古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:イスラエル

 古村治彦です。

 アメリカは冷戦期以降、世界において、2つの大きな地域的非常事態(two major regional contingencytwo-MRC)に即応できるようにする戦略を採用している。簡単に言えば、世界のどこかで2つの大きな戦争が起きてもそれらに対応し、2つの戦争を同時に戦って勝つことができるようにするというものだ。下記の論稿では、「アメリカ軍は連戦気においては、2つの大きな戦争と1つの小さな戦争を同時に戦って勝てると主張していた」ということだ。そのためにアメリカ軍の能力を常に世界最大、最強にしていくということがこれまで当たり前だった。

 しかし、ドナルド・トランプ前大統領が当選して風向きが変わった。世界各地に駐留するアメリカ軍の撤退とNATOをはじめとする同盟諸国の防衛費の引き上げを求める流れになった。「もうアメリカはそこまでのことはできない」ということになった。日本の防衛予算をGDP2%まで上昇させよ(これまでは1%以内ということになってきた)という動きはこのアメリカの動きに連動している。トランプ政権がこうした要求を出して、バイデン政権になっても継続している。アメリカにしてみれば、軍需産業の売上が上がることだし、結構なことだということになる。

 アメリカ軍は既に2つの大きな戦争を同時に戦うことはできない。第二次世界大戦の時のようにヨーロッパとアジアで物量と大量の兵員で押し込んで敵を屈服させるということはできない。1つの戦争だけならばまだ戦えるが、それも厳しいということになる。現在のウクライナ戦争は、アメリカの戦費と武器によって戦われているものであり、アメリカ・ウクライナ連合軍と言っても良いだろうが、国土が荒廃し、将兵がどんどん死んでいくというのはウクライナばかりだ。武器がどんどん消費され儲かるのは軍需産業ということになる。ただ、アメリカ軍は自軍の貯蔵から武器を供与しているが、その補充が間に合っていないということが起きているようだ。

 アメリカ軍が懸念すべき地域としては、東アジア(中国と台湾、朝鮮半島)、中東(イランとイスラエル)、ウクライナ(対ロシア)がある。これらの地域で危機が起きた場合に、アメリカ軍は即応することはできないと下記論稿で述べられている。そのため、同盟諸国に対し防衛費の増額を求めている。そうした中で、ウクライナ戦争が起きた。これを「渡りに船」と各国は防衛費を増額している。防衛費ということになると、不思議なことにジャンジャンお手盛り、「財源は?」などと言う質問ができないようになっている。これは多くの国でも起きている。

 これだけでもアメリカ一極集中の時代は終わりということになる。他の国を巻き込むということになる。日本はどこまでお付き合いするかを決めておかねば、いつの間にか最前線でアメリカの武器を持って、日本の防衛以外の外国での戦争を戦わされることになっている可能性もある。そうした馬鹿げたことにならないように願うばかりだが、どうも雲行きは怪しい。

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アメリカは4正面戦争を戦うことが可能なのだろうか? それは現在では不可能だ(Could the US fight a four-front war? Not today

レオナード・ホックバーグ、マイケル・ホックバーグ筆

2021年6月6日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/556666-could-the-us-fight-a-four-front-war-not-today/

ジョー・バイデン大統領がイラン核合意の再交渉を模索する一方で、イランのテロリストの代理人であるハマスが、アメリカの同盟国であるイスラエルに戦争を仕掛けてきた。民主党の一部の進歩主義的な人々が、政治的正しさという祭壇の上でイスラエルを犠牲にすることを主張しても、外交政策の専門家たちは、アメリカが信頼性を保つために同盟諸国を守る必要があることを認識している。ハマスの抑制と引き換えに核交渉でイランをなだめる試みは、チグリス・ユーフラテス川流域からシリア、レバノン、ガザを通る三日月地帯の支配を目指すイランの長期戦略に資することになる。

地政学的分析の祖といわれるハルフォード・マッキンダーは、『民主政治体制の理想と現実』(1919年)の中で、スエズ運河を支配するイギリスにとって聖なる土地が重要であることを強調した。また、地政学的な観点から、シベリアに鉄道を敷設すれば、ランドパワーが単独または同盟を組んでユーラシア大陸に資源を動員し、シーパワーの覇権に対抗することができることを強調した。2度の世界大戦とその後の冷戦は、マッキンダーの言う「ハートランド」を支配しようとする勢力が、ユーラシア大陸沿岸の国民国家を支配することを阻止するために行われたのである。

今日、マッキンダーの地政学的悪夢が現実のものとなりつつあるように思われる。ロシア、中国、イランという3つの独裁政権が北朝鮮などと連携してマッキンダーのハートランドを占め、ヨーロッパ、インド、極東の自由主義的民主制体制諸国家に大きな影響力を行使している。中国は、「一帯一路」構想の一環として、ユーラシア大陸を経済的、文化的、軍事的に結びつけている。この脅威の領土的範囲は、西はバルト海と黒海から、南シナ海、台湾海峡、東シナ海、ベーリング海にまで及んでいる。

アメリカと同盟諸国は、ユーラシア大陸の環太平洋地域周辺にある複数の紛争地点に直面している。ロシアはクリミア征服を強化するため、ウクライナに脅威を与え続けている。アメリカはウクライナが核兵器を放棄した際、1994年のブダペスト・メモランダムでウクライナの領土保全を保証した。ロシアはその保証の価値の低さを雄弁に物語っている。一方、ロシアはNATO加盟国であるバルト3国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)にも脅威を与えている。NATO加盟国への侵攻が成功すればアメリカの信用は失墜する。

中国は、香港が独立を保ってきた「一国二制度」の原則を否定し、習近平指導者は、必要なら武力で台湾を中国に編入すると宣言している。中国は、台湾を侵略または封鎖する能力を構築しており、先端エレクトロニクスや半導体を台湾に依存し、太平洋における中国の野心を封じ込める港としてアメリカを脅かしている。東シナ海では、中国は日本の尖閣諸島の領有権を主張し、南シナ海では、重要な航路の主権を主張するために人工島を建設している。中国は現在、全ての海洋近隣諸国を脅かしており、ブータンやインドなど陸地の近隣諸国への侵略を始めている。チベットと香港は征服され、占領された領土である。

ならず者的な独裁体制諸国家は脅威を増している。イランはイエメンの反政府勢力フーシを支援し、ペルシア湾岸諸国とイラクのシーア派の不満を煽り、ヒズボラを通じてレバノンとシリアを支配し、ホルムズ湾を通る船舶を脅している。北朝鮮は韓国に対して通常兵器の脅威を与え、その核開発計画はアメリカを標的としている。

上海協力機構(SCO)は、中国が主導し、ロシアが追随する同盟であり、マッキンダーのハートランドを占める独裁的な大国の多くを結び付けている。アメリカはこの30年ほどで初めて、中国という独裁的な競争者と敵対することになった。中国の軍事費は指数関数的な上昇を続けているが、NATOの防衛費は横ばいである。敵の裏庭で戦争をして勝つには、敵が最も強く、私たちが最も弱いところで戦うことが必要である。

冷戦の最盛期、アメリカは2つの大きな戦争と1つの小さな戦争を戦うことができると主張していた。しかし、その軍事力は、敵対国の軍事力に比べ、徐々に低下している。軍事力の低下を示す一つの重要な指標は、アメリカの海軍艦隊の規模である。レーガン政権時代、米国は600隻の海軍を維持することを目指した。レーガン政権時代、アメリカは600隻の海軍を維持しようとしたが、それ以来、アメリカの海軍艦隊の規模は劇的に縮小している。セス・クロプシーによれば、今日、「アメリカ海軍は101隻の艦船を世界中に展開している。アメリカ海軍の艦隊全体では297隻に過ぎない」という。中国沿岸の課題に対応するための艦艇はもちろん、ユーラシア大陸の複数の紛争地点での侵略を抑止するための艦艇も十分ではない。近い将来、中国が台湾への侵攻を表明しているにもかかわらず、アメリカはアジア太平洋地域の第7艦隊の一部として配備された空母を持たなくなるだろう。

アメリカが直面する危機を評価する上で、国家安全保障の専門家たちはアメリカに敵対する国々が協調して行動する可能性を考慮しなければならない。もしアメリカと同盟諸国が、ウクライナ、台湾、イスラエルに対する4正面同時戦争に直面し、さらに北朝鮮が韓国を攻撃し、核抑止力を活用し、イランがホルムズ海峡を封鎖したらどうだろう。このような攻撃は、おそらくアメリカの金融・物理インフラへのサイバー攻撃と組み合わされるだろう。

アメリカはこのような同時多発的な挑戦に対応する軍事能力を有しているのだろうか? 同盟諸国を守り、条約上の約束を守るために核兵器を使用する準備はできているのだろうか? 厳しい選択を迫られた場合、アメリカはこれらの紛争のどれを優先させるか? 多面戦争を回避するためには、アメリカは同時に複数の場所で通常兵器を使った紛争を戦い、勝利する準備を整え、同盟国の自衛能力を強化するために投資しなければならない。

アメリカの国家安全保障分野のアナリストたちは、あまりにも長い間、マッキンダーの悪夢を生み出してきた地政学を無視してきた。権威主義的な諸大国は、共通の大義を見出し、行動を調整するという強い歴史を持っている。独裁者たちは、立法府の議論なしに決定を下すという贅沢さと呪いを持っている。もしアメリカが、中国、ロシア、イラン、北朝鮮という独裁諸国家枢軸による協調行動を抑止できなければ、これらの大国は必ずや共通の原因を見つけ、多面的な戦争に発展するだろう。

※レオナード・ホックバーグ:「マッキンダー・フォーラム・US」のコーディネイター。外交政策研究所上級研究員。スタンフォード大学をはじめ複数の高等教育機関で教鞭を執った退職教授。彼はまたフーヴァー研究所研究員に任命された。彼は、「ストラットフォー」の前身「ストラティジック・フォーキャスティング・Inc」を共同創設した。

※マイケル・ホックバーグ:物理学者。半導体製造分野と電気通信分野で4つの成功したスタートアップ企業を創設した元大学教授。それらの企業の中には2019年にシスコが買収したラクステラ、2020年にノキアに買収されたエレニオンがある。シンガポール(NRF Fellowship) aとアメリカ(PECASE)で若手科学者にとっての最高賞を受賞。

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(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 古村治彦です。

 ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は世界各国の議会で演説をして支援を訴える活動をしている。日本での「国会演説」は23日に午後から夕方にかけての時間帯が予定されているそうだ。議事堂の本会議場では映像を見る装置がない、設置が難しいということで議員会館の国際会議室などで映像中継が行われるということだ。こうなると、日本の国会議員全員が一堂に会して同時に演説を拝聴するという訳にはいかないようだ。

 ゼレンスキー大統領はドイツとイスラエルの議会で演説し、上から目線で、両国に取って言われなくないことを嫌らしく責めたてて、一部から反感を買ってしまったようだ。ドイツではホロコーストを取り上げ、ウクライナの首都で起きたナチス親衛隊によるウクライナ人虐殺事件のあった場所にも言及した(この事件にはウクライナ人協力者もいたのだが)。そして、「再び起こさない(Never Again)」というドイツの政治家たちが述べてきたスローガンは「無価値だ」と断じた。イスラエルの国会でも演説し、イスラエル首相がモスクワに飛んでプーティン大統領と直接会談を持ちその後も電話会談を続け、ゼレンスキー大統領とも電話会談を続け、仲介のために動いていることに触れ、支援をするのか、仲介だけをするのか選んでその答えを出せと迫り、現在の状況をホロコーストと比較する発言も行った。その内容に関して、イスラエルの一部の国会議員は怒りを持っているようだ。

 英米に対しては下手に出て、ドイツやイスラエルには高飛車に出る。このような調子で、日本の国会議員たちに対して一体何を語るのだろうか。ゼレンスキー大統領の演説内容には日本政府は要望を出せるだろうが、それを受け入れるかどうかは分からない。ゼレンスキー(と彼の側近グループ)は相手の聞きたいことをいう能力に長けているようだが、それは同時に相手の聞きたくないことをピンポイントで突いてくる能力もあるということだ。

 日本の国会議員に対する演説がどのようになるかは気になるところだ。

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ゼレンスキーがドイツに対する演説の中でホロコーストのスローガンを引用:「再び起こさない」のスローガンが今は「何の価値もない」(Zelensky cites Holocaust slogan in address to Germany: 'Never again' now 'worthless'

マウリーン・ブレスリン筆

2022年3月17日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/europe/598565-zelensky-invokes-holocaust-in-address-to-german-lawmakers-never

CNNは、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は木曜日、ドイツの連邦議員たちを前に演説し、ホロコースト(Holocaust)に関連して、よく知られたスローガン「再び起こさない(never again)」を使用したと報じた。

ゼレンスキーはドイツ連邦議会(ブンデスターク、Bundestag)に対して強固な態度で臨み、「政治家たちは毎年毎年“再び起こさない”と言う言葉を述べてきた。その言葉をこれまで聞いていた皆さんに申し上げる。この言葉には何の価値もないこと(worthless)は私にとっては明らかことだ。今、私たちの国全体がヨーロッパにおいて絶滅させられそうになっている。それはなぜだ?」と述べながら、更なる援助を懇請した。

ゼレンスキーはドイツ連邦議会で続けて「第二次世界大戦を生き延びた、もしくは占領から救出された、バビ・ヤール(Babyn Yar)の虐殺(1941年、キエフの収容所でドイツの親衛隊と地元の協力者たちによってユダヤ人が虐殺された事件)を生き抜いた、あなた方の中の高齢の方々に申し上げている。昨年バビ・ヤールの悲劇の80周年で式典にはドイツのシュタインマイヤー大統領も出席した。そこにロシアのミサイルが直撃したのだ」と述べた。

ゼレンスキーは「そこで家族が殺されたのだ。80年後に再び」と続け、現在のロシアの攻撃を第二次世界大戦中の攻撃と比較してその悲惨さを強調した。

ゼレンスキー氏は、「あなた方もまた壁の向こう側にいる。私たちの土地に爆弾が着弾する度にウクライナで死んでいくウクライナ人とあなた方を隔てる壁がある」と述べ、過去のソ連の東ドイツ占領とベルリンの壁のイメージも呼び起こした。

ゼレンスキーは「この国(ロシア)は、ヨーロッパに壁をもたらした国だ。この壁の向こうには何があるのか?」と問いかけた。ゼレンスキーは更に「これは新しい壁の基礎だ。多くの人には政治のように見えるが、これは新しい壁のための石だ」とも述べた。

NATOの一員となるためにウクライナ人は何をすべきかと質問したが、あなた方は、テーブルの上にそのような決定はないと言い続け、テーブルには今のところ皆さんのための椅子はないと述べ、今なお保留を続け、ウクライナのEU加盟を遅らせている」と述べ、彼自身がEUの行動不足と呼んだ状況を批判した。

ゼレンスキー大統領はまた、ロシアを非難し、ドイツ連邦議会でウクライナの状況がいかに酷いことになっているかを説明した。ゼレンスキーは「彼らは私たち全員を砲撃している。昨日、何百人もの人々が隠れていた劇場が爆破された。その前に産婦人科医院が爆撃された。これは24時間起きている。マリウポリ市には援助の手を差し伸べることができない。人々が生き延びる可能性を一切認めないのだ」と述べた。

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ゼレンスキーは国会議員への演説の中でイスラエルのロシアによる戦争への対応を批判(Zelensky criticizes Israel's response to Russian war in speech to lawmakers

オラヒミン・オシン筆

2022年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/europe/598963-zelensky-presses-israel-on-response-to-russia-in-speech-to

『エルサレム・ポスト』紙はウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は日曜日、イスラエルの国会議員に対して「ロシアから自国を守るために支援して欲しい」と懇願したと報じた。

イスラエルの国会(クネセト、Knesset)での演説で、ゼレンスキー大統領は、なぜイスラエルの政府関係者が、アメリカやヨーロッパが科しているのと同様の制裁をロシアに対してまだ科していないのかと疑問を呈した。また、ウクライナに壊滅的な打撃を与えているロシアの空爆から国民を守るため、イスラエルのミサイル防衛システム「アイアンドーム(Iron Dome)」をウクライナに供与するよう要請した。

ゼレンスキー大統領は「イスラエルはなぜロシアへの制裁を控えているのか? イスラエルはこれらの質問に対して答えを出す必要があり、その後、出した答えと生きていく必要があ る。ゼレンスキー大統領は、イスラエルのアイアンドーム・システムを「世界最高水準」と賞賛した。しかし、『エルサレム・ポスト』紙によると、ウクライナ大統領は、イスラエルがウクライナの防衛に貢献していないことへの不満を表明した。

ゼレンスキーは次のように語った。「私たちはあなた方に向かって、支援を与えることがより良いことなのか、それともどちらかに味方をするということを決めずに仲介を行うことがより良いことなのかということを今この時に質問する。私はこの質問に対する答えをあなた方に決めてもらうことにするが、無関心は人々を殺す(indifference kills)ということは指摘しておきたいと思う」。

ゼレンスキー氏大統領はまた、現在ウクライナが戦争状態で忍耐を強いられていることをホロコースト(Holocaust)と比較し、イスラエルの国会議員の一部を怒らせた。

宗教的シオニスト党のベザレル・スモトリッチ党首は、ゼレンスキー大統領の講演後、「彼のイスラエル批判は正当であり、私たちへの期待が高いことを理解した。しかし、ゼレンスキーがホロコーストと現状を比較したことや、歴史を書き換えて、ユダヤ人絶滅の試みにおいてウクライナ人が一定の役割を果たしたことを抹消しようとする彼の行為は、腹立たしく、馬鹿げたものだ」と断じた。

先週、アメリカの連邦議員たちに対して演説した際、ゼレンスキーは911事件と真珠湾攻撃を持ち出して、米連邦議会に更なる援助と「ウクライナの上空を閉鎖せよ(close the sky over Ukraine)」と迫った。

バイデン政権は、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定することは支持しないと述べている。飛行禁止区域設定はロシアとの紛争をさらにエスカレートさせるとバイデン政権は主張している。

エルサレム・ポスト紙は、イスラエルのヤイール・ラピド外相が声明の中で、ゼレンスキー大統領が「自分の気持ちとウクライナの人々の苦難を分かち合ってくれた」ことに感謝し、イスラエルはウクライナへの支援を続け、「戦争の悪夢に苦しむ人々に決して背を向けない」と述べたと報じた。

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 古村治彦です。

 ロシアとウクライナの間での停戦交渉は進展が見られない中で4回目の交渉が実施されるという報道がなされている。西側諸国ではフランスのマクロン大統領やドイツのシュルツ首相がロシアのウラジミール・プーティン大統領と会談を行ったが、大きな成果は上がっていない。そうした中で、ロシアのプーティン大統領、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領と直接会談を持っているのが、イスラエルのナフタリ・ベネット首相だ、とイスラエル政府高官が述べているということだ。ベネット首相は直接モスクワまで飛んで、プーティン大統領と直接面会して会談を行った、西側諸国の唯一の政治指導者ということになる。
naftalibennettvladimirputin511

ベネット首相とプーティン大統領 
 それぞれの会談内容の詳細は漏れ伝わっていないが、プーティン大統領が西側諸国との間で外交チャンネルを開いて話ができるようにしておきたいと考えていること、プーティン大統領はウクライナ東部の支配権を握りたいと考えていること、ゼレンスキー大統領は、NATO加盟の断念とウクライナ東部について柔軟な姿勢を示していること、が今回の記事で示唆されている。ウクライナ東部の分離主義勢力の支配する地域の独立承認はウクライナ側としては受け入れがたいだろうが、最終的には独立を認めるということもあるのではないかと思う。NATO加盟は現実として不可能という状況ではこれを受け入れるしかない。

返す返すも残念なのは昨年までであれば、ウクライナの中立ということで、ウクライナ側にとって今よりももっと良い条件での合意ができた可能性が高いということだ。そこを見誤ったということで、ゼレンスキー大統領の評価は下げざるを得ない。見た目の華やかさや報道に惑わされるべきではない。戦時大統領としての行動は評価するにしても、政治は結果責任である以上、今回の状況を招いた責任は取らねばならない。ウクライナの歴史や地理的状況を考えれば、大国間政治を一番に理解しておかねばならなかった人物だ。

 ウクライナ軍と国民の抵抗によって、ロシア軍の侵攻が停滞しているうちに、交渉をまとめて少しでも良い条件を引き出す、ということが重要だ。アメリカや西側諸国が大逆転のための施策を実行してくれない以上、ここから大逆転は難しい。焦土作戦(scorched earth)では犠牲が大き過ぎる。どんなに冷酷で残酷でも、置かれている状況で最善の方策を探すことがリアリズムだ。

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プーティン、ゼレンスキーは現在も交渉中-イスラエルを通じて(Putin, Zelensky Still Talking—Through Israelis

-現在もロシア軍の攻勢が続く中で、プーティンとイスラエル首相ベネットは月曜日に1時間半にわたって会談を行った。

マイケル・ハーシュ筆

2022年3月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/14/putin-zelensky-still-talking-through-israelis/?tpcc=recirc_latest062921

ロシア大統領ウラジミール・プーティンは月曜日、イスラエルのナフタリ・ベネット首相と、ウクライナでの停戦の可能性について1時間半にわたって話したとイスラエル政府高官が述べた。ロシア指導者プーティンがウクライナ西部で積極的な軍事進出を続ける中、今回の会談は行われた。

このイスラエル政府高官は匿名を条件に本誌の取材に応じ、会話の詳細は明らかにしなかったが、ベネット首相が6日にモスクワ訪問から戻って以来、プーティン大統領と行ったいくつかの会談のうちの1つであったという。ベネット首相は月曜日、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領とも会談し、ゼレンスキー大統領は次のようにツイートした。「私たちは、ロシアの侵略を背景とした私たちの共同歩調とパートナーの歩調について情報交換した。さらなる行動で合意した」。

前述のイスラエル政府高官は、「プーティンとベネットは、ロシアとウクライナの間の停戦に向けた努力や人道的な事項について話した」と述べた。ロシアとウクライナの交渉担当者による別の話し合いは、火曜日にも続けられる予定だ。

プーティン大統領とベネット首相、ゼレンスキー大統領とベネット首相の会談の内情を知る上級外交官たちによれば、プーティンとゼレンスキー双方で言葉の軟化が見られるということだ。しかし外交官たちは、ロシア軍がウクライナの激しい抵抗に阻まれている間、約3週間続く戦争で戦場を有利にしようとするプーティン側に、真剣な外交を行う準備ができているとは考えていないようだ。米国防総省高官は月曜日の状況説明において、記者団たちに対して、ロシア軍は首都キエフに向かって前進しているが、国内でのロシアの前進は「ほとんど全て」停滞していると語った。

それでも、プーティンはベネットとの会談に意欲的だ。戦争が始まって以来、プーティンが直接会った唯一の西側の指導者であり、これはプーティンが外交チャンネルを開いておきたいと考えていることを示すものだ。ベネット首相が最後にプーティン氏と話したのは先週の火曜日で、イスラエルの指導者ベネット首相は今週月曜日に閣議を抜け出してプーティン大統領に電話した。この電話は予め決まっていたものだったと外交官たちは述べた。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのオラフ・ショルツ首相、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が参加した交渉に、アメリカ政府関係者は一切参加していない。「フランス、ドイツ、イスラエル、トルコなどのパートナーや同盟諸国が外交的な解決を求める努力を尊重している」とバイデン政権幹部は電子メールを通じて述べた。この人物は「私たちは彼ら全員とオープンで定期的なハイレベルのコミュニケーションチャンネルを維持している。私たちは外交的提案がウクライナの利益と観点を反映するよう、ゼレンスキー大統領とウクライナ政府と緊密に協議し続けるよう促している」とも述べた。

会談に携わった複数の外交官たちによれば、プーティンは近いうちに、ロシアが東部のみを完全に支配することを意味する領土問題の妥協点を交渉する準備が整うかもしれないと述べた。それにもかかわらず、特にロシアのミサイルがポーランド国境近くのヤボリブ訓練基地を攻撃し、少なくとも35人が死亡した後、緊張関係は戦争当初と同様に高いままだ。

ゼレンスキーは、ウクライナをNATOに加盟させないというロシアの要求に対して、妥協する可能性を残している。先週のABCニューズとのインタヴューで、ゼレンスキーは次のように語っている。「NATOがウクライナを受け入れる用意がないことを理解した後、私はずいぶん前にこの問題について冷静になった。NATOは物議を醸すことやロシアとの対立を恐れているのだ」。

ウクライナ東部の分離主義勢力が支配する領土の問題について、ウクライナ大統領ゼレンスキーは、「これらの領土で人々がどのように生きていくかについて話し合い、妥協点を見出すことができる」と述べ、交渉の用意があるように思われる。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 現在、アメリカは対ロシア強硬姿勢を強めている。ウクライナを巡り、ロシアとアメリカは対立している。このブログでもご紹介しているが、ウクライナと対ロシア強硬姿勢という言葉が揃えば、出てくるのは「ヴィトリア・ヌーランド」という人名だ。ヌーランドについては、このブログでも何度もご紹介しているし、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で書いている通り、国務省序列第三位の政治担当国務次官を務めている。今回の対ロシア強硬姿勢のエスカレートの裏には、ヴィクトリア・ヌーランドがいる可能性が高い。彼女がシナリオを書いているかもしれない。これは大変危険なことだ。

 さて、以下の論稿にある通り、ウォルト教授はウクライナ問題について、ロシアとの衝突を避けるべきだという立場だ。アメリカ軍を派遣して、現地でロシア軍と衝突ということになれば愚の骨頂だ。ロシアはジョージ・ケナンが指摘したように、被害者意識を持ち、自分たちの国土を守るために、緩衝地帯を作ろうという考えを長年持っている。NATOが拡大して、やがてロシアの国境にまで迫ることを懸念し、嫌悪している。そのために、NATOを拡大させることは得策ではない。NATOを拡大させるならば、「ロシアを敵視しない」ということをロシアに納得させることが必要だが、それは難しい。なぜならば、NATO拡大の裏には、対露強硬姿勢の欧米の勢力がいるからだ。その代表格がヴィクトリア・ヌーランドということになる。

 また、『』の著者であるウォルト教授はイスラエルについても厳しい見方をしている。イランとの核開発合意を復活させること、もしイスラエルがイランに対して、攻撃を加えるという決定を下すのならば、アメリカの支援を期待すべきではない、ということを主張している。ウォルト教授は、核開発合意の破棄は、アメリカ国内のイスラエル・ロビーの力によってなされたものだと見ており、それはアメリカの国益に合致しないと考えている。これこそは、国際関係論におけるリアスとの考え方である。

 「内憂外患」という言葉がある。国内、国外に問題が山積しているという状態を意味する言葉だ。アメリカはまさに内憂外患の状態だ。個別の問題もあるが、アメリカ国内の問題は深刻な分断だ。その不満を逸らすために、外国の問題をフレームアップする。これはいつの時代にも行われてきたことだ。ロシアや中東の問題をことさらに大きくフレームアップするのは、アメリカ国内の問題が大いに深刻だからと言うことができる。

 私の個人的な見方では、ロシアをフレームアップすることで、相対的に中国へのアメリカの敵視が弱まっているように思われる。これが意図されたものだとすると、その設計者はジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官ではないかと思っている。米中の本格的な衝突は、世界のパワー・バランスを大きく変化させ、不安定さをより増大させることになる。それを避けるために、小さな問題をフレームアップしながらも、衝突は避けるという芸当を行おうとしているのではないかと思う。それはそれでリスクの高い行動だが、米露がお互いに「相手は本気で衝突する気がないだろう」と考えているうちは、まだマネイジメントができるかもしれない。しかし、偶発的ということはある。そうなれば、「想定外」のことが起きて、世界は不安定化する。そのことも念のため考慮しておかねばならない。

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バイデンの2022年の外交政策やることリスト(Biden’s 2022 Foreign-Policy To-Do List

-アメリカ大統領ジョー・バイデンが今後1年間に準備すべき課題を予見する。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2021年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/12/28/bidens-2022-foreign-policy-to-do-list/

たとえ彼の政策が気に入らなくても、アメリカ大統領ジョー・バイデンの勇気には感心するはずだ。大統領執務室での最初の日、彼がどのように感じたか想像してみて欲しい。この国は世界規模の新型コロナウイルス感染拡大の渦中にあり、共和党の指導者たちのほとんどがいまだに非難することを拒んでいるクーデター(訳者註:2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件)の失敗を辛うじて乗り切った。2020年にバイデンが打ち負かしたライアー・イン・チーフ(訳者註:コマンダー・イン・チーフのもじり)は、正々堂々と負けたことを認めようとしない(そして今もそうだ)。国は勝ち目のない戦争に陥っており、そこからきれいに抜け出す方法はなかった。民主党は連邦議会でぎりぎりの差をつけて過半数を握っており、個々の連邦上院議員には判断力や誠実さをはるかに超えた影響力が与えられていた。さらに、地球上のすべての生命が依存している生態系は、深刻な異常事態に陥っている。

バイデンが直面した課題と配られたカードの貧弱さを考えれば、バイデンはそれほど悪い結果を出している訳ではない。しかし、外交政策におけるいくつかの真の成功にもかかわらず、2022年も彼に大きな安らぎを与えることはないだろう。新型コロナウイルスは依然として深刻な問題であり、アメリカの敵国はますます活発になり、アメリカの同盟諸国はますます分裂しているように見える。一方、かなりの割合のアメリカ人が、誤ったシナリオとでっち上げられた「事実」に満ちた別世界に住んでいる。

しかし、せっかくのホリデーシーズンなので、まずは明るい話題で、潜在的な火種を一つ取り除いてみよう。台湾問題は今後も米中関係を複雑にするだろうが、あえて言えば、2022年には台湾をめぐる深刻な危機や軍事的対立は起きないだろう。中国政府とアメリカ政府はともに、ここ数カ月、危機の温度を下げるために静かに努力し、エネルギー価格の低下や気候変動への懸念に対処するために積極的に協力している。台湾をめぐる対立は、米中両国のどちらにとっても今一番避けたい問題なのだ。

バイデンの外交チームは引き続き中国との長期的な競争に重点を置くだろうが、この問題に対する超党派のコンセンサスが生まれつつあり、それがアメリカを強化するための効果的な政策に反映されれば助けとなるだろう。(皆さんもご存じの通り:ビルド・バック・ベター法案がそうだ。)それでも、今後12カ月以内に事態が好転することはないだろう。というのも、2022年には、他のいくつかの問題が政権の受信トレイを埋め尽くすことになりそうだからである。

(1)ロシアとウクライナの問題。 西側諸国の一部の悲観論者とは異なり、私はロシアがウクライナ全土を征服するための大規模な侵攻を行うとは考えていない。ウクライナ全土を占領すれば、強力な経済制裁が発動され、NATOは東側諸国を軍事的に強化する(プーティン大統領はこれを望んでいない)だけでなく、モスクワは怒れる4300万人のウクライナ人を統治しなければならなくなるのだ。頑迷固陋なナショナリズムは旧ソ連帝国を崩壊させた原因の一つであり、このような勢力がウクライナを再統合しようとすれば、モスクワには到底負担しきれないほどの出費を強いることになる。

もしロシアが武力行使に踏み切った場合、表向きはウクライナ東部の親ロシア派を「支援」するための、より限定的な侵攻になると思われ、おそらくこれらの地域を守るための緩衝地帯も追加設定されるだろう。これは、プーティンがグルジア(ジョージア)、南オセチア、アブハジアなどで行った「凍結された紛争(frozen conflicts)」と同様であり、予想が異なことかもしれないが、比較的リスクの低い行動を取るというプーティンの傾向と一致するものだ。利害関係が小さくなるため、「限定的な目的」戦略は、欧米の強力で統一された反応を引き起こす可能性が低くなる。その過程で、プーティンがウクライナにどれだけの損害を与えようとするかが大きな問題だ。プーティンは「教訓を与える」(そして欧米に近づきすぎないよう周囲に警告する)誘惑に駆られるかもしれないが、ウクライナを罰することは、欧米の厳しい反応を招くリスクも高めることになる。

バイデンはここで勝ち目のない状況に陥っている。アメリカから遠く離れ、ロシアのすぐ隣にある地域で実際の銃撃戦を起こそうという気はさらさらないし、ウクライナ政府に更に武器を送っても、ロシアの限定的な進出を抑止できるほどパワー・バランスは傾かないだろう。しかし、対露強硬派は、この問題を解決するための外交的取引は、ネヴィル・チェンバレン的な最悪の宥和政策(appeasement)だと非難するだろう。

この魅力のない状況は、NATOの開放的な拡張がイデオロギー的には魅力的だが、戦略的には近視眼的(myopic)であることを思い起こさせる。NATOの拡張は、(1)「広大な平和地帯(vast zone of peace)」を作り出し、(2)ロシア政府が「NATO拡張は脅威ではない」というNATOの保証を容易に受け入れ、(3)NATOが行った、あるいは示唆した約束は決して守る必要がない、と支持者たちは無頓着に考えている。残念だが、この船は出港してしまった。バイデンとNATOが今直面している課題は、ロシアの脅迫に屈したように見せずにウクライナの独立を維持する方法を見つけ出すことだ。2014年当時、ウクライナの中立性について合意に達するのは、簡単とは言い難いが、まだ容易であっただろうが、今日の場合ははるかに困難であろう。

(2)イスラエルとイラン問題。あなたの名前がマイク・ポンペオ元アメリカ国務長官、ジョン・ボルトン元大統領国家安全保障問題担当補佐官ではなく、民主政治体制防衛財団(Foundation for Defense of Democracies)のようなタカ派ロビーで働いていないなら、イランとの共同包括行動計画(Joint Comprehensive Plan of ActionJCPOA)からの離脱というトランプの決断が過去50年間で最も間抜けな外交政策決定の一つであることをおそらく理解していることだろう。そしてこれが意味しているのは以下のようなことだ。イランは現在、トランプが一方的に協定を破棄しなければ保有していたであろう量よりも多くの高濃縮ウランを保有している。さらに多くの高性能遠心分離機が稼働し、より強硬な政府が誕生しているが、これらはトランプとポンペオの無分別な「最大限の圧力(maximum pressure)」作戦の結果だ。バイデンは大統領就任後、共同包括行動計画を復活させると公約したが、イスラエル・ロビーの力を尊重したためにその実現に逡巡してしまい、手遅れになるまで放置する結果となってしまった。

共同包括行動計画の下で、イランが核兵器1個を製造するために必要なウランを製造するためにかかる時間(breakout time)は1年以上であった。しかし、それが現在では数週間となっている可能性が高い。このような状況は、アメリカのこれまでの行動の結果である。しかし、アメリカまたはイスラエルがイランの核製造設備に対して軍事行動を起こすという話が再燃しているのは驚くに値しない。爆撃によってイランの核爆弾製造能力を破壊することはできない。せいぜい核爆弾製造を遅らせることができる程度であり、その期間もそこまで長くはない。この方法でイランを攻撃すれば、攻撃に対するより確実な抑止力を持ちたいというイラン側の欲求が強まり、イラン政府内の強硬派の立場が更に強くなり、最終的には核の「隠し持ち(latency)」の段階から、公然とした核武装国になるようにしようと、イラン政府全体が説得される結果に終わるだろう。

トランプの失敗のおかげで、今日の選択肢は魅力的なものではない。今後、イスラエルとアメリカ国内にいるイスラエル支持者たちは、2022年の1年間を使って、イスラエルの予防攻撃(preemptive strike)の可能性をほのめかし、実際にはイスラエルに代わりにアメリカにイランへの対処の負担を負わせようとすることは間違いないだろう。バイデンがそうした声を聞き入れず、「イランと戦争を始めたい国は自力でやるしかなく、アメリカの保護はあてにはできない」と明言することを期待する。このことが意味するのは、たとえバイデンがアジア地域や気候変動、新型コロナウイルス感染拡大に焦点を当て、中東にはあまり時間と関心を割かないようにしたいと思っても、中東を完全に無視することはできないだろう、ということである。

(3)信頼性についての懸念。バイデンはまた、アメリカの信頼性について問題にどう対処するかを考えなければならないが、まずその問題が何であるか、その内容を正確に理解する必要がある。世間で言われているのとは逆に、これはバイデンが意志薄弱であるとか、アフガニスタンの撤退が予想以上に混沌としていた、という問題ではない。私や他の人々が繰り返し主張してきたように、関与(commitments)とは、潜在的な挑戦者たちが、大国が特定の問題や地域を守ることに明確な利益を持ち、攻撃者に大きなコストを課す能力があることを認識したときに、最も信頼できるものになる。利害関係が重要でない場合、あるいは必要な能力が欠けている場合、瀬戸際やそれ以上の場所に行く意思があることを相手に納得させるのははるかに難しい。

今日、アメリカが信頼性の問題を抱えているのは、主に2つの理由がある。第一に、アメリカは過度の関与を行っていることで、安全保障関連対応を全て同時に履行することは困難であるということである。理論的には、この問題を解決するために、自国が攻撃を受ける度に激しく抵抗し、将来の攻撃を阻止することが考えられるが、時間が経つにつれ、この方法は資源と政治的意志を消耗する。このため、現在のアメリカの信頼性は、バイデンが無抵抗だからではなく、国全体が無意味な戦争にうんざりしているからやや低いということになる。そして、戦争に疲れているのは、その信頼性を保つために愚かな戦争をし続けたからでもある。 こうして、誰かがこれらの紛争を終わらせようとするたびに「宥和は駄目だ」と叫んだタカ派は、結局、彼らが解決したいと主張する問題そのものを悪化させることになったのだ。

第二に、今日のアメリカの信頼性は、特定の国際情勢への対応と同様に、国内の分極化と政治的機能不全によって損なわれている。次の大統領が急変して反対方向に向かうかもしれないのに、なぜ他国はアメリカの政策に合わせる必要があるのか。予算編成や新型コロナウイルス感染拡大の管理、必要なインフラ整備に苦労している国と、なぜコストのかかる計画を調整する必要があるのか。物事を効果的に成し遂げるアメリカの基本的な能力に対する信頼が薄れれば、アメリカの信頼性が損なわれるのは必然である。たとえ意志があったとしても、約束を果たすことができると他国を説得することも重要である。

(4)次の人道上の危機。次の人道上の危機がどこで発生するかわからない。アフガニスタンか?ベネズエラか?ミャンマーか?レバノンか?しかし、環境的な圧力、根強い暴力、経済的な崩壊が重なれば、過去の悲劇と頑強な新型コロナウイルス感染拡大に疲弊した国際社会にとって、新たな悲劇を引き起こす可能性がある。このような事態が発生した場合、大統領にとって最も希少な資源である「時間」が直ちに消費されてしまう。もし私がバイデンに助言するならば、予想外の事態に対処するために少し余裕を持っておくように言うだろう。彼はそれを必要とするだろう。

(5)優先順位を決め、それらを守ること。このようなリストを作成していると、エチオピアの内戦拡大、進行中の移民・難民危機、マクロ経済崩壊の可能性、環境災害など、項目を追加するのは容易だ。従って、アメリカの外交政策を担う人々にとって、2022年の最後の課題は、最新の危機に巻き込まれないようにすることであろう。この問題が勃発すれば(上記の第四点を参照のこと)、バイデンと外交政策チームは、現地の従属国、資金力のあるロビー団体、熱心なジャーナリスト、人権活動家、企業利益団体、その他大勢から、今日のホットスポットを大統領の優先リストに加えるよう容赦ない圧力を受けることになるであろう。「アメリカは復活した」ということを証明したいバイデン政権は、こうした圧力に特に弱く、予期せぬ出来事によって政権の軌道が狂う危険性が高くなる。そうなれば、「やりすぎて、そのほとんどを失敗してしまった」最近の政権の長いリストに加わることになる。

ここで、悪いニュースを一つ。2022年を前にして、私は上記のどの問題も、アメリカの将来、そして今世紀の残りの期間におけるアメリカ人の生活にとって、アメリカが国内で直面している課題ほど重要であるとは思えない。私の教え子であるバーバラ・ウォルターのように、内戦が起きる可能性について真剣に研究している人たちは、アメリカの現状と軌道が、数年前までは想像もできなかったような内戦の危険性を現実のものとすると警告を発している。たとえ大規模な暴力事件が起こらないとしても、次々と選挙が争われ、「人々に選ばれた(elected)」政府は民意を代表せず、広く正当性を欠き、政府機関はますます基本的機能を効果的に果たせなくなることは容易に想像がつくだろう。基本的な自由とアメリカ人の生活の質を脅かすだけでなく、このような国内分裂は、効果的な外交政策を行うことをほとんど不可能にし、アメリカの衰退を加速させるだろう。

これまで述べてきた様々な理由から、2022年のバイデンの主な課題は、就任の宣誓をしたときから変わっていない。アメリカが世界の舞台で成功するためには、その民主政治体制の根幹を蝕んでいる党派的狂騒(partisan insanity)を終わらせねばならない。端的に言って、この目標を達成することは、現時点では誰の手にも負えないことかもしれない。更に率直に言えば、この大混乱を止めるには、大規模でかつ困難な憲法改正しかないと私は確信している。しかし、大規模な改革は、現在の政治秩序の反民主的な特徴から利益を得ている共和党を筆頭とするグループから激しい抵抗を受けることは間違いない。

ということで、皆さん、良いお年をお迎えください。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト兼ハーヴァード大学ロバート・レニー・ベルファー記念国際関係論教授

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2021年5月29日に発売しました最新刊について、担当編集者からもっと頑張って宣伝するようにと発破をかけられました。出版社がどのような宣伝をしているのか全く分かりませんが、私はできることが限られておりますので、自分が利用している媒体を使ってお知らせをするしかできません。

ですので、ブログ記事の冒頭にてご紹介させていただくスタイルをしばらく継続いたします。「もう飽きたよ」「見づらい」という方には申し訳ありませんが、本が売れるかどうかは次の出版につながるかどうか、ということにも関連しますので、しつこくやります。また、ブログは無料で公開していますが、このスタイルが良いのか、宣伝媒体としての力がないのではないかと考える場合には閉鎖も含めて検討したいと思います。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

  民主党進歩主義派(ポピュリズム派)を代表する4名の女性連邦下院議員たち(「スクアット(The Squad)」と呼ばれている)に対する非難決議案が連邦下院に提出された。この4名については拙著でも取り上げている。その理由は、アメリカとイスラエルをテロ組織タリバンとハマスと同列に並べるような発言をしたこと、テロ攻撃を擁護するかのような発言を行ったこととされている。提出したのはいずれも共和党所属の下院議員たちだ。
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左からAOC、プレスリー、オマル、タリーブ
 イスラエルに関してとなると、アメリカ政界では過剰とも言える反応が出る。それは、「イスラエル・ロビー(Israel Lobby)」と呼ばれる、親イスラエル系の組織や団体が資金や動員力を使って、アメリカの政治家たちを脅し上げているからだ。これによって、イスラエルが行う行為をアメリカが正当化するということになる。「反イスラエル」というレッテル貼りをされると、選挙では勝てない。また、ナチスと同じくらいに悪い人間ということにされる。

 アメリカ国内でも「Jストリート」のような穏健で、イスラエルに対しては是々非々の、手厳しい姿勢を取っている、ユダヤ系アメリカ人団体もあるが、全体としては、なんでもイスラエル擁護、イスラエル国内のユダヤ人たちよりも強硬な姿勢を取るユダヤ系アメリカ人たちが多くいる。

 ビビ・ネタニヤフ首相が退陣、ということが起き、イスラエルで政権交代が起きた。こうした時期に、連邦下院で、イスラエルに対して厳しい姿勢を取っているとされる議員たちに対する非難決議案が出されたというのは、これら2つの出来事は関連していると考えねばならない。中東和平、パレスチナ和平で、イスラエル・ロビーやイスラエル国内の強硬派を置き去りにして、アメリカが主導して何らかの妥協を行うことをけん制する目的があるのだろうと考えられる。

しかし、そもそもバイデン政権にとっての主要政策は、対中、対露政策であり、中東政策の重要性は下がっていると思われる。そのことにイスラエルは危機感を持っていることだろう。その危機感がアメリカ国内のイスラエル・ロビーに伝わり、連邦議員たちを動かしているという構図になっていると考えられる。

(貼り付けはじめ)

連邦下院共和党が「スクアッド」を非難する決議案を提出(House Republicans introduce resolution to censure the 'Squad'

マイケル・シューネル筆

2021年6月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/house/558280-house-republicans-introduce-resolution-to-censure-omar-ocasio-cortez-tlaib-and?fbclid=IwAR3zP3fqVrmT1SsKFY-Jj1foReDjFZa_ADKdiTCrjreuqwoEw8veizvQg3Y

共和党所属の連邦下院議員3名は月曜日、民主党所属の連邦下院議員であるイルハン・オマル(Ilhan Omar、ミネソタ州選出)、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez、ニューヨーク州選出)、ラシダ・タリーブ(Rashida Tlaib、ミシガン州選出)、アヤンナ・プレスリー(Ayanna Pressley、マサチューセッツ州選出)に対する批判決議案を提出した。その理由は4名の議員たちは「テロリスト組織を擁護し、アメリカ各地での反ユダヤ攻撃を誘発した」というものだ。

決議案を提出したのは、マイク・ウォルツ(Mike Waltz、フロリダ州選出、共和党)、ジム・バンクス(Jim Banks、インディアナ州選出、共和党)、クラウディア・テニー(Claudia Tenney、ニューヨーク州選出、共和党)の3名だ。時に「ザ・スクアッド(The Squad 訳者註:部隊という意味)」と呼ばれる4名の議員たちは多くの事件を引き起こしている。最も最近批判を集めているのはオマルで、タリバンとハマスというテロ組織の戦争犯罪とアメリカとイスラエルの戦争犯罪を同列に並べた発言が攻撃を受けている。
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テニーとバンクス
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ウォルツ

決議案は更に、4名の下院議員がイスラエルを「アパルトヘイト国家(apartheid state)」と呼んだとし、タリブに関しては、イスラエル政府がパレスチナ人たちに対して「民族浄化(ethnic cleansing)」を行っていると発言したとしている。

ウォルツはプレスリリースの中で次のように述べている。「アメリカの緊密な同盟国であるイスラエルに対するハマスによるテロ攻撃を公の場で擁護し、危険な言葉遣いで全米各地での反ユダヤ攻撃を誘発している連邦議員たちの存在から目を背けることはできない」

バンクスも同様の声明を発表し、その中で、4名の議員たちは繰り返し、アメリカとアメリカに近い同盟諸国を侮辱してきた、と述べている。

最近、批判を浴びたのは、オマルが先週の連邦下院外交委員会での公聴会の席上、アントニー・ブリンケン国務長官に対して、アフガニスタンにおけるタリバンとアメリカ軍による犯罪についての国際刑事裁判所による捜査について質問した際に、ガザをめぐる紛争でのハマスとイスラエルについても同様の質問を行ったことだ。

オマルは、ブリンケンに対する質問の件についてヴィデオ撮影した弁明をツイートした。そして、次のようにツイートした。「人道に対する罪の被害者全てに対して説明責任と正義をもたらす必要がある。私たちは、アメリカ、ハマス、イスラエル、アフガニスタン、タリバンによる考えられないレヴェルの残虐行為を目撃している。私はブリンケン国務長官に対して、このような人々が正義を求めるためにはどこに向かうべきかという質問を行った」。

ソマリア難民のオマルは連邦議員に選ばれた最初のイスラム教徒女性2名のうちの1名である。オマルは、アメリカとイスラエルをテロ組織と同列に並べた発言をしたのではないということを明確にしようと努力を続けている。

オマルは声明の中で次のように述べた。「月曜日、私はアントニー・ブリンケン国務長官に対して、国際刑事裁判所によって現在も継続されている捜査について質問した。ここで明確にしておきたい。私たちの質疑応答は国際刑事裁判所が捜査している個別の事件についての説明責任についてであった。ハマスとタリバンとアメリカとイスラエルとの間の道徳上の比較を行うことが目的ではなかった」

オマルに対する批判が高まる中、先週、連邦下院議長ナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)と連邦下院民主党指導部は、稀なケースであるが、共同で声明を発表した。この声明は拡大していく論争と攻撃を鎮める目的を持っていた。しかし、声明では、「民主政治体制国家とテロリズムに関与する諸組織(ハマスとタリバン)を同列に扱うという過ちを犯し」、また、「偏見を助長し、平和と安全保障の未来に向かう進歩を損ねる」としている。

日曜日、ペロシはCNNの「ステイト・オブ・ザ・ユニオン」に出演し、ペロシは連邦下院民主党指導部に対して、オマルを「叱責しないように」求め、オマルは「連邦下院にとって重要なメンバー」であると発言した。

今年2月、別の非難決議案が民主党によって出され、この決議案は可決した。評決は党派のラインに沿って行われた。この決議によって、マージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)から連邦下院の各委員会からの排除が決定された。その理由は、グリーンが陰謀論と人種差別的な主張、民主党の政治家たちに対する暴力を支持してきたというものだった。

本誌はオマル、AOC、タリブ、プレスリーにコメントを求めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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