古村治彦です。

 

 今回は、2016年7月に発生したトルコのクーデター未遂事件についての記事をご紹介します。このクーデター未遂事件では、レセプ・エルドアン大統領は辛くも脱出し、クーデターは失敗に終わりました。エルドアンにクーデターの危険を知らせたのは、ロシアのウラジミール・プーティン大統領だと言われています。

 

 クーデター未遂事件以降、トルコのマスコミでは、アメリカがクーデターをやらせたという主張がなされ、クーデター未遂事件が起きた時に開催されていた学術会議を開催していた、アメリカのシンクタンクであるウッドロウ・ウィルソン・センターや出席者たちが、CIAのエージェントであったという論陣が張られています。

 

 クーデターに関して、トルコ政府は、アメリカに事実上亡命している、フェトフェラー・ギュレンというイスラム聖職者が首謀者だと非難しています。ギュレンは、1960年代から市民運動とも宗教運動ともつかない活動を始め、「ギュレン運動」という社会運動はトルコ国内でどんどん拡大していきました。ギュレン運動はエルドアンと良好な関係にあり、エルドアン政権成立には大きな役割を果たしたそうですが、2013年以降、関係は悪化しているそうです。

 

 トルコ国内で「クーデターを仕掛けたのはアメリカだ」という論調が出てくるのは仕方がない事です。これまでにも、アメリカで教育を受けた軍幹部がクーデターを起こして、アメリカの都合の悪い政権を転覆したというケースはいくつもあります。また、今回は、反エルドアンの大物がアメリカに亡命中であるということもあって、このような主張が出てきています。

 

 拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)でも書きましたが、学術団体や市民団体への支援という形でアメリカは影響力を行使していることは事実です。こうしたアメリカの戦略の尖兵として学者や市民運動活動家が活動していることも事実です。

 

 今回のトルコでのクーデター未遂事件の場合は、まだ決定的な証拠は出ていませんが、状況証拠から、アメリカの関与の可能性は高いと思われます。

 

(記事貼りつけはじめ)

 

黒幕か、エルドアン氏と確執=関与否定のギュレン運動-トルコクーデター

 

20160716 17:26 発信地:イスラエル

AFP通信・時事通信

http://www.afpbb.com/articles/-/3094244

 

716 時事通信社】トルコのエルドアン大統領が今回のクーデターを主導した黒幕と主張しているのがイスラム団体「ギュレン運動」だ。近年、エルドアン氏との確執があることで知られる。これまでも「政府転覆を図った」と疑いをかけられては、ギュレン運動支持者への締め付け、弾圧が続けられてきたが、政権は今後一層その動きを加速させるとみられる。

 

 アナトリア通信によると、トルコ当局は、クーデターの企てに関わったとしてギュレン運動支持者を次々拘束している。これに対し、ギュレン運動側は関与を否定。「トルコの内政へのいかなる軍事介入も非難する」と、むしろ反クーデターの立場を表明さえしている。

 

 米国で事実上の亡命生活を送るイスラム指導者、ギュレン師が率いるギュレン運動は、かつてエルドアン政権の支持母体だった。ところが、2013年末に同政権をめぐる大規模汚職疑惑が浮上すると、エルドアン氏は「ギュレン師が仕組んだ」と批判、両者の対立は決定的になった。(c)時事通信社

 

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トルコの米軍基地が閉鎖、空爆も中止 対ISIS作戦の拠点

 

2016.07.17 Sun posted at 12:19 JST

CNN

http://www.cnn.co.jp/world/35086007.html

 

(CNN) トルコで軍の一部がクーデターを企て首都アンカラや最大都市イスタンブールで軍同士の衝突が起きた件で、トルコ当局は、米軍がシリアやイラクでの対ISIS作戦の拠点とし、米兵約1500人を駐留させている南部のインジルリク空軍基地を閉鎖した。これを受け、米軍は空爆作戦を停止している。基地への電力供給が止められたとの情報もあるが、米軍施設は自家発電で対応しているという。

 

また、ギリシャ政府の報道官によると、クーデター勢力とみられる兵士8人がヘリコプターで同国へ逃れ、政治亡命を求めている。

 

トルコ外務省は兵士らの身柄引き渡しを求めているが、ギリシャ外相は16日、国内の規定と国際法に基づいて亡命申請を精査すると表明し、すぐには引き渡しに応じない姿勢を示した。

 

トルコで15日夜(日本時間16日未明)、軍の一部がクーデターを企てた件では、180人以上の死者が出ている。大統領府の情報筋によれば、軍の将官少なくとも2839人が拘束された。

 

エルドアン大統領は、クーデター勢力が米在住のギュレン師が率いる「ギュレン運動」とつながっていたとして、米国に対し、同師を拘束するか、またはトルコ側へ引き渡すよう強く求めている。

 

(記事貼りつけ終わり)

 

 

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エルドアンの支持者たちは、ワシントンの有名なシンクタンクがクーデターを計画したと非難している(Erdogan Allies Accuse Leading Washington Think Tank of Orchestrating Coup

 

ジョン・ハドソン筆

2016年8月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/08/08/erdogan-allies-accuse-leading-washington-think-tank-of-orchestrating-coup/

 

トルコ政府は、先月のクーデター未遂事件の後、数千名の兵士、警官、学者、ジャーナリストを逮捕したり、拘束したりしている。トルコのレセプ・エルドアン大統領の支持者の中には、新たな攻撃目標を設定している人たちがいる。その目標とは、ワシントンにある有名なシンクタンクだ。

 

ウッドロウ・ウィルソン・センターは1968年に創設された超党派のシンクタンクだ。ウィルソン・センターは、先月のクーデター未遂事件で、証明されてはいないが重要な役割を果たしたという激しい批判に晒されている。クーデター未遂事件では200名以上が死亡し、1000名以上が負傷した。エルドアンは権力を回復し、それ以降の数週間、トルコ社会全体のあらゆる機構や機関で追放を行っている。

 

 ウィルソン・センターに対する非難は、エルドアンとつながりがあるトルコの新聞各紙に掲載されている。このため、シンクタンクにとっては異例なことだが、研究者や学者たちに対する「報復」が行わる可能性について懸念を表明する声明を発表した。学者たちは、7月にウィルソン・センターが主催した会議に出席するためにトルコにいた。7月15日から17日まで学術会議が開催されていたのだが、これがクーデター未遂事件と重なったために、シンクタンクに対する権力者共同謀議説(陰謀論)が唱えられることになった。

 

先週金曜日に発表された無署名の声明の中で、ウィルソン・センターは次のように書いている。「イスタンブールのブユカダ島で開催された会議は、クーデター未遂事件の中心現場から遠く離れた場所で開催されており、事件とは何のつながりもない。会議では、経験豊かな外交政策専門家たちがイランについて、またイランと近隣諸国との関係について、公開の場で意見を交換した」。

 

しかし、ウィルソン・センターが声明を発表した後も、トルコ国内でウィルソン・センターの中東プログラムの責任者ヘンリー・バーケイとクーデター未遂事件との関係についての批判が弱まることはなかった。トルコの政府系の新聞アスカムは先週の土曜日、一面に7月の会議に出席したバーケイとその他の学者たちの写真を掲載した。そして、「彼らはCIAのエージェントであり、クーデターの計画と実行の手助けを行った」と非難した。

 

外交評議会のトルコ専門家であるスティーヴン・クックは本誌の取材に対して次のように語った。「ヘンリー・バーケイは親エルドアン派のマスコミに執念深く追い掛け回されている。トルコ政府関係者は権力者共同謀議説(陰謀論)を覆すために努力しなければならない。しかし、彼らは何もやらないだろう。トルコ政府がこうした主張を行い、それを覆すことはない。そんなことをしても彼らには何の得もないからだ」。

 

本誌はワシントンにあるトルコの駐米大使館にコメントを求めたが、返事はなかった。ウィルソン・センターにもコメントを求めたが返答はなかった。バーケイはコメントを拒否した。

 

学術会議の出席者たちは、トルコのマスコミと当局によるしつこい調査を受けていると言われている。ウィルソン・センターと一緒に会議を主催したグローバル・ポリティカル・トレンズ・センターの部長メンスール・アクガンは最近、トルコ当局によって取り調べを受けた。会議に出席した女性の学者アクガンは教授としての地位は保全されていると会議の出席者の一人は述べている。

 

トルコのマスコミでは、今回のクーデター未遂に関して、スコット・ピーターソンの写真を掲載した。ピーターソンは学術会議に招待され出席したジャーナリストで、クリスチャン・サイエンス・モニター紙に所属している。しかし、トルコのマスコミでは、ピーターソン本人の写真を掲載する代わりに、同姓同名の別人の写真を掲載してしまった。こちらのピーターソンは、2002年に妊娠中の妻レーシー・ピーターソン殺害犯人であって、彼は懲役20年の判決を受け、現在はカリフォルニア州の刑務所に服役している。

 

アトランティック・センターに所属するトルコ学者のアーロン・スタインは「今回の事件における唯一の喜劇的な要素は、スコット・ピーターソンを取り違えた部分で、彼らは、クリスチャン・サイエンス・モニター紙の記者であるスコット・ピーターソンとレーシー・ピーターソン殺害犯を取り違えたのだ」と述べた。

 

トルコ政府は公式には、クーデター未遂事件の首謀者としてフェトフェラー・ギュレンの名前を挙げて非難している。ギュレンはイスラム今日の聖職者で、現在はトルコから離れて事実上の亡命生活を送っており、現在はフィラデルフィア郊外に居住している。しかし、2016年7月15日に発生したクーデター未遂事件以降、トルコのマスコミでは、多くのアメリカ人が権力者共同謀議説(陰謀論)の対象になっている。政府系のイェニ・サファク紙は、CIAと元NATO司令官のジョン・キャンベル大将がエルドアンを追い落とそうとしたのだと非難の論陣を張っている。

 

金曜日に発表した声明の中で、ウィルソン・センターは、シンクタンクに所属する学者たちに対する非難が続くならば、トルコの国際的な評価が傷つけられることになると書いている。

 

声明は続けて次のように述べている。「トルコは学術会議にとって長年にわたって魅力的な場所であり続けてきた。トルコの学術社会と市民社会の質や規模が適していること、自然の美しさと便利な場所が理由である。今回のことで、トルコの国際的な評判に傷がつくこともある。また、世界規模の民主的な市民社会への貢献をトルコの素晴らしい学者たちが価値のある意見交換に参加することで行うことで、トルコ国内で排除されることになりかねないのは憂慮すべきことだ」。

 

(終わり)