古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ネオコン

 古村治彦です。

 2月に入り、事務作業や2023年4月9日に東京・御茶ノ水の全電通労働会館において、副島隆彦の学問道場が主催する定例会の準備も少しずつありでブログの更新頻度がだいぶ落ちまして申し訳ありません。もっと多くの方々にお読みいただくためには更新頻度を上げるのが最善だと思いますが、なかなか難しい状況です。ご理解をいただきまして、ご指導、ご鞭撻を賜りますよう、今後もどうぞよろしくお願いいたします。

 アメリカ外交について皆さんはどのような考えを持っておられるだろうか。ここでは第二次世界大戦後の1946年から現在までについて考えていきたいが、ソ連との二極構造の下、自由主義陣営の旗頭として、ソ連と直接戦争をすることはなかったが、ヨーロッパ、東アジア、中南米といった地域で、ソ連と戦った。影響圏をめぐる戦いだった。社会主義の人気が落ち、社会主義国の生活の苦しさが明らかになるにつれ、共産圏、社会主義圏の敗北ということになり、最終的にはソ連崩壊に至り、冷戦はアメリカの勝利となった。その間には中国とソ連の仲違いを利用して、中国との国交正常化を達成した。アメリカは世界で唯一の超大国となった。日本は先の大戦でアメリカに無残な敗北を喫したが、「反共の防波堤」という役割を与えられ、経済成長に邁進することができた。

 21世紀に入り、2001年の911同時多発テロ事件が起きた。アメリカに対する反撃、ブローバック(blowback)ということになった。アメリカが世界を支配し、管理するまでならまだしも、非民主的な国々、独裁的な国々に対する恣意的な介入(王政や独裁性が良くないというならばどうしてもサウジアラビアや旧ソ連の独裁者が支配する国々の体制転換を行わないのか)を行って、体制転換する(民主政体、法の支配、資本主義、人権擁護などを急進的に実現する)という「理想主義」がアメリカ外交で幅を利かせて、世界の多くの国々が不幸になった。私の考えの根幹はこれだ。共和党のネオコン派(ジョージ・W・ブッシュ政権を牛耳った)、民主党の人道的介入主義派(バラク・オバマ政権第一期やジョー・バイデン政権を主導する、ヒラリー・クリントンを頭目とする人々)は、「理想主義」である。彼らの源流は世界革命を志向したトロツキー主義者である。彼らは世代を超えて、世界を理想的な「民主的な国々の集まり」にしようとしている。こうしたことは拙著『アメリカ政治の秘密』で詳しく分析している。

 イラク、アフガニスタン、アラブの春などでアメリカの外交は失敗した。こうした失敗をアメリカ外交の別の潮流であるリアリズムから見れば当然のことということになる。アメリカが普通の国であればそもそも介入主義など発生しないだろう。世界帝国、超大国であるために、介入できるだけの力(パワー)を持ってしまうのである。経済力も考えれば、世界を牛耳りたいと思うのもまた当然だし、それでうまくいっていたことも事実だ。しかし、アメリカの力が強かったことがアメリカの不幸の始まりであったとも言えるだろう。「外国のことなんてどうでもよいじゃないか、自分たちの国の中で穏やかに暮らせればよいではないか」という考えを持つ人々も多くいるが、彼らの考えはワシントン政治には反映されなかった。一般国民の意思が政治に反映される機会になりそうだったのはドナルド・トランプ政権時代だったがそれもまた逆転された。アメリカはまた不幸な時代を続けていくだろう。そして、世界中が不幸を共有することになる。

(貼り付けはじめ)

アメリカはたとえアメリカ自体が止めたいと望んでも愚かであることは止められないだろう(The United States Couldn’t Stop Being Stupid if It Wanted To

-ワシントンにとって自己抑制は常に矛盾をはらんでいる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年12月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/13/the-united-states-couldnt-stop-being-stupid-if-it-wanted-to/

アメリカの「グローバル・リーダーシップ(global leadership)」を擁護する人々は、アメリカが自らを拡大しすぎ、愚かな政策を追求し、外交政策上の目標を達成できず、公然と掲げる政治原則に反したことを認めることがある。しかし、彼らはそのような行為を残念な異常事態(regrettable aberrations)と考え、米国はこうした、数少ない失敗から学び、将来においてより賢明な行動を取ることができると確信している。例えば、10年前、政治学者のスティーヴン・ブルックス、ジョン・アイケンベリー、ウィリアム・ウォールフォースは、イラク戦争が誤りであったことを認めながらも、「深い関与(deep engagement)」という彼らの好む政策がアメリカの大戦略(grand strategy)として正しい選択であることを主張した。彼らの考えでは、アメリカが良性の世界秩序を維持するために必要なことは、既存の関与を維持し、イラクを再び侵略しないことであった。バラク・オバマ前大統領が好んで言ったように、「愚かな行為(stupid shit)」を止めればいいのだ。

ジョージ・パッカーが最近『アトランティック』誌で発表したアメリカのパワーの擁護は、この使い古された論法の最新版となっている。パッカーは論稿の冒頭で、アメリカ人は「海外での聖戦(foreign crusades)をやりすぎ、そして縮小(retrenchments)をやりすぎ、普通の国なら絶妙なバランスを取ろうとするような間合いを決して取らない」と主張し、明らかに誤った比較をしている。しかし、世界中に700以上の軍事施設を持ち、世界のほとんどの海域に空母戦闘群を配備し、数十カ国と正式な同盟関係を結び、現在ロシアに対する代理戦争、中国に対する経済戦争、アフリカでの対テロ作戦、さらにイラン、キューバ、北朝鮮などの各国政府の弱体化と将来の打倒に向けた果てしない努力をしている国(アメリカ)が、過度の「縮小(retrenchment)」を非難されることはないだろう。パッカーの考える「良いバランス(fine balance)」、つまり、暑すぎず、寒すぎず、ちょうど良い外交政策とは、アメリカが世界のほぼ全域で野心的な目標に取り組むことである。

残念ながら、パッカーをはじめとするアメリカの優位性(U.S. primacy)を擁護する人々は、アメリカのような強力な自由主義国家が外交政策の野心を制限することがいかに困難であるかを過小評価している。私はアメリカのリベラルな価値観を好むが、リベラルな価値観と巨大なパワーの組み合わせは、アメリカがやり過ぎること、むしろやり過ぎないことをほぼ必然としている。もしパッカーが絶妙なバランスを好むのであれば、介入主義的な衝動(interventionist impulse)の方向性についてもっと心配する必要があり、それを抑制しようとする人々についてはあまり心配する必要はないだろう。

なぜアメリカは自制を伴う(with restraint)行動を取ることが難しいのだろうか? 第一の問題は、リベラリズム(1liberalism)そのものだ。リベラリズムは、全ての人間は確固とした自然権[natural rights](例えば「生命、自由、幸福の追求」)を持っているという主張から始まる。リベラリズムを信奉する人々にとって、政治的課題の核心は、我々を互いから守るのに十分なほど強力でありながら、同時に人々の権利を奪うほどには強力ではなく、チェックされる政治制度(political institutions)を作り出すことである。リベラルな国家は、政治権力の分割、選挙を通しての指導者の責任追求、法の支配、思想・言論・結社の自由の保護、寛容の規範の重視によって、不完全ながらもこのバランス感覚を獲得している。従って、真のリベラル派にとって、唯一の合法的な政府とは、これらの特徴を持ち、それを用いて各市民の自然権を保護する政府なのだ。

しかし、これらの原則は、全ての人間が同一の権利を有するという主張から始まっているため、リベラリズムは、単一の国家や人類の一部分にさえも限定することができず、その前提に一貫性を保つことができない。アメリカ人、デンマーク人、オーストラリア人、スペイン人、韓国人には権利があるが、ベラルーシ、ロシア、イラン、中国、サウジアラビア、ヨルダン川西岸地区、その他多くの場所に住んでいる人々には権利がない、と宣言できる真のリベラル派は存在しない。このため、自由主義国家はジョン・ミアシャイマーが言うところの「十字軍の衝動(crusader impulse)」、つまり、パワーの許す限り自由主義原則を広めたいという願望に強く傾く。ところで、マルクス・レーニン主義であれ、全人類を特定の信仰の支配下に置くことを使命とする様々な宗教運動であれ、他の様々な普遍主義的イデオロギー(universalist ideologies)にも同じ問題を持っている。ある国とその指導者が、自分たちの理想が社会を組織し、統治するための唯一の適切な方法であると心から信じている場合、その理想を受け入れるように他者を説得し、強制しようとする。少なくとも、そうすれば、異なる考えを持つ人々との摩擦(friction)は避けられない。

第二に、アメリカは強大なパワーを有しているため、自制して行動することが困難である。1960年代、連邦上院軍事委員会の委員長を務めたリチャード・B・ラッセル元連邦上院議員は、「もし私たちがどこに行っても、何をするのも簡単ならば、私たちは常にどこかに行き、何かをすることになるだろう」と述べている。世界のほぼ全域で問題が発生した場合、アメリカは常にそれに対して何かしようとすることができる。弱い国家は同じ自由度を持たず、したがって同じ誘惑に直面することもない。ニュージーランドは健全な自由民主国家であり、多くの立派な資質を備えているが、ロシアのウクライナ侵攻、イランの核開発、中国の南シナ海での侵略に対してニュージーランドが率先して対処するとは誰も考えない。

対照的に、米大統領執務室に座る人は、問題が発生した時、あるいは好機が訪れた時に、多くの選択肢を手にすることができる。米大統領は、制裁(sanctions)を科す、封鎖(blockade)を命じ、武力行使の脅し(あるいは直接の武力行使)を発し、その他多くの行動を取ることができ、しかもほとんどの場合、アメリカを、少なくとも短期的には、深刻な危険に晒すことはない。このような状況下で、行動の誘惑に抗することは極めて困難である。特に、いかなる自制的行動も意志の欠如、宥和的行動(act of appeasement)、アメリカの信頼性への致命的打撃として非難する批判者の大群が控えている場合、なおさらである。

第三に、米国は70年以上にわたって世界のパワーの頂点に君臨してきたため、現在、その卓越した世界的役割を維持することに既得権(vested interests)を持つ官僚や企業の強力な勢力が存在している。ドワイト・アイゼンハワー元米大統領が1961年の大統領退任演説で警告したように、第二次世界大戦と冷戦初期の強力な「軍産複合体(military-industrial complex)」の出現は、アメリカの外交政策をより軍事的で介入的な方向に永久に歪曲させる重大な進展があった。その影響は、特に外交政策シンクタンクの世界において顕著であり、その大部分はアメリカの関与を促進し、アメリカ中心の世界秩序(U.S.-centered world order)を擁護することに専念している。その結果、数年前にザック・ボーチャンプが指摘したように、「ワシントンの外交政策の議論は、ほとんどが中道と右派の間で行われる傾向にある。問題は、アメリカがまったく武力を行使しないかどうかよりも、どの程度武力を行使すべきなのかということである」ということである。

第四に、以前にも述べたように、リベラルなアメリカは、他の多くの国にはない方法で外国の影響にオープンである。外国政府は、ワシントン内部、特に連邦議会で自分たちの主張を通すためにロビー活動会社を雇うことができるし、場合によっては自分たちのために行動を起こすよう圧力をかけてくれる国内団体に頼ることもできる。また、アメリカの大義(cause)を推進するシンクタンクに多額の寄付をしたり、外国の指導者がアメリカの有力な出版物に論説や記事を掲載し、エリートや大衆の意見に揺さぶりをかけたりすることも可能である。もちろん、このような努力は常に成功するわけではないが、正味の効果は、アメリカの行動を減らすのではなく、むしろ増やすように促す傾向がある。

更に言えば、アメリカが新しい同盟諸国、「パートナー」、「特別な関係(special relationship)」を加えるたびに、アメリカの耳元でささやく外国の声の数は増えている。かつて、アメリカの対ヨーロッパ政策を形成しようとするNATOの同盟国は11カ国だったが、現在は29カ国である。これらの国の中には集団防衛(collective defense)に多大な資源を提供している国もあるが、その他の国の中には弱く脆弱で、対等なパートナーというよりは保護国(protectorates)と見るのが適切であろう国も存在する。当然のことながら、これらの国々は、アメリカが公約を守り、自国を保護するよう声高に主張し、グローバルパワーとしてのアメリカの信頼性が危険に晒され、より穏やかな世界秩序への希望は、彼らの助言を受けることにかかっていると警告している。多くのクライアント国によれば、アメリカは深く関与すればするほど、更により深く関与し続けなければならない。

誤解しないでいただきたい。私は同盟諸国の懸念を無視したり、彼らの助言を頭ごなしに否定したりすることを主張しているのではない。同盟諸国の指導者たちは、現代の世界規模の諸問題についてしばしば賢明なことを言うし、アメリカが自国内からの助言だけに頼らず、フランスやドイツの警告に耳を傾けていれば、より良い結果になったであろう例を考えるのは簡単だ(イラクについてはどうだろうか?)。しかし、外交政策分野の「エリートたち(Blob)」の多くが持つ介入主義的衝動(interventionist impulse)と、アメリカの保護と援助を望む国々が外交政策に関する議論に熱心に挿入する利己的な助言の間には、依然として不健康な共生が存在し得る。驚くべきことではないのだが、アメリカの海外パートナーは通常、アメリカに自分たちのためにもっとやってもらうことを望み、アメリカが少し手を引くことを勧めることはほとんどない。

このような様々な要素を組み合わせると、なぜアメリカが愚かなことを止めるのが難しいのかが分かるだろう。イデオロギー、パワー、官僚的な勢い、そしてアメリカのパワーを自国の目的のために利用しようとする他国の欲望が相まって、何かをしたいという強力な原因を生み出し、誘惑が生じた時に明確な優先順位を決めてそれを守ることができない。パッカーや他の人々が望んでいると思われる絶妙なバランスを達成するためには、このような傾向を擁護したり強化したりするのではなく、それに対抗するためにもっと多くのことがなされる必要がある。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 2021年に正式に発足したジョー・バイデン政権1期目は後半戦に入っている。2024年の大統領選挙もスタートに近づきつつある。中間選挙では大敗しなかったということで、バイデン政権の外交政策は及第点だという主張もあるが、果たしてそうであろうか?私はバイデン政権がヒラリー政権であり、オバマ政権の焼き直しだと主張する。

 ヒラリー・クリントン元国務長官をはじめとする人道的介入主義(Humanitarian Interventionism)という民主党の外交政策の流れがある。これは共和党のネオコンと対をなす外交潮流である。外国の諸問題に介入し、問題のある政府や独裁者を打倒し、体制転換を行う。そして、自由、人権、資本主義、民主政治体制といった西側の価値観を人工的に植え付けるということだ。ネオコンと基本的に同じ考えだ。ネオコンが牛耳ったジョージ・W・ブッシュ政権、ヒラリーが外交政策を主導したバラク・オバマ政権1期目は、アメリカの外交政策の失敗の歴史だった。これに嫌気がさしたことで、アメリカ国民は、ヒラリー・クリントンではなく、国内問題解決優先主義(アイソレイショニズム、Isolationism)、「アメリカ・ファースト」のドナルド・トランプを大統領に選んだ。
 しかし、2020年の大統領選挙ではジョー・バイデンが大統領に当選した。バイデン政権の外交政策は基本的にオバマ政権1期目の焼き直しだ。ウクライナをめぐっては、私は今から考えれば、トランプがバイデン父子のウクライナとのかかわりをウクライナに捜査してもらうことの引き換えで軍事支援を行うと述べたことは正しかったと考える。バイデンは副大統領時代からウクライナに深くかかわり、ウクライナの実質的なNATO加盟国化を進め、ロシアに脅威を与えた。そのバイデンが大統領になってウクライナ支援を強化したことがウクライナ戦争につながったということが言える。
 アメリカは海外への積極的な介入を進めることで、再び間違いを犯そうとしている。それを修正しようにもその修正の仕方が分からない、そのまま突っ走るしかないというのが今のバイデン政権の外交政策を立案する面々だ。下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトはこのことを「メカニック(整備士)はいるが設計者がいない」状態と形容している。設計図は既にヒラリー・クリントンが国務長官の時にできていた。その設計図のままに、ところどころ修理をしながらやるしかないというのが現状だ。これでは世界の不幸がこれからも続くということになる。私は常々「アメリカの理想主義(Idealism)が世界を壊す」ということを考えている。理想は暴走を生み、現実を見えなくする。結果として大きな地獄を生み出す。

(貼り付けはじめ)

バイデンがアメリカの外交政策を修理するためには整備士(メカニック)ではなく、設計者(アーキテクト)が必要だ(Biden Needs Architects, Not Mechanics, to Fix U.S. Foreign Policy

-アメリカの中間選挙が近づくにつれ、ワシントンは集団思考とヴィジョンの欠如に悩まされ、新しい時代の問題に対する創造的な解決策を阻んでいる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年7月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/12/biden-foreign-policy-outdated-groupthink/

私は休暇から戻ったばかりだが、ジョー・バイデン米大統領は現在中東諸国を訪問している。今回の訪問について私は、バイデン政権の外交政策のパフォーマンスを評価するための絶好の機会だと考えた。私は2020年の大統領選挙でバイデンに投票した。彼が当選して安堵した。それでも、バイデンと内部で競争がない(ノンライヴァル)ティームが21世紀の外交政策と大戦略を設計する任務を果たせないのではないかと心配してきた。明らかな危険(the obvious danger)という概念は、冷戦中にうまく機能したかもしれないが、現在は効果があるのかないのか分からない、様々な特効薬、発言と映像、および政策に頼ってばかりになっている。

バイデン政権が何をすると言ったか覚えているだろうか? アメリカの同盟関係を活性化し、独裁政治の台頭に対抗して民主政治体制世界を団結させる。中国にレーザーのように照準を合わせ、主導権争いに勝利するつもりだと主張していた。気候変動は最優先課題である。アメリカはまた、イランとの核取引に再び加わり、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を「除け者(pariah)」と呼び、「永遠の戦争(forever wars)」を終わらせ、それがどんな意味であれ「中間層(middle class)」のための外交(経済)政策をアメリカ人に与える位置を持っていた。そして、アントニー・ブリンケン米国務長官は、人権を政権の外交政策の「中心(at the center)」に据えることを約束した。

それで、これまでのところ、どうなっているのだろうか?

公正を期すために言えば、バイデン&カンパニー(バイデン株式会社)は初期の公約のいくつかを実現した。彼はアフガニスタン戦争を終結させたが、結末は混乱してしまった。これはおそらく避けられなかったことだろう。バイデンは、前任者の悪ふざけによって疎外された同盟諸国を宥め、ウクライナでの戦争は、当面の間、NATO(ネイトー)に新しい息吹を与えた。アメリカはパリ協定に再加盟した。バイデンは就任以来、いくつかの失策を犯してきたが(イギリス、オーストラリアとのいわゆるAUKUS[オウカス]潜水艦の素人同然の契約展開や大統領の口が滑ったことを何度も撤回する必要性など)、バイデンの下での18カ月間の失策は、ドナルド・トランプ前米大統領のショーの任意の2週間よりも少なかった。

しかし、全体として、バイデン政権が明確な説得力を持ち、成功する戦略を有している兆候はほとんどない。この1年半の間に追求した様々な取り組みや対応を見てみると、バイデン政権の記録は印象に残らない。

ウクライナについて言えば、バイデンのティームは、ロシアの侵攻に対して大西洋をまたぐ形で対応を行った。実際に開戦に至るまでの諜報活動の巧みで政治的に効果的な活用に始まりうまく指揮を執った。ヨーロッパが(ほぼ)一体となって対応し、ドイツなどが(ほぼ)助け舟を出したのは、バイデンの努力(とウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の巧みな公共外交[パブリックディプロマシー、public diplomacy])のおかげであり、ウラジミール・プーティン大統領に大きな衝撃を与えたのは間違いないだろう。

しかし、アメリカ人は、ビル・クリントン元大統領の時代に始まり、その後の全ての指導者の時代に続いた一連の間違いである、より大きな状況に対するアメリカの誤った対処から目を背けるべきではない。この問題を提起することは激しい論争となり、これらの不手際の立役者は、西側の政策がこの悲劇と何の関係もないことを否定するために不自然なまでに力を尽くしている。しかし、プーティンの侵攻を古典的な予防戦争(preventive war)と見なさないわけにはいかない。ウクライナを武装化し、欧米の軌道に乗せるというアメリカの加速された努力を挫くために行われた不法な侵攻ということになる。

プーティンが軍隊を動員し、自らの懸念が晴らされねば侵攻すると明言した時、NATO(ネイトー)の「門戸開放政策(open door policy)」の終了を検討することさえ拒否し続けたバイデン政権は戦争の到来を約束する結果となった。1990年代にウクライナに旧ソ連から受け継いだ核兵器を放棄させ、将来のロシアの攻撃に対する強力な抑止力を取り除いたのに、西側がロシアの懸念を認めず、モスクワがどう反応するかも予想しなかったのは、とんでもない戦略的誤算であった。

私が心配なのは(そしてバイデンと民主党側を本当に心配するべきなのは)次の点である。ウクライナの英雄的な抵抗と数十億ドルに及ぶ西側の軍事支援があっても、ロシアがウクライナの領土のかなりの部分を掌握することを防ぐことができていない。制裁は時間をかけてロシアを弱体化させるだろうが、おそらくプーティンをクレムリンから追い出したり、撤退を納得させたりすることはできないだろう。その結果、西側の決定的な勝利ではなく、長引く膠着状態に陥り、ウクライナ(および食糧やエネルギー不足に直面している発展途上諸国)にとって恐ろしいほどの代償を払うことになるだろう。ロシアがより悪い状況に陥ったとしても、これを外交政策の大成功と言い張ることはできないだろう。

更に加えれば、この危機によって、アメリカは冷戦時代の習慣に逆戻りし、再びヨーロッパの第一対応者(ファーストレスポンダー、first responder)として行動するようになった。ヨーロッパの豊かな民主政治体制諸国には自衛のための十分な潜在能力があるが、特にロシアが時間とともにかなり弱体化することを考えると、アメリカ(アンクルサム、Uncle Sam)は再び、彼ら自身と同じ程度に彼らを守るために行動するようになったという点は重要だ。NATO(ネイト―)は新しい戦略コンセプトを掲げているが、ヨーロッパの加盟諸国はそのコンセプトの高尚な美辞麗句に見合うだけのハードパワー(軍事)能力を持っていない。そして、アメリカは更に多くの軍隊、資金、武器をヨーロッパ大陸に送っているが、ヨーロッパ諸国が公約を守り、軍隊を再建すると本気で信じている人がいるだろうか? 歴史を振り返れば、ヨーロッパ諸国が歴史を守る可能性はほとんどない。

アジア地域ではその記録はあまり良くない。バイデンは中国との競争に新たに焦点を当てることを誓って就任したが、実質的な内容を伴う明確で首尾一貫したアジア戦略を探しても無駄なことだ。日米豪印の四極安全保障対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)は協議の場ではあっても同盟の場ではないし、大きな話題となったAUKUS(オウカス)協定も、アジアの海軍力のバランスに影響を与えることは(あったとしても)今後10年以上はないだろう。

中国はこの地域で経済的足跡を拡大し続けており、アメリカは最近の「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)」のような限定的な取り組みや、ソロモン諸島のような場所での中国の進出に対するその場しのぎの対応で応じている。しかし、アメリカの公約は連邦議会で承認された正式な貿易協定に組み込まれていないため、アジアのパートナー諸国は、新大統領が方針を転換するかもしれないと当然ながら懸念している。この問題はバイデンの責任ではないが、アジアの同盟諸国はいずれ、アメリカは中国が提供できるような市場アクセスや投資機会を提供できないし、アメリカは他国の出来事に気を取られやすく、信頼できる保証人にはなり得ないと結論付ける可能性がある。

中国自体については、バイデン政権はトランプ大統領の輸出規制を維持し、台湾防衛の公約に近づき、多くの反中国的なレトリックにふけるようになった。しかし、気候変動問題など協力が必要な分野と競争が避けられない分野とを区別して、対中アプローチを継続的に展開する試みが欠落している。中国の行動やレトリックはこれを容易にするものではないが、地球上で2番目に強い国である中国に対処するための明確な戦略の欠如は顕著である。

中東地域では、バイデンはイランとの核合意を回復し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンのような不正な指導者に厳しい態度で臨むことを公約に掲げて就任した。また、バイデンとブリンケンは、人権や「ルールに基づく秩序(rules-based order)」を再構築する必要性について多くを語った。しかし、実際には、バイデンとブリンケンはトランプと同様に取引重視であり、実際、この地域に対する政権のアプローチは、本質的に「トランプ・ライト(Trump=lite、訳者註:トランプ色を薄めた戦術)」である。イランのハサン・ロウハニ前大統領が在任中に核合意への復帰を躊躇した結果、新たな合意の見込みはほぼ消滅し、イランはかつてないほど核兵器に近づいた。

アメリカはイエメンでのサウジアラビアの戦争を黙認し続け、バイデンはムハンマド・ビン・サルマンを「除け者」にすると宣言したがそれは頓挫した。ヨルダン川西岸をさらに吸収しようとするイスラエルの執拗な努力は、いつものように意味のない反応を示す。著名なパレスチナ系アメリカ人ジャーナリストであるシリーン・アブ・アクレの射殺事件は様々な調査によれば、ほぼ確実にイスラエル兵によるものだが、彼女がアメリカ国民であったにもかかわらず、政権からは鋭い言葉さえ発せられない。トランプはアメリカの中東の顧客(クライアント)たちが望むことはほとんど何でもさせた。バイデンとブリンケンはそれに倣っている。

バイデンが今週イスラエルとサウジアラビアを訪問するというのも、戦略的な観点からするといささか不可解なことである。ホスト国はバイデンに新たな安全保障の約束を迫るだろうし、それはアメリカを次の地域紛争に容易に引きずり込むことになる。このような措置は、イランがついに核武装に走ることを誘発しかねない。そうなれば、バイデン政権は予防戦争を行うか、核武装したイランという現実を受け入れるかのどちらかを迫られることになる。しかし、バイデンが現地の権力者の誘惑に抵抗すれば、彼らは苛立って失望し、今回の訪問は当然ながら時間の無駄だったと判断されることになる。それではなぜ行くのか?

本誌の寄稿者であるアーロン・デイヴィッド・ミラーとスティーヴン・サイモンは正しい。バイデンは、主に国内的な理由で、ウクライナ戦争によって引き起こされたエネルギーコストの高騰に対処しようとするためにこれをやっている。しかし、その見方は酷いものだ。アメリカ大統領は、非民主的な従属国家にもっと石油を産出させるために、中東に手ぶらで飛び、真の大国のように行動する代わりに、議論したい問題があれば、ワシントンに飛んできて歓迎すると言っているのだ。彼が得る国内的な利益は、ささやかで短期に終わるだろう。

最後に、バイデンとそのティームは、米国の民主的価値の重要性と、独裁政治に対抗する「自由世界(free world)」の団結を繰り返し強調してきた。これは価値ある目標だが、プーティンや中国の習近平国家主席のような人々から意図しない援助を受けたにもかかわらず、それを示すものはあまりない。また、最近開催された米州首脳会議では、メキシコ、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルヴァドルの各首脳が出席を拒否し、出席した一部の首脳がこの地域におけるアメリカの役割を批判する機会として利用したため、その成果は不十分なものとなった。

更に重要なことは、アメリカ自身が深く分裂し、永久に少数派の支配へと向かっているこの時期に、そして正統性が減少している連邦最高裁が、銃製造者や企業には女性よりも権利があると考えるような時に、なぜアメリカは他の国々が「民主的価値(democratic values)」を受け入れることを期待しなければならないのだろうか? もしバイデンが海外で民主主義を拡大したいのであれば、まず手始めに国内でもっとうまく民主政治体制を守ることから始めなければならない。

私は、賢明で経験豊富な外交政策の達人たちが、なぜこのような失敗を犯しているのか、その原因を突き止めたいと考えている。バイデンは、自分と同じように世界を見て、何十年にもわたってアメリカの外交政策に影響を与えてきた使い古された手法にこの上なく慣れている人々を、意図的に一つのティームに集めたのである。

しかし、「グローバル・リーダーシップ(global leadership)」、「共有された価値観(shared values)」、「ルールに基づく秩序(a rules-based order)」、「自由世界(free world)」といったキャッチフレーズは、戦略の代用にはならない。戦略には、国際情勢を形成する中心的な力を特定する一連の一般原則、その論理から導き出される明確な優先順位、そして国をより安全または繁栄(あるいはその両方)させるための一連の政策ステップが必要である。

国家が脅威の均衡(balance threats)を図る傾向を無視したり、経済的相互依存(economic interdependence)や強固な制度が紛争を不可能にすると考えたり、ナショナリズムの力を無視するなど、戦略の基礎となる世界観に欠陥があれば、優先順位が狂ってしまい、いかなる取り組みも裏目に出る可能性が高くなる。

世界は複雑な場所であり、ある分野での行動が他の分野での努力を損なうことも起きる。明確で根拠のある優先順位がない限り、これらの相殺取引(トレイドオフ、trade-offs)を賢く解決することはほとんど不可能だ。明確な戦略がなければ、予期せぬ出来事によって簡単に軌道修正されてしまうし、国内の有権者、外国のロビー団体、自由世界のリーダーとしてのアメリカの自画像に訴える術を身につけた同盟国からの圧力に対抗することも難しくなる。

バイデンとそのティームは、外交政策のマシーンを動かす方法を知っているという意味では、熟練した整備士(メカニック)たちの一群のようなものである。しかし、彼らが操作するために訓練された国内および国際機関は、もはやその目的に適っておらず、経験豊富なフォードやシボレーの整備士がテスラを整備しようとするような結果に終わっている。当然のことながら、機械が生み出す政策対応は、世界が望むような結果をもたらしてはいない。

バイデンに必要なのは整備士ではなく、建築家(アーキテクト)たちだ。今日の課題により適した新しい取り決めとアプローチを生み出す想像力とヴィジョンを持った人たちだ。残念ながら、今日のエスタブリッシュメントは、適合性と、安全でますます懐古的なコンセンサスの中に留まることに高い優先順位を置いているため、創造量とヴィジョンを持つ人々が権力の座に就くことはないのだ。

希望を持てる理由はあるだろうか? 確かに。アメリカ人たちは、主要な敵国が大きな間違いを犯しているという事実に、いくらかの慰めを得ることができるかもしれない。プーティンのウクライナ侵攻は彼の期待通りにはいかず、中国のゼロ新型コロナウイルス感染拡大政策は中国経済の深刻な構造的不均衡を悪化させ、両国ともほんの数年前より強力な世界的敵対勢力に直面している。

しかし、モスクワや北京がワシントンよりも多くの誤りを犯すことを期待することは、長期的なアプローチとして有望とはいえない。他国の失敗を当てにするのではなく、賢明な政策と効果的な実行こそが、成功への唯一の道だ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争はロシアが併合した4州に対するウクライナ軍の攻勢が強まっており、泥沼化から抜け出せない状況だ。ウクライナとしてはロシアに併合された地域を奪還すべく戦いを進めているが、この目的を完全に達成するためには年単位の時間と莫大な資金、そして何よりも更なる人的な犠牲が必要となる。そのようなコストは甘受すべきだという考えもあるだろうが、ウクライナ国内で不満も募っていくだろう。ロシア軍は併合した地域を防衛するための拠点づくり、洋裁づくりを進めていくと考えられる。戦争の鉄則の一つとして、攻撃側と守備側では、攻撃側により大きな犠牲が出る、守備側を抜くためには3倍の兵力が必要だ、というようなことが言われている。以下の地図を見ても、ロシアの併合地域を全て奪還することは不可能だと思われる。また、そのようなことをすれば戦争が長引くだけではなく、戦争が拡大する可能性を秘めている。またヨーロッパ諸国はウクライナ戦争の影響によるエネルギー不足と食料価格の高騰で厳しい冬を迎えることになる。

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 今回のウクライナ戦争は「西側諸国(主にアメリカ)が支援するウクライナ対(VS)西側以外に国々が間接的に支援するロシア」という構図になっている。西側諸国からは「ウクライナ戦争は民主的な政治を独裁政治から守る戦いだ」という声も聞かれる。この主張の根底にあるのは、「自分たちが信奉し、守っている価値観である自由や人権、平等という考えとそれらを実現するための政治制度である民主政治体制こそが最良のものだ」という考えだ。

 拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』『アメリカ政治の秘密 』で書いてきたように、アメリカの共和党系のネオコン、民主党系の人道的介入主義派は、こうした考えに基づいて、「こうした価値観や民主政治体制を世界中に拡散すれば世界は安定し、平和になる」ということになり、世界の独裁政治体制国家や非民主政治体制国家の体制転換(regime change)を行うという結論に至る。このような押し付けがましい考えがアメリカの外交政策の柱になってきた。

 今回のウクライナ戦争では西側諸国はいち早くロシアに対して制裁を科した。「ロシアを素早く敗北に追い込んで、プーティンを引きずり下ろす」という目論見であったが、それは成功しなかった。そして、戦争は泥沼状態になっているが、アメリカは武器をウクライナに送り、ヨーロッパには自国産の高い天然ガスを売りつけて設けるという構図を作り上げている。ロシアの体制転換には失敗したが、転んでもただは起きぬ、とばかりに戦争を利用して金儲けをしている。

 ウクライナが戦争に勝利することでロシアの体制転換を引き起こし、「アメリカの掲げる諸価値と政治体制の優越性」を宣伝し、世界覇権国として、崩れつつあるアメリカ主導の世界秩序の箍(たが)を締めなおすということをアメリカは目指している。しかし、時代は転換点を迎えつつある。体制転換と民主政治体制の構築は各国の国民の意思に基づいて、下から行われるべきであり、上からしかも外国から行われるべきものではない。そして、急激に行うべきものでもない。

 アメリカをはじめとする西側諸国は自国の価値観や政治体制を誇るあまりに傲慢になって、くだけた表現を使えば「上から目線のお説教」をこれまで繰り返してこなかったかを反省しなければならない。そういう時代はもう終わった。ウクライナ戦争後はこのことをよくよく考えねばならない。

(貼り付けはじめ)

ロシアの敗北はアメリカにとっての問題となるだろう(Russia’s Defeat Would Be America’s Problem

-ウクライナでの勝利はワシントンの傲慢さを意味することになる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年9月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/09/27/russia-defeat-ukraine-america-problem-hubris/

紀元前431年、スパルタに対する宣戦布告のためにアテネ市民たちを説得するペリクレスの演説の最後に、ペリクレスは、自分は「敵方の装備よりも自分たちの大失策をより恐れている」と明言した。特に、傲慢さ(hubris)と「新たな征服の計画と戦争の遂行(schemes of fresh conquest with the conduct of the war)」を結びつける危険性を戒めた。しかし、彼の警告は聞き入れられず、彼の後継者たちは結局アテネを悲惨な敗北に導いた。

数世紀の後に、イギリスが革命派フランスとの戦争に向かったとき、エドマンド・バークがイギリスの国民に同じような警告を発している。1793年に彼が書いたように、「私は自分たち自身の力と野心(our own power, and our own ambition)に恐れをなしている。つまり、私たちは、この驚くべき、そしてこれまで聞いたこともないような力を乱用することはないと言うかもしれない。しかし、他のどの国も、私たちがそれを乱用すると考えるだろう。遅かれ早かれ、このような事態が、私たちに対抗する団結を生み出し、私たちを破滅に追い込む可能性があるということになる」。しかし、バークの予言は、フランスが敗北した後も、イギリスの野心が限定的であったこともあり実現しなかった。

この2つの暗い予言に触れたのは、アメリカとその西側同盟諸国がウクライナ戦争で明確に勝利する可能性があるからだ。西側諸国がもっと先見の明のある国家運営をしていれば、そもそも戦争は防げたかもしれないし、ウクライナがロシアの手によって被った甚大な破壊を免れたかもしれない。しかし、ロシアの誤算と軍事的な無力、ウクライナの抵抗、西側諸国による強力な軍事・情報支援、モスクワへの強力な制裁が相まって、最終的にはキエフと西側の支援諸国が勝利を収める可能性がある。戦闘がこれ以上拡大せず(その可能性は否定できない)、ウクライナが最近の戦場での成功を継続すると仮定すれば、ロシアの力は今後何年にもわたって大きく低下することになる。ウラジミール・プーティンがモスクワの権力の座から追われる可能性さえある。ロシアが決定的な敗北を喫した場合、「西側諸国の衰退は避けられない」という警告は時期尚早と言わざるを得ないだろう(the inevitable decline of the West will seem premature at best)。

核兵器が使われず、ウクライナが失った領土をほぼ全て取り戻せると仮定すれば、道徳的にも戦略的にもこの結果には多くの好感が持てる。だから、私はこの結果を間違いなく応援している。しかし、その後はどうだろうか。西側諸国、特にアメリカはこの勝利をどう生かすべきか? そして何より、勝利の果実を無駄にしないために、どのような手段をとるべきか?

ウクライナの最終的な結末が不透明である以上、こうした問題を提起するのは時期尚早と思われるかもしれない。しかし、勝利の瞬間が訪れた時のことを考え始めるべきだろう。前回、アメリカが地政学的に大勝利を収めた時(ソ連帝国の平和的崩壊)は、ペリクレスが警告したような傲慢さに陥り、より永続的で平和な世界を構築する機会を無駄にしてしまったのである。もし次の機会があれば、失敗から学び、今度はより良い仕事ができるはずだ。

ここで懸念が出てくる。ウクライナでの成功は誰もが望むところだが、単極支配時代(unipolar era)の逆行する行き過ぎを生み出したアメリカ国内の政治勢力を強化する可能性がある。ウクライナでの勝利は、民主政治体制の本質的な優位性についての主張を強化し、それを海外に広めるための新たな努力を促すだろう。反省しないネオコンサヴァティヴたちと野心的なリベラル派の十字軍は、「30年間も失敗が続いたが、ようやく成功を収めた」と喜ぶだろう。この戦争で大儲けした軍産複合体(military-industrial complex)は、更に何百万ドルも使って、無思慮なアメリカ人たちに、世界を守備範囲に入れ、次の7、もしくは9カ国を合わせたよりも多くの防衛費を使うことでしか安全を確保できないと説得することができるようになる。ロシアはウクライナでやい卜することで、大きく衰退し、経済不況が迫るため、ヨーロッパの防衛力を高めるという現在の公約は効力を失い、アメリカのNATO同盟諸国は、アンクルサム(イギリス)に保護を頼ることに戻るだろう。過去の多くの失敗にもかかわらず、自由主義的覇権(liberal hegemony)の支持者たちは、少なくとも一時的には正当性を主張するだろう。

それの何が問題なのだろうか?

まず、ウクライナ戦争から得た重要な教訓のいくつかを無視することになる。教訓その1は、ある大国が重要な利益と考えるものを脅かすことは、たとえその意図が崇高で良いことであっても危険であるということだ。NATOの開放的な拡大もそうであった。様々な外交専門家たちが、この政策はトラブルを招くと繰り返し警告してきたが、ウクライナ危機が始まった2014年2月以降、その警告を無効とするものは何もなかった。回避できたかもしれない戦争で勝利をもぎ取ることは、同じ過ちを再び繰り返すことの論拠にはならない。私は宥和政策(appeasement policy)を主張しているのではなく、他の大国が重要な利益とみなすものを無視することは本質的に危険であると警告している。

教訓その2は、脅威を誇張することの危険性だ。ウクライナ戦争は、ウクライナが西側諸国の軌道に乗るのを阻止するためにロシアが仕掛けた予防戦争であると理解するのが最も妥当だ。予防戦争(preemptive war)は国際法上違法だが、プーティンは、アメリカが主導するウクライナの武装化と訓練により、モスクワがキエフの地政学的再編(geopolitical realignment)を阻止することが最終的に不可能になると考えた。ヴェトナム戦争でアメリカの指導者たちがドミノ倒し(falling dominos)の危険を誇張し、2003年にサダム・フセインのイラクがもたらした脅威を意図的に誇張したように、プーティンはおそらくウクライナの「喪失(losing)」がロシアにもたらす実際の危険を誇張しすぎていたのだろう。 ロシアの指導者たちは、この結果を「存在を脅かす脅威(existential threat)」、つまり、それを防ぐために戦争をする価値があると繰り返し述べているが、NATOの侵攻や「カラー革命(color revolutions)」がいずれロシアに広がるかもしれないというロシアの指導者たちの懸念は、おそらく誇張されていた(彼らが正直ではなかったと言う訳ではない)。 もしそうだとすれば、この判断ミスがモスクワを高いコストを伴う泥沼(costly quagmire)に導くことになったのだ。私が言いたいのは、脅威を誇張することは、それを軽視することと同じくらいに国家を窮地に陥れるということだ。だからこそ、ドイツのオットー・フォン・ビスマルクは、予防戦争は「死を恐れて自殺する(committing suicide for fear of death)」ようなものだと警告した。アメリカの将来の政策立案者たちは、このことを心に留めておく必要がある。

教訓その3は、プーティンは無視したようだが単純だ。もしあなたが外国を侵略したら、友好的な歓迎を期待してはいけない。それどころか、外国からの侵略者は、それまで分裂していた社会を団結させ、獰猛で非常に効果的な抵抗を鼓舞するのが普通である。ウクライナはその典型であり、戦争犯罪やその他の残虐行為を行う軍隊は歓迎されないということを、この戦争は教えてくれている。この教訓も前面に押し出しておくとよいだろう。

4の教訓は、プーティンはこれを軽視したようだが、明白な侵略は他国を警戒させ、それに対抗する措置を取らせるということだ。もしロシア大統領が、2014年のクリミア奪取に対する比較的穏やかな反応から、2022年の侵略に対して外部勢力はほとんど反対しないと考えたとしたら、彼は、アドルフ・ヒトラーが1939年3月にチェコスロヴァキアの一部を奪取し、その数ヵ月後にポーランドを追ったときと同じ誤りを犯したことになる。バランスを重視する行動は時に非効率的であり、国家はしばしば他国にその責任を転嫁しようとするが、直接的な侵略に直面した場合、効果的なバランスを重視する行動ははるかに起こりにくくなる。一極集中時代のアメリカの冒険主義(adventurism)が、ある国によるソフトバランシング(soft balancing)と他の国によるハードバランシング(hard-balancing)を引き起こし、こうした力学(dynamics)がアメリカの大きな野望を阻止するのに役立ったことを考えれば、私たちはこのことを理解しなければならない。私たちはこの教訓も覚えておくのが賢明であろう。

これら4つの教訓を総合すると、ウクライナで勝利しても、アメリカが世界秩序を思い通りに再構築できる状況にはないことが分かる。中国の台頭、ヨーロッパの経済的脆弱性、発展途上の多くの国々のアメリカに対する二律背反的な態度などを考慮すると、そのような目標は一極支配の最盛期には手の届かぬものであり、全体としての条件は不利なものとなっている。もしアメリカの政策立案者たちがウクライナの勝利を世界規模のリベラル派の聖戦の新たな機会として捉えるならば、再び失敗する運命にある。

むしろ、ウクライナでの成功は、過去50年以上にわたるアメリカの大戦略(grand strategy)を注意深く振り返り、どのアプローチがうまくいき、どのアプローチがうまくいかなかったかを明らかにするきっかけとなるはずである。以下、簡単に振り返ってみよう。 

アメリカの軍事力は、冷戦時代にヨーロッパや北東アジアで行われたように、真の大国のライヴァルに対して強力な抑止態勢を構築するために用いられた場合に有効であったが、「巻き返し(rollback)」や政権交代を目的としたあからさまな努力は避けなければならなかった。このような努力は、強力で有能、かつ正当なパートナーがいる場合には成功したが、不人気で弱く、無能な従属国(client)を支えようとする場合には、あまりうまくいかなかった。アメリカの軍事力は、1991年の湾岸戦争や今日のウクライナのように、いわれのない不法な侵略に対抗する場合には効果的な手段であった。しかし、外国政府を倒し、銃口を向けて民主政治体制を押し付けるために使われた場合は、特に信頼できる現地パートナーがいない場合には失敗した。そのような取り組みが短期的には成功しても(1953年のイラン、2001年のアフガニスタン、2003年のイラク、2011年のリビアなど)、長期的な結果はほとんど常に否定的であった。

より広く言えば、アメリカの外交政策が最も良く機能したのは、国家の相違を認め、地球上の全ての国家がアメリカの政治的価値を受け入れなければならないと主張せず、主として他の国々がそれぞれのペースで、それぞれの方法で具体例を示すことによって民主政治体制を推進した時であった。アメリカの指導者たちが、アメリカ流の自由民主政治体制(liberal democracy)を政治的・経済的成功のための魔法の公式(magic formula)と考え、全ての人間が他の全ての価値よりも自由と解放を切望すると仮定し、アメリカとは大きく異なる国々で「国家建設(nation-build)」を行う方法を知っていると自負していた時には、失敗したのである。

アメリカの対外経済政策は、社会的・経済的安定に十分配慮しつつ、より大きな開放性を奨励しようとした時に成功した。故ジョン・ラギーが古典的な論文で示したように、第二次世界大戦後の「埋め込まれた自由主義(embedded liberalism)」という妥協案は、貿易と成長を奨励する一方で、国内の人々をグローバル化の最も深刻な影響から隔離し、そうした政策の成功例の1つであった。アメリカの対外経済政策は、1930年代のように保護主義(protectionism)に逆戻りした時、あるいは超グローバリズムの新自由主義戦略のように、市場を他の全ての考慮事項より優先させた時に失敗したのだ。後者の場合、政治的に爆発的な不平等が生じ、大規模な金融危機が発生し、サプライチェインは予期せぬショックに対しては脆弱であることが証明された。

アメリカの外交政策は、マーシャル・プランの策定、ヨーロッパとアジアにおける印象的な同盟システムの構築、エジプトとイスラエルの和平交渉、経済パートナーとの貿易取引の成立、敵対国との安定的な軍備管理協定の追求など、外交を優先させることでより多くの成果を上げることができた。アメリカの交渉努力は、他国にも自国の利益があり、成功する取引は全ての参加者にとって価値あるものでなければならないことをアメリカの指導者たちが認識したときに成功する。これとは対照的に、アメリカが真の外交を放棄し、取るか取られるかという単純な思考で交渉する場合、アメリカの努力は失敗してきた。最終通告を行い、制裁を強化するような場合、相互の有益な妥協を否定することになる。

ウクライナでの勝利は、それが実際に起こると仮定しても、旧ソ連帝国の崩壊のような重大な出来事にはならないだろう。なぜなら、中国は1990年代よりもはるかに強くなっており、ウクライナ戦争もその事実を変えることはないからだ。ウクライナの勝利は、アメリカ国内の政治的分極(political polarization)の機能不全を解消するものではない。むしろ、より穏やかな外部環境は、国内での分断を助長し、アメリカが多様で複雑な世界のあらゆる地域の政治を管理・指導する能力を魔法のように手に入れることはないだろう。

実際、ウクライナと西側諸国が勝利した場合、ロシア軍がウクライナ国境を越える前と同じ外交政策上の課題リストに直面することになる。それらの課題とは、(1)破滅的な気候変動の回避と既に顕在化している深刻な影響への対処、(2)中国とのバランスと関与、(3)イランの核武装阻止、(4)低迷する世界経済の管理、(5)次のパンデミックに対する世界の備えなどである。これらの重要な目標を達成するためには、明確な優先順位を設定し、奇想天外な聖戦(quixotic crusades)を避けることが必要である。ウクライナのタカ派が勝利の階段を上るのを止めることはできないが、彼らが西側諸国を過去の過ちの繰り返しに導かないようにすることが肝要である。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回はアメリカのネオコン内の「名家」ケーガン一族の次男フレデリック・ケーガンの論稿をご紹介する。ケーガン一族はネオコンの「名家」ということになる。まず父親のドナルド・ケーガン(Donald Kagan、1932-2021年、89歳で没)がネオコンの第一世代ということになる。父ドナルドはコーネル大学やイェール大学で教鞭を執った歴史学者(専攻はギリシア古代史)だ。ドナルドはリトアニア生まれのユダヤ人であり、1970年代まではリベラル派であったが転向した。これはネオコン第一世代の特徴である。トロツキー主義から反共主義へと転向し、対外的には対ソ強硬路線、国内的にはリベラルな政策志向というのが特徴だ。対ソ連、対ロシア強硬というのはドナルドがリトアニア出身のユダヤ人ということも影響しているだろう。リトアニアは歴史的にポーランドと近く(同君連合を形成していた時期も長かった)、その影響もあり、ロシアに対しては複雑な感情を持つ人々が多い。ネオコンについては拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)を是非読んでいただきたい。

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ドナルド・ケーガン

 ドナルドにはロバート・ケーガンとフレデリック・ケーガンという息子たちがいる。彼らは現在のネオコン派の論客ということになる。ブルッキング研究所研究員である長男ロバート・ケーガン(Robert Kagan、1958年-、63歳)について、私は早い段階で『アメリカが作り上げた“素晴らしき"今の世界』(ビジネス社)という著書を翻訳して日本に紹介した。ケーガンは1997年に発足した「アメリカ新世紀プロジェクト(Project for the New American Century)」というネオコン系のシンクタンクの共同設立者であり、現在も理事を務めている。

ロバート・ケーガンは2001年の911同時多発テロ事件後に軍事力でテロを抑え込み、イラクとアフガニスタンの体制転換を図ることを狙ったジョージ・W・ブッシュ政権下のアメリカとそれに批判的なヨーロッパ諸国を対比させて、「火星人と木星人」ほども違い、お互いに理解ができない存在になっているとし、ヨーロッパ諸国を非難した。これが大きな議論を呼んだ。現在のウクライナ戦争について米欧は一致して行動しているが、これはロバート・ケーガンにとっては何とも望ましい状態ということになる。

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ロバート・ケーガン

ロバート・ケーガンの配偶者ヴィクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland、1961年-、60歳)についてはここではもう詳しく書かない。現在は国務省序列第3位の政治問題担当国務次官の地位にある。このブログの記事についているタグでヌーランドに関する記事を検索してお読みいただきたい。

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ヴィクトリア・ヌーランド

さて、今回ご紹介するのはロバートの弟フレデリックの論稿である。アメリカン・エンタープライズ研究所研究員を務めるフレデリック・ケーガン(Frederick Kagan、1970年-、52歳)もまたネオコンの論客である。フレデリックはウェストポイントにあるアメリカ陸軍士官学校の戦史担当の教授を務めた経歴を持つ。フレデリックは2010年に国際治安支援部隊(ISAF)司令官兼アフガニスタン駐留アメリカ軍司令官に任命されたデイヴィッド・ペトレイアスから政治腐敗担当の顧問に任命された。以下の論稿にあるように、NATOの対ロシア方策の強化を訴えてきた。

フレデリックの配偶者キンバリー・ケーガン(Kimberly Kagan、1972年-、50歳)は、2007年に自ら戦争研究所(Institute for the Study of War)というシンクタンクを立ち上げ、現在も所長を務めている。このシンクタンクは毎日ウクライナ戦争に関するレポートを発表し、所属している研究員たちは活発にマスコミに出て発言を行っている。キンバリーも2010年からアフガニスタン駐留アメリカ軍司令官となったペトレイアスの顧問を務めた。

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イラク訪問時のフレデリックとキンバリー

 ケーガン一族については、2022年4月8日にインターネット上で発表されたエマニュエル・トッドの『文藝春秋』に掲載された記事(有料)でも言及があり、トッドはキンバリー・ケーガンが所長を務める戦争研究所が発表している分析(これが西側マスコミの報道でも使われている)について、その内容に疑義を呈している。

 このブログでも繰り返し指摘しているように、現在の状況はネオコンにとって非常に好ましい状況となっている。しかし、それは世界にとっては大きな不幸ということになる。

(貼り付けはじめ)

ロシアと戦うウクライナをアメリカはどのように支援しているか(How the US is helping Ukraine fight Russia

ジョーダン・ウィリアムズ筆

2022年3月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/596824-how-the-us-is-helping-ukraine-fight-russia

アメリカは過去1年間、ウクライナ軍を支援するために10億ドル以上を供与し、ロシアによるウクライナに対する1週間にわたる戦争が続く中、更なる支援を約束している。

アメリカ政府は、最新の防衛支援(package of defensive aid)の一部として数百発のスティンガーミサイルを送ったと伝えられている。一方、ホワイトハウスは水曜日、ウクライナに対する安全保障、人道、経済支援として更に100億ドルを承認するよう議会に求めた。

しかし、戦争が進むにつれて、アメリカは支援をどのようにウクライナに届けるかについての戦略を変更しなければならないし、安全保障と人道的援助を通じてウクライナがより長期的な紛争を生き残るのを助ける方法を評価しなければならないだろう。

バイデン大統領は過去6カ月間に3度、立法府の承認なしに大統領が不測の事態に対応できる権限である大統領権限を行使している。

バイデン大統領がこの権限を最近使う機会となったのは2月26日に3億5千万ドルの安全保障支援を承認したことだ。

政治・軍事問題担当国務次官補ジェシカ・ルイスは木曜日に連邦下院軍事委員会に出席し、支援パッケージには、一人で持ち運び発射できる、ジャヴェリン対戦車ミサイルが含まれていると述べた。

アメリカン・エンタープライズ研究所のクリティカル・スレッツ・プロジェクト(Critical Threats Project)のフレデリック・ケーガン部長は、「ジャヴェリン対戦車ミサイルはおそらく、アメリカがウクライナに提供できる最もインパクトのある武器だろう。それは、ジャヴェリン対戦車ミサイルは待ち伏せや様々な状況において個人で使用でき、かなり確実にロシア戦車を倒せるからだ」と語った。

アメリカはまた、ウクライナに数百のスティンガー対空ミサイル防衛システムを送ったと伝えられている。このシステムは、地上軍が空中の標的を撃つために配備することができる。

ケーガンは、対空システムでロシアの航空機を落とすのは難しいが、「ロシアのヘリコプターにとっては絶対に悪夢になる」と述べた。

アントニー・ブリンケン米国務長官は水曜日、アメリカは二国間パートナー協定を結んでいる諸国と協力してウクライナに防衛用装備を急いで送るようにし、そうした装備はロシアと戦う部隊に届けられつつあると述べた。

しかし、ロシアが侵攻を続ける中、ウクライナに追加の装備を送ることは難しくなるだろう。

時間的な制約もあることから、ウクライナ軍は、すぐに訓練できる武器、つまり弾薬やジャヴェリン対戦車ミサイル、スティンガー対空ミサイルといった武器を必要とするだろう。

「戦略国際問題研究所(CSIS)の国際安全保障プログラムの上級アドヴァイザーであるマーク・カンシアンは、「これは、非常に短期間に集中しなければならないので、私たちが提供できる支援には大きな制約がつくことになる」と述べた。

カンシアンは「現代の戦争では弾薬が大量に消費されるため、時間が経つにつれて、より多くの弾薬が提供されると思う。それは、現代の戦争は弾薬を大量に使うが、軍隊は通常そこまでの弾薬を貯蔵していないからだ。従って、私たちは弾薬のような武器を提供することになるだろう」と述べた。

アメリカは、紛争状態によりウクライナ領空を直接飛行機で飛ぶことができないため、兵器の運搬方法も考え直さなければならない。しかし、小型の兵器システムであれば、地上輸送(ground transportation)で送ることができる。

国防総省に勤務した経験を持ち、現在は大西洋評議会に所属するリー・ショイネマンは、安全保障上の支援を届けるために使われている地上ルートの一部は、紛争から逃れようとするウクライナ人の退避にも利用されていると指摘する。

ショイネマンは「アメリカ軍ほどロジスティクスが得意な国はない。現在、連邦議会で検討されている支援計画について話す時、その支援が実際に国に届く必要があるように、私たちはこれらの重要な陸路を維持するのを助けることができる」と述べた。

バイデン政権は、過去数ヶ月の間にNATOの東側陣地を強化するためにおよそ15千人の軍隊を送ったが、紛争に直接アメリカ軍を送らないことを明確に表明している。

ウクライナ領空に飛行禁止区域を設けるというアイデアは、ワシントンでは却下された。不幸禁止区域を設定すれば、アメリカ軍がロシアの航空機を撃墜する可能性があり、事態が急速にエスカレートする懸念が高まるからだ。

複数の専門家によれば、アメリカ軍を直接紛争に投入しないが、ウクライナがロシアの侵攻に対抗するためには、まだ他の選択肢があるということだ。

カンシアンは「戦争が長引く場合、他にできることがあるはずだ。ウクライナ国外にいるウクライナ人を訓練することもできる。新しいタイプの装備の導入も考えられるが、それは戦争が何カ月も続けばの話だ」と述べた。

ウクライナの人々が戦争に対処できるように、食料、医薬品、燃料の供給などの人道支援を送ることも同様に重要だろう。

ケーガンは「ウクライナ人に武器を届けることに注力する一方で、紛争を乗り越え、ウクライナ人に必要なすべての生命維持装置を届けることにも注力する必要があると思う」と述べた。

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プーティンは世界を変えてしまった。そして、アメリカはそれに適応するか負けるかだ(Putin has changed the world — and the US must adapt or lose

フレデリック・W・ケーガン筆

2022年2月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/595304-putin-has-changed-the-world-and-the-us-must-adapt-or-lose

ウラジミール・プーティンは、私たちが知っている冷戦終結後の世界を根本的に変えてしまった。

冷戦後の秩序は、ロシアの通常兵器による深刻な脅威が存在しないことを前提に構築された。アメリカの軍事態勢、NATOの軍事費と配備、戦争計画、国家安全保障戦略は、30年間にわたり、ヨーロッパにおける大規模な通常兵器による紛争のリスクを想定してこなかった。

今日、ウクライナの周辺やウクライナに進出している何千台ものロシア軍の戦車は、その前提を足元から打ち砕いているのである。アメリカとNATOは、国家安全保障戦略、防衛予算、配備を根本的にそして長期的に考え直さなければならない。

プーティンはこの10年間、ロシアの通常戦力を再構築するために多額の資金を投入してきた。ロシアが経済的に困窮しているにもかかわらず、これほどまでに軍事費を投入するのは、武力のために国民の幸福を犠牲にするソ連的な意思(Soviet-like willingness)を示すものだ。このプロセスは、2008年のグルジア侵攻におけるロシア軍の不振の後に始まり、過去数年間で劇的に加速した。ロシア軍の地上部隊は、大規模な機動戦を行えるように再編成された。プーティンは全軍をより近代的な装備になるように再整備している。最も重要なことは、ロシア軍は年に数回、陸海空、核、サイバー軍を含む大規模な軍事演習を予告なしに定期的に行っていることだ。このような演習は非常にコストがかかる。また、軍隊を戦争に備えるために不可欠なものでもある。

プーティンは、ベラルーシ軍のロシア軍への事実上の編入を完了し、ロシア軍をポーランドとベラルーシの国境に移動させることによって、ロシア国境を300マイル西に静かに移動させたことになるのだ。ロシアはすでにカリーニングラード外郭(Kaliningrad exclave)にあらゆる種類の軍隊を多く集中させ、ポーランドとリトアニアの両国に脅威を与えていた。この飛び地はロシアの他の地域から孤立しているため、これらの軍隊を使ってNATOを攻撃することは考えにくく、非常に危険なことだった。カリーニングラードから攻撃するロシア軍は、ベラルーシからの迅速な増援を期待できるようになり、ポーランド、リトアニア、あるいはその両方への挟撃が考えられるようになったのである。

プーティンは、NATOの境界付近にいる部隊だけでなく、NATOを脅かすために全軍を動員する能力を実証している。彼は、ロシアの極東と中央アジア地域から何万人もの軍隊を移動させ、ポーランドとウクライナの国境に駐留させている。太平洋からベラルーシまで、これほど多くの軍隊を移動させたことは、西側諸国が受け取り、対応しなければならないメッセージである(繰り返すが、非常にコストがかかるものである)。NATOに対するロシアの通常兵器による脅威は、大きく、現実的で、永続的である。

プーティンは、今回の危機における要求の中で、NATOに別のメッセージを送っているが、その中でウクライナに言及しているのは一部だけだ。プーティンは、冷戦終結後にNATOに加盟した国々、つまり東欧とバルカン半島から軍事インフラをすべて撤退させるようNATOに要求している。NATOの拡大凍結は、少なくとも旧ソ連諸国全体に対する宗主権(suzerainty)という大きな要求に包含されている。彼はまだバルト三国に同盟からの脱退を要求していないが、彼の動きをけん制しなければ、そこまで要求をエスカレートさせる可能性がある。

プーティンの最終目的について言えば、ヒトラーについて推測する必要があったのと同じように、疑うべくもないものだ。プーティンは、NATOを破壊し、アメリカをヨーロッパから追い出し、ソ連の勢力圏を再確立するつもりだと、いつ私たちに示唆している。

冷戦後のNATO加盟国に関するプーティンの要求は、彼がその勢力圏を旧ソ連の国境にとどまるものとは考えていないことを強く示唆している。彼は、NATOが現在東側加盟諸国に保有している軍に真剣に挑戦し、場合によっては打ち負かすことができる軍を構築するために膨大な資金を投入してきた。

ウクライナで何が起ころうとも、この脅威を真剣に受け止め、それが何事もなく過ぎ去ってしまうことはないと理解するための時は、遅きに失した感は否めないが、それを理解する時とはまさに今だ。

アメリカは国家安全保障と国家防衛に関するこれまでの戦略草案を破り捨てることから始めるべきだ。中国は1つの脅威であるが、ロシアは別の脅威である。この2つの脅威は大きく異なる課題を提起し、それらに対応するためには異なる要件を課すことになる。

プーティンは従来の機械化部隊を再現し、大規模に使用する意思を示した。そうした状況下で、アメリカは、現在の文書や予算が提案するような、従来の機械化戦争に必要な戦力から太平洋での戦闘に不可欠な航空・海軍戦力に転換することはできないということが明らかになった。アメリカ軍は、ロシアのような「レガシー」軍隊による大規模な攻撃を打ち負かす能力の再建を犠牲にして、中国が提起している課題である近代化に注力することもできないのである。

アメリカはまた、ヨーロッパでの迅速で前例のない攻撃に備えて、軍の態勢を再構築しなければならない。2000年代に始まった、ほとんどのアメリカ軍機械化部隊のヨーロッパからアメリカへの撤退は常に誤りであった。アメリカとヨーロッパの間には大西洋が存在し、起こりうる紛争を抑止することが難しくなった。現在の状況下でその誤りを続けることは許しがたいことである。アメリカは、NATOに対するロシアの攻撃を事実上予告なしに阻止するために必要な規模で、ヨーロッパに大規模な部隊を恒久的に再配置する必要がある。世界最先端の防空・防波堤システムを突破するために必要なステルス機やその他の航空・海事資産をヨーロッパにおいて維持しなければならない。

同時に、アジアでの前方展開を強化し、中国の侵略を抑止し、必要なら打ち負かすために緊急に必要な空・海・陸軍を増強し、中国の技術的進歩に対応し、それを上回るよう近代化する必要がある。さらに、アメリカは中東、アフリカ、南北アメリカ大陸に依然として重要な国家安全保障上の利益を有している。アメリカは、冷戦終結後初めて、広く分離した複数の戦域で同時に戦い、勝利する能力を再構築する必要に迫られているのだ。

当然のことだが、それはアメリカだけではできない。NATOは軍事費を大幅に増やし、東側諸国の防衛のために通常戦力を再配置しなければならない。NATOは、東方からの主要な通常兵器の脅威を阻止し、防衛するという本来の目的を再認識しなければならない。プーティンが冷戦を復活させ、鉄のカーテンを再び打ち立てようとしていることを認識する必要がある。

これらの提案は、費用がかかり、不人気なものになるだろう。アメリカ人もヨーロッパ人も、どこでもいいからとにかく戦いたいとは思っていない。軍拡競争も、戦争も、冷戦も、熱戦も好んでいる訳ではないのだ。

しかし、私たちは現実を直視しなければならない。戦争をするのは1人であり、2人ではない。プーティンは、自分が望むものを得るためには戦うことを避けるようなことはしないと示した。彼が望むものは、70年以上にわたってヨーロッパの平和を守ってきた西側同盟の破壊である。私たちは、それを守るために戦う意志を持たなければならない。そして、そのための代償を払う意志も持たなければならない。

※フレデリック・W・ケーガン:「クリティカル・スレッツ・プロジェクト」の部長、ワシントンにあるアメリカン・エンタープライズ研究所の常勤研究員を務めている。また、戦争研究所のロシア専門ティームに助言を行っている。

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NATOは今すぐ東側陣地を強化せねばならない(NATO must reinforce its Eastern flank right now

フレデリック・ケーガン、ジョージ・バロス筆

2022年1月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/591008-nato-must-reinforce-its-eastern-flank-right-now

現在ベラルーシに進出しているロシアの機械化部隊は、ウクライナだけでなく、NATOに対しても直接的に脅威を与えている。アメリカと同盟諸国は、ロシアによるウクライナ侵攻の明白な準備に注目し、モスクワを抑止しようとするのは当然の動きだ。ベラルーシ南東部の陣地に移動するロシア軍は侵略の準備をしている可能性があり、西側諸国はその文脈で対応する必要がある。しかし、ロシア軍はワルシャワから約100マイル以内のポーランド国境やその付近、リトアニア国境付近にも陣地を構えている。 このような場所への配備は、ウクライナ侵攻計画の一環としてはほとんど意味をなさない。しかし、ポーランドに対するロシアの脅威を劇的に増大させ、NATOがバルト諸国を防衛する能力をさらに低下させることになる。アメリカと西ヨーロッパの同盟諸国は、ロシアがウクライナを攻撃するか否かにかかわらず、同盟に対するこの脅威に対応しなければならない。

7個から10個の機械化大隊(2個から3個の旅団に相当、兵力は4200人から9000人)がロシア極東からベラルーシに移動している。また、ロシアの最新鋭防空システムS-400の2個大隊と最新鋭戦闘機Su-35 12機もベラルーシに配備された。ロシア国防省は、これらの部隊は2月中旬までベラルーシで演習を行うと発表している。演習は主にブレスト(ポーランド国境)、バラノビチ(ブレストの北東)、グロドノ(リトアニアとポーランド国境付近)、ミンスク付近の訓練場で行われるとされる。これらの地域はウクライナ侵攻に最適な場所ではないが、バラノビチはロシア軍が攻撃の準備をするのに適した後方基地である。しかし、ベラルーシ南東部にはすでにロシア軍の一部が出現しており、発表された訓練地から遠く離れ、ウクライナ侵攻に理想的な立地の1つとなっている。つまり、ロシア新軍はウクライナとNATOの両方を同時に脅かしている。

ロシアのベラルーシへの進出は、突発的なもの(spur-of-the-moment)でも、日和見的なもの(opportunistic)でもない。プーティンが何年も前から進めてきた長期計画の一部であり、だからこそ我々は何カ月も前から予測してきた。プーティンは少なくとも2015年から、ベラルーシに軍事空軍基地を開設する意向を示してきた。ロシアは、ベラルーシとの合同演習の強化を通じて、少なくとも2020年9月からベラルーシに戦力を投射する準備を進めてきた。また、ロシア軍は、燃料や弾薬などの必需品をベラルーシの近くで供給するなど、ロシア軍をベラルーシに投入するために必要な兵站や指揮統制のリハーサルを行ってきた。

ここ数年、ベラルーシで演習するロシアの地上軍は、プーティンがS-300防空システムとロシア航空機を常駐させてベラルーシで共同航空パトロールを行い、2021年8月にベラルーシに共同訓練センター(航空基地)を開設したが、いつもロシアに帰っている。今ベラルーシに移動している部隊も、はっきり言って帰国するかもしれない。しかし、プーティンがベラルーシに軍隊を常駐させることに対するベラルーシの政治的制約をついに克服したため、彼らは今回留まるかもしれないし、急速に他の軍隊に取って代わられるかもしれない。

プーティンとベラルーシのアレキサンドル・ルカシェンコ大統領は、ベラルーシがロシアとの連合国家の一部となるための条件を20年以上にわたって交渉してきた。ルカシェンコ大統領は、モスクワからの独立の名残を保とうと、このプロセスを引き延ばしてきた。しかし、2021年11月、ルカシェンコはついに、ロシアとベラルーシの共同軍事ドクトリンの改訂を含む、これまで引き延ばしてきた協定の全て、あるいはほとんどを批准した。また、2021年12月末には新憲法草案を発表し、今年2月に採択される可能性が高い。新憲法は、ベラルーシの中立を約束し、ベラルーシに核兵器を駐留させることを禁止する2つの重要な条項を現行憲法から削除している。ベラルーシのロシアとの政治的・法的統合は、ここ数カ月で急速に完了に向かって進み、ベラルーシにロシア軍を恒久的に配備するための条件が整った。

こうした活動は全て、ウクライナへの侵攻を脅かすロシアの積極的な準備よりずっと前に、ロシアが長年にわたって行ってきた入念な計画と努力の結晶である。プーティンが単にチャンスを掴むだけでなく、長期にわたって首尾一貫した戦略を構想し、追求する能力を備えていることを示すもう一つの例である。そして、プーティンは常に、ウクライナだけでなくNATOを脅かすことを意図している。

ベラルーシにロシア軍が地上軍を展開することによるポーランドとバルト三国への脅威は、私たちが他の場所で論じたように、非常に深刻だ。NATOはこの脅威に対して緊急に対応しなければならない。アメリカ、カナダ、西ヨーロッパのパートナー諸国は、ポーランド北東部と東部への機械化部隊の配備を直ちに開始し、それらの部隊を無期限に維持する準備をしなければならない。

NATOがロシアのウクライナ侵攻に軍事的に対応しない場合、部隊と戦闘車両の移動だけでは、NATO最東端の加盟国に同盟が引き続き防衛する意思と能力があることを安心させるには十分ではないだろう。

また、今ポーランドに軍を配備することは、軍事的脅威に対するアメリカの軍事的対応を考慮する意思を示すことで、プーティンのウクライナでの冒険主義を抑止するのに役立つ。また、プーティンがウクライナを攻撃すればコストを負わせると脅すだけでなく、危機を長引かせることでプーティンに実際のコストを負わせることで、これまでのアメリカとNATOの危機対応のもう1つの弱点を緩和することができるだろう。

2022年1月19日のバイデン大統領の発言を受けて、具体的な行動が急がれる。NATOの東側陣地を強化することは、プーティンの冒険主義を止め、NATOとウクライナを守るには十分ではないが、必要な次のステップとなる。

※フレデリック・W・ケーガン:ワシントンにあるアメリカン・エンタープライズ研究所クリティカル・スレッツ・プロジェクト部長兼常勤研究員。戦争研究所(インスティテュート・フォ・ザ・スタディ・オブ・ウォー、ISW)においてロシア担当ティームに助言をしている。

※ジョージ・バロス:戦争研究所ロシア・ウクライナ研究の研究員。戦争研究所に参加する前、連邦下院外交委員会の委員に対するウクライナとロシア専門補佐官として連邦下院に勤務した。ツイッター:@georgewbarros.

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ウクライナで何が起きているのか、なぜそれがアメリカと同盟諸国にとって重要なのか(What's at risk in Ukraine, and why it matters to America and its allies

フレデリック・ケーガン

2021年12月7日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/584646-whats-at-risk-in-ukraine-and-why-it-matters-to-america-and-its

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ国境付近に侵攻軍を集結させたが、それを使うつもりはさらさらないようだ。しかし、プーティンはウクライナ国境付近に侵攻軍を集結させている。バイデン政権とNATOは、プーティンを抑止するために必要な声明を出し、いくつかの軍事行動を起こしたが、西側諸国のコミットメントは依然として曖昧なままである。

そうであってはならない。アメリカ人とヨーロッパ人は、ウクライナの独立が、私たちにとってもウクライナにとっても極めて重要であることを理解し、ウクライナの独立が保持されるように行動しなければならない。それがプーティンを抑止する最良の方法でもある。

1991年のソ連崩壊後、ウクライナとベラルーシが独立したことで、ロシアの国境は数百マイル東に移動し、ロシアと中欧の間に事実上の緩衝地帯(a de facto buffer)が形成された。アメリカとヨーロッパはこの緩衝地帯を頼りにして軍備を大幅に縮小してきた。

しかし、ロシアがウクライナを占領する場合、ポーランドとルーマニアの国境にロシアの深刻な通常兵器の脅威が再び出現し、ヨーロッパの戦略的状況は一変する。NATO諸国は再動員され、これらの国境に大規模な軍隊を配備する必要がある。黒海はロシアの湖と化し(Black Sea into a Russian lake)、トルコ(問題はあるにせよ、依然としてNATOの同盟国である)への圧力が高まるだろう。アメリカ、ヨーロッパ連合、NATONATOの東側諸国を防衛する意思に重大な疑問を投げかけることになる。ウクライナの4500万の人口と重工業基盤(heavy industrial base)がロシアに加わることになる。そして、中国や他の略奪者たちに西側の弱さを示す壊滅的なシグナルを送ることになる。特に、アメリカがアフガニスタンから不名誉な撤退をした後ではそうである。

プーティンのウクライナに対する脅威は、ベラルーシを着実に吸収していることを背景にしている。プーティンは既にロシア軍をベラルーシに戻し、更に多くのロシア軍を送り込もうとしている。ポーランドとリトアニアは、NATOのバルト諸国と他の同盟諸国を結ぶ唯一の地上連絡線である重要なスウォーキー回廊(Suwalki Corridor)の近くで、ロシアの機械化部隊に直面することになりそうだ。更にロシアがウクライナを支配すれば、ポーランドやルーマニアにさえも存亡の危機が訪れるだろう。このような危機には、新たな鉄のカーテン(Iron Curtain)となり得る場所に、アメリカとヨーロッパの地上・空軍を大規模に展開することでしか対応できないだろう。

欧米諸国がウクライナ防衛に対して曖昧な態度を取らざるを得ないのは、ウクライナの独立国家としての存在意義に対する混乱が一因である。ロシアのプロパガンダや専門家の一部が、ウクライナがロシアから独立していることの「社会文化的」根拠、少なくともウクライナ東部がウクライナ一国に含まれることの「社会文化的」根拠を疑問視している。しかし、主権国家はその社会文化的独自性(socio-cultural uniqueness)を証明する義務はない。国際社会と国連に無条件で承認されれば、いかなる国家も、それがどんなに小さく、弱く、文化的に他の国家と似ていても、他の国家と同じ主権的権利を持つ。

ウクライナは30年前に現在の国境(クリミアと東部を含む)内において独立国家として、当時独立したばかりのロシア連邦にも承認されたのである。ドイツがフランスからアルザスやロレーヌの返還を要求したり、チェコ、オーストリア、ポーランドに住むドイツ系住民を守る権利を主張したりしたのと同様、ロシアがウクライナの一部の返還を主張する法的根拠はない。他国の領土に対するロシアの特別な権利の主張に同意することは、全ての国の主権を損なう。それは、世界をホッブズ的な状態に戻そうとする国際的な捕食者(international predators)を招き入れることになる。

ウクライナ国境付近へのロシアの配備は防衛的な性格のものではなく、侵略の恐れがある。ウクライナはロシアにとって軍事的な脅威ではない。プーティンは、ウクライナ政府が自国の領土であるロシア占領下のドンバス地域への侵攻を準備していると誤った主張をしている。しかし、欧米の議論では、キエフがドンバス奪還に動いたとしても、ロシアには対応する権利があるという、同様に誤った根拠を受け入れることが多い。この問題におけるロシアの想定される権利は、2014年にロシアがクリミアを掌握・併合して始めた紛争を凍結し、その後ドンバスへの暗号侵攻と占領を開始したミンスクII協定に由来している。プーティンは、ウクライナが奪ったものを取り戻すのを阻止する権利を主張している。なぜ西側諸国はその主張を尊重しなければならないのか?

状況は実にシンプルだ。ロシアは2014年にウクライナに侵攻し、その一部を併合し、代理人を通じて別の一部を占領し、そして今、残りの国土に対して更なる侵略をすると脅している。

本当に困ったことに、西側諸国はこの戦いに対して気迫がなくかなり困難な状況にある。

プーティンはウクライナの近くに十分な戦力を集めており、ほとんど予告なしに侵攻を開始することができる。アメリカ地上軍の大半がヨーロッパから撤退し、ヨーロッパ自体の軍事力が低下しているため、ロシアの侵攻を阻止するために西側諸国の機械化部隊を展開することは不可能である。そのため、NATOはウクライナの持つ防衛力、あるいはNATOが共有する意思のある防衛力に主として依存することになる。NATOの航空戦力やミサイル戦力を利用するにしても、ロシアの高性能な防空システムには問題がある。NATOは、ロシアの攻撃を阻止するために、艦船や潜水艦発射のミサイルとともに、多くのステルス航空機を配備しなければならないだろう。

航空戦力だけではその攻勢を止めることはできないだろうが、ロシアの軍隊に多大な犠牲を強いることができる。そこに、そもそも攻撃を抑止するための鍵がある。

ロシアは貧しい国で、実のところ、経済が機能していない。泥棒経済(kleptocracy)が確立されている。ロシアのGDPはアメリカやヨーロッパの10分の1以下、NATO諸国合計の20分の1以下である。西側諸国は、戦闘で失われた高価な兵器システムも交換する余裕があるが、ロシアにはない。プーティンはそれを知っている。

ロシアの軍事ドクトリンは、軍隊が動員されたNATOに対してロシアは通常戦争で勝てないという前提のもとに成り立っている。プーティンは、NATOがウクライナ防衛のためにそのような戦争をしないだろうと考えているが、このことは彼が侵略を考える上で重要な要素となる。この信念を、NATOは本当に戦ってくれるという確信に置き換えることが、プーティンを抑止する鍵である。

バイデン政権とNATOは、この方向でいくつかの重要なステップを踏んだが、さらに多くのステップを踏まなければならない。キエフにミンスク協定を守らせる必要性について、侵略の脅威を感じながら話すのは止めなければならない。このような状況でウクライナ国内の問題解決について議論することはないのだということをプーティンに明確に伝えなければならない。プーティンに侵略の代償を示すために、航空機を配備し、艦船を配備し続けなければならない。そして、プーティンが攻めてきた時にウクライナを守れるかどうかの不安を払拭しなければならない。

プーティンは、こうした行動はすべて挑発(provocations)だと主張するだろう。それは侵略者や独裁者がよく使う言葉だ。しかし、NATOはロシアと同様に、自国の国境と領海内に軍を展開する権利を持っており、脅威を受けているパートナー国に防衛兵器を提供したり売却したりする権利も持っている。これらの活動は、攻撃を意図し、優位性を失うことを恐れる人間にとってのみ憂慮すべきものである。もし、それを行うことでロシアの侵攻を促すのであれば、ロシアの侵攻はすでに始まっているとも言えるのだ。

西側諸国は、侵略を「誘発する(provoke)」ことを恐れるよりも、ウクライナとロシアと中欧の間の重要な緩衝地帯(vital buffer)を失うことを心配することにもっとエネルギーを使わなければならない。国際システムの中核をなす原則を失い、世界が混沌に陥ることを心配しなければならない。

それらは今日のウクライナにおける重要な問題である。西側が戦う準備をしなければならない利害関係に関わる問題だ。

※フレデリック・ケーガン:ワシトンDCにあるアメリカン・エンタープライズ研究所クリティカル・スレッツ・プロジェクト部長兼研究員。『勝利の選択(Choosing Victory)』の著者でイラクにおける香華的軍事戦略の立案者となった。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 ネオコンという言葉はジョージ・W・ブッシュ(子)政権(2001-2008年)時代に日本でも知られるようになった言葉だ。私の師匠である副島隆彦先生が『現代アメリカ政治思想の大研究 <世界覇権国>を動かす政治家と知識人たち』(筑摩書房)でネオコンについて日本でほぼ初めて紹介したのが1995年で、2000年代に入ってネオコンという言葉が日本のマスコミで使われるようになって「何を今更」の感があった。今回のロシアによるウクライナ侵攻について、アメリカのネオコンの動きがあったということで、ヴィクトリア・ヌーランドの名前を挙げて説明している論稿もあるが、こちらもまた「何を今更」である。私は2012年に出した『アメリカ政治の秘密』でネオコン(共和党)とカウンターパートとして「人道的介入主義派(humanitarian interventionists)」(民主党)について詳しく説明した。ネオコンだけではなく、人道的介入主義派も危険だということは早い段階で指摘した。

 アメリカ政治に詳しい方なら「ネオコンは共和党のジョージ・W・ブッシュ政権の時にアメリカの外交政策と軍事政策を牛耳った人々ではないか。それが民主党のジョー・バイデン政権で重要な政策決定に関与できるのか」という疑問を持つだろう。だから大事なのは、民主党内のネオコンのカウンターパートである、人道的介入主義派なのである。今度は人道的介入主義派の出番ということになるのだ。ネオコンと人道的介入主義派は立場が近い。ネオコンの論客ロバート・ケーガン(共和党員)は2016年の大統領選挙で、ドナルド・トランプ当選を阻止したいと考え、民主党のヒラリー・クリントンの政治資金集めのためのパーティを計画したことがあった。アイソレイショニズムのトランプよりも党は違うヒラリーの考えの方が近いということになるのだ。

 昨年出版した『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』について、ありがたいことに最近になって評価をして下さる方が少しずつであるが増えてきている。私の主張や思考はとにかくシンプルで、バイデン政権とはヒラリー政権が4年遅れでやって来た存在に過ぎず、ヒラリーが当目である人道的介入主義派が多く政権に入ればそれだけ危険だということから思考を組み立てている。私のこれまでの著作を是非お読みいただきたい。

 バイデン政権はウクライナ戦争が勃発してから武器や物資の供与は行うがアメリカ軍が直接関与することは回避している。ウクライナの国土とウクライナ人の生命と財産が失われる状況でアメリカの軍需産業は大儲けをしている。その原資はアメリカ国民の血税であるが、日本人もまた高みの見物ということはできない。日本もまた相応の負担を強いられることになる。急速に進んだ円安とエネルギーコストの急上昇によって生活が苦しくなる一方であるが、それに加えて戦争税が課されることは間違いない。

 アメリカ国内でもアメリカ軍の直接的な関与を求める声が高まっている。そのためのキーワードが「戦争犯罪(war crime)」だ。ロシアによる戦争犯罪を裁く、もしくはウラジミール・プーティンを権力の座から引きずり下ろすためにはアメリカ軍が出張っていってロシア軍を破らねばならない。しかし、そんなことをすれば戦争は拡大し、エスカレートし、その行き着く先がどうなるか予想ができない。核戦争の可能性が大いに高まる。アメリカ国内も安全ということはなくなる。ネオコンと人道的介入主義派の動きは非常に危険だ。私たちは感情と思考を区別して置かれた状況でより賢い選択をするという思考ができるようにしなければ大きく騙されて大事な生命と財産を危険に晒すことになる。

(貼り付けはじめ)

バイデンにとっての最大のウクライナ問題はプーティンではない。それは戦争マシーンだ(Biden’s Biggest Ukraine Challenge Isn’t Putin, It’s the War Machine

-ウクライナ国境で軍事紛争が起きる場合、バイデン政権はアメリカによる介入を煽る応援団に抵抗しなければならない。

マイケル・トマスキー筆

2022年2月16日

『ニュー・リパブリック』誌

https://newrepublic.com/article/165380/ukraine-russia-neocon-media-war

ウラジミール・プーティンは手を引きつつあるのか? 火曜日の朝の『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ワシントン・ポスト』紙、『フィナンシャル・タイムズ』紙の見出しは、ロシアがウクライナ国境からいくつかの部隊を撤退させ、他の軍事演習が続いている間にも、そのことを伝えている。プーティンは今日、ドイツのオラフ・ショルツ首相と会談している。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、侵攻は水曜日に行われると一見警戒しているように見えたが、メディアを通過する際に訳がわからなくなった皮肉な発言であったことが判明した。とはいえ、アメリカ政府は一時的に米国大使館をキエフからより安全な西のリヴィウに移した。

このようにまだ明らかになっていないことは多いが、バイデン政権にとっての明確な最低ラインは明確になっている。それは、「戦争に行くな、以上(Don’t go to war. Period.)」だ。

今日のニュースが一時的な休息、あるいは策略であることが判明し、ロシアが侵攻した場合、ケーブルニュースは少なくとも数日間は侵攻の映像を流し続けることになる。ロシアの残虐行為やウクライナ市民の死が強調されることになるだろう。アメリカのネオコンとその一部の上院議員、特に民主党のロバート・メネンデスと共和党のマルコ・ルビオは、ドナルド・トランプの犯罪を謝罪していない時に侵略が進む場合、多くの放送時間を得るだろう。ちなみに、この最後の点は、主流メディアが民主政治体制(democracy)を失敗させている重要な点の一つである。外交政策について優れた演説ができる人物は、たとえ10年か20年の間全てを間違っていたとしても、テレビはその人物を専門家として任命する。

太鼓が鳴り、衣服が裂け始めるだろう。これを見よ! スターリンが再びやって来るぞ!これは民主政治体制の死だ。バイデンを見てみろ、何もしていない! アフガニスタン、そし

て今はウクライナ。そして、この展開を見ている中国が何を考えているか想像してみよう。

しかし、バイデンはこれら全ての誇大広告に対して毅然とした態度で臨まなければならない。バイデン政権はこれまで、ウクライナでいかなる状況が起きてもアメリカ軍を駐留させないという、見事なまでに明確な態度を示してきた。これは良いスタートだ。しかし、プーティンが引き金を引くようなことがあれば、政権も踏ん張らなければならない。

バイデン政権の立場は変わらないと思う。しかし、私は少しばかり神経質になっている。バイデンは連邦上院議員時代、ウクライナをNATOに加盟させることを支持していたが、私はいつもそれを恐れていた。バルト三国の場合はそうだろうが、そこでも私は疑問に思った。アメリカ国民の何%が、聞いたこともないエストニアの町(ナルヴァ)を守るためにアメリカ人の命が失われることを喜んで支持するのだろうか? 世論が外交政策を左右するべきだというわけではない。少なくともヒトラーが宣戦布告をするまでは、ほとんどのアメリカ人は第二次世界大戦でドイツと戦うことに反対していた。しかし、民主的に選ばれた指導者は、ある状況がなぜアメリカの介入を必要とするのか、アメリカ国民に説明しなければならない。ウクライナの場合、それは無理な話だ。

そう、そこにネオコンがいるのだ。ありがたいことに、彼らは2002年から2003年にかけてのイラク戦争のときのように電波を支配しているわけではない。昨年12月、フレデリック・ケーガンは『ザ・ヒル』誌に、アメリカは戦争マシーン(war machine)を強化する必要があると書いた。彼は賢いので「戦争」という言葉は使わなかったが、これらの文章はそのポイントを伝えている。そのポイントは次の通りだ。

・本当に問題なのは、西側諸国がこの戦いに対する気概(stomach)を持っていないことだ。

・空軍力だけでは攻勢を止めるのには十分ではない。

・ティーム・バイデンはプーティンがウクライナを攻撃した場合の防衛について不安を払拭しなければならない。

こうした人々は何事も学ばない。もっとありそうなのは、自分たちの世界観から学ぶべきことを学ぶということだ。つまり、もう少し強力な決意と火力があれば、そして宥和派からの干渉がもっと少なければ、今日の軍事介入は大成功だっただろうという風に考えるということだ。

しかし、私には、歴史的な大成功の記憶はない。その代わり、記録にあるのは、ヴェトナムとイラクの悲惨な泥沼(disastrous quagmires)である。また、軍事や情報諜報の観点から「成功」したとされる介入(interventions)も、広い意味では悲惨な結果に終わったものがほとんどである。1954年、私たちはイランで迅速なクーデターを起こしたが、その後どうなったか。私たちは冷酷な親米政権を設立し、イラン国民は1979年についにこれを追放した。この政権は、ネオコンの好戦によって、冷酷な反米政権に取って代わられ、世界的とは言わないまでも、恐らくすぐに核兵器能力を持つ地域大国に変貌することになった。イランが本格的に核開発を始めたのは、ジョージ・W・ブッシュがイランを「悪の枢軸(axis of evil)」の一部と烙印を押した後であることを思い出そう。

私はかつて、当時の流行語であった「人道的介入(human interventions)」というものをアメリカがうまくやってのけると信じたかった。当時、スーザン・ソンタグやクリストファー・ヒッチェンスといった人々が、血と土(blood-and-soil 訳者註:民族主義的なイデオロギーのスローガン)の暴君に対抗するために、西側はまだ始まったばかりの多民族民主主義を支援しなければならないという道徳的説得力を持つ主張をしていた。その中心となったのは1990年代のボスニアだった。当時のベイカー国務長官が議会で「私たちはこの戦いに関与しない」と発言したことに私は愕然とした。

ボスニアは、ある種の軍事介入が正当化されるケースだった。主にNATOの空爆が行われ、最終的には和平合意(peace accords)に至った。しかし、その10年後、ボスニアのような人道的介入になるという理由で、イラク侵攻を主張する人たちがいたことをよく覚えている。何だと? ある国に攻め込んで、その国の隅々まで作り直すことと、大量殺人者が別の国で大量虐殺を行うのを阻止することが、どうして同じことだと言うのだろう?

そう、違うのだ。そして、ウクライナの状況と似たような比較をするような強制は避けるべきだ。教訓は次のようなものだ。歴史的類似性(historical parallels)を安易に使うことには常に注意を払うこと。ウクライナに軍事的に関与するということは、ロシアとの戦争に巻き込まれるということであり、脅威冷戦時代の越えられない一線、核兵器による消滅というを越えることである。プーティンは引き下がるかもしれない。しかし、彼が引き下がらなかったとしても、ここでの戦いはあくまで経済的なものだ。バイデンがかつてウクライナをNATOに加盟させることを熱望していたとしても、彼は今の状況を理解している。もしプーティンが参戦し、好戦派が国を熱狂の渦に巻き込もうとし始めたら、彼は自分の戦争への非関与を貫くべきだ。

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ネオコンたちがウクライナで新たな惨事を引き起こそうとしている(Neocons bent on starting another disaster in Ukraine

-アメリカの外交政策は、明らかに、毒舌で欲張り、そして何よりも無謀なエリート集団の人質となっている。

ジェイムズ・カーデン筆

2021年12月15日

『アジア・タイムズ』紙

https://asiatimes.com/2021/12/neocons-bent-on-starting-another-disaster-in-ukraine/

いずれにしても、ワシントンのネオコンたちは、生き残るための正確な本能を持っている。2001年9月11日のテロ攻撃以来20年間、イラク戦争からリビアとシリアでの大失敗に至るまで、数々の惨事を引き起こしてきたネオコンたちは、失敗の芸術を完成させているようだ。

ハーヴァード大学のスティーヴン・ウォルトは「ネオコンであることは、決して謝る必要がないということを意味する」と述べたことがある。この点でケーガン一族の話は参考になる。

『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストであり、ブルッキングス研究所の上級研究員で、『ザ・ジャングル・グロウズ・バック(The Jungle Grows Back)』のような偽史の著者でもあるロバート・ケーガンは、長年にわたってアメリカの軍国主義(American militarism)の主唱者であった。

弟のフレデリックはネオコンが主流派となっているアメリカン・エンタープライズ研究所の常勤研究員である。2021年12月7日付の『ザ・ヒル』にフレデリック・ケーガンが寄稿し、ロシアがウクライナを支配すれば、ポーランドやルーマニアにも存亡の危機が訪れると主張し、それは新しい鉄のカーテン(Iron Curtain)となりうるものだ、アメリカとヨーロッパの地上・空軍を大規模に展開させることによってのみその状況に対応できる、と主張した。

フレデリック・ケーガンと妻キンバリーは戦争研究所を率いている。夫妻は失脚した元CIA長官デーヴィッド・ペトレイアスの側近だった。実際、フレデリック夫妻は、2007年から2008年にかけて、ジョージ・W・ブッシュ政権が追求した米軍増派戦略のブレインとして頻繁に言及される存在だった。

しかし、ケーガン一族で最も有力なのは、フレデリックの兄ロバートの妻で政治担当国務次官であるヴィクトリア・ヌーランドだ。

バラク・オバマ政権で、ヌーランドは米国務省報道官を務めた。彼女は明らかに不適格であり(現報道官の資質を考慮すればなおさらだ)、その後、ヨーロッパ・ユーラシア問題担当国務次官補に就任した。

2014年2月にウクライナで民主的に選ばれたヴィクトール・ヤヌコヴィッチ大統領の転覆を画策し、国連によると1万3000人以上が死亡した内戦(civil war)を招いたのは、ヌーランドがその役割を担っていたからだ。

アメリカがロシアとの戦争という重大なリスクに晒されている理由の一つは、ここまでに至った政策についてほとんど議論されていないが、ワシントンの外交政策が事実上、排他的なサークルによって行われていることだ。

そして、このサークルはケーガン一族のような人々によって独占され、支配されている。

ワシントンの既存メディアは、官僚機構のための永続的なエコーチェンバーとして機能することで、こうした外交政策を永続させる役割を担っているのである。その証拠としては、『ワシントン・ポスト』の社説では、ウクライナ危機が始まった当初から、外交と関与を求める声を軽率に退け、その代わりに、完全な戦争(outright war)を呼びかけている。

その一例が2014年8月21日にワシントン・ポスト紙の社説に掲載された見解だ。

「停戦や、外交交渉につながる何らかの一時的な停止を模索したくなるところだ。しかし、一時停止と外交で何が達成されるだろうか? ウクライナに禍根を残すような交渉は避けなければならない。受け入れられる唯一の解決策は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の侵略を撤回させることだ」。

『ナショナル・インタレスト』誌の編集者ジェイコブ・ヘリブラウンと私が当時次のようにコメントした。「無慈悲な態度とほぼ同程度に悪いのは、率直さの欠如である。ワシントン・ポストは、プーティンの侵略を逆転させるためにどのような提案をするのかについて何一つ実際に説明していない」。

これは現在でも変わらない。ウクライナをめぐってロシアと戦争すると豪語するアームチェア・ウォリアー(安楽椅子に座って戦争を論じる言葉だけお勇ましい人)たちは、そのような「逆転」がどのように行われるのか、更に言えば、米露間の戦争が成功する確率はどの程度なのか、まったく議論していないのだ。

ウクライナ危機が始まった約8年前からあまり変わっていない。2021年12月7日のアメリカ連邦上院外交委員会(SFRC)でヌーランドが行った「米露政策の最新情報」に関する証言について少し考えてみよう。

ヌーランドは次のように証言した。

"ロシアのプーティン大統領がウクライナへの攻撃や政府転覆を決定したかどうかは分からない。しかし、そのための能力を高めていることは確かだ。この多くは、2014年のプーティンの脚本に沿ったものだが、今回は、より大規模で致命的な規模である。したがって、正確な意図やタイミングが不明であるにもかかわらず、私たちはロシアに方向転換を促すとしても、あらゆる事態に備えなければならない」。

ヌーランドは更に、アメリカ政府は2014年以来、ウクライナに24億ドルの「安全保障分野での支援」を行い、本年度分としてこれまで4億5千万ドルがその中に含まれていると指摘した。

この巨額の投資に対して、アメリカはどのような見返りを得たのだろうか?

連邦上院外交委員会のボブ・メネンデス委員長は、ロシアが自国の国境で圧倒的な軍事的優位性を持っていないという印象を抱いているようだ。同様に、民主党のベン・カーディン連邦上院議員は、ロシアがウクライナに侵攻すれば「私たち(アメリカ)にはエスカレートする必要がある」と言い切った。

一方、共和党所属のトッド・ヤング連邦上院議員は、ヌーランドに対して「ロシアの侵略に対抗するために、政権はどのような方策を検討しているのか」と迫り、民主党所属のジャンヌ・シャヒー連邦上院議員は、エストニアの国会議員との対話の中で「ウクライナ問題に関するヨーロッパの結束」の重要性について語られたと述べた。

また、エストニアの国会議員共に、ポーランドなどの東欧諸国の国会議員たちも、「バルト諸国にさらに軍隊を駐留させるか、させないかについて懸念を表明したとシャヒーン議員は述べた。

この日、最も鋭いコメントをしたのは共和党のロン・ジョンソン連邦上院議員だった。ジョンソン委員は外交委員会が珍しく超党派の合意を達成したことに明らかに誇らしげだった。彼はさらに、アメリカはウクライナを支持し、ロシアに対抗するために「団結」しているのだと強調した。

そしてジョンソンの発言内容は全く正しいものだ。外交委員会は、アメリカが何の条約上の義務も負っていないウクライナをめぐる紛争を望むことで完全に一致した。

実際、ヌーランドも連邦上院外交委員会も、アメリカの国益が存在しない場所を見ているようだ。より心配されるのは、制裁と軍事的脅威を組み合わせることで、アメリカから何千キロも離れた場所で起きている紛争の結果を形成する、アメリカの能力、いや、義務に対する盲信のようなものを持っているように見えることである。

今回の連邦上院外交委員会の公聴会が明確に示したことは、アメリカの外交政策が毒と欲にまみれたおり、そして何よりも無謀なエリート集団の人質になっていることだ。そのエリートには、外交委員会の委員たち、公聴会で証言する政府高官たち、外交委員会にブリーフィングするスタッフたち、スタッフが信頼する学者や政策担当者たち、そして「匿名」の政府筋から聞いたことを無批判に書き写す記者やジャーナリストが含まれる。

このように、われわれが直面している最も緊急な問題は、次のようなものだ。手遅れになる前に、良心のあるアメリカ人はどうやって彼らの権力支配を断ち切るか?、である。

※ジェイムズ・W・カーディン:『ザ・ネイション』誌の外交専門記者を6年間務めた。その他に様々な出版物に記事や論稿を掲載してきた。それまでは米国務省の顧問を務めたサイモン・ウィール政治哲学センター理事、アメリカ・ロシア協力アメリカ委員会上級コンサルタントを務めている。

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ネオコンであることは決して謝罪する必要がないということだ(Being a Neocon Means Never Having to Say You’re Sorry

-この人たちはイラクのあらゆる面で間違っていた。なぜまだ彼らの言うことを聞かなければならないのか?

スティーヴン・M・ウォルト筆

2014年6月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2014/06/20/being-a-neocon-means-never-having-to-say-youre-sorry/

2001年から2006年のある時点まで、アメリカはネオコンヴァティヴィズムを信奉する人々(ネオコン)が外交政策の中核をなすプログラムに従った。この巨大な社会科学的実験の悲惨な結果(disastrous results of this vast social science experiment)は、これ以上ないほどに明らかである。ネオコンのプログラムは、米国に数兆ドルとアメリカ軍将兵の数千人の死傷をもたらし、イラクとその他の地域に殺戮と混沌をもたらした。

リンドバーグやマコーミックのようなアイソレイショニズムの信奉者たちが、第二次世界大戦で、ディーン・ラスク元国務長官がヴェトナム戦争で疎外されたように、ネオコンたちの信用は永遠に失墜するのではないかと考える人もいるだろう。たとえ、ネオコンが自分たちの愚行が引き起こした失敗にもめげず、自分たちの主張に固執し続けるとしても、合理的な社会は彼らにほとんど注意を払わないだろうと予想される。

しかし、アンドリュー・バセヴィッツ、ジュアン・コール、ポール・ウォルドマン、アンドリュー・サリヴァン、サイモン・ジェンキンス、ジェイムズ・ファローズといった、多くの論客が落胆したように、ネオコンの論客たちは今日も健在である。CNNをはじめとするニュースチャンネルの一般視聴者たちは、ポール・ウォルフォヴィッツ、ディック・チェイニー、ビル・クリストルらの空疎な(vacuous)分析に接しているのである。

より懸念されることは、バラク・オバマ大統領が圧力に屈して、イラクの無能で悩めるマリキ政権を助けるために300人のアメリカ軍顧問団を派遣したと思われることだ。いつものように、オバマ大統領は新たな泥沼を警戒し、アメリカの関与を制限しようとしているようだ。しかし、彼は滑りやすい坂道への第一歩を踏み出し、この最初の動きが成功しなければ、もっとやるようにという追加の圧力に直面することになるだろう。

一体何が起こっているのか? ネオコンの最新の戦争推進キャンペーンの論理を破壊している人々がいる。ネオコンの一連の悪いアドヴァイスに対する強力な再反論は、前述の論客たちの記事を読むとよい。あるいは、バリー・ポーゼンが『ポリティコ』誌に寄稿した、ネオコンのあまりにも有名な妨害行為に対する有効な警告を提供している記事も読んで欲しい。

しかし、過去の失敗を考えると、ネオコンがあらゆるレヴェルの説明責任(accountability)から免れているように見えるのはどうしてだろうか? 一つのグループが、これほど頻繁に、これほど高いコストをかけて間違いを犯しながら、それでもなお、上層部でかなりの尊敬と影響力を維持できるのはなぜなのか? アメリカがネオコンに少しでも耳を傾けることは、ワイリー・E・コヨーテにロードランナーの捕まえ方を聞いたり、故ミッキー・ルーニーに結婚のアドヴァイスを求めたり、バーニー・マドフに退職金の運用を任せたりするようなものである。

私の知る限り、ネオコンが奇妙なほど持続しているのは、相互に関連する4つの要因によるものである。

(1)厚顔無恥(No. 1: Shamelessness

ネオコンサヴァティヴィズムが生き残っている理由として、そのメンバーが、自分たちがどれだけ間違っていたか、あるいは善悪そのものを気にしていないことである。トロツキー派やシュトラウス派のルーツに忠実なネオコンは、政治的目標を達成するために、常に真実を弄ぶことを厭わない。例えば、彼らはイラク戦争を売り込むために、情報を捏造し、とんでもない虚偽の主張をした。そして今日、彼らは現在のイラクの混乱に対する自らの責任を否定し、オバマによって浪費された戦争の大成功を描くために、同様に虚偽の物語を構築しているのだ。そして、この運動全体が先天的に誤りを認めることができず、自分たちが浪費したり取り返しのつかない損害を与えたりした何千人もの人々に謝罪することができないようだ。

著名なネオコンの知識人で、イラク戦争の初期の推進者ロバート・ケーガンが、来月行われるヒラリー・クリントンの選挙資金調達パーティのトップを務めることが、『フォーリン・ポリシー』誌によって明らかにされた。この動きは、クリントン陣営が著名な共和党員と関わりを持とうとする姿勢の変化を示すものであり、ドナルド・トランプ大統領の誕生を阻止するために、共和党の離反者がどこまでやる気があるかを示す最新の兆候である。

つまり、リチャード・ニクソンやシルヴィオ・ベルルスコーニと同様に、ネオコンたちは、自分たちが何度間違っていたかを気にせず、世間の注目を浴びるためならどんなことでもする、あるいは言う、という姿勢でカムバックを繰り返している。また、自分たちの度重なる政策の失敗がもたらす悲劇的な人的結果には、まったく無関心であるように見える。ネオコンであることは、決して「申し訳ございません」と言う必要がないことを意味するようだ。

(2)資金援助(No. 2: Financial Support

ネオコンの生き残りの第二の源泉は資金だ。アメリカの開かれた政策アリーナでは、雇用を維持し、活動するためのプラットフォームと組織を提供する資源さえあれば、ほとんど誰でもプレイヤーになることができる。2003年にアメリカを崖っぷちに追い込んだネオコンは、ベルトウェイ(ワシントンの内部)で疎外されるどころか、『ウィークリー・スタンダード』誌、アメリカン・エンタープライズ研究所、カーネギー財団、外交問題評議会、戦争研究所、ハドソン研究所など、資金力のあるシンクタンク、雑誌などを出す組織から支持され続けている。エリオット・エイブラムスのように何度失敗しても、資金力のある外交評議会の上級研究員になれるのなら、アメリカの政策論議において間違ったアドヴァイスが目立つようになるだろう。

(3)言い分をそのまま受け入れ共感するメディア(No. 3: A Receptive and Sympathetic Media

ネオコンは、主流メディアが彼らに注目し続けなければ、その影響力はかなり小さくなる。彼らは自分たちの雑誌を出版したり、フォックス・ニューズに出演したりすることもできるが、大きな力を発揮するのは、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォールストリート・ジャーナル』紙、『ワシントン・ポスト』紙などのメディアで彼らが注目され続けていることだ。ネオコンは依然として論説ページに頻繁に登場し、外交政策の様々な問題について記者たちからよく引用されている。

このような傾向は、主要メディアの重要なメンバーが、自らネオコンであったり、その基本的な世界観に強く同調していたりすることも一因となっている。ニューヨーク・タイムズのデイヴィッド・ブルックス、ワシントン・ポストのチャールズ・クラウトハマーとフレッド・ハイアット、ウォールストリート・ジャーナルのブレット・スティーヴンスは、いずれもネオコン信奉者で、もちろん当初から戦争推進派では著名な発言者だった。ニューヨーク・タイムズ紙は2005年にクリストルを起用し、論説コラムを書かせたが、それはイラク情勢が既に悪化していた後だった。クリストルの論稿がそれほど退屈で杜撰な内容でなかったなら、彼は今日もまだコラムニストを続けているかもしれない。

しかし、ネオコンが主要な報道機関に存在し続けるということだけが問題ではないのだ。

ネオコンが影響力を持ち続けているのは、アメリカの他のメディアが「バランス」にこだわっているからであり、無頓着な記者たちは、オバマ政権やよりハト派的な声から何を言われても、いつでもタカ派のネオコンの言葉を引用してバランスを取れることを知っているからである。記者が正確さよりもバランスが重要だと考えている限り、新保守主義者は自分たち特有の外交政策に関する当てにならない商品(スネークオイル、snake oil)を売り込む場所をたくさん見つけることができるのだ。

(4)リベラル派の同盟者(No. 4: Liberal Allies

ネオコンの持続性にとっての最後の源泉は、彼らの近いいとこである、リベラル派の介入主義者(liberal interventionists)から継続的な支持を得ていることである。ネオコンは、イラク侵略というアイデアを作り出したかもしれないが、様々な種類のリベラルなタカ派から多くの支持を得ていたのである。前にも述べたように、この2つのグループが唯一意見を異にする主要な問題は、国際機関の役割についてであり、リベラル派は国際機関を便利な道具と見なし、ネオコンはアメリカの行動の自由を妨げる危険な制約と見なしている。つまり、ネオコンはリベラルな帝国主義者のステロイド版であり、リベラルなタカ派は実際にはより親切で優しいネオコンに過ぎないのだ(Neoconservatives, in short, are liberal imperialists on steroids, and liberal hawks are really just kinder, gentler neocons.)。

リベラル派の介入主義者たちはネオコンの計画に加担しているため、ネオコンをあまり批判したがらない。それは、そんなことをしてしまうと、ネオコンの悲惨な計画における自らの過失に注目が集まるからだ。したがって、ピーター・ベイナートやジョナサン・チェイトのようなリベラルなタカ派が、イラク戦争を支持していたにもかかわらず、最近になって、ネオコンの立場を厳しく批判しつつ、イラクをめぐる新しい議論に参加するネオコンを擁護していることは、驚くにはあたらない。

ネオコンとリベラル派の同盟は、事実上、ネオコンの世界観を再正当化し、アメリカ主導の戦争に対する彼らの継続的な熱意を「正常(normal)」に見せているのである。オバマ政権にサマンサ・パワーやスーザン・ライスのような熱心な介入支持者がいて、アン・マリー・スローターのような元オバマ高官が、シリアに武器を送る必要性についてネオコン的な議論をしているとき、ネオコンは米国政策コミュニティの中で完全に立派な一派のように聞こえ、むしろ彼らの考えが実際にはどれほど極端で信用できないものであるかが強調されているのである。

圧倒的な証拠を前にしてもなお、影響力と地位を維持するゾンビのような能力は、F・スコット・フィッツジェラルドが間違っていたことを教えてくれる。アメリカの人生には実際、無限の「セカンドチャンス」があり、アメリカの政治システムにはほとんど、あるいはまったく説明責任がない。ネオコンの持続力はまた、アメリカが無責任な言説から逃れられるのは、それが非常に安全だからだということを思い起こさせる。イラクは大失敗で、アフガニスタンでの敗北への道を開くことになった。しかし、一日の終わりには、アメリカは帰ってきて、おそらくちょうどいい状態になる。確かに、ネオコンの空想に耳を傾けなければ、何千人もの市民が今日も元気に暮らしていただろうし、1993年以降の彼らの処方箋を儀礼的に無視していれば、アメリカ人は海外でもっと人気があり、国内ではもっと繁栄していただろう。何十万人ものイラク人も生きていただろうし、中東の状態もいくらか良くなっていただろう(これ以上悪くなりようがない)。

ネオコンの影響力を適切な次元(つまり、ほとんどゼロ)まで低下させるものがあるとすればそれは何だろうか? もし、この10年間がネオコンの信用を失墜させなかったとすれば、これからどうなるかは明確ではないということだ。モスクワや北京の指導者たちは、この事実から大きな安心感を得ているに違いない。アメリカが危機から危機へ、そして泥沼から泥沼へと転落し続けることを確実にするためのより良い方法はどんなものだろうか? この社会が、確実に間違っている人ではなく、一貫して正しい人の意見に耳を傾けるようになるまでは、私たちは同じ過ちを繰り返し、同じ悲惨な結果を招くだろう。ネオコンはそんなことを気にしないだろうが。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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