ダニエル・シュルマン
講談社
2015-09-09



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




 

 古村治彦です。

 

 米軍制服組のトップである米軍統合参謀本部議長(Chairman of the Joint Chiefs of Staff)が今年の秋にマーティン・デンプシー陸軍大将からジョー・ダンフォード海兵隊大将に交代となります。今回は米軍制服組トップの交代についての記事をご紹介します。

 
martindempsy001
マーティン・デンプシー(1952年―)
 

 米軍統合参謀本部議長は、陸、海、空、海兵隊、州兵参謀総長(陸海)、作戦部長(空)、総司令官(海兵隊)、総局長(州兵)と副議長からなるアメリカの軍事部門(制服組)のトップに位置する期間であり、昔の日本で言えば、統帥権を担う参謀本部(陸軍)と軍令部(海軍)が合わさったような組織で、文民である大統領に属しています。

joedanford001

ジョー・ダンフォード(1955年―) 

 

 現在のデンプシー議長は米軍の大規模派遣に抑制的で、オバマ政権のリアリスト的な対外政策によくあっている人物だったようです。交代が予定されているジョー・ダンフォード海兵隊大将はタカ派的で、攻撃的な考えを持っているようです。気になるのはロシアが「アメリカの存在を脅かす脅威」になるという発言です。ヒラリーが大統領になれば、この制服組トップのダンフォードと軍事面でコンビを組んで何をするのか、分かりませし、たまったものでもありません。ウクライナと北朝鮮で何かを起こす可能性があると思います。

 

==========

 

米軍統合参謀本部議長候補者:ロシアはアメリカにとっての「存在を脅かす脅威」となり得ると発言(Joint Chiefs Nominee: Russia Could Pose ‘Existential Threat’ to the U.S.

 

ポール・マクリー筆

2015年7月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2015/07/09/joint-chiefs-nominee-russia-could-pose-existential-threat-to-the-u-s/

 

現在、アメリカの国家安全保障にとって最も深刻な脅威は何か?アメリカの軍のトップと情報機関のトップそれぞれにこの質問をしたら、それぞれが別の答えを出すだろう。

 

 木曜日の朝、議会の承認を受けるための公聴会に、バラク・オバマ大統領が次の米軍統合参謀本部議長に指名したジョー・ダンフォード米海兵隊大将が出席した。そして、連邦上院軍事委員会において、ウラジミール・プーティン率いるロシアが最大の脅威だと述べた。

 

 ダンフォードは「ロシアの行動は警戒を要するところまで来ています。ロシアは我が国の安全保障に対する最大の脅威となっています。アメリカの存在を脅かす脅威となる可能性もあります」と述べた。

 

 ロシアはウクライナ東部に進行し、他のヨーロッパ諸国に対しても脅威となっているとダンフォードは述べている。その結果としてロシアはアメリカにとっての脅威となっているのだ、と言う考えになるが、これは革新的な考えではない。しかしながら、このような評価に対して全く別の評価をしているのが、国家情報長官ジェイムズ・R・クラッパー(アメリカ空軍退役中将)だ。クラッパーは今年初めに連邦上院軍事委員会で証言を行った。2月に行われた証言で、クラッパーはインフラに対するサイバー攻撃こそがアメリカにとっての最大の脅威となると主張した。

 

 クラッパーは、「サイバー・アルマゲドン」のようなことはないと述べたが、「長年にわたり、低度から中程度のサイバー攻撃が様々なインフラに対して行われています。こうした攻撃はゆっくりとではあるが、アメリカの自信と競争力を蝕んでいきます」と述べた。

 

 しかし、問題は黒白はっきりするものではない。クラッパー自身もロシアのハッカーからの脅威は「私たちが以前に評価していたよりもより深刻だ」と認めている。しかし、公の場でそれ以上の詳細な説明をすることは拒否した。

 

 ダンフォードの連邦上院での証言においてサイバー攻撃の脅威はそこまで話題にならなかった。それでも証言の前に委員会に提出された文書の中で、ダンフォードは「ロシア、中国、イラン、北朝鮮のような、攻撃的なハッキング技術を有する国家主体からの挑戦に私たちは直面している」と書いている。

 

 興味深いことに、ダンフォードは、NATO加盟諸国に「最も欠けている点」はサイバー攻撃に対する防御だと強調している。

 

 ダンフォードは、ロシア以外の脅威として、中国、北朝鮮、そしてイスラム国を挙げた。一方、クラッパーはいわゆる「孤独な狼」のような攻撃者やアラビア半島におけるアルカイーダ(AQAP)による脅威に言及した。こうしたグループは、西洋諸国の民間飛行機をいつか爆破させる爆弾を作る技術者たちを仲間に入れるのではないかとアメリカ政府関係者たちは懸念を持っている。

 

 クラッパーとダンフォードは様々な潜在的な脅威を指摘している。アメリカ政府は現在、様々な国家安全保障に対する脅威と戦っているということをこれは示している。彼らはイランを脅威から除外している。イランは現在、将来の核開発を巡る交渉をオバマ政権と行っている。

 

ダンフォードは議会証言の中で、「イランとの間で合意が形成されても、イランは、イエメン、レバノン、シリア、イラクにおける反政府勢力を支援し、スンニ派とシーア派の分裂を深めさせるなど、中東地域において悪意に満ちた行動を続けるだろうと私は考えています」と述べた。

 

 ダンフォードは、イランはアメリカにとっての最大の脅威ではないとしながらも、「現在の中東を不安定にさせている最大勢力だ」と述べた。

 

(終わり)

 

=====

 

米軍統合参謀本部議長は反政府武装勢力、大規模な動員、ファストフードが嫌いだ(Joint Chiefs Chairman Doesn’t like Insurgents, Big Deployments, Fast Food

 

ポール・マクリー筆

2015年7月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/07/10/joint-chiefs-chairman-doesnt-like-insurgents-big-deployments-fast-food/

 

 『ジョイント・フォース・クォータリー』誌最新号で、退任間近の米軍統合参謀本部議長のマーティン・デンプシーに対する長時間のインタヴューが掲載された。その内容な衝撃的であった。デンプシー議長はワシントンにいるタカ派たちから、「リスクを避けようと汲々としている」「米軍の派遣を上申しない」と批判されてきた。デンプシーは記事の中で当意即妙な受け答えをしていたが、その内容は彼に対して否定的な評価をタカ派がするのは自然だろうと思わせるものとなった。

 

 軍隊を率いるリーダーがどのように作戦を立てるのか、そして、立てられたいくつかの作戦を全て文民の指導者に提示するのかそれとも成功の可能性が高いものをいくつか提示するだけなのかという質問が出された。この質問に答える際、デンプシーはイラク戦争とアフガン戦争におけるアメリカのやり方は拙かったと否定的な発言を行った。

 

 デンプシーは、反政府武装勢力や非国家主体と戦闘を行う場合、戦闘の規模を大きくすることは賢明な方法ではないと述べている。「非国家主体との戦闘に関して言うと、作戦はより多く作るようにする。それは、作戦決定は一時的なもので状況によって変化するからだ。様々な状況に対応したいと思う場合、兵員15万、12の大規模基地、TGIフライデーやバスキン・ロビンスが必要になる」。

 

 イラク国内のアメリカ軍基地やアフガニスタンのカンダハール空軍基地には、ピザハットなど様々なファストフィードチェインの店が完備されている。また、アイスクリームとケーキの並んだ棚がある24時間稼働している食堂も完備されている。こうした状況をデンプシーはチクリと皮肉っているのだ。

 

デンプシーはジョー・バイデン副大統領と同じ主張をしている。2009年、バラク・オバマ大統領はアフガニスタンに3万以上の米軍を派遣して「攻勢」をかけたいと望んだ。この時、バイデンは、数万規模の米軍の大部隊の派遣ではなく、小規模の特殊精鋭部隊と対テロ部隊の派遣を主張した。

 

 私たちは、デンプシーの退任の日までこうした発言を聞き続けることになるだろう。彼は議長として最後の海外視察を行い、メディアからのインタヴューに答える。それが10月1日に大統領の軍事面の首席アドヴァイザーの地位を退くまで続く。

 

(終わり)





野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23