古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:イギリス

 古村治彦です。

 ウクライナ戦争開戦後、世界のエネルギー価格は高騰し、その影響は現在も続いている。日本の消費者物価指数は4.2ポイント上昇ということを盛んに報道されているが、特に電気代やガス代、ガソリン代や灯油代の高騰に驚き、不平不満を持っている人たちも多い。物価高、インフレ、生活コストの上昇ということで言えば、世界は第三次次世界大戦下にあると言える。

 ウクライナ戦争開戦後、欧米諸国はロシアへの制裁の一環として、天然資源の輸入を取り止めると発表した。しかし、実際にはロシアからの天然資源、特に天然ガスの輸出は続いていた。これまでロシアとドイツを結ぶノルドストリーム・パイプラインによって、安価な天然ガスが供給され、それがヨーロッパ諸国の生活を支えていた。それが急に途絶することはヨーロッパ諸国の人々の生活が成り立たないことを意味する。そのため、ロシアに制裁を科しながらも、「少しずつ輸入を減らしていきますからね」ということで、輸入が続いていた。

 しかし、昨年にノルドストリーム・パイプラインが物理的に破壊されたことで、ロシアからの天然ガス供給は望めなくなった。そのために北海油田を持っているイギリスやノルウェーの石油、アメリカからの液化天然ガス輸入に頼らざるを得なくなった。もちろん、これまでのロシアからの天然ガスよりも高価な買い物である。それでも背に腹は代えられないということで、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国は天然資源の供給源の変更を余儀なくされた。

 「高く買ってくれる人に売る」は人間の自然な性向である。エネルギー価格が高騰する中でもヨーロッパ諸国はまだ買えるから良い。貧しい国々は買いたくてもお金がない。そうなれば、買う量を減らして、耐乏生活に突入するしかない。新興国ならまだ良いが、貧困国では停電の頻発、停電時間の長期化が続いている。これらの国々に対して、先進諸国に援助できるほどの余裕はない。自分のところだって高い価格のエネルギーを買っていて他を助ける余裕はない。

 それではこうした国々に対して、エネルギー産出国、具体的にはロシアやサウジアラビアが値引きした値段でエネルギーを供給したらどうなるだろうか。これまでこのブログで散々書いてきているが、世界は「西洋(the West)」対「それ以外(the Rest)」で分裂している。中露が率いる「それ以外」が発展途上国、貧困国を助ければ、そちらの味方になるのは自明の理だ。実際にロシアはインドや中国に割引で天然資源を販売している。

 ウクライナ戦争が終結しなければ、こうした状況はこれまでも続いていくだろう。ウクライナ戦争が始まって1年、今こそ停戦に進むべきである。更に言えば、ノルドストリーム・パイプライン破壊を命じたジョー・バイデン大統領の「大統領の犯罪行為」と、手下たち(アントニー・ブリンケン米国務長官、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官、ヴィクトリア・ヌーランド国務次官)による「権力者共同謀議」による「戦争行為」は世界人類に対する罪である。

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貧しい国々に負担を強いるヨーロッパのガスの深刻な不足(Europe’s Hunger for Gas Leaves Poor Countries High and Dry

-豊かな国々は、世界の他の国々の犠牲の上に、エネルギーの安全保障を追求している。

ヴィジャヤ・ラマチャンドロン筆

2023年2月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/01/europe-energy-natural-gas-lng-russia-africa-global-south-climate/

ロシア軍のウクライナ侵攻から約1年、モスクワのヨーロッパ向け天然ガス輸出は、パイプライン「ノルドストリーム」の妨害行為、ヨーロッパの購入量減少、欧米諸国のウクライナ支援に対する報復としてのモスクワの供給調整などにより、半分以下にまで減少している。天然ガスは、家庭や産業界の暖房用エネルギーとして、また化学製品の原料として重要な役割を果たしている。天然ガスは、家庭や産業の暖房に欠かせないエネルギー源であり、化学製品の原料として、肥料、セメント、鉄鋼、ガラスなど、多種多様な製品の製造に欠かせない要素となっている。また、発電にも広く利用されており、2021年のヨーロッパの発電量のうち、ガス火力発電所は34%を占めている(アメリカは38%)。

ロシアからの供給が失われたことへの反応として、ヨーロッパ各国はあらゆる天然ガス供給源に依存し、大量の備蓄を抱えることになった。ロシアからのパイプラインによる供給が激減したため、ヨーロッパは需要の多くを世界各国から船で輸送される(液化天然ガス(LNG)にシフトさせた。その結果、2022年半ばのガス備蓄のピーク時には、液化天然ガス(LNG)の世界価格は2年前の新型コロナウイルス感染拡大時の安値から1900%上昇した。

この天然ガスの価格高騰は、ヨーロッパの産業界にもダメージを与えたが、貧しい国々に住む何億人もの人々にとっては、まさに壊滅的な打撃となった。インドとブラジルは、自国の経済を十分に支えるだけの天然ガスを確保できず、輸入を控えるようになった。バングラデシュとパキスタンは、合わせて5億人近い人口を抱えているが、産業消費と発電のニーズを満たすことができず、停電に見舞われた。液化天然ガス供給者は、より高い価格を支払う富裕層向けの貿易にシフトすることを希望している。数ヶ月あるいは数年前に締結された契約にもかかわらず、貧困国向けの貨物がヨーロッパに迂回されたり、単に全く配達されなかったりしている状態だ。

停電は単なる不便な出来事と言うだけではない。パキスタンのように、毎年45度を超える熱波が襲い、国土の3分の1を水没させた洪水からの復興に苦闘している国では、電力は生死に関わる問題である。この数カ月間、連日連夜、企業、家庭、学校、病院が数時間電気がない状態に陥っている。それは、政府が、発電所の4分の1を占めるガス火力に十分な天然ガスを輸入できないからだ。パキスタン政府によると、主要な液化天然ガス供給会社は契約を履行せず、未納の違約金を払い、より高い利益を得るために富裕国へ供給を送ることを好んでいるとのことだ。

2022年7月、パキスタン政府が行った液化天然ガス72隻分(10億ドル相当)の入札には、供給会社からの入札が全くなかった。国際通貨基金(IMF)のプログラムからの現金支給が遅れたため、パキスタンはスポット市場でガスを購入するのに苦労し、工場やレストラン、その他の事業で働く人々は労働時間の短縮と低賃金を余儀なくされている。政府機関は電力消費量を30%削減するよう命じられ、国内の街灯の半分が消灯している。

貧しい国々にとって状況が好転する兆しはない。北半球の多くの地域で暖冬が続き、ガス価格が下がっているとはいえ、既に来年にも天然ガスが不足することが懸念されている。破壊工作が行われたノルドストリーム・パイプラインは2023年も使用できない可能性が高く、ヨーロッパ諸国はこの夏、重要な貯蔵施設に補充する液化天然ガスへの依存度を更に高めることになる。さらに、EU加盟諸国は既に、今後数年間に供給が開始される可能性のある新たなガス供給を賄うための長期契約締結に強い関心を示している。ドイツやその他のヨーロッパ諸国は、今後数年間に浮体式貯蔵・再ガス化設備に追加投資し、更に多くの液化天然ガス(LNG)を吸収できるようにしようとしている。一方、世界有数の液化天然ガス輸出国であるオーストラリアは、ガス不足の可能性を懸念し、自国でのガス供給量を増やすための対策をとっている。

貧しい国々が貧困から脱却し、干ばつや洪水、暴風雨、熱波に対して強靭になるためには、豊かな国々が享受しているのと同じように、信頼性が高く、豊富なエネルギー資源を必要としている。こうした国の多くは自然エネルギーに投資しており、さらに多くの投資を計画している。しかし、中期的なエネルギー安全保障の観点からは、富裕な国々と同様にガスが必要であることに変わりはない。発電だけでなく、農作物の収穫量を上げるための肥料や、耐震性の高い建物やあらゆるインフラのためのコンクリートや鉄などの工業生産にガスは欠かせない。また、暖房や調理にもガスは必要で、日照や天候に左右される風力や太陽光発電のバックアップ電源にもなっている。

自国のエネルギー安全保障の確保を急ぐヨーロッパは、アフリカや南アジアなどの指導者たちが気づかないうちに、偽善をむき出しにしている。ヨーロッパのいくつかの国は、国際的な化石燃料プロジェクトに対する公的支援を全て打ち切ると公約している。これらのヨーロッパ諸国は、信頼できる電力と経済成長をもたらす可能性のある下流のガスインフラを建設するための資金を、貧しい国々に提供してはならないと主張している。その一方で、アメリカやEUを拠点とする多国籍企業は、東アジアやヨーロッパの富裕な国々に輸出するために、自らの資本で貧しい国々のガス埋蔵量を開発することを止めない。

この偽善の基盤は明らかだろう。EU諸国は、自国のエネルギー安全保障のために化石燃料を最大限柔軟に使用できるようにする一方で、貧しい国々が貧困と悲惨から抜け出すために不可欠なエネルギー供給を増やすための資金援助には厳しい制限を課すという、陰湿なグリーン・コロニアリズム(green colonialism、グリーン植民地主義)を推進し続けている。その一方で、自国のエネルギー安全保障のために化石燃料を使用する自由度は最大限に高めている。石炭使用量の急増による排出量の増加については、ドイツに質問してみるとよいだろう。つまり、豊かな国々がガスの備蓄や世界中の生産者との複数年の購入契約を自画自賛している間に、貧しい国々は家庭や学校、病院、工場に十分な燃料がない状態に置かれなければならない。ガスプロジェクトへの融資を阻止するヨーロッパの政策は、貧困を緩和するものでも、気候変動に対処するものでもない。

これは、欧州の政府がエネルギー転換の橋渡し燃料として天然ガスを利用することを非難するものではない。特に、石炭を代替する場合や再生可能エネルギーをバックアップする場合には、天然ガスを利用することは非常に理にかなっているのだ。しかし、アフリカやアジアの貧しい国々にとっても、自国と同様にエネルギーの安全保障と信頼性が最も重要であることを、自国の国民に配慮しているのと同様に認識すべきだ。富裕な国々は、天然ガスが豊富に埋蔵されているアフリカにおける基本的なインフラ投資のわずかな排出量にこだわるよりも、貧しい国々が経済成長できるような戦略を採用すべきだ。

パキスタンやバングラデシュのような国々は市場から値崩れし、ヨーロッパが来年も暖冬であることを祈るしかない。自国の消費者を高価なガスやガソリンから守ることには何のためらいもないのに、貧しい国々の高価なガス代を援助することは、化石燃料の補助金とみなされるため、ヨーロッパ政府はおそらく拒否するだろう。しかし、ヨーロッパ諸国は、燃料節約型の再生可能エネルギーの導入や暖房の電化にもっと力を入れることができるだろう。また、世界的なエネルギー危機の最中に原子力発電所を停止させるのではなく、既存の原子力発電所を稼働させるための緊急延長をもっと検討すべきだ。例えば、ベルギーは原子力発電所を停止しているため、より多くの天然ガスを使用する方向にあり、その代償を払うのは貧しい国々である。

最も重要なことは、ヨーロッパ諸国は、エネルギー安全保障、経済成長、貧困緩和、健康な生活に不可欠な、貧しい国々の下流ガスプロジェクトに反対することを止めることだ。

※ヴィジャヤ・ラムチャンドロン:「ブレイクスルー・インスティテュート」エネルギー・発展担当部長。ツイッターアカウント:@vijramachandran

※ジェイコブ・キンサー:「エナジー・フォ・グロウス・ハブ」上級政策アナリスト兼プログラム調整担当。ツイッターアカウント:@jakekincer

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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古村治彦です。

2月上旬、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領はイギリスをサプライズ訪問した。イギリスではリシ・スーナク首相、リンジー・ホイル下院議長、更にはチャールズ国王と会談を持った。ウクライナ戦争が始まって以来、ウクライナを離れる機会がほぼなかったゼレンスキー大統領がイギリスを直接訪問し、これまでの支援を感謝し、更なる支援、特に戦闘機の支援を求めたことには重大な意味がある。それは、「ウクライナ戦争の停戦が困難なのはイギリスがいるからではないか」「日露戦争をアナロジーとして考えると、ウクライナを利用してロシアを消耗させようとしているのはイギリスではないか」ということが考えられるからだ。
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ウクライナ支援について見ていくと、アメリカが圧倒的な割合を占めている。イギリスは2番目だと威張っても、その割合は小さなものだ。NATO分で出しているという主張もあるだろうが、大英帝国だと威張っている割にはその額は少ない。しかし、戦争が始まって以来、イギリス政府関係者は声高に対ロシア憎悪を言葉にしている。
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 西洋諸国はウクライナ支援を行っているが、ウクライナが求めているジェット戦闘機の供与だけは行っていない。また、飛行禁止区域設定も行っていない。これはそのようなことをすれば、供与を行う国々が戦争当事国となり、ロシアから宣戦布告されて、戦争に巻き込まれ、ロシアからのミサイル攻撃(核兵器使用を含む)を受けるという懸念があるためだ。アメリカ国内ではウクライナ戦争の停戦を求める声、ウクライナへの支援を減額するように求める声、ロシアからの天然資源輸入を再開するように求める声が出ている。アメリカとイギリスの間にはウクライナ戦争をめぐる態度で温度差がある。
 戦争を継続してウクライナ領土の再獲得を目指しているヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は今の状態で停戦すれば、国民からの批判に晒されることが考えられる。クリミア半島を含む1991年に独立した際の領土を全て再獲得するまでは戦争を止めることはできない。戦争を止めれば自身の政権も危うい。そうなると、頼るのはイギリスということになる。アメリカはいつ手の平を返すか分からない。イギリスは北海油田の産油を西ヨーロッパに売りつけたいという意向もある。戦争継続はイギリスとゼレンスキー政権の共通の「利益」である。

 戦争では誰が儲かるのか、利益を得るのかという視点から事態を見ていくことも大事だ。そうすれば戦争の別の側面も見えてくる。

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ゼレンスキー大統領が訪英、英首相や国王と会談 議会で演説し戦闘機求める

202328

更新 202329

https://www.bbc.com/japanese/64567813

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が8日、イギリスを訪れ、首相官邸でスーナク首相と会談した。昨年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降、ゼレンスキー氏の訪英は初めて。その後、議会で演説し、イギリスの支援に感謝するとともに、戦闘機の供与を求めた。

ゼレンスキー氏の訪英は、イギリス軍がウクライナ兵に実施してきた訓練を、ウクライナの戦闘機パイロットや海軍歩兵にも拡大するとの見方が出ているタイミングで行われた。

ウクライナのパイロットが将来的に北大西洋条約機構(NATO)水準の戦闘機を操縦できるようにする計画は、以前から発表されていた。ウクライナはかねて、これを主要な要請として掲げていた。

首相官邸は、スーナク氏がゼレンスキー氏に対し、ウクライナの重要な国家インフラを標的にするロシアの能力を削ぐ「長距離能力」の提供を申し出るとしていた。

また、イギリスによるウクライナ兵の訓練を拡大し、さらに2万人を対象とする見込みだとした。

イギリスの支援に感謝

ゼレンスキー氏はスーナク氏との会談後、議事堂のウェストミンスター・ホールに移動し、上下両院の議員らを前に英語で演説。「塹壕(ざんごう)の中にいて、ウクライナを敵のミサイルから守ってくれている、戦争の英雄たちの代理として」自分はやって来たのだと述べ、イギリスがウクライナ兵に装備と訓練を提供していることに感謝した。

また、ロシアが侵攻した「初日から」イギリスはウクライナを支援していると強調。ボリス・ジョンソン元首相を名指しし、「ボリス、あなたは絶対に、絶対に無理だと思われていた時に、諸外国を団結させた。ありがとう」と語りかけると、聴衆からは大きな拍手が湧いた。

ゼレンスキー氏はさらに、ウクライナとイギリスの国民は共に、第2次世界大戦で自由を守り抜いたと指摘。「私たちの国民は危機に見舞われた」ものの、粘り強さを発揮したとした。

その上で、「自由は勝利する」、「ロシアが負けるのは明らかだ」と強調し、拍手を浴びた。

戦闘機を求める

ゼレンスキー氏は演説で、戦闘機を「自由のための翼」と表現。ウクライナへの供与を、英議員らと世界に対して要望した。

ロシアが今月後半にも新たな攻勢をかける見通しの中、西側諸国はウクライナへの支援をどう増強するか検討している。

イギリスは戦闘機の供与について、「現実的ではない」としている。スーナク氏の報道官は先週、英軍の戦闘機は「極めて高度で、操縦を覚えるのに何カ月もかかる」と述べた。

一方でイギリスはすでに、主力戦車「チャレンジャー2」を14台供与すると発表している。ウクライナ軍に操作の訓練も提供する予定だ。

これを踏まえてゼレンスキー氏は、演説の中で戦車の供与に言及。「防衛面でのこの強力な一歩について、感謝しています、リシ」とスーナク氏に語りかけた。そして、「世界は本当に自由を守る勇者を助け、新たな歴史を作っていく」と述べた。

ゼレンスキー氏はまた、演説の途中で、リンジー・ホイル下院議長にウクライナの戦闘機パイロットのヘルメットを贈った。

ヘルメットには「私たちには自由がある。それを守るための翼を与えてください」と書かれていた。

英政府はこの日、ロシアへの新たな制裁を発表。IT企業や、ドローンやヘリコプターの部品などの軍事機器を製造する企業などを対象にした。

ゼレンスキー氏は演説で、「ロシアが戦争資金を調達する可能性がなくなるまで」制裁を続けるよう、イギリスと西側諸国に求めた。

英国王と会見

ゼレンスキー氏は議会での演説後、バッキンガム宮殿でチャールズ国王と会見した。

国王がゼレンスキー氏に会うのはこれが初めて。

ゼレンスキー氏は議会での演説で、国王はまだ皇太子だったころからウクライナを支援してくれたとし、全国民の感謝の気持ちを伝えるつもりだと述べていた。

フランス大統領府の報道官によると、ゼレンスキー氏はこの後、パリ・エリゼ宮に移動し、エマニュエル・マクロン大統領と、ドイツのオラフ・ショルツ首相と会談する予定だという。

ゼレンスキー氏は9日には、欧州連合(EU)首脳会合に参加する見込みとなっている。

ゼレンスキー氏は昨年3月、英下院でビデオ演説した

ゼレンスキー氏は昨年3月に、英議会にビデオリンクで参加。英下院で演説した初の外国人首脳となった。

同氏がロシアによる侵攻以降で外国を訪問するのは、昨年12月のアメリカとポーランドに続いて3カ国目となる。

昨年の訪米では議会で演説。「ウクライナは決して降参しない」と述べ、何回かスタンディングオベーションを受けた。

ジョー・バイデン大統領もその際、「パトリオット」ミサイル防衛システムの供与など、ウクライナへの支援拡大を約束した。

ゼレンスキー大統領をめぐっては、今週ベルギーのブリュッセルを訪問するとのうわさが流れていた。9日に欧州議会で演説し、欧州連合(EU)の首脳会談にも参加するとみられている。

ただ、この情報が今週初めに流出したため、セキュリティー上の懸念からブリュッセル訪問は中止になるとの見方も出ている。

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ウクライナでのロシアの戦争が1年近く経過した中で、ゼレンスキーはイギリスを訪問した理由(Why Zelenskyy visited the U.K. nearly 1 year into Russia's war on Ukraine

ウィレム・マルクス筆

2022年2月8日

NPR

https://www.npr.org/2023/02/08/1155360051/zelenskyy-russia-ukraine

ロンドン発。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、約1年前にロシアがウクライナに侵攻して以来、ほぼ行ってこなかった国外訪問の1つとして、イギリスを訪問し、人々を驚かせた。

ゼレンスキー大統領は、予想されるロシアの攻勢と領土を取り戻すためのウクライナの反撃を準備するために、ウクライナの強力な国際的支援者からより高度な武器をウクライナ軍に供与するように求めている。

ウクライナの指導者はリシ・スーナク首相と会談し、イギリス議会で演説を行い、イギリスの支援と兵器に感謝した後、すぐに更なる支援(特に戦闘機)を要求した。また、チャールズ3世とも会談した。

フランス政府は、水曜日にゼレンスキーがパリを訪れ、エマニュエル・マクロン仏大統領とオラフ・ショルツ独首相と夕食を共にすることを確認したばかりで、今回の外遊はゼレンスキーの予告なしのヨーロッパツアーの最初の足取りとなる。木曜日には、EU理事会のシャルル・ミシェル議長が彼を招待したため、他のEU首脳との会談のためにブリュッセルに移動する可能性もある。

ゼレンスキー大統領がイギリスを訪問した理由は以下の通りだ。

●規模第2位のウクライナ支援者(Ukraine's second-biggest backer

イギリス議会によれば、イギリスはアメリカに次いでウクライナにとって2番目に大きな支援国であり、2022年2月以降、27億ドル相当の軍事支援を約束しており、今年もそれに匹敵する支援を約束するとしている。イギリスは、ロシアの侵攻に対して経済制裁を加える上で重要な役割を担っている。そしてスーナク首相もまた、前任者と同様にキエフを訪問している。

また、スーナク首相は先月、ウクライナにチャレンジャー2戦車を贈ることを約束したが、これは米国とドイツが戦車供与を発表する2週間前のことだった。ウクライナ軍の要因たちが1月29日にイギリスに到着し、イギリスの戦車で訓練を受けた。

しかし、ウクライナは更に一歩踏み込んで、戦闘機の提供を求めている。

ウクライナの防空は、ロシアがウクライナ領土の広い範囲を支配することをほぼ防いできた。しかし、自国の格納庫には、ソ連時代のスペアパーツに頼らない運用可能な航空機がほとんど残っていないと英国のシンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute)」の国際安全保障担当部長ニール・メルビンは指摘している。メルビンによれば、西側の航空機システムの採用を拡大しなければ、ウクライナ軍は長期的に、陸上部隊の攻撃力に見合うだけの空戦力を身につけるのに苦労することになると主張した。

●イギリスは戦闘機の訓練を約束したが、今のところジェット機の提供はない(Britain promised warplane training, but so far no jets

ゼレンスキー大統領は、12月のアメリカのように、国防費を決定するイギリス議会から承認を求めるという他の国々で使ってきた戦術を継続した。

水曜日にウェストミンスター・ホールで行われた演説で、彼はリンゼイ・ホイル下院議長に象徴的な贈り物をした。その贈り物とは「我々は自由を持っている、それを守るために翼を与えよ」と書かれた戦闘機パイロットのヘルメットだった。

イギリス政府は、ウクライナ軍に対する軍事訓練を、戦闘機のパイロットまで拡大すると発表した。「この訓練によって、パイロットは将来的にNATO標準の高性能戦闘機を操縦できるようになる」とイギリス政府は声明の中で述べた。

この誓約には戦闘機の提供を約束するとまでは書かれていない。

しかし、ロイター通信は、イギリス政府報道官は記者団に対し、「スーナク首相は国防相に、どのようなジェット機を提供できるかを調査するよう命じたが、はっきり言って、これはウクライナが今最も必要としている短期の能力ではなく、長期の解決策である」と述べたと報じた。

●イギリス国民の支持を維持する(Maintaining public support

何世紀もの歴史を持つイギリス議会の衣装や儀式用ローブの中で、いつものアーミーグリーンのスウェットシャツを着たこの戦時大統領の姿は、イギリス国民にウクライナの軍事的必要性を思い起こさせるものとなるだろう。

ロシアと戦うウクライナに対するイギリス国民の支持は依然として高い。戦争が始まって数カ月、ウクライナ人の家族を家に迎え入れた何万人もの英国人に代表されるように、ウクライナの人々に対する関心も高いのである。

1月24日に発表されたイプソス社の世論調査の結果では、イギリス人はウクライナ人を助け、ロシアを孤立させる努力を続けることに、調査対象の他の国よりも強い支持を表明しているということになった。

ゼレンスキーは、この支持を当然とは考えていないようだ。今回の訪問は、政治家だけでなく、イギリス国民にも戦争がまだ終わっていないことを思い知らせるためのものなのかもしれない。

アレックス・レフがワシントンからこの記事の作成に貢献した。
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

21世紀に入って、アメリカが国力を落とし、衰退する一方で、中国の台頭が続いている。経済力を示すGDPで言えば、アメリカは超大国になって以来、様々な挑戦者が出現したが、中国が最もアメリカの経済力に近づいている状態だ。これから20年ほどで中国がアメリカを追い抜いて、世界最大の経済大国になるという予想もなされている。

アメリカは独力では中国を抑制、封じ込めることは難しくなっている。そのために、アメリカは日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)という枠組みを作った。しかし、インドはアメリカの言う通りにはならない。インドはアメリカの言いなりになって、中国と直接対立することを避けている。そのために、クアッドは既に機能しないような状態になっている。
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クアッド

 同じような枠組みにオーカス(AUKUS)がある。これはオーストラリア(AUS)、イギリス(UK)、アメリカ(US)の枠組みが構築された。アメリカは、オーストラリアを引き込んで、対中最前線基地とするために、オーストラリアがフランスと結んでいた、ディーゼルエンジン型の潜水艦購入契約に横槍を入れて破棄させて、その代わりに原子力潜水艦を与えるということ主行った。オーカスは文化的にはアングロサクソン系の国々という同質性があるが、日本をオーカスに入れて「ジャーカス(JAKUS)」にすべきだという主張があることはこのブログでも既にご紹介した。
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オーカス

 そのオーカスであるが、困難な状況にあるのではないかという話が出ている。アメリカは、オーストラリアがフランスと結んでいたディーゼル型潜水艦の購入契約を破棄させて、その代わりにアメリカから原潜を買わせるということになったが、源泉を約束通りに提供できないということだ。それはアメリカにオーストラリアに提供する原潜を構築する余剰の能力がないということだ。オーストラリアに製造基地を建設するという話も出ているようだ。

 私たちは、アメリカのイメージをアップデイト、更新しなければならない。アメリカが世界最強で、全能の唯一の超大国で、何でもできるというイメージは修正しなければならない。アメリカについてのより現実に近いイメージを持ち、日本の安全保障を考えねばならない。それこそがリアリズムだ。

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オーカスは低迷しているのか?(Is AUKUS floundering?

マイケル・オハンロン筆

2022年12月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/3753627-is-aukus-floundering/

緊密な同盟関係にあるオーストラリア、イギリス、アメリカの間のいわゆるオーカス(AUKUS)協定は、その効力を失いつつあるのだろうか? もしそうであれば、中国の脅威に対して同盟国やパートナーと共に反撃するという、バイデン政権が得意とする2、3の構想の1つが失われることになりかねない。しかし、政権はこのリスクに気づいていないようだ。ペンタゴンのE止め輪リングからホワイトハウスに至るまで、そろそろこの問題に対する自己満足を捨て去る時期に来ている。

初期段階のオーカス構想は、いろいろな意味で直感に反していた。それは、既に同盟関係にある3カ国が、なぜ新たな協力の仕組みを必要とするのかが明確でなかったからだ。オーストラリアの軍事予算は350億ドル程度(アメリカの20分の1)と控えめで、この取引の中心となる潜水艦を購入する余裕があるとは思えなかった。このような中規模のパートナーと他の分野の軍事技術開発で協力することによって、アメリカが得られる他の大きな利益があるのかどうかも明確ではなかった。また、アメリカ政府の一部には、中国がこの10年のうちに台湾を攻撃する可能性があると予測しており、早ければ2030年代にオーストラリアに潜水艦を引き渡すだけのプログラムについても、どのような有用な変化をもたらすかは明らかでなかった。

更に悪いことに、オーカスの見苦しい2021年の展開は、ホワイトハウスに大人が戻ってきた、アメリカの同盟諸国は再びアメリカ政府から尊重されるだろうというバイデンの主張を少しばかり馬鹿にしたようなものとなった。ワシントン、キャンベラ、ロンドンの間で秘密裏に交渉されたその中心的なコンセプトは、オーストラリア軍にアメリカ設計の攻撃型原子力潜水艦8隻を売却するという提案であった。中国がインド太平洋地域で軍事力を増強し、自己主張の強い行動を続ける中、これらの潜水艦は50隻以上の攻撃型潜水艦を保有するアメリカの艦隊を補完し、インド太平洋海域をパトロールすることになる。また、この地域の安全保障のために同盟諸国が一丸となって取り組むという決意を象徴するものである。

しかし、この契約をオーストラリアにとって適切なものにするために、キャンベラはフランスの造船所との既存の通常動力型潜水艦の製造契約をキャンセルしなければならなかった。パリは大混乱に陥り、バイデン政権はつい最近アフガニスタンからの撤退に失敗し、国家安全保障面でも基本的な外交手腕でも失敗したように見えた。国家安全保障顧問の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンが辞任を申し出たが、バイデンはそれを受け入れなかったという報道が出ている。

当初の案件の是非や、そもそもこの案件を生み出した裏工作の不様さはさておき、オーカス協定は、アメリカのアジア太平洋に対する大戦略の中で広く尊重され、際立った要素になっている。日本、アメリカ、オーストラリア、インドが参加する非公式な安全保障パートナーシップである「クアッド(Quad)」を徐々に強化されている。クアッドは、冷え込んだ日韓関係を徐々に改善する努力に加え、南シナ海の軍事化、香港や新疆ウイグル地区に対する独裁的行動、台湾に対する脅威といった中国に対して積極的に反撃しようとするアメリカの取り組みの中心的な存在となっている。

オーカスは、中国の脅威に対するアメリカの見解を共有する、ワシントンと同盟2カ国との関係を強化することで、このような問題で過剰反応しがちなアメリカの傾向を和らげることができる、冷静で抑制的な態度をしばしば取る同盟諸国であり、大戦略(grand strategy)の良い要素となっている。このことは、オーカスのメンバーが披露しようとする技術や武器売却の一つひとつにとどまらず、あらゆる面で言えることである。

しかし、今、AUKUSは困難に陥っているように見える。アメリカは、潜水艦をめぐる合意をどのように実現させるかについて、考えがまとまらないようだ。官僚政治、そして戦略的・政治的緊急性の欠如が、この問題の原因となっているのだろう。潜水艦をできるだけ早くオーストラリアに届けるには、原子力潜水艦の技術がよく分かっているアメリカで建造する必要がある。しかし、アメリカの造船所には、オーストラリアのために潜水艦を建造する能力はなく、同時に、海軍が望むように、自国の攻撃型潜水艦を現在のSSN約55隻から60隻以上へと拡大しようとしても、その能力はない。これが現状だ。

1つのアイデアは、アメリカの造船基地拡張の資金をオーストラリアに求めることである。その価格が妥当であれば、そして、オーストラリアに一定の期日までに潜水艦の引渡しを保証されるのであれば、それは合理的な方法かもしれない。しかし、この2つの問題に関して、アメリカ海軍は難色を示し、誰もそれを覆すことはできないようだ。

その結果、オーカスは実質的に立ち消えてしまうかもしれない。2021年に外交政策全体がぐらついた後、2022年までロシアと中国の脅威への対処がそれなりに印象的だった時期に、バイデン陣営にとってそれは良い政治ではないということになっている。更に重要なことは、北京が既に、アメリカは地政学的な目的意識と決意を失っているのではないか、また、新しい戦略を1、2年以上継続する能力も失っているのではないかと考えている時期に、アメリカの新しい戦略にとって良いことではない。

※マイケル・オハンロン:ブルッキングス研究所フィリップ・H・ナイト記念防衛・戦略所長。複数の著書があり、近刊予定に『現代戦略家たちのための軍事史(Military History for the Modern Strategist)』がある。ツイッターアカウント:@MichaelEOHanlon.

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 アメリカはバラク・オバマ政権下でのヒラリー・クリントン国務長官(2009-2013年)下で策定した「アジアへ軸足を移す(Pivot to Asia)」を基にして「中国封じ込め(containment of China)」を進めている。この流れはドナルド・トランプ政権でも変わらず、ジョー・バイデン政権も推進している。その中で、構築されたのが「クアッド(Quad)」と呼ばれる日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)である。アメリカ、オーストラリア、インド、中国によるインド太平洋における安全保障の枠組みと言えば聞こえは良いが、簡単に言えば中国封じ込め、東南アジア諸国を取られないための枠組みである。しかし、インドは両天秤をかけている。
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 インド太平洋地域における枠組みにAUKUS(オーカス)がある。これはオーストラリア、イギリス、アメリカの枠組みである。アメリカが原子力潜水艦建造技術をオーストラリアに供与する、オーストラリアはフランスとの間で進めていたディーゼル潜水艦建造協力を破棄するということで、フランスが態度を硬化させたことで注目を集めた。オーストラリアは原潜を持ち、原潜の製造・修理工場を国内に持つことで、対中国の最前線ということになる。アメリカ軍と協力して中国海軍の源泉とにらみ合うことになる。オーストラリアにおけるアメリカの核兵器の配備、オーストラリアによる買い兵器開発と保有まで進む可能性もある。この「アングロサクソン軍事同盟」はクアッドに代わる枠組みになる可能性がある。
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 オーカスが結成された当初、日本政府は参加することはないと述べていたが、日本も参加して「JAUKUS(ジャーカス)」にすべきだという議論は出ている。日本がクアッドとオーカスに参加するということになると、対中国に備えた軍備増強を図るということになる。岸田文雄政権は「防衛費の対GDP比2%」という総額ありきの防衛予算増額を決め、そのために増税を国民に押し付けようとしている。国民から搾り取ってその金でアメリカから武器を買うということになる。アメリカから武器を買って済むことならまだ我慢もできるかもしれないが、問題は外国に対しての先制攻撃を可能にする安全保障戦略を発表している。先制攻撃と軍備拡張は「いつか来た道」である。国民に塗炭の苦しみを味わわせた先の大戦の反省はすっかり忘れられている。

 先の大戦の前も「日本は世界の五大国だ」「国際連盟の常任理事国だ」と浮かれ、大国意識だけが増長し、実態とはかけ離れた自己意識の肥大のために、最後は大きく進むべき道を誤ることになった。「日本は世界第3位の経済大国だ」「日米同盟は世界で最も重要な同盟だ」などというスローガンに踊らされて、調子になってバカ踊りをやって後で泣きを見ることがないようにするのが大人の態度であるが、今の日本の政治家にそのような期待をすることは難しい。

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日本がAUKUSに参加すべき理由(Why Japan Should Join AUKUS

-東京はインド太平洋において不可欠な安全保障上のアクターとなった。

マイケル・オースリン筆

2022年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/15/japan-aukus-jaukus-security-defense-pact-alliance-china-containment-geopolitics-strategy-indo-pacific/?tpcc=recirc_latest062921

インド太平洋地域では、新たな四カ国同盟(quad)が形成されつつある。それはオーストラリア、インド、日本、アメリカが参加する日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)よりも大きな影響を与える可能性がある。中国の影響力とパワーの拡大に対抗して、オーストラリア、イギリス、日本、米国が安全保障上の利害を一致させるようになったことで、新たな連携が生まれつつある。2021年に締結された豪英米防衛協力協定(Australia-United Kingdom-United States defense cooperation pact、通称AUKUS)に日本が加わり、JAUKUSとなる見込みであり、これまでの同盟(alliance)や準同盟(quasi-alliance)にはなかったインド太平洋の自由主義的民主政体諸国(liberal democracies)間の安全保障協力

このようなパートナーシップはあらかじめ決まっていたものではない。実際、今年初め、日本がAUKUSへの加盟をひそかに検討しているという報道があったが、東京はすぐに否定し、当時のホワイトハウスのジェン・サキ報道官もこの報道内容を否定した。しかし、日本はこの3カ国と連携するようである。これは、日本の安全保障姿勢を一変させるだけでなく、インド太平洋においてますます重要な役割を果たすアクターに変貌させた戦略的革命の一部となる。7月に暗殺された安倍晋三首相(当時)の下、日本は共同兵器開発に関するほとんどの制限を撤廃し、軍事予算を着実に増やし、自衛隊がパートナー諸国の軍隊との集団的自衛権に関与することを認めるなどより積極的な防衛態勢を取るようになっている。

2021年10月の就任以来、岸田文雄首相は安倍元首相の外交・安全保障政策を基礎とするだけでなく、アジアや世界の主要自由主義的な諸国と日本の関係を拡大・強化した。岸田首相は、ロシアがウクライナに侵攻した後、直ちにワシントンやヨーロッパ各国とともにロシアへの制裁を行った。また、NATOとの関係を深め、6月には日本の指導者として初めてNATO首脳会議に出席した。国内では、岸田首相は日本の防衛予算を増やし続け、1000億ドル近くまで倍増させる可能性があり、近く新しい国家安全保障戦略(national security strategy)を発表する予定である。アジア専門家たちにとって重要なことは、日本の戦略的変革は政治家たちの個性がもたらしたのではなく、むしろ深刻化する中国と北朝鮮の脅威と結びついている。アジアの安全保障環境が不安定なままである限り、東京はその能力を高め、パートナーシップを拡大し続けるだろう。

岸田首相のアプローチの核となる要素は、AUKUSの3カ国との着実な連携だ。10月下旬、キャンベラと東京は安全保障協力に関する共同宣言に署名した。正式な相互防衛協定(formal mutual defense pact)ではないが、この協定は日本とオーストラリアの「特別な戦略的パートナーシップ(Special Strategic Partnership)」を強化するものであり、グローバルな規範と地域の開放性に対する両国の支持を繰り返し表明している。1月には既に、日豪両国は軍の相互アクセス協定(military reciprocal access agreement,)に調印しており、これにより、訪問部隊の手続きが容易になり、オーストラリアと日本の軍隊が合同演習(joint exercises)を実施し、アメリカを含めて災害救援に協力できるようになる。

実際のJAUKUSを作るには、次のステップとして、日本の参加を徐々に正式なものにする方法を検討する必要があるだろう。

新たな安全保障協力宣言により、日豪両国は、情報の共有、サイバー防御に関する協力、サプライチェーンの確保などの活動を行いながら、軍隊間の「実践的な協力を深め、相互運用性を更に強化する」ことに合意している。完全に実施されれば、提案された協力の範囲は、各国にとって最も重要なパートナーシップとなるだろう。

一方、英国と日本は12月に、日本が既にオーストラリアと結んでいる協定と同様の相互アクセス協定に署名し、互いの国への軍隊の入国を緩和し、合同軍事演習と兵站協力を強化する予定である。これは、東京とロンドンが次世代戦闘機の開発でイタリアと協力するという7月の発表に続くものだ。イギリス海軍と海上自衛隊は前月、英仏海峡で合同演習(joint exercises)を行ったが、これは新型空母HMSクイーン・エリザベスと打撃群が日本を訪れてからちょうど1年後のことであった。

イギリスにとって、日本とのアクセス協定は、ボリス・ジョンソン首相が最初に説明したインド太平洋地域へのロンドンの「傾斜(tilt)」の骨に、更に肉を付けることになる。日英の防衛関係の深化は、リシ・スナック新首相がロンドンの最も重要な公的戦略文書である「統合的レビュー(integrated review)」を中国の脅威により明確に焦点を当てるよう改訂する見込みであることと合わせて、日本とのアクセス協定は、インド太平洋地域におけるキャンベラ、東京、ワシントンとのより正式な協力関係を構築する舞台となるものである。

しかし、4カ国が正式な合意に達する前であっても、中国の前進に対してバランスを取ることを目的とした行動の調整のおかげで、非公式のJAUKUSが既に出現している。2021年10月には、4カ国の海軍がインド洋で共同訓練を行っている。 8月、AUKUSが極超音速技術と対極超音速技術の両方の開発に焦点を当てると述べた直後に、日本は極超音速ミサイルを研究すると発表した。同様に、日本は量子コンピューティングへの投資を増やしており、その投資の一部は、世界で2番目に高速なスーパーコンピューターを所有する富士通によって行われている。このイニシアティヴは、潜在的な軍事的影響を伴う量子および人工知能技術を共同開発するというAUKUSの関与と一致している。

同様に、4カ国は国内の安全保障問題でも連携を強めている。4カ国はいずれもファーウェイを国内の通信ネットワーク、特に6Gから締め出しているが、その実施状況はまちまちだ。更に言えば、イギリスの安全保障担当大臣トム・トゥゲンドハットが最近、イギリスに残る孔子学院を全て閉鎖すると発表したことは、世界中の大学に圧力をかけて中国批判を封じ込め、中国国家の利益につながる肯定的なシナリオを押し付けてきた北京系組織の存在と影響力を、4カ国それぞれが削ごうとして動いていることを意味する。

実際のJAUKUSを作るための次のステップは、日本の参加を徐々に正式なものにする方法を検討することだ。まず、量子コンピュータや極超音速機開発など、共通の関心を持つ分野について、AUKUSの17のワーキンググループのいくつかに日本の関係者を招き、見学させることから始めることができるだろう。次の段階として、日本のJAUKUSにおけるステータスを変更したり、共同運営グループの会合に定期的に出席したりすることを検討することも考えられる。共同運営グループは、AUKUSが重視している2つの主要テーマ、潜水艦(submarines)と最先端の技術を使った能力(advanced capabilities)について方針を決定し、長期的なメンバーシップを議論する。また、オーストラリアへの原子力潜水艦供給という AUKUS の中核的な取り組みに東京がどのように参画できるかを冷静に探れば、特に軍事利用のための原子力技術に反対する日本の国内政治において、潜在的な外交的・政治的地雷の可能性を排除することができるだろう。

その過程や最終的な地位が同盟であれ協定であれ、あるいはもっと非公式なものであれ、JAUKUSは、インド太平洋を戦略的に考える意思と能力を持つ4つの主要な自由主義的な諸国による安全保障上の懸念とイニシアティヴの収束の自然な展開である。政策や目標の共通性が明らかになるにつれ、JAUKUS諸国は、インド太平洋地域の安定を維持するために、それぞれの努力を更に調整し、結合することの利点を理解するであろう。

※マイケル・オースリン:スタンフォード大学フーヴァー研究所研究員。著書に『アジアの新しい地政学:再形成されるインド太平洋に関する諸論稿(Asia’s New Geopolitics: Essays on Reshaping the Indo-Pacific)』がある。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 NATOはウクライナ戦争以降、大きな注目を集めている。NATOは北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)の略である。NATOは冷戦下の対ソ連に対する集団的自衛のための組織であった。ソ連はワルシャワ条約機構(Warsaw Treaty/Pact Organization)を組織して対抗した。冷戦終結後、ソ連が解体された後も、加盟国を増やしながら存続してきた。その主要な仮想敵国はロシアになった。

 また、NATOに関しては、「ドイツの力を封じ込める」という考え方もある。「日米安全保障条約は日本の力を封じ込めるためのものだ」という「瓶のふた」論と共通する内容だ。NATOの外部ではロシアを、内部ではドイツを抑え込むという二重の構造になっている。しかし、NATOという冷戦の遺物が規模を拡大して残ってしまっていることが、ロシアの恐怖感を強め、ロシアにとっての脅威となり、ウクライナを正式加盟させていないのに、実質的に加盟国のように遇して軍備増強をさせたことがロシアの侵攻につながったということを考えると、NATOの存在が安全保障に資するものなのかどうか甚だ疑問である。アメリカではドナルド・トランプが大統領時代に、NATOは役立たずの金食い虫だと喝破したことがある。NATOの存在意義が議論の対象になっている。

 NATOの在り方に関しては、これまで通り(アメリカに頼りながら)、役割を拡大(アメリカのインド太平洋戦略の補助者として)、ヨーロッパの安全保障に専念してアメリカに頼らないというものであり、下記の論稿の著者スティーヴン・ウォルト教授は最後の在り方を推奨している。

 NATOは現在、アメリカを補助する役割を拡大し、アジア太平洋地域におけるプレゼンスを高めようとする動きが活発だ。イギリスやフランスが空母を派遣し、ドイツも艦艇を派遣するという動きに出ている。イギリスは英連邦(British Commonwealth)、フランスは太平洋に海外領土を持っており、それを大義名分にして空母まで送ってきている。しかし、それは「あなた方の仕事ではないはずだ」と私は考える。ウクライナに対する支援の少なさを考えると、「まずは自分の足元からしっかり見直すべきではないか」と言いたい。

 アジア太平洋地域にこれ以上、外部からしゃしゃり出てこられても困るのだ。しかも、老大国、自分の頭の上のハエを追うことすらままならない国々が、昔アジア太平洋地域を植民地化した古き良き時代が忘れられないのか、アメリカに唆されて嫌々なのかは分からないが、おっとり刀で出て来たところで何の役に立つと言うのか。

 NATOは自分たちの周辺だけでも、旧ソ連、中東、マグレヴ(サハラ砂漠以北のアフリカ諸国)と言ったところで多くの問題を抱えている。まずはそれらにしっかりと対処することだ。更に、内部での独仏の争いについても何とかしなさい、ということになる。仲間割れをして戦争にまでならないように、他のところは他のところできちんとやるから、ということになる。

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どのNATOを私たちは必要とするか?(Which NATO Do We Need?

-環大西洋同盟の4つの可能な未来。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年9月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

Stephen M. Walt

https://foreignpolicy.com/2022/09/14/nato-future-europe-united-states/

絶え間なく変化する世界の中で、大西洋を越えたパートナーシップの耐久性は際立っている。北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganizationNATO)は私の人生よりも歴史が長い。そして、私はもう若くない。NATOの歴史は、エリザベス2世が英国に君臨していた時代よりも長い。「ソヴィエト連邦を排除し、アメリカを取り込み、ドイツを抑える」というNATOの本来の目的は、以前ほど重要ではなくなったが(ロシアのウクライナ戦争は別として)、大西洋の両側ではいまだに尊敬をもって見られている。もし読者である皆さんが、ワシントン、ベルリン、パリ、ロンドンなどで頭角を現すことを望む政策担当者ならば、NATOの不朽の美点を称賛することを学ぶのは、今でも賢い出世術と言えるだろう。

NATOが結成され、「大西洋横断コミュニティ(trans-Atlantic community)」の構想が具体化し始めてから、どれほどの変化があったかを考えると、この長い歴史は特に注目に値する。ワルシャワ条約(Warsaw Pact)は消滅し、ソ連は崩壊した。アメリカは20年以上にわたって中東において、お金ばかりかかってしまって成果の上がらない戦争に国力を費やしてきた。中国は、世界的な影響力を持たない貧しい国から世界第2位の強国へと成長し、その指導者たちは将来、さらに大きな世界的役割を果たすことを望んでいる。ヨーロッパもまた、人口動態の変化、度重なる経済危機、バルカン半島での内戦、そして2022年には長期化しそうな破壊的な戦争と、大きな変化を経験している。

確かに、「大西洋を越えたパートナーシップ(trans-Atlantic partnership)」は完全に固定化されてきた訳ではない。1952年のギリシャとトルコに始まり、1982年のスペイン、1999年からの旧ソ連の同盟国、そして最近ではスウェーデンとフィンランドと、NATOはその歴史の中で新メンバーを増やしてきた。冷戦終結後、ヨーロッパの大半が国防費を大幅に削減するなど、同盟内の負担配分にも変動があった。NATOはまた、様々な教義上の変化を経てきたが、その中にはより大きな影響を及ぼすものもある。

従って、大西洋横断パートナーシップは今後どのような形を取るべきかを問う価値がある。その使命をどのように定め、どのように責任を分担していくべきなのか? 投資信託と同様、過去の成功は将来のパフォーマンスを保証するものではない。だからこそ、最高のリターンを求める賢明なポートフォリオ・マネージャーは、状況の変化に応じてファンドの資産を調整する。過去に起きた変化、現在の出来事、そして将来起こりうる状況を考慮した上で、大西洋横断パートナーシップが存在し続けると仮定した場合、将来どのような広範なヴィジョンを形成すべきなのだろうか?

私は少なくとも4つの異なるモデルを考えることができる。

一つは、官僚的な硬直性(bureaucratic rigidity)と政治的な慎重さ(political caution)を考慮すれば、おそらく最も可能性の高いアプローチで、現在の取り決めをほぼそのまま維持し、できる限り変化を与えないというものだ。このモデルでは、NATOは(その名称の「北大西洋」という言葉が示すように)、主にヨーロッパの安全保障に焦点を当て続けることになる。アメリカは、ウクライナ危機の際もそうであったように、ヨーロッパにとっての「緊急応対者(first responder、ファースト・レスポンダー)」であり、同盟のリーダーとして揺るがない存在であり続けるだろう。負担の分担は依然として偏っている。アメリカの軍事力は引き続きヨーロッパの軍事力を凌駕し、アメリカの核の傘(nuclear umbrella)は依然として同盟の他の加盟諸国を覆っている。「地域外(out-of-area)」の任務は、ヨーロッパそのものに再び焦点を当てることに重点を置くことになるだろう。この決定は、アフガニスタン、リビア、バルカン半島諸国におけるNATOの過去の冒険がもたらした失望的な結果に照らして、理にかなったものだと言える。

公平に見て、このモデルには明らかな長所がある。それは、慣れ親しんだものであり、ヨーロッパにとっての「アメリカのおしゃぶり(American pacifier)」をそのままにしておくことだ。アメリカ(Uncle Sam、アンクルサム)が笛を吹いて喧嘩を仲裁してくれる限り、ヨーロッパ諸国は国家間の紛争を心配する必要はない。再軍備の結果として手厚い福祉国家を切り崩したくないヨーロッパ諸国は、アンクルサムに不釣り合いな負担をさせることを喜ぶだろうし、ロシアに地理的に近い国はアメリカの強力な安全保障を特に望むだろう。不釣り合いな能力を持つ明確な同盟のリーダーがいれば、そうでなければ扱いにくい連合軍内で、より迅速で一貫した意思決定が可能になる。この方式に手を加えようとする者が現れると熱心な大西洋主義者が警鐘を鳴らすのにはそれなりの理由がある。

しかし、通常業務(business-as-usual)モデルには深刻なマイナス面もある。最も明白なのは機会費用(opportunity cost)だ。アメリカをヨーロッパにとってのファースト・レスポンダーとして維持すると、アメリカは、力の均衡(balance of power)に対する脅威が著しく、外交環境が特に複雑なアジアに十分な時間、注意、資源を割くことが難しくなる。アメリカのヨーロッパへの強い関与(commitment)は、ヨーロッパでの潜在的な紛争の原因を減らすかもしれない。しかし、それは1990年代のバルカン戦争を防げなかったし、アメリカが主導してウクライナを西側の安全保障軌道に乗せる努力は現在の戦争を誘発する一因となった。もちろん、これは西側諸国の誰もが意図したことではないが、結果こそが重要なのだ。最近のウクライナの戦場での成功は非常に喜ばしいことであり、今後もそうであって欲しいが、戦争が起きない方がはるかに良かった。

更に、通常業務モデルは、ヨーロッパの保護継続を奨励し、ヨーロッパの外交政策の遂行における全般的な自己満足と現実主義の欠如に寄与している。問題が起きればすぐに世界最強の超大国が味方になってくれると確信していれば、外国のエネルギー供給に過度に依存したり、身近に忍び寄る権威主義(authoritarianism)に過度に寛容であったりするリスクを無視しやすくなる。そして、誰も認めたがらないが、このモデルは、アメリカ自身の安全や繁栄にとって必ずしも重要でない周辺の紛争にアメリカを引きずり込む可能性を持っている。少なくとも、通常業務も出るは、もはや無批判に支持すべきアプローチではない。

●モデル2:国際的な民主政治体制の拡大(Model 2: Democracy International

大西洋横断安全保障協力の第2のモデルは、NATO加盟諸国のほとんどの民主的な特徴の共有と、民主政治体制国家と独裁国家(特にロシアと中国)の間の格差の拡大を強調するものである。このヴィジョンは、バイデン政権が民主政治体制の価値観を共有することを強調し、世界の舞台で民主政治体制が依然として独裁政治体制を凌駕しうることを証明したいと公言していることの背景にあるものだ。元NATO事務総長であるアンデルス・フォグ・ラスムセンの民主国家同盟財団(Alliance of Democracies Foundation)も同様の構想を反映している。

ヨーロッパの安全保障に主眼を置いた通常業務モデルとは異なり、大西洋横断パートナーシップに関するこの概念は、より幅広いグローバルな課題を包含している。現代の世界政治を民主政治体制と独裁政治体制のイデオロギー論争として捉え、この闘いは地球規模で行われなければならないと考えている。アメリカがアジアに軸足を移すのであれば、ヨーロッパのパートナーも同様に、民主政治体制を擁護し促進するというより大きな目的のために軸足を移す必要がある。ドイツの新しいインド太平洋戦略では、この地域の民主国家群との関係を強化することが謳われており、ドイツの国防相は最近、2024年にもアジアにおける海軍のプレゼンスを拡大することを発表している。

このヴィジョンは、民主政治体制が良くて独裁政治体制が悪いという単純な利点はあるが、欠点はその良さよりもはるかに大きい。まず、このような枠組みは、アメリカやヨーロッパが支持する独裁国家(サウジアラビアや湾岸諸国、あるいはヴェトナムなどアジアの潜在的パートナー)との関係を複雑にし、大西洋横断パートナーシップを偽善の塊のようなものとして暴露することは避けられないだろう。第二に、世界を友好的な民主国家と敵対的な独裁国家に分けることは、独裁国家間の結びつきを強め、民主国家間が他国間に対して分割統治を行うことを抑制することにつながる。この観点から、1971年に当時のリチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官が毛沢東率いる中国と和解し、クレムリンに新たな頭痛の種を与えた時に、この枠組みを採用しなかったことを喜ぶべきだろう。

最後に、民主政治体制の価値を前面に押し出すことは、大西洋横断パートナーシップを、可能な限り民主政体を諸外国に植え付けようとする十字軍のような組織にしてしまう危険性をはらんでいる。このような目標は抽象的には望ましいことかもしれないが、過去30年間を見れば、同盟のどのメンバーもこれを効果的に行う方法を知らないことが分かるはずである。民主政体の輸出は非常に困難であり、特に部外者が力づくでそれを押し付けようとする場合にはたいていの場合失敗する。また、現在のNATO加盟諸国の一部で民主政治が悲惨な状態にあることを考えると、これを同盟の主要な存在意義として採用することは非常に奇妙に見える。

●モデル3:「世界に出ていく」対「中国」(Model 3: Going Global vs. China

モデル3はモデル2に近いものであるが、民主政治体制やその他の自由主義的価値を中心に大西洋横断関係を組織するのではなく、中国を封じ込めるためのアメリカの幅広い努力にヨーロッパを参加させようとするものだ。事実上、アメリカのヨーロッパ諸国のパートナーは、アジアに既に存在する二国間ハブ&スポーク協定と一体化し、アメリカが今後何年にもわたって直面する可能性がある唯一の深刻な競合相手に対して、ヨーロッパの潜在力を発揮しようとするものである。

一見したところ、これは魅力的なヴィジョンであり、アメリカ、イギリス、オーストラリア間のAUKUS協定は、その初期の現れであると指摘することができる。ランド研究所のマイケル・マザールが最近指摘しているように、ヨーロッパはもはや中国を単に有利な市場や貴重な投資相手とは見ておらず、中国に対して「ソフトバランス(soft balance)」し始めている証拠が増えつつある。純粋にアメリカの視点に立てば、ヨーロッパの経済的・軍事的潜在力をその主要な挑戦者である中国に向けることは、非常に望ましいことであろう。

しかし、このモデルには2つの明らかな問題がある。第一に、国家はパワーだけでなく脅威に対してもバランスを取っており、その評価には地理的な要因が重要な役割を果たす。中国はより強力で野心的になっているかもしれないが、中国軍はアジアを横断してヨーロッパを攻撃することはないし、中国海軍は世界中を航海してヨーロッパの港を封鎖することはないだろう。ロシアは中国よりはるかに弱いがはるかに近い。最近のロシアの行動は、その軍事的限界を知らず知らずのうちに明らかにしているとしても、憂慮すべきものである。従って、ヨーロッパが期待するのは最もソフトなバランシングであって、中国の能力に対抗するための真剣な努力ではない。

NATOのヨーロッパ加盟諸国は、インド太平洋地域の力の均衡に大きな影響を与える軍事能力を有しておらず、また、すぐにそれを獲得することも考えにくい。しかし、その努力のほとんどは、ロシアに対する防御と抑止を目的とした地上・航空・監視能力の獲得に向けられるだろう。それはヨーロッパの観点からは合理的であるが、これらの能力のほとんどは、中国との紛争には無関係であろう。インド太平洋地域にドイツのフリゲート艦を数隻派遣することは、同地域の安全保障環境の変化にドイツが関心を示していることを示す良い方法かもしれないが、地域の力の均衡を変更したり、中国の計算を大きく変更させたりすることはできないだろう。

もちろん、ヨーロッパは、外国軍隊の訓練支援、武器の販売、地域安全保障フォーラムへの参加など、他の方法で中国との均衡を図ることができ、アメリカはそうした努力を歓迎すべきだ。しかし、インド太平洋地域におけるハードバランシング(hard balancing)をヨーロッパに期待するべきではない。このモデルを実行に移そうとすることは、失望と大西洋における軋轢を増大させることになる。

●モデル4:新しい分業(Model 4: A New Division of Labor

こうなることは分かっていたはずだ。私が考える正しいモデルとは。私が以前から主張しているように(最近『フォーリン・ポリシー』誌上で書いたように)、大西洋横断パートナーシップの最適な将来モデルは、ヨーロッパが自国の安全保障に主な責任を持ち、アメリカがインド太平洋地域に大きな関心を払うという新しい役割分担である。アメリカはNATOの正式加盟国としてその地位にとどまるが、ヨーロッパにとっての緊急応対者ではなく、最終手段(last resort)としての同盟国になるであろう。今後、アメリカは、地域における力の均衡が劇的に損なわれた場合にのみ、ヨーロッパに再び上陸することを計画するが、そうでない場合は、上陸しない。

このモデルは一夜にして実現できるものではなく、アメリカがヨーロッパのパートナーに必要な能力の設計と取得を支援し、協力的な精神で交渉する必要がある。しかし、これらの国々の多くは、アメリカを説得するために全力を尽くすだろうから、アメリカは、これが今後支持する唯一のモデルであることを明確に示す必要がある。NATOのヨーロッパにおける加盟諸国が、自分たちはほとんど自分たちの力でやっていけると本気で思わない限り、そして確信するまでは、必要な措置を取るという彼らの決意は弱いままで、約束を反故にすることが予想される。

アメリカ大統領時代のドナルド・トランプは、虚勢を張って大袈裟で、同盟諸国を無意味に困惑させたが、トランプの次の大統領であるジョー・バイデンは、上記のプロセスを始めるのに理想的な立場にある。バイデンは熱心な大西洋主義者という評価を得ているので、新しい役割分担を推し進めることは、恨みや怒りの表れとは見なされないだろう。バイデンと彼のチームは、ヨーロッパのパートナーに、この措置が全員の長期的な利益につながることを伝えることができるユニークな立場にある。私は、バイデンたちがこのステップを踏むことを期待している訳ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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