ダニエル・シュルマン
講談社
2015-07-29



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ事件について、「なぜ防げなかったのか」「諜報機関であるCIAは何をしていたのか」という疑問と批判はアメリカ国内でもずっと残り、議論されています。オサマ・ビン・ラディンやアルカイーダの存在を認識していたのに、それに対して真剣に対処していなかったということですが、それはやはり、官僚組織の抱える問題が絡んでいるようです。

 

 省庁間の連絡と総合的な対処計画を欠いた結果、このような事態を招いた、そしてその責任は1997年から2004年までCIA長官を務めたジョージ・テネットにあるという報告書が公表されたということで、その短い記事を皆様にご紹介します。

 

 テネットが民主党系の人材で、ビル・クリントン大統領時代にCIA長官に任命されたという点から、民主党に対する攻撃、ヒラリー・クリントンに対する攻撃という面もあるかと思いますが、この記事ではあまり触れられていない官僚組織の欠陥、硬直性にも問題があるということも理解しつつ、この記事をお読みいただければと思います。

 

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CIAが911以前の誤謬を明らかにした秘密報告書を公開(CIA releases secret report identifying errors before 9/11

 

ジュリアン・ハッテム筆

2015年6月12日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/policy/national-security/244886-cia-releases-secret-doc-identifying-systemic-problems-pre-9-11

 

 10年間にわたり秘密にされてきたが、CIAは金曜日、約500ページの首席調査官による調査報告書を公表した。この報告書は2001年9月11日のテロ攻撃が起きる前のアメリカのスパイ機関内部に存在した複数の「システム上の諸問題」を概括的にまとめたものだ。

 

 2005年に作成された調査報告書の中で分析官たちは、複数のシステム上の諸問題の結果、アメリカはテロ攻撃について全く考慮しないようになっていたと主張し、911以前の数年間でオサマ・ビン・ラディン(Osama bin Laden、1957―2011年)とアルカイーダの指導者たちに対するアメリカ政府の追及の甘さを糾弾した。

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オサマ・ビン・ラディン 

 

 CIAの幹部職員たちは、CIAの首席補佐官事務局の調査に対して、「アルカイーダの脅威に対する警告や予兆があったにもかかわらず、911以前の“いかなる時点”においても、ビン・ラディンの計画を阻止するための“包括的な戦略計画”など存在しなかった」と語った。金曜日の午後遅く、CIAは報告書を公表した。ここ数年、CIAはこの報告書の一部を機密指定解除にして公開してきた。しかし、今回、情報の自由法によって全面公開されることになった。

 

 CIAをよく知る人々は、ジョージ・テネット(George Tenet、1953年―)を批判してきた。テネットはCIA元長官であり、2001年のテロ攻撃の前後の数年間にわたり、CIAを監督した人物だ。

 
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ジョージ・テネット
 

 テネットは、アルカイーダと戦うための「各政府省庁間計画の必要性を認識」していたが、そのような戦略計画を立案しなかったことについて、責任を免れることはできない、と報告書には記載されている。

 

 CIAは首席調査官報告書と共に、テネットからの手紙2通と911についての2つの別の見方を同時に発表した。これは「911に関する公的な記録を更に確かなものとする」ことを目的とするとCIAは述べた。

 

 CIAは次のような談話を発表した。「911で起きた出来事は全てのアメリカ人たちの記憶に焼きつくものとしてこれからも残っていくであろう。その当時に生きていたアメリカ国民は全て、アメリカの現代史において我が国土が犯されるという最大の悲劇を目撃したのだ。本日公表された報告書は911以前のCIAの業務遂行について約10年前にCIA内部で形成された様々な異なる考え方を反映したものとなっている」。

 

 CIA首席調査官報告書の作成が促されたのは、連邦上下両院情報・諜報委員会合同の報告書が10年以上前に出されたことになる。この報告書が2005年に発表された際、当時のCIA長官ポーター・ゴス(Porter Goss、1938年―)は、報告書が勧告している、個々のCIA職員を評価するための説明責任委員会の創設を拒絶すると述べた。

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ポーター・ゴス

 

 新たに公表された文書で明らかになったのは、席調査官報告書が作成された当時、この報告書についてテネットが声高に非難していたことだ。

 

 2005年6月の書簡の中で、テネットは首席調査官報告書について、「無意味」「誤謬」と断じ、政治家たちからの情報を「敢えて忌避して」おり、重要な諸事実を無視していると批判している。

 

 テネットは書簡の中で次のように書いている。「この報告書は私の行動について公正さにも正確さにも欠けた描写を行っている。また、CIA職員の英雄的な働きについてもそうだ。諸事実を完全に理解することなく、私の働きについて判断を下すというのは公正さに欠ける」。

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23