古村治彦です。

 

 今年に入って、中国・上海郊外の義烏市からロンドンまでの貨物輸送鉄道が開通したそうです。7500マイル(約12000キロ)を16日間でつなぐというものだそうです。

 

この鉄道線は、中国が2011年に発表した「一帯一路(One Belt, One Road)」構想の一環であり、この一帯一路構想は、シルクロードと海のシルクロードの再構築、という中国のユーラシア大陸とアフリカ大陸、インド洋を「獲得する」ための大構想です。

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 以下に紹介する文章にもありますが、太平洋でアメリカと日本から受ける圧力を受け流すために、後背地として中央アジア、そして遠くヨーロッパ、アフリカまで包含する大構想です。 

 

 一帯一路構想は鉄道だけではなく、道路やパイプライン、航路でもつながるということであって、まさにこれから、「ユーラシアの時代」がやってくるという予感がします。
 


(貼りつけはじめ)

中国の「新シルクロード」急行、出発進行(
All Aboard China’s ‘New Silk Road’ Express

:太平洋からロンドンまでの中国の鉄道は、アメリカとの関係が緊張を増す中でヨーロッパ志向になっていることを示す

 

ロビー・グレイマー筆

2017年1月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2017/01/04/all-aboard-chinas-new-silk-road-express-yiwu-to-london-train-geopolitics-one-belt-one-road/?utm_content=buffer9f622&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

中国の「新しいシルクロード」は輝かしい新しい道を獲得した。中国東部の浙江省からロンドンまでつなぐ鉄道サーヴィスが始まる。中国鉄路総公司は1月2日に、上海市郊外で人口100万を抱える都市である義烏市から初めて貨物輸送列車が出発したと発表した。これは、物流における素晴らしい企てだ。この鉄道は全長7500マイルを誇り、16日間をかけてヨーロッパ各国の大都市や首都をつなぐ。

 

より重要な事は、義烏・ロンドン鉄道線は、中国の「一帯一路」政策という地政学的な野心をあらわにするものだ。この一帯一路政策は、中国と中央アジア、中東、ヨーロッパを繋いだ古代の貿易ルートである「シルクロード」を再び作り上げることを目的にしている。アメリカは中央アジアに安全保障をもたらそうという野心を持っている。そして、米中の貿易関係が悪化し、ドナルド・トランプ次期大統領と彼の政権移行ティームが示しているように、中国に対して厳しい姿勢を取っている。この「新しいシルクロード」は、中国にとってより重要性を増すものとなる。

 

古い貿易ルートであるシルクロードを通じてアジアとヨーロッパを繋ぐという中国の目標は、「ベルト・アンド・ロード・イニシアティヴ」など多くの名前で呼ばれている。これは、世界人口の60%を占める65の国々の間で貿易がやりやすくするということなのである。中国は鉄鋼やセメントといった主要な産業部門で生産力過剰に苦しんでいる。そこで、中国は経済を健全なペースで成長させるために必要な新たな市場を探している。

 

ブルガリアの財務大臣や世界銀行幹部を歴任したシメオン・デジャンコフは、「中国は、自国の労働力と建設資材を輸出しているのだ」と述べている。

 

また、中国の国営銀行はそれぞれ、輸送と建設インフラのために2500億ドルの融資を行っている。ピーターソン国際経済研究所の報告によると、「一帯一路」プロジェクトに対する投資は最大で4兆ドルにまで達すると見込まれている。

 

この鉄道はお金の面だけではなく、中国の外交政策にとっても僥倖である。オランダ国際関係研究所の欧中関係専門家であるフラン=ポール・ヴァンダー・パッテンは、「新しいシルクロードは、中国が外交政策面で持っている多くの目的を混合して含んでいる」と述べている。ヨーロッパと環インド洋地域のエネルギー、鉄道、港湾に対する中国の投資は、経済的な利益よりも地政学的な利益を中国にもたらす可能性が高い。

 

ヴァンダー・パッテンは「投資によって、中国はアジア、アフリカ、ヨーロッパでの外交的な影響力を強めることができる。東アジア地域でアメリカと日本から受けている地政学的な圧力に対してそれで対抗することができる」と述べている。

 

中国は、アメリカとの関係が緊張感を増していく中で、ここ数年、国内消費を増加させようとしているが、現在でも輸出に依存している。このプロジェクトは中国にとってさらに重要になっていくことだろう。トランプは自由貿易を声高に批判し、自分の周りに中国を叩く経済学者や貿易に関するアドヴァイザーを集めている。彼らは中国がアメリカ経済を苦しめていると非難している。このことは中国の指導者たちを心配させている。アメリカ貿易通商代表部によると、2015年の米中の貿易関係は合計で6594億ドルに達するものとなっている。

 

アメリカが関税率を上げ、通貨戦争を起こすようなことがあると、ヨーロッパに向けた新しいシルクロードは、中国にとっての格好の避難所となるだろう。

 

デジャンコフは次のように述べている。「トランプ次期政権が貿易面で厳しい態度を取ると、中国は、“ヨーロッパは我々にとっての主要な貿易パートナーである”と言ってインフラを建設することになるだろう」。

 

鉄道輸送サーヴィスは大量輸送の面で最も効率的な輸送方法ではない。しかし、中国鉄路総公司は、ドイツのハンブルク、イタリアのミラノ、スペインのマドリッド向けの鉄道輸送サーヴィスを提供している。義烏・ロンドン鉄道線はコンテナ200個しか輸送できない。巨大な輸送船ならば2万個のコンテナを運べることを考えるとこの数は大変に小さい。しかし、ある種の財物であれば十分に利益を出せるものである。

 

イギリスに本社を置く輸送サーヴィス会社ブリューネル・プロジェクト・カーゴ社のマイク・ホワイトは、「ロンドンまでの鉄道輸送は、海上輸送に比べて半分の距離で済み、空路輸送に比べてコストを半分にできる」と述べている。ブリューネル・プロジェクト・カーゴ社は義烏・ロンドン鉄道線に参加している。ホワイトは、「義烏・ロンドン鉄道線の実現によって、中国との輸出入にかかわる輸送業者や荷主の多くが輸送方法について考え方を変えることになるだろう」と述べている。

 

義烏・ロンドン鉄道線は象徴的な記念碑的事業となっている。前出のデジャンコフは、「“一帯一路”構想が2011年に初めて発表された時から、この構想はヨーロッパの中心とロンドンにつながることを目的とした計画となって具体化したし、それが実現しつつある」と述べた。

 

経済大国であるイギリスは、2014年だけで6630億ドル分の輸入を行った。イギリスは、中国の輸出を基盤とした経済にとって魅力的な対象となる。ここ数年、中国はイギリスの産業とエネルギーに対する投資を増加させている。そして、中国は少なくともつい最近までは、世界第二位の経済大国への経済的なアクセスを熱望するイギリスの指導者たちから熱烈な歓迎を受けた。EU離脱後にヨーロッパとの貿易における優位を失う可能性が出てきたことで、イギリスは、中国との貿易関係を更に深めたいという希望を持つようになるだろう。

 

「一帯一路」はただ鉄道だけのことではない。「帯」は中央アジアを貫く道路とパイプラインを含む陸上のつながりを意味するものだ。「路」は、中国産の絹をローマ帝国各地の市場に送るためにインド洋で開拓された古い海のシルクロードを再び作り出すことを意味している。

 

しかし、中国の習近平国家主席は鉄道投資を最優先政策としている。国有鉄道に2020年までに5030億ドルを投資し、規模を拡大して、新たな輸出市場につなげようとしている、とブルームバーグは報じている。デジャンコフは「鉄道は新しいシルクロードにとって最重要の構成要素となる」と語っている。

 

迎える側となるヨーロッパは、義烏・ロンドン鉄道線が提供するであろうサーヴィスについて歓迎している。特に経済的に遅れていて、輸送、エネルギーなどに投資を必要としているヨーロッパ内部の周辺部は熱いまなざしを向けている。

 

ヴァンダー・パッテンは、中国の新たな鉄道ザーヴィスによって資金を得られることになるので、「ヨーロッパ各国の政府と企業は鉄道サーヴィスに対して大きな期待を持っている」と語っている。

 

(貼りつけ終わり)

 

(終わり)



アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22