古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:イスラエル

 古村治彦です。

 2021年5月29日に発売しました最新刊について、担当編集者からもっと頑張って宣伝するようにと発破をかけられました。出版社がどのような宣伝をしているのか全く分かりませんが、私はできることが限られておりますので、自分が利用している媒体を使ってお知らせをするしかできません。

ですので、ブログ記事の冒頭にてご紹介させていただくスタイルをしばらく継続いたします。「もう飽きたよ」「見づらい」という方には申し訳ありませんが、本が売れるかどうかは次の出版につながるかどうか、ということにも関連しますので、しつこくやります。また、ブログは無料で公開していますが、このスタイルが良いのか、宣伝媒体としての力がないのではないかと考える場合には閉鎖も含めて検討したいと思います。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

  民主党進歩主義派(ポピュリズム派)を代表する4名の女性連邦下院議員たち(「スクアット(The Squad)」と呼ばれている)に対する非難決議案が連邦下院に提出された。この4名については拙著でも取り上げている。その理由は、アメリカとイスラエルをテロ組織タリバンとハマスと同列に並べるような発言をしたこと、テロ攻撃を擁護するかのような発言を行ったこととされている。提出したのはいずれも共和党所属の下院議員たちだ。
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左からAOC、プレスリー、オマル、タリーブ
 イスラエルに関してとなると、アメリカ政界では過剰とも言える反応が出る。それは、「イスラエル・ロビー(Israel Lobby)」と呼ばれる、親イスラエル系の組織や団体が資金や動員力を使って、アメリカの政治家たちを脅し上げているからだ。これによって、イスラエルが行う行為をアメリカが正当化するということになる。「反イスラエル」というレッテル貼りをされると、選挙では勝てない。また、ナチスと同じくらいに悪い人間ということにされる。

 アメリカ国内でも「Jストリート」のような穏健で、イスラエルに対しては是々非々の、手厳しい姿勢を取っている、ユダヤ系アメリカ人団体もあるが、全体としては、なんでもイスラエル擁護、イスラエル国内のユダヤ人たちよりも強硬な姿勢を取るユダヤ系アメリカ人たちが多くいる。

 ビビ・ネタニヤフ首相が退陣、ということが起き、イスラエルで政権交代が起きた。こうした時期に、連邦下院で、イスラエルに対して厳しい姿勢を取っているとされる議員たちに対する非難決議案が出されたというのは、これら2つの出来事は関連していると考えねばならない。中東和平、パレスチナ和平で、イスラエル・ロビーやイスラエル国内の強硬派を置き去りにして、アメリカが主導して何らかの妥協を行うことをけん制する目的があるのだろうと考えられる。

しかし、そもそもバイデン政権にとっての主要政策は、対中、対露政策であり、中東政策の重要性は下がっていると思われる。そのことにイスラエルは危機感を持っていることだろう。その危機感がアメリカ国内のイスラエル・ロビーに伝わり、連邦議員たちを動かしているという構図になっていると考えられる。

(貼り付けはじめ)

連邦下院共和党が「スクアッド」を非難する決議案を提出(House Republicans introduce resolution to censure the 'Squad'

マイケル・シューネル筆

2021年6月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/house/558280-house-republicans-introduce-resolution-to-censure-omar-ocasio-cortez-tlaib-and?fbclid=IwAR3zP3fqVrmT1SsKFY-Jj1foReDjFZa_ADKdiTCrjreuqwoEw8veizvQg3Y

共和党所属の連邦下院議員3名は月曜日、民主党所属の連邦下院議員であるイルハン・オマル(Ilhan Omar、ミネソタ州選出)、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez、ニューヨーク州選出)、ラシダ・タリーブ(Rashida Tlaib、ミシガン州選出)、アヤンナ・プレスリー(Ayanna Pressley、マサチューセッツ州選出)に対する批判決議案を提出した。その理由は4名の議員たちは「テロリスト組織を擁護し、アメリカ各地での反ユダヤ攻撃を誘発した」というものだ。

決議案を提出したのは、マイク・ウォルツ(Mike Waltz、フロリダ州選出、共和党)、ジム・バンクス(Jim Banks、インディアナ州選出、共和党)、クラウディア・テニー(Claudia Tenney、ニューヨーク州選出、共和党)の3名だ。時に「ザ・スクアッド(The Squad 訳者註:部隊という意味)」と呼ばれる4名の議員たちは多くの事件を引き起こしている。最も最近批判を集めているのはオマルで、タリバンとハマスというテロ組織の戦争犯罪とアメリカとイスラエルの戦争犯罪を同列に並べた発言が攻撃を受けている。
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テニーとバンクス
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ウォルツ

決議案は更に、4名の下院議員がイスラエルを「アパルトヘイト国家(apartheid state)」と呼んだとし、タリブに関しては、イスラエル政府がパレスチナ人たちに対して「民族浄化(ethnic cleansing)」を行っていると発言したとしている。

ウォルツはプレスリリースの中で次のように述べている。「アメリカの緊密な同盟国であるイスラエルに対するハマスによるテロ攻撃を公の場で擁護し、危険な言葉遣いで全米各地での反ユダヤ攻撃を誘発している連邦議員たちの存在から目を背けることはできない」

バンクスも同様の声明を発表し、その中で、4名の議員たちは繰り返し、アメリカとアメリカに近い同盟諸国を侮辱してきた、と述べている。

最近、批判を浴びたのは、オマルが先週の連邦下院外交委員会での公聴会の席上、アントニー・ブリンケン国務長官に対して、アフガニスタンにおけるタリバンとアメリカ軍による犯罪についての国際刑事裁判所による捜査について質問した際に、ガザをめぐる紛争でのハマスとイスラエルについても同様の質問を行ったことだ。

オマルは、ブリンケンに対する質問の件についてヴィデオ撮影した弁明をツイートした。そして、次のようにツイートした。「人道に対する罪の被害者全てに対して説明責任と正義をもたらす必要がある。私たちは、アメリカ、ハマス、イスラエル、アフガニスタン、タリバンによる考えられないレヴェルの残虐行為を目撃している。私はブリンケン国務長官に対して、このような人々が正義を求めるためにはどこに向かうべきかという質問を行った」。

ソマリア難民のオマルは連邦議員に選ばれた最初のイスラム教徒女性2名のうちの1名である。オマルは、アメリカとイスラエルをテロ組織と同列に並べた発言をしたのではないということを明確にしようと努力を続けている。

オマルは声明の中で次のように述べた。「月曜日、私はアントニー・ブリンケン国務長官に対して、国際刑事裁判所によって現在も継続されている捜査について質問した。ここで明確にしておきたい。私たちの質疑応答は国際刑事裁判所が捜査している個別の事件についての説明責任についてであった。ハマスとタリバンとアメリカとイスラエルとの間の道徳上の比較を行うことが目的ではなかった」

オマルに対する批判が高まる中、先週、連邦下院議長ナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)と連邦下院民主党指導部は、稀なケースであるが、共同で声明を発表した。この声明は拡大していく論争と攻撃を鎮める目的を持っていた。しかし、声明では、「民主政治体制国家とテロリズムに関与する諸組織(ハマスとタリバン)を同列に扱うという過ちを犯し」、また、「偏見を助長し、平和と安全保障の未来に向かう進歩を損ねる」としている。

日曜日、ペロシはCNNの「ステイト・オブ・ザ・ユニオン」に出演し、ペロシは連邦下院民主党指導部に対して、オマルを「叱責しないように」求め、オマルは「連邦下院にとって重要なメンバー」であると発言した。

今年2月、別の非難決議案が民主党によって出され、この決議案は可決した。評決は党派のラインに沿って行われた。この決議によって、マージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)から連邦下院の各委員会からの排除が決定された。その理由は、グリーンが陰謀論と人種差別的な主張、民主党の政治家たちに対する暴力を支持してきたというものだった。

本誌はオマル、AOC、タリブ、プレスリーにコメントを求めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 2020年8月13日、イスラエルとアラブ首相国連邦(UAE)が外交関係樹立に向けて動くことに合意したということをアメリカのドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスの大統領執務室で発表した。トランプ大統領の後ろには、ジャレッド・クシュナー(トランプ大統領の娘イヴァンカの夫)上級補佐官、スティーヴン・ミュニーシン財務長官が並んで立っていた。このことから、今回の合意を主導したのは、トランプ政権内の関与政策派(現実主義派、穏健派)だということが分かる。
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 今回の合意で、中東地域に「対話」の必要性が認識されるということが述べられている。中東地域では、2つの大国、サウジアラビアとイランが軸となり、そこにイスラエルが絡んで複雑な様相を呈している。加えて、歴史的な経緯から対話など望むべくもない状況であるが、そこにUAEとイスラエルの外交関係樹立というニュースが飛び込んできた。「イスラエルの存在を認めるのか」「イスラエルとの共存を認めるのか」という根本的な問題はある。しかし、現実的に見て、イスラエルを地上から消し去ることはできない。だが、イスラエルがあまりに傲慢に、かつ自己中心的過ぎるほどの行動を続けていくならば、そのことが存在を危うくしてしまうことは考えられる。

 イスラエルによるヨルダン川西岸地区の一部併合は、今回の合意の中では触れられていない。この併合計画はイスラエルの現実主義的なイスラエル労働党の流れではなく、中道から右派、現在のベンヤミン・ネタニヤフ政権による強行的過ぎる計画で、凍結することになるのではないかと私は考える。ジャレッド・クシュナー上級補佐官は、イスラエルの存立のために強硬な計画を凍結させ、その代償でUAEとの関係樹立を進めたということになるのだろうと思う。

 アメリカ大統領選挙に関連しては、今回の合意はあまり大きな影響は与えないだろう。アメリカ国民の関心は完全に内向きになっており、国際関係で言えば、対中脅威論に同調するという程度のことだろう。それでも、今回の合意は大統領選挙で争う、民主党のジョー・バイデンも賛意を示したことでも分かる通り、一歩前進ということになる。

(貼り付けはじめ)

イスラエルとアラブ首長国連邦の外交関係樹立についての5つの論点(5 takeaways from Israel and UAE opening diplomatic ties

ロウラ・ケリー筆

2020年8月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/national-security/511944-5-takeaways-from-israel-and-uae-opening-diplomatic-ties

トランプ大統領は、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が正式な国交を樹立すると発表した。これは歴史的な外交上の前進である。

しかし、専門家の間では中東地域の変動に対する影響について意見が分かれている。一部の専門家は、これはイランに対抗するための試みの一環として現実を承認した動きだと主張し、別の専門家たちは長期的な戦略というよりも短期的な政治的目標の反映だと述べている。

一方、批判的な人々は、イスラエルがヨルダン川西岸地区の一部の併合計画を凍結することをアメリカが支持していることについて、トランプ大統領のイスラエルとパレスチナとの間の和平プランの重要な部分を損なうものだとして重大な関心を持っている。

これから中東の外交における今回の新しい進展に関する5つの論点を見ていく。

(1)トランプ大統領は外交政策面からの再選に向けた促進材料を獲得(Trump gets pre-election foreign policy boost

トランプ大統領は大統領選挙まで3カ月を切った段階で、外交政策上の勝利を売り込むことができるようになっている。イスラエルとUAEの関係正常化に向けた動きは、イスラエル・パレスチナ紛争の解決のための、トランプ政権の掲げる「繁栄のための平和(Peace to Prosperity)」枠組みの重要は要素となる。

右派、左派両派に属する多くの人々がこの動きを称賛した。その中には大統領選挙でトランプ大統領と戦う民主党の大統領候補者ジョー・バイデンも含まれている。バイデンは声明の中で、今回の合意は、オバマ政権を含む「これまでの複数の政権の努力」の積み重ねの結果だと主張している。バイデンは、合意の発表を受けて「喜ばしい」と述べた。更に、彼自身と副大統領候補であるカマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は今年の11月に当選した暁には、「この前進の上に更に成果を築き上げるために努力する」と述べた。

イスラエル・パレスチナの和平計画はトランプ大統領の外交政策公約の礎石であり、義理の息子で上級補佐官のジャレッド・クシュナーの2年間の努力の成果である。

UAEは今年1月に和平計画が初めて明らかにされた時に、国際社会とアラブ世界の多くの国々が拒絶を表明する中で、積極的に支持を表明した国の一つだった。

しかし、その支持も、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相が今年6月にヨルダン川西岸地区を併合しようとした際に、ほぼ取り消される事態となった。これはトランプ大統領による計画に基づいたものであった。

木曜日のアメリカ、イスラエル、UAEの間での発表では、併合については議論をしていないと特に言及された。

ワシントンDCにあるシンクタンク「ファウンデーション・フォ・ディフェンス・オブ・デモクラシーズ(FDD)」の研究担当の副所長を務めるジョナサン・シャンザー「今回の発表は、クシュナー・アプローチにとっての決定的な勝利だと考えられます。地域の利益と地域の平和はヨルダン川西岸地区の一部の併合よりも優先されたということなのです」と述べた。

しかし、ワシントンDCにあるシンクタンク「アラブ・センター」の上級部長ハリリ・ジャウシャンは、今回の合意は、アブダビ(UAE政府)からの強力なプッシュによるもので、それはUAE自身がトランプ大統領への支持を促進することで利益を得ようとする動きの一環であると述べている。

「公開の合意はUAEによる公の試みということが言えるでしょう。UAEはトランプ大統領が危機に瀕していると考えており、それを何とかしようと考えたのでしょう。UAEはトランプに大統領の地位にとどまって欲しいと考えているのです」。

(2)UAEによる前進は他のペルシア湾岸諸国とアラブ諸国についての疑問を持たせることになった(A step forward by the UAE raises questions for other Gulf and Arab states

イスラエルと実効的な平和条約を結んでいるのはエジプトとヨルダンだけだ。その他の全てのアラブ諸国は2002年に、パレスチナ紛争と主権を持つパレスチナ国家樹立の話し合いによる解決が実現するまでイスラエルを承認しないことで合意した。

ジャウシャンは、今回の合意は、UAEによるイスラエル不承認という考えを損なうものだと述べている。

ジャウシャンは次のように述べている。「二国共存による解決という死体を埋葬してくれる人を探してきたようなものなのです。誰もそんなことをしてくれそうにありませんでした。これはもう一つの機能不全に陥った考えにも同様なことなのです。そのもう一つの考えとはアラブ諸国がイニシアティヴを取るというものです」。

「ワシントン・インスティテュート・フォ・ニア―・イースト・ポリシー」の上級研究員ガイス・アル=オマリは、UAEによる大胆なステップはしかしながら、他の湾岸諸国とアラブ諸国からすぐに追随者が出ることはないだろうと述べている。

オマリは次のように述べた。「この種の新たな展開は広範囲の準備と裏での根回しを必要とします。UAEはペルシア湾岸諸国の中で最も活発な外交を展開している国でしょう。そして、リスクを取ることを厭いません」。

オマリは続けて次のように述べている。「今回の動きはリスクがあります。パレスチナ人の多く、カタール、トルコ、そしてイランからの攻撃に晒されることもあるでしょう。その他の湾岸諸国は事態がどのように進展するかを様子見するでしょう。より長期で見れば、追随する2国が出るでしょう。それはバーレーンとオマーンでしょう」。

(3)中東地域の政治的なダイナミクスが変化(A shifting political dynamic in Middle East

オマリは、イスラエルとの関係を樹立するというUAEの決定は、アラブ諸国間に存在する緊張関係を深めることになるだろうが、新しい関係を作り出すことはないだろうと述べた。

オマリは次のように述べている。「実質的にイランの影響を受けた国々(シリアとレバノン)、カタール、アフリカ北部の国々を含む一部のアラブ諸国は、アラブ連合におけるUAEの会員資格をはく奪、もしくは凍結することを目指す可能性があります。しかし、UAEはサウジアラビア、エジプト、ヨルダンなどのアラブの大国グループの一部です。これらの国々は同盟関係が崩れることを望まないでしょう。パレスチナ自治政府は、UAEの動きに対する怒りに任せて動くのではなく、UAEのアラブ諸国中の同盟国に反感を持たせないようにすることが重要です」。

FDDのシャンザーは、UAEの動きは、イスラエルとヨルダンの関係を強める可能性があると述べている。ヨルダンはヨルダン川西岸地区の併合が進められれば大きな圧力を感じている。

シャンザーは「UAEがイスラエル国内でのヨルダン川西岸地区の併合についての議論を明確に止めたという事実は、ヨルダンとイスラエルの緊張関係を取りぞくことを意味します」とも述べている。

(4)イランはトランプ大統領、アメリカの同盟諸国の動きによって決断する方向に向かう(Iran drives decisions for Trump, allies

イスラエルとUAEの正式な関係樹立はトランプ政権がイランに対する圧力を強める中で起きた。トランプ政権はオバマ政権下でのイランとの核開発をめぐる合意の最後の部分を破壊しようと圧力をかけている。これはイラン政府に対してアメリカが圧力を強めていることを示すシグナルである。

ワシントン・インスティテュートのオマリは「イランは、イスラエルとUAEの間の利益の転換の真ん中にいます。両国はイランを自国の存在に関わる根本的な脅威と見なしています。今回の動きは対イラン枢軸の形成を促すことになるでしょう」と述べている。

大西洋協議会の「フューチャー・オブ・イラン・イニシアティヴ」のディレクターを務めるバーバラ・スラヴィンは、新たな正式な関係は、外交と対話の力を示すものであり、イラン政府はそのことを認識すべきだと述べている。

スラヴィンは次のように述べている。「イランは今回の合理について非難するでしょう。しかし、テヘランにいるイランの最高指導者層は、イスラエルを承認しないことがいかに時代遅れで、非生産的なことかを考えさせられることになるでしょう。中東地域に存在する全ての国々は、すぐに対話を持つ必要があります。特に長年にわたり敵対してきた国々の間での対話は必要です。つまり、今回のUAEとイスラエルの動きを単に“反イラン的”と形容するのは、地域の和解を更に困難にするでしょう」。

(5)しかし今回の合意は有権者の共感と支持を得られるだろうか?(But will it resonate with voters?

木曜日の発表は、ワシントンの外交政策エスタブリッシュメントから興奮をもって受け入れられた。しかし、大統領選挙に対する影響は最小限度のものとなるだろう。

エモリー大学政治学教授アラン・アブラモビッツは「外交政策は現状ではほぼ注目されていません」と述べた。

有権者たちの関心は新型コロナウイルス感染拡大、経済の危機的状況、ジョージ・フロイド殺害事件から人々の意識が高まった人種に関する正義問題に集まっている。

アブラモビッツは「今回の大統領選挙に関しては、外交政策問題は関心リストのかなり下に位置することになります」と述べた。

UAEとイスラエルの関係強化はトランプ大統領の支持基盤を強めることになるだろう。支持基盤の有権者にとって、トランプ大統領はイスラエルにとって最良の米大統領ということになる。しかし、新型コロナウイルス感染拡大と経済状態について関心を持っている、様子見の有権者たちを動かすことはほとんどないだろう。

共和党系の世論調査専門家であるウィット・アイレスは次のように述べている。「イスラエルと近隣諸国との関係についての問題はそれらに関心を持っている人々にとっては重要なのです。しかし、より多くの人々にとって、本当に関心を持っている問題は新型コロナウイルス感染拡大とその結果としての景気後退なのです。それらに加えて、人種をめぐる不正義と都市部での暴動なのです」。

トランプに対する反対者たちにとって、ヨルダン川西岸地域の併合の凍結は歓迎すべき動きだと考えられるが、トランプ大統領が独自のもしくは卓越した外交技術を持つことを示すものではない。更に言えば、進歩主義派は、併合の凍結は、併合という政策自体が破綻していることをトランプ大統領が認めたということになると考えるだろう。進歩主義派は長年にわたり、併合はパレスチナ側との交渉とアラブ諸国との関係改善いう希望を葬り去るものだと主張してきた。

「イスラエル・ポリシー・フォーラム」の政策部長マイケル・コプロウは次のように述べている。「トランプ政権とネタニヤフ首相は併合を推進してきました。しかし、徐々にではあるが、併合はイスラエルと近隣諸国との間の関係正常化を妨げる障害物だということを認識しつつあります。併合を政策から外すことこそがやらねばならないことなのです」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 

 2019年9月10日にドナルド・トランプ大統領は国家安全保障問題担当大統領補佐官ジョン・ボルトンの退任(解任)を発表しました。「これ以上ホワイトハウスで働いてもらう必要はない」(トランプ大統領のツイッターから)ということで、相当に関係がこじれていたことが推察されます。これに対して、ボルトンはやはりツイッター上で、「自分から辞任を申し出て、トランプ大統領は明日話そうと言った」と書いています。自分から辞めてやったんだと言っています。自発的な辞任でも解任でも結果は変わらない訳ですが。

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ボルトン
 

 ネオコンの代表格であるジョン・ボルトンがトランプ政権入りというのは、2017年の政権発足前後にもそうした噂話があり、後には実際にその話が進んでいたということが明らかになったことは、このブログでもご紹介しました。「アメリカ・ファースト(アメリカ国内問題解決優先)」「アイソレーショニズム(自国優先主義)」のトランプ大統領が、ボルトンを国家安全保障問題担当大統領補佐官に起用するとなった時には、どうしてそんな人事なんだろうか、トランプ大統領のイスラエル重視姿勢のためだろうかと不思議でした。

 

 ボルトンは対イラン強硬姿勢ではトランプ大統領と合意して順調だったようですが、その後は衝突が多かったそうです。また、マイク・ポンぺオ国務長官とも多くの機会で衝突したそうで、そのことはポンぺオ長官も認めています。普通、記者会見という公の場で、国務長官と国家安全保障問題担当大統領補佐官が衝突したなどということを国務長官が認めるということはないのですが、ポンぺオとしてはトランプの寵愛は俺の方にあった、という勝利宣言だったのでしょう。


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ポンぺオ
 

 ボルトンが属するネオコンは、世界の非民主国家に対して介入して、国家体制を転覆させ、民主政治体制にする、そして世界の全ての国家が民主国家になれば戦争はなくなるという、世界革命論的な主張をしています。この主張と姿勢は世界各国を共産主義国にするとした旧ソ連と同じです。民主政治体制を至高の存在と考えるという点では宗教的と言えるでしょう。しかし、ネオコンはアメリカにとって便利な存在である中東産油国や中央アジア諸国の王国や独裁国家を転覆させようとはしません。この点でダブルスタンダードであり、二枚舌なのです。

 

 ボルトン解任前、2019年9月7日にトランプ大統領はタリバンの代表者をアメリカに招き、キャンプ・デイヴィッドで会談を持つという計画の中止を発表しました。この中止の数日後の11日にはボルトン解任が起きました。そして、14日には、イエメンの反政府勢力ホーシー派(フーシ派)がサウジアラビアの石油製造施設2か所を10機のドローンで攻撃し、石油生産量が半減する事態となりました。ホーシー派はイランが支援しているということです。「イランの方向から飛んできた」という報道もありますが、サウジアラビアの東側から物体が飛んでくればイランのある方角から飛んできたということになりますから、これはイランが関連しているテロ攻撃だということを印象付けたいということなのでしょう。南側から飛んでくればイエメンからということになりますが、攻撃機はどこから飛んできたのかということもはっきりしません。

 

 中東の地図を見ると、イランとサウジアラビアはかなり離れており、イランからドローンが10期も出撃したとは考えられません。イエメンであれば紅海を超えるだけですから、攻撃は可能でしょう。しかし、今のところ、どこからドローンが出撃したかということは分かっていません。また、イランが絡んでいるということはアメリカやサウジの主張であって決定的な証拠がある訳ではありません。

 

 いくつかのシナリオが考えられます。ボルトン解任を軸に考えると、親イスラエル・サウジアラビアのボルトンが政権から去ることで、両国の存在感が低下し、アメリカの中東からの撤退が進むという懸念があり、そのために両国が自作自演をやったということが考えられます。また、トランプ大統領がボルトンを解任したということは、アメリカは世界で警察官をやるつもりはない、軍事行動をとる元気はないと判断して、イランがホーシー派に支援してやらせた、もしくはイランの背後にいる中国がやらせた、ということも考えられます。

 

 イエメンの対岸にあるアフリカの角、紅海とアデン湾をつなぐ位置にジブチがあり、昔から要衝となっています。ここには中国人民解放軍の海外基地があることもあって、いろいろなシナリオが考えられます(ここからホーシー派にドローン攻撃機が供給されたなど)。もちろん確たる証拠が出るまではシナリオを考えるだけにして、決めつけや自分勝手な思い込みは慎まねばなりませんが。

 

 話があちこちに飛んでしまって申し訳ありません。ボルトン解任は状況に対して影響を与えるということはあると考えているうちに、話が飛んでしまいました。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプによるジョン・ボルトン解任についての5つのポイント(Five takeaways on Trump's ouster of John Bolton

 

ブレット・サミュエルズ、オリヴィア・ビーヴァーズ筆

2019年9月11日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/460815-five-takeaways-on-trumps-ouster-of-john-bolton

 

火曜日、トランプ大統領はジョン・ボルトンが国家安全保障問題担当大統領補佐官から退任すると発表した。外交政策分野における重要な諸問題にどのように対処すべきかについてトランプ大統領とボルトンとの間で不同意があったとトランプ大統領は述べた。

 

トランプ大統領はツイッター上でボルトンの退任を大々的に発表した。その後、衝撃がワシントン全体に広がった。

 

これからボルトンの退任についての5つのポイントについて述べる。

 

(1)トランプ政権内の混乱(カオス)状態は新たな展開を見せる(Trump chaos takes another turn

 

ボルトンが解任されたことにより、トランプは3年間で4人目の国家安全保障問題担当大統領補佐官を探すことになった。これによって、トランプ大統領が重大な国家安全保障上の諸問題に対処する際に、大統領の上級顧問たちの間で不安定さが出てくるのではないかという懸念が再び大きくなっている。

 

ボルトンの退任は、トランプ大統領がキャンプ・デイヴィッドでタリバンと会談を持つ予定だったが中止にしたという衝撃的なニュースが報じられた後に起きた。タリバンはオサマ・ビン・ラディンを匿ったアフガニスタンのテログループだ。

 

トランプ大統領はアフガニスタンからの米軍撤退を行おうとし、タリバンの代表とアメリカ国内で会談を持つことにボルトンは反対したということは明確だ。ペンス副大統領は明確に大統領を支持しているが、ボルトンはそうではなかった。

 

トランプ政権の幹部たちは、タカ派のボルトンの退任は大きな出来事である、もしくは無秩序を増大させる、という考えを完全に否定した。

 

火曜日の記者会見で、スティーヴン・ミュニーシン財務長官は「そんなことは全くない。そんなバカな質問はこれまで聞いたことがない」と述べた。

 

しかし、ここ数か月の間、トランプ大統領は国土安全保障長官、国家情報長官、ボルトンを解任した。現在の国防長官は就任してからまだ数週間しか経っていない。

 

民主党は、政権内の人事の頻繁な交代と争いはこれからどうなるか分からないとし、トランプ大統領の政敵たちは大統領を攻撃するためにボルトン隊員のニュースを利用するだろうと強調している。

 

(2)ポンぺオの力が大きくなる(Pompeo's strength grows

 

ボルトンの退任はマイク・ポンぺオ国務長官のトランプ大統領に対する影響力を更に強めることになる。

 

ポンぺオとボルトンは数々の問題で衝突した。火曜日、国務長官は記者会見で記者たちに対して衝突があったことを認めた。

 

トランプ政権が発足してすぐからトランプ大統領に仕えた閣僚は数が少なくなっているが、ポンぺオはその中の一人だ(訳者註:CIA長官から国務長官へ横滑り)。ポンぺオはトランプ大統領に忠実な代理人で、イラン、北朝鮮、アフガニスタン、中央アメリカに関連した諸問題についての大統領のメッセージを伝えてきた。

 

ボルトンはイランと北朝鮮との交渉を複雑化させた。イラン外相ムハマンド・ジャヴァド・ザリフはボルトンをトランプ政権の「Bティーム」のメンバーだと揶揄し、北朝鮮政府幹部たちは数度の非核化交渉の中で彼を「好戦的な戦争屋」を非難した。

 

火曜日の午後の記者会見に同席する予定であったボルトンの退任に驚いたかと質問され、ポンぺオはニヤリとした。

 

ポンぺオ国務長官は「大変に驚いた。この問題だけのことではないが」と述べた。

 

(3)奇妙な結婚関係が終焉(Strange marriage ends

 

トランプ大統領は2018年3月にボルトンを国家安全保障問題担当大統領補佐官に起用した。前任のH・R・マクマスターよりもタカ派の人物としての起用となった。

 

ボルトンはテレビ出演時にトランプ大統領の考えを強力に擁護してきた。そして、大統領のイランとの核開発をめぐる合意からの離脱という希望に賛成していたようだ。

 

トランプ大統領とボルトンは重要ないくつかの問題、特にイラン問題について合意していたようだ。ボルトンを起用してから6週間後にトランプ大統領はオバマ政権下で結ばれた核開発をめぐる合意から離脱した。そして、トランプ政権は離脱直後からイランに対する経済制裁を科してイラン政府を攻撃した。

 

しかし、おかしくみえることもあった。トランプ大統領は元々ボルトンを起用することにためらっていた、それは彼が口ひげを生やしていたこと、そしてボルトンはジョージ・H・W・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュ両政権下で働いたことが理由であった。トランプ大統領は自身の幹部となるアドヴァイザーを起用する際にそのような前歴があると怒りをぶちまけていた。

 

ここ数か月でボルトンのトランプ大統領に対する影響力は消えていた。そして、公の場での大統領からの叱責が続いた。

 

この数か月、トランプ大統領はボルトンのイランに対する強硬姿勢から少しずつ離れていった。トランプ大統領はイランの指導者たちと前提条件なしで直接話をしたいと述べ、イランと軍事上で関与することに躊躇している。

 

ボルトン退任の決定打となったのは恐らく、911事件の記念日の前にタリバンをキャンプ・デイヴィッドに招いて交渉を行うというトランプの考えに反対したと報じられたが、このことがきっかけであっただろう。

 

ホワイトハウスのホーガン・ギドリー副報道官はフォックスニュースに出演し、「トランプ大統領は周囲の人々に自分の考えに反対してもらいたい、それで自分の前で議論をして欲しいと望んでいる。しかし、最終的に政策を決定するのは大統領だ」と述べた。

 

(4)共和党は再び説明を放棄した(GOP left explaining once again

 

トランプ大統領が人々を驚かせることをやる度に、連邦議会共和党はそれに対する反応を求められる。火曜日の発表もその例外ではない。

 

複数の共和党の連邦議員たちは、レーガン、ジョージ・H・W・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュ各政権で働いたボルトンがトランプ政権から去ることを残念だと述べた。

 

連邦上院外交委員会の委員ミット・ロムニー連邦上院議員(ユタ州選出、共和党)は次のように述べた。「ボルトンは天邪鬼であることは事実だが、それは彼にとってプラスであっても、マイナスではない。彼が政権から去るという報に接し、大変残念だ。私は彼の退任は政権と国家にとって大きな損失である」。

 

しかし、他の人々はタカ派のボルトンの退任を歓迎した。こうした人々は、ボルトンがアメリカを更なる戦争に導くだろうという恐怖感を持っていた。

 

連邦下院の中でトランプ大統領の盟友となっているマット・ゲーツ連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)は本誌の取材に対して次のように答えた。「私はボルトンの退任を歓迎したい。それは、ボルトンの世界観が反映されにくくなることで、世界における平和のチャンスが大きくなるだろうと考えるからだ」。

 

共和党の政治家のほとんどは当たらず触らずの態度で、トランプ大統領は自分自身で適切な人物を補佐官に選ぶべきだと述べるにとどまった。

 

(5)ボルトンは口を閉ざしたままではないだろう(Bolton may not go quietly

 

トランプ大統領がボルトン解任を発表してから数分後に、ボルトン自身が衝撃を与えた。彼はトランプ大統領の説明に対して反論を行い、人々を驚かせた。

 

トランプ大統領はツイッター上で、「私は昨晩、ジョン・ボルトンに対してホワイトハウスで働いてもらうことはこれ以上必要ではないと通知した。火曜日の朝にボルトンの辞任を受け入れた」と書いた。

 

ボルトンはトランプ大統領の発表から10分後にツイートをし、「私は昨晩辞任を申し出て、トランプ大統領は“そのことについては明日話そう”と言った」と書いた。

 

ボルトンは複数の記者たちに対して、退任はボルトン自身の決断だったと伝えている。

 

ホワイトハウスの幹部職員たちは記者たちに対して火曜日の朝にボルトンが辞任したことを認めるだろうが、ボルトン退任の詳細について記者たちと話すことはないだろう。

 

ボルトンは自分の主張を明らかにする場所と立場を維持している。彼は以前にはフォックスニュースでコメンテイターをしていた。彼は政界で信頼を得られるだけの経歴を持ち、自身の退任について自己弁護する連絡を記者たちに行ったことで明らかなように、ワシントンのメディアに幅広い人脈を持つ。

 

トランプ大統領がこれからの数日もしくは数週間の間に、ボルトンに対する批判を続けると、ボルトンはトランプ大統領の話と自分の話の食い違いについて批判や説明を行うことで反撃することになるだろう。ボルトンが自身の主張を続けることがホワイトハウスにとっては頭痛の種となるであろう。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 今回は、アメリカのドナルド・トランプ大統領がイスラエルの首都をイェルサレムであると承認したことに関する記事をご紹介します。著者はダグラス・フェイスという人物で、ジョージ・W・ブッシュ(子)政権時代に国防次官を務めた人物で、ネオコン派、イスラエル・ロビーに属する人物です。

 

 フェイスの主張は、アメリカがイスラエルの首都をイェルサレムだと承認することで、イスラエルはなくならない、永続的なものだ、という明確なメッセージをパレスチナ、そしてアラブ諸国に伝えることで、彼らに「イスラエルをせん滅する」という考えを放棄させ、交渉のテーブルに着かせることができ、最終的に和平に到達するというものです。

 

 アラブ諸国もイスラエルの存在を公式には認められませんが、実際に戦争を仕掛けてイスラエルを滅ぼすことはもはやできないと考えているでしょう。イスラエルは人口800万の小さな国で、国内に抱えるパレスチナ人と呼ばれるイスラム教徒の数も多く、彼らに国籍を認めて選挙権を認めたら、ユダヤ人の国であり続けることはできないでしょう。ユダヤ教徒の割合は75パーセント、イスラム教徒が16パーセント、キリスト教徒が2パーセントですが、イスラム教徒の人口増加率の高さは脅威となっています。

 

 パレスチナという土地にはもともとユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒が混在して住み、近世以降はオスマントルコ帝国の領土内で、平和に暮らしてきました。イギリスの進出と国民国家という概念、更にシオニズムのために、深刻な紛争状態となりましたが、混在して平和共存してきた時代に比べればまだ短いものです。

 

 イェルサレム東イェルサレムが旧市街でキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の歴史的な建造物が密集しており、1967年の第三次中東戦争まではシリアが管理していましたが、これ以降は新興の土地西イェルサレムと一緒になってイェルサレムとなりました。イェルサレム市はイスラエルの管理下に入り、イスラエルの首都とされた訳ですが、イスラム教やキリスト教の聖地が破壊されたり、出入りが禁止されたりしている訳ではありません。そんなことをすれば、イスラエルは近代的な国家として信教の自由を認めない国として糾弾されるでしょう。

 

 今回のアメリカの措置に対して、批判や非難の声明は中東やヨーロッパの国々から出ましたが、大きな事件は今のところ起きていません。現状追認ということで、あまり問題になっていないようです。

 

 アメリカがイェルサレムを首都として承認したことは現状を追認しただけのことで、それでイェルサレム市内のキリスト教やイスラム教の信者や施設が弾圧を受けるということはありません。ですから、テロのようなことは起きる可能性は低いでしょう。

 

 パレスチナとイスラエルとの関係は「二国共存」での和平に関しては一応話がついている訳で、問題はどのような形にするかということになります。1967年以前にイスラエルが支配していなかった場所についてどうするかということでしょうが、現状を追認するしかないでしょう。中東諸国はイスラエルという国家の存在を認められないのが建前でしょうが、本音では現状で満足して和平をしてもらいたい、ということになると思います。しかし、それを表明することは難しいでしょう。

 

 ただこれからも憎しみは続いていくでしょうが、それはまた長い時間のスパンで考えると、どこかで解決するだろうという大陸的な時間感覚で解決されるものかもしれません。日本人は概してせっかちで、早く早く、なんとかしなきゃ、自分の代で解決したい、させたいという感じですが、世界的にはもっと長い時間感覚があるように思います。

 ダグラス・フェイスはネオ͡コンでイスラエル・ロビーですから、イスラエル寄りの言論になりますが、これは親イスラエル派の考えの一つとして参考になります。ただ、彼が考えるように進むとも思えませんが。

 

(貼り付けはじめ)

 

イェサレムを首都に認定することが和平にとって良い理由(Why Recognizing Jerusalem Is Good for Peace

―パレスチナ人たちがイスラエルはここにいてこれからも続くということを認識し、真摯に話し合いを開始するまでは、アメリカ政府にとっての責務は、パレスチナ人たちに対して譲歩するようにシグナルを送り続けることだ。

 

ダグラス・J・フェイス筆

2017年12月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/12/12/why-recognizing-jerusalem-is-good-for-peace/

 

アメリカは正式にイェルサレムをイスラエルの首都と承認した。アラブ諸国やイスラム教国では激しい暴力が発生すると一般に予測されていたが、そんなことは実際には起きていない。しかし、ドナルド・トランプ大統領に対する批判者たちが述べているように、アメリカの承認のために、平和に向けた見込みを大きく後退させ、アメリカの「誠意ある仲介者」としての地位を傷つけるのだろうか、という疑問は残っている。トランプは選挙公約を実行し、変えようのない現実を認めただけでなく、平和の達成の可能性をより高めるのだと宣言した。

 

誰が平和についてより良い主張を行っているのか?トランプ大統領がそうだ。ただ、彼の主張は説得力を持っていないのであるが。

 

イェルサレムに対するイスラエルの主権を認めたことはどのみち平和の実現に対して大きなインパクトを持つものではない。まず、これまで長い間、平和の実現に向けて真剣な外交が行われていない。第二に、紛争はイェサレム以外の問題をめぐって行われているのだ。

 

多くのコメンテイターたちは、当事者たちがどうして今でも戦っているのかということについて全く理解していないのに、どのようにして平和を促進するかということについて自分の考えを述べているのは驚くべきだ。さあ、パレスチナをめぐるアラブとユダヤとの間の理由をはっきりさせよう。そして、この争いがどうして1世紀以上も続いている理由も明らかにしよう。

 

問題の中心にあるのは、「パレスチナ全土がパレスチナを除く中東地域全体と同様に、アラブ人のみが所有できるのであって、アラブ人の土地にユダヤ人が主権を有することは耐えられない、大京の余地がない不正義だ」という確信である。

 

パレスチナ自治区の学校では、アラブの土地全てをアラブ人がコントロールするという最終目的は、受け入れがたい名誉の侵害があろうとも、放棄などできない、と教えている。こうした環境の中で、例えば、ベツレヘムのアイーダ難民キャンプにある、アローワッドというきれいなコミュニティーセンターの建物の壁には全面に次のような文言が書かれた横断幕が掲げられている。このセンターはヨーロッパの進歩派の人々の資金で建てられた。「帰還の権利に交渉の余地はなく、いかなる妥協にも従うことはない」。言い換えると、戦術的に有効な和平協定はまだ許されるが、イスラエルとの恒久的な和平は現状では許されないということになる。これは、パレスチナの共同体で神聖不可侵として受け入れられている宗教とナショナリズムの諸原理を基盤とする哲学的に重要な点なのである。

 

このような思考の一部や要素として、イスラエルは地域に対する外国からの侵略なのだというものがある。イスラエルは「十字軍国家」と呼ばれ、フランス領アルジェリアのようなヨーロッパの植民地主義の出先なのだというたとえがなされている。重要な点は、イスラエル国民に対しては、十字軍や半世紀前のフランス人に対してと同じく、 際限のない暴力的な抵抗によって士気を低下させ、土地を本当の所有者に残して引き上げることにつながる、というものだ。この場合の土地の秦の所有者はアブ人ということになる。フランスがアルジェリアから出ていくまでに130年かかり、聖なる土地から十字軍を追い出すのに200年かかった。この期間中、同じ言葉が繰り返された。また同じ言葉が繰り返されている。「イスラエルを追い出すのに同じくらいの時間がかかるだろうが、その時はやってくるだろう」。

 

紛争を永続的なものとしているのはこうした考え方である。

 

長年にわたって常識とされてきたのは、アラブ・イスラエル問題の核心は1967年にイスラエルが手に入れ、現在入植地となっている領域である、というものだ。しかし、これは明らかに間違っている。エジプト、シリア、ヨルダンはイスラエル側を刺激して1967年の中東戦争を始めたのはどうしてか?実際には、紛争の起源は1967年よりも前にさかのぼることができる。1948年にイスラエルが独立国となった時よりも更にさかのぼることが出来る。

 

アメリカ政府がパレスチナ・イスラエル紛争の終結に貢献できるのは、アメリカ政府が紛争の中身をきちんと把握した時だけだ。現在の常識をそのまま持ち続けるならば、外交上の失敗をこれからも数十年単位で続けることになる。新しい、そしてより根拠に基づいたアプローチを採用するのは今だ。

 

各種世論調査の結果では、イスラエル国民の大部分が、現在イスラエルが支配している土地を分割することを基礎としてパレスチナ人たちと和平を達成したいと望んでいる。パレスチナ側の指導者たちが土地と平和を交換する形で合意を結びたいと望んだら、平和が達成される。2つの大きな障害は概念上のものだ。パレスチナ側の指導者たちは、イスラエルは一時的な存在でいつの日か消滅させることが出来るという確信を放棄しなければならない。そして、パレスチナ側にとって実現可能な最高の合意をもたらすために正義に関する抽象的な概念をとりあえず棚上げすべきだ。

 

1897年に創出されて以降の政治的なシオニズムの歴史の中で、シオニズム運動の指導者たちは正義を主張したことはなかった。彼らはまたユダヤ人たちが持つ権利を持つもの100パーセントを手に入れることは期待していなかった。彼らが権力を握っても妥協を不名誉なものだとはしなかった。彼らは最善の合意を結んだ。彼らは手にできるものを手にした、そして、自由で、繁栄した、平和的な国家を建設した。パレスチナ側の指導者たちもまたパレスチナ人たちに対して同様のことを行うべきだ。

 

この分析が正しい場合、イェルサレムに対するイスラエルの主権をアメリカが承認したことは、平和に貢献することになるだろう。アメリカの承認は有効なメッセージを補強するものだ。そのメッセージとは、「イスラエルはこれからもこの場所に存在する」というものだ。ユダヤ人は歴史的にこの土地と深くつながっている。彼らは外国人でもなく、十字軍でもない。アメリカとイスラエルのつながりは緊密なもので、イスラエルの敵国からの工作によって傷つくものではない。そして、アメリカは、第三者ではなく、イスラエルの友人として、アラブ・イスラエル外交において重要な役割を果たしている。紛争が永続化することで支払わねばならない代償がある。人生は続く、そしてイスラエル国民は新たな現実を生み出し、世界はこの新しい現実に合わせていく。パレスチナ人たちは平和を拒否することで、彼らの地位を向上させていないし、地位を保ってもいない。

 

※ダグラス・J・フェイス:ハドソン研究所上級研究員。2001年から2005年にかけて米国防次官(政策担当)。現在、アラブ・イスラエル紛争の歴史に関する著作を執筆中。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)







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 古村治彦です。

 

 イランの大統領選挙は、強硬派が候補者を一本化したことでどうなるかと思っていましたが、ロウハニ大統領が再選されました。イランの大統領は二期までなので、ロウハニ氏はこれから4年間が最後の任期となります。

 

 ロウハニ大統領は、アメリカとの核開発をめぐる合意を前提にしての経済成長、そのための経済改革を主張しています。イランでは、諜報機関が経済部門にまで浸透しており、下に掲載した毎日新聞の記事では、「モンスター」とまで呼ばれているそうです。ロウハニは、そうした部分を改革していこうとしています。革命防衛隊、諜報機関はそれを防ぐために、最高指導者を引き込んで、ロウハニ氏を追い落とす、もしくは得票数を削ろうとしました。しかし、イランの人々はロウハニ大統領の路線を支持しました。

 

 アメリカでは、トランプ大統領がイランとの核開発合意に反対しているという報道がなされていますが、トランプ政権は核開発をめぐる合意を維持するということを既に表明しています。イランとの核開発をめぐる合意にアメリカ国内で反対しているのは、共和党ではネオコン、民主党では表立ってはいませんが(自党のバラク・オバマ前大統領が結んだ合意ですから)、人道的介入主義派です。

 

 トランプ大統領が初めての外遊で中東のサウジアラビアとイスラエルを訪問しますが、両国は宗教は違いますが、アメリカの同盟国という点では一緒です。サウジアラビアはアラブの盟主ですが、現状中東の和平と問題解決に何もしていません。オバマ政権時代は、イスラエルとアメリカの関係は悪化しました。トランプ政権ではトランプの義理の息子ジャレッド・クシュナーが上級顧問として力を持っていますから、イスラエルとの関係は改善すると思われますが、機密情報の取り扱いをめぐり、イスラエル側が激怒しているという報道もなされていますので、イスラエル側に、ネオコンや人道的介入主義派と気脈を通じている人々がいると思われます。

 

 トランプ政権とすれば、傲慢になりがちな中東の同盟諸国に活を入れるために、イランを利用するでしょう。イランを利用して中東の問題を解決しようとするでしょう。国益のためならば、敵と呼んだ相手とでも手を組むのがリアリズムですから、トランプは表だってイランを賞賛はしないでしょうが、一方的に敵視することはないでしょう。

 

 ロウハニ大統領が再選されたことで、アメリカとイランの関係が大きく変化することはないということになり、これは慶賀すべきことです。

 

(貼りつけはじめ)

 

<イラン>残る制裁、正念場 ロウハニ師再選、経済回復急務

 

毎日新聞 5/21() 8:15配信

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170521-00000007-mai-m_est

 

 【テヘラン篠田航一】イラン大統領選で対外融和の継続を掲げる保守穏健派のロウハニ大統領(68)が20日、再選を決めた。だがイランを敵視してきた米国はトランプ政権になり、より強硬な姿勢を示している。イランは経済回復を軌道に乗せて内政を安定させるためにも、米国などが今も科す制裁の軽減に向けた外交努力を続けると見られるが、事態の打開は容易ではない。

 

 「今後4年で全ての制裁解除に全力を挙げ、イランの威厳を取り戻す」。ロウハニ師が掲げた公約だ。イランは2015年に米欧などと核合意に達し、主要な経済制裁は解除された。だが、ミサイル開発や「テロ支援」を巡る制裁は残っている。

 

 トランプ米大統領は、イスラム教シーア派国家イランの覇権拡大を警戒するスンニ派の大国サウジアラビアを初の外遊先に選び、イラン大統領選の結果が固まった20日に現地に降り立った。湾岸のアラブ諸国と連携した包囲網の強化を目指している。米国とイランは、シリアやイエメンの内戦でも対立する勢力をそれぞれ支援しており、早期に歩み寄る可能性は低い。

 

 ただ、トランプ政権はシリアでは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を優先している。イラン国連代表部で勤務経験を持つ元外交官の政治評論家ヘルミダス・ババンド氏は「シリア内戦が沈静化すれば、イランと米国の関係は改善に向かう」と分析。ロウハニ大統領が、米国と近いアラブの主要国エジプトへの働きかけを強めると見ている。

 

 内政では経済回復を進める上で、膨大な権益を持つ革命防衛隊との関係が焦点の一つになりそうだ。ロウハニ大統領は選挙戦で「経済発展を望むなら、(革命防衛隊などの)治安・政治組織を経済に関与させるべきではない」といら立ちを隠さなかった。

 

 約12万人の兵員を擁する革命防衛隊は、1979年のイスラム革命の理念防衛のため創設されたが、多くの系列企業を抱えて経済分野にも進出し、肥大ぶりは「モンスター」と称される。ロウハニ政権が今後、外資導入や経済開放を進めようとした場合、防衛隊関連企業の抵抗が予想される。

 

 内政の安定には、若年層の雇用創出も急務だ。失業率は若年層で3割近いと言われる。経済的不満から保守強硬派への傾倒を強めることを抑止するためにも経済成長の加速は不可欠だ。

 

=====

 

イランの大統領選挙で何が重要なのか?(What’s at Stake in Iran’s Elections?

 

エミリー・タムキン筆

2017年5月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/05/19/whats-at-stake-in-irans-elections-rouhani-raisi/

 

イラン国民は金曜日、次期大統領を誰にするかを決める投票を行う。大統領選挙には複数の候補者が立候補しているが、主要な選択肢としては、中道改革派で2期目を目指す現職大統領ハサン・ロウハニと、保守派強硬路線のイブラヒム・ライシの2人に絞られている。最も人気があったモハンマド・バーゲル・ガリバフが選挙戦から撤退し、ライシ支持を表明したためにこのような状況になった。

 

誰が大統領になるだろうか?そして、選挙結果がイランの国際関係においてどのような意味を持つであろうか?

 

コロンビア大学教授リチャード・ネヒューは本誌の取材に対して、「ロウハニが当選すると考えます」と述べた。

 

読者の皆さんがご存知のように、最高指導者と諜報機関がライシを大統領にしたいと後押しをしているという疑いがあるし、人々の間には、国際関係を改善して好景気をもたらすというロウハニの公約が果たされていないという不満が高まっている。しかし、ネヒューは、投票率が期待通りに髙ければ、ロウハニが2期目に向けた当選に困難に直面することはないだろうと述べた。

 

ロウハニが勝てば、人々の信任を示す票差での勝利であれば、イランの対西側各国への政策は大きくはそのままであろう。イランはアメリカとの間で、イラン核開発合意として知られる包括的共同行動計画を堅持するだろう。ドナルド・トランプは自身の大統領選挙期間中、合意の破棄を主張したが、現在のところトランプは合意の維持を表明している。

 

ロウハニは、更なる経済改革を進めるだろう。ロウハニは、アメリカとの合意から経済的利益を得ることができるとロウハニは主張しているが、そのためには経済改革が必要となる。そして、ロウハニは経済分野における諜報機関の存在を排除しようとするだろう。ロウハニが地滑り的勝利をした場合に不都合なことがあるのだろうか?ロウハニが圧倒的な勝利を収めた場合、最高指導者とその周辺は、ロウハニの羽を縛ろうとするだろう。

 

それではライシが勝利した場合はどうなるだろうか?ライシは他の候補者と同様に、包括的共同行動計画の維持を主張しているが、この合意からイランが利益を得るために必要な経済改革を進めることはないだろう。そうなると、イラン国民は、経済が良くならないのに、合意を維持する必要はあるのかと考えるようになるだろう。

 

しかし、ライシの勝利は状況を悪化させるだろう。特にアメリカとの関係に悪影響を与える。ネヒューは、トランプ政権がライシ勝利をイラン国内における強硬派の台頭の徴候と捉え、イラン政府との協力は望めないと捉えるならば、「強硬派同士である、トランプとライシ同士の競争が起き、良くない状態になる」と述べている。

 

投票日の金曜日、トランプは大統領としての初めての外遊をサウジアラビアから始める。大統領選挙の結果によっては、中東の情勢は更に爆発しやすくなるだろう。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

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