜日、インターネットを通じてインドのナレンドラ・モディ首相と歓談を持った。ダリープ・シン国家安全保障問題担当大統領次席補佐官がインド当局者との会談のためにニューデリーに出張したのは2週間前のことだった。
バイデンは、ロシアの侵攻に反対する民主政治体制諸国の結束をしばしば宣伝してきた。しかし、世界最大の民主政治体制国家であるインドは、ロシアの石油を輸入し続け、ウクライナで行われた人権侵害に関する国連の決議投票では中立を保っている。
ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、「バイデン大統領はモディ首相との会談で、アメリカと同盟諸国が課す制裁の効果を明らかにしようと努め、アメリカはインドのエネルギー輸入の多様化を喜んで支援すると強調した」と記者団に語った。
サキ報道官は「バイデン大統領はまた、ロシアのエネルギーや他の商品の輸入を加速したり増やしたりすることがインドの利益になるとは考えていないと明言した」と述べた。
インドは、ウクライナのブチャで起きた民間人殺害事件を非難し、戦争犯罪の可能性について独立機関による調査を求め、人道的な救援活動を行ったことを強調した。
サキ報道官は続けて「私たちの目的の一つは、それを基礎にして、さらに多くのことを行うよう奨励することだ。だからこそ、指導者同士の対話が重要なのだ」と述べた。
(2)サウジアラビア・アラブ首長国連邦
石油輸出国機構(OPEC+)の中核メンバーで石油資源の豊富な湾岸諸国は、ロシアの石油・ガス輸出を制裁・抑制する取り組みの中で、上昇した価格を引き下げることを目的としてアメリカが世界市場での石油供給を増やすよう要求していることに抵抗している。
特にサウジアラビアは、OPEC+を通じてロシアと結んだ原油生産と価格に関する協定に大きく依存しており、リヤドはエネルギー依存から脱却した経済の多角化の一環として、将来の国内経済計画にそれを織り込んでいる。
ロシアの戦争はまた、『ワシントン・ポスト』紙の記者ジャマル・カショギの殺害におけるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子の役割に対するアメリカの非難をめぐり、リヤドとワシントンとの関係全般が冷え込む中で起こったものである。
『ウォールストリート・ジャーナル』紙は先月、ムハンマド王太子が、アメリカがロシアの石油輸入を禁止することについてバイデン大統領と話すのを拒否したと報じた。ホワイトハウスはこの報道を不正確だと述べた。
ワシントンのアラブ湾岸諸国研究所上級研究員フセイン・イビッシュは、サウジアラビアとアラブ首長国連邦のロシアに対する姿勢が失敗であるという考え方に反論し、代わりに「部分的成功」と表現した。
イビッシュは「アラブ首長国連邦とサウジアラビアは曖昧な態度を取っているが、湾岸諸国は、ワシントンや国際社会から突きつけられる厳しい選択に立ち向かう準備を整えている佐中なのだろう」と述べた。
イビッシュは続けて「ウクライナ侵攻はヨーロッパの危機であり、世界の危機ではない、というのが彼らの誤算だったのだろう。彼らは、このような出来事に対して、自分たちはかなり周辺にいると考えていたがそれは間違いだ」と述べた。
イビッシュは、リヤドとアブダビは、バイデン政権からのイランが支援するイエメンのフーシ派反政府勢力からの攻撃に対抗するための安全保障の強化を求めており、アメリカとのそうした取引は、ロシアへのコストを高める行動に彼らを動かす可能性がある、と付け加えた。
イビッシュは次のように述べた。「サウジアラビアが原油を増産し、ロシアとのOPEC+合意を破棄しなければならないかもしれない。それは彼らにとって苦痛で不快なことだろうが、もしそうするならば、少なくとも彼らはワシントンとの前向きなリセットのためにそうしていると確信できるだろう」。
(3)中国
バイデン政権は、中国がロシアに軍事装備や資金援助を行うことを阻止するために、多大な時間とエネルギーを費やしてきた。
バイデン大統領は中国の習近平国家主席と直接会談し、アントニー・ブリンケン国務長官は中国の王毅外相と会談し、ジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官は中国のトップ外交官である楊潔篪とそれぞれ会談した。いずれの場合も、米政府要人たちは北京に対し、ロシアが有利となるような介入をしないよう警告を発した。
バイデン政権高官たちは、中国がロシアとウクライナの紛争に関与しないことを明確に決めているかどうかはまだ不明だと述べている。しかし、これまでのところ、北京はモスクワが要求したとされる軍事援助をまだ送っていない。
ロイター通信は、中国はロシアとの石油契約を尊重しているが、新たな契約にはまだサインしていないと報じている。これは北京が、経済的に関係を持っている西側諸国からの反発の可能性を認識していることの表れである。
バイデン政権のある幹部は、侵攻が始まった直後に記者団に対し、北京がロシアを助けに来ることはないだろうと楽観視していると述べ、「中国はアメリカの制裁の効力を尊重する傾向にある」と指摘した。
(4)ドイツ
ロシアのウクライナ侵攻が始まった当初、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、キエフへの重要な軍事支援と、ロシアがヨーロッパへの天然ガス供給を計画していたガスパイプライン「ノルドストリーム2」の閉鎖によって、ベルリンの歴史的平和主義姿勢を厳しい行動に転じたとして称賛された。
しかし、戦争が7週目に入るとその勢いは弱まり、ドイツは、アメリカやヨーロッパの他の国々が、1日約10億ドル分入ってくるロシアの石油とガスの世界的な輸入を断ち、ロシアの戦費をさらに圧迫するという要求に加わることに反対を表明している。
ドイツは「ノルドストリーム1」パイプラインを通じてロシアの天然ガス供給に依存し続けており、ドイツ政府高官たちは、ヨーロッパで最も人口の多い国にとって蛇口を止めるという選択肢はないと明言している。
連邦下院多数党(民主党)院内総務捨てに―・ホイヤー連邦下院議員(メリーランド州選出、民主党)を団長とする連邦下院議員訪問団は、今週ベルリンに移動し、ヨーロッパへの複数国訪問の一環としてショルツ氏と会談する予定である。
同盟諸国は、ヨーロッパ、特にドイツをロシアのエネルギーから直ちに切り離すことが困難であることを認識している。
イギリスの対ヨーロッパ・北米外交のトップを務めるジェイムズ・クレヴァリーはあるインタヴューの中で、ドイツがこれまで進んできたステップを称賛し、次のように述べた。「ドイツ政府がこれまでの数十年間に行われたあらゆる決定によって作り出された状況の下で生きていることを批判するのは公正かつ合理的ではないと考える」。
クレバリーは「ショルツ首相は、ウクライナ侵攻の直接的な結果として、この1カ月でドイツの外交政策を再定義した」と述べた。
(5)ハンガリー
ハンガリーはNATO加盟国だが、ロシアの侵攻には慎重に対応しており、現在進行中の紛争において、複雑な国家であることが証明されている。
ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相は2010年から政権を担っている権威主義的指導者で、ロシアの侵攻を非難しているが、ロシアのウラジミール・プーティン大統領個人に対して発言することは避けている。
ヨーロッパ連合(EU)の一員として、ハンガリーは対ロシア制裁措置の発動に協力した国の一部だが、ハンガリー自身はロシア経済を下支えするための措置をとっている。
オルバン大統領は先週、ロシアのガスをルーブルで購入する用意があると述べた。多くの西側諸国がロシアからのエネルギー購入を制限または完全に断ち、ロシアの通貨を孤立させようとしている時に、この発言はロシアの通貨を安定させる一助となるであろう。
先週、対ロシア制裁に関してアメリカはハンガリーと協力するのかと質問され、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は「ハンガリーはNATO加盟国であり、今後もそうあり続ける。私たちは、NATOの防衛や人道支援を含む、様々な二国間および共通の世界的利益について協力を続けている」と答えた。
サキ報道官は続けて「ハンガリーは現在、NATOの戦闘部隊である、アーミー・ストライカー歩兵部隊を駐留させておる。私たちは彼らと定期的に合同訓練を行っており、今後もハンガリーとのパートナーシップを強化するために努力していく」と述べた。
(貼り付け終わり)
(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。

ビッグテック5社を解体せよ