古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ディストピア

 古村治彦です。

 世界的な大ベストセラー『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリ博士の新型コロナウイルス感染拡大に関する論考をご紹介する。少し古いものであるが、示唆に富んだ内容になっている。
yvalnoahharari110

 ハラリ自身はディストピアに向かうかどうかの岐路に立っている段階という考えであるようだが、私は既にディストピアに向かっている、少なくとも日本はそうだという考えを持っている。最新の監視システムによって、身体の状態だけでなく、感情の動き(喜び、悲しみ、怒り、退屈さ)も監視されるようになっている中で、日本では「健康を守るために」という考えを最高のテーマ、金科玉条にして、より強い管理や国家による統制を求めるような声や動きが出ている。国家の財政的な裏付、支援なき「自粛要請」で数多くの店舗や企業が休業を選択し、少数の営業を続ける店舗などに対して、匿名で貼り紙をするなどして「自粛しろ」と迫る、民間の「自粛ポリス」の出現などは管理統制社会のスタートでしかない。

 人々が正しい情報や知識を得て、自分たちのできる範囲でウイルス対策を行いつつ、社会活動や経済活動を行う、もうウイルスの根絶は不可能なのだから、ウイルスとの「並存」を進めねばならない。国家に統制管理されるのではなく、自分たちで動く、国家に監視されるのではなく、監視する、そのために国家が利用するテクノロジーを私たちこそが使うということが必要となってくる。このような危機的とされる状況の中でこそ、そうしたことが必要だ。文中に「人々が席巻を使用しているかどうかをチェックする警察」という言葉が出てくるが、そのようなものが存在することを私たちは許してはならない。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大で国際協調は難しい状況になっている。先進諸国、諸大国で自国優先主義(isolationism、アイソレーショニズム)が勢いを増している中で、このような世界規模の疾病拡大が起きると、国際協調よりも分断が起きることになる。そしてやがて戦争に向かうということになるのだろう。経済的苦境を一気に解決する手段として人類は戦争を選択してきた。今回もそうならないということは断言できない。

 新型コロナウイルスに負けない、とは、私たちが重要だとしてきた諸価値を曲げないということだ。

sapienszenshi110
サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

 (貼り付けはじめ)

ユヴァル・ノア・ハラリ:コロナウイルス後の世界(Yuval Noah Harari: the world after coronavirus

―この嵐はいずれ過ぎ去る。しかし、私たちが今行う選択はこれからの私たちの生活を変化させることになるだろう。

ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)筆

2020年3月20日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/19d90308-6858-11ea-a3c9-1fe6fedcca75

人類は現在世界規模の危機に直面している。恐らく、現在を生きている私たちにとって最大の危機である。これから数週間で人々と政府が行う決定がこれから数年間の世界を形作るものとなるだろう。人々と政府は私たちの医療制度を形作るだけではなく、経済、政治、文化をも形作ることになるだろう。私たちは早急にかつ断固とした行動をしなければならない。私たちは自分たちの行動の長期的な結果についても考慮しなければならない。様々な選択肢の中から選択をする時、直近の脅威をどのように乗り越えるだけではなく、嵐が過ぎ去った後にどのような世界に生きるのかということも問わねばならない。そうなのだ、嵐は過ぎ去る、人類という種は生き残る、私たちのほとんどはこれからも生きていく。しかし、私たちはこれまでとは全く違う世界を生きることになるだろう。

多くの短期的な緊急対策は人生にとっての備えとなるだろう。これこそが緊急事態というものの本質である。緊急事態は歴史的なプロセスを加速させて進める。通常の際には決定に至るまで熟慮を重ねて数年を費やすということがあるが、そうしたことが数時間で決定されるということもある。成熟していない危険なテクノロジーでさえも使わなければならない状況に追い込まれている。それは何もしないというリスクの方がより大きくなっているからだ。全ての国々が大規模な社会実験における実験材料のモルモットとなっている。全ての人々が自宅で仕事をし、離れてコミュニケイションを取ることで何が起きるだろうか?全ての学校と大学が授業をインターネットで行うことで何が起きるだろうか? 普通の時期であれば、政府、企業、教育機関はこのような実験を行うことに決して同意などしないだろう。しかし、現在は普通の時期ではないのだ。

この危機の時期において、私たちは2つの極めて重要な選択に直面している。1つ目の選択は、全体主義的な監視(totalitarian surveillance)と市民の力の強化(citizen empowerment)との間の選択である。2つ目の選択は、ナショナリズム的な国内優先主義(nationalistic isolationism)と世界規模での連帯(global solidarity)との間の選択である。

●皮下の監視(Under-the-skin surveillance

地域的な感染拡大を阻止するために、全ての人々はいくつかのガイドラインに従う必要がある。感染拡大阻止には主に2つの方法がある。1つの方法は、政府が人々を監視し、ルールを破った人を罰することである。今日、人類史上初めて、全ての人々を24時間監視できるテクノロジーが完成しているのである。

50年前、KGBは2億4000万人のソ連の住人を24時間監視することはできなかった。また、KGBは集めた情報全てを効果的に処理するということを望むべくもなかった。KGBは人間のエージェントと分析家に頼っていた。そして、KGBは人間のエージェントに全ての市民を尾行させることなどできなかった。しかし、現在、各国政府は、人間のスパイではなく、遍在的なセンサーや強力なアルゴリズムに依存している。

コロナウイルスの感染拡大に対する戦いの中で、各国政府は既に最新の調査ツールを導入している。その最も進んだケースは中国だ。人々のスマートフォンを注意深く監視し、数百万台の顔認証を利用し、人々に体温と体調をチェックし報告するように命じることで、中国の当局はコロナウイルス保有の疑いがある人たちをすぐに特定することができる。それだけではなく、そうした人々の行動を追跡し、接触があった人々を特定することも可能である。数多くのスマートフォンのアプリを使うことで、ウイルス感染者への接近に対して人々に警告を発することができる。

この種のテクノロジー使用は東アジアに限られているものではない。イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相はイスラエル総保安庁に対して、通常であればテロリストたちとの戦いに限定されているテクノロジーをコロナウイルスの感染者たちを追跡することに使用することを許可した。重要な議会の小委員会はこの方法を承認することを拒絶した際、ネタニヤフは「緊急布告」を用いて強行した。

これらの動きについてなにも新しいものではないと主張する人がいるだろう。ここ数年、世界各国の政府と各企業は人々を追跡し、監視し、動かして利用するためのより洗練された技術を利用している。しかし、私たちが注意深くなければ、今回の感染拡大は監視の歴史にとって重要な分水嶺となるだろう。それは、大規模な監視設備の設置を拒絶してきた国々でこうした設備の設置が進められるということだけではなく、監視が「皮膚の上」(訳者註:身体)から「皮膚の下」(訳者註:感情)へと重要な転換が起きることになるからである。

これまで、あなたのスマートフォンのスクリーンに指で触り、リンクをクリックする際には、政府はあなたの指が何をクリックするのかについて正確に知りたいと望んでいる。しかし、コロナウイルス感染拡大の中で、関心は変化している。現在、政府はあなたの指の温度と皮下の血圧について知りたいと望んでいる。

●緊急時のプディング(The emergency pudding

監視について私たちが直面している問題の一つは、私たちがどのように監視されているのか、そしてこれからどのようになるかについて正確に理解している人は一人もいないということだ。監視技術は危険なほどの速度で開発されている。10年前のSFで描かれたものが現在ではもう古いニュースとなっているようなものだ。思考実験として、ある政府が全ての市民に対して24時間体制で体温と脈拍数を監視するための生体識別のブレスレットを着用するように求めるということを考えてみる。集められたデータは政府のアルゴリズムによって貯蔵され分析される。このアルゴリズムは、あなた自身が気付く前に、あなたが病気になっていることに気づく。そして、あなたがどこにいて、誰と会ったかということも分かることになる。感染の連鎖は劇的に短くすることが可能になり、切断することができるようになる。このようなシステムが確立されれば、感染拡大などは数日以内に阻止することが可能ということになる。とても素晴らしい話ではないか?

このシステムの欠点は当然のことながら、恐ろしい新しい監視システムに対して正当性を与えるということである。もし私がCNNではなくFOXニュースをより多くクリックするということになると、これは私の政治に関する考えや性格までが分かってしまうことになる。私が映像を見ている間に、私の体温、血圧、脈拍数の変化について監視できるとなると、それによって、私が何に笑い、何に泣き、何に怒るかについて分かることになる。

こうした怒り、喜び、退屈さ、愛が発熱と咳と同様に生物学的な現象であることを記憶しておくことは重要だ。咳(coughs)を認識する技術は笑い(laughs)を認識することもできる。もし各企業と各国政府が私たちの生体認証に関わるデータを一気に集め活用することができるならば、企業や政府は、私たち自身よりも、私たちのことをより多く知ることができるようになるだろう。そして、私たちの感情が次にどのように動くかを予測するだけではなく、私たちの感情を利用することになるだろう。そうすれば彼らは売りたいと望むものを私たちに売りつけることができる。売り込むものは製品であるだろうし、また政治家でもあるだろう。生体認証技術を使った監視を見れば、ケンブリッジ・アナリティカ社のデータハッキング事件などは石器時代の事件のようだ。2030年の北朝鮮について考えてみよう。この時の北朝鮮では全国民が1日24時間ずっと生体認証ブレスレットを直用しなければならないことになっているだろう。ある国民がこの時の偉大なる指導者による演説を聞いているときに、このブレスレットがこの国民の怒りの感情を認識し当局に通告するということになれば、この国民は処分される。

もちろん、読者の中には生体認証技術を使った監視設備は緊急事態の間だけの一時的な手法であると考える人もいるだろう。緊急事態が終われば、この監視システムは放棄されるだろうと考えるだろう。しかし、維持的な手法は常に連続する様々な緊急事態で続くという酷いことが起きる。常に新しい緊急事態が次々と出てくるのだ。例えば、私の住む国イスラエルでは、1948年の独立戦争の時に緊急事態が宣言された。この緊急事態によって、様々な一時的な方策が正当化された。メディアの検閲やプディングを作るための工場用の土地収用(冗談を言っているのではない)が緊急事態宣言によって正当化された。イスラエル独立戦争はとっくの昔に勝利で終わったが、イスラエル政府は緊急事態の終了を宣言することはなかった。そして、イスラエル政府は1948年に行った「一時的な」手法の多くを放棄することはできなかった(緊急時のプディング工場の布告は幸いにも2011年に廃止された)。

コロナウイルスの感染者数がゼロに近づくとしても、データを欲している各国政府は生体認証技術を使った監視システムを継続する必要があると主張することだろう。各国政府がコロナウイルスの第二波の発生に恐怖を持っている、アフリカ中央部での新たなエボラ出血熱が発生している、もしくは、と色々な理由が出されることだろう。ここ数年の私たちのプライヴァシーをめぐっては大きな戦いが発生している。コロナウイルス危機はこの戦いの転換点となるだろう。人々はプライヴァシーと健康のどちらを選ぶかと問われるならば、人々は多くの場合、健康を選ぶことだろう。

●石鹸使用をチェックする警察(The soap police

人々に対して、プライヴァシーと健康のどちらかを選べと求めることは、重大な問題である。なぜならそれは間違った選択肢の提示であるからだ。私たちはプライヴァシーと健康の両方を享受できるし、そうすべきだ。私たちは、全体主義的な監視体制を導入するのではなく、市民の力を強めることで、自分たちの健康を守り、コロナウイルスの感染拡大を阻止することを選ぶことができる。ここ数週間、コロナウイルス感染拡大を封じ込めるための努力の中で成功したのは、韓国、台湾、シンガポールによってなされたものだ。 これらの国々は人々の追跡アプリを使用してはいるが、これらの国々は既存の検査設備、事実の正しい報告、情報が十分に与えられた人々による協力に依存している。

集中化した監視と厳しい刑罰だけが人々を有益なガイドラインに従わせるための方法ではない。人々が科学的事実について教えられている場合、そして、人々が当局は事実を伝えていると信頼している場合、人々は、「ビッグ・ブラザー」型の一人一人への監視システムがなくても、正しいことを行うことができる。自ら進んで実行する意識と知識・情報を持つ人々は、警察に統制された、無知な人々よりも、より強力で効果的な動きをすることができるのだ。

例えば、石鹸を使って手を洗うということについて考えて欲しい。これは人類の衛生にとって大きな進歩なのである。この簡単な行為によって毎年数百万の命が救われている。私たちはそれを当然のこととしているが、石鹸を使って手を洗うことの重要性を科学者たちが発見したのはようやく19世紀になってからだ。それ以前の時代には、医者と看護師たちは一つの外科手術を行った後、手を洗うことなしに次の外科手術を行っていた。今日、数億の人々は毎日手を洗っている。それは石鹸を使用しているかをチェックする警察を恐れているからではなく、人々が事実をきちんと理解しているからだ。私は石鹸を使って手を洗う、それは、ウイルスや細菌について認識し、それらの極めて小さい生命体が疾病を引き起こすことを理解し、石鹸でこれらの生命体を除去できると知っているからだ。

しかし、このようなレヴェルの追従と協力を達成するためには信頼が必要となる。人々は科学を信用し、政府当局を信用し、メディアを信用しなければならない。これまでの数年、無責任な政治家たちが思慮に欠け、科学、政府当局、メディアに対する信頼を損なうような行動を取った。現在、このようなことを行った無責任な政治家たちは権威主義性体制(authoritarianism)に向かいたいという誘惑に駆られているかもしれない。こうした政治家たちは、「人々がコロナウイルス感染拡大の防止のために適切な行動を取るなどということが信じられない」と主張し、権威主義政治体制に向かおうとするだろう。

通常、数年をかけて毀損されてしまった信頼を一晩で回復することは不可能だ。しかし、現在は通常の時期ではない。危機の時には、人々の気持ちもまた考えは急速に変化するものだ。長年にわたり兄弟たちと長年にわたり激しい喧嘩をしていても、緊急事態が起きれば、監視システムを構築する代わりに、お互いに助け合うようになる。監視システムを構築する代わりに、科学、政府当局、メディアに対する人々の信頼を再構築するのに遅いということはない。私たちはまた新しい技術を使わねばならない。しかし、これらの技術は市民の力を強めねばならない。私は自分の体温と血圧を測定したい。しかし、これらのデータを万能な政府を作り出すために使われるべきではない。これらのデータを使って私は個人的な選択を行えるようにすべきであって、政府に決定に関する説明責任を果たさせるようにすべきである。

1日24時間私が自分の健康状態をチェックすることができれば、私は、自分が他人に対する健康上の障害になるということだけではなく、私の健康にどの習慣が貢献するかということも知ることができるようになる。コロナウイルス感染拡大についての信頼できる統計データにアクセスし、分析できることになれば、私は政府が私に真実を伝えているかどうか、政府が感染拡大と戦うために正しい政策を実行しているかどうかを判断できるだろう。監視について話すときはいつも、監視技術は政府が人々を監視するために使うだけではなく、人々が政府を監視するためにも使えることも記憶しておくべきだ。

コロナウイルス感染拡大は私たちの市民性に対する重大な試験ということになる。これから、私たち一人ひとりは、根拠のない権力者共同謀議論(陰謀論、conspiracy theories)と自己中心的な政治家ではなく、科学的データと医療の専門家たちを信頼することを選択すべきだ。もし私たちが正しい選択ができなければ、 自分たちの健康を守る唯一の方法はこれしかないと考えることで、私たちは重要な自由を失うことになるだろう。

●私たちには世界規模のプランが必要だ(We need a global plan

私たちが直面している2つ目の重要な選択は、ナショナリズム的な国内優先主義(nationalistic isolationism)と世界規模での連帯(global solidarity)の間にある。爆発的感染それ自体と結果としての経済危機は世界規模での問題だ。これらの諸問題は世界規模での協力によってのみ解決可能となるだろう。

まずもってウイルスを倒すために、私たちは世界的に情報を共有する必要がある。世界的に情報を共有できることは人々がウイルスに対して持つ優位性となる。中国にいるコロナウイルスとアメリカにいるコロナウイルスは人々にどのように感染するかについてヒントや教訓を交換できない。しかし、中国はアメリカに対してコロナウイルスについて、そしてどのように対処すべきかについて価値ある教訓を多く教えることができる。イタリアの医師がある日の早朝にミラノで発見したことはその日の夕方にはテヘランでの人々の声明を救うということも可能だ。イギリス政府がいくつかの政策でどれを選ぶか躊躇するとき、1か月前に同様のジレンマに直面した韓国政府が助言を与えることができる。しかし、こうしたことが現実化するためには、世界規模での協力と信頼の精神が必要なのである。

世界各国は情報を公開して共有することを進んで行うべきだ。そして、謙虚な姿勢で助言を求め、受け取るデータと知見を信頼すべきだ。また、医療資材の生産と分配について世界規模で努力する必要がある。特に検査機材と人工呼吸器はそうだ。

全ての国が医療資材の生産と分配を個々に行い、手に入る設備を貯めようとする代わりに、世界規模での協調の努力によって、生産は促進され、人々の声明を救うために必要な設備はより公平に分配されることになる。各国は戦争になれば主要な産業を国有化するがそれと同様に、コロナウイルスと人間との戦争には重要な生産ラインを「人間性を与える」必要がある。コロナウイルス感染数が少ない豊かな国は感染数が多い貧しい国に重要な設備を進んで送るようにすべきだ。ある国が支援を必要となれば、他国が必ず支援に来てくれると信頼できるようにすべきだ。

私たちは同様の試みとして、医療関連の人材の共同利用について考慮することになるだろう。感染拡大の影響が他国に比べて少ない国々からは世界各地の感染拡大が深刻な地域に医療スタッフを派遣することも考えられる。これは必要な時期に支援を行うためでもあるし、価値ある経験を更に積み重ねるためでもある。

感染拡大の流れを変えることに注力することで、協力と支援は正反対の流れを作り始めることができるだろう。

世界規模での協力は経済面でも極めて重要である。経済の世界規模での特性とサプライ・チェインについて考える際に、各国政府が自国のことばかりを考慮し、他国について全く考慮しないということになると、その結果は無秩序ということになり、危機をさらに深刻化させることになる。私たちには世界規模での行動計画が必要であり、それは出来るだけ早く必要なのである。

もう一つ必要なものは、旅行や移動について世界規模での合意である。数か月にわたる国際的な旅行や移動の全面的な禁止によって様々な弊害が出てくることだろう。それによってコロナウイルスに対する戦争は阻害されてしまうことになる。世界各国はどうしても必要な旅行者が国境を超えることができるように共同して運用しなければならない。必要な旅行者としては、科学者、医者、ジャーナリスト、政治家、実業家が挙げられる。こうした旅行者に対しては自国であらかじめ検査を受けることについて国際的な合意を結ぶことで旅行を認めることができる。もし注意深く検査された旅行者たちだけが飛行機に乗ることが認められるならば、皆さんは自分たちの国に受け入れやすくなるだろう。

不幸なことに、現在においては、これらの国々はこうしたことはほとんどできない。集団的な停滞は国際社会を覆いつくしている。部屋の中に落ち着いた大人は一人もいないようなものだ。世界の指導者たちは共同の行動計画を作るために既に数週間前に緊急会議を開いたはずだと思っている人もいるだろう。G7各国の指導者たちは今週になってようやくヴィデオ会議の形式を整えたが、何も具体的なプランを生み出すことはできなかった。

2008年の金融危機と2014年のエボラ出血熱の地域的感染拡大のようなこれまでの世界規模の危機において、アメリカは世界の指導者としての役割を自認していた。しかし、現在のアメリカの政権は指導者としての仕事を放棄している。アメリカの現政権が人類の将来よりもアメリカの偉大さをケアしていることは極めて明瞭になっている。

このアメリカの現政権は自分たちに最も近い同盟諸国すらも見捨てている。EUからの旅行を全て禁じた時、EUに対して事前に通告することはなかった。EUにはこのような劇的な手法を採用することについて相談をしただけだった。アメリカのトランプ政権は、あるドイツの製薬企業に対して新しいCOIVD-19のワクチンの独占権を10億ドルで買い取ろうと持ち掛けたことで、ドイツ成否を激怒させた。トランプ政権が徐々に方針を変え、世界規模での行動計画を作成するということになっても、責任を取ったことがない、間違いを認めたことがない、全てを他人に責任転嫁することを日常茶飯事にしている指導者に従うような人はほとんど出ないだろう。

アメリカが指導力を発揮しないことによる穴がほかの国々によって埋められないとなると、現在の感染拡大を止めることはより困難になるだけでなく、これからの国際関係にマイナスの影響を残すことになるだろう。しかし、全ての危機は機会でもある。私たちは、現在の感染拡大が世界の分裂によってもたらされている緊急の危険なのだということを人類に認識させることに役立つだろう。

人類は選択を迫られている。私たちは分裂の道を進むことになるのか、それとも世界的な連帯を採用することになるのか?もし私たちが分裂を選ぶならば、それは現在の危機を長期化させるだけでなく、将来においてより悲惨な状況になることだろう。もし私たちが世界規模での連帯を選ぶならば、それはコロナウイルスに対する勝利だけでなく、21世紀の人類に待ち受けている全ての地域的感染拡大(エピデミック、epidemic)と危機への勝利ともなるだろう。

※ユヴァル・ノア・ハラリは『サピエンス』、『ホモデウス』、『21世紀のための21の教訓』の著者である。

(貼り付け終わり)(終わり)


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

 古村治彦です。
zentaishuginochugokugaamericawouchitaosu001
全体主義の中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界

 今回は、副島隆彦先生の最新刊『全体主義中国がアメリカを打ち倒すーーディストピアに向かう世界』(副島隆彦著、ビジネス社、2019年12月)を紹介する。

 今回の副島先生の調査旅行には私も同行した。香港から深圳に入る行程だった。深圳では中国の更なる勃興を体感し、香港では激化以前のデモを経験した。深圳ではドヤ街のような三和人力市場にある官位宿泊所付きのネットカフェで、インターネットゲームに没頭する若者たち(日本語で言えばネットゲーム廃人・ネトゲ廃人)の姿には衝撃を受けた。
zentaishuginochugokugaamericawouchitaosusanwajinrikiichiba001

 また、深圳の街中には、ファーウェイ(深圳に本社がある)の協力もあり、最新の監視カメラ網が張り巡らされ、市役所では住民のデータ管理に最新の技術が導入されている。私たちがタクシーに乗るとすぐに運転手がシートベルトを着用するに注意した。これは私たちの安全を気遣ってのことではない。街中に張り巡らされたカメラにシートベルトをしていないことがすぐに映る、自動車のナンバープレートがすぐに解析され、運転手がすぐに分かり、同時に罰金が科される(アリペイやウィチャットペイから引き落とされるという話がある)。

 副島隆彦先生の鋭い観察眼を通した中国の最新の分析がなされている。下にまえがき、目次、あとがきを貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

まえがき   副島隆彦

中国は表紙に打ち込んだとおり明らかに全 トータリタリアニズム 体主義国家である。

その別名が「共産中国(きょうさんちゅうごく)」である。みんなに嫌われるはずだ。だが、今後、世界中がどんどん中国のようになる。

 

世界中のすべての国が、中国化するのである。その代表的な具体例かつ証拠は、監視カメラ(CCTV [シーシーティブイ]。今はコミュニティ・サーキットTV[ティビー]と呼ぶ)が、街中のあらゆるところに取り付けられていることだ。アメリカも、ヨーロッパも、日本だって監視カメラだらけの国になっている。

 

中国では監視カメラによる民衆の動きの把握のことを 天 てんもう 網(ティエン・ワン)と言う。「天網恢恢疎にして漏らさず」の天網である。

私は最近、中国に香港から入って 深圳(しんせん)に行った。この中国のITハイテクの最先端の都市を調査してきた。あれこれもの凄(すご)い発展ぶりだなと、思った。それを後(あと)の方で報告する。中国にまったく行きもしないで、中国の悪口ばかり言っている(書いている)人たちは、お願いですから、せめて北京と上海に行ってください。安いホテル代込み10万円で行けます。エクスペディアなどネットで安くで予約するといい。

 中国は国民の生活を監視している国になってしまっている。もうすぐ監視カメラが中国全土に 6 億台取り付けられるそうだ。中国国民14億人の2人に1台の割合だ。まさか個人の家の中までは取り付けられないだろうが、それだって分からない。中国のすべての都市の街路には、既に付いている。

 ところが、これらの中国製の監視カメラ会社に、最初に技術を開発して売ったのは、日本の大手電機会社である。ニコンとキヤノンとパナソニックとソニーが、この公共空間のカメラの技術を一番先に開発した。日本がいまもドイツ(カールツァイスとライカ)にも負けないで、世界一の技術力を誇っているのは、この分野である。専門技術でいえば、フィルムとフィルターとレンズの技術である。ハッセルブラッド社(スウェーデン)は、DJI(中国のドローンの最大手)が買収した。

 あとのほうで載せるが(P61)、キヤノンの御手洗富士夫(みたらいふじお)会長の発言で、「キヤノンは監視カメラで未来を切り開く」と最近堂々と日経新聞に出ていた。

 中国だけが国民を徹底的に監視しようとしている国家なのではない。米、欧、日の先進国も監視国家だ。それに続く新興国も、「国民を監視する国家」になっていくのである。すなわち中国が先導して、他の国々もそれに追随する。これからの人類がたどるのは、このディストピア(幻滅の国。絶望郷[ぜつぼうきょう] 。監視国家)への道である。中国だけがますますひどい国になるのではない。ディストピア(dystopia)はユートピア(utopia、理想郷[りそうきょう])の反対語(アントニム)である。 

 人類が自分の未来を、盲目的、直線的かつ貪欲に突き進む結果、世界はこのあと、いよいよ中国のようになっていく。中国の悪口を言っていればいいのではない。

 国民生活が、権力者や支配者によって徹底的に監視され、統制される政治体制のことを全体主義(totalitarianism トーリタリアニズム)という。この全体主義という言葉を広めたのはドイツ人の女性思想家のハンナ・アーレン人である。彼女が、1951年に書いた『全体主義の起源』で、ソビエト体制を批判した時に使われた言葉である。このコトバの生みの親は、イタリア知識人のジョバンニ・アメンドラである。

 世界がやがて中国のようになっていく、という課題は、私が急に言い出したことではない。すでに感覚の鋭い言論人や知識人たちによって「世界は中国化する」という本も出ている

 もう 20 年前からイギリスのロンドンは、すべての街 ストリート 路に監視カメラが設置されていたことで有名だ。今の日本も主要な生活道路のほとんどにまで、監視カメラが設置されている。このことを日本国民は知らされていない。新宿や池袋のような繁華街だけが、カメラで監視されているのではない。 

 民衆の往来、行き来を、政府や取り締まり当局(警察)がずっと撮影して、画像を保存している国が立派な国であるはずがない。だが、どこの国の警察官僚も、必ずこういうことをやる。官僚(上級公務員)というのは、本性(ほんせい)からしてそういう連中だ。

 これは人類にとっては悲しむべき間違った方向である。科学技術(テクノロジー)の進歩が、コンピューターや通信機器(スマホ他)の異常な発達とともに、こういう監視技術を最高度に発達させた。この監視システムを維持するために、一体どれほどの警察公務員が新たに採用され続けているかについて、誰も関心を払わない。

 それにしても、全 トータリタリアニズム 体主義は強いなあ。世界大恐慌が襲いかかったとき、中国はシャッタード・アイランド(バターンと金融市場を閉じる)ので、ビクともしない。

=====

目次

まえがき 3

 

第1章 中国のディストピア化を追いかける世界

中国は巨大成長したという事実は否定できない 18

世界の知識人が描いてきたディストピア像 22

左右のどっちからも嫌われるのが一番いい 30

全体主義中国を徹底的に叩く 33

ディストピア映画の歴史的系譜 40

 

第2章 貿易戦争から金融戦争へと移り変わった

〝卑屈〟なテンセントが金融戦争に勝利する 52

銀行消滅とCCTV 59

銀行の別名は「信用」 69

アリババはNY市場から締め出されるのか? 70

中国のネット世代と実質的なデモクラシー 75

ファーウェイはアメリカのいじめに負けなかった 82

アメリカと中国の睨み合いは続く 87

中国人は国有企業が嫌い、民間企業大好き 90

半導体製造の切り札、紫光集団 96

 

第3章 中国は最早アメリカとの力相撲を恐れない

中国の技術泥棒を引っ張った「千人計画」 104

結局中国を一致団結させてしまったアメリカのミス 109

米中IT戦争と日本の半導体潰しの意外な共通点 112

サムスンを育てたのはインテル 117

新たな火種となったレアアース 120

 

第4章 中国にすり寄る 韓国、北朝鮮と台湾を巡るつばぜり合い

北朝鮮と韓国による「高麗連邦」の誕生 130

GSOMIA破棄問題で嫌韓が高まった本当の意味 132

アメリカが韓国を切ったのではなく、韓国がアメリカを切った 135

香港問題は台湾問題である 139

2020台湾総統選とテリー・ゴウの動き 142

韓国瑜はアメリカの回し者だった 145

中国は民主化するのか? 150

台湾の中国化とシーレーン問題 152

中国人はヒラリー・クリントンのことが大嫌い 154

もうアメリカの圧力などなくなってしまった 160

警戒の目はファーウェイの海底ケーブルに 164

 

第5章 中国の膨張を招き込んだアメリカの弱体化

腰砕けとなったペンス副大統領 170

「外国にいる米軍の兵隊たちは国に帰って、ゆっくり休め」 174

米中貿易戦争は、今年中に表面上は静かになる 177

イレイン・チャオはチャイナ・ロビー代表で政権ナンバー 3 180

EVの天下を取る中国にひれ伏すマスク 187

 

第6章 アフリカと中央アジアに広がる チャイナネットワーク

アフリカの一帯一路戦略 204

次の世界の中心は中央アジアになる 213

中国はアメリカからアフガンを任された 219

 

第7章 ディストピア中国の不穏な未来

新疆ウイグル問題の真実 224

私は見た、深圳の現実を 236

華強北と中国のジャイアント・ベイビーたち 238

ドローンの恐るべきパワー 248

デジタル人民元の脅威 250

 

あとがき 252

=====

あとがき   副島隆彦

この本『全体主義(トータリリアニズム)の中国がアメリカを打ち倒す││ディストピアに向かう世界』は、世界最大の牢獄国家、中国についての、私の 11 冊目の本である。

英文の書名は、“Totalitarian China will finish of America(トータリタリアン・チャイナ・ウィル・フィニッシュ・オフ・アメリカ)”である。このfinish off(フィニッシュ・オフ)という動詞は、「とどめを刺す、息の根をとめる」という強い意味だ。

 

『あと 5 年で中国が世界を制覇する』(2009年刊)という本も、私は書いている。この本は反共(はんきょう)右翼の人々から激しく嫌われた。「何を言うか。中国は暴動が起きて、中国共産党は潰(つぶ)れるのだ」と、彼らは、私の本に最大限の悪罵(あくば)を投げた。それで、現実の世界の動きは、その後どうですか。

 

人も国家も、より強い者に虐(いじ)められながら、這い上がってゆく途中は、善であり、正義である。より強い国の支配の下(もと)で、苦心惨憺(さんたん)しながら勝ち上がってゆく。

しかし、一旦(いったん)、勝者になったら正義[ジャスティス]justice)から 悪[イーヴォ]evil)に転化する。中国が、アメリカ合衆国を打ち負かして世界覇権(はけん)国(ヘジェモニック・ステイト)になったら、その時、巨大な悪[イーヴォ]evil)になるのである。それまであと5年だ。

人も国家も、そして企業も、2番手に付けて1番手(先頭、支配者[ガリバー])の真似をしながら必死で喰い下がっているときが、一番美しい。これまでの40年間(鄧小平[とうしょうへい]の「改革改放宣言」1978年12月18日。 40周年を中国は祝った)、私は、アメリカ帝国の後塵(こうじん)を拝しながら、蔑(さげす)まれながら、泥だらけの極貧(ごくひん)の中から、着実に勝ち上(のぼ)ってきた中国を頼もしく、美しいと思ってきた。

 

この11月20日に北京で、〝世界皇帝代理〞のヘンリー・キッシンジャーが心配した。これに対して、翌日即座に、習近平は、「心配しないで下さい。中国は世界覇権(hegemony、ヘジェモニー。ドイツ語ならヘゲモニー)を求めません(私たちは、これまでにいろいろ苦労して、人類史を学びましたから)」と発言した。

これが一番大きな処(ところ)から見た、今の世界だ。日本という小ぢんまりとした国で世界普遍価値(world values、ワールド・ヴァリューズ)を理解しようとして、私は、独立知識人として(本書第1章を参照のこと)、孤軍奮闘して来た。

 

 本書は書名が決まったのが11月11日。体調不良の中で、2週間で作り上げた。だが手抜きはない。いつもながらの全力投球だ。私の地獄の踏破行(とうはこう)に同行して、命懸けの鎖場(くさりば)にも付き合ってくれたビジネス社大森勇輝編集長に記して感謝します。

 

2019年12月

 

副島隆彦

 

(貼り付け終わり)

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

価格:1,400円
(2018/3/9 10:43時点)
感想(0件)

ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側[本/雑誌] (単行本・ムック) / 古村治彦/著

価格:1,836円
(2018/4/13 10:12時点)
感想(0件)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ