古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:バラク・オバマ

 古村治彦です。

 2月に入り、事務作業や2023年4月9日に東京・御茶ノ水の全電通労働会館において、副島隆彦の学問道場が主催する定例会の準備も少しずつありでブログの更新頻度がだいぶ落ちまして申し訳ありません。もっと多くの方々にお読みいただくためには更新頻度を上げるのが最善だと思いますが、なかなか難しい状況です。ご理解をいただきまして、ご指導、ご鞭撻を賜りますよう、今後もどうぞよろしくお願いいたします。

 アメリカ外交について皆さんはどのような考えを持っておられるだろうか。ここでは第二次世界大戦後の1946年から現在までについて考えていきたいが、ソ連との二極構造の下、自由主義陣営の旗頭として、ソ連と直接戦争をすることはなかったが、ヨーロッパ、東アジア、中南米といった地域で、ソ連と戦った。影響圏をめぐる戦いだった。社会主義の人気が落ち、社会主義国の生活の苦しさが明らかになるにつれ、共産圏、社会主義圏の敗北ということになり、最終的にはソ連崩壊に至り、冷戦はアメリカの勝利となった。その間には中国とソ連の仲違いを利用して、中国との国交正常化を達成した。アメリカは世界で唯一の超大国となった。日本は先の大戦でアメリカに無残な敗北を喫したが、「反共の防波堤」という役割を与えられ、経済成長に邁進することができた。

 21世紀に入り、2001年の911同時多発テロ事件が起きた。アメリカに対する反撃、ブローバック(blowback)ということになった。アメリカが世界を支配し、管理するまでならまだしも、非民主的な国々、独裁的な国々に対する恣意的な介入(王政や独裁性が良くないというならばどうしてもサウジアラビアや旧ソ連の独裁者が支配する国々の体制転換を行わないのか)を行って、体制転換する(民主政体、法の支配、資本主義、人権擁護などを急進的に実現する)という「理想主義」がアメリカ外交で幅を利かせて、世界の多くの国々が不幸になった。私の考えの根幹はこれだ。共和党のネオコン派(ジョージ・W・ブッシュ政権を牛耳った)、民主党の人道的介入主義派(バラク・オバマ政権第一期やジョー・バイデン政権を主導する、ヒラリー・クリントンを頭目とする人々)は、「理想主義」である。彼らの源流は世界革命を志向したトロツキー主義者である。彼らは世代を超えて、世界を理想的な「民主的な国々の集まり」にしようとしている。こうしたことは拙著『アメリカ政治の秘密』で詳しく分析している。

 イラク、アフガニスタン、アラブの春などでアメリカの外交は失敗した。こうした失敗をアメリカ外交の別の潮流であるリアリズムから見れば当然のことということになる。アメリカが普通の国であればそもそも介入主義など発生しないだろう。世界帝国、超大国であるために、介入できるだけの力(パワー)を持ってしまうのである。経済力も考えれば、世界を牛耳りたいと思うのもまた当然だし、それでうまくいっていたことも事実だ。しかし、アメリカの力が強かったことがアメリカの不幸の始まりであったとも言えるだろう。「外国のことなんてどうでもよいじゃないか、自分たちの国の中で穏やかに暮らせればよいではないか」という考えを持つ人々も多くいるが、彼らの考えはワシントン政治には反映されなかった。一般国民の意思が政治に反映される機会になりそうだったのはドナルド・トランプ政権時代だったがそれもまた逆転された。アメリカはまた不幸な時代を続けていくだろう。そして、世界中が不幸を共有することになる。

(貼り付けはじめ)

アメリカはたとえアメリカ自体が止めたいと望んでも愚かであることは止められないだろう(The United States Couldn’t Stop Being Stupid if It Wanted To

-ワシントンにとって自己抑制は常に矛盾をはらんでいる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年12月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/13/the-united-states-couldnt-stop-being-stupid-if-it-wanted-to/

アメリカの「グローバル・リーダーシップ(global leadership)」を擁護する人々は、アメリカが自らを拡大しすぎ、愚かな政策を追求し、外交政策上の目標を達成できず、公然と掲げる政治原則に反したことを認めることがある。しかし、彼らはそのような行為を残念な異常事態(regrettable aberrations)と考え、米国はこうした、数少ない失敗から学び、将来においてより賢明な行動を取ることができると確信している。例えば、10年前、政治学者のスティーヴン・ブルックス、ジョン・アイケンベリー、ウィリアム・ウォールフォースは、イラク戦争が誤りであったことを認めながらも、「深い関与(deep engagement)」という彼らの好む政策がアメリカの大戦略(grand strategy)として正しい選択であることを主張した。彼らの考えでは、アメリカが良性の世界秩序を維持するために必要なことは、既存の関与を維持し、イラクを再び侵略しないことであった。バラク・オバマ前大統領が好んで言ったように、「愚かな行為(stupid shit)」を止めればいいのだ。

ジョージ・パッカーが最近『アトランティック』誌で発表したアメリカのパワーの擁護は、この使い古された論法の最新版となっている。パッカーは論稿の冒頭で、アメリカ人は「海外での聖戦(foreign crusades)をやりすぎ、そして縮小(retrenchments)をやりすぎ、普通の国なら絶妙なバランスを取ろうとするような間合いを決して取らない」と主張し、明らかに誤った比較をしている。しかし、世界中に700以上の軍事施設を持ち、世界のほとんどの海域に空母戦闘群を配備し、数十カ国と正式な同盟関係を結び、現在ロシアに対する代理戦争、中国に対する経済戦争、アフリカでの対テロ作戦、さらにイラン、キューバ、北朝鮮などの各国政府の弱体化と将来の打倒に向けた果てしない努力をしている国(アメリカ)が、過度の「縮小(retrenchment)」を非難されることはないだろう。パッカーの考える「良いバランス(fine balance)」、つまり、暑すぎず、寒すぎず、ちょうど良い外交政策とは、アメリカが世界のほぼ全域で野心的な目標に取り組むことである。

残念ながら、パッカーをはじめとするアメリカの優位性(U.S. primacy)を擁護する人々は、アメリカのような強力な自由主義国家が外交政策の野心を制限することがいかに困難であるかを過小評価している。私はアメリカのリベラルな価値観を好むが、リベラルな価値観と巨大なパワーの組み合わせは、アメリカがやり過ぎること、むしろやり過ぎないことをほぼ必然としている。もしパッカーが絶妙なバランスを好むのであれば、介入主義的な衝動(interventionist impulse)の方向性についてもっと心配する必要があり、それを抑制しようとする人々についてはあまり心配する必要はないだろう。

なぜアメリカは自制を伴う(with restraint)行動を取ることが難しいのだろうか? 第一の問題は、リベラリズム(1liberalism)そのものだ。リベラリズムは、全ての人間は確固とした自然権[natural rights](例えば「生命、自由、幸福の追求」)を持っているという主張から始まる。リベラリズムを信奉する人々にとって、政治的課題の核心は、我々を互いから守るのに十分なほど強力でありながら、同時に人々の権利を奪うほどには強力ではなく、チェックされる政治制度(political institutions)を作り出すことである。リベラルな国家は、政治権力の分割、選挙を通しての指導者の責任追求、法の支配、思想・言論・結社の自由の保護、寛容の規範の重視によって、不完全ながらもこのバランス感覚を獲得している。従って、真のリベラル派にとって、唯一の合法的な政府とは、これらの特徴を持ち、それを用いて各市民の自然権を保護する政府なのだ。

しかし、これらの原則は、全ての人間が同一の権利を有するという主張から始まっているため、リベラリズムは、単一の国家や人類の一部分にさえも限定することができず、その前提に一貫性を保つことができない。アメリカ人、デンマーク人、オーストラリア人、スペイン人、韓国人には権利があるが、ベラルーシ、ロシア、イラン、中国、サウジアラビア、ヨルダン川西岸地区、その他多くの場所に住んでいる人々には権利がない、と宣言できる真のリベラル派は存在しない。このため、自由主義国家はジョン・ミアシャイマーが言うところの「十字軍の衝動(crusader impulse)」、つまり、パワーの許す限り自由主義原則を広めたいという願望に強く傾く。ところで、マルクス・レーニン主義であれ、全人類を特定の信仰の支配下に置くことを使命とする様々な宗教運動であれ、他の様々な普遍主義的イデオロギー(universalist ideologies)にも同じ問題を持っている。ある国とその指導者が、自分たちの理想が社会を組織し、統治するための唯一の適切な方法であると心から信じている場合、その理想を受け入れるように他者を説得し、強制しようとする。少なくとも、そうすれば、異なる考えを持つ人々との摩擦(friction)は避けられない。

第二に、アメリカは強大なパワーを有しているため、自制して行動することが困難である。1960年代、連邦上院軍事委員会の委員長を務めたリチャード・B・ラッセル元連邦上院議員は、「もし私たちがどこに行っても、何をするのも簡単ならば、私たちは常にどこかに行き、何かをすることになるだろう」と述べている。世界のほぼ全域で問題が発生した場合、アメリカは常にそれに対して何かしようとすることができる。弱い国家は同じ自由度を持たず、したがって同じ誘惑に直面することもない。ニュージーランドは健全な自由民主国家であり、多くの立派な資質を備えているが、ロシアのウクライナ侵攻、イランの核開発、中国の南シナ海での侵略に対してニュージーランドが率先して対処するとは誰も考えない。

対照的に、米大統領執務室に座る人は、問題が発生した時、あるいは好機が訪れた時に、多くの選択肢を手にすることができる。米大統領は、制裁(sanctions)を科す、封鎖(blockade)を命じ、武力行使の脅し(あるいは直接の武力行使)を発し、その他多くの行動を取ることができ、しかもほとんどの場合、アメリカを、少なくとも短期的には、深刻な危険に晒すことはない。このような状況下で、行動の誘惑に抗することは極めて困難である。特に、いかなる自制的行動も意志の欠如、宥和的行動(act of appeasement)、アメリカの信頼性への致命的打撃として非難する批判者の大群が控えている場合、なおさらである。

第三に、米国は70年以上にわたって世界のパワーの頂点に君臨してきたため、現在、その卓越した世界的役割を維持することに既得権(vested interests)を持つ官僚や企業の強力な勢力が存在している。ドワイト・アイゼンハワー元米大統領が1961年の大統領退任演説で警告したように、第二次世界大戦と冷戦初期の強力な「軍産複合体(military-industrial complex)」の出現は、アメリカの外交政策をより軍事的で介入的な方向に永久に歪曲させる重大な進展があった。その影響は、特に外交政策シンクタンクの世界において顕著であり、その大部分はアメリカの関与を促進し、アメリカ中心の世界秩序(U.S.-centered world order)を擁護することに専念している。その結果、数年前にザック・ボーチャンプが指摘したように、「ワシントンの外交政策の議論は、ほとんどが中道と右派の間で行われる傾向にある。問題は、アメリカがまったく武力を行使しないかどうかよりも、どの程度武力を行使すべきなのかということである」ということである。

第四に、以前にも述べたように、リベラルなアメリカは、他の多くの国にはない方法で外国の影響にオープンである。外国政府は、ワシントン内部、特に連邦議会で自分たちの主張を通すためにロビー活動会社を雇うことができるし、場合によっては自分たちのために行動を起こすよう圧力をかけてくれる国内団体に頼ることもできる。また、アメリカの大義(cause)を推進するシンクタンクに多額の寄付をしたり、外国の指導者がアメリカの有力な出版物に論説や記事を掲載し、エリートや大衆の意見に揺さぶりをかけたりすることも可能である。もちろん、このような努力は常に成功するわけではないが、正味の効果は、アメリカの行動を減らすのではなく、むしろ増やすように促す傾向がある。

更に言えば、アメリカが新しい同盟諸国、「パートナー」、「特別な関係(special relationship)」を加えるたびに、アメリカの耳元でささやく外国の声の数は増えている。かつて、アメリカの対ヨーロッパ政策を形成しようとするNATOの同盟国は11カ国だったが、現在は29カ国である。これらの国の中には集団防衛(collective defense)に多大な資源を提供している国もあるが、その他の国の中には弱く脆弱で、対等なパートナーというよりは保護国(protectorates)と見るのが適切であろう国も存在する。当然のことながら、これらの国々は、アメリカが公約を守り、自国を保護するよう声高に主張し、グローバルパワーとしてのアメリカの信頼性が危険に晒され、より穏やかな世界秩序への希望は、彼らの助言を受けることにかかっていると警告している。多くのクライアント国によれば、アメリカは深く関与すればするほど、更により深く関与し続けなければならない。

誤解しないでいただきたい。私は同盟諸国の懸念を無視したり、彼らの助言を頭ごなしに否定したりすることを主張しているのではない。同盟諸国の指導者たちは、現代の世界規模の諸問題についてしばしば賢明なことを言うし、アメリカが自国内からの助言だけに頼らず、フランスやドイツの警告に耳を傾けていれば、より良い結果になったであろう例を考えるのは簡単だ(イラクについてはどうだろうか?)。しかし、外交政策分野の「エリートたち(Blob)」の多くが持つ介入主義的衝動(interventionist impulse)と、アメリカの保護と援助を望む国々が外交政策に関する議論に熱心に挿入する利己的な助言の間には、依然として不健康な共生が存在し得る。驚くべきことではないのだが、アメリカの海外パートナーは通常、アメリカに自分たちのためにもっとやってもらうことを望み、アメリカが少し手を引くことを勧めることはほとんどない。

このような様々な要素を組み合わせると、なぜアメリカが愚かなことを止めるのが難しいのかが分かるだろう。イデオロギー、パワー、官僚的な勢い、そしてアメリカのパワーを自国の目的のために利用しようとする他国の欲望が相まって、何かをしたいという強力な原因を生み出し、誘惑が生じた時に明確な優先順位を決めてそれを守ることができない。パッカーや他の人々が望んでいると思われる絶妙なバランスを達成するためには、このような傾向を擁護したり強化したりするのではなく、それに対抗するためにもっと多くのことがなされる必要がある。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 「ウクライナ戦争はアメリカ(とNATO加盟の西側諸国)の火遊びが引き起こした」「NATOの東側への拡大とウクライナの実質的なメンバー入りと軍備増強がロシアを刺激して戦争にまで発展した」というこれらの主張が説得力を持つようになっている。

 西側諸国がウクライナをおもちゃにして、対ロシア強硬姿勢の最前線としたことで、ウクライナの運命は決した。ウクライナは早晩ロシアと戦わされる運命になっていた。そのために傀儡として、ヴォロディミール・ゼレンスキーが大統領になり、アメリカや西側諸国から中途半端ではあるが、大規模な軍事支援が行われていた。「ロシアがどこで怒り出すか、一つ試してみようじゃないか」という西側諸国の指導者たちの火遊びの結果が、ウクライナ戦争という大火事である。

 アメリカは大火事になっても、自分で何とかしようとはしない。「ありゃ困ったな」という感じである。アメリカ軍を派遣してロシア軍をウクライナから追い出すことはしないし、重要な、ロシア軍を圧倒できるような武器を渡すこともしない。戦闘機を渡さないというのは、ウクライナ軍が制空権を取ることができないということになって、結果として有利に戦いを進めることができないということになる。

 アメリカはロシアが核兵器を使ってウクライナ国内を攻撃してくることを恐れている。第三次世界大戦が起きてしまうことを恐れている。そして、アメリカを「戦争当事国」に認定して核ミサイルでアメリカ本土を攻撃してくることを何よりも恐れている。「アメリカ国民の生命と財産を守る方がウクライナ防衛よりも大事だ」ということになる。

 ウクライナの運命は日本の運命である。「ウクライナの次は台湾だ」というスローガンは間違っている。「ウクライナの次は日本だ」ということの方がより正確だと私は考える。「ウクライナがロシアにぶつけられるように仕向けられた結果としてのウクライナ戦争」を敷衍するならば「日本が中国に仕向けられた結果としての日中戦争」ということになる。日本はウクライナのようになってはいけない。最近の自民党公明党連立政権(+与党補完勢力の日本維新の会)は、先制攻撃の容認と軍事予算の倍増を進めている。これは日中戦争の下準備ということになる。日本国民は騙されることなく、戦争に徹頭徹尾反対しなければならない。
 下記論稿に出てくるジョー・バイデン政権の外交政策分野のキーパーソンたちについては拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』を読んでいただくと理解が深まると思う。是非手に取って読んで欲しい。

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バイデンのウクライナに関するソフトな泣き所(Biden’s Soft Underbelly on Ukraine

-バイデン政権は、プーティンを刺激して第三次世界大戦の危険を冒すことを恐れて、ウクライナに対してあまり手を貸さない口実になっている。

The Biden administration’s fear of provoking Putin and risking World War III has become an excuse to do less for Ukraine.

ダニエル・プレトカ筆

2022年10月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/12/biden-ukraine-support-putin-armageddon/

2022年の夏の終わり、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は、ジョー・バイデン政権が対ロシアでウクライナ支援を熱心に進めることを改めて宣言した。しかし、「大統領が提供する用意がないと言っている能力もある」とも断言した。その1つが射程300キロの長距離ミサイルだ。「アメリカの重要な目標はウクライナを支援し防衛することだが、もう1つの重要な目標は、第三次世界大戦への道を歩むような状況に陥らないようにすることだ」とサリヴァンは述べた。

数週間後、バイデン政権の「複数の高官」は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の盟友アレクサンドル・ドゥーギンの娘の殺人事件の調査結果を漏洩することに成功した。ダリア・ドゥギナは自動車爆弾で死亡した。ウクライナ政府関係者の一部は、この攻撃はキエフの「ナチス」に対する敵意をかき立てるためのクレムリン側の偽旗作戦(false flag operation)の可能性を示唆した。しかし、「複数のアメリカ政府高官」は、「攻撃はウクライナ人によるものだ」と主張し、「アメリカはこの攻撃に関与していない」と言い添えた。

この2つの出来事は、バイデン政権における厄介な底流(undercurrent)を裏付けている。ウクライナを完全に支援することへの躊躇(hesitation)、重要な兵器の遅配、そしてアメリカ大統領とそのスタッフが繰り返し第三次世界大戦の脅威と表現してきたものに対するほとんど病的な恐怖心などである。このような躊躇は、ウクライナにとってより多くの死者と勝利への道のりの遅れを意味すると米連邦議会の国家安全保障担当者は私に語っている。更に悪いことには、紛争が長引き、コストが上昇し続けた場合、ホワイトハウスはウクライナにモスクワとの交渉による和平を求め、例えば、キエフがクリミアを奪還する前に、あるいはもっと早く戦争を終わらせるように圧力をかけ始めるという深刻なリスクがあることを示唆している。

今年(2022年)の初めの頃はもっと希望に満ちていた。2月のロシア侵攻の数週間前、バイデン政権は、戦争を引き起こしたとしてウクライナを非難するロシアの計画、動き、陰謀に関する情報を狡猾に機密扱いで解除した。この心理作戦(psychological operations)は、冷戦時代の勢いを彷彿とさせる見事な振り付けで、バイデン政権の国家安全保障ティームは、これから起こるであろう事態に備え、本番に臨んでいることを約束するものであった。しかし、奇妙なことに、実際のところ、そうではなかった。

問題は侵攻発生前から明らかだった。2021年のウクライナとの国境でのロシアの軍備増強(最終的に2022年の侵攻に使われる装備の準備)する一方で、バイデン政権は6000万ドルのアメリカ軍の軍備縮小(ミリタリー・ドローダウンズ、military drawdowns)を取り止めた。ドローダウンズはアメリカ政府が既存の軍備貯蔵から軍備品を輸出することを認めるものだ。サリヴァンは、取り止めを否定した後、「ロシアがウクライナに更に侵攻する場合」には、ドローダウンズを許可すると認めた。そして、2021年8月にようやく承認された。2021年9月のウクライナ大統領ヴォロディミール・ゼレンスキーのワシントン訪問のための決定であったと考えられる。

秋までに、バイデン政権は以前のように、ロシアを刺激するとして、スティンガー・ミサイルの納入を阻止した。2021年12月には、2億ドルの供与が阻止された。12月末には、バルト諸国がウクライナにジャベリンとスティンガーを提供する承認を留保した。

2022年1月までに、バイデン政権は、政権内部のある方面(国防総省と聞いた)から出た「ロシアを怒らせるな(don’t anger Russia)」というシナリオを完全に信じ込み、東ヨーロッパでの戦力削減を考えていた。翌2月には戦争が始まり、ウクライナへの情報共有や軍事支援は、ホワイトハウスの弁護士たちが、アメリカを戦争の当事者(party to the war)にしかねないと主張し、議論されることになった。

2022年3月、バイデンはポーランドからウクライナへのMiG-29戦闘機の移送を阻止した(ウクライナには現在でも十分な航空戦力がない)。2022年6月、数ヶ月の遅れの後、バイデン政権は画期的な高機動砲ロケットシステム(ハイマース、HIMARS)を納入したが、米国防総省がアメリカの備蓄をさらに枯渇させることに難色を示したため、わずか16台しか納入しなかった。先週、米国防総省は2年以内にさらに18基のハイマースを納入すると発表した。

ホワイトハウスがロシアとの心理戦(mind games)で見せた戦略的技術(strategic skills)とはほど遠く、ウクライナの軍事防衛の驚くべきサクセスストーリーの各章は、もめごとに満ちている。ホワイトハウスはなぜか先のことを考えず、アメリカの在庫や予算が要求するよりもゆっくりと軍備を縮小し(連邦上下両院の軍事委員会の民主・共和両党の怒りを買った)、20億ドル以上の縮小権限を失効するまで放置している。

実際のところ、ウクライナ軍が米国防総省の期待(決して高くない)を超えるような行動を取る場合、ホワイトハウスは次の段階に進むために説得(persuasion)と口うるさい対応を要求してきた。一歩前進する度に、今度はやりすぎだと手をこまねいているうちに、慎重さ(prudence)が麻痺してしまったのだ。

バイデン政権の擁護者たちは、NATO諸国の中でウクライナに支援を約束しているのはアメリカだけであり、ドイツのオラフ・ショルツ首相の不安定な関与と比較するとバイデン政権は積極的な軍事主義者(positively militant)に見えると主張している。しかし、常に臆病なヨーロッパ諸国とアメリカを並べることは問題ではない。むしろ、ウクライナのためにアメリカができることと、バイデン政権が実際に行っていることを比較する時にこそ、疑問が生じるのである。

バイデン政権の国家安全保障ティームによる答えは、第三次世界大戦(World War III)の見通し、あるいはバイデン大統領が最近民主党の資金調達パーティーで「ハルマゲドン(armageddon)」と表現したものである。ホワイトハウスと国防総省の高官たちは、核兵器のシナリオが「あり得る(probable)」とは考えていないことを強調している。それでも、マスコミはサリヴァンやコリン・カール米国防次官など政府高官たちの言葉を引用して、エスカレーションを懸念する声で一杯だ。しかし、なぜなのか? 世界大戦は本当に起こるのだろうか? プーティンの核の脅威(nuclear threats)は現実的なものか? それとも、「ハルマゲドン」や「第三次世界大戦」は、ホワイトハウスがウクライナの全面的な防衛を避けるために抱えている詭弁を弄する論客たち(straw men)なのだろうか?

アメリカ大統領の最重要の仕事は、アメリカ国民の安全と安心(safety and security)を守ることである。バイデンは、最悪のシナリオを考え、それが実現してしまうことを避けることが正しい。プーティンの脅しに耳を傾け、それを真剣に扱うのは正しい。しかし、ロシア軍がフルダ・ギャップ(Fulda Gap、訳者註:ヘッセンとフランクフルトの間にある地域)から押し寄せるどころか、実質的にロシア軍よりも小規模なウクライナ軍を打ち負かすことができないのはもはや明白になっている。

プーティンは、潜水艦に搭載したミサイルを使ってウクライナに戦術核攻撃を行う可能性があるだろうか? その可能性はあるだろう。しかし、アメリカや他のNATOの同盟諸国に対してはどうだろうか? なぜその可能性はないと言えるだろうか? それは非合理的なだけでなく、非常識な破壊行為であるからだ。最も平和主義的な指導者でさえもロシアに対応して攻撃せざるを得ないことになるだろう。

しかしながら、このような最悪の事態を想定した夢物語(worst-case fever dreams)は、終末(apocalypse)を明確に予見しているというよりも、バイデン政権がクレムリンを「刺激(provoking)」することを恐れ、ウクライナに対してあまり手を出さない理由の1つになっているように思われることが多くなってきた。そして、この仮定(supposition)の真実性を疑うに足る十分な歴史がある。

バイデンの現在の国家安全保障ティームのメンバーの多くは、バラク・オバマ政権でその地位を確立した。サリヴァンは当時のバイデン副大統領の国家安全保障問題担当副大統領補佐官を務めた。アヴリル・ヘインズ国家情報長官は、オバマ大統領の下で国家安全保障問題担当大統領次席補佐官とCIA副長官を務めた。現国務長官のアントニー・ブリンケンは国務副長官を務めた。バイデン副大統領(当時)の補佐官を務めたサリヴァンの後を継いだのは、現在の国防次官(政策担当)であり、現在ではウクライナに関する重要な意思決定者であるコリン・カールである。ウクライナとロシアに関してオバマの安全保障ティームを支配していたのと同じ考え方が、現在バイデン政権を支配しているのは何ら不思議ではない。

クリミア半島のロシア併合をもたらし、2022年の戦争を予感させることになった、2014年のロシアのウクライナ侵攻の後、オバマ政権は、キエフと米連邦議会の両方からの嘆願をはねつけ、ウクライナに意味のある効果を持つ軍事支援をすることを拒否し続けるだけのことだった。2014年3月、アメリカ軍援助の最初の支援物資は、30万食の調理済み食品だった。ホワイトハウスは、「ウクライナ軍の力がロシア軍と同等まで引き上げられるシナリオはないだろう」として、ウクライナにとって「武力行使は望ましい選択肢ではない(use of force is not a preferred option)」と断言した。その後、2014年9月に暗視スコープと毛布が支援物資として提供された。

トランプ政権は、オバマ大統領のウクライナ向け重要装備の禁止を撤回したが、210基のジャベリンミサイルと37基のランチャーは、モスクワに対する「戦略的抑止力(strategic deterrent)」としてのみ使用し、箱に入れておくことが要求された。ドナルド・トランプ大統領も、バイデン一家に関する情報をゼレンスキーから提供されることを期待しながら、2ヶ月近く援助を遅らせた。

トランプ政権の逆転劇の余波を受けた後でさえも、発足したばかりのバイデン政権はウクライナへの子押下的な軍事援助を強化することに慎重であった。2022年2月の『ジ・アトランティック(The Atlantic)』への寄稿で、アレクサンダー・ヴィンドマン退役米陸軍中佐(悪名高いゼレンスキー・コールの件でトランプ時代のホワイトハウスを劇的に辞めた)は、バイデンを「プーティンにフリーハンドを与えた」と非難し、「パトリオット対空ミサイルやハープーン対艦ミサイルといった高度な兵器システムのウクライナへの提供を拒否したが、それはウクライナ軍がそれらを扱うほど高度ではないと判断したためだ」と述べている。そして、それは戦争が始まる前のことである。

共和党が連邦下院(そしておそらく連邦上院も)で過半数を獲得する可能性があるため、更に複雑な事態が予想される。共和党の幹部の多くがホワイトハウスにウクライナへの武器供与のスピードと質を上げるよう求めている一方で、中間選挙後に更に増えるであろう少数派が、ウクライナのために使われる銃弾や予算に反対する声を上げることになるであろう。その少数派の中に、更に自制を主張する政権側のカウンターパートがいるのだろうか?

ウクライナ政策の方向性は、週ごと、月ごとの漸進主義(incrementalism)を除けば不明確である。しかし、バイデンのパターンは明確で、ウクライナへの武器供与のペースと質を上げ下げし、プーティンを怒らせる可能性のあるものを調整し、更に再調整している。そして、ウクライナでの戦術核攻撃に対するバイデンの恐怖(現実か政治ドラマの内容かは別として)が彼の想像力をさらに支配するにつれて、彼は虎を突っつくことについてより一層心配するようになる。

どの時点で、大統領の懸念は、ヘンリー・キッシンジャーのハイパーリアリズムな助言に従って、紛争を凍結し、交渉のテーブルにつくようキエフへの圧力を強めるように指示するだろうか? それは分からない。バイデンはどの時点で、ウクライナに対する戦後復興支援(既に数千億ドルと見積もられている)の見通しを活用し、完全勝利の前に戦争を終わらせるようウクライナに強制するようになるのだろうか? もしかしたら、バイデン大統領はそうしないかもしれない。

しかし、バイデンの国家安全保障ティームの歴史、資金援助と武器売却の証拠、そしてバイデン大統領自身のこれまで以上に困惑したレトリックは、オバマ時代のウクライナ政策の亡霊がますます大きくなり、ウクライナの自由勢力への支援がこれまで以上に制約されることを示唆している。

※ダニエル・プレトカ:アメリカンエンタープライズ研究所名誉上級研究員、ポドキャスト番組「一体全体何が起き居ているのか?(What the Hell is Going On?)」共同司会者。ツイッターアカウント:@dpletka

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ジョー・バイデン大統領のワシントンDCにある古い事務所とデラウェア州ウィルミントンにある自宅ガレージから、バラク・オバマ政権の副大統領を務めていた時代の政府機密文書が発見された。発見は昨年11月2日の中間選挙直前であったが、アメリカ政府はこの事実をすぐには発表せず、今年に入ってCBSニューズがスクープ報道して、それに追随する形でホワイトハウスは事実として認めた。

 ヒラリー・クリントンが国務長官時代に私的なEメールアドレスと私的なサーバを使って、機密情報を含む公的な情報をやり取りしていたこと、ドナルド・トランプ前大統領の邸宅からも政府機密文書が発見されたこと、そして、今回のバイデン大統領の事務所と自宅から機密文書が発見された。子のようなことが続くというのは、アメリカの公文書管理に関して緩みが出ているということになるだろう。そして、公文書のほとんどは大した中身のものではなくて、あってもなくても良いものがほとんどということなのだろうと推察される。

 バイデン政権にとっての問題は、現在、連邦下院で過半数を握っている共和党が、バイデン大統領と息子のハンター・バイデンのウクライナとの関係について追及しているが、見つかった公文書の中にウクライナ関連のものがあったということである。これは、共和党側からすれば、バイデン父子がウクライナを「個人所有」「私有化」していた論理構成で攻勢をかけるということになる。

 中間選挙の前に公文書発見が公表されなかったのは、ヒラリー・クリントンに結び付けられ、ヒラリーの二の舞となることを避けたかったという意図があったのは間違いないところだ。これが選挙前に発表されていたら、ヒラリーのEメール問題に絡められ、「Lock Him Up !(彼を逮捕せよ!)」というスローガンが全米各地で叫ばれていたことだろう。民主党側としては、この問題を大きくしたくないところだろう。しかし、政治とはけたぐり合いであり、より過激に言えば殺し合いである。どんな材料でも相手を攻撃できるとすれば利用する。利用されないように問題を封じ込めるという守りも必要だ。

 その守りが甘ければ、蟻の一穴から堤防が崩壊するということが起きる。バイデンのホワイトハウスは守りが甘いということになる。特に「きまじめ」「きちんとしている」ということを売りにバイデンは大統領に当選しているので、このような問題は意外なダメージを与えることになる。

(貼り付けはじめ)

更に5つの機密文書がバイデンのウィルミントンの自宅から発見と弁護士たちが発言(Five more classified documents found at Biden’s Wilmington home, lawyer says

ブレット・サミュエルズ筆

2023年1月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3813424-five-more-classified-documents-found-at-bidens-wilmington-home-lawyer-says/

ホワイトハウスは土曜日、ジョー・バイデン大統領の副大統領時代の機密文書が、木曜日にデラウェア州ウィルミントンのバイデンの自宅で更に5通発見されたと発表した。

バイデン大統領特別顧問であるリチャード・サウバーは声明の中で、水曜日の夜にバイデンの自宅のガレージに隣接する部屋で1通の機密文書が発見されたと述べた。その文書を発見した弁護士は、セキュリティクリアランス(機密文書取扱適格性)を持っておらず、結果として捜索を一時中断したとサウバーは述べた。

セキュリティクリアランスを持っているサウバーは、司法省(DOJ)への文書の転送を促進するために木曜日の夜にウィルミントンに到着した。

サウバーは「同行した司法省の職員に機密文書を移している間に、一緒にあった資料の中からさらに5ページ、合計6ページの分類記号が発見された。同行した司法省の職員はすぐにそれらを手に入れた」と述べた。

5通の資料が更に発見されたことで、バイデンの古い事務所とウィルミントンの自宅で発見された機密表示のある資料の数は、およそ20通になった。バイデンは金曜日の夜にウィルミントンの自宅に到着した。バイデンは頻繁に週末を自宅で過ごしている。

サウバーは、追加の質問について、この問題を今後検討するために木曜日に任命された特別検察官に照会し、ホワイトハウスが特別検察官に協力することを改めて表明した。

サウバーは声明の中で次のように述べた。「大統領の弁護団は、ペンシルヴァニア大学バイデンセンターの文書を公文書館に、ウィルミントンの自宅にある文書を司法省に提供するために、直ちに自発的に行動した。私たちは発見された文書について、どのように判別され、どこで発見されたか、具体的な詳細について公表した」。

バイデン大統領の弁護団は11月2日、ペンシルヴァニア大学の名誉教授を務めていたバイデンが2017年から2019年にかけて使っていたワシントンDCの事務所で、機密事項が記されたおよそ10通の書類を発見した。その発見は、CBSニューズが報道した後、月曜日にホワイトハウスによって事実確認がなされた。

水曜日には、2カ所目で更なる文書が見つかったと報じられた。ホワイトハウスは木曜日、事務所での文書発見後、弁護士がデラウェア州ウィルミントンとレホボトビーチにあるバイデンの自宅を捜索し、バイデンのウィルミントンの自宅ガレージで機密資料を発見し、さらに隣の部屋でも1通の文書を発見したことを確認した。

5つの追加文書は木曜日の夕方に発見されたが、土曜日の朝まで調査結果は公表されなかった。

ホワイトハウスは、このプロセスに関する質問について、司法省へ注意が向くように何度も逸らした。メリック・ガーランド司法長官は、文書の取り扱いに関する調査を担当する特別検察官(special counsel)を任命した。

しかし、バイデン政権に対しては、調査結果について国民に開示するのが遅いという批判を浴びている。

バイデン大統領の個人弁護士であるボブ・バウアーは、土曜日に発表した声明で、「本職は適切な場合には、公共の透明性の重要性と、調査の完全性を守るために必要な確立した規範と制限のバランスを取ろうとした」と述べました。

バウアーは「これらの考慮は、捜査が進行中の間、捜査に関連する詳細の公開を避けることを必要とする。定期的な情報公開は、当局が新しい情報を得る能力を弱めるか、状況が進展するにつれて情報が不完全になる危険性がある」と付け加えて述べた。

バイデン大統領は、副大統領時代の機密文書が見つかったことについて驚いていると述べ、政府の機密資料の取り扱いについて真剣に受け止めていると繰り返し述べている。

バイデン大統領は、自宅のガレージは施錠されていると述べており、ある時点で、文書のいくつかは彼の個人的な図書館で見つかった可能性があると示唆した.

今回の特別検察官の任命により、直近の2名の大統領が機密文書をどのように扱ったかを審査する特別検察官が2人存在することになるが、それぞれのケースの内容は大きく異なっている。

ガーランド司法長官は11月、トランプ前大統領の機密資料の取り扱いに関する調査を監督する特別検察官を任命した。連邦政府当局は昨年、トランプ前大統領のフロリダ州の邸宅で、最高機密と記された文書を含む数百点の政府機密資料を発見した。

トランプ大統領と彼のティームが数カ月にわたって捜査当局の捜査活動を妨害し、国立公文書館が求める文書の引き渡しに協力しなかったため、FBI8月にトランプの邸宅の式内を捜索した。
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民主党はバイデンに関する議論がクリントンのEメール問題の再来となるのではないか危惧している(Democrats worry Biden controversy will be Clinton emails repeat

エイミー・パーネス筆

2023年1月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3812626-democrats-worry-biden-controversy-will-be-clinton-emails-repeat/

民主党は、ジョー・バイデン大統領のデラウェア州ウィルミントンの自宅と前事務所で見つかった機密文書をめぐる論争が、予想される再選キャンペーンに大きく立ちはだかることを懸念しているようだ。

民主党側は、バイデン大統領がこの問題を克服できると確信していると述べる一方で、多数の機密文書の一斉公開が、選挙戦開始を控えた大統領にとって問題を複雑にしているとも述べている。

非公式の場では、民主党側はバイデンが何が起こったかを説明し、2016年の民主党大統領候補ヒラリー・クリントンのメール論争(元国務長官クリントンが政府の仕事をする際に私用メールアカウントを使用していたことを認めた)と比較することがどれほど厳しいことになるだろうかと考えている。

また、2022年8月に機密文書が押収されたフロリダ州の邸宅をFBIが捜索したことをめぐり、トランプ前大統領に対する民主党の攻撃を複雑化させ、共和党に贈り物を与えることになる。

この問題について率直に話すために匿名を条件にした民主党系のあるストラティジストは次のように語っている。「これは大統領にとってかなり大きな問題になるだろう。共和党は常にスキャンダルを煽動するのが得意で、ここでのバイデン大統領の状況はトランプに関わる状況とは全く異なるにもかかわらず、彼らはこれが大きな問題であるかのように行動するだろう」。

民主党は内心ではこの問題の存在と重要性を認めているが、公の場ではトランプとバイデンの状況は劇的に異なると反論している。

民主党系ストラティジストのヴェテランであるロデル・モリノーは「リンゴとオレンジ位に違うのだ」と語った。同時に、民主党は「共和党がこれをウォーターゲート事件以来の大スキャンダルに仕立て上げることに対して徹底的に準備する必要がある」と警告を発した。

モリノ-は「この事件は確実な武器ではないが、共和党側は試してくるだろう」と述べた。

連邦下院監視・説明責任委員会の共和党側委員たちは今週、バイデンが所有していた機密文書について調査を開始した。

共和党全国委員会(RNC)は今週、プレスリリースやソーシャルメディア上で、バイデンが自家用のコルヴェットを自宅のガレージにバックで入れている映像ファイルの公開などこの話題に多くのエネルギーを注いでいる。「これは、ジョー・バイデンが機密文書を隠していた、鍵のかかったガレージの映像だ」と、共和党全国委員会のリサーチアカウントからツイッター上に投稿されたものもあった。

テッド・クルーズ連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)はツイッターで、2016年に進行中のクリントンの問題と冗談交じりに結びつけた。「ビッグストーリーが明日やってくる。ヒラリーのサーバもジョーのガレージにあった」とジョークを述べた。

木曜日と金曜日、記者たちは、このニューズがバイデンの再選出馬の決断に影響を与えるかどうか政権関係者たちに厳しく質問した。

金曜日に行われたホワイトハウスの記者会見で、大統領上級顧問ケイシャ・ランス・ボトムズ(公共関与担当)は、「機密文書の発見が再出馬の決断に影響するか」と記者団から質問された。

ボトムズは「そのような質問があったことは大統領にお知らせする。大統領自身がこの質問について話すだろう」と答えるにとどめた。

機密文書の発見がバイデン大統領の再出馬の決断に影響を与えるかどうか質問されたホワイトハウスのアンドリュー・ベイツ副報道官は「それはない」と答えた。

ベイツは「バイデン大統領は、司法省の独立性を尊重し、政治から切り離すという約束を守っている 。バイデン大統領の政策が評価され、民主党大統領として60年ぶりの中期選挙の好結果をもたらした後も含めて、出馬の意向を彼から直接聞いているはずだ」とも述べた。

ベイツは次のように述べた。「インフレ率の低下、過去50年間で最低の失業率、アメリカ国内の雇用の回復、薬剤費の引き下げなど、全て先週だけのことですが、大統領の関心はアメリカの家族のためにさらなる進歩を遂げることだ。また、連邦下院共和党のヴィジョンである富裕層の減税のための中間層への増税、インフレの悪化、中絶の禁止などに直面している」。

2020年の大統領選挙でバイデン選対に参加したある側近は、もし機密文書の開示が問題になければ、共和党は何か別のことで大統領を攻撃しているだろうと語った。しかし、文書問題でバイデンを追及することは、同じテーマでトランプがお荷物になっているため、彼らにとっては負け戦になる。

この側近は、トランプが何ページもの公文書を所有しいて、それを提出するようにというFBIの要求になぜ抵抗したのかという疑問に対して共和党は答えるのが難しいはずだと述べた。この側近はまた、中間選挙で実証されたように、誰がより法律を守っているかで争うことは共和党にとって勝ち目のない状況になると述べ、FBIへの資金提供拒否、1月6日の連邦議事堂への侵入者の擁護、2020年大統領選挙結果についての陰謀論を指摘した。

最終的には、有権者たちはインフレ率の低下を含む問題にもっと関心を持つだろうとこの側近は語った。

機密文書論争が起こる前、バイデン大統領と側近たちは一連の良いニューズの流れに乗っていた。

それは、中間選挙が予想以上に成功を収め、民主党が連邦上院の過半数を握り、2024年の大統領再選に向けてバイデンの地位が強化されたからだ。

共和党は、2024年に誰が党を率いるべきか、党はトランプから脱却する必要があるのか、といった議論に分断されているように見える。先週の連邦下院議長選挙も共和党内の分裂を浮き彫りにした。

バイデンは世論調査の数字を少しずつ上げ、インフレの鈍化など経済も改善の兆しを見せている。

こうした一連の良いニューズは、バイデンが大統領選への再出馬を表明する準備として、幸先のよいスタートを切ることになった。

しかし、バイデンが機密文書を所持していることが、最初はワシントンのかつてのオフィスで、その後ウィルミントンの自宅ガレージ内で発見されたことから、民主党は神経質になっている。木曜日の特別検察官の任命は更に不安を煽った。

木曜日の夜、MSNBCに出演したバイデン大統領の元報道官ジェン・サキは、その不安の一端を口にした。

サキは「誰も特別検察官任命を望んでいない。大統領選に出馬するかもしれない前の年に、『今年は特別検察官がいて欲しい』と考えることはないだろう。誰もそんなことは望んでいない」と述べた。ホワイトハウスは、これは「政権移行期のずさんなスタッフの仕事」であり、「長期的には、たとえ短期的な痛みを伴っても、彼らの利益になる」可能性があると確信しているとサキは付け加えた。 

連邦議会民主党議会選挙対策委員会委員長を務めたスティーヴ・イスラエル元連邦下院議員(ニューヨーク州)は、オバマ前大統領が2012年に再選に成功する前のティーパーティーの多数派から学んだ教訓を指摘し、共和党が機密文書の発見に過剰に反応する可能性があると述べた。

イスラエルは次のように語った。「オバマ大統領は順調に再選を果たし、民主党は連邦下院で8議席上回って過半数を獲得した。何が起こったかというと、共和党の多数派が手を出しすぎたのだと私は考える。彼らは自分たちの支持基盤を発奮させたが、しばらくして、毎日の詮索ではなく、集中力と日常の課題を求める穏健派有権者を失った」。

しかし、非公式の場では、民主党側はバイデンが2023年を迎えることを望んでいた方法ではないことを認めた。

あるクリントン選対に参加したあるヴェテランは「誰もが好き勝手なことを言えるが、これでバイデンは完全に弱体化した。この問題はいつまで経っても解決しないだろう」と述べた。

クリントンの元側近は続けて次のように述べた。「迷惑な話だし、彼らが好むと好まざるとにかかわらず、この問題は残り続けるだろう。そしてつぎのような疑問が生まれるだけだ。もし彼がガレージでコルヴェットと一緒に書類についてこんなに軽薄なことをしているなら、他に何をやっているのか誰にも分からないだろう」。

共和党系ストラティジストであるスーザン・デルペルシオは、機密文書の発見は共和党への贈り物だと語った。

デルペルシオは機密文書発見について「これは大皿に盛られたものだ。それ自体は大したことではないが、共和党がそれをどう武器にするかだ」と述べた。

現在まで、共和党がバイデンに対して持っていたのは、バイデンの息子ハンター・バイデンに関する税金やビジネス取引に関する論争と経済に関する問題だけだったとデルペルシオは言う。

デルペルシオは次のように語った。「バイデンが出馬しない理由を探していたのならこれはかなり良い理由だ。彼はこんな選挙戦を望んではいないはずだ。釈明ばかりしていたら負けてしまうことになる」。
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ホワイトハウスはなぜもっと早く機密文書発見を公表しなかったのか説明するよう圧力を受けている(White House under pressure to explain why it didn’t reveal documents discovery earlier

アレックス・ガンギターノ筆

2023年1月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3812679-white-house-under-pressure-to-explain-why-it-didnt-reveal-documents-discovery-earlier/

ホワイトハウスは、バイデン機密文書の発見がなぜすぐに公表されなかったのか説明するよう圧力を受けており、中間選挙を控えて最初の発見について沈黙を保っておこうとする意図的な試みがあったのではないかという批判が公然となされている。

最初の文書が最初に発見されたのは2022年11月2日で、選挙からわずか6日後のことだった。しかし、ホワイトハウスは、今週初めにCBSニューズが報道するまでこの発見について公表しなかった。

ホワイトハウスのカリーヌ・ジャン=ピエール報道官は金曜日、機密文書発見時にすぐに明らかにしなかったのは大統領を政治的ダメージから守るためだったのかという質問に対して、「それはあなたの言い分に過ぎない」と答えた。

ジャン=ピエール報道官は「私はここで非常に明確にしてきたし、ここ数日、異なる機会で何度もその質問に答えてきた。ここにはプロセスがあり、私たちはそのプロセスを尊重するつもりだ」と付け加えて答えた。開示のタイミングについてスタッフが戦略の立案に関与したかとの質問には「ノー」と答えた。

2022年12月20日にバイデンのデラウェア州ウィルミントンの自宅のガレージの収納スペースから2回目の機密文書が発見され、今週も隣の部屋の収納資料の中から1ページの文書が発見された。バイデンの自宅の捜索は水曜日に終了した。

メリック・ガーランド司法長官は、バイデン大統領のウィルミントンの自宅で更に機密文書が発見されたとの公表を受け、機密文書発見を調査する特別顧問としてロバート・ハーを木曜日に任命した。また、ホワイトハウスが機密文書を発見した際、リアルタイムで通知されたと述べた。

バイデンの長年の盟友で情報将校出身のクリス・カーニー元連邦下院議員(ペンシルヴァニア州選出、民主党)は、「機密文書発見のタイミングは実に不思議だ」と述べた。カーニーは更に「バイデン大統領は、この厄介なエピソードについて説明責任を果たし、その責任を受け入れなければならない。ここで最も重要なことは、個人的な政治的恥辱を防ぐことではなく、我が国の安全保障を守ることだ」と発言した。

記者たちは金曜日、ジャン=ピエール報道官は機密文書について、1週間を通して質問に答えたというが、CBSがニューズを流したために、彼女は全く質問に直面しなかったと指摘した。彼女は、調査が進行中だからだと主張した。

報道官は「司法省は独立した機関であり、私たちはその調査プロセスを尊重する」と述べた。

連邦議会共和党も公表のタイミングに疑問を呈しており、連邦下院監督・説明責任委員会は今週、公文書に関する調査を開始した。

今週、ジェイムズ・コマー連邦下院監督・説明責任委員会委員長(共和党)は「よく見て欲しい、これは11月2日の出来事だ。ジョー・バイデンはアメリカ史上最も透明性の高い大統領になると述べた。なぜ今になってこのことが分かったのか? CBSは素晴らしい仕事をした、CBSの報道がなければ私たちは知ることができなかった」とCBSで語った。

ホワイトハウスが公表しないまま、11月と12月に機密文書がバイデンの自宅から発見されたというニューズは、12月にインフレが鈍化したという連邦政府の報告などの今週の他の政治的展開に影を落としている。

共和党系のストラティジストであるダグ・ヘイは、もし11月に発見が明らかになったとしても、同じことが起こっただろうと主張した。そして、民主党は選挙の最終週に自分たちのメッセージから注意をそらすことを望まなかっただろうとも述べた。

ヘイは「これは、タイミングについて、非常に合理的に出てくる最初の質問の一つです。2022年の選挙に大きな影響を与えただろうか? これについてははっきりしないが、過去にさかのぼってその影響を否定することはできない」と述べた。

ヘイは更に「民主党側が主張していたのが、『トランプの信奉者である非常識な人たちが立候補しているのを見よ』というものだったことを考えると、明らかに民主党が望んでいたメッセージとは違う」とヘイは述べた。

ジョージワシントン大学の法学教授で元司法省職員のスティーヴン・サルツバーグは、2016年の選挙直前にジェームズ・コミー前FBI長官が当時の大統領候補ヒラリー・クリントンに対する捜査について詳細を発表したやり方が、多くの人の口に「後味の悪さ(bad taste)」を残したと指摘している。

サルツバーグ「とは言っても、選挙が終わった後、なぜ積極的に公表しなかったのか分からない。発見された際、マスコミはこぞってそれを取り上げ、それで彼らは守勢に回った」と述べた。

ホワイトハウスは、特に選挙の前に、この発見を黙っておこうとする意図的な試みがあったかどうかという質問に対して、本誌に以前の声明を紹介した。これらの声明の中では、司法省の調査は進行中であり、ホワイトハウスが発言できることは限られていると繰り返し述べている。

バイデンのワシントンオフィスでは、副大統領時代から2020年の大統領選出馬までの間に使用した、機密事項が記された10通の文書が、他の個人的な資料と混ざって発見されたと伝えられている。それらの文書には、ウクライナ、英国、イランに関するブリーフィング資料が含まれていたとされる。

現在ノサマン社の上級政策顧問を務めるカーニーは「ワシントンで政治家を指弾するのはよくあることだが、管理されていない情報文書がこの国の安全保障に与えうる損害を忘れることはできない。バイデンであれ、トランプであれ、あるいは他の誰であれ、文書を管理できなくなれば、国家の重大な損害につながる可能性がある」と述べている。

カーニーは更に、機密文書を扱ったことのある人間として、「国の指導者が情報報告に対してこれほどまでに軽率になれることに激怒している」と付け加えた。

バイデンのティームは、機密文書が発見された直後に国立公文書館と司法省に警告を発したとホワイトハウスは発表している。

これは、トランプ前大統領の政府文書の取り扱いとは明確に区別される。当局者は昨年夏にFBIの捜査が行われる前に、トランプに複数回にわたり文書返還を要求していた。

バイデンは今週、メキシコでの記者会見で、自身の古いワシントンオフィスで機密文書が見つかったと知って驚いたとコメントした。また、その文書が何についてであったかは知らないと付け加えた。

しかし、ホワイトハウスが当時この発見を公表しなかったことについて、大統領を守るために発見を非公開にしたかったのかどうかなど、機密文書の中身以上に疑問を生じさせている。

ヘイは次のように述べた。「バイデンの記者会見とカリーヌのブリーフィングの間に、私は政治には古い一線があることを思い知らされた。釈明していたら負けだ。昨日は、良い経済ニューズの日であったはずなのに、釈明の日になってしまった」。

ブレット・サミュエルズはこの記事の作成に貢献した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 2021年に正式に発足したジョー・バイデン政権1期目は後半戦に入っている。2024年の大統領選挙もスタートに近づきつつある。中間選挙では大敗しなかったということで、バイデン政権の外交政策は及第点だという主張もあるが、果たしてそうであろうか?私はバイデン政権がヒラリー政権であり、オバマ政権の焼き直しだと主張する。

 ヒラリー・クリントン元国務長官をはじめとする人道的介入主義(Humanitarian Interventionism)という民主党の外交政策の流れがある。これは共和党のネオコンと対をなす外交潮流である。外国の諸問題に介入し、問題のある政府や独裁者を打倒し、体制転換を行う。そして、自由、人権、資本主義、民主政治体制といった西側の価値観を人工的に植え付けるということだ。ネオコンと基本的に同じ考えだ。ネオコンが牛耳ったジョージ・W・ブッシュ政権、ヒラリーが外交政策を主導したバラク・オバマ政権1期目は、アメリカの外交政策の失敗の歴史だった。これに嫌気がさしたことで、アメリカ国民は、ヒラリー・クリントンではなく、国内問題解決優先主義(アイソレイショニズム、Isolationism)、「アメリカ・ファースト」のドナルド・トランプを大統領に選んだ。
 しかし、2020年の大統領選挙ではジョー・バイデンが大統領に当選した。バイデン政権の外交政策は基本的にオバマ政権1期目の焼き直しだ。ウクライナをめぐっては、私は今から考えれば、トランプがバイデン父子のウクライナとのかかわりをウクライナに捜査してもらうことの引き換えで軍事支援を行うと述べたことは正しかったと考える。バイデンは副大統領時代からウクライナに深くかかわり、ウクライナの実質的なNATO加盟国化を進め、ロシアに脅威を与えた。そのバイデンが大統領になってウクライナ支援を強化したことがウクライナ戦争につながったということが言える。
 アメリカは海外への積極的な介入を進めることで、再び間違いを犯そうとしている。それを修正しようにもその修正の仕方が分からない、そのまま突っ走るしかないというのが今のバイデン政権の外交政策を立案する面々だ。下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトはこのことを「メカニック(整備士)はいるが設計者がいない」状態と形容している。設計図は既にヒラリー・クリントンが国務長官の時にできていた。その設計図のままに、ところどころ修理をしながらやるしかないというのが現状だ。これでは世界の不幸がこれからも続くということになる。私は常々「アメリカの理想主義(Idealism)が世界を壊す」ということを考えている。理想は暴走を生み、現実を見えなくする。結果として大きな地獄を生み出す。

(貼り付けはじめ)

バイデンがアメリカの外交政策を修理するためには整備士(メカニック)ではなく、設計者(アーキテクト)が必要だ(Biden Needs Architects, Not Mechanics, to Fix U.S. Foreign Policy

-アメリカの中間選挙が近づくにつれ、ワシントンは集団思考とヴィジョンの欠如に悩まされ、新しい時代の問題に対する創造的な解決策を阻んでいる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年7月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/12/biden-foreign-policy-outdated-groupthink/

私は休暇から戻ったばかりだが、ジョー・バイデン米大統領は現在中東諸国を訪問している。今回の訪問について私は、バイデン政権の外交政策のパフォーマンスを評価するための絶好の機会だと考えた。私は2020年の大統領選挙でバイデンに投票した。彼が当選して安堵した。それでも、バイデンと内部で競争がない(ノンライヴァル)ティームが21世紀の外交政策と大戦略を設計する任務を果たせないのではないかと心配してきた。明らかな危険(the obvious danger)という概念は、冷戦中にうまく機能したかもしれないが、現在は効果があるのかないのか分からない、様々な特効薬、発言と映像、および政策に頼ってばかりになっている。

バイデン政権が何をすると言ったか覚えているだろうか? アメリカの同盟関係を活性化し、独裁政治の台頭に対抗して民主政治体制世界を団結させる。中国にレーザーのように照準を合わせ、主導権争いに勝利するつもりだと主張していた。気候変動は最優先課題である。アメリカはまた、イランとの核取引に再び加わり、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を「除け者(pariah)」と呼び、「永遠の戦争(forever wars)」を終わらせ、それがどんな意味であれ「中間層(middle class)」のための外交(経済)政策をアメリカ人に与える位置を持っていた。そして、アントニー・ブリンケン米国務長官は、人権を政権の外交政策の「中心(at the center)」に据えることを約束した。

それで、これまでのところ、どうなっているのだろうか?

公正を期すために言えば、バイデン&カンパニー(バイデン株式会社)は初期の公約のいくつかを実現した。彼はアフガニスタン戦争を終結させたが、結末は混乱してしまった。これはおそらく避けられなかったことだろう。バイデンは、前任者の悪ふざけによって疎外された同盟諸国を宥め、ウクライナでの戦争は、当面の間、NATO(ネイトー)に新しい息吹を与えた。アメリカはパリ協定に再加盟した。バイデンは就任以来、いくつかの失策を犯してきたが(イギリス、オーストラリアとのいわゆるAUKUS[オウカス]潜水艦の素人同然の契約展開や大統領の口が滑ったことを何度も撤回する必要性など)、バイデンの下での18カ月間の失策は、ドナルド・トランプ前米大統領のショーの任意の2週間よりも少なかった。

しかし、全体として、バイデン政権が明確な説得力を持ち、成功する戦略を有している兆候はほとんどない。この1年半の間に追求した様々な取り組みや対応を見てみると、バイデン政権の記録は印象に残らない。

ウクライナについて言えば、バイデンのティームは、ロシアの侵攻に対して大西洋をまたぐ形で対応を行った。実際に開戦に至るまでの諜報活動の巧みで政治的に効果的な活用に始まりうまく指揮を執った。ヨーロッパが(ほぼ)一体となって対応し、ドイツなどが(ほぼ)助け舟を出したのは、バイデンの努力(とウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の巧みな公共外交[パブリックディプロマシー、public diplomacy])のおかげであり、ウラジミール・プーティン大統領に大きな衝撃を与えたのは間違いないだろう。

しかし、アメリカ人は、ビル・クリントン元大統領の時代に始まり、その後の全ての指導者の時代に続いた一連の間違いである、より大きな状況に対するアメリカの誤った対処から目を背けるべきではない。この問題を提起することは激しい論争となり、これらの不手際の立役者は、西側の政策がこの悲劇と何の関係もないことを否定するために不自然なまでに力を尽くしている。しかし、プーティンの侵攻を古典的な予防戦争(preventive war)と見なさないわけにはいかない。ウクライナを武装化し、欧米の軌道に乗せるというアメリカの加速された努力を挫くために行われた不法な侵攻ということになる。

プーティンが軍隊を動員し、自らの懸念が晴らされねば侵攻すると明言した時、NATO(ネイトー)の「門戸開放政策(open door policy)」の終了を検討することさえ拒否し続けたバイデン政権は戦争の到来を約束する結果となった。1990年代にウクライナに旧ソ連から受け継いだ核兵器を放棄させ、将来のロシアの攻撃に対する強力な抑止力を取り除いたのに、西側がロシアの懸念を認めず、モスクワがどう反応するかも予想しなかったのは、とんでもない戦略的誤算であった。

私が心配なのは(そしてバイデンと民主党側を本当に心配するべきなのは)次の点である。ウクライナの英雄的な抵抗と数十億ドルに及ぶ西側の軍事支援があっても、ロシアがウクライナの領土のかなりの部分を掌握することを防ぐことができていない。制裁は時間をかけてロシアを弱体化させるだろうが、おそらくプーティンをクレムリンから追い出したり、撤退を納得させたりすることはできないだろう。その結果、西側の決定的な勝利ではなく、長引く膠着状態に陥り、ウクライナ(および食糧やエネルギー不足に直面している発展途上諸国)にとって恐ろしいほどの代償を払うことになるだろう。ロシアがより悪い状況に陥ったとしても、これを外交政策の大成功と言い張ることはできないだろう。

更に加えれば、この危機によって、アメリカは冷戦時代の習慣に逆戻りし、再びヨーロッパの第一対応者(ファーストレスポンダー、first responder)として行動するようになった。ヨーロッパの豊かな民主政治体制諸国には自衛のための十分な潜在能力があるが、特にロシアが時間とともにかなり弱体化することを考えると、アメリカ(アンクルサム、Uncle Sam)は再び、彼ら自身と同じ程度に彼らを守るために行動するようになったという点は重要だ。NATO(ネイト―)は新しい戦略コンセプトを掲げているが、ヨーロッパの加盟諸国はそのコンセプトの高尚な美辞麗句に見合うだけのハードパワー(軍事)能力を持っていない。そして、アメリカは更に多くの軍隊、資金、武器をヨーロッパ大陸に送っているが、ヨーロッパ諸国が公約を守り、軍隊を再建すると本気で信じている人がいるだろうか? 歴史を振り返れば、ヨーロッパ諸国が歴史を守る可能性はほとんどない。

アジア地域ではその記録はあまり良くない。バイデンは中国との競争に新たに焦点を当てることを誓って就任したが、実質的な内容を伴う明確で首尾一貫したアジア戦略を探しても無駄なことだ。日米豪印の四極安全保障対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)は協議の場ではあっても同盟の場ではないし、大きな話題となったAUKUS(オウカス)協定も、アジアの海軍力のバランスに影響を与えることは(あったとしても)今後10年以上はないだろう。

中国はこの地域で経済的足跡を拡大し続けており、アメリカは最近の「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)」のような限定的な取り組みや、ソロモン諸島のような場所での中国の進出に対するその場しのぎの対応で応じている。しかし、アメリカの公約は連邦議会で承認された正式な貿易協定に組み込まれていないため、アジアのパートナー諸国は、新大統領が方針を転換するかもしれないと当然ながら懸念している。この問題はバイデンの責任ではないが、アジアの同盟諸国はいずれ、アメリカは中国が提供できるような市場アクセスや投資機会を提供できないし、アメリカは他国の出来事に気を取られやすく、信頼できる保証人にはなり得ないと結論付ける可能性がある。

中国自体については、バイデン政権はトランプ大統領の輸出規制を維持し、台湾防衛の公約に近づき、多くの反中国的なレトリックにふけるようになった。しかし、気候変動問題など協力が必要な分野と競争が避けられない分野とを区別して、対中アプローチを継続的に展開する試みが欠落している。中国の行動やレトリックはこれを容易にするものではないが、地球上で2番目に強い国である中国に対処するための明確な戦略の欠如は顕著である。

中東地域では、バイデンはイランとの核合意を回復し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンのような不正な指導者に厳しい態度で臨むことを公約に掲げて就任した。また、バイデンとブリンケンは、人権や「ルールに基づく秩序(rules-based order)」を再構築する必要性について多くを語った。しかし、実際には、バイデンとブリンケンはトランプと同様に取引重視であり、実際、この地域に対する政権のアプローチは、本質的に「トランプ・ライト(Trump=lite、訳者註:トランプ色を薄めた戦術)」である。イランのハサン・ロウハニ前大統領が在任中に核合意への復帰を躊躇した結果、新たな合意の見込みはほぼ消滅し、イランはかつてないほど核兵器に近づいた。

アメリカはイエメンでのサウジアラビアの戦争を黙認し続け、バイデンはムハンマド・ビン・サルマンを「除け者」にすると宣言したがそれは頓挫した。ヨルダン川西岸をさらに吸収しようとするイスラエルの執拗な努力は、いつものように意味のない反応を示す。著名なパレスチナ系アメリカ人ジャーナリストであるシリーン・アブ・アクレの射殺事件は様々な調査によれば、ほぼ確実にイスラエル兵によるものだが、彼女がアメリカ国民であったにもかかわらず、政権からは鋭い言葉さえ発せられない。トランプはアメリカの中東の顧客(クライアント)たちが望むことはほとんど何でもさせた。バイデンとブリンケンはそれに倣っている。

バイデンが今週イスラエルとサウジアラビアを訪問するというのも、戦略的な観点からするといささか不可解なことである。ホスト国はバイデンに新たな安全保障の約束を迫るだろうし、それはアメリカを次の地域紛争に容易に引きずり込むことになる。このような措置は、イランがついに核武装に走ることを誘発しかねない。そうなれば、バイデン政権は予防戦争を行うか、核武装したイランという現実を受け入れるかのどちらかを迫られることになる。しかし、バイデンが現地の権力者の誘惑に抵抗すれば、彼らは苛立って失望し、今回の訪問は当然ながら時間の無駄だったと判断されることになる。それではなぜ行くのか?

本誌の寄稿者であるアーロン・デイヴィッド・ミラーとスティーヴン・サイモンは正しい。バイデンは、主に国内的な理由で、ウクライナ戦争によって引き起こされたエネルギーコストの高騰に対処しようとするためにこれをやっている。しかし、その見方は酷いものだ。アメリカ大統領は、非民主的な従属国家にもっと石油を産出させるために、中東に手ぶらで飛び、真の大国のように行動する代わりに、議論したい問題があれば、ワシントンに飛んできて歓迎すると言っているのだ。彼が得る国内的な利益は、ささやかで短期に終わるだろう。

最後に、バイデンとそのティームは、米国の民主的価値の重要性と、独裁政治に対抗する「自由世界(free world)」の団結を繰り返し強調してきた。これは価値ある目標だが、プーティンや中国の習近平国家主席のような人々から意図しない援助を受けたにもかかわらず、それを示すものはあまりない。また、最近開催された米州首脳会議では、メキシコ、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルヴァドルの各首脳が出席を拒否し、出席した一部の首脳がこの地域におけるアメリカの役割を批判する機会として利用したため、その成果は不十分なものとなった。

更に重要なことは、アメリカ自身が深く分裂し、永久に少数派の支配へと向かっているこの時期に、そして正統性が減少している連邦最高裁が、銃製造者や企業には女性よりも権利があると考えるような時に、なぜアメリカは他の国々が「民主的価値(democratic values)」を受け入れることを期待しなければならないのだろうか? もしバイデンが海外で民主主義を拡大したいのであれば、まず手始めに国内でもっとうまく民主政治体制を守ることから始めなければならない。

私は、賢明で経験豊富な外交政策の達人たちが、なぜこのような失敗を犯しているのか、その原因を突き止めたいと考えている。バイデンは、自分と同じように世界を見て、何十年にもわたってアメリカの外交政策に影響を与えてきた使い古された手法にこの上なく慣れている人々を、意図的に一つのティームに集めたのである。

しかし、「グローバル・リーダーシップ(global leadership)」、「共有された価値観(shared values)」、「ルールに基づく秩序(a rules-based order)」、「自由世界(free world)」といったキャッチフレーズは、戦略の代用にはならない。戦略には、国際情勢を形成する中心的な力を特定する一連の一般原則、その論理から導き出される明確な優先順位、そして国をより安全または繁栄(あるいはその両方)させるための一連の政策ステップが必要である。

国家が脅威の均衡(balance threats)を図る傾向を無視したり、経済的相互依存(economic interdependence)や強固な制度が紛争を不可能にすると考えたり、ナショナリズムの力を無視するなど、戦略の基礎となる世界観に欠陥があれば、優先順位が狂ってしまい、いかなる取り組みも裏目に出る可能性が高くなる。

世界は複雑な場所であり、ある分野での行動が他の分野での努力を損なうことも起きる。明確で根拠のある優先順位がない限り、これらの相殺取引(トレイドオフ、trade-offs)を賢く解決することはほとんど不可能だ。明確な戦略がなければ、予期せぬ出来事によって簡単に軌道修正されてしまうし、国内の有権者、外国のロビー団体、自由世界のリーダーとしてのアメリカの自画像に訴える術を身につけた同盟国からの圧力に対抗することも難しくなる。

バイデンとそのティームは、外交政策のマシーンを動かす方法を知っているという意味では、熟練した整備士(メカニック)たちの一群のようなものである。しかし、彼らが操作するために訓練された国内および国際機関は、もはやその目的に適っておらず、経験豊富なフォードやシボレーの整備士がテスラを整備しようとするような結果に終わっている。当然のことながら、機械が生み出す政策対応は、世界が望むような結果をもたらしてはいない。

バイデンに必要なのは整備士ではなく、建築家(アーキテクト)たちだ。今日の課題により適した新しい取り決めとアプローチを生み出す想像力とヴィジョンを持った人たちだ。残念ながら、今日のエスタブリッシュメントは、適合性と、安全でますます懐古的なコンセンサスの中に留まることに高い優先順位を置いているため、創造量とヴィジョンを持つ人々が権力の座に就くことはないのだ。

希望を持てる理由はあるだろうか? 確かに。アメリカ人たちは、主要な敵国が大きな間違いを犯しているという事実に、いくらかの慰めを得ることができるかもしれない。プーティンのウクライナ侵攻は彼の期待通りにはいかず、中国のゼロ新型コロナウイルス感染拡大政策は中国経済の深刻な構造的不均衡を悪化させ、両国ともほんの数年前より強力な世界的敵対勢力に直面している。

しかし、モスクワや北京がワシントンよりも多くの誤りを犯すことを期待することは、長期的なアプローチとして有望とはいえない。他国の失敗を当てにするのではなく、賢明な政策と効果的な実行こそが、成功への唯一の道だ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)
(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 アメリカとキューバはキューバ革命以降、敵対関係にある。アメリカによる禁輸政策によってキューバは厳しい生活を強いられてきたが、バラク・オバマ政権で国交が樹立されて以降、関係は修復されてきた。しかし、ドナルド・トランプ政権は雪解けを逆行させ、バイデン政権もトランプ政権の姿勢を踏襲している。アメリカとキューバの関係は厳しい状態に戻っている。

 アメリカのキューバ政策は国内政治に影響を受けている。国内政治が外交政策に影響を与え、その逆もあるということは、ロバート・パットナムの言葉を借りれば「諸刃の外交(double-edged sword)」ということになる。具体的に述べていく。

 アメリカ政治においては、マイノリティグループが有権者として重要な役割を果たす。非白人のマイノリティグループ、例えばアフリカ系アメリカ人有権者、アジア系アメリカ人有権者は民主党の支持基盤となっている。最近では、スペイン語を母国語とするヒスパニック系有権者が存在感を増している。合法,違法での移民の数が多く、カトリック信者が多いことで避妊に消極的で子沢山ということもあり人口自体も増えている。ヒスパニック系は概して民主党の支持基盤となっている。

 その中で例外はキューバ系アメリカ人たちだ。キューバ系アメリカ人の多くは、キューバ革命勃発後にアメリカに逃れてきた人々だ。キューバ系の多くはフロリダ州に住んで。フロリダ州政治において存在感を保持している。キューバ系はキューバ革命から逃れてきた人々で、コミュニティはその時代の社会階層、階級をそのまま持ち込んでいる。そして、ヒスパニック系では珍しく、共和党支持者が多い。民主党が社会主義的だと見ているからだ。

 フロリダ州はアメリカ政治において重要な州である。大統領選挙ではフロリダ州で勝利することが重要になっている。民主、共和両党はフロリダ州で勝ちたいと考えている。そのために民主党は支持を受けられないキューバ系アメリカ人有権者を引き付けようとして、歴代政権はキューバに対して強硬な姿勢を取り続けた。ビル・クリントン、バラク・オバマ両政権が2期目にキューバに譲歩するような姿勢を見せたところ、その報復として、後継候補であるアル・ゴア、ヒラリークリントンがそれぞれフロリダ州で敗れ、大統領選挙で敗北を喫するということになった。そのために民主党としては、キューバ系アメリカ人有権者は気を遣わねばならない存在ということになる。

 アメリカ政治を見ていく場合には、マイノリティやイデオロギーに基づいた有権者のグループを見ていくことが重要である。

(貼り付けはじめ)

民主党がフロリダ州での勝利について忘れるべき理由(Why Democrats Should Forget About Winning Florida

-そうすればより良い対キューバ政策を採用することができるだろう。

ウィリアム・M・レオグランデ

2022年11月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/21/democrats-florida-republicans-cuban-american-cuba-trump-biden-obama/?tpcc=recirc_latest062921

民主党がアメリカ全土で予想以上に健闘した選挙の夜、フロリダはその例外として際立っていた。フロリダの海岸を汚した赤い波、つまりフロリダ政治に押し寄せた赤い波は、サンシャイン・ステートと呼ばれるフロリダ州がまだ競争力を持つかもしれないという民主党の幻想を一掃したのである。ロン・デサンティス州知事は、フロリダのヴェテラン政治家で、民主党候補の元知事のチャーリー・クリストに対して地滑り的な勝利を収めた。マルコ・ルビオ連邦上院議員も、民主党が擁立しうる最強候補の一人であったヴァル・デミングス連邦下院議員に対して大差で勝利した。民主党はフロリダ州の連邦下院28議席のうち20議席を失い、2020年に失った後、奪還を目指したフロリダ南部の主要議席(第27選挙区)を取り返すことができなかった。2021年、フロリダ州の近代政治史上初めて、有権者登録された共和党員が民主党員を上回った。民主党は、都市部の拠点であるタンパ、オーランド、マイアミではまだ競争力があるが、州全体では競争力を喪失した。2024年のフロリダ州で、ジョー・バイデン大統領や他の民主党の候補者たちが、デサンティスどころかドナルド・トランプ元大統領を倒すというシナリオは説得力を持たない。

民主党にとって、この暗い選挙状況に明るい兆しもある。フロリダが真っ赤に染まれば(共和党優勢になれば)、マイアミデイド郡のキューバ系アメリカ人有権者に関する予言ではなく、アメリカの外交政策上の利益に基づいてキューバ政策を再構築する自由が得られるからである。しかし、国内政治がアメリカの対キューバ政策を左右するという習慣を断ち切るのは難しいだろう。キューバ系アメリカ人が重要な支持基盤となった1980年代以来、民主党は40年にわたってこの問題に取り組んできたのである。

ビル・クリントン元大統領は、米国の対キューバ禁輸(embargo)が「失敗が証明された政策(policy of proven failure)」であることは、「半分でも頭脳を持っている人なら誰でも(anybody with half a brain)」知っていると認めている。しかし、1992年の選挙戦では、共和党のジョージ・HW・ブッシュ大統領(当時)を出し抜くために禁輸措置を強化する法案を支持し、1996年には禁輸措置を法律で定める法案に署名した。国家安全保障会議のメンバーを務めたリチャード・ファインバーグは「クリントンはどうしてもフロリダを守りたかったのだ。あれは最重要(numero uno)だった」と述べている。1992年、クリントンはフロリダ州で敗れたが、1996年には勝利している。

特にバイデン大統領の首席補佐官であるロン・クレインは、当時のアル・ゴア副大統領の首席補佐官であり、ゴア陣営の再集計委員会の顧問弁護士であった人物である。クリントンが6歳のエリアン・ゴンサレスをキューバにいる父親に返したことへの報復として、キューバ系アメリカ人は「懲罰投票(voto castigopunishment vote)」を行い、ゴアが大統領に就任することを阻止した。こうして、民主党の大統領候補がフロリダ州を制するには、少なくとも共和党の候補と同じくらいキューバに厳しくなければならない、という常識が生まれた。

バラク・オバマ前大統領は、2008年と2012年に、キューバ系アメリカ人の穏健派に対して、家族のつながり、送金や旅行に関する制限の緩和を支持する政策で、限定的にその常識に挑戦した。この戦略は成功し、オバマは2012年にキューバ系アメリカ人の約半数の票を獲得し、民主党にとって最高水準に達した。しかし、オバマでさえも、歴史的な国交正常化政策に着手したのは、無事再選を果たした後であった。

トランプがオバマのハヴァナとの和解を覆し、キューバ系アメリカ人の右派を動員することに成功したことで、一部の民主党議員はオバマの政策の人気は普通のことではないと説得された。バイデンは、共和党と同様にキューバに厳しくあろうとする既定の姿勢に戻り、トランプの経済制裁のほとんどをそのままにして、新たな制裁を追加した。バイデンは更に一歩進めて、キューバ政策を作る上で難民として国外に避難した人々に特権的な役割を与え、キューバ系アメリカ人を「重要なパートナー(a vital partner)」、「この問題についての最高の専門家(the best experts on the issue)」と呼んでいる。

このアプローチの無益さは選挙結果にも表れており、南フロリダのキューバ系アメリカ人を対象とした最近の世論調査がその理由を説明している。バイデンのキューバ政策はトランプと大差なく、圧倒的に支持されたにもかかわらず、回答者は72%対28%と圧倒的にバイデンへの不支持を表明したのだ。キューバ系アメリカ人の民主党に対する反感は、キューバ政策にとどまらず、外交・国内問題の広い範囲に及んでいる。キューバ系アメリカ人の共和党員は党員登録で民主党員を大きく上回り、今回の中間選挙の出口調査によると67%がルビオ(連邦上院議員)に、69%がデサンティス(州知事)に投票した。

フロリダ州で当面の間、民主党が選挙に勝てないので、民主党政権が国益に基づくキューバ政策を立案する自由を得たとしたら、その政策はどのようなものになるのだろうか?

体制転換(regime change)を推進する、あるいはキューバ政府をアメリカの要求に従わせるという前提から始まるだろうが、いずれのアプローチも50年以上前から連綿と続いてきた失敗の歴史がある。民主党の象徴であるフランクリン・D・ルーズベルト元大統領は、こう忠告した。「何かやれ。うまくいくなら、もっとやれ。うまくいったら、もっとやれ。うまくいかなかったら、他のことをやれ」。今こそ、他のことをする時だ。

国益に基づくキューバ政策は、アメリカとキューバが、逃れられない地理的条件によって、移民から環境保護、公衆衛生、麻薬の阻止など、協力によってのみ進展することができる重要な利益を共有していることを認識するものである。

国連でのほぼ満場一致の禁輸反対票が30年連続で記録されているように、ワシントンの敵対政策を支持する国は世界に存在しないことを認めることになる。多くのアメリカの同盟諸国、特にラテンアメリカで現在優勢な左派政権は、最近この地域を訪問したアントニー・ブリンケン米国務長官に語ったように、その政策に積極的に反対している。バイデン政権は、敵対的な政策に固執することで、5月の米州首脳会議の部分的なボイコットが示すように、その西半球の諸議題に関する議論を妨害した。これは、この地域における中国の影響力が高まっている瞬間である。

最後に、政治的・経済的に開かれたキューバを目指す現実的な政策は、ポスト・カストロ時代にキューバで進行している劇的な変化にアメリカがプラスの影響を与えようとするならば、キューバの新しい指導者や活気を増す市民社会と積極的に関わる必要があることを認識することであろう。

簡潔に述べるならば、アメリカの国益に基づく政策は、オバマが2014年12月17日に発表した政策、つまりバイデンが2020年の選挙戦で「大部分は戻す」と約束したが、そうしていない政策によく似ている。オバマの政策は、ラテンアメリカとヨーロッパのアメリカの同盟諸国によって歓迎され、潘基文前国連事務総長とローマ法王フランシスコの両者によって賞賛された。ここ数十年の米国の外交政策で、これほど普遍的な称賛を得たものは他にないだろう。もしバイデンが外交政策として意味のあるキューバ政策を作る用意があるならば、ハンドルを再発明する必要はない。ただ、ハンドルを付け戻すだけで良いのだ。

※ウィリアム・M・レオグランデ:ワシントンDCにあるアメリカン大学政治学教授。ピーター・コーンブルーと共著『キューバとのバックチャンネル:ワシントンとハヴァナとの間の交渉の隠された歴史(Back Channel to Cuba: The Hidden History of Negotiations between Washington and Havana)』がある。ツイッターアカウント:@WMLeoGrande

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