アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 

 古村治彦です。

 

 
 今回は、プロ野球を取り上げたいと思います。

 

 安倍政権が進める「アベノミクス」の成長戦略作りの中で、プロ野球も俎上にあがり、16球団に拡大するという話が出てきました。私は16球団に増加させることには懐疑的な立場です。それは、これから人口が低下していく日本で、しかも自治体が消滅していくという予想までなされている中で、球団を増加させ、地方に置くということが可能なのかどうか疑問に思っています。

 

 自民党の部会でこの構想について話したスポーツライターの二宮清純氏は、Jリーグ百年構想の立ち上げにも関わったと自負し、この構想についてかなりの自信を持っているようですが、その見通しに根拠があるのかどうかどうもよく分かりません。安倍政権の幇間、太鼓持ちにならなければよいと思いますが・・・。

 二宮氏はプロ球団を沖縄に置き、「日米の懸け橋に」などと述べています。何故沖縄に米軍がいるのかについての考慮が全くない浅薄な、安倍氏に対してお追従を述べているようにしか感じません。 

 

 私はサッカーについては詳しくないので何とも言えないのですが、Jリーグは盛んになっているし、全国各地でサッカーチームがJリーグ入りを目指して頑張っている(私の故郷である鹿児島も頑張っています)のは知っているのですが、Jリーグは「成功」しているのかどうか、百年構想というのはどういうもので、どうなっているのか分からないので、詳しい方にぜひ教えていただきたいと思っています。

 

 今回のことも含めて、プロ野球の球団運営などについては以前から関心がありましたが、改めて調べて、考えてみました。

 

 プロ野球球団の財政については、「色々と大変なんだろう」という認識しか持ち合わせていませんでした。1988年に南海と阪急がそれぞれダイエーとオリエントリース(現・オリックス)に球団を譲渡した時、私は中学生でしたが、南海はともかく阪急はチームとしては強いのに、どうして譲渡されるのかと思いました。「強くてもお客さんが入らないと儲からないからダメなんだ」と大人に教えてもらって、阪神ファンであった私は「じゃあ、阪神は弱くてもお客さんがたくさん入っているから譲渡にならないんだな」と思ったことを思い出します。

 

その後、2004年に大阪近鉄がオリックスと合併し、同時に楽天が専大を本拠地とする東北楽天ゴールデンイーグルス(新規球団)を創設しました。2005年にはダイエーがホークスをソフトバンクに譲渡しました。セリーグでは2002年にマルハがTBSに球団を売却し、2011年にはTBSがDeNAに売却しました。

 

近鉄、マルハ、TBSといった会社は一般的な知名度が高く、多くの方々が大企業であると認識していると思います。そんな大企業でもプロ野球球団を持つことは大変なのだ、そして日本の不況は深刻なのだということが改めて浮き彫りになりました。

 

また、プロとは違いますが、学卒者の受け皿になっていた社会人野球のチームの数も最盛期に比べて3分の1ほどにまで減少していると言われています。社会人野球こそは日本を代表する大企業がこぞってチームを持ち、一時期はプロ野球よりも待遇が良かったし、その後の身分や収入の安定を考えてプロ拒否の名選手たちも結構いました。しかし、長引く不況もあり、野球選手を取り巻く環境は厳しさを増しています。

 

 それでは、現在プロ野球球団を保有している会社にはメリットがないかというとそういうことでもないようです。全くメリットがなければ球団を持つことは馬鹿らしいことですから。会社名を世間に知らせる、マスコミでスポーツニュースの際に会社名を連呼してもらえる、といったメリットがあることは誰でも想像ができます。また、メリットの一つとして、「税制優遇」があるという指摘を以下のブログでされています。そのブログは、『ブログ「税理士もりりのひとりごと」』(http://moriri12345.blog13.fc2.com/blog-entry-668.html)と言います。そして、このブログの2010年10月28日付記事「プロ野球親会社には信じられない税務上の特例が!」に、プロ野球親会社の税制優遇について書かれています。

 

 このブログの記事によると、「『職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取り扱いについて』と題された昭和29年8月10日付 直法1-147という個別通達」というものがあるそうです。その内容は、「1.親会社が球団に対して支出した金銭のうち広告宣伝費と認められるものは損金算入を認める。2.球団の欠損金を補填するために親会社が支出した金銭は広告宣伝費とする。3.親会社が球団に貸付金と処理をしていても2.に該当するものは損金算入できる。(4.は省略)」というものだそうです。

 

 この通達について、ブログ「税理士もりりのひとりごと」の著者は次のように書いています。以下に引用します

 

(引用はじめ)

 

「一般の親子会社間であれば、子会社がよほど危機的な状況に陥らない限り通常は寄附金扱いになるはずです。寄附金になれば損金にほとんど算入されませんよね。

 

 今回の横浜にしたって毎年20億円くらいの損失が生じているそうです。それを埋めるためにTBSは資金を補填し、それを税務上は広告宣伝費として処理できるわけですね。寄附金にしちゃえばほとんど損金算入できないわけですから、この個別通達の存在と税負担軽減効果は絶大ですよ。

 

 なんで別会社として存在しているプロ野球球団会社に対して損失補填をした場合だけが広告宣伝費なのでしょうか?そもそも広告宣伝費、というか球団にかかった経費を全部損金にしたいのであれば球団を親会社に吸収合併させればよいだけの話ではないでしょうか?別会社であるなら他社が渋々従っているように、税法に則って寄附金でいいんじゃないでしょうか?」

 

(引用終わり)

 

 プロ野球球団を持っている会社には税制の優遇措置があるということは事実としてあるようです。今の状況で16球団に増加ということになると、この税制優遇は継続ということになると思います。新球団設立にはコストがかかりますし、市民球団的なものを理想として掲げても実際には企業が親会社となって設立ということになるでしょうから、この優遇策は仕方がないと思いますが、国民が増税を耐えているのなら、こうした優遇税制はおかしいのではないかという話にもなります。

 

 もし、プロ野球球団が16に増加するということになると、どのような企業が親会社となるでしょうか。誰でも知っている大企業が親会社になるでしょうか。それは考えづらいです。なぜなら、そのような大企業は多額の損失を補てんして自分たちの存在をアピールしなくても既に誰でも知っている会社になっているからです。

 

 ということになると、TBSが横浜ベイスターズを譲渡する時に名前が挙がった、住生活グループ(リクシル)のような合併で名前が変わった大企業や、DeNAのような、一般に名前を浸透させたい新興企業ということになります。2004年の球界再編の時も、楽天とライブドアが名乗りを挙げました。楽天が新球団を創設したのですが、その後、楽天の知名度は大きく上がりました。

 

 私は、安倍晋三首相が肝いりでやっている産業競争力会議のメンバーや彼らに近い企業人たちが持っている企業が親会社となるのだろうと思います。彼らからすれば、企業の知名度を上げて、優遇税制の恩恵を受けることができる球団経営にメリットを感じることができると思います。

 

 私が今年(2014年)1月に出しました、『ハーヴァード大学の秘密』(PHP研究所)では、三木谷浩史・楽天会長兼社長を巡る人脈(「クリムゾン・クラブ」と私は名づけました)についての分析を行いました。その中で、スポーツを巡る人脈分析を行いました。そうした人脈がプロ野球界の更なる再編にも関わってくると思います。三木谷浩史楽天会長兼社長、平田竹男早稲田大学教授、元プロ野球のスター選手であった桑田真澄(元読売ジャイアンツ、大リーグ・ピッツバーク・パイレーツ投手)や古田敦也(元東京ヤクルトスワローズ捕手、兼任監督、名球会会員)の人脈はこれから重要になっていくでしょう。

 

 私は、現在の12球団を維持できるのかどうか不安に思っています。人口減少に加えて、プロ野球(主には読売ジャイアンツ)の人気低下という問題もあります。16球団になれば野球ファンとしては嬉しいことですが、選手の質の低下やプレーの質の低下という心配もあります。また、各地方にプロ野球を支えるだけの経済力があるのかどうかという懸念もあります。現在のプロ野球球団の分布を見てみると、東京には読売ジャイアンツと東京ヤクルトスワローズ、埼玉には埼玉西武ライオンズ、千葉には千葉ロッテマリーンズ、神奈川には横浜DeNAベイスターズと関東地方に偏っているように思われます。この偏りの解消、移転を行うということも選択肢とあるのではないかと思います。

 

 アベノミクスの成長戦略にプロ野球を組み込むという今回の話はどうも、嫌な感じがして仕方がありません。プロ野球を政治に巻き込んでほしくないなぁというのがファンとして私が持つ思いです。

 

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「アベノミクスにプロ野球16球団構想」

 

日刊スポーツ電子版 2014年5月22日

http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp3-20140522-1304845.html

 

 アベノミクスの成長戦略に、プロ野球16球団構想も加わりそうだ。政府が6月中にまとめる成長戦略に、プロ野球の球団数を現在の12から16に増やすことが盛り込まれる見込みとなった。自民党の日本経済再生本部(高市早苗本部長)がまとめた成長戦略の第2次提言案で、新たに4球団を増やすことを検討していることが21日までに分かった。近く、政府に提言が伝達される。

 

 提言案では本拠地候補として、北信越、静岡、四国、沖縄を挙げている。消費税増税で落ち込むとみられる景気の回復策としても期待されている。

 

 同本部では4月18日、スポーツジャーナリストの二宮清純氏を講師に招き、球団数の拡大による経済効果について学んだ。二宮氏は北信越、静岡、四国、南九州に球団を設ける構想を披露。「沖縄で日米の心のキャッチボールを」と沖縄も候補に挙げていた。セ・パ両リーグを各8球団とし、東西に地区を分け、計4グループの1位がプレーオフで日本一を争うという私案を説明した。

 

 同本部がこの地域活性化対策などを提言にまとめ、6月中に発表される成長戦略に反映させる。球団増の実現を日本野球機構などに働きかけるため、有志の国会議員による議員連盟の立ち上げも検討するという。

 

 ▼プロ野球改編の動き 現行の2リーグ12球団になったのは1958年(昭33)。その後73年と2004年にリーグ改編騒動が起こった。73年は人気低迷のパ・リーグで、日拓がロッテに合併を打診、南海と近鉄(いずれも当時)との合併も取り沙汰され、1リーグ10球団への動きがあった。結局、日拓が日本ハムに身売りして騒動が収束した。04年には、事業拡大に失敗した近鉄がオリックスとの合併を発表。再び1リーグ制の動きも出たが、選手会がストを決行するなど反発。新球団として楽天の参入が決まり、12球団に戻った。

 

 ◆日本経済再生本部 安倍晋三氏が2012年9月に自民党総裁に選ばれた後、同10月に自民党内に設置。同12月の首相就任後は、内閣にも同本部を設置した。自民党の同本部では、内閣の同本部で検討すべき論点を取り上げ、安倍内閣の経済再生策を補強する。

 

 [2014522917分 紙面から]

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)