古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:テッド・クルーズ

 古村治彦です。

 

 少し古いのですが、興味深い内容だったのでご紹介したい記事がありまして、今回掲載します。2016年の米大統領選挙共和党予備選挙で、トランプ大統領と争ったテッド・クルーズ連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)が今年の中間選挙で、民主党からの挑戦で苦戦しつつあり、トランプ大統領に応援を求めたという内容です。

tedcruzdonaldtrump007

 

 テキサス州は2016年の米大統領選挙本選挙ではトランプが勝利し、連邦議員も多くは共和党所属であり、共和党が優勢の州です。民主党の若手有望株のカストロ兄弟もテキサス州サンアントニオを地盤としており、30代でオバマ政権の閣僚となったフリアン・カストロは2020年の米大統領選挙の民主党候補者として名前が挙がっています。

 

 現在、今年秋の中間選挙で、テキサス州の連邦上院議員選挙レースは五分五分の状態で、民主党側の候補者ビトー・オローク連邦下院議員が現職のクルーズをかなり追い上げているという状況のようです。

 

 そこで、クルーズはトランプに選挙応援にテキサス州まで来てもらいたいと考えているようです。大統領選挙では激しく戦ったが、それ以降は、トランプ政権に協力して、連絡を密に取り合っている、だからぜひ助けてもらいたいとクルーズは述べています。

 

 トランプ大統領とトランプ政権の政策は、「ポピュリズム」に分類されるものです。「ポピュリズム」と言うと、権力者が一般大衆に贈り物をして支持を得る、バラマキ政治だという理解がありますが、これはポピュリズムの一つの面を語っているにすぎません。マドンナが主演した「エビータ」という映画は、アルゼンチンのペロン大統領と奥さんのエビータの物語ですが、この中では贈り物のシーンがありました。南米政治を分析する際にポピュリズムという言葉は確かに、大衆迎合の意味を含みます。

 

 しかし、アメリカ政治の場合は、既存の政治システムや経済システム、エリートたちに対する反抗という要素が大きくなります。アメリカのポピュリズムで言えば、ヒューイ・ロングという人物がいました。フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領が最も恐れた人物とも言われています。ロングは「全ての人が王様」という言葉を掲げ、ルイジアナ州で公共投資を増大させ、富の再分配を行いました。そして、人々の既存の政治への失望を受けて、ワシントンに攻め上がろうとしている途上で暗殺されてしまいました。

 

 トランプは既存の政治家ではないし、財界のエリートでもありませんでした。そんな人物がアメリカ大統領となった訳ですが、これは、人々の民主党、共和党のエリートや体制派に対する怒りがトランプを大統領に当選させました。

 

 トランプ大統領の政策は、大型減税であったり、保護貿易であったりとポピュリズム的です。貧しい人々への再分配(金持ちたちへの利益誘導のようなこともありますが)が行われています。

 

 クルーズは現役の連邦上院議員であり、加えて共和党が強いテキサス州を地盤としているのですから、本選挙が危ないということは本来であれば考えにくいことです。しかし、民主党の候補者を相手に苦戦しているというのは、「既存の政治家は信用できない」「クルーズはワシントンに染まってしまって自分たちの本当の代表なのか」という疑念がテキサス州の人々の間に広がっている、というか2016年以来続いているということではないかと考えます。

 

(貼り付けはじめ)

 

クルーズがトランプに対してテキサス州での連邦上院議員選挙で応援に来て欲しいと依頼(Cruz asked Trump to campaign for him in Texas Senate race

 

ジャスティン・ワイズ筆

2018年8月7日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/400778-cruz-asked-trump-to-campaign-for-his-senate-re-election-in

 

テッド・クルーズ連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)がトランプ大統領に対して、ベトー・オローク連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)との連邦上院議員選挙を巡る戦いで支援のために選挙運動に入って欲しいと依頼した。

 

クルーズは今週月曜日、選挙運動でテキサス州セグインを訪問し、そこで『ザ・ヒューストン・クロニクル』紙の取材に答えた。その中で、クルーズは、「トランプに連絡を取り、トランプ大統領からの支援を“歓迎する”」と述べた。

 

クルーズは同紙の取材に対して、「私はテキサスでトランプ大統領に会えることを願っている。選挙前に大統領にテキサスに入ってもらえるだろうと考えている」と答えた。

 

2016年の米大統領選挙で有力候補であったクルーズは、トランプ大統領との関係で「良い時も悪い時も」あったと認めた。特に2016年のベイダ棟梁選挙共和党予備選挙ではいろいろとあったことを認めた。しかし、クルーズは同紙に対して、トランプ政権発足後、政権と密接に協力してきたと述べた。

 

クルーズは「私たちは毎週、時には毎日ホワイトハウスと連絡を取っている。私は共和党を団結させるために努力してきた。私はこの行為を誇りに思っている」と語った。

 

クルーズは再選に向けて、オロークからの厳しい挑戦を受けている。

 

現在のところ、クルーズが優勢ではあるが、各種世論調査の結果では、民主党からの挑戦者が地盤を固めてきていることが明らかになっている。

 

無党派の組織で選挙予測を行う「クック・ポリティカル・レポート」はテキサス州の連邦上院議員選挙に関して先週、「共和党優位」から「共和党リード」に表現を変更した。「クック・ポリティカル・レポート」は最近の各種世論調査では選挙戦がより接戦になっていると述べている。

 

更に、テキサス・ライセウム社の最新の世論調査によると、クルーズはオロークに対してわずか2%の差をつけているに過ぎないということである。

 

今年に入り、トランプ大統領は連邦議会における過半数を確保するために、多くの共和党候補者の選挙応援に行っている。今週日曜日にも、連邦下院議員オハイオ州第12選挙区の補欠選挙に出馬している共和党所属のトロイ・ボールダーソンの選挙運動に参加した。

 

=====

 

『クック・ポリティカル・レポート』がテキサス州のクルーズ対オロークの連邦上院議員選挙を「共和党がやや優勢」と評価(Cook Political Report moves Cruz-O'Rourke Senate race to 'lean Republican')


アリス・フォーリー筆
2018年8月3日
『ザ・ヒル』誌

 https://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/400258-cook-political-report-moves-texas-senate-race-from-likely

テキサス州の連邦上院議員選挙の選挙戦は現職の連邦上院議員テッド・クルーズ(共和党)と現職の連邦下院議員ベトー・オローク(民主党)が候補者となって展開されている。中立な立場で選挙分析を行う団体「クック・ポリティカル・レポート」の分析によると、選挙の情勢は民主党が伸びてきつつあるということだ。

 

金曜日、クックは選挙の情勢を「共和党優位」から「共和党リード」に変更した。クックは、最近の各種世論調査の結果を分析し、選挙戦が接戦になっているとしている。

 

テキサス・ライセウム社の世論調査の結果が水曜日に発表された。それによると、2人の候補者は接戦を展開しており、投票に行くと答えた有権者の中で、支持率はクルーズが41%、オローク39%であった。クックはまた、7月初めに発表されたグラヴィス・マーケティング社の世論調査の結果も引用している。この時はクルーズが51%、オロークが42%で、クルーズが9ポイントリードしているという結果であった。

 

テキサス州ではこれまでの30年間、民主党所属の連邦上院議員は出ていない。しかし、民主党は今回の選挙ではオロークが番狂わせを演じるチャンスがあると考えている。オロークは2つ目の資金集め可能期において1040万ドル(約11億4000万円)以上の資金を集めた。

 

クルーズは2016年の米大統領選挙に出馬し、トランプ大統領と戦った。『ヒューストン・クロニクル』紙によると、クルーズは、オロークと同じ時期に400万ドル(約4億4000万円)を集め、総計で1000万ドル以上(約11億円)の政治資金を手にしているということだ。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 2016年米大統領選挙の共和党予備選挙はドナルド・トランプが大きくリードしています。先日行われた出身州である大票田ニューヨーク州でも大勝を収めました。また、2016年4月26日にコネティカット、デラウェア、メリーランド、ペンシルヴァニア、ロードアイランド各州で行われた予備選挙でもトランプは圧勝し、代議員を109名獲得しました。2番手につけているテッド・クルーズは代議員を3名しか獲得できず、ジョン・ケーシックも5名の獲得に留まりました。ニューヨーク・タイムズ紙によると、これまでの獲得代議員数はそれぞれ、トランプが954名、クルーズが562名、ケーシックが153名となっています。

 

 代議員の残りは502名となっています。代議員数の過半数は1237名ですから、クルーズはこれから全部を取っても過半数には届きません。トランプは約56%の代議員を獲得すれば過半数に届きます。反トランプ派としては、メリーランドとペンシルヴァニアでトランプの勢いを止めて、まずトランプの得票率を50パーセント以下に抑え、クルーズの得票率を20%以上にして、代議員の獲得を目指しましたが、これに失敗しました。

 

 クルーズとケーシックは、「大同団結」して、トランプ阻止のために協力すると発表しましたが、これについて、トランプは「共謀・馴れ合い(collusion)」だと批判しています。「株式の世界では共謀は許されないのに、政治の世界では許される。そして、既得権益を持つ政治家たちが共謀しているのだ」とトランプは勢いよく主張しています。

 

 4月26日の東部5州での予備選挙ではトランプの優勢が伝えられていましたが、ここまでの圧勝は予想外であったと言えます。3月末から4月上旬にかけてのユタ州とワイオミングの予備選挙でクルーズが勝ったことで、反トランプが勢いづき、トランプ旋風も一頓挫という感じになりましたが、出身のニューヨーク、そして東部5州の結果で息を吹き返しました。

 

 それには、トランプの「変身」という理由もあったようです。日本でも「トランプの言動が大人しくなった」という報道がなされましたが、過激な物言いが少なくなりました。『ワシントン・ポスト』紙のクリス・シリザ記者は、これを「トランプ2.0」と呼んでいます(いつまで続くか分からないという留保はつけていますが)。

 

 「トランプ2.0」党大会担当のポール・マナフォート、全国選挙運動責任者リック・ワイリーの功績であるとシリザ記者は分析しています。トランプ陣営は、11月の本選挙に向けて、少しずつ穏健モードにシフトしているようです。ロケットの打ち上げのように、まず過激な物言いで、既存の政治に不満を持っている人たちの支持を集め、それをブースターにし、そのブースターを切り離して、安定飛行に入るという戦略が見事に当たっていると思います。

 

 こうしたトランプの戦略に共和党の主流派の人々は翻弄されてしまっていると言えるでしょう。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

The Fix

The new Donald Trump should scare the hell out of the GOP establishment

 

By Chris Cillizza April 20 at 9:32 AM

Washington Post

https://www.washingtonpost.com/news/the-fix/wp/2016/04/20/the-kinder-more-disciplined-donald-trump-should-scare-the-hell-out-of-the-gop-establishment/

 

Gone was “Lyin’ Ted.” In its place was “Senator Cruz.” Gone was the long-winded speech that went nowhere. In its place was a succinct recitation of states and delegates won. Gone was the two-day vacation as a reward for winning. In its place was an early morning trip to Indiana followed by another planned stop in Maryland.

 

Donald Trump 2.0 made his official debut Tuesday night following his sweeping victory in New York, a win that looks to net him 90 delegates and reestablishes him as the man to beat in the Republican presidential race.

 

After winning the New York GOP presidential primary April 19, Republican front-runner Donald Trump told a crowd at Trump Tower in Manhattan that he planned to celebrate for a night, then "go back to work" the next day. (Associated Press)

That version of Trump was markedly more disciplined, gentler and more appealing than the version of Trump we've seen for much of the last year. And, that fact should scare the hell out of establishment Republicans who believed that their efforts to keep Trump from the 1,237 delegates he needs to formally capture the GOP nomination was beginning to catch on.

 

Why? Because it’s clear, at least for now, that Trump is listening to his new political advisers — chief among them convention manager Paul Manafort and national field director Rick Wiley. Trump’s change in tone on Tuesday night was absolutely unmistakable to anyone who has paid even passing attention to his campaign to date.  The man who had built his front-running campaign on a willingness to always and without fail take the race to its lowest common denominator — was suddenly full of respect for the men he beat and full of facts about the state of the race.

 

 We have won millions of more votes than Senator Cruz, millions and millions of more votes than Governor Kasich,” Trump said. “We’ve won, and now especially after tonight, close to 300 delegates more than Senator Cruz.”

 

The change in tone is absolutely necessary if Trump wants not only to find a way to 1,237 delegates but also unite the party behind him in any meaningful way heading into the general election campaign this fall. The truth is that Trump has to play an outsider and an insider game from here on out. The outsider game is to keep winning primaries by convincing margins like he did in New York. The insider game is to show unbound delegates as well as party leaders and influencers that he can be magnanimous, that he can be a uniting force within the party.

 

Calling Cruz “Lyin’ Ted” is a great laugh line at a Trump rally but accusing the Texas senator of holding up the Bible and then putting it down and lying isn’t exactly the sort of rhetoric you need or want from a candidate who needs to bring the party together behind a common enemy in Hillary Clinton. It’s the difference between being voted “class clown” and being elected student body president. The former delights in taking the low road for cheap laughs. (I speak from experience.) The latter takes the high road even if it’s against his or her own natural instincts.

 

Can Trump keep it up?  Discipline on a single night or even a single week is one thing. Discipline over several months amid what will be continued attacks from both Cruz and the “stop Trump” movement is something else. And, listening to your new advisers when they are, well, new is easier than listening to them when it’s been a few months of biting your tongue and fighting back some of your natural attack instincts.

 

But, Trump has shown — both on Tuesday night and over the past week or so — an ability to rein himself in that suggests he understands that this new and improved version of himself is the one that can actually win the Republican presidential nomination.  Be scared, anti-Trump forces. Be very scared.

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

(終わり)



 

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  古村治彦です。

 

 2016年2月1日、アメリカ大統領選挙がアイオワ州の党員集会(Caucus)から正式にスタートしました。結果は、日本のマスコミでも報道されている通りで、民主党はヒラリー・クリントン前国務長官、共和党はテッド・クルーズ連邦上院議員が勝利しました。民主党のバーニー・サンダース連邦上院議員はヒラリーに肉薄し、ほぼ五分五分の結果を得ました。共和党側では全国調査ではトップを走っているドナルド・トランプが2位になりましたが、こちらはアイオワ州を「捨てて」おり、熱心な活動はしていなかったので、2位は既定路線、3位につけたマルコ・ルビオ連邦上院議員は善戦し、大統領選挙レースで有力候補になりました。アイオワ州の党員集会の結果については、『ザ・ガーディアン』紙には英語が読めなくても、結果が詳しく分かるようになっている記事が掲載されています。記事のアドレスは以下の通りです。

 

http://www.theguardian.com/us-news/ng-interactive/2016/feb/01/iowa-caucus-results-live-county-by-county-interactive-map

 

 党員集会の集計結果の詳細は以下の通りとなりました。

 

■民主党

①ヒラリー・クリントン:49.86%(701)

②バーニー・サンダース:49.57%(697)

 

■共和党

①テッド・クルーズ:27.65%(51,666)

②ドナルド・トランプ:24.31%(45,427)

③マルコ・ルビオ:23.10%(43,165)

④ベン・カーソン:9.31%(17,395)

⑤ランド・ポール:4.54%(8,481)

⑥ジェブ・ブッシュ:2.80%(5,238)

 

 アメリカの政治情報総合サイトである「リアル・クリア・ポリティックス(Real Clear Politics)」(http://www.realclearpolitics.com/)には、マスコミ各社や大学、調査機関が行う世論調査の結果やマスコミに掲載される政治関連記事が集められるので、アメリカ政治に関心のある人にとっては便利なウェブサイトです。

 

 このサイトでは、各種世論調査の結果から、各候補の支持率の平均を割り出して表示しています。その数字は以下の通りです。

 

■共和党

 

全国平均

・トランプ:35.8%

・クルーズ:19.6

・ルビオ:10.2%

・カーソン:7.6%

・ブッシュ:4.8%

 

アイオワ州

・トランプ:28.6%

・クルーズ:23.9%

・ルビオ:16.9%

・カーソン:7.7%

・ポール:4.1%

 

ニューハンプシャー州

・トランプ:33.7%

・クルーズ:11.5%

・カシック:11.3%

・ブッシュ:10.5%

・ルビオ:10.2%

 

 

■民主党

 

全国平均

・ヒラリー:51.6

・サンダース:37,2

 

アイオワ州

・ヒラリー::47.9%

・サンダース:43.9%

 

ニューハンプシャー州

・サンダース:55.8%

・ヒラリー:33.7%

 

 

 これらの数字とアイオワ州の党員集会の集計結果を見てみると、様々なことが考えられます。

 

 共和党では、テッド・クルーズとマルコ・ルビオの両方40代前半で連邦上院議員である2人が有力候補として浮上してきました。「政治経験もなく、失言も多いトランプよりはましだ」というある意味で「良識のある」人々がこの2人を応援しているものと考えられます。本当はジェブ・ブッシュが主流派の候補者たるべきなのでしょうが、あまりにも人気がないという状況になっています。しかし、まだまだ混戦状態が続く中で、撤退さえせずに、資金が枯渇しないようにしていけば、上位5位くらいまでの候補者誰にでもチャンスがあるのではないかと思います。それでもクルーズとルビオが有力候補となったのは興味深いことです。

 

 それは、この2人とランド・ポール連邦上院議員に対して、支援とまではいかなくても関心を持っているのが、共和党の大資金源となっているコーク兄弟だからです。トランプは自己資金で選挙戦を戦っていて、コーク兄弟を揶揄する発言を行っていますので、彼らがトランプを応援することはありません。これまでのトランプがトップを走る状況で、コーク兄弟の存在感は薄かったのですが、今回の大統領選挙に1200億円の政治資金を投入するということは明言しているので、クルーズかルビオがもっと支持を伸ばしてきた場合に、コーク兄弟が資金を投入してくることは考えられます。コーク兄弟に関しては、拙訳『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、古村治彦訳、講談社、2015年12月)を是非お読みください。

 


 一方、民主党ではヒラリーに対してバーニー・サンダースが善戦しているという構図になっています。ただ、全国調査ではヒラリーがサンダースを10ポイント以上引き離しており、アイオワ州での世論調査でもヒラリーがサンダースを4ポイント上回っていました。しかし、結果はほぼ五分と五分でした。ヒラリーは勝利宣言をしましたが、サンダースの演説こそが勝利宣言にふさわしいものでした。ヒラリーにとっては敗北に等しい結果でした。

 

 私は数日前に、オバマ大統領がホワイトハウスでサンダースに会ったという記事が気になっていました。日本では次のように報じられました。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「「オバマ大統領は公平」 サンダース氏と会談」

 

産経新聞 2016年1月28日

http://www.sankei.com/world/news/160128/wor1601280043-n1.html

 

オバマ米大統領は27日、次期大統領選の民主党指名争いでクリントン前国務長官(68)を追い上げるサンダース上院議員(74)とホワイトハウスで会談した。サンダース氏は会談後、記者団に対し「大統領は公平であろうと努めてきたし、今後もそうだと期待する」と語り、オバマ氏の立場は中立だとの考えを強調した。

 

 サンダース氏の発言は、初戦となる2月1日のアイオワ州党員集会を控え、オバマ氏が内心はクリントン氏を支持しているとの観測を打ち消し、後継候補として対等の立場をアピールする狙いがありそうだ。

 

 大統領執務室(オーバルオフィス)で約45分間、内政や外交問題について広く意見交換したといい、サンダース氏は「建設的かつ生産的だった」と語った。(共同)

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

 この記事では、「オバマ大統領がヒラリーを支持しないように、中立を保つように」サンダースがくぎを刺しに行ったという解説になっています。しかし、私はこの行動は、オバマ大統領が間接的にサンダースを応援し、ヒラリーの勝利を妨害するためのものであったと考えます。ヒラリーにとってアイオワ州の党員集会は「鬼門」です。2008年の大統領選挙で、ヒラリーは圧倒的に有利と言われていました。しかし、アイオワ州で勝利を収めたのは、ダークホースであった当時のバラク・オバマ連邦上院議員でした。そこからあれよあれよという間にオバマ大統領が最有力候補になり、本選挙でも勝利を得ました。ヒラリーにとってはまさに悪夢のような思い出です。

 

 ですから、ヒラリーは昨年大統領選挙出馬を表明してから、日本で言うドブ板選挙をアイオワ州で展開していました。そして、全国調査でもそうですが、アイオワ州でもトップという世論調査の結果が出ていました。しかし、党員集会直前にオバマ大統領がサンダースに会ったということで、風向きが変わり、ヒラリーは大苦戦、サンダースは大善戦という結果になりました。次のニューハンプシャー州の予備選挙に関しては、今のところ、サンダースが圧倒的に有利ということが数字上でも出ていますので、サンダースが勝利するものと考えられます。そうなると、ヒラリーの優位は揺らぐことになるでしょう。

 

 共和党は混戦状態がしばらく続くでしょう。それでも次回の討論会である程度の流れが定まってくるのではないかと思います。まだ候補者が多数乱立し、乱戦がしばらく続くとなると、最初からトップに立たずに2位や3位をずっと堅持していく候補者が最後に飛び出るという、マラソンでよく見るような感じになると思われます。

 

 民主党はヒラリー対サンダースというマッチアップ(一対一)で、やるかやられるかの戦いになっていますので、相手を圧倒できる時に圧倒しておかねば足元をすくわれてしまうという厳しい戦いになります。その点で、ヒラリーはスタートに失敗しました。ここからどう巻き返してくるかに注目です。

 

(終わり)





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  古村治彦です。

 

 昨年12月に刊行しました『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、古村治彦訳、講談社、2015年12月)はご好評をいただいており、まことにありがとうございます。2016年アメリカ大統領選挙もだんだん本番が近付いてまいりまして、盛り上がって来ております。

 


 私が講談社の運営しておりますウェブサイト「現代ビジネス」に2016年1月14日付で掲載させていただきました「「コーク一族」米大統領選の命運を握る大富豪ファミリーの正体」(
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47359)も多くのアクセスをいただいており、御礼を申し上げます。

 

 現代ビジネスの記事に間に合わなかったのですが、コーク兄弟については、昨年日本経済新聞が買収したイギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ』紙にインタビューが掲載されました。この中で、コーク一族の総帥チャールズ・コークは、共和党の有力大統領選挙候補者であるドナルド・トランプとテッド・クルーズのイスラム教徒に対する発言やイスラム過激派組織に対する攻撃について批判を行いました。

 

 チャールズ・コークはアメリカのリベラルなメディアからは悪者扱いになっています。彼はバラクオバマ大統領を倒すためにティーパーティー運動に資金を出したり、共和党の政治家たちに多額の献金を行ったりしてきました。しかし、今回の大統領選挙ではまだだれを支持するのかを明らかにしていません。そして、このように、有力候補者であるトランプとクルーズを批判しています。

 

 そもそもコーク一族は、父フレッドが反共産主義であり(極右団体ジョン・バーチ協会の創設メンバー)かつ反中央政府的な人物であり、その影響でチャールズとデイヴィッドのコーク兄弟も反共主義からリバータリアニズムを信奉するようになりました。

 

 このリバータリアニズムはアメリカ保守思想の一潮流ですが、極右的、ナショナリスティックな思想とは違います。個人の自由を徹底的に主張する思想ですから、保守的な思想からすれば、「ラディカルな」考えになります。麻薬の使用や同性愛の結婚などについては、リベラル派と考えを同じくします。

 

 またリバータリアニズムは反中央政府であり、反大きな政府ですから、アメリカ軍の海外駐留に反対します。十字軍の騎士気取りで海外に出ていって戦争なんかするか、そんなものは金の無駄遣いだというのがリバータリアンの考えです。

 

 ですから、コーク兄弟は共和党の大口スポンサーですが、共和党を全面的に支持している訳ではありません。「民主党よりはまだ考えが同じ部分が多いし、民主党政権下では、連邦政府の規制や調査でひどい目に遭った」ということで、共和党を応援しているのです。

 

 彼らの信奉するリバータリアニズムはですから、共和党のネオコンや民主党の人道主義的介入派に対抗する思想にはなるのですが、「市場の機能」を強調し過ぎるために、共和党の中でも主流派になることは難しいのが現状です。

 

 それでもコーク兄弟が持つ資金力は大統領選挙において大きな意味と存在感を持ちます。彼らの動きにはこれから注目していかねばなりません。

 

(貼り付けはじめ)

 

January 8, 2016 2:45 pm

Charles Koch attacks Republican hopefuls Trump and Cruz

 

Stephen Foley in New York

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/4aa089e0-b58b-11e5-b147-e5e5bba42e51.html#axzz3xMagLixJ

 

One of the largest donors to the US Republican party has attacked Donald Trump and Ted Cruz’s anti-Muslim rhetoric, claiming that ideas floated by the frontrunners in the presidential nomination campaign could complicate the battle against extremist Islamists.

 

Charles Koch’s comments in an interview with the FT not only put him sharply at odds with both Mr Trump and Mr Cruz but reflect his disillusion with the broad field of Republican presidential hopefuls.

 

Billionaire Mr Koch, who along with his brother David controls a network of rightwing think tanks and political action groups that plan to spend $889m to promote free market causes and influence this year’s US elections, said Mr Trump’s idea for registering and banning the entry of Muslims would “destroy our free society”.

 

Breaking with many Republican candidates’ call for an intensified war on Islamist terrorism, Mr Koch argued that military interventions in Iraq and Afghanistan had failed to make the US safer. Referring to the number of countries hosting the world’s 1.6bn Muslim population, he added: “What are we going to do: go bomb each one of them?”

 

Mr Trump repeated his proposals for a ban on Muslim tourism and immigration to the US in a TV advertisement this week, his first of the campaign. The latest national polls give him a double-digit percentage lead over rivals and he continues to attract crowds of thousands to his rallies.

 

Questioned about Mr Trump’s proposals, Mr Koch asked: “Who is it that said, ‘If you want to defend your liberty, the first thing you have got to do is defend the liberty of people you like the least?’”

 

Other Republican candidates are also competing with Mr Trump to sound tough on Islamist terrorism, in the wake of shootings in San Bernardino, California, last month. Mr Cruz, leading in polls in Iowa, which holds the February 1 caucus that kicks off the presidential contest, vowed to carpet-bomb Isis strongholds at the most recent Republican television debate, which took place after the interview with Mr Koch.

 

I have studied revolutionaries a lot,” said Mr Koch, the chairman and chief executive of Koch Industries, the US’s second largest privately held company, and something of a hate figure for the American left.

 

Over a pulled-pork sandwich in the staff canteen of Koch Industries, the businessman at its helm talks about power-broking for the Republicans and reshaping his ‘evil guy’ image

 

Mao said that the people are the sea in which the revolutionary swims. Not that we don’t need to defend ourselves and have better intelligence and all that, but how do we create an unfriendly sea for the terrorists in the Muslim communities. We haven’t done a good job of that.”

 

Mr Koch said his political organisation had presented all the Republican candidates with a list of issues it wanted on the agenda — including an end to subsidies and tax breaks for corporations, cutting the red tape required to set up small businesses, a large deficit reduction plan, and criminal justice reform — but that “it doesn’t seem to faze them much”.

 

He added that Mr Trump was “not the only one that’s saying a lot of things that we disagree with...If we only supported organisations and politicians that we agreed with 100 per cent, we wouldn’t support anybody.”

 

(貼り付け終わり)

(終わり)

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