古村治彦です。

 スイスの保養地ダヴォスで開催された世界経済フォーラム(WEF)に、インターネット(オンライン)を通じてヘンリー・キッシンジャーが登場した。キッシンジャーはウクライナ戦争勃発以前の状態に戻り、そこから交渉を始め、ウクライナは領土に関して譲歩すべきだ、そうやって戦争を終結させるべきだという考えを述べた。戦争以前の状態とは、2014年のロシアによるクリミア併合とウクライナ東部のドンバス地方でロシア系住民の多い地域の自治という状態から始めるということだ。キッシンジャーはクリミアとウクライナ東部(どの程度の広さまでを含むかは不明瞭)についてウクライナは譲歩(割譲)すべきだと述べたということになる。

 ウクライナ側では当然のことながらこれに対して反発が出ている。ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は「全ての領土を回復するまで戦う」と発言した。これは非常に重要な発言だ。ゼレンスキーの述べる「全ての領土」には2014年以降、ロシアに併合されているクリミア半島、自治区となっている東部地域も完全に回復するということになる。2014年以降に抱えた問題をこの戦争の機会を利用して一気に武力解決する、そのために戦争を継続するということになる。

2014年以降、ウクライナがこうした地域の回復のために武力をしようとすれば西側諸国は反対し、武器を供与するということに躊躇しただろう。しかし、現在はそうではない。西側諸国はそこまでの想定はしていないだろう。とりあえずロシア軍を撤退させることで戦争終結と考えているだろう。しかし、ウクライナの現政権にとっての戦争終結はクリミアと東部地方の回復である。と言うことは、戦争はより長期化し、より激戦化するということになる。ウクライナにしてみれば、敵(ロシア)を追い出すだけではなく、機会を捉えて敵を追おうということだ。

 ロシアのウラジミール・プーティン大統領の核兵器使用を含む確固とした姿勢を受け、『ニューヨーク・タイムズ』紙ですら、「もう戦争を止めたら(ウクライナが譲歩して)」ということを言い出した。アメリカ国内に向けた核攻撃の可能性が出てきて震えあがっているのだ。調子に乗って威勢のいいことを言ってみても、これでは何とも情けない限りだ。EUもまたロシアはいつでも隣人だと言い出した。そのうちにEUに入っていないウクライナを助ける義理はないなどと言い出すだろう。ヨーロッパ諸国が歴史的にやって来たことを見ればこれくらいのことはずるいとも悪辣とも言われない、日常茶飯事のことだ。

 ウクライナが全領土を回復することは不可能だ。西側諸国もそこまでのことには付き合いきれない。自分たちの身だって危うくなるのだ。そんな不可能なことを言い出して戦争を継続するということに何の正当性があるのか。かえって戦争を拡大し非常に危険なことだ。

(貼り付けはじめ)

ゼレンスキーはキッシンジャーによるウクライナが領土の一部をロシアに譲歩するという提案を拒絶(Zelensky rips Kissinger over suggestion Ukraine cede territory to Russia

ブラッド・ドレス筆

2022年5月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/news/3502032-zelensky-rips-kissinger-over-suggestion-ukraine-cede-territory-to-russia/

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は水曜日、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が今週初め、平和の名の下にウクライナの一部の領土をロシアに譲渡するよう示唆したことを非難した。

水曜日の演説で、ゼレンスキーはキッシンジャーが「遠い過去から姿を現し、ウクライナの一部をロシアに与えるべきだと発言した」と述べた。キッシンジャーは「カレンダーは2022年ではなく1938年だ」(これは、ナチスドイツがチェコスロヴァキア西部の土地を併合することを認めたミュンヘン協定にちなむ)と語った。

ゼレンスキーは次のように発言している。「ウクライナに対してロシアに何かを譲るよう助言する人々のこうした地政学的な思惑の裏にあるのは、“偉大な地政学者たち”は常に普通の人々を見ようとしないということがある。平和という幻想と交換しようと提案する領土に実際に住んでいる何百万人もの人たちがいるのだ。常に人々を見なければならない」。

月曜日にスイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムで、98歳のキッシンジャーは、モスクワとキエフの間で「平和に関する交渉を始める必要がある」と述べ、「理想的には、国境線は現状(status quo ante)に戻すべきだ」と述べた。

ロシアは2014年にウクライナからクリミア半島を併合し、東部のドネツク州やルハンスク州で分離主義運動を煽動した。ロシアのプーティン大統領は、ウクライナに軍を移動させ、本格的な攻撃を開始する前に、これらの地域の独立を宣言した。

ロシアはキエフ占領の野望を少なくとも一時的に縮小しているため、プーティンは戦争を終わらせる前に少なくとも東部のいくつかの地域を支配下に置きたいと考えているだろうと多くの人が見ている。

ゼレンスキーは水曜日、プーティンを指して「独裁者との再会を急ぐ人たち」には耳を貸さないと述べた。

ゼレンスキーは次のよう述べた。「ロシアが何をしようと、“その国益に配慮しよう”という人が必ずいる。今年もダヴォス会議でそうした声が聞かれた。何千発ものロシアのミサイルがウクライナを攻撃しているにもかかわらず、だ。何万人ものウクライナ人が殺されたにもかかわらず」。

ロシアがウクライナに侵攻したのは、プーティンが、ウクライナが加盟への関心を高めていた30カ国からなる安全保障ブロックであるNATOの勢力拡大を恐れたからでもある。しかし、戦争が始まって3カ月以上が経過し、プーティンの侵略は安全保障意識の高い北欧諸国のフィンランドとスウェーデンを刺激し、両国は西側の安全保障同盟に加盟する動きを見せている。

ロシアはウクライナ戦争で何度も敗北し攻勢が停滞した。その後、NATOはウクライナがロシアとの戦争に勝つことができると主張している。

ゼレンスキーは、ウクライナは「全ての領土を取り戻すまで」戦うと宣言し、最新の演説では、「国家を守る全ての人々は、東部におけるロシア軍の極めて激しい攻勢に抵抗している」と述べた。

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キッシンジャー発言の後ゼレンスキーがウクライナは全ての領土を回復するまで戦い続けると述べる(Zelensky says Ukraine will fight until it regains all its territories after Kissinger remark

キャロライン・ヴァキル筆

2022年5月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/3501584-zelensky-says-ukraine-will-fight-until-it-regains-all-its-territories-after-kissinger-remark/

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、水曜日に開催された世界経済フォーラムで、ウクライナは全領土を取り戻すまで戦うと述べた。これは、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が、ウクライナの国境はロシアの侵攻開始前と同じであるべきだと発言した後の発言である。

ゼレンスキーは「ウクライナが全領土を取り戻すまで戦うと言うとき、その意味はただ1つだ。それは独立と主権の話だ」と語った。

ウクライナ大統領の発言は、月曜日に世界経済フォーラムで発言したキッシンジャーが異なる結果を示唆した後のものだ。

キッシンジャーはウクライナとロシアとの国境線について次のように発言した。「私の考えでは、交渉と和平交渉に向けた動きは、戦争の結果の概要を説明するために、今後2ヶ月の間に開始する必要がある。しかし、その前に、特にロシア、グルジア、ウクライナのヨーロッパに対する最終的な関係の間に、克服するのがますます難しくなる動乱と緊張を生み出す可能性がある。理想的には、国境線は現状に戻るべきだ」。

2014年、ロシアはクリミアを併合したが、この動きはアメリカをはじめとする多くの国が違法と見なしている。侵攻開始のわずか数日前、ウクライナ東部の2つの離脱地域がロシア政府によって独立国家と認められた。

今回の発言は、ロシアのウクライナ侵攻が3カ月に及んでいることを受けてのものだ。ゼレンスキーは水曜日、ウクライナはロシアとの話し合いに前向きであるが、モスクワがそうし

ゼレンスキーは「少なくともロシア側が血みどろの戦争の段階から外交に移行する意欲を示していることを理解すればこの段階に移行することができる」と述べた。

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キッシンジャーは僭称を終結させるためにウクライナは領土を譲歩すべきだと述べる(Kissinger says Ukraine should cede territory to Russia to end war

ティモシー・ベルタ筆

2022年5月24日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/world/2022/05/24/henry-kissinger-ukraine-russia-territory-davos/

ヘンリー・A・キッシンジャー元米国務長官は月曜日、ロシアからの侵略を終わらせるためにロシアに領土の一部を譲歩すべきだと述べた。戦争が4カ月目に入る中、ウクライナ人の大多数が反対している立場を提示した。

スイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムでの会議に登場し、キッシンジャーは、ウクライナでロシアに屈辱的な敗北を求めないようアメリカと西側諸国に促し、ヨーロッパの長期的安定を悪化させる可能性があると警告した。

西側諸国は、ヨーロッパにおけるロシアの重要性を思い起こし、「その場の雰囲気に流されない」ようにすべきだと述べた。続いて、キッシンジャーはまた、西側諸国がウクライナに「status quo ante」(以前の状態を意味する)の交渉を受け入れさせるよう推し進めることを求めた。

『デイリー・テレグラフ』紙は次のように報じている。98歳になるキッシンジャーは次のように述べた。「簡単に乗り越えられないような動乱や緊張を生み出す前に、これから2ヶ月の間に交渉を始める必要がある。理想的には、分水嶺は現状復帰(status quo ante)であるべきだと述べた。その先まで戦争を追求すると、ウクライナの自由のためではなく、ロシアそのものに対する新たな戦争が起きてしまう」。

リチャード・M・ニクソン大統領とジェラルド・フォード大統領の時代に国務長官を務めたキッシンジャーが言及した「現状維持(status quo ante)」とは、ロシアがクリミアを正式に支配し、ウクライナの最東端のルハンスクとドネツクの2つの地域を非公式に支配する状況を回復させることを指す。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアとの和平交渉に入るための条件として、侵攻前の国境線を回復させることを強調している。

キッシンジャーの発言は、ロシアによるウクライナ戦争が「国際秩序全体に疑問を投げかけている」と各国首脳が指摘する中でなされた。ヨーロッパ委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長はダヴォス会議で、この戦争は「ウクライナの生存の問題」や「ヨーロッパの安全保障の問題」だけでなく、「国際社会全体の課題」であると述べた。ライエンは、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の「破壊的な怒り」を嘆きながらも、ロシアが「民主政治体制、法の支配、国際ルールに基づく秩序の尊重に戻る道を見出せば、いつかヨーロッパにおける地位を回復できるだろう。それはロシアが私たちの隣人だからだ」と述べた。

和平と引き換えに土地を手放さないという点では、ウクライナ人の多くがゼレンスキーに同意している。キエフ国際社会学研究所が今月行った世論調査の結果によると、ウクライナ人の82パーセントが、たとえ戦争が長引くことになっても、ウクライナの土地を手放す用意はないと答えている。5月13日から先週水曜日にかけて行われた世論調査によると、侵略を終わらせるために土地を手放すことは価値があると考える人はわずか10%で、8%はどちらとも言えないと答えたということだ。

この世論調査の対象者には、クリミア、セヴァストポリ、ドネツク州とルハンスク州の一部地域など、2月24日以前にウクライナ当局の支配を受けなかった地域の住民は含まれていない。また、2月24日以降に海外に出国した国民も含まれていない。

キッシンジャーの発言は、ウクライナが和平を実現するためには「痛みを伴う領土問題への決断」が必要だとする『ニューヨーク・タイムズ』紙編集部の最近の論説に続くものだ。

ニューヨーク・タイムズ紙の編集部は木曜日に掲載した論稿の中で次のように述べている。「結局のところ、厳しい決断をしなければならないのはウクライナ人である。ロシアの侵略に対して戦い、死亡し、家を失ったのは彼らなのだ。戦争の終結がどのようなものかを決めなければならないのも彼らである。もしこの紛争が本当の交渉につながれば、ウクライナの指導者たちは、妥協案が要求する痛みを伴う領土問題を解決しなければならないだろう」。

この論説記事は、ゼレンスキー大統領の顧問を務めるミハイロ・ポドリャクなどの反発を受けた。彼らは「ロシアへの譲歩は、平和への道ではなく、数年先送りの戦争につながる」と指摘した。

キッシンジャーは月曜日のコメントの中で、各国が道徳や原則よりも現実的な目的を優先させる現実政治優先的アプローチ(realpolitik approach)を長年提唱しており、ヨーロッパの指導者たちに対して、ヨーロッパにおけるロシアの位置を見失わないように、そして、ロシアが中国と永久に同盟を結ぶリスクを冒してはならないと促した。

デイリー・テレグラフ紙は、キッシンジャーが「ウクライナ人が示したヒロイズムに知恵を添えてくれることを期待する」と発言したと報じている。

批評家たちは、キッシンジャーの発言を、ある人が使った言葉である「不幸な介入(an unfortunate intervention)」と形容している。ウクライナ議会議員であるイナ・ソヴスンは、キッシンジャーの立場を「本当に恥ずべきことだ!」と糾弾している。

「アメリカの元国務長官が、主権国家の領土の一部を放棄することが、どの国にとっても平和への道だと信じているなんて何と哀れなことか」とソヴサンはツィートした。

ポドリャクは、たとえ和平につながるとしても、ウクライナは領土を譲ることはできないとの主張を繰り返し、「誰かの財布を満たすために主権をその代償にすることはない」と述べた。ポドリャクは火曜日にキッシンジャーがプーティンと握手している古い写真をツイートし、戦争を戦っているウクライナ人がこの老いぼれた外交官の提案に耳を傾けなかったことに感謝していると述べた。

ポドリャクはツィートの中で次のように述べた。「キッシンジャー氏は戦争を止めるためにロシアにウクライナの一部を与えることを提案する。それと同じくらい簡単に、ポーランドやリトアニアをロシアが奪うことを許可するだろう。塹壕の中のウクライナ人たちがダヴォス会議のパニッカーたち(錯乱している人間たち)の発言に耳を傾ける時間がないのは良いことだ。彼らは自由と民主政治体制を守るのに今のところ少しばかり忙しいのだから」。

(貼り付け終わり)
(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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