古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

タグ:ネオコン

 古村治彦です。

 

 トランプとプーティンが電話会談をし、その中で、米ロ関係の改善に協力していくことで合意したということが報じられました。トランプは、選挙期間中に北朝鮮の金正恩委員長とも話し合っても良いと発言していましたから、民主国家ではないという理由で、一概に悪いくにだと決めつける(それなのに、アメリカに役立つ非民主国家である中東の産油国や中央アジアの独裁国家を悪とは決めつけない)人道的介入主義派やネオコンとは全く異なる外交姿勢を取ることになるでしょう。

 

 しかし、問題は国務長官の人選であり、その下の副長官、国務次官、国務次官補くらいまでの人選です。国務長官には、ルディ・ジュリアーニの名前が出ていますが、ジョージ・W・ブッシュ政権のネオコンのジョン・ボルトン、ヘンリー・ポールソン財務長官、日本人にもなじみ深いリチャード・アーミテージ国務副長官の名前が出ています。

 

 トランプの現実主義的な外交姿勢を政策と実行するためには、ネオコンという訳にはいきません。そもそもネオコンの人々は、トランプに反対していました。ネオコンの代表的な論客ロバート・ケーガンはヒラリーのために資金集めパーティーまで計画していたほどです。

 

 トランプが結局、ワシントンのエスタブリッシュメントに絡め取られてしまうかどうか、注目です。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプはプーティンと話をし、「永続的な」関係構築を楽しみにしていると述べる(Trump talks to Putin, looks forward to 'enduring' relationship

 

クリスティーナ・ウォン筆

2016年11月14日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/business-a-lobbying/305929-putin-tells-trump-he-wants-dialogue-based-on-non-interference

 

ドナルド・トランプ次期大統領は月曜日、ウラジミール・プーティンからの大統領選挙勝利に対する祝福を受け入れ、ロシア大統領に対して、「私はロシアとロシア国民との間で強力なそして永続的な関係を築くことを楽しみにしている」と述べた。

 

トランプの政権移行ティームは声明を発表し、トランプとプーティンは「アメリカとロシアが直面している脅威と挑戦、戦略的な経済諸問題、過去200年以上の米ロ関係の歴史」について議論したと述べた。

 

クレムリンは声明の中で、指導者2人が「現在の米ロ関係の冷え切った状態を評価することに同意し、関係正常化に向けた協力関係に向けた話し合いを行った。話し合いは諸問題について建設的な協力を行う方向性を持って行われた」。

 

クレムリンは声明の中で、「両指導者は、米ロ間の貿易と経済協力の発展を通じて両国間の堅固な基礎を構築する重要性を強調した」と述べた。

 

トランプは選挙期間中、プーティンを強力な指導者として賞讃してきたことはよく知られている。それに対して、共和党と民主党から批判が出ていた。トランプはテロリストとの他戦いでロシアとの協力が必要だと述べ、NATOとの再交渉ついてのトランプのコメントはロシア政府から評価された。

 

アメリカとロシアとの関係はここ10年間、冷え切っている。オバマ政権は、2014年にロシアがウクライナ領であったクリミア半島を併合したことを厳しく非難した。

 

トランプの政権移行ティームの論調は全体として協力的なトーンであった。一方、オバマ大統領とプーティン大統領との会談の論調は、全体として米ロ間の同意できない点を強調するものであった。

 

クレムリンは声明の中で、プーティンとトランプはこれからも電話を通じて対話を続け、会談実現に向けて協力していくと述べた。声明は、両指導者がテロリズムと過激主義との戦いのために協力して対処していくことに必要性とシリアにおける危機を終結させることについて議論したと述べた。

 

クレムリンは声明の中で更に、「プーティン大統領は、トランプ次期大統領との電話の中で、平等、相互尊重、内政不干渉といった諸原則に基づいて、新政権と対話を築きたいと語った」とも述べた。

 

プーティンは更に、「実践的な、相互利益をもたらす協力(両国の利益に適う)、世界の安定性と安全」への復帰することも止めた。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)









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 古村治彦です。

 

 ネオコンの著名な評論家であるロバート・ケーガンが、ヒラリー・クリントンの政治資金集めのイヴェントを開催するという情報が入りました。たったこれだけのことですが、『フォーリン・ポリシー』誌では記事になりました。こんなことは、それだけ、「奇妙なこと、おかしなこと」なのです。

 

 共和党ではドナルド・トランプが大統領選挙候補者に内定していますが、これに対して、共和党内の外交政策専門家たち、特にネオコンに属する人々は、トランプに嫌悪感を示しています。このブログでもご紹介しましたが、共和党内の外交専門家たちは、3月にはトランプに反対する公開書簡を発表しています。

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ロバート・ケーガンとヴィクトリア・ヌーランド 

 

 ですが、ついに、ヒラリーの政治資金集めにまで協力するネオコンが出てきました。それは、ロバート・ケーガンです。ロバート・ケーガンは一家そろって、父親も夫人も、弟夫婦もネオコンという筋金入りです。奥さんのヴィクトリア・ヌーランドについても何度もご紹介していますが、こちらは国務省のキャリア外交官です。ヒラリーが国務長官の時にはヌーランドは国務省報道官を務めていましたし、ロバート・ケーガンは長官直属の超党派の諮問会議のメンバーでした。

 

 個人的には関係が深いというのは分かるのですが、資金集めをやるとなると、これは共和党に対する裏切り行為です。こういう動きが出てきているというのは、共和党内部に相当な亀裂とダメージがあるということの証拠になります。

 

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スクープ:共和党所属でネオコンとして有名な人物がヒラリー・クリントンのために資金集めを行う(Prominent GOP Neoconservative to Fundraise for Hillary Clinton

 

ジョン・ハドソン筆

2016年6月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/06/23/exclusive-prominent-gop-neoconservative-to-fundraise-for-hillary-clinton/

 

 著名なネオコン派の論客にしてイラク戦争を早くから主張していたある人物が、来月、ヒラリー・クリントンの選挙資金集めの集まりを開くことが『フォーリン・ポリシー』誌の取材で明らかになった。この動きはヒラリー・クリントン陣営が著名な共和党員や共和党支持者たちと協力する姿勢になっていること、更には共和党員や支持者の中にドナルド・トランプの大統領選挙当選阻止のためにかなりの禁じ手をやる人たちが出てきていることを示している。

 

 ブルッキングス研究所上級研究員で、シンクタンク「プロジェクト・フォ・ザ・ニュー・アメリカン・センチュリー」の共同設立者であるロバート・ケーガンは、7月21日にワシントン市内のローガン・サークル地区で「ヒラリー・フォ・アメリカ」の資金集めのための集まりを開く予定だ。本誌が入手した招待状には次のような文言が記載されている。「このイヴェントでは、アメリカのNATO、ヨーロッパの主要な同盟国とパートナー、そしてEUに対するこれからも続けられる投資に関してオフレコの会話も行われる予定です」。

 

 本誌はケーガンにコメントを求めたが返答はなかった。

 

 ヒラリー・クリントン陣営では、トランプの高い不人気と彼の攻撃的なコメントのために、伝統的な共和党支持者たちからの得票を期待できると考えている。そして、陣営では共和党支持者たちに積極的に働きかける動きが始まるだろう。

 

 ヒラリー陣営ではしかし、このような動きについては慎重になっていた。それは、民主党左派で予備選で激しく闘ったバーニー・サンダースや彼の支持者からの批判を受けたからだ。サンダースはヒラリーが上院議員時代の2002年にイラク戦争に賛成の投票を行ったこと、ヘンリー・キッシンジャーの様な批判が多い共和党側の人物たちやウォール街とも深い関係を持っていることを批判した。

 

 2月に行われた討論会で、サンダースは「ヒラリー・クリントン氏は著書と今回の討論において、ヘンリー・キッシンジャーからの推薦、もしくは支持をとりつけようとしている。私は驚き以上のものを感じている。それは、ヘンリー・キッシンジャーがアメリカ史上最もアメリカを破壊した国務長官であると私は考えるからだ」と述べた。

 

 共和党内の外交政策の専門家たちの多くがトランプを非難しているが、ヒラリーを支持すると公言している人の数はもっと少ない。しかし、亀裂は表に出始めている。

 

 6月22日、ヒラリーは共和党のブレント・スコウクロフトの推薦を取り付けた。スコウクロフトは、ジョージ・HW・ブッシュ(父ブッシュ)、ジェラルド・フォード両大統領の大統領国家安全保障担当補佐官を務めた。また、リチャード・ニクソン、ジョージ・W・ブッシュ両大統領には助言者として仕えた。

 

スコウクロフトは声明の中で、「ヒラリー・クリントン氏は国際問題の分野の経験が豊富で、世界に対する理解も深い。これらの要素はアメリカ大統領に不可欠だと私は考えている」と述べている。

 

 しかし、スコウクロフトは共和党内のリアリストに属している。彼はリベラル派の中のグループと同じく、「アメリカはあまり外国に介入すべきでない」という世界観を持っている。一方、ケーガンはネオコンに属している。ネオコン派、軍事力の行使、独裁者の軍事力を使った排除、民主政治体制の世界への拡散を中心に据えたイデオロギーだ。

 

 民主党の大統領選挙予備選が熱を帯びていく過程で、サンダースを支持する有名人たちは、ヒラリーとケーガンやネオコンのよりタカ派的な政策を結び付けようとした。彼らはそのために、ケーガンのヒラリーに対する好意的な発言を引っ張り出してきた。

 

 2014年、『ニューヨーク・タイムズ』紙の取材に対して、ケーガンは次のように述べている。「外交政策の面で、ヒラリー・クリントンと一致する点は多い。彼女がやりたいだろうなと私たちが考える政策を彼女がやったら、それはネオコン的な政策と呼ばれるものになるだろう。しかし、彼女の支持者たちはそれをネオコン的とは呼ばないだろう。何か他の言葉を付けるだろう」。

 

 ここ数年、ケーガンは、シリアにおける5年にわたる内戦にアメリカが介入していないことと、ウクライナ紛争においてロシアに対してより強硬な姿勢を取らないことに関し、オバマ政権を厳しく批判してきた。ケーガンはまた、連邦予算において国防予算の増額を求めている。ケーガンの考えは、彼が最近『ニュー・リパブリック』誌に掲載した論稿のタイトル「超大国は引退などできないのだ」に要約される。彼は論稿の中で、世界においてアメリカは更に外交的、軍事的存在感を増すようにすべきだと主張している。

 

 ケーガンはNATOの熱心な支持者であり、擁護者である。そのため、トランプの考えとは真っ向から対立する。トランプは軍事同盟を「時代遅れ」なものであり、ヨーロッパに同盟諸国には、自国のGDPの2%以上を防衛費として支出しないのなら、制裁を加えるべきだと考えている。NATOに加盟している28カ国でこの基準を満たしている国はほとんどない。ヒラリー・クリントンは最近の複数の演説でNATOを擁護している。

 

 ケーガンはヒラリー・クリントンが国務長官を務めていた時期に国務省報道官を務めたヴィクトリア・ヌーランドの夫である。ヌーランドは現在、ヨーロッパ・ユーラシア担当国務次官補を務めている。ヌーランドは、オバマ政権に対して、ウクライナでの紛争でアメリカはより積極的な役割を果たすように強く主張したことで知られる。

 

 カンブリアホテルで開催されるイヴェントの入場券の値段は1枚100ドルだ。イヴェントのスピーカーと主催者と話が出来るパーティーに出席できるVIPチケットは1枚250ドルだ。「主催者」の待遇を得るためのチケットは500ドルである。

 

(終わり)

 






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 古村治彦です。

 

 アメリカのネオコンの拠点の1つである、戦略国際問題研究所(CSIS)が毎年発表しているグローバル予測の最新版から、所長のジョン・ハムレとジャパン・ハンドラーズの1人マイケル・グリーンの論稿をそれぞれ紹介します。ネオコン派がどのように考えているかが分かるものとなっています。

 

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2016年グローバル予測(2016 GLOBAL FORECAST

 

クレイグ・コーエン(CRAIG COHEN)、メリッサ・G・ダルトン(MELISSA G. DALTON)編

 

戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS

http://csis.org/files/publication/151116_Cohen_GlobalForecast2016_Web.pdf

 

 

アジアへの再接続(Reconnecting of Asia

 

ジョン・J・ハムレ(JOHN J. HAMRE)筆

 

400年前、人類史上初めての純粋に国際的な国家間システムが出現した。この時以前、中国の各王朝と近隣諸王国との相互交流のような地域的な地政学システムはいくつか存在した。しかし、純粋に国際菜的な国家間システムは存在しなかった。国民国家が出現した際のウェストファリア体制は極めて斬新なものを生み出した。個人の忠誠心は王に対する忠節から国民としての意識と国家への同一化へと変化した。この時期、制限責任企業のような組織に関する新しい概念が生まれた。制限責任企業は幅広く資本を集め、対象となる商業的な冒険的試みに大量の資本を投入できるようになった。

 

 これらのヨーロッパの国民国家は、大都市の発展を支えた大富豪を生み出すための世界規模の帝国を創設しようとして相争った。ヨーロッパを中心とする国際的な地政学的システムが生み出された。このシステムは、操作法則として力の均衡(balance of power)を基礎とし、商業主義的な諸原理によって動くものであった。

 

 しかし、この発展には副作用も伴った。ヨーロッパの各帝国は世界各地に商業拠点を獲得しようと躍起になった。この世界システムの経済的ダイナミズムによって、アジアとアフリカの沿岸部にヨーロッパから企業家精神に溢れた人々が押し寄せるようになった。海上輸送が世界的な商業の基礎となった。アジア各地の沿岸部と主要航路沿いに巨大な都市が次々と誕生した。それから400年間、アジアにおいて地政学的に重要であったのは沿岸部であった。

 

 それ以前、アジアにおける商業と地政学の点で重要であったのはユーラシア大陸内陸部であった。国家間の商業活動は、いわゆる「シルクルート(silk routes、シルクロード)」に沿って行われていた。

 

 400年間にわたりアジアにおいては沿岸部に地政学的な中心が置かれてきたが、その状況は変化しつつある。巨大なユーラシア大陸が内陸部で再接続されつつある。ロシアは、極東とヨーロッパを結ぶ鉄道ネットワークを構築するという野心的な計画を明らかにしている。中国は「一帯一路(One Belt, One RoadOBOR)」構想に基づいて様々なもっと野心的な計画を発表している。この計画は、中央アジアと西アジアを貫く形で輸送ネットワークを劇的に拡大するというものだ。中国はその他にもアジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクルート基金のようなより衝撃的で野心的な計画を実行しようとしている。数十の社会資本建設・整備計画が既に発表され、この計画の方向性はすでに示されている。

 

 一帯一路構想は、様々な議論を引き起こした。懐疑論を唱える専門家たちは、この計画は成長が遅れている中国内陸部の開発を促進するための試みだと述べている。また、個の計画は中国国内で建設ラッシュが一段落している建設業者たちに機会を与えるための経済刺激策だと主張する人たちもいる。更には、中央アジア諸国の中国に対する忠誠心を獲得し、属国関係として固定化するための地政学的な設計図に基づいて行われていると主張する専門家たちもいる。

 

一帯一路構想はアメリカにとってどのような意味があるものなのだろうか?これからの数十年間、中国はこの計画にエネルギーを使い、結果として東南アジアに対する圧力が弱まることになるのだろうか?それとも、巨大なアジア大陸全体に中国の覇権を及ぼすという究極的な目標を反映したものなのだろうか?一帯一路構想はアメリカにとって良いものなのだろうか、それともアメリカの国益にとって脅威となるのだろうか?

 

 新しいシルクルートという話はこれまで長い間流布されてきたものだ。インターネットで、「シルクロード」というキーワードを入れて調べてみると、ヒットするものの半数以上はトルコ発のもので、トルコの商業に関するものである。一帯一路構想が地政学的な側面を持っていることは疑いようのないところだが、その根底にある商業的な大きな動きを見逃すと、分析を間違うことになる。アジアの製造業をヨーロッパの市場に結び付けるための最も効率の良い方法は、海上輸送であると思われてきた。しかし、長距離鉄道網を使えば輸送時間を2倍から3倍も短縮することはたやすい。輸送時間を劇的に短縮することで、投資する資本が何も生み出さない時間を減少させることによって、必要な資本を減らすことが出来るのだ。

 

 アメリカ政府はこの巨大な展開を評価するための能力に欠けている。官僚たちは世界を分割してそれぞれ担当しているが、それによってより明確なビジョンを掴むことが出来ないようになっている。米国務省は世界を4つの地域に分けてそれぞれに、東アジア・太平洋担当、ヨーロッパ・ユーラシア担当、近東担当、南アジア・中央アジア担当という担当部局を置いている。国防総省は太平洋司令部を置いており、中国はそこの担当になっている。しかし、その他のアジアは、中央司令部とヨーロッパ司令部の担当になっている。

 

 官僚主義的な機関は創造的な思考には不向きだ。世界を4つに分割し、それぞれの中で見ていれば、この巨大な流れを見逃すことになる。新しい大きな流れの特徴を古い歴史的なフィルターを通じてみてしまうことになる。

 

 ユーラシアの再接続の重要性を見過ごすことは大きな過ちとなる。そして、この動きをアメリカの脅威としてしまうことは危険なことでもある。この巨大な展開においてアメリカの果たすことが出来る役割は限られている。しかし、それは私たち自身がそのようにしてしまっているためなのだ。私たちはこの大きな新しい流れを客観的に評価し、判断しなくてはならず、それには時間が必要だ。一帯一路構想に対処することは次の大統領の政策課題ということになるだろう。

 

(終わり)

 

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私たちが生きる現代にとって正しい戦略を追い求めて(Seeking the Right Strategy for Our Time

 

マイケル・J・グリーン(MICHAEL J. GREEN)筆

 

 アメリカは現在世界のいたるところで守勢に回っているように見える。中国は南シナ海において侵略的な土地埋め立てと島の要塞化計画を進めている。また、アメリカの同盟諸国への影響力を強めることになる、新しいユーラシア秩序の構築を求めている。ロシアはウクライナとシリアに軍隊を派遣することでNATOを侮蔑している。イランはアメリカとの間で内容の乏しい核開発合意を締結したが、中東各地の代理となる諸勢力に武器を与え、衰えることの野心を見せ、宗教的な統一という目標のために動いている。イスラミック・ステイトは暴力的で抑圧的なカリフ制度を求めて活動している。その活動力は落ちているが、規模を縮小させるまでには至っていない。更には、気候変動に関する国際的な協力は、2015年12月にパリで開催されたCOP21の開催前に既に失敗していた。これは、オバマ政権の成立当初からの目的の達成失敗ということになる。

 

 アメリカにとっての大戦略が必要な時期はこれまでほとんどなかったが、今はまさにそのタイミングだ。しかし、現在のアメリカが大戦略を構築し、それを実行することは可能だろうか?大戦略には様々な脅威と障害についての明確な定義が必要だ。努力を向ける目的の優先順位をつけることと、目的の達成のために外交、情報、軍事、経済といった分野の力を統合することが必要である。トクヴィルが明らかにしたように、アメリカの民主政治制度は、そのような意思決定と権威を一つの政府機関に集権化することを阻害するように設計されている。

 

 民主政治体制は、様々な障害が存在するが、何とかして、重要な事業の詳細を規制し、固定化された設計を保ち、その実行を行っている。民主政治体制では秘密で様々な手段を実行することはできないし、長い時間、忍耐を持って結果を待つこともできない。

 

 それにもかかわらず、アメリカは、共和国としての歴史の中で、これまで何度も大戦略を成功させてきた。アメリカ建国の父たちはヨーロッパ型の機構と策謀に大きな疑念を持ちそれをアメリカのシステムに反映させたが、それでも大戦略が成功したことがたびたびあった。アメリカ政府は、19世紀末までに西半球において自分たちに都合の良い国境を策定することができた。19世紀から20世紀に移行する次期、アメリカは太平洋における主要な大国としての地位を獲得した。第二次世界大戦後、ヨーロッパとアジアの民主諸国家との間で同盟関係を固めることができた。そして、25年前にソヴィエト主導の共産主義体制を流血の惨事を引き起こすことなく打ち倒すことが出来た。これらの大戦略が一人の人物によって実行されたことは少ない。それでもセオドア・ルーズヴェルトとヘンリー・キッシンジャーはそれに成功した。しかし、たいていの場合、アメリカの大戦略は、「目的と手段を効率的ではなく、効果的に結びつける巨大なプロセス」から生み出されたのである。ジョン・アイケンベリーが述べているように、戦後に海外で成功したアメリカの戦略は、アメリカ国内における公開性と諸政治機関の競争性によって生み出された。それらによってアメリカ主導の国際秩序において利害関係を持つ参加者たちの力を増大させ、安心感を与えることが出来たのだ。トクヴィルが致命的な弱点だと考えたものが、実際には大きな長所となった。

 

 しかしながら、現在では、アメリカの民主政治体制の政治過程が、同盟諸国やパートナーに対して、安心感ではなく、より厳しいものとなり、警戒感を与えることになっている。また、アメリカの政治指導者たちが、「アメリカは国際的な諸問題で世界を指導できる能力を持っているのか」という疑念を起こさせている。第一次世界大戦とヴェトナム戦争の後、アメリカは大きく傷ついた。アメリカ国民はこれらの時期、世界に対してアメリカが関与していくことを基礎とする地政学を求める指導者を選んだ。イラク戦争後、アメリカの全体的なムードも同じような流れになった。アメリカの外交政策戦略の主要なテーマが「アメリカの世界的な評価を回復する」ということになった。アメリカ政府は地政学ではなく、国際的な脅威に関心を払うようになった。「戦争」か「関与」かの単純な二者択一で政策を行うようになっている。また、「バカなことはやらない」という考えに基づいて受け身的な事なかれ主義になっている。

 

 イラク戦争後のこうした流れによって、伝統的な国民国家、勢力均衡、アジア、東欧、中東に出現しつつある地域的な秩序に関する競争の重要性は減退した。中国、ロシア、イランは、アメリカの影響力を小さくし、アメリカの同盟諸国の力を小さくするための強制的な戦略を用いることで、戦争と関与との間にある「グレーゾーン」を埋めている。同じようなことは南米についても言える。しかし、南米で現在の国際システムに異議を唱えている国々の国際的な秩序に与える脅威はより小さいものと言える。アメリカとの間で相互利益がある地域における ロシア、中国、イランの関与はそれぞれの国益にかなうものであるが、この関与を「大戦略」と呼んでしまうと、オバマ政権が「これまでの国際秩序を作り変えようとする諸大国に地域的な秩序作りを任せてしまっている」という印象を世界中に与えることになってしまっている。一方、これらの大国に対して純粋に競争的な戦略を採用すべきと主張しているリアリストたちは、アメリカの同盟諸国やパートナーの置かれている複雑な立場を分かっていない。これらの国々のほとんどは、特にロシアと中国に対して、冷戦期のような立場をはっきりさせるような戦略を採れないような状況にある。アメリカの大戦略は国家間関係の根本的な理解のために地政学を復活させねばならない。しかし、同時に国際社会で指導的な立場に立つには、信頼されるに足るだけの外交的、経済的、軍事的、価値観に基づいた選択肢を提供する必要があることもアメリカは認識しなければならない。世界の国々に近隣の新興大国、既存の国際システムに異議を唱える大国関係を持たないようにさせようとしても無駄である。

 

 言うまでもないことだが、海外で指導的な役割を果たすためには、国内での経済成長を維持することは欠かせない。しかし、それがアメリカの縮小のための言い訳になってはいけない。アメリカは、これから数年の間、競争が激しい世界秩序から撤退し、世界がボロボロになった後に戻ってくる、などということをやってはいけない。実際、多くの国際協定が締結間近であるが、これらは海外におけるアメリカの影響力を強化するだろうが、アメリカの国内経済を大きく動かすことにもなる。環太平洋経済協力協定(TPP)と環大西洋貿易投資協定(TTIP)によって、アメリカの貿易を促進され、ヨーロッパと太平洋地域をアメリカとより緊密に結びつけることになる新しいルールを構築されることになる。より良い統治の促進、女性の地位向上、法の支配、市民社会が強調されることで、諸外国ではより正義に基づいた、安定した、そして繁栄した社会が生み出されることになる。消費は促進され、知的財産権はしっかり保護されることになる。違法行為を終わらせ、保障関係のパートナーシップを強化することで、各企業はよりまともな戦略を立てることが出来、同盟諸国やパートナー諸国との間で新しいシステムと技術に関してより生産的な発展を進めることが出来る。多くの国々がアメリカとの間の更なる経済的、軍事的な協力関係を望んでいるのだ。実際のところ、近現代史を通じて、現在ほどアメリカとの協力が求められている時期はないのだ。ここで大きな問題となるのは、アメリカ政府は、この新しい流れを利用して、経済、規範、軍事の関与に関するあらゆる手段に優先順位をつけ、それらを統合することが出来るのかどうか、ということである。

 

 この問題に関しては、アメリカ国民の考え方ひとつだ。この問題に関して、歴史は大きな示唆を与えてくれる。1920年代初めに行われたギャロップ社の世論調査では、アメリカ国民の大多数が、第一次世界大戦に参戦したことは間違いであったと答えた。1930年代、連邦議会は国防予算を減額し、保護主義的な関税を導入した。1930年代末、日本とドイツがヨーロッパと太平洋の既存の秩序に脅威を与えるようになった。この時期、ギャロップ社の調査で、数字が逆転し、大多数のアメリカ国民が第一次世界大戦にアメリカが参戦したことは正しかったと答えた。フランクリン・デラノ・ルーズヴェルト大統領は、互恵通商法を成立させ、海軍の再増強に乗り出した。1970年代半ば、アメリカ国民はヴェトナム戦争に反対するようになった。この時、連邦議会は防衛予算を減らし、大統領の外交政策遂行に制限を加えた。それから10年もしないうちに、ソ連が第三世界に対してそれまでにない拡張主義で臨むようになると、アメリカ国民は国防予算を増額し、ソ連の進出を阻止し、冷戦の終結につながる動きを促進する政策を支持した。

 

 最近の世論調査の結果は、アメリカ人の中に国際主義が再び復活しつつあることを示している。国家安全保障は共和党支持者たちにとって最も重要な問題となっている。一方、ピュー・リサーチセンターの世論調査では、大多数のアメリカ国民がTPPを支持している。問題解決は指導者の力量にかかっている。民主、共和両党の大統領候補者予備選挙の始まりの段階では、むちゃくちゃなポピュリズムの旋風が起きている。それでも、国際的な関与を主張する候補者が最終邸には勝利を得られるだろうと考えるだけの理由は存在するのだ。

 

(終わり)

メルトダウン 金融溶解
トーマス・ウッズ
成甲書房
2009-07-31




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  古村治彦です。

 

 今回は、スーパーチューズデー以降のアメリカの政治の動きについて考えたことを書きたいと思います。大体のことは前回に書いたのですが、そこからさらに考えたことを書きたいと思います。

 

 アメリカには民主、共和両党以外にも実はたくさんの政党があります。しかし、この2つ以外の政党から大統領が出るとか、連邦議会で過半数を取るというようなことはありません。たまに無所属の議員が出ることはありますし、バーニー・サンダース連邦上院議員も民主党所属ではなくて、無所属(ヴァーモント州の地域政党)で、連邦議会では民主党の会派に入っているということになります。

 

 国政レヴェルの政治に参加するということになると、どうしても民主、共和両党に所属するということになります。1955年から1993年の日本で続いた「55年体制」(自民党が国会で常に過半数を維持し、社会党が3分の1前後を維持して改憲を防ぐ)の下の自民党もそうでしたが、そうなると、様々な考えや主張の人たちが1つの政党に所属することになります。アメリカの民主、共和両党にも多くのグループがあります。それを分かりやすく説明しているのが、副島隆彦著『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』(講談社+α文庫、1999年)です。この本は20年近く前に書かれた本ですが、人の入れ替わり(亡くなったり、引退したり)はあっても、基本的には本で書かれたアメリカ政治の形は変わっていません。ですから、今のアメリカ政治を理解する上でも重要な本です。

 

 この本の中には以下のような図があります。これは今のアメリカ政治、特に現在起きている現象を理解する上で重要です。この図は、『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』に入っているものです。

 

seven-party

 ここで重要なのは、ネオコン派です。この図では、「(こうもり集団)」と書かれています。これについて説明します。ネオコン派とは、ジョージ・W・ブッシュ前政権で外交・安全保障政策の分野で政策を推進した人々です。彼らは911同時多発テロ事件を受けて、アフガニスタンとイラクに対して軍事力を行使しました。そして、これらの政策は大失敗であったという評価になっています。ネオコン派は元々、民主党系でジョン・F・ケネディ大統領を支持していた理想に燃える若者たちでした。ジョン・F・ケネディ大統領と言えば、日本でもイメージの良いアメリカ大統領として今でも有名ですが、彼は反共主義者として、キューバ侵攻(ピッグス湾事件)からキューバ危機を起こしたり、ヴェトナムに介入したりと、結構攻撃的な人でした。彼が暗殺された後大統領になったリンドン・ジョンソン大統領もその路線を踏襲しました。

 

 しかし、ジミー・カーター大統領になって穏健路線に転換し、これに対して、ネオコン派の人々は失望し、集団的に脱党、共和党支持に転換しました。ネオコン派を英語では、NeoconservativesNeoconと書きますが、ここで、ニュー(New)ではなく、ネオ(Neo)という言葉が使われているのが重要です。英語でNeoが使われる場合は、偽物やまがい物という意味が含まれます。ネオナチなどという言葉を思い出していただければわかると思います。彼らは、共和党に移っても、保守本流の人たちからは「あいつらは転向してきた、偽物だ」ということで、Neoが付けられたということになります。

 

 保守本流や上の図にあるリバータリアンの人たちからすると、ネオコン派は信用できない人たちということになります。また、最近で言えば、ジョージ・W・ブッシュ政権の外交、安全保障政策の失敗、更には民主党のバラク・オバマにホワイトハウスを奪われた責任者たちということにもなります。

 

 ここからは、2012年に出した拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所)に書きましたが、アメリカの外交政策の大きな流れとしてリアリズム(現実主義)とアイディアリズム(理想主義)があります。そして、民主、共和両党にそれぞれリアリズムと理想主義の流れがあります。リアリズムとは、外交において理想に走らずに、国益(国家の生存)実現を第一にするというものです。リアリズムの特徴は無理なことはしないし、穏健な方法を模索するということです。もちろん武力行使をしないということではありませんが、理想の実現やある状態を劇的に変化させることを目的にすることはありません。

 

 一方、理想主義的な流れを代表しているのが、民主党では人道的介入主義派であり、共和党ではネオコン派ということになります。人道的介入主義とは、女性やマイノリティなどの人権侵害などがある国で起きた場合、それらの人々を守るために、米軍による攻撃も辞さないというものです。現在、民主党の大統領選挙予備選でリードしている、ヒラリー・クリントン前国務長官は人道的介入派の代表格です。

 

民主党:リアリズム⇔人道的介入主義

共和党:リアリズム⇔ネオコン

 

 人道的介入主義派とネオコン派の外交、安全保障政策はほぼ同じです。ネオコン派は、反共的な立場からスタートしましたが、その後、ソ連の崩壊後には、「世界中の国々を民主化すれば、世界は平和になる。何故なら、民主国家同紙は戦争をしないからだ」という考えに基づいて、世界各国の民主化を理想に掲げました。

 

 前の方で書きましたが、ネオコン派は元々が民主党にいた人々です。ですから国内政策ではリベラルであり、これがまた共和党の保守本流の人々をイライラさせます。

 

 ここまで説明したことと現在のアメリカの政治状況を重ねて見ていきたいと思います。現在、共和党の大統領選挙予備選挙ではドナルド・トランプが大きくリードしています。トランプ旋風に対して、共和党のエスタブリッシュメントは慌てています。何とか、この旋風を抑えようとしています。それは、トランプ現象が、ポピュリズムを基礎にして起きているからです。ポピュリズムとは大衆迎合主義という側面もあります。しかし、それ以外に、「民衆がワシントンで行われている政治が余りにも自分たちの考えとかけ離れていると感じて、それに対して怒りを爆発させて、自分たちの代表者にふさわしい人物を押し立てて、ワシントンを攻撃する」という面もあります。アメリカのポピュリストとして有名なのは、1930年代に活躍したヒューイ・ロングです。フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領が「最も危険な男」と呼んだ人物です。今回のトランプ現象は、このポピュリズムが起きているために起きている現象なのです。

 

 人々が何について怒っているのかについては、このブログで前回書きましたので、ここでは繰り返しません。簡単に言ってしまえば、「アメリカらしさの喪失」に対して怒っているのです。そして、「大統領選挙で勝てなくても良いから、自分たちの怒りや不満を全身で受け止めて表現している人物であるトランプに投票する」ということになっています。

 

 彼らは共和党の支持者でありながら、共和党が大統領選挙で勝利することを求めていません。これは、党内の政治家たちを中心とするエスタブリッシュメントにとっては衝撃です。これでは政党の存在意義すら否定することになるではないか、ということになります。

 

 私が翻訳した『アメリカの真の支配者 コーク一族』(ダニエル・シュルマン著、講談社、2015年)の主人公であるコーク兄弟、チャールズ・コーク、デイヴィッド・コークは、多額の政治資金を投入することで政治に大きな影響力を行使しようとしています。彼らは、ドナルド・トランプからは目の敵にされ、彼らからお金をもらう候補者たちはトランプから侮蔑的な言葉をかけられました。

 

 共和党エスタブリッシュメントに属する富豪たちは、トランプ現象を阻止するために動こうとしています。しかし、コーク兄弟は、自分たちの政治資金をトランプ阻止のために投入しないと発表しました。これは、間接的なトランプ支持、ということが言えます。

 

 コーク兄弟の狙いを忖度すると、それは、「共和党をぶっ壊す」ということではないかと思います。そして、より具体的には、「ネオコン派を叩き出す」ということだと思います。そして、破壊の後に再生ということで、共和党を昔のように戻す、ということなのだろうと思います。ネオコン派の外交専門家たちが、トランプに対して不支持を表明する公開書簡を出しましたが、これは、こうした動きを察知しての反応だと思われます。

 

 トランプ現象をただ人々が不満をぶつけているだけと捉えるのは表層的だと思います。そこには政治思想やアメリカ自体の変容が大きく絡んでいると私は思います。

 

(終わり)




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  古村治彦です。

 

 今回は、アメリカ大統領選挙に関して、「2016年の米大統領選挙は外交問題が大きなテーマ、争点になるだろう」という内容の記事を皆さんにご紹介します。

 

 アメリカ人は外国のことに無関心だと言われます。これは確かにその通りですが、一般的に普通の人々はどこの国の人でもそこまで外国のことに興味関心を持たないものです。今年2016年は米大統領選挙が行われ、新大統領が誕生します。大統領選挙の争点はほとんどの場合、経済でした。具体的には雇用・失業問題、収入の増加と言ったことがテーマになってきました。外国のことや外交政策が最大の争点になったことはほぼありませんでした(冷戦初期は除く)。

 

 そんなアメリカ人でも、現在の中東やヨーロッパの情勢は他人事ではないようです。それは、彼ら自身の生活にテロ攻撃という形で大きな影響を及ぼすと考えるようになっているからです。

 

 何事も始めるのに遅すぎることはない、という言葉はありますが、アメリカ人が自分たちの国アメリカが外国にやってきたこと、これからやろうとしていることについてやっと目を覚ましたのは良いことかもしれません。

 

しかし、アメリカの対外政策はどちらにしても強硬なものになるということは言えるでしょう。民主党のヒラリーが大統領選挙に勝利して、きれいごとを建前にして、外国に介入していく、ということはすでに既定路線となっています。

 

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問題は外交政策なんだよ、バカ野郎(It’s the Foreign Policy, Stupid

 

大統領選挙はほとんどの場合、経済が争点となる。2016年の場合はその例外となるかもしれない

 

ブルース・ストークス(Bruce Stokes)筆

2016年1月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/01/05/its-the-foreign-policy-stupid/

 

 これまでのアメリカ大統領選挙で、外交政策が重要な問題として取り上げられたことは少ない。多くの場合、「問題は経済なんだよ、バカ野郎(it’s the economy, stupid)」ということで、経済が最重要問題となってきた。しかし、2016年の米大統領選挙は例外となるかもしれない。ホワイトハウスの主を目指すレースが過熱しつつある中で、アメリカ国民は、外交政策、特にテロリズムについて考えるようになっている。そして、有権者の多くは、2016年のアメリカが直面している最重要の問題は、経済ではなく、国家安全保障だと考えている。

 

 2011年12月、2012年の米大統領選挙の直前にピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、55%のアメリカ人たちが、失業、貧困、不平等など、経済に関する不安を最も重要な問題だと考えていた。国防やイラク戦争のような国際問題を最重要だと考えた国民は6%だけだった。2014年12月の時点では、アメリカの抱える問題について、9%の国民が外交政策を挙げ、34%の国民が経済問題を挙げた。しかし、2015年12月の時点では、32%の国民が国際問題を最重要の問題だと捉える一方、23%の国民が経済問題を最重要だと考えるという結果が出た。

 

 アメリカ人が現在の世界で懸念を持つ場合、その多くの部分を占めるのはテロリズムだ。サンベルナルディーノでの銃乱射事件が起きる直前、パリでテロ攻撃により、多くの人々が殺傷された。この時、18%のアメリカ人が、アメリカの直面している問題の中で最も深刻な問題がテロリズムだと考えているという結果が出た。2014年12月の段階では、この数字は1%であった。25%のアメリカ人は2016年にイスラミック・ステイトやイラクとシリアの戦争がアメリカにとって最大の問題となると答えている。

 

 しかし、テロリズムとイスラミック・ステイトは、人々の中で混同されているかもしれない。ロシアにおいて確立されつつある権威主義的政治体制から世界規模の気候変動まで、アメリカの存立にとっての潜在的な国際的脅威のリストについて尋ねられた場合、83%のアメリカ人がイスラミック・ステイトを「大きな脅威」だとして、リストのトップに挙げている。2014年8月の段階で、この数字は67%であった。その他の国際的な問題に関してはこれまでとそんなに変化はしていない。国際的な脅威について考える場合、アメリカ人はテロリズムとイスラミック・ステイトを混同している。

 

約6割(62%)のアメリカ人がイランの核開発プログラムをアメリカの存在にとっての深刻な脅威だと見なしている。そして、ほぼ同じ割合(59%)のアメリカ人が北朝鮮の核開発プログラムに懸念を持っている。興味深いことに、これら2つの懸念は、中国の世界大国としての勃興に対する不安(49%)やイスラエル・パレスチナ紛争(43%)を超えているのだ。

 

 今回の大統領選挙で言えば、外交政策の重要性について共和党支持者と民主党支持者との間で分裂が起きている。共和党支持者の42%、民主党支持者の24%が、アメリカが直面している諸問題の中で国際的な懸念が最も深刻だと答えている。

 

 アメリカの存立にとっての国際的な脅威に関して、同様の党派的分裂が存在する。共和党支持者、民主党支持者両方ともイスラミック・ステイトについて懸念を持っている。しかし、両者には14%の温度差がある。共和党支持者の93%、民主党支持者の79%が懸念を持っている。共和党支持者の約8割(79%)、民主党支持者の約5割(52%)が、イラクの核開発プログラムを深刻な問題だと考えている。イスラエル・パレスチナ紛争と中国の超大国としての台頭に関しては、18%の温度差が存在する。これらの問題の場合、共和党支持者の方が民主党支持者よりも懸念を持っている。

 

 この党派による違いは、テロリズムとイスラミック・ステイトに関してどのように考えるかについての違いを生み出している。

 

 圧倒的な軍事力を使用してテロリズムを抑止するか、もしくは軍事力の使用によって更なるテロ攻撃を生み出す憎悪を作り出すか、について国家は分裂している。しかし、このアメリカ国内の分裂は、深刻な党派分裂を包含している。共和党支持者の72%は軍事力の使用が解決策だと答えている。一方、民主党支持者の66%は、軍事力使用が更なるテロリズムの種となるという懸念を持っていると答えている。

 

 同様に、共和党支持者の75%がイラクとシリアにおける軍事行動について懸念を持っているが、アメリカはイスラム民兵組織を掃討することはできないと答えている。一方、民主党支持者の61%は、アメリカが中東に関与し過ぎることに懸念を持っている。

 

 アメリカの有権者が11月の大統領選挙で投票ブースに入るまでに、テロリズムやイスラミック・ステイトをはじめとする国際問題の懸念が、アメリカ国内で大きな関心を持たれ続けるかどうかは、その時の状況次第だ。その時の状況は誰にも予測できない。景気後退や国内政治のスキャンダルが人々の耳目を再び惹きつけることになる可能性もある。しかし、現在のような危機に瀕した状況の中で、外交政策の分野における「ブラック・スワン」と呼ばれるようなリスクが存在しないなどということはできない。アメリカ国内でのテロ攻撃、シリア、イラク、アフガニスタン、ロシア、中国で状況が悪化することが起きるかもしれない。2016年の米大統領選挙がこれまでの大統領選挙のように、外交政策が最重要のテーマとなっても、驚くには値しない。

 

(終わり)




 

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