古村治彦です。
古い記事になって恐縮だが、新型コロナウイルス感染拡大によってアメリカで変わりそうな5つのポイントについての記事をご紹介する。その5つとは、(1)医療制度(国民皆保険)、(2)郵便投票、(3)移民制度、(4)社会的セーフティーネット、(5)選挙運動である。これらが大きく変容することはないだろう。アメリカは個人主義、自己責任の国であり、国家が介入することを嫌うというのは建国以来の心性だ。「マスクをしない自由や権利は認められるべきだ」「ロックダウンのようなことはすべきではない」という声も大きい。アメリカやブラジルのような国民の大多数がキリスト教徒(プロテスタントとカトリックの違いはあるが)の国々で感染者数が急激に拡大し、中国は初期に感染拡大したが何とか抑えた。それは神は人間の自由を認められたが、自己責任だ、という考えがあるのだろうと思う。
アメリカでは国民皆保険ということにはなっていない。ここはアメリカでも議論の最前線である。ヨーロッパ諸国や日本のような先進諸国では国民皆保険なのだから、という主張もあるが、国民皆保険は社会主義的で、健康管理は自己責任だという主張もある。私たちは、コーラとハンバーガー、フライドポテト、バケツのような入れ物に入ったアイスクリームを食べて大変に肥満しているアメリカ人の姿を見ている。実際に肥満の数は多い。それで自己責任や自己管理とはとおかしくなるが、自由と自己責任という事をとかく強調しがちだ。しかし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大ではさすがに国民皆保険を求める声が少し大きくなったが、大勢を占めるほどではない。
郵便投票に関しては、不正投票の温床になる危険性が指摘されている。しかし、共和党支持が多い地方では長時間をかけて投票所まで出向かねばならないということもあり、郵便投票の実効性は議論されるべきであろうと思う。日本でも高齢化社会ということで、期日前投票の一環として時期を狭めての郵便投票ということはあり得るのではないかと思う。
新型コロナウイルスの感染拡大でアメリカは変容しない。それほどに個人主義と自己責任の意識が強い国なのだということが下の記事から読み取れる。
(貼り付けはじめ)
コロナウイルスがアメリカ政治を変化させる5つの事柄(Five ways the coronavirus could change American politics)
ナイオール・スタンジ筆
2020年5月2日
『ザ・ヒル』誌
https://thehill.com/homenews/campaign/495761-five-ways-the-coronavirus-could-change-american-politics
コロナウイルス危機はアメリカ政治にどのように影響を与えるだろうか?現在の関心は緊急事態に集中していることは当然のことだ。トラッキング・プロジェクトによると、金曜日の夜の時点で、アメリカ国内で100万以上が感染し、5万9000人以上が死亡した、ということだ。
しかし、より長期的な影響を持つ政治に関わる5つの分野についてこれから見ていく。
●国民皆保険(Universal health care)
世界各国では医療や衛生に関する危機に対応している。そうした中で私たちに突き付けられているのは、第一世界の国々の中でアメリカだけが国民皆保険制度を持っていないという事実である。
加えて、アメリカのシステムの土台は、全米で数多くの失業者が出ている中で、新たに考え直すことになっている。多くの人々の医療保険は雇用と結びついている。過去6週間で3000万人以上のアメリカ人が新たに失業保険の申請を行った。
危機的状況が人々の医療保険に関する考えを変化させていることを示すいくつかの証拠が出てきている。
アメリカ国内で危機的状況が激しくなった3月中旬にモーニング・コンサルト社が発表した世論調査によると、政府が支給する国民全員に対象にした健康保険への支持が増大している。
この世論調査では、成人の26%が国民皆保険を「強く」支持する、15%が支持すると答えた。
民主党員や支持者の59%が政府による国民皆保険を支持しているが、共和党員や支持者の25%が支持している。今回の危機的状況を受けて、国民皆保険を支持しないと答えた成人は12%に留まった。
バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)は国民皆保険の主導者であるが、今回の危機が自身の考えの正しさを証明していると述べている。
予備選挙における選挙運動の停止を発表する前、3月にCNNに寄せた論説の中で、サンダースは、国民皆保険は極めて重要だ、それは国民皆保険によって人々はコストを考えて医療を受けられないということがなくなるからだと主張している。サンダースは「ウイルスによる疾病に対する治療が受けられない人が出てくれば、ウイルス感染は多くの人々に拡大することになる。その結果、共同体全体を危機に晒すことになる」と書いている。
コロナウイルス危機によって国民皆保険に関する意見がこれからも変化し続けていくという保証はない。そして、国民皆保険という考えへの支持が多くなっていくとしても、連邦議会が国民皆保険を立法化するかどうかは疑問である。
トランプ大統領を含む共和党は国民皆保険という考え方に明確に反対している。そして、国民皆保険という考えよりも穏健なオバマ大統領時代に可決した患者保護並びに医療費負担適正化法は国民の間での分裂をもたらしている。3月にNBCニュースと『ウォールストリート・ジャーナル』紙が実施した共同世論調査によると、有権者の42%がオバマケアはより良い考えだったと評価している一方で、35%が悪い考えだったとしている。
●郵便投票(Mail-in voting)
コロナウイルス危機は選挙の投票に対するアメリカ人の認識を変化させるだろう。特に東京所に向かうよりも郵便での投票の好ましさが高まっている。
ウイルスが11月まで危険な状況であれば、一定の時間に長い列に並んで投票を待つということに多くの人々が躊躇を覚えるだろう。
アメリカ国内で郵便投票という考えが真剣に考慮されていることを示す兆候は多くある。
先週発表されたAP通信・NORCの共同世論調査によれば、成人の約40%は郵便による投票を支持しているという結果が出た。2018年に比べ、支持率は約2倍になっている。
同じ世論調査で、過半数である56%は、特別な理由がなくても郵便投票が認められるべきだと考えていることも分かった。
全米州議会評議会によると、次の5州では全てのレヴェルの選挙で郵便投票が実施されている。コロラド州、ハワイ州、オレゴン州、ワシントン州、ユタ州である。その他いくつかの州ではいくつかのレヴェルの選挙での郵便による選挙実施が許可されている。また、各個人が望むならば郵便投票を選択することを認められている州もある。
トランプ大統領は郵便投票という考えに懐疑的だ。トランプ大統領はシンプルに「郵便投票では、不正が行われる。郵便投票を認めることはこの国にとって極めて危険だ。なぜならば不正を行う人々が存在するからだ」と主張している。しかし、トランプ大統領自身は今年初めに居住地であるフロリダ州で不在者投票を行うために郵便で投票を行った。
党派を超えて郵便投票に対する懸念は存在する。実際に人々が投票所に行って投票するよりも不正が行われる可能性が高いという懸念が存在する。
しかし、郵便投票を採用している各州では大きな問題は起きていない。そして、コロナウイルス危機において、郵便投票によって多くの人々が投票できるという点は際立っている。
●移民(Immigration)
4月20日、トランプ大統領はツイッター上でコロナウイルス危機への対応として、「アメリカ国内への移民を一時的に停止する」と発表した。大統領は大統領令を発令したが、これはそこまで徹底的なものではなかった。大統領令はグリーンカードの発行を少なくとも60日間停止するというものだった。しかし、この命令は多くの例外事項が含まれていた。例えば、既にアメリカ国内に滞在しているグリーンカード申請者のグリーンカード発狂に影響はない。
それでも移民の権利などを主張する人々はこの動きを批判している。トランプ大統領は長年にわたり主張してきた移民問題に対する強硬姿勢を危機を利用して実施していると批判している。
しかし、いくつかの世論調査では、少なくとも現在の時点までは、多くのアメリカ国民がトランプ大統領と考え方を共有していることが分かった。
『ワシントン・ポスト』紙とメリーランド大学の共同世論調査は4月21日から26日まで実施され、「コロナウイルスの感染拡大が続く間アメリカへの移民をほぼ全て」一時的に停止するという考えを65%の成人が支持しているという結果が出た。
この世論調査で、共和党支持者たちは移民の一時的停止を圧倒的に支持しており、賛成83%、反対17%という結果だった。一方、民主党支持者たちは、移民に賛成する人たちが多いと考えられているが、賛否は半々に割れている。賛成49%、反対49%だった。
移民関連団体は、このような世論調査の結果を受けて、危機の間は移民の一時停止は起きるだろうが、アメリカ人のほとんどが移民はアメリカにとって利益となると考えている事実から、停止にまで至るとまでは考えていないと述べている。
しかし、中国から始まり世界に大混乱をもたらしている脅威である危機の本質は、移民だけではなく、移動の自由とグローバライゼーションにまで、様々な考えに影響を与えることになるだろう。
●社会的セーフティーネット(The social safety net)
コロナウイルス危機と大規模な経済の破壊はより強力な社会的セーフティーネットの必要性を高めることになるだろうか?
アメリカは数十年に一度の大きなショックを経験しており、それで多くの人々の生活を大きく変化させることになる。
実業家アンドリュー・ヤンは今回の大統領選挙民主党予備選挙の期間中に国民皆ベイシック・インカムという考えを主張した。2020年4月、ヤンはスペインがコロナウイルス対策として国民全員へのベイシック・インカムを採用したことをツイートした。そして「アメリカも見習うべきだ」と述べた。同時期、『ワシントン・ポスト』紙は記事の見出しで、「感染拡大(大流行)は国民全員へのベイシック・インカムという考えを強めるものだ」と書いた。
その他に、今回の危機によって、有給の病気休暇の必要性が高まったと主張する人々もいる。コーリー・ブッカー連邦上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)、カーステン・ギリブランド連邦上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)、カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は今年3月に記者会見を開き、有給の病気休暇制度の導入を訴えた。
失業保険についても疑問が出ている。また、いくつかの州では緊急に支援を必要としている人々への支援を行う社会資本が欠如していることにも疑問が出ている。
しかし、大規模な危機的状況が社会的なインパクトに関する多くのアメリカ人の考えを根本的に変化させるかどうかについて、多くの専門家は懐疑的だ。
ヴァンダービルト大学政治学教授ジョシュア・クリントンはCNBCに出演し、次のように述べた。「少しの変化はあるでしょう。しかし、国家の構造や国家と自分たちの生活との関係についての人々の考えが大きく変化するとは私は考えていません」。
●政治運動や選挙運動(Political campaigning)
コロナウイルスの政治に対する明確な影響は選挙運動に表れている。
大規模な選挙運動の動員は問題外として、候補者たちと選挙運動の陣営は有権者に考えを届けるための外の方法を考えねばならなくなっている。
民主党の大統領選挙候補者となる可能性が高いジョー・バイデン前副大統領は、デラウェア州にある自宅からのヴィデオメッセージに限定している。通常であればアメリカ政治の中心的な話題となるはずだがそのようにならずに苦闘している。トランプ大統領は記者会見を、実施できない選挙集会の代わりとして利用しているとして批判されている。
民主党全国大会は元々開催予定であった7月中旬から1か月後に既に延期となっている。トランプ大統領は、共和党全国大会は元々予定されていた通りに民主党全国大会の1週間後に開催すべきだと主張している。
今回の危機は、今年の大統領選挙の選挙運動に深刻な影響を与えることは明確だ。
しかし、インターネット上の選挙運動への変化のようなその他の変化が定着し、今後の選挙の基準となると考えることは難しい。
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