古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:イスラエル

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。イスラエルとハマスの紛争についても分析してします。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカはイスラエルの建国以来、イスラエルを支援し続けている。イスラエルに対する手厚い支援は、アメリカ国内にいるユダヤ系の人々の政治力の高さによるものだ。そのことについては、ジョン・J・ミアシャイマー、スティーヴン・M・ウォルト著『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策Ⅰ・Ⅱ』(副島隆彦訳、講談社、2007年)に詳しい。

 アメリカが世界帝国、世界覇権国であるうちは、イスラエルもアメリカの後ろ盾、支援もあって強気に出られる。今回、ハマスからの先制攻撃を利用して、ハマスからの攻撃を誘発させて、ガザ地区への過剰な攻撃を行っているのは、二国間共存路線の実質的な消滅、破棄ができるのは今しかない、アメリカが力を失えば、パレスティナとの二国間共存を、西側以外の国々に強硬に迫られ、受け入れねばならなくなる。その前に、実態として、ガザ地区を消滅させておくことが重要だということになる。

 アメリカは自国が仲介して、ビル・クリントン大統領が、パレスティナ解放機構のヤセル・アラファト議長とイスラエルのイツハク・ラビン首相との間でオスロ合意を結ばせた。二国共存解決(two-state solution)がこれで進むはずだった。しかし、イスラエル側にも、パレスティナ側にも二国共存路線を認めない勢力がいた。それが、イスラエル側のベンヤミン・ネタニヤフをはじめとする極右勢力であり、パレスティナ側ではハマスである。両者は「共通の目的(二国共存路線の破棄)」を持っている。そして、残念なことに、イスラエルの多くの人々、パレスティナの多くの人々の考えや願いを両者は代表していない。しかし、武力を持つ者同士が戦いを始めた。ハマスを育立てたのはイスラエルの極右勢力だ、アメリカだという主張には一定の説得力がある。

 アメリカとしてはイスラエルに対しての強力な支援を続けながら、ペトロダラー体制(石油取引を行う際には必ずドルを使う)を維持するためにも、アラブの産油諸国とも良好な関係を維持したい。しかし、中東地域の産油国の盟主であり、ペトロダラー体制を維持してきた、サウジアラビアがアメリカから離れて中国に近づく動きを見せている。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がブリックスに正式加盟したことは記憶に新しい。

 こうしたこれまでにない新しい状況へのアメリカの対応は鈍い。これまでのような対イスラエル偏重政策は維持できない。しかし、アメリカは惰性でこれからも続けていくしかない。こうして、ますます中東における存在感を減退させ、役割が小さくなっていく。

(貼り付けはじめ)

バイデンの新しい中東に関する計画は同じことの繰り返しである(Biden’s New Plan for the Middle East Is More of the Same

-改訂されたドクトリンでは、変化はほとんど期待できない。

マシュー・ダス筆

2024年2月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/14/biden-middle-east-plan-gaza-hamas-israel-netanyahu/

2023年10月7日の同時多発テロを受け、ジョー・バイデン米大統領とバイデン政権は、10月7日以前の状況に戻ることはあり得ないと強調している。バイデン大統領は10月25日の記者会見で、「この危機が終わった時、次に来るもののヴィジョンがなければならないということだ。私たちの見解では、それは二国家解決(two-state solution)でなければならない」と述べた。

先月(2024年1月)、バイデン大統領は、長年にわたるお気に入りの、『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストであるトム・フリードマンを通じて、新しい中東に関する計画の予告を発表した。フリードマンは、「ガザ、イラン、イスラエル、そして地域を巻き込む多面的な戦争に対処するため、バイデン政権の新たな戦略が展開されようとしている」と書いた。

フリードマンは、「もし政権がこのドクトリンをまとめ上げることができれば、バイデン・ドクトリンは1979年のキャンプ・デービッド条約以来、この地域で最大の戦略的再編成(strategic realignment)となるだろう」と書いている。

私はフリードマンの熱意には感心しているが、中東に対する「大きく大胆な」ドクトリンに関しては、彼の判断に大きな信頼を置くことはできないということだけは言っておきたい。フリードマンがこれほど興奮しているように見えたのは、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子の革命的ヴィジョンに熱中していたときが最後だった。フリードマンが提示するバイデンの中東に関する計画には、目新しいことや有望なものはほとんどなく、アメリカの政策が何十年も続いてきた同じ失敗の轍にとどめる危険性がある。

フリードマンが伝えるところによると、この計画には3つの部分がある。パレスティナ国家樹立のための再活性化、アメリカが支援するイスラエルとサウジアラビアの国交正常化協定(サウジアラビアとの安全保障同盟を含むが、最初の部分についてはイスラエルの支援が条件となる)、そしてイランとその地域ネットワークに対するより積極的な対応である。

第一に、ポジティヴなことに焦点を当てよう。アメリカが管理する和平プロセスの主な問題の1つは、それが概して弱い側であるパレスティナ人に結果を押し付けていることだ。イスラエルにはニンジン(carrot)のみを与え、パレスティナ人には主に棒(stick)を与える。現在、バイデン政権がこのパターンを変える準備ができているという兆候がいくつかある。ヨルダン川西岸の過激派イスラエル人入植者と彼らを支援する組織に制裁を課すことを可能にする最近の大統領令は、アメリカが最終的に双方に結果を課す用意があることを示す小さいながらも重要な兆候である。この命令が単なる粉飾決算(window dressing)であると主張する人は、米財務省金融犯罪捜査網(Financial Crimes Enforcement NetworkFinCEN)からの通知を見て、その内容について説明できる人を見つけるべきだ。

最近のホワイトハウスの覚書でも同様であり、軍事援助には国際法の遵守が条件となっており、バイデン大統領は以前この考えを「奇妙だ(bizarre)」と述べていた。覚書の必要性には疑問があるが、政府は援助条件を整えるために必要なツールと権限を既に持っている実際、そうすることが法的に義務付けられているため、それは正しい方向への一歩である。もちろん、バイデン政権がその方向に進み続けており、新たなプロセスをイスラエルによる人権侵害に関する信頼できる申し立てを書類の山の仲に隠すための単なる手段として扱っている訳ではない。

しかし、パレスティナ人への配慮を除けば、バイデンの2023年10月7日以降の計画は、バイデンの10月7日以前の計画とよく似ている。それは、根本的な優先順位が同じだからだ。バイデンの新たな計画は、中国との戦略的競争(strategic competition)、つまり、バイデン政権が外交政策全体を見るレンズである。アメリカとサウジアラビアの安全保障協定は、中国を中東地域から締め出すために必要なステップであり、バイデン政権にこのような協定を売り込む唯一の方法は、サウジアラビアとイスラエルの正常化協定(もちろん、両国が独自に追求する自由はある)というお菓子で包むことである。このような合意には多くの疑問があるが、重要な疑問がある。何十年にもわたるイスラエルとアメリカの緊密な関係と比類なき軍事支援によって、アメリカがガザでの戦争の行方に影響を与えたり、イスラエルの武器の誤用を抑制したりすることができなかったとしたら、ムハンマド・ビン・サルマン王太子との合意によって、サウジアラビアによる責任ある武器の使用が保証されるのだろうか?

ここ数カ月の出来事が、アブラハム合意の大前提である「パレスティナ人は全くもって重要な存在ではない」ということを、いかに完全に打ち壊したかを認識するために、時間を使うだけの価値はある。これは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と、ワシントンにいる彼の同盟者たちにとって、彼らが長年主張してきたことの証明として提示されたものだった。それは政治的動機に基づく願望であることが判明した。これは驚くべきことではなかった。何しろネタニヤフ首相は、イラク侵略もイラン核合意からの離脱も素晴らしいアイデアだと断言した人物なのだ。彼は、この地域についてほとんど完璧なまでに間違っている。

バイデン政権は現在、アブラハム合意の論理を受け入れて、地域住民の間でのパレスティナ解放の永続的な重要性を大幅に過小評価していたことを理解している。これは歓迎すべき修正であるが、まだ不完全なままだ。 2023年10月以前の中東に関する計画は、パレスチティ人への永続的な弾圧を前提としていたという理由だけで欠陥があったのではない。この政策には欠陥があり、安定をもたらすと約束した虐待的で代表性のない政府による、アメリカ主導の地域秩序を再強化しようとして、地域の全ての国民に対する永続的な弾圧を前提としていたからだ。 10月7日に私たちは再び酷いことを学ばなければならなかったので、このような取り決めはしばらくの間は安定しているように見えるかもしれないが、そうでなくなる時期を迎えるだろう。

緊急の優先課題は、ガザでの殺害を終わらせ、ハマスが拘束している人質の解放を確実にすることだ。2023年10月7日の直後から、バイデン政権は「未来(day after)」についての対話には積極的だが、イスラエルが日々、無条件かつ絶え間ないアメリカの支援を受けながら、現場で作り出している恐ろしい現実がある。この現実こそが、アメリカが語る空想上の未来において、実際に何が可能かを決定することになることを、アメリカ側は十分に理解していないようだ。イスラエルの戦争努力は、殺戮の終了同時に自分の政治的キャリアが終わることを知っており、それゆえに戦闘を長引かせる動機を持っているネタニヤフ首相によって率いられているのだから、深刻に継続していくのである。

人命と家屋、地域と世界の安全保障、そしてアメリカの信用に与えたダメージの多くは、既に取り返しのつかない程度にまでなっている。デイヴィッド・ペトレイアスがアブグレイブの拷問スキャンダルについて語ったように、私たちの国の評判への影響は「生分解不可能[微生物が分解できない]non-biodegradable)」となっている。バイデン大統領が任期を越えてもこの状態は続くだろう。しかし、イスラエルとパレスティナの紛争に関するアメリカの政策を国際法に沿ったものに戻すことから始め、ダメージを軽減するために政権が選択することのできる措置はある。1967年に占領された地域が実際に占領地であると明確に表明することだ。これらの領土におけるイスラエルの入植は違法であるという国務省の立場に戻すことだ。ドナルド・トランプ大統領が閉鎖し、バイデンが再開を約束した在エルサレム総領事館を、パレスティナ人のための米大使館として再開することだ。ロシアのウクライナでの戦争と同様に、国際刑事裁判所があらゆる側面の戦争犯罪の可能性を調査することを支持することだ。国連加盟国の72%にあたる139カ国がパレスティナ国家を承認している。

結局のところ、パレスティナの解放を推進する真剣な取り組みには、バイデンがイスラエルに圧力をかける必要がある。それは避けられない。しかし同時に、バイデン政権が現在の危機を単に地域政策への挑戦としてだけでなく、政権が守ると主張する「ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)」全体への挑戦として捉えることも必要だ。パレスティナ人への対処を前面に出しても、権威主義的支配の耐久性を前提とした安全保障戦略の論理に根本的な欠陥があることには対処できない。ジョージ・W・ブッシュの「フリーダム・アジェンダ(Freedom Agenda)」のバイデン版を私は求めていない。しかし、たとえブッシュの処方箋が間違っていたとしても、彼の基本的な診断、つまり抑圧的な体制に安全と安定を依存することは悪い賭けだということは、認識する価値がある。私たちの政策は、このことに取り組む必要がある。

※マシュー・デス:センター・フォ・インターナショナル・ポリシー上級副会長。2017年から2022年にかけて、バーニー・サンダース連邦上院議員の外交政策補佐菅を務めた。ツイッターアカウント:@mattduss

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。近いうちにある週刊誌にて紹介していただけることになりました。詳しくは決まりましたらお知らせいたします。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イエメン内戦は長期化している。政府側と反政府組織フーシ派の間の戦いとなっているが、政府側をサウジアラビアが支援し、フーシ派側をイランが支援している。あ氏アラビアとイランとの間で国交正常化が合意されたことにより、この構図も変化を見せつつある。サウジアラビアがフーシ派と停戦交渉を行っている。そうした中で、アメリカとイギリスが共同でフーシ派を攻撃した。アメリカとイギリスは、紅海上において、フーシ派が民間船舶(中国やイランの船舶を除く)に対して攻撃を行い、世界の物流に影響を与えていることを理由に挙げている。フーシ派は、イスラエルによるガザ地区への過剰な攻撃に対する攻撃として、紅海上で民間船舶を攻撃している。これを受けて、世界の海運各社は航路変更を余儀なくなされている。これに対して、サウジアラビアは、アメリカやイギリスに同調せず、静観の構えを見せている。
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紅海の地図
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フーシ派の関連地図

 アメリカとイギリスの攻撃は沈静化しかけていた紅海の状況を再び不安定化させている。サウジアラビアとしては、アメリカとイギリスには介入して欲しくなかったところだが、アメリカとイギリスとしては、物流の停滞による物価高もあり、何もしないという訳にはいかなかった。そして、西側諸国においては、「中国はイランとの関係も深いのだから、紅海の状況を何とかせよ、フーシ派をおとなしくさせるために何かやれ」という批判の声が上がっている。中東地域は中国にとっても、エネルギー面において重要な存在であり、中国も中東地域において重要な役割を果たしつつある。サウジアラビアとイランの国交正常化合意を仲介したのは中国である。
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紅海航路と迂回航路の違い
 パレスティナ紛争や紅海の危機的な状況において、中国は何もしていないという批判の声が上がっている。しかし、これはなかなか難しい。中国が中東地域において活発に動き始めてまだ20年くらいだ。それに対して欧米諸国は戦前から植民地にするなど長期間にわたって深くかかわってきた。中東地域においての役割については欧米諸国の方が先輩であり、一日(いちじつ)の長がある。そして、欧米諸国の政策の失敗が現在の状況である。それを修正して、正常化するのは欧米諸国の責任だ。どうしても駄目だ、万策尽きたということならば、他の国々の出番もあるだろう。「中国が何とかせよ」というのが、「自分たちの力ではどうしようもありません、私たちが馬鹿でした、どうもすいません」ということならばまだしも、ただの自分勝手な言い草であるならば、中国が何かをするという義理はない。欧米諸国は一度徹底的に追い込まれて、自分たちの無力を自覚することだ。それが世界の構造の大変化の第一歩である。

 

(貼り付けはじめ)

紅海危機が中国の中東戦略について明らかにする(What the Red Sea Crisis Reveals About China’s Middle East Strategy

-中国は確かに中東地域のプレイヤーになったが、今でもまだ極めて利己的なゲームをしている。

ジョン・B・アルターマン筆

2024年2月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/14/red-sea-crisis-china-middle-east-strategy-egypt-yemen/

昨年(2023年)3月、中国の王毅外相の顔に満足感があったのを見逃すことはできなかった。サウジアラビアとイランの間の和平合意を仲介したばかりの、王毅中国外相(当時)は、二国の代表を優しく近づけた。王毅は彼らの間に立ち、しっかりとコントロールしていた。

王毅外相が満足する理由は複数存在した。多くの人が不可能だと考えていたことを中国がやってのけただけでなく、それが可能な唯一の国でもあった。サウジアラビアとイランの両国は敵対していたが、それぞれが中国を信頼していた。アメリカは中東の安全保障を重視していたが、中国は実際にそれを提供していた。王毅のあり得ない成功は、中東における中国の役割の重要性の高まりを示す新たな兆候となった。

しかし、この4ヵ月の間、2023年3月のような自信に満ちた中国外交は影を潜めている。半世紀以上にわたるパレスティナ人への支援、10年以上にわたるイスラエルとの緊密な関係、イラン、サウジアラビア、エジプトなどへの数百億ドル規模の投資にもかかわらず、最近の中国は静けさを保っている。

さらに明らかなのは、紅海の海運に対するフーシ派による3ヶ月に及ぶ攻撃によって、中国の貿易が大打撃を受け、中国の一部の地域パートナー諸国が首を絞められ始めたとき、北京はしばしば、外交的、軍事的、経済的に、パートナー諸国はおろか、自国の広範な利益を追求するために行動することができないか、あるいはしたくないように見えたことである。

中国は自らを台頭する世界大国(rising global power)として宣伝しようとし、平和と繁栄を確保するという世界的な野望を達成できていないアメリカを非難することを好む。アラブのコメンテイターらは、2022年12月にサウジアラビア・リヤドで行われた中国の習近平国家主席を招いての首脳会談をめぐる温かさを、その5カ月前にジェッダで行われたジョー・バイデン米大統領とサウジアラビア指導部とのより緊迫した会談を対比させた。『アルリヤド』紙は「西側の独立筋」の主張を引用し、「中東地域は中期的には独裁と覇権(hegemony)から離れ、開発、投資、人民の幸福、紛争からの距離に基づく中国の影響力を通じての、戦略地政学的なバランスと政治的正義の段階に移行するだろう」と主張した。

それこそが、中国がこれらの国に望んでいる未来の姿である。間違ってはいけないのは、中国はアメリカを主要な戦略的挑戦と見なしており、それ以外のものは重要ではないということだ。

驚くべきことは、これがどれほど真実であるかということである。過去4カ月間の中国の行動と不作為は、数十年にわたる中東への投資にもかかわらず、北京がこの地域で重視しているのは、依然としてアメリカを弱体化させるためであることを浮き彫りにしている中国は確かに中東地域のプレイヤーになったが、今でもまだ極めて利己的なゲームをしている。

中国の中東への関心の大元はエネルギーだ。中国は30年前に初めて石油の純輸入国となり、過去20年間のほとんどにおいて、世界の石油需要の増加のほぼ半分を中国が占めてきた。この期間を通じて、中国の輸入石油の約半分は中東地域から来ている。

中国にとって、中東への依存は一貫して脆弱性ともなる。アメリカは半世紀にわたり、この地域の安全保障を支配してきた。中国人の多くは、米中両国が敵対した場合、アメリカが中国にとって不可欠なエネルギー供給を遮断することを恐れている。同様に、中東にはホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡、スエズ運河という、世界貿易に不可欠な3つの海運の重要地点(chokepoints)がある。アフリカ、ヨーロッパ、そしてアメリカ東海岸に向かう多くの中国製コンテナは、この3つの地点すべてを通過する。アメリカ海軍は現在、これら全ての重要地点を守る態勢を整えているが、同時に通行を阻害することも可能だ。

中国の戦略は、アメリカと対立するのではなく、アメリカと共存することであり、アメリカとの関係とともに中国との関係も発展させるよう地域諸国を説得することだ。10年ほど前、中国はアルジェリア、エジプトとの「包括的戦略パートナーシップ(comprehensive strategic partnerships)」を宣言し、後にサウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦をリストに加えた。偶然にも、北京は昨年8月、後者4カ国がBRICSブロック(当時はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成)に加盟するよう働きかけ、新規加盟国全体の5分の4を占めた。中国は、中東全域で経済関係を深め、その過程で貿易と開発を促進することを主張している。

中東諸国は中国の地域的役割の拡大を歓迎している。その理由として、中国が西側諸国の自由化圧力から解放してくれることが挙げられる。また、中国が厳格な規制よりもスピードを重視する経済パートナーとなってくれるからでもある。中東諸国は中国を台頭する世界大国と見ている。10年以上にわたって歴代米大統領が「ワシントンの主要な利益はアジアにある」と宣言してきたのだから、中東諸国が中国と強固な関係を築かないということはあり得ないのである。

中国が提示している主張は、各国は西側諸国との関係とともに中国との関係も発展させることができるというものだ。原則としては正しいが、現実問題としてはより複雑である。西側諸国の政府は、中国がこの地域に技術投資を行うのは、中国のスパイ活動の道具を組み込むためだと非難している。その結果、西側諸国の政府は、中東地域の各国政府がその技術を獲得することを、安全保障上の多種多様な協力体制の確立にとっての障害と見なしている。

中国の学者たちは、アメリカの地域安全保障の取り組みを厳しく批判してきた。ある著名な中国人学者は、「中国は、アメリカの無謀な軍事行動とプレゼンスの結果としての地域の不安定化の犠牲になっている」と書いている。王毅が2022年1月に中東6カ国の外相と会談したことを伝える中国メディアの記事では、王毅が「中東の主人は中東の人々だと私たちは確信している。『力の空白(power vacuum)』など存在せず、『外からの家父長制(patriarchy from outside)』など必要ない」と述べたことを伝えた。

中国の専門家たちが頻繁に主張しているには、アメリカのアプローチは中東諸国への敬意が不十分だということだ。ある学者は「あまりにも長い間、覇権国であったため、アメリカは自国の利益のために他国に圧力をかけることに慣れているが、他国の懸念には耳を貸さない」と指摘している。

2023年3月にサウジアラビアとイランの合意が成立したとき、中国側はこれを「中東の平和と安定の実現のための道をならすものであり、対話と協議を通じて国家間の問題と意見の相違を解決する素晴らしいモデルとなる」とし、「中国は建設的な役割を継続する」と公約した。

しかし、中東で暴力が勃発してから数カ月、中国は世界的な懸念声明に便乗することはあっても、独自の声明を発表することはほとんどなかった。最も明確に非難したのは、2023年10月にイスラエルがガザ市のアル・アハリ病院を攻撃したと当初は考えられていたが、後にパレスティナ側のロケット弾の誤射によるものと判明した事件に対してである。

中国は、2023年10月7日に発生したハマスによるイスラエル民間人に対する攻撃も非難しておらず、紅海の船舶に対するフーシ派の攻撃も非難していない。和平会議の開催が一般的には望ましいと表明すること以外に、この地域で展開し相互に関連する危機のいかなる要素にも対処するための中国の外交提案はない。中国にとって、高官の訪問、奨励と懲罰、調停などの外交手段は全てが保留されている。

2024年1月のジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官と王毅外相とのタイでの会談での議題は紅海の安全保障についてであった。この会談の前に、中国とイランの政府関係者は口をそろえて、中国はイラン政府に対し、フーシ派への支援について苦言を呈したが無駄だったと主張した。このような発言は、単にアメリカの圧力から王毅を守るためなのか、それとも中国がイランの思惑に影響を与えることができないという現実を反映したものなのかは明らかではない。

一方で、西側諸国と中東諸国の外交官たちは、人命を守り、緊張を緩和し、世界貿易の自由をより促進するための、何らかの方法を見つけようと、互いに深く関わっている。

この地域での出来事が中国の利益を直接的に傷つけるものではないと主張するのは難しい。まずフーシ派から話を始めることができる。彼らはイランから年間約1億ドルを受け取っている。イランは中国との貿易が全体の3分の1を占めているが、その貿易額は中国貿易の1パーセントにも満たない。

中国はイランよりも世界の他の国々に対してより注意を払っている。一部の報告によると、通常は紅海南部を通過するコンテナ船の90%が同海域を避けるために航路を変更したということだ。平常時、紅海航路は世界のコンテナ輸送量の約 3分の1、アジアとヨーロッパ間の全貿易量の40% を占めている。輸送のボトルネック(bottleneck)となっているのは、コンテナ価格が3倍から4倍に高騰しており、ヨーロッパに向かうエネルギー輸送がアフリカを迂回し、配送の遅れによりサプライチェインが麻痺していることだ。

中国は貿易立国(trading nation)であると同時に海洋立国(maritime nation)でもある。世界貿易における争いは中国に直接影響を与えるだけでなく、将来の混乱を避けるために、投資家たちを「ニアショアリング(nearshoring)」(サプライチェインの依存をより近くて友好的な国々にシフトすること)に向かわせる。

混乱はまた、中国の中東への投資にも打撃を与える。中国は紅海の各種施設に数百億ドルを注ぎ込んできた。ジブチの軍事基地だけでなく、東アフリカ、サウジアラビア、スーダンの港湾施設、鉄道、工場、その他無数のプロジェクトに注ぎ込んできた。これらの投資は一帯一路計画の一部だ。これらのプロジェクトは全て、紅海航路の断絶によって危機に瀕している。

中東全域で、イランの代理諸勢力がこの地域を戦争に導くと脅しており、その一部はイスラエルへの攻撃を通じてその脅迫に説得力を持たせている。イスラエル自身もほぼ20年にわたって中国との関係を着実に強化してきた。アメリカン・エンタープライズ研究所の中国グローバル投資トラッカーによると、中国は過去10年間でイスラエルに90億ドル近く投資し、30億ドル相当のプロジェクトを構築した。

中国がイランの代理になるどころか、イランをコントロールできると期待する人はほとんどいないが、中国がそのつもりすらないようであることは注目に値する。しかし、今回の紅海危機において中国はチャンスも見出している。

中国はこの危機を利用するために2つのことを行った。 1つ目は、中東におけるアメリカの役割に対するグローバル・サウスの敵対心を刺激しようとして、アメリカを批判することだ。2023年10月に『チャイナ・デイリー』紙に掲載されたあるコラムは、「アメリカはガザ地区において、『歴史の間違った側(wrong side of history)』に属しており、ガザ地区におけるより大きな人道危機の回避を支援することで、世界唯一の超大国としての世界的責任を果たすべきだ」と主張した。中国メディアは、グローバル・サウスの反米感情と反イスラエル感情両方を煽る形で、アメリカの外交努力を非難し続けている。中国メディアは、今回の紛争を根本的に解決するためには二国家解決策の追求が必要であるが、それを阻害しているのは、根本的に、アメリカのイスラエルの肩入れが存在している(これが今回の紛争の基底にある)、と時に間接的に、時に直接的に、主張している。

 中国が行っている2番目のことは、当面の経済的利益に配慮することだ。中国船舶の需要が高まっており、荷主はフーシ派が中国籍の船舶を攻撃しないと信じている。紅海を航行する一部の船舶は、攻撃を避けるために「全員が中国人の乗組員」を船舶追跡装置に表示されるようにしていると発表している。

中国は中東において、急速に変化する状況に適応するために外交が緊張していることを示している。加えて、共通の利益につながる困難なことを行うことへの嫌悪感を示している。中国当局者たちは協力する代わりに、パートナー諸国や同盟諸国を犠牲にして自国の利益を推進するためのギリギリの方法を模索している。

それは、中国がしばしば名刺代わりとして宣伝するような「ウィン・ウィン(win-win)」の論理ではない。現在、中国を含む全員が負けている中で、中国は状況を傍観している。

※ジョン・B・アルターマン:戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)上級副所長、ブレジンスキー記念国際安全保障・戦略地政学(geostrategy)部門長、中東プログラム部長。

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。アメリカの外交政策についても詳しく分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2024年11月にアメリカ大統領選挙が実施される。現段階で、民主党は現職のジョー・バイデン大統領、共和党はドナルド・トランプ前大統領がそれぞれ、候補者に指名されることが確実視されており、2020年に続いて、バイデン対トランプの構図になる。各種世論調査を見てみると、両者の対決は接戦で、ややトランプ有利となっている。トランプが大統領に返り咲く場合、もしくはバイデンが大統領として二期目を迎える場合、どちらになっても、アメリカの外交政策は大きく変わらないというのが、今回下にご紹介している、ハーヴァード大学教授スティーヴン・M・ウォルトの主張だ。

 アメリカにとって重要な外交政策の対象は、ウクライナ、中東、そして中国だ。トランプ前大統領はウクライナ戦争勃発後からウクライナへの支援に反対し、即時の停戦を行うようにロシアに働きかけるべきだ、自分にはそれができると主張している。ウクライナ、ロシア療法に圧力をかけてでも停戦すべきだと述べている。バイデン政権はウクライナ支援を行ってきたが、ウクライナ戦争の状況を好転させるまでには至らず、アメリカ国内での共和党の反対によって、ウクライナ支援を継続できない状況にある。結果として、停戦に向かうしかないという状況だ。

 中東に関しては、バイデン政権は、サウジアラビアに対して宥和的な姿勢を示しているが、サウジアラビアはバイデン政権との関係修復を望んでいない。アメリカはサウジアラビアとイスラエルとの間の国境正常化を行おうとしたが、その試みはとん挫している。対イスラエルに関しては、バイデン政権は、イスラエルの過剰な攻撃を止めるに至っていない。トランプも恐らく、イスラエルを止めることはできないし、まず、止めることはしないだろう。

 中国に関しては、トランプもバイデンも強力な競争相手として、敵対的に見ている。中国と対峙するために、アジア地域の同盟諸国に対して、負担の増加を求めており、それについて、同盟諸国は嫌気が差しながら、しぶしぶ従っている状況だ。

 バイデン政権の方が、トランプ政権に比べて、より理想主義的な外交を行うと見られていたし、公約でもそのようなものが多かった。しかし、現実としてはうまくいっていない。それは、アメリカの力が減退している中で、それに気づいている国々がアメリカに従わなくなっているからだ。世界の構造は大きく変化しつつある。そうした中で、アメリカにできることの範囲はどんどんと狭まっている。

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トランプが再び大統領に就任してもアメリカの外交政策は大きく変わらないだろう(Another Trump Presidency Won’t Much Change U.S. Foreign Policy

-世界の恐怖はほとんどが誇張されているに過ぎない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年1月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/22/another-trump-presidency-wont-much-change-u-s-foreign-policy/

不測の事態が起きない限り、2024年の米大統領選は現職のジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領の再戦となる。アメリカ国民の多くは、どちらも出馬しない方が幸せだと考えているが、2024年11月に直面するのはそのような選択ではないだろう。この選挙は既に、アメリカの民主政治体制と世界に対するアプローチに広範囲な影響を及ぼす、画期的な出来事として位置づけられている。

第一の問題、つまり国内で起こりそうな結果については、選択肢は明確だ。トランプは有罪判決を受けた詐欺師であり、性的虐待者であり、前任の大統領時代には無能な最高責任者であった。民主政治体制の原則と法の支配に対する彼の関与は存在せず、彼と共和党は2期目も、権力を、政敵を罰するために利用し、アメリカを事実上の独裁政治に向かわせるつもりであることが懸念される。女性の権利は更に縮小され、気候変動を食い止める努力は放棄され、裕福なアメリカ人や企業は、より広範な社会的・政治的影響をほとんど考慮することなく、自分たちの利己的な利益を自由に追求するようになるだろう。あなたがバイデンや彼の政策をどう思おうとも、彼がそのようなことをする可能性はない。私にとっては、それだけでトランプに反対票を投じる十分な理由ということになる。

しかし、外交政策に目を向けると、その違いはそれほど顕著ではない。現在、多くの人々がトランプ大統領の2期目がアメリカの外交政策に劇的な影響を及ぼすのではないかと懸念しているが、その違いは皆さんが思っているほど大きくはないだろう。トランプは1期目と同じように、不安定で、気まぐれで、粗野で、特にNATOの同盟諸国に対して対立的な態度をとるだろう。しかし、他の点では、トランプ大統領の2期目は、バイデンが更に4年間の任期で大統領を務めた場合とそれほど変わらないかもしれない。このことを理解するためには、現在の外交政策で間違いなく最も重要な3つの議題について、それぞれの人物がどのように対処する可能性があるかを考えてみればよい。ウクライナ、中国、中東である。

●ウクライナ(Ukraine

共和党の一部議員の反対や、キエフが戦争に勝利したり、失った領土を回復したりする能力について悲観的な見方が強まっているにもかかわらず、戦争が始まって以来、バイデン政権はウクライナに全面的に関与してきた。ウクライナ人とその西側の支持者たちは、トランプ大統領がアメリカの支援を打ち切り、ウクライナをヨーロッパからの援助に頼り、ロシア軍のなすがままにするのではないかと心配している。トランプは得意な大げささで、戦争を「1日で(in one day)」解決できると自慢し、ウクライナの勝利を望んでいるのかと聞かれると、言葉を濁した。従って、トランプ当選でアメリカの政策が大きく変わると多くの人々は思うかもしれない。

しかし、バイデンがもう1期当選すれば、たとえ追求の方法が違っても、同じような道をたどる可能性が高いのだ。戦争の潮流は2023年にウクライナに有利に傾き、これまで、ウクライナの支持者たちはウクライナの運命を逆転させ、ロシアが不法に征服し併合した領土を解放するための楽観的な計画を考え続けているが、彼らの希望はほぼ間違いなく幻想であり、米国防総省はおそらくそのことを分かっている。バイデンと彼のティームは選挙前にこのことを認めるつもりはないだろう。なぜなら、そうなればこれまでの戦争への対応に疑問符がつくからだ。しかし、もし大統領に再選されれば、キエフにもっと現実的な目標を採用し、和解に向かうよう圧力をかけるだろう。

私は、バイデンなら慎重なやり方でウクライナへ圧力をかけ、キエフが可能な限り最良の取引を行う手助けをしようとすると信じている。これとは対照的に、トランプ大統領はおそらく、北朝鮮の金正恩委員長との素人同士の仲良しな態度(amateurish bromance)で見せたような外交的手腕を発揮し(つまり、何もしない)、ウクライナとはさっさと手を切って逃げようとするだろう。しかし、より大きなポイントは、トランプ政権になっても、バイデン政権が続いても、2025年1月以降の戦争終結を交渉しようとするだろうということであり、その結果得られる合意は、キエフの戦争目的よりもロシアの戦争目的にかなり近いものになる可能性が高いということだ。

●中国(China

トランプはその最初の任期中、それまでの対中経済関与政策を決定的に変更し、米国経済に打撃を与え、是正されるはずだった二国間の貿易赤字にはほとんど何の効果もない、お粗末な貿易戦争(trade war)を開始した。バイデンはこのアプローチを改め、更に強化し、先端技術のいくつかの主要分野をマスターしようとする中国の努力を阻害することを意図して、ますます厳しい輸出規制を課した。あからさまな保護主義(protectionism)を拒否した、ある政権高官は、このアプローチを国家安全保障上の懸念に焦点を絞ったもの(つまり「高いフェンス(high fence)」のある「小さな庭(small yard)」)だと擁護した。しかし、庭の大きさはどんどん大きくなっており、中国に対するより対決的なアプローチは、超党派の強いコンセンサスを得ている数少ない問題の1つである。

このため、2024年11月にどのような結果が出ようとも、アメリカの対中政策は大きく変わることはないだろう。バイデン政権とトランプ前政権の公式声明は、中国をアメリカの世界的優位に対する主要な挑戦者の1つと見なしており、その見方は、どちらかと言えば、今日より顕著になっている。トランプは、アメリカの保護に過度に依存していると繰り返し非難している、アメリカのアジアの同盟諸国に対して、やや対立的な態度を取るかもしれないが、北京に本気で立ち向かうつもりなら、アジアの同盟諸国を見捨てることはできない。

結論は次の通りだ。中国との関係に関しては、バイデンもトランプも2期目には同じ合唱曲の歌詞を歌うことになるだろう。

●中東(The Middle East

アメリカの中東政策が大混乱に陥っていることを考えれば、バイデンもトランプも2025年には軌道修正を図りたいと考えるかもしれない。悲しいことに、どちらが大統領になっても将来、過去と異なる行動を取ることを期待する理由はない。実際、最も印象的なのは、この不安定な地域に対処する際、このまったく異なる2人の大統領がいかに似たような行動をとってきたかということである。

トランプは大統領として、イランの核開発に上限を設けていた核合意を破棄し、在イスラエル米大使館をエルサレムに移転し、ワシントンのパレスティナ問題担当領事事務所を閉鎖した。彼はまた、熱狂的にイスラエルの入植者たちを支持する弁護士を駐イスラエル大使に任命した。彼の和平計画は、二国家解決(two-state solution)というアメリカの長年の目標を嘲笑するものであり、一方で素人外交官(そして娘婿)であるジャレッド・クシュナーのアラブ・イスラエル国交正常化計画を後押しするものだった。その結果、アブラハム協定(Abraham Accords)は、イスラエルとバーレーン、モロッコ、アラブ首長国連邦、スーダン(後者は現在内戦状態にある)との間に外交関係を樹立したが、ヨルダン川西岸とガザ地区でイスラエルの過酷な支配下に暮らす500万人のパレスティナ人の苦境には何も対処しなかった。

この状況を引き継いだバイデンは何をしたのか? 彼は事態を悪化させた。イランとの核合意に復帰することを選挙公約に掲げていたにもかかわらず、イランの選挙で強硬派が政権を握り、共同包括行動計画への復帰がさらに困難になるまで、彼は逡巡した。結果は次の通りだ。イランは今、かつてないほど核爆弾所有に近づいている。バイデンとアントニー・ブリンケン米国務長官はパレスティナ人について、トランプと同じように扱い、在エルサレム米総領事館の再開を遅らせ、和平プロセスの再開にはほとんど力を注がなく、ヨルダン川西岸で増加するイスラエル人入植者たちによる暴力行為には目をつぶった。入植者たちの行為は、イスラエル史上最も極右的な政府によって公然と支持されていないが、容認されてきた。

トランプと同様、バイデンとブリンケンはサウジアラビアの機嫌を取ることに集中し、亡命ジャーナリストのジャマル・カショギ殺害に関与したサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を「不可触民(pariah)」として扱うというバイデンの選挙公約を完全に覆した。共和党政権と民主党政権にまたがって存在感を示すブレット・マクガーク(Brett McGurk、1973年-)の指導の下、アメリカは昨年、イスラエルとの国交正常化と引き換えにサウジアラビアに安全保障(およびその他の特典)を与える取引を完了させようとしていた。マクガークは、おそらく近年の米国政策で最も影響力のある唯一の設計者である。パレスティナ問題はまたしても脇に追いやられ、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は昨年秋、中東は「ここ数十年来で最も静かだ(quieter than it has been for decades)」と自画自賛した。

トランプに始まり、バイデンが続けたこれらの誤りは、世界中で見られる、逆噴射を引き起こした。2023年10月7日、ハマスの戦闘員たちはガザの野外刑務所を脱獄し、イスラエルの国境地帯に残忍な攻撃を仕掛けた。イスラエルの市民に対する彼らの不可抗力とも言える残忍な攻撃は重大な犯罪であったが、イスラエルの獰猛で不釣り合いな、そして間違いなく大量虐殺的な対応は、イスラエルのイメージ、アメリカの評判、そして世界の良心に対する、更に深刻な汚点である。

かつてブリンケン国務長官が「人権をアメリカの外交政策の中心に据える」と述べたアメリカは、この外交的・人道的大惨事にどう対応したのだろうか? ガザで既に2万3000人以上のパレスティナ人を殺戮したイスラエルに、何十億ドルもの軍事援助を急ぎ提供し(その過程でアメリカの法律を迂回したと報じられている)、停戦を求める国連安全保障理事会決議(U.N. Security Council resolutions)に何度も拒否権を行使し(vetoing)、イスラエルの大量虐殺を非難する南アフリカの国際司法裁判所への広範な文書による申請を「メリットがない(meritless)」として却下した。アメリカ政府高官はイスラエルに行動を慎むよう求めたと伝えられているが、アメリカの支援を縮小すると脅した訳ではない。予想通り、ベンヤミン・ネタニヤフ政権はアメリカの要請を無視してきた。

今年、誰が選挙で勝とうとも、何かが変わると期待する理由はない。バイデンもブリンケンも自称シオニストであり、どちらもイスラエルに軌道修正を迫るような意味のある圧力をかけることはないだろう。トランプはどちらの側にもあまり関心がないように見えたが、アメリカにおける政治的影響力のバランスを理解しており、彼の反イスラム偏重(anti-Muslim bias)はよく知られている。バイデンの2期目には、ある種の和平プロセス(peace process)を復活させる試みが見られるかもしれないが、それがアメリカのこれまでの努力以上のことを成し遂げられると騙されるべきではない。結局のところ、バラク・オバマ前大統領の二国家解決への努力を台無しにしたと言われるバイデンが、もう1期務めたとしても、二国家解決を達成する可能性はないだろう。トランプ大統領は、義理の息子であるジャレッド・クシュナーと同じように、資金の流れに従う可能性が高い。ウクライナや中国と同様、アプローチの類似性は、世界観や外交スタイルの違いを凌駕している。

明らかにしておきたいが、私は今回の選挙がアメリカの外交政策に難の影響も及ぼさないと言っているのではない。例えば、トランプが大統領になれば、アメリカをNATOから脱退させようとするかもしれないが、そのような動きは間違いなく外交・防衛政策当局からの多大な抵抗に直面するだろう。トランプは主に国内の課題、そして長引く法的問題に焦点を当てる可能性があり、その場合、既に限定されている外交問題への関心がより減ることになり、現状を強化する傾向があるだろう。トランプはその1期目で外交政策の人材の見極めが不十分であった(そして前例のない離職率を引き起こした)ため、その傾向がアメリカの政策実行を妨げ、外国政府がさらなるリスク回避につながる可能性がある。バイデン2とトランプ2の間には微妙な違いがあるだろうが、私は根本的な変革が起きる方には賭けない。

全体として、次の選挙は外交政策の重要な問題よりもアメリカの国内政治にはるかに大きな影響を与えるだろう。冒頭で述べたように、国内での利害は十分に大きく、明確であり、十分な懸念が存在するため、投票方法を決めるのにそれほど問題はないだろう。私は民主政治体制下での生活が好きなので、2024年11月には主要州で過半数の有権者が私の考えに同意してくれることを願うばかりである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:

@stephenwalt

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。
 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。2023年10月に始まったイスラエルとハマスの紛争についても分析しています。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イスラエルとハマスとの紛争、その後のイスラエルによるガザ地区への過酷な攻撃が今も継続中だ。イスラエルによるガザ地区への苛烈な攻撃に対しては、体調虐殺(ジェノサイド)だという批判の声が上がっている。アメリカは、一貫してイスラエル支持の姿勢を崩していないが(もちろん崩せないが)、ガザ地区の状況については憂慮しており、イスラエル側に自制を求めているが、イスラエルはアメリカ側の言うことを聞かない。アメリカは、イスラエルに引きずられる形になっている。それでも、「イスラエルを支援しているアメリカが何とかしろ」というアメリカに向けた批判の声も大きくなっている。

 私は最新作『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』の中で、世界は「ザ・ウエスト(the West、西側諸国)対ザ・レスト(the Rest、西側以外の国々)」という対立構造で、これからの世界は動いていくと書いた。ザ・ウエストの旗頭はアメリカで、ザ・レストの旗頭は中国である。ザ・レストには南半球の発展途上国が多いことから、「グローバル・サウス(Global South)」とも言う。アメリカが世界唯一の超大国として、一極構造であった世界から大きく変化しつつある。今回のパレスティナ紛争についても、この構図が当てはまる。

 中国は紛争発生当初から、即時の停戦を求めてきた。最近では、イスラエルによるガザ地区への攻撃を憂慮し、パレスティナ側に立つ姿勢を見せているが、深入りすることはせず、調停者の役割までは担うという姿勢を見せいている。中国の調停案はイスラエルには受け入れがたいものであるが、中国は強硬な態度を示していない。これは、アメリカの失敗、敵失を待っているということも言える。アメリカが自滅していくのを待っているということになる。そして、ザ・レスト、グローバル・サウスの旗頭として、これらの国々の意向を尊重しながら行動しているということになる。中国は慎重な姿勢を見せている。

 アメリカとイスラエルはお互いに抱きつき心中をしているようなものだ。イスラエルはアメリカを巻き添えにしなければ存続できない。アメリカはイスラエルを切り離したいが、もうそれはできない状況になっている。お互いがお互いにきつく抱きついて、行きつくところまで行くしかない。非常に厳しい状況だ。

 世界の大きな構造変化から見れば、アメリカとイスラエルは即座に停戦し、パレスティナ国家の実質的な確立を承認すべきであるが、イスラエルの極右勢力の代表でもあるベンヤミン・ネタニヤフ首相には到底受け入れられない。また、ハマスにしてもイスラエルとの共存は受け入れがたい。中国としてもパレスティナの過激派組織をどのように扱うかは頭の痛いところであろうが、イランとの関係を使ってうまく対処するだろう。二国間共存に向かうように今回の機器をうまく利用できるとすれば、それはアメリカではなく、中国だ。

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中国がイスラエルとハマスの戦争をどのように利用するか(How China Is Leveraging the Israel-Hamas War

-ワシントンとグローバル・サウスとの間に広がり続けている分断は、北京に有利に作用している。

クリスティーナ・ルー筆

2024年1月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/31/china-israel-hamas-global-south-us-foreign-policy/?tpcc=recirc062921

イスラエルによるガザ地区での軍事作戦に対する世界的な怒りが高まるなか、中国は、この戦争に対するワシントンとグローバル・サウス(Global South)のスタンスの間に広がる分断(divide)を利用し、北京自身の外交政策上の野心を高めることに注力してきた。

イスラエル・ハマス戦争の過程を通じて、中国は深刻化し続ける紛争に巻き込まれたり、地域のつながりが危​​険に晒されたりすることを警戒し、慎重に傍観者の立場を守り続けてきた。しかし、アメリカ政府がイスラエル支援をめぐって激しい反発に直面する中、中国政府もまた、ブラジル、インド、南アフリカ、パキスタンを含む数十カ国の集合体である、いわゆるグローバル・サウスと連携する機会を捉えている。アメリカの立場とは大きく異なり、イスラエルの行動を非難した。

戦略国際問題研究センター(Center for Strategic and International StudiesCSIS)で中東プログラムの部長を務めるジョン・アルターマンは、「中国は、そのほとんどをアメリカに任せている。中国が中東で追求している唯一の利益は、アメリカとグローバル・サウスの大部分との間に大きな分断が生まれるのを見守ることだ」と述べた。

イスラエル・ハマス戦争に対する中国のアプローチは当初から慎重さが特徴だった。例えば、中国の習近平国家主席は、2023年10月7日のハマスの最初のイスラエル攻撃後の検討まで2週間近く待ったが、一方、初期の政府声明ではハマスの名前さえも言及せずにいたが、この対応はイスラエル当局の怒りを買った。それ以来数カ月間、中国は自らを和平調停者(peacemaker)として位置づけ、紛争に直接関与するまでは至らないようにしながら、停戦とパレスティナ国家の確立を呼びかけた。

ブルッキングス研究所の研究員パトリシア・キムは本誌の取材に対して、電子メールを通じて答え、「中国は、現在進行中の紛争において実質的な役割を明らかに回避している」と語った。キムは更に、「中国政府は自らを地域の権力仲介者として見せたいと考えているが、安全保障の提供者(security provider)としての役割を果たすことや、地域における関係を危うくする可能性のある困難な状況に直接介入することには全く興味がない」と述べた。

こうした力関係は紅海でも明らかであり、フーシ派がパレスティナ人との連帯と主張して行った数か月にわたる商業船舶に対するフーシ派の攻撃により、世界貿易が混乱している。しかし、紅海を守るために船舶を派遣する国が増えているにもかかわらず、中国は自国の海軍の介入に抵抗している。中国政府が関与に最も積極的に取り組んでいるのは、フーシ派を支援するイランに非公式に介入を迫っているとロイター通信が報じたが、イラン当局者はこの報道を否定した。

北京のアプローチは、ワシントンとは対照的である。ワシントンは、イスラエルの建国以来、長年イスラエルの最も強力な支持者の1人であり、数十億の軍事援助で同国を支援してきただけでなく、パレスティナ紛争が始まって以来、国際舞台でイスラエルの主要な擁護者(primary defender)として行動してきた。国連安全保障理事会(United Nations Security Council)でアメリカの拒否権(veto)を行使し、中国だけでなく、グローバル・サウスの国々を含む数十カ国が支持する停戦を求める決議を阻止してきた。ジョー・バイデン政権は紅海でも行動を起こし、イエメンのフーシ派に対する攻撃を開始し、紅海の航行の自由を確保するために国際タスクフォースを動員した。

しかし、ガザでのイスラエルの軍事作戦が壊滅的な人道的被害をもたらしている中、ハマスが運営するガザ保健省によると、イスラエル軍は戦争開始以来、ガザで2万6000人ものパレスティナ人を殺害しているということだ。イスラエルに対するワシントンの揺るぎない支援に、世界の多くの人々はますます不満を募らせ、幻滅している。ガザでは現在、50万人以上の人々が「壊滅的なレベルの深刻な食糧不足(catastrophic levels of acute food insecurity)」に直面しており、統合食糧安全保障段階分類は12月に警告を発している。

そして、中国政府はその分断を利用しようとしている。「チャイナ・グローバル・サウス・プロジェクト(China Global South Project)」の共同創設者エリック・オランダーは、次のように述べた。「中国は、分断によって、世界の他の国々の目、彼らが関心を寄せる世界の地域において、アメリカを更に弱体化させることになると感じている。これは、アメリカがいかに孤立しているかを示し、世界と歩調が合っていないことを示し、そしてアメリカの偽善を示すという、中国に対する彼らの戦略にそのまま反映されている。」

オーランダーは、「中国は、自国の外交政策を追求し、アメリカ主導の国際秩序の欠点について彼らが言おうとしている価値観のいくつかを広めるという点で、これをかなり巧みに演じていると考える」と述べた。

この戦略の一環として、中国は自らを平和調停者であると公言し、5項目の和平計画を提案し、イスラエル・パレスチナ和平会議の開催を呼びかけている。2023年10月、北京はカタールとエジプトに地域特使を派遣し、停戦(ceasefire)を促した。それ以来、ガザへの約400万ドルの人道支援(humanitarian aid)を約束し、アラブ・イスラム諸国の閣僚代表団を受け入れ、紛争をめぐるBRICSブロック(当時はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成)の事実上の首脳会議に参加した。

中国の張軍国連大使は、戦争が始まって1カ月後、安全保障理事会のブリーフィングにおいて、「中国は、敵対行為の停止と平和の回復を促進するために、たゆまぬ努力を続けてきた。中国は引き続き、国際的な公正と正義の側に立ち、国際法の側に立ち、アラブ・イスラム世界の正当な願望の側に立っていく」と述べた。

中国の王毅外相は2024年1月、アフリカの多くの国々を訪問した。その際、イスラエル・ハマス戦争の仲介役の1人であるエジプトへの訪問の機会を利用し、停戦とパレスティナ国家の確立を繰り返し訴えた。

しかし、専門家たちは、北京の行動はほとんどがパフォーマンスであり、具体的な成果はほとんど得られていないと主張している。ヨーロッパ外交問題評議会のマーク・レナードが『フォーリン・アフェアーズ』誌上で指摘したように、2023年11月のBRICS首脳会議では、共同声明も現実的なロードマップも作成できなかった。ブルッキングス研究所によれば、中国が提案した和平案では、紛争解決の責任は北京ではなく、国連安全保障理事会にあるとしている。

大西洋評議会の非常勤研究員であるアーメド・アブドゥは2023年12月、「中国の外交用語の不明瞭さと、世界第2位の経済力を持っているにも関わらずガザに提供した金額の少なさ」を引き合いに出し、イスラエルとハマスの戦争調停に対する中国の真剣さは「巧妙な欺瞞(smoke and mirrors)」に過ぎないと書いている。

中国政府は紛争に巻き込まれるのではなく、バイデン政権の世界的な信頼性に疑問を投げかける一環として、ワシントンを厳しく追及し、米中両国の間の立場の違い対比させることに重点を置いている。こうした努力は国連安全保障理事会でも全面的に表れており、中国は2023年10月にアメリカの提出した安保理決議案が停戦を求めていないとして批判し、拒否権を発動した。ロシアもこの決議案に拒否権を発動した。

中国の張国連大使は、「アメリカは加盟諸国のコンセンサスを無視した新たな決議案を提出した」と述べた。北京を含む他の理事国が修正案を提案した後でも、ワシントンは彼らの「主要な懸念(major concerns)」を無視し、「善悪を混同(confuses right and wrong)」した決議案を提出したと張国連大使は続けて述べた。

12月下旬、人道的即時停戦(immediate humanitarian ceasefire)を求める安全保障理事会決議案(Security Council draft resolution)にワシントンが拒否権を発動した後、中国は再びその投票を利用して自らをグローバル・サウスと並び称し、ワシントンの立場を際立たせた。張国連大使は、決議案の約100の共同提案者の1人として、中国政府は「草案がアメリカによって拒否権を発動されたことに大きな失望と遺憾の意を感じている。これら全ては、二重基準(double standard)が何であるかを改めて示している」と述べた。

中国国営メディアもこうした意見に同調し、アメリカと中国の立場の相違にさらに注目した。『環球時報』はアメリカの拒否権について、「ガザ住民の安全と人道的ニーズに配慮すると主張しながら、紛争の継続を容認するのは矛盾している。紛争の継続を容認しながら、紛争の波及を阻止することを主張するのは自己欺瞞(self-deceptive)である」と書いている。

さらに最近、北京はイスラエルの行動に対する怒りの最も明確なケースの1つにおいて、グローバル・サウスと協調している。国際司法裁判所(International Court of JusticeICJ)での南アフリカによるイスラエルに対する大量虐殺訴訟がそれである。国際司法裁判所(ICJ)には判決を執行する手段はないが、南アフリカが提起した裁判は、イスラエルに対する国際的な圧力の高まりを反映している。

国際司法裁判所は、イスラエルがガザで大量虐殺を犯しているかどうかという問題についてはまだ判決を下しておらず、おそらくこれから何年も判決を下すことはないままだろうが、先週の金曜日には、イスラエルの軍事作戦の緊急停止を命じるよう裁判所に求めた南アフリカの要求に応えた。国際司法裁判所は判決の中で、イスラエルに対し、ガザの民間人への被害を最小限に抑えるために「あらゆる手段を取る(take all measures)」よう命じた。

この判決が発表された後、中国の国営メディアは、イスラエルのガザでの行動に対して「見て見ぬふりをするのをやめるよう」いくつかの主要国に働きかけることになる((some major countries to stop turning a blind eye))との期待を表明した。これに対してバイデン政権は、プレトリアによる大量虐殺疑惑は「根拠がない(unfounded)」という立場を繰り返したが、国際司法裁判所の判決はイスラエルに市民の安全を確保するよう求めるイスラエルの要求に沿ったものだとも述べた。

中国は長年、グローバル・サウス諸国との政治的・経済的関係を育むことを優先しており、王外相は最近、2024年の最初の外遊をエジプト、チュニジア、トーゴ、コートジボワールを訪問して締めくくった。中国外相が今年最初の世界歴訪の目的地をアフリカにするのは34年連続となる。その後、王外相はブラジルとジャマイカを訪問した。

アトランティック・カウンシルの専門家であるアブドゥは、「中国はイスラエルを、巻き添え被害を与える存在として扱うことにした。中国は、グローバル・ガバナンスと戦略的優先事項のために、これらの国々の支援を求めている」と述べている。

※クリスティーナ・ルー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:@christinafei

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。準備中に、イスラエルとハマスの紛争が始まり、そのことについても分析しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカは戦後、中東地域で大きな影響力を保持してきた。親米諸国と反米諸国が混在する中で、石油を確保するために、中東地域で超大国としての役割を果たしてきた。1993年にはオスロ合意によって、イスラエルとパレスティナの和平合意、二国間共存(パレスティナ国家樹立)を実現させた。しかし、中東に平和は訪れていない。パレスティナ問題は根本的に解決していない。今回、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はパレスティナ問題を「最終解決」させようとしているかのように、徹底的な攻撃を加えている。アメリカは紛争解決について全くの無力な状態だ。イスラエルを抑えることもできていないし。パレスティナへの有効な援助もできていない。

 アメリカの中東政策について、下の論稿では、「社会工学(social engineering)」という言葉を使っている。この言葉が極めて重要だ。「社会工学」を分かりやすく言い換えるならば、「文明化外科手術」となる。はっきり書けば、非西洋・非民主的な国々を西洋化する(Westernization)、民主化する(democratization)ということだ。日本も太平洋戦争敗戦後、アメリカによって社会工学=文明化外科手術を施された国である。アメリカの中東政策は、アラブ諸国に対して、西洋的な価値観を受け入れさせるという、非常に不自然なことを強いることを柱としていた。結果として、アメリカの註徳政策はうまくいかない。それは当然のことだ。また、アメリカにとって役立つ国々、筆頭はサウジアラビアであるが、これらに対しては西洋化も民主化も求めないという二重基準、ダブルスタンダード、二枚舌を通してきた。

 アメリカの外交政策の大きな潮流については、私は第一作『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)で詳しく書いたが、大きくは、リアリズムと介入主義(民主党系だと人道的介入主義、共和党系だとネオコン)の2つに分かれている。第三作『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)で、私は「バイデン政権は、ヒラリー・クリントン政権である」と結論付けたが、ヒラリー・クリントンは人道的介入主義派の親玉であり、バイデンはその流れに位置する。従って、アラブ諸国を何とかしないということになるが、それではうまくいかないことは歴史が証明している。それが「社会工学」の失敗なのである。

 最新作『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)で、私は世界が大きく「ザ・ウエスト(西洋諸国)対ザ・レスト(西洋以外の国々)」に分裂していくということを書いたが、西洋による社会工学=文明化外科手術への反発がその基底にある。私たちは、文明化外科手術を中途半端に施された哀れな国である日本という悲しむべき存在について、これから向き合っていかねばならない。

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「バイデン・ドクトリン」は物事をより悪化させるだろう(The ‘Biden Doctrine’ Will Make Things Worse

-ホワイトハウスは中東に関して、自らの利益のために野心的過ぎる計画を策定している。

スティーヴン・A・クック筆

2024年2月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/09/biden-doctrine-israel-palestine-middle-east-peace/

アメリカに「中東についてのバイデン・ドクトリン(Biden Doctrine for the Middle East)」は必要か? 私がこの質問を発するのは、トーマス・フリードマンが先週の『ニューヨーク・タイムズ』紙でバイデン・ドクトリンについて述べていたからだ。どうやらバイデン政権は、「イランに対して強く毅然とした態度(a strong and resolute stand on Iran)」を採用し、パレスティナの国家化(statehood)を進め、サウジアラビアに対して、サウジアラビアとイスラエルとの関係正常化(normalization)を前提とした、防衛協定(defense pact)を提案する用意があると考えられている。

フリードマンのコラムがホワイトハウス内の考え方を正確に反映しているなら、そしてそうでないと信じる理由はないが、私は「ノー」の評価を下すことになる。これまで中東変革を目的とした大規模プロジェクトを避けてきたジョー・バイデン大統領とその側近たちは、特にパレスティナ国家建設に関しては、噛みつく以上に多くのことを実行しようとしている。これが更なる地域の失敗になる可能性が高い。

第二次世界大戦後のアメリカの中東外交を振り返ると、興味深いパターンが浮かび上がってくる。政策立案者たちがアメリカの力を使って悪いことが起こらないようにした時は成功したが、ワシントンの軍事、経済、外交資源を活用して良いことを起こそうとした時は失敗してきた。

中東地域で国際的な社会工学(social engineering 訳者註:文明化外科手術)にアメリカが公然と取り組もうとしたきっかけは、1991年にまでさかのぼる。その年の1月から2月にかけて、アメリカはイラクの指導者サダム・フセインのクウェート占領軍を打ち破った。そしてその10ヵ月後、ソ連の指導者たちはこの連合を終わらせることを決定した。アメリカは、唯一残された超大国として独り立ちしたのである。冷戦に勝利したワシントンは、平和を勝ち取ること、つまり世界を救済することを決意した。中東でこれを実現するために、アメリカ政府高官が求めた主な方法は「和平プロセス(the peace process)」だった。

フセインによるクウェート吸収への努力が行われ、イスラエルとその近隣諸国との紛争との間に関連性がほとんどなかったにもかかわらず、イスラエルとアラブとの間に和平を築こうとするアメリカの努力は、砂漠の嵐作戦後のワシントンの外交の中心となった。もちろん、抽象的なレベルでは、イラクもイスラエルも武力によって領土を獲得していたが、1990年8月のイラクのクウェート侵攻と1967年6月のイスラエルの先制攻撃はあまりにも異なっていたため、比較の対象にはなりにくかった。

中東和平へのアメリカの衝動は、国際法(international law)というよりも、アメリカの力がより平和で豊かな新しい世界秩序の触媒になりうるという信念に基づくものだった。もちろん、これは主流の考え方から外れたものではなかった。結局のところ、アメリカは世界をファシズムから救ったのであり、ジョージ・HW・ブッシュ大統領がマドリードで平和会議を招集した当時、ソヴィエト共産主義は死にかけていた。

あらゆる努力にもかかわらず、ブッシュの中東における目標は依然として主にアラブとイスラエルの和平問題の解決に限定されていた。和平プロセスが決定的に変化する様相を呈したのはクリントン政権になってからである。 1993年の同じ週、イスラエルのイツハク・ラビン首相とパレスティナ解放機構の指導者ヤセル・アラファトが、当時のアメリカのアメリカ大統領ビル・クリントンと国家安全保障問題担当大統領補佐官アンソニー・レイクの支援と許可のもとでオスロ合意の最初の合意に署名した。ビル・クリントンとアンソニー・レイクは、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題大学院(SAIS)の学生と教職員の前に現れ、冷戦直後の世界におけるクリントン政権の米国外交政策の目標を述べた。クリントン大統領のアプローチの中心は、レイクが「民主政治体制の拡大(democratic enlargement)」と呼んだものだった。

クリントン率いるティームが中東の変化を促進する方法はパレスティナを通じてであった。クリントンは、イスラエル人とパレスティナ人の間の和平は、より平和で繁栄した統合された地域を生み出し、それによって中東の国家安全保障至上国家群の存在の理論的根拠を損なうことになると推論した。平和の後、アラブ世界では権威主義が民主的な政治制度に取って代わられることになる。主要な側近の一人の言葉を借りれば、「クリントンは変革の目標を自らに設定した。それはアラブ・イスラエル紛争を終わらせることによって中東を21世紀に移行させることだ」ということだ。

和平が政治的変化をもたらすという考えは魅力的だったが、クリントンはこの地域の権威主義的な政治の理由を見誤っていた。いずれにせよ、イスラエル人とパレスティナ人の間で紛争終結に向けた合意を成立させようとしたクリントンの努力は、ほぼ10年かけても実を結ばなかった。クリントンが大統領を退任すると、暴力がイスラエルとパレスティナの両地域を巻き込み、第2次インティファーダ(Intifada)が発生した。

クリントンの次の大統領ジョージ・W・ブッシュは当初、クリントンが中東和平に割いた時間とエネルギーに懐疑的だったが、実はブッシュはパレスティナ国家をアメリカの外交政策の目標と宣言した最初の大統領だった。そこに到達するために、彼は前任者の論理をひっくり返した。ブッシュのホワイトハウスにとって、パレスティナの政治機構を民主的に改革し、ヤセル・アラファトを追放して初めて和平が成立するということになっていた。

クリントン前大統領と同様、ブッシュは失敗した。大統領執務室をバラク・オバマ大統領に譲った時、パレスティナの民主政治体制も和平もパレスティナ国家も存在しなかった。クリントンとブッシュは、中東に対するアプローチがまったく異なる2つの政権にもかかわらず、中東の政治的・社会的変革という共通の野心的目標を共有していた。

イラクの変革であれ、いわゆるフリーダム・アジェンダによる民主政体の推進であれ、パレスティナ国家建設の努力であれ、中東においてアメリカは失敗を繰り返していると認識していながら、オバマもドナルド・トランプ大統領もバイデンもそのことを念頭に置いていなかった。新しい中東を社会工学的に設計したいという願望を持っていた。バイデンの場合、彼はイスラエル人とパレスティナ人を交渉させ、和平協定に署名させるための当時の国務長官ジョン・ケリーの奮闘を監督したが、二国家解決には悲観的な見方をした。バイデンの側近たちは就任直後、過去の政権の地域的野望は繰り返さないと明言した。

そして、2023年10月7日、ハマスによる約1200名のイスラエル人の残忍な殺害と、イスラエルによるガザ地区での徹底的な破壊を伴う軍事的対応が始まった。トーマス・フリードマンによれば、イスラエルとハマスの戦争が続き、ほとんどがパレスティナの民間人である死体が積み重なる中、バイデンは中東で成し遂げたいこと、つまり、石油の自由な流れを確保すること、イスラエルの安全保障に対する脅威を防ぐ手助けをすること、中国を出し抜くこと、は、再び外部から中東の変化を促すような新しく野心的なアメリカのドクトリンなしには実現しそうにないという結論に達したということだ。

公平を期すなら、イランがワシントンとの新たな関係を望んでいないことをホワイトハウスが理解したことは好ましい進展だ。また、サウジアラビアとの防衛協定は、中国との世界的な競争という点では理にかなっている。しかし、パレスティナの国家建設にアメリカが多額の投資をすることは、以前の取り組みのように失敗に終わる可能性が高い。

確かに、今回は違いがある。10月7日以降、専門家たちが何度も繰り返してきたように、戦争は新たな外交の機会を開く。しかし、イスラエルとパレスティナという2つの国家が並んで平和に暮らすことで、現在の危機から脱するチャンスが訪れると信じる理由はほとんど存在しない。

バイデンと彼のティームは、二国家解決を追求するしかないと感じているかもしれないが、自分たちが何をしようとしているのかを自覚すべきである。今回のイスラエル・パレスティナ紛争は、アイデンティティ、歴史的記憶、ナショナリズムといった、とげとげしい、しかししばしばよく理解されていない概念に縛られている。

イスラエル人とパレスティナ人の闘争には宗教的な側面もある。特にハマスとメシアニック・ユダヤ人グループ(messianic Jewish groups)は、ヨルダン川と地中海の間の土地を神聖化している。パレスティナの政治指導者たち(ハマスもパレスティナ自治政府も)は、ユダヤ教とパレスティナの歴史的つながりを日常的に否定している。これらの問題から生まれる対立的な物語は、バイデン政権が現在思い描いているような共存には向いていない。

そして、イスラエルとパレスティナの社会における残忍な政治が、長年にわたる当事者間の膠着状態を助長してきた。ガザを中心としたイスラエルとハマスの闘争は、イスラエル人がパレスティナ人の和平のための最低限の要求(完全な主権を持つ独立国家[a fully sovereign independent state]、エルサレムに首都設置[a capital in Jerusalem]、難民の帰還[a return of refugees])を受け入れることをより困難にする可能性が高い。同様に、パレスティナ人は、自分たちの鏡像であるイスラエルの最低限の和平要求に同意することはできないだろう。 イスラエル人が求めているのは、エルサレムをイスラエルの分割されていない永遠の首都とすること、1967年6月4日に引かれた線を越えて領土が広がる国家とすること、そしてパレスティナ難民を帰還させないことである。

新しいアイデアを失い、ガザ戦争で世界の競争相手である中国に立場を譲ることを懸念し、若い有権者たちからの支持の喪失を懸念しているバイデンとそのティームは、和平プロセスにしがみついているが、失敗に終わった事業であり、過去30年間で、今ほど、これ以上成功する見込みはない時期は存在しなかった。

ある意味、大統領を責めるのは難しい。和平プロセスの努力をしていれば安全なのだ。大統領の党内にはそれを支持する政治的支持がある。彼は努力したと言うことができる。中東を変革しようとするこの最新の動きが、おそらく何年にもわたる交渉の結論の出ない交渉の末にパレスティナ国家を生み出せなかった時、バイデンはとうに大統領職を終えていることだろう。

その代わりにアメリカは何をすべきか? これはとても難しい問題だ。それは、この問題が、解決不可能な紛争を解決するためのアメリカの力の限界を認識するように、特にアメリカの政策立案者、連邦議会議員、そしてワシントン内部(the Beltway、ベルトウェイ)の政策コミュニティに求めているからだ。

それでも、アメリカにできる重要なことは存在する。それは、イランがこれ以上地域の混乱を招くのを防がなければならないということだ。ワシントンは、既に起こっている地域統合の後退を食い止めるために努力しなければならない。そしてアメリカの指導者たちは、イスラエル人に対し、なぜイスラエルを支持する政治が変わりつつあるのかを説明することができる。ある意味では、これはイスラエル人とパレスティナ人の間の和平について、より利益をもたらす環境作りに役立つだろうが、それが実現し、実際に利益をもたらす保証はない。

2001年のある出来事を思い出す。イスラエルのアリエル・シャロン首相との記者会見で、コリン・パウエル米国務長官(当時)は「アメリカは当事者たち以上に和平を望むことはできない(The United States cannot want peace more than the parties themselves)」と発言した。これこそがバイデン大統領が陥っている罠なのである。

※スティーヴン・A・クック:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、米外交評議会中東・アフリカ研究部門エニ・エンリコ・マテイ記念上級研究員。最新作『野心の終焉:中東におけるアメリカの過去、現在、未来(The End of Ambition: America’s Past, Present, and Future in the Middle East)』が2024年6月に発刊予定。ツイッターアカウント:@stevenacook

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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