古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:アンソニー・ブリンケン

 古村治彦です。

 今回はシーモア・ハーシュの論稿の真ん中の3分の1をご紹介する。ノルドストリーム破壊の計画のためのタスクフォース・ティームは2021年12月に国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンによって組織された。ウクライナ戦争は2022年2月24日に勃発した。その前から既に計画されていたのだ。問題はこの計画が漏れる、もしくは計画が成功後にアメリカの仕業であるということが分かれば極めて重大な結果を招くということであった。アメリカはウクライナに支援を行っているが、ロシアとの直接の対決を避けてきた。それなのに、ロシアのガスプロムと西ヨーロッパ各国の企業が出資して建造した施設を爆破破壊するということはロシアや同盟国である西ヨーロッパ諸国に対する犯罪行為であり、戦争行為である。だからどうしてもばれてはいけなかった(動機を考えればアメリカ以外には考えられないのであるが)

 CIAがこれまでの実績からノルドストリーム爆破を提案したが、もちろん批判も多かった。失敗する可能性もあり、露見すればアメリカとバイデン政権は無傷では済まない。バイデンの再選は絶望的となったことだろう。それでも、CIAにはこれまでにも犯罪行為を秘密裏に成功させてきたという実績があった。私の個人的な見解を言えば、CIAとアメリカ軍の中の悪さを考えると、アメリカ海軍が潜水士達を派遣してCIAの作戦に協力させたというのは驚きである。ノルドストリーム破壊がアメリカにとって重要な「国策」だったことは明らかだ。

 計画中にバイデン大統領とヌーランド国務次官はちらちらと破壊計画をにおわせるような発言を行っていた。これらの発言に計画に関与した人々がじりじりしていたというのは自然な対応であろう。

 ノルドストリーム爆破作戦にとって重要なパートナーとなったのがノルウェー海軍だった。ノルウェー海軍はバルト海での経験が豊富であり、能力も高い。NATOの最高司令官はイェンス・ストルテンベルグであるが、ストルテンベルグはノルウェーの首相を務めた人物であり、アメリカの忠実な手先だ。ノルウェーは日本同様にアメリカの忠実な属国である。しかし、問題は爆破に最適の地点がデンマーク領内のボーンホルム島周辺海域であったことだ。スウェーデンやデンマークの海軍が怪しい動きを感知すれば計画漏洩の危険があるのだ。
(貼り付けはじめ)

●計画立案(PLANNING

2021年12月、ロシアの戦車が初めてウクライナに進入する2カ月前、ジェイク・サリヴァンは、米統合参謀本部、CIA、国務省、財務省の関係者で新たに結成したタスクフォースの会議を招集し、プーティンの侵攻が迫る中でどう対応するか、提言を求めた。

ホワイトハウスに隣接し、大統領対外情報諮問委員会(President’s Foreign Intelligence Advisory BoardPFIAB)が置かれている旧行政府ビル(Old Executive Office Building)の最上階にある盗聴などの危険が排除された部屋で、極秘会議の第1回目が開かれた。そこでは、いつものように雑談が交わされ、やがて重要な事前質問へとつながっていった。その質問とは以下のようなものだ。つまり、このグループが大統領に提出する勧告は、制裁措置や通貨規制の強化といった「可逆的(訳者註:いつでも元の状態に戻せること)」なものなのか、それとも「不可逆的」なものなのか、つまり、元に戻すことができない「武力行動(kinetic action)」なのか、ということだ。

このプロセスを直接知るある情報源によれば、サリヴァンは、グループがノルドストリーム・パイプラインの破壊計画を打ち出すことを意図し、大統領の要望を実現しようとしていたことが、参加者の間では明らかであったということだ。

その後の数回の会合では、攻撃方法の選択肢を議論した。海軍は、新しく就役した潜水艦でパイプラインを直接攻撃することを提案した。空軍は、遠隔操作で爆発させることができる遅延信管付きの爆弾を投下することを提案した。CIAは、「何をするにしても、秘密裏に行わなければならない」と主張した。関係者の誰もが、その利害関係を理解していた。「これは子供の遊び(kiddie stuff)ではない」とその関係者は言った。もし、その攻撃がアメリカにつながるものとなれば、「それは戦争行為なのだ(It’s an act of war)」。

当時、温厚な元駐ロシア大使で、バラク・オバマ政権で国務副長官を務めたウィリアム・バーンズがCIAの指揮を執っていた。バーンズ長官はすぐに、パナマシティにいる海軍の深海潜水士に詳しい人物を特別メンバーに含む(これは偶然のことだったのだが)、CIAのワーキンググループを承認した。それから数週間、CIAのワーキンググループのメンバーたちは、深海潜水士を使ってパイプラインを爆発させるという秘密作戦の計画を練り始めた。

このような事例は以前にもあった。1971年、アメリカの情報機関は、ロシア(ソ連)海軍の2つの重要な部隊が、ロシア極東オホーツク海に埋設された海底ケーブルを介して通信していることを、未公表の情報ソースから知った。このケーブルは、海軍のある地方司令部とウラジオストクにある本土の司令部を結んでいた。

中央情報局(Central Intelligence AgencyCIA)と国家安全保障局(National Security AgencyNSA)から選抜された諜報員ティームが、ワシントン地域のある場所に極秘裏に集められ、海軍の潜水士達、改造潜水艦、深海救助艇を使って、試行錯誤の末にロシアのケーブルの位置を特定する計画を実行し成功させた。潜水士達はケーブルに高性能の盗聴器を仕掛け、ロシアの通信を傍受し、録音システムに記録することに成功した。

NSAは、ロシア海軍の幹部たちが通信回線の安全性を確信し、暗号化せずに同僚と普通のおしゃべりしていることを知った。しかし、ロシア語が堪能なロナルド・ペルトンという44歳のNSAの技術者によって、このプロジェクトは台無しにされてしまった。ペルトンは、1985年にロシアの亡命者に裏切られ、刑務所に送られた。ペルトンがロシアから受け取った報酬は、作戦を暴露した際の5000ドルと、公開されなかった他のロシアの作戦データに対する3万5000ドルだけだった。

コードネーム「アイビー・ベルズ(Ivy Bells)」と呼ばれたその海中での成功は、革新的で危険なものであり、ロシア海軍の意図と計画について貴重な情報をもたらした。

しかし、CIAの深海諜報活動に対する熱意には、当初、省庁間グループも懐疑的であった。未解決の問題が多すぎたのだ。バルト海の海域はロシア海軍の警備が厳しく、潜水作戦に使える石油掘削施設はない。ロシアの天然ガス積み出し基地と国境を接するエストニアまで行って、潜水訓練をしなければならないのか? CIAに対しては、「混乱状況で失敗するだろう(It would be a goat fuck)」と批判された。

この「計画中」に、「CIAと国務省の何人かは、こんなことはするなと言った。バカバカしいし、公になれば政治的な悪夢になる」と上述の情報源は述べた。

それでも、2022年初頭、CIAのワーキンググループはサリヴァンの省庁間グループに報告した。その内容は「パイプラインを爆破する方法がある」というものだった。

その後に起こったことは、驚くべきことだった。ロシアのウクライナ侵攻が避けられないと考えられていた、戦争勃発の3週間前の2月7日、バイデンはホワイトハウスのオフィスでドイツのオラフ・ショルツ首相と会談した。ショルツは一時はぐらついたが、その時にはしっかりとアメリカ側についていた。その後の記者会見でバイデンは、「もしロシアが侵攻してきたら、ノルドストリーム2はもう存在しない。私たちはパイプラインを終わらせる」と述べた。
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ジョー・バイデンとオラフ・ショルツ
その20日前、ヌーランド国務次官は国務省のブリーフィングで、ほとんど報道されることなく、基本的に同じメッセージを発していた。ヌーランドは記者団からの質問に対して、「今日、はっきりさせておきたいことがある。もしロシアがウクライナに侵攻すれば、いずれにせよノルドストリーム2は前進しないだろう」と述べた。

パイプライン・ミッションの計画に携わった何人かは、攻撃への間接的な言及と見られるバイデンとヌーランドの発言に狼狽した。

上述の情報源は「東京の街中に原爆を置いて、それを爆発させると日本人に言っているようなものだった。計画では、オプションは侵攻後に実行されることになっており、公には宣伝されないことになっていた。バイデンは単にそれを理解しなかったか、無視したのだ」と述べた。

バイデンとヌーランドの軽率な行動は、それが何であったとしても、計画立案の参加者うちの何人かを苛立たせたかもしれない。しかし、それはチャンスでもあった。この情報源によると、CIAの高官の何人かは、パイプラインの爆破は「大統領がその方法を知っていると発表したため、もはや秘密のオプションとは見なされない」と判断したという。

ノルドストリーム1と2を爆破する計画は、突然、連邦議会に報告する必要のある極秘作戦から、アメリカ軍の支援を受ける極秘の情報作戦とみなされるものに格下げされた。この徐法源は次のように説明した。「法律上では、連邦議会に報告する法的義務がなくなった。しかし、それでも秘密でなければならない。ロシアはバルト海の監視に長けている」。

CIAのワーキンググループのメンバーたちは、ホワイトハウスと直接のコンタクトがなかったので、大統領が言ったことが本心かどうか、つまり、この作戦が実行に移されるのかどうかを確かめようと躍起になっていた。上述の情報源は、「ビル・バーンズがCIA長官として戻ってきて、実行せよと言った」と回想している。

この人物は「ノルウェー海軍は、デンマークのボーンホルム島から数マイル沖の浅瀬にある適切な場所をすぐに見つけた」と述べた。

●作戦遂行(THE OPERATION

ノルウェーはノルドストリーム爆破任務の拠点として最適な場所だった。

東西危機の過去数年間、アメリカ軍はノルウェー国内でその存在を大幅に拡大してきた。西側の国境は北大西洋に沿って1400マイル(約2240キロ)も走り、北極圏の上でロシアと合流している。国防総省は、地元では賛否両論あるものの、数億ドルを投じてノルウェーの米海軍と空軍の施設を改修・拡張し、高級の雇用と高額の契約を創出したのである。この新しい施設には、最も重要なこととして、ロシアを深く探知することができる高度な合成開口レーダー(advanced synthetic aperture radar)が含まれており、ちょうどアメリカの情報機関が中国国内の一連の長距離監視サイトへのアクセスを失った時に稼働したのである。

何年も前から建設が進められていたアメリカの潜水艦基地が新たに改修され、運用が開始された。更に多くのアメリカの潜水艦が、ノルウェーの僚艦と緊密に協力して、250マイル(約400キロ)東のコラ半島にあるロシアの主要核要塞の監視と諜報に当たることができるようになった。アメリカはまた、北部にあるノルウェーの空軍基地を大幅に拡張し、ボーイング社製のP8ポセイドン型哨戒機の編隊をノルウェー空軍に提供し、ロシア全般の長距離監視を強化した。

その見返りとして、ノルウェー政府は昨年11月、補足的防衛協力協定(Supplementary Defense Cooperation AgreementSDCA)を可決し、議会のリベラル派と一部の穏健派を怒らせた。この新協定では、北部の特定の「合意地域」において、基地外で犯罪行為を行ったとして訴えられたアメリカ軍兵士と、基地での作業を妨害したことで訴えられたり疑われたりしたノルウェー国民については、アメリカの法制度が司法権を持つことになる。

ノルウェーは、冷戦初期の1949年にNATO条約に最初に署名した国の1つだ。現在、NATOの事務総長(最高責任者)はイェンス・ストルテンベルグだが、彼は熱心な反共主義者で、ノルウェーの首相を8年間務めた後、2014年にアメリカの後ろ盾でNATOの高官に就任した。彼はヴェトナム戦争以来、アメリカの情報機関と協力関係にあり、プーティンやロシアに関するあらゆることに強硬な態度を取ってきた。ヴェトナム戦争以来、彼はアメリカから完全に信頼されている人物なのである。前述の情報源は「彼(ストルテンベルグ)はアメリカの手にぴったりとフィットする手袋だ」と評した。
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ストルテンベルグ

ワシントンに話を戻すと、作戦の計画立案者たちは、ノルウェーに行くしかないと考えた。「彼らはロシアを嫌っていたし、ノルウェーの海軍は優秀な水兵や潜水士揃いであり、収益性の高い深海石油・ガス探査に何世代にもわたって携わってきた実績もある。また、この作戦を秘密にしておくことも可能であった。(ノルウェー側には他の利益もあったかもしれない。もしアメリカ側がノルドストリームを破壊することができれば、ノルウェーは自国の天然ガスをヨーロッパに大量に販売することができるようになる。)

3月のある時期、複数の計画立案者たちがノルウェーに向かい、ノルウェーのシークレットサーヴィスや海軍の関係者たちと面会した。バルト海のどこに爆薬を仕掛けるのが最適か、というのが重要な問題だった。ノルトストリーム1と2は、それぞれ2本のパイプラインで構成され、ドイツ北東部のグライフスワルト港に向かう途中、1マイル(約1.6キロ)余りの距離で隔てられていたのである。

ノルウェー海軍は、デンマークのボーンホルム島から数マイル離れたバルト海の浅瀬にある適切な場所をいち早く探し出した。パイプラインは、水深260フィート(約78メートル)の海底を1マイル以上離れて走っている。潜水士たちはノルウェーのアルタ級機雷掃討艇(mine hunter)から、酸素、窒素、ヘリウムの混合ガスをタンクに注入して、パイプラインの上にC4爆薬を設置し、コンクリートの保護カバーで覆った。ボーンホルム沖は、潜水作業を困難にする大きな潮流がないことも利点であった。
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C4爆薬
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ノルウェーの掃海艇

数回の調査を経て、アメリカ側はすっかり乗り気になっていった。
(貼り付け終わり)

(つづく)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

昨年9月にロシアからドイツへ天然ガスを送る海底パイプライン施設「ノルドストリーム1、2(Nord Stream Pipeline1,2)」でガス漏れ爆発「事故」が起き、操業停止となった。ロシアからの安価な天然ガスに頼っていたドイツと西ヨーロッパ諸国はエネルギー源をアメリカに頼らざるを得なくなり、価格の高騰もあり、厳しい冬に耐えながら人々は暮らしている。
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 ノルドストリームの「事故」についてはタイミングや内容から、「どうしてああいう事故が起きたのか」「タイミングが良すぎるのではないか」といった多くの疑問が出ていた。タイミングというのは、ウクライナ戦争が勃発して半年以上が経過し、アメリカやヨーロッパ諸国がウクライナ支援を行いながらも、同時にロシアからの天然ガス輸入を行っていたということである。ウクライナ戦争勃発後、西側諸国は対ロシア経済制裁を行い、ロシアを経済的に締め上げて一気にギヴアップさせようと狙っていた。しかし、その試みは失敗した。加えて、「急にエネルギー源を止められない」としてロシアからの天然ガス輸入を続けていた。ノルドストリームが壊れて操業停止になってしまえば物理的に輸入が不可能ということになった。

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ロシアを間接的に支援することになる天然ガス輸入を止め、アメリカからの天然資源を輸入させるということで、誰が利益を得るのかということは、誰が考えてもアメリカということになる。しかし、アメリカ政府やアメリカメディアはロシア犯人説を流布した。このロシア犯人説ほど馬鹿げたことはない。ロシアは天然ガス輸出で資金を獲得することができるし、あまりにも敵対的な態度を西ヨーロッパが取るならば、供給を削減、もしくはストップすることで懲罰を与えることができる。そうした手段を自分から破壊するのは自滅的な行為でしかない。そうしたことから、ノルドストリーム事故直後から、アメリカの仕業ではないかという説は根強くあった。私もこのブログでアメリカ犯人説を取り上げた。

今回、アメリカの有名は調査報道ジャーナリストであるシーモア・ハーシュが重要な論稿を発表した。ハーシュについてまず述べると、ヴェトナム戦争時代から活躍を続けるジャーナリストであり、ソンミ村虐殺事件の調査衝動でピューリッツア賞を受賞した。その後も、イスラエルの核武装やアブグレイブ収容所での拷問事件などをスクープした。

ハーシュが今回発表した論稿の内容はずばり「ノルドストリーム爆破はアメリカが行った」という衝撃の内容だ。アメリカがNATO加盟のノルウェーと協力して、ノルドストリームの爆破地点を特定し、優秀な潜水士たちを使って爆薬を仕掛け、時間差で爆発させたということである。アメリカはかねがね、ノルドストリームを通じてのロシアからの安価な天然ガスにヨーロッパが依存することを憎悪しており、ノルドストリームを「始末」することで、ロシア側に打撃を与え、ヨーロッパをアメリカ依存に引き戻すという一挙両得の秘密作戦を実行した。その内容は、「アメリカはこんなことまでするのか」と日本の親米派の人々にもショックを与えるものだ。これくらいのことは日本にもされているのである。アメリカはこれくらいのことを世界中でやっているのだ。これで嫌われないと考えるのは全く理解不能だ。

下にハーシュの渾身の論稿の内容の前3分の1を掲載した。ここでは、作戦立案から実行までの経緯がまとめられている。計画立案には、国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンが、ジョー・バイデン大統領の命を受けて、官庁間の垣根を超えたグループが作戦の内容の立案にあたり、CIA(ウィリアム・バーンズ長官)が具体的な内容を提案して実行されることになったことが書かれている。バイデン大統領のノルドストリーム破壊の意向を受けて、作戦を計画し進めていった責任者たちとして、ハーシュはジェイク・サリヴァン、アンソニー・ブリンケン国務長官、ヴィクトリア・ヌーランド国務次官の名前を挙げている。私はここに、アヴリル・ヘインズ国家情報長官(アメリカの情報・諜報機関の統括であり、バーンズの上司にあたる)も入っていたと思う。拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』をお読みいただいた皆さんにとってはどのような関係になっているのかなど分かりやすいと思う。
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アメリカ海軍には潜水・サルヴェーション学校があり、そこを卒業した優秀な潜水士たちが作戦実行部隊となった。彼らがパイプラインに爆薬を設置した。私の講釈はここらあたりにして下の論稿を是非読んでいただきたい。

(貼り付けはじめ)

アメリカはどのようにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したか?(How America Took Out The Nord Stream Pipeline

-『ニューヨーク・タイムズ』紙は「ミステリー」と呼んだ。しかし、アメリカは海上作戦を実行した。その秘密は守られてきた。それもこれまでだ。

セイモア・ハーシュ(Seymour Hersh)筆

2023年2月8日

シーモア・ハーシュのウェブサイト

https://seymourhersh.substack.com/p/how-america-took-out-the-nord-stream

フロリダ州南西部の回廊地帯(panhandle)、アラバマ州との州境から南へ約70マイル(約112キロ)、かつては片田舎だったが今やリゾート町として成長しているパナマシティに、アメリカ海軍のダイヴィング・アンド・サルヴェージ・センターがある(センターの面している道路は昔単線だった)。第二次世界大戦後に建てられたコンクリート造りの無骨な建物は、シカゴ西部にある職業高校のような外観をしている。何の特徴もない建物群だ。コインランドリーやダンススクールが、現在4車線の道路を挟んで向かい側にある。

このセンターは何十年もの間、高度な技術を持つ深海潜水士(deep-water divers)を養成してきた。潜水士たちは、世界中のアメリカ軍部隊に配属され、C4爆薬を使用して港や海岸の瓦礫や不発弾を除去するという素晴らしい仕事も、そして、外国の石油掘削施設を爆破する、海底発電所の吸気バルブを汚染する、重要な輸送管の鍵を破壊するなどの破壊工作を行う技術潜水も成功させてきた。パナマシティにあるこのセンターは、アメリカで2番目に大きい屋内プールを誇る。昨年の夏、バルト海の水面下260フィート(約78メートル)で任務を遂行した潜水学校の優秀で最も寡黙な卒業生たちを輩出するには最適の場所だ。

作戦計画を直接知るある情報源によれば、昨年6月、海軍の潜水士たちは、「バルト海作戦22(BALTOPS 22)」として広く知られた真夏のNATO演習に隠れて、遠隔操作による爆発物を仕掛け、3カ月後に4本のノルドストリーム・パイプラインのうち3本を破壊した。

そのうちのパイプライン2本は、ノルドストリーム1と総称され、10年以上にわたってドイツと西ヨーロッパ諸国の多くに安価なロシアの天然ガスを供給していた。もう1本のパイプラインはノルドストリーム2(Nord Stream 2)と呼ばれ、建設はされていたが、まだ稼働していなかった。ロシア軍がウクライナ国境に集結し、1945年以降のヨーロッパで最も血生臭い戦争が行われている現在、ジョー・バイデン大統領は、パイプラインはウラジミール・プーティンが自らの政治的・領土的野心のために天然ガスを武器化する(weaponize)ための手段だと見ているのだ。

私はホワイトハウスのエイドリアン・ワトソン報道官に対してコメントを求めた。ワトソン報道官は電子メールで、「これは虚偽であり、完全なフィクションだ」と述べた。中央情報局(CIA)のタミー・ソープ報道官も同様に「この主張は完全にそして完璧に虚偽である」という返事を寄こした。

バイデンがパイプラインの破壊を決定したのは、その目標を達成する最善の方法について、ワシントンの国家安全保障コミュニティの内部で9ヶ月以上にわたって極秘に行われた議論の後であった。その期間の大半で、任務を遂行するかどうかを議論されたことはなかった。誰に責任がるのかについてあからさまな手掛かりを残すことなしに、いかにして任務を遂行するかが議題とされた。

パナマシティにある米海軍潜水学校の卒業生たちに任務遂行を頼ったのは、官僚的な理由からだった。潜水士たちは海軍所属者だけで構成されている。彼らは、秘密作戦について連邦議会にあらかじめ報告し、連邦上下両院の指導部、いわゆるギャング・オブ・エイト(訳者註、連邦上下両院情報・諜報委員会委員長2名、反対党側幹部委員2名、連邦上院多数党院内総務、少数党院内総務、連邦下院議長、連邦下院少数党院内総務の計8名)に事前に説明しなければならないアメリカの特殊作戦司令部の所属ではない。2021年の終わりから2022年の最初の数カ月にかけて計画が立案されたが、バイデン政権は計画がリークされないようにあらゆる手段を講じていた。

バイデン大統領とその外交ティーム(国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァン、国務長官トニー・ブリンケン、国務次官ヴィクトリア・ヌーランド)は、ロシア北東部のエストニア国境に近い2つの港からバルト海下750マイル(約1200キロ)を並走し、デンマーク領のボーンホルム島近くを経てドイツ北部に至る2基のパイプラインに対して、一貫して敵意を抱いていた。そしてそれを明らかに示していた。

ウクライナを経由しないこの直通ルートは、ドイツ経済にとって好材料となった。工場や家庭の暖房に十分な量の安いロシア産の天然ガスが豊富にあり、ドイツの流通業者は余ったガスを西ヨーロッパ中に売って利益を得ていた。パイプラインの破壊は、ロシアとの直接対決を最小限に抑えるというアメリカの公約を破るような行動であり、その公約を定めたバイデン政権がそうした行動を進めた。そのため、秘密裏の作戦遂行が必要不可欠となった。

のルドストリーム1は、その初期段階から、ワシントンと反ロシアのNATOパートナーによって、西側の支配に対する脅威と見なされていた。ガスプロムは、プーティン大統領に従うことで知られるオリガルヒが支配し、株主に莫大な利益をもたらすロシアの株式公開企業だ。ガスプロムが51%、フランスのエネルギー企業4社、オランダのエネルギー企業1社、ドイツのエネルギー企業2社が残りの49%の株式を共有し、安価な天然ガスをドイツや西ヨーロッパの地元流通業者たちに販売する下流工程をコントロールする権利を持っていた。ガスプロムの利益はロシア政府と共有され、国家のガス・石油収入はロシアの年間予算の45%にも上ると推定された年もある。

アメリカの政治的な恐怖感は現実のものとなった。プーティンは必要な収入源を手に入れ、ドイツをはじめとする西ヨーロッパはロシアから供給される安価な天然ガスに依存するようになり、ヨーロッパのアメリカへの依存度は低下することになるのではという恐怖感をアメリカは持っていた。実際、その通りになった。戦後のドイツは、第二次世界大戦で破壊された自国と他のヨーロッパ諸国を、ロシアの安価なガスを利用して豊かな西ヨーロッパ市場と貿易経済の燃料として復興させるという、ウィリー・ブラント元首相の有名な東方外交理論(オストポリティーク理論、Ostpolitik theory)が一部現実化されたものだと多くのドイツ人がノルトストリーム1について捉えていたのである。

NATOとワシントンの考えでは、ノルトストリーム1はそれだけで十分に危険なものだったが、2021年9月に建設が完了したノルトストリーム2は、ドイツの規制当局が承認すれば、ドイツと西ヨーロッパが利用できる安価なガスの量が2倍に増やすことになるはずだった。また、このパイプラインはドイツの年間消費量の50%以上を賄うことができる。バイデン政権の積極的な外交政策を背景に、ロシアとNATOの緊張は常に高まっていた。

2021年1月のバイデンの大統領就任式前夜、ブリンケンの国務長官就任承認公聴会で、テキサス州選出のテッド・クルーズ連邦上院議員率いる連邦上院共和党が、安価なロシアの天然ガスという政治的脅威を繰り返し提起し、ノルドストリーム2への反対運動を燃え上がらせた。同時期、連邦上院は一致して、クルーズがブリンケンに語ったように、「パイプラインの進路を停止させる」法律を成立させることに成功していた。当時、アンゲラ・メルケル首相が率いていたドイツ政府からは、2本目のパイプラインを稼働させるために、政治的、経済的に大きな圧力がかかっていたと考えられる。

バイデンはドイツに立ち向かうことができるだろうか? ブリンケンは「イエス」と答えたが、「次期大統領の見解の詳細について議論していない」と付け加えた。ブリンケンは更に次のように述べた。「私は、ノルトストリーム2が悪い考えであるというバイデン大統領の強い信念を知っている。次期大統領は、ドイツを含む私たちの友人やパートナーに対して、あらゆる説得手段を用いて、これを進めないよう説得してくれるはずだ」。

数ヵ月後、2本目のパイプラインの建設が完了に近づくと、バイデンは見て見ぬふりをした。その年の5月には、国務省の高官が、制裁と外交でパイプラインを止めようとするのは「常に長丁場となる」と認め、驚くべき方向転換で、政権はノルドストリームAGに対する制裁を免除した。その裏では、当時ロシアの侵略の脅威にさらされていたウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に、この動きを批判しないようにと複数のバイデン政権幹部が働きかけていたとも言われている。

すぐに結果が出た。クルーズ率いる連邦上院共和党は、バイデンの外交政策候補者全員の即時承認秘訣を発表し、年間国防予算の成立を数ヶ月間遅らせた。そして、秋も深まった頃にようやく成立した。『ポリティコ』誌は後に、ロシアの2本目のパイプラインに関するバイデンの転向を、「バイデンの政権公約を危うくした1つの決断だった。間違いなくアフガニスタンからの無秩序な軍事撤退以上に議論を呼ぶものとなった」と評している。

11月中旬にドイツのエネルギー規制当局が2本目のノルドストリーム・パイプラインの認可を停止したことで、危機の猶予を得たものの、バイデン政権は混乱した態度を取った。このパイプラインの停止と、ロシアとウクライナの戦争の可能性が高まっていることから、ドイツやヨーロッパでは、望まぬ寒い冬がやってくるのではないかという懸念が高まり、天然ガスの価格は数日のうちに8%も急上昇した。ドイツの新首相に就任したオラフ・ショルツの立場は、ワシントンでは明確ではなかった。その数カ月前、アフガニスタン崩壊後、ショルツはプラハでの演説で、エマニュエル・マクロン仏大統領の「より自主自律的なヨーロッパ外交政策」を公式に支持し、明らかにワシントンやその気まぐれな行動への依存度を下げることを示唆していた。

この期間中、ロシア軍はウクライナ国境で着々としかも不気味に増強され、2021年12月末には10万人以上の兵士がベラルーシとクリミアからウクライナを攻撃できる態勢にあった。ワシントンでは、この兵力数について「短期間に倍増する」というブリンケン国務長官の分析もあり、警戒感が高まっていた。

このような状況下で、再び注目されたのがノルドストリームだった。ヨーロッパが安価な天然ガスパイプラインに依存する限り、ドイツなどの国々は、ウクライナにロシアに対抗するための資金や武器を供給するのを躊躇するだろうと考えられた。

バイデンがジェイク・サリヴァンに対して省庁間の垣根を超えたグループを結成し、計画を練ることを許可したのはこうした不安定な時期のことだった。

全ての選択肢がテーブルの上に置かれることになった。しかし、実際に出てくるのは1つだけだった。
(貼り付け終わり)
(つづく)

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