古村治彦です。

 2021年5月29日に最新刊『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)が発売になりました。全国の大型書店に置いてあります。是非手に取ってお読みください。アマゾンにもブックレヴューが掲載されています。

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悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

 バイデン政権は大規模なインフラ整備を行おうとしている。その財源として、大企業への税率引き上げと富裕層への増税を考えている。しかし、それだけでは到底間に合わない。そこでどうしても出てくるのが国債発行だ。現在のところ、物価上昇率も低く、インフレ懸念も少ないので、国債発行で資金を調達して、インフラ整備を行う、そのことが引いては、中国との競争に打ち勝つことにつながるということである。

 今回ご紹介する記事は、「バイデンは中国が改革開放以来、成功させてきたインフラ整備を真似たいと考えている。しかし、それは不可能だ」という内容だ。その理由は、そもそも論として、中国は市場経済に転換して数十年で、土地の価値が上昇し、それを担保にして、資金を調達してインフラ整備を行ってきた。これが資本主義発生期から勃興期の、原資蓄積というものなのだろう。この方式が限界に近付きつつあるというのが記事の筆者の認識であるが、アメリカはそれができない。アメリカは国債の信頼性でお金を集めるしかない。

 しかし、ここで面白い現象が起きる。アメリカ国債を買っているのは誰か。それは中国と日本とサウジアラビアだ。中国の資金で、中国に打ち勝つために、インフラ整備を行うということになる。中国にしてみれば、アメリカが景気回復することで、時刻の対米輸出も回復するのだから、アメリカには頑張ってもらいたいという考えもある。日本にしても、アメリカに貢ぐことでアメリカが景気回復して、アメリカがけん引する景気回復の波に乗ることができる。こうしたメカニズムが機能するためには、アメリカ国債が安定していなければならない。

 米中は激しく対立している。しかし、米中はある意味では運命共同体だ。この点を見落として、お勇ましく、「中国と戦うぞ(だけど日本一国では駄目だからアメリカの尻馬に乗って)」と言っているようでは、いざという時にはしごを外される、「日本が悪いよね」と共通の敵、スケープゴートにされる可能性もある。馬鹿の一つ覚えみたいに「中国の脅威」をお題目のように唱え続けているだけでは駄目だ。常に2つ、3つのプランを持っていなければならない。

(貼り付けはじめ)

バイデンは中国のインフラ建設の奇跡を真似たいと望む(Biden Wants to Replicate China’s Infrastructure Miracle

-しかし、彼にそれを実現することは不可能だ。その理由を説明する。

ユーコン・ファン、ジョシュア・レヴィ筆

2021年55

『フォーリン・ポリシー』誌

MAY 5, 2021, 3:58 PM

https://foreignpolicy.com/2021/05/05/china-infrastructure-debt-land-prices-biden/

今年(2021年)3月、ジョー・バイデン大統領は、アメリカ国内のインフラの修理と新設のために2兆ドル(約220兆円)を超える規模の投資を行うと発表した。しかし、バイデンは、表向きは国内政策についての演説を行ったのだが、実際には外交政策、「中国との世界規模での競争」という挑戦について語っていたのだ。これは荒唐無稽なことではない。ワシントンでは、民主、共和両党は共に中国の台頭に懸念を持っている。中国の支配という幻影によって、バイデンは自身の政策に対する支持を構築することになる。

中国の怒りはアメリカ、インド、ブラジルにとっていつものことだ。そして、他の新興諸国は中国に追いつくことを夢見ている。しかし、これら新興諸国の野望は、機能不全に陥った都市部での各種サーヴィス、古くなった交通システム、停電が多い電力供給システムなどによって、成就できないようになっている。これらの国々にとって、中国との競争は、新しいインフラ建設に投資することを意味する。

しかし、アメリカ政府はこれら新興諸国と同じ悩みを抱えている。それはそのような投資のためのどのように資金を確保するかというジレンマに陥っている。バイデンの提案については、財政上の実現可能性について疑念が高まっている。バイデンは、その財源について、キャピタルゲインの税率の引き上げ、相続税の新設、税金回収システムの改善で賄うとしている。これらは根強い反対、もしくは実現性の制限に直面する。

一方、中国の経済構造と金融メカニズムは根本的にアメリカのものとは大きく異なる。中国のインフラ投資について見れば、アメリカで模倣することがどれほど困難なことかということが明らかになるだろう。

中国の一人当たりの収入はアメリカの7分の1である。そして、中国の財政、金融システムはアメリカに比べてほとんど洗練されていない。しかし、中国は経済状態を変更させるための資源を見つけることができる。中国国民の過半数は近代的な巨大都市に住んでおり、高速鉄道と高速道路のネットワークが中国全土を覆うようになっている。そして、中国の世界的な大企業は、他国の競争相手と激しい競争を行うようになっている。中国はこうしたことが可能であったが、その理由は高い投資レヴェルを維持するために必要な資金を中国政府が保有できたからだ。実際のところ、こうしたインフラなどへの投資は30年の間、中国のGDPの約40%を占めてきた。対照的に、アメリカにおける投資は約20%である。中程度の収入である国々がアメリカに追いつこうとして行う公共事業への投資は25から30%となる。

中国のインフラ投資の模倣がバイデンの提案の中でどれほど重要かということについて、これまで述べてきた指摘は議論を促進している。しかし、ここに根本的な疑問が生じてしまう。それは、世界各国の政府が中国ほどではないインフラ整備計画を立案しても、税率を引き上げたり、資本市場から資金を引き出そうとしたりしても、それらのための財源を確保することができないのに、中国はあれほど大規模なインフラ投資のための財源をどのようにして確保することができたのだろうか?

中国が採用した方法はあまり理解されない方法であった。中国が社会主義経済から市場経済へと移行した時期、開発のために、土地の隠された価値を引き出したことで、中国政府は成功を収めたのだ。改革開放前の社会主義時代には、中国の土地は、所有権も使用権も国家に帰属していたので、商業利用に制限があった。住居用そして商業用の財産市場が確立し始めたのは1990年代後半であった。この時期、中国政府は住宅を私有化し、商業利用のために土地のオークションを開始した。

この政策の結果、市場が商業的価値を確立しようとしたことで、土地を基にした財産価格は急上昇した。土地の一部を名義上所有していた人々、各世帯、各企業、各地方政府は突然、自分たちの財産の価値が急上昇するという幸運に恵まれた。中国の住宅用土地価格指数で見ると、2004年から2017年までに土地の価値は8倍になった。ロシアの財産市場でも同様のことが起きた。ソヴィエト連邦崩壊と住宅地の私有化が始まって以降、財産価値は急上昇した。1990年から1996年までに、モスクワの土地価格は12倍も増加した。

土地価格の急上昇によって、地方政府や市政府は、地方政府金融制度(local government financing vehiclesLGFVs)と呼ばれる制度を確立することができた。この制度では、資金を集め、インフラに投資することができた。国有企業から転換した各企業や地方政府金融制度は、上級の政府による保証を受け、土地財産を担保にして借金をしたり、新しい債券を発行したりできた。そうして各企業や各地方政府は発電所から地下鉄まで、あらゆるものを建設することができた。

銀行や企業の債権市場における利率の上昇よりも土地価格の上昇率の方が高ければ、借り手は資金を借りて、以前に借りた借金の返済にその資金を回すことができる。しかし、このようなメカニズムは永久に機能するということはない。土地価格の上昇は続くかもしれないが、土地価格が均衡点まで到達する時、利率の上昇率を上回る上昇率を保つことはない。若い世代は資金の使い道について前の世代よりもより多くの選択肢を持つので、前の世代に比べて貯金をするということは少ない。そうなると、利率は上昇する。更に言えば、政府によるインフラ計画に対する投資のリターンは小さくなっていく。政府のインフラ投資計画は、公正の面、そして戦略的な面の理由によって、より内陸部へと進んでいく。そして損失が出る可能性はどんどん高まっていく。 従って地方政府金融制度による借り入れは、北京の中央政府の負債レヴェルに関する懸念を受けて、より金額が小さくなっていく。インフラ投資の拡大ペースはこれから落ちていくことになるだろう。

世界中で、財産市場は何世紀前からではないが、数十年間から既に存在していた。これが意味するところは、各国政府は、中国の現在の指導部が市場改革によって手に入れることができた、「棚からぼた餅」式の利益を手にすることはできないだろうということだ。

バイデンにとって、税金を引き上げることができないとなれば、インフラ投資のほとんどには新たな借金が必要ということになる。バイデンは不動産などの財産を担保にすることはできず、アメリカ財務省の信頼性を担保にするしかない。アメリカ国債に依存することで、アメリカの地方政府はインフラを建設し、また既存のインフラの修理を行うチャンスを手にすることができるということだ。そして、中国が他の西洋諸国と同法に金融上の限界に直面することで、アメリカと中国との差は縮まっていくだろう。

不安定なインフレ圧力は確かに存在する。しかし、信頼性の高いアメリカ国債に大きく依存することは、中国の土地を基にした資金調達法と同様にうまくいくだろう。しかし、アメリカ・ドルが事実上の国際規模での準備通貨の地位から転落しているならば、アメリカ国債に大きく依存する方法にもまた最終期限が設定されることになる。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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