古村治彦です。
今回は、2015年3月3日にアメリカ連邦議会で行われたイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の演説についての短い記事をご紹介します。
ネタニヤフ首相はオバマ政権の対イラン政策を批判し、「強いイラン」は中東と世界にとって有害であると述べました。そして、イスラム国とイランを比較し、イランの方がより深刻な脅威だと断じました。ここはどうも引っかかるところです。
共和党側はこの演説を「オバマ大統領に対する告発」だと賞賛し、民主党側は「侮辱」だとしています。イスラエルに関しては党派を超えて政治問題にならないようにしてきましたが、ネタニヤフによって政治問題化されてしまいました。
今回、明らかになったのは、米共和党はかなり劣化しているということと支持基盤が極端な宗教右派や急進的な右翼になっていることから、良質な穏健保守が隅っこに追いやられていることです。選挙で選ばれた自国の国家元首の政策を外国の首相に批判させて、一緒になって喜んでいるのは情けない限りです。これは日本の自民党と全く同じです。日本の例ですが、日中国交回復に尽力した松村謙三は、中国に行った時に、当時の総理大臣を批判されて、「自分は総理大臣とは考えが違うが、自国の総理大臣を批判されて看過できない」と述べたと言われています。これが政治家というものです。
昨日ご紹介した記事の中で、米国連大使のサマンサ・パワーの発言で、「交渉がうまくいかなかったら武力を用いてもイランの核開発を許さない」とありました。世界は、まさに「戦争か、平和か」の選択を迫られ、危険な情勢になっていると思います。
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ネタニヤフ首相の議会演説の重要なポイント(Key Points From
Netanyahu's Speech to Congress)
ピーター・ベイカー(Peter Baker)、アラン・ラペポート(Alan Rappeport)筆
2015年3月3日
ニューヨーク・タイムズ紙
http://www.nytimes.com/interactive/2015/03/03/world/middleeast/netanyahu-congress-key-points.html
イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフは火曜日、彼自身が全く思慮に欠けていると考えている、核開発に関するアメリカとイランとの間の交渉に対して警告を発した。以下は、彼の演説の重要な部分の抜粋である。
「私たちは、悪い内容での合意よりも合意に達しないことの方がより良いと教えられてきました。そうです、現在の交渉の結果として得られる合意は悪い内容での合意なのです。本当に悪い合意なのです。それなら合意に達しないことの方がよほど良いのです」
ネタニヤフ首相は、彼が「悪い合意」と呼んだ、イランがある程度の原子力プログラムを維持することを許す内容の合意に対して警告を発し、イランの原子力プログラムが全て放棄されることが合意には必要だと主張した。ホワイトハウスはネタニヤフ首相の考えを非現実的だとしている。ネタニヤフ首相は連邦議会においてオバマ大統領が現在行っている交渉に対して大声で反対を表明した。現在行われている交渉が合意に達しない可能性は高いのである。オバマ大統領は経済制裁を解除することはできるが、イランは恒久的な解除を主張している。それには連邦議会の承認が必要なのである。
「中東地域において、イランは現在4つのアラブの国の首都、バクダッド(イラク)、ダマスカス(シリア)、ベイルート(レバノン)、サナ(イエメン)を制圧している。もしイランの侵略がこのまま野放しにされれば、侵略はもっと続いていくことだろう」
ネタニヤフ首相は、イランが近隣諸国4カ国であるイラク、シリア、レバノン、イエメンを制圧していると語った。そして、いかなる合意に達するにしてもその前に、世界の諸大国はイランが近隣諸国に対しての侵略を放棄し、世界中のテロ組織に対する援助を停止し、イスラエルを滅亡させると声高に主張し脅威を与えることを止めるように求めるべきだと述べた。ネタニヤフ首相は、核兵器を所有した場合のイランはテロ組織に対して今よりも多くの資金援助を行い、中東地域に「核兵器を拡散させる」だろうと述べた。更に、現在提案されている内容での合意はギャンブルだとし、現在よりも力を付けたイランがより友好的になるという方に賭けるべきではないと述べた。
「私の演説が大きな論争の的になっていることは分かっています。中には私がここに立っていることが政治問題を引き起こしていると考えておられる人がいるのは残念なことです。私にはそのような意図は毛頭ないのです」
ネタニヤフ首相は演説の初めで民主、共和間の緊張を和らげようとした。共和党と民主党の間で党派的な分裂が起きた。しかもこれまでは超党派で対応してきたイスラエルを巡る問題で分裂が起きたのだ。50名以上の民主党所属の連邦議員たちは演説を欠席した。民主党の連邦下院院内総務ナンシー・ペロシは演説をアメリカ国民の知性に対する「侮辱」だと呼んだ。一方、共和党は演説をオバマ大統領の外交政策に対する告発と呼んだ。ネタニヤフ首相は、イスラエルとアメリカは同盟国であることを強調し、騒動を鎮静化させようとした。彼はイスラエルが危機に陥った時に強力な支援をしてくれたことを引き合いに出してオバマ大統領を賞賛し、民主、共和両党がイスラエルを支援してくれたことに言及した。
「この共存することが出来ない勢力争いにおいて、アメリカもイスラエルも介入する余地を持っていないのです」
ネタニヤフ首相はイランとイスラム国を究極的には同じ目的を共有する、ライヴァル関係にあると述べた。軍事的なイスラム主義の盟主の座を争っているのだと示唆した。ネタニヤフ首相はイランがイスラム国よりも深刻な脅威であると主張した。それは、イスラム国が肉切り包丁とソーシャル・メディアを利用しているだけに過ぎないが、イランは敵を攻撃するのに核兵器を使うことになるかもしれないからだと語った。
「イランは国際機関の査察官たちの行動を妨害しているだけではなく、査察官たちをうまく手玉に取っているのです」
ネタニヤフ首相は、北朝鮮を例に挙げて、国際機関による査察が失敗していることに言及し、そして、過去イランが国際機関の査察を妨害したことに言及した。ネタニヤフ首相は、2005年、2006年、2010年にイランが「国際機関が設置したカメラのスイッチを切った」と指摘した。更に、国際機関による査察は北朝鮮による合意内容の履行違反を防げなかったと述べた。ネタニヤフ首相は、「それから2年か3年以内に、北朝鮮は核兵器を所有することになってしまった」と述べた。
(終わり)