古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:スーザン・ライス

 古村治彦です。

 今年のアメリカ大統領選挙は、共和党は現職のドナルド・トランプ大統領とマイク・ペンス副大統領、民主党はジョー・バイデン前副大統領の戦いということになる。バイデンは「女性を副大統領候補に指名する」と発表している。「誰が副大統領候補になるのか?」「誰が副大統領候補にふさわしいのか?」とアメリカのメディアでは多くの名前が挙がっている。

 職務としては、連邦上院議員、連邦下院議員、州知事、市長、人種としては白人、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニックなどと多士済々である。しかし、誰もかれも実際に政権に入って仕事をした経験がなく、外交の経験もない。そこで出てくるのが、下に紹介する記事で取り上げられているスーザン・ライス(Susan Rice、1964年-)である。
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ライスとオバマ
 スーザン・ライスはオバマ政権8年間の内、前半は米国国連大使(閣僚級の扱いを受け、閣議にも出席できる)、後半は国家安全保障問題担当大統領補佐官(ホワイトハウスで外交を取り仕切る、国家安全保障会議
[NSC]を主宰)を務めた。オバマ政権二期目では国務長官の候補にも名前が挙がったが、「アラブの春」の過程で起きた、リビアのベンガジでのアメリカ領事館襲撃事件をめぐり、失言をしてしまったので、連邦上院の人事承認は得られないということで、承認の要らない国家安全保障問題担当大統領補佐官に就任した。

 拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)で、私は、スーザン・ライス、国家安全保障会議(NSC)メンバーと米国国連大使(2017-2019年)を務めたサマンサ・パワー(Samantha Power、1970年-)、アメリカ国務省政策企画本部長(2009-2011年)を務めたアン・マリー・スローター(Anne-Marie Slaughter、1958年-)名をヒラリー・クリントンの側近の女傑3人として紹介した。
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ライスとヒラリー・クリントン
奥にサマンサ・パワー
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スローター(左)とヒラリー

 このヒラリー派は「人道的介入主義(Humanitarian Interventionism )」と呼ばれるグループだ。この人道的介入主義派は、「世界各国、特に非民主的な国々、特栽国家で虐げられている人々を助けるために、アメリカの力を使う、アメリカの軍事力で政権転覆(regime change)を行うべきだ」という考えだ。そのためには戦争を厭わない。

ヒラリー派の人物の名前が副大統領候補に出てくることは甚だ危険だ。特に、年齢や健康に不安があるバイデンの副大統領候補ということは、当選して、バイデンに何か事が起きれば、大統領ということになる。もしライスが副大統領になり、大統領に昇格すれば、これは「ヒラリーの勝利」ということになる。アフリカ系アメリカ人初の大統領はバラク・オバマが成し遂げたが、女性初の大統領をライスが成し遂げるということになるが、その裏では、ヒラリー派が暗躍するということは十分に考えられる。

 そうなれば何が起きるかと言えば、国際関係の緊張だ。ロシア、中国、北朝鮮との関係は緊迫化し、最悪の場合には武力衝突ということも考えられる。「アフター・コロナ」時代において、不安定化した国内状況、国際状況を転換させるために、戦争が起きるということも考えられる。

(貼り付けはじめ)

プレス:スーザン・ライスはアメリカ合衆国大統領になる心づもりで選挙に出る準備ができている(Press: Susan Rice would be ready to step in as POTUS

ビル・プレス筆

2020年5月26日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/campaign/499646-press-susan-rice-would-be-ready-to-step-in-as-potus

副大統領候補を選ぶって?何か簡単そうだ。しかし、実際はそうではない。実際、ジョー・バイデンは現在、最も難しい仕事に直面している。それは、彼の決定には多すぎる要素が入ってくるからだ。

バイデンにとっては、既に女性を副大統領候補に選ぶと公約しているが、そうなれば次のような疑問が出てくる。私たちが知らない候補者がいるのだろうか?副大統領候補は重要な激戦州で勝利をもたらすことができるだろうか?民主党支持の有権者たちを熱狂させ、投票に向かわせることができる素晴らしい選挙運動ができる人物なのだろうか?無党派の有権者たちにアピールする人物だろうか?バイデンはこの人物と行動することに居心地の良さを感じるだろうか?そして、最重要なのは、バイデンに何か起きた場合に、この女性は大統領の地位に就くことができるだけの疑いようのない経験を持っているだろうか?という問いだ。

この最後の基準に関して、元国家安全保障問題担当大統領補佐官スーザン・ライス以上の能力を持つ人物は他にいない。連邦政府の役割とは何かを理解し、人々に奉仕するために政府の諸機関の結集された力をどのように使うかを分かっている指導者が現在ほど求められている時代はこれまでなかった。

バイデンには別の多くの強力な候補者たちがいないなどと言うことはできない。実際、バイデンが幸運なのは、選ぶべき人物が多くいるということだ。ある意味では、誰を選んでも失敗ということはない。ライスに加えて、バイデンが考慮中だと知られているのは、大統領選挙の経験を持つ3名の連邦上院議員の名前が挙がっている。カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出)、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出)、エイミー・クロウブッシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出)である。もう一人の連邦上院議員としては、州司法長官を務めた経験を持つ、ネヴァダ州選出のキャサリン・コルテス=マスト連邦上院議員も候補の一人だ。行政経験を持つ州知事2名の名前が挙がっている。1人はミシガン州知事グレッチェン・ウィットマー、もう1人はニューメキシコ州知事ミシェル・ルーハン・グリシャムだ。元警察本部長で現在はフロリダ州選出の連邦下院議員を務めるヴァル・デミングスの名前も挙がっている。地域の指導者2名の名前も挙がっている。その2人は、ジョージア州下院少数党(民主党)院内総務を務めたステイシー・エイブラムス、アトランタ市長キーシャ・ランス・ボトムズである。

ここに名前を挙げた人々はそれぞれ有利な点を持っている。誰を選んでも素晴らしい、そして歴史的な人選ということになる。しかし、ここに名前の挙がった人々の中に、行政と外交における経験において、スーザン・ライスにかなう人はいない。ライスはこれまでの30年間、複雑な政策問題、議会との協働、外国の指導者たちとの交渉、大統領の意向の実現にまい進してきた。ライスは政府と外交をいかに動かすかを知っている。彼女はスタッフをどのように動かすかを知っている。

ライスの人生とキャリアは公職に捧げられたものだった。彼女が最初に参加したのは、クリントン政権で、国際機関と平和維持部門部長と国家安全保障局のアフリカ問題担当部長を務めた。その後、連邦上院による満場一致で承認され、アフリカ問題担当国務次官補に就任した。彼女はキャリアの中で、ソマリアとルワンダでの危機的状況に対するアメリカの対応を指揮した。エボラ出血熱への対応に成功した後、ライスは国家安全保障会議の中に、 国際公衆衛生、生物学的防衛担当部長職(Directorate for Global Health Security and Biodefense )を創設した。この部門は2018年にトランプ大統領によって解体された。

2009年1月、オバマ大統領によって指名され、再びアメリカ連邦上院によって満場一致で承認され、ライスは米国国連大使に就任した。ライスは国連大使として、北朝鮮、イラン、中東、スーダン、リビア、その他の紛争地帯に関するアメリカの外交政策を形成することに貢献した。4年後、ライスはホワイトハウスに戻ることになった。この時は国家安全保障問題担当大統領補佐官としてであった。イランとの核開発をめぐる合意、パリ気候変動合意、キューバとの国交改善においてライスは重要な役割を果たした。

スーザン・ライスはまた人々に語るべき素晴らしい個人的な物語を持っている。母方はジャマイカ移民、父方はサウスカロライナ州の奴隷を先祖に持つ家族といった出自を持ち、ライス自身はアメリカンドリームを実現した。若い女性でかつアフリカ系アメリカ人という不利な点を乗り越えるために、両親の薫陶を受けて育った。彼女はスタンフォード大学を卒業し、ローズ奨学生としてオックスフォード大学に留学した。オックスフォード大学時代には500人の同級生の中でアフリカ系アメリカ人は彼女1人であった。そして、世界という舞台において最も有力な女性となった。ライスの物語は全ての順守の若い有権者を勇気づけるものだが、しかし特にアフリカ系アメリカ人コミュニティを活性化するものだ。アフリカ系アメリカ人コミュニティの熱心で全力な支持はバイデンの勝利にとって必要不可欠な要素である。

我が国がこれまで直面したことのない、最悪の公衆衛生上の危機と経済的危機により、バイデンはアメリカをこれまでの途に引き戻すための重大な挑戦に直面することになるだろう。バイデンには、全力で彼をサポートできる人物を選ぶ必要がある。スーザン・ライス以上の最高のティームメイトを見つけることはできないだろう。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 今年の大統領選挙で民主党の大統領選挙候補者に事実上決定しているジョー・バイデン前副大統領は、自身の副大統領候補として女性を起用すると公約している。今年の大統領選挙民主党予備選挙には女性候補者たちが数多く出た。その数は史上最高だった。予備選挙で善戦したエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出)、エイミー・クロウブシャー連邦上院議員(ミネソタ州選出)、カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出)といった人々が副大統領候補の候補者として挙げられている。
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 現在の新型コロナウイルス感染拡大はアメリカ国内で深刻であるが、そうした中で、各州の州知事の中で、感染拡大への対応で評価を上げている人たちがいる。ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事やミシガン州のグレッチェン・ウィットマー知事がそうである。ウィットマーも今年の大統領選挙の副大統領候補として名前が挙がっている。しかし、クオモとウィットマーは次の20204年の大統領選挙に温存している方が両人にとっても民主党にとっても良いだろう。

 そうした中で、スーザン・ライスがPBSのインタヴューに答えて、バイデンの副大統領候補に選ばれたら、「謹んで受諾する」と答えた。ライスも副大統領候補の候補者の1人と考えられている。ライスはバラク・オバマ前政権で国連大使や国家安全保障問題担当大統領補佐官を歴任した。ライスはヒラリー・クリントンの後任の国務長官の候補者として考えられていたが、アメリカ公使が殺害されたリビアのベンガジで起きた事件で味噌をつけてしまい国務長官になり損ねた。

トランプ大統領が最初に国家安全保障問題担当大統領補佐官に選んだマイケル・フリンに関して、ロシア大使との事前の電話会談がマスコミにリークされ、不倫はほぼ活動ができないままに辞任を余儀なくされた。このことに関して、オバマ政権末期にバイデンを含む高官たちがフリンの諜報上の情報を得るための申請をしていた。その高官リストにスーザン・ライスも入っていた。この問題はあまり大きいとは言えないが、オバマ政権によるトランプ政権への妨害ということであり、トランプ大統領は「オバマゲート事件」と呼んでいる。

 ライスは人道的介入主義派、ヒラリー派の人物であるが、オバマとの関係も悪くなかった。両者をつなぐことができた人物である。バイデンがもし大統領に当選すれば、スーザン・ライスも政府高官(国務長官クラス)、ホワイトハウスの最側近のスタッフ(国家安全保障問題担当大統領補佐官クラス)として復帰することも考えられる。しかし、副大統領候補となるには少し弱いところがある。ライスが副大統領候補に選ばれることはないだろう。何よりもヒラリー派の復活に対して、進歩主義派が大反対するだろう。そうなれば、バイデン大統領誕生も危うくなる。

 

(貼り付けはじめ)

スーザン・ライスはバイデンの副大統領候補Susan Rice says she would 'certainly say yes' to be Biden's VP

J・エドワード・モレノ筆

2020年5月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/497924-susan-rice-says-she-would-certainly-say-yes-to-be-bidens-vp

オバマ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたスーザン・ライスは、民主党大統領選挙候補者を確実にしているジョー・バイデンがライスに副大統領候補になるように依頼してきたら、「確実にイエスと言う」と発言した。


ライスはPBSとのインタヴューの中で、「私は素晴らしい実績を残した女性の方々の中に入れていただいたことを謹んで受諾します。これは大変に光栄なことです。こうした女性たちは副大統領候補として考えられていると報道されています」と述べた。

ライスはまた、バイデン前副大統領が、ライスが副大統領の最良の候補だと考えているのならば、自分としてはノーということはないだろうとも述べた。

ライスは「私は自分ができる限りの努力をして、彼を次期アメリカ大統領にしたいと願っています」と述べた。

バイデンは女性を副大統領候補に起用すると公約している。そして今月初め、彼の副大統領候補選定委員会は「12名以上の女性」を候補者として挙げているとも述べた。

今月CBSが行った世論調査の結果では、エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)が、バイデンの副大統領として、民主党員や民主党支持の有権者の中でトップに選ばれた。ライスは、ミシガン州知事グレッチェン・ウィットマーと並んで6位につけた。

ライスの名前は国家情報局長官代行リチャード・グレネルが発表したオバマ政権の幹部だった人物たちのリストの中にも入っている。グレネルによると、これらの元幹部たちは、トランプ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリンの「アンマスキング」につながる文書の提出を求めたということだ。マイケル・フリンに関するアンマスキングとは、2016年の大統領選挙からトランプ大統領の就任式までの期間に出された諜報レポートにおけるフリンの記述について提出を求めるものだ。

このリストの発表によって、共和党の連邦議員たちは、オバマ政権の幹部だった人物たちの行動についての調査を開始した。議員たちはライスの国家安全保障問題担当大統領補佐官時代のコミュニケーションに関連する情報の提供を求めている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 古村治彦です。

 今回はホワイトハウスの人事についての記事をご紹介します。日本では、安倍晋三首相が「女性の社会進出」「女性の輝ける社会」という謳い文句で、女性閣僚を数多く起用しました。この流れはアメリカでも同じであるようです。

 それにしてもオバマ大統領とヒラリー系の戦いはどんどん激しさを増しているようです。私は「内戦」と書きましたが、「仁義なき戦い」のようです。国家安全保障問題担当次席補佐官がバイデン系のトニー・ブリンケンから、今回ヘインズに交代になったのは、キューバとの交渉で成功した、「トップ外交」を継続させるためではないかと思います。アヴリル・ヘインズは高校卒業後に1年間、東京にある講道館で柔道の修行にいそしんだという変わった経歴の持ち主です。

 こうした状況に対して、ヒラリー系がどう押し戻してくるか、後2年間のオバマ政権の動きはどうなるのかを注視していきたいと思います。

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CIA
のナンバー2がホワイトハウスへ移動

 

サイモン・イングラー(Simon Engler)筆

2014年12月18日

フォーリン・ポリシー誌

http://foreignpolicy.com/2014/12/18/number-2-at-cia-moves-to-white-house-avril-haines-deputy-national-security-advisor/

 

 オバマ大統領は、CIA副長官アヴリル・ヘインズ(Avril Haines)をスーザン・ライス(Susan Rice)国家安全保障問題担当大統領補佐官の副官(次席補佐官)に選んだ。ヘインズはオバマ政権発足時から、情報と外交政策の分野で活躍してきた。そして、これからホワイトハウスで重要な役割を果たすことになる。彼女は国家安全保障問題担当大統領補佐官職の伝統を受け継ぎ、これを発展させながら、同時にスーザン・ライスに権力が集中し、ホワイトハウスで何でも決定されているという批判とも戦うことになるだろう。

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アヴリル・ヘインズ

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バラク・オバマ大統領とヘインズ
 

 現CIA副長官のヘインズは、国家安全保障問題担当大統領補佐官ライスと国土安全保障問題担当大統領補佐官リサ・モナコ(Lisa Monaco)の仲間入りをすることになる。ヘインズは、ホワイトハウスで国家安全保障と外交を担当する女性3名の1人となる。女性の民主党系の政策立案者としては、ミッシェル・フロノイの名前を忘れてはいけない。彼女は、国防長官を更迭されたチャック・ヘーゲルの後任の長官として最初に名前が挙がり、オバマ大統領が考える第一の候補であると言われたほどであった。


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バラク・オバマ大統領とスーザン・ライス

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左からサマンサ・パワー、オバマ大統領、リサ・モナコ、スーザン・ライス(女性の積極的な登用)

 ライス補佐官は彼女の副官となるヘインズについて、「彼女高い知性、アメリカ国民に対する徹底した献身、すでに実証されている物事を実行するための能力」を持つ人物であると高く評価している。

 

 ヘインズは、トニー・ブリンケン(Tony Bliknen)の後任として就任する予定である。ブリンケンは、国務副長官に転出する予定である。ヘインズはホワイトハウスで新たな役割を果たすことになる。彼女の仕事は、政府各省庁の副長官を集めて会議を主宰し、この会議で政策案を複数用意して、大統領と各省庁の長官がそれぞれを閣議で話し合い、評価ができるようにすることである。

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左から:バイデン副大統領、トニー・ブリンケン、スーザン・ライス、ケリー国務長官
 
 

 これは大変厳しい仕事となるであろう。ホワイトハウスは対外政策の面では、イスラム国家打倒とロシアのウラジミール・プーティン大統領との対峙のための戦略を建てることに忙殺され、一方で、国内問題では主要な省庁の長官や幹部たちを無視して政策決定が行われているという批判に晒されている状況だ。

 

(終わり)








 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



 古村治彦です。

 

 今回は、チャック・ヘーゲル国防長官の辞任についての論稿をご紹介します。日本時間の2014年11月24日夜にヘーゲル辞任のニュースが出ました。ニューヨーク・タイムズ紙などを読むと、「オバマ大統領から圧力をかけられた末の辞任」であるとあります。これはつまり「更迭」ということになります。

 

 以下の論稿は、ヘーゲルの辞任についてホワイトハウスとヘーゲルの関係悪化があったことを原因として挙げています。

 

 私は、今回のヘーゲルの辞任劇に関しては、ヒラリー派の巻き返しの結果であると考えています。拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)でも書きましたように、ヒラリー系は人道的介入主義を掲げ、アメリカが世界各地で起きている紛争や危機にどんどん介入することを目指しています。

 


 現在のオバマ政権の外交・国家安全保障担当ティームには、ヒラリー系からスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官とサマンサ・パワー米国連大使(閣僚級)の2人の女性が入っています。ヘーゲルの次の国防長官の有力候補として女性初の国防長官となるかもしれないミッシェル・フロノイの名前が挙がっていますが(レオン・パネッタ辞任の時にも名前が挙がりました)、彼女はヒラリー系です。

 オバマ大統領は現在の脅威や危機(エボラ出血熱やイスラム国など)の対応が不十分であったということで、ヘーゲル国務長官を「更迭した」ということになっています。しかし、実際は、大統領自身が圧力に負けて「更迭させられた」ということであって、ヒラリー派の巻き返しと外交・安全保障分野で主導権を握ったと見るべきです。 

 

 こうして見ると、ミッシェル・フロノイが国防長官に就任し、ヒラリー派が力を増すことで、2015年の世界は少しきな臭いことになるのではないかと私は考えています。

 

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晩秋に災難に遭って政から去る人物について(The Fall Guy

 

ヘーゲルを政権から除くことはオバマ政権の国家安全保障担当ティームが患っている病気の治療にはならない。これこそが病気の症状そのものなのだ

 

デイヴィッド・ロスコフ(David Rothkopf)筆

2014年11月24日

フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌

http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/11/24/the_fall_guy_chuck_hagel_resignation_obama_administration_national_security_team

 

 チャック・ヘーゲル(Chuck Hagel)が国防長官に任命されると同時に彼を取り除くためのナイフが既にようにされていたのだ。しかしながら、最初のうち、彼を切り裂くためのナイフを持っていたのは、彼を国防長官に押し上げた、疑い深いマスコミであった。ワシントンの事情通たちは、ヘーゲルは上院議員として活躍し、ビジネス界と軍隊時代に大きな業績を上げたのだが、国防長官としては仕事ができなかったと述べている。しかし、本日、ヘーゲルはオバマ政権の閣僚の座から追われることが発表された。彼の国防長官としての資質や仕事ぶりに疑念を持っていた人々の多くは、彼が失敗したのだと感じた。

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チャック・ヘーゲル(左)とオバマ大統領

 

 オバマ政権第二期の最初の2年、国家安全保障分野の最前線においては様々な問題が起きた。私を含め多くの人々は、オバマ大統領はブッシュ前大統領が書いた本を読んでそれから教訓を学び、自分のためにうまく働かない政権のメンバーを交替させるべきだと主張してきた。

 

 約2カ月前、政権内部の事情通は、ヘーゲルはスケープゴートにされるかもしれないと言っていた。彼とホワイトハウスとの関係は悪かった。彼は力のある国防長官だとは考えられなかった。オバマ政権のアドヴァイザーを務めたある人物は、ヘーゲルについて、「オバマ政権に最初からいたかのように演じていた」と述べている。国防総省の幹部たちは、イラクとシリアの混乱状況を拡大させているイスラム国に対する大統領とホワイトハウスの国家安全保障担当ティームの首尾一貫しない対応に対して不満を募らせていった。ヘーゲルはこれを大統領とホワイトハウスに伝える役割を果たした。

 

 ヘーゲルを国防長官にしたことは、オバマ大統領と彼の側近のアドヴァイザーたちの判断ミスであると言えるだろう。ヘーゲルは国家安全保障を担当する国防総省の官僚たちをうまく動かすノウハウを持っておらず、オバマ政権第一期に国防長官を務めたロバート・ゲイツ(Robert Gates)とレオン・パネッタ(Leon Panetta)が示したほどの指導力を持っていなかった。ヘーゲルは、大統領が信頼して国防分野を任せることができる側近が少なかったということを示すシンボルであった。オバマ大統領は大統領になる前、ワシントンでは4年間の経験しかなく、そこで知り合った数少ない人物であるヘーゲルを国防長官に任命したのである。彼の数少ないワシントン経験が連邦上院議員であった。ヘーゲルは有名人ではあったが、国防長官に適した人物ではなかった。しかし、ヘーゲルは、オバマ、ジョー・バイデン(Joe Biden)、ジョン・ケリー(John Kerry)といった連邦上院外交委員会時代の同僚たちと仕事をすることを楽しんでいた。

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左側にスーザン・ライスとヘーゲル、右側にバイデンとケリー

 

 ヘーゲルに問題があったのではない。確かに彼は孤立してきたし、ワシントンDC以外で時間を使ってきた。しかし、オバマ政権は政権の閣僚たちをこれまでの政権に比べ、孤立させてきた。このことを知るためには、『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載されたマーク・ランドラーの記事を読むだけで良い。この記事は国務長官ジョン・ケリーについてのもので、ケリーはホワイトハウスとのつながりが絶たれており、彼は映画『グラヴィティ』で女優サンドラ・ブロックが演じた、宇宙でロープが切れてしまい漂流することになった宇宙飛行士と似ているというものであった。拙著『国家安全保障の問題』は、現在の諸問題を生み出した機能不全について書いたものである。そして、ホワイトハウスと閣僚の関係の抱える問題についても書いている。これは、パネッタ、ゲイツ、ヴァリ・ナシャール、そしてヒラリー・クリントンがそれぞれの著書の中で指摘していることである。

 

 いや、ヘーゲルの孤立、ヘーゲルとホワイトハウスとの間の緊張関係、アメリカ軍のトップであるヘーゲルが国防長官に就任してから不満を募らせていたこと、中途半端さ、イラクとシリアにおける戦いに関するオバマ政権の対応のまずさが示しているのは、オバマ大統領自身の政権運営もまずさであり、政策決定過程を見てみると、国家安全保障会議のやり方に問題があったと言えるのだ。

 

 二期目を無事に迎えた大統領の多くは選挙担当スタッフたちを政権から退かせ、政権運営により集中するものである。オバマ大統領は、しっかりとした政策を立案できる国家安全保障担当ティームを作るよりも、側近たちで固めて安心感を求めるようになっている。国家安全保障担当大統領補佐官 スーザン・ライス(Susan Rice)は、オバマ大統領の選挙対策ティームにおける国家安全保障政策担当の最高責任者であった。彼女は、現在の大統領首席補佐官であるデニス・マクダナウ(Denis McDonough)と一緒に選挙の当選のために働いた。彼らは、オバマ政権内部において同僚たちと「私たち対彼ら」という環境を生み出している。ヒラリー・クリントン選挙対策ティームにいた人々がそうしたことをしているのである。彼らは選挙対策ティームの戦術をそのまま使い、国際社会におけるアメリカの行動を国内政治の観点から考えるばかりで、これがオバマ政権の国家安全保障担当ティームが犯している間違いの原因を生み出しているのである。ホワイトハウスと国防総省・上院との分裂と対立、昨年のシリア攻撃を行うそぶりだけを見せたこと、国家安全保障局のスキャンダル、ウラジミール・プーティン(Vladimir Putin)ロシア大統領のクリミア侵攻に対する対応のまずさ、イラクの現在の状況といった失敗が起きているのである。

 
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肩を組むオバマ大統領、スーザン・ライス、サマンサ・パワー

オバマ大統領は国防総省のトップを考慮するにあたり、多くの素晴らしい選択肢を持っている。元国防次官ミッシェル・フロノイ(Michèle Flournoy)は最有力候補である。フロノイはヘーゲルが任命された時にも有力候補であり、それは今でも変わらない。元国防副長官アッシュ・カーター(Ash Carter)、元国防次官、元国防副長官で戦略国際問題研究所(CSIS)所長ジョン・ハムレ(John Hamre)も有力は候補者たちである。

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ミッシェル・フロノイとアッシュ・カーター

 

 これらの候補者から1人を選び出して国防長官にしても、オバマ政権内部にあるより深刻な諸問題を解決することはできないだろう。率直に言えば、国防長官の職を提示された人は、ホワイトハウスが国防総省のトップになる彼もしくは彼女に対して職務を遂行し、使命を果たすために必要な力を与えてくれるという確信がなければ、提示を受け入れるかどうか苦悩することになるだろう。そして、もっと率直に言うと、任命される人は国家安全保障会議の政策決定過程に変更を加えてくれるように頼むべきだ。そして、ホワイトハウスのスタッフたちに集中し過ぎた権力を分割するように依頼すべきだ。そして、オバマ政権に対して「政府全体で解決する」ことについて話試合をするように求めるべきだ。

 

 繰り返すと、より重大な挑戦と懸念がこの問題について付きまとう。

 

 ここで言う挑戦とは、国家安全保障会議と国家安全保障ティームはオバマ大統領が何を望んでいるかを常に反映しているということである。オバマ大統領が過去2年間に犯した間違いをこれからの2年間で避けるためにはどう変化すればよいのかということを自分に問いかけたくないと考えるなら、閣僚がどれだけ変わっても意味はない。チャック・ヘーゲルが激しい綱引きの後に政権から去ることはそれが示しているように、オバマ政権の抱える諸問題に真剣に向き合うことを避けるジェスチャーなのである。それは空虚さよりも性質の悪いことなのである。ヘーゲルの辞任はオバマ大統領が自身の政権を強化することに抵抗し、アメリカ合衆国の国家安全保障上の利益を有効に追求することに抵抗していることのシンボルなのである。

 

(終わり)








 

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