アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 日本の将来像を20年から30年先で表しているアメリカ社会で左派がどのように活動しているかについての記事をご紹介いたします。

 

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左派を再建したいですか?それなら社会主義について真剣に考えてみましょう(Want to Rebuild the Left? Take Socialism Seriously

―ネオリベラル的な経済政策とそれが生み出した格差が深刻化する30年間だった。私たちは今社会主義的理想が再生しているのを目撃している

 

クシュマ・サワント(Kshama Sawant)筆

3015年3月23日

『ザ・ネイション』誌

http://www.thenation.com/article/198425/socialist-politics-heart-rebuilding-left?utm_source=facebook&utm_medium=socialflow#

 

 2011年12月、シアトルのオキュパイ運動のキャンプの盛り上がりが退潮していっていた。この時、人々は次のように自問自答した。「次に来るのは何だ?」。この疑問は多くの人々に共有された。ニューヨークのザコッティ公園のキャンプでも同様であった。林立した点とは姿を消し、私たちの精神は捨て去られた。それでも何かしら力を得たという感覚はそのまま残った。

 

 オキュパイ運動は巨大企業に対する怒りと階級分裂の深刻化の認識を力強く主張していた。オキュパイ運動の成功の鍵は、オバマ大統領の当選に貢献した多数の若者たちの参加であった。彼らはそれぞれのアメリカンドリームの実現に向けての第一歩を記したばかりの人々だ。そんな彼らが直面したのは、大学の学位と引き換えにして得たのが多額の学生ローンと生活できないほどに低い賃金という現実であった。

 

 キャンプの中と外で、ウォール街の道徳面での破綻についての議論が戦わされ、それが資本主義の継続性事態に対する疑問に発展していった。資本主義の代替物に関する議論は、以前は行われていたがそれは姿を消していた。それが復活したのである。

 

 社会主義はこれまで何回も死を宣告されてきた。ベルリンの壁崩壊とそれに続く東欧諸国の「共産主義」体制の崩壊の後、世界の資本エリートたちはこれまでにないほどのレヴェルでイデオロギー的に攻撃的になった。彼らは社会主義に対してだけでなく、労働階級による団結しての闘争という考えに対しても追悼記事を書いた。

 

 ネオリベラリズムに基づいた自由を追求した政策が進められた最近の30年が過ぎて、格差がこれまでにないほど拡大したことで、階級に関する疑問が再び出てくるようになった。そして、社会主義思想における新たな利点が主張されるようになっている。2011年12月にピュー・リサーチ・センターの調査によると、18歳から29歳までの若いアメリカ人たちの半分が社会主義を積極的に評価しているという結果が出ている。

 

 オキュパイ運動が激化した冬、私の属する組織「ソーシャリスト・アルタナティヴ」で議論が沸騰した。2012年の大統領選挙を控え、大企業中心の政治に対する代替となるために、「ソーシャリスト・アルタナティヴ」はアメリカ全体99%の地域で選挙に候補者を擁立した。

 

 ここシアトルでは、ワシントン州下院議員選挙に社会主義的な「オキュパイ運動」の候補者として立候補した。アメリカの他の大都市と同じく、シアトルの政治の世界では民主党が独占的な地位を占めている。シアトルはアメリカで最も賃貸料の上昇スピードが速く、中心部の高級化が急速に進んでいる。その結果、富裕層がシアトル政治の中心となっている。私の選挙運動は、大企業中心のネオリベラル的な政治に対する賛成と反対を問う住民投票であった。私は率直に教育予算、公共交通予算、社会サーヴィス予算の削減に反対し、富裕層に対する課税強化と最低時給15ドルの導入を主張した。

 

 私は社会主義を主張した候補者としてここ数十年間で最高の得票数を記録した。そして、2013年にシアトル市議会議員選挙に立候補した。私は再び、反大企業的な要求を掲げて選挙運動を行った。賃貸料の規制、社会サーヴィスの完全無料化のために「百万長者に対する課税」、シアトル全体での最低時給15ドルを公約として掲げた。「ソーシャリスト・アルタナティヴ」に属する、既成政党に属さない独立系の立候補者として選挙運動を行ったのだが、現状維持的な大企業中心の政治に対する有権者の怒りを集めることができた。シアトルでは、市議会議員の議員たちは自分たちの給料を年12万ドルに設定している。これは、アメリカの大都市40の中で上から2番目の高給になる。私は大企業からの政治献金を受け取らず、私が市議会議員になったらシアトルの労働者の平均年収4万ドルしか受け取らないと公約した。私はまた、残りの8万ドルは各種の社会運動の構築のために使うと約束した。

 

 私の選挙運動には400名以上のヴォランティアの方々が参加してくれた。労働組合が支援してくれ、民主党左派の人々の間に支持基盤が広がっていった。更にはシアトル最大の独立系新聞『ザ・ストレンジャー』から強力な支持を得ることが出来た。そして、最低時給引き上げの雰囲気が醸成されていった。私が大企業の利益を代表しなければ、訴えた諸問題の解決することはできないはずであった。私以外の立候補者たち、ほとんどは民主党所属だったが、私が選挙運動で掲げた諸問題に触れることを徹底的に避けた。草の根運動の力がここで発揮され、ほとんどの政治家たちは選挙戦終盤の数週間で、私が訴えた諸問題について反応するようになった。そして、最低時給の引き上げを人々が求め、政治家たちは不熱心ながらも支持するようになった。

 

 今回、私は約9万5000票を獲得し、16年間にわたり議席を守ってきた現職を破り、当選することが出来た。定員9名のシアトル市議会には現在、民主党所属議員が8名、社会主義者の議員が1名属している。

 

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 私が選挙運動で訴えた諸問題解決に向けて多数派を構成する見通しは、市議会の外の、一般の人々と協力することがなければ全くない。しかし、市議会の中でたった1議席でも占めていることは、普通の人々の利益を増進させるためにはかけがえのないものとなる。

 

 市議会議員選挙から数週間して、ソーシャリスト・アルタナティヴと私は「15ナウ」運動を開始した。この運動は草の根運動で、シアトルの労働組合と共同して最低時給15ドル実現のために支持基盤を拡大しようとする運動である。2014年4月、3カ月の選挙運動と近隣共同体グループのシアトル市全体に張り巡らされたネットワークと共同して運動を構築の後、15ナウは「市条例修正」を市議会に提出した。シアトル財界のリーダーたちは11月に住民投票によって可決されることを恐れて、自分たちの敗北を限定的にするために、最低時給15ドル条例に賛成した。そして、この条例にはいくつかの落とし穴を彼らは設けた。

 

 条例に落とし穴(修正までの期間を長くする、チップを時給に含む、十代と障がい者に対する準最低時給)が設けられたのは、私たちの運動の努力に対する大企業側からの反撃の強さと民主党内部の複雑さを反映している。しかし、最終的には、富裕層からシアトルの10万人の低所得者に対して10年間で30億ドルを移転に成功したのである。

 

 大企業に対して比較的な運動の強さのおかげで、私が市議会議員になりたての1年目、次々と諸問題に対してこの同じ過程(広範な運動の形成)によって対処していった。私たちは「ピープルズ・バジェット」連合を形成し、社会サーヴィス向けの予算の増額を勝ち取った。その中には、女性ホームレスのための1年を通じたシェルター予算や野宿しているホームレスのための基本的なサーヴィス供給予算が含まれていた。私たちは給与の低い市職員たちの給料を合計で160万ドル分増額させ、労働法施行の強化を実現した。私たちは賃借人と地域共同体組織と一緒になって、低所得者向け住宅に対する、オーウェルの小説に出てきそうな悪夢のような攻撃と戦った。私たちはこれを「ステッピング・フォーワード」と呼ばれた。この攻撃はシアトル市住宅当局によるもので、5年間で家賃を4倍に引き上げるというものであった。アメリカ先住民の活動家たちを組織化して、私たちは「インディジェナス・ピープルズ・ディ」(アメリカ全体ではコロンブス・ディとして祝日になっている)を創設した。これは、植民地主義の下で行われた野蛮な暴力と大量虐殺に焦点を当て、アメリカ先住民共同体で今でも続く貧困化と孤立化に対する戦いの必要性を認識するためのものであった。私たちは抑圧的な課税、賃貸料の値上げ、気候変動、少年犯罪に対する運動を拡散し、支援する手助けをしている。

 

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 これらの前進全ては私たちが必要としている根本的な変化のほんの一部でしかない。低所得者向けの住宅を守ることに成功したことは大きな勝利であるが、私たちはさらに多くの住宅を建設しなければならない。社会サーヴィスのための予算を引き上げることは必要なステップであるが、さらに多くの人々が社会サーヴィスを必要としている。純粋な社会主義は社会全体を計画し、合理的で、民主的な、そして持続可能な基盤に基づいた経済を意味する。そして、環境を守りながら全ての人々に高い生活水準を保障することである。

 

 社会主義的なシアトル市政を発展させようとするいかなる試みも不可避的に資源と技術の面で制限がかかってしまう。また、地元以外からの政治的な攻撃も起きている。政治的な攻撃は最低時給15ドル実現に対して起きたように思われる。シアトルで最低時給15ドルが実現したことで、ワシントン州レヴェルでシアトルの最低時給条例を非合法化することを目的とする動きが起き、この条例は脅威に晒されている。社会主義者たちは、アメリカ全土、そして世界規模での労働者たちの相互依存からの強さを引き出すことで、これらの諸問題を乗り越えることが出来る。

 

 アメリカの左派は共和党と民主党の外側に構築されねばならない。民主、共和両党の指導者たちは繰り返し、超富裕層と資本主義システムを擁護するために努力すると表明している。両党から独立した労働者階級の力を構築することでのみ進化が起きるのだ。

 

 今年もまた経済格差、人種と性別に基づいた抑圧、警察の暴力、気候変動に対する闘争が継続されるだろう。こうした問題に直面して、私が市議会議員として得た経験が社会主義を現実政治に活かすために役立てると希望を持っている。アメリカの労働組合の再建にも役立つと考える。

 

 私たちが勝利を得るには、左派が労働者階級と虐げられた人々の利益を擁護するかどうかにかかっている。どれほど支配エリートが受け入れられ、資本主義と共存できるかということに関係なく、左派は労働者階級と虐げられた人々の利益をしっかり守ることが大切なのだ。

 

 これが政治に対する社会主義的アプローチの重要な要素なのである。

 

(終わり)