古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:イギリス

 古村治彦です。

 NATOはウクライナ戦争以降、大きな注目を集めている。NATOは北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)の略である。NATOは冷戦下の対ソ連に対する集団的自衛のための組織であった。ソ連はワルシャワ条約機構(Warsaw Treaty/Pact Organization)を組織して対抗した。冷戦終結後、ソ連が解体された後も、加盟国を増やしながら存続してきた。その主要な仮想敵国はロシアになった。

 また、NATOに関しては、「ドイツの力を封じ込める」という考え方もある。「日米安全保障条約は日本の力を封じ込めるためのものだ」という「瓶のふた」論と共通する内容だ。NATOの外部ではロシアを、内部ではドイツを抑え込むという二重の構造になっている。しかし、NATOという冷戦の遺物が規模を拡大して残ってしまっていることが、ロシアの恐怖感を強め、ロシアにとっての脅威となり、ウクライナを正式加盟させていないのに、実質的に加盟国のように遇して軍備増強をさせたことがロシアの侵攻につながったということを考えると、NATOの存在が安全保障に資するものなのかどうか甚だ疑問である。アメリカではドナルド・トランプが大統領時代に、NATOは役立たずの金食い虫だと喝破したことがある。NATOの存在意義が議論の対象になっている。

 NATOの在り方に関しては、これまで通り(アメリカに頼りながら)、役割を拡大(アメリカのインド太平洋戦略の補助者として)、ヨーロッパの安全保障に専念してアメリカに頼らないというものであり、下記の論稿の著者スティーヴン・ウォルト教授は最後の在り方を推奨している。

 NATOは現在、アメリカを補助する役割を拡大し、アジア太平洋地域におけるプレゼンスを高めようとする動きが活発だ。イギリスやフランスが空母を派遣し、ドイツも艦艇を派遣するという動きに出ている。イギリスは英連邦(British Commonwealth)、フランスは太平洋に海外領土を持っており、それを大義名分にして空母まで送ってきている。しかし、それは「あなた方の仕事ではないはずだ」と私は考える。ウクライナに対する支援の少なさを考えると、「まずは自分の足元からしっかり見直すべきではないか」と言いたい。

 アジア太平洋地域にこれ以上、外部からしゃしゃり出てこられても困るのだ。しかも、老大国、自分の頭の上のハエを追うことすらままならない国々が、昔アジア太平洋地域を植民地化した古き良き時代が忘れられないのか、アメリカに唆されて嫌々なのかは分からないが、おっとり刀で出て来たところで何の役に立つと言うのか。

 NATOは自分たちの周辺だけでも、旧ソ連、中東、マグレヴ(サハラ砂漠以北のアフリカ諸国)と言ったところで多くの問題を抱えている。まずはそれらにしっかりと対処することだ。更に、内部での独仏の争いについても何とかしなさい、ということになる。仲間割れをして戦争にまでならないように、他のところは他のところできちんとやるから、ということになる。

(貼り付けはじめ)

どのNATOを私たちは必要とするか?(Which NATO Do We Need?

-環大西洋同盟の4つの可能な未来。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年9月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

Stephen M. Walt

https://foreignpolicy.com/2022/09/14/nato-future-europe-united-states/

絶え間なく変化する世界の中で、大西洋を越えたパートナーシップの耐久性は際立っている。北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganizationNATO)は私の人生よりも歴史が長い。そして、私はもう若くない。NATOの歴史は、エリザベス2世が英国に君臨していた時代よりも長い。「ソヴィエト連邦を排除し、アメリカを取り込み、ドイツを抑える」というNATOの本来の目的は、以前ほど重要ではなくなったが(ロシアのウクライナ戦争は別として)、大西洋の両側ではいまだに尊敬をもって見られている。もし読者である皆さんが、ワシントン、ベルリン、パリ、ロンドンなどで頭角を現すことを望む政策担当者ならば、NATOの不朽の美点を称賛することを学ぶのは、今でも賢い出世術と言えるだろう。

NATOが結成され、「大西洋横断コミュニティ(trans-Atlantic community)」の構想が具体化し始めてから、どれほどの変化があったかを考えると、この長い歴史は特に注目に値する。ワルシャワ条約(Warsaw Pact)は消滅し、ソ連は崩壊した。アメリカは20年以上にわたって中東において、お金ばかりかかってしまって成果の上がらない戦争に国力を費やしてきた。中国は、世界的な影響力を持たない貧しい国から世界第2位の強国へと成長し、その指導者たちは将来、さらに大きな世界的役割を果たすことを望んでいる。ヨーロッパもまた、人口動態の変化、度重なる経済危機、バルカン半島での内戦、そして2022年には長期化しそうな破壊的な戦争と、大きな変化を経験している。

確かに、「大西洋を越えたパートナーシップ(trans-Atlantic partnership)」は完全に固定化されてきた訳ではない。1952年のギリシャとトルコに始まり、1982年のスペイン、1999年からの旧ソ連の同盟国、そして最近ではスウェーデンとフィンランドと、NATOはその歴史の中で新メンバーを増やしてきた。冷戦終結後、ヨーロッパの大半が国防費を大幅に削減するなど、同盟内の負担配分にも変動があった。NATOはまた、様々な教義上の変化を経てきたが、その中にはより大きな影響を及ぼすものもある。

従って、大西洋横断パートナーシップは今後どのような形を取るべきかを問う価値がある。その使命をどのように定め、どのように責任を分担していくべきなのか? 投資信託と同様、過去の成功は将来のパフォーマンスを保証するものではない。だからこそ、最高のリターンを求める賢明なポートフォリオ・マネージャーは、状況の変化に応じてファンドの資産を調整する。過去に起きた変化、現在の出来事、そして将来起こりうる状況を考慮した上で、大西洋横断パートナーシップが存在し続けると仮定した場合、将来どのような広範なヴィジョンを形成すべきなのだろうか?

私は少なくとも4つの異なるモデルを考えることができる。

一つは、官僚的な硬直性(bureaucratic rigidity)と政治的な慎重さ(political caution)を考慮すれば、おそらく最も可能性の高いアプローチで、現在の取り決めをほぼそのまま維持し、できる限り変化を与えないというものだ。このモデルでは、NATOは(その名称の「北大西洋」という言葉が示すように)、主にヨーロッパの安全保障に焦点を当て続けることになる。アメリカは、ウクライナ危機の際もそうであったように、ヨーロッパにとっての「緊急応対者(first responder、ファースト・レスポンダー)」であり、同盟のリーダーとして揺るがない存在であり続けるだろう。負担の分担は依然として偏っている。アメリカの軍事力は引き続きヨーロッパの軍事力を凌駕し、アメリカの核の傘(nuclear umbrella)は依然として同盟の他の加盟諸国を覆っている。「地域外(out-of-area)」の任務は、ヨーロッパそのものに再び焦点を当てることに重点を置くことになるだろう。この決定は、アフガニスタン、リビア、バルカン半島諸国におけるNATOの過去の冒険がもたらした失望的な結果に照らして、理にかなったものだと言える。

公平に見て、このモデルには明らかな長所がある。それは、慣れ親しんだものであり、ヨーロッパにとっての「アメリカのおしゃぶり(American pacifier)」をそのままにしておくことだ。アメリカ(Uncle Sam、アンクルサム)が笛を吹いて喧嘩を仲裁してくれる限り、ヨーロッパ諸国は国家間の紛争を心配する必要はない。再軍備の結果として手厚い福祉国家を切り崩したくないヨーロッパ諸国は、アンクルサムに不釣り合いな負担をさせることを喜ぶだろうし、ロシアに地理的に近い国はアメリカの強力な安全保障を特に望むだろう。不釣り合いな能力を持つ明確な同盟のリーダーがいれば、そうでなければ扱いにくい連合軍内で、より迅速で一貫した意思決定が可能になる。この方式に手を加えようとする者が現れると熱心な大西洋主義者が警鐘を鳴らすのにはそれなりの理由がある。

しかし、通常業務(business-as-usual)モデルには深刻なマイナス面もある。最も明白なのは機会費用(opportunity cost)だ。アメリカをヨーロッパにとってのファースト・レスポンダーとして維持すると、アメリカは、力の均衡(balance of power)に対する脅威が著しく、外交環境が特に複雑なアジアに十分な時間、注意、資源を割くことが難しくなる。アメリカのヨーロッパへの強い関与(commitment)は、ヨーロッパでの潜在的な紛争の原因を減らすかもしれない。しかし、それは1990年代のバルカン戦争を防げなかったし、アメリカが主導してウクライナを西側の安全保障軌道に乗せる努力は現在の戦争を誘発する一因となった。もちろん、これは西側諸国の誰もが意図したことではないが、結果こそが重要なのだ。最近のウクライナの戦場での成功は非常に喜ばしいことであり、今後もそうであって欲しいが、戦争が起きない方がはるかに良かった。

更に、通常業務モデルは、ヨーロッパの保護継続を奨励し、ヨーロッパの外交政策の遂行における全般的な自己満足と現実主義の欠如に寄与している。問題が起きればすぐに世界最強の超大国が味方になってくれると確信していれば、外国のエネルギー供給に過度に依存したり、身近に忍び寄る権威主義(authoritarianism)に過度に寛容であったりするリスクを無視しやすくなる。そして、誰も認めたがらないが、このモデルは、アメリカ自身の安全や繁栄にとって必ずしも重要でない周辺の紛争にアメリカを引きずり込む可能性を持っている。少なくとも、通常業務も出るは、もはや無批判に支持すべきアプローチではない。

●モデル2:国際的な民主政治体制の拡大(Model 2: Democracy International

大西洋横断安全保障協力の第2のモデルは、NATO加盟諸国のほとんどの民主的な特徴の共有と、民主政治体制国家と独裁国家(特にロシアと中国)の間の格差の拡大を強調するものである。このヴィジョンは、バイデン政権が民主政治体制の価値観を共有することを強調し、世界の舞台で民主政治体制が依然として独裁政治体制を凌駕しうることを証明したいと公言していることの背景にあるものだ。元NATO事務総長であるアンデルス・フォグ・ラスムセンの民主国家同盟財団(Alliance of Democracies Foundation)も同様の構想を反映している。

ヨーロッパの安全保障に主眼を置いた通常業務モデルとは異なり、大西洋横断パートナーシップに関するこの概念は、より幅広いグローバルな課題を包含している。現代の世界政治を民主政治体制と独裁政治体制のイデオロギー論争として捉え、この闘いは地球規模で行われなければならないと考えている。アメリカがアジアに軸足を移すのであれば、ヨーロッパのパートナーも同様に、民主政治体制を擁護し促進するというより大きな目的のために軸足を移す必要がある。ドイツの新しいインド太平洋戦略では、この地域の民主国家群との関係を強化することが謳われており、ドイツの国防相は最近、2024年にもアジアにおける海軍のプレゼンスを拡大することを発表している。

このヴィジョンは、民主政治体制が良くて独裁政治体制が悪いという単純な利点はあるが、欠点はその良さよりもはるかに大きい。まず、このような枠組みは、アメリカやヨーロッパが支持する独裁国家(サウジアラビアや湾岸諸国、あるいはヴェトナムなどアジアの潜在的パートナー)との関係を複雑にし、大西洋横断パートナーシップを偽善の塊のようなものとして暴露することは避けられないだろう。第二に、世界を友好的な民主国家と敵対的な独裁国家に分けることは、独裁国家間の結びつきを強め、民主国家間が他国間に対して分割統治を行うことを抑制することにつながる。この観点から、1971年に当時のリチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官が毛沢東率いる中国と和解し、クレムリンに新たな頭痛の種を与えた時に、この枠組みを採用しなかったことを喜ぶべきだろう。

最後に、民主政治体制の価値を前面に押し出すことは、大西洋横断パートナーシップを、可能な限り民主政体を諸外国に植え付けようとする十字軍のような組織にしてしまう危険性をはらんでいる。このような目標は抽象的には望ましいことかもしれないが、過去30年間を見れば、同盟のどのメンバーもこれを効果的に行う方法を知らないことが分かるはずである。民主政体の輸出は非常に困難であり、特に部外者が力づくでそれを押し付けようとする場合にはたいていの場合失敗する。また、現在のNATO加盟諸国の一部で民主政治が悲惨な状態にあることを考えると、これを同盟の主要な存在意義として採用することは非常に奇妙に見える。

●モデル3:「世界に出ていく」対「中国」(Model 3: Going Global vs. China

モデル3はモデル2に近いものであるが、民主政治体制やその他の自由主義的価値を中心に大西洋横断関係を組織するのではなく、中国を封じ込めるためのアメリカの幅広い努力にヨーロッパを参加させようとするものだ。事実上、アメリカのヨーロッパ諸国のパートナーは、アジアに既に存在する二国間ハブ&スポーク協定と一体化し、アメリカが今後何年にもわたって直面する可能性がある唯一の深刻な競合相手に対して、ヨーロッパの潜在力を発揮しようとするものである。

一見したところ、これは魅力的なヴィジョンであり、アメリカ、イギリス、オーストラリア間のAUKUS協定は、その初期の現れであると指摘することができる。ランド研究所のマイケル・マザールが最近指摘しているように、ヨーロッパはもはや中国を単に有利な市場や貴重な投資相手とは見ておらず、中国に対して「ソフトバランス(soft balance)」し始めている証拠が増えつつある。純粋にアメリカの視点に立てば、ヨーロッパの経済的・軍事的潜在力をその主要な挑戦者である中国に向けることは、非常に望ましいことであろう。

しかし、このモデルには2つの明らかな問題がある。第一に、国家はパワーだけでなく脅威に対してもバランスを取っており、その評価には地理的な要因が重要な役割を果たす。中国はより強力で野心的になっているかもしれないが、中国軍はアジアを横断してヨーロッパを攻撃することはないし、中国海軍は世界中を航海してヨーロッパの港を封鎖することはないだろう。ロシアは中国よりはるかに弱いがはるかに近い。最近のロシアの行動は、その軍事的限界を知らず知らずのうちに明らかにしているとしても、憂慮すべきものである。従って、ヨーロッパが期待するのは最もソフトなバランシングであって、中国の能力に対抗するための真剣な努力ではない。

NATOのヨーロッパ加盟諸国は、インド太平洋地域の力の均衡に大きな影響を与える軍事能力を有しておらず、また、すぐにそれを獲得することも考えにくい。しかし、その努力のほとんどは、ロシアに対する防御と抑止を目的とした地上・航空・監視能力の獲得に向けられるだろう。それはヨーロッパの観点からは合理的であるが、これらの能力のほとんどは、中国との紛争には無関係であろう。インド太平洋地域にドイツのフリゲート艦を数隻派遣することは、同地域の安全保障環境の変化にドイツが関心を示していることを示す良い方法かもしれないが、地域の力の均衡を変更したり、中国の計算を大きく変更させたりすることはできないだろう。

もちろん、ヨーロッパは、外国軍隊の訓練支援、武器の販売、地域安全保障フォーラムへの参加など、他の方法で中国との均衡を図ることができ、アメリカはそうした努力を歓迎すべきだ。しかし、インド太平洋地域におけるハードバランシング(hard balancing)をヨーロッパに期待するべきではない。このモデルを実行に移そうとすることは、失望と大西洋における軋轢を増大させることになる。

●モデル4:新しい分業(Model 4: A New Division of Labor

こうなることは分かっていたはずだ。私が考える正しいモデルとは。私が以前から主張しているように(最近『フォーリン・ポリシー』誌上で書いたように)、大西洋横断パートナーシップの最適な将来モデルは、ヨーロッパが自国の安全保障に主な責任を持ち、アメリカがインド太平洋地域に大きな関心を払うという新しい役割分担である。アメリカはNATOの正式加盟国としてその地位にとどまるが、ヨーロッパにとっての緊急応対者ではなく、最終手段(last resort)としての同盟国になるであろう。今後、アメリカは、地域における力の均衡が劇的に損なわれた場合にのみ、ヨーロッパに再び上陸することを計画するが、そうでない場合は、上陸しない。

このモデルは一夜にして実現できるものではなく、アメリカがヨーロッパのパートナーに必要な能力の設計と取得を支援し、協力的な精神で交渉する必要がある。しかし、これらの国々の多くは、アメリカを説得するために全力を尽くすだろうから、アメリカは、これが今後支持する唯一のモデルであることを明確に示す必要がある。NATOのヨーロッパにおける加盟諸国が、自分たちはほとんど自分たちの力でやっていけると本気で思わない限り、そして確信するまでは、必要な措置を取るという彼らの決意は弱いままで、約束を反故にすることが予想される。

アメリカ大統領時代のドナルド・トランプは、虚勢を張って大袈裟で、同盟諸国を無意味に困惑させたが、トランプの次の大統領であるジョー・バイデンは、上記のプロセスを始めるのに理想的な立場にある。バイデンは熱心な大西洋主義者という評価を得ているので、新しい役割分担を推し進めることは、恨みや怒りの表れとは見なされないだろう。バイデンと彼のチームは、ヨーロッパのパートナーに、この措置が全員の長期的な利益につながることを伝えることができるユニークな立場にある。私は、バイデンたちがこのステップを踏むことを期待している訳ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 イギリスの女王エリザベス二世が2022年9月8日に96歳で亡くなった。1952年に即位以来、約70年間もイギリス国王の座に君臨した。現在のイギリス国民の大部分はエリザベス女王の在位期間に生まれた人々ということになる。第二次世界大戦後の歴史と共に彼女の人生はあった。彼女の歴史は衰退し続けるイギリス、大英帝国の歴史であったとも言えるだろう。そして、彼女が死を迎えた2022年が、西側諸国(the West)とそれ以外の国々(the Rest)との戦いで西側諸国が敗れつつあるという大きな転換点であったということが何とも象徴的だ。西側諸国の優位の喪失とエリザベス二世の死がリンクする。

 19世紀から20世紀、1914年の第一次世界大戦までの大英帝国の繁栄は世界各地に築いた植民地からの収奪によって成されたものだ。その代表がインドと中国である。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と呼ばれる新興大国の中核を形成しているのはインドと中国である。大英帝国に収奪された2つの元植民大国が、西側以外の国々(the Rest)を率いて西側諸国に対抗する構図というのは何とも皮肉なものであり、「因果は巡る糸車」ということになる。

 後継のチャールズ三世時代には、英連邦(the Commonwealth)から離脱する国々が次々と出てくるだろう。これらの国々は元々植民地であり、イギリスに収奪された負の歴史を持っている。そうした負の歴史に光を当てさせずに、イギリスの素晴らしい面にばかり光を当てるという役割をエリザベス二世は担った。女王自身がイギリスのソフトパウア(Soft Power)の大きな構成要素(その他には、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、ジェイムズ・ボンドなど)となった。イギリスのイメージアップに大きく貢献したということになる。しかし、その時代も終わる。イギリスの正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」であり、「the United KingdomUK)」ということになる。その内のスコットランドでは独立運動が盛んである。特にイギリスのEU脱退によって、この動きはより活発化している。英連邦の諸国の中から、国家元首をイギリス国王にする制度を止めて、共和国になろうという動きも出ているようだ。英連邦に入っていてもメリットがなく、新興諸大国(emerging powers)に近づいた方が良いと考える国々も出てくるのは当然だ。

 エリザベス二世の死は西側諸国の衰退とリンクし、それを象徴するものだ。西側近代500年の終焉の始まりとも言えるだろう。あの厳かな国葬は大英帝国の最後の弔いであった。そして、西側諸国の終わりを告げる鐘の音であったとも言えるだろう。

(貼り付けはじめ)

英国女王エリザベス二世は彼女の帝国の数々の道義上の罪から逃れられるものではなかった(Queen Elizabeth II Wasn’t Innocent of Her Empire’s Sins

-亡くなった女王は国家とそのシステムを売り込むための権化となり、それを見事にやり遂げたが、その一方で、その過去を批判したり謝罪したりすることはなかった。

ハワード・W・フレンチ筆

2022年9月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/12/queen-elizabeth-ii-british-empire-colonialism-legacy/

1550年代後半、イギリスのエリザベス女王は、ヨーロッパの情勢を詳細に見て、ヨーロッパ大陸の近隣諸国が進めている新しい競争、すなわち遠く離れた場所での帝国(empire)建設に取り残されることを心配するようになっていた。

ポルトガル人とスペイン人は、早くからこの分野で優位に立っていた。ポルトガル人とスペイン人は、15世紀後半から西アフリカ人と金を取引して財を成し、その後、小さなサントメ島でプランテーション農業(plantation agriculture)と人種に基づく奴隷制(race-based chattel slavery)を組み合わせて熱帯産品を生産するという画期的な方法を完成させ道を示していた。砂糖の栽培と奴隷にされたアフリカ人の商業取引を基盤とする彼らのモデルは、瞬く間に大西洋の経済生活を数世紀にわたって支配するようになり、ヨーロッパ経済を活性化させ、西洋が他の国々に対して台頭する原動力となったのである。

エリザベス一世の時代までのイングランドの帝国主義的な史は、隣国アイルランドを支配することにとどまっていた。しかし、私たちが作家ウィリアム・シェイクスピアを主に連想する時代の君主エリザベス一世は、はるかに大きな舞台に憧れ、貴族やジョン・ホーキンスのような海賊に、英仏海峡を越えてポルトガルやスペインの船を襲い、西アフリカ沿岸から採取した金と人間の戦利品を手に入れるよう奨励した。

そうすることで、エリザベス一世は、後に大英帝国となる国家の初期の基礎を築いた。彼女の後継者たちは、1631年にロンドンの冒険商人組合(Company of Merchant Adventurers of London)というカラフルな名前の会社を設立し、その取り組みを更に推し進めた。ここでいう冒険とは、熱帯地方で金や奴隷を激しく追い求めることであった。やがて組合は、主要な地理的目標から全ての謎を取り除く形で、新たなブランドを立ち上げた。その名も「王立アフリカ貿易冒険家会社(王立アフリカ会社、the Company of Royal Adventurers Trading to Africa)」で、アフリカ大陸での有益な貿易を1000年間独占するという野心的な目標を掲げていた。

それと同じ10年間に、私は著書『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカ人、近代国家の形成、1471年から第二次世界大戦まで』』で論じたのだが、大英帝国建設の最も重要な基礎となる行為は、大西洋の反対側で形作られたのである。そこでイギリスはバルバドス島を植民としたが、この島はカリブ海東部にある小島で、現在のロサンゼルス市の面積の3分の1ほどの大きさだ。

バルバドスでは、ポルトガル人がサントメ島で考案した道徳的には無防備だが経済的には無敵の経済モデルを、イギリス人はすぐに実行に移した。17世紀半ばまでに、白人の年季奉公人(white indentured servants)が、アフリカから鎖につながれて連れてこられ、意図的に死ぬまで働かされた奴隷男女とほぼ完全に入れ替わったが、その数は、北米本土にもたらされた奴隷の数とほぼ同数であり、バルバドスの砂糖栽培は事実上の金儲けのライセンスと化したのである。

西洋諸国の学校で一般的に教えられているヨーロッパの新世界帝国に関する初期の物語は、インカやアステカといった偉大なアメリカ先住民文明に対するスペイン人征服者たち(Spanish conquistadors)の有名な略奪行為で占められており、ガレオン船(galleons)に驚くほどの量の銀や金を積み込んでいたと教えられている。しかし、イギリス人がバルバドス島で証明したように、カリブ海で始まったアフリカ人奴隷を酷使したプランテーション農業は、更に大きな利益をもたらすものとなった。

カリブ海地域の黒人が奴隷制度によって受けた恐怖の大きさから、イギリスは伝統的に自分たちの帝国はインドを本拠としたと考えることを好んできた。しかし、ラジ(Raj、訳者註:イギリスによるインド支配)のはるか以前から、カリブ海地域、いわゆる西インド諸島は、経済史上最も豊かな植民地が次々と誕生することになった。1791年に始まったアフリカ人の反乱は、奴隷として働かされていた人々を解放し、アメリカ大陸で2番目に古い共和国であるハイチが誕生することになった。

ヨーロッパが近代において世界で最も豊かで強力な地域として台頭するために奴隷制度がいかに重要であったかについて、ヨーロッパでは長い間、そしてイギリスほどではないにせよ、歴史的な否定をするお題目として家内工業(cottage industry)の重要性の私的が存在してきた。家内工業を重視する陣営からは、奴隷の売買そのものは決して儲かるビジネスではなく、プランテーション農業はヨーロッパの成功にとってごくわずかな重要性しかなかったというメッセージが発せられてきた。

一見すると馬鹿げているように思える。しかしそのように主張するための理由はたくさんある。まず、かつてのフランスの指導者ナポレオン・ボナパルトが、非常に収益性の高い植民地サン=ドマングでの奴隷の反乱を鎮圧するために、フランス史上最大の大西洋横断遠征を行い、その結果、部隊が敗北した事実から始めるのが一般的だ。この奴隷社会の支配がいかに豊かな機会をもたらすかを知っていたスペインは、サン=ドマングのアフリカ人を打ち負かそうとしたが、同じ運命に見舞われることになった。

そして、この時代の大帝国を代表するイギリスは、この最高の獲物を手に入れるために、それまでで最大の海洋遠征隊を組織した。イギリス軍もまた、アメリカ独立戦争で失った犠牲者を上回る不名誉な敗北を喫した。しかし、イギリスでは、この時の遠征軍の連隊旗はどこにも掲げられていないし、ほとんどの学校でも、この歴史について触れることはない。

(もちろん、フランスは諦めなかった。すでに一度敗北を喫したナポレオンは、奴隷にされた人々を拘束し続けようと、サン=ドマングに再び遠征軍を送り込んだ。これも敗れ、その後すぐにフランスはルイジアナ購入権を当時のアメリカ大統領トマス・ジェファーソン率いるアメリカ政府に売却せざるを得なくなり、それによって若いアメリカの国土は2倍になった)

エリザベスという名を持つ二番目のイギリス女王の生涯を祝うために、奴隷制度が話題になることはあったが、それは彼女が大英帝国の終焉と20世紀に起こった脱植民地化(decolonialization)の波を統率していたことを指摘するためのものであった。かつて植民地化された人々の世界で長いキャリアを積み、奴隷制度とそれが世界に及ぼした多くの影響について多くの著作を残してきた人間として、帝国とその根源である奴隷化、支配、人間と天然資源の採取の詳細を急いで見過ごすことは非常に奇妙に感じられることなのである。

このコラムのほぼ全ての読者と同じように、私もまた、エリザベス二世の時代に全てを生きてきた。多くの人がそうであるように、彼女の穏やかで自信に満ちた表情はあまりにも稀であり、絶えず変化し、しばしば混乱する世界において拠り所となっていたことを認めるのは難しいことではない。私は、彼女の死後、彼女を悪く思ってはいない。しかし、彼女の帝国と、より一般的な数々の帝国については、また別の問題である。

現在、多くのイギリス人が、帝国以降の新たなイギリス政府が人種や民族の多様性を新たな高みに到達させたことに誇りを感じているのは良いことだ。しかし、このことも、テレビで流される強制的な記念行事も、その歴史のほとんど全てにおいて、イギリスが実践してきた「帝国」が隠しようのない人種至上主義(racial supremacy)と同義であったことを忘れさせるものであってはならない。事実、人種至上主義は大英帝国の中心的な前提の一つだった。

私たちまた、この帝国を民主政治体制と結びつけようとする口先だけの浅はかな論評に惑わされないようにしよう。これには優れた英単語がある。「たわ言(poppycock)」、つまりナンセンスという意味だ。この国の保守党の財務大臣は、新しい多様性の象徴であるクワシー・クワルテングである。彼は子供時代の1960年代にイギリスの植民地だったガーナから移住してきた。彼は2011年に出版した『帝国の亡霊:現代世界におけるイギリスの遺産』の中で次のように書いている。「民主政治体制という概念は、帝国の統治者たちの頭から遠く離れたところにあるはずはない。彼らの頭の中は、緩やかに定義された階級、知的優位性(intellectual superiority)、父権主義(paternalism)という考えでいっぱいだった」。

クワルテングが大英帝国を「良性権威主義(benign authoritarianism)」の一例と表現したが、そこから彼と私の考え方が分かれる。この持続的で利己的な神話は、そのほとんどが、あまり深く考えないという意図的な行為の結果として存続している。どちらかといえば、その歴史の圧倒的な大部分を通じて、奴隷制度(enslavement)から生まれたこの帝国は、民主政治体制に比べても、より人権とは無縁のものであった。

私は頻繁にアフリカについて書いているので、この議論を裏付けるためにアフリカ大陸の数多くの事例で埋め尽くすことができる。しかし、ここでは、大英帝国が無差別に他の人種を蹂躙したことを示す方が有益だろう。例えば、イギリスがアヘン貿易の軍事的拡大を通じて貿易のバランスを取り、中国に対する支配を拡大することを目的とした長期的な麻薬密売政策について、クワルテングはどう発言するだろうか?

この点を明らかにするのに重要な著作が2冊ある。1冊は既に古典であり、もう1冊は新刊である。1冊目は2000年に出版された壮大で画期的な著作『ヴィクトリア朝後期のホロコースト:エルニーニョ現象による飢饉と第三世界の構成(Late Victorian HolocaustsEl Niño Famines and the Making of the Third World)』である。この本の中で、歴史家マイク・デイヴィスは、19世紀後半にイギリスが一連の記録的な干ばつを利用して、遠く離れた多くの民族に対する領土拡張と政治支配の計画をいかに進めたかを記録している。

インドは特にターゲットとなった。ロバート・ブルワー=リットンやヴィクター・ブルース(後者はエルギン卿としてより有名)のようなイギリスの全権を持つ植民地当局者たちが、アフガニスタンや南アフリカでの戦争に必要な資金のために、食料の大量輸出と地方税の増税を厳しく監督し、一連の極めて壊滅的な飢饉をインドで引き起こした。その一方で、植民地行政官たちは、社会的・経済的に余剰な存在として蔑視する貧困層への救済プログラムを廃止した。人道的援助に反対する多くの人々は、このようなプログラムは瀕死の農民を怠惰にさせるだけだと主張した。

しかし、この本の中で最も大英帝国が非難される内容は、おそらく次の文章に集約されている。「イギリスのインド支配の歴史が1つの事実に集約されるとすれば、それは1757年から1947年までインドの1人当たりの所得が増加しなかったということである」。

もっと最近の本は、アフリカ研究専門家のキャロライン・エルキンス教授の新刊『暴力の遺産:大英帝国の歴史(Legacy of Violence: A History of the British Empire)』である。私は以前にもこの本を紹介したが、この本は20世紀に焦点が当てられており、エリザベス二世の時代に起こった大英帝国の蛮行が数多く含まれている。その中には、ケニアのキクユ族を支配するために、キクユ族を国内の最良の農地から追い出し、100万人以上を「大英帝国史上最大の収容所と捕虜収容所の群島」に閉じ込めた作戦も含まれている。

エルキンスの新作で最も目を見張る部分は、ケニアにおけるこれらの措置が、残忍な抑圧方法の長期にわたる実験の成果であることを彼女が説得的に示している点である。19世紀末から20世紀にかけて同じ植民地監督官が植民地を転勤しながら実行した。インド、ジャマイカ、南アフリカ、パレスティナ、イギリス領マレー、キプロス、現在のイエメンにあたるアデン植民などで暴力の使用、拷問、反乱の厳罰化といった技術の新たな創造や改良がおこなわれた。それらの技術はサントメからブラジルへ、そしてそこからカリブ海の弧を北上してアメリカ南部へと移動していった奴隷制に基づくポルトガルのプランテーションモデルが着実に改良されていったのと同じような方法の模倣であった。

もちろん、エリザベス二世を賞賛する多くの人々が言うように、エリザベス二世は、この名を冠した最初のイギリス女王とは異なり、国政に関する権力を持たなかったことは事実である。しかし、エリザベス二世は多くの旅を通じて、自国とそのシステムを売り込み、その一方で、過去のいかなる側面についても批判したり、謝罪したりすることはなかった。エリザベス二世の在位中に、世界はほぼ完全に脱植民地化され、多くの旧植民地が民主政治体制国家となり、国民の権利をある程度、真剣に考えるようになったことも事実ではある。

しかし、イギリスの支配が温和であったからとか、ロンドンの帝国臣民の権利(London’s imperial subjects)が「帝国」の本質と大いに関係があったなどと主張すべき時はとうに過ぎ去ってしまっているのだ。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学ジャーナリズム専攻大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新刊は『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカ人、近代国家の形成、1471年から第二次世界大戦まで』。ツイッターアカウント:Twitter: @hofrench

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争が始まって4カ月近くが経過した。ウクライナには欧米諸国から多額の資金援助、物資援助、軍事援助がなされている。武器のグレードが挙がり、ハイエンド(高度)な武器が供給されることで、戦争は停戦には向かわず、ロシアとの全面戦争という様相を強めている。戦争は容易に終了しないということだ。

 アメリカ政府の各機関はウクライナにどのような資金を提供しているのかということを紹介している記事があったので紹介する。ウクライナにはそこまでの資金がないので、欧米諸国の金で戦争を継続しているということになる。その原資は欧米諸国の国民の税金だ。軍事費となると途端に制限なくじゃんじゃん使えるようになるというのがアメリカの特徴だ。税金(と国債で賄っている資金)が湯水のごとくに投入されている。それに対して反対することは難しい。批判をすれば「国防は最重要だ」「アメリカが世界の秩序を守っている」「非国民」と言った悪罵を投げつけられるだろう。

 しかし、一方で、「どこまで続くぬかるみぞ」ということもある。欧米諸国の一般国民の生活は、エネルギー高もあり、高いインフレ率で苦しくなっている。インフレ率よりも高い給与の上昇があればなんということもないが、インフレ下ではそのようなことはない。日本の高度経済成長期のように毎年経済成長率が10%以上ということであれば給料もどんどん上がっていくだろうが、そんな国は今世界には存在しない(中国が新型コロナウイルス感染拡大まではそれに近かった)。「いつまで私たちの税金からウクライナ支援を続けるのか」「私たちの生活への支援はないのか」ということになる。

 最新の調査の結果では、ウクライナ支援が全体で11兆円、その内の上位3カ国は55%がアメリカ(約6兆円)、6%がイギリス(約6600億円)、4%がドイツ(約4400億円)である。アメリカが突出し過ぎている。ヨーロッパの大国だと威張っているイギリスとドイツが合わせてようやく1兆円である。ウクライナ戦争を支えているのはアメリカで、威勢のいいことばかりを言う口先番長はイギリスということになる。大英帝国だと威張ってみてもこの体たらくだ。それでいて、イギリスのボリス・ジョンソン首相は「戦争疲れが起きている」と述べている。

 ドナルド・トランプ政権を誕生させたアメリカ国民は思うだろう。「アフガニスタンからの撤退では混乱があったがまぁ良かった。だけど今度はウクライナかよ。ヨーロッパのことはヨーロッパで解決してくれ。アメリカがそんなに資金を出さなくちゃいかんのか。どこまで続くぬかるみか」。

 ロシアは経済制裁を受けてはいるが、対中、対印の石油輸出増加で、戦費を上回る収入を得ている。西側の対ロシア包囲網は破綻しつつある。これではいつまでウクライナ戦争を「続けさせる」ことができるのかということが焦点になってくる。良い条件の時に停戦しなかったことは何とも悔やまれるが、今からでも遅くはない。

(貼り付けはじめ)

ウクライナ支援額、アメリカが5割超…日本は0・7%で7位

読売新聞

2022/06/20 23:41

https://www.yomiuri.co.jp/world/20220620-OYT1T50018/

 【ロンドン=池田慶太、ワシントン=田島大志】ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナに対し、西側諸国が表明した支援額の5割超を米国だけで占めることが、ドイツの調査研究機関「キール世界経済研究所」の集計でわかった。各国が約束した支援が滞っている実態も判明しており、迅速な実行が課題となっている。

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日本は7位

 キール研究所は、先進7か国(G7)や欧州など37か国と欧州連合(EU)を対象に、侵攻開始1か月前の1月24日から6月7日までに表明された軍事・財政・人道分野の支援額を集計、比較した。

 各国の支援総額は783億ユーロ(約11兆円)に上り、国別では米国が427億ユーロ(55%)、英国48億ユーロ(6%)、ドイツ33億ユーロ(4%)などと続いた。日本は6億ユーロ(0・7%)で7位だった。

 米国は射程の長い 榴弾りゅうだん 砲や、高機動ロケット砲システム(HIMARS)など最新兵器の支援を次々と表明している。軍事物資購入に充てる資金援助を含めた軍事分野の支援額(240億ユーロ=約3・4兆円)は、日本の今年度防衛予算(5・4兆円)の半分を超える。

到着遅れ課題

 だが、兵器・弾薬支援の遅れも目立つ。キール研究所が公開情報を分析したところ、ウクライナに実際に届いた米国の兵器・弾薬は、約束した分の48%(金額ベース)にすぎず、ドイツはさらに低い35%だった。37か国全体でも69%にとどまるという。

また、ウクライナ政府に対する財政支援は総額309億ユーロが約束されたものの、支払われたのは2割弱だった。軍事侵攻の長期化はウクライナ財政を圧迫しており、国際通貨基金(IMF)は、兵士の給与や年金の支払いで毎月50億ユーロの外部資金が必要だと指摘する。支援がさらに遅れれば、政府機能がマヒしかねない。

限界指摘も

 国内総生産(GDP)比でみると、支援額では13位(2億ユーロ)のエストニアが0・87%と最も高く、ロシアと地理的に近い東欧、バルト諸国が上位を占めた。特にポーランドは、支援額が米英独に続く4位(GDP比では3位)で、ウクライナから多くの難民も受け入れており、貢献が際立っている。

 対照的に独仏伊は対GDP比では0・1%未満と低い。EUと加盟27か国の支援額を合わせても、米国の7割に届かない。キール研究所は「米国の支援が、激しい戦闘が間近で起きているEU加盟国の総額を上回るのは驚くべきことだ」と指摘する。

 ウクライナ侵攻以来、世界のエネルギー、食糧価格の高騰が各国の財政を直撃する中、支援をいつまで続けられるかも議論され始めた。英国のジョンソン首相は18日、地元メディアに「世界各地で『ウクライナ疲れ』が起き始めていることは懸念だ」と語った。米国でも、国内のインフレを背景に、支援の限界を指摘する声が出ている。

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ウクライナ国内でアメリカからの資金が流れている場所はここだ(Here’s where US money is flowing in Ukraine

ブラッド・ドレス筆

2022年4月28日

『ザ・ヒル』

https://thehill.com/policy/finance/3469118-heres-where-us-money-is-flowing-in-ukraine/

ロシアが2022年2月24日にウクライナへの侵攻を開始して以来、アメリカはいくつかの同盟諸国とともに、ウクライナ国民とウクライナ軍を支援するためにさまざまな形での支援を約束してきた。

アメリカは3月にウクライナへの経済、人道、軍事支援として136億ドルのパッケージを承認した後、ウクライナにとっての最大の支援者となったが、現在ではほぼ使い果たされている。

バイデン大統領は木曜日、9月までのウクライナ支援のため、連邦議会の承認が必要な330億ドルの追加パッケージを要求した。

これまでに承認されて支出されたアメリカ・ドルは、ウクライナの経済と国民を支援し、首都キエフ周辺のロシア軍を食い止める手段をウクライナ軍に与えることで、ウクライナを後押ししている。

これまでに承認された資金の内訳とウクライナ支援のために使われる場所は以下の通りだ。

●軍事・安全保障(Military/Security

ウクライナに提供されたアメリカの資金の大部分は軍事・防衛費に割り当てられている。

ジョー・バイデン政権は大統領就任以来、ウクライナへの安全保障支援に40億ドルを支出したが、この中にはロシアの侵攻以来34億ドルも含まれている。さらに30億ドルがアメリカ軍のヨーロッパ司令部の作戦に承認された。

米国防総省はヘリコプター、対空ミサイル、榴弾砲など、様々な軍備や兵器をウクライナに提供してきた。

■軍事車両(Military vehicles

4月22日現在、ウクライナには155mm榴弾砲を牽引する戦術車72台、Mi-17ヘリコプター16台、装甲多目的車数百台、M113装甲兵員輸送車200台、無人沿岸防衛船などが供給されている。

■装備と武器(Equipment and arms

1400以上の対空システム、2万以上の対装甲システム、700台以上のスイッチブレイド・ドローン、90台の155mm砲榴弾砲が安全保障支援に含まれている。

また、7000丁の小火器と5000万発以上の弾薬、7万5000セットの防護服とヘルメット、レーザー誘導ロケットシステム、レーダー、C-4爆薬も含まれている。

■その他(Other

通信システム、暗視装置、衛星画像サーヴィス、生物・核・放射性物質防護装置が供与されている。

●経済(Economy

これまでに承認された10億ドルの経済安全保障支援は、ウクライナの様々な部門に流れ込んでいる。

バイデンは、資金がウクライナ国内の地元の共同体や労働者に向けられていることを強調している。

バイデン大統領は4月21日、「これはウクライナ政府が経済の安定を助け、ロシアの猛攻撃によって荒廃した地域社会を支援し、ウクライナの人々に不可欠なサーヴィスを提供し続けている勇敢な労働者に支払うために使える資金だ」と述べた。

ジャネット・イエレン米財務長官は、経済援助は従業員の給与や年金を支払い、その他の社会プログラムを支援することで、ウクライナ政府の運営を維持することになると述べた。

3月の支援策には「ウクライナのマクロ経済的ニーズ、エネルギーやサイバー安全保障などの政府の取り組みの継続、または近隣諸国のニーズのいずれか」を支援するために20億ドル近くが含まれていた。

●人道支援(Humanitarian aid

米国国際開発庁(USAID)によると、アメリカはこれまでウクライナに3億100万ドル以上の人道支援を実施してきた。

3月10日、USAIDはウクライナ難民のために約5300万ドルを承認し、戦争中の国から逃れてきた人々のための世界食糧計画(WFP)の活動を支援することを決定した。

別のパッケージには、国連国際子ども緊急基金への680万ドルが含まれていた。

そして、国際移住機関への約610万ドルの援助は、HIVの治療に使われる抗レトロウイルス薬や、HIV移動検査車、薬の宅配などに使われた。

USAIDはこれらに加えて、国際赤十字に2万800ドル、国連食糧農業機関に30万ドル、国連人道問題調整事務所に250万ドルの援助を発表した。

世界保健機関には約96万7280ドル、ウクライナ東部のドネツク、ルハンスク両地域のウクライナのパートナー支援に1160万ドルが支出された。

国務省は更に、国連難民高等弁務官事務所やその他のパートナーのために9300万ドル以上を費やした。

USAIDと国務省の残りの資金は、ハンガリー、ベラルーシ、ルーマニア、モルドバ、ポーランド、スロバキア、その他のヨーロッパにおける関連する人道的対応に使用された。

3月のパッケージでは、紛争を支援するための人道的および対外的な支援ニーズに対して、各機関合計で約50億ドルが承認された。

●その他(Other

3月のパッケージで承認された追加支援には、エネルギーとメディア分野への資金が含まれている。

エネルギー省:ウクライナの電力網を支援するために3000万ドルを拠出する。

農務省海外農務局:ウクライナとウクライナ難民への食糧支援寄付を支援するため、「平和のための食糧」プログラムに1億ドルを拠出する。

商務省:経済・貿易関連の分析、執行、調整のために2210万ドルを拠出する。

司法省:サイバー犯罪の脅威や制裁措置の執行、紛争に関連するその他の事件や捜査に取り組む司法省のウクライナ対策本部とFBIを支援するため、5490万ドルを拠出する。

財務省:ロシアに対する制裁措置の実施、その他の金融措置の実施、情報支援、ウクライナ支援のための対策本部を支援するために3月のパッケージで6100万ドルが承認された。
(貼り付け終わり)
(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 古村治彦です。

 ロシアによるウクライナ侵攻は2週間ほどが経過し、ロシア軍の苦戦、ウクライナ軍とウクライナ国民の必死の抵抗が伝えられながら、事態はウクライナ側にとっては好転していない状況となっている。ウクライナ軍とウクライナ国民の戦いは歴史に残るものだ。しかし、ウクライナ軍の装備や武器、練度をロシア軍と比較するならば、劣勢に立たされているのも事実だ。ウクライナ軍とウクライナ国民が必死に抵抗を続ける中で、ウクライナ政府は、EUNATOをはじめとする西側諸国からの局面を打開する支援を求めている。飛行禁止区域の設定、更にはより強力な武器の供与を求めている。しかし、それらはことごとく、撥ねつけられている。率直なことを言えば、西側諸国は口では頑張れ頑張れと調子の良いことを言いながら、ウクライナを見捨てている。

 西側諸国を口先だけと責めることは簡単だ。しかし、もしアメリカ軍の将兵が派遣され、ロシア兵と交戦し、双方に犠牲者が出る場合、事態をコントロールして無事に終わらせることが確実ではなく、事態がエスカレートするという可能性も十分に考えられ、そうなれば第三次世界大戦となり、核戦争にまで発展するということもあり得る。そのリスクを西側諸国は追うことはできない。何とも厳しいジレンマに陥ってしまうが、それでも世界大戦を回避する方向に進むのが慎重な判断ということになる。

 下に貼り付けた一連の記事を見れば、イギリスがとんだ頓馬っぷりを遺憾なく発揮していることは明らかだ。他の西側諸国は慎重に行動しているが、イギリスはぱーぱー口先だけで勇ましい。それでコモンウェルスだ、大英帝国だとは笑止千万でしかない。ウクライナのゼレンスキー大統領はイギリス議会でインターネットを通じて演説を行ったようだが、そのセリフはウィンストン・チャーチルの有名な演説の一節をオマージュしたもので、それほどにイギリスに気を遣って頼っているが、イギリスは口だけだ。昔からそうだ。現在の中東情勢にしても、イギリスが原因を作ったようなものだし、もっと言えば、イギリスが現在の世界の紛争のいくつかの原因を作っている。

 今回、戦闘機も供与できない、飛行禁止区域を設定することもできないとなれば、ウクライナ側の劣勢を逆転する方法を見つけることはかなり難しい。ロシア軍に出血を強要して時間を稼ぐということしかないが、そうなればどれほどの犠牲と破壊が生じるかということを考えると、勇ましいだけが国家指導者の姿勢ではない。交渉の条件と戦いの潮時、そして何よりも国民の犠牲を考慮し判断を下すしかない。残念なことだがウクライナのゼレンスキー大統領は西側から逆転のための支援は期待できない。その点は大統領自身も分かっていると思う。後は彼がどのように判断し、決断を下すかだ。

(貼り付けはじめ)

●「米、ウクライナへの戦闘機提供を断念 ロシアとの緊張高めると判断」

3/10() 6:30配信

https://news.yahoo.co.jp/articles/32f69c7a5834c677d699293fe2c052e87166a885

 米国防総省のカービー報道官は9日、ポーランドが保有する旧ソ連製の戦闘機をウクライナに提供する計画への関与を断念する考えを表明した。ウクライナへの侵攻を続けるロシアとの緊張を高めるリスクが高いと判断したという。

【写真】ロシアの戦闘機。最新鋭の装備を持つのに、なぜ今も制空権を奪えないのか? 元米軍パイロットの分析は

 オースティン米国防長官が同日、ポーランドの国防相と協議し、米政府として戦闘機を提供する計画を「支持しない」と伝えた。ウクライナは戦闘機の提供を強く求めてきたが、これで計画は白紙となった。

 米国とポーランドの間では、ポーランドが保有する旧ソ連戦闘機「ミグ29」をウクライナに送る計画が検討されていた。だが双方とも、ウクライナへの提供役を担うことでロシアからの反発を呼ぶと懸念し、具体的な運搬ルートを決められずにいた。

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●「ウクライナ大統領、ポーランド戦闘機の早期供与訴え 独加は反対」

3/10() 1:28配信

AFPBB News

https://news.yahoo.co.jp/articles/4b7490a61b9beaa2d73a0d39f7b434d609308cfa

AFP=時事】ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は9日、同国に戦闘機を供与するというポーランドの申し出について、早急に結論を出すように西側諸国に求めた。ただドイツとカナダは、この提案について否定的な見方を示した。

 ゼレンスキー氏はメッセージアプリのテレグラム(Telegram)で配信した動画で、「いつ決めるのか? われわれは戦争中なのだ」と述べ、決断を急ぎ戦闘機を送るよう訴えた。

 欧米の同盟諸国は、ウクライナに対戦車ミサイルや対空ミサイルなどの兵器を供与しているが、戦闘機についてはロシアとの対立拡大を恐れて供与に踏み切っていない。

 ポーランドは、同国保有の旧ソ連製戦闘機「ミグ29MiG29)」を独南西部ラムシュタイン(Ramstein)にある米空軍基地を経由してウクライナに輸送し、見返りに米国製戦闘機「F16」を受け取る案を提示。だが米国は8日、この提案を拒否していた。

 ドイツのオラフ・ショルツ(Olaf Scholz)首相は9日、首都ベルリンでカナダのジャスティン・トルドー(Justin Trudeau)首相と開いた共同記者会見で、戦闘機供与に反対の姿勢を表明。トルドー氏も、戦争を「拡大・悪化」させる恐れがあると警告した。【翻訳編集】 AFPBB News

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●「英「ポーランドを支援」 ウクライナへの戦闘機提供で」

3/8()  時事通信

https://news.yahoo.co.jp/articles/40e553bc8c368962d1bc4351c475cf246605642e

 【ロンドン時事】英国のウォレス国防相は8日、ポーランドがウクライナに戦闘機を提供すると決定した場合はそれを支援すると明言した。

 ロシア軍の侵攻を受けるウクライナへの軍事支援をめぐっては、ポーランドが米国からF16戦闘機を取得する見返りに、旧ソ連製の航空機をウクライナに送る計画が検討されている。

 国防相はスカイニューズとのインタビューで、「ポーランドがどんな選択をしても支援する。同じ北大西洋条約機構(NATO)加盟国として、ポーランドの側に立つ」と表明。一方、ウクライナに戦闘機を供与すれば「ポーランドがロシアやベラルーシとの直接の戦闘に巻き込まれる可能性もある」と述べ、実施に当たっては細心の配慮を払う必要があるとの認識も示した。 

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●「ウクライナ大統領、西側諸国の「約束」不履行を非難」

3/8() 20:38配信

AFP=時事

https://news.yahoo.co.jp/articles/ef4a7bc265a6720e4064753eec6488bc9b5fdd15

AFP=時事】ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は8日、ロシアの攻撃からウクライナを防衛するため西側諸国が行った「約束」が守られていないと非難した。

 大統領はテレグラム(Telegram)で配信した動画で「13日間、われわれは約束を聞き続けてきた。13日間、防空支援を受けられる、航空機が提供されると言われ続けてきた」と述べた。

 状況の打開につながっていないことについて大統領は、「その責任は、13日間で決断を下せなかった西側諸国の人々」や、「ウクライナ領空をロシアの暗殺者から守れていない人々」にもあると指摘した。【翻訳編集】 AFPBB News

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 古村治彦です。

 「飛行禁止区域(no-fly zone)」という言葉がウクライナ情勢で使われて始めている。「飛行禁止区域」とは、ある国の上空に設定される区域で、そこを「敵」とされる国の航空機が飛行する場合にはこれを阻止するために撃墜するという措置だ。これまでイラクやリビアにおいて、イラク軍やリビア軍の戦闘機から攻撃対処を守るために設定され、効果があったとされている。現代戦では航空機による制空権が重要だ。飛行禁止区域が設定されるということは敵機と認定される航空機は撃墜するということを意味するので、設定するかどうかは非常に重要な決定となる。設定した以上は、設定した国々は軍を派遣して敵機を撃墜せねばならない。今回の場合はロシア軍機と渡り合わねばならないということになり、相当な被害が出ることは誰にでも予想できることだ。

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、ウクライナ大統領をはじめとする政府高官たちは、「NATOによってウクライナに飛行禁止区域を設定して欲しい。それによってロシア軍機を撃ち落として、ロシア軍の侵攻を止めて欲しい」と訴えてきた。しかし、NATO側はこの措置を明確に拒絶している。この措置を実行する際に戦闘機や軍を派遣することになるであろう大国であるアメリカとイギリスが明確に拒絶している。それなら、どうしてイラクトリビアには飛行禁止区域を設定できて、ウクライナには設定できないのか。それは「敵」とする対象がロシアとなるからだ。イラクやリビアとは訳が違う、これらの国々の戦力など鎧袖一触であるが、ロシアはそういう訳にはいかない。「同等の能力を持つ敵国(peer adversary)」ということになり、米英には大きな犠牲が出る。また、不測の事態によって、核兵器の使用まで進むかもしれないということで、NATO側がウクライナからの求めを拒絶している。

 ウクライナ大統領はNATOに対して、「自信がないのか、弱虫どもが」「あんたたちの同盟の実態はこんなものか」「ウクライナ人の血でディーゼル油を買っているのではない」と強く非難した。「自分たちがヨーロッパの最前線でヨーロッパを守っているのに、たかだが食料や医薬品を送ってくるだけではないか」という苛立ちになっている。NATO側は「あなた方の絶望は理解している」と述べるだけだ。ウクライナ軍の善戦が報道されて、「頑張れウクライナ、くたばれロシア」という論調が世を覆っている。しかし、ウクライナ軍にお情け程度の援助をするだけではロシア軍の攻勢を止めることはできない。

 アメリカ(もしくは大国のふりをした属国のイギリス)がロシアの将兵を一名でも殺せば、世界大戦の始まりということになる。まさに「終わりの始まり」ということになる。ウクライナ、そして世界中の一般庶民から、どんなに罵倒されても懇願されてもそれだけは阻止せねばならない。大国間政治とはかくも残酷で冷酷で辛いものだ。

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●「飛行禁止区域設定なら「衝突」 ロシア大統領がけん制―ウクライナ侵攻」

時事通信 202203060812

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022030600187&g=int

 ロシア軍のウクライナ侵攻をめぐり、ロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に求める上空への飛行禁止区域が設定されれば「武力衝突への参加と見なされる」と述べ、NATOを強くけん制した。また、欧米の対ロシア制裁は「宣戦布告に近い」と非難した。航空会社関係者との会合で語った。

 ウクライナのゼレンスキー政権はロシア軍機による爆撃を阻止するため、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定するようNATOに求めているが、ロシアとの直接衝突を避けたいNATOは実施しない方針を示している。

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●「「飛行禁止区域」を ウクライナ、欧米に悲痛な要求―ロシア対NATO戦闘の恐れ」

時事通信 202203060712

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022030500495&g=ukr

 【ロンドン時事】ロシア軍の侵攻で被害が深刻化するウクライナから、ロシア機による爆撃を阻止するため、上空に飛行禁止区域を設けてほしいと欧米に求める悲痛な声が噴出している。ただ、設置すれば北大西洋条約機構(NATO)とロシアの直接的な戦闘が起きかねず、欧米各国は否定的だ。

 1日にポーランドで行われたジョンソン英首相の記者会見では、質問に立ったウクライナの女性活動家が「子供たちは空から落ちてくる爆弾やミサイルの恐怖にさらされている。人々はウクライナの空を守るよう西側に懇願している」と飛行禁止区域の導入を涙ながらに訴えた。この様子はテレビで生中継され、議論の呼び水となっている。

 飛行禁止区域は、平時は大規模イベント会場や重要拠点の上空に設定される。戦時は空爆や偵察機の監視行為を防ぐ目的で、航空機の指定空域進入が禁じられる。

 しかし、違反する航空機を場合によっては武力で排除する必要が生じる。NATOが監視することになれば当然、交戦の可能性を考えなければならない。

 ジョンソン氏は会見で、女性の訴えに対し「西側がロシア機を撃墜すれば、結果は制御できないものになる」と拒否。バイデン米政権も「米ロの戦争となる恐れがあり、実施の計画はない」(サキ大統領報道官)と同様の姿勢だ。

 NATOのストルテンベルグ事務総長も4日、飛行禁止を順守させるにはロシア機の撃墜しかないと指摘。「そうすれば欧州での全面戦争となり、より多くが苦しむことになる」と語り、不介入方針を改めて強調した。

 だが、激しい攻撃にさらされるウクライナ国内からは、飛行禁止措置を「最後のとりで」として求める声がやまない。ウクライナ最高会議(議会)のキラ・ルディク議員は3日のオンライン会合で「(ロシアの)プーチン大統領は私たち全員を殺そうとしている。ロシア軍を押しとどめる唯一の方策は飛行禁止措置だ」と声を詰まらせた。

 「ウクライナの空を閉ざす」必要性を再三主張してきたゼレンスキー大統領は、4日のビデオ演説で「NATO指導部は飛行禁止措置を拒否することで、(ロシア軍に)さらに爆弾を落とすゴーサインを出した」と述べ、動かぬ欧米にいら立ちをあらわにした。

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ゼレンスキー大統領はウクライナ上空の飛行禁止区域設定拒絶についてNATOを非難する(Zelensky slams NATO over refusing to implement no-fly zone over Ukraine

ブラッド・ドレス筆

2022年3月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/596972-zelensky-slams-nato-over-refusing-to-implement-no-fly-zone-over-ukraine?utm_source=thehill&utm_medium=widgets&utm_campaign=es_recommended_content

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は金曜日、NATOが「第二次世界大戦以来最悪の侵略」と戦うウクライナ上空の飛行禁止区域設定を拒否したことについて、「弱さ」「自信のなさ」と非難した。

金曜日に『アクシオス』誌がシェアした、Facebookに投稿したヴィデオ映像(翻訳済み)で、ゼレンスキー大統領は、ウクライナ人は自国を侵略するロシア人に対して恐れずに戦ってきたし、これからも戦うだろうが、NATOからの支援なしに「9日間の暗闇(nine days of darkness)」に投げ込まれていると述べた。

ゼレンスキーは演説の中で感情的になって「新たな攻撃と犠牲者が避けられないことを知りながら、NATOは意図的にウクライナ上空を閉鎖しないことにした」と述べた。

ゼレンスキー大統領はNATOに対し「あなたたちのせいで死んでいく人たち のことを考えるべきだ」と促した。

ゼレンスキー大統領は「あなた方の弱さ、団結の欠如のせいで、NATOがこれまでできたのは、ウクライナに50トンのディーゼル燃料を運ぶことだけだ。あなた方がこれまで作り上げてきた同盟の実態がこれなのか?」と述べた。

飛行禁止区域は、敵機がある地域に飛来して攻撃することを禁止するために実施され、ロシアの航空支援を断ち、キエフに向かうロシア軍の進撃を鈍化させることになる。

ジョー・バイデン米政権は、NATO安全保障同盟と協働して、米露間の直接的な軍事衝突を引き起こす恐れがあるとして、飛行禁止区域を設定するウクライナの要請をこれまで拒絶してきた。

「アメリカ軍がロシアの飛行機を撃墜し、ロシアとの直接戦争を引き起こす可能性がある。これは私たちが避けたいステップだ」とジェン・サキ報道官は木曜日に記者団に語った。

ゼレンスキー大統領はヴィデオ演説で、NATO諸国とロシアとの直接対決につながるという事実に異議を唱え、NATOの主張を「自己催眠(self-hypnosis)」と呼んだ。

ゼレンスキー大統領は「NATO諸国をどうやって守るのか、そもそも守れることができるのか、私には分からない。何リットルもの血で何リットルもの燃料を買い取ることはできないのだ」と発言した。

NATOはヨーロッパで大規模な戦争を長引かせることに一貫として反対している。

イェンス・ストルテンベルグ事務総長は、「飛行禁止区域を実施する唯一の方法は、NATOの戦闘機をウクライナ領空に送り込み、ロシアの飛行機を撃墜して飛行禁止区域を実施することだ」と述べた。

ストルテンベルグ事務総長は更に「私たちはウクライナの絶望を理解しているが、もし飛行禁止区域設定を実行すれば、ヨーロッパで本格的な戦争になりかねない結果になるとも考えている」と発言した。

=====

ウクライナ国内の飛行禁止区域をめぐる議論が白熱化(Debate over Ukraine no-fly zone heats up

ジョーダン・ウィリアムズ、ブレット・サミュエルズ筆

2022年3月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/596942-why-the-us-and-nato-refuse-to-declare-a-no-fly-zone-for-ukraine

アメリカ連邦議員たちとウクライナの政府関係者の間で、ジョー・バイデン政権とその同盟諸国に対し、ロシアの攻撃を防ぐためにウクライナ領空に飛行禁止区域を設定するよう要求する声がどんどん高まっている。

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナ政府高官たちは、ロシアの侵攻がほぼ2週間前に本格的に始まって以来、飛行禁止区域は同盟諸国への重要な要求であると述べている。設定支持派は、飛行禁止区域がロシアの航空支援を断ち、キエフに向かうロシア軍の進撃を鈍らせ、罪のないウクライナ人の命を救うことになると考えている。

しかし、複数のバイデン政権幹部は、飛行禁止区域を設定することは危険な波及効果(ripple effects)があるとし、飛行禁止区域を設定することはないと一貫して明言している。

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は火曜日(3月1日)、記者団に対し次のように述べた。「飛行禁止区域を設定するということはその強制的な実行を伴わねばならない。大統領や私たちはそのようなステップを取りたいとは考えていない理由はこれだ。飛行禁止区域設定には根本的にアメリカ軍がロシアの飛行機を撃墜し、ロシアとの直接戦闘を引き起こす可能性がある。これを私たちは避けたいステップだ」。

バイデン大統領はまた、ロシアに対抗するために軍事装備と「防衛的支援」をウクライナに供与している事実を強調している。

しかし、ロシア軍がウクライナのザポリージャ原子力発電所に対して攻撃を行ったことを受け、飛行禁止区域を求める声は高まるばかりだ。

空軍州兵でパイロットを務めたアダム・キンジンガー連邦下院議員(イリノイ州選出、共和党)はロシア軍による原発への攻撃があった後に、「現在は、ウクライナ政府の求めに応じて、飛行禁止区域の適用を行わないという決定を改めて見直す良いタイミングだ。このままでは、もっと大きな形で介入しなければならなくなるのではないかと懸念している」とツィートした。

連邦上院軍事委員会のロジャー・ウィッカー連邦上院議員(ミシシッピ州選出、共和党)は今週、『ハフポスト』紙に対し、「飛行禁止区域設定を真剣に検討するべきだ」と語った。

飛行禁止区域は、敵機が特定の地域を飛行し、住民への攻撃を行うことを禁止するために適用される。

飛行禁止区域設定という戦術は冷戦後に何度か使用された。特に1990年代のイラクでは、北部のクルド人住民と南部のシーア派イスラム教徒への攻撃を防ぐために飛行禁止区域設定戦術が使用された。

しかし、アメリカ政府やNATOの高官たちは、飛行禁止区域設定という提案は簡単により拡大される戦争に発展しかねないため、検討されていないと明言している。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、「飛行禁止区域を実施する唯一の方法は、NATOの戦闘機をウクライナ領空に送り込み、ロシアの飛行機を撃墜して飛行禁止区域からロシア軍機を区域から押し出すことだ。私たちはウクライナの絶望的な状況を理解しているが、そんなことをしたら、ヨーロッパで本格的な戦争になりかねない結果になるとも考えている」と述べた。

ミッチェル航空宇宙研究所のダグ・バーキー所長は、飛行禁止区域は「流行語(buzzword)」となっており、この動きを支持する人々は、アメリカがウクライナを支援することを望んでいるが、飛行禁止区域を設定するために何が必要かということについて、その複雑さを理解していないと述べている。

バーキーは「そうした人々は、リスクが低いオプションで、素晴らしい包括的な効果をもたらすと考えている。しかし、実際のところ、その複雑な仕組みについては、ほとんど理解されていない」と述べた。

レオン・パネッタ元国防長官は、現在のところ飛行禁止区域は必要ないと考えており、紛争におけるワシントンの主要任務はウクライナへの軍事支援であると主張した。

パネッタ元国防長官は本誌の取材に対し、しかしながら飛行禁止区域を設けるという選択肢を完全に排除すべきではないとも語った。

「これまで、私たちはウクライナへの軍事支援を実行することができた。しかし、何らかの理由で現在の状況に問題が生じた場合、少なくとも潜在的な選択肢として持っておくべきだと思う」とパネットは続けて述べた。

パネッタは、飛行禁止区域にも様々な選択肢があるとし、国全体を飛行禁止区域にすることは、空輸に限定した区域よりもはるかに労力がかかると指摘した。

パネッタは「私は、すべての選択肢を排除しないことが重要だと考えている。そして、政府高官たちが飛行禁止区域設定を行わないと公言したとはいえ、必要であれば、より限定的なアプローチを考えている人もいるはずだ」と述べた。

駐ロシア駐在武官を務めた経験を持つケヴィン・ライアン退役准将は、現在の状況での飛行禁止区域設定は、ウクライナがドローンや航空機の使用で利益を得ているため、悪影響を及ぼす可能性があると言う。

ライアンは、アメリカとNATOがロシア軍の到着していないウクライナ西部上空に飛行禁止区域を設定する可能性を示唆した。

ライアンは「ウクライナ西部ではロシア軍航空機が実際に飛んでいるわけではないので、ロシアとの直接対決のリスクを避けるためにこの地域に飛行禁止区域設定ができることかもしれない。そして、ウクライナの東部で起こっている戦闘での無人機や航空機の使用を阻害するものではないという形式で、西部地域の防衛ができるだろう」と述べた。

しかし、飛行禁止区域設定反対派は、バイデン政権の姿勢、つまり、このような飛行禁止区域を実施することは、アメリカを武力紛争に近づけるという姿勢に同調している。

バーキーは、過去に飛行禁止区域設定が「同等の能力を持つ敵国(peer adversaries)」に対して設定されたことはないと述べた。これは、アメリカはこの制限措置を実行することで生じるリスクを負うことができる時に、この制限を実行するということを意味する。

ロシア軍を阻止することを目的とした飛行禁止区域の設定は、核武力の脅威によりエスカレートするリスクが高くなるため、これまでのものとは異なるものとなる。

バーキーは「核兵器を保有するロシアのような、同等に近い能力を持つ敵対国に対しては、はるかに複雑で、かなり醜い形でエスカレートする危険性が高くなる」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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