古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:イラン

 古村治彦です。

 

 少し古くなりましたが、先週に出た、三菱UFJ銀行がアメリカ連邦検察から捜査を受けているという記事についてご紹介します。

 

 これは20181121日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じたものです。この記事によると、アメリカ連邦検察が北朝鮮の資金洗浄(マネーロンダリング)を巡り、三菱UFJ銀行(MUFG)を捜査しているということです。今回の報道内容のいきさつは少し複雑ですので、記事の内容に沿ってご紹介していきたいと思います。

 

 MUFGはニューヨーク州の認可を受けて、ニューヨークで事業を展開できる銀行となっていました。監督官庁はニューヨーク州金融監督局です。ニューヨーク州金融監督局は、2013年と2014年に、MUFGに数百億円規模の罰金を科しました。それは、アメリカが経済制裁対象としているミャンマーとイランの個人や企業、団体が取引をする際に、MUFGのシステムを使わせたというのが理由となっています。マネーロンダリングをさせたということになります。

 

 昨年、2017年11月、MUFGは、ナショナル・バンクという地位というか種別として再登録しました。連邦法に基づき、連邦政府が監督することを条件に営業ができる銀行となりました。監督官庁は連邦通貨監督庁です。MUFGは、ナショナル・バンクになったので、これからはニューヨーク州金融監督局が自分たちの監督官庁ではないと裁判で主張しました。これに対して、ニューヨーク州金融監督局は、今回の再登録は、MUFGが厳しい規制を逃れるための動きだと主張しています。

 

 現在の連邦通貨監督庁のトップは、以前にMUFGに勤務した経験を持ち、ドナルド・トランプ大統領によって任命された人物です。監督が甘くなるのではないかということまでは記事の中には書かれていませんが、普通に読めば、そう思うような展開で書かれています。

 

 こうした中で、連邦検察はMUFGが北朝鮮のマネーロンダリングに関わっている可能性があるということで捜査をしているのではないかと記事は報じています。連邦検察側、MUFG側はともにコメントを拒否しています。

 

 今回の報道で気になるのは、ニューヨーク州金融監督局の監督や調査の方が、連邦通貨監督庁よりも厳しいということを、ニューヨーク州金融監督局すらも認めていることです。そして、ニューヨーク州金融監督局との裁判がきっかけとなって、連邦検察が動き出したということです。大雑把に言ってしまうと、ニューヨーク州の方が経済制裁やマネーロンダリングに厳しい態度で臨み、連邦政府はそうではない、ということになります。

 

 記事から受ける印象からすると、連邦政府、特に金融分野の監督庁はそこまで厳しくやらない、北朝鮮とはトランプ大統領と金正恩の首脳会談もあったので、あまり厳しくやっていない、それはトランプ大統領がそのように示唆しているからだ、一方、ニューヨーク州は、連邦政府よりもきちんと厳しくやっている、ということになります。

 

 これが示しているのは、ニューヨーク州側が連邦政府、トランプ政権に対して、批判的な考えを持っているということです。連邦検察もいくつかの区に分かれており、ニューヨーク州南地区連邦検察が今回記事となった捜査を担当することになります。ニューヨーク州対連邦政府ということになり、更には北朝鮮に対する融和的な態度に対する反感がそこにはあるということになります。

 

 もっと言ってしまえば、ニューヨーク州は民主党が強い土地であり、ヒラリー・クリントンが連邦上院議員として出ていた州であるということも考え合わせると、ヒラリーを支持する人々がトランプ攻撃のために行った、更にリベラル派メディアのニューヨーク・タイムズ紙にリークしたということが考えられます。

 

 MUFGのシステムに整備されていない部分があったのは事実でしょうが、どうも今回は、アメリカ国内の各勢力間の争いに巻き込まれたということになるのだろうと思います。

 

=====

 

●記事内容のまとめ

 

・日本最大の銀行が、イランとミャンマーのような経済制裁対象となっている国々に支払いを行わせた嫌疑で、ニューヨーク州政府から処罰を受けた。

・現在はより深刻な捜査が行われている。それは連邦政府による北朝鮮に関する捜査だ。

 

・三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)は昨年末に連邦検察から召喚を受けた。当時、MUFGはニューヨーク州金融監督局と裁判で争っていた。

・経済制裁対象国の支払いを行わせたという嫌疑は、ニューヨーク州金融監督局のMUFGの反マネーロンダリング規則違反を罰する一環である。

 

・ニューヨーク州金融監督局がMUFGとの裁判において、MUFG側が意図的に制裁リストに入っている企業や個人との取引を行わないようにするための内部のフィルターの機能を無視したと主張した後で、連邦検察からの召喚が発せられた。

・ニューヨーク州金融監督局は更に、MUFGが北朝鮮国境地帯でビジネスを行っている中国の顧客のIDをチェックするシステムを構築することに失敗したと主張している。北朝鮮国境地帯ではマネーロンダリングが盛んにおこなわれている。

 

・北朝鮮がMUFGを通じてマネーロンダリングを行ったことを示す証拠を連邦検察が発見したのかどうかは明確ではない。

・ニューヨーク州金融監督局の主要な関心は、MUFGの内部システムにいくつか穴があり、それを使って取引が可能な点にあった。

 

・連邦検察による捜査はニューヨーク州金融監督局とMUFGとの裁判がきっかけとなった。

 

・2013年、ニューヨーク州は、MUFGがイランとミャンマーの企業や個人が関わった取引についての記録を削除したとして、2億5000万ドルの罰金を科した。

・2014年、ニューヨーク州はMUFGが違法行為に関する情報を秘匿しようとしたとして更に3億1500万ドルの罰金を科した。

 

・1年前にMUFGはナショナル・バンク(連邦政府が認可した商業銀行)に再登録したので、州政府はMUFGを処罰する権限を失ったと主張した。MUFGは効率性のためにナショナル・バンクに再登録したと述べた。

・ニューヨーク州はMUFGが異なる監督機関の下に入ることによって処罰を免れようとしていると述べた。その監督機関が連邦通貨監督庁である。

 

・連邦通貨監督庁を率いるのはMUFGに勤務していたジョセフ・M・オティングだ。MUFGがナショナル・バンクに変更している最中に、オティングはトランプ大統領に連邦通貨監督庁の責任者に指名された。

・先週、オティングは日本で開かれた会合に出席し、「連邦通貨監督庁は、ニューヨーク金融監督庁よりも、より完全な、より効率的な、そしてこの点が重要だが、より徹底した規制監督を行う」と発言した。

 

・連邦通貨監督庁の報道担当官は、MUFGのナショナル・バンクへの変更を認める決定は、オティングが責任者になる前になされたものだと述べた。

 

・ニューヨーク州金融監督局は、MUFGは「ホットスキャン」という電子スクリーンシステムを利用して、アメリカとの取引が禁止されている個人や国家の関与を示す金融取引を追跡可能であった、と主張している。

・しかし、ニューヨーク州は、MUFGが10年にわたって、「ホットスキャン」から随時、いくつかの国々が取引を行った情報をつながらなくしたことを知っていたはずだと主張している。

 

・ニューヨーク州は「ホットスキャン」は、北朝鮮との取引が可能な場所にいる利用者は金融システムを利用できないように設定されていたと主張している。

 

MUFG2016年に裁判において、ニューヨーク州に対して、世界各国の30を超える支店で突然の故障が起きたことは認めた。

 

MUFGに罰金を科した後、ニューヨーク州は監視員をMUFGに派遣し、犯罪者や経済制裁対象者による取引を補足するためのシステムについて調査させていた。監視員は、20173月の報告書の中で、MUFGの反マネーロンダリングプログラムを担当していた元職員は、プログラムが「手を付けられないほど」だと述べたと報告している。

 

・昨年11月、MUFGはナショナル・バンクに変更した。

 

MUFGがニューヨーク州の登録からナショナル・バンクに変更した際、問題が解決したということを示すことなく、ニューヨーク州から派遣されていた監視員を退去させた。そのため、ニューヨーク州はMUFGを裁判に訴えた。

・訴訟において中心的に争われているのは、ニューヨーク州がマネーロンダリングについて捜査している中で、MUFGがナショナル・バンクに変更することが認められるのかどうか、である。

 

・ニューヨーク州金融監督局の報道担当官は、「ニューヨーク州は、連邦政府が金融サーヴィスに関する規制を誤った形で廃止し、消費者保護を後退させている中で、安全にかつ健全に銀行業務を規制している」と述べている。

 

・疑わしい取引に関して当局に報告することを怠ったとして問題になっているのはMUFGばかりではない。今年2月、USバンクは同様の嫌疑で連邦政府に対して6億ドルの罰金を支払った。

 

・各銀行においてマネーロンダリングに対する性差が厳しくなっているのは、経済制裁を実際に実行できるのが銀行における取引しかないからだと専門家は述べている。

 

・北朝鮮に対する経済制裁に関しては、アメリカとEUは実際に行えるよりも厳しくない形になっている。

 

・連邦政府の担当者はMUFGが警報システムを改善しつつあると述べている。

 

・巨大銀行は、反マネーロンダリングに関する規制があまり厳しくなり、守るのが大変にならないように政治家や当局に働きかけているのが現状だ。しかし、帰省や罰則の強化を求める動きもある。

 

(貼り付けはじめ)

 

U.S. Prosecutors Are Said to Be Investigating Japan’s Largest Bank

 

By Emily Flitter

Nov. 21, 2018

https://www.nytimes.com/2018/11/21/business/mitsubishi-ufj-north-korea.html

 

Japan’s largest bank has already been penalized by the State of New York for letting countries on sanctions lists like Iran and Myanmar route payments through its systems, but a current inquiry is more serious: It’s a federal case involving North Korea.

 

The bank, Mitsubishi UFJ Financial Group, was subpoenaed by federal prosecutors in Manhattan late last year as it was locked in a court fight with the New York Department of Financial Services, according to two people who were briefed on the investigation but not permitted to speak publicly. That litigation involves the department’s attempts to punish the bank, known as MUFG, for breaking anti-money-laundering rules.

 

The subpoena was issued after the state said in a court filing that the bank had intentionally ignored an internal filter designed to keep it from doing business with companies and people on international sanctions lists. The Department of Financial Services said the bank had also failed to set up a system for checking the identities of some of its Chinese customers doing business along the North Korean border, a hot spot for money laundering.

 

It was not clear whether prosecutors had found any evidence that North Koreans laundered money through the bank, but the holes in the system meant to trace such transactions were a chief concern of the Department of Financial Services.

 

A spokesman for the United States attorney’s office for the Southern District of New York declined to comment. MUFG also declined to comment.

 

The federal investigation arose from the state’s latest legal confrontation with the bank, which was called Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ until this year.

 

In 2013, the Department of Financial Services fined the bank $250 million for removing information from its records about transactions that involved parties in countries like Iran and Myanmar. A year later, the state fined the bank an additional $315 million for trying to hide information about that misconduct.

 

MUFG reclassified itself as a national bank a year ago and says the state regulatory agency no longer has the authority to punish it. The bank said it had reclassified for efficiency reasons; the regulators counter that the bank is trying to evade penalties by seeking out a different oversight body: the federal Office of the Comptroller of the Currency.

 

That office is led by a former MUFG employee, Joseph M. Otting, who was President Trump’s nominee for the position when the bank made its switch. In a speech at a conference in Japan last week, Mr. Otting said his agency provided “more complete, more efficient and, importantly, more thorough regulation” than states could.

 

A spokesman for the federal agency said the decision to approve the bank’s conversion to a national charter had been made before Mr. Otting became comptroller. “Mr. Otting was not involved in that process,” the spokesman added.

 

According to the state regulator, MUFG has long used an electronic screening system, HotScan, to sort through its financial transactions for signs of involvement by people or countries barred from doing business with the United States. New York has claimed the bank knew — but never disclosed — that for 10 years HotScan occasionally cut off information about the countries where certain transactions originated.

 

The state said the system also did not allow users in some locations to enter North Korea as a country involved in the transaction, which meant the transaction wouldn’t be flagged for closer scrutiny.

 

The bank told New York in 2016 that it had found more than 30 branches around the world where these glitches existed, according to the court filing.

 

After fining MUFG, New York installed an independent monitor in the bank to inspect its system for catching criminals and sanctions evaders. In a March 2017 report, the monitor said a former bank employee responsible for its anti-money-laundering program had described the program as a “dumpster fire.”

 

Then, last November, MUFG made the switch to a national charter, after giving New York just eight days’ notice that it was considering the move. (Regulators in Texas, where the bank also had a state license, found out about the switch only when it was reported in the news media.)

 

When MUFG traded its state charter for a national charter, it expelled the state monitor without demonstrating that the problems identified in the report had been fixed, New York regulators claimed in court filings. MUFG and the New York regulator continue to argue over whether the bank was allowed to transform itself into a national bank while the state was still investigating its money-laundering controls.

 

A spokesman for New York’s regulator said he could not comment on pending litigation, but added: “The states safely and soundly regulate banking activities while the current federal government works to misguidedly dismantle financial services regulation and scale back consumer protections.”

 

MUFG is not the first bank to have gotten in trouble this year for, at the very least, skimping on reporting suspicious activity to the authorities. In February, U.S. Bank agreed to pay more than $600 million in penalties levied by federal authorities after senior bank officials were found to have ignored red flags raised by its screening systems about certain customers because it did not have enough employees to handle the reports.

 

One reason for the intense scrutiny of money-laundering controls at banks is that bank transactions are sometimes the only points at which sanctions are enforced, said Elizabeth Rosenberg, a senior fellow at the Center for a New American Security whose research focuses on sanctions and North Korea.

 

In the case of North Korea, she said, the United States and the European Union haven’t been as strict as they could be enforcing their own sanctions.

 

They have not battened down the hatches to constrain North Korea’s use of the financial system,” Ms. Rosenberg said. “Perhaps we shouldn’t be surprised that large, sophisticated banks are having trouble wrapping their arms around this issue.”

 

MUFG’s new federal overseers said in a regulatory filing that the bank was working to fix its alert systems.

 

This is a particularly delicate time for big banks, which are trying to convince lawmakers and regulators that anti-money-laundering rules are too hard for them to follow. Trade groups want Congress to relieve banks of the responsibility of determining a client’s true ownership and to change the requirements for reporting suspicious transactions. They also say banks are punished too severely for failing to report suspicious activity.

 

The banking sector wants to help in ferreting out any terrorism, money laundering — they want to cooperate — but they want to do it in a way that actually works,” said Paul Merski, the top lobbyist for the Independent Community Bankers of America, a trade group. Right now, he said, “they are overwhelmed.”

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 ドナルド・トランプ米国大統領は次期大統領国家安全保障問題担当補佐官にジョン・ボルトンを指名しました。4月9日付で、ハーバート・R・マクマスター陸軍中将と交代します。マクマスターは補佐官辞任後に大将に昇進せずに退役するということになります。

 

 ボルトンの指名は外交関係者やアメリカ政治に詳しい人々を驚かせました。レックス・ティラーソン国務長官からCIA長官マイク・ポンぺオへの交代と併せて、トランプ政権の強硬姿勢を取ることを示すものです。

 

 ジョン・ボルトン(John Bolton、1948年―)は、歴代の共和党政権に参加しています。ドナルド・レーガン政権時代(1981―1989年)には米国国際開発庁と司法省に勤務しました。続く、ジョージ・HW・ブッシュ政権時代(1989-1993年)には国際連合担当国務次官補を務めました。ジョージ・W・ブッシュ政権時代(2001-2009年)には国務次官、2005年には米国国連大使を務めました。

 

 ボルトンはジョージ・W・ブッシュ政権の対外政策を牛耳ったネオコンの一人です。彼自身はネオコンと呼ばれることを嫌います。それは、ネオコンの第一世代が民主党員だった人たちが民主党に失望し共和党支持に転向した人たちであるのに対して、自分は一貫して共和党支持者であったということから、「転向者を源流とするグループに入れないで欲しい」という考えを持っているためです。しかし、外形的にはネオコンです。

 

 ネオコンはアメリカの価値観を世界各地に「輸出」し、世界中の国々を資本主義と民主政治体制の国々にすればアメリカに敵対する国はなくなるし、世界から戦争がなくなって平和になるという考えです。これは、共産主義を世界中に輸出しようとした旧ソ連の裏返し(ヨシフ・スターリンは一国社会主義建設を優先しましたが)ということが言えるでしょう。

 

 しかし、彼らはアメリカに友好的な非民主国家まで民主化しろとは言いません。ペルシア湾岸諸国や中央アジアには王政や独裁制の国々が多くありますが、それらの国々を攻撃して政権(体制)変更(転覆)しろとは言いません。あくまでアメリカに逆らう国々の政治体制を転覆させろということを主張します。

 

 2002年の一般教書演説で、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸(Axis of Evil)」と呼びました。そして、イラクには実際に侵攻し、サダム・フセイン政権を瓦解させました。フセインは最終的には死刑となりました。

 

 ブッシュ政権の後に成立したバラク・オバマ政権で起きたのがアラブの春です。アラブの春では偶発的な事件から反体制運動が北アフリカの国々で連鎖的に発生しました。この過程で、アメリカとヨーロッパに屈服し、大量破壊兵器とテロ活動を放棄していたリビアのムアンマール・カダフィが殺害されました。こうした動きを主導したのは、民主党内でネオコンのカウンターパートと言うべき、人道的介入主義派で、国務長官を務めていたヒラリー・クリントンでした。こうしたことは拙著『アメリカ政治の秘密』で明らかにしています。

 

 現在、悪の枢軸で残っているのはイランと北朝鮮です。北朝鮮に関しては急速な核開発を行い、アメリカにとって脅威となっています。それでも今年に入って、緊張緩和ムードになり、アメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩国務委員長の首脳会談が開催されるということになりました。

 

 しかし、この開催の時期や場所がはっきりしない中で、国務長官がレックス・ティラーソンから現職のCIA長官だったマイク・ポンぺオに、大統領国家安全保障問題担当補佐官がハーバート・R・マクマスター陸軍中将からジョン・ボルトンに交代することになりました。ポンぺオもネオコンに近い人物であり、ネオコンによって対外関係の司令塔が独占されることになりました。トランプ大統領は常に2つの異なる考えを持つ人間たちをそれぞれ同様の力と権限を持つ役職に就けて、自分の考えを実行するときに2つの考えのうち、どちらかを選んで実行させるというやり方を取るということをやってきたと私は考えます。

 

 今回、国務省とホワイトハウスの対外関係部署をネオコンが抑えたということで、トランプ政権の対外姿勢は強硬になります。ボルトンは北朝鮮について強硬な主張をしていますので、緊張緩和ムードが大きく後退することになるでしょう。

 

 北朝鮮にしてみれば、ここで核兵器を手放すかどうかという決断を迫られますが、アメリカのこれまでの外交を考えると、核兵器を手放した時点で、金王朝は遅かれ早かれ崩壊させられるということを金正恩は考えるでしょう。手放してしまえば一時的な妥協が成立する(体制保障というアメリカの約束が反故にされる可能性が高い)、手放さなければまだアメリカがチキンゲームに負けて交渉に乗ってくる可能性がある(より良い条件で妥協が成立する可能性がある)となり、北朝鮮は核兵器を握りしめたままということになるでしょう。

 

 ボルトンは核兵器貯蔵施設や核開発関連施設に対する先制攻撃を主張しています。北朝鮮に対して先制攻撃であっても、先に攻撃をされてからの報復攻撃であっても、米軍が攻撃すれば、現在の北朝鮮の体制の転換というところまで進むことになるでしょう。

 

 ジョン・ボルトンの指名となってアメリカやヨーロッパでは、アメリカによるイランに対する攻撃があるのではないかという懸念の声が大きくなっています。イランに関しては、オバマ政権時代に核開発をめぐって合意が成立しました。しかし、ボルトンやポンぺオと言った人々はイランとの合意は失敗だったとしています。

 

 イランを怖がっているのはイスラエルで、核兵器を所有している両国間で戦争となれば核戦争まで行き着く可能性があります。イランがどれほどのミサイル能力を持っているのか分かりませんが、北朝鮮でもアメリカ本土に到達できるミサイルを開発できたとすると、イランも所有している可能性があると考えられます。北朝鮮もイランもロシアからの支援を受けているので、ある程度のミサイル開発技術をロシアからもらっているでしょう。

 

 中東での問題はより危険で複雑、ヨーロッパにも大きな影響を与えることから、トランプ大統領としては今の段階では関わりたくないでしょう。ですからボルトンとポンぺオの起用は対北朝鮮問題用のシフトということになります。

 

 私は北朝鮮問題が平和裡に解決できることを願っていますが、現実はその可能性が低くなっているのではないかと考えざるを得ない状況になっていると思います

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプは究極のタカ派(Uber-Hawk)のボルトンを大統領国家安全保障問題担当補佐官に指名(Bolton as National Security Adviser

―「爆撃、イランを爆撃」から北朝鮮に対する予防的先制攻撃まで、ブッシュ政権で高官だったボルトンはより好戦的な外交政策を主張している

 

コラム・リンチ、エリアス・グロール筆

2018年3月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2018/03/22/trump-taps-uber-hawk-bolton-as-national-security-adviser/

 

ボルトンは北朝鮮に対する予防的先制攻撃を明確に求め、イランの体制を変更させるために爆撃することを主張し、アフガニスタンにおける無制限の米軍駐留を求めている。ボルトンはまた台湾に米軍を駐留させるなど中国に対してより強硬な姿勢を取るように求めてきた。

 

ジョージ・W・ブッシュ政権に参加したボルトンを含む共和党所属のネオコンサヴァティヴの人々は2003年にイラクの指導者サダム・フセインを追い落とすように主張した。しかし、他のネオコンの人々とは対照的に、ボルトンは民主政治体制と人権のようなアメリカの価値観を輸出することに関心を持ったことはこれまでほぼなかった。ボルトンはブッシュ政権において国務省高官と米国国連大使を務めた。

 

ボルトンはトランプ大統領と同様に国際的な取り決めを無視し、国際連合やヨーロッパ連合(EU)のような多極的な組織を見下し、政治的な敵を激しく非難している。ボルトンは回想録『ジョン・ボルトン:降伏は選択肢に非ず』の中で、EU官僚たちを「EUの病人たち」と繰り返し揶揄している。

 

ここ数週間、ボルトンが指名されるという噂が流れた。実際にボルトンの指名が発表されるとアメリカとヨーロッパの外交関係者たちは驚きと不安の声を発した。彼らはマクマスターの辞任とボルトンの就任によってアメリカは複数の争いに関与する道を進むことになるという懸念を持っている。

 

外交評議会(CFR)のマイカ・ゼンコは次のようにツイートしている。「ジョン・ボルトンはこれまでアメリカが戦ってきた全ての戦争を支持した。彼はアメリカが戦う際に何の制限もつけるべきではないと考え、イランと核武装した北朝鮮との体制転換のための戦争を支持している。恐ろしいことだ」。

 

4月初め、ボルトンは現在の大統領国家安全保障問題担当補佐官を務めるHR・マクマスター陸軍中将と交代する。マクマスターは辞任と引き換えに大将に昇進させてもらえるという噂が流れたが、実際位は中将のままで退役することになる。ホワイトハウスの関係者は今回の交代は「常に憶測を呼ぶティームではなく、実際に行動できる新しいティームを結成する」ためのものだと述べている。発足して1年ちょっとのトランプ政権で、ボルトンは3人目の大統領国家安全保障問題担当補佐官となる。

 

ボルトンの補佐官任命は連邦上院の承認を必要としない。ボルトンの指名によって、トランプ政権のタカ派的な姿勢が強まることになるだろう。トランプは大統領選挙期間中、アメリカの海外における冒険主義を制限するという公約を掲げた。しかし、トランプは大統領就任後、アメリカの外交政策に関してより軍事中心的なものとなっている。トランプと同じく、ボルトンはヴェトナムでの従軍を忌避するために進学をした。ボルトンはヴェトナム戦争を支持した。

 

これから世界各地の諸問題について見ていく。ボルトンの政策に関する主張はアメリカの外交政策を大きく変化させる危険性がある。

 

●イラン爆撃

 

ボルトンが大統領国家安全保障問題担当補佐官に指名された。ボルトンは長年にわたりイランに対する軍事行動を主張してきた人物で、そのような人物がトランプの側近となる。トランプは国務長官をレックス・ティラーソンからマイク・ポンぺオCIA長官に交代させた。このようにイランに対してタカ派的な態度を取る強硬派を運転席につけたのだ。

 

2015年のニューヨーク・タイムズ紙に掲載した論説のタイトルの中で、イランとの戦争を主張した。ボルトンは「イランの核爆弾を止めるために、イランを爆撃せよ(To Stop Iran’s Bomb, Bomb Iran)」と書いた。ボルトンはこれまでイスラエルが近隣諸国の原子力施設に対して予防的先制攻撃を行ってきたことを支持してきた。また、核兵器関連施設に対する軍事行動を主張してきた。更にはイランの政権を打倒するために反対派勢力を支援することも主張してきた。

 

ボルトンはイランの体制変更を強く主張してきた。ボルトンはイランの過激な反体制派グループであるムジャヒディン・ハルクを支持してきた。ムジャヒディン・ハルクはアメリカ政府からテロリスト組織として認定されている。それでもこの組織を支持している。ボルトンに2011年にブリュッセルで開催されたイヴェントに出席した。ボルトンはこのイヴェントでムジャヒディン・ハルクが掲げるイランの体制変更を「無条件に」支持すると語った。

 

2009年、ボルトンはイスラエルがイランに対して核兵器を使用することを支持した。ボルトンはシカゴ大学での演説中に次のように語った。「イスラエルがイランの核開発プログラムに対して核兵器を使用する準備をしていなければ、イランは近い将来、プログラムで開発した核兵器をイスラエルに対して使用することになるだろう」。

 

●北朝鮮

 

北朝鮮は核兵器とミサイル技術を急速に開発している。これを受けて、ボルトンは北朝鮮国内の核兵器を除去するために予防的先制攻撃を行うことを主張している。

 

先月、ボルトンは『ウォールストリート・ジャーナル』紙に寄稿した。その中で、ボルトンは北朝鮮への攻撃の時は今だと主張した。ボルトンは19世紀の砲艦外交を使いながら次のように書いている。「危機はすぐそこまで迫っている。北朝鮮に関するアメリカの諜報不足という点からも考えて、私たちは攻撃開始を引き延ばすべきではない。攻撃を引き延ばせば北朝鮮はアメリカ本土を確実に攻撃できる核兵器を開発してしまう危険がある。それは現在よりも更に危険な状態となる」。

 

このような攻撃は北朝鮮の韓国や東アジア地域の展開する米軍基地に対する報復攻撃を誘発することになるだろう。米軍関係者は北朝鮮の報復攻撃によって数千名規模のアメリカ人が死亡し、ここ数十年では見られなかった規模の戦争が起きるだろうと警告している。

 

ボルトンの予防的先制攻撃という強い主張がトランプ大統領と北朝鮮の指導者金正恩との朝鮮半島の非核化について話し合う最高首脳会談の開催計画とどれほど一致するのかについては明確にはなっていない。昨年、ボルトンは北朝鮮との直接交渉を「オバマ政権時代の政策の継続」だと批判した。

 

●中国

 

ボルトンに対しては中国政府から疑念の目で見られている。ボルトンは台湾の自己決定を強く主張しており、トランプ政権に対して、これまでアメリカ政府が堅持してきた「一つの中国」政策を見直すように主張してきた。ボルトンはまた台湾に対するアメリカらの武器売却を増加させるように求めている。更にはアメリカ軍の台湾駐留も主張している。これは、ダグラス・マッカーサー元帥の掲げた中国沿岸の「不沈空母」という考えを思い出させる。

 

対照的に、中国政府は国交を開封したニクソン政権以来、アメリカとの国交に関して「一つの中国」政策は交渉の余地のない要素だと考えている。

 

今週、中国の習近平国家主席は中国の領土を「1インチでも奪われないように」防衛するという印象的な演説を行った。彼の語った中国の領土には台湾も含まれている。

 

●イスラエル

 

ボルトンはイスラエルに対して全面的な支持を与えることが予期される。マクマスターは保守派の一部からイスラエルに対して十分に支持していないという激しい非難を受けていた。元イスラエル米国大使ダン・ジラーマンはある時、ボルトンを「イスラエルにとっての秘密兵器」と形容した。

 

●国際機関

 

ボルトンはアメリカにおいてマルタイカルチュアニズムに対して厳しい批判を行う人物の一人だ。また、アメリカの武器制限条約への参加やアメリカの軍事能力を制限することになるだろう国際的な協定について繰り返し疑問を呈している。ボルトンは西サハラ領有権・独立問題に関して国連から交渉担当として派遣されたことがある。彼は国連について発言し、その発言が有名になった。ニューヨークにある国連の書記局ビルは38階建てだ。もしその10階分が失われてもこれまで変わらずに業務は行われることだろう」。

 

回想録の中でボルトンは次のように書いている。「国際刑事裁判所を創設するためのローマ規定に“署名をしない”となった時が国務省時代で私が最も幸福な日であった。私はコリン・パウエルに子供の時のクリスマスの日のようにウキウキした気分だと言った」。

 

ボルトンの国際条約に関する姿勢はトランプ大統領とほぼ同じだ。ボルトンはかつ手口のように語った。「条約はアメリカの目的にかなうときにだけ法律と同様の効力を持つ。国際的な状況においては、条約は法的な強制力を持つものではなく、単純に“政治的な”ものとなる」。

 

ボルトンは国際秩序の擁護者たちに対して最大級に見下している。EUと国務省の官僚たちを特に見下している。ボルトンは彼らについて背骨がないふにゃふにゃしていると非難している。

 

ボルトンは回想録の中で次のように書いている。「病気のようなEUの外交官たちの間で広がっているのが道徳的な優位性など存在しないという考えだ。これは高学歴者が陥りがちな病気のようなものだ。感染力が強いもので、国務省の官僚たちが感染しつつある」。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)


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 古村治彦です。

 

 今回は、『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(児玉博著、小学館、2017年)をご紹介します。一気に読めてしまう好著です。

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テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅

 

 東芝は、不正経理問題や子会社ウェスティングハウスの破綻問題により、大きなダメージを受けました。日本を代表する電機メーカーで売り上げは6兆円、社員は20万人の大企業が破綻するかどうかの瀬戸際まで追い込まれてしまいました。日本で育ち、生きてきた人たちの多くは日曜日の夕方、テレビで「笑点」、「ちびまる子ちゃん」、「サザエさん」を見ているうちに夕ご飯という経験を持っていると思います。「サザエさん」のスポンサーが東芝でしたが、これも撤退するということになりました。私は、何か、日本の一部が失われるという感じがしました。


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 西田厚聰

 本書の主人公は、西田厚聰(にしだあつとし、1943-2017年)という人物です。西田は、31歳で東京大学法学政治学研究科の博士課程の学生という学究の道を捨て、東芝に海外現地採用社員(イラン)として入社し、後に社長・会長を歴任した異色の経歴の持ち主です。学歴は置いておいても、年功序列がまだまだ厳然と残っている時代に、大学に現役で入学し、4年で卒業した人よりも10年も遅れて入社した形の人が最終的に社長・会長になったというのは、大企業では他に例がないでしょう。大学入学時に1年浪人、大学卒業までに5年(1年留年)くらいまでだったら、ハンディにはならない、と言われますが、10年というのは想像もつかない絶望的な差です。10年の差を埋めるだけの力があったということは間違いないところで、『テヘランからきた男』でも、西田の器の大きさと頭脳明晰さ、突破力が随所に描かれています。

 

 西田厚聰は三重県の田舎で、教師の家に生まれました。子供の頃から努力家で、地元の尾鷲高校から二年浪人して早稲田大学に進学しました。二年の浪人で何をしていたのかは本に書かれていませんが、東大や京大を受験していたということです。早稲田大学の学生時代の話もあまり書かれていません。西田が進学した当時は60年安保も終息していた頃で、ブントも終わっており、学生運動が過激さを増していく頃でした。西田も学生運動に参加し、下宿を何度も変わったと書かれています。恐らく、過激な学生運動のセクトに関わり、セクト間での抗争に巻き込まれたのだろうと推察されます。

 

 早稲田大学では授業に出る余裕もなかったそうですが、ドイツ語で政治学の原書に挑戦するという一面もあったそうです。卒業後に東京大学大学院の修士課程に進学します。専攻は政治思想史、指導教授は福田歓一(ふくだかんいち、1923-2007年)でした。『政治学史』やアイザイア・バーリンの翻訳で知られた政治学の重鎮です。西田はドイツの思想家ヨハン・フィヒテ(Johann Fichte、1762-1812年)を専門にしていたそうです。福田は西田を厳しく指導し、原点を厳格に解釈することを教えたそうです

 

 西田は福田に非常に期待されていました。博士課程に進学する際に西田を含む2名が合格しましたが、福田は西田以外の学生に就職することを勧めたので、西田だけが博士課程に進学しました。そのままいれば東大は無理にしてもどこかの大学の専任講師はまず間違いなかったでしょう。西田が途中で博士課程を中退したのは、学部が東大法学部ではなかったので、東大教授にはなれないと考えたからだ、という話があるそうです。しかし、これは正しくないでしょう。そもそもそんなことは東大修士課程に入る時点で分かっていることです。ドラマ「白い巨塔」で描かれたような醜い出世争いや東大出身でなければダメということは西田には分っていたはずです。西田は学究の道から離れたことについて、迷惑がかかる人がいるということでその理由を絶対に話しませんでした。ですが、東大教授になれないと分かったからということはないと私は考えます。

 

 西田は東大大学院在学中に日本に留学生として来ていたイラン人学生ファルディン・モタメディと出会い恋に落ちたそうです。ファルディン・モタメディは日本思想史の大家である丸山眞男(1914-1996年)の薫陶を受けた人物です。丸山の著書『「文明論の概略」を読む』(岩波書店、1986年)にはファルディンが丸山の許で福沢諭吉の思想を勉強したいと述べるシーンが出てきます。

 

 西田は福田の期待に応えました。岩波書店の月刊誌『思想』に26歳で論文を掲載しました。これは政治思想の世界では大変なことです。しかし、西田は、イランに帰国したファルディンを追いかけて学究の途を捨てました。

 

 その頃、東芝はイランに合弁で電球工場を建設することになりました。日本人写真たちは苦労していたようですが、そこに現れたのが日本語をはじめ欧米諸国の言語が出来るファルディンでした。ファルディンは東芝の工場建設に関わるようになりましたが、自分の恋人がイランにやって来て結婚式を挙げる、彼を雇って欲しいということになりました。この人物が西田です。東芝側は、学者上がり(もしくは崩れ)は使いづらいと考えていたようですが、現地採用となりました。

 

 西田は社会経験は少ないのですが、学者臭くなく、好奇心旺盛、何事にも真剣に取り組む上に語学も堪能ということで、頭角を現していきました。そして、本社採用となりました。

 

 西田は本社ではノート型コンピューターを担当し、東芝の主力商品にまで仕立て上げました。ドイツを拠点にして、ヨーロッパ中を動き回り、ノート型パソコンとそれに搭載するOSを作り上げ、売って売って売りまくりました。西田の活躍は痛快な冒険譚になっています。私もアメリカ留学中にノート型パソコンを買い替えようと思い、アメリカ人の友人にどの機種が良いかな、と質問したところ、「東芝が良い、丈夫で壊れないよ、アメリカでのシェアも大きいし。君は日本人なのにそんなことも知らないの」と言われてしまい、恥ずかしい思いをしました。私が東芝のパソコンを使って10年以上なりますが、それはメリカの経験からであり、東芝のパソコン事業の成功させたのが西田です。

 

 2005年に社長となった西田が行ったのが2006年の原子力メーカーのウェスティングハウス社(WH)の買収でした。東芝はジェネラル・エレクトリック社(GE)と付き合いが古く、GEが作っている沸騰水型軽水炉(BWR)を採用していました。しかし、東芝は、世界の趨勢は、加圧水型軽水炉(PWR)だと考え、PWRを製造しているWH社の買収に踏み切りました。WH社と古くから付き合いがあったのは三菱重工業でした。東芝はWH社買収で、最後の最後で三菱重工業の横やりも入りましたが、最終的に6600億円での買収に成功しました。東芝は原子力分野で1位、半導体分野で3位という世界最大の電機メーカーとなりました。

 

 しかし、半導体は価格が下がり、リーマン・ショック後で需要も下がってしまい、売り上げが落ちてしまいました。結果、2009年に社長の座から退きました。その後、会長となりましたが、2011年3月11日の東日本大震災と原発事故で原発建設などがストプすることになりました。そして、WH社は破綻し、その影響を受けて東芝も危機的状況に陥りました。原発事業拡大を進めた西田に対する非難の声も出ました。しかし、東日本大震災までは、原発は気候変動に対する有効な解決策ということで、拡大していっていたのですから、西田の判断を後付けの理由で非難するのは間違っていると思います。

 

 さて、私は西田厚聰という人物を主人公に据えた本書『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』は、大学教育と企業の関係の在り方についてヒントがあるのだろうと思います。日本の大学は長年にわたりレジャーランドと呼ばれ、入るのは大変だが出るのは簡単、授業に出なくても単位を取ることが出来る、企業も大学で変に勉強されるよりも社会性を身に着けておいて欲しい、教育は入社してからこちらでビシビシやる、ということになっていました。そして、大学教育は十年一日のごとし、教授は使い古したノートを毎年毎年読むだけ、学生は試験前にノートのコピーを集め勉強するのはまだよい方で、何も準備せずにテストを受けて「単位をください」と書いてしまうなんてことになりました。大学側はどうせ学生のほぼ全員が企業に入るのだから厳しく学問を仕込むことなんか望まれていないのだから手を抜けばいいということになりました。

 

 しかし、最近では世の中が「世知辛く」なったのか、大学できちんと教育をして社会に送り出せ、企業で役立つ教育をせよ、ということになっています。これに対して、大学でどのような教育をすべきか模索されています。

 

 私は西田厚聰という人物の生き方がこの問題にヒントを与えてくれるのではないかと思います。西田は学問研究に没頭しながら、10年も遅れて企業に飛び込み、成功しました。彼は政治学を学び、その中には企業内で仕事をするうえで役に立った知識もあるでしょう。しかし、その細かい知識や理論などはほぼ役に立つことは無かったでしょう。

 

 私は西田が成功したのは、方法論と「頭脳を酷使する」経験があったからだろうと思います。学問は何か問題を設定しそれを解決するものです。そこで解決する方法はそれぞれの学問分野に存在するのですが、問題を設定し、解決するという方法論をきちんと身に着けていた、そして、その解決に向かって頭脳を使い切る、「頭脳を酷使する」ということを知っていたのだろうと思います。西田の学んだ政治思想史の方法論は、徹底した原典主義と時代背景を含めた根拠のある解釈です。西田が難しい技術書を読みこなし、何が重要なのかを理解し、周囲を驚かせたのはこうした方法論に忠実であった、そして頭脳を酷使することに慣れていたということが西田の特徴として挙げられるでしょう。

 

 大学で学生に教える際に、日本ではこれらの点があまり行われていないのではないかと思います。方法論(methodology)を身に着け、頭脳を酷使するということが大学内で行われるようになれば、社会や企業からの要求に応えられる卒業生を送り出すことが出来るのではないかと思います。

 

(終わり))

 

(仮)福澤諭吉はフリーメイソンだった [ 石井利明 ]

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 古村治彦です。

 

 アメリカのCIAが冷戦期、世界各国でスパイ活動をしていたことはよく知られています。小説や映画に題材として数多く取り上げられてきました。また、反米的(と目されるばあいも含めて)、もしくは共産主義的な国家指導者や国家体制を転覆させるために、その国の軍部やゲリラなどに資金や武器を渡して、暗殺やクーデターを起こさせていたということはよく知られていました。しかし、アメリカ政府は、公式には、そうした暗殺事件やクーデターへの関与を否定していました。

 

 1953年、イランでは民主的に選ばれたムハマンド・モサデグ首相に対するクーデターが発生しました。そして、親米的なシャーによる王政が1979年のイラン革命まで続きました。1979年、有名なホメイニ師が主導するイラン革命によって、イランの王政は倒され、イスラム共和国が誕生しました。イラン革命の際、テヘランのアメリカ大使館に大学生たちが乱入し、大使館員などを人質にして占拠する、イラン人質事件が起こりました。人質事件はカーター政権内部に解決方法を巡って亀裂を生み(ヴァンス国務長官とブレジンスキー大統領国家安全保障問題担当補佐官の対立とヴァンスの辞任)、大きなダメージを与え、カーターは次の大統領選挙でロナルド・レーガンに敗れました。イラン革命以降、アメリカとイランは国交を断絶し、アメリカはイランの隣国イラクの独裁者サダム・フセインをけしかけてイラン・イラク戦争を起こさせました。

 

 イランの歴史に置いて大きな出来事であるモサデク首相に対するクーデター事件ですが、CIAの関与はほぼ間違いないと言われながら、アメリカ政府は公式に否定してきました。しかし、バラク・オバマ大統領がCIAの関与を認め謝罪し、また、最近、機密解除文書の公開によって、残された電報などから、CIAが関与していたということが明らかになりました。

 

 CIA本部はクーデターの試みが失敗したこともあって、クーデターに参加するなとイラン支局に電報を送っていましたが、現地では命令を無視し、結局、クーデターが成功してしまいました。現地の命令無視・独断専行があったということで、このことまでは推定されていましたが、それを示す証拠が出てきたということが重要です。

 

 また、1950年代に聖職者であり、政治家でもあったカシャニ師がモサデク追い落としに関与し、また、アメリカからの資金援助を要請していたということが明らかにされました。カシャニは現在でもイラン国内で尊敬を集めている人物ですが、そのような人物がアメリカからの援助を求めていたということはイランにとっては隠しておきたい事実だろうと思います。

 

 このように何十年経っても公文書が残されていれば、いつかは事実は明らかにされます。最近の日本の政治状況を見ていると、公文書を残しておくということの重要性を軽視しているように思います。この点はアメリカを見習うべきであろうと思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

64年経過して、CIAはついにイランでのクーデターに関する詳細を公開(64 Years Later, CIA Finally Releases Details of Iranian Coup

―新たに公開された文書によって、CIAが如何にして失敗に終わりかけていたクーデターへの参加を取り消そうとしていたか、そして、最後の最後である従順ではない一人のスパイによってクーデターが成功に導かれたが明らかにされた。

 

ベンサニー・アレン=エイブラヒミアン筆

2017年6月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/06/20/64-years-later-cia-finally-releases-details-of-iranian-coup-iran-tehran-oil/

 

機密解除された文書が先週公開された。これによって、1953年に発生したイラン首相ムハンマド・モサデクを追い落としたクーデターにおいて、中央情報局(CIA)が中心的な役割を果たしたことが明らかになった。このクーデターは、イランのナショナリズムの火に油を注ぎ、1979年のイラン革命を生み出し、21世紀になってもアメリカ・イラン関係を損ない続けている。

 

約1000ページの文書によって初めて、CIAが如何にして失敗に終わりそうであったクーデターへの参加を取り消そうとし、イラン国内にいる従順ではない一人のスパイによって最後の最後で成功に導かれたということが明らかにされた。

 

CIAの計画はエイジャックス作戦として知られている。CIAの計画は究極的に石油確保を目的とするものであった。西側の企業は長年にわたり、中東地域の石油生産と底からの富をコントロールしていた。サウジアラビアのアラビアン・アメリカン石油会社、イランのアングロ・イラニアン石油会社(イギリス)といった石油企業がコントロールしていた。1950年末、サウジアラビアのアラビアン・アメリカ石油会社は圧力に屈し、石油からの富をサウジアラビア政府と折半することになった。この時、イラン国内のイギリスの持つ石油利権もサウジアラビアでの先例にならうようにという厳しい圧力に晒されていた。しかし、イギリス政府は断固として拒否した。

 

1951年初め、人々の熱狂的な支持の中、モサデクはイランの石油産業を国有化した。激怒したイギリス政府は、モサデクの排除とシャーによる王政の復活のために、アメリカの情報機関と共謀し、計画を練り始めた。しかし、新たに公開された電報が示すところでは、アメリカ国務省の一部には、対立に対するイギリスの非妥協的な態度を非難し、モサデクとの協力を模索する人々がいた。

 

クーデターの試みは4月15日に開始されたが、迅速に鎮圧された。モサデクは関係者を逮捕した。共謀の首謀者であるファズラウ・ザヒィーディー将軍は身を隠し、シャーは国外に逃亡した。

 

CIAはクーデターの試みは失敗すると確信しており、クーデターへの参加を取り消すことに決定した。

 

新たに公開された文書によると、1953年8月18日にCIA本部はイラン支局長に次のような内容の電報を送った。「作戦は試され、そして失敗した。私たちはモサデクに敵対するいかなる作戦にも参加すべきではない。モサデクに敵対する作戦は継続されるべきではない」。

 

ジョージ・ワシントン大学のアメリカ安全保障アーカイヴでアメリカ・イラン関係プロジェクトの責任者を務めるマルコム・バーンは、「CIAのイラン支局長カーミット・ルーズヴェルトは、この電報を無視した」と述べている。

 

バーンは本誌に次のように語った。「カーミット・ルーズヴェルトが電報を受け取った時、部屋にはもう一人の人物がいた。この時、ルーズヴェルトは、“ダメだ、俺たちはここで何もやっていない”と述べた」。ルーズヴェルトはCIA本部からのクーデターの試みを中止するようにという命令を実行しなかったことは既に知られていた。しかし、電報自体とその内容については知られていなかった。

 

ルーズヴェルトの決断の結果は重大であった。電報を受け取った翌日の1953年8月19日、クーデターは成功した。CIAの援助によって準備されたと考えられてきた、「金を支払われていた」群衆の助けがあった。イランの民族主義の英雄モサデクは投獄され、西側に友好的なシャーの下での王政が復活した。アングロ・イラニアン石油(後にブリティッシュ・ペトロレアムに改名)は油田を回復しようと努めた。しかし、この努力は実を結ばなかった。クーデターは成功したが、外国の石油のコントロールの回復に対するナショナリストからの反撃は過激となった。ブリティッシュ・ペトロレアムやその他の石油メジャーはイラン政府と石油からの利益を分け合うことになった。

 

エイジャックス作戦はイランの保守派にとっては亡霊であった。しかし、これはリベラル派にとっても同様であった。クーデターは反西洋感情の炎に風を送った。ナショナリズムの最高潮が1979年に発生したアメリカ大使館人質事件、シャーの廃位、「大悪魔」に対するイスラム共和国の創設となった。

 

クーデターによってイラン国内のリベラル派も排除された。モサデクはイラン史上、民主的な指導者というものに最も近付いた人物であった。モサデクは民主的な諸価値を明確に称揚し、イラン国内に民主政治体制を確立したいという希望を持っていた。選挙を経て構成された議会がモサデクを首相に選出した。首相という職を利用して、モサデクはシャーの力を削いだ。その結果、この時期のイランは、ヨーロッパで発展した政治的伝統に最も近付いた。しかし、更なる民主的な発展は8月19日に窮地に陥った。

 

アメリカ政府は長年にわたり、クーデターへの関与を否定してきた。国務省は1989年にクーデターに関連した文書を初めて公開した。しかし、CIAの関与を示す部分は編集していた。人々の怒りを受けて、政府はより完全な文書を公開することを約束した。そして、2013年に文書が公開された。2年後、機密解除された文書の最終的な公開の予定が発表された。バーンズは、「しかし、イランとの核開発を巡る交渉のために準備が中断され、公開予定は遅れることになった」と述べている。文書は先週、最終的に公開された。CIAの電報の原本は紛失、もしくは廃棄されたものと考えられていた。

 

バーンは、公開が大幅に遅れたのはいくつかの要素のためだと述べた。バーンは、 情報機関は常に「材料と方法」を防御することに懸念を持つものだ、と語る。「材料と方法」とは、最前線で作戦実行を可能にする秘密のスパイ技術を意味する。CIAはイギリスの情報機関との関係を守る必要にも迫られていた。イギリスの情報機関は諜報に必要な人材などを守りたいと考えていたはずだ。

 

 

スタンフォード大学のイラン学教授アッバス・ミラニは、新たに公開された文書によって、CIAの関与以上に興味深い事実が明らかにされた、と述べている。聖職者のアボル=ガセム・カシャニ師の政治における指導的役割の詳細が明らかにされた。カシャニは1950年代に聖職者であり、指導的な政治家として活動した。

 

イスラム共和国では、聖職者は常に善玉である。カシャニはこの時期におけるナショナリズムの英雄であった。今年1月、イランの最高指導者は石油の国有化におけるカシャニの役割を賞賛した。

 

カシャニが最終的にモサデクと分裂したことは広く知られている。イラン国内の宗教指導者たちは共産主義のドゥデー党の台頭に恐怖感を持っていた。そして、モサデクは社会主義勢力の脅威から国を守るには弱すぎると確信していた。

 

新たに公開された文書によると、カシャニはモサデクに反対していただけではなく、クーデターまでの時期、アメリカ側と緊密に連絡を取り合っていたことが明らかになった。カシャニはアメリカからの財政的な援助を求めていた。しかし、彼が実際に資金を得ていたことを示す記録は残っていない。カシャニの要求はこれまで知られてこなかった。

 

ミラニは次のように語っている。「クーデターの成功を左右する日となった8月19日、カシャニの存在は重要であった。カシャニの武装勢力は完全武装してモサデク打倒のために出動した」。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


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 古村治彦です。

 

 イランの大統領選挙は、強硬派が候補者を一本化したことでどうなるかと思っていましたが、ロウハニ大統領が再選されました。イランの大統領は二期までなので、ロウハニ氏はこれから4年間が最後の任期となります。

 

 ロウハニ大統領は、アメリカとの核開発をめぐる合意を前提にしての経済成長、そのための経済改革を主張しています。イランでは、諜報機関が経済部門にまで浸透しており、下に掲載した毎日新聞の記事では、「モンスター」とまで呼ばれているそうです。ロウハニは、そうした部分を改革していこうとしています。革命防衛隊、諜報機関はそれを防ぐために、最高指導者を引き込んで、ロウハニ氏を追い落とす、もしくは得票数を削ろうとしました。しかし、イランの人々はロウハニ大統領の路線を支持しました。

 

 アメリカでは、トランプ大統領がイランとの核開発合意に反対しているという報道がなされていますが、トランプ政権は核開発をめぐる合意を維持するということを既に表明しています。イランとの核開発をめぐる合意にアメリカ国内で反対しているのは、共和党ではネオコン、民主党では表立ってはいませんが(自党のバラク・オバマ前大統領が結んだ合意ですから)、人道的介入主義派です。

 

 トランプ大統領が初めての外遊で中東のサウジアラビアとイスラエルを訪問しますが、両国は宗教は違いますが、アメリカの同盟国という点では一緒です。サウジアラビアはアラブの盟主ですが、現状中東の和平と問題解決に何もしていません。オバマ政権時代は、イスラエルとアメリカの関係は悪化しました。トランプ政権ではトランプの義理の息子ジャレッド・クシュナーが上級顧問として力を持っていますから、イスラエルとの関係は改善すると思われますが、機密情報の取り扱いをめぐり、イスラエル側が激怒しているという報道もなされていますので、イスラエル側に、ネオコンや人道的介入主義派と気脈を通じている人々がいると思われます。

 

 トランプ政権とすれば、傲慢になりがちな中東の同盟諸国に活を入れるために、イランを利用するでしょう。イランを利用して中東の問題を解決しようとするでしょう。国益のためならば、敵と呼んだ相手とでも手を組むのがリアリズムですから、トランプは表だってイランを賞賛はしないでしょうが、一方的に敵視することはないでしょう。

 

 ロウハニ大統領が再選されたことで、アメリカとイランの関係が大きく変化することはないということになり、これは慶賀すべきことです。

 

(貼りつけはじめ)

 

<イラン>残る制裁、正念場 ロウハニ師再選、経済回復急務

 

毎日新聞 5/21() 8:15配信

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170521-00000007-mai-m_est

 

 【テヘラン篠田航一】イラン大統領選で対外融和の継続を掲げる保守穏健派のロウハニ大統領(68)が20日、再選を決めた。だがイランを敵視してきた米国はトランプ政権になり、より強硬な姿勢を示している。イランは経済回復を軌道に乗せて内政を安定させるためにも、米国などが今も科す制裁の軽減に向けた外交努力を続けると見られるが、事態の打開は容易ではない。

 

 「今後4年で全ての制裁解除に全力を挙げ、イランの威厳を取り戻す」。ロウハニ師が掲げた公約だ。イランは2015年に米欧などと核合意に達し、主要な経済制裁は解除された。だが、ミサイル開発や「テロ支援」を巡る制裁は残っている。

 

 トランプ米大統領は、イスラム教シーア派国家イランの覇権拡大を警戒するスンニ派の大国サウジアラビアを初の外遊先に選び、イラン大統領選の結果が固まった20日に現地に降り立った。湾岸のアラブ諸国と連携した包囲網の強化を目指している。米国とイランは、シリアやイエメンの内戦でも対立する勢力をそれぞれ支援しており、早期に歩み寄る可能性は低い。

 

 ただ、トランプ政権はシリアでは過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を優先している。イラン国連代表部で勤務経験を持つ元外交官の政治評論家ヘルミダス・ババンド氏は「シリア内戦が沈静化すれば、イランと米国の関係は改善に向かう」と分析。ロウハニ大統領が、米国と近いアラブの主要国エジプトへの働きかけを強めると見ている。

 

 内政では経済回復を進める上で、膨大な権益を持つ革命防衛隊との関係が焦点の一つになりそうだ。ロウハニ大統領は選挙戦で「経済発展を望むなら、(革命防衛隊などの)治安・政治組織を経済に関与させるべきではない」といら立ちを隠さなかった。

 

 約12万人の兵員を擁する革命防衛隊は、1979年のイスラム革命の理念防衛のため創設されたが、多くの系列企業を抱えて経済分野にも進出し、肥大ぶりは「モンスター」と称される。ロウハニ政権が今後、外資導入や経済開放を進めようとした場合、防衛隊関連企業の抵抗が予想される。

 

 内政の安定には、若年層の雇用創出も急務だ。失業率は若年層で3割近いと言われる。経済的不満から保守強硬派への傾倒を強めることを抑止するためにも経済成長の加速は不可欠だ。

 

=====

 

イランの大統領選挙で何が重要なのか?(What’s at Stake in Iran’s Elections?

 

エミリー・タムキン筆

2017年5月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/05/19/whats-at-stake-in-irans-elections-rouhani-raisi/

 

イラン国民は金曜日、次期大統領を誰にするかを決める投票を行う。大統領選挙には複数の候補者が立候補しているが、主要な選択肢としては、中道改革派で2期目を目指す現職大統領ハサン・ロウハニと、保守派強硬路線のイブラヒム・ライシの2人に絞られている。最も人気があったモハンマド・バーゲル・ガリバフが選挙戦から撤退し、ライシ支持を表明したためにこのような状況になった。

 

誰が大統領になるだろうか?そして、選挙結果がイランの国際関係においてどのような意味を持つであろうか?

 

コロンビア大学教授リチャード・ネヒューは本誌の取材に対して、「ロウハニが当選すると考えます」と述べた。

 

読者の皆さんがご存知のように、最高指導者と諜報機関がライシを大統領にしたいと後押しをしているという疑いがあるし、人々の間には、国際関係を改善して好景気をもたらすというロウハニの公約が果たされていないという不満が高まっている。しかし、ネヒューは、投票率が期待通りに髙ければ、ロウハニが2期目に向けた当選に困難に直面することはないだろうと述べた。

 

ロウハニが勝てば、人々の信任を示す票差での勝利であれば、イランの対西側各国への政策は大きくはそのままであろう。イランはアメリカとの間で、イラン核開発合意として知られる包括的共同行動計画を堅持するだろう。ドナルド・トランプは自身の大統領選挙期間中、合意の破棄を主張したが、現在のところトランプは合意の維持を表明している。

 

ロウハニは、更なる経済改革を進めるだろう。ロウハニは、アメリカとの合意から経済的利益を得ることができるとロウハニは主張しているが、そのためには経済改革が必要となる。そして、ロウハニは経済分野における諜報機関の存在を排除しようとするだろう。ロウハニが地滑り的勝利をした場合に不都合なことがあるのだろうか?ロウハニが圧倒的な勝利を収めた場合、最高指導者とその周辺は、ロウハニの羽を縛ろうとするだろう。

 

それではライシが勝利した場合はどうなるだろうか?ライシは他の候補者と同様に、包括的共同行動計画の維持を主張しているが、この合意からイランが利益を得るために必要な経済改革を進めることはないだろう。そうなると、イラン国民は、経済が良くならないのに、合意を維持する必要はあるのかと考えるようになるだろう。

 

しかし、ライシの勝利は状況を悪化させるだろう。特にアメリカとの関係に悪影響を与える。ネヒューは、トランプ政権がライシ勝利をイラン国内における強硬派の台頭の徴候と捉え、イラン政府との協力は望めないと捉えるならば、「強硬派同士である、トランプとライシ同士の競争が起き、良くない状態になる」と述べている。

 

投票日の金曜日、トランプは大統領としての初めての外遊をサウジアラビアから始める。大統領選挙の結果によっては、中東の情勢は更に爆発しやすくなるだろう。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

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