古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:アラン・リクトマン

 古村治彦です。

 アメリカン大学の歴史学の教授でアラン・リクトマン(Allan Lichtman、1947年―、73歳)という人がいる。この人物は1984年以降のアメリカ大統領選挙の結果を全て正確に予測していると主張している。アメリカでは「2016年の大統領選挙でトランプ勝利を予測した」としてメディアで引っ張りだことなった。
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アラン・リクトマン
 このリクトマン教授が「2020年の大統領選挙でバイデンが勝つ」と予測を出し、それを民主党の応援団『ニューヨーク・タイムズ』紙が嬉しそうに記事にしている。

 リクトマンは13項目の指標のイエスとノーの数で大統領選挙の予測をしている。彼はこの指標をソ連出身の地震学者ウラジミール・ケイレス・ボロック(1921-2013年、92歳で没)と共に作り、1984年に本にまとめて発表した。13項目は以下の通りだ。

 

1.       大統領選挙の中間選挙(大統領選挙の2年前の実施)の後、大統領を擁する党の連邦下院で保有する議席数が、その前の中間選挙の後よりも多い。

2.       大統領を擁する党の予備選挙で激しい競争がない。

3.       大統領を擁する党の候補者が現職大統領である。

4.       選挙結果に影響を与える有力な第三党もしくは無所属の候補者がいない。

5.       選挙期間中に景気後退が起きていない。

6.       大統領選挙までの4年間(大統領の任期)の1人当たりの実質経済成長がその前の8年間(大統領の任期2つ分)の平均成長率を超えている。

7.       現職大統領の政権が国家規模の政策の変更に影響を与えている。

8.       大統領の任期中に暴動など深刻な社会不安は存在していない。

9.       現職大統領の政権がスキャンダルを起こしていない。

10.現職大統領の政権が外交問題もしくは軍事問題で深刻な失敗をしていない。

11.現職大統領の政権が外交上もしくは軍事上で大きな成功を収めている。

12.大統領を擁する党の候補者がカリスマを備えているもしくは国民的英雄だ。

13.大統領を擁する党に挑戦する側の党の候補者がカリスマを備えていない、もしくは国民的英雄でもない。

 

 2016年の大統領選挙の時、リクトマンは「2、5、6、8、9、10、13がイエスとなり、他がノーとなるので、総得票数でヒラリーは勝てず、トランプが勝つ」と予測した。実際はどうだったかというと、ヒラリーは総得票数で勝利をしたが、選挙人獲得数ではトランプが勝利し、大統領になった。リクトマンは「トランプ当選を予測した男」としてメディアに引っ張りだことなった。

 リクトマンが「今年の大統領選挙ではジョー・バイデンが勝つ」という予測をしている、と民主党の応援団『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じたのは2020年8月5日だ。リクトマンは「2、3、4、7、10、13」の項目の答えがイエスで、後はノーだとして、イエスの数が少ないことから、「バイデンが勝つ」と予測している。ニューヨーク・タイムズ紙はこのことを嬉しそうに報じた。

 ここで注意をしなければならないのは、リクトマンの予測は「総得票数」に関するものだという点だ。リクトマンは2000年の大統領選挙で、ゴアが総得票数でブッシュに勝利すると予測した。確かに、ゴアは総得票数で勝利した。しかし、大統領になったのは、フロリダ州においてわずか数百票差で勝利し、選挙人獲得総数で上回ったブッシュだった。

 また、2016年の場合も、トランプが総得票数でヒラリーに勝利すると予測していたのだ。実際には、トランプは総得票数でヒラリーを下回ったが、選挙人獲得総数で勝利した。だから、リクトマンは予測を外したが、“総得票数“という言葉を入れなければ、「トランプ勝利を予測した人物」ということになる。

 また、上に挙げた指標を見れば、最後の2つはかなり主観的なしひょぅであることが分かる。カリスマであるとか、国民的英雄であるといったことは数値では測れない。人気や知名度ということでもないとなれば、これは恣意的なものとなってしまう。リクトマンは、ドナルド・トランプはカリスマを備えていないし、国民的英雄でもないとしているが、それは彼の意見である。

 いつもなら、「これは怪しい指標だ」と切り捨てるはずのニューヨーク・タイムズが「トランプ勝利を予測した大学教授」が「バイデン勝利を予測した」と喜び勇んで報じているところは何とも滑稽な話である。

(貼り付けはじめ)

これまで数々の選挙の結果を正確に予測してきた歴史を持つ大学教授が「バイデンがトランプを倒す」と予測(Professor with history of correctly predicting elections forecasts that Biden will defeat Trump

マリナ・ピトフスキー筆

2020年8月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/510754-professor-with-history-of-correctly-predicting-elections-forecasts-that

これまでの大統領選挙の結果を正確に予測してきたアメリカン大学教授アラン・リクトマンが、民主党の大統領選挙候補者に内定している、ジョー・バイデン前副大統領が11月の大統領選挙でトランプ大統領を倒すと予測していると述べた。

リクトマンは2016年の選挙でトランプ勝利を予測した数少ない専門家の一人だ。大統領を軸として数十年にわたりアメリカ政治を観察してきたリクトマンは、ホワイトハウスを握っている党がそのままホワイトハウスを握り続けるかどうかを決めるのに役立つ、13項目の「キー・ファクター」からなるシステムを構築した。その項目には、「現職大統領が再選を目指して選挙運動を行っている」から「短期的、そして長期的な経済状態」まで含まれている。

リクトマン教授は水曜日に『ニューヨーク・タイムズ』紙によって発表されたヴィデオ映像による論説の中で、「これらの項目からトランプがホワイトハウスを失うことになると予測される」と述べた。

リクトマンは、1984年以降の全ての大統領選挙の勝者を正確に予測してきたと主張している。しかし、2000年の場合にはアル・ゴア前副大統領が勝利すると予測している。実際には、アル・ゴアは得票総数では勝利したが、ジョージ・W・ブッシュ前大統領が選挙人獲得総数で勝利した。

リクトマンのシステムによると、ジョー・バイデンに有利な項目は7つとなっている。2018年の中間選挙で民主党が議席を増やしたこと、現在も続いているコロナウイルス感染拡大の中での短期的そして長期的な経済への打撃、今年初めの警察によるジョージ・フロイド殺害事件によって爆発した「社会不安」が含まれている。

リクトマンはまた、今年初めのトランプ大統領への弾劾の試みを含むホワイトハウスの「スキャンダル」、大統領が外交もしくは軍事の面で成功を収めていないことも挙げている。リクトマンはまた、国民の多くにとって、トランプが「カリスマを持つ」候補者ではないと主張している。

トランプ大統領に有利な項目には、「ホワイトハウスを握っている党で予備選挙で競争がなかった」こと、トランプは現職大統領であること、第三党の挑戦者がいないことが挙げられる。リクトマンは、トランプが2017年に減税を行ったことなどから大きな政策変更が実行されたと指摘している。ホワイトハウスは外交もしくは軍事の面で失敗をしていない、バイデンは「人々を動かす、カリスマを持つ」人物ではないとも述べている。

しかしながら、リクトマンは、有権者に対する抑圧の試みが起きる可能性、2020年の選挙に対するロシアによる介入など、「13項目以外の要素が影響を与える」こともあると認めている。

リクトマンは「有権者の皆さん、皆さん次第なんです。我が国の民主政治体制の未来を決めるのは」と述べている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 

 本ブログでも大統領選挙直前にご紹介した、「トランプ当選」を予測したアメリカン大学教授アラン・リクトマンの新たな発言をご紹介します。リクトマンは、今度は、トランプが弾劾を受けると述べました。

 

 弾劾(impeachment)とは、特別な身分を持つ公務員を他の統治機関などがその飛行などを理由にして審議し、罷免したり処罰したりすることです。弾劾は、日本では三権分立において、国会が裁判官を弾劾することができます。三権分立の制度で、チェック・アンド・バランスの一つの手法となっています。

 

 アメリカの場合は、大統領、副大統領を含むすべての文官公務員が反逆罪や収賄罪をはじめとする犯罪行為について弾劾の対象となります。連邦裁判官も含まれまる。裁判官が含まれるのは日本と一緒です。ここで述べられる弾劾は、連邦議会が大統領に行う弾劾です。大統領が犯罪行為を行った疑いがある場合、連邦下院で審議し、過半数の賛成で連邦上院への訴追が決定されます。そして、連邦上院で3分の2以上の賛成で弾劾が成立します。弾劾が成立すると、大統領職を罷免されます。これまで大統領で弾劾され、罷免された人はいません。

 

 アラン・リクトマンの記事では、トランプを弾劾するのは「彼ら」だと述べています。ここで言う「彼ら」とは、ワシントンのエスタブリッシュメントたちです。エスタブリッシュメントたちにしてみれば、今回、ホワイトハウス、連邦上院、連邦下院全てを共和党が制することが出来ました。そして、その勢いを与えてくれたドナルド・トランプを何とか引きずりおろしたいということを考えているのだと思います。マイク・ペンスは共和党政治家ですから、いざとなれば、ポスト・トランプとして動けるようにしていると思います。政権移行ティームはペンスがリードしているそうですから、人材も含めてペンスの意向が大きく影響するものと思います。

 

 トランプがワシントンに行けば、どれほどの邪魔や妨害を受けるか、ということは今から大変懸念されます。結局、ワシントンのエスタブリッシュメントにからめとられてしまうかどうか、レーガンのように結局ネオコン派の台頭を許し、彼らに牛耳られてしまうのかどうか、これから注目されるところです。

 

(貼りつけはじめ)

 

トランプ勝利を予測した歴史家がトランプは弾劾されると語る(Historian who predicted Trump's win says he'll be impeached

 

ブルック・シーペル筆

2016年11月11日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/ballot-box/305606-historian-who-predicted-trumps-win-says-hell-be-impeached

 

ドナルド・トランプの当選を予測した政治史学者でアメリカン大学名誉教授が新たな賭けを行った。今度のものは、「トランプは弾劾されるだろう」というものだ。

 

アラン・リクトマン教授は金曜日、『ワシントン・ポスト』紙に取材に対して次のように語った。「私は別の予測をしたいと思う。これはシステムを基礎にしたものではなく、私の直感だ。彼らは大統領としてのトランプを望んでいない、それは彼らがトランプをコントロールできないからだ。トランプは予測不可能だ。彼らはペンスを代わりにしたいと思っている。ペンスは道から外れない保守派で、コントロール可能な共和党政治家だ。私は、トランプが弾劾される材料を彼が与えることになると確信を持っている。国家安全保障を危険に晒した、もしくは私腹を肥やしたという理由で弾劾されると思う」。

 

リクトマンはトランプが弾劾されると最初に予測した人物ではない。ユタ大学法科大学院教授クリストファー・ルイス・ピーターソンは23ページの論稿を発表し、その中で、連邦議会がトランプを弾劾することについてその法的理由となる材料を説明している。金曜日、ドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーアはMSNBCの記者たちに対して、トランプは弾劾されるか、任期終了前に辞任することになると予言している。

 

これまで、アメリカ大統領で弾劾を受け有罪宣告されて、罷免された大統領は存在しない。アンドリュー・ジョンソンとビル・クリントンは弾劾を受けたが、連邦上院で無罪判決を受けた。リチャード・ニクソンは弾劾を受ける前に辞任した。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)












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