古村治彦です。

 

 先日、安倍晋三首相がバラク・オバマ米大統領と共にハワイのパールハーバーを訪問しました。「謝罪」ではなく、「慰霊」のための訪問ということでした。そして、2人は演説を行いました。

 

安倍首相の演説では、和解、友情といった言葉が並べ立てられていましたが、全く心に響きませんでした。日本の演説の中に、わざわざ英語の「power of reconciliation」「the Brave respect the brave」を入れたのは、この点をアメリカ人にも分かって欲しかったからだと思われますが、「和解の力」「勇者は勇者に敬意を表する」というのは、いかにもアメリカ人に媚びた言葉であると思います。

 

 安倍首相はここから始まった戦いとも述べましたが、1941年12月8日は、15年間も続いた、アジア・太平洋戦争の終幕の最後の約4年間ということになります。それ以前の11年間に日本は既に多くの犠牲をだし、かつ多くの犠牲を強いていました。この11年間の戦いに関する和解は進んでいるかと言えばそれは残念ながら続いていません。ハワイのパールハーバーという軍港を宣戦布告なしに攻撃したことは卑怯なことですが、それ以上に、謀略や恫喝を駆使して満州から華北地域を侵略し、占領したということははるかに多くの犠牲と傷を中国に強いました。日本軍は立派だった、日本が支配した方が良かったなどと言うのは欺瞞であって、それは戦後日本に進駐してきたアメリカ軍が立派だった、アメリカの支配が良かったという心性の裏返しに他なりません。

 

 安倍首相が仕えた小泉純一郎元首相でさえ(と敢えて書きますが)、謝罪はしませんでしたが、盧溝橋事件の現場を訪れました。安倍首相が戦後を終わらせると大見得を切るのなら、ある意味では「楽な道」であるアメリカとの和解演出などではなく、北方領土問題やアジア諸国との和解を行うべきですが、そちらはうまくいっていないというのが現状です。

 

安倍首相のパールハーバー訪問が終了するのを待っていたかのように、今村雅弘復興相が靖国神社を参拝しました。そして、「時期が重なった安倍晋三首相の米ハワイ・真珠湾での慰霊に関し『(み霊に)報告しておいた』と語った」ということです。また、ハワイから帰国したばかりの稲田朋美防衛相が靖国神社を参拝しました。

 

 国内リヴィジョニストにしてみれば、してやったりでしょうし、既に退任まで1カ月を切っているオバマ政権は怖くないのですから、こういうことができたのでしょう。安倍首相をはじめとする人々は、「次のトランプ大統領は日本の防衛負担の増加や核武装の可能性まで言及した。これを利用して日本の防衛予算の増大と核武装の準備も行えばよい」と単純な頭で考えているようです。米中露韓北朝鮮台湾に囲まれた中で、日本が貧乏くじを引かされないために、最悪の事態に追い込まれないために、アメリカの政権交代を利用して何ができるかという思考が、日本の軍事力強化ではあまりにも単純すぎる話です。

 

2017年、超大国アメリカの指導者がドナルド・トランプに代わります。トランプは、オバマ政権とは違う新機軸を打ち出そうとしています。外交面で言えば、オバマ民主党政権を結局のところ引きずっていってしまった、人道的介入主義派の政策とは違う、リアリズム(現実主義)的、アイソレーショニズム(アメリカ国内問題解決優先主義)的政策を実施することになるでしょう。世界各国に介入・干渉することを手控えるようになるでしょう。そして、アメリカとは体制が違う国々、具体的には中国とロシアとの関係を改善していくことになります。もちろん、何でも仲良しという関係にはなりませんし、貿易問題や資源問題などではバチバチやり合うことになるでしょう。そのためには大変複雑で難しい駆け引きが行われるでしょう。その一環として、トランプは台湾に肩入れする姿勢を見せ、中国を慌てさせながら、中国のアメリカにおける代言者とも言うべき、ヘンリー・キッシンジャーを重用し、汗をかいてもらうことをしています。「相手とは最終的な手切れにならないようにし、基本的に仲良くしながら、しかし、安心させない」ということをやっているように思います。

 

そうした中で、トランプに最初に会談相手に「選ばれ(御しやすい、ちょっと強く言えばアメリカの軍需産業から戦闘機やらを買うだろうと値踏みされて)」、オバマ大統領には広島に行ってやったのだからお前はハワイに来いと言われればホイホイと行って、和解だ、友情だの薄っぺらい三文芝居をやりながら、「これでお許しが出たし、国内向けのこともある」と閣僚が2人早速靖国神社に訪問する、中国との関係は改善の兆しも見えない。ロシアのプーティン大統領を日本に招きながら懸案の北方領土問題で、大見得を切った割には何も進展させることができなった。アメリカ、中国、ロシア、台湾、韓国といった国々に囲まれて、丁々発止の複雑な外交交渉や政策を実施して、国益を守らねばならないというのに、この程度の指導者をいただきながら、抱えながら、私たちは2017年を迎えなければならない、というのは何とも悲しいことです。

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22