古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:イラン

 古村治彦です。

 イランのイスラム革命防衛隊少将でエリート部隊であるコッズ部隊の司令官だったカシーム・スレイマニが2020年1月3日に殺害された。同時にイラクのシーア派民兵組織カタイブ・ヒズボラの最高指導者アブ・マフディ・アル・ムハンディスも殺害された。この殺害はイラク国内、バグダッド国際空港近くで実行された。
qassimsoleimani010
スレイマニ

 イラク国内でアメリカ関連施設に対しての攻撃が実行され、アメリカ人の犠牲者が出て、それに対してアメリカは報復措置としてカタイブ・ヒズボラの施設を空爆し死傷者が出た。この攻撃に対してバグダッドにあるアメリカ大使館に対して激しい抗議活動が行われたが、2019年年末で一応収束していた。カタイブ・ヒズボラが抗議活動を止めるように命じた。これで一応の安定が図られたが、2020年1月3日にスレイマニが殺害された。
funeralofsuleimani001

funeralofsuleimani002
スレイマニ葬儀の様子
 これによって事態は一気に緊迫感を増した。これまでアメリカもイランも事態を緊迫化させないようにしてきた。しかし、アメリカのドナルド・トランプ大統領は事態を大きく変化させ、中東情勢を一気に緊迫化させた。下の記事のタイトルは「トランプ大統領は中東で危険な火遊びをしている」だ。
donaldtrumponkillingofsuleimani001

ドナルド・トランプ
 トランプ政権はイランが大規模かつ深刻な反撃をしてこないという前提で、スレイマニ殺害を行った。それどころか、「戦争を止める」ためにスレイマニ殺害を行ったとしている。これに対してイランが同等の報復ということになると、アメリカ政府の最高幹部の暗殺か、アメリカ人を多数殺害することであるが、これだと全面戦争になってしまう。これはアメリカもイランも望んでいない。そうなれば、イランは屈辱を受け入れて忍従するということになる。しかし、これではイラン国内の不満を抑えることは難しい。だから、どうしてもある程度の報復を行うことになる。
mikepompeo001

ポンぺオ
 そもそも外国の戦争や政権転覆にアメリカは関わらない、米軍は撤退するという主張でトランプ大統領は当選した。今回、イラク国内でこのような事件を起こしておいて、イラクにいづらくなることは確実だ。米軍のイラクからの撤退ということになると、イラクはイランの勢力圏にはいるということになる。そうなればイランのシリア支援も更に高度に続くことになる。イランからのシリア支援はますます実行しやすくなる。イランにイラクを与える(米軍の撤退)代わりにスレイマニを殺害したということは考え過ぎだろうか。

そのような事態まで想定しての今回のスレイマニ殺害ということだとすると、トランプ政権の深謀遠慮ということになるが、下の記事では慎重に検討せずにやってしまったという評価である。

 国防総省、アメリカ軍は慎重な姿勢であったことを考えると、スレイマニ殺害は諜報機関、CIAが実行した可能性が高い。マイク・ポンぺオ国務長官は連邦下院議員から2017年1月にトランプ政権のCIA長官に就任した(2018年4月まで)。その後、政権内の横滑り(地位としては上昇)して国務長官に就任し、現在に至っている。無人機による攻撃が可能になってから、CIAとアメリカ軍(特殊部隊)は暗殺などの特殊作戦をめぐって争っている。今回はCIA主導、ポンぺオ主導で攻撃が行われたと考えられる。

 アメリカとイランが共に全面戦争に突入したくないと考えているのは救いだ。しかし、状況をコントロールできるかは不透明だ。不測の事態によって人間のコントロールなど簡単に無力化してしまう。ショックから少し落ち着きが出てきているが、楽観は禁物だ。

(貼り付けはじめ)

トランプ大統領は中東で危険な火遊びをしているTrump Is Playing With Fire in the Middle East

―アメリカ大統領トランプはイランのスレイマニに対する攻撃は「戦争を止める」ためだったと主張するかもしれないが、攻撃は彼の意図通りにはいかないだろう

コリン・カール筆

2019年1月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/01/04/trump-is-playing-with-fire-in-the-middle-east/

2011年6月、アメリカ軍がイラクから撤退しつつある中、イランが支援している民兵組織がアメリカ軍の各基地に一連の強烈なロケット弾攻撃を行った。10名以上のアメリカ軍将兵が死亡した。これは1か月で亡くなった米軍将兵の数で最大数となった。当時のオバマ政権の前には報復のための2つの選択肢が存在した。1つはイラン国内を攻撃し、イランの工作員たちを殺害することで、もう1つはイラクの民兵組織のロケット弾部隊に対して、イラク国内で攻撃するがその際にはアメリカ軍の特殊部隊だけを使用することだった。イランとのより大規模な戦争状態に進むことを思いとどまらせるために、オバマ政権は後者を選択した。

2019年12月27日にキルクーク近郊の基地に対してロケット弾攻撃が行われ、アメリカ人の建設請負業者1名が死亡し、アメリカとイラクの複数の作業員が負傷した。これに対する報復として、先週、トランプ政権はカタリブ・ヒズボラに対して空爆を実行した。カタリブ・ヒズボラはイラクの民兵組織で、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)と緊密な関係を持っている。しかし、イラク時間の先週金曜日午前(アメリカでは木曜日夕方)、ドナルド・トランプ米大統領は後先を考えることなく、無人機による攻撃を許可した。そして、バグダッド空港の近くでイスラム革命防衛隊のコッズ部隊の司令官であり、イランの最重要の指導者の一人であるカシーム・スレイマニ少将とイラク民兵組織の指導者たちが殺害された。

スレイマニの死によって、アメリカ政府とイランとの間の圧力と挑発の綱引きのサイクルは1カ月間も続き、更に極めて危険な段階に進んでいる。地域全域に火の手が広がるリスクはこれまでよりも高まっている。攻撃の直前、米国防長官マーク・エスパーはアメリカ軍を防衛するために予防的行動をとると警告を発した。エスパーは「ゲームは変化した」と述べた。しかし、これはゲームではない。アメリカとイラン両方の掛け金は高くはない。

アメリカ人でスレイマニのために涙を流す人はいないだろう。イランのエリート準軍事的組織であるコッズ部隊司令官として、スレイマニは、アメリカのイラク占領期間中、イラク国内のシーア派民兵組織を糾合してアメリカ軍を攻撃させ、数百名のアメリカ軍将兵の命を奪った。彼はまたレバノンのヒズボラ、ガザ地区の聖戦主義者たち、イエメンのフーシ派民兵組織、シリアの残忍なバシャール・アル・アサド政権への支援というイランの政策の方向性を決定づけた。彼はイラン国外でのイランによるテロ攻撃と国内での反体制派に対する残忍な弾圧に責任を持つ人物であった。

トランプ政権は2015年のイランとの間の核開発に関する合意を放棄し、イランに対する経済制裁の更なる強化のための圧力を強めている。こうした動きに対抗するために、イラン政府は最近になって、スレイマニの関与を示唆するような一連の挑発を行った。その中にはイラクに駐留するアメリカ軍への脅迫も含まれていた。米軍統合参謀本部議長マーク・ミレイは、2019年10月以降頻発しているイラク国内へのアメリカ関連施設へのロケット弾攻撃についてはイランが支援している複数の組織が関与していると発言している。しかし、2019年12月27日の時点ではアメリカ人の血が流れるということはなかった。しかし、2019年12月27日にアメリカ人の死亡者が出ると、アメリカ政府はすぐに報復を実行した。イラクとシリアにある民兵組織カタイブ・ヒズボラの複数の拠点などを攻撃した。この報復攻撃に対して、シーア派民兵組織の幹部たちは人々を扇動してバグダッドにあるアメリカ大使館への抗議を行わせた。これはベンガジ事件を想起させるものとなった。これがトランプ大統領のスレイマニ殺害の決定までの事情である

テロリストの親玉が一人死亡したことはアメリカ人の基底にある正義の感覚にとにもかくにもかなうものではあるが、彼の暗殺によってこれから起きることが統御不能のスパイラルに陥り、アメリカ国民とアメリカの国益をより危険に晒すことになるという現実的な見方を曖昧にするべきではない。

ブッシュ(息子)政権とオバマ政権は統御不能になる懸念からスレイマニに対して直接攻撃を行わないという決断を下した。これには国防総省と諜報関係部門が共有していた。攻撃をすれば事態が一気に悪化するということに同意していた。2019年春、国防総省はホワイトハウスに対してイスラム革命防衛隊を外国のテロリスト組織と指定することに対して懸念を表明した。国防総省はそうすることでイラクやその他の場所にいるアメリカ政府関係者の声明を重大な危険に晒すと主張した(トランプは結局そのようにしたのだが)。2019年6月、当時の米軍統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォードはイランによるアメリカの無人機撃墜の報復のためにイラン本土を攻撃しないようにと訴えた。これまで続いてきた慎重な姿勢は覆された。

トランプ大統領とマイク・ポンぺオ国務長官は、スレイマニの攻撃についてアメリカ軍へのこれ以上の攻撃を防ぐために必要な措置であったと正当化している。トランプ大統領に言わせれば「戦争を止めるため」ということであった。トランプ政権が重要な情報を発表していない中でこれらの主張を評価することは難しい。一方、国防総省が発表した声明では今回の攻撃について抑制的であり、イランからの差し迫った攻撃については言及しなかった。更に言えば、いくつかの報道によれば、トランプ大統領がスレイマニを標的とすることを許可したのは2019年12月27日のロケット弾攻撃の後であった。また、アメリカ軍特殊部隊はそれ以降攻撃の機会のために待機していた。こうしたことから、スレイマニに対する攻撃がバグダッドにあるアメリカ大使館への抗議が終わり、イラクでの状況が深刻化していない中で起きた理由を説明できることになる。

それにもかかわらず、トランプ大統領と彼の最側近たちはスレイマニ殺害のための理論を持っていることは明らかだった。彼らは、イランは張子の虎であり、鼻面をこっぴどく殴りつければ、穴の中に引っ込んでしまうと確信していた。過去においてイランのイスラム政権はより強力な敵意に直面すると慎重さを示したというのは事実だ。また事態の深刻化に対処するために、イランの指導者たちは歴史的に見て自分たちの否定されるべき行為を隠すために非公然の攻撃を行う、もしくは外国にいるイランの代理勢力や味方勢力がアメリカ、イスラエルの攻撃対象となっている場合には別の方法を模索してきたということもあった。

しかし、スレイマニに対する攻撃はこれまでの状況とな大きく異なっている。今回の攻撃はイラン国内で二番目に重要な最高幹部と想定される人物に対する公然の攻撃であった。イラン側から見れば、今回の暗殺はアメリカで言えばCIA長官、国防長官、陰の国務長官の役割を一手に引き受けていたような最重要人物が殺害されたに等しいということになる。アメリカ側が認めるにしても認めないにしても、イラン側はこれを戦争行為だと見なす。イランの政権は自分たちの選ぶタイミング、場所、方法で対応することになるだろう。なぜならば、イランの政権がアメリカとの衝突よりも恐れているのは、政権に対するこのような直接的な挑戦に対して引いてしまうことだからだ。

スレイマニの殺害に対して、イランの最高指導者アル・ハメネイ師は「昨晩のスレイマニと他の殉教者たちの流血を手につけている罪人たちに対しては強力な復讐」を行うと警告を発した。復讐は様々な形を取ることになるだろう。イランはシーア派民兵組織に対してイラク国内のアメリカ政府関係者に対するロケット弾とロードサイド爆弾による攻撃を激化する、またバグダッドにあるアメリカ大使館に対する更なる抗議と攻撃を組織化する許可を与える可能性がある。イランの代理勢力は、シリア東部の油田を防衛している数百名単位のアメリカ軍将兵を標的とする、もしくはアフガニスタンに駐留する米軍への直接攻撃を行う可能性がある。イランはイラク国内もしくはペルシア湾岸地域にあるアメリカ関連施設に対して弾道ミサイルを発射する可能性も高い。また、ホルムズ海峡での国際海運を妨害の度合いを高めるかもしれない。中東地域の重要なエネルギー関連施設に対してミサイルもしくは無人機を使った攻撃を仕掛けるかもしれない。レバノンのヒズボラやパレスチナの民兵組織を焚きつけてイスラエルを攻撃させるかもしれない。イラン政府は中東地域のアメリカ人やアメリカの利益に対してのテロ攻撃を組織化する可能性がある。1980年代のベイルートや1996年にサウジアラビアのコーバー・タワーでの出来事が再現されるかもしれない。もしくはアメリカ国内での攻撃を計画するかもしれない。これは2011年にワシントンで駐米サウジアラビア大使に対しての攻撃が計画されたことを想起させる。イランは現在急速に発展させているサイバー攻撃能力を使ってアメリカ本土を攻撃する可能性もある。

もしイランによる報復によってアメリカ国民の血が更に流されることになると、アメリカは報復攻撃を行うことになる。それは国防総省の最新の声明から言葉を借りるならば、「将来のイランによる攻撃計画を抑止する」ことを目的とするものとなる。そして、イランの指導者たちは、アメリカによる更なるイランの軍事組織や利益に対する攻撃が行われる可能性に直面する中で、アメリカ政府と同様の計算を行うことになるだろう。アメリカもイランも全面戦争は望まないだろう。しかし、どちらかが事態を深刻化させ、それに対して相手も深刻化に付き合うとなり、双方は独自の論理で「自分たちは自衛をしているだけだ」と主張することになる。そして、この激しいスパイラルから完全に抜け出すことは難しくなる。

アメリカとイランが地域戦争を避けることになっても、双方はスレイマニの殺害によって引き起こされる副次的結果は避けられないだろう。スレイマニ対する攻撃に対してイラク国民は憤激している。この結果、イラク国内におけるアメリカの立場は脆弱なものとなる可能性が高い。イラクの暫定首相アディル・アブドゥル・マウディは今回の攻撃はイラクの主権に対する侵害であり、イラク国民に対する侵略行為であると非難している。また、イラク国民議会が短期間でのアメリカ軍のイラクからの完全撤退を求めるようなことになっても驚きはないとも発言している。トランプ大統領は「アメリカに対して感謝のない」同盟諸国を支援することに対して長年疑義を呈してきたので、その機会を利用して米軍を撤退させる可能性もある。米軍の撤退はトランプの支持者たちには評価されるだろう。しかし、そうなればイラク国内におけるイランの影響力がさらに高まることになり、イスラム国の再建をチェックし阻止することは更に難しくなる。

核開発についても、イランは更に長髪の度合いを高める可能性が高い。2019年、トランプ大統領による核開発をめぐる合意の放棄に対して、イラン政府は各開発プログラムの一部を徐々にではあるが再開させている。アメリカとの緊張関係を高める中で、更に劇的なことが起きる可能性が高い。その中にはさらに高いレヴェルでのウラニウム濃縮も含まれている。そして、イランが核兵器のための燃料を製造する能力獲得に近づけば近づくほど、これはつまり外交的解決がどんどん遠ざかることを意味するが、アメリカもしくはイスラエルと軍事的対峙状態が出現するようになるだろう。

これらの危険の中で、トランプ政権は戦略と計画をアメリカ国民に示して、アメリカ国民の動揺を抑えねばならない。アメリカ政府は攻撃を正当化し、攻撃によって起きる可能性のある様々なリスクを軽減するためにも情報を国民に与える必要がある。もしトランプ以外の人物が政権を率いていたら、中東地域にいるアメリカ軍将兵や外交官の安全を確保するために首尾一貫した国家安全保障プロセスを維持しただろうし、民間人脱出計画も準備しただろうし、中東地域とアメリカ国内の重要な社会資本へのイランが支援するテロ攻撃やサイバー攻撃に対する防御を強化しただろうし、アメリカ軍がイランとの関係を深刻化させることを防ぐ、もしくは統御できるようにするために公のメッセージを発せるように準備させていたことだろう。現在まで、トランプ大統領は上記のような慎重さを示すようなことは何もしていない。トランプ政権は上記のようなことを実行するための能力があることを示してもいない。現在、トランプ大統領が行った極めて重要な決定のために、トランプ政権は重大な試練に直面している。アメリカが真っ暗な海に頭から飛び込む時、政権が先を全く見通せない状態でかじ取りを任せることになる、これが本当の危険なのだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

価格:1,400円
(2018/3/9 10:43時点)
感想(0件)

ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側[本/雑誌] (単行本・ムック) / 古村治彦/著

価格:1,836円
(2018/4/13 10:12時点)
感想(0件)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 2020年1月3日、イラクのバグダッドの空港においてカシーム・スレイマニ(Qasem Soleimani、1957-2020年、62歳で殺害)イスラム革命防衛隊少将がアメリカ軍の空爆によって殺害された。アメリカのドナルド・トランプ大統領の命令で作戦は実行された。2019年末にイラクのバグダッドにあるアメリカ大使館に対して、カタイブ・ヒズボラ(シーア派の武装勢力)の人員殺害に抗議するデモが激化していた。
quasemsolemani001
スレイマニ
deathofquasemsoleimani001
スレイマニらの殺害現場

1月3日の空爆ではカタイブ・ヒズボラの宗教指導者アブ・マフディ・アル・ムハンディスも殺害されており、中東情勢は不安定化していくだろう。

 2020年はアメリカにとっては大統領選挙の年である。トランプ大統領は再選を目指し、民主党側はホワイトハウスの奪還を目指す。現在、予備選挙の選挙運動の真っただ中であり、1か月後にはアイオワ州から予備選挙の投票が始まる。

 トランプ大統領に対する支持は経済状況が良いこと、具体的には株価が高く、失業率が低いことが理由となっている。選挙のある2020年も何とか株高と低失業率を維持したい。しかし、米中貿易戦争の影響は大きく、2019年のGDPの伸び率は2%台前半にとどまるだろうし、2020年も経済成長は見込み薄だ。そうした中で、株価を高い水準のままこれから10カ月間も維持することは不可能だ。何度か下げて、そこから上げてを繰り返すことになる。

 年初はまだまだ株価を下げても良い時期だ。米中貿易戦争に加えて、中東情勢の不透明化による石油価格の高騰となれば株価は下がるだろう。しかし、トランプ大統領にとってはこの時期の株価下落はまだまだ大丈夫ということになる。そのためにこの時期にスレイマニの殺害ということになったのだろう。

 それではスレイマニとはどういう人物であったのか。そこで下の記事を読んで欲しいということになる。下の記事の執筆者はアメリカ軍の特殊部隊の司令官をしていたスタンリー・マクリスタル米陸軍大将(退役)だ。この記事が書かれた当時、スレイマニはまだ存命中だった。特殊部隊の経験が長く、アフガニスタン駐留軍の司令官を務めていたが、2010年に当時のバラク・オバマ政権を批判したために、オバマ大統領によって司令官職を解任され退役となった。スレイマニとはカウンターパートの位置にあった。
stanleymcchrystal001

マクリスタル
 スレイマニについてマクリスタルはスレイマニを「姿の見えない操り人形使い」、コッズ部隊を「アメリカで言えばCIAと特殊部隊を一緒にしたような組織」と呼んでいる。スレイマニはイラクやシリアでイランの代理勢力を使いながら、イランの影響力維持を図った、イランの同盟者であるシリアのアサド大統領を守ったとマクリスタルは評価している。スレイマニは優秀な軍人、軍司令官というだけではなく、諜報や政治活動もできる人物だったようだ。そのような人物はアメリカにとっては脅威ということになる。イランにとっては、イラン・イラク戦争で英雄となった優秀な軍人であり、政治的な動きもできる人物を失ったということで大きな痛手ということになる。
qudsforce001

コッズ部隊
 アメリカとイランの角逐がどの程度まで深刻化するかは不透明だ。しかし、アメリカが直接イランを攻撃すれば、大規模な戦闘状態ということになり、下手をすればイランのミサイルがイスラエルやサウジアラビアまで飛ぶということになりかねない。あくまで限定的ということになるだろうが、それでかわいそうなのはイラクだ。イラク国内でアメリカとイランが戦う、しかも代理を立ててとなれば、傷つくのはイラクということになる。そんなことをすれば、イラク国内での反米感情はますます高まり、イラク国内の情勢も一気に不安定化する。アメリカの中東介入には良いことはない。

 日本に引き付けて考えれば、これは他人事ではない。今年は東京でオリンピック・パラリンピックが開催される。この時期まで中東情勢が不安定化していれば、東京オリンピックを平穏な状態で開催することは難しい。特に開会式や閉会式にトランプ大統領が訪日するとでもなったら、警備は史上最大、最高のレヴェルにしなければならない。イランが日本を敵視していないということは救いだが、大変な負担になることは間違いない。

 戦争状態にならねば良いが、アメリカがルビコン川を渡ってしまった以上、事態がどのように転ぶかを注視するしかない。

(貼り付けはじめ)

イランの危険な操り人形使い(Iran’s Deadly Puppet Master

―スタンリー・マクリスタル将軍によるカシーム・スレイマニがどうしてそこまで危険な存在なのかについての正確な説明

スタンリー・マクリスタル筆

『フォーリン・ポリシー』誌2019年冬季版

https://foreignpolicy.com/gt-essay/irans-deadly-puppet-master-qassem-suleimani/

何も行動しないという決断は行うことが最も難しいもので、常に正しいということにはならない。2007年、私はイランからイラク北部に入る車列を目撃した。その当時、私はアメリカ軍統合特殊作戦コマンド(JSOC)司令官を務めて4年目だった。そして、地域を破壊しているテロリズムを根絶するために働いていた。私は厳しい選択を行うことに慣れてしまっていた。しかし、2007年1月のある夜、私が行う選択は複雑なものとなった。その選択とは、カシーム・スレイマニがいる車列を攻撃するかどうかであった。スレイマニはイランのエリート部隊であるコッズ部隊の司令官だった。コッズ部隊とは大雑把な言い方になるが、アメリカのCIAJSOCを合わせたような組織ということになる。

スレイマニを排除するための理由はあった。その当時、スレイマニが制作し、ばら撒き設置したイラン製の道路沿い用爆弾によってイラク国内全体に展開していたアメリカ軍将兵の生命を脅かした。しかし、銃撃戦とその後に起きるであろうと考えられた政治状況を避けるために、車列に対して即座に攻撃するのではなく、監視を継続すべきだと私は決断した。車列がイラク北部の都市アルビールに到着するまで、スレイマニは暗黒に陥る可能性があったのだがそれをうまく脱したのだ。

最近になっても、スレイマニは裏舞台で活動を続けていた。スレイマニは軍司令官から姿の見えない傀儡子(操り人形使い、a ghostly puppet master)へと成長した。イランの国際的な影響力を強めるために狡猾さと気概をもって活動を行っている。彼の優秀さ、能力の高さ、母国イランへの献身は味方からは尊敬を受け、敵方からは非難されてきた。その程度はどちらとも同程度だ。 しかしながら、全ての人々が同意するだろうと考えられるのは、謙虚な指導者スレイマニの安定した指導によってここ数十年のイランの外交政策は動いてきたということ、そして彼の戦場における成功は誰も否定できないということだ。スレイマニは現在の中東地域において最も有力でかつ最も行動において制限をしない人物だと言われている。アメリカ国防総省の幹部たちは、スレイマニが独力でシリア内線をイランの代理勢力を使って戦っていると報告している。

柔らかな話し方をするスレイマニの優秀さは若い時から明らかになっていた。イラン東部の山岳地帯の貧しい家庭に生まれたスレイマニは幼いころから圧倒的な記憶力の良さと頑健さを示した。彼の父親が負債を返済できなくなると、13歳だったスレイマニは父親に代わって労働をして借金を返済した。余暇の時間には重量挙げにいそしみ、現在のイランの最高指導者アリ・ハメネイ師の弟子による宗教講義に出席するのが常だった。若者のスレイマニはイラン革命に魅了された。1979年、弱冠22歳のスレイマニはイランの軍事組織を通じて優秀さを示し始めた。彼はイランの西部アゼルバイジャン県での初陣の前にただ6週間の戦術訓練を受けただけだった。しかし、スレイマニの本領が発揮されたのは翌年に始まったイラン・イラク戦争の時期だった。スレイマニはイラク国境への侵入作戦での戦闘で血まみれの英雄となった。そして、更に重要なことは自信に満ちた、能力のある指導者として登場した。

スレイマニはただの戦士ではなくなった。彼は戦略などの計算ができ、実行力のある戦略家となった。スレイマニは非常にかつ全てを犠牲にして、中東地域におけるイランの地位を高めるために長期に継続する関係を構築した。スレイマニ以上に、レヴァント地方におけるシーア派の同盟者を提携させ、力を強めることに成功した人物はいない。スレイマニはシリアのバシャール・アル=アサド大統領を堅固に防衛している。イスラム国やシリアの反政府勢力を前進させないようにしている。スレイマニが実行しているのはアサド大統領を権力の座にとどめ、イランとの堅固な同盟を維持させることだ。重要な点は、スレイマニの指導の下、コッズ部隊は能力を拡大させていることだ。スレイマニの洞察力に満ちた実行主義によって、コッズ部隊はイラン国外での諜報、財政、政治各分野において大きな影響力を持つようになった。

しかし、スレイマニの成功をより広範な地政学的な文脈に位置づけることなしに研究することは賢いことではない。スレイマニは独特のイランの指導者である。1979年のイラン革命に続くイランの原理の産物だ。イランの利益と諸権利についてのスレイマニの拡大解釈はイランのエリート層に共通するものである。中東地域に対するアメリカの関与に対してイランは抵抗している。アメリカの中東への関与に対するイランの抵抗はイラン・イラク戦争に対するアメリカの関与の直接的な結果である。イラン・イラク戦争の時期にスレイマンの世界観は形成された。結局のところ、スレイマニは、イランの国民と指導者層の活力となっている熱烈なナショナリズムによって動かされている。

スレイマニの業績はその大部分がイランの外交政策に対する長期的なアプローチのために実行されたものだ。アメリカは国際的な諸問題に対して発作的な対応をする傾向にあるが、イランはその目的と行動が一貫している。スレイマニがコッズ部隊の司令官になって長い年月が経っている。彼が司令官に就任したのは1998年のことだった。この長期にわたる司令官在職ということももう一つの重要な要素である。イランの複雑な政治状況の副産物として、スレイマニは長期にわたり行動の自由を享受してきた。これにはアメリカ軍関係者や諜報関係者の多くが羨望の念を持つほどだった。指導者の力は究極的には指導される人々の目に映るものであり、将来の力の可能性によって増大するものである。そのために長期にわたって司令官を務めるスレイマニは短期の司令官であるよりも高い信頼を勝ち得て行動することができるのだ。

この観点からすると、スレイマニの成功は彼自身の才能と彼の権力の座にいる期間によってもたらされたものである。このタイプの指導者は現在のアメリカでは存在することはできない。アメリカ国民は軍事分野やその他の分野において、最も高い地位に数十年単位で同じ人が座り続けることを許すことはない。その理由は政治的なものでありまた経験上のものだ。J・エドガー・フーヴァーは長期にわたり公職に就き、そのために非公式の影響力を強めたことがあったが現在ではそのようなことは認められない。

スレイマニの物事をすぐに実行できる自由に対して私は羨望の念を持っていた。しかし、すぐに実行ができない、制限があるというのはアメリカの政治システムの強さであると私は確信している。チェックされない熱心な行動を重視する考えは善を促進する力となる可能性はある。しかし、間違った利益や価値観にとらわれてしまえば、その結果は酷いものとなるだろう。スレイマニは非常に危険な存在だ。彼はまた中東の将来を形作るための重要な立場に立っている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

価格:1,400円
(2018/3/9 10:43時点)
感想(0件)

ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側[本/雑誌] (単行本・ムック) / 古村治彦/著

価格:1,836円
(2018/4/13 10:12時点)
感想(0件)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。 

 今回、ドナルド・トランプ米大統領の外交交渉は全くうまくいっていない、成功していないということを取り上げている記事をご紹介したい。

 対中国、対イラン、対北朝鮮など、アメリカは国際的な諸問題に直面している。アメリカは、中国とは貿易戦争、イランと北朝鮮に対しては核開発、核兵器廃棄といった問題を抱えている。どれもこれもうまくいっていない。トランプ大統領が脅しをかけてみたり、すかしてみたり、良いことを言ってみたりと様々なことをやっているが、うまくいっていない。暗礁に乗り上げているという状況だ。

 トランプ大統領にとっては日本だけが唯一彼のいうことをほぼ受け入れてくれる国だ。防衛関連品を買えと言えば「はい、喜んで」と言い、トウモロコシがだぶついているので何とかしろと言えば、「是非買わせていただきます」となる。日本との場合は交渉ではなく、厳命、それですらなくて、指示、というくらいのことだ。

 ところが世界各国はそうはいかない。そして、それは、「トランプ大統領にはそもそも交渉術などないからだ」ということになる。トランプ大統領は不動産業で財を成し、自分の苗字「トランプ」をつけた高層ビルやホテル、リゾート施設をアメリカ国内外各地に持っている。自身が一代で今のトランプ・コーポレイションをここまでのグループにし、資産を築き上げた大富豪だ。それはトランプ大統領の実力、特に交渉力のおかげだと考えられている。しかし、長年トランプ大統領と一緒に仕事をしていた人物はそうではないと主張している。

 トランプ大統領の交渉術は「こん棒で叩きまくる」ようなもので、一対一で脅しをかけまくるものだということだ。交渉事というのは相手にも利益が出るように落としどころを探るものだ。「ウィン・ウィン」関係を成立させるものだ。しかし、トランプ大統領の考えは「自分だけが勝つ、得をする」ということで、それはなぜかと問われた時に、「世界には無数の人間がいて、取引するのは1回限りだから」と答えたという。また、脅しだけでなく、お世辞を駆使することもあるということだ。

 トランプは大統領になってもこのビジネスにいそしんでいた時代の交渉術を使っている。脅しで入り、相手が強硬だとお世辞を駆使する、という1つのパターンになっている。パターンになっていると、相手はどう対処すればよいか分かる。だから、放っておかれるということになり、交渉が暗礁に乗り上げるということになる。

 トランプ大統領が当選して3年、最初は突拍子もないことをやるということで、戦々恐々としていたが、だんだんパターンが見切られてしまい、放置されてしまうということになっている。ただ、日本だけは真剣に付き合って、言うことを聞いている。

(貼り付けはじめ)

トランプはどうして交渉を成立させることに失敗するのか(Why Trump Fails at Making Deals

―トランプ大統領は中国、イラン、北朝鮮、インド、最近ではデンマークといった国々との間での交渉に失敗している。彼を長く知っている人々は「現在のアメリカ大統領は実際には交渉能力の低いのだ」と述べているが、数々の失敗はそれを証明している。

マイケル・ハーシュ筆

2019年8月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2019/08/21/why-trump-cant-make-deals-international-negotiations/

これは彼のアピールの中核である。2015年に突然大統領選挙に出馬して以来、不動産王はアメリカの有権者たちの支持を勝ち取ろうとしてきた。有権者の多くがトランプ個人を嫌いでも支持せざるを得ないようにしてきた。トランプはこれまでずっと自分は交渉の達人であり、アメリカ国民のために多くの新しい合意を勝ち取ることが出来ると主張してきた。 

しかし、大統領選挙当選3周年が近づく中、トランプ大統領は国際的な交渉においてほとんど成果を挙げていないという証拠が山積みになっている。2018年にNAFTAの再編に合意して以来、中国、イラン、北朝鮮、その他の国々との最高レヴェルの交渉を再スタートさせるための彼の努力は全て暗礁に乗り上げている。今週、トランプ大統領は交渉が下手であることを再び見せつけてしまった。トランプ大統領はアメリカの親密な同盟国デンマーク訪問を中止した。デンマーク首相はトランプ大統領の盟友で、彼と同じく反移民の姿勢を取っている。しかし、トランプがグリーンランドの購入を提案し、デンマーク政府はグリーンランド売却を考慮することを拒絶したために、訪問が取りやめになった。技術的にはデンマークはグリーンランドをアメリカに売却することはできない。それはグリーンランドには自治政府があり、首相が選ばれているからだ。

トランプを長年見てきた多くの人々にとって、トランプが大統領になって外交交渉にことごとく失敗していることは、実業界での華々しいキャリアを実態以上に過剰に売り込んだことの結果でしかないということになる。トランプ・オーガナイゼーションで建築家として働いたアラン・ラピダスは「ドナルドの交渉能力は虚構でしかない」と述べた。ラピダスは十代の頃からトランプと知り合い、トランプが不動産業を家族でやっている頃から一緒に働いた人物だ。

ラピダスは本誌の取材に対して、「ドナルドの交渉術は絶叫と脅迫で構成されている。ドナルドには緻密さもないし、ユーモアのセンスもない。こん棒で殴りつける、殴りつける、殴りつける、これだけだ」と述べた。

ラピダスはトランプと彼の事業が交渉に成功したが、それはハーヴェイ・フリーマンやスーザン・ハイルブロンのような幹部社員の交渉能力や技術のおかげだと述べた。2人はトランプ・オーガナイゼーションのアトランティック・シティでの事業やリース事業のほとんどを管掌した。 ラピダスは「彼らは詳細な分析と資料の読み込みを全て行った。トランプがもしこの仕事をやらねばならなかったとしても、まずやらなかっただろう」と述べた。

トランプの仕事仲間や取引先だった人々は、トランプが交渉の席で銀行をやっつけていたと自慢しているのは話を盛り過ぎていると指摘している。その当時のトランプの会計責任者だったスティーヴン・ボレンバックの交渉術によって、トランプは1990年に9億ドルの負債を抱えて個人破産寸前まで追い込まれたが、うまく逃れることが出来たのだ、と彼らは述べている。

トランプの自伝作家で多くの機会でトランプにインタヴューをしてきたマイケル・ダントニオは、ラピダスの発言に同意している。ダントニオも大統領としての交渉術は彼が実業家であった時のものと何も変わらないと認めている。ダントニオは次のように述べている。「彼のスタイルは敵意むき出しで、交渉相手から可能な全ての妥協を引き出すためにいじめ同様の方法を採用する。そして自分の利益を最大化する。トランプが私に語ったところでは、相手と“ウィン・ウィン”ではなく、“私だけが勝つ”取引をすることにしか興味がないということだった。将来またビジネスをするかもしれないので相手に好意を見せるために、相手に何かしらの利益を与えたことはあったかと私が彼に質問したところ、答えは“ノー”だった。そして、世界にはこれだけたくさんの人間がいるのだから、取引は一度きりだ、と語った」。

会社相手ではなく国家相手の交渉をする際には状況は異なる。世界には一定数の国家が存在するだけだ。アメリカ大統領は諸大国と何度も何度も交渉し合意に達するという行為を繰り返すことになる。それは様々な分野で行われるものだが、あくまで友好的になされる。更に言えば、国家は企業のように競争をして負けたからといって退場することはできない。破産を申請することも簡単に解散することもできない。貿易関係においては、「私だけが勝つ」というゼロサムの結果は存在しない。

結局のところ、国の誇りというものが重要になる。交渉を成功させるには、相手方の顔を立てることも必要だ。世界各国の指導者たちは、ビジネス上の取引でやられてしまった人々のように、降伏することもこそこそ逃げ出すこともできない。トランプ大統領はこのような妥協を望まない姿勢を明確にしている。2018年のアメリカ・カナダ・メキシコの協定に関する話し合いで、大統領は義理の息子ジャレッド・クシュナーからの強い働きかけを受けて、カナダとメキシコにしぶしぶではあるが2、3の譲歩をしたと報じられた。の当時、アメリカ通商代表ロバート・ライトハイザーは「ジャレッドの働きかけがなければ、この協定は成立しなかっただろう」と記者団に語っている。

ダントニオは次のように語っている。「トランプ大統領は外交を行うこと、そして主権国家と交渉することの準備がそもそもできていないのだ。二国間もしくは多国間での利益を生み出すためのギヴ・アンド・テイクのやり方を彼は知らない。彼は自己中心的過ぎるために、自分とは異なる考えを持つ人々を敵と認識する。大統領は自分のいじめが通じない相手がいれば自分が攻撃されたと思い、彼の提案に対して自分の考えを述べるような人物には激怒するのだ」。

従って、トランプ大統領は、こん棒で叩きまくるアプローチでは交渉相手によっては交渉が行き詰まり、交渉開始当初よりも交渉が進んでいる段階での方が、合意形成がより難しくなるというパターンが出来上がっていることに気付いている。トランプ大統領は中国と対峙するための12か国からなる環太平洋パートナーシップ協定から離脱した後で、トランプ大統領は彼の方か一方的に中国との貿易戦争を始めた。しかし、結果は、彼の習近平中国国家主席が企業向け補助金と知的財産権侵害の主要な問題に対して何の対策も取らないということであった。市場からは2年間の停滞は国際経済に脅威を与えるという警告が出ていた。トランプ大統領はオバマ政権下で結ばれたイランとの核開発をめぐる合意を「これまでで最悪の合意」と非難した。そして、イランに対する経済制裁を再開した。その中には、イラン外相モハマド・ジャヴァド・ザリフ個人に対する制裁も含まれていた。イランをめぐる情勢は先行きが見えない。トランプ大統領は北朝鮮の最高指導者金正恩と親しくなろうとし、アフガニスタンにおけるアメリカの状況を改善するためにカシミール地方をめぐるインドとパキスタンとの間を仲介しようと無様な提案を行った。これらもまた何も進んでいない。一つの局面では、トランプ大統領はもうすぐある程度の成功を収めることが出来るだろう。それはタリバンとの交渉だ。トランプ大統領は交渉に関しては特使であるザルメイ・ハリルザルドに任せきりだ。専門家の中には、トランプ大統領が公約しているアメリカ軍のアフガニスタンからの撤退は、タリバンに勝利をもたらすだけだと恐怖感を持っている人たちがいる。

トランプ大統領自身は何の心配もしていないふりを続け、ほとんどの問題に関しては解決を「急いでいない」と繰り返し述べている。それでも今週水曜日に記者団に対して中国に対して「私たちは勝利を収めつつある」と述べ、「私は選ばれた人間なのだ」という見当違いのアピールを行った。しかし、彼は2020年に迫った大統領選挙までの時間を浪費することになるだろう。

トランプ大統領は世界各国との交渉にことごとく失敗しているが、国内でも失敗を続けている。トランプ大統領の主要な公約である社会資本(インフラストラクチャー)、移民、医療制度について実質的な話し合いはこれまでなされていない。トランプ大統領は刑法改革法を成立させたが、これは民主党が訴えていた政策であり、こちらも義理の息子クシュナーの交渉術のおかげである。思い返してみれば、今年の1月、トランプ大統領は公約した国境の壁に関して、民主党に完全に屈服した。大統領自身が始めた政府機関の閉鎖が35日間に及んだ。大統領は最終的には連邦政府職員の給料を支払うための一時的な手段を採ることに合意したが、国境の壁への予算はつかなかった。

トランプの交渉スタイルは予測しやすいもので、ある一つのパターンが存在する。別のトランプ伝記作家グゥエンダ・ブレアはこれを「こん棒で殴りつけることと愛情を大袈裟に表現すること(love-bombing)」と呼んでいる。中国とイランに対しては次のようなパターンになる。中国の習近平国家主席とイランのハッサン・ロウハニ大統領に対しては降伏以外にはないというようなことを言っていた。これは両者にとっては不可能ではないにしても政治的に難しいことになる。トランプ大統領は同時にお世辞を言うことも忘れなかった。今週、トランプ大統領はツイッター上で「習近平は中国国民からの大いなる尊敬を集めている偉大な指導者だ」と書き、ロウハニ大統領に関しては別の観点から、「ロウハニ大統領はとても愛すべき人物だと思う」と書いている。

金正恩委員長との関係ではトランプ大統領は最初のうち脅しを繰り返した。ある時点では、当時のレックス・ティラーソン国務長官を北朝鮮との交渉をしようとして「時間を無駄にしている」と非難した。しかし同時にお世辞を繰り返すことも忘れなかった。そして、首脳会談や私的なメッセージの交換を行った。トランプ大統領は金委員長に「核兵器を放棄すれば北朝鮮はとても豊かな国になる」と請け合った。

しかし、トランプ大統領の広報外交(パブリック・ディプロマシー)も大臣レヴェルの交渉者たちの交渉も素晴らしい成果を上げることはできなかった。しかし、金委員長は別だ。一連の外交を通じて、金委員長はこれまでにない程の国際的な関心と認知を受け、彼自身の政権の正統性も認められた。

ブレアは次のように語っている。「中国やデンマークに対してのトランプ大統領のアプローチは古くからのドナルドのやり方だ。彼は自分ともう1人だけが部屋にいる形にしようとする。だから多国間の条件や会議を彼は嫌うのだ。彼は部屋の中に1人だけ入れて、その人に集中して脅しをかけたいのだ」。

ブレアは、グリーンランドをめぐる買い取り要請もトランプのキャリアでのやり方をそのまま使っているものだと述べている。「今起きていることは、ブランド確立ということなのだ。まず、トランプ・コーポレイションのブランド確立があった。それからカジノ、リアリティTV番組、と続き、今は大統領としてのブランド確立が行われているのだ。大統領としてのブランドを確立するためには、世界最大の島を買い取ること以上により良い方法はないではないか?」

ラピダスのトランプ家との家族ぐるみの付き合いはトランプ大統領の父フレッド・トランプにまで遡る。ラピダスはフレッドとも建築士として一緒に仕事をした。トランプ大統領のアプローチは自分の仕事仲間や取引先にとってはおなじみのもので驚きはないとしている。ラピダスは次のように述べている。「トランプ大統領のやり方は彼がビジネスをやっていた時と全く同じだ。彼がやっていることはその継続に過ぎない。とどまることを知らない嘘が続けられる。当時の私はそれを見ながら、なんだかかわいげを感じていた」。

ラピダスは、「トランプの交渉スタイルは、当時も今も、その場しのぎで何の明確な戦略などないのだ。私は、彼が頻繁に更新するツイッターを見てますますその思いを強めている」と述べている。ラピダスは、1980年代のアトランティック・シティでのカジノの件をめぐる裁判での審理のことをよく覚えている。トランプは出廷し宣誓をしたのち、カジノを建設した理由について嘘の証言をした。ラピダスは、何とか嘘を止めねばならないと感じたと述べている。

ラピダスは次のように語った。「その後で私はトランプに、何をやっているんだ、どうしてあんなことを言ったんだと食って掛かった。彼は“アラン、私はね、自分の言葉が口から出るまで私は何を言っているのか自分でも分からないんだよ”と言った。これがドナルド・トランプという人物なのだ」。

(貼り付け終わり)

(終わり)
ketteibanzokkokunihonron001
決定版 属国 日本論

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 

 2019年9月10日にドナルド・トランプ大統領は国家安全保障問題担当大統領補佐官ジョン・ボルトンの退任(解任)を発表しました。「これ以上ホワイトハウスで働いてもらう必要はない」(トランプ大統領のツイッターから)ということで、相当に関係がこじれていたことが推察されます。これに対して、ボルトンはやはりツイッター上で、「自分から辞任を申し出て、トランプ大統領は明日話そうと言った」と書いています。自分から辞めてやったんだと言っています。自発的な辞任でも解任でも結果は変わらない訳ですが。

johnbolton002

ボルトン
 

 ネオコンの代表格であるジョン・ボルトンがトランプ政権入りというのは、2017年の政権発足前後にもそうした噂話があり、後には実際にその話が進んでいたということが明らかになったことは、このブログでもご紹介しました。「アメリカ・ファースト(アメリカ国内問題解決優先)」「アイソレーショニズム(自国優先主義)」のトランプ大統領が、ボルトンを国家安全保障問題担当大統領補佐官に起用するとなった時には、どうしてそんな人事なんだろうか、トランプ大統領のイスラエル重視姿勢のためだろうかと不思議でした。

 

 ボルトンは対イラン強硬姿勢ではトランプ大統領と合意して順調だったようですが、その後は衝突が多かったそうです。また、マイク・ポンぺオ国務長官とも多くの機会で衝突したそうで、そのことはポンぺオ長官も認めています。普通、記者会見という公の場で、国務長官と国家安全保障問題担当大統領補佐官が衝突したなどということを国務長官が認めるということはないのですが、ポンぺオとしてはトランプの寵愛は俺の方にあった、という勝利宣言だったのでしょう。


mikepompeo001
ポンぺオ
 

 ボルトンが属するネオコンは、世界の非民主国家に対して介入して、国家体制を転覆させ、民主政治体制にする、そして世界の全ての国家が民主国家になれば戦争はなくなるという、世界革命論的な主張をしています。この主張と姿勢は世界各国を共産主義国にするとした旧ソ連と同じです。民主政治体制を至高の存在と考えるという点では宗教的と言えるでしょう。しかし、ネオコンはアメリカにとって便利な存在である中東産油国や中央アジア諸国の王国や独裁国家を転覆させようとはしません。この点でダブルスタンダードであり、二枚舌なのです。

 

 ボルトン解任前、2019年9月7日にトランプ大統領はタリバンの代表者をアメリカに招き、キャンプ・デイヴィッドで会談を持つという計画の中止を発表しました。この中止の数日後の11日にはボルトン解任が起きました。そして、14日には、イエメンの反政府勢力ホーシー派(フーシ派)がサウジアラビアの石油製造施設2か所を10機のドローンで攻撃し、石油生産量が半減する事態となりました。ホーシー派はイランが支援しているということです。「イランの方向から飛んできた」という報道もありますが、サウジアラビアの東側から物体が飛んでくればイランのある方角から飛んできたということになりますから、これはイランが関連しているテロ攻撃だということを印象付けたいということなのでしょう。南側から飛んでくればイエメンからということになりますが、攻撃機はどこから飛んできたのかということもはっきりしません。

 

 中東の地図を見ると、イランとサウジアラビアはかなり離れており、イランからドローンが10期も出撃したとは考えられません。イエメンであれば紅海を超えるだけですから、攻撃は可能でしょう。しかし、今のところ、どこからドローンが出撃したかということは分かっていません。また、イランが絡んでいるということはアメリカやサウジの主張であって決定的な証拠がある訳ではありません。

 

 いくつかのシナリオが考えられます。ボルトン解任を軸に考えると、親イスラエル・サウジアラビアのボルトンが政権から去ることで、両国の存在感が低下し、アメリカの中東からの撤退が進むという懸念があり、そのために両国が自作自演をやったということが考えられます。また、トランプ大統領がボルトンを解任したということは、アメリカは世界で警察官をやるつもりはない、軍事行動をとる元気はないと判断して、イランがホーシー派に支援してやらせた、もしくはイランの背後にいる中国がやらせた、ということも考えられます。

 

 イエメンの対岸にあるアフリカの角、紅海とアデン湾をつなぐ位置にジブチがあり、昔から要衝となっています。ここには中国人民解放軍の海外基地があることもあって、いろいろなシナリオが考えられます(ここからホーシー派にドローン攻撃機が供給されたなど)。もちろん確たる証拠が出るまではシナリオを考えるだけにして、決めつけや自分勝手な思い込みは慎まねばなりませんが。

 

 話があちこちに飛んでしまって申し訳ありません。ボルトン解任は状況に対して影響を与えるということはあると考えているうちに、話が飛んでしまいました。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプによるジョン・ボルトン解任についての5つのポイント(Five takeaways on Trump's ouster of John Bolton

 

ブレット・サミュエルズ、オリヴィア・ビーヴァーズ筆

2019年9月11日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/460815-five-takeaways-on-trumps-ouster-of-john-bolton

 

火曜日、トランプ大統領はジョン・ボルトンが国家安全保障問題担当大統領補佐官から退任すると発表した。外交政策分野における重要な諸問題にどのように対処すべきかについてトランプ大統領とボルトンとの間で不同意があったとトランプ大統領は述べた。

 

トランプ大統領はツイッター上でボルトンの退任を大々的に発表した。その後、衝撃がワシントン全体に広がった。

 

これからボルトンの退任についての5つのポイントについて述べる。

 

(1)トランプ政権内の混乱(カオス)状態は新たな展開を見せる(Trump chaos takes another turn

 

ボルトンが解任されたことにより、トランプは3年間で4人目の国家安全保障問題担当大統領補佐官を探すことになった。これによって、トランプ大統領が重大な国家安全保障上の諸問題に対処する際に、大統領の上級顧問たちの間で不安定さが出てくるのではないかという懸念が再び大きくなっている。

 

ボルトンの退任は、トランプ大統領がキャンプ・デイヴィッドでタリバンと会談を持つ予定だったが中止にしたという衝撃的なニュースが報じられた後に起きた。タリバンはオサマ・ビン・ラディンを匿ったアフガニスタンのテログループだ。

 

トランプ大統領はアフガニスタンからの米軍撤退を行おうとし、タリバンの代表とアメリカ国内で会談を持つことにボルトンは反対したということは明確だ。ペンス副大統領は明確に大統領を支持しているが、ボルトンはそうではなかった。

 

トランプ政権の幹部たちは、タカ派のボルトンの退任は大きな出来事である、もしくは無秩序を増大させる、という考えを完全に否定した。

 

火曜日の記者会見で、スティーヴン・ミュニーシン財務長官は「そんなことは全くない。そんなバカな質問はこれまで聞いたことがない」と述べた。

 

しかし、ここ数か月の間、トランプ大統領は国土安全保障長官、国家情報長官、ボルトンを解任した。現在の国防長官は就任してからまだ数週間しか経っていない。

 

民主党は、政権内の人事の頻繁な交代と争いはこれからどうなるか分からないとし、トランプ大統領の政敵たちは大統領を攻撃するためにボルトン隊員のニュースを利用するだろうと強調している。

 

(2)ポンぺオの力が大きくなる(Pompeo's strength grows

 

ボルトンの退任はマイク・ポンぺオ国務長官のトランプ大統領に対する影響力を更に強めることになる。

 

ポンぺオとボルトンは数々の問題で衝突した。火曜日、国務長官は記者会見で記者たちに対して衝突があったことを認めた。

 

トランプ政権が発足してすぐからトランプ大統領に仕えた閣僚は数が少なくなっているが、ポンぺオはその中の一人だ(訳者註:CIA長官から国務長官へ横滑り)。ポンぺオはトランプ大統領に忠実な代理人で、イラン、北朝鮮、アフガニスタン、中央アメリカに関連した諸問題についての大統領のメッセージを伝えてきた。

 

ボルトンはイランと北朝鮮との交渉を複雑化させた。イラン外相ムハマンド・ジャヴァド・ザリフはボルトンをトランプ政権の「Bティーム」のメンバーだと揶揄し、北朝鮮政府幹部たちは数度の非核化交渉の中で彼を「好戦的な戦争屋」を非難した。

 

火曜日の午後の記者会見に同席する予定であったボルトンの退任に驚いたかと質問され、ポンぺオはニヤリとした。

 

ポンぺオ国務長官は「大変に驚いた。この問題だけのことではないが」と述べた。

 

(3)奇妙な結婚関係が終焉(Strange marriage ends

 

トランプ大統領は2018年3月にボルトンを国家安全保障問題担当大統領補佐官に起用した。前任のH・R・マクマスターよりもタカ派の人物としての起用となった。

 

ボルトンはテレビ出演時にトランプ大統領の考えを強力に擁護してきた。そして、大統領のイランとの核開発をめぐる合意からの離脱という希望に賛成していたようだ。

 

トランプ大統領とボルトンは重要ないくつかの問題、特にイラン問題について合意していたようだ。ボルトンを起用してから6週間後にトランプ大統領はオバマ政権下で結ばれた核開発をめぐる合意から離脱した。そして、トランプ政権は離脱直後からイランに対する経済制裁を科してイラン政府を攻撃した。

 

しかし、おかしくみえることもあった。トランプ大統領は元々ボルトンを起用することにためらっていた、それは彼が口ひげを生やしていたこと、そしてボルトンはジョージ・H・W・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュ両政権下で働いたことが理由であった。トランプ大統領は自身の幹部となるアドヴァイザーを起用する際にそのような前歴があると怒りをぶちまけていた。

 

ここ数か月でボルトンのトランプ大統領に対する影響力は消えていた。そして、公の場での大統領からの叱責が続いた。

 

この数か月、トランプ大統領はボルトンのイランに対する強硬姿勢から少しずつ離れていった。トランプ大統領はイランの指導者たちと前提条件なしで直接話をしたいと述べ、イランと軍事上で関与することに躊躇している。

 

ボルトン退任の決定打となったのは恐らく、911事件の記念日の前にタリバンをキャンプ・デイヴィッドに招いて交渉を行うというトランプの考えに反対したと報じられたが、このことがきっかけであっただろう。

 

ホワイトハウスのホーガン・ギドリー副報道官はフォックスニュースに出演し、「トランプ大統領は周囲の人々に自分の考えに反対してもらいたい、それで自分の前で議論をして欲しいと望んでいる。しかし、最終的に政策を決定するのは大統領だ」と述べた。

 

(4)共和党は再び説明を放棄した(GOP left explaining once again

 

トランプ大統領が人々を驚かせることをやる度に、連邦議会共和党はそれに対する反応を求められる。火曜日の発表もその例外ではない。

 

複数の共和党の連邦議員たちは、レーガン、ジョージ・H・W・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュ各政権で働いたボルトンがトランプ政権から去ることを残念だと述べた。

 

連邦上院外交委員会の委員ミット・ロムニー連邦上院議員(ユタ州選出、共和党)は次のように述べた。「ボルトンは天邪鬼であることは事実だが、それは彼にとってプラスであっても、マイナスではない。彼が政権から去るという報に接し、大変残念だ。私は彼の退任は政権と国家にとって大きな損失である」。

 

しかし、他の人々はタカ派のボルトンの退任を歓迎した。こうした人々は、ボルトンがアメリカを更なる戦争に導くだろうという恐怖感を持っていた。

 

連邦下院の中でトランプ大統領の盟友となっているマット・ゲーツ連邦下院議員(フロリダ州選出、共和党)は本誌の取材に対して次のように答えた。「私はボルトンの退任を歓迎したい。それは、ボルトンの世界観が反映されにくくなることで、世界における平和のチャンスが大きくなるだろうと考えるからだ」。

 

共和党の政治家のほとんどは当たらず触らずの態度で、トランプ大統領は自分自身で適切な人物を補佐官に選ぶべきだと述べるにとどまった。

 

(5)ボルトンは口を閉ざしたままではないだろう(Bolton may not go quietly

 

トランプ大統領がボルトン解任を発表してから数分後に、ボルトン自身が衝撃を与えた。彼はトランプ大統領の説明に対して反論を行い、人々を驚かせた。

 

トランプ大統領はツイッター上で、「私は昨晩、ジョン・ボルトンに対してホワイトハウスで働いてもらうことはこれ以上必要ではないと通知した。火曜日の朝にボルトンの辞任を受け入れた」と書いた。

 

ボルトンはトランプ大統領の発表から10分後にツイートをし、「私は昨晩辞任を申し出て、トランプ大統領は“そのことについては明日話そう”と言った」と書いた。

 

ボルトンは複数の記者たちに対して、退任はボルトン自身の決断だったと伝えている。

 

ホワイトハウスの幹部職員たちは記者たちに対して火曜日の朝にボルトンが辞任したことを認めるだろうが、ボルトン退任の詳細について記者たちと話すことはないだろう。

 

ボルトンは自分の主張を明らかにする場所と立場を維持している。彼は以前にはフォックスニュースでコメンテイターをしていた。彼は政界で信頼を得られるだけの経歴を持ち、自身の退任について自己弁護する連絡を記者たちに行ったことで明らかなように、ワシントンのメディアに幅広い人脈を持つ。

 

トランプ大統領がこれからの数日もしくは数週間の間に、ボルトンに対する批判を続けると、ボルトンはトランプ大統領の話と自分の話の食い違いについて批判や説明を行うことで反撃することになるだろう。ボルトンが自身の主張を続けることがホワイトハウスにとっては頭痛の種となるであろう。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

価格:1,400円
(2018/3/9 10:43時点)
感想(0件)

ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側[本/雑誌] (単行本・ムック) / 古村治彦/著

価格:1,836円
(2018/4/13 10:12時点)
感想(0件)


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。

 

 少し古くなりましたが、先週に出た、三菱UFJ銀行がアメリカ連邦検察から捜査を受けているという記事についてご紹介します。

 

 これは20181121日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じたものです。この記事によると、アメリカ連邦検察が北朝鮮の資金洗浄(マネーロンダリング)を巡り、三菱UFJ銀行(MUFG)を捜査しているということです。今回の報道内容のいきさつは少し複雑ですので、記事の内容に沿ってご紹介していきたいと思います。

 

 MUFGはニューヨーク州の認可を受けて、ニューヨークで事業を展開できる銀行となっていました。監督官庁はニューヨーク州金融監督局です。ニューヨーク州金融監督局は、2013年と2014年に、MUFGに数百億円規模の罰金を科しました。それは、アメリカが経済制裁対象としているミャンマーとイランの個人や企業、団体が取引をする際に、MUFGのシステムを使わせたというのが理由となっています。マネーロンダリングをさせたということになります。

 

 昨年、2017年11月、MUFGは、ナショナル・バンクという地位というか種別として再登録しました。連邦法に基づき、連邦政府が監督することを条件に営業ができる銀行となりました。監督官庁は連邦通貨監督庁です。MUFGは、ナショナル・バンクになったので、これからはニューヨーク州金融監督局が自分たちの監督官庁ではないと裁判で主張しました。これに対して、ニューヨーク州金融監督局は、今回の再登録は、MUFGが厳しい規制を逃れるための動きだと主張しています。

 

 現在の連邦通貨監督庁のトップは、以前にMUFGに勤務した経験を持ち、ドナルド・トランプ大統領によって任命された人物です。監督が甘くなるのではないかということまでは記事の中には書かれていませんが、普通に読めば、そう思うような展開で書かれています。

 

 こうした中で、連邦検察はMUFGが北朝鮮のマネーロンダリングに関わっている可能性があるということで捜査をしているのではないかと記事は報じています。連邦検察側、MUFG側はともにコメントを拒否しています。

 

 今回の報道で気になるのは、ニューヨーク州金融監督局の監督や調査の方が、連邦通貨監督庁よりも厳しいということを、ニューヨーク州金融監督局すらも認めていることです。そして、ニューヨーク州金融監督局との裁判がきっかけとなって、連邦検察が動き出したということです。大雑把に言ってしまうと、ニューヨーク州の方が経済制裁やマネーロンダリングに厳しい態度で臨み、連邦政府はそうではない、ということになります。

 

 記事から受ける印象からすると、連邦政府、特に金融分野の監督庁はそこまで厳しくやらない、北朝鮮とはトランプ大統領と金正恩の首脳会談もあったので、あまり厳しくやっていない、それはトランプ大統領がそのように示唆しているからだ、一方、ニューヨーク州は、連邦政府よりもきちんと厳しくやっている、ということになります。

 

 これが示しているのは、ニューヨーク州側が連邦政府、トランプ政権に対して、批判的な考えを持っているということです。連邦検察もいくつかの区に分かれており、ニューヨーク州南地区連邦検察が今回記事となった捜査を担当することになります。ニューヨーク州対連邦政府ということになり、更には北朝鮮に対する融和的な態度に対する反感がそこにはあるということになります。

 

 もっと言ってしまえば、ニューヨーク州は民主党が強い土地であり、ヒラリー・クリントンが連邦上院議員として出ていた州であるということも考え合わせると、ヒラリーを支持する人々がトランプ攻撃のために行った、更にリベラル派メディアのニューヨーク・タイムズ紙にリークしたということが考えられます。

 

 MUFGのシステムに整備されていない部分があったのは事実でしょうが、どうも今回は、アメリカ国内の各勢力間の争いに巻き込まれたということになるのだろうと思います。

 

=====

 

●記事内容のまとめ

 

・日本最大の銀行が、イランとミャンマーのような経済制裁対象となっている国々に支払いを行わせた嫌疑で、ニューヨーク州政府から処罰を受けた。

・現在はより深刻な捜査が行われている。それは連邦政府による北朝鮮に関する捜査だ。

 

・三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)は昨年末に連邦検察から召喚を受けた。当時、MUFGはニューヨーク州金融監督局と裁判で争っていた。

・経済制裁対象国の支払いを行わせたという嫌疑は、ニューヨーク州金融監督局のMUFGの反マネーロンダリング規則違反を罰する一環である。

 

・ニューヨーク州金融監督局がMUFGとの裁判において、MUFG側が意図的に制裁リストに入っている企業や個人との取引を行わないようにするための内部のフィルターの機能を無視したと主張した後で、連邦検察からの召喚が発せられた。

・ニューヨーク州金融監督局は更に、MUFGが北朝鮮国境地帯でビジネスを行っている中国の顧客のIDをチェックするシステムを構築することに失敗したと主張している。北朝鮮国境地帯ではマネーロンダリングが盛んにおこなわれている。

 

・北朝鮮がMUFGを通じてマネーロンダリングを行ったことを示す証拠を連邦検察が発見したのかどうかは明確ではない。

・ニューヨーク州金融監督局の主要な関心は、MUFGの内部システムにいくつか穴があり、それを使って取引が可能な点にあった。

 

・連邦検察による捜査はニューヨーク州金融監督局とMUFGとの裁判がきっかけとなった。

 

・2013年、ニューヨーク州は、MUFGがイランとミャンマーの企業や個人が関わった取引についての記録を削除したとして、2億5000万ドルの罰金を科した。

・2014年、ニューヨーク州はMUFGが違法行為に関する情報を秘匿しようとしたとして更に3億1500万ドルの罰金を科した。

 

・1年前にMUFGはナショナル・バンク(連邦政府が認可した商業銀行)に再登録したので、州政府はMUFGを処罰する権限を失ったと主張した。MUFGは効率性のためにナショナル・バンクに再登録したと述べた。

・ニューヨーク州はMUFGが異なる監督機関の下に入ることによって処罰を免れようとしていると述べた。その監督機関が連邦通貨監督庁である。

 

・連邦通貨監督庁を率いるのはMUFGに勤務していたジョセフ・M・オティングだ。MUFGがナショナル・バンクに変更している最中に、オティングはトランプ大統領に連邦通貨監督庁の責任者に指名された。

・先週、オティングは日本で開かれた会合に出席し、「連邦通貨監督庁は、ニューヨーク金融監督庁よりも、より完全な、より効率的な、そしてこの点が重要だが、より徹底した規制監督を行う」と発言した。

 

・連邦通貨監督庁の報道担当官は、MUFGのナショナル・バンクへの変更を認める決定は、オティングが責任者になる前になされたものだと述べた。

 

・ニューヨーク州金融監督局は、MUFGは「ホットスキャン」という電子スクリーンシステムを利用して、アメリカとの取引が禁止されている個人や国家の関与を示す金融取引を追跡可能であった、と主張している。

・しかし、ニューヨーク州は、MUFGが10年にわたって、「ホットスキャン」から随時、いくつかの国々が取引を行った情報をつながらなくしたことを知っていたはずだと主張している。

 

・ニューヨーク州は「ホットスキャン」は、北朝鮮との取引が可能な場所にいる利用者は金融システムを利用できないように設定されていたと主張している。

 

MUFG2016年に裁判において、ニューヨーク州に対して、世界各国の30を超える支店で突然の故障が起きたことは認めた。

 

MUFGに罰金を科した後、ニューヨーク州は監視員をMUFGに派遣し、犯罪者や経済制裁対象者による取引を補足するためのシステムについて調査させていた。監視員は、20173月の報告書の中で、MUFGの反マネーロンダリングプログラムを担当していた元職員は、プログラムが「手を付けられないほど」だと述べたと報告している。

 

・昨年11月、MUFGはナショナル・バンクに変更した。

 

MUFGがニューヨーク州の登録からナショナル・バンクに変更した際、問題が解決したということを示すことなく、ニューヨーク州から派遣されていた監視員を退去させた。そのため、ニューヨーク州はMUFGを裁判に訴えた。

・訴訟において中心的に争われているのは、ニューヨーク州がマネーロンダリングについて捜査している中で、MUFGがナショナル・バンクに変更することが認められるのかどうか、である。

 

・ニューヨーク州金融監督局の報道担当官は、「ニューヨーク州は、連邦政府が金融サーヴィスに関する規制を誤った形で廃止し、消費者保護を後退させている中で、安全にかつ健全に銀行業務を規制している」と述べている。

 

・疑わしい取引に関して当局に報告することを怠ったとして問題になっているのはMUFGばかりではない。今年2月、USバンクは同様の嫌疑で連邦政府に対して6億ドルの罰金を支払った。

 

・各銀行においてマネーロンダリングに対する性差が厳しくなっているのは、経済制裁を実際に実行できるのが銀行における取引しかないからだと専門家は述べている。

 

・北朝鮮に対する経済制裁に関しては、アメリカとEUは実際に行えるよりも厳しくない形になっている。

 

・連邦政府の担当者はMUFGが警報システムを改善しつつあると述べている。

 

・巨大銀行は、反マネーロンダリングに関する規制があまり厳しくなり、守るのが大変にならないように政治家や当局に働きかけているのが現状だ。しかし、帰省や罰則の強化を求める動きもある。

 

(貼り付けはじめ)

 

U.S. Prosecutors Are Said to Be Investigating Japan’s Largest Bank

 

By Emily Flitter

Nov. 21, 2018

https://www.nytimes.com/2018/11/21/business/mitsubishi-ufj-north-korea.html

 

Japan’s largest bank has already been penalized by the State of New York for letting countries on sanctions lists like Iran and Myanmar route payments through its systems, but a current inquiry is more serious: It’s a federal case involving North Korea.

 

The bank, Mitsubishi UFJ Financial Group, was subpoenaed by federal prosecutors in Manhattan late last year as it was locked in a court fight with the New York Department of Financial Services, according to two people who were briefed on the investigation but not permitted to speak publicly. That litigation involves the department’s attempts to punish the bank, known as MUFG, for breaking anti-money-laundering rules.

 

The subpoena was issued after the state said in a court filing that the bank had intentionally ignored an internal filter designed to keep it from doing business with companies and people on international sanctions lists. The Department of Financial Services said the bank had also failed to set up a system for checking the identities of some of its Chinese customers doing business along the North Korean border, a hot spot for money laundering.

 

It was not clear whether prosecutors had found any evidence that North Koreans laundered money through the bank, but the holes in the system meant to trace such transactions were a chief concern of the Department of Financial Services.

 

A spokesman for the United States attorney’s office for the Southern District of New York declined to comment. MUFG also declined to comment.

 

The federal investigation arose from the state’s latest legal confrontation with the bank, which was called Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ until this year.

 

In 2013, the Department of Financial Services fined the bank $250 million for removing information from its records about transactions that involved parties in countries like Iran and Myanmar. A year later, the state fined the bank an additional $315 million for trying to hide information about that misconduct.

 

MUFG reclassified itself as a national bank a year ago and says the state regulatory agency no longer has the authority to punish it. The bank said it had reclassified for efficiency reasons; the regulators counter that the bank is trying to evade penalties by seeking out a different oversight body: the federal Office of the Comptroller of the Currency.

 

That office is led by a former MUFG employee, Joseph M. Otting, who was President Trump’s nominee for the position when the bank made its switch. In a speech at a conference in Japan last week, Mr. Otting said his agency provided “more complete, more efficient and, importantly, more thorough regulation” than states could.

 

A spokesman for the federal agency said the decision to approve the bank’s conversion to a national charter had been made before Mr. Otting became comptroller. “Mr. Otting was not involved in that process,” the spokesman added.

 

According to the state regulator, MUFG has long used an electronic screening system, HotScan, to sort through its financial transactions for signs of involvement by people or countries barred from doing business with the United States. New York has claimed the bank knew — but never disclosed — that for 10 years HotScan occasionally cut off information about the countries where certain transactions originated.

 

The state said the system also did not allow users in some locations to enter North Korea as a country involved in the transaction, which meant the transaction wouldn’t be flagged for closer scrutiny.

 

The bank told New York in 2016 that it had found more than 30 branches around the world where these glitches existed, according to the court filing.

 

After fining MUFG, New York installed an independent monitor in the bank to inspect its system for catching criminals and sanctions evaders. In a March 2017 report, the monitor said a former bank employee responsible for its anti-money-laundering program had described the program as a “dumpster fire.”

 

Then, last November, MUFG made the switch to a national charter, after giving New York just eight days’ notice that it was considering the move. (Regulators in Texas, where the bank also had a state license, found out about the switch only when it was reported in the news media.)

 

When MUFG traded its state charter for a national charter, it expelled the state monitor without demonstrating that the problems identified in the report had been fixed, New York regulators claimed in court filings. MUFG and the New York regulator continue to argue over whether the bank was allowed to transform itself into a national bank while the state was still investigating its money-laundering controls.

 

A spokesman for New York’s regulator said he could not comment on pending litigation, but added: “The states safely and soundly regulate banking activities while the current federal government works to misguidedly dismantle financial services regulation and scale back consumer protections.”

 

MUFG is not the first bank to have gotten in trouble this year for, at the very least, skimping on reporting suspicious activity to the authorities. In February, U.S. Bank agreed to pay more than $600 million in penalties levied by federal authorities after senior bank officials were found to have ignored red flags raised by its screening systems about certain customers because it did not have enough employees to handle the reports.

 

One reason for the intense scrutiny of money-laundering controls at banks is that bank transactions are sometimes the only points at which sanctions are enforced, said Elizabeth Rosenberg, a senior fellow at the Center for a New American Security whose research focuses on sanctions and North Korea.

 

In the case of North Korea, she said, the United States and the European Union haven’t been as strict as they could be enforcing their own sanctions.

 

They have not battened down the hatches to constrain North Korea’s use of the financial system,” Ms. Rosenberg said. “Perhaps we shouldn’t be surprised that large, sophisticated banks are having trouble wrapping their arms around this issue.”

 

MUFG’s new federal overseers said in a regulatory filing that the bank was working to fix its alert systems.

 

This is a particularly delicate time for big banks, which are trying to convince lawmakers and regulators that anti-money-laundering rules are too hard for them to follow. Trade groups want Congress to relieve banks of the responsibility of determining a client’s true ownership and to change the requirements for reporting suspicious transactions. They also say banks are punished too severely for failing to report suspicious activity.

 

The banking sector wants to help in ferreting out any terrorism, money laundering — they want to cooperate — but they want to do it in a way that actually works,” said Paul Merski, the top lobbyist for the Independent Community Bankers of America, a trade group. Right now, he said, “they are overwhelmed.”

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

価格:1,400円
(2018/3/9 10:43時点)
感想(0件)

ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側[本/雑誌] (単行本・ムック) / 古村治彦/著

価格:1,836円
(2018/4/13 10:12時点)
感想(0件)





このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ