古村治彦です。

 アメリカとキューバはキューバ革命以降、敵対関係にある。アメリカによる禁輸政策によってキューバは厳しい生活を強いられてきたが、バラク・オバマ政権で国交が樹立されて以降、関係は修復されてきた。しかし、ドナルド・トランプ政権は雪解けを逆行させ、バイデン政権もトランプ政権の姿勢を踏襲している。アメリカとキューバの関係は厳しい状態に戻っている。

 アメリカのキューバ政策は国内政治に影響を受けている。国内政治が外交政策に影響を与え、その逆もあるということは、ロバート・パットナムの言葉を借りれば「諸刃の外交(double-edged sword)」ということになる。具体的に述べていく。

 アメリカ政治においては、マイノリティグループが有権者として重要な役割を果たす。非白人のマイノリティグループ、例えばアフリカ系アメリカ人有権者、アジア系アメリカ人有権者は民主党の支持基盤となっている。最近では、スペイン語を母国語とするヒスパニック系有権者が存在感を増している。合法,違法での移民の数が多く、カトリック信者が多いことで避妊に消極的で子沢山ということもあり人口自体も増えている。ヒスパニック系は概して民主党の支持基盤となっている。

 その中で例外はキューバ系アメリカ人たちだ。キューバ系アメリカ人の多くは、キューバ革命勃発後にアメリカに逃れてきた人々だ。キューバ系の多くはフロリダ州に住んで。フロリダ州政治において存在感を保持している。キューバ系はキューバ革命から逃れてきた人々で、コミュニティはその時代の社会階層、階級をそのまま持ち込んでいる。そして、ヒスパニック系では珍しく、共和党支持者が多い。民主党が社会主義的だと見ているからだ。

 フロリダ州はアメリカ政治において重要な州である。大統領選挙ではフロリダ州で勝利することが重要になっている。民主、共和両党はフロリダ州で勝ちたいと考えている。そのために民主党は支持を受けられないキューバ系アメリカ人有権者を引き付けようとして、歴代政権はキューバに対して強硬な姿勢を取り続けた。ビル・クリントン、バラク・オバマ両政権が2期目にキューバに譲歩するような姿勢を見せたところ、その報復として、後継候補であるアル・ゴア、ヒラリークリントンがそれぞれフロリダ州で敗れ、大統領選挙で敗北を喫するということになった。そのために民主党としては、キューバ系アメリカ人有権者は気を遣わねばならない存在ということになる。

 アメリカ政治を見ていく場合には、マイノリティやイデオロギーに基づいた有権者のグループを見ていくことが重要である。

(貼り付けはじめ)

民主党がフロリダ州での勝利について忘れるべき理由(Why Democrats Should Forget About Winning Florida

-そうすればより良い対キューバ政策を採用することができるだろう。

ウィリアム・M・レオグランデ

2022年11月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/21/democrats-florida-republicans-cuban-american-cuba-trump-biden-obama/?tpcc=recirc_latest062921

民主党がアメリカ全土で予想以上に健闘した選挙の夜、フロリダはその例外として際立っていた。フロリダの海岸を汚した赤い波、つまりフロリダ政治に押し寄せた赤い波は、サンシャイン・ステートと呼ばれるフロリダ州がまだ競争力を持つかもしれないという民主党の幻想を一掃したのである。ロン・デサンティス州知事は、フロリダのヴェテラン政治家で、民主党候補の元知事のチャーリー・クリストに対して地滑り的な勝利を収めた。マルコ・ルビオ連邦上院議員も、民主党が擁立しうる最強候補の一人であったヴァル・デミングス連邦下院議員に対して大差で勝利した。民主党はフロリダ州の連邦下院28議席のうち20議席を失い、2020年に失った後、奪還を目指したフロリダ南部の主要議席(第27選挙区)を取り返すことができなかった。2021年、フロリダ州の近代政治史上初めて、有権者登録された共和党員が民主党員を上回った。民主党は、都市部の拠点であるタンパ、オーランド、マイアミではまだ競争力があるが、州全体では競争力を喪失した。2024年のフロリダ州で、ジョー・バイデン大統領や他の民主党の候補者たちが、デサンティスどころかドナルド・トランプ元大統領を倒すというシナリオは説得力を持たない。

民主党にとって、この暗い選挙状況に明るい兆しもある。フロリダが真っ赤に染まれば(共和党優勢になれば)、マイアミデイド郡のキューバ系アメリカ人有権者に関する予言ではなく、アメリカの外交政策上の利益に基づいてキューバ政策を再構築する自由が得られるからである。しかし、国内政治がアメリカの対キューバ政策を左右するという習慣を断ち切るのは難しいだろう。キューバ系アメリカ人が重要な支持基盤となった1980年代以来、民主党は40年にわたってこの問題に取り組んできたのである。

ビル・クリントン元大統領は、米国の対キューバ禁輸(embargo)が「失敗が証明された政策(policy of proven failure)」であることは、「半分でも頭脳を持っている人なら誰でも(anybody with half a brain)」知っていると認めている。しかし、1992年の選挙戦では、共和党のジョージ・HW・ブッシュ大統領(当時)を出し抜くために禁輸措置を強化する法案を支持し、1996年には禁輸措置を法律で定める法案に署名した。国家安全保障会議のメンバーを務めたリチャード・ファインバーグは「クリントンはどうしてもフロリダを守りたかったのだ。あれは最重要(numero uno)だった」と述べている。1992年、クリントンはフロリダ州で敗れたが、1996年には勝利している。

特にバイデン大統領の首席補佐官であるロン・クレインは、当時のアル・ゴア副大統領の首席補佐官であり、ゴア陣営の再集計委員会の顧問弁護士であった人物である。クリントンが6歳のエリアン・ゴンサレスをキューバにいる父親に返したことへの報復として、キューバ系アメリカ人は「懲罰投票(voto castigopunishment vote)」を行い、ゴアが大統領に就任することを阻止した。こうして、民主党の大統領候補がフロリダ州を制するには、少なくとも共和党の候補と同じくらいキューバに厳しくなければならない、という常識が生まれた。

バラク・オバマ前大統領は、2008年と2012年に、キューバ系アメリカ人の穏健派に対して、家族のつながり、送金や旅行に関する制限の緩和を支持する政策で、限定的にその常識に挑戦した。この戦略は成功し、オバマは2012年にキューバ系アメリカ人の約半数の票を獲得し、民主党にとって最高水準に達した。しかし、オバマでさえも、歴史的な国交正常化政策に着手したのは、無事再選を果たした後であった。

トランプがオバマのハヴァナとの和解を覆し、キューバ系アメリカ人の右派を動員することに成功したことで、一部の民主党議員はオバマの政策の人気は普通のことではないと説得された。バイデンは、共和党と同様にキューバに厳しくあろうとする既定の姿勢に戻り、トランプの経済制裁のほとんどをそのままにして、新たな制裁を追加した。バイデンは更に一歩進めて、キューバ政策を作る上で難民として国外に避難した人々に特権的な役割を与え、キューバ系アメリカ人を「重要なパートナー(a vital partner)」、「この問題についての最高の専門家(the best experts on the issue)」と呼んでいる。

このアプローチの無益さは選挙結果にも表れており、南フロリダのキューバ系アメリカ人を対象とした最近の世論調査がその理由を説明している。バイデンのキューバ政策はトランプと大差なく、圧倒的に支持されたにもかかわらず、回答者は72%対28%と圧倒的にバイデンへの不支持を表明したのだ。キューバ系アメリカ人の民主党に対する反感は、キューバ政策にとどまらず、外交・国内問題の広い範囲に及んでいる。キューバ系アメリカ人の共和党員は党員登録で民主党員を大きく上回り、今回の中間選挙の出口調査によると67%がルビオ(連邦上院議員)に、69%がデサンティス(州知事)に投票した。

フロリダ州で当面の間、民主党が選挙に勝てないので、民主党政権が国益に基づくキューバ政策を立案する自由を得たとしたら、その政策はどのようなものになるのだろうか?

体制転換(regime change)を推進する、あるいはキューバ政府をアメリカの要求に従わせるという前提から始まるだろうが、いずれのアプローチも50年以上前から連綿と続いてきた失敗の歴史がある。民主党の象徴であるフランクリン・D・ルーズベルト元大統領は、こう忠告した。「何かやれ。うまくいくなら、もっとやれ。うまくいったら、もっとやれ。うまくいかなかったら、他のことをやれ」。今こそ、他のことをする時だ。

国益に基づくキューバ政策は、アメリカとキューバが、逃れられない地理的条件によって、移民から環境保護、公衆衛生、麻薬の阻止など、協力によってのみ進展することができる重要な利益を共有していることを認識するものである。

国連でのほぼ満場一致の禁輸反対票が30年連続で記録されているように、ワシントンの敵対政策を支持する国は世界に存在しないことを認めることになる。多くのアメリカの同盟諸国、特にラテンアメリカで現在優勢な左派政権は、最近この地域を訪問したアントニー・ブリンケン米国務長官に語ったように、その政策に積極的に反対している。バイデン政権は、敵対的な政策に固執することで、5月の米州首脳会議の部分的なボイコットが示すように、その西半球の諸議題に関する議論を妨害した。これは、この地域における中国の影響力が高まっている瞬間である。

最後に、政治的・経済的に開かれたキューバを目指す現実的な政策は、ポスト・カストロ時代にキューバで進行している劇的な変化にアメリカがプラスの影響を与えようとするならば、キューバの新しい指導者や活気を増す市民社会と積極的に関わる必要があることを認識することであろう。

簡潔に述べるならば、アメリカの国益に基づく政策は、オバマが2014年12月17日に発表した政策、つまりバイデンが2020年の選挙戦で「大部分は戻す」と約束したが、そうしていない政策によく似ている。オバマの政策は、ラテンアメリカとヨーロッパのアメリカの同盟諸国によって歓迎され、潘基文前国連事務総長とローマ法王フランシスコの両者によって賞賛された。ここ数十年の米国の外交政策で、これほど普遍的な称賛を得たものは他にないだろう。もしバイデンが外交政策として意味のあるキューバ政策を作る用意があるならば、ハンドルを再発明する必要はない。ただ、ハンドルを付け戻すだけで良いのだ。

※ウィリアム・M・レオグランデ:ワシントンDCにあるアメリカン大学政治学教授。ピーター・コーンブルーと共著『キューバとのバックチャンネル:ワシントンとハヴァナとの間の交渉の隠された歴史(Back Channel to Cuba: The Hidden History of Negotiations between Washington and Havana)』がある。ツイッターアカウント:@WMLeoGrande

(貼り付け終わり)

(終わり)

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