古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:インド太平洋

 古村治彦です。

 ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問し、それに中国が反発、軍事演習を行うなど緊張が高まった。しかし、アジア太平洋の国々は、少数のおっちょこちょいを除いて冷静に反応した。今回はそのことについての記事をご紹介する。

 台湾(中華民国)が国連での加盟資格を喪失して以降、台湾は多くの国々との正式な外交関係を喪失している。もちろん、そうした国々との非公式な関係、経済関係は持っているので、世界から完全に孤立している訳ではない。半導体の生産拠点として確固たる地位を築いている。しかし、公式的には外交上の関係はない国がほとんどだ。

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台湾と正式な外交関係を結んでいるのは十数カ国に過ぎない。それらの国々は中米と太平洋地域に多い。近年では中国の外交攻勢もあって、台湾との正式な外交関係を終了させる国々も出ている。これらについては以下の地図を見て欲しい。

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 今回、ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問したことは中国を苛立たせた。しかし、それ以上の影響も効果もなかった。ペロシ議長が訪台したからと言って、台湾に対してより肩入れをする国は出現しなかった。インド太平洋地域において、台湾防衛を明言し、アメリカと一緒にやってやるぞと意気込む国は出てこなかった。アメリカと日本とオーストラリアがややそれに近い態度を示したが、クアッド4カ国の枠組みで重要な参加国であるはずのインドは日米豪の共同声明には加わらなかった。また、米韓同盟でアメリカとは緊密な関係を持つ韓国の場合には、ペロシが訪問しても大統領が直接会うことはなかった。アメリカの勢い込んだ態度に付き合わされて馬鹿を見るのは嫌だ、という考えが明らかだった。

 東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアン)加盟の国々も静観の構えだった。フィリピンだけがややアメリカ寄りの姿勢を示したが、それ以上ではなかった。こうして見ると、台湾をめぐっては、「中国対アメリカ・日本・オーストラリア」という構図になっていることが分かる。日本とオーストラリアのおっちょこちょいぶりもなかなかなものだが、アメリカの属国である以上は仕方がない行動でもある。「台湾をめぐって戦争なんか起こすなよ。中国も手荒な真似をせずに徐々に吸収するようにしたら良いし(今もそうしているではないか)、台湾もアメリカを引き込んで大々的に中国と戦うなんて馬鹿なことを考えるなよ(そんなことになったら支持しないからな)」というのが大勢(たいせい)の考え方である。

 ウクライナ戦争勃発当時、「ウクライナの次は台湾だ」という標語を掲げて騒いでいる向きもあったが、「台湾を次のウクライナにしてはいけない」のである。そのために過激な手段を用いることになる機会を作らないようにするのが肝心だ。アメリカに火遊びをさせない、アメリカの軽挙妄動に付き合わない、という大人の態度が重要で、インド太平洋地域全体がそのことが分かっているようであるのは安心材料だ。日本も大きくは分かっているが、それだけでは済まない事情があり、そのこともまた地域全体で分かっているだろうから、それもまた別の意味で安心ということになる。

(貼り付けはじめ)

ペロシの訪問後、インド太平洋地域の大半の国々が中国の側についている(After Pelosi’s Visit, Most of the Indo-Pacific Sides With Beijing

-地域のほぼ全体が中国を支持している。しかし、中国の行動はまた台湾への支持を純化させている。

デレク・グロスマン筆

2022年8月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/22/china-taiwan-pelosi-crisis-missiles-indo-pacific-allies-support/

ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問した。これをきっかけに、中国は台湾を四方から取り囲み、ミサイルを発射するなど、前例のない軍事訓練を実施し、極めて積極的な姿勢を示した。台湾海峡の緊張が高まったことで、インド太平洋地域の他の国々も予想通り、圧倒的に北京の「一つの中国(One China)」原則(台湾は中国本土の一部である)を支持する反応を示している。しかし、今回のペロシ訪問で、アメリカの主要な同盟諸国も台湾を強く支持していることが明らかになった。特に、台湾をめぐる戦争の可能性に直面した場合、北京の主張的な行動は、他の国々を確実に遠ざけていることが示唆された。

台湾支持の急先鋒は日本とオーストラリアである。東南アジア諸国連合(Association of Southeast Asian NationsASEAN、アセアン)外相会議で、アメリカとともに共同声明を発表し、「国際平和と安定に重大な影響を与える中国の最近の行動に懸念を表明」し、「軍事演習を直ちに中止するよう北京に要請」した。この声明は、オーストラリア、日本、米国が「それぞれの“一つの中国”政策に変更はない」とも述べているが、この点は明らかに焦点とはなっていない。

もう1つの重要な同盟国である韓国は、全く異なるカードを使っていた。ペロシは台北の次にソウルに向かったが、韓国の尹錫烈(ユン・スギョル)大統領は休暇中であると主張し、代わりにペロシとの電話会談を選んだが、これは一部の人々には「無視(sub)」だと解釈された。台湾に関する韓国側の公式声明はない。コメントを求められた大統領府の関係者は、中国や台湾に言及することなく「当事者間の緊密なコミュニケーション(close communication with relevant parties)」を促し、台北への支援を控えた北京に有利な発言であった。

同様に、韓国の朴振外相は、「台湾海峡の地政学的対立の激化は、地域の政治的・経済的安定を阻害し、朝鮮半島に負の波及効果をもたらす」と指摘し、無難な表現に終始している。ペロシが台湾と韓国を訪問した翌週、朴外相は初めて中国を訪問しており、この重要な台湾への中国への関与の直前に、ソウルが北京との間で揺れ動くことを避けたかったことが伺われる。

インド太平洋地域の大半は中国を支持しているが、北京の行動に危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もいくつかある。

ペロシ訪台はカンボジアで開催されたASEAN外相会議の期間中に行われたため、ASEAN外相会議は「ASEAN加盟諸国がそれぞれの“一つの中国”政策を支持することを改めて表明する」という声明をすぐに発表することができた。台湾については全く言及されなかった。

また、多くのASEAN加盟諸国が個別に声明を発表したが、いずれも台湾の状況を支持するものではなかった。例えば、インドネシアは「挑発的な行動を控えるよう(to refrain from provocative actions)」呼びかけ、「一つの中国」政策を引き続き尊重するとした。シンガポールは「米中両国が共存の道を歩み、自制し、緊張をさらに高めるような行動を慎む(U.S. and China can work out a modus vivendi, exercise self-restraint and refrain from actions that will further escalate tensions)」ことを望んだ。アメリカの重要なパートナーとして急成長しているヴェトナムは、過去の声明を踏襲し、「ヴェトナムは“一つの中国”原則の実施を堅持し、関係者が自制し、台湾海峡の状況をエスカレートさせず、平和と安定の維持に積極的に貢献することを期待する」と述べた。マレーシアとタイも同様の声明を出し、台湾への支持を控えている。

東南アジアのリスク回避の明らかな例外は、中国との条約上の同盟国であり、中国の海洋権益をめぐって公然と対立しているフィリピンの対応であった。ブリンケン米国務長官はASEAN会議後の8月上旬にマニラを訪れ、新大統領のフェルディナンド・マルコス・ジュニアと会談し、台湾危機について「アメリカとフィリピンの関係の重要性を示しているにすぎない。私たちは、私たちが見てきた全ての変化に直面して、その関係を進化させ続けることを願っている」と述べた。

一方、インドは非常に興味をそそられるケースであることが判明している。インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外務大臣は、ニューデリーはインドへの潜在的な影響について「評価し、監視する」と述べた。しかし、ニューデリーは「一つの中国」という言葉を口にすることを拒否し、その代わりに「インドの関連政策はよく知られており一貫している。改めて説明する必要はない」と述べるにとどまった。ニューデリーが言葉を濁すのは、おそらく、2020年5月に過去数十年で最も大きな衝突が発生した「実質支配線(Line of Actual Control)」として知られる係争中の陸上国境に沿って、インドが中国と独自の不満を抱えているためだろう。更に、近年、インドと台湾の非公式な関係は、特に経済面で拡大しており、ニューデリーが北京に対して強硬策を取ろうとしていることがうかがえる。しかし、中国への対抗を非公式な目的とする日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)に4カ国が参加しているにもかかわらず、日米豪3カ国声明に署名しなかったことは重要である。ニューデリーはまだ北京との友好関係を維持したいようだ。

他の南アジア諸国では、台湾を支持する動きは見られず、中国だけが支持されている。例えば、北京の「鉄の兄弟(iron brother)」であるパキスタンは、主権国家の「内政不干渉(non-interference in international affairs)」の重要性について、中国に台湾の計画を決定させるための慣用句を使った。バングラデシュ、モルディヴ、ネパール、スリランカも同様に、この危機状況における北京の権利を擁護している。

太平洋諸島の中では、不気味な沈黙が支配している。例外はバヌアツで、「バヌアツは台湾が中国の領土の不可侵の一部であることを再確認する」と発表している。心配なのは、台湾の4つの外交パートナーのうち、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルだけが、これまで台北への支持を表明してきたことである。マーシャル諸島は、台湾の「真の友人であり同盟国(a true friend and ally)」であり続けると述べ、中国を具体的に名指しすることなく「台湾海峡における最近の軍事行動(recent military actions in the Taiwan Strait)」を非難した。しかし、台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外相は、台湾に残る14の外交パートナー(うち4カ国は太平洋地域)の全てが、中国よりも台湾に固執していると主張した。台湾は2019年だけでソロモン諸島とキリバスという2つの太平洋島嶼国を中国に奪われており、さらなる外交上の変化が現実的な懸念材料となっている。

アメリカの太平洋地域における緊密なパートナーであり、時に中国に甘いと見られてきたニュージーランドも曖昧な表現に留まるものの、何らかの意見を表明した。ナナイタ・マフタ外相はASEAN会議の際に中国の王毅外相と会談し、「状況のエスカレート防止、外交、対話の重要性」を強調したが、「一つの中国」もしくは台湾への支持を改めて表明することはなかった。その数日前、危機の前にニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は中国に関する演説を行い、「より強硬な態度(more assertive)」の北京とでも協力関係を続けていくと述べた。アーダーン首相の今後の中国への訪問計画が、ウェリントンの寛容なメッセージに一役買っているのかもしれない。

最後に、インド太平洋諸国には、何の声明も出さないか、あるいは北京への支持を二転三転させている国がいくつかある。モンゴルは台湾をめぐる米中間の緊張が高まっていることにまだ触れていないが、北京は北の隣国が「一つの中国」を再度支持していると主張している。当然のことながら、北朝鮮とミャンマーの軍事政権は、ともに中国の強力な同盟国であり、中国を支持することを表明し、アメリカがこの地域で問題を起こしていることを非難している。

インド太平洋地域の大半の国々が中国を支持しているのは確かだが、オーストラリアと日本、それにインドなど、北京の振る舞いに危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もある。通常、北京はこのグループを忠誠の海の中の少数の反対勢力と見なすことができる。しかし、問題はこの3カ国がアメリカとともに日米豪印戦略対話を構成しているが、これらの国々は中国以外のこの地域の主要国であることだ。この3カ国を無視することはできず、北京は今後の戦略を見直すことを検討すべきかもしれない。どちらかといえば、北京は台湾を支持するあからさまな民主国家連合を設立することを避けたいだろう。むしろ、これらの強国の1つ、あるいは複数が台湾への支持を薄めることができれば大きな勝利であり、中国の言う統一への野望を否定できないことの証拠となる。幸いなことに、これらの国々の反対は根強く、その声は大きくなるばかりである。

デレク・グロスマン:ランド研究所上級防衛担当アナリスト、南カリフォルニア大学非常勤講師、米国防次官補(アジア・太平洋安全保障問題担当)の概況説明者(情報担当)を務めた経験を持つ。ツイッターアカウント:@DerekJGrossman

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 クアッドという言葉が日本国内でも多く報道されるようになっている。このクアッド(Quad)は、正式名称は日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)であり、日本、アメリカ、インド、オーストラリアが参加している枠組みである。これら4カ国で地域における様々な問題解決に協力していこうという建前になっている。実際には対中封じ込めの枠組ということになる。このクアッドが対象とする地域はインド洋、東南アジア、太平洋となっている。中国が進める「一帯一路計画(One Belt, On Road)」に対抗する形になっているのは地図を見れば明らかだ。
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 地政学で言えばランドパワーとシーパワーの戦いということになるが、ユーラシア大陸という最重要の地域(ハートランド)を中国が獲得しつつある中で、アメリカ、オーストラリア、日本がそれに対抗するためにインドを引き込んで中国と対峙するという形になる。しかし、インドはしたたかだ。一帯一路計画にも参加している。どちらか一方に賭けるということではなく、両方で良い関係を保つということを行っている。ランドパワーとシーパワーのはざまにいる国としては極めて合理的な行動を取っている。

 クアッドによって、日本とオーストラリアはこれまで「隣接地域」と考えてこなかった地域で活動を行う、より具体的に言えば中国に対抗するということを行わねばならなくなった。これはアメリカの国力が減退し、一国のみで世界管理を行うことができなくなったことによるものだ。そして、アメリカが超大国として世界を管理し、繁栄を享受するという第二次世界大戦後の世界構造が大きく変化する前触れであることを示しいている。中国の台頭はアメリカにとって大きな懸念材料であるが、既にここまで大きくなってしまった存在をどのように扱うかについては、協調していくべきという考えと叩きのめすべきという考えが分立している。

 日本はインドをお手本にすべきだ。どちらともうまく付き合っていくということだ。日本もインドと同様に、中国とアメリカのはざまにいる存在だ。現状ではアメリカの意向に逆らうことはできないが、それでも裏のチャンネルなりあらゆる手段を講じて、中国とは意思疎通を図り、正面衝突するというような馬鹿げたことにならないようにしておくことが重要だ。

(貼り付けはじめ)

クアッドは西を目指す(The Quad Looks West

-東京で開催された首脳会議で、クアッドはインド洋地域を含むことで戦略的な焦点を当てる。

マイケル・クーグルマン筆

2022年5月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/05/26/quad-tokyo-south-asia-indian-ocean-region/

『フォーリン・ポリシー』誌の「南アジアブリーフ」にようこそ。

今週のハイライト:日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)イニシアティヴがインド洋地域に範囲を拡大、パキスタンのイムラン・カーン前首相がイスラマバードでデモ行進、スリランカの首相が緊縮財政を公約。

●クアッドはインド洋に焦点を拡大

「日米豪印戦略対話(Quad、クアッド)」に参加している国々(オーストラリア、インド、日本、アメリカ)の首脳たちが今週、東京で4回目の会合を開いた。共同声明では、新型コロナウイルスワクチン計画からサイバーセキュリティーの協力に至るまで、継続的な協力を約束した。このグループは近年、大きな勢いを見せているが、これはメンバー国が中国との関係をここ数十年で最低のレベルにまで悪化させていることが理由の一つである。
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自然災害から漁業の違法操業まで、海洋をめぐる諸問題を監視するプログラムには、インド洋、東南アジア、太平洋諸島の情報・資源共有センターが含まれる。これは、インド洋地域において中国の存在感を高めていることに懸念を抱いているインドにとって戦略的関心の高い地域に、クワッドの関心が拡大していることを示している。また、4つのメンバー国全てにとっての最重要分野において、クワッドがより多くの活動を行おうとしていることも示している。

共同声明ではインドにとって良い兆しとなる内容である新しいイニシアティヴについて言及されている。自然災害から漁業の違法操業まで海洋問題を監視するプログラムに言及されている。更に、このプログラムにはインド洋地域のみならず、東南アジアと太平洋島しょ地域における情報・資源共有センターも含まれる。これは、インド洋地域における中国の存在感の高まりに懸念を抱いているインドにとって、戦略的関心の高い地域にクアッドの地理的焦点が広がっていることを示している。また、4つのメンバー国全てにとって最も重要な分野で、クアッドがより多くの活動を行おうとしていることも示している。

クアッドは、2004年にインド洋で発生した地震と津波で大きな被害を受けたアジア諸国に人道支援を行うために発足した。しかし、東南アジア諸国連合(ASEAN)への支持を確認し、東シナ海と南シナ海における海洋問題への懸念を表明し、太平洋諸島への支援を約束するなど、最近のグループの戦略的焦点の多くは東アジアと東南アジアに当てられている。クアッドの代表的なプロジェクトであるワクチン・パートナーシップは、特に東南アジアと太平洋諸島を対象としている。しかし、新しい海洋イニシアティヴは、インド太平洋を地理的に一つの地域として定義し、それぞれの部分に同等の重点を置いている。

クアッド加盟諸国は、中国が東南アジア諸国との商業的関係を深め、南シナ海の領有権争いを軍事化することを懸念している。これは当然のことだ。海洋監視イニシアティヴは、インド洋地域における北京の存在感の増大に対する懸念も反映している。中国は、バングラデシュ、モルディヴ、スリランカでインフラ投資を活発化させている。インド洋のあちこちに中国の漁船が現れ、インドは昨年、領有するアンダマン諸島の近くで中国の調査船を発見したと発表した。

また、中国は軍事的な存在感も拡大している。東アフリカのジブチに軍事基地を設置した。インド海軍によれば、インド洋北部では常時6~8隻の中国海軍の軍艦が活動しているということだ。南アジアの安全保障研究者であるサミア・ラルワニは、「10 年以内に、中国はマラッカ海峡(Malacca Strait)からバブ・エル・マンデブ海峡(Bab-el-Mandeb strait)に広がる重要な空間における海軍の支配勢力として自らを位置づけることができるだろう」と最近書いている。
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これまでクアッド加盟国の一部は、インド洋地域を戦略的に重要視してこなかった。例えば、オーストラリアの戦略文書では、オーストラリアの隣接地域(immediate region)はインド洋の北東部までと定義されている。アメリカは正式なインド洋戦略を持っていない。しかし、この点については変化の兆しがある。アメリカ政府高官は最近、インド太平洋全体に関する議論の中で、インド洋地域を強調するようになっている。

クアッドの新しい海洋イニシアティヴは、クアッドの基本的な目標である安定の促進と公共財の提供の2つが、インド洋地域とそれにまたがる国々により深く浸透していく可能性を示している。

●私たちがフォローしている事柄

パキスタンで更なる政治ドラマが発生。経済的な問題が山積する中、パキスタンの政治的な温度は急上昇している。先月の不信任投票で失脚したイムラン・カーン前首相は、5月25日にイスラマバードへのデモ行進を行い、現政権が早期選挙に同意するまでそこに留まると発表していた。今週末、警察は複数の野党指導者たちの自宅を家宅捜索し、別の指導者を不明朗な容疑で逮捕した。火曜日には、政府はカーンのデモ行進を進めることはできないと宣言した。

カーンとパキスタン・テヘリク・エ・インサフ(PTI)党内の支持者たちは、水曜日にイスラマバードへ向かった。PTI支持者の一部は警察から催涙ガスを浴びせられ、2000人近くが逮捕された。また、PTI支持者による暴力行為も報告された。しかし、木曜日、カーンは突然、方針を転換した。イスラマバードを離れ、政府が早期投票に応じない場合は6日後に戻ると発表した。

この変化は、更なる暴力を避けるためかもしれないが、早期選挙につながるような交渉が政府との間で行われていることも示唆している。政府は早期投票実施の決定を既に行っていることを示唆している可能性がある。メディアの報道と複数の与党指導者によれば、ここ数日、選挙の可能性のある日程について話し合いが持たれている。そして木曜日、国民議会は、PTI支持者の多くを占める在外パキスタン人による投票の選択肢を制限する新法を可決した。

アフガニスタンのジャーナリストたちは抵抗している。タリバンは最近、女性ニュースキャスター全員が放送中に顔を覆わなければならないと発表し、女性の自由に対する他の強硬な制限に続いて、女性の自由を制限している。一部の男性ジャーナリストは今、テレビ出演の際にも顔面マスクを着用することで彼らとの連帯を表明することを選択し、タリバンがその命令を取り消すまでそうするつもりだと述べている。ハミド・カルザイ元大統領を含む他の著名なアフガニスタン人たちは、女性司会者たちにこの命令に逆らうよう呼びかけている。

昨年8月にタリバンが政権を掌握して以降、アフガニスタンのジャーナリストと女性たちは苦しんでいる。アフガニスタンの記者たちはタリバンに殴打されたり脅迫を受けたりしており、その多くが国外に逃亡している。タリバンによる国内のジャーナリストたちを弾圧をしているのは、タリバンが外国人ジャーナリストたちをより自由に扱ってきたのとは対照的だ。その結果として、タリバン政権のソフトな側面を世界に映し出すことになったようだ。例えば、先週、CNNのクリスティアン・アマンプールは、タリバン幹部のシラジュディン・ハッカニにインタヴューを行った。

スリランカ首相が予算削減を公約した。ロイター通信によると、スリランカの新らしい首相ラニル・ウィクレミンゲは、6週間後に発表予定の暫定予算で、大幅な削減を約束した。首相は、新たな救済措置のための資金をより多く確保するため、インフラプロジェクトの削減を含む削減を行うと述べた。スリランカは一周して元の場所に戻った形だ。現在の経済危機の根源は、2009年の内戦終結時にインフラプロジェクトを優先し、その資金調達のために巨額の融資を受けたことに遡る。

また、スリランカ政府は今週、巨額の債務を再構築するために国際的なアドヴァイザーを採用したことを発表した。スリランカが現在、国際通貨基金(IMF)と交渉している救済策を受けるためには、緊縮財政と債務再編の両方の動きが必要である。

火曜日、タリバンは、アフガニスタンのヘラート、カンダハル、カブールの各都市の空港の地上業務を管理するため、アラブ首長国連邦に拠点を置く航空会社GAACソリューションズと合意に達した。タリバンが以前、カタールやトルコと空港取引をめぐって交渉していたことを考えると、この動きはやや意外だ。しかし、昨年のタリバンによる制圧以来、GAACはカブール空港の地上業務を管理してきた。

タリバンがGAACとの取り決めを延長した理由の一つは、同社がアフガニスタンの空港でいかなる警備員も活動させないことに同意したからだろう。タリバンは長い間、アフガニスタンに外国の治安部隊は存在し得ないと主張してきた。

この新しい合意はタリバンにとって最良のシナリオであり、空港の運営能力を強化し、タリバン支配以降頻発している国際的な戦闘をより多く行う機会を増やすことができる。この取引はタリバンの広報活動にとっても好都合である。国際社会は、逆行する社会政策にもかかわらず、タリバン政権とビジネスをする意思があることを示している。

タリバン政権は今後も外国企業からの援助を求めるだろうが、これは新しい戦略ではない。1990年代、タリバンはアメリカのエネルギー企業ユノカルと数年にわたり、パイプラインプロジェクトの可能性について交渉していた。ユノカル社は、タリバンとアルカイダとの結びつきに対する米国の懸念が強まったため撤退した。

●各地域の声

建築家のアダム・ジラー・モーシェッドは、『デイリー・スター』紙上で、ダッカの悪名高い交通問題の解決には、信号機の改善といった技術的な解決策よりもはるかに多くのことが必要だと論じている。バングラデシュの首都ダッカの交通渋滞は、「社会文化的な要因、合理的な土地利用の欠如、誤った都市統治の複雑な組み合わせの結果である」と、彼は書いている。

環境保護運動活動家ネハ・パンチャミアは『プリント』誌で、インドでは適切な場所を見つけることは難しいが、絶滅危惧種を野生に戻すことが重要だと書いている。彼女は「飼育下で一生を過ごし、休息もなく既に崩壊しつつあるシステムに負担をかけるよりも、生存のためのセカンドチャンスを得る方がより良い」と書いている。

『パキスタン・トゥディ』紙コラムニストであるナジム・ウディンは、イムラン・カーン前首相を支持することはパキスタンの若者たちにとって良い行動ではないと警告している。ウディンは「若者たちは、自分たちを操ることができる人物の前に忠誠を誓うのではなく、合理性、証拠、現実に従うべき時だ」と主張した。

※マイケル・クーグルマン:『フォーリン・ポリシー』誌週刊「南アジアブリーフ」記者兼ワシントンにあるウィルソン・センターのアジア・プログラム副部長兼南アジア担当上級研究員。ツイッターアカウントは@michaelkugelman

(貼り付け終わり)

(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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