古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:インド

 古村治彦です。

21世紀に入って、アメリカが国力を落とし、衰退する一方で、中国の台頭が続いている。経済力を示すGDPで言えば、アメリカは超大国になって以来、様々な挑戦者が出現したが、中国が最もアメリカの経済力に近づいている状態だ。これから20年ほどで中国がアメリカを追い抜いて、世界最大の経済大国になるという予想もなされている。

アメリカは独力では中国を抑制、封じ込めることは難しくなっている。そのために、アメリカは日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)という枠組みを作った。しかし、インドはアメリカの言う通りにはならない。インドはアメリカの言いなりになって、中国と直接対立することを避けている。そのために、クアッドは既に機能しないような状態になっている。
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クアッド

 同じような枠組みにオーカス(AUKUS)がある。これはオーストラリア(AUS)、イギリス(UK)、アメリカ(US)の枠組みが構築された。アメリカは、オーストラリアを引き込んで、対中最前線基地とするために、オーストラリアがフランスと結んでいた、ディーゼルエンジン型の潜水艦購入契約に横槍を入れて破棄させて、その代わりに原子力潜水艦を与えるということ主行った。オーカスは文化的にはアングロサクソン系の国々という同質性があるが、日本をオーカスに入れて「ジャーカス(JAKUS)」にすべきだという主張があることはこのブログでも既にご紹介した。
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オーカス

 そのオーカスであるが、困難な状況にあるのではないかという話が出ている。アメリカは、オーストラリアがフランスと結んでいたディーゼル型潜水艦の購入契約を破棄させて、その代わりにアメリカから原潜を買わせるということになったが、源泉を約束通りに提供できないということだ。それはアメリカにオーストラリアに提供する原潜を構築する余剰の能力がないということだ。オーストラリアに製造基地を建設するという話も出ているようだ。

 私たちは、アメリカのイメージをアップデイト、更新しなければならない。アメリカが世界最強で、全能の唯一の超大国で、何でもできるというイメージは修正しなければならない。アメリカについてのより現実に近いイメージを持ち、日本の安全保障を考えねばならない。それこそがリアリズムだ。

(貼り付けはじめ)

オーカスは低迷しているのか?(Is AUKUS floundering?

マイケル・オハンロン筆

2022年12月1日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/3753627-is-aukus-floundering/

緊密な同盟関係にあるオーストラリア、イギリス、アメリカの間のいわゆるオーカス(AUKUS)協定は、その効力を失いつつあるのだろうか? もしそうであれば、中国の脅威に対して同盟国やパートナーと共に反撃するという、バイデン政権が得意とする2、3の構想の1つが失われることになりかねない。しかし、政権はこのリスクに気づいていないようだ。ペンタゴンのE止め輪リングからホワイトハウスに至るまで、そろそろこの問題に対する自己満足を捨て去る時期に来ている。

初期段階のオーカス構想は、いろいろな意味で直感に反していた。それは、既に同盟関係にある3カ国が、なぜ新たな協力の仕組みを必要とするのかが明確でなかったからだ。オーストラリアの軍事予算は350億ドル程度(アメリカの20分の1)と控えめで、この取引の中心となる潜水艦を購入する余裕があるとは思えなかった。このような中規模のパートナーと他の分野の軍事技術開発で協力することによって、アメリカが得られる他の大きな利益があるのかどうかも明確ではなかった。また、アメリカ政府の一部には、中国がこの10年のうちに台湾を攻撃する可能性があると予測しており、早ければ2030年代にオーストラリアに潜水艦を引き渡すだけのプログラムについても、どのような有用な変化をもたらすかは明らかでなかった。

更に悪いことに、オーカスの見苦しい2021年の展開は、ホワイトハウスに大人が戻ってきた、アメリカの同盟諸国は再びアメリカ政府から尊重されるだろうというバイデンの主張を少しばかり馬鹿にしたようなものとなった。ワシントン、キャンベラ、ロンドンの間で秘密裏に交渉されたその中心的なコンセプトは、オーストラリア軍にアメリカ設計の攻撃型原子力潜水艦8隻を売却するという提案であった。中国がインド太平洋地域で軍事力を増強し、自己主張の強い行動を続ける中、これらの潜水艦は50隻以上の攻撃型潜水艦を保有するアメリカの艦隊を補完し、インド太平洋海域をパトロールすることになる。また、この地域の安全保障のために同盟諸国が一丸となって取り組むという決意を象徴するものである。

しかし、この契約をオーストラリアにとって適切なものにするために、キャンベラはフランスの造船所との既存の通常動力型潜水艦の製造契約をキャンセルしなければならなかった。パリは大混乱に陥り、バイデン政権はつい最近アフガニスタンからの撤退に失敗し、国家安全保障面でも基本的な外交手腕でも失敗したように見えた。国家安全保障顧問の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンが辞任を申し出たが、バイデンはそれを受け入れなかったという報道が出ている。

当初の案件の是非や、そもそもこの案件を生み出した裏工作の不様さはさておき、オーカス協定は、アメリカのアジア太平洋に対する大戦略の中で広く尊重され、際立った要素になっている。日本、アメリカ、オーストラリア、インドが参加する非公式な安全保障パートナーシップである「クアッド(Quad)」を徐々に強化されている。クアッドは、冷え込んだ日韓関係を徐々に改善する努力に加え、南シナ海の軍事化、香港や新疆ウイグル地区に対する独裁的行動、台湾に対する脅威といった中国に対して積極的に反撃しようとするアメリカの取り組みの中心的な存在となっている。

オーカスは、中国の脅威に対するアメリカの見解を共有する、ワシントンと同盟2カ国との関係を強化することで、このような問題で過剰反応しがちなアメリカの傾向を和らげることができる、冷静で抑制的な態度をしばしば取る同盟諸国であり、大戦略(grand strategy)の良い要素となっている。このことは、オーカスのメンバーが披露しようとする技術や武器売却の一つひとつにとどまらず、あらゆる面で言えることである。

しかし、今、AUKUSは困難に陥っているように見える。アメリカは、潜水艦をめぐる合意をどのように実現させるかについて、考えがまとまらないようだ。官僚政治、そして戦略的・政治的緊急性の欠如が、この問題の原因となっているのだろう。潜水艦をできるだけ早くオーストラリアに届けるには、原子力潜水艦の技術がよく分かっているアメリカで建造する必要がある。しかし、アメリカの造船所には、オーストラリアのために潜水艦を建造する能力はなく、同時に、海軍が望むように、自国の攻撃型潜水艦を現在のSSN約55隻から60隻以上へと拡大しようとしても、その能力はない。これが現状だ。

1つのアイデアは、アメリカの造船基地拡張の資金をオーストラリアに求めることである。その価格が妥当であれば、そして、オーストラリアに一定の期日までに潜水艦の引渡しを保証されるのであれば、それは合理的な方法かもしれない。しかし、この2つの問題に関して、アメリカ海軍は難色を示し、誰もそれを覆すことはできないようだ。

その結果、オーカスは実質的に立ち消えてしまうかもしれない。2021年に外交政策全体がぐらついた後、2022年までロシアと中国の脅威への対処がそれなりに印象的だった時期に、バイデン陣営にとってそれは良い政治ではないということになっている。更に重要なことは、北京が既に、アメリカは地政学的な目的意識と決意を失っているのではないか、また、新しい戦略を1、2年以上継続する能力も失っているのではないかと考えている時期に、アメリカの新しい戦略にとって良いことではない。

※マイケル・オハンロン:ブルッキングス研究所フィリップ・H・ナイト記念防衛・戦略所長。複数の著書があり、近刊予定に『現代戦略家たちのための軍事史(Military History for the Modern Strategist)』がある。ツイッターアカウント:@MichaelEOHanlon.

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 アメリカはバラク・オバマ政権下でのヒラリー・クリントン国務長官(2009-2013年)下で策定した「アジアへ軸足を移す(Pivot to Asia)」を基にして「中国封じ込め(containment of China)」を進めている。この流れはドナルド・トランプ政権でも変わらず、ジョー・バイデン政権も推進している。その中で、構築されたのが「クアッド(Quad)」と呼ばれる日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)である。アメリカ、オーストラリア、インド、中国によるインド太平洋における安全保障の枠組みと言えば聞こえは良いが、簡単に言えば中国封じ込め、東南アジア諸国を取られないための枠組みである。しかし、インドは両天秤をかけている。
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 インド太平洋地域における枠組みにAUKUS(オーカス)がある。これはオーストラリア、イギリス、アメリカの枠組みである。アメリカが原子力潜水艦建造技術をオーストラリアに供与する、オーストラリアはフランスとの間で進めていたディーゼル潜水艦建造協力を破棄するということで、フランスが態度を硬化させたことで注目を集めた。オーストラリアは原潜を持ち、原潜の製造・修理工場を国内に持つことで、対中国の最前線ということになる。アメリカ軍と協力して中国海軍の源泉とにらみ合うことになる。オーストラリアにおけるアメリカの核兵器の配備、オーストラリアによる買い兵器開発と保有まで進む可能性もある。この「アングロサクソン軍事同盟」はクアッドに代わる枠組みになる可能性がある。
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 オーカスが結成された当初、日本政府は参加することはないと述べていたが、日本も参加して「JAUKUS(ジャーカス)」にすべきだという議論は出ている。日本がクアッドとオーカスに参加するということになると、対中国に備えた軍備増強を図るということになる。岸田文雄政権は「防衛費の対GDP比2%」という総額ありきの防衛予算増額を決め、そのために増税を国民に押し付けようとしている。国民から搾り取ってその金でアメリカから武器を買うということになる。アメリカから武器を買って済むことならまだ我慢もできるかもしれないが、問題は外国に対しての先制攻撃を可能にする安全保障戦略を発表している。先制攻撃と軍備拡張は「いつか来た道」である。国民に塗炭の苦しみを味わわせた先の大戦の反省はすっかり忘れられている。

 先の大戦の前も「日本は世界の五大国だ」「国際連盟の常任理事国だ」と浮かれ、大国意識だけが増長し、実態とはかけ離れた自己意識の肥大のために、最後は大きく進むべき道を誤ることになった。「日本は世界第3位の経済大国だ」「日米同盟は世界で最も重要な同盟だ」などというスローガンに踊らされて、調子になってバカ踊りをやって後で泣きを見ることがないようにするのが大人の態度であるが、今の日本の政治家にそのような期待をすることは難しい。

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日本がAUKUSに参加すべき理由(Why Japan Should Join AUKUS

-東京はインド太平洋において不可欠な安全保障上のアクターとなった。

マイケル・オースリン筆

2022年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/15/japan-aukus-jaukus-security-defense-pact-alliance-china-containment-geopolitics-strategy-indo-pacific/?tpcc=recirc_latest062921

インド太平洋地域では、新たな四カ国同盟(quad)が形成されつつある。それはオーストラリア、インド、日本、アメリカが参加する日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)よりも大きな影響を与える可能性がある。中国の影響力とパワーの拡大に対抗して、オーストラリア、イギリス、日本、米国が安全保障上の利害を一致させるようになったことで、新たな連携が生まれつつある。2021年に締結された豪英米防衛協力協定(Australia-United Kingdom-United States defense cooperation pact、通称AUKUS)に日本が加わり、JAUKUSとなる見込みであり、これまでの同盟(alliance)や準同盟(quasi-alliance)にはなかったインド太平洋の自由主義的民主政体諸国(liberal democracies)間の安全保障協力

このようなパートナーシップはあらかじめ決まっていたものではない。実際、今年初め、日本がAUKUSへの加盟をひそかに検討しているという報道があったが、東京はすぐに否定し、当時のホワイトハウスのジェン・サキ報道官もこの報道内容を否定した。しかし、日本はこの3カ国と連携するようである。これは、日本の安全保障姿勢を一変させるだけでなく、インド太平洋においてますます重要な役割を果たすアクターに変貌させた戦略的革命の一部となる。7月に暗殺された安倍晋三首相(当時)の下、日本は共同兵器開発に関するほとんどの制限を撤廃し、軍事予算を着実に増やし、自衛隊がパートナー諸国の軍隊との集団的自衛権に関与することを認めるなどより積極的な防衛態勢を取るようになっている。

2021年10月の就任以来、岸田文雄首相は安倍元首相の外交・安全保障政策を基礎とするだけでなく、アジアや世界の主要自由主義的な諸国と日本の関係を拡大・強化した。岸田首相は、ロシアがウクライナに侵攻した後、直ちにワシントンやヨーロッパ各国とともにロシアへの制裁を行った。また、NATOとの関係を深め、6月には日本の指導者として初めてNATO首脳会議に出席した。国内では、岸田首相は日本の防衛予算を増やし続け、1000億ドル近くまで倍増させる可能性があり、近く新しい国家安全保障戦略(national security strategy)を発表する予定である。アジア専門家たちにとって重要なことは、日本の戦略的変革は政治家たちの個性がもたらしたのではなく、むしろ深刻化する中国と北朝鮮の脅威と結びついている。アジアの安全保障環境が不安定なままである限り、東京はその能力を高め、パートナーシップを拡大し続けるだろう。

岸田首相のアプローチの核となる要素は、AUKUSの3カ国との着実な連携だ。10月下旬、キャンベラと東京は安全保障協力に関する共同宣言に署名した。正式な相互防衛協定(formal mutual defense pact)ではないが、この協定は日本とオーストラリアの「特別な戦略的パートナーシップ(Special Strategic Partnership)」を強化するものであり、グローバルな規範と地域の開放性に対する両国の支持を繰り返し表明している。1月には既に、日豪両国は軍の相互アクセス協定(military reciprocal access agreement,)に調印しており、これにより、訪問部隊の手続きが容易になり、オーストラリアと日本の軍隊が合同演習(joint exercises)を実施し、アメリカを含めて災害救援に協力できるようになる。

実際のJAUKUSを作るには、次のステップとして、日本の参加を徐々に正式なものにする方法を検討する必要があるだろう。

新たな安全保障協力宣言により、日豪両国は、情報の共有、サイバー防御に関する協力、サプライチェーンの確保などの活動を行いながら、軍隊間の「実践的な協力を深め、相互運用性を更に強化する」ことに合意している。完全に実施されれば、提案された協力の範囲は、各国にとって最も重要なパートナーシップとなるだろう。

一方、英国と日本は12月に、日本が既にオーストラリアと結んでいる協定と同様の相互アクセス協定に署名し、互いの国への軍隊の入国を緩和し、合同軍事演習と兵站協力を強化する予定である。これは、東京とロンドンが次世代戦闘機の開発でイタリアと協力するという7月の発表に続くものだ。イギリス海軍と海上自衛隊は前月、英仏海峡で合同演習(joint exercises)を行ったが、これは新型空母HMSクイーン・エリザベスと打撃群が日本を訪れてからちょうど1年後のことであった。

イギリスにとって、日本とのアクセス協定は、ボリス・ジョンソン首相が最初に説明したインド太平洋地域へのロンドンの「傾斜(tilt)」の骨に、更に肉を付けることになる。日英の防衛関係の深化は、リシ・スナック新首相がロンドンの最も重要な公的戦略文書である「統合的レビュー(integrated review)」を中国の脅威により明確に焦点を当てるよう改訂する見込みであることと合わせて、日本とのアクセス協定は、インド太平洋地域におけるキャンベラ、東京、ワシントンとのより正式な協力関係を構築する舞台となるものである。

しかし、4カ国が正式な合意に達する前であっても、中国の前進に対してバランスを取ることを目的とした行動の調整のおかげで、非公式のJAUKUSが既に出現している。2021年10月には、4カ国の海軍がインド洋で共同訓練を行っている。 8月、AUKUSが極超音速技術と対極超音速技術の両方の開発に焦点を当てると述べた直後に、日本は極超音速ミサイルを研究すると発表した。同様に、日本は量子コンピューティングへの投資を増やしており、その投資の一部は、世界で2番目に高速なスーパーコンピューターを所有する富士通によって行われている。このイニシアティヴは、潜在的な軍事的影響を伴う量子および人工知能技術を共同開発するというAUKUSの関与と一致している。

同様に、4カ国は国内の安全保障問題でも連携を強めている。4カ国はいずれもファーウェイを国内の通信ネットワーク、特に6Gから締め出しているが、その実施状況はまちまちだ。更に言えば、イギリスの安全保障担当大臣トム・トゥゲンドハットが最近、イギリスに残る孔子学院を全て閉鎖すると発表したことは、世界中の大学に圧力をかけて中国批判を封じ込め、中国国家の利益につながる肯定的なシナリオを押し付けてきた北京系組織の存在と影響力を、4カ国それぞれが削ごうとして動いていることを意味する。

実際のJAUKUSを作るための次のステップは、日本の参加を徐々に正式なものにする方法を検討することだ。まず、量子コンピュータや極超音速機開発など、共通の関心を持つ分野について、AUKUSの17のワーキンググループのいくつかに日本の関係者を招き、見学させることから始めることができるだろう。次の段階として、日本のJAUKUSにおけるステータスを変更したり、共同運営グループの会合に定期的に出席したりすることを検討することも考えられる。共同運営グループは、AUKUSが重視している2つの主要テーマ、潜水艦(submarines)と最先端の技術を使った能力(advanced capabilities)について方針を決定し、長期的なメンバーシップを議論する。また、オーストラリアへの原子力潜水艦供給という AUKUS の中核的な取り組みに東京がどのように参画できるかを冷静に探れば、特に軍事利用のための原子力技術に反対する日本の国内政治において、潜在的な外交的・政治的地雷の可能性を排除することができるだろう。

その過程や最終的な地位が同盟であれ協定であれ、あるいはもっと非公式なものであれ、JAUKUSは、インド太平洋を戦略的に考える意思と能力を持つ4つの主要な自由主義的な諸国による安全保障上の懸念とイニシアティヴの収束の自然な展開である。政策や目標の共通性が明らかになるにつれ、JAUKUS諸国は、インド太平洋地域の安定を維持するために、それぞれの努力を更に調整し、結合することの利点を理解するであろう。

※マイケル・オースリン:スタンフォード大学フーヴァー研究所研究員。著書に『アジアの新しい地政学:再形成されるインド太平洋に関する諸論稿(Asia’s New Geopolitics: Essays on Reshaping the Indo-Pacific)』がある。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争によって「西側諸国(the West)」対「それ以外の国々(the Rest)」という分裂の構図が明らかになった。日本は西側諸国に入って対ロシア制裁を行っている。今回のウクライナ戦争の特徴は、西側以外の国々が対ロシア制裁に参加しておらず、これによって、西側諸国が行っている対ロシア制裁の効果が限定されているということだ。中でも、インドが対ロシア制裁に参加していないことは重要だ。インドは長年にわたり軍備をソ連そしてロシアに依存しており、対ロシア制裁に参加できない事情がある。インドはロシアから石油と石炭を割引で購入できることによって、エネルギー価格の高騰の影響をうまく回避している。

 インドは日米豪印戦略対話(クアッド、Quad)にも参加している。アメリカがインド太平洋地域という概念を生み出した時点で、アメリカの戦略におけるインドの重要性は高まった。インドは伝統の非同盟政策を堅持しつつ、アメリカともお付き合いをしている。中国とロシアの側にばかりにべったりと肩入れをすることはない。日本からの大規模な経済援助を受け入れて、先日の小安倍晋三元首相の国葬にはナレンドラ・モディ首相自らが出席することで、日本側に友好的な姿勢をアピールした。この点は非常に巧妙だ。

 インドは「親○○(国名が入る)」「反○○(国名が入る)」という色分けをされないように注意しながら、インドの利益がどこにあるか、どうすれば実現できるかという、きわめてリアリスティック(現実主義的な)姿勢で外交を行っている。そのために、ロシアからは感謝され、米中両国は自国の陣営から離れていかないように秋波を送っている。インドの外交は理想的ですらある。2つの勢力のどちらもとうまく付き合う。

私はこれまでこのブログで、日本はアメリカと中国の間に位置するのだから、そのポジションをうまく利用して米中両国から利益を引き出すべきだと散々述べてきた。インド外交はそのモデルとなるものだ。私たちはインド外交から多くの教訓を学ぶことが出来るだろう。

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モディの多極化の瞬間が到来した(Modi’s Multipolar Moment Has Arrived

-インドは、現在全方面から味方になるよう求められているが、ロシアの戦争によって明らかに利益を得る存在となっている。

デレク・グロスマン筆

2022年66

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/06/06/modi-india-russia-ukraine-war-china-us-geopolitics-multipolar-quad/

どんな危機があっても、必ず誰か得をする人たちが出る。ロシアのウクライナ侵攻の場合、その誰かとはインドのナレンドラ・モディ首相である。モスクワを非難し欧米諸国主導の制裁に加わることを拒否することで、モディ首相はインドの世界的地位を高めることに成功した。アメリカ、ロシア、中国といった他の大国は、敵対勢力に戦略的優位を与えないために、インドを仲間に引き入れようと躍起になっている。モディとヒンドゥー・ナショナリストの政権は、この勢いを持続させるために、スポットライトを浴びたいのだろう。その目標は、インドが独立した超大国の役割を果たし、多極化する国際システムの移行を早め、最終的には国連安保理の常任理事国としてその地位を確立することであろう。

しかし、アメリカがインドにとって最も重要な戦略的パートナーだという事実は否定できない。両国は近年、戦略関係を大きな進展させてきた。2018年以降、ニューデリーとワシントンは毎年首脳会談を行い、数多くの画期的な安全保障協定に署名をしてきた。両国はオーストラリア、日本とともに、四極安全保障対話(Quadrilateral Security Dialogue、通称クアッド[Quad])のメンバー国となった。先月東京で開催された4カ国首脳会議では、モディ首相はジョー・バイデン米大統領と2度目の直接会談を行い、両国の継続的な協議を行う姿勢を示した。ニューデリーはまた、ワシントンが最近発表した「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み」に参加し、正式な通商条約によらず、この地域の経済関係を強化することを目指した。インドとアメリカは、世界最大の民主主義国家として、そのパートナーシップの発展を通じて、共通の価値観(および中国封じ込めという戦略的利益)を、ルールに基づく自由な国際秩序の維持に向けることを約束してきた。

しかし、ロシアがウクライナに侵攻した際、インドは超現実主義的な政策(ultra-realist policy)をとり、何よりもインドの利益を守ることに決めた。インドはロシアの軍備に深く依存している。主権国家が他国を侵略し、破壊しようとすることを非難するのではなく、明らかにルールを基盤にした秩序に違反していると主張した。当初、モディ政権の戦略は、米印のパートナーシップを損ねる運命にあるように思われた。3月、バイデンはロシアへの制裁に関するインドの関与を「いささか不安定(somewhat shaky)」と評した。4月上旬、アメリカのダリープ・シン国家安全保障問題担当大統領次席補佐官がニューデリーを訪問し、アメリカの制裁を弱めようとする国には、「ある結果(consequences)」がもたらされる可能性があると警告した。

しかし、4月中旬までに、バイデン政権は劇的に方針を転換した。バイデン大統領とモディ首相は、ワシントンでのいわゆる2プラス2対話のキックオフの際に会談した。会談後、バイデンがモディの立場を受け入れたことは明らかであった。アメリカの発表資料には、両首脳がロシアに関する「緊密な協議(close consultations)」を継続すると記されており、ワシントンがニューデリーに対して何らかの行動を起こす用意があることを示すものではなかった。加えて、インドはロシアを非難する、もしくは安価なロシア産原油の輸入を抑制・中止するなどの譲歩をする必要はなかった。

こうした流れは、インドの大国化、そして世界システムの多極化へとつながっていくだろう。

その後のホワイトハウスの発言は、インド太平洋における中国への対抗措置に関する協力関係が破綻することを恐れてか、これ以上ニューデリーを追い詰めない姿勢を明確に示している。例えば、アントニー・ブリンケン米国務長官は4月、「インドはこの課題にどう取り組むか、自分自身で決断しなければならない」と述べている。また、バイデンは先月東京で、ロシアに関する違いはあっても、「米印のパートナーシップを地球上で最も緊密なものにすることに関与している」と述べた。共同声明ではバイデンだけがロシアを非難し、モディはロシアを非難しなかった。両首脳の立場の違いが顕著に表れた唯一の例となった。

ここ数カ月、インドは国連で西側諸国がロシアに対する決議を提出した際、何度も棄権することでロシアとの緊密な関係を保ってきた。ロシアとインドは、冷戦時代から長きにわたって協力関係にあり、当時ニューデリーでは、アメリカが宿敵パキスタンを積極的に支援していると考えていた。特に国連安全保障理事会では、ジャンムー・カシミール地方の領有権問題がたびたび取り上げられ、インドはロシアの支援を常に高く評価してきた。

インドにはまた、国境紛争を続ける宿敵の中国に対して、ロシアとのパートナーシップを活用してきた長い歴史がある。数十年にわたり、インドはロシアの武器を購入してきた。最近のある推定によると、インドの軍用機器の約85%はロシア製である。先月の時点で、バイデン政権は、インドがロシア製機器依存から脱却するために、5億ドルの軍事融資を検討していると報じられている。また、ニューデリーがモスクワから地対空ミサイルシステムS-400を購入したことに対し、アメリカはこれまでインドに対する「アメリカの敵対者たちへの制裁対処法」の施行に反対の立場を取ってきた。これは、アメリカのインド太平洋戦略にとってインドの存在は非常に重要で、制裁をすることで怒らせる危険を冒すことはできないということを示唆している。

インドは、ウクライナ戦争が始まって以来、ロシアの石油と石炭の割引の恩恵を更に受けている。インド外相のS・ジャイシャンカールは今年4月、「インドはおそらく1カ月に輸入するロシアの石油の量は、ヨーロッパが1日の内の午後に輸入する量よりも少ない」と言い切ったが、西側諸国主導のモスクワ制裁を受けてニューデリーのロシアからの石油輸入は急増した。石炭についても同様だ。インドの在庫は驚くほど少なくなっている可能性がある。インドにとって、ロシアのエネルギーが発展の原動力となるのはありがたいことだ。西側諸国は、化石燃料の排出に関して数十年にわたってインドを非難してきたが、この世界最大の植民地から独立した国家を苛立たせただけだった。

今年4月、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、国連の場でモスクワをかばうニューデリーの揺るぎない支持に感謝するためインドを訪問した。その際、制裁を受けたロシアの銀行との取引に代替手段を提供するルピー・ルーブル両替制度を高く評価した。加えて、ラブロフは「インドが買いたいと思うあらゆる商品を供給する用意がある」と述べた。また、ウクライナ戦争開戦後、モディ首相がロシアのプーティン大統領と話し合いを続けていることから、ラブロフは、インドがロシア・ウクライナ戦争の調停役を務める可能性まで提唱した。インドは世界の舞台で非常に目立つ位置に立つことになる。

インドの中立的な立場はアメリカの政策と明らかに矛盾しているため、北京もニューデリーをアメリカによる締め付けから引き離すことを第一の目的として、戦略的にニューデリーに関与する機会を見出した。今年3月、王毅外相は2019年以来初めて、中国高官としてインドを訪問し、北京の求心力を明らかにした。王毅外相は「両国が手を結べば、全世界が注目する」と述べた。王外相の訪問を前に、中国共産党の英字新聞『グローバル・タイムズ』紙も珍しく融和的な論調で次のように書いている。「中国とインドは多くの面で共通の利益を共有している。例えば、西側諸国は最近、インドがロシアの石油を安く買うことを検討していると報じられ、非難を浴びせた。しかし、それはインドの正当な権利である」。

しかしながら、インド政府高官たちは、中立を保つことで得られる利益、特にアメリカからの利益を考えて、中国に寄り添う用意はしていなかった。王外相の訪問の後、ジャイシャンカールは次のように疑問を呈した。「ウクライナ危機に関してロシアに対するそれぞれの立場について、アメリカはインドと中国を区別して認識しているのだろうか? アメリカは明らかにそのようにしている」。米印関係が緊密化しても、非同盟政策(nonaligned policy)によるインドの戦略的自立性(strategic autonomy)の保持はニューデリーにとって長年の目標である。ロシアとの関係や大国間競争が激化する中で、その姿勢は中国に対して特に有益である。更に言えば、中国とインドには国境紛争が残っており、ニューデリーは中印二国間の関係を正常化する前にこの問題を解決しなければならないと主張している。王外相は、まずパキスタンに立ち寄り、ジャンムー・カシミール州の地位について反インド的な発言をしたことは、中国にとって好都合ではなかった。北京の公然とした親ロシア的な姿勢に同意するよりも、ニューデリーは中国の別の要求を優先させることにした。それは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカが参加するBRICSフォーラムへのモディの参加継続だ。

諸大国を別にして、ヨーロッパやインド太平洋の主要国との議論では基本的にインドが勝っている。例えば、英国のボリス・ジョンソン首相は4月にインドを訪問し、「ロシアとインドの関係は歴史的によく知られており、ニューデリーの行動がそれを変えることはない」と発言している。先月、モディがドイツ、デンマーク、フランスの3カ国を歴訪した際も、インドがロシア政策に振り回されることがないことを示した。それどころか、3カ国全てで、モディはレッドカーペットを歩くような扱いを受けた。ドイツの場合、モディは今月末にバイエルン・アルプスで開催されるG7諸国への招待リストに残ったままだ。

また、インド太平洋地域では、岸田文雄首相は先月のクアッドサミットでインドについて質問され次のように答えた。「それぞれの国には歴史的な経緯や地理的な状況がある。同じ志を持つ国同士でも、立場が完全に一致することはない。それは当然のことだ」。オーストラリアのアンソニー・アルバネーゼ新首相は就任してまだ数週間だが、クアッド首脳会談でモディ首相と会談し、クアッドの議事録の中でロシアについて交わされた「強い意見」はあるにしても、二国間関係は「かつてないほど緊密」だと誇らしげに語った。

ロシアのウクライナ戦争は、アメリカと中国という二大超大国がニューデリーの愛情をより激しく競い合う中で、間違いなくインドに利益をもたらしている。また、インドはその対ロシア政策によって、ヨーロッパやインド太平洋地域の主要なパートナーとの協力関係を損ねることも防いでいる。このような傾向が持続すれば、インドは大国としての地位を獲得し、ひいては世界システムをより一層多極化させることになるであろう。ニューデリーの成功に水を差すのは、ロシア・ウクライナ紛争が深刻化し、インドがついに大国間における選択を迫られる可能性が出てくることである。これまでインドの淡々とした現実主義的なアプローチを容認してきたパートナーたちは、ニューデリーが新興国としての重みを担おうとしないことに不満を持つようになるかもしれない。しかし、そうならない限り、あるいはそうなったとしても、モディのインドはこの恐ろしい危機から利益を獲得し続けることになる。

※デレク・グロスマン:ランド研究所防衛部門上級研究員。南カリフォルニア大学非常勤講師。アジア・太平洋安全保障問題担当米国防次官補常勤情報・諜報分析者を務めた。

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 古村治彦です。

 イギリスの女王エリザベス二世が2022年9月8日に96歳で亡くなった。1952年に即位以来、約70年間もイギリス国王の座に君臨した。現在のイギリス国民の大部分はエリザベス女王の在位期間に生まれた人々ということになる。第二次世界大戦後の歴史と共に彼女の人生はあった。彼女の歴史は衰退し続けるイギリス、大英帝国の歴史であったとも言えるだろう。そして、彼女が死を迎えた2022年が、西側諸国(the West)とそれ以外の国々(the Rest)との戦いで西側諸国が敗れつつあるという大きな転換点であったということが何とも象徴的だ。西側諸国の優位の喪失とエリザベス二世の死がリンクする。

 19世紀から20世紀、1914年の第一次世界大戦までの大英帝国の繁栄は世界各地に築いた植民地からの収奪によって成されたものだ。その代表がインドと中国である。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と呼ばれる新興大国の中核を形成しているのはインドと中国である。大英帝国に収奪された2つの元植民大国が、西側以外の国々(the Rest)を率いて西側諸国に対抗する構図というのは何とも皮肉なものであり、「因果は巡る糸車」ということになる。

 後継のチャールズ三世時代には、英連邦(the Commonwealth)から離脱する国々が次々と出てくるだろう。これらの国々は元々植民地であり、イギリスに収奪された負の歴史を持っている。そうした負の歴史に光を当てさせずに、イギリスの素晴らしい面にばかり光を当てるという役割をエリザベス二世は担った。女王自身がイギリスのソフトパウア(Soft Power)の大きな構成要素(その他には、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、ジェイムズ・ボンドなど)となった。イギリスのイメージアップに大きく貢献したということになる。しかし、その時代も終わる。イギリスの正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」であり、「the United KingdomUK)」ということになる。その内のスコットランドでは独立運動が盛んである。特にイギリスのEU脱退によって、この動きはより活発化している。英連邦の諸国の中から、国家元首をイギリス国王にする制度を止めて、共和国になろうという動きも出ているようだ。英連邦に入っていてもメリットがなく、新興諸大国(emerging powers)に近づいた方が良いと考える国々も出てくるのは当然だ。

 エリザベス二世の死は西側諸国の衰退とリンクし、それを象徴するものだ。西側近代500年の終焉の始まりとも言えるだろう。あの厳かな国葬は大英帝国の最後の弔いであった。そして、西側諸国の終わりを告げる鐘の音であったとも言えるだろう。

(貼り付けはじめ)

英国女王エリザベス二世は彼女の帝国の数々の道義上の罪から逃れられるものではなかった(Queen Elizabeth II Wasn’t Innocent of Her Empire’s Sins

-亡くなった女王は国家とそのシステムを売り込むための権化となり、それを見事にやり遂げたが、その一方で、その過去を批判したり謝罪したりすることはなかった。

ハワード・W・フレンチ筆

2022年9月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/12/queen-elizabeth-ii-british-empire-colonialism-legacy/

1550年代後半、イギリスのエリザベス女王は、ヨーロッパの情勢を詳細に見て、ヨーロッパ大陸の近隣諸国が進めている新しい競争、すなわち遠く離れた場所での帝国(empire)建設に取り残されることを心配するようになっていた。

ポルトガル人とスペイン人は、早くからこの分野で優位に立っていた。ポルトガル人とスペイン人は、15世紀後半から西アフリカ人と金を取引して財を成し、その後、小さなサントメ島でプランテーション農業(plantation agriculture)と人種に基づく奴隷制(race-based chattel slavery)を組み合わせて熱帯産品を生産するという画期的な方法を完成させ道を示していた。砂糖の栽培と奴隷にされたアフリカ人の商業取引を基盤とする彼らのモデルは、瞬く間に大西洋の経済生活を数世紀にわたって支配するようになり、ヨーロッパ経済を活性化させ、西洋が他の国々に対して台頭する原動力となったのである。

エリザベス一世の時代までのイングランドの帝国主義的な史は、隣国アイルランドを支配することにとどまっていた。しかし、私たちが作家ウィリアム・シェイクスピアを主に連想する時代の君主エリザベス一世は、はるかに大きな舞台に憧れ、貴族やジョン・ホーキンスのような海賊に、英仏海峡を越えてポルトガルやスペインの船を襲い、西アフリカ沿岸から採取した金と人間の戦利品を手に入れるよう奨励した。

そうすることで、エリザベス一世は、後に大英帝国となる国家の初期の基礎を築いた。彼女の後継者たちは、1631年にロンドンの冒険商人組合(Company of Merchant Adventurers of London)というカラフルな名前の会社を設立し、その取り組みを更に推し進めた。ここでいう冒険とは、熱帯地方で金や奴隷を激しく追い求めることであった。やがて組合は、主要な地理的目標から全ての謎を取り除く形で、新たなブランドを立ち上げた。その名も「王立アフリカ貿易冒険家会社(王立アフリカ会社、the Company of Royal Adventurers Trading to Africa)」で、アフリカ大陸での有益な貿易を1000年間独占するという野心的な目標を掲げていた。

それと同じ10年間に、私は著書『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカ人、近代国家の形成、1471年から第二次世界大戦まで』』で論じたのだが、大英帝国建設の最も重要な基礎となる行為は、大西洋の反対側で形作られたのである。そこでイギリスはバルバドス島を植民としたが、この島はカリブ海東部にある小島で、現在のロサンゼルス市の面積の3分の1ほどの大きさだ。

バルバドスでは、ポルトガル人がサントメ島で考案した道徳的には無防備だが経済的には無敵の経済モデルを、イギリス人はすぐに実行に移した。17世紀半ばまでに、白人の年季奉公人(white indentured servants)が、アフリカから鎖につながれて連れてこられ、意図的に死ぬまで働かされた奴隷男女とほぼ完全に入れ替わったが、その数は、北米本土にもたらされた奴隷の数とほぼ同数であり、バルバドスの砂糖栽培は事実上の金儲けのライセンスと化したのである。

西洋諸国の学校で一般的に教えられているヨーロッパの新世界帝国に関する初期の物語は、インカやアステカといった偉大なアメリカ先住民文明に対するスペイン人征服者たち(Spanish conquistadors)の有名な略奪行為で占められており、ガレオン船(galleons)に驚くほどの量の銀や金を積み込んでいたと教えられている。しかし、イギリス人がバルバドス島で証明したように、カリブ海で始まったアフリカ人奴隷を酷使したプランテーション農業は、更に大きな利益をもたらすものとなった。

カリブ海地域の黒人が奴隷制度によって受けた恐怖の大きさから、イギリスは伝統的に自分たちの帝国はインドを本拠としたと考えることを好んできた。しかし、ラジ(Raj、訳者註:イギリスによるインド支配)のはるか以前から、カリブ海地域、いわゆる西インド諸島は、経済史上最も豊かな植民地が次々と誕生することになった。1791年に始まったアフリカ人の反乱は、奴隷として働かされていた人々を解放し、アメリカ大陸で2番目に古い共和国であるハイチが誕生することになった。

ヨーロッパが近代において世界で最も豊かで強力な地域として台頭するために奴隷制度がいかに重要であったかについて、ヨーロッパでは長い間、そしてイギリスほどではないにせよ、歴史的な否定をするお題目として家内工業(cottage industry)の重要性の私的が存在してきた。家内工業を重視する陣営からは、奴隷の売買そのものは決して儲かるビジネスではなく、プランテーション農業はヨーロッパの成功にとってごくわずかな重要性しかなかったというメッセージが発せられてきた。

一見すると馬鹿げているように思える。しかしそのように主張するための理由はたくさんある。まず、かつてのフランスの指導者ナポレオン・ボナパルトが、非常に収益性の高い植民地サン=ドマングでの奴隷の反乱を鎮圧するために、フランス史上最大の大西洋横断遠征を行い、その結果、部隊が敗北した事実から始めるのが一般的だ。この奴隷社会の支配がいかに豊かな機会をもたらすかを知っていたスペインは、サン=ドマングのアフリカ人を打ち負かそうとしたが、同じ運命に見舞われることになった。

そして、この時代の大帝国を代表するイギリスは、この最高の獲物を手に入れるために、それまでで最大の海洋遠征隊を組織した。イギリス軍もまた、アメリカ独立戦争で失った犠牲者を上回る不名誉な敗北を喫した。しかし、イギリスでは、この時の遠征軍の連隊旗はどこにも掲げられていないし、ほとんどの学校でも、この歴史について触れることはない。

(もちろん、フランスは諦めなかった。すでに一度敗北を喫したナポレオンは、奴隷にされた人々を拘束し続けようと、サン=ドマングに再び遠征軍を送り込んだ。これも敗れ、その後すぐにフランスはルイジアナ購入権を当時のアメリカ大統領トマス・ジェファーソン率いるアメリカ政府に売却せざるを得なくなり、それによって若いアメリカの国土は2倍になった)

エリザベスという名を持つ二番目のイギリス女王の生涯を祝うために、奴隷制度が話題になることはあったが、それは彼女が大英帝国の終焉と20世紀に起こった脱植民地化(decolonialization)の波を統率していたことを指摘するためのものであった。かつて植民地化された人々の世界で長いキャリアを積み、奴隷制度とそれが世界に及ぼした多くの影響について多くの著作を残してきた人間として、帝国とその根源である奴隷化、支配、人間と天然資源の採取の詳細を急いで見過ごすことは非常に奇妙に感じられることなのである。

このコラムのほぼ全ての読者と同じように、私もまた、エリザベス二世の時代に全てを生きてきた。多くの人がそうであるように、彼女の穏やかで自信に満ちた表情はあまりにも稀であり、絶えず変化し、しばしば混乱する世界において拠り所となっていたことを認めるのは難しいことではない。私は、彼女の死後、彼女を悪く思ってはいない。しかし、彼女の帝国と、より一般的な数々の帝国については、また別の問題である。

現在、多くのイギリス人が、帝国以降の新たなイギリス政府が人種や民族の多様性を新たな高みに到達させたことに誇りを感じているのは良いことだ。しかし、このことも、テレビで流される強制的な記念行事も、その歴史のほとんど全てにおいて、イギリスが実践してきた「帝国」が隠しようのない人種至上主義(racial supremacy)と同義であったことを忘れさせるものであってはならない。事実、人種至上主義は大英帝国の中心的な前提の一つだった。

私たちまた、この帝国を民主政治体制と結びつけようとする口先だけの浅はかな論評に惑わされないようにしよう。これには優れた英単語がある。「たわ言(poppycock)」、つまりナンセンスという意味だ。この国の保守党の財務大臣は、新しい多様性の象徴であるクワシー・クワルテングである。彼は子供時代の1960年代にイギリスの植民地だったガーナから移住してきた。彼は2011年に出版した『帝国の亡霊:現代世界におけるイギリスの遺産』の中で次のように書いている。「民主政治体制という概念は、帝国の統治者たちの頭から遠く離れたところにあるはずはない。彼らの頭の中は、緩やかに定義された階級、知的優位性(intellectual superiority)、父権主義(paternalism)という考えでいっぱいだった」。

クワルテングが大英帝国を「良性権威主義(benign authoritarianism)」の一例と表現したが、そこから彼と私の考え方が分かれる。この持続的で利己的な神話は、そのほとんどが、あまり深く考えないという意図的な行為の結果として存続している。どちらかといえば、その歴史の圧倒的な大部分を通じて、奴隷制度(enslavement)から生まれたこの帝国は、民主政治体制に比べても、より人権とは無縁のものであった。

私は頻繁にアフリカについて書いているので、この議論を裏付けるためにアフリカ大陸の数多くの事例で埋め尽くすことができる。しかし、ここでは、大英帝国が無差別に他の人種を蹂躙したことを示す方が有益だろう。例えば、イギリスがアヘン貿易の軍事的拡大を通じて貿易のバランスを取り、中国に対する支配を拡大することを目的とした長期的な麻薬密売政策について、クワルテングはどう発言するだろうか?

この点を明らかにするのに重要な著作が2冊ある。1冊は既に古典であり、もう1冊は新刊である。1冊目は2000年に出版された壮大で画期的な著作『ヴィクトリア朝後期のホロコースト:エルニーニョ現象による飢饉と第三世界の構成(Late Victorian HolocaustsEl Niño Famines and the Making of the Third World)』である。この本の中で、歴史家マイク・デイヴィスは、19世紀後半にイギリスが一連の記録的な干ばつを利用して、遠く離れた多くの民族に対する領土拡張と政治支配の計画をいかに進めたかを記録している。

インドは特にターゲットとなった。ロバート・ブルワー=リットンやヴィクター・ブルース(後者はエルギン卿としてより有名)のようなイギリスの全権を持つ植民地当局者たちが、アフガニスタンや南アフリカでの戦争に必要な資金のために、食料の大量輸出と地方税の増税を厳しく監督し、一連の極めて壊滅的な飢饉をインドで引き起こした。その一方で、植民地行政官たちは、社会的・経済的に余剰な存在として蔑視する貧困層への救済プログラムを廃止した。人道的援助に反対する多くの人々は、このようなプログラムは瀕死の農民を怠惰にさせるだけだと主張した。

しかし、この本の中で最も大英帝国が非難される内容は、おそらく次の文章に集約されている。「イギリスのインド支配の歴史が1つの事実に集約されるとすれば、それは1757年から1947年までインドの1人当たりの所得が増加しなかったということである」。

もっと最近の本は、アフリカ研究専門家のキャロライン・エルキンス教授の新刊『暴力の遺産:大英帝国の歴史(Legacy of Violence: A History of the British Empire)』である。私は以前にもこの本を紹介したが、この本は20世紀に焦点が当てられており、エリザベス二世の時代に起こった大英帝国の蛮行が数多く含まれている。その中には、ケニアのキクユ族を支配するために、キクユ族を国内の最良の農地から追い出し、100万人以上を「大英帝国史上最大の収容所と捕虜収容所の群島」に閉じ込めた作戦も含まれている。

エルキンスの新作で最も目を見張る部分は、ケニアにおけるこれらの措置が、残忍な抑圧方法の長期にわたる実験の成果であることを彼女が説得的に示している点である。19世紀末から20世紀にかけて同じ植民地監督官が植民地を転勤しながら実行した。インド、ジャマイカ、南アフリカ、パレスティナ、イギリス領マレー、キプロス、現在のイエメンにあたるアデン植民などで暴力の使用、拷問、反乱の厳罰化といった技術の新たな創造や改良がおこなわれた。それらの技術はサントメからブラジルへ、そしてそこからカリブ海の弧を北上してアメリカ南部へと移動していった奴隷制に基づくポルトガルのプランテーションモデルが着実に改良されていったのと同じような方法の模倣であった。

もちろん、エリザベス二世を賞賛する多くの人々が言うように、エリザベス二世は、この名を冠した最初のイギリス女王とは異なり、国政に関する権力を持たなかったことは事実である。しかし、エリザベス二世は多くの旅を通じて、自国とそのシステムを売り込み、その一方で、過去のいかなる側面についても批判したり、謝罪したりすることはなかった。エリザベス二世の在位中に、世界はほぼ完全に脱植民地化され、多くの旧植民地が民主政治体制国家となり、国民の権利をある程度、真剣に考えるようになったことも事実ではある。

しかし、イギリスの支配が温和であったからとか、ロンドンの帝国臣民の権利(London’s imperial subjects)が「帝国」の本質と大いに関係があったなどと主張すべき時はとうに過ぎ去ってしまっているのだ。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学ジャーナリズム専攻大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新刊は『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカ人、近代国家の形成、1471年から第二次世界大戦まで』。ツイッターアカウント:Twitter: @hofrench

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(終わり)

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 古村治彦です。

 ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問し、それに中国が反発、軍事演習を行うなど緊張が高まった。しかし、アジア太平洋の国々は、少数のおっちょこちょいを除いて冷静に反応した。今回はそのことについての記事をご紹介する。

 台湾(中華民国)が国連での加盟資格を喪失して以降、台湾は多くの国々との正式な外交関係を喪失している。もちろん、そうした国々との非公式な関係、経済関係は持っているので、世界から完全に孤立している訳ではない。半導体の生産拠点として確固たる地位を築いている。しかし、公式的には外交上の関係はない国がほとんどだ。

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台湾と正式な外交関係を結んでいるのは十数カ国に過ぎない。それらの国々は中米と太平洋地域に多い。近年では中国の外交攻勢もあって、台湾との正式な外交関係を終了させる国々も出ている。これらについては以下の地図を見て欲しい。

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 今回、ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問したことは中国を苛立たせた。しかし、それ以上の影響も効果もなかった。ペロシ議長が訪台したからと言って、台湾に対してより肩入れをする国は出現しなかった。インド太平洋地域において、台湾防衛を明言し、アメリカと一緒にやってやるぞと意気込む国は出てこなかった。アメリカと日本とオーストラリアがややそれに近い態度を示したが、クアッド4カ国の枠組みで重要な参加国であるはずのインドは日米豪の共同声明には加わらなかった。また、米韓同盟でアメリカとは緊密な関係を持つ韓国の場合には、ペロシが訪問しても大統領が直接会うことはなかった。アメリカの勢い込んだ態度に付き合わされて馬鹿を見るのは嫌だ、という考えが明らかだった。

 東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアン)加盟の国々も静観の構えだった。フィリピンだけがややアメリカ寄りの姿勢を示したが、それ以上ではなかった。こうして見ると、台湾をめぐっては、「中国対アメリカ・日本・オーストラリア」という構図になっていることが分かる。日本とオーストラリアのおっちょこちょいぶりもなかなかなものだが、アメリカの属国である以上は仕方がない行動でもある。「台湾をめぐって戦争なんか起こすなよ。中国も手荒な真似をせずに徐々に吸収するようにしたら良いし(今もそうしているではないか)、台湾もアメリカを引き込んで大々的に中国と戦うなんて馬鹿なことを考えるなよ(そんなことになったら支持しないからな)」というのが大勢(たいせい)の考え方である。

 ウクライナ戦争勃発当時、「ウクライナの次は台湾だ」という標語を掲げて騒いでいる向きもあったが、「台湾を次のウクライナにしてはいけない」のである。そのために過激な手段を用いることになる機会を作らないようにするのが肝心だ。アメリカに火遊びをさせない、アメリカの軽挙妄動に付き合わない、という大人の態度が重要で、インド太平洋地域全体がそのことが分かっているようであるのは安心材料だ。日本も大きくは分かっているが、それだけでは済まない事情があり、そのこともまた地域全体で分かっているだろうから、それもまた別の意味で安心ということになる。

(貼り付けはじめ)

ペロシの訪問後、インド太平洋地域の大半の国々が中国の側についている(After Pelosi’s Visit, Most of the Indo-Pacific Sides With Beijing

-地域のほぼ全体が中国を支持している。しかし、中国の行動はまた台湾への支持を純化させている。

デレク・グロスマン筆

2022年8月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/22/china-taiwan-pelosi-crisis-missiles-indo-pacific-allies-support/

ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問した。これをきっかけに、中国は台湾を四方から取り囲み、ミサイルを発射するなど、前例のない軍事訓練を実施し、極めて積極的な姿勢を示した。台湾海峡の緊張が高まったことで、インド太平洋地域の他の国々も予想通り、圧倒的に北京の「一つの中国(One China)」原則(台湾は中国本土の一部である)を支持する反応を示している。しかし、今回のペロシ訪問で、アメリカの主要な同盟諸国も台湾を強く支持していることが明らかになった。特に、台湾をめぐる戦争の可能性に直面した場合、北京の主張的な行動は、他の国々を確実に遠ざけていることが示唆された。

台湾支持の急先鋒は日本とオーストラリアである。東南アジア諸国連合(Association of Southeast Asian NationsASEAN、アセアン)外相会議で、アメリカとともに共同声明を発表し、「国際平和と安定に重大な影響を与える中国の最近の行動に懸念を表明」し、「軍事演習を直ちに中止するよう北京に要請」した。この声明は、オーストラリア、日本、米国が「それぞれの“一つの中国”政策に変更はない」とも述べているが、この点は明らかに焦点とはなっていない。

もう1つの重要な同盟国である韓国は、全く異なるカードを使っていた。ペロシは台北の次にソウルに向かったが、韓国の尹錫烈(ユン・スギョル)大統領は休暇中であると主張し、代わりにペロシとの電話会談を選んだが、これは一部の人々には「無視(sub)」だと解釈された。台湾に関する韓国側の公式声明はない。コメントを求められた大統領府の関係者は、中国や台湾に言及することなく「当事者間の緊密なコミュニケーション(close communication with relevant parties)」を促し、台北への支援を控えた北京に有利な発言であった。

同様に、韓国の朴振外相は、「台湾海峡の地政学的対立の激化は、地域の政治的・経済的安定を阻害し、朝鮮半島に負の波及効果をもたらす」と指摘し、無難な表現に終始している。ペロシが台湾と韓国を訪問した翌週、朴外相は初めて中国を訪問しており、この重要な台湾への中国への関与の直前に、ソウルが北京との間で揺れ動くことを避けたかったことが伺われる。

インド太平洋地域の大半は中国を支持しているが、北京の行動に危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もいくつかある。

ペロシ訪台はカンボジアで開催されたASEAN外相会議の期間中に行われたため、ASEAN外相会議は「ASEAN加盟諸国がそれぞれの“一つの中国”政策を支持することを改めて表明する」という声明をすぐに発表することができた。台湾については全く言及されなかった。

また、多くのASEAN加盟諸国が個別に声明を発表したが、いずれも台湾の状況を支持するものではなかった。例えば、インドネシアは「挑発的な行動を控えるよう(to refrain from provocative actions)」呼びかけ、「一つの中国」政策を引き続き尊重するとした。シンガポールは「米中両国が共存の道を歩み、自制し、緊張をさらに高めるような行動を慎む(U.S. and China can work out a modus vivendi, exercise self-restraint and refrain from actions that will further escalate tensions)」ことを望んだ。アメリカの重要なパートナーとして急成長しているヴェトナムは、過去の声明を踏襲し、「ヴェトナムは“一つの中国”原則の実施を堅持し、関係者が自制し、台湾海峡の状況をエスカレートさせず、平和と安定の維持に積極的に貢献することを期待する」と述べた。マレーシアとタイも同様の声明を出し、台湾への支持を控えている。

東南アジアのリスク回避の明らかな例外は、中国との条約上の同盟国であり、中国の海洋権益をめぐって公然と対立しているフィリピンの対応であった。ブリンケン米国務長官はASEAN会議後の8月上旬にマニラを訪れ、新大統領のフェルディナンド・マルコス・ジュニアと会談し、台湾危機について「アメリカとフィリピンの関係の重要性を示しているにすぎない。私たちは、私たちが見てきた全ての変化に直面して、その関係を進化させ続けることを願っている」と述べた。

一方、インドは非常に興味をそそられるケースであることが判明している。インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外務大臣は、ニューデリーはインドへの潜在的な影響について「評価し、監視する」と述べた。しかし、ニューデリーは「一つの中国」という言葉を口にすることを拒否し、その代わりに「インドの関連政策はよく知られており一貫している。改めて説明する必要はない」と述べるにとどまった。ニューデリーが言葉を濁すのは、おそらく、2020年5月に過去数十年で最も大きな衝突が発生した「実質支配線(Line of Actual Control)」として知られる係争中の陸上国境に沿って、インドが中国と独自の不満を抱えているためだろう。更に、近年、インドと台湾の非公式な関係は、特に経済面で拡大しており、ニューデリーが北京に対して強硬策を取ろうとしていることがうかがえる。しかし、中国への対抗を非公式な目的とする日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)に4カ国が参加しているにもかかわらず、日米豪3カ国声明に署名しなかったことは重要である。ニューデリーはまだ北京との友好関係を維持したいようだ。

他の南アジア諸国では、台湾を支持する動きは見られず、中国だけが支持されている。例えば、北京の「鉄の兄弟(iron brother)」であるパキスタンは、主権国家の「内政不干渉(non-interference in international affairs)」の重要性について、中国に台湾の計画を決定させるための慣用句を使った。バングラデシュ、モルディヴ、ネパール、スリランカも同様に、この危機状況における北京の権利を擁護している。

太平洋諸島の中では、不気味な沈黙が支配している。例外はバヌアツで、「バヌアツは台湾が中国の領土の不可侵の一部であることを再確認する」と発表している。心配なのは、台湾の4つの外交パートナーのうち、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルだけが、これまで台北への支持を表明してきたことである。マーシャル諸島は、台湾の「真の友人であり同盟国(a true friend and ally)」であり続けると述べ、中国を具体的に名指しすることなく「台湾海峡における最近の軍事行動(recent military actions in the Taiwan Strait)」を非難した。しかし、台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外相は、台湾に残る14の外交パートナー(うち4カ国は太平洋地域)の全てが、中国よりも台湾に固執していると主張した。台湾は2019年だけでソロモン諸島とキリバスという2つの太平洋島嶼国を中国に奪われており、さらなる外交上の変化が現実的な懸念材料となっている。

アメリカの太平洋地域における緊密なパートナーであり、時に中国に甘いと見られてきたニュージーランドも曖昧な表現に留まるものの、何らかの意見を表明した。ナナイタ・マフタ外相はASEAN会議の際に中国の王毅外相と会談し、「状況のエスカレート防止、外交、対話の重要性」を強調したが、「一つの中国」もしくは台湾への支持を改めて表明することはなかった。その数日前、危機の前にニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は中国に関する演説を行い、「より強硬な態度(more assertive)」の北京とでも協力関係を続けていくと述べた。アーダーン首相の今後の中国への訪問計画が、ウェリントンの寛容なメッセージに一役買っているのかもしれない。

最後に、インド太平洋諸国には、何の声明も出さないか、あるいは北京への支持を二転三転させている国がいくつかある。モンゴルは台湾をめぐる米中間の緊張が高まっていることにまだ触れていないが、北京は北の隣国が「一つの中国」を再度支持していると主張している。当然のことながら、北朝鮮とミャンマーの軍事政権は、ともに中国の強力な同盟国であり、中国を支持することを表明し、アメリカがこの地域で問題を起こしていることを非難している。

インド太平洋地域の大半の国々が中国を支持しているのは確かだが、オーストラリアと日本、それにインドなど、北京の振る舞いに危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もある。通常、北京はこのグループを忠誠の海の中の少数の反対勢力と見なすことができる。しかし、問題はこの3カ国がアメリカとともに日米豪印戦略対話を構成しているが、これらの国々は中国以外のこの地域の主要国であることだ。この3カ国を無視することはできず、北京は今後の戦略を見直すことを検討すべきかもしれない。どちらかといえば、北京は台湾を支持するあからさまな民主国家連合を設立することを避けたいだろう。むしろ、これらの強国の1つ、あるいは複数が台湾への支持を薄めることができれば大きな勝利であり、中国の言う統一への野望を否定できないことの証拠となる。幸いなことに、これらの国々の反対は根強く、その声は大きくなるばかりである。

デレク・グロスマン:ランド研究所上級防衛担当アナリスト、南カリフォルニア大学非常勤講師、米国防次官補(アジア・太平洋安全保障問題担当)の概況説明者(情報担当)を務めた経験を持つ。ツイッターアカウント:@DerekJGrossman

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(終わり)

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