古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:パンデミック

 古村治彦です。

 古い記事になって恐縮だが、新型コロナウイルス感染拡大によってアメリカで変わりそうな5つのポイントについての記事をご紹介する。その5つとは、(1)医療制度(国民皆保険)、(2)郵便投票、(3)移民制度、(4)社会的セーフティーネット、(5)選挙運動である。これらが大きく変容することはないだろう。アメリカは個人主義、自己責任の国であり、国家が介入することを嫌うというのは建国以来の心性だ。「マスクをしない自由や権利は認められるべきだ」「ロックダウンのようなことはすべきではない」という声も大きい。アメリカやブラジルのような国民の大多数がキリスト教徒(プロテスタントとカトリックの違いはあるが)の国々で感染者数が急激に拡大し、中国は初期に感染拡大したが何とか抑えた。それは神は人間の自由を認められたが、自己責任だ、という考えがあるのだろうと思う。

 アメリカでは国民皆保険ということにはなっていない。ここはアメリカでも議論の最前線である。ヨーロッパ諸国や日本のような先進諸国では国民皆保険なのだから、という主張もあるが、国民皆保険は社会主義的で、健康管理は自己責任だという主張もある。私たちは、コーラとハンバーガー、フライドポテト、バケツのような入れ物に入ったアイスクリームを食べて大変に肥満しているアメリカ人の姿を見ている。実際に肥満の数は多い。それで自己責任や自己管理とはとおかしくなるが、自由と自己責任という事をとかく強調しがちだ。しかし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大ではさすがに国民皆保険を求める声が少し大きくなったが、大勢を占めるほどではない。

 郵便投票に関しては、不正投票の温床になる危険性が指摘されている。しかし、共和党支持が多い地方では長時間をかけて投票所まで出向かねばならないということもあり、郵便投票の実効性は議論されるべきであろうと思う。日本でも高齢化社会ということで、期日前投票の一環として時期を狭めての郵便投票ということはあり得るのではないかと思う。

 新型コロナウイルスの感染拡大でアメリカは変容しない。それほどに個人主義と自己責任の意識が強い国なのだということが下の記事から読み取れる。

(貼り付けはじめ)

コロナウイルスがアメリカ政治を変化させる5つの事柄(Five ways the coronavirus could change American politics

ナイオール・スタンジ筆

2020年5月2日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/campaign/495761-five-ways-the-coronavirus-could-change-american-politics

コロナウイルス危機はアメリカ政治にどのように影響を与えるだろうか?現在の関心は緊急事態に集中していることは当然のことだ。トラッキング・プロジェクトによると、金曜日の夜の時点で、アメリカ国内で100万以上が感染し、5万9000人以上が死亡した、ということだ。

しかし、より長期的な影響を持つ政治に関わる5つの分野についてこれから見ていく。

●国民皆保険(Universal health care

世界各国では医療や衛生に関する危機に対応している。そうした中で私たちに突き付けられているのは、第一世界の国々の中でアメリカだけが国民皆保険制度を持っていないという事実である。

加えて、アメリカのシステムの土台は、全米で数多くの失業者が出ている中で、新たに考え直すことになっている。多くの人々の医療保険は雇用と結びついている。過去6週間で3000万人以上のアメリカ人が新たに失業保険の申請を行った。

危機的状況が人々の医療保険に関する考えを変化させていることを示すいくつかの証拠が出てきている。

アメリカ国内で危機的状況が激しくなった3月中旬にモーニング・コンサルト社が発表した世論調査によると、政府が支給する国民全員に対象にした健康保険への支持が増大している。

この世論調査では、成人の26%が国民皆保険を「強く」支持する、15%が支持すると答えた。

民主党員や支持者の59%が政府による国民皆保険を支持しているが、共和党員や支持者の25%が支持している。今回の危機的状況を受けて、国民皆保険を支持しないと答えた成人は12%に留まった。

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァ-モント州選出、無所属)は国民皆保険の主導者であるが、今回の危機が自身の考えの正しさを証明していると述べている。

予備選挙における選挙運動の停止を発表する前、3月にCNNに寄せた論説の中で、サンダースは、国民皆保険は極めて重要だ、それは国民皆保険によって人々はコストを考えて医療を受けられないということがなくなるからだと主張している。サンダースは「ウイルスによる疾病に対する治療が受けられない人が出てくれば、ウイルス感染は多くの人々に拡大することになる。その結果、共同体全体を危機に晒すことになる」と書いている。

コロナウイルス危機によって国民皆保険に関する意見がこれからも変化し続けていくという保証はない。そして、国民皆保険という考えへの支持が多くなっていくとしても、連邦議会が国民皆保険を立法化するかどうかは疑問である。

トランプ大統領を含む共和党は国民皆保険という考え方に明確に反対している。そして、国民皆保険という考えよりも穏健なオバマ大統領時代に可決した患者保護並びに医療費負担適正化法は国民の間での分裂をもたらしている。3月にNBCニュースと『ウォールストリート・ジャーナル』紙が実施した共同世論調査によると、有権者の42%がオバマケアはより良い考えだったと評価している一方で、35%が悪い考えだったとしている。

●郵便投票(Mail-in voting

コロナウイルス危機は選挙の投票に対するアメリカ人の認識を変化させるだろう。特に東京所に向かうよりも郵便での投票の好ましさが高まっている。

ウイルスが11月まで危険な状況であれば、一定の時間に長い列に並んで投票を待つということに多くの人々が躊躇を覚えるだろう。

アメリカ国内で郵便投票という考えが真剣に考慮されていることを示す兆候は多くある。

先週発表されたAP通信・NORCの共同世論調査によれば、成人の約40%は郵便による投票を支持しているという結果が出た。2018年に比べ、支持率は約2倍になっている。

同じ世論調査で、過半数である56%は、特別な理由がなくても郵便投票が認められるべきだと考えていることも分かった。

全米州議会評議会によると、次の5州では全てのレヴェルの選挙で郵便投票が実施されている。コロラド州、ハワイ州、オレゴン州、ワシントン州、ユタ州である。その他いくつかの州ではいくつかのレヴェルの選挙での郵便による選挙実施が許可されている。また、各個人が望むならば郵便投票を選択することを認められている州もある。

トランプ大統領は郵便投票という考えに懐疑的だ。トランプ大統領はシンプルに「郵便投票では、不正が行われる。郵便投票を認めることはこの国にとって極めて危険だ。なぜならば不正を行う人々が存在するからだ」と主張している。しかし、トランプ大統領自身は今年初めに居住地であるフロリダ州で不在者投票を行うために郵便で投票を行った。

党派を超えて郵便投票に対する懸念は存在する。実際に人々が投票所に行って投票するよりも不正が行われる可能性が高いという懸念が存在する。

しかし、郵便投票を採用している各州では大きな問題は起きていない。そして、コロナウイルス危機において、郵便投票によって多くの人々が投票できるという点は際立っている。

●移民(Immigration

4月20日、トランプ大統領はツイッター上でコロナウイルス危機への対応として、「アメリカ国内への移民を一時的に停止する」と発表した。大統領は大統領令を発令したが、これはそこまで徹底的なものではなかった。大統領令はグリーンカードの発行を少なくとも60日間停止するというものだった。しかし、この命令は多くの例外事項が含まれていた。例えば、既にアメリカ国内に滞在しているグリーンカード申請者のグリーンカード発狂に影響はない。

それでも移民の権利などを主張する人々はこの動きを批判している。トランプ大統領は長年にわたり主張してきた移民問題に対する強硬姿勢を危機を利用して実施していると批判している。

しかし、いくつかの世論調査では、少なくとも現在の時点までは、多くのアメリカ国民がトランプ大統領と考え方を共有していることが分かった。

『ワシントン・ポスト』紙とメリーランド大学の共同世論調査は4月21日から26日まで実施され、「コロナウイルスの感染拡大が続く間アメリカへの移民をほぼ全て」一時的に停止するという考えを65%の成人が支持しているという結果が出た。

この世論調査で、共和党支持者たちは移民の一時的停止を圧倒的に支持しており、賛成83%、反対17%という結果だった。一方、民主党支持者たちは、移民に賛成する人たちが多いと考えられているが、賛否は半々に割れている。賛成49%、反対49%だった。

移民関連団体は、このような世論調査の結果を受けて、危機の間は移民の一時停止は起きるだろうが、アメリカ人のほとんどが移民はアメリカにとって利益となると考えている事実から、停止にまで至るとまでは考えていないと述べている。

しかし、中国から始まり世界に大混乱をもたらしている脅威である危機の本質は、移民だけではなく、移動の自由とグローバライゼーションにまで、様々な考えに影響を与えることになるだろう。

●社会的セーフティーネット(The social safety net

コロナウイルス危機と大規模な経済の破壊はより強力な社会的セーフティーネットの必要性を高めることになるだろうか?

アメリカは数十年に一度の大きなショックを経験しており、それで多くの人々の生活を大きく変化させることになる。

実業家アンドリュー・ヤンは今回の大統領選挙民主党予備選挙の期間中に国民皆ベイシック・インカムという考えを主張した。2020年4月、ヤンはスペインがコロナウイルス対策として国民全員へのベイシック・インカムを採用したことをツイートした。そして「アメリカも見習うべきだ」と述べた。同時期、『ワシントン・ポスト』紙は記事の見出しで、「感染拡大(大流行)は国民全員へのベイシック・インカムという考えを強めるものだ」と書いた。

その他に、今回の危機によって、有給の病気休暇の必要性が高まったと主張する人々もいる。コーリー・ブッカー連邦上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)、カーステン・ギリブランド連邦上院議員(ニューヨーク州選出、民主党)、カマラ・ハリス連邦上院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は今年3月に記者会見を開き、有給の病気休暇制度の導入を訴えた。

失業保険についても疑問が出ている。また、いくつかの州では緊急に支援を必要としている人々への支援を行う社会資本が欠如していることにも疑問が出ている。

しかし、大規模な危機的状況が社会的なインパクトに関する多くのアメリカ人の考えを根本的に変化させるかどうかについて、多くの専門家は懐疑的だ。

ヴァンダービルト大学政治学教授ジョシュア・クリントンはCNBCに出演し、次のように述べた。「少しの変化はあるでしょう。しかし、国家の構造や国家と自分たちの生活との関係についての人々の考えが大きく変化するとは私は考えていません」。

●政治運動や選挙運動(Political campaigning

コロナウイルスの政治に対する明確な影響は選挙運動に表れている。

大規模な選挙運動の動員は問題外として、候補者たちと選挙運動の陣営は有権者に考えを届けるための外の方法を考えねばならなくなっている。

民主党の大統領選挙候補者となる可能性が高いジョー・バイデン前副大統領は、デラウェア州にある自宅からのヴィデオメッセージに限定している。通常であればアメリカ政治の中心的な話題となるはずだがそのようにならずに苦闘している。トランプ大統領は記者会見を、実施できない選挙集会の代わりとして利用しているとして批判されている。

民主党全国大会は元々開催予定であった7月中旬から1か月後に既に延期となっている。トランプ大統領は、共和党全国大会は元々予定されていた通りに民主党全国大会の1週間後に開催すべきだと主張している。

今回の危機は、今年の大統領選挙の選挙運動に深刻な影響を与えることは明確だ。

しかし、インターネット上の選挙運動への変化のようなその他の変化が定着し、今後の選挙の基準となると考えることは難しい。

(貼り付け終わり)

(終わり)

amerikaseijinohimitsu019
アメリカ政治の秘密
harvarddaigakunohimitsu001
ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です。

 新型コロナウイルス感染拡大はアメリカと中国の争いの最前線となっている。アメリカは「中国が初期対応を誤ったために世界中に感染拡大してしまった、責任を取れ」「国際調査団に中国のウイルス学研究所の徹底調査をさせろ」ということを主張している。中国政府は新型コロナウイルスが実験室などで人の手によって造られたものではないと主張し、また、中国が発祥ということはないと反発している。

 「新型コロナウイルスはアメリカが作った、いやいや中国が作った」という討論がずっと続いている。そうした中で、アメリカのドナルド・トランプ大統領とトランプ政権は中国に対して厳しい姿勢を維持している。その急先鋒は、マイク・ポンぺオ国務長官だ。ポンぺオ国務長官は最近になってトーンダウンしたが、「新型コロナウイルス発祥は中国だという証拠はたくさんある」と述べ、世界的な感染拡大の責任は中国にあると述べてきた。

 2020年5月24日の段階で、世界中で約540万の感染者、死者数が34万3000、回復者数が約225万となっている。アメリカは感染者数約167万、死者数が約9万8000、回復者数が約45万となっている。日本は感染者数約1万6500、死者数は808、回復者数は約1万3000となっている。アメリカは感染者数、死者数で世界の約30%を占めている。新型コロナウイルスは今年初めには中国、特に武漢市で猛威を振るったが、今や欧米、特にアメリカで猛威を振るっていると言ことになる。トランプ政権の初期対応の誤りによってアメリカが最大の感染者数年者数を出すということになったという批判もなされている。そうした批判をかわすためにもトランプ政権としては、中国に責任を押しつけたいということになる。

 マイク・ポンぺオという人物が中央政界で知られるようになったのは、2010年の連邦下院議員選挙からだ。2008年にバラク・オバマが大統領選挙で勝利した直後から、アメリカでは保守派の草の根運動としてティーパーティー運動が始まった。小さな政府を標榜し、国民皆保険を目指すオバマケアに反対する、「納税者」の運動を展開した。この運動の資金源は、世界的な大富豪であるコーク兄弟であった。ポンぺオはティーパーティー運動に参加し、2010年の中間選挙で連邦下院議員に当選した。その後、4期連続で当選した。トランプ政権のマイク・ペンス副大統領とポンぺオ国務長官はそれぞれ連邦下院議員の経験があるが、その時のスポンサーだったのはコーク兄弟だった。

 2016年の大統領選挙でドナルド・トランプが勝利を収めると、アメリカの情報・諜報機関CIAの長官に就任した。2018年にレックス・ティラーソンがトランプ大統領のツイッターでの書き込みによって解任された後、ポンぺオが国務長官に就任した。

 マイク・ポンぺオという人物はコーク兄弟の後ろ盾を受けて、中央政界に進出し、CIA長官を務め、現在は最重要閣僚である国務長官を務めている。ポンぺオはコーク兄弟の代理人だ、という記事もあったが、現状を見ればそれはとても甘い見方であったことが分かる。コーク兄弟をはじめとするリバータリアンは対外戦争に反対だ。しかし、ポンぺオの言動や行動はとても危なっかしい。中国やロシアとはいつでもやってやるぞという姿勢だし、トランプ大統領が始めた北朝鮮との直接交渉にしても、北朝鮮側から「ポンぺオ国務長官を外して欲しい」という要請をされてしまうほどだ。

 ポンぺオは複数の勢力とつながり、利用してここまでやってきたと考えることが妥当だろう。それはマイク・ペンス副大統領にも言えることだ。その勢力の中には、アメリカを対外戦争に引きずり込もうという勢力もある。表面ではネオコンや人道的介入派として出ている勢力であるが、その裏がどうなっているのか分からないが、かなり恐ろしい勢力がいるのではないかと私は考えている。トランプ政権は反中央政府、反ワシントン既成政治を旗印に誕生したが、更に一回り大きな勢力に利用されているのではないかと私は危惧を持っている。

(貼り付けはじめ)

●「沈黙のバットウーマン 武漢の研究者、コロナで先駆  米中対立の火種に」

2020/5/20   日経新聞   北京=多部田俊輔、編集委員 滝順一

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59338010Q0A520C2EA1000/

 中国の湖北省武漢市で世界で初めて感染が確認された新型コロナウイルスの発生源を巡って、米中の対立が止まらない。武漢ウイルス研究所が発生源だと主張する米国側に対し、中国側は「捏造(ねつぞう)」だと否定する。真相のカギを握るとみられているのが同研究所の石正麗氏だ。コウモリ由来のウイルス研究者の石氏は「バットウーマン(コウモリ女)」の異名も持つが、このところ動静が途絶えている。

「石氏が家族とともに1千ページに及ぶ秘密文書を持って欧州に逃亡した」。5月はじめ、武漢研究所「発生源」説がくすぶる中、こんな情報が米欧を駆け巡った。すぐに中国メディアは石氏が中国のSNS(交流サイト)に「国を裏切り亡命したとのデマはありえない」と投稿したと報じ、亡命説を否定。しかし石氏は表に出てこない。

「新型コロナウイルスは自然が人類に与えた懲罰であり、自分の命をかけて研究所か

らの流出はない」。石氏は2月初旬に中国のSNSで友人らにこのような趣旨の投稿をしてから、新型コロナの発生源に関して発言を控えている。

石氏は1964年生まれ。大学で遺伝学を学んだ後、政府直属の最高研究機関「中国科学院」傘下の武漢ウイルス研究所に入った。医学などの研究で名門とされる仏モンペリエ大学で2000年にウイルス学の博士号を取得し、武漢に戻った。

石氏が有名になったのは0203年に中国で流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生源究明での実績だ。各地の洞窟で野生コウモリを捕まえて体液を分析し、SARSウイルスの起源がコウモリだと証明した。13年に英科学誌ネイチャーで発表し、「バットウーマン」と呼ばれるきっかけにもなった。

15年には今回の新型コロナを予言したともいえる研究成果も、米ノースカロライナ大学のラルフ・バリク教授と共同で公表していた。バリク氏はコロナウイルス研究の第一人者。2人はコウモリのコロナウイルスが変異すると、SARSウイルスの治療薬が効かない新種のウイルスが生まれる恐れがあると、ネイチャー姉妹誌で公表した。

さらに石氏らの研究チームは1月に湖北省政府から新型コロナの研究を命じられると、22月初旬にいち早く、新型コロナもコウモリ由来の可能性が高いと発表していた。

一方、トランプ米大統領やポンペオ米国務長官は武漢ウイルス研究所が新型コロナの発生源だと主張する。最も危険性の高い病原体を扱える「バイオセーフティーレベル(BSL―4」の施設で、最初に感染者が出たとされる野生動物を売買する市場からも約30キロしか離れていない。

米ワシントン・ポストによると、18年に同研究所を視察した米当局者が「コロナウイルスの研究をしているが安全対策が不十分」と警告する公電を米国へ送っていた。ポンペオ氏は研究所の立ち入り検査を求めている。

ただウイルスが意図的に研究所から漏れたとみる専門家は少ない。米メディアによると、カリフォルニア大学の感染症専門家のジョナ・マゼット氏は新型コロナの感染が始まる前に「石氏の研究所には新型コロナウイルスはなかった」と指摘。武漢研究所が発生源だとする米政権の主張に反論する。実情を知る石氏は口を閉ざしたままだ。

大統領選を控えるトランプ政権は「中国たたき」が得票につながるとみて強硬姿勢に傾く。習近平(シー・ジンピン)指導部はポンペオ氏を標的に「人類共通の敵」などと対米批判を繰り返す一方、国内では研究者を含めた情報統制を強める。

「共産党の指導が厳しく愛国的なテーマを掲げないと研究が難しくなっている」。中国の有力大学で教える外国人専門家は漏らす。関係者によると、新型コロナも研究者らが自由に発信することは許されない。コロナ禍の克服には変異を繰り返しながら感染を広げるウイルスの正体を突き止めることが必要だ。中国の情報開示が問われている。

(北京=多部田俊輔、編集委員 滝順一)

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●「ポンペオ氏、新型コロナ発生源は「不明」 武漢研究所説から転換」

2020.05.18 Mon posted at 10:15 JST CNN

https://www.cnn.co.jp/usa/35153896.html

ワシントン(CNN) ポンペオ米国務長官は新型コロナウイルスが中国・武漢のウイルス研究所から発生したとの説から方向転換し、発生源は不明との立場を示した。米ニュースサイト、ブライトバートが16日に配信したインタビューの中で語った。

ポンペオ氏はこの中で、新型ウイルスの発生源を特定するため、支援チームの派遣を繰り返し要請してきたと述べた。

同氏はまた、ワクチン開発に取り組む研究者らにとって、発生源を知ることは重要な「鍵」になると強調。そのうえで中国の対応は透明性を欠くと改めて非難し、米国による制裁の可能性に言及した。

ただし制裁の具体的な手段については、トランプ大統領が十分な説明を受けたうえで決断を下すことを望むと述べた。

ポンペオ氏はこれまで、新型ウイルスが武漢のウイルス研究所から発生したと主張。今月初めのインタビューでは「大量の証拠」があると述べたが、その後「確信はない」と軌道修正していた。

トランプ氏も同様に「証拠を見たことがある」と主張したが、研究者らや国際情報共有網からは「可能性は極めて低い」との見解が出され、米情報機関は両方の可能性を検討中と述べていた。

中国政府は研究所説を、トランプ氏の再選に向けた中傷作戦だと批判している。

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ポンぺオ国務長官が険悪な雰囲気の記者会見の中で武漢の実験室をめぐる主張を擁護した(Pompeo defends Wuhan lab claims in combative press conference

ロウラ・ケリー筆

2020年5月6日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/496356-pompeo-defends-wuhan-lab-claims-in-combative-press-conference

マイク・ポンぺオ国務長官は水曜日、記者たちと言い争いを行った。中国のある実験室から新型コロナウイルスの感染拡大が始まったのかどうかという疑問についてやり合った。こうした主張は情報諜報機関の幹部や衛生の専門家たちから否定されている。

ポンぺオはBBCの記者バーバラ・プレット・アッシャーからのウイルスの起源に関する諜報について質問に対して次のように答えた。「バーバラ、バーバラ、いったん落ち着きましょう。」

Your efforts to try and find — just to spend your whole life trying to drive a little wedge between senior American officials … it's just false,”

ポンぺオは、中国の武漢ウイルス学研究所でウイルスに接したことで新型コロナウイルスの感染が始まったという理論を主張している。中国の武漢ウイルス学研究所である科学者がウイルスに接触したことが始まりという話だ。こうした主張を基にして、アメリカ政府は感染拡大に関して中国政府が国際的な調査団による中国国内の調査を許可すること、世界規模の拡大に責任を取ることを求めている。

ポンぺオは日曜日に行ったあるインタヴューの中で、「武漢という中国の都市にあるある実験室からウイルスが流出したことを示す“多くの証拠”が存在する」と述べた。しかし、この発言に対しては政府高官と衛生の専門家たちから否定されている。

米統合参謀本部議長であるマーク・ミリー大将は火曜日、ウイルスの発生は自然なものであり、実験室から偶然にもしくは意図的に流出したことを示す「決定的な証拠」は存在しないと述べた。

世界的な科学者たちの合意は、今回の新型コロナウイルスはある動物の中に発生して、人間に感染したというものだ。アメリカ国立アレルギー・感染症研究所所長でホワイトハウスの対コロナウイルスのタスクフォースの主要メンバーであるアンソニー・ファウチは、ウイルスはある実験室から流出したものという主張を否定し、この疾病は野生から出てきたと述べた。

国務省は「多くの証拠」を肯定する新しい情報を得ているのかと問われ、ポンぺオは、アメリカ政府はウイルスがある実験室から発生したのかどうか、そして証拠があるのかどうかについて関知していないと答えた。

ポンぺオ国務長官は「これらの噺はどちらも全体として首尾一貫しています」と述べた。

ポンぺオは次のように述べた。「あなたが分からないことについて私も確実なことは何も言えないのですよ。新型コロナウイルスがある実験室から発生したという主張には確実性はなく、明らかな証拠もありません。ウイルス発生の起源と証拠についてのアメリカ政府の声明はどちらも正しい可能性があります。渡したこれら2つの主張を行います。政権幹部も同様に2つの主張を行います。これらはすべて真実です」。

先週、アメリカの情報機関の幹部たちは公開声明を発表した。これは極めて珍しいことだ。この声明の中で、幹部たちは今回の新型コロナウイルスはある動物の中で発生したという世界的な科学者たちの合意に同意したが、ある実験室での事故で発生した結果であるのかどうかについて調査を継続しなければならないと主張した。

中国は昨年12月末に世界保健機関(WHO)に対して肺炎の「奇妙な」ケースの発生を報告した。そして同時に、武漢市の海鮮市場での販売員と消費者のクラスターが発生したとも報告した。

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中国との言論戦の中で、ポンぺオが先鋒として登場(Pompeo Emerges as Point Man in War of Words With China

―ポンぺオを批判する人々は、ポンぺオは感染拡大に対する世界規模での対応のために強調するよりも中国攻撃に狂奔していると述べている。ポンぺオを支持する人々は、ポンぺオは中国の責任追及をしているのだと述べている。

ロビー・グラマー筆

2020年5月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2020/05/01/coronavirus-trump-pandemic-pompeo-attack-china/

最近の数週間、マイク・ポンぺオ米国務長官は、トランプ政権の強硬な対中国戦略の顔として出てきている。コロナウイルス感染拡大に関して中国非難のメッセージの拡散のために保守系メディアに依存している。多くのフォックスニュースや保守系のラジオのトークショーで中国叩きが行われており、ポンぺオはそれらに依存している。

ポンぺオはダン・“オックス”・オクスナーに対して「私たちの姿勢は明確であり、それは中国共産党は特別の責任を負っているというものだ」と述べた。オクスナーは保守系のラジオのトークショーの司会者であり、ポンぺオは木曜日だけでこうしたラジオのトークショー4番組に出演した。その中にオクスナーの番組も含まれていた。「このウイルスは武漢で発生しました。中国は世界とデータ、情報を共有する特別な責任を持っています。そして、透明性を確保する必要があります」。

外交分野以外の人々と元外交官たちにとっては、ポンぺオ国務長官のメディアを使った大規模な宣伝によって保守派の人気を高めている。これはドナルド・トランプ大統領の支持基盤を活性化するように見える。感染拡大によるロックダウンによって世界経済は減退し、アメリカ国内の失業数は急増している。このような状態の中で、保守派の活性化は2020年の選挙にとって重要である。批判者たちは、ポンぺオ国務長官が感染拡大に対する世界的な反応を協調させることではなく、政権による攻撃の急先鋒になっていると述べている。ポンぺオ国務長官の支持者たちはこうした批判を党派性の強い情報操作(spin)に過ぎないとしている。

中国はポンぺオ国務長官に反撃をしている。先週、中国は国営メディアを使って、通常では考えられない規模で個人攻撃を行った。この時、中国政府は、「中国がウイルスの感染拡大の初期段階で対応を誤り、世界規模で感染が拡大した」というアメリカからの批判をかわそうと躍起になっていた。中国共産党機関紙『人民日報』紙のある論説には次のような一節があった。「ポンぺオのような政治家の頭の中には、偏見、憎悪、個人の利益しか存在しない。ポンぺオの発言や行動は人々を困惑させている。そのようないじめと荒唐無稽な発言で“アメリカを再び偉大にできる”などと彼は考えているのか、と」。

今年の4月だけで、ポンぺオ国務長官は90以上のアメリカ国内と外国の報道機関のインタヴューに応じた。これは感染拡大初期と比べると大きな変化である。4月、ポンぺオ国務長官は米国務省内でほぼ定期的な記者会見も開いていた。様々な報道機関からの記者たちが彼に質問をすることができる機会だ。加えて、国務省は、感染拡大やその他の問題についての国務省の対応について、国務省の幹部職員たちにほぼ毎日電話でのブリーフィングを行ってきた。

外交官出身者の中には、ポンぺオ国務長官が特定の政治的志向を持つ選ばれた国内の聴衆に集中し過ぎていると批判している。ポンぺオ国務長官が一対一のインタヴューやトークショーに出演しているが、その多くは保守系メディアである。国務省は一般の人々にも利用できるように、ポンぺオと報道機関のインタヴューの文字起こしを発表している。複数の元外交官たちは本誌の取材に対して、ポンぺオ国務長官がトランプを擁護しているメディアにこだわっているのは、こうしたメディアにばかり出ることで、厳しい質問を受けることがないからだ。また、外国メディアからのインタヴュー受ける代わりに保守系メディアのインタヴューを受けている。外国メディアの取材に応じることは、アメリカの政策について諸外国の人々により良く説明する機会となるがそれを放棄している。

職業外交官出身で、バラク・オバマ大統領時代のホワイトハウスで国際社会関与担当の部長を務めたブレット。ブラエンは次のように述べた。「ポンぺオ国務長官は、トランプ政権が採用している政策の理由について世界とコミュニケーションするためにほとんど時間を使っていません。彼は、国務長官の役割をより党派性の強いものにしてしまいました。歴史的に見て、国務長官は争いから超然としていようとしてきました。私が現在の政権の政策に同意できないにしても、国務長官の仕事は、世界各国のメディアに対して、アメリカ政府の政策の正当性を説明することであり、そのために最前線に立つことなのです」。

アメリカ国務省は、感染拡大によって民間航空のキャンセルが相次ぎ、渡航禁止などを実施する外国が増えている中で、海外で足止め状態になっている数万単位のアメリカ国民の帰国というこれまでにない仕事を実行しなければならなくなっている。そうした中で、ポンぺオ国務長官は国内のメディアにばかり登場しているのはこれらの仕事の実行に役立たないと指摘している人々もいる。世界各国に置かれているアメリカ大使館と領事館は今年1月以降、これまでに7万人以上のアメリカ国民の帰国を援助している。国務省の幹部たちは、在外公館は民間航空とチャーター機を使ってアメリカ国民を帰国させていると述べている。

ポンぺオ国務長官がメディアに頻繁に登場しているのは、トランプ政権のより大枠の戦略である、中国が感染拡大への対応を誤ったのかどうかについての独立機関による調査を求めることとウイルスの起源について疑問が多く出ている中で国際機関による調査官たちに中国国内のウイルス研究施設の調査を許可するように中国政府に圧力をかけること、この2点に沿った動きなのである。トランプ政権はまた、世界保健機関(World Health OrganizationWHO)の世界的な感染拡大への対応における役割について非難している。WHOは中国からの圧力に屈ししていると攻撃している。トランプ政権を批判している人々は、政権が感染拡大に対する対応が遅れたことを隠すために批判を行っていると述べている。アメリカ国内では110万以上の感染者数を確認し、死者は約6万5000名に達している。

トランプ政権は、世界保健機関が中国の圧力に屈しているかを調査するために、しばらくの間予算供与を停止すると発表した。

民主党所属の連邦議員たちはこのような手段を批判している。彼らは、確かにWHOは失敗をしたが、アメリカからの支援を必要としている、と発言した。連邦上院少数派(民主党)院内総務チャック・シューマー連邦上院議員、連邦上院外交委員会で民主党側の最上位のメンバーであるボブ・メレンデス連邦上院議員、その他の連邦上院議員たちは4月20日付で書簡をポンぺオ国務長官に送付した。その中で次のように述べている。「感染拡大への対応と封じ込めに関しては複雑さを増している。そうした中で、国際的な対応を強調させるためには更なるアメリカの指導色が必要となる。WHOにおける中国の影響力の増大に対する解決策は、アメリカの指導力と関与であって、アメリカが不在となることではない」。

水曜日の記者会見でポンぺオは次のように述べた。「アメリカは世界保健機関に最大の資金提供を行っています。世界保健機関は目的達成に失敗しました。きちんとした結果を得るためにアメリカの納税者のお金をどのように使うべきかを把握するために調査を行っています。私たちは“健康(保健、health)”を名前につけているある故草木機関が実際に私たちが必要としている結果をもたらしていると言いつくろいながら、ウソをつくようなことをすべきではないのです」。

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌の外交と国家安全保障担当記者

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ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側
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 古村治彦です

 インターネット上でも話題になっているが、昨年アメリカ政府が「中国で新型インフルエンザウイルス感染拡大が発生し、アメリカではシカゴで初めて感染が確認されて以降、パンデミックに発展する」という想定で、シミュレーション、演習が行われた。その結果は、国家レヴェルで対応がなければ1億1000万人が感染し、770万人が入院、58万6000人が死亡する、というものだった。

 トランプ大統領が「全米で10万から20万の人が死亡する」と発表したが、これは国家レヴェルでの対応を行った上での予測であって、何も対応をしなければ220万人が死亡するという数字を挙げていた。昨年のアメリカ政府が行ったシミュレーションでも何も対応をしなければ58万という数字が出ており、10万から20万という数字は大雑把ではあるが、信憑性の高い数字ということになる。

参考までに書くと、シカゴ市は人口が217万人、イリノイ州は1283万人だ。2020年4月1日時点でのシカゴ市での感染者数は3123人、死亡者数は40人、イリノイ州での感染者数は6980人、死亡者数は141人となっている。全米では感染者数は18万6101人、死亡者数は3603人となっている。シカゴ市やイリノイ州で特に感染者や死者数が多いということはない。

 シミュレーションと言えば、戦争や軍隊に絡むものである。日本海軍で伝統として行われてきた「兵棋演習(へいぎえんしゅう)」もシミュレーションである。アメリカに駐在武官として赴任した秋山真之が日本海軍にもたらしたもので、英語ではWar Time Simulationという。図上演習ともいう。ある回線を想定し、あらゆる条件を決めて、戦闘を行ってみる。日本海軍の場合は、太平洋戦争では物量的にも不利ということもあり、条件に手心を加えたり、改ざんを加えたりして、無理やり勝利すると医師也を作っていた。シミュレーションは客観的に行わなければ、実態にそぐわないただの作り話になってしまう。

 アメリカ政府は昨年、パンデミックが起きた際のシミュレーションを行った。これは現在の大勢のどこに欠陥や不足があって、どのような結果になるか、最悪の結果を回避するためにはどのような準備が必要かということを客観的に明らかにするためのものだ。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大はシミュレーションで見つかった穴を塞ぐ前に発生してしまったようだ。アメリカ政府も日本政府と同様に対応が後手に回ってしまったようであるが、得意の物量作戦で何とか挽回しようとしている。トランプ大統領は今年の大統領選挙で再選を目指しているが、対応を間違えば落選の憂き目にあうことになる。今のところ、大統領の支持率は落ちてはいない。しかし、支持率が上がっている訳でもない。

 シミュレーションは日本でも自然災害に関しては行われていることはマスメディアでもよく取り上げられている。恐らく大規模疾病に関してもシミュレーションは行われていただろうし、日本政府はそこで何が足りないか、どこに穴があるかを把握していたはずだ。もし、そのようなことがなされていないとするならば、国家経営上の危機だ。是非、日本政府もシミュレーションを実施して、危機的状況に対する備えに役立てるべきだ。

(貼り付けはじめ)

Surviving The Trump Eraサム・ポトリッキオ

新型コロナを予言?米政府「的中シナリオ」が占う大統領選

20200324日(火)1600

https://www.newsweekjapan.jp/sam/2020/03/post-45_1.php

https://www.newsweekjapan.jp/sam/2020/03/post-45_2.php

<リークされた米保健当局の想定演習が現実に。混乱するアメリカ社会で国民が求めるリーダーは誰か>

米政府は201918月に、ある演習を実施した。「クリムゾン・コンテイジョン」というコードネームで呼ばれたこの演習は、中国で発生した新型呼吸器系ウイルスが航空機の乗客によって世界中に瞬時に拡散されるという、恐ろしいシナリオだった。

「アメリカではシカゴで最初に感染者が確認され、その47日後にWHO(世界保健機関)がパンデミック(世界的大流行)を宣言した。だが、対応は遅過ぎた。米国内の感染者は11100万人に上ると予測され、770万人が入院し、586000人が死亡するとみられた」

米保健福祉省は、今月リークされたその演習の報告書で、治療法がないウイルスと生死を懸けて闘うには、連邦政府は資金も準備も調整も「不十分」であることが分かったとしていた。演習は学校の休校をめぐって連邦政府と地方の足並みがそろわず、ウイルスとの闘いに必要な医療設備も十分に用意できないことを露呈した。

このシナリオが今、ほぼ現実のものになっている。アメリカの街は不気味なほど静かで、学校は休校になり、バーやレストランは営業を停止した。国民は有能な政府がいかに重要であるかを痛感している。

トランプ米大統領は、多くの前任者にない「チャンス」を手にしていた。パンデミックに真正面から立ち向かえば、大きく株を上げられたはずだ。ところが彼は危機の深刻さを見くびり、国を苦境に追い込んだ。

アメリカと韓国は、いずれも国内初の新型コロナウイルス感染者を120日頃に確認した。韓国では既に感染拡大のピークが過ぎたが、アメリカは危機への備えを始めたばかり。韓国に先見の明があったというより、アメリカに能力が欠けている。

危機は人の本質をあぶり出す。いまアメリカが目の当たりにしているのは、大統領の器の小ささだ。36日に米疾病対策センター(CDC)を訪れたトランプは、選挙運動用のキャップをかぶっていた。ウイルスの犠牲者が多いワシントン州の知事を「ヘビ野郎」と呼び、ウイルス検査について「必要な人は誰でも受けられる」と嘘を言った。第2次大戦以降で最大の危機より、自分の再選を気にしていた。

1カ月ほど前のトランプは、楽に再選を果たせそうだった。民主党の対抗馬はリベラル過ぎるという懸念が党内にもあるバーニー・サンダースになりそうだったし、株式市場は好調で、失業率は50年ぶりの低水準だった。

今は違う。米経済は大不況の崖っぷちにあり、トランプの大統領就任以降3年分の株価の上昇分は吹き飛んだ。過去10年、米経済はほぼ継続して拡大してきた。だが08年前後の大不況以降で初めての重大な危機を迎えた今、もう国民は面白くて新奇な指導者を求めてはいない。テレビでドタバタ劇を見たがる時代は終わり、関心は有能な指導者が今より希望を持てる未来に人々を導けるかどうかに移った。

大統領選は、候補者が時代の求める人物かどうかを測る場だ。その意味で今の危機的な状況は、民主党の大統領候補指名争いでトップを走るジョー・バイデン前副大統領にほぼ完璧な条件をもたらしている。

バイデンは50年にわたって公職を務め、息子を病で失った悲しい経験から他人に共感する能力も高い。オバマ前政権で副大統領を務めたことから学んだ安定感もある。バイデンは忘れっぽく失言も多い。だが態度を決めかねている有権者のほぼ全員が同意できるのは、彼が自分より他人の事情を考えられるということ。すなわち、トランプとは真逆の人間だということだ。

そしてアメリカ人は大統領選で、現職とは真逆の候補者を選ぶ傾向にある。時代はバイデンに味方している。

<本誌2020331日号掲載>

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1

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「“クリムゾン・コンテイジョン・2019”シミュレーションはアメリカ国内でのパンデミックの」 ‘Crimson Contagion 2019’ Simulation Warned of Pandemic Implications in US

―2019年のパンデミックに関する演習は州政府と連邦政府の役人たちに対して懸念のある分野を指摘した

キャロル・マリン、ドン・モーズリー筆

2020年3月24日

NBCシカゴ』

https://www.nbcchicago.com/news/local/crimson-contagion-2019-simulation-warned-of-pandemic-implications-in-us/2243832/

2019年8月、シカゴにおいて、連邦政府の諸機関が集まり、アメリカがいかにしてある疾病の爆発的感染拡大(パンデミック、pandemic)に対処するかについて把握するための演習(シミュレーション)を実施した。この疾病は世界的な観戦爆発を起こしながら、治療法がまだ見つかっていないという設定で演習は実施された。この演習によってパンデミックに対するアメリカの全国規模での欠点や欠如している点が数多く見つかった。その中には医療物資が十分に準備されていないということも含まれていた。

この演習は「真紅の伝染病感染2019年版機能実験(Crimson Contagion 2019 Functional Exercise、クリムゾン・コンテイジョン・2019・ファンクショナル・エクササイズ」」と呼ばれ、結果が一般に公開されているものではない。『ニューヨーク・タイムズ』紙がこの演習についていち早く報じた。

この演習はインフルエンザについてのもので、コロナウイルスについてのものではなかった。しかし、中国で始まり、シカゴに上陸するという架空の感染流行を想定すると、いくつも問題を抱える分野が見つかったと関係文書では指摘されている。

2019年8月13日、イリノイ州とアリゾナ州やコネチカット州といった11の州、連邦政府、州政府、地方政府の役人たちが集まり、4日間の演習を実施した。

シナリオは以下の通りだ。

新型インフルエンザの大規模感染が中国で始まり、急速に感染拡大が起き、アメリカではシカゴで最初に検出され、人と人との接触によってパンデミックにまで拡大するという想定がなされた。

演習では現在のワクチンの貯蔵量ではウイルスを封じ込めることはできないとされた。

この国家規模の演習には次の機関が参加した。

・19の連邦政府の諸機関(19 federal agencies

・12の州(12 states

・74の地方の医療衛生部局(74 local health departments

・87の病院(87 hospitals

報道によると、ホワイトハウスの国家安全保障会議の幹部たちは演習中に簡潔な報告を受け取っていた、ということだ。

主張な発見は以下の通りだ。

インフルエンザのパンデミックに対して連邦政府は十分な予算を持っていない。

国防生産法をどのように適用するかについての混乱がある。

現在の医療資材供給チェインと生産能力は需要を満たすことはできないだろう。

世界規模の製造業の能力では、アメリカ国内の個人の防御装置や付随の装置の需要を満たすことはできないだろう。

アリソン・アーワディは演習に参加し、演習の結果を受けてシカゴ市の対応能力を引き上げてきた。アーワディ博士はシカゴ市が取った行動と同じ行動を連邦政府の諸機関が取るかどうかについてはコメントしなかった。

シカゴ市長ローリ・ライトフットは記者たちとの電話を通じた会見で雄弁に語った。

市長は「私にとって明白なことは、連邦政府は私たちを助けてはくれないということです。あの人たちは、最後の最後でさっそうと現れる騎兵隊(cavalry)ではないのですよ」と述べた。

シカゴ市公衆衛生局、緊急事態対応・コミュニケーション室、イリノイ州健康衛生部、緊急事態対応庁も演習に参加した。

ニューヨーク・タイムズ紙の報道とアーワディ博士は連邦政府の諸機関が協力し、対応戦略を構築していることを称賛しているが、パンデミックを想定した演習では、恐ろしい結果を予想している。国家レヴェルでの協力した対応がなければ、アメリカ国内で1億1000万人の感染、770万人の入院治療、58万6000人の死亡が出るという予想である。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アメリカ政治の秘密
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