古村治彦です。

 

 2018年12月20日、ジェイムズ・マティス国防長官の辞任が前倒しとなり、在任は年内いっぱいまでとなりました。マティス長官の辞任は、ドナルド・トランプ大統領のシリア政策、具体的には米軍の撤退に反対したことが原因でした。トランプ大統領は正式の後任を置く前に、代行として、パトリック・シャナハン(1962年―)国防副長官を指名しました。このシャナハンもマティスの後任の有力候補として名前が挙がっています。

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パトリック・シャナハンとトランプ
 

シャナハンは1986年にボーイング社に入社し、最後は供給担当の上級副社長を務めました。政府での経験はないというところが不安を持たれているようですが、シャナハンはトランプ大統領が提唱した宇宙軍創設を推進しており、大統領からの信頼も厚いようです。彼自身もコンピューター技術者出身ということもあり、技術に関しては有能ということになるでしょう。

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アヨッテ
 
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トム・コットンとトランプ

 その他にケリー・アヨッテ、トム・コットン、デイヴィッド・マコーミック、ジム・タレントといった名前が挙がっています。アヨッテ、タレントは連邦上院議員の経験者、コットンは現役の連邦上院議員です。それぞれ軍事委員会に所属し、軍事知識が豊富なようです。トム・コットンはハーヴァード大学卒業後、法科大学院に進学し、弁護士資格を取得しました。その後、アメリカ陸軍に入隊し、幹部候補生学校に入学し、士官(最終階級は大尉)としてイラクとアフガニスタンに派遣されました。その後、ネオコンのウィリアム・クリストルに見出されました。そして、2014年の連邦上院議員選挙に当選しました。ネオコン派の議員として、タカ派的言動で知られています。

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デイヴィッド・マコーミックとトランプ
 

 デイヴィッド・マコーミックはヘッジファンドのブリッジウォーター社のCEOですが、ジョージ・W・ブッシュ政権で財務次官を務めた経験を持っています。また、イヴァンカ・トランプ、ジャレッド・クシュナーと個人的に親しい関係にあるようです。

 
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ジム・タレント

 下に掲載した記事が書かれた頃にはシャナハンの代行はまだ発表される前でした。シャナハンが代行に任命されたことで、シャナハンがマティスの後任になる可能性が高まったように考えられます。アヨッテ、コットンといった人たちはトランプ大統領のシリアとアフガニスタンの米軍の縮小に反対を表明しています。主要な政策に反対する人を入れるのかどうかは分かりません。それぞれに一長一短があるので、誰と決め打ちすることは難しいですが、もしこの中から誰かが選ばれた場合に、トランプ大統領の思考法を理解するための手助けになると思われます。

 

(貼り付けはじめ)

 

マティスの後任の有力候補者5名(Five possible successors to Mattis

 

エレン・ミッチェル、レベッカ・キール筆

2018年12月23日

『ザ・ヒル』誌

 https://thehill.com/policy/defense/422560-five-possible-successors-to-mattis

 

トランプ大統領はジェイムズ・マティス国防長官の今週の辞任を受けて公認を決めるのに苦労するかもしれない。

 

マティスは木曜日(20日)に辞任した。最高司令官(大統領)との間で政策をめぐる大きな相違があったことを理由に挙げている。マティスは民主、共和両党から幅広い支持を受け、アメリカの同盟諸国から尊敬を集めていた。マティスの存在のおかげで発足してから2年間、無秩序な政権が何とかやっていくことが出来たが、現在、政権人事のこれまでにない大幅な異動が展開されている。

 

トランプ大統領は2月末までに退役した4つ星の将軍マティスの後任を決めることとなるが、有力候補者として数名の名前が挙がっている。

 

しかし、名前が挙がっている有力候補者たちで大統領と一対一であった人はほぼいない。また、連邦上院において大差で承認を得られるであろう人もほぼいない。現段階での名前が挙がっているのはトランプ大統領以外の人物の推測に基づいた人々である。

 

トランプ大統領によるシリアからのアメリカ軍の撤退という決定とアフガニスタン駐留の米軍の半減を考慮していることについて、連邦上院軍事委員長ジェイムズ・インホフェは次のように語った。「大統領は自分の考えを進んで実行してくれる人物を選ばなければならない。これは難しいと思う。多くの人間はシリアからの撤退決定、アフガニスタン駐留米軍の半減について憤慨していると思う」。

 

マティスの後任の候補者5名を紹介する。

 

●ケリー・アヨッテ(Kelly Ayotte)前連邦上院議員(ニューハンプシャー州選出、共和党)

 

政権に近い匿名の人々はアヨッテがマティスの後継者となると語っている。彼女は、マティスが国防長官に指名される前に、国防長官に指名されると考えられていた。

 

ニューハンプシャー州選出の前連邦上院議員アヨッテは国防に関して豊富なバックグラウンドを持っている。アヨッテは連邦上院議員時代に連邦上院軍事委員会即応小委員会の委員長を務めた。

 

2016年の選挙で彼女は敗れてしまった。2015年のイランとの核開発を巡る合意に関しては激しく反対する共和党議員の一人であった。彼女はイランと北朝鮮に対する経済制裁を強化することを主張した。

 

上院議員退任後すぐに、アヨッテはトランプが大統領になって初めて連邦最高裁判所判事に指名したニール・ゴーサッチのための連邦議会におけるシェルパ、先導役を務めた。アヨッテの名前は、2017年5月にトランプがジェイムズ・コミーFBI長官を解任した際を含む、複数の機会で取り沙汰された。

 

しかし、アヨッテの持つ考えの中にはトランプ大統領の考えと齟齬をきたすものがあるようだ。その中には中東からの米軍撤退に関する考えも含まれている。

 

アヨッテは2011年にオバマ前大統領がイラクから米軍を撤退させたことを激しく批判した。このことは、彼女が、トランプ大統領が望むシリアからの米軍撤退について同様に批判するのではないかということを示している。

 

連邦上院議員在任中、アヨッテは「スリー・アミーゴス」の一員として知られていた。他の二人はトランプを多くの場面で批判した故ジョン・マケイン前連邦上院議員(アリゾナ州選出、共和党)と、ここ数日シリアとアフガニスタンについてトランプ大統領と激しい応酬を展開しているが、基本的には大統領の味方であるリンゼー・グラハム連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)である。

 

●トム・コットン(Tom Cotton)連邦上院議員(アーカンソー州選出、共和党)

 

ここ数カ月、連邦上院軍事委員会と情報委員会の委員を務めている、トム・コットン連邦上院議員が国防長官、もしくはCIA長官に指名されるのではないかという憶測が流れている。

 

コットンは金曜日に国防長官就任の可能性について質問しようと集まってきた記者たちに何も答えなかった。

 

コットンは陸軍士官としてイラクとアフガニスタンに従軍した経験を持つ。コットンは連邦上院の中で国防タカ派として名前を知られている。また、トランプ大統領による対イラク政策の変更を支持している。

 

現在41歳のコットンが国防長官になると、現代においては最年少の国防長官の一人ということになる。

 

コットンはいくつかの間違いを犯している。2017年2月にマイケル・フリンが国家安全保障問題担当大統領補佐官を辞職した後に、トランプ大統領にH・R・マクマスターを後任に推薦したと報じられている。

 

マクマスターの名前は、コットンによる推薦があるまで、トランプ大統領のレーダーには引っかかっていなかったと言われている。マクマスターはトランプと衝突を繰り返し、トランプの対ロシア、対イラン、対北朝鮮政策に反対し続け、2018年3月に解任された。

 

コットンは、トランプがシリアとアフガニスタンにおける米軍の規模を縮小すると発表したことに対して、激しい批判を行った。これらの問題はマティスの辞任を誘発した。

 

ロビー活動会社「ナヴィゲイター・グローバル」社長アンディ・カイザーは、トランプの政権移行ティームの国家安全保障部門に参加していた。カイザーは、コットンのシリアに対する姿勢が彼の国防長官に就任するチャンスにどのように影響するかどうかははっきりしない、と述べた。

 

カイザーは次のように述べている。「誰が国防長官になるかを推測するのは難しい。ニッキー・ヘイリーはトランプ大統領に批判的であった。それでもヘイリーは米国連大使に指名された。どのコメントが重要でどれが重要でないかを判断するのは難しい。公平に述べて、トム・コットンはトランプ政権に対して好意的であり、トランプ政権が発足してから帰還のうち99%の時期は政権を評価してきたと私は思う。従って、彼にも大いに可能性があると考えている」。

 

しかし、問題を複雑にしているのは、コットンが安泰な連邦上院議員の座を捨てて、国防長官になるかどうかということ、そして、トランプ大統領が、共和党が過半数を占めている連邦上院から議員を引き抜くかどうかということである。

 

●元財務省上級職員のデイヴィッド・マコーミック(David McCormick

 

今年9月、『ワシントン・ポスト』紙はマコーミックがマティスの後任になる可能性があると報じた。この時期、中間選挙(11月6日)後にマティスの辞任があるのではないかという話が出始めていた。

 

マコーミックは陸軍士官学校を卒業後、陸軍士官として湾岸戦争に従軍した。ジョージ・W・ブッシュ(子)政権で、国際問題担当財務次官を務めた。それ以前には産業・安全保障担当商務次官と国家安全保障問題担当次席大統領補佐官(国際経済政策担当)を務めた。

 

マコーミックは現在、世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターの共同CEOを務めている。また、トランプ政権の酷寒安全保障問題担当次席大統領補佐官を務めたディナ・パウエルと婚約している。

 

マコーミックは大統領の娘と義理の息子であり、ホワイトハウスの上級顧問を務めるイヴァンカ・トランプとジャレッド・クシュナーとは社交グループを通じて個人的に大変に親しい関係にある。

 

2017年、マコーミックは国防副長官就任の申し入れを拒否した、その理由としてブリッジウォーターでの仕事に満足していること、国防副長官の仕事に自分は適していないことを挙げた、と報じられたことがある。

 

●パトリック・シャナハン(Patrick Shanahan)国防副長官

 

トランプ大統領はマティスの後任を見つけることが出来ない場合、国防副長官の中から選ぶこともある。その場合、ボーイング社の重役であったパトリック・シャナハンは有利な立場にある。

 

国防総省内で2番目の高位の文官は、企業の役員を務めた背景を持つ。1986年にボーイング社に入社し、2017年に国防副長官の指名を受けるまで、ボーイング社の供給チェーン担当上級副社長を務めていた。

 

更に言えば、シャナハンは、実際の戦争と戦闘に関してのアドヴァイスではなく、ビジネスと行政における経験に基づいて、国防総省の改革を主導する役割を担っている。

 

シャナハンは、宇宙軍新設というトランプの計画を支持しているだけでなく、実際に国防総省内で宇宙軍新設計画を推進している。そのために、ホワイトハウスを頻繁に訪問し、トランプ大統領とマイク・ペンス副大統領と会談を持っている。

 

シャナハンがマティスと緊密な関係にあるのかどうかは知られていない。

 

●ジム・タレント(Jim Talent)元連邦上院議員(ミズーリ州選出、共和党)

 

2016年の米大統領選挙直後、トランプの政権移行ティームは国防総省トップにタレントを就けようとした。ミズーリ州選出の連邦上院議員だったタレントは、連邦上院軍事委員会印を務めた経験を持ち、今でも連邦議員たちと太いパイプを持っている。また、ニューヨークでトランプと会談を持った。2015年と2016年、トランプを批判した多くの共和党の政治家たちと異なり、選挙期間中、タレントはトランプを批判しなかった。

 

国防長官決定の過程の中で、タレントを強力に推したのはその当時の大統領首席補佐官レインス・プリーバスであった。しかし、プリーバスは2017年7月にホワイトハウスを去った。今回、タレントは大統領に対して影響を与えることが出来る大物支持者を得ているのかどうかははっきりしていない。

 

タレントは現在、米中経済・安全保障問題検討委員会の委員を務めている。タレントを2019年末までの2年の任期の委員に任命したのは、連邦上院多数党院内総務ミッチ・マコーネル(ケンタッキー州選出、共和党)であった。

 

トランプの政権以降ティームに参加したヘリテージ財産の国防政策担当アナリストであるジェイムズ・カラファノは誰がマティスの後任にふさわしいかと質問され、タレントとジョン・カイル連邦上院議員(アリゾナ州選出、共和党)の名前を挙げた。

 

カラファノは次のように述べている。「ジョン・カイルやジム・タレントのような人物は経験豊富、尊敬を集める連邦上院議員とその経験者で、国家安全保障問題に精通している。連邦議会の中で人々の尊敬を集めている。そのような人々は素晴らしく、国防長官に適格だろう」。

 

2012年の米大統領選挙で共和党候補者となったミット・ロムニーは、タレントを国防長官にすると明言していた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

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