古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ジェイムズ・ベイカー

 古村治彦です。

 

 先月末、第41代アメリカ大統領ジョージ・H・W・ブッシュが94歳で亡くなりました。若い人の中には、第43代アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュの父として認識している人も多いと思います。父ブッシュに関してはネガティヴなイメージが付きまといます。現職大統領で二期目を目指すも落選(ビル・クリントンが勝利)しましたし、何より、日本訪問中に晩さん会で卒倒する姿が報じられたことで、弱いイメージがついてしまいました。

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晩さん会での様子
 

 今回ご紹介する記事は、ジョージ・H・W・ブッシュを正当に評価した内容になっています。父ブッシュは共和党内部やマスコミから「弱虫」、「ヴィジョンもなくただただ慎重すぎる」という非難を浴びていました。湾岸戦争時にイラク軍に占領されたクウェートからイラク軍を撤退させ、そのままイラクに侵攻し、サダム・フセインを追い落とすこともできたはずですが、すぐに停戦しました。父ブッシュ政権に参加していたネオコン派(息子ブッシュの政権では最高幹部クラス)が大きく失望し、激怒しました。父ブッシュの慎重さを長男であるジョージ・Wも父の決断を激しく非難したという報道もなされました。


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父ブッシュと話すオバマ

 拙著『アメリカ政治の秘密』にも書きましたが、ジョージ・H・W・ブッシュを正当に評価していたのは、バラク・オバマ前大統領です。オバマ自身が、自分の目指す外交は、ジョージ・H・W・ブッシュ時代の外交だと述べたこともあります。共和党と民主党で所属政党は違いますが、共和党内のタカ派、ネオコン派よりも、オバマ大統領の方がはるかに父ブッシュを評価していました。アメリカ政治における派閥、グループに関しては、是非拙著『アメリカ政治の秘密』をお読みください。父ブッシュ政権の慎重な姿勢には、ジェイムズ・ベイカー国務長官の存在も大きく影響しました。経済が低調だったこともあり、父ブッシュは現職大統領でありながら、選挙に敗れるという恥辱にまみれました。

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ジェイムズ・ベイカーと父ブッシュ
 

 父ブッシュを破って大統領となったビル・クリントンはたびたび問題を起こし、また、下に掲載した記事にある通り、旧ソ連、ロシアに対して傲慢な態度を取りました。また、これは、妻であるヒラリー・クリントンにも引き継がれているのですが、外国の「民主化」を金科玉条のごとく掲げ、他国に介入するという驕慢さでした。クリントンの後には、息子ブッシュが当選し、アメリカ史上初めての親子での大統領となりましたが、彼の政権はネオコン派に牛耳られ、こちらもテロとの戦いと「民主化」を掲げ、海外で泥沼にはまる結果となりました。ヒラリーたち人道的介入主義派と息子ブッシュ政権内のネオコン派がアメリカの苦境を生み出したと言えます。それに対する反対の波がオバマを大統領に当選させたということになります。そのオバマが尊敬したのが父ブッシュであったということは皮肉であり、かつ当然のことと言えるでしょう。

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バーバラ夫人、父ブッシュ、ミシェル夫人、オバマ
 

 慎重で地味な姿勢はどうしても評価が低くなってしまいます。しかし、それを貫くということは、なかなかできることではありません。ある種の強さがなければできないことです。そういう意味では、ジョージ・H・W・ブッシュは強い人物だと言えるでしょう。そうしたジョージ・HW・ブッシュ元大統領の再評価はアメリカ国内でももっと進むことになるでしょう。

 

(貼り付けはじめ)

 

ジョージ・HW・ブッシュの誤解された大統領時代(George H.W. Bush’s Misunderstood Presidency

―第41代米大統領は思慮深かった。しかしかつては弱腰と嘲笑された。しかし、このような嘲笑を今でも覚えている人は少なくなった。

 

マイケル・ハーシュ筆

2018年12月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2018/12/01/george-h-w-bush-misunderstood-presidency-death/

 

それは1992年1月に起きた。アメリカは冷戦に続き湾岸戦争を勝利した。1か月後の1992年2月にソヴィエト連邦は公式に解体した。しかし、この当時のアメリカでは、勝利の高揚感の雰囲気は全くなかった。勝利の高揚感は後々出てくることになる。アメリカ経済は不況に見舞われ、そのためにブッシュは、10か月後の大統領選挙に敗北し、現職大統領だったにもかかわらず二期目を迎えることが出来なかった。第41代大統領ブッシュ自身は、サダム・フセインに対しては勝利を収めることが出来たがそれだけでは不十分で、経済面でより指導力を発揮しなければならないことを分かっていた。この当時、日本叩きが最高潮に達し、「アメリカの仕事はアメリカ人に」という言葉が時代の雰囲気を表わしていた。ポール・トソンガス連邦上院議員は1992年の選挙で「冷戦が終了し、勝利していたのは日本だった」と訴えた。

 

アメリカ製の自動車は世界中で売れ行きが悪く、特に日本ではそうだった。そこで、ブッシュは自動車会社のビッグ・スリーの代表者を引き連れて東京を訪問した。しかし、目的を達することは出来なかった。これがブッシュ大統領の一期のみの任期の終わりの始まりとなった。今でも人々の記憶に残っているイメージは、失敗に終わった東京における首脳会談で起きた出来事だ。長身の貴族然としたブッシュが公式晩さん会の席上で倒れ、日本の宮澤喜一首相から介抱を受けている姿だ。ブッシュは当日、テニスをプレーして脱水症状を起こしてしまった。そして、夕食会の乾杯で卒倒した。ブッシュの姿はアメリカの消化不良と過労を象徴するものとなった。

 

ジョージ・HW・ブッシュ元大統領は今週金曜日に94歳で亡くなった。ブッシュ元大統領に関しては、上記のような姿で人々に記憶されている。ブッシュ元大統領の時代は、ロナルド・レーガンとビル・クリントンに挟まれた、弱い大統領の奇妙な4年間だった。この4年間は冷戦終結とブッシュ元大統領が命名した「新しい世界秩序」の開始の時代であった。ブッシュ大統領が弱かったという評価は公平なものではない。ブッシュの評価となっている「弱さ」は、最高指導者の賢明な慎重さを示すものであって、このおかげで時代の転換を成功させ、時代の変化の中でもアメリカの優位性と世界の安定を維持することが出来たのだ。

 

ブッシュはよそよそしい、ワスプの典型的な人物として記憶されている。「サタディ・ナイト・ライヴ」でコメディアンのダナ・カーヴィーがブッシュ大統領を風刺した姿そのもの(コントの題名は「そんなに臆病にならないでよ!」)であった。また、私が所属していた雑誌『ニューズウィーク』誌が表紙にブッシュ大統領の姿と共に掲載したタイトル「“弱気の虫”と戦う(Fighting ‘The Wimp Factor)」もまた、ブッシュ大統領が弱い人物であったというイメージを人々に植え付けた。この言葉についてブッシュ家は今でも許していない。父ブッシュは第二次世界大戦の英雄なので、ブッシュ家が許さないのも当然だ。

 

ブッシュは第一次イラク戦争を勝利に導いた大統領として記憶されている。しかし、開戦から100時間で停戦し、アメリカ軍をバグダッドまで進軍させることはなかった。その当時、ブッシュの決断は多くの人々からは屈辱だ、ととらえられた。ブッシュの長男ジョージ・W・ブッシュは、1992年の大統領選挙で敗北した父に対して、過度に慎重すぎたために敗北したのだ、と非難したと報じられたことがある。サダム・フセインは権力を握り続け、父ブッシュはその翌年に自身の決断を正当化するために奔走することになった。父ブッシュは1999年に湾岸戦争に従軍した元兵士たちたちを前にして次のように説明した。「バクダッドまで進攻してイラクを占領すれば、アメリカは占領軍となる。アラブ人の土地でアメリカは孤立する。味方は誰もいないということになる。そうなれば結果は悲惨なものとなっただろう」。

 

もちろん、ブッシュ元大統領の思慮深さは正しかった。ブッシュ(父)大統領の言葉は、この当時、父の下で働いていた息子ジョージ・Wに対しての助言でもあったのだが、ジョージ・Wとアメリカが持ち続けた屈辱感があったために、父ブッシュの助言は聞き入れられることはなかった。ジョージ・W・ブッシュ大統領が、アフガニスタンにおけるアルカイーダ掃討作戦も終了していないうちに、イラクの「民主政体への転換」を目指して、イラクに侵攻し、占領するという決断を行ったことは、アメリカ史上最悪の戦略上の間違いと言っても差し支えないであろう。父ブッシュは息子の決断が史上最悪の間違いとなることを言い当てていたように見える。2003年のイラク侵攻直前の夏に、父ブッシュは『ウォールストリート・ジャーナル』紙に寄稿した論説の中で、ジョージ・Wにイラク侵攻を思いとどまるように主張した。論説の著者は、父ブッシュの大統領時代の国家安全保障問題担当大統領補佐官であり、分身とも言うべきブレント・スコウクロフトであったが、父ブッシュは論説に手を入れて完成稿にしたと多くの人々が考えた。

 

論説は「現在の状況でイラクを攻撃することは、イラクにおけるテロリスト組織を完全に破壊できない限り、私たちが現在取り組んでいる世界規模のテロリストとの戦いを大きな危険に晒すことになるだろう」という言葉で締めくくられている。

 

この言葉はそれから15年間の出来事を的確に示す碑文となった。

 

父ブッシュは今でも保守的なタカ派から疑惑の目を向けられている。冷戦終結に対処するにあたり、「彼は保守的な人物というにはあまりに穏健に過ぎた」というのが彼らの主張である。東ヨーロッパのソ連の影響圏とソ連自体が崩壊するという事態に直面した時、ブッシュとスコウクロフトはまた慎重さを発揮した。レーガン大統領のように華々しく勝利演説を行う時ではなかった。冷戦からの移行を「掌握し管理」しなければならなかった。それには相応の理由があった。崩壊したソ連から独立した各共和国から数千発の核兵器が流出していたのだ。ブッシュは、旧ソ連の民主的な体制への移行を促進するのではなく、スローダウンさせた。そして、ソ連最後の指導者となったミハイル・ゴルバチョフ、民主的に選ばれた彼の後継者ボリス・エリティンと協力して、内戦や危険な大量破壊兵器の拡散を引き起こす無秩序を回避しようと努力した。

 

繰り返すが、タカ派は激怒した。ウクライナでソ連軍の撤退に関する国民投票の準備が進められていた1991年8月1日、ブッシュはウクライナで演説を行い、その中で、「自滅をもたらすナショナリズム」に対して警告を発した。『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニスト、ウィリアム・サファイアはこの演説を「チキン・キエフ」演説と呼んだ。ブッシュは再び、「ヴィジョン」のないただただ慎重すぎる人物というレッテル貼りがなされた。

 

それから数十年が過ぎ、この父ブッシュの行動は、過度な慎重さと言うよりも先見の明の結果であったということが明らかになっている。アメリカの勝利の高揚感が20年続いたが、これはレーガン大統領でもブッシュ大統領でも、共和党所属の大統領が持たしたものではなかった。それは、民主党所属のビル・クリントン大統領のNATOをロシア国境まで拡大するという決断によってもたらされた。クリントン政権は1990年代初頭にロシア政府に対して自由市場に関する横柄な助言を数多く押し付けた。ロシアは「民営化」の時代となった。ロシアの一般国民はこれを「横領化(grabitization)」と呼んだ。民営化の結果は捻じ曲げられ、オリガルヒによる経済支配のドアを開くことになった。NATOの拡大、民主的資本主義のすばらしさを吹聴する単純な「歴史の終わり」メッセージを受けて、ロシア国内ではそれらに対する反発と西側の意図に対する疑義が大きくなっていった。この結果として、ロシア・ナショナリズムの旗の下でウラジミール・プーティンは権力を確固たるものとした。プーティンはロシア・ナショナリズムを利用してクリミア併合とウクライナ東部への侵攻を正当化した。

 

2016年の米大統領選挙への介入を計画した時、プーティンは、これは2014年のウクライナの選挙に対するアメリカの介入に対する報復なのだと考えたに違いない。当時のヴィクトリア・ヌーランド国務次官がウクライナの選挙の候補者たちを操る様子がテープに録音されていた。プーティンは2011年と2012年のロシアの選挙について考えたことだろう。この当時、ヒラリー・クリントン国務長官の下で、アメリカ政府の資金提供を受けた非政府組織が反プーティンのデモを称賛した。

 

アメリカ政府が独善性を弱め、ジョージ・HW・ブッシュに倣いもう少しだけ注意深くあれば、状況はより良い方向に進んでいたことだろう。

 

ジョージ・HW・ブッシュを際立たせているのは、彼の政治における勇敢さであった。いくつかの例外を除いて、彼は政策を政治によって歪めるということを拒絶した。1988年の大統領選挙で、民主党の大統領候補マイケル・デュカキスに対して、ウィリー・ホートンをテーマにした攻撃的CMを流したが、これは 例外的な行動である。このCMの内容は私たちが現在直面し、知りすぎるほど知っているアメリカの人種差別と恐怖心を煽るものであった。父ブッシュはイラクとソ連について、タカ派と勇敢に対峙した。彼の主張とやり方が正しかったことは証明されている。また、国内政策についても彼は圧力をはねのけた。1980年の米大統領選挙の共和党予備選挙で、ブッシュはレーガンに挑戦した。その際、サプライサイド経済学派の減税を行え、それでうまくいくという熱狂的な主張を「ヴードゥー経済学」とこき下ろした。これについても父ブッシュの主張は正しかった。

 

父ブッシュは常に先読みが出来る人であった。父ブッシュは、かつて述べたように、大統領が人々の支持を集めるには「ヴィジョンのように見えるもの」が必要だということを認識していた。彼は、人々が「湾岸戦争では不十分な勝利しか得られていない、サダム・フセインは権力の座に就いたままで、イラク国内のクルド人とシーア派を見捨てた」と言い出すことを分かっていた。父ブッシュは常に彼の決断は間違っていたと後悔していた。 彼は税制に関して中途半端であれば深刻な政治上のトラブルを引き起こすであろうということは分かっていた。そこで、増税はしないと公言した。「私の言うことをよく聞いてください!」と父ブッシュは大見得を切ったが、これを彼は終生悔いていた。しかし、結局造成するという決断を下した。彼は自身が正しいと考えたことを実行しただけのことだ。それは、レーガン時代に積みあがった巨額の財政赤字削減に取り組むことであった。

 

結局のところ、父ブッシュは世界を黒と白に分けるよりも、灰色として見ていたようだ。彼は規律や秩序を重んじる人物であったが、確実性に欠けた人物のように見られてしまった。

 

しかし、実際のところ、世界においては白黒はっきりつけられることは少なく、ほとんどが灰色だ。そんな中でも一つだけ確かなことがある。それは、指導者としてのジョージ・HW・ブッシュの謙虚さと慎重さが現在のワシントンにとって必要なものとなっているということだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 2016年5月18日、共和党の米大統領選挙候補者(nominee、ノミニー)に決まっているドナルド・トランプが、ニクソン大統領の国家安全保障問題担当補佐官、フォード大統領の国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャー(92歳!)の家で会談を行ったそうです。18日の午後3時にトランプがキッシンジャーの邸宅を訪問し、1時間にわたり、膝を突き合わせて会談したそうです。それまでは何度か電話で会話をしたそうですが、今回、トランプのたっての希望で会談が実現したということです。

 

 一つ目の記事はアメリカのテレビ局NBCのサイトにアップされたもので、トランプとキッシンジャーの会談が行われた事実を簡潔に報道している内容です。

 

 この記事で重要なのは、三段落目で、トランプが北朝鮮の金正恩朝鮮労働党最高委員長と核拡散防止のために会談することには「やぶさかではない」と発言したこと(五月一七日火曜日、ロイター通信とのインタヴューで)が取り上げられています。「このようなトップ会談が行われることになれば、アメリカの対北朝鮮政策の大きな変更を意味することになるだろう」と記事で書かれています。トランプの「奇抜な」発言(メキシコ人は強姦をする、メキシコ国境の壁を作れなどなど)は数多くありますが、なぜこの発言が行われた後にキッシンジャーと会談をしたのかということを考えねばなりません。

 

 二つ目の記事はインターネットの独立系サイトの記事です。この記事で、キッシンジャーについては、ヒラリー・クリントンの師匠(mentor、メンター)で、国際関係論におけるリアリズムの大家であって、同時にヴェトナム戦争拡大に関与した「悪者」だと書かれています。そして、現在では中国の専門家で、米中国交正常化以降、密接につながっていたことが書かれています。

 

 北朝鮮は中国にとっては複雑な存在です。朝鮮戦争で援朝義勇軍を送って以降、知野同盟関係を結んできた国ですが、東アジアの平和と安定を望む現在の中国にとって、不確定要素となる北朝鮮の存在は厄介です。潰れないために支援をしなくてはいけませんが、自分たちの言うことを聞かない厄介者という存在です。北朝鮮が周りを悩ませている(bothering、ボザリング)のは、核兵器開発を行っているからです。そして、この核兵器開発の原点は、「自国の存在(と金日成の家系)が外国、特にアメリカから攻撃されてしまう」という恐怖感と、「核兵器があれば抑止力になるし、アメリカとの交渉材料になる」という計算です。北朝鮮は激しい言葉遣いの中にも、「アメリカと交渉して、国家の生存を認めてもらって、支援も受けたい」という意思を明確に表明しています(静岡県立大学の伊豆見元[いずみはじめ]教授の著作等をご参照ください)。

 

 私は、オバマ大統領の外交姿勢と考えからすれば、キューバとイランとの関係正常化を行ったのであれば、次は北朝鮮だろうと考えています。そして、ホワイトハウスの外交担当の人事からその兆候が見られるということを文章にしました。

 

※「副島隆彦の学問道場」内「今日のぼやき・会員ページ」(「副島隆彦の学問道場」の会員の方がアクセスできるページ)

「「1513」 最終第4クォーターに大攻勢をかける意気込みのバラク・オバマ米大統領 古村治彦・記 2015年2月24日」

http://www.snsi.jp/tops/boyaki/1804

 

 トランプとバラク・オバマ大統領の外交路線はよく似ています。トランプはアイソレーショニズム(Isolationism、国内問題解決優先主義)、アメリカ・ファースト(America First、アメリカ国内のことをまず最優先に考えよう、アメリカが世界一という意味ではない)の観点から、アメリカの積極的な海外への介入に反対しています。一方、オバマ大統領は、リアリズムの観点から、やはりアメリカの海外介入には消極的です。ですから、2人が考えることは同じではないかと私は考えます。そして、今回のトランプの「金正恩と話す」発言です。

 

 ちなみに、中国中央電子台のツイッターによると、2016年5月18日、中国外交部は、トランプが金正恩と話しても良いという意向を持っていることに関して、これを支持すると表明しました。(https://twitter.com/cctvnews/status/732907099919785984

 

 こうしたことから、トランプはアメリカにおける中国の代理人であるキッシンジャーと北朝鮮問題について話したということが考えられます。トランプはキッシンジャーから中国の意向を聞き、キッシンジャーはトランプから外交政策についての考え方を聞き出し、助言を与えたものと思われます。そして、トランプから聴取したことを中国に伝えるのだろうと思われます。

 

 ヒラリーは金正恩と話すなんてことは考えないでしょう。圧力をかけ続けて、最終的には米軍の力で北朝鮮の人々を救いだしたいと思っているでしょう。しかし、そうなれば、北朝鮮と領土を接している中国にも大きな影響が出ますし、東アジアの情勢も不安定となるでしょう。だから、中国としては、「意外に話せる」トランプに好感を持っていると思われます。

 

 トランプは先週、こちらも共和党系の外交分野の大物、ジェイムズ・ベイカーと会談を持ちました。ベイカーはロナルド・レーガン大統領時代の財務長官、次のジョージ・HW・ブッシュ大統領(父ブッシュ)政権では国務長官を務めました。ベイカーもキッシンジャーと同じくリアリズムの系統に属しています。ベイカーは、先週の木曜日に、連邦上院の委員会に証人として呼ばれました。この時に一緒だったのは、民主党系、オバマ大統領の国家安全保障問題担当補佐官だったトム・ドニロンです。ベイカーは、トランプの名前に直接言及しない形で、「NATOがない世界、より多くの国々が核兵器を持つ世界は、現在よりもより安定しない世界になるだろう」と述べました。トランプは、NATOが時代遅れの存在である、日本や韓国が自国防衛のために核兵器を持つことを容認する、と発言しています。

 

 ベイカーは議会に出席した後、トランプと会談を持ったということです。会談内容については分かっていません。ベイカーは「核拡散に対してアメリカはその防止のために努力してきた。その戦いを止めるべきではない」と議会証言の中で述べました。

 

 私は、トランプがベイカーの発言と会談でのアドヴァイスを受けて、金正恩と話しても良いという発言をして、それにキッシンジャー(と中国)が反応したと考えます。ベイカーが国務長官として仕えたジョージ・HW・ブッシュ大統領は2期目を目指す選挙で、ビル・クリントンに敗れたために、「現職大統領なのに、人気が落ちて選挙に負けた」という負のイメージがついてしまいました。興味深いことに、バラク・オバマ大統領は、この所属政党の違う人気のない大統領であった父ブッシュの外交政策を賞賛し続けています(裏を返せば、父ブッシュを破ったクリントン政権の外交は賞賛していません)。父ブッシュの外交政策を担ったのがジェイムズ・ベイカーということになります。

 

 トランプは本選挙に向けて、ペースとイメージを変えようとしています。変な譬えかもしれませんが、暴れん坊の不良学生が態度を改めると、不良仲間からは嫌われるでしょうが、大方の人たちは好感を持ちます。トランプもそのような感じになっている、不良学生がきちんとしようとして、尊敬すべき先生たちの話を聞きに行っているという動きになっています。

 

 このしたたかさと柔軟性と頭の良さを見落としていたことを改めて反省したいと思います。

 

(記事転載貼り付けはじめ)

 

●「Trump and Kissinger Hold Foreign Policy Huddle in New York

 

NBC News  2016/05/18

by KATY TUR and ALI VITALI

http://www.nbcnews.com/politics/2016-election/trump-kissinger-hold-foreign-policy-huddle-new-york-n576336

 

Donald Trump met with Secretary of State Henry Kissinger in New York on Wednesday, the latest in his efforts to strengthen his foreign policy bona fides.

 

Trump's motorcade rolled into Kissinger's home around 3 p.m. where the low-profile meeting that lasted about one hour. Trump aides say the presumptive GOP presidential nominee and 92-year-old diplomat have spoken over the phone multiple times, and Trump requested the face-to-face.

 

The gathering follows Trump telling Reuters he "would have no problem" speaking to North Korean leader Kim Jong Un to prevent nuclear proliferation. Such a conversation would mark a major shift in US policy towards Pyongyang.

 

Trump met with another well-known GOP diplomat, James Baker, last week.

 

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●「Trump Turns to Clinton Mentor for Foreign Policy Advice

 

Independent Voters News

May 18, 2016 By Andrew Gripp in Campaigns

http://ivn.us/2016/05/18/henry-kissinger-trump-clinton/

 

On Wednesday afternoon, presumptive GOP nominee Donald Trump met with Henry Kissinger, the former secretary of state and national security advisor to presidents Nixon and Ford, to discuss foreign policy.

 

The meeting comes after a series of controversial interviews that Trump had on the subject of foreign policy, including with the Washington Post and The New York Times in March. In an interview with Reuters published on May 17, Trump raised eyebrows with his comments about his willingness to talk to North Korea dictator Kim Jong Un and his desire to renegotiate the terms of the Paris accord on climate change.

 

By meeting with Kissinger, Trump hopes to bolster his foreign policy credibility, which has been impugned in recent months, especially by fellow Republicans. In early March, more than 100 Republican national security experts published an open letter stating their opposition to Trump’s candidacy based on his a list of a number of objections.

 

More recently, the leader of Trump’s foreign policy committee, Republican Sen. Jeff Sessions, told ABC’s Martha Raddatz that Trump is “going to need to learn” a lot in the coming months, and former defense secretary Robert Gates criticized Trump for several specific statements Trump has made, including admiring remarks about Vladimir Putin, unclear details about how to defeat ISIS, and his suggestion that he would initiate a “trade war” with China to punish the country for unfair economic and business practices.

 

By meeting with Kissinger, Trump hopes to bolster his foreign policy credibility, which has been impugned in recent months, especially by fellow Republicans.

China was likely a discussion topic during Trump’s visit with Kissinger. Kissinger is an expert on the country: he is credited with helping open diplomatic relations between the U.S. and China under Nixon and has since written a lengthy tome about the country.

 

In many ways, Trump and Kissinger share a similar outlook on foreign affairs. Both largely subscribe to the “realist school” of international relations, which sees states as the central actors in the world. Under this view, states should advance their interests by being prudent in their use of force and limiting their commitments to international organizations and agreements that can constrain their behavior.

 

Based on his remarks in recent months, Trump appears very much to be a realist. He has criticized the U.S.’s use of force in Iraq and Libya to depose dictators, claiming such idealistic adventures in bringing democracy to the Middle East have facilitated the rise of radical Islam, especially ISIS.

 

Trump has also been critical of the U.S.’s adoption of NAFTA, crediting it with hurting America’s manufacturing base, and he has argued that the U.S. is being damaged by its outsized bankrolling of NATO, the Cold War-era security alliance that Trump has called “obsolete.”

 

At 92, Kissinger is still very much respected among foreign policy realists in both parties. Indeed, Hillary Clinton sought Kissinger’s counsel throughout her political career, especially during her tenure as secretary of state, and has referred to him as a friend.”

 

But her friendship with Kissinger became a major point of contention between Clinton and Sanders during their PBS debate in Milwaukee in February. There, Sanders called Kissinger “one of the most destructive secretaries of state in the modern history of this country” and proudly declared, “Henry Kissinger is not my friend.”

 

Kissinger has long been criticized on the left for his political record, including his efforts to prolong and broaden the Vietnam War, overthrow foreign, democratically-elected leaders, and support despots seen as important strategic partners. Kissinger’s actions have been the subject of several books, including The Trial of Henry Kissinger by Christopher Hitchens, Kissinger’s Shadow by Greg Grandin, and The Blood Telegram by Gary Bass.

 

Among the foreign policy actions criticized by these authors relates to his role in the Vietnam War: the cynical subversion of the 1968 Paris peace negotiations to help elect Nixon as president, increased bombing in Southeast Asia, and the expansion of the conflict into Laos and Cambodia.

 

Critics also point to his support for the coup against the president of Chile, Salvador Allende, the provision of military and financial aid to Turkey in its invasions of Cyprus, and for complicity in genocides in Bangladesh and East Timor in order to appease authoritarian allies in Pakistan and Indonesia who were seen as indispensable partners in the global fight against communism.

 

It is because of Kissinger’s controversial legacy that he is described in some circles as an “elder statesman” and awarded the highest civilian honors by the Obama administration, while in others he is deemed “a war criminal” worthy of public trial.

 

At this point, it is hard to estimate what the outcome of Trump’s meeting with Kissinger, beyond a symbolic boost, will be. Is Trump merely going through the motions in an effort to ingratiate himself with the party establishment and with Washington elites, or will he further refine his foreign policy views? Stay tuned.

 

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●「Trump meets with James Baker in DC

 

The Hill

By Ben Kamisar  May 12, 2016, 05:42 pm

http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/279760-trump-meets-with-james-baker-in-dc

 

Donald Trump met with former Secretary of State James Baker during his Thursday swing through Washington as the presumptive GOP presidential nominee seeks to unite the Republican Party behind him.

 

The pair met during Trump's visit to Jones Day, the Washington law firm where many members of his legal team practice, NBC News reported.

 

The meeting came hours after Baker criticized some of Trump's key foreign policy proposals during a Thursday Senate hearing, including his call to roll back American involvement in the North Atlantic Treaty Organization (NATO).

 

The criticism came after prodding by Sen. Marco Rubio (R-Fla.), who battled with Trump during his own presidential run this cycle.

 

Rubio asked Baker to "describe a world in which NATO lost its way or perhaps disintegrated," parroting Trump's criticism.

 

"We've got a lot of problems today but you'd have a hell of a lot more if that was the case," Baker responded. "NATO has been the foundation and the base for peace and stability in Europe and on the Eurasian Continent."

 

Rubio also brought up Trump’s call to let Japan and South Korea obtain nuclear weapons, without explicitly mentioning the mogul.

 

"The more countries that acquire nuclear weapons, the more instability there is going to be in the world," Baker said.

 

"Ever since the end of World War II, America has led the fight on against the proliferation of nuclear weapons, weapons that can kill millions and millions of people. We ought not to abandon that fight." 

 

Baker's meeting with Trump came after a series of meetings with major party leaders, including Speaker Paul Ryan and House leadership, as well as Senate leadership.

 

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●「U.S. foreign policy veteran warns Trump would make world less stable

 

Politics | Thu May 12, 2016 6:15pm EDT Related: ELECTION 2016, POLITICS

WASHINGTON | BY PATRICIA ZENGERLE

http://www.reuters.com/article/us-usa-election-trump-foreign-idUSKCN0Y32MP

 

Republican U.S. presidential candidate Donald Trump is surrounded by family members as he speaks during a campaign victory party after rival candidate Senator Ted Cruz dropped out of the race for the Republican presidential nomination following the results of the Indiana state primary, at Trump Tower in Manhattan, New York, U.S., May 3, 2016. REUTERS/Lucas Jackson

Republican U.S. presidential candidate Donald Trump is surrounded by family members as he speaks during a campaign victory party after rival candidate Senator Ted Cruz dropped out of the race for the Republican presidential nomination following the results of the Indiana...

 

Donald Trump's foreign policy proposals would make the world a less stable place, former Secretary of State James Baker told a U.S. Senate hearing on Thursday as the Republican presidential candidate met elsewhere with party congressional leaders.

 

Under questioning from Republican Senator Marco Rubio, a former Trump rival in the presidential race, Baker said the world "would be far less stable" with a weaker NATO or if more countries had nuclear weapons as Trump has proposed.

 

"We've a got a lot of problems today, but we'd have a hell of a lot more if that were the case," Baker told a Senate Foreign Relations Committee hearing, adding that U.S. commitments around the world "promote U.S. security."

 

Trump met with Baker on Thursday at Trump's request, said a Baker spokesman, who declined further comment.

 

The hearing, on "America's Role in the World," was called by the committee's Republican chairman, Senator Bob Corker. Corker praised a foreign policy speech Trump gave in Washington last month. Some U.S. allies worried after Trump's remarks that his invocation of an "America first" agenda is a threat to retreat from the world.

 

Without naming Trump, Rubio referred to the businessman-turned-candidate's suggestions that the United States should rethink the North Atlantic Treaty Organization (NATO) and that Japan and South Korea should consider getting nuclear weapons to defend themselves.

 

"Some have suggested 'why don't you just let Japan and South Korea get their own nuclear weapons and let them defend themselves?'" Rubio asked.

 

"The more countries that acquire nuclear weapons, the more instability there is going to be in the world, in my opinion," Baker said.

 

Tom Donilon, Democratic President Barack Obama's former national security adviser, called Rubio's question an "important thought experiment," as he backed Baker's comments about the importance of NATO.

 

"It's not just a thought experiment, it's actually been proposed," Rubio said.

 

As the hearing took place, Trump was on Capitol Hill meeting with Republican congressional leaders on how to heal divisions within the party, including those between establishment figures like Baker and the insurgent candidate.

 

Baker, a Republican who was secretary of state under President George Bush and Treasury secretary under President Ronald Reagan, testified alongside Donilon.

 

Former Presidents Bush and George W. Bush do not plan to endorse Trump, or any candidate, in this year's White House race.

 

(記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)



 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 イスラエルのネタニヤフ首相の連邦議会演説、総選挙前と当日の人種差別を煽る発言とこれまで積み上げてきたパレスチナ国家樹立をすべて否定する発言、それ以降の動きについて、ホワイトハウスの大統領首席補佐官デニス・マクドノウと、ジョージ・HW・ブッシュ(父)政権時代に国務長官を務めた重鎮ジェイムズ・ベイカーが同じ場所で語った内容について、ご紹介します。

 

 2人は、左派的な親イスラエルのロビー団体Jストリートの年次総会に出席し、演説を行いました。二人の話した内容はほぼ同じですが、それは、2人が所属する政党は違えども、外交政策に関しては「リアリスト」的な立場を同じくしているからです。

 

 日本でリアリストと言うと、中国や北朝鮮と戦争をやるんだというようなことを言う声の大きなオヤジ、という感じですが、本当のリアリストは、慎重に国益を判断し、現状から最善の結果を導き出す考えをする人たちです。私が拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)で取り上げた、また副島隆彦先生の最新刊『日本に大きな戦争が迫り来る』(講談社、2015年)で分析の枠組として使われた、共和党のネオコン、民主党の人道主義的介入派はそれぞれアメリカと西洋文明の理想を世界に広めて「アメリカ版・八紘一宇」の世界を作り上げようとする人たちです。理想のために現実をいじくることはとても危険なことです。しかし、それをやりたがって、悲惨な結果を招くことを何とも思わない人たちです。

 


 私が拙著『アメリカ政治の秘密』で取り上げたように、オバマ大統領の外交政策の理想は、同じ民主党の歴代大統領ではなく、どちらかと言うと人気がなかったジョージ・
HW・ブッシュ(父)大統領時代のものです。このこともきちんと押さえておく必要があります。

 

 私は2015年から定期的に「副島隆彦の学問道場(http://www.snsi.jp/tops/entry)」内の「今日のぼやき」に寄稿することになりました。このリアリストについても「今日のぼやき」で近々論稿を発表したいと思います。恐らく、会員(年会費が一般1万円、学生6000円、困窮者には救済制度もあります)しか読めない場所に掲載されると思いますが、ご興味がある方は是非会員になって、お読みいただければと思います。宜しくお願い申し上げます。

 

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ホワイトハウスはネタニヤフの謝罪ツアーに何の印象も受けず(White House Not Impressed by Netanyahus Apology Tour

 

ジョン・ハドソン、デイヴィッド・フランシス筆

2015年3月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/03/23/white-house-not-impressed-by-netanyahus-apology-tour/

 

 イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフは、月曜日(3月23日)、謝罪ツアーを継続した。イスラエルのアラブ系国民に対して、パレスチナ国家樹立につながる和平合意に対する支持を撤回すると選挙日当日に発表したが、これは有権者の不安感と恐怖感を煽るための戦術ではなかったと弁解した。しかし、ホワイトハウスは今でも懸念を持ち続けており、ベンヤミン・ネタニヤフの発言をすぐに忘却することはないだろうとある高官は述べている。

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ホワイトハウスの大統領首席補佐官のデニス・マクドノウは、ハト派の親イスラエル・ロビー団体Jストリートがワシントンで開催した年次総会に出席し、「これらの発言がなされなかったというふりをすることはできない」と発言した。更には、「総選挙後、ネタニヤフ首相は自分自身の立場を変えていないと発言した。しかし、イスラエル国民の多くと国際社会は、彼の矛盾に満ちた発言を聞くことで、彼の2国共存による解決への関与に関して甥なる疑問を持たざるを得ない状況になっている」とも述べた。

 

マクドノウは続けて、「パレスチナの子供たちは、イスラエルの子供たちと同じく、自分たちの土地で自由を享受する権利を持っている」と述べた。

 

 ネタニヤフがイスラエル国内の少数派の指導者たちを集めた会合で、選挙前にパレスチナ国家樹立を認めないこと、「アラブ人たちが投票所に押し寄せる」と警告を発したことに関して謝罪した。

 

 『エルサレム・ポスト』紙は、ネタニヤフが「私が数日前に発言した内容でイスラエル国民、アラブ系のイスラエル国民の中に感情を害した人々がいることは分かっている。こうした人々の感情を害することは私の意図ではなかったし、申し訳なく思う」と発言したと報じている。

 

 ネタニヤフが発言内容を撤回したのは、2015年3月19日で、MSNBCのアンドレア・ミッチェルに対して、彼自身は「平和的な」2国共存による問題解決を望んでいるが、「そのためには環境が変化しなければならない」と発言した時からだ。

 

 マクドノウは、「アメリカは和平プロセスに対する私たちのアプローチを再考する」というホワイトハウスの立場を繰り返した。これは明瞭な言葉ではないが、アメリカ政府はイスラエル・パレスチナ紛争を国連の場に持ち出すことを示唆する脅しであった。イスラエル政府はこのような動きには徹頭徹尾反対してきた。

 

 オバマ大統領の片腕、デニス・マクドノウは、イスラエルが永続的にヨルダン川西岸地区とガザ地区とを占領し続ける、1国主義的な解決法を、アメリカは「決して支持することはない」と改めて強調した。マクドノウは「イスラエルが、他国の人々を完全に軍事力によって統制し続けることなど不可能なのだ」と発言した。マクドノウは包括的な和平合意を結ぶことが、国連やその他の機関においてイスラエルを孤立させ、経済制裁を加えようとする試みに対しての「致命的な一撃」になるのだと強調した。

 

 現在行われているイランとの核開発を巡る交渉について、マクドノウは最近47名の共和党所属の連邦上院議員たちが署名した、イランの最高指導者に宛てた公開書簡を引き合いに出し、オバマ大統領が結ぶいかなる合意をも避妊できる連邦議会の力に対して憂慮を示した。

 

 マクドノウはリベラルな考えを持つ聴衆に対して、「私たちは外交に成功するチャンスを与える必要がある(We have to give diplomacy a chance to succeed)」と述べた。聴衆は共和党の連邦上院議員たちが発表した公開書簡に話が及ぶと大きなブーイングを発し、不満の意を露わにした。

 

 月曜日、連邦下院外交委員長エド・ロイスは別の書簡を発表した。これには民主、共和両党の367名の連邦議員たちが署名をした。彼らはイランの核開発を巡る交渉から派生して起きる「致命的かつ緊急の諸課題」について懸念を持っていた。3月20日付でオバマ大統領宛てに出された書簡では、イランのウラニウム濃縮プログラムの規模と、イラン政府の国際原子力機関に対する極めて非協力的な態度に関する懸念が書かれていた。

 

 マクドノウは、アメリカはイランが核兵器を所有できないようにこれからも努力を続けると強調した。しかし、同時に、ホワイトハウスは現在行われている交渉に対して連邦議会が介入しようとして行ういかなる試みに対しても、拒否権を使って対抗するとも述べた。

 

(終わり)

 

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ジェイムズ・ベイカーは、ネタニヤフよりも厄介だったイスラエル首相との思い出話を語った(James Baker Recalls An Israeli Prime Minister More Difficult Than Netanyahu

サマンサ・ラクマン筆

2015年3月23日

『ハフィントン・ポスト』紙

http://www.huffingtonpost.com/2015/03/23/james-baker-j-street-_n_6928042.html

 

 ワシントン発。元国務長官ジェイムズ・ベイカーは月曜日、アメリカとイスラエルとの間の関係が低調である現在であっても、イスラエル・パレスチナ間の紛争のための2国共存による解決について「楽観的である」と発言した。

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 ベイカーは、左派のイスラエル・ロビー団体Jストリートの年次総会で基調講演を行った。この中で、ベイカーは、イスラエルの指導者たちと関わった自分自身の経験から、ネタニヤフ首相とバラク・オバマ大統領が現在の低調な両国関係を乗り越えることが出来れば、中東における和平はまだ実現可能だと述べた。ベイカーはジョージ・HW・ブッシュ元大統領に仕え、現在は共和党の米大統領選挙の有力候補ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事に助言を行っている。

 

 ベイカーは、和平合意が出来なければ、「衝突は継続」するとし、「私は現在も楽観している。私は自分が慎重に事態を見ていることを強調しておきたいが、それでも楽観している。それは、2国共存が実現しなければ、イスラエルの将来は厳しいものとなると考えているからだ」と述べた。

 

 共和党側はオバマ大統領が不当にネタニヤフを攻撃していると批判しているが、ベイカーはこうした批判は的外れだと述べた。

 

 「世界中の誰もアメリカのイスラエルに対する関与の深さを疑うことなどできない。現在もそうだし、未来においてもそうだ」とベイカーは述べた。

 

 ベイカーは自身が国務長官在任当時の、イスラエル首相イツハク・シャミルとの緊迫した外交関係についての思い出話を語った。彼は、「自分が国務長官の時には緊張した瞬間があった」と述べ、それでもイスラエルとアメリカの同盟関係が政策の不一致を乗り越えることが出来たと話し出した。ベイカーは1991年に起きたシャミルとの対立について語った。この当時、ソヴィエト連邦の崩壊に伴って多数のユダヤ人たちがイスラエルへの帰還を果たしていた。それに対して、アメリカ政府は100億ドルの住宅ローン保証をイスラエルに与えるとしたのだが、それにはシャミルがこのお金をヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植地建設には使わないと確約することをベイカーとブッシュは条件とした。

 

 「私はアメリカ・イスラエル関係に関して最初はその複雑さに驚き、それから常に論争が起きることに気付いた。私はブッシュ大統領が行ったことは正しいと考えた。これは今も変わらない」とベイカーは述べた。

 

 ネタニヤフが総選挙前に2国共存による解決を支持しないと発表したことを受けて、オバマ政権は、紛争解決のためのアプローチを再考しているが、このことについて、ベイカーは総会の出席者たちに対して、ネタニヤフはアメリカにとって最も扱いにくいイスラエル首相という訳ではないと述べた。ベイカーは、その当時イスラエルの外務次官を務めていたネタニヤフに対して国務省への出入りを禁止しなければならなかったと思い出話を語った。その理由について、ベイカーは、「彼がアメリカの中東に対する外交政策は、“嘘と歪曲”の上に成り立っていると述べたからだ」と語った。

 

 ベイカーは次のように述べた。「皆さんに申しあげたいのは、25年前、イツハク・シャミルはベンヤミン・ネタニヤフを“柔らかすぎる”と評したことだ。これは、ネタニヤフが若くして首相になった時にシャミルが述べた発言だ。アメリカとイスラエルの国益は常にぴったり一致する訳ではない。全く別のものになるということはこれからもあるだろう」

 

 ネタニヤフの行動は「彼の発言内容と一致してこなかった。入植地の建設は勢いが衰えないままに継続されている」とベイカーは指摘した。しかし、同時に、オバマ大統領とネタニヤフ首相は両者の争いを「悪化」させてはならないとも述べた。

 

 イランの核開発を巡る交渉について、「完璧な(perfect)」合意内容の達成をあくまで求めることには懸念を示した。ネタニヤフは連邦議会の演説でアメリカとイランの交渉の道筋について反対を表明した。

 

 ネタニヤフは次のように語った。「ウラン濃縮をイラン側が行わないこと、これ以外に合意は存在しない。アメリカもイスラエルも、本来の目的を忘れて本末転倒のことをすべきではない(not led the perfect be the enemy of the good)」。(←この英語の言葉がリアリストの真骨頂だと思います。訳者註)

 

ベイカーはまた、オバマ大統領は、必ずしも必要ではないにしても、イランとのいかなる内容の合意を結ぼうともそれについて議会の承認を得られるように努力すべきだ。

 

 Jストリートの年次総会でのベイカーの演説は、Jストリートがイスラエルのヨルダン川西岸地区の占領に対して批判的すぎると考える保守派の人々からは批判された。

 

(終わり)








 
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