古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:バルト海

 古村治彦です。

 今回はシーモア・ハーシュの論稿の真ん中の3分の1をご紹介する。ノルドストリーム破壊の計画のためのタスクフォース・ティームは2021年12月に国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンによって組織された。ウクライナ戦争は2022年2月24日に勃発した。その前から既に計画されていたのだ。問題はこの計画が漏れる、もしくは計画が成功後にアメリカの仕業であるということが分かれば極めて重大な結果を招くということであった。アメリカはウクライナに支援を行っているが、ロシアとの直接の対決を避けてきた。それなのに、ロシアのガスプロムと西ヨーロッパ各国の企業が出資して建造した施設を爆破破壊するということはロシアや同盟国である西ヨーロッパ諸国に対する犯罪行為であり、戦争行為である。だからどうしてもばれてはいけなかった(動機を考えればアメリカ以外には考えられないのであるが)

 CIAがこれまでの実績からノルドストリーム爆破を提案したが、もちろん批判も多かった。失敗する可能性もあり、露見すればアメリカとバイデン政権は無傷では済まない。バイデンの再選は絶望的となったことだろう。それでも、CIAにはこれまでにも犯罪行為を秘密裏に成功させてきたという実績があった。私の個人的な見解を言えば、CIAとアメリカ軍の中の悪さを考えると、アメリカ海軍が潜水士達を派遣してCIAの作戦に協力させたというのは驚きである。ノルドストリーム破壊がアメリカにとって重要な「国策」だったことは明らかだ。

 計画中にバイデン大統領とヌーランド国務次官はちらちらと破壊計画をにおわせるような発言を行っていた。これらの発言に計画に関与した人々がじりじりしていたというのは自然な対応であろう。

 ノルドストリーム爆破作戦にとって重要なパートナーとなったのがノルウェー海軍だった。ノルウェー海軍はバルト海での経験が豊富であり、能力も高い。NATOの最高司令官はイェンス・ストルテンベルグであるが、ストルテンベルグはノルウェーの首相を務めた人物であり、アメリカの忠実な手先だ。ノルウェーは日本同様にアメリカの忠実な属国である。しかし、問題は爆破に最適の地点がデンマーク領内のボーンホルム島周辺海域であったことだ。スウェーデンやデンマークの海軍が怪しい動きを感知すれば計画漏洩の危険があるのだ。
(貼り付けはじめ)

●計画立案(PLANNING

2021年12月、ロシアの戦車が初めてウクライナに進入する2カ月前、ジェイク・サリヴァンは、米統合参謀本部、CIA、国務省、財務省の関係者で新たに結成したタスクフォースの会議を招集し、プーティンの侵攻が迫る中でどう対応するか、提言を求めた。

ホワイトハウスに隣接し、大統領対外情報諮問委員会(President’s Foreign Intelligence Advisory BoardPFIAB)が置かれている旧行政府ビル(Old Executive Office Building)の最上階にある盗聴などの危険が排除された部屋で、極秘会議の第1回目が開かれた。そこでは、いつものように雑談が交わされ、やがて重要な事前質問へとつながっていった。その質問とは以下のようなものだ。つまり、このグループが大統領に提出する勧告は、制裁措置や通貨規制の強化といった「可逆的(訳者註:いつでも元の状態に戻せること)」なものなのか、それとも「不可逆的」なものなのか、つまり、元に戻すことができない「武力行動(kinetic action)」なのか、ということだ。

このプロセスを直接知るある情報源によれば、サリヴァンは、グループがノルドストリーム・パイプラインの破壊計画を打ち出すことを意図し、大統領の要望を実現しようとしていたことが、参加者の間では明らかであったということだ。

その後の数回の会合では、攻撃方法の選択肢を議論した。海軍は、新しく就役した潜水艦でパイプラインを直接攻撃することを提案した。空軍は、遠隔操作で爆発させることができる遅延信管付きの爆弾を投下することを提案した。CIAは、「何をするにしても、秘密裏に行わなければならない」と主張した。関係者の誰もが、その利害関係を理解していた。「これは子供の遊び(kiddie stuff)ではない」とその関係者は言った。もし、その攻撃がアメリカにつながるものとなれば、「それは戦争行為なのだ(It’s an act of war)」。

当時、温厚な元駐ロシア大使で、バラク・オバマ政権で国務副長官を務めたウィリアム・バーンズがCIAの指揮を執っていた。バーンズ長官はすぐに、パナマシティにいる海軍の深海潜水士に詳しい人物を特別メンバーに含む(これは偶然のことだったのだが)、CIAのワーキンググループを承認した。それから数週間、CIAのワーキンググループのメンバーたちは、深海潜水士を使ってパイプラインを爆発させるという秘密作戦の計画を練り始めた。

このような事例は以前にもあった。1971年、アメリカの情報機関は、ロシア(ソ連)海軍の2つの重要な部隊が、ロシア極東オホーツク海に埋設された海底ケーブルを介して通信していることを、未公表の情報ソースから知った。このケーブルは、海軍のある地方司令部とウラジオストクにある本土の司令部を結んでいた。

中央情報局(Central Intelligence AgencyCIA)と国家安全保障局(National Security AgencyNSA)から選抜された諜報員ティームが、ワシントン地域のある場所に極秘裏に集められ、海軍の潜水士達、改造潜水艦、深海救助艇を使って、試行錯誤の末にロシアのケーブルの位置を特定する計画を実行し成功させた。潜水士達はケーブルに高性能の盗聴器を仕掛け、ロシアの通信を傍受し、録音システムに記録することに成功した。

NSAは、ロシア海軍の幹部たちが通信回線の安全性を確信し、暗号化せずに同僚と普通のおしゃべりしていることを知った。しかし、ロシア語が堪能なロナルド・ペルトンという44歳のNSAの技術者によって、このプロジェクトは台無しにされてしまった。ペルトンは、1985年にロシアの亡命者に裏切られ、刑務所に送られた。ペルトンがロシアから受け取った報酬は、作戦を暴露した際の5000ドルと、公開されなかった他のロシアの作戦データに対する3万5000ドルだけだった。

コードネーム「アイビー・ベルズ(Ivy Bells)」と呼ばれたその海中での成功は、革新的で危険なものであり、ロシア海軍の意図と計画について貴重な情報をもたらした。

しかし、CIAの深海諜報活動に対する熱意には、当初、省庁間グループも懐疑的であった。未解決の問題が多すぎたのだ。バルト海の海域はロシア海軍の警備が厳しく、潜水作戦に使える石油掘削施設はない。ロシアの天然ガス積み出し基地と国境を接するエストニアまで行って、潜水訓練をしなければならないのか? CIAに対しては、「混乱状況で失敗するだろう(It would be a goat fuck)」と批判された。

この「計画中」に、「CIAと国務省の何人かは、こんなことはするなと言った。バカバカしいし、公になれば政治的な悪夢になる」と上述の情報源は述べた。

それでも、2022年初頭、CIAのワーキンググループはサリヴァンの省庁間グループに報告した。その内容は「パイプラインを爆破する方法がある」というものだった。

その後に起こったことは、驚くべきことだった。ロシアのウクライナ侵攻が避けられないと考えられていた、戦争勃発の3週間前の2月7日、バイデンはホワイトハウスのオフィスでドイツのオラフ・ショルツ首相と会談した。ショルツは一時はぐらついたが、その時にはしっかりとアメリカ側についていた。その後の記者会見でバイデンは、「もしロシアが侵攻してきたら、ノルドストリーム2はもう存在しない。私たちはパイプラインを終わらせる」と述べた。
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ジョー・バイデンとオラフ・ショルツ
その20日前、ヌーランド国務次官は国務省のブリーフィングで、ほとんど報道されることなく、基本的に同じメッセージを発していた。ヌーランドは記者団からの質問に対して、「今日、はっきりさせておきたいことがある。もしロシアがウクライナに侵攻すれば、いずれにせよノルドストリーム2は前進しないだろう」と述べた。

パイプライン・ミッションの計画に携わった何人かは、攻撃への間接的な言及と見られるバイデンとヌーランドの発言に狼狽した。

上述の情報源は「東京の街中に原爆を置いて、それを爆発させると日本人に言っているようなものだった。計画では、オプションは侵攻後に実行されることになっており、公には宣伝されないことになっていた。バイデンは単にそれを理解しなかったか、無視したのだ」と述べた。

バイデンとヌーランドの軽率な行動は、それが何であったとしても、計画立案の参加者うちの何人かを苛立たせたかもしれない。しかし、それはチャンスでもあった。この情報源によると、CIAの高官の何人かは、パイプラインの爆破は「大統領がその方法を知っていると発表したため、もはや秘密のオプションとは見なされない」と判断したという。

ノルドストリーム1と2を爆破する計画は、突然、連邦議会に報告する必要のある極秘作戦から、アメリカ軍の支援を受ける極秘の情報作戦とみなされるものに格下げされた。この徐法源は次のように説明した。「法律上では、連邦議会に報告する法的義務がなくなった。しかし、それでも秘密でなければならない。ロシアはバルト海の監視に長けている」。

CIAのワーキンググループのメンバーたちは、ホワイトハウスと直接のコンタクトがなかったので、大統領が言ったことが本心かどうか、つまり、この作戦が実行に移されるのかどうかを確かめようと躍起になっていた。上述の情報源は、「ビル・バーンズがCIA長官として戻ってきて、実行せよと言った」と回想している。

この人物は「ノルウェー海軍は、デンマークのボーンホルム島から数マイル沖の浅瀬にある適切な場所をすぐに見つけた」と述べた。

●作戦遂行(THE OPERATION

ノルウェーはノルドストリーム爆破任務の拠点として最適な場所だった。

東西危機の過去数年間、アメリカ軍はノルウェー国内でその存在を大幅に拡大してきた。西側の国境は北大西洋に沿って1400マイル(約2240キロ)も走り、北極圏の上でロシアと合流している。国防総省は、地元では賛否両論あるものの、数億ドルを投じてノルウェーの米海軍と空軍の施設を改修・拡張し、高級の雇用と高額の契約を創出したのである。この新しい施設には、最も重要なこととして、ロシアを深く探知することができる高度な合成開口レーダー(advanced synthetic aperture radar)が含まれており、ちょうどアメリカの情報機関が中国国内の一連の長距離監視サイトへのアクセスを失った時に稼働したのである。

何年も前から建設が進められていたアメリカの潜水艦基地が新たに改修され、運用が開始された。更に多くのアメリカの潜水艦が、ノルウェーの僚艦と緊密に協力して、250マイル(約400キロ)東のコラ半島にあるロシアの主要核要塞の監視と諜報に当たることができるようになった。アメリカはまた、北部にあるノルウェーの空軍基地を大幅に拡張し、ボーイング社製のP8ポセイドン型哨戒機の編隊をノルウェー空軍に提供し、ロシア全般の長距離監視を強化した。

その見返りとして、ノルウェー政府は昨年11月、補足的防衛協力協定(Supplementary Defense Cooperation AgreementSDCA)を可決し、議会のリベラル派と一部の穏健派を怒らせた。この新協定では、北部の特定の「合意地域」において、基地外で犯罪行為を行ったとして訴えられたアメリカ軍兵士と、基地での作業を妨害したことで訴えられたり疑われたりしたノルウェー国民については、アメリカの法制度が司法権を持つことになる。

ノルウェーは、冷戦初期の1949年にNATO条約に最初に署名した国の1つだ。現在、NATOの事務総長(最高責任者)はイェンス・ストルテンベルグだが、彼は熱心な反共主義者で、ノルウェーの首相を8年間務めた後、2014年にアメリカの後ろ盾でNATOの高官に就任した。彼はヴェトナム戦争以来、アメリカの情報機関と協力関係にあり、プーティンやロシアに関するあらゆることに強硬な態度を取ってきた。ヴェトナム戦争以来、彼はアメリカから完全に信頼されている人物なのである。前述の情報源は「彼(ストルテンベルグ)はアメリカの手にぴったりとフィットする手袋だ」と評した。
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ストルテンベルグ

ワシントンに話を戻すと、作戦の計画立案者たちは、ノルウェーに行くしかないと考えた。「彼らはロシアを嫌っていたし、ノルウェーの海軍は優秀な水兵や潜水士揃いであり、収益性の高い深海石油・ガス探査に何世代にもわたって携わってきた実績もある。また、この作戦を秘密にしておくことも可能であった。(ノルウェー側には他の利益もあったかもしれない。もしアメリカ側がノルドストリームを破壊することができれば、ノルウェーは自国の天然ガスをヨーロッパに大量に販売することができるようになる。)

3月のある時期、複数の計画立案者たちがノルウェーに向かい、ノルウェーのシークレットサーヴィスや海軍の関係者たちと面会した。バルト海のどこに爆薬を仕掛けるのが最適か、というのが重要な問題だった。ノルトストリーム1と2は、それぞれ2本のパイプラインで構成され、ドイツ北東部のグライフスワルト港に向かう途中、1マイル(約1.6キロ)余りの距離で隔てられていたのである。

ノルウェー海軍は、デンマークのボーンホルム島から数マイル離れたバルト海の浅瀬にある適切な場所をいち早く探し出した。パイプラインは、水深260フィート(約78メートル)の海底を1マイル以上離れて走っている。潜水士たちはノルウェーのアルタ級機雷掃討艇(mine hunter)から、酸素、窒素、ヘリウムの混合ガスをタンクに注入して、パイプラインの上にC4爆薬を設置し、コンクリートの保護カバーで覆った。ボーンホルム沖は、潜水作業を困難にする大きな潮流がないことも利点であった。
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C4爆薬
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ノルウェーの掃海艇

数回の調査を経て、アメリカ側はすっかり乗り気になっていった。
(貼り付け終わり)

(つづく)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争勃発直後、ほぼ同じ日に書かれた論稿をご紹介する。昨年末からウクライナ国境にロシア軍が集結していたこともあり、この論稿は戦争勃発のかなり前から準備されていたものだろうと思う。また、ロシアとウクライナの戦争についてはシミュレーションがなされていて、それをそのまま論稿にしたのだろうとも思われる。この論稿を書いたセス・クロプセイは元海軍士官で、海軍次官補を務めた人物である。軍事の専門家で、恐らく作戦の担当でもあったであろう人物だろう。アメリカがどのようなシミュレーションをしていたのかを知るのに便利な論稿である。そのシミュレーションは次の通りである。

(1)ルーマニア、ブルガリア、ポーランド、バルト海諸国に師団級の戦闘部隊を迅速に前方展開(ハンガリーが入っていない)、即応部隊であるアメリカ第18空挺団の派遣。

(2)NATO諸国はウクライナ国内における補給拠点の確保(リヴィウ)、旅団レベルの限定的な部隊と航空および情報支援を準備。

(3)NATO諸国によるはロシア対する大規模なサイバー対応(攻撃、ルーマニアに展開するアメリカ空軍と陸軍の電子戦(electronic warfareEW)部隊の作戦実行。

(4)アメリカ海軍の大規模な水上艦艇演習の実施、オホーツク海やバレンツ海に潜入しての秘密作戦。

(5)アメリカ軍による東地中海に誘導弾潜水艦の配備。

(6)、アメリカ軍による戦略爆撃機を中央ヨーロッパに前方展開

 アメリカ軍は戦略爆撃機、誘導弾潜水艦、水上艦艇、即応地上部隊をバルト海から黒海に至る地域に派遣するということだ。アメリカがこれらを派遣しただけで、ロシアが「こりゃどうも失礼しました」とウクライナから撤退するということはないというのは誰でも分かることだろう。ウクライナ侵攻の決断とは、そう言ったことも考慮しての決断である。こういった措置を行うのは戦争が勃発する前までは有効であろうが、それ以降はウクライナ戦争を停めるには有効ではない。ウクライナ以外のNATO加盟諸国を防衛する意思を示すということにはなる。

 現状ではウクライナ戦争は膠着し(落ち着き)、アメリカは大規模な資金援助と武器・物資援助を行っている。アメリカ・ウクライナ連合軍対ロシア軍という様相になりつつある。ヨーロッパ諸国は自分たちでは実質的に何もしないで、アメリカに守ってもらいながら、口先だけで威勢の良いことを言っている。それもだんだん元気がなくなっている。皆、戦争にうんざりなのだ。私は早い段階、特にウクライナがキエフ防衛を成功した時点で、有利な条件で停戦をすべきとこのブログで書いてきた。しかし、あの時に勢いづいた「正義派」の声は大きくどうしようもなかった。あの正義派の人々は現状をどう思っているのか。拳をどうおろそうかと迷っているならまだ良い方で、「あれそんなことありました?」とでも思っているなら救いようがない。

(貼り付けはじめ)

プーティン対西側世界:ウクライナを支援しより拡大した戦争に備えるための6つのステップ(Putin vs. the West: Six steps to help Ukraine and prepare for a wider war

セス・セス・クロプセイ筆

2022年2月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/595686-putin-vs-the-west-six-steps-to-help-ukraine-and-prepare-for-a-wider/

ウラジミール・プーティンによるウクライナに対するいわれのない攻撃は、80年にわたるアメリカの外交・安全保障政策の対象であった国際秩序の独立と主権を脅かすものである。崩壊した国際秩序は、世界中の同盟諸国やパートナーの安全保障、航行の自由、人権、自由な企業活動を危険にさらす。この紛争は、アメリカにとって直接的な関心事である。

本日正午の時点で、ウクライナにおける戦術状況は流動的である。しかし、ロシア軍はドンバスで「接触線(Line of Contact)」を越え、オデッサやマリウポリに上陸し、ハリコフ付近でロシア・ウクライナ国境を越えた模様である。更に、ロシアは民間・軍事インフラに対する事前攻撃を相次いで行っており、ドニプロ、キエフなどでの爆発が報告されている。

今後数時間、ロシアの空爆が続くだろう。ハリコフが攻撃され、残酷な市街戦が展開されるだろう。マリウポリに対するロシアの水陸両用攻撃は、ドンバスからの地上攻撃と、クリミアからの空からの攻撃と相まって行われる可能性が高い。ロシアのオデッサへの攻撃は、その意図の広範さを示している。今後数日のうちに、プーティンはキエフへの攻撃を命ずるかもしれない。

バイデン大統領は、NATOの同盟諸国とともに、ウクライナの防衛のために地上軍を投入しないことを決めてから長いが、ウクライナ人だけがウクライナを防衛することになるだろう。NATOの制裁措置は、ロシア経済がもともと脆弱であることと、経済的圧力が明らかに協調的であることから、影響を与えるだろう。しかし、制裁が効果を発揮するまでには時間がかかり、行動と罰の間に時差が生じる。抑止力は、特にロシアのような核保有国にとっては、紛争が始まれば終わりというものではないことを覚えておく必要がある。西側諸国は、大西洋同盟の領土の安全を確保し、ロシアの軍事的利益を制限し、必要であれば反エスカレーションに備えるために行動しなければならないのである。

更に言えば、ロシアの明らかに最大主義的な領土目標を考えると、抑止力は極めて重要である。昨日行われたプーティンの演説は、ほぼ間違いなく事前に録音されたもので、ウクライナ側が要請した国連安保理での会合と重なった。プーティンはウクライナを占領する計画を否定し、その代わりに非武装化を希望している。これは政治的な二枚舌(dobule-speak)である。ウクライナを非軍事化するには、キエフの独立した選挙で選ばれた政府を倒し、友好的な政権を樹立するしかない。加えて、プーティンは、介入を望むいかなる勢力に対しても、厳しく、即座に結果を出すと明確に脅した。プーティンが何をもって「介入(intervention)」と見なすかは分からないが、大西洋同盟は、軍事的な動きや援助の提供でさえ、ロシアの反応を誘発しかねないことを考慮しなければならない。

従って、西側諸国は、この危機がエスカレートする中で同盟諸国の利益と安全を確保し、将来のエスカレーションを抑止するために、6つのステップを踏む必要がある。

第一段階として、アメリカと同盟諸国は、ルーマニア、ブルガリア、ポーランド、バルト海に師団級の戦闘部隊を迅速に前方展開しなければならない。NATOにとって最大のリスクは、ロシアの水平方向の拡大、すなわちバルト海や黒海での攻勢である。ロシアの地上軍はウクライナ国境に圧倒的に集中しており、バルト海への即時攻勢の可能性は限定的である。しかし、ロシア海軍は黒海と東地中海に、複数の水上戦闘部隊、巡航ミサイルと防空システムを装備した少なくとも6隻の潜水艦を配備し、強力なプレゼンスを確立している。

即応部隊であるアメリカ第18空挺団が最も合理的な配備部隊である。これと並行して、防空と地表発射型対地・対艦ミサイルを優先的に配備する必要がある。さらに、アメリカは地中海のロシア海軍部隊に対抗し、軍艦を派遣し、潜水艦を追跡し、防空網を構築すべきだ。これらは、ロシアの現在の作戦能力を混乱させるとともに、NATOの同盟諸国に対するロシアの水平的なエスカレーションのコストを引き上げることになる。

第二段階として、NATOはウクライナに補給しようとする部隊に対するロシアの嫌がらせに備えるべきである。アメリカ大使館がリヴィウに移転し、必要であれば第二の首都として使用される可能性が高いことから、最も可能性の高い中継地点はリヴィウである。地上部隊は今のところ問題外だが、アメリカは展開する人員の引き抜きに備えなければならない。この作戦のために、旅団レベルの限定的な部隊と航空および情報支援を準備する必要がある。

第三段階として、もしまだ実行していないのであれば、NATOはロシアの侵攻に対して大規模なサイバー対応を実行すべきである。ロシアは、銀行、政府サイト、緊急サービスなどの重要な公共インフラに対するサイバー作戦を標準的な作戦としている。ロシアが水平方向にエスカレートしない限り、これは正当化されないだろう。しかし、それ以前に、アメリカはロシアの国家機関やロシア軍に対してサイバーや電子的な圧力をエスカレートさせることを検討すべきだ。ルーマニアに展開するアメリカ空軍と陸軍の電子戦(electronic warfareEW)部隊は、特に空挺部隊の場合、ロシアの通信を妨害し、ロシアの航空作戦を混乱させることができる。アメリカのサイバー司令部は、ロストフとウクライナの間のロシアの通信を妨害し、必要であれば社会全体に攻撃を拡大することができる。

第四段階として、アメリカ海軍は大規模な水上艦艇演習を通じて公に、またオホーツク海やバレンツ海に潜入して密かに、ロシア海軍基地の近くで活動することである。これらの基地は、ロシアの海軍戦略にとって極めて重要である。ロシアに必要な第二撃の保険を提供するのである。冷戦時代、ロシアが最も恐れていたのは、アメリカの先制攻撃を促すような核のアンバランスであった。このような恐怖がプーティンを突き動かすのである。これらのロシア海軍基地に圧力をかけることは、プーティンがNATO加盟諸国を攻撃することを決めた場合、アメリカは長期的な紛争に備える用意があることをクレムリンに伝えることになる。

第五段階として、アメリカ海軍は東地中海に誘導弾潜水艦を配備することである。オハイオ級SSGNは156発の巡航ミサイルを搭載しており、ロシアの複数の標的を無警告で攻撃するのに十分な兵装である。1月にキプロス付近に配備されたUSSジョージアは、その場所に戻して待機させるべきである。

第六段階として、アメリカ空軍はバルト海や黒海でのスタンドオフ攻撃に備え、あるいはロシアがエスカレートした場合に信頼できる追加の核抑止力を提供するため、戦略爆撃機を中央ヨーロッパに前方展開することを検討すべきである。これと並行して、アメリカ海軍はヨーロッパの抑止パトロールに参加する潜水艦の数を増やすべきであるが、この事実はロシアに知られることがないように公表する必要はない。

プーティンは戦争をしている。彼は私たちと戦争をすることはないだろうが、彼は今戦争をしている。ロシアの様々な行動に対するいかなる対応も、それが将来のエスカレートを抑制することに失敗すれば、それはアメリカと同盟諸国、パートナー諸国の安全保障にリスクとなる。

※セス・クロプセイ:ワシントンDCにあるシンクタンク「ヨークタウン研究所」創設者兼所長。元海軍士官で米海軍次官補を務めた。

(貼り付けおっわり)

(終わり)
※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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