古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ウラジミール・プーティン

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界を大きく見るための枠組みを提示しています。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2024年は中国にとっても厳しい年となりそうだ。経済が減速し、若者たちは就職で苦労し、結果として、社会に対する幻滅や国家に対する信頼が揺らぐということになる。中国は経済運営に関して、人類史上でも類を見ないほどにうまく対応してきた。日本の戦後の成長は「奇跡の経済成長」と賞賛されてきたが、中国の経済成長は期間とその規模で日本を上回っている。

 2024年の中国に関する5つの予測という記事が出た。この記事によると、中国の2024年は暗いようだ。不動産価格の下落、若者の就職が厳しい状態、若者たちの幻滅はすでに起きており、今年も続くということだ。中国の不動産価格は下落するだろう。日本の都市部の不動産価格の高騰は中国マネーが入ってきているからであり、中国の富裕層は日本に目を向けている。中国の若者たちの厳しい現実と幻滅に中国政府は本格的に対処することになるだろう。

 中国の政治指導部で複数の閣僚の更迭が起きたが、これは、アメリカとの不適切なつながりがあったためだ。中国の最高指導層はこの点を非常に厳しく見ている。敵と不用意にかつ不適切につながっている人物を排除するということで、非常に厳しい態勢を取っている。それだけ米中関係のかじ取りが難しいということも言える。お互いに、敵対的な関係にはなりたくないが、好転するという状況にはない。ジョー・バイデン政権はウクライナとイスラエルという2つの問題を抱えて、更に中国と敵対することは不可能だ。何とか宥めながら、状況を悪化させないようにしようとしている。

 台湾の総統選挙は民進党の候補が勝利すると見られている。これで何か起きるということは米中ともに望んでいない。現状がそのまま続くことになる。台湾に関しては、バイデン政権が超党派の代表団を送り、台湾の代表もアメリカで活発に動いているようであるが、大きな変化はないだろう。アジアで何かを起こすことは、アメリカにとっても致命傷になってしまう。アジアの平穏は世界にとっても重要だ。日本も中国とは敵対的な関係にならないように配慮していく2024年になるだろう。

2024年の中国に関する5つの予測(5 Predictions for China in 2024

-台湾に関する小さな危機から若者層で拡大する幻滅まで、来年(2024年)に中国が直面するであろう5つの問題について見ていく。

ジェイムズ・パーマー筆

2023年12月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/12/26/china-predictions-2024-taiwan-economy-xi-jinping/

2020年代は今のところ、中国の失われた数十年のように感じられる。経済は減速し、若者は幻滅して、職を失い、彼らの親は資産価値の暴落を目の当たりにしている。経済は減速し、若者たちは幻滅し、職を失い、親たちは資産価値の暴落を目の当たりにしている。2023年は北京にとって困難な1年であり、次の1年もそれほど幸せなるとは見えない。以下に、2024年の中国に関する5つの予測をまとめた。

(1)台湾の小規模な危機(A Taiwan Mini-Crisis

台湾では1月13日に総統選挙が行われ、今年は海峡における小さな危機から始まる可能性がある。蔡英文(Tsai Ing-wen)総統の下で働き、民進党(Democratic Progressive PartyDPP)に所属する現台湾副総統、頼清徳(Lai Ching-te)が、世論調査の結果では僅差でリードしている。彼の選出は北京を激怒させるだろう。彼はより独立した台湾の擁護者であり、中国共産党 Chinese Communist Party (CCP) に強く反対しています。

頼は、北京の最終防衛線(レッドライン)である台湾の正式な独立や中華民国を名乗ることはないと述べているが、台湾の主権は「事実(fact)」であり、北京の基準では候補者全員が独立派であることを念押ししている。

頼が勝利すれば、海軍の作戦行動や領空侵犯など、北京の積極的な動きが予想される。先週、習近平が11月にジョー・バイデン米大統領と会談した際、台湾との統一について発言したという報道があり、ワシントンはパニックに陥ったが、侵攻の可能性は極めて低い。特に中国が他の危機と闘っているときには、それは危険で困難なことだろう。

1月13日に台湾の野党・国民党(KuomintangKMT)が勝利したとしても、いくつかの問題が生じる可能性がある。国民党は民進党よりも親中派だが、この島の鍵を中国政府に渡すことはまずないだろう。中国当局者は、国民党の選挙勝利を台湾における中国の影響力の表れとみなして、その重要性を過大評価している可能性がある。最近の調査では、台湾の有権者の17%が中国を主な関心事だと答えたが、その2倍以上が経済を選んだ。

(2)拡大する不動産苦境(Growing Property Woes

中国の住宅価格は何年にもわたって危険な状態に陥っていたが、2024年はついに危機の瀬戸際に立たされる年になるかもしれない。今年の不動産開発業者たちの危機は、カントリー・ガーデン(Country Garden)のような、かつては比較的安全と考えられていた企業にまで及んだ。しかし、中国政府が本当に恐れているのは住宅価格の下落だ。結局のところ、中国の家計資産の70%は不動産に投資されている。

政府はデータを改ざんし、解説者たちを脅迫して、中国経済が実際にどれだけ厳しい状況にあるのかについて人々が語るのを阻止しようとしているようだ。現在、公的な住宅価格指数と実際に市場で売れる不動産価格の間には大きな乖離がある。多くの都市では価格が少なくとも15%下落し、北京では最大30%下落している。

こうした傾向が広がるにつれ、公式の数字ですら現実をよりよく認識する必要が生じる可能性があり、そうなるとより広範囲にわたる信頼の危機を引き起こすことになるだろう。

(3)政治指導者の交代(Political Leadership Shake-ups

2023年には、秦剛(Qin Gang)外交部長と李尚福(Li Shangfu)国防部長という2人の最高指導層の指導者たちが失脚した。両者の解任の全容は依然として不透明だが、習近平が昨年トップポストに忠実な人物を詰め込んだにもかかわらず、中国共産党の最高指導部の政治は新年を迎えても不安定なように見える。

それは驚くべきことではない。習近平は政党政治において有能であるが、彼の統治は、特に過去3年間、中国にとって酷いものとなった。義務的な崇拝によっても、彼は不安を感じたり、多くの人がこの国の現状について自分を責めていることを認識したりするのを止めることはできない。この不安は、習近平の気まぐれに生命、富、自由が左右される他の指導部にも影響を与える。こうした緊張が来年、劇的な政治な結果を生み出す可能性が高い。

派閥や協力者たちについて語られることはあっても、中国共産党の政治はある意味で組織犯罪の力学に似ている。もし習近平に対して重大な動きがあるとすれば、それは習近平が推し進め、後援してきた人々から起こるかもしれない。

(4)若者たちの幻滅(Youth Disillusionment

先週、AP通信のデイク・カン記者は、過去3年間の中国における大衆の気分の変化を捉えた2つの微博(Weibo)メッセージを自身のアカウントで共有した。2020年6月、見知らぬ人が彼に「中国から出て行きやがれ(Get the fuck out of China)」とメッセージを送った。 今月(2023年12月)、同じアカウントから「申し訳ありません」というメッセージが届いた。

中国の若者の多くがここ数年で同じ道をたどった。国家主義的な教育は、2020年の夏に新型コロナウイルス感染症に対する明らかな勝利とともにもたらされた誇りと勝利の感情を彼らに呼び起こし、世界の他の国々が緊急体制を取る一方で、中国は比較的正常な状態に戻った。その感情は西側諸国、特にアメリカに対する敵意(hostility)の高まりと融合し、アメリカを非難するパンデミックに関する、複数の権力者共同謀議論(conspiracy theories)が定着した。

しかし、2021年と2022年の中国の新型コロナウイルス感染ゼロ政策への不満と経済危機が相まって、国民、特に若者の感覚は大きく変化している。この変化の兆候の1つは、中国の対米世論が急上昇していることである。これは、中国政府の方針に対する不満を表現する暗号化された方法である。 2024年には、2020年代の初めに既に明らかだった将来に対する悲観が更に悪化する可能性が高くなる。

民衆の間にあるナショナリズムの低下と若い新卒者たちの悲惨な経済見通しが、中国の18歳から24歳のうつ病の増加につながっているようだ。若者の失望と怒りは2022年12月に爆発し、中国は新型コロナウイルス感染ゼロ政策に反対する過去数年で最大の大規模抗議デモを経験した。来年(2024年)はそのようなことはないだろうが、虚無主義と他国への逃亡願望(そうする資力のある人々の間での)は、2024年もいわゆる逃避学(runology)を煽り続けるだろう。

10年前、中国共産党が反体制派潰しに走った主な理由の1つは、党が若者の支持を失っているという確信だった。この新たな恨みに対する政府の対応は、強制的な愛国心の誇示とネット空間の検閲強化を主張することだろう。2023年には、別のゲーム機性が終わったが、中国政府に中国の若者が望むような未来を提供する能力はほとんどない。

(5)米中関係の崩壊はないが、回復もない(No Collapse in U.S.-China Relations, but No Recovery Either

2023年11月にサンフランシスコで行われた習近平とバイデンの首脳会談は成功し、双方はこれを勝利とみなしたようだが、長年下り坂だった関係に一時的な冷却期間をもたらした。重要なのは、北京とワシントンのハイレヴェル軍事協議が再開されたことだ。中国の国営メディアでは、反米的な言動は比較的控えめだが、それでも絶え間なく流れ続けている。

それが長続きするとは思わない方がいい。両大国間の構造的緊張は十分に激しく、何らかの新たな危機が中国をいわゆる狼戦士モードに戻すことは避けられないだろう。しかし、この態勢が2020年のような高みに達することはないだろう。中国には、しばらくの間、あまり大きな問題を起こすリスクを避けるために十分な他の問題がある。

選挙期間中、ワシントンの反中レトリックが関係を悪化させるという懸念は常にある。しかし実際のところ、アメリカの有権者たちは投票箱を前にして中国を気にしていないようだ。本当に危険なのは、中国による選挙干渉の試みかもしれない。選挙干渉は、中国系有権者の多い地域の特定の政治家を狙ったものだろうが、おそらくはドナルド・トランプ支持路線に沿ったものとなるだろう。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。ツイッターアカウント:@BeijingPalmer

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(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 「人間は完璧ではない、間違う」ということが国際政治の大前提である。国際関係論という学問分野の一大学派、潮流であるリアリズムはそのように考える。これを前提にして、国際関係、世界政治を分析する。リアリズムを信奉する学者がどのようにウクライナ戦争を分析するかという内容の記事をご紹介する。分析者はリアリズムの大家スティーヴン・M・ウォルト教授である。

 まず、関わる各国の指導者たちは「計算間違い(miscalculation)」をしたということである。プーティンはウクライナに対して早期に目標を達成できると考えていた。キエフを占領して、ウクライナの体制を変更し、NATO加盟阻止、中立化できると考えていた。しかし、それはうまくいかなかった。それでもウクライナ東部保守という再設定された目標は達成されつつある。一方、西側諸国はウクライナとNATOを玩(もてあそ)び、ロシアを挑発し、刺激し続けた。「これくらいなら大丈夫だろう」という西側の甘い分析評価が今回の事態を招いたということになるだろう。そういう点で、計算間違いが引き起こした悲劇ということになる。

 人間は一度思い込んだらそれを変えることは難しい。そして、自制が利かずに過激な主張が幅を利かせることになる。ウクライナ戦争が始まって、私は2月中には「早期停戦」を主張した。しかし、多くの人々は、勇ましい言葉でロシアを非難し、ロシアの体制崩壊までやるんだということを叫び続けた。そうした人々は今でもウクライナをできる限り支援しているのだろうか。口だけでお前ら頑張れと言うのではあまりに無責任だ。

簡単に戦うとか戦争だという人たちこそ「平和ボケ」だと私は考える。本当に真剣に考えていたら、戦争だの戦うだという言葉を簡単に口に出すことはできない。戦場の苛烈さ、過酷さは、リアルな戦争映画なんかで見るよりも、更に厳しいものだということは想像できる。平和な日本にいて、想像力も働かない中で、安易に戦争だという言葉を口にすることこそは平和ボケである。勇ましい言葉が出てくることこそ警戒しなければならない。そのような言葉を口にする人間ほど、最前線には行かないし、自分を危険に晒すことはない。特に政治家でそのような人物は要注意である。

 世界政治は人間がやることだから間違いがあっても仕方がないが、間違いによって人々が受けてしまう被害は大きなものとなってしまう。従って、常に慎重にかつ間違ったと思ったらすぐに修正できるように動くべきである。自分たちの理想や価値観だけで暴走してしまうとそのような柔軟な動きはできない。こうしたことは私たち自身の生活にも適用できる教訓だ。

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ウクライナ戦争1年から得られる5つの教訓(The Top 5 Lessons From Year One of Ukraine’s War

-ヨーロッパにおける野蛮な戦いは厳しいが、教訓を与えてくれる教師である

スティーヴン・M・ウォルト筆
2023年2月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/02/09/the-top-five-lessons-from-year-one-of-ukraines-war/

2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、両軍はそれぞれ10万人以上の死傷者を出し、戦車などの装甲車も数千台失われた。ウクライナの経済はおよそ30%縮小し、人口の30%以上が避難を余儀なくされている。インフラは破壊され、発電能力の40%が損なわれている。どちらかといえば、モスクワ、キエフ、そしてウクライナの西側支援者たちは、妥協(compromise)を許さず、停戦(cease-fire)を検討する気さえないようである。

戦争は、厳しいが教訓を与えてくれる教師だ。ここでは、ウクライナにおける1年間の戦争から、世界中の指導者と国民が学ぶべき5つの教訓を紹介する。

教訓その1:指導者たちは簡単に計算間違いする(It is very easy for leaders to miscalculate

私が昨年末に書いた通りになっている。ウラジミール・プーティン大統領は、「ウクライナに本格的な抵抗はできないし、抵抗しても無駄だ」と考えていたことは今や明らかである。ロシアの軍事力、ウクライナの粘り強さ(tenacity)、そしてロシアに代替するエネルギー源を見つける西ヨーロッパの能力を見誤っていた。しかし、西側諸国にも間違いがあった。何年も戦争の可能性を軽視し、経済制裁(economic sanctions)の威力を誇張し、ウクライナを自国の軌道に乗せようとする西側の努力に対するロシアの反発の深さを過小評価した。この事例では(他の多くの事例と同様)、実際の戦闘が始まるずっと前から、戦場の霧(fog of war、訳者註戦争における不確定要素)が私たちの視界を覆い隠していた。

教訓その2:国家は侵略に対して団結する(States unite to counter aggression

ウクライナ戦争はまた、国際システムの中で国家は通常、明白な侵略行為に反対するために団結することを思い起こさせる。これもプーティンが見落とした教訓である。それは、プーティンは、ウクライナがすぐに陥落すると考えていたことに加え、NATOがこれほど強力に反応することはないと考えていたようだ。ロシアは、弱い相手と1対1で戦うのではなく、GDPがロシアの約20倍もある国家連合に支えられた国を相手に戦争を仕掛けている。その国家連合は、世界で最も洗練された兵器を生産し、ロシアのエネルギー供給から自らを切り離し始めている。後述するように、外部からの支援によってウクライナの勝利が約束される訳ではない。しかし、プーティンが楽勝(cakewalk)だと考えていたことが、長引く不確実な苦難に変わってしまった。この戦争が最終的にどのような結末を迎えるにせよ、ロシアは将来的に大いに弱体化することになる。

国家が侵略者に対してバランスを取って対峙するのは、征服に成功した者がさらなる挑戦をすることを心配するからだ。このような懸念は時に誤りだ。つまり、修正主義的な国家は、自分たちが満足するように現状を変化させれば、満足することができる。しかし、他の国家は、少なくとも当初はこのことを確信できないので、さらなる問題を抑止するために、あるいは抑止が失敗した場合にそれを打ち負かすために、力を合わせる。この傾向は、スウェーデンとフィンランドが数十年(スウェーデンの場合は数百年)の中立を捨ててNATO加盟を目指したことほど明確なものはないだろう。現在支配していない領土の奪取を望む世界の指導者たちは、注意を払う必要がある。露骨な侵略行為は、他の強力な国家を敵に回すことになりかねない。もしそうなれば、軍事作戦が成功しても、侵略者は以前より安全でなくなる可能性がある。

教訓その3:終わりが来るまでは終わりではない[諦めればそれで終わり]It ain’t over till it’s over

アメリカ人は、戦争とは衝撃と畏怖(shock and awe)に満ちた短期間の発作(brief spasm)であり、戦争終了後、勲章が授与され、勝利のパレードが行われるものだと考えたがる。アメリカの最近の対戦相手が三流国であり、それぞれの戦争の初期軍事段階が短くて一方的であったことを考えれば、この傾向は驚くにはあたらない。イラクとアフガニスタンの戦争は結局何年も続いたが、それはアメリカがそれぞれの国を占領し、広範囲に及ぶ政治・社会改革を行うことを選んだからに他ならない。その結果、強力な反乱軍が発生し、許容できるコストで相手を倒すことができなくなった。

ウクライナの戦争は違う。ロシアの最初の攻撃は阻止され、キエフでの迅速な政権交代という目標も達成できなかった。12カ月を経た今も、2つの主権国家の通常戦力が戦場でしのぎを削り、相手側に圧力をかける新しい方法を模索している。何度か運命を変えながらも、両者ともノックアウトの一撃を与えることはできていない。

プーティンは、戦争が短時間で安く済むと誤解していた。ロシアによるキエフへの最初の攻撃が失敗し、ロシア軍が大きな損害を被ったとき、ウクライナとその支援者は、外部からの寛大な援助、ウクライナの決意、大規模な経済制裁によってロシアに決定的な敗北を与え、大国の仲間入りをさせることもできると考えた。昨年夏から始まった反撃の成功は、クリミアを含む全ての領土を取り戻すというキエフの希望を強くした。モスクワでの政権交代を夢見る専門家たちもいる。

しかし、ロシアはウクライナの3倍以上の人口、大規模な軍需産業、軍備を有する大国である。その指導者たちは、この戦争をロシアが勝たなければならない存立危機事態戦争(an existential conflict)と見なしている。ウクライナの都市やインフラに対するミサイルやドローンによる攻撃は、かなりの損害を与えている。消耗戦(grinding war of attrition)はウクライナに有利ではない。それゆえ、最近、ウクライナは戦車を含むより多くの武器と訓練を受けることを急いでいる。外部からの支援により、春にはキエフが戦線を維持し、限定的な利益を得ることができるかもしれないが、現在支配している全ての領域からロシアを追い出すことは、いくら支援を送っても不可能かもしれない。また、核兵器の使用を含むエスカレーションの可能性もあり、この危険性を否定する識者もいるが、完全に排除することはできない。

教訓その4:戦争は過激主義者たちを力づけ妥協が難しくなる(War empowers extremists and makes compromise harder

戦争は利害関係の度合いが大きいため、冷静な理性と慎重な計算(cool reasoning and careful calculation)が特に重視されるべき時である。しかし、残念ながら、その代わりに、威勢のいい言葉(bluster)、希望的観測(wishful thinking)、道徳的な姿勢(moral posturing)、愛国的な大見得(patriotic chest-thumping)、集団思考(groupthink)が支配し、強硬な意見がより冷静な声をかき消してしまうことがしばしばある。その結果、たとえどちらの側にも勝利への明確な道筋がない場合でも、あらゆる種類の妥協(compromise)について議論することが難しくなる。戦争がなかなか終わらない理由はこれだけではないが、重要な理由の1つとなる。

数カ月前に詳述したように、ウクライナをめぐる一般市民の議論は、非常に激しいものとなっている。タカ派の専門家たちは、キエフへの支持を表明することで互いにしのぎを削り、別の視点については、甘さ、不道徳、親ロシア、あるいはそれ以上のものと中傷する。(反対側(ロシア側)でも同じようなことが起きているのかもしれない。つまり、戦争に関するロシアのコメントから信頼できる推論を導くのは難しいが、プーティンの最も声高なロシア人批判者は、プーティンが十分な勢いと冷酷さをもって戦争を遂行しなかったと非難する強硬派が多いようである。

ウクライナの熱烈な支持者が正しく、キエフの全領土解放のために西側諸国は「必要なことは何でもする(whatever it takes)」べきだということはあり得る。しかし、政治外交雑誌『アトランティック』誌やア大西洋評議会に属するタカ派の人々(東ヨーロッパの率直な政治家は言うに及ばず)は、自分たちが間違っているかもしれないと自問したことがあるのだろうかと私は考えてしまう。戦争を長引かせることが、ウクライナにとってより悪い結果をもたらす可能性はないのだろうか。この点については、かなり気になる歴史がある。ヴェトナム、イラク、アフガニスタンでは、現地軍に対する外部からの手厚い支援が戦争を継続させたが、アメリカが最終的に勝利は不可能と判断して帰国した時に、これらの国がより良い状態になることはなかった。確かに、アメリカとNATOの軍隊はウクライナで戦ってはいないが、私たちはこのゲームに多くの利害関係を持っている。平和(peace)や停戦(cease-fire)はまだ先のことかもしれないが、それをどうやって止めるかを考えることは、全ての人にとって、特にウクライナにとって利益となる。

教訓その5:自制の戦略は、戦争のリスクを減らすことができただろう(A strategy of restraint would have reduced the risk of war

最後の教訓は、間違いなく最も重要なことだが、アメリカが外交政策上の自制戦略(strategy of foreign-policy restraint)を採用していれば、この戦争の可能性ははるかに低くなっていたであろうということだ。もしアメリカや西側の政策立案者たちが、ウクライナを西側の安全保障や経済制度に取り込もうとするのではなく、無制限のNATO拡大がもたらす結果についての度重なる警告(ジョージ・F・ケナン、超党派の経験豊富な専門家からなる幅広いグループ、同様の著名外交官や防衛当局者からなるこのグループ、元駐露大使でもあるCIA長官ウィリアム・バーンズの助言など)に従っていれば、ロシアの侵略意欲は大きく減じたはずだ。残虐で違法な戦争を始めた第一の責任はプーティンにあるが、バイデン政権とその前任者たちにも罪はないわけではない。ウクライナの人々は、プーティンの冷酷さだけでなく、欧米諸国の当局者たちの傲慢さ(hubris)と甘さ(naivete)にも苦しんでいる。

ボーナスの教訓:指導者が問題だ(当たり前のことだが)(Leaders matter (duh)

大きな構造的な力(structural forces)を重要視するリアリストたちでも、個々のリーダーが重要な場合もあると認識している。それもかなり重要だと認識している。NATOの拡大(特にウクライナへの拡大の可能性)に反対する声はロシアのエリートの間で広まっていたが、ロシアの指導者がプーティン以外の人物であれば、1年前に「戦争に賭ける(roll the iron dice of war)」ことを選ばなかったかもしれない。また、より想像力に富み、独断的でない米大統領であれば、迫り来る危機を沸点に達する前に和らげるために、もっと多くのことを行ったかもしれない。次に、もしウクライナの大統領がヴォロディミール・ゼレンスキーではなく、ペトロ・ポロシェンコだったら、この戦争はどうなっていたかを考えてみよう。ポロシェンコは、ゼレンスキーのように国民をまとめ、外部からの支持を得ることができただろうか? そうは思えない。あるいは、ジョー・バイデンの代わりにドナルド・トランプがホワイトハウスにいたとしたらどうだろう?

構造的な力は、国家ができることを制約するが、それだけで結果が決まる訳ではない。国家指導者は、直面する状況をどのように乗り切るか、できる限り自由に決定できる限り、主体性をもっている。そして、その選択には最終的な責任がある。この事実を踏まえ、モスクワ、キエフ、ワシントン、ブリュッセル、ベルリンなどで現在指揮を執っている人々は、教訓その3(「終わるまで終わらない(It ain’t over till it’s over」」)、とりわけジョージ・W・ブッシュ(「任務完了(Mission Accomplished)」)の運命に特に注意を払うべきである。この戦争はまだ終わっていない。今日、大胆で効果的なリーダーシップ(あるいは無能な不正行為)として見られるものも、銃声が静まり、最終的な費用が集計されれば、多少違って見えるかもしれない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2022年の世界規模の大きな課題は、中国と台湾とアメリカの関係とウクライナとロシアの関係であった。これらについては2021年の段階で既に火種がまかれていた。アメリカでジョー・バイデン政権が発足し、アメリカは対ロシア、対中国で強硬姿勢を鮮明にした。サイバー上でロシアと中国がアメリカに攻撃を加えているので、サイバー安全保障を早急に整えねばならないということをバイデン政権は述べていた。私はバイデン政権の動きから、中露両国とアメリカの間でサイバー上において激しい戦いがあると考え、拙著『』(秀和システム)を書いた。

 しかし、実際には人々の死と大規模な破壊を伴う戦争が起きた。ウクライナは欧米諸国(NATO)の対ロシア最前線であった。欧米諸国はウクライナに中途半端に強力な軍事支援を行ってロシアを挑発した。ロシアという国は敵対する勢力と直接国境を接することを極度に怖がるという習性をもっている。これは歴史的に見ても明らかだ。だから、ロシア本国の周りに緩衝国(buffer state)をつくってきた。

冷戦の終結で、ロシアは身ぐるみをはがされて裸にされた形になり、「冷戦に勝った、勝った」と浮かれた欧米諸国はロシアを馬鹿にするだけ馬鹿にして悦に入っていた。それでも旧ソ連時代からのロシア軍の実力を恐れ、何とか封じ込めようとしてきた。東欧まではロシアもまだ我慢した。しかそ、ウクライナと春と話は別だ。ウクライナが中立でなければロシアの南部国境は危うくなる、黒海周辺でのバランスが大きく変わるということになった。

 ジョー・バイデンがバラク・オバマ政権時代に副大統領としてウクライナを私物化し、軍事支援などを積極的に行ってきたことも今から考えれば、ロシアにしてみれば「バイデンが大統領になったらどういうことになるか分からない」という懸念を強めることになっただろう。国務省次官にヴィクトリア・ヌーランドを起用したこともその懸念に拍車をかけたことだろう。結果として、ロシアは誘い込まれるようにして、ウクライナに侵攻した。欧米諸国がロシアの懸念を理解し、ウクライナの中立化(欧米並みの機能する民主政治体制[ネオナチが排除され、汚職や腐敗が撲滅されたもの]ではあるが軍事力は限定的)を進めていれば世界は不幸にならなかった(軍事産業は不幸だっただろうが)。

 中国と台湾の関係はそのまま中国とアメリカの関係ということになる。「ウクライナの次は台湾だ。中国が台湾を攻める」というスローガンが2022年前半にはやかましかった。しかし、その後は静かになった。そもそもアメリカは中国と本気で事を構えることはしたくない。

ウクライナ戦争でアメリカ軍将兵の生命を損耗することなく、武器だけはじゃんじゃん送ってウクライナ人が命を落としながら、武器を大量消費して軍事産業がウハウハという状態になっているが、アメリカ軍自体の武器貯蔵が減ってきて、生産が追い付かないで困っているという状態である。ウクライナ戦争が終わって、武器の貯蔵が回復するまでは、まず中国軍と戦うことはできない。「アメリカ軍が本気で台湾のために戦ってくれない」ということを台湾の人々は良く認識するようになっているので、「アメリカから煽って火をつけないで欲しい」と窘められる始末だ。

2021年の段階で米中関係、中台関係は戦争まで行かないという予想が大半でそれは当たった。ウクライナ戦争については戦争が起きるだろうか、その目的と地域は限定的で、ロシア系住民の保護のためにウクライナ東部に集中するという予測がなされていたが、それははずれる格好になった。

今年に入ってもウクライナ戦争は継続されてもうすぐ1年ということになる。焦点は停戦合意に向けた話し合いになると私は考える。バイデン大統領が仲介をする形になるだろうが、ウクライナが素直に言うことを聞くだろうかという不安がある。バイデンは再選を控えている。

そうした中で、バイデンのバカ息子であるハンターのウクライナとの関係で、ウクライナ側が何か新事実を出すとか、ハンターと汚職企業の関係を調査するとかと言うことになると再選に響く。そうしたことを行わないことを条件にして支援を続けるように、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が交渉する(脅す)ことくらいはやりかねない。困ったバイデンの選択はゼレンスキーの排除ということになる。飛行機事故でもヘリコプター事故でも交通事故でも反感を持つに至った側近による暗殺でも、アメリカのCIAがこれまでやってきたオプションから選ぶだけで良い。

属国の指導者の運命とははかないものである。それを私たちは昨年まざまざと見せつけられた。そして、国際政治は非情なものである。

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過去を見返すことで2023年に向けて未来を見通す(Looking Ahead to 2023 by Looking Back

-昨年の外交政策の中で今年の外交政策について教えてくれることが可能なものとは。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2023年1月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/04/looking-ahead-to-2023-by-looking-back/

2023年に入る前に、2022年が私の予想通りであったかどうか、振り返ってみることにした。2021年の最後のコラムで、私は「バイデンの2022年外交政策やること(To-Do)リスト」を紹介した。何が正しくて、何が間違っていたのか、そしてバイデン政権はどの程度の成果を上げたのか?

(1)中国と台湾。私の最初の予想は、「2022年に台湾をめぐる深刻な危機や軍事的対立は起きないだろう」であったが、これは正しかった。2022年8月にナンシー・ペロシ前連邦下院議長が無思慮に台湾を訪問したため、若干緊張が高まったが、冷静さ(cooler heads)が勝り、その後、北京とワシントンの双方が当面の温度を下げることを決定した。北京もワシントンも忙しいのだから、この判断は驚くには当たらない。少なくとも今のところ、ジョー・バイデン政権は中国に対する宣戦布告をせずに済んでいるように見えるが、この作戦が成功するかどうかはまだ分からない。アジア(およびヨーロッパ)の同盟諸国は、先端チップ技術の輸出規制や政権の広範な経済計画の保護主義的要素に不満を持っており、これは中国にとって好機となる可能性がある。私は、2023年に東アジアが平和になることを確信している。

(2)ウクライナ。この件に関しては、一部ではあるが、私は間違っていた。2021年12月下旬の記事で、私は、ロシアは侵攻しないと予想した。しかし、100%の確信があったのではなく、もしモスクワが侵攻してきたとしても、ドンバス地方を中心とした「限定的な目標(limited aims)」の侵攻であり、グルジアと同じような「凍結された紛争(frozen conflict)」になる可能性が高いと予想すると私は述べている。私はなぜそう考えたか? 限定的な作戦であれば、「西側からの強力で統一的な反応を引き起こす可能性が低い」からである。限定的な侵略は、ジョー・バイデン大統領とNATOを「勝ち目のない」状況(“no-win” situation)に追い込むことにもなる。「アメリカから遠く離れ、ロシアのすぐ隣にある地域で銃撃戦を行う意図をアメリカは持たないからだ。ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、大規模な侵攻はウクライナの激しい抵抗を引き起こし、「モスクワには到底払えないような費用のかかる痛み」を生じさせることを理解していると私は考えた。

プーティンはロシアの軍事力を過大評価し、ウクライナの軍事力を過小評価し、侵攻に踏み切ったことは私たちが全員知っていることだ。また、ロシアの当初の目的はドンバス地方に限られたものではなかった。しかし、私はロシアの行動がウクライナの激しい抵抗を招き、欧米諸国が「強力で統一された(strong and unified)」反応を示すと考えたがこれは正しいかった。しかし私は見誤った。それ以来、バイデン政権は、ロシアの自信過剰、度重なるロシアの失態、活発で創造的かつ英雄的なウクライナの抵抗に少なからず助けられながら、かなりの戦術的技術で西側諸国の対応を主導してきた。このバイデンの任務は、私の予想とは異なる結果となったが、戦闘が始まってからの彼と彼のティームの総合的なパフォーマンスは高く評価できる。

しかし、前途に見えているのは厳しい状況である。戦争はまだ終わっておらず、バイデン政権、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領が率いる政府、そして他のNATO諸国にとって、2023年は昨年以上に困難な年になると私は危惧している。ロシアによるウクライナのインフラへの攻撃は甚大な被害をもたらしてはいるが、その規模と人口からして、キエフが外部から支援を受けられる限り、消耗戦(war of attrition)が続くが、戦争状態は継続する可能性がある。私が「可能性がある」と言うのは、双方の実損害、予備戦力、将来にわたる戦力維持能力について、公表されている情報だけで信頼できる情報を分析することは困難だからである。ロシアもウクライナも妥協(compromise)しようとする様子がなく、双方が本気で望んでいたとしても、実行可能な取引(workable deal)を考案するのは難しいだろう。ウクライナの戦場での成功は今年も難しいだろう。膠着状態(stalemate)が長引くと、「欧米諸国の支援を強化し、ウクライナがロシアに直接戦いを挑むことを求める」という意見もあれば、「停戦を促すべきだ」とする意見も出てくるはずだ。どちらが勝つかは分からないが、来年もバイデンの話題はウクライナに集中することは間違いない。そして、戦争が長引けば長引くほど、傍観者であり続けた国々(中国、インドなど)が大きな受益者となるであろう。

(3)イスラエルとイラン。2021年、私はバイデンがイランに対する軍事行動への新たな圧力に直面する可能性があると警告した。2022年には、この問題は全く沸騰することはなかった。しかし、ベンジャミン・ネタニヤフがイスラエル首相に返り咲き、イスラエル史上最も右派的な政権を率いている。イランの核開発を制限する新たな合意に達する可能性は、今や夢物語のように思われる。ドナルド・トランプ前大統領は、当初の協定から離脱するという愚かな決断を下したため、テヘランは包括的共同行動計画が有効であったときよりもはるかに爆弾に近づいている。イランの現在の指導部は、新しい制限の交渉よりも、さらに高濃縮ウランの備蓄と核インフラの強化に関心があるようである。イランはウクライナに対抗するためにロシアに無人機(ドローン)を提供することを望んでいるため、この方面での外交的進展はさらに望めなくなった。ネタニヤフ首相はすでに、イランの核開発を阻止することが外交政策の最重要目標の1つであると語っており、それはバイデン政権がより積極的な行動を支持するよう後押しすることを意味する。中東での戦争は、おそらくバイデン大統領とアントニー・ブリンケン米国務長官が今一番望んでいないことだろうが、だからといってネタニヤフ首相とアメリカ国内の彼の同盟者たちが自分たちの主張を押し通すのを止めることはないだろう。何度も何度も繰り返し主張し続けるだろう。

一方、イスラエルの新内閣が占領地におけるイスラエルの不当な制度を深化させることを明確に約束したことは、既に進歩的な人々の間に警鐘を鳴らし、アメリカ国内のイスラエルの支持者の一部からは手厳しい声が上がっている。アメリカは、イスラエルの政策に「懸念(concern)」を表明し、「二国間解決(two-state solution)」という死語のようなお決まりの呪文を唱える以上のことを期待しない方がいい。ネタニヤフ新政権が何を決定しようとも、パレスチナ人の権利を擁護するとか、アメリカがイスラエル支援を縮小するとかと考える人間はネタニヤフ政権にはいない。このような状況は、バイデン政権の民主政治体制と人権に対する美辞麗句と実際の行動との間のギャップを更に露呈することになる。しかし、中東を相手にする場合、このような偽善は目新しいものではない。

(4)信頼性に関する懸念は続く。予想コラムで、私はバイデンには信頼性の問題があると述べた。それは、アフガニスタンからの撤退という彼の正しい決断をしたからではなく、アメリカが世界的な公約を全て果たすことは不可能であり、諸外国はトランプ流のアイソレイショニズム(isolationism)がいずれ再び勢いを増して戻ってくるかもしれないと懸念しているからである。良い点としては、ウクライナ問題への強力かつ効果的な対応と、バイデンがヨーロッパやアジアの伝統的な同盟諸国に働きかけを続けていることが、こうした懸念を一時的に和らげている。しかし、悪いことに、複数のより根本的な構造的問題が残っている。アジアのパートナーたちは、ウクライナが中国への対抗措置の妨げになることを懸念し、ヨーロッパは共和党内にトランプ主義がまだ残っていることを心配し、アメリカ国内のタカ派は、年間1兆ドルに迫る国防予算では米国の遠く離れたグローバルな公約を全て達成するためにはまだ十分でないと言い続けている。

皮肉なことに、アメリカの保護に対する信頼が多少低下しても、他国が自国を守るためにもっと努力するようになり、地域の安定にもっと関与するようになれば、それは有益なことであろう。したがって、バイデンの課題は、今後1年間、アメリカの同盟諸国に対し、もっと頑張るという公約を履行し、今日の決意を明日の能力に変えるよう説得することである。しかし、この目標は、世界的な不況下では、厳しいものとなる可能性がある。

(5)人道的危機(humanitarian crisis)が起きるか? 2021年、私は、人道的危機がどこで、どのような形で発生するかは分からないが、多く発生する可能性が高いと警告した。悲しいことに、これは事実であることが判明した。世界経済フォーラムの報告によると、現在、世界にはウクライナだけで790万人の難民(refugees)が発生し、国内の590万人が国内避難民となっている。ほぼ全ての大陸で悲劇が起こり、大規模な移民の流れ(アメリカ南部国境での危機継続も含む)を助長し続けている。バイデン政権はこれに対する具体的な答えを持っていない。救援物資(relief aid)を送ることしかない。他の誰も答えを持っていない。この問題が来年大幅に減少すると期待するのは、間抜けな楽観主義者だけだろう。この冬、ウクライナの電力網が完全に破壊されれば、本当に恐ろしい結果になる可能性がある。

(6)優先順位を決めそれを守る。2021年、私はバイデンの最後の課題は「最新の危機に巻き込まれないようにすること」だと提案した。その点では、既に手一杯だったという理由だけで、政権はまずまずの成果を上げたといえる。アメリカは今、同時に2つの大国に決定的な敗北をもたらそうとしていることを忘れてはならない。ウクライナがロシアに軍事的敗北を与えるのを助け、中国には先端技術の輸出規制、アメリカ半導体産業への補助金、台湾への軍事支援の強化、そしてアメリカの同盟諸国のほとんどをこれらの取り組みの背後に配置するキャンペーンを通じて、経済的に大きな敗北を与えようと試みている。これらはかなり野心的な目標であり、追加的な聖戦の余地はほとんどない。バイデンはまた、ロシアのウクライナ侵攻の後に、同様の重大な問題が発生しなかったという点で、幸運でもあった。野球選手の故レフティ・ゴメスの「善良であるよりも幸運である方がいい」という言葉には含蓄がある。バイデンの幸運が続くことを望むのみだ。

(7)国内での戦争。国内の機能不全(domestic dysfunction )について私が最も恐れていたことは現実化しなかった。2021年後半、インフレは上昇し、トランプは再出馬の準備を始め、ほぼ全員が中間選挙での「赤い波(red wave)」を予想し、連邦最高裁は、ほとんどのアメリカ人の意見と大きく対立する保守派に取り込まれ、中間選挙が選挙違反や選挙後の悪ふざけで汚されるのではないかという懸念が広がっていた。このような懸念は、私1人だけのものではなかった。私は、この腐敗を解決するには、大幅な憲法改正しかないとまで言い切った。

ここで、私の考えが間違っていることが証明されたことを喜んでいる。中間選挙は深刻な問題なく終了した。トランプの新しい選挙運動はまだ燃えておらず、法的問題は山積みで、彼が支援した候補者の多くは大敗した。共和党は連邦下院で過半数を僅差で獲得したが、連邦上院では過半数を獲得できず、連邦下院での民主党との僅差の議席差と党内の分裂により、大きな害を与える(あるいは大きな利益をもたらす)には限界があるかもしれない。インフレは徐々に抑制され、アメリカ経済は他の先進資本主義諸国を凌駕している。ジョージ・サントスやその他誰であろうとも、選挙やその他の政治的なふざけ合いが思い出させるように、アメリカはまだ危機を脱したとは言えない。しかし、焦土と化した(scorched-earth)政治を終わらせ、建設的で現実に基づいた党派間競争に戻ることを切望する人々は、昨年起こったことに勇気付けられるはずである。それでも心強くはあるが、満足はしていない。

そして、いつもになく明るい雰囲気の中で、私は皆さんにとって幸せな年となることを願っている。理想を言えば、より平和で豊かな年でありたいものだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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バイデン:アメリカはサイバー安全保障を改善するために「緊急的な」ステップを進んでいる(Biden: US taking ‘urgent’ steps to improve cybersecurity

マギー・ミラー筆

2021年2月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/cybersecurity/537436-biden-says-administration-launching-urgent-initiative-to-improve-nations/

ジョー・バイデン大統領は木曜日、ロシアと中国による悪意のある取り組みへの懸念を指摘し、政権が国家のサイバー安全保障(cybersecurity)を向上させるための「緊急イニシアチヴ(urgent initiative)」を開始すると述べた。

バイデン大統領は、国務省で行われた国家安全保障に関する演説の中で、「私たちは政府内でサイバー問題の地位を高めてきた。私たちは、サイバースペースにおける私たちの能力(capability)、即応性(readiness)、回復力(resilience)を向上させるための緊急イニシアチヴを立ち上げている」と述べた。

バイデン大統領は、サイバーと新興テクノロジー担当の国家安全保障問題担当大統領次席補佐官の新しいポジションの創設を含む、政権による進歩を指摘した。先月、国家安全保障局のサイバー安全保障局長を務めていたアン・ノイバーガーが同職に任命された。

バイデン大統領は、自身の政権が具体的に講じる他の措置について詳しく説明せず、ホワイトハウスは本誌が更なる詳細についてコメントを求めたが答えなかった。

バイデン大統領はこれまでにも、特に最近発覚したロシアによる IT グループ「ソーラーウィンズ(SolarWinds)」社への侵入事件に関するコメントを通じて、サイバー攻撃から国を守ることへの関与を強調しており、連邦政府の大部分に1年以上にわたって危険が及んでいたことを明らかにした。

バイデンは12月の講演で、このハッキングが「国家安全保障に対する重大な脅威(grave threat to national security)」であると述べ、更に同月下旬には、新たなリスクに対処するために国の防衛力を近代化(modernization of the nation’s defenses)することを要求した。

バイデン大統領はまた、1兆9000億ドルの新型コロナウイルス復興提案の一部として、100億ドル以上のサイバー安全保障と情報テクノロジーの資金を盛り込み、提案では国家のサイバー安全保障を「危機(crisis)」と形容している。

バイデン大統領は木曜日午後の演説で、ロシアと中国からの挑戦など、国際的なサイバー安全保障の懸念についても言及した。

バイデン大統領は特にロシアを取り上げ、就任後の最初の電話会談で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に対し、様々な干渉行為に対してバイデン政権が反撃することを強調した。

バイデンは、「私はプーティン大統領に、前任者とは全く異なる方法で、アメリカが攻撃的な行動、選挙への干渉、サイバー攻撃、市民の毒殺に直面する時代は終わったと明言した。私たちは、ロシアに対するコストを引き上げ、私たちの重要な利益と国民を守ることに躊躇しない」と述べた。

バイデン大統領はまた、自身の政権がロシアと中国の両政府と協力できることを望む一方で、彼が「我が国にとっての最も深刻な競争相手(our most serious competitor)」と形容した中国の責任も追及すると指摘した。

バイデンは「私たちは中国の経済的濫用に立ち向かい、人権、知的財産(intellectual property)、グローバルガバナンスに対する中国の攻撃を押し返すために、その攻撃的で強制的な行動に対抗するが、アメリカの利益になるときは北京と協力する用意がある」と述べた。

バイデン大統領のロシアに関する発言は、その日のうちに国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンがホワイトハウスで記者団に語った、選挙妨害やソーラーウィンズ事件のような大規模なハッキングなど、「行われた様々な悪質行為についてロシアの責任を問うための措置をとる」という発言に呼応したものだ。

サリヴァンは「そして、そのようなコストと結果を課すことが、今後のロシアの行動に影響を及ぼすと信じている。もちろん、そうではない。もちろんそうではない。しかし、ロシアの侵略や悪行に対して、より強固で効果的な一線を画すことができるようになると私たちは信じているのか? そのように信じている」と述べた。

ロシアはアメリカの各情報機関からも厳しく監視されており、バイデンは先月、選挙干渉やソーラーウィンズ社へのハッキングの影響などの問題について、ロシアの悪意ある取り組みを分析するよう命じた。

国土安全保障省(DHS)の元長官のグループは木曜日、バイデン大統領に対し、ロシアに対して強い姿勢を取るよう求め、ロシアがサイバースペースにおいて脅威を与え続けていることを強調した。

ジョージ・W・ブッシュ大統領に仕えたマイケル・チェルトフ前国土安全保障長官は、カリフォルニア大学バークレー校が主催したインターネット上のイヴェントで、ロシアに言及し、「次期バイデン政権の大きな問題の1つは、私たちは暴力に苦しむことなく、私たちの統一やシステムを破壊する努力に力強く対応するという非常に明確なメッセージを送ることであろう」と述べた。

バラク・オバマ政権時代の国土安全保障長官ジェイ・ジョンソンは、アメリカが過去1年間選挙の保護に固執していた一方で、ロシアのハッカーたちは、ソーラーウィンズ社へのハッキングを通じて別の方法で連邦政府を攻撃したと指摘し、外国の敵が干渉しうる様々な方法に焦点を当てる必要があることを強調した。

ジョンソンは「私が就任時に国土安全保障省の職員に伝えた考えは、前回の攻撃を想定するのではなく、次の攻撃を想定し、敵の次の動きを予測することだった」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 「ウクライナ戦争はアメリカ(とNATO加盟の西側諸国)の火遊びが引き起こした」「NATOの東側への拡大とウクライナの実質的なメンバー入りと軍備増強がロシアを刺激して戦争にまで発展した」というこれらの主張が説得力を持つようになっている。

 西側諸国がウクライナをおもちゃにして、対ロシア強硬姿勢の最前線としたことで、ウクライナの運命は決した。ウクライナは早晩ロシアと戦わされる運命になっていた。そのために傀儡として、ヴォロディミール・ゼレンスキーが大統領になり、アメリカや西側諸国から中途半端ではあるが、大規模な軍事支援が行われていた。「ロシアがどこで怒り出すか、一つ試してみようじゃないか」という西側諸国の指導者たちの火遊びの結果が、ウクライナ戦争という大火事である。

 アメリカは大火事になっても、自分で何とかしようとはしない。「ありゃ困ったな」という感じである。アメリカ軍を派遣してロシア軍をウクライナから追い出すことはしないし、重要な、ロシア軍を圧倒できるような武器を渡すこともしない。戦闘機を渡さないというのは、ウクライナ軍が制空権を取ることができないということになって、結果として有利に戦いを進めることができないということになる。

 アメリカはロシアが核兵器を使ってウクライナ国内を攻撃してくることを恐れている。第三次世界大戦が起きてしまうことを恐れている。そして、アメリカを「戦争当事国」に認定して核ミサイルでアメリカ本土を攻撃してくることを何よりも恐れている。「アメリカ国民の生命と財産を守る方がウクライナ防衛よりも大事だ」ということになる。

 ウクライナの運命は日本の運命である。「ウクライナの次は台湾だ」というスローガンは間違っている。「ウクライナの次は日本だ」ということの方がより正確だと私は考える。「ウクライナがロシアにぶつけられるように仕向けられた結果としてのウクライナ戦争」を敷衍するならば「日本が中国に仕向けられた結果としての日中戦争」ということになる。日本はウクライナのようになってはいけない。最近の自民党公明党連立政権(+与党補完勢力の日本維新の会)は、先制攻撃の容認と軍事予算の倍増を進めている。これは日中戦争の下準備ということになる。日本国民は騙されることなく、戦争に徹頭徹尾反対しなければならない。
 下記論稿に出てくるジョー・バイデン政権の外交政策分野のキーパーソンたちについては拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』を読んでいただくと理解が深まると思う。是非手に取って読んで欲しい。

(貼り付けはじめ)

バイデンのウクライナに関するソフトな泣き所(Biden’s Soft Underbelly on Ukraine

-バイデン政権は、プーティンを刺激して第三次世界大戦の危険を冒すことを恐れて、ウクライナに対してあまり手を貸さない口実になっている。

The Biden administration’s fear of provoking Putin and risking World War III has become an excuse to do less for Ukraine.

ダニエル・プレトカ筆

2022年10月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/12/biden-ukraine-support-putin-armageddon/

2022年の夏の終わり、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は、ジョー・バイデン政権が対ロシアでウクライナ支援を熱心に進めることを改めて宣言した。しかし、「大統領が提供する用意がないと言っている能力もある」とも断言した。その1つが射程300キロの長距離ミサイルだ。「アメリカの重要な目標はウクライナを支援し防衛することだが、もう1つの重要な目標は、第三次世界大戦への道を歩むような状況に陥らないようにすることだ」とサリヴァンは述べた。

数週間後、バイデン政権の「複数の高官」は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の盟友アレクサンドル・ドゥーギンの娘の殺人事件の調査結果を漏洩することに成功した。ダリア・ドゥギナは自動車爆弾で死亡した。ウクライナ政府関係者の一部は、この攻撃はキエフの「ナチス」に対する敵意をかき立てるためのクレムリン側の偽旗作戦(false flag operation)の可能性を示唆した。しかし、「複数のアメリカ政府高官」は、「攻撃はウクライナ人によるものだ」と主張し、「アメリカはこの攻撃に関与していない」と言い添えた。

この2つの出来事は、バイデン政権における厄介な底流(undercurrent)を裏付けている。ウクライナを完全に支援することへの躊躇(hesitation)、重要な兵器の遅配、そしてアメリカ大統領とそのスタッフが繰り返し第三次世界大戦の脅威と表現してきたものに対するほとんど病的な恐怖心などである。このような躊躇は、ウクライナにとってより多くの死者と勝利への道のりの遅れを意味すると米連邦議会の国家安全保障担当者は私に語っている。更に悪いことには、紛争が長引き、コストが上昇し続けた場合、ホワイトハウスはウクライナにモスクワとの交渉による和平を求め、例えば、キエフがクリミアを奪還する前に、あるいはもっと早く戦争を終わらせるように圧力をかけ始めるという深刻なリスクがあることを示唆している。

今年(2022年)の初めの頃はもっと希望に満ちていた。2月のロシア侵攻の数週間前、バイデン政権は、戦争を引き起こしたとしてウクライナを非難するロシアの計画、動き、陰謀に関する情報を狡猾に機密扱いで解除した。この心理作戦(psychological operations)は、冷戦時代の勢いを彷彿とさせる見事な振り付けで、バイデン政権の国家安全保障ティームは、これから起こるであろう事態に備え、本番に臨んでいることを約束するものであった。しかし、奇妙なことに、実際のところ、そうではなかった。

問題は侵攻発生前から明らかだった。2021年のウクライナとの国境でのロシアの軍備増強(最終的に2022年の侵攻に使われる装備の準備)する一方で、バイデン政権は6000万ドルのアメリカ軍の軍備縮小(ミリタリー・ドローダウンズ、military drawdowns)を取り止めた。ドローダウンズはアメリカ政府が既存の軍備貯蔵から軍備品を輸出することを認めるものだ。サリヴァンは、取り止めを否定した後、「ロシアがウクライナに更に侵攻する場合」には、ドローダウンズを許可すると認めた。そして、2021年8月にようやく承認された。2021年9月のウクライナ大統領ヴォロディミール・ゼレンスキーのワシントン訪問のための決定であったと考えられる。

秋までに、バイデン政権は以前のように、ロシアを刺激するとして、スティンガー・ミサイルの納入を阻止した。2021年12月には、2億ドルの供与が阻止された。12月末には、バルト諸国がウクライナにジャベリンとスティンガーを提供する承認を留保した。

2022年1月までに、バイデン政権は、政権内部のある方面(国防総省と聞いた)から出た「ロシアを怒らせるな(don’t anger Russia)」というシナリオを完全に信じ込み、東ヨーロッパでの戦力削減を考えていた。翌2月には戦争が始まり、ウクライナへの情報共有や軍事支援は、ホワイトハウスの弁護士たちが、アメリカを戦争の当事者(party to the war)にしかねないと主張し、議論されることになった。

2022年3月、バイデンはポーランドからウクライナへのMiG-29戦闘機の移送を阻止した(ウクライナには現在でも十分な航空戦力がない)。2022年6月、数ヶ月の遅れの後、バイデン政権は画期的な高機動砲ロケットシステム(ハイマース、HIMARS)を納入したが、米国防総省がアメリカの備蓄をさらに枯渇させることに難色を示したため、わずか16台しか納入しなかった。先週、米国防総省は2年以内にさらに18基のハイマースを納入すると発表した。

ホワイトハウスがロシアとの心理戦(mind games)で見せた戦略的技術(strategic skills)とはほど遠く、ウクライナの軍事防衛の驚くべきサクセスストーリーの各章は、もめごとに満ちている。ホワイトハウスはなぜか先のことを考えず、アメリカの在庫や予算が要求するよりもゆっくりと軍備を縮小し(連邦上下両院の軍事委員会の民主・共和両党の怒りを買った)、20億ドル以上の縮小権限を失効するまで放置している。

実際のところ、ウクライナ軍が米国防総省の期待(決して高くない)を超えるような行動を取る場合、ホワイトハウスは次の段階に進むために説得(persuasion)と口うるさい対応を要求してきた。一歩前進する度に、今度はやりすぎだと手をこまねいているうちに、慎重さ(prudence)が麻痺してしまったのだ。

バイデン政権の擁護者たちは、NATO諸国の中でウクライナに支援を約束しているのはアメリカだけであり、ドイツのオラフ・ショルツ首相の不安定な関与と比較するとバイデン政権は積極的な軍事主義者(positively militant)に見えると主張している。しかし、常に臆病なヨーロッパ諸国とアメリカを並べることは問題ではない。むしろ、ウクライナのためにアメリカができることと、バイデン政権が実際に行っていることを比較する時にこそ、疑問が生じるのである。

バイデン政権の国家安全保障ティームによる答えは、第三次世界大戦(World War III)の見通し、あるいはバイデン大統領が最近民主党の資金調達パーティーで「ハルマゲドン(armageddon)」と表現したものである。ホワイトハウスと国防総省の高官たちは、核兵器のシナリオが「あり得る(probable)」とは考えていないことを強調している。それでも、マスコミはサリヴァンやコリン・カール米国防次官など政府高官たちの言葉を引用して、エスカレーションを懸念する声で一杯だ。しかし、なぜなのか? 世界大戦は本当に起こるのだろうか? プーティンの核の脅威(nuclear threats)は現実的なものか? それとも、「ハルマゲドン」や「第三次世界大戦」は、ホワイトハウスがウクライナの全面的な防衛を避けるために抱えている詭弁を弄する論客たち(straw men)なのだろうか?

アメリカ大統領の最重要の仕事は、アメリカ国民の安全と安心(safety and security)を守ることである。バイデンは、最悪のシナリオを考え、それが実現してしまうことを避けることが正しい。プーティンの脅しに耳を傾け、それを真剣に扱うのは正しい。しかし、ロシア軍がフルダ・ギャップ(Fulda Gap、訳者註:ヘッセンとフランクフルトの間にある地域)から押し寄せるどころか、実質的にロシア軍よりも小規模なウクライナ軍を打ち負かすことができないのはもはや明白になっている。

プーティンは、潜水艦に搭載したミサイルを使ってウクライナに戦術核攻撃を行う可能性があるだろうか? その可能性はあるだろう。しかし、アメリカや他のNATOの同盟諸国に対してはどうだろうか? なぜその可能性はないと言えるだろうか? それは非合理的なだけでなく、非常識な破壊行為であるからだ。最も平和主義的な指導者でさえもロシアに対応して攻撃せざるを得ないことになるだろう。

しかしながら、このような最悪の事態を想定した夢物語(worst-case fever dreams)は、終末(apocalypse)を明確に予見しているというよりも、バイデン政権がクレムリンを「刺激(provoking)」することを恐れ、ウクライナに対してあまり手を出さない理由の1つになっているように思われることが多くなってきた。そして、この仮定(supposition)の真実性を疑うに足る十分な歴史がある。

バイデンの現在の国家安全保障ティームのメンバーの多くは、バラク・オバマ政権でその地位を確立した。サリヴァンは当時のバイデン副大統領の国家安全保障問題担当副大統領補佐官を務めた。アヴリル・ヘインズ国家情報長官は、オバマ大統領の下で国家安全保障問題担当大統領次席補佐官とCIA副長官を務めた。現国務長官のアントニー・ブリンケンは国務副長官を務めた。バイデン副大統領(当時)の補佐官を務めたサリヴァンの後を継いだのは、現在の国防次官(政策担当)であり、現在ではウクライナに関する重要な意思決定者であるコリン・カールである。ウクライナとロシアに関してオバマの安全保障ティームを支配していたのと同じ考え方が、現在バイデン政権を支配しているのは何ら不思議ではない。

クリミア半島のロシア併合をもたらし、2022年の戦争を予感させることになった、2014年のロシアのウクライナ侵攻の後、オバマ政権は、キエフと米連邦議会の両方からの嘆願をはねつけ、ウクライナに意味のある効果を持つ軍事支援をすることを拒否し続けるだけのことだった。2014年3月、アメリカ軍援助の最初の支援物資は、30万食の調理済み食品だった。ホワイトハウスは、「ウクライナ軍の力がロシア軍と同等まで引き上げられるシナリオはないだろう」として、ウクライナにとって「武力行使は望ましい選択肢ではない(use of force is not a preferred option)」と断言した。その後、2014年9月に暗視スコープと毛布が支援物資として提供された。

トランプ政権は、オバマ大統領のウクライナ向け重要装備の禁止を撤回したが、210基のジャベリンミサイルと37基のランチャーは、モスクワに対する「戦略的抑止力(strategic deterrent)」としてのみ使用し、箱に入れておくことが要求された。ドナルド・トランプ大統領も、バイデン一家に関する情報をゼレンスキーから提供されることを期待しながら、2ヶ月近く援助を遅らせた。

トランプ政権の逆転劇の余波を受けた後でさえも、発足したばかりのバイデン政権はウクライナへの子押下的な軍事援助を強化することに慎重であった。2022年2月の『ジ・アトランティック(The Atlantic)』への寄稿で、アレクサンダー・ヴィンドマン退役米陸軍中佐(悪名高いゼレンスキー・コールの件でトランプ時代のホワイトハウスを劇的に辞めた)は、バイデンを「プーティンにフリーハンドを与えた」と非難し、「パトリオット対空ミサイルやハープーン対艦ミサイルといった高度な兵器システムのウクライナへの提供を拒否したが、それはウクライナ軍がそれらを扱うほど高度ではないと判断したためだ」と述べている。そして、それは戦争が始まる前のことである。

共和党が連邦下院(そしておそらく連邦上院も)で過半数を獲得する可能性があるため、更に複雑な事態が予想される。共和党の幹部の多くがホワイトハウスにウクライナへの武器供与のスピードと質を上げるよう求めている一方で、中間選挙後に更に増えるであろう少数派が、ウクライナのために使われる銃弾や予算に反対する声を上げることになるであろう。その少数派の中に、更に自制を主張する政権側のカウンターパートがいるのだろうか?

ウクライナ政策の方向性は、週ごと、月ごとの漸進主義(incrementalism)を除けば不明確である。しかし、バイデンのパターンは明確で、ウクライナへの武器供与のペースと質を上げ下げし、プーティンを怒らせる可能性のあるものを調整し、更に再調整している。そして、ウクライナでの戦術核攻撃に対するバイデンの恐怖(現実か政治ドラマの内容かは別として)が彼の想像力をさらに支配するにつれて、彼は虎を突っつくことについてより一層心配するようになる。

どの時点で、大統領の懸念は、ヘンリー・キッシンジャーのハイパーリアリズムな助言に従って、紛争を凍結し、交渉のテーブルにつくようキエフへの圧力を強めるように指示するだろうか? それは分からない。バイデンはどの時点で、ウクライナに対する戦後復興支援(既に数千億ドルと見積もられている)の見通しを活用し、完全勝利の前に戦争を終わらせるようウクライナに強制するようになるのだろうか? もしかしたら、バイデン大統領はそうしないかもしれない。

しかし、バイデンの国家安全保障ティームの歴史、資金援助と武器売却の証拠、そしてバイデン大統領自身のこれまで以上に困惑したレトリックは、オバマ時代のウクライナ政策の亡霊がますます大きくなり、ウクライナの自由勢力への支援がこれまで以上に制約されることを示唆している。

※ダニエル・プレトカ:アメリカンエンタープライズ研究所名誉上級研究員、ポドキャスト番組「一体全体何が起き居ているのか?(What the Hell is Going On?)」共同司会者。ツイッターアカウント:@dpletka

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 「アメリカは中国とロシアの間を引き離すように中国に働きかけるべきだ」という声が上がっている。現在、ウクライナ戦争を戦っているロシアに対して、中国は表立って支援を行ってはいない。しかし、中露両国間には正式な条約を結んでの同盟関係、相互防衛関係は存在しないが、中露間の関係は緊密になっている。中国の一帯一路計画や上海協力機構(SCO)にロシアは参加し、ユーラシア同盟としての関係を築いている。ロシアはヨーロッパ志向(思考)を捨て、ユーラシア国家として生きていくという道を選択した。

中国はウクライナとの関係も良好であり、中国初の空母「遼寧」は、ウクライナの空母「ワリヤーグ」(1988年竣工)を購入し、改造したものだ。正確に言えば、ソ連時代に建造した空母であるが、造船所がウクライナにあり、ソ連崩壊の混乱とウクライナの独立があり、造船所がウクライナに国有化されるなどしたため、ロシアとウクライナの間での交渉の結果として海外に売却するということになっていた。ウクライナは所有権を持っていただけのことで、建造したのは旧ソ連ということになる。

 中国とロシアの間は離れがたく見えるが、それでも相違点は存在する。中国は現在の国際秩序の中で、自由貿易体制の利点を利用して高度経済成長を達成している。国際秩序の急速な変更は望んでいない。短期的、中期的には現状維持を望んでいる。ロシアは冷戦時代にアメリカと世界を二分して渡り合った。その前にはロシア帝国としてヨーロッパで覇を競った。ソ連崩壊でロシアはプライドを傷つけられた。ロシア国民はプーティン大統領が国民生活を改善し、ロシア帝国を復活させてくれるということで支持している。ロシアは現状に対する挑戦国となっている。ここが中露両国間の相違点だ。

 アメリカは中国を潜在的な脅威として捉えていて、強硬な対中姿勢を取っている。そうなれば、中国としてはアメリカとバランスを取る必要が出てくるので、ロシアの接近を受け入れるということになる。

ドナルド・トランプ大統領時代に「ヤルタ2.0」という風刺写真が出たことがある。1945年のソ連のヤルタでの米ソ英3カ国の首脳会談(フランクリン・D・ルーズヴェルト米大統領、ヨシフ・スターリンソ連共産党書記長、ウィンストン・チャーチル英首相)で戦後世界の管理体制が決められた。

このことを受けて、ドナルド・トランプ米大統領、習近平中国国家主席、ウラジミール・プーティン露大統領の米中露三帝が世界を管理するという意図が風刺写真に込められている。米中露がうまく折り合いをつけてやっていれば、世界は平和だという意図もその写真には込められている。現在は、冷戦初期のような段階になっている。アメリカが中露に対して強硬な姿勢を取り、それぞれとの戦争の可能性も出てきて、世界は第三次世界大戦に近づいている。
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 中国がソ連と中国を離間させて、世界政治を動かしたのはリチャード・ニクソン大統領、ヘンリー・キッシンジャーの国務長官時代のことだ。この時代のことを懐かしみ、「アメリカは中国とロシアの間を引き離すべきだ」という主張が出ている。

 しかし、1970年代と現在では状況が大きく異なっている。アメリカの国力が衰退し、中国とソ連は国力を増大させている。中露は共にアメリカの衰退を待って、国際秩序の変更を行う(その規模やスピードには両国間で相違はあるが)、より露骨に言えば、西洋近代500年の支配を終わらせるという決意をしている。そして、それを西洋以外の新興の国々(the Rest)が支持している。中露は「ザ・レスト」の旗頭になっている。ここでアメリカに近づくことはもうできない。

 ジョー・バイデン政権ではなく、ドナルド・トランプ政権が続いていたら現在の状況はどうなっていただろうかということを考えることがある。そんなことを考えても仕方がない、詮無き事ではあるが、現在のような世界的に厳しい状況になっていなかったのではないかと考えてしまう。2024年にジョー・バイデンが米大統領に再選されることが世界に幸せをもたらすのかということも考えてしまうと、先行きはなかなか暗いと言うしかなくなる。

(貼り付けはじめ)

ワシントンは中国をロシアに対立させる機会を失いつつある(Washington Is Missing a Chance to Turn China Against Russia

-稀な状況で危機が重なったことで北京が軌道修正する可能性が出てきている。

ロバート・A・マニング、ユン・サン筆

2023年1月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/01/19/us-china-russia-ukraine-allies-war/?tpcc=recirc_latest062921

直感に反するかもしれないが、ロシアのウクライナ戦争、経済の低迷、反ゼロ新型コロナウイルスの反動、中国の習近平国家主席が一連の政策を撤回したこと、これらの出来事が中国に与える政治・経済的コストによって、ウクライナに関する米中協力のスペースを開く可能性がある。また、ウクライナ戦争が台湾への世界的な支持を集めていることも、北京にとって重荷になる可能性がある。

ウクライナ戦争が始まって以来、中国はロシアを言葉の上では支援し、NATOの行動を非難してきたが、モスクワを実質的に支援することを約束することは避けてきた。中露同盟は、西側諸国でよく見られるように、修正主義的な2つの独裁国家の間の単純なイデオロギー的共感ではない。むしろ、現実的でやや取引的な関係であり、アメリカは少なくとも特定の問題に関して、両者を引き離す機会を逸している可能性がある。

第一に、昨年9月に旧ソ連のカザフスタンを訪問した際、習近平は「断固として(resolutely)」カザフスタンの主権を支持すると約束し、モスクワをけん制(a snub to)した。そして、同じ9月の上海協力機構(Shanghai Cooperation OrganizationSCO)の会議で、ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ戦争をめぐる中国の「疑問と懸念(questions and concerns)」を前代未聞の形で公に認めた。2022年10月初旬、中国は国連安保理と総会の両方で、ロシアのドンバス併合を非難する投票に反対票を投じず、棄権(abstain)した。北京はまた、インドとともにウクライナ戦争の終結を訴えた。

これは、傷ついた西側諸国との傷ついた外交関係を修復しようとする試みと並行して行われた。ヨーロッパ連合(EU)当局者によれば、北京はNATOを非難する発言を止め、中国政府当局者たちが、中国はロシアの核使用を容認できないと考えていると語ったという。

中国は、「ウクライナの領土はどの範囲になるか」についてのロシアの解釈を支持する余地を十分に残しつつも、一貫してウクライナの「主権と領土保全(sovereignty and territorial integrity)」への支持を繰り返してきた。このような矛盾した、やりにくい努力を続けている。中国は侵略を正当化しているロシアを含む「当事者全て(all parties)」に自制(restraint)を呼びかけ、ウクライナの現在の状況に失望を表明してきた。それでも、 2022年2月 24日以前からウクライナとの強固な経済的および軍事的関係にもかかわらず、中国のメディアは親ロシアおよび反 NATO の偽情報を絶え間なく流しつつ、中国はウクライナに対してはわずか300万ドル程度の人道援助(humanitarian aid)しか提供していない。

ロシアと中国は、国際秩序が自由主義的民主政治体制家によって不当に支配されているという見解とアメリカの優位性(primacy of the United States)を共有することで結びついた。中露両国は自由主義的な国際秩序に対する地政学的な脅威(geopolitical threats)として認識されており、それは当然、欧米諸国、特にアメリカに対する中露両国が持つ脅威認識と同様だ。こうした地政学的な懸念の共有は、2014年、クリミア危機でロシアが孤立し、バラク・オバマ政権のアジアへの軸足転換(pivot to Asia)で、中国の周辺地域の安全保障環境に対する不安が強まりそして加速した。加えて、習近平の冷戦時代からのロシアへの親近感、絶対的政治指導者(strongman)としてのプーティンへの憧れが、中露の緊密な連携に対するトップリーダーのお墨付きをもう1つ与えることになった。

しかし、中国も他の国と同様、自国の利益を最優先しており、その利益はウクライナをめぐるモスクワの利益とますます乖離している。中国は、農業貿易、軍事技術協力、「一帯一路(Belt and Road)」社会資本(インフラ)整備プロジェクトなどで強固な関係を築いてきたロシアがウクライナに侵攻したことで、かなり困惑している。

プーティンがウクライナに侵攻した際、ウクライナには6000人以上の中国人が滞在していた。北京にはほとんど何の事前通報もなかったために、中国人の避難作戦を開始するために中国政府は東奔西走奔走させられることになった。中国政府は非公式に、避難民の一部が殺害されたことを認めている。このことは、プーティンが習近平に対して、戦争について知らされていなかったという中国当局者の主張を裏打ちしており、何が起こるかについてロシアは中国に対して正直ではなかったことを示唆している。プーティンは中国を、ロシアとの「無制限の(no-limits)」協力と、主権と領土保全に関する基本的な外交政策原則を選択的に、自分に都合が良い形で適用するプーティンとの間で、無駄な努力をする立場に追い込んだ。

プーティンのウクライナ戦争は、中国経済が困難な時期に、中国の経済的利益を直撃することになった。ウクライナ戦争による世界経済の混乱は、中国にとって最大の海外市場のいくつかに打撃を与えている。中国は問題を抱えた発展途上諸国への最大の資金の貸し出し者であるため、ウクライナ戦争と欧米諸国の制裁の影響でエネルギー、食糧、肥料の価格が上昇し、中国の融資返済の努力を複雑にしており、中国の巨額の債務問題を悪化させている。

ウクライナは北京が嫌うアメリカとの同盟関係を強化している。そして、次は自分たちだと恐れる旧ソ連諸国とロシアの関係を弱め、これらの国々がワシントンとの対話に関心を高めるように仕向けている。ウクライナ戦争の影響は、中国の大国としての外交政策の信頼性に疑問を投げかけている。プーティンがアメリカ主導の秩序を害する混乱を自らの利益と見なす破壊者(disrupter)であるのに対し、北京は中国の利益に有利なように世界の制度を再編成することに関心を持っている。この点は、米国の政策に織り込まれるべき、両国の間の重要な違いである。

特に、台湾問題に影響を与えている。岸田首相が「東アジアは明日のウクライナになるかもしれない(East Asia could be the Ukraine of tomorrow)」と言ったように、プーティンの戦争に対する西側諸国の反応と台湾へのアナロジー(類推)は、北京が今後の台北に対する行動を考える上で新たな要素を加えたことはほぼ間違いない。

ロシア経済への制裁が強まる中、中国が半導体などの重要なテクノロジーを提供するかどうかが1つの指標になるだろう。問題を抱えるジュニアパートナーとの協力関係を制限しているのは、中国がロシアと距離を置いていることを示すというよりも、巻き込まれての副次的な制裁を恐れてのことなのかもしれない。いずれにせよ、アメリカは、ウクライナに関する米中協力を可能にするのに十分な新しい機会が開かれるかもしれないという命題を検証することで失うものはほとんどない。

もしアメリカが、ウクライナに関するロシアと中国の見解の間の政治的空間が、米中間の慎重な協力のための新たな機会を開くほど広がっている可能性を見分けるのが遅くなっているが、それは初めてのこととは言えない。冷戦時代の反共産主義の影響力は、中ソが国境で短時間ながら激しい対立を繰り広げた時でさえ、アメリカが中ソの緊張を利用するのを複雑化し遅らせた。中ソの緊張は1950年代半ばにはアメリカの情報アナリストにとっては明白であったが、当時のリチャード・ニクソン米大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題大統領補佐官が中国との国交回復を利用し、この時代最大の戦略転換の1つを生み出したのは1971年になってからのことであった。

米国の近視眼(myopia)と確証バイアス(confirmation bias)は、中露両国を互いに接近させ、中国の対ウクライナ政策を過度に単純化することになる。中露同盟の宣言を額面通りに受け取ることで、アメリカは中露両国のそれぞれの国益とアプローチにおける重要な相違点を捉え損ねている。そこをうまく捉えればアメリカ外交のためのスペースを開く可能性が出てくる。

ウクライナ戦争初頭から、ワシントンは中国をロシアの共犯者として糾弾する「私は糾弾する(J'accuse[訳者註:フランスの作家エミール・ゾラがドレフェス事件で出した著作の書名]」を延々と繰り返してきた。プーティンの侵攻計画を中国が事前に知っていたというリークが何度も報道機関に流れたのは、やってもいない犯罪の責任を中国に負わせることが目的だった。プーティンが白紙委任(blank check)したロシアとの「無制限(no-limits)」の協力を進めた習近平は、確かに軽率であり賢明ではなかったと考えられる。しかし、北京の不可能に近いバランス行動、一種の親ロシア的な中立努力は、戦争への積極的参加とは決定的に異なる。

中国がロシアと経済的な関わりを継続していることは問題だが、インドやトルコ、そして南半球の多くの国々も同様である。北京はロシアへの石油・ガスプロジェクトやアジアインフラ投資銀行への融資を中止している。2022年7月までに、複数のアメリカ政府高官は、中国は、ロシアから制裁を科すという脅しを受けながらも、ロシアが制裁を逃れるのを助けず、モスクワの戦争行為に軍事支援をしなかったことを公然と認めている。

北京がロシアを非難したり、制裁を科したりすることを拒否していることは、もちろん道徳的に問題であり、政治的に役に立たないし、一貫して親ロシア的な国内メッセージも同様である。しかし、これは道徳的な問題であると同時に、実際的な問題でもある。

ワシントンは、中露同盟が確立され、揺るぎないものであるという前提で動いているが、現実には、より限定的な戦略的パートナーシップである。両国間には相互防衛に関する第5条のような協定は存在しない。

アメリカが公然と非難を繰り返したところで何の解決にもならない。アメリカとの戦略的競争が中国の対外関係における最も重要なテーマであり続ける限り、特に台湾をめぐる緊張が高まる中で、北京はアメリカに対抗するために必要なパートナーとしてモスクワを見るだろう。しかし、戦争が長引くにつれ、中国の風評被害と経済的コストは増大し、衰退しつつある戦略的資産との悪い取引と見なされつつあることから、いくつかの問題で北京を遠ざけることができるかもしれない。

アメリカは、中露両国の違いを緩和し、橋渡しするのではなく、中露両国間の断層(Sino-Russian fault lines)を探ろうとするはずである。2022年7月にアントニー・ブリンケン米国務長官が中国側に行ったような道徳的な嘆願は、変化をもたらすというよりも、中国のナショナリズムを煽る傾向がある。戦略的競争という文脈の中で、中国との協力や非干渉という戦術的転換(pivot)は、利害が重なったときに移行し、利害に利益をもたらし、おそらくわずかな信頼を再構築することができる。北京の計算を形成するために、ワシントンは単に懲罰的な行動だけでなく、相互の脆弱性(vulnerability)と懸念の分野を指摘する必要がある。

中国が制裁体制外でロシアに経済貢献することを抑止するためのアメリカの警告は聞き入れられそうにない。中国最高指導部序列第3位である栗戦書は、2022年9月にロシアを訪問した際、貿易、インフラ、エネルギーなどに関して、ロシアとの経済協力の強化を約束した。これは昨年(2022年)12月の習近平・プーティン間のズーム会談で更に確認された。北京の見解では、アメリカは中国とロシアとの経済関係、特にエネルギー関連技術やその他の天然資源の領域での協力を永久に阻止することはできない。

ロシアの意思決定に決定的な影響力を持つ数少ない国の1つとして、中国がウクライナ危機の調停(to mediate)を早くから申し出ていることを検証しておく必要がある。中国は紛争の当事者ではないと主張するかもしれないが、紛争を助長してきたのは事実である。大国として、戦争を早期に終結させる責任から逃れることはできないことを明確にする必要がある。

ウクライナに関する米中対話の入口として考えられるのは、プーティンの核兵器使用の公然たる脅威と、77年間の歴史を持つ核に関するタブーを破ることの結果に対する相互懸念である。ジョー・バイデン米大統領は「ハルマゲドン(Armageddon)」の脅威を口にした。中国は「先制不使用(no first use)」を明言しており、ロシアの核兵器使用は北京を自衛不可能な状態に追い込むことになる。また、ウクライナでの核兵器使用が北朝鮮に対する制限を低くし、北東アジアでの核拡散に拍車をかけるという懸念が共有されているので、予防手段(preemptive measures)の議論が急がれているのであろう。

また、戦争終結の方法と手段、更にはウクライナの経済再建の将来についても、戦争の進む方向を見据えて考えなければならない。アメリカ、ヨーロッパ連合(EU)、日本、世界銀行、国際通貨基金、ヨーロッパ復興開発銀行が協調して経済資源を動員することは、政治的困難と資源の枯渇を考えると非常に困難であろう。世界有数の貸し手である中国に、その議論に加わる機会や努力の調整の機会が与えられなければ、中国独自の復興努力が欧米諸国の努力を複雑にしたり妨害したりすることになりかねない。協調的でグローバルなキャンペーンにおいて、中国が公正な役割を果たすための対話が模索されるべきだろう。

問題は、ウクライナに関して利害が一致する可能性のある分野を探るのに十分な政治的空間を開くために、いかにして米中間の相互不満(mutual grievances)を中断するか、あるいは少なくとも区分けする(compartmentalize)かである。アメリカは道徳的なレトリックを抑えて、まずは北京との静かなバックチャンネル・アプローチで関心を探るのが賢明であろう。また、ブリンケンが近く訪中する際には、問題の範囲が限定的かつ現実的であることを強調し、ウクライナのアジェンダを形成するよう努めるべきであろう。

北京がよりソフトなアプローチを示唆しているにもかかわらず、その困難に幻想を抱いてはならない。しかし、ウクライナ情勢がいかに悲惨なものになっているかを考えると、必要は発明の母(necessity may well be the mother of invention)ということになるかもしれない。

そのためには創造的な外交が必要だが、中露間の対立、北京の広範な利益、戦争を終結させ紛争後のウクライナを再建するために北京が果たせる積極的な役割など、冷静な判断も必要となるだろう。このような利害に基づく取引的なアプローチは、自己実現的な予言である北京・モスクワ同盟の強化を回避するのに有効であろう。

※ロバート・A・マニング:スティムソンセンター、同センター・リイマジニング大戦略プログラム名誉上級研究員。ツイッターアカウント:@Rmanning4

※ユン・サン:スティムソンセンター中国プログラム部長。

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