古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:コーク一族

  古村治彦です。

 

 昨年12月に刊行しました『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、古村治彦訳、講談社、2015年12月)はご好評をいただいており、まことにありがとうございます。2016年アメリカ大統領選挙もだんだん本番が近付いてまいりまして、盛り上がって来ております。

 


 私が講談社の運営しておりますウェブサイト「現代ビジネス」に2016年1月14日付で掲載させていただきました「「コーク一族」米大統領選の命運を握る大富豪ファミリーの正体」(
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47359)も多くのアクセスをいただいており、御礼を申し上げます。

 

 現代ビジネスの記事に間に合わなかったのですが、コーク兄弟については、昨年日本経済新聞が買収したイギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ』紙にインタビューが掲載されました。この中で、コーク一族の総帥チャールズ・コークは、共和党の有力大統領選挙候補者であるドナルド・トランプとテッド・クルーズのイスラム教徒に対する発言やイスラム過激派組織に対する攻撃について批判を行いました。

 

 チャールズ・コークはアメリカのリベラルなメディアからは悪者扱いになっています。彼はバラクオバマ大統領を倒すためにティーパーティー運動に資金を出したり、共和党の政治家たちに多額の献金を行ったりしてきました。しかし、今回の大統領選挙ではまだだれを支持するのかを明らかにしていません。そして、このように、有力候補者であるトランプとクルーズを批判しています。

 

 そもそもコーク一族は、父フレッドが反共産主義であり(極右団体ジョン・バーチ協会の創設メンバー)かつ反中央政府的な人物であり、その影響でチャールズとデイヴィッドのコーク兄弟も反共主義からリバータリアニズムを信奉するようになりました。

 

 このリバータリアニズムはアメリカ保守思想の一潮流ですが、極右的、ナショナリスティックな思想とは違います。個人の自由を徹底的に主張する思想ですから、保守的な思想からすれば、「ラディカルな」考えになります。麻薬の使用や同性愛の結婚などについては、リベラル派と考えを同じくします。

 

 またリバータリアニズムは反中央政府であり、反大きな政府ですから、アメリカ軍の海外駐留に反対します。十字軍の騎士気取りで海外に出ていって戦争なんかするか、そんなものは金の無駄遣いだというのがリバータリアンの考えです。

 

 ですから、コーク兄弟は共和党の大口スポンサーですが、共和党を全面的に支持している訳ではありません。「民主党よりはまだ考えが同じ部分が多いし、民主党政権下では、連邦政府の規制や調査でひどい目に遭った」ということで、共和党を応援しているのです。

 

 彼らの信奉するリバータリアニズムはですから、共和党のネオコンや民主党の人道主義的介入派に対抗する思想にはなるのですが、「市場の機能」を強調し過ぎるために、共和党の中でも主流派になることは難しいのが現状です。

 

 それでもコーク兄弟が持つ資金力は大統領選挙において大きな意味と存在感を持ちます。彼らの動きにはこれから注目していかねばなりません。

 

(貼り付けはじめ)

 

January 8, 2016 2:45 pm

Charles Koch attacks Republican hopefuls Trump and Cruz

 

Stephen Foley in New York

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/4aa089e0-b58b-11e5-b147-e5e5bba42e51.html#axzz3xMagLixJ

 

One of the largest donors to the US Republican party has attacked Donald Trump and Ted Cruz’s anti-Muslim rhetoric, claiming that ideas floated by the frontrunners in the presidential nomination campaign could complicate the battle against extremist Islamists.

 

Charles Koch’s comments in an interview with the FT not only put him sharply at odds with both Mr Trump and Mr Cruz but reflect his disillusion with the broad field of Republican presidential hopefuls.

 

Billionaire Mr Koch, who along with his brother David controls a network of rightwing think tanks and political action groups that plan to spend $889m to promote free market causes and influence this year’s US elections, said Mr Trump’s idea for registering and banning the entry of Muslims would “destroy our free society”.

 

Breaking with many Republican candidates’ call for an intensified war on Islamist terrorism, Mr Koch argued that military interventions in Iraq and Afghanistan had failed to make the US safer. Referring to the number of countries hosting the world’s 1.6bn Muslim population, he added: “What are we going to do: go bomb each one of them?”

 

Mr Trump repeated his proposals for a ban on Muslim tourism and immigration to the US in a TV advertisement this week, his first of the campaign. The latest national polls give him a double-digit percentage lead over rivals and he continues to attract crowds of thousands to his rallies.

 

Questioned about Mr Trump’s proposals, Mr Koch asked: “Who is it that said, ‘If you want to defend your liberty, the first thing you have got to do is defend the liberty of people you like the least?’”

 

Other Republican candidates are also competing with Mr Trump to sound tough on Islamist terrorism, in the wake of shootings in San Bernardino, California, last month. Mr Cruz, leading in polls in Iowa, which holds the February 1 caucus that kicks off the presidential contest, vowed to carpet-bomb Isis strongholds at the most recent Republican television debate, which took place after the interview with Mr Koch.

 

I have studied revolutionaries a lot,” said Mr Koch, the chairman and chief executive of Koch Industries, the US’s second largest privately held company, and something of a hate figure for the American left.

 

Over a pulled-pork sandwich in the staff canteen of Koch Industries, the businessman at its helm talks about power-broking for the Republicans and reshaping his ‘evil guy’ image

 

Mao said that the people are the sea in which the revolutionary swims. Not that we don’t need to defend ourselves and have better intelligence and all that, but how do we create an unfriendly sea for the terrorists in the Muslim communities. We haven’t done a good job of that.”

 

Mr Koch said his political organisation had presented all the Republican candidates with a list of issues it wanted on the agenda — including an end to subsidies and tax breaks for corporations, cutting the red tape required to set up small businesses, a large deficit reduction plan, and criminal justice reform — but that “it doesn’t seem to faze them much”.

 

He added that Mr Trump was “not the only one that’s saying a lot of things that we disagree with...If we only supported organisations and politicians that we agreed with 100 per cent, we wouldn’t support anybody.”

 

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12

 

古村治彦です。

 

 2015年も大晦日になりました。本年は9月末に突発性難聴を患い、現在も人の声は判別できない状態が続いております。改めて、健康が大切だと実感させられました。来年は健康に気を付けつつ、仕事を頑張ってまいりたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。


 今回は、私が翻訳しました『アメリカの真の支配者コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、古村治彦訳、講談社、2015年12月)に関連して、この本のテーマである、コーク家という現代アメリカを代表する大富豪でしかも現実政治に影響を与えている一族の物語を皆様にご紹介したいと思います。皆様には是非本を買って読んでいただきたいと思いますが、大部になり、細かい点に言及しているところもありますので、この論稿を読んでいただいて、大づかみなところを知っていただいて、お読みいただければ、より理解しやすく、楽しんで読んでいただけるものと思います。


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日本ではまだあまり知られていませんが、コーク兄弟のお金がアメリカ政界に大きな影響を与えています。昨年の話になりますが、当時連邦上院で過半数を占めていた民主党のハリー・リード(Harry Reid、1939年―、75歳)院内総務(ネヴァダ州選出)は、「共和党の政治家たちはコーク中毒の状態にある」と発言しました(2014年3月4日付『ワシントン・ポスト』紙、“Harry Reid: ‘Republicans are addicted to Koch’”)。コーク兄弟は共和党の大口献金者であり、彼らから政治資金の寄付を受ければ、その意向を無視することはできません。そのことをリードは告発した訳です。コーク家が「現代版のロックフェラー家」と呼ばれている理由はここに集約していると思います。

 

※ワシントン・ポスト紙の記事のアドレスは以下の通りです。→

http://www.washingtonpost.com/blogs/post-politics/wp/2014/03/04/harry-reid-republicans-are-addicted-to-koch/

 

「コーク(Koch)」という発音は、清涼飲料水の「コーク(Coke)」と同じですが、この「コーク」は麻薬「コカイン」の俗称でもあります。現職の連邦議員が1つの言葉にいくつもの意味をかけて、コーク兄弟の資金にアメリカ政界が「汚染されている」と訴えたことの意味は重大です。加えて、このエピソードは、コーク兄弟のアメリカ政界における存在感の大きさを示しています。「ロックフェラー家やケネディ家と同様、コーク家は現代のアメリカにおいて最も影響力を持つ“王朝”だ」と言われています。しかし、日本ではこのコーク兄弟についてあまり知られていません。

 

コーク兄弟のお気に入りは、ニュージャージ州知事のクリス・クリスティ(Chris Christie、1962年―)とウィスコンシン知事のスコット・ウォーカー(Scott Walker、1967年―)です。コーク兄弟は自分たちが主催する集まりに2人を招待し、彼らのために資金集めの場を提供してきました。この集まりのことは「コーク・プライマリー(Koch Primary)」と呼ばれています。この会合に呼ばれると、参加者たちから多額の寄付が期待できます。今年の2月に行われたコーク・プライマリーには、マルコ・ルビオ、テッド・クルーズ、ランド・ポールが招待されたということです。2012年の米大統領選挙では、コーク兄弟は、「現職のオバマ大統領に勝利できる唯一の候補者」としてクリス・クリスティを応援していました。

 

クリスティとウォーカーに共通しているのは、州知事として強力な州公務員組合と対決し、保守派の喝采を浴びたことです。2016年のアメリカ大統領選挙については、「今日のぼやき」の別稿に書きましたので、そちらをお読みいただきたいと思います。現在、共和党の大統領候補として有力視されているのが、元のフロリダ州知事で父と兄が米大統領を務めたジェブ・ブッシュ(Jeb Bush、1953年―)、スコット・ウォーカー(2016年大統領選挙からの撤退を表明)、クリス・クリスティ、それぞれ連邦上院議員のマルコ・ルビオ(Marco Rubio、1971年―)、テッド・クルーズ(Ted Cruz、1970年―)、ランド・ポール(Rand Paul、1963年―)です。彼らのうち、ジェブ・ブッシュを除いた全員が、コーク兄弟の「世話」になっているということになります。ここからも、コーク兄弟のアメリカ政界、特に共和党に対する影響力の大きさが分かります。

 

 それでは、コーク兄弟について簡単に説明します。彼らは、非上場の大企業「コーク・インダストリーズ」を経営しています。石油、化学、日用品の総合企業コーク・インダストリーズの企業規模は、非上場企業では全米第2位(第1位は農薬・肥料メーカーのカーギル社)です。2013年の売り上げがグループ全体で1150億ドル(約13兆8000億円)、従業員数は約10万人を誇ります。コーク・インダストリーズは、兄弟の父フレッドが始めた石油精製事業と牧場経営からスタートし、そこから規模を急速に拡大してきました。それを主導したのが二代目で次男のチャールズ、三男のデイヴィッドです。

 

コーク・インダストリーズという名前は、アメリカでも一般的にはあまり知られていません。それでも、ジョージア=パシフィック社という老舗名門の製紙会社を所有しており、アメリカ人にとっては身近なブランドであるンジェルソフト・トイレットペーパーやディクシー紙コップを作っています。こうした複合大企業コーク・インダストリーズの株式の過半数を握っているのが、チャールズ・コークとデイヴィッド・コークでそれぞれが42%ずつ株式を保有し、それ以外も親族が株式を保有しています。コーク・インダストリーズは、株式を市場公開していない非上場企業(private company)ですので、株主に遠慮することなく、兄弟の思うままの経営ができるのです。

 

 コーク・インダストリーズは、コーク兄弟の父フレッド・コーク(Fred Koch、1900―1967年)によって、カンザス州ウィチタで設立されました。父フレッドは、オランダ系移民の子孫としてテキサス生まれで、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of TechnologyMIT)で石油化学を学んだエンジニアでした。フレッド・コークは、石油の熱分解技術を開発し、それを売り込むことで彼の会社は成長していきました。しかし、「出る杭は打たれる」で、既存のロックフェラー系の石油会社から嫌われ、狙われることになりました。フレッドは、熱分解技術をめぐり、裁判を起こされ、厳しい時期もありました。この時期、フレッド・コークはソ連に招聘されて、バクーなどで石油プラント建設の仕事をしました。この時にソ連の悲惨な現実に触れて、反共産主義を信条とするようになりました。また、既得権益を持つエスタブリッシュメントと巨大企業に対する反感を募らせていきました。フレッドは、「自分の息子たちをカントリークラブにたむろして遊んでばかりいる、金持ちのバカ息子にはしない」と決心し、息子たちには子供のころには厳しく接し、どんどんきつい肉体労働をさせました。

 

1958年、フレッドは、反共産主義の極右団体「ジョン・バーチ協会(John Birch Society)」の創設に参加しました。フレッドは「ドワイト・アイゼンハワー(Dwight Eisenhower、1890―1969年)大統領は共産主義者だ」とか「国際連合は共産主義者による陰謀によってできたものだから、アメリカはすぐに脱退せよ」といった主張を展開しました。ジョン・バーチ協会は1960年代から70年代にかけて勢力を拡大させましたが、冷戦終了後の1990年代以降、勢力を縮小させています。

 

 フレッドには4人の息子たちがいます。長男のフレッド(Fred、1933年―、81歳)は、同性愛者で芸術を愛し、政治にも会社の経営にも全く関心を持ちませんでした。フレッドはハーヴァード大学を卒業後、米海軍に入隊し、その後、イェール大学演劇学部で修士号を取得しました。華やかな学歴ですが、その後、定職に就かず、美術品収集と歴史的建造物の修復を趣味として生きています。マスコミが「コーク兄弟」と呼ぶ場合、長男フレッドの存在は省かれる場合が多いのですが、これは彼が会社経営にも政治活動にも参加していないからです。また、弟たちからも孤立しているようです。ニューヨークに住んでいるので、同じニューヨーク在住のデイヴィッドとパーティーであってもほとんど話もしないそうです。

 

共和党や政治的保守派に大きな影響を与える「コーク兄弟」と呼ばれ、マスコミで騒がれるのは、次男チャールズ(Charles、1935年―、79歳)、双子のデイヴィッド(David、三男、1940年―、74歳)とビル(Bill、四男、1940年―、74歳)の中で、チャールズとデイヴィッドです。彼ら3名は皆、父と同じマサチューセッツ工科大学で学士号を取得し、チャールズは機械工学(原子力)と化学工学でそれぞれ修士号、デイヴィッドは化学工学で修士号、ビルは化学工学で修士号と博士号を取得した後に、エンジニアとなり、父の会社であるコーク・インダストリーズの経営に携わることになりました。

 

次男チャールズは家長として、またコーク・インダストリーズの総帥(会長)として、父フレッドの影響を最も受けた人物です。チャールズは父の作ったジョン・バーチ協会に入会し、その後、ヴェトナム戦争に対する対応(ジョン・バーチ協会はヴェトナム戦争に賛成の立場を取りました)を巡り、退会しました。彼は父フレッドが始めたジョン・バーチ協会のメンバーであった。チャールズにとっての興味深いエピソードとしては、彼の友人が遊びに来た時、アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway、1899―1961年)の『陽はまた昇る』を持っていたのですが、チャールズは、「ヘミングウェイは共産主義者だから」と言って、友人の持っていた本をドアの外に置かせてそれから家に招き入れたということです。

 

チャールズは表舞台に立つことを好まず、コーク・インダストリーズの本社があるカンザス州ウィチタにずっと住んでいます。そうしたところから、「神秘的な人物」だと考えられています。ちなみにウィチタは20世紀になって航空産業が盛んになり、「世界の空の都(The Air Capital of the World)」と呼ばれるようになりました。また、農業や牧畜業も盛んで、油井があることから石油関連産業も発展しました。コーク・インダストリーズの創始者であるフレッドはテキサス生まれですが、大学時代の友人の父親がカンザス州で石油ビジネスを展開しており、大学卒業後に誘われたので、生まれ故郷のすぐ北側にあるカンザス州に向かい、拠点としました。1920年代のカンザス州はまだまだビジネスチャンスが多く、野心的な若者にとっては魅力的な場所でもありました。

 

 デイヴィッドは、兄を助けてコーク・インダストリーズの急成長に貢献しました。いつもはニューヨークにあるニューヨーク支社におり、コーク・インダストリーズの化学部門の責任者を務めています。デイヴィッドはニューヨークで暮らしており、兄チャールズに比べて社会活動の場面に積極的に姿を現しています。また、慈善事業や社会貢献にも特に熱心で、母校MITに癌研究センターを寄付したり、ニューヨークのメトロポリタン美術館やアメリカン・バレエ・シアターの後援をしたりしています。その額は数百憶円に上っています。頑固な兄チャールズと我儘で自由奔放な双子の弟ビルとの間を何とか取り持とうとして尽力してきた人物です。

 

 末っ子ですが、三男デイヴィッドとは双子となるビルは、常に兄たちに対して負けん気を持って成長しました。彼もまたMITを卒業し、博士号を取得し、コーク・インダストリーズに入社しました。その手腕を発揮し、会社の売り上げを伸ばしましたが、後に会社経営の実権を握ろうとして、兄たちと対立関係に陥り、やがて会社を離れました。ビルは自分の会社であるエネルギー関連企業オックスボウ社(Oxbow)を起業し成功を収めました。趣味にも熱心で、それが嵩じて、世界最高峰のヨットレースであるアメリカズ・カップのアメリカ代表になり、1992年に優勝カップを勝ち取りました(彼がヨットチームに投じたお金は総額で6500万ドル)。その他にも多くの女性たちと浮名を流し、ワイン収集家としても知られています。

 

ビルは若い時からミット・ロムニー(Mitt Romney、1947年―)と交流があり、2011年には、ロムニーの当選を目指すスーパーPAC「レストア・アワ・フューチャー(Restore Our Future)」に750万ドルの寄付をしたり、母方の親族で民主党から立候補した人物の応援を行ったりして、兄たちに比べて政治的な主張やイデオロギーに関してはそこまでこだわりを持ってはいません。

 

 ビルは、コーク・インダストリーズの実権を握ろうとして失敗し、会社を離れました。そして、自分の会社であるオックスボウ(Oxbow)を立ち上げ、成功しました。しかし兄たちに対する恨みが消えることはなく、復讐を果たそうとして、訴訟を起こしました。ビルは兄たちが会社を恣意的に経営して会社に損害を与えていること、株式を上場していないことによって、自分の持つ株式の値段が本当の価値よりも低く抑えられていることを理由にして兄たちを裁判所に訴えました。ビルの側には、長兄であるフレデリックがつきました。彼は会社の経営などには全く関心がなかったのですが、自分が遺産としてもらったコーク・インダストリーズの株式の価格が高い方が良いという理由もあって、末弟ビルの味方をすることになりました。裁判は20年以上も続きましたが、2001年になって兄弟たちはしこりを残しつつも、和解しました。

 

 コーク兄弟の信奉するイデオロギーはリバータリアニズム(Libertarianism)です。リバータリアニズムについて詳しく知りたい方は、副島隆彦先生の『リバータリアニズム入門』や『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』といった著作を是非お読みください。リバータリアニズムは、徹底的に個人の自由を尊重する考えです。

 

チャールズ・コークは1978年に発表した論稿の中で、既成政党である共和党を批判しています。「共和党は“ビジネス”のための党だと宣伝しているが、彼らの言う“ビジネス”のための党とは、補助金と政府とのつながりを意味するのである」と彼は書いています。彼ら(チャールズとデイヴィッド)は政府が規制をかけることや補助金を出すなど民間の経済活動に絡んでくることに徹底的に反対します。リバータリアンである彼らからすると、既成政党である共和党もそうした点で不十分であり、不満を持っているのです。それでも、コーク兄弟は民主党から攻撃を受けているので、共和党からすれば「敵の敵は味方」ということになります。

 

1977年、チャールズ・コークは、リバータリアニズム系のシンクタンクであるケイトー研究所(Cato Institute)を設立しました。また、チャールズは、弟デイヴィッドを説得し、更には資金を提供して、リバータリアン党(Libertarian Party)の副大統領候補として出馬させました。彼らは当選を目指したのではなく、リバータリアニズム思想の浸透を目指しました。しかし、彼らの強引さはリバータリアン党内部で嫌われてしまいました。そして生まれた言葉が「コクトパス(Kochtopas)」です。この言葉は、コークと「タコ(octopus)」を合わせた言葉です。この言葉は現在でもコーク兄弟を批判する時に使われています。

 

 1990年代にクリントン政権からコーク・インダストリーズが、環境問題で狙い撃ちにされて連邦政府から訴えられたり、罰金を科されたりした経験から、より現実的な選択として、共和党を応援するという選択をすることになりました。それでも2000年代は共和党のジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush、1946年―)政権でしたから、コーク兄弟にとっては「平穏な」時代でした。しかし、2008年の大統領選挙で民主党のバラク・オバマ(Barack Obama、1961年―)が大統領に当選したことで、彼らは危機感を募らせました。その危機感から生まれたのが、ティーパーティー運動(Tea Party Movement)でした。

 

ティーパーティー運動の組織化と資金提供に関して言うと、コーク兄弟と深いつながりがあり、資金提供を受けていますが、そのことを進んで公表しない政治活動団体アメリカンズ・フォ・プロスペリティ(Americans for Prosperity)がティーパーティー運動の全国組織化の最前線に立ち、運動を牽引しました。兄弟の政治アドヴァイザーであるリチャード・フィンク(Richard Fink)は、コーク兄弟が資金援助したジョージ・メイソン大学で教鞭を執ったことで、兄弟の知己を得て、コーク・インダストリーズに入社しました。現在はコーク・インダストリーズの副会長を務めています。彼が現在のコーク兄弟の政治面での活動の最高責任者となっています。

 

 コーク兄弟の知名度を上げたのは、皮肉にもオバマ大統領でした。2012年の米大統領選挙で、現職大統領であるオバマ陣営は、選挙コマーシャルでコーク兄弟は「秘密主義の石油で財を成した秘密主義の大金持ち」と攻撃し、話題となりました。オバマ政権はティーパーティー運動とオバマ大統領に対する攻撃に対して、反撃を行った訳ですが、その標的が共和党ではなく、その「資金源」のコーク兄弟になりました。このことで、逆にコーク兄弟のアメリカでの知名度は一気に上がりました。共和党の主流派とはうまくいっていなかったのですが、共和党支持者たちの間で、兄弟の評価は上がりました。その結果、コーク兄弟の現実政治への影響力が増大することになりました。

 

 ここまでだいぶ長くなりましたが、コーク家、コーク兄弟について簡単にご紹介しました。『』の中にはたくさんのエピソードが収められています。兄弟同士の争いや裁判、彼らの結婚や女性関係に関する記述もあります。この本は、アメリカのお金持ちのプライヴェートな部分とアメリカの保守思想史を網羅した稀有な本となっています。これから2016年の大統領選挙本番に向けて、アメリカ政治は盛り上がっていきます。一種のお祭り状態になる訳ですが、このアメリカメリ化政治を遠く日本から眺めるにあたり、もっと面白く見るための知識がこの本には詰まっています。是非、お手に取ってお読みください。

 

(終わり)

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野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23
 
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アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2015-12-09




アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です

 

 今回は、私が翻訳を致しました、ダニエル・シュルマン著『アメリカの真の支配者コーク一族』(講談社、2015年)を皆様にご紹介いたします。

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デイヴィッド・コーク(左)とチャールズ・コーク

 この本は、アメリカ政界において、その資金力で大きな影響力を持っている、チャールズ・コーク、デイヴィッド・コーク兄弟を中心としたコーク一族を日本で初めて紹介する内容となっています。

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チャールズ、デイヴィッド・コークが形成する政治ネットワーク

 

 以下に、欧米メディアに掲載された書評記事や紹介記事を掲載します。これらを参考にして、手に取っていただければ幸いです。宜しくお願い申し上げます。

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コーク兄弟はいかにしてアメリカの政治の風景を変えたか(How The Koch Brothers Remade America's Political Landscape

 

2014年5月21日

全米公共ラジオ(NPR National Public Radio

http://www.npr.org/2014/05/21/314574217/how-the-koch-brothers-remade-americas-political-landscape

 

チャールズ・コーク、デイヴィッド・コークの兄弟は、新刊『ウィチタの息子たち:コーク兄弟はいかにしてアメリカで最も強力なそして一族の王朝を作り上げたか』のテーマになっている。著者のダニエル・シュルマンは、コーク兄弟がアメリカの政治の風景を変えるために莫大なお金を投入してきた様子を描いている。彼らはリバータリにアニズムをアメリカの主流に押し上げようと努力してきた。

 

 コーク兄弟は自分たちの考えを支持する個々の候補者たちを支援するだけでなく、リバータリアン党でおいて重要な役割を果たし、ティーパーティー運動の立ち上げにも深く関わった。コーク・インダストリーズの創設者である彼らの父フレッド・コークは、極右団体ジョン・バーチ協会の創設メンバーであった。

 

 コーク・インダストリーズは全米で第二位の規模を誇る非上場企業である。年間1150億ドルの売り上げを誇り、全世界60カ国に展開している。チャールズとデイヴィッドは全世界で第6位にそれぞれランクされている大富豪である。

 

 ダニエル・シュルマンは左翼誌『マザー・ジョーンズ』のワシントン支局の上級編集者であり、同誌の調査報道ティームの創設メンバーである。シュルマンは全米公共ラジオの番組「フレッシュ・エアー」の司会者テリー・グロスに、コーク兄弟が現在の政治風景に如何に影響を与えているかを語っている。

 

●コーク兄弟の政治スタンスについて

 

 コーク兄弟の信奉するイデオロギーはリバータリアニズムである。彼らは現在、共和党におけるキングメイカーであると考えられているが、しかし、彼らの哲学は共和党の主流派と合わない部分が多い。例えば、コーク兄弟は戦争に反対している。彼らは市民生活においてはリバータリアンである。彼らは社会的に保守派ではない。デイヴィッド・コークは、同性愛結婚に賛成している。彼らは女性の性と生殖に関する権利(中絶など)に反対していない。コーク兄弟と現在の共和党で一致する点は経済問題についてである。彼らは経済的には保守派である。おそらく共和党主流派よりもより強硬な考えを持っているであろう。チャールズは過去に、政府の役割について、私的な所有権を守り、需要と供給の法則を維持するためだけに存在する、夜警国家であるべきだと発言している。

 

●コーク兄弟の政治的影響について

 

 オバマ政権下、コーク兄弟は政治的ネットワークを急速に拡大させていった。この拡大の理由の一つはオバマ大統領に対する保守派からの大規模な反撃が起きたことであった。コーク兄弟はこれをうまく利用したのだ。またもう一つの理由は、民主党はコーク兄弟を悪しざまに批判したことであった。これによって、多くの共和党の政治家たちがコーク兄弟の許に走ることになった。

 

 コーク兄弟と共和党との関係は良好なものではない。また、伝統的にそうであった。それは、コーク兄弟の政治スタンスは共和党と一緒ではないからだ。コーク兄弟はリバータリアンであり、共和党の政策に関しては少ししか同意できるものがない。しかし、民主党がコーク兄弟を悪しざまに罵ることで、彼らは保守派の中で知名度を上げていったのである。

 

●コーク・インダストリーズの規模について

 

 コーク・インダストリーズは巨大企業である。元々石油と肉牛牧場帝国からスタートした。しかし、そこから規模を急速に拡大していった。コーク・インダストリーズは石油化学企業である。世界第3位の実物資源の取引業者である。ジョージア=パシフィック社を所有しており、身近なブランドであるバラウニー、アンジェルソフトトイレットペーパー、ディクシー紙コップはコーク・インダストリーズの子会社が作っていることになる。ほとんどのアメリカ人はコーク・インダストリーズの名前を知らないであろう。アメリカ人のほぼ全ては毎日、彼らの作った製品に接していることもまた知らないのである。

 

●コーク兄弟の気候変動に対する立場について

 

 コーク兄弟はどんな規制にも全面的に反対している。彼らはこれまで規制というものを全く好まないでここまで来た。気候変動に対する政策について、彼らはその存在に疑義を呈するグループや組織に資金を提供してきている。彼らは気候変動とそれに関する規制について、彼らのビジネスモデルに対する大きな脅威である考えている。彼らは石油と石油化学の分野でビジネスを行っており、そうした規制は彼らのビジネスに大きく関わっているのである。彼らは気候変動の存在に疑義を呈しようとするグループに資金を出しているのである。

 

 デイヴィッドは科学的な人物である。私は、チャールズもそうだと考える。チャールズはMITで2つの修士号を所得した。1つは原子量工学の修士号だ。彼らは反科学的ではない。それでも、彼らは気候変動の存在を否定するために多額の資金を投入している。気候変動については化学的なコンセンサスが既に存在しているのであり、それに反対するために資金を投入することは間違っていると私は感じている。

 

●ティーパーティー運動創設におけるコーク兄弟の役割について

 

 彼らの思想の系譜を遡るとジョン・バーチ協会に行き着く。兄弟の父フレッドはジョン・バーチ協会の創設メンバーであり、チャールズも会員だったことがある。ジョン・バーチ協会は政府の全ての活動が社会主義につながるものだと考えた。そして、この思想の系譜はオバマ政権下でも姿を現した。これは何も突然にしかも偶然に起きたものではない。コーク兄弟は様々なシンクタンクに資金援助をすることで、知的な面での社会資本を長年にわたり整備してきた。そして、ティーパーティー運動の組織化と資金提供に関して言うと、コーク兄弟と深いつながりがある政治活動団体アメリカンズ・フォ・プロスペリティがティーパーティー運動組織化の最前線に立ち、運動を牽引したのである。従って、私はコーク兄弟がティーパーティー運動について重要な役割を果たしたと主張する。彼らが自分たちの関与を否定することは分かっている。

 

●チャールズ・コークがリバータリアニズム運動の創設者の一人であることについて

 

 私たちがリバータリアニズムについて語っている理由、そしてリバータリアニズムが人々の間で人気のあるイデオロギーになっている理由に、チャールズ・コークの存在が挙げられる。彼がリバータリアニズムに対してお金を使いだしたのは1960年代からで、その時から機関や組織を建設するという方法を継続してきた。

 

 1977年、チャールズ・コーク財団はケイトー研究所に代わった。ケイトー研究所は現在のリバータリアニズム運動における重要なシンクタンクとなっている。しかし、ケイトー研究所は、デイヴィッド・コークが兄チャールズのイデオロギー上のプロジェクトに参加するまではそうではなかった。本書執筆のために調査をして分かったことは、デイヴィッドとチャールズの慈善事業活動には大きな違いがあるということだ。デイヴィッドは文字通りの慈善事業家なのである。彼は医学研究や科学に資金を提供しているし、芸術分野でも多額の寄付を行っている。チャールズの人生をかけた目標はアメリカの政治文化を変え、リバータリアニズムを主流の思想にすることであり、そのために50年以上も活動を続けてきたのである。

 

●シュルマンがこの本を書こうと思った理由について

 

 2010年、コーク兄弟に対して公然と激しい批判が巻き起こった。私は彼らの出自、彼らの育てられ方、会社の起源、彼らの信奉するイデオロギーの起源を知りたいと思った。コーク家の物語を深く掘り下げていくにつれて、壮大な物語を、時には悲劇も含まれるが、発見した。そして、コーク家は多くの人々が考えているよりも重要な存在であること、彼らの影響力は将来にわたって続いていくであろうことを書きたいと思った。

 

(終わり)

 

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コーク兄弟に関する伝記、ダニエル・シュルマン著『ウィチタの息子たち』の書評

 

マティア・ゴールド(Matea Gold)筆

2014年5月24日

ワシントン・ポスト紙

http://www.washingtonpost.com/opinions/book-review-sons-of-wichita-by-daniel-schulman/2014/05/23/4bdbd3d4-e1e1-11e3-810f-764fe508b82d_story.html

 

 ダニエル・シュルマンは、コーク家に関する興味深い伝記を書き上げた。その書き出しは暴力に関する描写からである。1950年代のウィチタで、十代の少年である双子デイヴィッドとビルは田舎道の側で怒りにまかせてパンチの応酬を行った。

 

 このような家族間の暴力は『ウィチタの息子たち:コーク兄弟はいかにしてアメリカ国内最大の家族所有の大企業を作り上げ、有力な一族となったか』の中に繰り返し出てくる。このサブタイトルにもかかわらず、本書『ウィチタの息子たち』はコーク兄弟の企業複合体と政治ネットワークの分析よりも、四兄弟の間で起きた醜い争いに焦点を当てている。この争いのせいで、コーク家は20年にわたり分裂し続けた。

 

 シュルマンはリベラル系の雑誌『マザー・ジョーンズ』で働いている。彼は同誌のワシントン支局の上級編集者である。左派の多くの人々はコーク兄弟について悪意に満ちた人形使いだと漫画のキャラクターのように描き出している。しかし、シュルマンはコーク兄弟をそのようには描いていない。その代り、彼はコーク兄弟について深く調査し、洞察に溢れる描写を行っている。そして、彼らを形作っている個人的、政治的な力を明らかにしている。

 

 シュルマンは、コーク兄弟に最も大きな影響を与えているのは彼らの父親フレッド・コークだと書いている。フレッドは反共産主義を標榜しているジョン・バーチ協会の初期の指導者であった。フレッドは子供たちに厳しく接し、感情的なつながりなど持たなかった。フレッドは、スターリン時代のソ連でビジネスを行った経験から、熱心な反共主義者となった。フレッドのイデオロギーは子供たちにも伝わった。それがリバータリアニズムである。

 

 シュルマンは単刀直入な文体で、コーク帝国の起源について素晴らしい物語を紡いでいる。彼は、テキサス州クワナ生まれの若きフレッド・コークが、石油資源が豊かなカンザス州でエンジニアとして働き始めたところから物語を始めている。オランダ移民の子フレッドはある会社の株式を300ドルで購入し、その会社を石油精製企業に育てた。彼は賢い投資を行ったことで、莫大な富を作り上げた。フレッドはウィチタの上流階級の令嬢であったメアリー・ロビンソンと結婚したことで社会的地位を上昇させた。彼は新妻メアリーを7カ月に及ぶ世界一周の新婚旅行に連れ出した。

 

 フレッド・コークは健康問題を抱えていた。それでも彼は「カントリークラブにたむろする道楽息子たち」にしないと固く決心していた。

 

 シュルマンは次のように書いている。「彼は息子たちに乳牛の乳搾り、糞の掃除、溝の清掃、草刈りなどありとあらゆる仕事をさせた。この終わりのない仕事の連続は夏の時期には拷問のようであった。ウィチタの上流階級の子供たちは午後になればカントリークラブに行って遊んでいた。彼らの歓声が13番街の通りを隔ててコーク家の屋敷まで聞こえてきた」

 

 子供のころから、四兄弟は競争をさせられ、父フレッドに対しては全く違った対応をした。長男フレデリックは母と同じく芸術を愛好し、父からはすぐに疎まれ、後月の地位からは早々に脱落した。二番目の息子チャールズは10代の頃は悪ガキであったが、最終的には落ち着き、家族のビジネスを継いだ。双子であるデイヴィッドとチャールズは、父からけしかけられて子供のころから争い続けてきた。彼らは子供の時からボクシングのグローヴを着けて殴り合いをしていた。

 

 『ウィチタの息子たち』ではそのかなりの部分を使って、兄弟間のコーク・インダストリーズの支配権を巡る20年に渡る法廷闘争について丹念に描き出している。チャールズとデイヴィッド対ビル、時にフレデリックという構図であった。両方の争いは余りにも醜くなり果て、ある時には兄弟たちは私立探偵を調査員として雇い、お互いの生活についてほじくり合った。ビルが雇った調査員たちは「掃除人とごみ収集車の人たちにお金を渡して、チャールズ、デイヴィッド、そして彼らの雇った3名の弁護士たちの事務所と自宅のごみ箱を漁った」とシュルマンは書いている。

 

 家族はカンザス州トピーカの裁判所で陪審員たちの前で争った。それは1998年のコーク対コーク・インダストリーズ裁判でのことであった。裁判中、証言台に立ったデイヴィッドは双子の弟ビルが会社の実権を握ろうとして裁判まで起こしたことを残念に思い、涙を流した。チャールズとデイヴィッドが裁判に勝利したのだが、ビルは集まった記者たちに対して控訴すると宣言し、「彼らは詐欺師だ」と怒りをぶちまけた。

 

 兄弟たちは2001年に和解した。兄弟たちはビルが所有するパームビーチの邸宅で夕食を共にし、父親の遺した財産の分割について最終的な合意書に署名した。彼らが夕食を共にしたのは20年ぶりのことであった。

 

 コーク兄弟と彼らの政治活動について関心を持つ人々にとって、本書『ウィチタの息子たち』には、彼らがどのように政治に関与しているかについて大きな発見がないと思うことだろう。しかし、シュルマンはチャールズ・コークの政治的な立場の変遷について丹念に描き出している。彼は父フレッドが始めたジョン・バーチ協会のメンバーであった。彼の友人が家を訪ねた時、アーネスト・ヘミングウェイの『陽はまた昇る』を持っていた。チャールズは、「ヘミングウェイは共産主義者だから」と言って、友人の持っていた本をドアの外に置かせてそれから家に招き入れた。

 

 フレッド・コークは1967年に死去した。その後、チャールズはジョン・バーチ協会とヴェトナム戦争に対する支持を巡って争うようになり、絶縁した。彼はリバータリアニズムを信奉し、リバータリアニズム運動に対して資金援助を始め、1977年には新しいシンクタンクであるケイトー研究所を設立した。ケイトー研究所の設立は、後にコーク兄弟が完成させたシンクタンクと政治家の非営利組織のネットワーク作りの第一歩となった。

「コクトパス」という言葉は、リバータリアン党のある人物が、チャールズが党をカネで動かそうとしていると批判した時に使った言葉である。

 

 チャールズは政治への関与を深めた時、共和党を軽蔑していた。1978年8月に出された『リバータリアン・レヴュー』に掲載された4ページの論稿の中で次のように書いている。「共和党が私たちにとっての唯一の希望と言うことなら、私の未来はない。共和党は“ビジネス”の党であると標榜しているが、それは最悪の意味でのことである。彼らの言う“ビジネス”の党とは、補助金と政府とのつながりを意味するのである」

 

 チャールズは、正統リバータリアニズム思想を1990年代に入り、ますます信奉するようになった。それはこの時期、コーク・インダストリーズは数々の裁判で負け続けたからだ。コーク・インダストリーズの所有するパイプラインからガスが漏れたためにそれに引火して大事故となり、十代の若者が2名亡くなった事件の裁判では記録となる2億9600万ドルの賠償金の支払いが命じられた。

 

 シュルマンは「彼が実際に生きていた世界は彼が望むようなリバータリアニズムの楽園ではなかった」と書いている。それから突然、チャールズはコーク・インダストリーズは「全ての法と規制を1万パーセント守る」という方向に転換した。コーク・インダストリーズは、ロビー活動を活発化させ、ワシントンDCで行われる国政に関与し始めた。

 

 しかし、大きな転換点となったのは2008年の大統領選挙でバラク・オバマが当選したことであった。チャールズ、デイヴィッド、彼らのアドヴァイザーであるリチャード・フィンクは、新大統領が現代版のニューディール政策を推進することに恐怖感を持った。彼らは、オバマと同じ民主党のビル・クリントンがホワイトハウスの主であった時に行われた、コーク・インダストリーズに対する厳しい捜査が再び行われることがないようにしようと躍起になった。

 

 コーク兄弟は、彼らの旗艦とも言うべき政治団体であるアメリカンズ・フォ・プロスペリティを通じて政治への関与の度合いを高めた。アメリカンズ・フォ・プロスペリティはティーパーティー運動を組織し、発展させることに貢献した組織である。

 

 シュルマンはコーク兄弟は最初のうちアメリカンズ・フォ・プロスペリティの活動とは距離を取ろうとしていたと指摘している。コーク兄弟がスポットライトを浴びることになったのは、環境保護団体グリーンピースがコーク兄弟についてのレポートを出したからだ。シュルマンはこのレポートについて、「効果的ではあったが、誤解を招きかねない」ものであったと書いている。このレポートで、グリーンピースはコーク兄弟が右派の組織やシンクタンクに多額の資金を提供し、気候変動の存在そのものについて否定的な立場から議論させようとしていると主張した。

 

 2010年の中間選挙の間、コーク兄弟の名前はマスコミを賑わせた。コークという名前は忌み嫌われ、家族は表舞台に顔を出さないようになった。シュルマンは「コーク兄弟はオバマ大統領が主人公の人形劇の敵役と同じ存在になってしまった」と書いている。

 

 それから4年後、この構図は変わらずに続き、コーク兄弟の存在はアメリカ政治に関する議論の一つのテーマとなっている。

 

 シュルマンは2年以上をかけて「ウィチタの息子たち」について報道し、調査を行ってきた。そして、文書庫に遺されていた数千ページの文書を丹念に調べ上げ、コーク家に近い多くの人々に対してインタヴューを行った。しかし、チャールズとデイヴィッドは彼のインタヴューに答えることはなかった。

 

 本書は372ページの大部で、コーク家に関して細かい点まで言及している。シュルマンは、フレデリックは1959年に同性愛者組織に対して、ヨーロッパにある同性愛者たちが集まるバートレストランのリストを送ってくれるように依頼する手紙を発掘した。コーク家の友人たちはシュルマンに対してフレデリックは同性愛者であると語っているが、彼自身は否定している。シュルマンは、1つの章でメアリー・コークがある美学教授と、夫フレッドの死後の人生の後半生において深い関係になったことを詳細に描き出している。そして、彼はビルがたくさんの女性たちとの恋愛遍歴を細かく書いている。また、あるガールフレンドとの激しいファックスのやり取りをしていたことを具体的に書いている。

 

 しかし、『ウィチタの息子たち』の全体的なトーンは公平で豊富な内容となっている。シュルマンは、注意深く取材され分析された内容を私たちに提供することで、彼らの莫大な資金がアメリカ政治を劇的に作り変えた男たちについての私たちのイメージを刷新させることに成功した。彼は、コーク兄弟たちの目的と行動の理由、更に彼らに付きまとう欲望について明確に描き出している。

 

※マティア・ゴールド:ワシントン・ポスト紙で経済と政治を担当している。

 


(終わり)







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 
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