古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:スウェーデン

 古村治彦です。

 昨年、ウクライナ戦争中にNATO加盟を行ったスウェーデンであるが、その国内ではスパイ事件が起きていた。子供のころにイランで生まれ、そのご家族と共にスウェーデンに移民してきた兄弟がスウェーデンの情報機関のために働きながら、ロシアのためにスパイ活動を行っていたということが明らかになり、逮捕・起訴された。

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ペイマン・キアとパヤム・キアの兄弟は、スウェーデンで育ち、大学教育まで受けた。その後はスウェーデンの情報機関に採用された。この兄弟がスウェーデンの情報機関のためにどのような仕事をしていたのかは明らかになっていないが、イラン生まれという特性を生かして中東関係、イラン関係の仕事をしていたことは容易に想像される。しかし、2010年代中盤頃からロシアとの「二重スパイ(mole)」の疑いが浮上し、長年にわたる捜査の結果として逮捕、起訴された。彼らはスウェーデンの情報機関の関係者の名簿をロシア側に渡している。ロシア側はこの名簿を使って二重スパイづくりを行ったと考えられる。キア兄弟以外にも二重スパイが存在するだろう。

 スパイというのはだいたいが二重スパイになる。私たちが映画やテレビで見る華やか世界の裏側での殺し合いということが実際にはないのと同じで、スパイで採用されている国にだけ忠誠を誓うという人はあまりいないだろう。キア兄弟の場合には、イランとの関係も考えられるとなると、三重スパイだったことも考えられる。ウクライナとロシアとの間で戦争は続いているが、両国は文化や言葉が近いので、それこそ二重スパイが多く活動していることだろう。

 アメリカのCIAには世界各国を担当する情報官たちがいる。彼らもまたスパイと言えるだろう。私が大学学部在学中に、両親がアメリカ西海岸で商売をやっている、アメリカの大学から交換留学でやって来たという日系人と知り合った。この学生は日本語の聞き取りはできるが、読み書きは勉強中だった。その後、今度は私がアメリカ西海岸のその学生が行っていた大学に留学した。そこで、私が授業を履修したある教授と親しく話すような間柄になり,雑談の中で、「私の教え子で優秀な日系人の学生がいたのだが、CIAに入ってね。以前に授業に来て話をしてもらったのだけど、ボディガードを連れていたよ」ということになり、もしやと思って詳しく話をしてみるとその学生だった。この学生はCIAで日本担当の仕事をしているのだろうと思う。

 AIやインターネットが発達しても情報を取り、分析するのは人間の仕事だ。AIやコンピュータが二重スパイになることはないだろうが、人間であれば弱みを握られたり、脅迫されたりすれば二重スパイになってしまうだろう。それが人間らしいということになるのだろうと変な結論になってしまった。

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スウェーデンのスパイスキャンダルはスパイのリクルートについての厳しい疑問を引き起こす(Sweden’s Espionage Scandal Raises Hard Questions on Spy Recruitment

-各国の情報機関は海外生まれの市民をスパイのリクルートの対象とするかどうかについて議論を行っている。

エリザベス・ブラウ筆

2022年11月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/16/sweden-spy-scandal-russia-iran-questions-recruitment/

先月(2022年10月)、ノルウェー当局は、ブラジルの学者を装って自国に潜入していたロシアの軍事諜報部員の容疑者を逮捕した。そして今、さらに劇的なスパイ事件がスウェーデンで発生している。イラン生まれの兄弟2人いて、その内の1人がスウェーデンの諜報部員を務めたことがあるが、ここ数年にわたりロシアのためにスパイ活動をしていたとして起訴された。彼らのスパイ活動は深刻な被害をもたらす可能性があり、敵対する国に生まれた人間は、その国や同盟諸国から特に勧誘されやすいという、諜報活動における長年の問題を浮き彫りにしている。

42歳になるペイマン・キアは、スウェーデンにおけるサクセスストーリーの体現者だ。キアは1980年代に家族とともにイラクから脱出してスウェーデンに到着し、1994年にスウェーデン国籍を取得した(弟のパヤム・キアも同様だ)。ウプサラ大学で学士号と修士号を取得し、スウェーデン税関の調査官となった。

わずか数カ月後、防諜を担当するスウェーデン保安局(Swedish Security ServiceSÄPO)に採用された。3年半の勤務の後、2011年2月、ペイマン・キアはスウェーデンの対外情報機関であるMUST軍情報サーヴィスに参加した。この部門もまた外国の情報諜報を担当する。スウェーデンのメディアによれば、MUST在籍時、ペイマン・キアは機関の奥の院であるKSIに所属していたとさえ報じられている。

しかし、MUSTに参加して間もなく、兄のキアはロシアの軍事情報機関であるGRUのスパイ活動を開始した。スパイ活動はMUSTでの勤務中も、その後のSÄPOでの新たな配属先でも、そして2015年12月に始めたスウェーデン食品庁の安全担当最高責任者としての仕事でもずっと続いていた。しばらくして、彼は弟パヤムを引き入れたようで、彼はGRUとの交流の後方支援をしていたという容疑で起訴されている。

しかし、兄弟は自分たちが考えるほど賢くはなかった。SÄPOは長い間2人を監視していた。2015年から16年にかけて、早くもSÄPOは2人に関して二重スパイ(mole)の可能性を調査しており、2017年にはスパイハンターたちは、その痕跡がペイマン・キアにつながっていると結論づけた。ほぼ5年間、彼らは兄弟2人を監視下に置き、スウェーデン食糧庁の機密データが比較的少ないことから、立件するためにはリスクを冒す価値があると判断したのか、昨年2人は逮捕された。ペイマンは自分の担当範囲外のMUSTSÄPOの文書に多数アクセスし、彼とパヤムはそれをGRUの担当者に渡したと考えられている。ペイマンはまた、SÄPOの全員分の名簿をロシア側に渡した。

キア兄弟は金(きん)と米ドルで多額の報酬を受け、2人とペイマンの妻はそれをスウェーデン・クローネに換えて銀行口座に預けていた。キャッシュレスの進んだ国では珍しいことだが、キア一家は日常の買い物に現金を使っていた。兄弟のやり取りには、「ラスキー(Rasski)」との会合やカナダへの逃亡計画などが詳細に記されている。

ペイマンは自宅に機密文書を隠し持っていることが分かり、当局はUSBメモリやその他の電子機器も押収した。弟パヤムは逮捕される直前にハードディスクを処分しようとしたが失敗した。監視は成功し、兄弟は自分たちの正体がばれるとは全く考えていなかった。カナダへの逃亡計画も未遂に終わった。スウェーデン国防大学社会安全保障センターの戦略アドヴァイザーのマグヌス・ランストルプは次のように指摘している。「キア兄弟がロシアに渡したと思われる資料は信じられないほど機密性が高い。「SÄPOの職員名簿を渡すということはそれだけで非常に重大なことだ。ロシアに、誰を勧誘のターゲットにすべきかのリストを渡したようなものだ」。

イランがこの事件でどのような役割を果たしたかは、まだ公にはされていない。しかし、スウェーデン国防大学の上級顧問で情報学を専門とするペール・トゥンホルムは次のように述べている。「イランとロシアが協力していることはよく知られている。情報・諜報活動はチームスポーツである。情報・諜報活動に関しては、アメリカでさえも友人を頼りにしている。例えば、イランがCIAの秘密通信を解読したとき、その情報を中国に伝えた。米英両国が加盟するファイヴ・アイズは、諜報活動のほとんどの側面を共有している」。

トゥンホルムが指摘しているように、スウェーデンの情報機関ではかつて、敵対する国で生まれた人間を採用することを控えた。ヨーロッパ地域の他の数カ国は、現在もその方針を採用しているが、スウェーデンは近年、その方針を弱めている。これは紛れもないリスクである。トゥンホルムは「他国で生まれた人が信頼できない訳ではない。しかし、母国にいる家族に圧力をかけるなどして、より勧誘の対象になりやすいというリスクは存在する」。

ロシアがキア兄弟のバックグラウンドを利用して彼らを募集対象として特定した可能性はあるが、この2人の兄弟は貪欲に動機付けられていたようで、これが完全にロシアのため二重スパイとなった原動力でもある。

しかし、この事件は、ロシアの情報機関がいかにこれまでにはない革新的な勧誘を行っているかを示す警鐘となる。ヨーロッパ諸国には、ほんの数十年前に比べてはるかに多くの外国生まれの住民がいるため、ロシアと中国はより多くの人材にアクセスすることができる。ノルウェーで逮捕されたGRU幹部とされる「ホセ・アシス・ジャンマリア」は、グレイゾーンの侵略を研究する学者として地元の大学に勤めていた。これは、学術的関心を装ってノルウェーをはじめとする様々な人々に接触するための完璧なプラットフォームと言える。

しかし、この問題の裏返しとして、効果的な情報活動に最も必要な文化的背景や言語能力を持つのは、まさにそうした外国生まれの人々のコミュニティであることが多い。例えば、ドイツ系アメリカ人は第二次世界大戦中、アメリカの諜報活動に貢献した。イスラエルは、イスラエルの市民権を得た無数の外国人の能力を利用している。

アメリカ情報機関では、中国系アメリカ人が機密任務の許可を得るのにしばしば問題に直面し、その問題は実際の危険性よりも偏見に関係していると主張する人たちもいる。アメリカに帰化した元CIA職員ジェリー・シン・リーは当初、中国にあるアメリカ資産を危険に晒したとして非難され、中国のためのスパイ行為を認めて19年の刑を受けたが、イランと中国におけるCIAの大量損失は、CIA自身の不注意によって引き起こされたように思われる。

トゥンホルムは「100パーセントのセキュリティなどありえない。ロシア人、中国人、イラン人を採用しないこともリスクだ。彼らは私たちが必要とする技術や人脈を持っている。しかし、リスクは認識しておく必要がある」と述べた。

キア兄弟は最高で25年の懲役刑に処せられる。圧倒的な証拠が存在するにもかかわらず、彼らは容疑を否認している。彼らの裁判を前に、多くのスウェーデン人は、SÄPOに所属していた軍人であり、1979年にソヴィエトのスパイとして逮捕され、スウェーデンで過去最大のスパイスキャンダルを引き起こしたスティグ・ベルグリングを思い起こすだろう。ベルグリングは長い懲役を言い渡されたが、夫婦の面会中に脱走し、西側の二重スパイにとってお定まりのモスクワへ向かった。キアス夫妻のカナダの計画から判断すると、彼らはスウェーデンから逃げるつもりでいたが、ロシアには向かわなかったようだ。今、彼らは刑務所に向かう可能性が高い。

※エリザベス・ブラウ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、アメリカ・エンタープライズ研究所研究員。ハイブリッド、グレイゾーンの脅威といった出現しつつある国家安全保障に対する防衛を専門としている。イギリス国家緊急事態対応準備委員会の委員も務めている。ツイッターアカウント:@elisabethbraw

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 前回は「ウクライナ戦争勃発によって黒海の入り口を抑えるトルコの重要性が再認識されている」という論稿を投稿した。今回は、トルコがヨーロッパ政治においてもその存在感を増している。トルコはEU(ヨーロッパ連合)に関しては、加盟候補国となっている。これは、EUに加盟申請したものの、EUが定める様々な基準を満たしていない、満たす見通しが立っていないので正式加盟は認めないということである。NATO(北大西洋条約機構)に関しては、既にメンバー国となっている。NATOについては、新規加盟申請がある場合、加盟国が全会一致で賛成しなければ新規加盟はできないことになっている。

 ウクライナ戦争勃発後、フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を希望することになった。その理由はロシアの脅威に対抗するためというものだ。ここで問題になったのがNATOの新規加盟には全会一致の賛成が必要という条件だ。EU加盟諸国は無条件に賛成するというのは当然だったが、ここでトルコが難色を示した。トルコが新規加盟に難色を示したのは「北欧諸国がクルド人テロ組織(トルコとアメリカがテロ組織認定)であるクルド労働者党への対処が徹底されていない」ということが理由だった。クルド人は国家を持たない民族としては最大規模の人口を持つ。イラクやトルコに多数在住して、独立運動を展開し、各国は独立運動に対して厳しく対処している。イラクではイラク戦争後にクルド人自治区が経済発展を続けているが独立はしていない。ある一国からの独立ということではなく、複数の国を巻き込んでの独立ということになると大変に難しい状況になる。

 クルド労働者党はイスラム国(IS)との戦いにおいて最前線で戦っていることもあり、テロ組織認定に関しては「揺らぎ」が生じていた。「クルド労働者党はイスラム国と戦っている。トルコはクルド人を抑圧しているのだから」という声も上がっている。トルコ政府にしてみればこうした理由で北欧諸国がクルド労働者党の取り締まりに手心を加えているのではないかという苛立ちを持っていた。欧米諸国とトルコの関係はぎくしゃくしていた。

 しかし、ウクライナ戦争勃発を受けて、トルコの存在感は高まった。それは黒海の入り口を抑えているという地理的な条件があるからだ。これは前回のブログ記事の通りだ。今回はNATOの全会一致の賛成という条件を使って、フィンランドとスウェーデンからクルド労働者党の取り締まりの強化の約束を取り付けることに成功した。加えてアメリカからF-16先頭の支援を取り付けることにも成功している。トルコは、ロシアから防衛システムを導入したり、対ロシア制裁に反対したりしている。こうした中、西側とそれ以外の世界の接点として、自国に有利な動きを展開している。日本もこうした土耳古の動きを見習う必要がある。

(貼り付けはじめ)

バイデンは、エルドアンがフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を許したことを称賛(Biden praises Erdoğan for allowing Finland, Sweden to join NATO

モーガン・チャルファント筆

2022年6月29日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3541492-biden-praises-erdogan-for-allowing-finland-sweden-to-join-nato/

アメリカのジョー・バイデン大統領は水曜日、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、スウェーデンとフィンランドによるNATO加盟の提案への反対を取り下げたことを賞賛した。

バイデン大統領は、マドリードで開催されたNATO首脳会議に併せて行われた一対一の会談で、エルドアン大統領に対し、「フィンランドとスウェーデンの状況をまとめてくれたこと、そしてウクライナから穀物を取り出そうとする驚くべき仕事ぶりに特に感謝したい。あなたは素晴らしい仕事をしている」と述べた。

エルドアンは、首脳会談の後、両首脳が「両手いっぱいに成果を持ち、満足して自分の国に帰ることができるだろうと信じている」と述べた。また、バイデン大統領のリーダーシップについて、「将来のNATO強化の観点から極めて重要だ」と評価した。

両首脳の会談は、トルコがスウェーデンとフィンランドのNATO加盟への反対を取り下げ、同盟の大幅な拡大に道を開くことに同意した翌日に行われた。NATOは、フィンランドとスウェーデンがロシアのウクライナ侵攻の中で加盟に関心を示したことを受け、水曜日に正式に加盟を要請した。

トルコ、フィンランド、スウェーデンの3カ国は火曜日にテロ対策の協力を深める覚書に署名し、トルコやアメリカなどからテロ組織と認定されているクルド労働者党(PKK)の取り締まりに北欧の2カ国が十分でないというトルコの懸念に対処することに同意した。

また、スウェーデンとフィンランドの加盟を支持するようアンカラを説得する努力の一環として、アメリカがトルコに改良型F-16戦闘機を売却する契約を発表するのではないかとの憶測も広まっている。

複数のバイデン政権高官は水曜日に記者団に対して、アメリカは北欧の2カ国が同盟に参加することへの反対を取り下げるようトルコに譲歩を申し出ることはしなかったと述べた。

それでも、米国防総省のある高官は水曜日、アメリカはトルコにF-16を売却する意思があると示唆した。

国際安全保障問題担当のセレステ・ワランダー国防次官補は記者会見で、「アメリカはトルコの戦闘機部隊の近代化を支持する。それはNATOの安全保障、したがってアメリカの安全保障に貢献するものだからだ」と述べた。

バイデンとエルドアンの会談について、ホワイトハウスが発表した資料には、F-16戦闘機についての言及はない。

報告書には次のように書かれている。「両首脳は、ロシアの侵略に対するウクライナの防衛における継続的な支援と、ウクライナの穀物の輸出に対するロシアの障害を取り除くことの重要性について話し合った。また、エーゲ海とシリアの安定を維持することの重要性についても話し合われた。バイデン大統領は建設的な二国間関係を維持したいとの意向を改めて示し、両首脳は両政府間の緊密な協議を継続することの重要性に合意した」。

トルコがフィンランドとスウェーデンのNATO同盟参加を認めたことは、5月に北欧2カ国の首脳とホワイトハウスで行われたイヴェントでNATOの拡大を公然と声高に支持したバイデンにとって成功と見なされている。

複数のバイデン政権高官は、水面下でトルコ、スウェーデン、フィンランドと交渉してきた。バイデン大統領は火曜日にエルドアン大統領と電話会談を行い、数ヶ月ぶりにトルコ大統領と11で会談し、交渉が進展していることを示した。

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NATOは同盟加盟のためにフィンランドとスウェーデンを招待(NATO invites Finland, Sweden to join alliance

キャロライン・ヴァキル筆

2022年6月29日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/3541158-nato-invites-finland-sweden-to-join-alliance/

NATOは水曜日、スウェーデンとフィンランドを正式にNATOに招待した。トルコが北欧諸国を防衛ブロックに参加させることに難色を示した翌日である。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、マドリードで開催中のNATO首脳会議の席上で次のように語った。「ウラジミール・プーティン大統領がNATOの扉を閉ざすことに成功していないことを示すものだ。プーティンは望んでいることの反対を手に入れている。彼はNATOの縮小を望んでいる。プーティン大統領は、フィンランドとスウェーデンが私たちの同盟に加わることで、より多くのNATOを手に入れようとしている」。

バイデン大統領は、「私たちは、NATOが強く、結束しており、この首脳会談で講じる措置は、私たちの集団的な力をさらに増強するものであるという紛れもないメッセージを送っている、と私は考えており、あなた方もそう考えている」と述べた。

CNBCによると、この招待はすぐにロシアから非難され、あるクレムリン当局者は「純粋に不安定化させる要因だ」と述べたという。

この展開は、ロシアのウクライナ侵攻を背景に、スウェーデンとフィンランドのNATOへの加盟に対する考え方が変化していることを意味している。北欧の2カ国は先月、NATOへの加盟申請書を提出した。

NATO加盟諸国の多くは両国のNATOへの加盟に支持を表明したが、トルコは、フィンランドとスウェーデンが、トルコなどがテロ集団に指定している「クルディスタン労働者党(PKK)」に対して十分に積極的でないと非難し、異論を唱えた。

しかし、各国が国家安全保障上の脅威に対して互いに支援し、テロ対策協力を強化することを誓う3カ国間の覚書に署名したことで、トルコは火曜日にその疑念を撤回した。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とアメリカのジョー・バイデン大統領は、マドリードで開催中のNATO首脳会議で水曜日に一対一で会談すると見られている。

NATO加盟諸国が首脳会議後に発表宣言文を発表した。その中には次のように書かれている。「NATO同盟に加盟する場合、全ての同盟国の正当な安全保障上の懸念に適切に対処することが極めて重要である。私たちは、そのためのトルコ、フィンランド、スウェーデンの3カ国間の覚書締結を歓迎する」。

宣言文には続けて次のように書かれている。「フィンランドとスウェーデンの加盟は、両国の安全を高め、NATOを強化し、欧州・大西洋地域をより安全なものにする。フィンランドとスウェーデンの安全保障は、加盟プロセス中も含め、同盟にとって直接的な重要性を持っている」。

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複数の政府高官たち:トルコはフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を支持(Turkey will support Finland, Sweden joining NATO: officials

モーガン・チャルファント筆

2022年6月28日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/3540070-finnish-president-says-turkey-will-support-finland-sweden-joining-nato/

複数の政府高官たちは火曜日、北大西洋条約機構(NATO)へのフィンランドとスウェーデンの加盟申請に対し、トルコが反対を取り下げたことで、マドリードでの首脳会議で大きな進展があったと述べた。

フィンランドのサウリ・ニーニステ大統領は声明で、3カ国全てが「互いの安全保障に対する脅威に対して全面的に支援する」ことを約束する3カ国協定に署名した後、トルコが北欧2カ国の加盟申請を支持することに同意したことを発表した。

ニーニスト大統領は、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟プロセスに関する「具体的な手順」は、首脳会日の残り日数で合意されるだろうと述べた。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、その直後の記者会見で、「フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に道を開く合意ができたことを発表できることを嬉しく思う」と述べた。

ストルテンベルグ事務総長は、3カ国がトルコの懸念に対処し、テロ対策に関する協力を深め、トルコの国家安全保障への脅威と戦うために支援することを約束する覚書に署名したと述べた。

この発表は、スペインで開催されているNATO首脳会議の初日に行われた。トルコ政府は、テロ、特にクルド労働者党(PKK)の脅威と戦うために十分なことをしていないという懸念を表明し、両国の同盟への加盟に数週間にわたって抗議していた。

トルコ政府が発表した覚書のコピーによると、覚書への署名において、スウェーデンとフィンランドはPKKの活動を取り締まり、トルコのテロリスト容疑者の引き渡し要求に「迅速かつ徹底的に」対処することに合意した。

フィンランドとスウェーデンは先月、正式にNATOへの加盟を要請したが、これはロシアのウクライナでの戦争に対応するための決断だった。

NATO加盟国30カ国のうち過半数が加盟への支持を表明しており、各国政府がNATOへの新規加盟を批准した上で、全会一致の支持が必要だ。

アメリカは、両国の加盟を強力に推進し、民主党と共和党の議員も両国の加盟を支持している。ジョー・バイデン大統領は、首脳会議の傍らで水曜日のうちにトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談する予定である。

「私は、ストルテンベルグNATO事務総長、同盟諸国、そして連邦議会と協力して、彼らを同盟に速やかに迎え入れることができるようにすることを楽しみにしている。マドリードでの歴史的なNATO首脳会議を始めるにあたり、私たちの同盟はこれまで以上に強く、団結し、断固としている」とバイデンは述べた。

専門家の一部は、トルコ政府がスウェーデンとフィンランドの同盟加入への反対を撤回するために、アメリカがトルコに譲歩、おそらくアメリカ製戦闘機の形で提供するだろうと推測していた。

ストルテンベルグ事務総長によると、NATO加盟諸国はマドリードでのサミット2日目の水曜日に、スウェーデンとフィンランドをNATOに招待することを正式に決定するとのことだった。

その後、NATO加盟諸国の個々の議会と国会が2カ国の加盟を承認する投票を行う必要があり、このプロセスが完了するまでに数ヶ月かかる可能性がある。

しかし、このニューズは、ヨーロッパで激化するロシアの侵略に直面し、強さと結束を示そうとするNATOにとって好材料である。

マドリード首脳会議は、ロシアがウクライナで5カ月目の戦争に突入したときに開催された。ここ数日、ロシアはウクライナの首都キエフへの新たな攻撃を開始し、その軍事作戦はウクライナ東部に集中している。

NATO諸国はサミットの期間中、バルト三国とポーランドでの戦力強化について話し合うと見られる。

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アメリカは「問題のある」NATO同盟国トルコに苛立っている(US frustrated over ‘problematic’ NATO ally Turkey

ラウラ・ケリー、モーガン・チャルファント筆

2022年5月21日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3496164-us-frustrated-over-problematic-nato-ally-turkey/

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、スウェーデンとフィンランドによるNATO加盟に反対し、アメリカと同盟諸国を苛立たせている。

トルコの姿勢は、ジョー・バイデン政権がウクライナへの侵攻をめぐってモスクワに送りたい結束のメッセージを複雑にしている。

スウェーデンとフィンランドによる軍事同盟(NATO)への加盟は歴史的なことであり、両国の加盟を望まないロシアにとっては大きな敗北である。彼らの決断がロシアの戦争の結果であることは、複数のアメリカ政府高官も強調している。

しかし、北欧諸国がクルド人テロリスト集団を匿うという嫌疑をめぐるエルドアンの反対で、モスクワに対する外交的勝利は雲散霧消する。

NATO加盟諸国は全会一致で受け入れに同意しなければならない。

アンカラは祝福を与えるために何か、例えばアメリカの戦闘機を求めているのではないかと囁かれている。

エルドアンは土曜日にフィンランド政府高官たちと会談する予定で、記者団に対して、「外交を中断させないために、これらの議論をすべて継続する」と述べ、変化への扉を開いたままにしている。

トルコは、必要ではあるが問題のあるパートナーであると広く見られている。

エルドアンは長年、ロシアの兵器システムの導入、シリアでの軍事的冒険、国内の政治的抑圧、アメリカ連邦政府の警備員や首都のアメリカ人抗議者に対する暴力などで、ワシントンを怒らせている。

しかし、トルコが黒海におけるNATOの安全保障に重要な役割を果たし、ウクライナに武器を提供し、ロシア軍との戦いで決定的な役割を果たしたことは、バイデン政権や連邦議員たちも認めている。

アメリカは、エルドアン政権が対ロシア制裁に加わることに抵抗していることに苛立っているが、同時にアンカラはキエフとモスクワの間で行われるかもしれない和平協議を受け入れ実施するためには、独自の意義を持つ場所であると認めている。

連邦上院外交委員化で民主党側の序列第2位の委員であるベン・カーディン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)は、「トルコはNATOにとって重要なパートナーだ。トルコには重要な軍事施設があり、トルコと良好な関係を保つことは私たちの利益になる」と本誌に述べた。

カーディンは「ウクライナに関しても、トルコは良いパートナーだ。だから、NATO内の安全保障上の必要性に反する可能性のあるロシアとの関係を持たせないことを明確にすることで、責任あるパートナーとして行動することを確認したい」と語った。

バイデン政権は、フィンランドとスウェーデンの受け入れを得るためにトルコに何を提供できるかについて何も発表していない。

ホワイトハウスのジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は24日、エアフォース・ワンの機内で記者団に対し、アメリカはいかなる形でも支援する用意があると述べたが、意見の相違は主にトルコ、フィンランド、スウェーデンの間のものであると説明した。

サリヴァンやその他のバイデン政権高官たちは、北欧諸国のNATO加盟を認めることで同盟が全体で合意することに自信を示している。

サリヴァンはまた、バイデン大統領とエルドアン大統領が話す予定はないとしながらも、バイデンは求められれば「エルドアン大統領とは喜んで会談する」と指摘した。

バイデンは、フィンランドとスウェーデンの両首相を木曜日にホワイトハウスに招き、両国のNATO同盟参加に対するアメリカの強い支持を表明した。ローズガーデンでの会見で、フィンランドのサウリ・ニーニスト首相は次のようにトルコに直接訴えた。

ニーニシスト首相は次のように述べた。「NATOの同盟国として、トルコが私たちの安全保障に関与するのと同様、私たちはトルコの安全保障に関与する。私たちはテロを深刻に受け止めている。私たちは、あらゆる形態のテロを非難し、テロとの戦いに積極的に取り組んでいる。私たちは、トルコが私たちのNATO加盟に関して持ちうる懸念全てについて、オープンで建設的な方法で議論することに前向きである」。

NATOの元副事務総長であるローズ・ゴッテモラーは、フィンランドとスウェーデンの申請は最終的に成功すると予想しているが、トルコとは「非常に厳しい交渉」になるだろうと予測した。

ゴッテモラーは「これは難しい問題だ。それは、私が副事務総長だった頃から、この問題は常に重要な議題として挙がっていたからだ。トルコはこの問題を常にレヴァレッジとして使っていた」と述べた。

連邦上院外交委員会の幹部委員であるジェイムズ・リッシュ連邦上院議員(アイダホ州選出、共和党)は、トルコがフィンランドとスウェーデンの加盟に反対し続けることができるのか、と疑問を呈した。

リッシュは「もしあなたがある組織のメンバーで、あなた以外の29人のメンバーがやりたがっているのにあなたが反対するならば、これは困難な状況にあなたが入ることになる」と述べた。リッシュはまた、アメリカとトルコの関係について、「プラスとマイナス」があると形容した。

全ての議員がリッシュほど外交的というわけではない。連邦上院外交委員会委員長ロバート・メネンデス上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)は、トルコの行動に屈しないよう警告を発した。

メネンデスは次のように述べた。「端的に述べるならば、トルコの行動が報われるべきではないと私は考える。トルコはロシアにヨーロッパやアメリカの制裁を加えることに同意していない。その他にも多くの懸念材料がある中で、権威主義の人物に報い続けるというのは理解できない」と述べた。

メネンデスは、トルコがF-16戦闘機を更に購入したいという要望を出してきても、バイデン政権は受け入れるべきではないと警告している。

メネンデスは「私はトルコにF-16戦闘機を送ることに賛成しない。彼らはまだCAATSA制裁に違反している」と述べた。メネンデスは、トルコがアメリカ連邦法に違反するロシアのミサイル防衛システムS400を所有していることにも言及した。

米国務省は、トルコに既存のF-16戦闘機のアップグレードと軍需品の販売を提案しており、ワシントンとアンカラの協力関係の緊密化を強く示唆している。

連邦議員たちは、この提案を支持するかどうかについては口を閉ざしている。

連ポイ上院外交委員会のメンバーでもあるジェーン・シャヒーン連邦上院議員(ニューハンプシャー州選出、民主党)は、F-16のアップグレードを支持するかどうかという質問に対し、「トルコを強力なNATOの同盟国として維持することが重要だと思う」と本誌の取材に答えた。

民主党所属の連邦議員の一部は、トルコがギリシアの島々で挑発的な軍事飛行を行っているというギリシアの懸念に応え、アンカラへの軍事機器売却を厳しく監視することを検討している。

ギリシアのキリアコス・ミトタキス首相は、火曜日に行われたギリシア議会での演説で、トルコへの武器売却に対して警告を発したが、アンカラの名前は特に挙げなかった。

ミトタキス首相は「NATOは、ウクライナがロシアの侵略に打ち勝つのを助けることに集中している現在、NATOの南東部にもう一つ不安定な要因が出てくることを最も避けたいと考えている」とミトタキスは言った。

ミトタキス首相は「そして、東地中海に関する防衛調達の決定をする際に、このことを考慮されることを希望する」と続けて述べた。  

ティム・ケイン連邦上院議員(ヴァージニア州選出、民主党)は、ミトタキスの発言は「完全に正しい」とし、同議員は2023年の国防権限法を用いて、東地中海におけるトルコの行動に対する懸念に対処する可能性があると本誌に述べたが、具体的な内容には踏み込まなかった。

ケインは「この問題については簡単に答えが出るものではない。アメリカとトルコの軍事的な関係はまだ強固だが、外交や選挙の分野では今本当に不安定だ」と述べた。

「こうしたことは現在、本当に問題になっている」とケインは語った。

(貼り付け終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争勃発後、中立政策を採用してきたスウェーデンとロシアの隣国でソ連時代からロシアとは微妙な(絶妙な)関係を築き、こちらも西側と東側の間で中立のような状態にあったフィンランドがNATO加盟の意図を表明した。これはロシアからの安全保障上の脅威に対抗するためと見られている。
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ヨーロッパの地図

 ここで、下記の論稿のウォルト教授は、これまで成功してきた中立政策をここにきて放棄する理由、特にスウェーデンはNATOに正式加盟していないがこれまでNATOと緊密な協力関係を持ち、加盟国の責務を果たさずに利益を得てきたが、加盟することで義務が生じるのにどうして加盟するのか、ということを設問として提示している。その前提として、ロシア軍は旧ソ連軍時代よりも弱体化しており、ウクライナ一国を短期間で占領する力はなく、西側の援助があればそれは猶更である。それならば、わざわざNATOに加盟しなくてもよいではないかということになる。

 これについて、ウォルト教授は「脅威(threat)」という言葉で説明している。スウェーデンとフィンランドにとっては、「ロシアがウクライナに侵攻した」という事実が重要ということになる。NATOの加盟国であれば、ロシアが侵攻してくれば、NATO加盟諸国は義務として、侵攻された国を支援して、ロシアと戦うということになる。そうなればロシアは国家体制を変更させられるほどの痛手を被るか、核兵器を使用するかということになるが、そのような状況で核兵器を使用すれば国家体制は崩壊させられることになるだろう。

 スウェーデンとフィンランドはロシアからの「脅威」を感じてNATO加盟の考えを表明した。これによって、ヨーロッパ、特にバルト湾岸地域の状況は大きく変化する。ウクライナ戦争におけるプーティンの誤算はここにあると考えられる。NATOの北方拡大もまたロシアにとっては脅威となる。北極海、バルト海から黒海までの地域はヨーロッパの火薬庫になる可能性がある。

(貼り付けはじめ)

スウェーデンとフィンランドは何を考えているか?(What Are Sweden and Finland Thinking?

-ヨーロッパ諸国の指導者たちはロシアの意図を再評価し、プーティンが領土の現状維持に与えている脅威に対してバランスをとっている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年5月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/05/18/nato-sweden-finland-russia-balance-threat/

優れた理論の長所の一つは、他の方法では意外に思えたり、少なくとも多少不可解に思えたりするような事象を理解できるようにすることである。例えば、スウェーデンとフィンランドが長年にわたる中立の伝統を捨て、NATOへの加盟を申請する決定を下したことがその例となる。

一見したところ、この決断の説明内容は明白である。ロシアは第二次世界大戦以降、ヨーロッパで最も破壊的な戦争を始め、かなりの残虐性をもってその戦争を遂行してきた。ウクライナ戦争が長引き、破壊的な膠着状態に陥る恐れがあるため、スウェーデンとフィンランドは安全保障環境が悪化していると判断し、NATO加盟によってもたらされると思われる、より大きな保護を選択したのである。大学で国際関係論を学んだ人なら、これは力の均衡理論(balance-of-power theory)の典型的な例と見るかもしれない。

それでも、この説明にはいくつかの疑問が残る。長い間成功してきた中立政策を放棄することは大きな一歩であり、将来的に大きなコストとリスクを伴う可能性がある。特にスウェーデンの場合、長年NATOと緊密に協力し、既に加盟国としての責務をほとんど果たすことなしに、多くの利益を受けることができた。この点は特に重要だ。それなのに、何故今になって方針を転換するのか?

もっと重要なことは、ウクライナにおけるロシアの惨めな軍事的パフォーマンスによって、スウェーデンやフィンランドは安全が損なわれるどころか、むしろ向上していると感じたかもしれない点だ。この戦争で、ロシア軍の能力では他国を征服することが難しいということが明らかになった。西側の制裁、戦争自体のコスト、そして人口が減少し高齢化する中で優秀な若いロシア人たちが海外に流出し続けることが重なり、ロシアの持つ潜在能力は今後何年にもわたって低下し続けるだろう。冷戦時代、ソ連の力が絶頂にあった時にスウェーデンは中立を保っていたことを考えると、少なくともスウェーデン(とフィンランド)がこのタイミングでNATOの保護を必要としたことは不可解ということになる。

私が長年主張してきたように、従来の力の均衡理論が不完全であることを認識すれば、このような不可解はなくなる。各国家は力の均衡(パワーバランス)に細心の注意を払っているが、各国家が本当に気にかけているのは脅威についてである。ある国家が他国に与える脅威のレヴェルは、その国家の総合的なパワーだけでなく、特定の軍事能力(特に他国を征服または害する能力)、地理的な近接性、および認識された意図の関数ということになる。

一般に、自国の近くにある国家は、遠くにある国家よりも危険である。同様に、征服に最適化された軍隊を持つ国家は、自国の領土を守ることを主目的とする軍隊を持つ国家よりも危険であるように見える。また、現状に満足しているように見える国家は、現状を修正しようとしているように見える国家よりも警戒心を抱かせない傾向がある。

脅威の均衡理論(balance-of-threat theory)は、1990年にイラクがクウェートを占領した際、崩れた経済基盤と三流の軍事力を持つイラクを凌駕する連合軍が誕生した理由を説明する。また、ヨーロッパがロシアのウクライナ侵攻にあれほど強力に対応しながら、遠く離れた中国の台頭にささやかな対応しかしていない理由もこの理論で説明できる。中国はロシアよりはるかに強く、長期的にはより大きな課題となりそうだが、ユーラシア大陸の反対側にあり、ヨーロッパ自体を脅かすに足る軍事力は持っていない。

スウェーデンとフィンランドの場合、転機となったのは明らかにロシアの意図に対する見方が変わったことだ。スウェーデンのマグダレナ・アンダーソン首相が週末に記者団に語ったように、スウェーデンがNATOへの加盟を決めたのは、ロシアの「暴力を行使する」「多大なリスクを負う」意思に対する見方が変わったからだ。ロシアがウクライナに侵攻した動機は、スウェーデン人にとって中心的な問題ではないことに注意したい。ロシアのプーティン大統領が根っからの拡張主義者であるか、深い不安感に大きく動かされているかは問題ではない。重要なのは、プーティン大統領が戦争に踏み切ったことである。

スウェーデンとフィンランドの反応(そして一般的な西側諸国の反応)は、国家が脅威をどのように認識し、どのように対応するかについて多くのことを教えてくれる。一般に、国家は、自国内の努力によって力を増すが、その力を現状変更のために使ったり、他の国から領土を奪ってより強くなろうとしたりしていない国に対して、どのように対応したらよいかを考えるのに苦労するものである。

この傾向には例外がある。19世紀にアメリカが北米大陸に力を拡大し、メキシコを解体することができたのは、他の大国と巨大な海によって隔てられていたことと、ヨーロッパ諸国が新興のアメリカにではなく、互いに照準を合わせていたことが理由である。しかし、台頭してきた国家が威張り散らさない限り、他の国家は増大する富から利益を得ようとする可能性が高く、それを封じ込めることは比較的少ない。

各国家は台頭する国家に対して疑いの目を向けるだろうが、その国が力を直接的に行使する意思を明確に示さない限り、反応は薄いものとなるだろう。中国が「平和的台頭(peaceful rise)」という戦略で成功を収めたのはそのためであり、結果として習近平がより積極的な行動を取るようになり、各国のより大きな懸念を引き起こしたのである。

プーティンの動機についてどう考えようが、彼がいくつかのレヴェルで大きな誤算を犯したことは、今や極めて明白である。プーティンはウクライナのナショナリズムを過小評価し、ロシアの軍事力を過大評価した。他の失敗した侵略者たちと同様に、彼は外交政策のリアリズムの重要な教訓を理解することができなかった。国家は脅威に対してバランスをとる。現状を打破するために武力を行使することは、一国がなし得る最も脅威を与える行為にほかならない。

戦争は時に必要であり、時には、戦争を始めた国にとって大きな利益をもたらす。しかし、戦争を始めると、必ず他の国々に警戒心を抱かせ、危険を封じ込めるために協力するようになるのが自然である。プーティンは、ヨーロッパが分裂しており、ロシアの石油とガスに依存しているため、自分の行動に反対することはできないと考えたのだろう。そこで彼は、目的を迅速に達成し、最終的には通常通りのビジネスに戻ることができることに賭けた。しかし、プーティンの得た結果は、ヨーロッパ諸国がロシアの意図に対する評価を改め、古典的なリアリスト的バランス(均衡)をとる行動をとったことだ。ウクライナ国内のネオナチの存在の可能性を過度に非難したこととロシア兵士の残忍な行動は結果として、スウェーデンとフィンランドの決断を容易にしただけのことだった。

ストックホルムとヘルシンキで起こっていることはこれで全てだろうか? おそらくそうではないだろう。NATOがウクライナに最新鋭の軍備を迅速に供給したことは、紛れもなく物流機能の優秀さを示すものであり、加盟することの価値を高めたかもしれない。西側諸国によるウクライナへの支援の高まりに対してロシアがエスカレートしなかったことも、ロシアの反撃についてのスウェーデンやフィンランドの懸念を和らげたと思われる。ロシアが弱体化すると同時に好戦的になっているのを見て、厳格な中立を放棄することがより安全な選択肢に見えたのかもしれない。

理由はどうであれ、世界の指導者の多くにとって、心に刻むべきより大きな教訓がある。国家は権力に敏感であるが、その権力の行使方法には更に敏感である。大きな棒を持つならば、穏やかに話すことが賢明である。ある国がその力を賢く使うことはあまりないのである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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