古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:ヒラリー・クリントン

 古村治彦です。

 ジョー・バイデン大統領のワシントンDCにある古い事務所とデラウェア州ウィルミントンにある自宅ガレージから、バラク・オバマ政権の副大統領を務めていた時代の政府機密文書が発見された。発見は昨年11月2日の中間選挙直前であったが、アメリカ政府はこの事実をすぐには発表せず、今年に入ってCBSニューズがスクープ報道して、それに追随する形でホワイトハウスは事実として認めた。

 ヒラリー・クリントンが国務長官時代に私的なEメールアドレスと私的なサーバを使って、機密情報を含む公的な情報をやり取りしていたこと、ドナルド・トランプ前大統領の邸宅からも政府機密文書が発見されたこと、そして、今回のバイデン大統領の事務所と自宅から機密文書が発見された。子のようなことが続くというのは、アメリカの公文書管理に関して緩みが出ているということになるだろう。そして、公文書のほとんどは大した中身のものではなくて、あってもなくても良いものがほとんどということなのだろうと推察される。

 バイデン政権にとっての問題は、現在、連邦下院で過半数を握っている共和党が、バイデン大統領と息子のハンター・バイデンのウクライナとの関係について追及しているが、見つかった公文書の中にウクライナ関連のものがあったということである。これは、共和党側からすれば、バイデン父子がウクライナを「個人所有」「私有化」していた論理構成で攻勢をかけるということになる。

 中間選挙の前に公文書発見が公表されなかったのは、ヒラリー・クリントンに結び付けられ、ヒラリーの二の舞となることを避けたかったという意図があったのは間違いないところだ。これが選挙前に発表されていたら、ヒラリーのEメール問題に絡められ、「Lock Him Up !(彼を逮捕せよ!)」というスローガンが全米各地で叫ばれていたことだろう。民主党側としては、この問題を大きくしたくないところだろう。しかし、政治とはけたぐり合いであり、より過激に言えば殺し合いである。どんな材料でも相手を攻撃できるとすれば利用する。利用されないように問題を封じ込めるという守りも必要だ。

 その守りが甘ければ、蟻の一穴から堤防が崩壊するということが起きる。バイデンのホワイトハウスは守りが甘いということになる。特に「きまじめ」「きちんとしている」ということを売りにバイデンは大統領に当選しているので、このような問題は意外なダメージを与えることになる。

(貼り付けはじめ)

更に5つの機密文書がバイデンのウィルミントンの自宅から発見と弁護士たちが発言(Five more classified documents found at Biden’s Wilmington home, lawyer says

ブレット・サミュエルズ筆

2023年1月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3813424-five-more-classified-documents-found-at-bidens-wilmington-home-lawyer-says/

ホワイトハウスは土曜日、ジョー・バイデン大統領の副大統領時代の機密文書が、木曜日にデラウェア州ウィルミントンのバイデンの自宅で更に5通発見されたと発表した。

バイデン大統領特別顧問であるリチャード・サウバーは声明の中で、水曜日の夜にバイデンの自宅のガレージに隣接する部屋で1通の機密文書が発見されたと述べた。その文書を発見した弁護士は、セキュリティクリアランス(機密文書取扱適格性)を持っておらず、結果として捜索を一時中断したとサウバーは述べた。

セキュリティクリアランスを持っているサウバーは、司法省(DOJ)への文書の転送を促進するために木曜日の夜にウィルミントンに到着した。

サウバーは「同行した司法省の職員に機密文書を移している間に、一緒にあった資料の中からさらに5ページ、合計6ページの分類記号が発見された。同行した司法省の職員はすぐにそれらを手に入れた」と述べた。

5通の資料が更に発見されたことで、バイデンの古い事務所とウィルミントンの自宅で発見された機密表示のある資料の数は、およそ20通になった。バイデンは金曜日の夜にウィルミントンの自宅に到着した。バイデンは頻繁に週末を自宅で過ごしている。

サウバーは、追加の質問について、この問題を今後検討するために木曜日に任命された特別検察官に照会し、ホワイトハウスが特別検察官に協力することを改めて表明した。

サウバーは声明の中で次のように述べた。「大統領の弁護団は、ペンシルヴァニア大学バイデンセンターの文書を公文書館に、ウィルミントンの自宅にある文書を司法省に提供するために、直ちに自発的に行動した。私たちは発見された文書について、どのように判別され、どこで発見されたか、具体的な詳細について公表した」。

バイデン大統領の弁護団は11月2日、ペンシルヴァニア大学の名誉教授を務めていたバイデンが2017年から2019年にかけて使っていたワシントンDCの事務所で、機密事項が記されたおよそ10通の書類を発見した。その発見は、CBSニューズが報道した後、月曜日にホワイトハウスによって事実確認がなされた。

水曜日には、2カ所目で更なる文書が見つかったと報じられた。ホワイトハウスは木曜日、事務所での文書発見後、弁護士がデラウェア州ウィルミントンとレホボトビーチにあるバイデンの自宅を捜索し、バイデンのウィルミントンの自宅ガレージで機密資料を発見し、さらに隣の部屋でも1通の文書を発見したことを確認した。

5つの追加文書は木曜日の夕方に発見されたが、土曜日の朝まで調査結果は公表されなかった。

ホワイトハウスは、このプロセスに関する質問について、司法省へ注意が向くように何度も逸らした。メリック・ガーランド司法長官は、文書の取り扱いに関する調査を担当する特別検察官(special counsel)を任命した。

しかし、バイデン政権に対しては、調査結果について国民に開示するのが遅いという批判を浴びている。

バイデン大統領の個人弁護士であるボブ・バウアーは、土曜日に発表した声明で、「本職は適切な場合には、公共の透明性の重要性と、調査の完全性を守るために必要な確立した規範と制限のバランスを取ろうとした」と述べました。

バウアーは「これらの考慮は、捜査が進行中の間、捜査に関連する詳細の公開を避けることを必要とする。定期的な情報公開は、当局が新しい情報を得る能力を弱めるか、状況が進展するにつれて情報が不完全になる危険性がある」と付け加えて述べた。

バイデン大統領は、副大統領時代の機密文書が見つかったことについて驚いていると述べ、政府の機密資料の取り扱いについて真剣に受け止めていると繰り返し述べている。

バイデン大統領は、自宅のガレージは施錠されていると述べており、ある時点で、文書のいくつかは彼の個人的な図書館で見つかった可能性があると示唆した.

今回の特別検察官の任命により、直近の2名の大統領が機密文書をどのように扱ったかを審査する特別検察官が2人存在することになるが、それぞれのケースの内容は大きく異なっている。

ガーランド司法長官は11月、トランプ前大統領の機密資料の取り扱いに関する調査を監督する特別検察官を任命した。連邦政府当局は昨年、トランプ前大統領のフロリダ州の邸宅で、最高機密と記された文書を含む数百点の政府機密資料を発見した。

トランプ大統領と彼のティームが数カ月にわたって捜査当局の捜査活動を妨害し、国立公文書館が求める文書の引き渡しに協力しなかったため、FBI8月にトランプの邸宅の式内を捜索した。
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民主党はバイデンに関する議論がクリントンのEメール問題の再来となるのではないか危惧している(Democrats worry Biden controversy will be Clinton emails repeat

エイミー・パーネス筆

2023年1月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3812626-democrats-worry-biden-controversy-will-be-clinton-emails-repeat/

民主党は、ジョー・バイデン大統領のデラウェア州ウィルミントンの自宅と前事務所で見つかった機密文書をめぐる論争が、予想される再選キャンペーンに大きく立ちはだかることを懸念しているようだ。

民主党側は、バイデン大統領がこの問題を克服できると確信していると述べる一方で、多数の機密文書の一斉公開が、選挙戦開始を控えた大統領にとって問題を複雑にしているとも述べている。

非公式の場では、民主党側はバイデンが何が起こったかを説明し、2016年の民主党大統領候補ヒラリー・クリントンのメール論争(元国務長官クリントンが政府の仕事をする際に私用メールアカウントを使用していたことを認めた)と比較することがどれほど厳しいことになるだろうかと考えている。

また、2022年8月に機密文書が押収されたフロリダ州の邸宅をFBIが捜索したことをめぐり、トランプ前大統領に対する民主党の攻撃を複雑化させ、共和党に贈り物を与えることになる。

この問題について率直に話すために匿名を条件にした民主党系のあるストラティジストは次のように語っている。「これは大統領にとってかなり大きな問題になるだろう。共和党は常にスキャンダルを煽動するのが得意で、ここでのバイデン大統領の状況はトランプに関わる状況とは全く異なるにもかかわらず、彼らはこれが大きな問題であるかのように行動するだろう」。

民主党は内心ではこの問題の存在と重要性を認めているが、公の場ではトランプとバイデンの状況は劇的に異なると反論している。

民主党系ストラティジストのヴェテランであるロデル・モリノーは「リンゴとオレンジ位に違うのだ」と語った。同時に、民主党は「共和党がこれをウォーターゲート事件以来の大スキャンダルに仕立て上げることに対して徹底的に準備する必要がある」と警告を発した。

モリノ-は「この事件は確実な武器ではないが、共和党側は試してくるだろう」と述べた。

連邦下院監視・説明責任委員会の共和党側委員たちは今週、バイデンが所有していた機密文書について調査を開始した。

共和党全国委員会(RNC)は今週、プレスリリースやソーシャルメディア上で、バイデンが自家用のコルヴェットを自宅のガレージにバックで入れている映像ファイルの公開などこの話題に多くのエネルギーを注いでいる。「これは、ジョー・バイデンが機密文書を隠していた、鍵のかかったガレージの映像だ」と、共和党全国委員会のリサーチアカウントからツイッター上に投稿されたものもあった。

テッド・クルーズ連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)はツイッターで、2016年に進行中のクリントンの問題と冗談交じりに結びつけた。「ビッグストーリーが明日やってくる。ヒラリーのサーバもジョーのガレージにあった」とジョークを述べた。

木曜日と金曜日、記者たちは、このニューズがバイデンの再選出馬の決断に影響を与えるかどうか政権関係者たちに厳しく質問した。

金曜日に行われたホワイトハウスの記者会見で、大統領上級顧問ケイシャ・ランス・ボトムズ(公共関与担当)は、「機密文書の発見が再出馬の決断に影響するか」と記者団から質問された。

ボトムズは「そのような質問があったことは大統領にお知らせする。大統領自身がこの質問について話すだろう」と答えるにとどめた。

機密文書の発見がバイデン大統領の再出馬の決断に影響を与えるかどうか質問されたホワイトハウスのアンドリュー・ベイツ副報道官は「それはない」と答えた。

ベイツは「バイデン大統領は、司法省の独立性を尊重し、政治から切り離すという約束を守っている 。バイデン大統領の政策が評価され、民主党大統領として60年ぶりの中期選挙の好結果をもたらした後も含めて、出馬の意向を彼から直接聞いているはずだ」とも述べた。

ベイツは次のように述べた。「インフレ率の低下、過去50年間で最低の失業率、アメリカ国内の雇用の回復、薬剤費の引き下げなど、全て先週だけのことですが、大統領の関心はアメリカの家族のためにさらなる進歩を遂げることだ。また、連邦下院共和党のヴィジョンである富裕層の減税のための中間層への増税、インフレの悪化、中絶の禁止などに直面している」。

2020年の大統領選挙でバイデン選対に参加したある側近は、もし機密文書の開示が問題になければ、共和党は何か別のことで大統領を攻撃しているだろうと語った。しかし、文書問題でバイデンを追及することは、同じテーマでトランプがお荷物になっているため、彼らにとっては負け戦になる。

この側近は、トランプが何ページもの公文書を所有しいて、それを提出するようにというFBIの要求になぜ抵抗したのかという疑問に対して共和党は答えるのが難しいはずだと述べた。この側近はまた、中間選挙で実証されたように、誰がより法律を守っているかで争うことは共和党にとって勝ち目のない状況になると述べ、FBIへの資金提供拒否、1月6日の連邦議事堂への侵入者の擁護、2020年大統領選挙結果についての陰謀論を指摘した。

最終的には、有権者たちはインフレ率の低下を含む問題にもっと関心を持つだろうとこの側近は語った。

機密文書論争が起こる前、バイデン大統領と側近たちは一連の良いニューズの流れに乗っていた。

それは、中間選挙が予想以上に成功を収め、民主党が連邦上院の過半数を握り、2024年の大統領再選に向けてバイデンの地位が強化されたからだ。

共和党は、2024年に誰が党を率いるべきか、党はトランプから脱却する必要があるのか、といった議論に分断されているように見える。先週の連邦下院議長選挙も共和党内の分裂を浮き彫りにした。

バイデンは世論調査の数字を少しずつ上げ、インフレの鈍化など経済も改善の兆しを見せている。

こうした一連の良いニューズは、バイデンが大統領選への再出馬を表明する準備として、幸先のよいスタートを切ることになった。

しかし、バイデンが機密文書を所持していることが、最初はワシントンのかつてのオフィスで、その後ウィルミントンの自宅ガレージ内で発見されたことから、民主党は神経質になっている。木曜日の特別検察官の任命は更に不安を煽った。

木曜日の夜、MSNBCに出演したバイデン大統領の元報道官ジェン・サキは、その不安の一端を口にした。

サキは「誰も特別検察官任命を望んでいない。大統領選に出馬するかもしれない前の年に、『今年は特別検察官がいて欲しい』と考えることはないだろう。誰もそんなことは望んでいない」と述べた。ホワイトハウスは、これは「政権移行期のずさんなスタッフの仕事」であり、「長期的には、たとえ短期的な痛みを伴っても、彼らの利益になる」可能性があると確信しているとサキは付け加えた。 

連邦議会民主党議会選挙対策委員会委員長を務めたスティーヴ・イスラエル元連邦下院議員(ニューヨーク州)は、オバマ前大統領が2012年に再選に成功する前のティーパーティーの多数派から学んだ教訓を指摘し、共和党が機密文書の発見に過剰に反応する可能性があると述べた。

イスラエルは次のように語った。「オバマ大統領は順調に再選を果たし、民主党は連邦下院で8議席上回って過半数を獲得した。何が起こったかというと、共和党の多数派が手を出しすぎたのだと私は考える。彼らは自分たちの支持基盤を発奮させたが、しばらくして、毎日の詮索ではなく、集中力と日常の課題を求める穏健派有権者を失った」。

しかし、非公式の場では、民主党側はバイデンが2023年を迎えることを望んでいた方法ではないことを認めた。

あるクリントン選対に参加したあるヴェテランは「誰もが好き勝手なことを言えるが、これでバイデンは完全に弱体化した。この問題はいつまで経っても解決しないだろう」と述べた。

クリントンの元側近は続けて次のように述べた。「迷惑な話だし、彼らが好むと好まざるとにかかわらず、この問題は残り続けるだろう。そしてつぎのような疑問が生まれるだけだ。もし彼がガレージでコルヴェットと一緒に書類についてこんなに軽薄なことをしているなら、他に何をやっているのか誰にも分からないだろう」。

共和党系ストラティジストであるスーザン・デルペルシオは、機密文書の発見は共和党への贈り物だと語った。

デルペルシオは機密文書発見について「これは大皿に盛られたものだ。それ自体は大したことではないが、共和党がそれをどう武器にするかだ」と述べた。

現在まで、共和党がバイデンに対して持っていたのは、バイデンの息子ハンター・バイデンに関する税金やビジネス取引に関する論争と経済に関する問題だけだったとデルペルシオは言う。

デルペルシオは次のように語った。「バイデンが出馬しない理由を探していたのならこれはかなり良い理由だ。彼はこんな選挙戦を望んではいないはずだ。釈明ばかりしていたら負けてしまうことになる」。
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ホワイトハウスはなぜもっと早く機密文書発見を公表しなかったのか説明するよう圧力を受けている(White House under pressure to explain why it didn’t reveal documents discovery earlier

アレックス・ガンギターノ筆

2023年1月14日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/3812679-white-house-under-pressure-to-explain-why-it-didnt-reveal-documents-discovery-earlier/

ホワイトハウスは、バイデン機密文書の発見がなぜすぐに公表されなかったのか説明するよう圧力を受けており、中間選挙を控えて最初の発見について沈黙を保っておこうとする意図的な試みがあったのではないかという批判が公然となされている。

最初の文書が最初に発見されたのは2022年11月2日で、選挙からわずか6日後のことだった。しかし、ホワイトハウスは、今週初めにCBSニューズが報道するまでこの発見について公表しなかった。

ホワイトハウスのカリーヌ・ジャン=ピエール報道官は金曜日、機密文書発見時にすぐに明らかにしなかったのは大統領を政治的ダメージから守るためだったのかという質問に対して、「それはあなたの言い分に過ぎない」と答えた。

ジャン=ピエール報道官は「私はここで非常に明確にしてきたし、ここ数日、異なる機会で何度もその質問に答えてきた。ここにはプロセスがあり、私たちはそのプロセスを尊重するつもりだ」と付け加えて答えた。開示のタイミングについてスタッフが戦略の立案に関与したかとの質問には「ノー」と答えた。

2022年12月20日にバイデンのデラウェア州ウィルミントンの自宅のガレージの収納スペースから2回目の機密文書が発見され、今週も隣の部屋の収納資料の中から1ページの文書が発見された。バイデンの自宅の捜索は水曜日に終了した。

メリック・ガーランド司法長官は、バイデン大統領のウィルミントンの自宅で更に機密文書が発見されたとの公表を受け、機密文書発見を調査する特別顧問としてロバート・ハーを木曜日に任命した。また、ホワイトハウスが機密文書を発見した際、リアルタイムで通知されたと述べた。

バイデンの長年の盟友で情報将校出身のクリス・カーニー元連邦下院議員(ペンシルヴァニア州選出、民主党)は、「機密文書発見のタイミングは実に不思議だ」と述べた。カーニーは更に「バイデン大統領は、この厄介なエピソードについて説明責任を果たし、その責任を受け入れなければならない。ここで最も重要なことは、個人的な政治的恥辱を防ぐことではなく、我が国の安全保障を守ることだ」と発言した。

記者たちは金曜日、ジャン=ピエール報道官は機密文書について、1週間を通して質問に答えたというが、CBSがニューズを流したために、彼女は全く質問に直面しなかったと指摘した。彼女は、調査が進行中だからだと主張した。

報道官は「司法省は独立した機関であり、私たちはその調査プロセスを尊重する」と述べた。

連邦議会共和党も公表のタイミングに疑問を呈しており、連邦下院監督・説明責任委員会は今週、公文書に関する調査を開始した。

今週、ジェイムズ・コマー連邦下院監督・説明責任委員会委員長(共和党)は「よく見て欲しい、これは11月2日の出来事だ。ジョー・バイデンはアメリカ史上最も透明性の高い大統領になると述べた。なぜ今になってこのことが分かったのか? CBSは素晴らしい仕事をした、CBSの報道がなければ私たちは知ることができなかった」とCBSで語った。

ホワイトハウスが公表しないまま、11月と12月に機密文書がバイデンの自宅から発見されたというニューズは、12月にインフレが鈍化したという連邦政府の報告などの今週の他の政治的展開に影を落としている。

共和党系のストラティジストであるダグ・ヘイは、もし11月に発見が明らかになったとしても、同じことが起こっただろうと主張した。そして、民主党は選挙の最終週に自分たちのメッセージから注意をそらすことを望まなかっただろうとも述べた。

ヘイは「これは、タイミングについて、非常に合理的に出てくる最初の質問の一つです。2022年の選挙に大きな影響を与えただろうか? これについてははっきりしないが、過去にさかのぼってその影響を否定することはできない」と述べた。

ヘイは更に「民主党側が主張していたのが、『トランプの信奉者である非常識な人たちが立候補しているのを見よ』というものだったことを考えると、明らかに民主党が望んでいたメッセージとは違う」とヘイは述べた。

ジョージワシントン大学の法学教授で元司法省職員のスティーヴン・サルツバーグは、2016年の選挙直前にジェームズ・コミー前FBI長官が当時の大統領候補ヒラリー・クリントンに対する捜査について詳細を発表したやり方が、多くの人の口に「後味の悪さ(bad taste)」を残したと指摘している。

サルツバーグ「とは言っても、選挙が終わった後、なぜ積極的に公表しなかったのか分からない。発見された際、マスコミはこぞってそれを取り上げ、それで彼らは守勢に回った」と述べた。

ホワイトハウスは、特に選挙の前に、この発見を黙っておこうとする意図的な試みがあったかどうかという質問に対して、本誌に以前の声明を紹介した。これらの声明の中では、司法省の調査は進行中であり、ホワイトハウスが発言できることは限られていると繰り返し述べている。

バイデンのワシントンオフィスでは、副大統領時代から2020年の大統領選出馬までの間に使用した、機密事項が記された10通の文書が、他の個人的な資料と混ざって発見されたと伝えられている。それらの文書には、ウクライナ、英国、イランに関するブリーフィング資料が含まれていたとされる。

現在ノサマン社の上級政策顧問を務めるカーニーは「ワシントンで政治家を指弾するのはよくあることだが、管理されていない情報文書がこの国の安全保障に与えうる損害を忘れることはできない。バイデンであれ、トランプであれ、あるいは他の誰であれ、文書を管理できなくなれば、国家の重大な損害につながる可能性がある」と述べている。

カーニーは更に、機密文書を扱ったことのある人間として、「国の指導者が情報報告に対してこれほどまでに軽率になれることに激怒している」と付け加えた。

バイデンのティームは、機密文書が発見された直後に国立公文書館と司法省に警告を発したとホワイトハウスは発表している。

これは、トランプ前大統領の政府文書の取り扱いとは明確に区別される。当局者は昨年夏にFBIの捜査が行われる前に、トランプに複数回にわたり文書返還を要求していた。

バイデンは今週、メキシコでの記者会見で、自身の古いワシントンオフィスで機密文書が見つかったと知って驚いたとコメントした。また、その文書が何についてであったかは知らないと付け加えた。

しかし、ホワイトハウスが当時この発見を公表しなかったことについて、大統領を守るために発見を非公開にしたかったのかどうかなど、機密文書の中身以上に疑問を生じさせている。

ヘイは次のように述べた。「バイデンの記者会見とカリーヌのブリーフィングの間に、私は政治には古い一線があることを思い知らされた。釈明していたら負けだ。昨日は、良い経済ニューズの日であったはずなのに、釈明の日になってしまった」。

ブレット・サミュエルズはこの記事の作成に貢献した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 2021年に正式に発足したジョー・バイデン政権1期目は後半戦に入っている。2024年の大統領選挙もスタートに近づきつつある。中間選挙では大敗しなかったということで、バイデン政権の外交政策は及第点だという主張もあるが、果たしてそうであろうか?私はバイデン政権がヒラリー政権であり、オバマ政権の焼き直しだと主張する。

 ヒラリー・クリントン元国務長官をはじめとする人道的介入主義(Humanitarian Interventionism)という民主党の外交政策の流れがある。これは共和党のネオコンと対をなす外交潮流である。外国の諸問題に介入し、問題のある政府や独裁者を打倒し、体制転換を行う。そして、自由、人権、資本主義、民主政治体制といった西側の価値観を人工的に植え付けるということだ。ネオコンと基本的に同じ考えだ。ネオコンが牛耳ったジョージ・W・ブッシュ政権、ヒラリーが外交政策を主導したバラク・オバマ政権1期目は、アメリカの外交政策の失敗の歴史だった。これに嫌気がさしたことで、アメリカ国民は、ヒラリー・クリントンではなく、国内問題解決優先主義(アイソレイショニズム、Isolationism)、「アメリカ・ファースト」のドナルド・トランプを大統領に選んだ。
 しかし、2020年の大統領選挙ではジョー・バイデンが大統領に当選した。バイデン政権の外交政策は基本的にオバマ政権1期目の焼き直しだ。ウクライナをめぐっては、私は今から考えれば、トランプがバイデン父子のウクライナとのかかわりをウクライナに捜査してもらうことの引き換えで軍事支援を行うと述べたことは正しかったと考える。バイデンは副大統領時代からウクライナに深くかかわり、ウクライナの実質的なNATO加盟国化を進め、ロシアに脅威を与えた。そのバイデンが大統領になってウクライナ支援を強化したことがウクライナ戦争につながったということが言える。
 アメリカは海外への積極的な介入を進めることで、再び間違いを犯そうとしている。それを修正しようにもその修正の仕方が分からない、そのまま突っ走るしかないというのが今のバイデン政権の外交政策を立案する面々だ。下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトはこのことを「メカニック(整備士)はいるが設計者がいない」状態と形容している。設計図は既にヒラリー・クリントンが国務長官の時にできていた。その設計図のままに、ところどころ修理をしながらやるしかないというのが現状だ。これでは世界の不幸がこれからも続くということになる。私は常々「アメリカの理想主義(Idealism)が世界を壊す」ということを考えている。理想は暴走を生み、現実を見えなくする。結果として大きな地獄を生み出す。

(貼り付けはじめ)

バイデンがアメリカの外交政策を修理するためには整備士(メカニック)ではなく、設計者(アーキテクト)が必要だ(Biden Needs Architects, Not Mechanics, to Fix U.S. Foreign Policy

-アメリカの中間選挙が近づくにつれ、ワシントンは集団思考とヴィジョンの欠如に悩まされ、新しい時代の問題に対する創造的な解決策を阻んでいる。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年7月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/12/biden-foreign-policy-outdated-groupthink/

私は休暇から戻ったばかりだが、ジョー・バイデン米大統領は現在中東諸国を訪問している。今回の訪問について私は、バイデン政権の外交政策のパフォーマンスを評価するための絶好の機会だと考えた。私は2020年の大統領選挙でバイデンに投票した。彼が当選して安堵した。それでも、バイデンと内部で競争がない(ノンライヴァル)ティームが21世紀の外交政策と大戦略を設計する任務を果たせないのではないかと心配してきた。明らかな危険(the obvious danger)という概念は、冷戦中にうまく機能したかもしれないが、現在は効果があるのかないのか分からない、様々な特効薬、発言と映像、および政策に頼ってばかりになっている。

バイデン政権が何をすると言ったか覚えているだろうか? アメリカの同盟関係を活性化し、独裁政治の台頭に対抗して民主政治体制世界を団結させる。中国にレーザーのように照準を合わせ、主導権争いに勝利するつもりだと主張していた。気候変動は最優先課題である。アメリカはまた、イランとの核取引に再び加わり、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を「除け者(pariah)」と呼び、「永遠の戦争(forever wars)」を終わらせ、それがどんな意味であれ「中間層(middle class)」のための外交(経済)政策をアメリカ人に与える位置を持っていた。そして、アントニー・ブリンケン米国務長官は、人権を政権の外交政策の「中心(at the center)」に据えることを約束した。

それで、これまでのところ、どうなっているのだろうか?

公正を期すために言えば、バイデン&カンパニー(バイデン株式会社)は初期の公約のいくつかを実現した。彼はアフガニスタン戦争を終結させたが、結末は混乱してしまった。これはおそらく避けられなかったことだろう。バイデンは、前任者の悪ふざけによって疎外された同盟諸国を宥め、ウクライナでの戦争は、当面の間、NATO(ネイトー)に新しい息吹を与えた。アメリカはパリ協定に再加盟した。バイデンは就任以来、いくつかの失策を犯してきたが(イギリス、オーストラリアとのいわゆるAUKUS[オウカス]潜水艦の素人同然の契約展開や大統領の口が滑ったことを何度も撤回する必要性など)、バイデンの下での18カ月間の失策は、ドナルド・トランプ前米大統領のショーの任意の2週間よりも少なかった。

しかし、全体として、バイデン政権が明確な説得力を持ち、成功する戦略を有している兆候はほとんどない。この1年半の間に追求した様々な取り組みや対応を見てみると、バイデン政権の記録は印象に残らない。

ウクライナについて言えば、バイデンのティームは、ロシアの侵攻に対して大西洋をまたぐ形で対応を行った。実際に開戦に至るまでの諜報活動の巧みで政治的に効果的な活用に始まりうまく指揮を執った。ヨーロッパが(ほぼ)一体となって対応し、ドイツなどが(ほぼ)助け舟を出したのは、バイデンの努力(とウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の巧みな公共外交[パブリックディプロマシー、public diplomacy])のおかげであり、ウラジミール・プーティン大統領に大きな衝撃を与えたのは間違いないだろう。

しかし、アメリカ人は、ビル・クリントン元大統領の時代に始まり、その後の全ての指導者の時代に続いた一連の間違いである、より大きな状況に対するアメリカの誤った対処から目を背けるべきではない。この問題を提起することは激しい論争となり、これらの不手際の立役者は、西側の政策がこの悲劇と何の関係もないことを否定するために不自然なまでに力を尽くしている。しかし、プーティンの侵攻を古典的な予防戦争(preventive war)と見なさないわけにはいかない。ウクライナを武装化し、欧米の軌道に乗せるというアメリカの加速された努力を挫くために行われた不法な侵攻ということになる。

プーティンが軍隊を動員し、自らの懸念が晴らされねば侵攻すると明言した時、NATO(ネイトー)の「門戸開放政策(open door policy)」の終了を検討することさえ拒否し続けたバイデン政権は戦争の到来を約束する結果となった。1990年代にウクライナに旧ソ連から受け継いだ核兵器を放棄させ、将来のロシアの攻撃に対する強力な抑止力を取り除いたのに、西側がロシアの懸念を認めず、モスクワがどう反応するかも予想しなかったのは、とんでもない戦略的誤算であった。

私が心配なのは(そしてバイデンと民主党側を本当に心配するべきなのは)次の点である。ウクライナの英雄的な抵抗と数十億ドルに及ぶ西側の軍事支援があっても、ロシアがウクライナの領土のかなりの部分を掌握することを防ぐことができていない。制裁は時間をかけてロシアを弱体化させるだろうが、おそらくプーティンをクレムリンから追い出したり、撤退を納得させたりすることはできないだろう。その結果、西側の決定的な勝利ではなく、長引く膠着状態に陥り、ウクライナ(および食糧やエネルギー不足に直面している発展途上諸国)にとって恐ろしいほどの代償を払うことになるだろう。ロシアがより悪い状況に陥ったとしても、これを外交政策の大成功と言い張ることはできないだろう。

更に加えれば、この危機によって、アメリカは冷戦時代の習慣に逆戻りし、再びヨーロッパの第一対応者(ファーストレスポンダー、first responder)として行動するようになった。ヨーロッパの豊かな民主政治体制諸国には自衛のための十分な潜在能力があるが、特にロシアが時間とともにかなり弱体化することを考えると、アメリカ(アンクルサム、Uncle Sam)は再び、彼ら自身と同じ程度に彼らを守るために行動するようになったという点は重要だ。NATO(ネイト―)は新しい戦略コンセプトを掲げているが、ヨーロッパの加盟諸国はそのコンセプトの高尚な美辞麗句に見合うだけのハードパワー(軍事)能力を持っていない。そして、アメリカは更に多くの軍隊、資金、武器をヨーロッパ大陸に送っているが、ヨーロッパ諸国が公約を守り、軍隊を再建すると本気で信じている人がいるだろうか? 歴史を振り返れば、ヨーロッパ諸国が歴史を守る可能性はほとんどない。

アジア地域ではその記録はあまり良くない。バイデンは中国との競争に新たに焦点を当てることを誓って就任したが、実質的な内容を伴う明確で首尾一貫したアジア戦略を探しても無駄なことだ。日米豪印の四極安全保障対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)は協議の場ではあっても同盟の場ではないし、大きな話題となったAUKUS(オウカス)協定も、アジアの海軍力のバランスに影響を与えることは(あったとしても)今後10年以上はないだろう。

中国はこの地域で経済的足跡を拡大し続けており、アメリカは最近の「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity)」のような限定的な取り組みや、ソロモン諸島のような場所での中国の進出に対するその場しのぎの対応で応じている。しかし、アメリカの公約は連邦議会で承認された正式な貿易協定に組み込まれていないため、アジアのパートナー諸国は、新大統領が方針を転換するかもしれないと当然ながら懸念している。この問題はバイデンの責任ではないが、アジアの同盟諸国はいずれ、アメリカは中国が提供できるような市場アクセスや投資機会を提供できないし、アメリカは他国の出来事に気を取られやすく、信頼できる保証人にはなり得ないと結論付ける可能性がある。

中国自体については、バイデン政権はトランプ大統領の輸出規制を維持し、台湾防衛の公約に近づき、多くの反中国的なレトリックにふけるようになった。しかし、気候変動問題など協力が必要な分野と競争が避けられない分野とを区別して、対中アプローチを継続的に展開する試みが欠落している。中国の行動やレトリックはこれを容易にするものではないが、地球上で2番目に強い国である中国に対処するための明確な戦略の欠如は顕著である。

中東地域では、バイデンはイランとの核合意を回復し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマンのような不正な指導者に厳しい態度で臨むことを公約に掲げて就任した。また、バイデンとブリンケンは、人権や「ルールに基づく秩序(rules-based order)」を再構築する必要性について多くを語った。しかし、実際には、バイデンとブリンケンはトランプと同様に取引重視であり、実際、この地域に対する政権のアプローチは、本質的に「トランプ・ライト(Trump=lite、訳者註:トランプ色を薄めた戦術)」である。イランのハサン・ロウハニ前大統領が在任中に核合意への復帰を躊躇した結果、新たな合意の見込みはほぼ消滅し、イランはかつてないほど核兵器に近づいた。

アメリカはイエメンでのサウジアラビアの戦争を黙認し続け、バイデンはムハンマド・ビン・サルマンを「除け者」にすると宣言したがそれは頓挫した。ヨルダン川西岸をさらに吸収しようとするイスラエルの執拗な努力は、いつものように意味のない反応を示す。著名なパレスチナ系アメリカ人ジャーナリストであるシリーン・アブ・アクレの射殺事件は様々な調査によれば、ほぼ確実にイスラエル兵によるものだが、彼女がアメリカ国民であったにもかかわらず、政権からは鋭い言葉さえ発せられない。トランプはアメリカの中東の顧客(クライアント)たちが望むことはほとんど何でもさせた。バイデンとブリンケンはそれに倣っている。

バイデンが今週イスラエルとサウジアラビアを訪問するというのも、戦略的な観点からするといささか不可解なことである。ホスト国はバイデンに新たな安全保障の約束を迫るだろうし、それはアメリカを次の地域紛争に容易に引きずり込むことになる。このような措置は、イランがついに核武装に走ることを誘発しかねない。そうなれば、バイデン政権は予防戦争を行うか、核武装したイランという現実を受け入れるかのどちらかを迫られることになる。しかし、バイデンが現地の権力者の誘惑に抵抗すれば、彼らは苛立って失望し、今回の訪問は当然ながら時間の無駄だったと判断されることになる。それではなぜ行くのか?

本誌の寄稿者であるアーロン・デイヴィッド・ミラーとスティーヴン・サイモンは正しい。バイデンは、主に国内的な理由で、ウクライナ戦争によって引き起こされたエネルギーコストの高騰に対処しようとするためにこれをやっている。しかし、その見方は酷いものだ。アメリカ大統領は、非民主的な従属国家にもっと石油を産出させるために、中東に手ぶらで飛び、真の大国のように行動する代わりに、議論したい問題があれば、ワシントンに飛んできて歓迎すると言っているのだ。彼が得る国内的な利益は、ささやかで短期に終わるだろう。

最後に、バイデンとそのティームは、米国の民主的価値の重要性と、独裁政治に対抗する「自由世界(free world)」の団結を繰り返し強調してきた。これは価値ある目標だが、プーティンや中国の習近平国家主席のような人々から意図しない援助を受けたにもかかわらず、それを示すものはあまりない。また、最近開催された米州首脳会議では、メキシコ、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルヴァドルの各首脳が出席を拒否し、出席した一部の首脳がこの地域におけるアメリカの役割を批判する機会として利用したため、その成果は不十分なものとなった。

更に重要なことは、アメリカ自身が深く分裂し、永久に少数派の支配へと向かっているこの時期に、そして正統性が減少している連邦最高裁が、銃製造者や企業には女性よりも権利があると考えるような時に、なぜアメリカは他の国々が「民主的価値(democratic values)」を受け入れることを期待しなければならないのだろうか? もしバイデンが海外で民主主義を拡大したいのであれば、まず手始めに国内でもっとうまく民主政治体制を守ることから始めなければならない。

私は、賢明で経験豊富な外交政策の達人たちが、なぜこのような失敗を犯しているのか、その原因を突き止めたいと考えている。バイデンは、自分と同じように世界を見て、何十年にもわたってアメリカの外交政策に影響を与えてきた使い古された手法にこの上なく慣れている人々を、意図的に一つのティームに集めたのである。

しかし、「グローバル・リーダーシップ(global leadership)」、「共有された価値観(shared values)」、「ルールに基づく秩序(a rules-based order)」、「自由世界(free world)」といったキャッチフレーズは、戦略の代用にはならない。戦略には、国際情勢を形成する中心的な力を特定する一連の一般原則、その論理から導き出される明確な優先順位、そして国をより安全または繁栄(あるいはその両方)させるための一連の政策ステップが必要である。

国家が脅威の均衡(balance threats)を図る傾向を無視したり、経済的相互依存(economic interdependence)や強固な制度が紛争を不可能にすると考えたり、ナショナリズムの力を無視するなど、戦略の基礎となる世界観に欠陥があれば、優先順位が狂ってしまい、いかなる取り組みも裏目に出る可能性が高くなる。

世界は複雑な場所であり、ある分野での行動が他の分野での努力を損なうことも起きる。明確で根拠のある優先順位がない限り、これらの相殺取引(トレイドオフ、trade-offs)を賢く解決することはほとんど不可能だ。明確な戦略がなければ、予期せぬ出来事によって簡単に軌道修正されてしまうし、国内の有権者、外国のロビー団体、自由世界のリーダーとしてのアメリカの自画像に訴える術を身につけた同盟国からの圧力に対抗することも難しくなる。

バイデンとそのティームは、外交政策のマシーンを動かす方法を知っているという意味では、熟練した整備士(メカニック)たちの一群のようなものである。しかし、彼らが操作するために訓練された国内および国際機関は、もはやその目的に適っておらず、経験豊富なフォードやシボレーの整備士がテスラを整備しようとするような結果に終わっている。当然のことながら、機械が生み出す政策対応は、世界が望むような結果をもたらしてはいない。

バイデンに必要なのは整備士ではなく、建築家(アーキテクト)たちだ。今日の課題により適した新しい取り決めとアプローチを生み出す想像力とヴィジョンを持った人たちだ。残念ながら、今日のエスタブリッシュメントは、適合性と、安全でますます懐古的なコンセンサスの中に留まることに高い優先順位を置いているため、創造量とヴィジョンを持つ人々が権力の座に就くことはないのだ。

希望を持てる理由はあるだろうか? 確かに。アメリカ人たちは、主要な敵国が大きな間違いを犯しているという事実に、いくらかの慰めを得ることができるかもしれない。プーティンのウクライナ侵攻は彼の期待通りにはいかず、中国のゼロ新型コロナウイルス感染拡大政策は中国経済の深刻な構造的不均衡を悪化させ、両国ともほんの数年前より強力な世界的敵対勢力に直面している。

しかし、モスクワや北京がワシントンよりも多くの誤りを犯すことを期待することは、長期的なアプローチとして有望とはいえない。他国の失敗を当てにするのではなく、賢明な政策と効果的な実行こそが、成功への唯一の道だ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)
(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ネオコンという言葉はジョージ・W・ブッシュ(子)政権(2001-2008年)時代に日本でも知られるようになった言葉だ。私の師匠である副島隆彦先生が『現代アメリカ政治思想の大研究 <世界覇権国>を動かす政治家と知識人たち』(筑摩書房)でネオコンについて日本でほぼ初めて紹介したのが1995年で、2000年代に入ってネオコンという言葉が日本のマスコミで使われるようになって「何を今更」の感があった。今回のロシアによるウクライナ侵攻について、アメリカのネオコンの動きがあったということで、ヴィクトリア・ヌーランドの名前を挙げて説明している論稿もあるが、こちらもまた「何を今更」である。私は2012年に出した『アメリカ政治の秘密』でネオコン(共和党)とカウンターパートとして「人道的介入主義派(humanitarian interventionists)」(民主党)について詳しく説明した。ネオコンだけではなく、人道的介入主義派も危険だということは早い段階で指摘した。

 アメリカ政治に詳しい方なら「ネオコンは共和党のジョージ・W・ブッシュ政権の時にアメリカの外交政策と軍事政策を牛耳った人々ではないか。それが民主党のジョー・バイデン政権で重要な政策決定に関与できるのか」という疑問を持つだろう。だから大事なのは、民主党内のネオコンのカウンターパートである、人道的介入主義派なのである。今度は人道的介入主義派の出番ということになるのだ。ネオコンと人道的介入主義派は立場が近い。ネオコンの論客ロバート・ケーガン(共和党員)は2016年の大統領選挙で、ドナルド・トランプ当選を阻止したいと考え、民主党のヒラリー・クリントンの政治資金集めのためのパーティを計画したことがあった。アイソレイショニズムのトランプよりも党は違うヒラリーの考えの方が近いということになるのだ。

 昨年出版した『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』について、ありがたいことに最近になって評価をして下さる方が少しずつであるが増えてきている。私の主張や思考はとにかくシンプルで、バイデン政権とはヒラリー政権が4年遅れでやって来た存在に過ぎず、ヒラリーが当目である人道的介入主義派が多く政権に入ればそれだけ危険だということから思考を組み立てている。私のこれまでの著作を是非お読みいただきたい。

 バイデン政権はウクライナ戦争が勃発してから武器や物資の供与は行うがアメリカ軍が直接関与することは回避している。ウクライナの国土とウクライナ人の生命と財産が失われる状況でアメリカの軍需産業は大儲けをしている。その原資はアメリカ国民の血税であるが、日本人もまた高みの見物ということはできない。日本もまた相応の負担を強いられることになる。急速に進んだ円安とエネルギーコストの急上昇によって生活が苦しくなる一方であるが、それに加えて戦争税が課されることは間違いない。

 アメリカ国内でもアメリカ軍の直接的な関与を求める声が高まっている。そのためのキーワードが「戦争犯罪(war crime)」だ。ロシアによる戦争犯罪を裁く、もしくはウラジミール・プーティンを権力の座から引きずり下ろすためにはアメリカ軍が出張っていってロシア軍を破らねばならない。しかし、そんなことをすれば戦争は拡大し、エスカレートし、その行き着く先がどうなるか予想ができない。核戦争の可能性が大いに高まる。アメリカ国内も安全ということはなくなる。ネオコンと人道的介入主義派の動きは非常に危険だ。私たちは感情と思考を区別して置かれた状況でより賢い選択をするという思考ができるようにしなければ大きく騙されて大事な生命と財産を危険に晒すことになる。

(貼り付けはじめ)

バイデンにとっての最大のウクライナ問題はプーティンではない。それは戦争マシーンだ(Biden’s Biggest Ukraine Challenge Isn’t Putin, It’s the War Machine

-ウクライナ国境で軍事紛争が起きる場合、バイデン政権はアメリカによる介入を煽る応援団に抵抗しなければならない。

マイケル・トマスキー筆

2022年2月16日

『ニュー・リパブリック』誌

https://newrepublic.com/article/165380/ukraine-russia-neocon-media-war

ウラジミール・プーティンは手を引きつつあるのか? 火曜日の朝の『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ワシントン・ポスト』紙、『フィナンシャル・タイムズ』紙の見出しは、ロシアがウクライナ国境からいくつかの部隊を撤退させ、他の軍事演習が続いている間にも、そのことを伝えている。プーティンは今日、ドイツのオラフ・ショルツ首相と会談している。ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、侵攻は水曜日に行われると一見警戒しているように見えたが、メディアを通過する際に訳がわからなくなった皮肉な発言であったことが判明した。とはいえ、アメリカ政府は一時的に米国大使館をキエフからより安全な西のリヴィウに移した。

このようにまだ明らかになっていないことは多いが、バイデン政権にとっての明確な最低ラインは明確になっている。それは、「戦争に行くな、以上(Don’t go to war. Period.)」だ。

今日のニュースが一時的な休息、あるいは策略であることが判明し、ロシアが侵攻した場合、ケーブルニュースは少なくとも数日間は侵攻の映像を流し続けることになる。ロシアの残虐行為やウクライナ市民の死が強調されることになるだろう。アメリカのネオコンとその一部の上院議員、特に民主党のロバート・メネンデスと共和党のマルコ・ルビオは、ドナルド・トランプの犯罪を謝罪していない時に侵略が進む場合、多くの放送時間を得るだろう。ちなみに、この最後の点は、主流メディアが民主政治体制(democracy)を失敗させている重要な点の一つである。外交政策について優れた演説ができる人物は、たとえ10年か20年の間全てを間違っていたとしても、テレビはその人物を専門家として任命する。

太鼓が鳴り、衣服が裂け始めるだろう。これを見よ! スターリンが再びやって来るぞ!これは民主政治体制の死だ。バイデンを見てみろ、何もしていない! アフガニスタン、そし

て今はウクライナ。そして、この展開を見ている中国が何を考えているか想像してみよう。

しかし、バイデンはこれら全ての誇大広告に対して毅然とした態度で臨まなければならない。バイデン政権はこれまで、ウクライナでいかなる状況が起きてもアメリカ軍を駐留させないという、見事なまでに明確な態度を示してきた。これは良いスタートだ。しかし、プーティンが引き金を引くようなことがあれば、政権も踏ん張らなければならない。

バイデン政権の立場は変わらないと思う。しかし、私は少しばかり神経質になっている。バイデンは連邦上院議員時代、ウクライナをNATOに加盟させることを支持していたが、私はいつもそれを恐れていた。バルト三国の場合はそうだろうが、そこでも私は疑問に思った。アメリカ国民の何%が、聞いたこともないエストニアの町(ナルヴァ)を守るためにアメリカ人の命が失われることを喜んで支持するのだろうか? 世論が外交政策を左右するべきだというわけではない。少なくともヒトラーが宣戦布告をするまでは、ほとんどのアメリカ人は第二次世界大戦でドイツと戦うことに反対していた。しかし、民主的に選ばれた指導者は、ある状況がなぜアメリカの介入を必要とするのか、アメリカ国民に説明しなければならない。ウクライナの場合、それは無理な話だ。

そう、そこにネオコンがいるのだ。ありがたいことに、彼らは2002年から2003年にかけてのイラク戦争のときのように電波を支配しているわけではない。昨年12月、フレデリック・ケーガンは『ザ・ヒル』誌に、アメリカは戦争マシーン(war machine)を強化する必要があると書いた。彼は賢いので「戦争」という言葉は使わなかったが、これらの文章はそのポイントを伝えている。そのポイントは次の通りだ。

・本当に問題なのは、西側諸国がこの戦いに対する気概(stomach)を持っていないことだ。

・空軍力だけでは攻勢を止めるのには十分ではない。

・ティーム・バイデンはプーティンがウクライナを攻撃した場合の防衛について不安を払拭しなければならない。

こうした人々は何事も学ばない。もっとありそうなのは、自分たちの世界観から学ぶべきことを学ぶということだ。つまり、もう少し強力な決意と火力があれば、そして宥和派からの干渉がもっと少なければ、今日の軍事介入は大成功だっただろうという風に考えるということだ。

しかし、私には、歴史的な大成功の記憶はない。その代わり、記録にあるのは、ヴェトナムとイラクの悲惨な泥沼(disastrous quagmires)である。また、軍事や情報諜報の観点から「成功」したとされる介入(interventions)も、広い意味では悲惨な結果に終わったものがほとんどである。1954年、私たちはイランで迅速なクーデターを起こしたが、その後どうなったか。私たちは冷酷な親米政権を設立し、イラン国民は1979年についにこれを追放した。この政権は、ネオコンの好戦によって、冷酷な反米政権に取って代わられ、世界的とは言わないまでも、恐らくすぐに核兵器能力を持つ地域大国に変貌することになった。イランが本格的に核開発を始めたのは、ジョージ・W・ブッシュがイランを「悪の枢軸(axis of evil)」の一部と烙印を押した後であることを思い出そう。

私はかつて、当時の流行語であった「人道的介入(human interventions)」というものをアメリカがうまくやってのけると信じたかった。当時、スーザン・ソンタグやクリストファー・ヒッチェンスといった人々が、血と土(blood-and-soil 訳者註:民族主義的なイデオロギーのスローガン)の暴君に対抗するために、西側はまだ始まったばかりの多民族民主主義を支援しなければならないという道徳的説得力を持つ主張をしていた。その中心となったのは1990年代のボスニアだった。当時のベイカー国務長官が議会で「私たちはこの戦いに関与しない」と発言したことに私は愕然とした。

ボスニアは、ある種の軍事介入が正当化されるケースだった。主にNATOの空爆が行われ、最終的には和平合意(peace accords)に至った。しかし、その10年後、ボスニアのような人道的介入になるという理由で、イラク侵攻を主張する人たちがいたことをよく覚えている。何だと? ある国に攻め込んで、その国の隅々まで作り直すことと、大量殺人者が別の国で大量虐殺を行うのを阻止することが、どうして同じことだと言うのだろう?

そう、違うのだ。そして、ウクライナの状況と似たような比較をするような強制は避けるべきだ。教訓は次のようなものだ。歴史的類似性(historical parallels)を安易に使うことには常に注意を払うこと。ウクライナに軍事的に関与するということは、ロシアとの戦争に巻き込まれるということであり、脅威冷戦時代の越えられない一線、核兵器による消滅というを越えることである。プーティンは引き下がるかもしれない。しかし、彼が引き下がらなかったとしても、ここでの戦いはあくまで経済的なものだ。バイデンがかつてウクライナをNATOに加盟させることを熱望していたとしても、彼は今の状況を理解している。もしプーティンが参戦し、好戦派が国を熱狂の渦に巻き込もうとし始めたら、彼は自分の戦争への非関与を貫くべきだ。

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ネオコンたちがウクライナで新たな惨事を引き起こそうとしている(Neocons bent on starting another disaster in Ukraine

-アメリカの外交政策は、明らかに、毒舌で欲張り、そして何よりも無謀なエリート集団の人質となっている。

ジェイムズ・カーデン筆

2021年12月15日

『アジア・タイムズ』紙

https://asiatimes.com/2021/12/neocons-bent-on-starting-another-disaster-in-ukraine/

いずれにしても、ワシントンのネオコンたちは、生き残るための正確な本能を持っている。2001年9月11日のテロ攻撃以来20年間、イラク戦争からリビアとシリアでの大失敗に至るまで、数々の惨事を引き起こしてきたネオコンたちは、失敗の芸術を完成させているようだ。

ハーヴァード大学のスティーヴン・ウォルトは「ネオコンであることは、決して謝る必要がないということを意味する」と述べたことがある。この点でケーガン一族の話は参考になる。

『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストであり、ブルッキングス研究所の上級研究員で、『ザ・ジャングル・グロウズ・バック(The Jungle Grows Back)』のような偽史の著者でもあるロバート・ケーガンは、長年にわたってアメリカの軍国主義(American militarism)の主唱者であった。

弟のフレデリックはネオコンが主流派となっているアメリカン・エンタープライズ研究所の常勤研究員である。2021年12月7日付の『ザ・ヒル』にフレデリック・ケーガンが寄稿し、ロシアがウクライナを支配すれば、ポーランドやルーマニアにも存亡の危機が訪れると主張し、それは新しい鉄のカーテン(Iron Curtain)となりうるものだ、アメリカとヨーロッパの地上・空軍を大規模に展開させることによってのみその状況に対応できる、と主張した。

フレデリック・ケーガンと妻キンバリーは戦争研究所を率いている。夫妻は失脚した元CIA長官デーヴィッド・ペトレイアスの側近だった。実際、フレデリック夫妻は、2007年から2008年にかけて、ジョージ・W・ブッシュ政権が追求した米軍増派戦略のブレインとして頻繁に言及される存在だった。

しかし、ケーガン一族で最も有力なのは、フレデリックの兄ロバートの妻で政治担当国務次官であるヴィクトリア・ヌーランドだ。

バラク・オバマ政権で、ヌーランドは米国務省報道官を務めた。彼女は明らかに不適格であり(現報道官の資質を考慮すればなおさらだ)、その後、ヨーロッパ・ユーラシア問題担当国務次官補に就任した。

2014年2月にウクライナで民主的に選ばれたヴィクトール・ヤヌコヴィッチ大統領の転覆を画策し、国連によると1万3000人以上が死亡した内戦(civil war)を招いたのは、ヌーランドがその役割を担っていたからだ。

アメリカがロシアとの戦争という重大なリスクに晒されている理由の一つは、ここまでに至った政策についてほとんど議論されていないが、ワシントンの外交政策が事実上、排他的なサークルによって行われていることだ。

そして、このサークルはケーガン一族のような人々によって独占され、支配されている。

ワシントンの既存メディアは、官僚機構のための永続的なエコーチェンバーとして機能することで、こうした外交政策を永続させる役割を担っているのである。その証拠としては、『ワシントン・ポスト』の社説では、ウクライナ危機が始まった当初から、外交と関与を求める声を軽率に退け、その代わりに、完全な戦争(outright war)を呼びかけている。

その一例が2014年8月21日にワシントン・ポスト紙の社説に掲載された見解だ。

「停戦や、外交交渉につながる何らかの一時的な停止を模索したくなるところだ。しかし、一時停止と外交で何が達成されるだろうか? ウクライナに禍根を残すような交渉は避けなければならない。受け入れられる唯一の解決策は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領の侵略を撤回させることだ」。

『ナショナル・インタレスト』誌の編集者ジェイコブ・ヘリブラウンと私が当時次のようにコメントした。「無慈悲な態度とほぼ同程度に悪いのは、率直さの欠如である。ワシントン・ポストは、プーティンの侵略を逆転させるためにどのような提案をするのかについて何一つ実際に説明していない」。

これは現在でも変わらない。ウクライナをめぐってロシアと戦争すると豪語するアームチェア・ウォリアー(安楽椅子に座って戦争を論じる言葉だけお勇ましい人)たちは、そのような「逆転」がどのように行われるのか、更に言えば、米露間の戦争が成功する確率はどの程度なのか、まったく議論していないのだ。

ウクライナ危機が始まった約8年前からあまり変わっていない。2021年12月7日のアメリカ連邦上院外交委員会(SFRC)でヌーランドが行った「米露政策の最新情報」に関する証言について少し考えてみよう。

ヌーランドは次のように証言した。

"ロシアのプーティン大統領がウクライナへの攻撃や政府転覆を決定したかどうかは分からない。しかし、そのための能力を高めていることは確かだ。この多くは、2014年のプーティンの脚本に沿ったものだが、今回は、より大規模で致命的な規模である。したがって、正確な意図やタイミングが不明であるにもかかわらず、私たちはロシアに方向転換を促すとしても、あらゆる事態に備えなければならない」。

ヌーランドは更に、アメリカ政府は2014年以来、ウクライナに24億ドルの「安全保障分野での支援」を行い、本年度分としてこれまで4億5千万ドルがその中に含まれていると指摘した。

この巨額の投資に対して、アメリカはどのような見返りを得たのだろうか?

連邦上院外交委員会のボブ・メネンデス委員長は、ロシアが自国の国境で圧倒的な軍事的優位性を持っていないという印象を抱いているようだ。同様に、民主党のベン・カーディン連邦上院議員は、ロシアがウクライナに侵攻すれば「私たち(アメリカ)にはエスカレートする必要がある」と言い切った。

一方、共和党所属のトッド・ヤング連邦上院議員は、ヌーランドに対して「ロシアの侵略に対抗するために、政権はどのような方策を検討しているのか」と迫り、民主党所属のジャンヌ・シャヒー連邦上院議員は、エストニアの国会議員との対話の中で「ウクライナ問題に関するヨーロッパの結束」の重要性について語られたと述べた。

また、エストニアの国会議員共に、ポーランドなどの東欧諸国の国会議員たちも、「バルト諸国にさらに軍隊を駐留させるか、させないかについて懸念を表明したとシャヒーン議員は述べた。

この日、最も鋭いコメントをしたのは共和党のロン・ジョンソン連邦上院議員だった。ジョンソン委員は外交委員会が珍しく超党派の合意を達成したことに明らかに誇らしげだった。彼はさらに、アメリカはウクライナを支持し、ロシアに対抗するために「団結」しているのだと強調した。

そしてジョンソンの発言内容は全く正しいものだ。外交委員会は、アメリカが何の条約上の義務も負っていないウクライナをめぐる紛争を望むことで完全に一致した。

実際、ヌーランドも連邦上院外交委員会も、アメリカの国益が存在しない場所を見ているようだ。より心配されるのは、制裁と軍事的脅威を組み合わせることで、アメリカから何千キロも離れた場所で起きている紛争の結果を形成する、アメリカの能力、いや、義務に対する盲信のようなものを持っているように見えることである。

今回の連邦上院外交委員会の公聴会が明確に示したことは、アメリカの外交政策が毒と欲にまみれたおり、そして何よりも無謀なエリート集団の人質になっていることだ。そのエリートには、外交委員会の委員たち、公聴会で証言する政府高官たち、外交委員会にブリーフィングするスタッフたち、スタッフが信頼する学者や政策担当者たち、そして「匿名」の政府筋から聞いたことを無批判に書き写す記者やジャーナリストが含まれる。

このように、われわれが直面している最も緊急な問題は、次のようなものだ。手遅れになる前に、良心のあるアメリカ人はどうやって彼らの権力支配を断ち切るか?、である。

※ジェイムズ・W・カーディン:『ザ・ネイション』誌の外交専門記者を6年間務めた。その他に様々な出版物に記事や論稿を掲載してきた。それまでは米国務省の顧問を務めたサイモン・ウィール政治哲学センター理事、アメリカ・ロシア協力アメリカ委員会上級コンサルタントを務めている。

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ネオコンであることは決して謝罪する必要がないということだ(Being a Neocon Means Never Having to Say You’re Sorry

-この人たちはイラクのあらゆる面で間違っていた。なぜまだ彼らの言うことを聞かなければならないのか?

スティーヴン・M・ウォルト筆

2014年6月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2014/06/20/being-a-neocon-means-never-having-to-say-youre-sorry/

2001年から2006年のある時点まで、アメリカはネオコンヴァティヴィズムを信奉する人々(ネオコン)が外交政策の中核をなすプログラムに従った。この巨大な社会科学的実験の悲惨な結果(disastrous results of this vast social science experiment)は、これ以上ないほどに明らかである。ネオコンのプログラムは、米国に数兆ドルとアメリカ軍将兵の数千人の死傷をもたらし、イラクとその他の地域に殺戮と混沌をもたらした。

リンドバーグやマコーミックのようなアイソレイショニズムの信奉者たちが、第二次世界大戦で、ディーン・ラスク元国務長官がヴェトナム戦争で疎外されたように、ネオコンたちの信用は永遠に失墜するのではないかと考える人もいるだろう。たとえ、ネオコンが自分たちの愚行が引き起こした失敗にもめげず、自分たちの主張に固執し続けるとしても、合理的な社会は彼らにほとんど注意を払わないだろうと予想される。

しかし、アンドリュー・バセヴィッツ、ジュアン・コール、ポール・ウォルドマン、アンドリュー・サリヴァン、サイモン・ジェンキンス、ジェイムズ・ファローズといった、多くの論客が落胆したように、ネオコンの論客たちは今日も健在である。CNNをはじめとするニュースチャンネルの一般視聴者たちは、ポール・ウォルフォヴィッツ、ディック・チェイニー、ビル・クリストルらの空疎な(vacuous)分析に接しているのである。

より懸念されることは、バラク・オバマ大統領が圧力に屈して、イラクの無能で悩めるマリキ政権を助けるために300人のアメリカ軍顧問団を派遣したと思われることだ。いつものように、オバマ大統領は新たな泥沼を警戒し、アメリカの関与を制限しようとしているようだ。しかし、彼は滑りやすい坂道への第一歩を踏み出し、この最初の動きが成功しなければ、もっとやるようにという追加の圧力に直面することになるだろう。

一体何が起こっているのか? ネオコンの最新の戦争推進キャンペーンの論理を破壊している人々がいる。ネオコンの一連の悪いアドヴァイスに対する強力な再反論は、前述の論客たちの記事を読むとよい。あるいは、バリー・ポーゼンが『ポリティコ』誌に寄稿した、ネオコンのあまりにも有名な妨害行為に対する有効な警告を提供している記事も読んで欲しい。

しかし、過去の失敗を考えると、ネオコンがあらゆるレヴェルの説明責任(accountability)から免れているように見えるのはどうしてだろうか? 一つのグループが、これほど頻繁に、これほど高いコストをかけて間違いを犯しながら、それでもなお、上層部でかなりの尊敬と影響力を維持できるのはなぜなのか? アメリカがネオコンに少しでも耳を傾けることは、ワイリー・E・コヨーテにロードランナーの捕まえ方を聞いたり、故ミッキー・ルーニーに結婚のアドヴァイスを求めたり、バーニー・マドフに退職金の運用を任せたりするようなものである。

私の知る限り、ネオコンが奇妙なほど持続しているのは、相互に関連する4つの要因によるものである。

(1)厚顔無恥(No. 1: Shamelessness

ネオコンサヴァティヴィズムが生き残っている理由として、そのメンバーが、自分たちがどれだけ間違っていたか、あるいは善悪そのものを気にしていないことである。トロツキー派やシュトラウス派のルーツに忠実なネオコンは、政治的目標を達成するために、常に真実を弄ぶことを厭わない。例えば、彼らはイラク戦争を売り込むために、情報を捏造し、とんでもない虚偽の主張をした。そして今日、彼らは現在のイラクの混乱に対する自らの責任を否定し、オバマによって浪費された戦争の大成功を描くために、同様に虚偽の物語を構築しているのだ。そして、この運動全体が先天的に誤りを認めることができず、自分たちが浪費したり取り返しのつかない損害を与えたりした何千人もの人々に謝罪することができないようだ。

著名なネオコンの知識人で、イラク戦争の初期の推進者ロバート・ケーガンが、来月行われるヒラリー・クリントンの選挙資金調達パーティのトップを務めることが、『フォーリン・ポリシー』誌によって明らかにされた。この動きは、クリントン陣営が著名な共和党員と関わりを持とうとする姿勢の変化を示すものであり、ドナルド・トランプ大統領の誕生を阻止するために、共和党の離反者がどこまでやる気があるかを示す最新の兆候である。

つまり、リチャード・ニクソンやシルヴィオ・ベルルスコーニと同様に、ネオコンたちは、自分たちが何度間違っていたかを気にせず、世間の注目を浴びるためならどんなことでもする、あるいは言う、という姿勢でカムバックを繰り返している。また、自分たちの度重なる政策の失敗がもたらす悲劇的な人的結果には、まったく無関心であるように見える。ネオコンであることは、決して「申し訳ございません」と言う必要がないことを意味するようだ。

(2)資金援助(No. 2: Financial Support

ネオコンの生き残りの第二の源泉は資金だ。アメリカの開かれた政策アリーナでは、雇用を維持し、活動するためのプラットフォームと組織を提供する資源さえあれば、ほとんど誰でもプレイヤーになることができる。2003年にアメリカを崖っぷちに追い込んだネオコンは、ベルトウェイ(ワシントンの内部)で疎外されるどころか、『ウィークリー・スタンダード』誌、アメリカン・エンタープライズ研究所、カーネギー財団、外交問題評議会、戦争研究所、ハドソン研究所など、資金力のあるシンクタンク、雑誌などを出す組織から支持され続けている。エリオット・エイブラムスのように何度失敗しても、資金力のある外交評議会の上級研究員になれるのなら、アメリカの政策論議において間違ったアドヴァイスが目立つようになるだろう。

(3)言い分をそのまま受け入れ共感するメディア(No. 3: A Receptive and Sympathetic Media

ネオコンは、主流メディアが彼らに注目し続けなければ、その影響力はかなり小さくなる。彼らは自分たちの雑誌を出版したり、フォックス・ニューズに出演したりすることもできるが、大きな力を発揮するのは、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォールストリート・ジャーナル』紙、『ワシントン・ポスト』紙などのメディアで彼らが注目され続けていることだ。ネオコンは依然として論説ページに頻繁に登場し、外交政策の様々な問題について記者たちからよく引用されている。

このような傾向は、主要メディアの重要なメンバーが、自らネオコンであったり、その基本的な世界観に強く同調していたりすることも一因となっている。ニューヨーク・タイムズのデイヴィッド・ブルックス、ワシントン・ポストのチャールズ・クラウトハマーとフレッド・ハイアット、ウォールストリート・ジャーナルのブレット・スティーヴンスは、いずれもネオコン信奉者で、もちろん当初から戦争推進派では著名な発言者だった。ニューヨーク・タイムズ紙は2005年にクリストルを起用し、論説コラムを書かせたが、それはイラク情勢が既に悪化していた後だった。クリストルの論稿がそれほど退屈で杜撰な内容でなかったなら、彼は今日もまだコラムニストを続けているかもしれない。

しかし、ネオコンが主要な報道機関に存在し続けるということだけが問題ではないのだ。

ネオコンが影響力を持ち続けているのは、アメリカの他のメディアが「バランス」にこだわっているからであり、無頓着な記者たちは、オバマ政権やよりハト派的な声から何を言われても、いつでもタカ派のネオコンの言葉を引用してバランスを取れることを知っているからである。記者が正確さよりもバランスが重要だと考えている限り、新保守主義者は自分たち特有の外交政策に関する当てにならない商品(スネークオイル、snake oil)を売り込む場所をたくさん見つけることができるのだ。

(4)リベラル派の同盟者(No. 4: Liberal Allies

ネオコンの持続性にとっての最後の源泉は、彼らの近いいとこである、リベラル派の介入主義者(liberal interventionists)から継続的な支持を得ていることである。ネオコンは、イラク侵略というアイデアを作り出したかもしれないが、様々な種類のリベラルなタカ派から多くの支持を得ていたのである。前にも述べたように、この2つのグループが唯一意見を異にする主要な問題は、国際機関の役割についてであり、リベラル派は国際機関を便利な道具と見なし、ネオコンはアメリカの行動の自由を妨げる危険な制約と見なしている。つまり、ネオコンはリベラルな帝国主義者のステロイド版であり、リベラルなタカ派は実際にはより親切で優しいネオコンに過ぎないのだ(Neoconservatives, in short, are liberal imperialists on steroids, and liberal hawks are really just kinder, gentler neocons.)。

リベラル派の介入主義者たちはネオコンの計画に加担しているため、ネオコンをあまり批判したがらない。それは、そんなことをしてしまうと、ネオコンの悲惨な計画における自らの過失に注目が集まるからだ。したがって、ピーター・ベイナートやジョナサン・チェイトのようなリベラルなタカ派が、イラク戦争を支持していたにもかかわらず、最近になって、ネオコンの立場を厳しく批判しつつ、イラクをめぐる新しい議論に参加するネオコンを擁護していることは、驚くにはあたらない。

ネオコンとリベラル派の同盟は、事実上、ネオコンの世界観を再正当化し、アメリカ主導の戦争に対する彼らの継続的な熱意を「正常(normal)」に見せているのである。オバマ政権にサマンサ・パワーやスーザン・ライスのような熱心な介入支持者がいて、アン・マリー・スローターのような元オバマ高官が、シリアに武器を送る必要性についてネオコン的な議論をしているとき、ネオコンは米国政策コミュニティの中で完全に立派な一派のように聞こえ、むしろ彼らの考えが実際にはどれほど極端で信用できないものであるかが強調されているのである。

圧倒的な証拠を前にしてもなお、影響力と地位を維持するゾンビのような能力は、F・スコット・フィッツジェラルドが間違っていたことを教えてくれる。アメリカの人生には実際、無限の「セカンドチャンス」があり、アメリカの政治システムにはほとんど、あるいはまったく説明責任がない。ネオコンの持続力はまた、アメリカが無責任な言説から逃れられるのは、それが非常に安全だからだということを思い起こさせる。イラクは大失敗で、アフガニスタンでの敗北への道を開くことになった。しかし、一日の終わりには、アメリカは帰ってきて、おそらくちょうどいい状態になる。確かに、ネオコンの空想に耳を傾けなければ、何千人もの市民が今日も元気に暮らしていただろうし、1993年以降の彼らの処方箋を儀礼的に無視していれば、アメリカ人は海外でもっと人気があり、国内ではもっと繁栄していただろう。何十万人ものイラク人も生きていただろうし、中東の状態もいくらか良くなっていただろう(これ以上悪くなりようがない)。

ネオコンの影響力を適切な次元(つまり、ほとんどゼロ)まで低下させるものがあるとすればそれは何だろうか? もし、この10年間がネオコンの信用を失墜させなかったとすれば、これからどうなるかは明確ではないということだ。モスクワや北京の指導者たちは、この事実から大きな安心感を得ているに違いない。アメリカが危機から危機へ、そして泥沼から泥沼へと転落し続けることを確実にするためのより良い方法はどんなものだろうか? この社会が、確実に間違っている人ではなく、一貫して正しい人の意見に耳を傾けるようになるまでは、私たちは同じ過ちを繰り返し、同じ悲惨な結果を招くだろう。ネオコンはそんなことを気にしないだろうが。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 今年2022年はアメリカでは中間選挙(連邦上院の一部・連邦下院の全議席・州知事の一部)が実施される。ジョー・バイデン政権と民主党が過半数を握っている上下両院の仕事ぶりに対する、「中間試験」が実施される。現在のところ、民主党が上下両院で過半数を失う見通しとなっている。バイデン大統領の仕事ぶりに対しては、低い支持率となっている。

 2024年には大統領選挙が実施される。現在のバイデン大統領の低支持率のため、「2024年大統領選挙にバイデンは出られない、バイデンは出るべきではない」という考えが広まっている。そうした中で、2024年の大統領選挙で、「ヒラリー・クリントンが出るべきだ」という声も上がっているようだ。また、「バイデンが出るならば共和党のリズ・チェイニーを副大統領にして超党派の政権を目指すべきだ」「とりあえず民主党と共和党の連合政権を目指すべきだ」という考えが出ている。以下の記事にあるように、『ニューヨーク・タイムズ』紙の著名なコラムニストであるトーマス・フリードマンがこのような考えを述べている。

 二大政党制であるアメリカで、民主党と共和党が連合を組んだら誰と戦うのかということが問題になる。第三党もあるにはあるが、その勢力は吹けば飛ぶようなものだ。民主党と共和党が連合政府となれば実質的には一党独裁と変わらない。トーマス・フリードマンはそこまでおかしくなっているのかと驚くばかりだ。
joebidenlizcheney505

リズ・チェイニーとグータッチをするバイデン
 しかし、トランプ対反トランプということならば戦いになる。ポピュリズム対エスタブリッシュメントとの戦いとも言い換えることができる。しかしそうなれば、現在の民主、共和の二大政党制の枠組みは変更しなければおかしなことになる。「人民の生活が一番党(America First Party)」対「ワシントンのエスタブリッシュメントが一番党(Washington DC First Party)」とでもしなければならない。

 「バイデンでは勝てない」「トランプが再び出てきて勝利してしまう」という恐怖感が、民主党内を支配しているようだ。今年の中間選挙において上下両院で民主党が過半数を失えば、政権運営はますます厳しくなるばかりで、バイデンの年齢も考えると2024年の大統領選挙は別の人でということになるのは自然だ。しかし、副大統領であるカマラ・ハリスの評価も低いままということになると、「ここはやっぱりヒラリーで」という考えが出てくる。しかし、それは時計の針を強引に戻すようなものだ。

 そこで出てくるのが「トランプの当選を阻止する」ということに主眼を置いた、ワシントンDCのエスタブリッシュメント連合である「民主党のバイデン大統領と共和党のリズ・チェイニー副大統領」の超党派政権の発足ということだ。リズ・チェイニーが反トランプの旗頭であることはこのブログでも再三ご紹介した。「民主政治体制を守るため」と言いながら、このような民主政治体制を愚弄するような馬鹿げた考えが出てくるというのは、アメリカの断末魔を聞いているかのようだ。

 そして、ドナルド・トランプ前大統領の影響力の大きさに驚くばかりだ。中間選挙での共和党側議員たちの構成もどうなるのか、という点にも注目していかねばならない。

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ヒラリーが2024年に?戦いということを考えるならば、ヒラリーが民主党側にとって最高の希望ということになるかもしれない(Hillary 2024? Given the competition, she may be the Dems' best hope

ジョー・コンチャ筆

2021年12月15日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/campaign/585843-hillary-2024-given-the-competition-she-may-be-the-dems-best-hope

来たる2024年に行われるホワイトハウスの主の座をめぐるレースは再戦という形になる可能性がある。しかし、私たちは「バイデン対トランプ・ラウンド2」について話しているのではない(なんてことだ)。

そうではなくて、2016年の大統領選挙民主党候補だったヒラリー・クリントンが、80代になるジョー・バイデン大統領が2期目を目指さないことを決めた場合、有力な候補者を探さなければならないが、その選考の過程で興味深い存在となる。このように考えられる理由は何か?IアンドITIPPによる世論調査の結果によると、バイデンに2期目も大統領を務めて欲しいと考える有権者は22%しかいなかった。民主党支持者に限って言えば、バイデン大統領の2期目に向けた出馬を望む有権者はわずか36%で、「他の誰か」と名付けられた、ある大物候補は44%の支持を得て1位になっている。

民主党のベンチは、最近のニューヨーク・ジェッツ並に厳しい状況になっている。カマラ・ハリス副大統領はどうだろうか?USAトゥディ紙の世論調査によると、彼女の支持率は28%だった。アンドリュー・クオモ前ニューヨーク州知事はどうだろうか?彼はもう知事の座から追い落とされ、徹底的に痛めつけられた。ギャビン・ニューサム州知事(カリフォルニア州選出、民主党)はどうだろうか?彼は今年(2021年)初めにリコール選挙の対象となり、民主党が圧倒的に優位なカリフォルニア州で州知事の座から追放されるのを避けるために、多くの時間と資源を選挙対策に費やさなければならなかった。

ピート・ブティジェッジ運輸長官はどうだろうか?40歳になったばかりで、政治家としての経歴における知識と経験不足が指摘されている。バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、民主党)はどうだろうか?エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)はどうだろうか?コーリー・ブッカー連邦上院議員(ニュージャージー州選出、民主党)はどうだろうか?

こうした人々が選択肢の中に入るのなら、ヒラリーが入らないということがあるだろうか?ヒラリーは現在74歳だ。バイデンに比べれば、まるで若返りの泉に浸かっているようなものだ。そして彼女は、5年経った今でも、実際にドナルド・トランプに負けたことに呆然としている。実際、ヒラリーは自分が負けた理由や、どうせ選挙はトランプとロシアに盗まれたのだ、とずっとぶつぶつと文句を言っている。この敗北を素直に受け入れていない点ではヒラリーとトランプと変わらないようだ。このような発言はトランプにとっては受け入れがたいのだが、ヒラリー(あるいはステイシー・エイブラムス)がやればOKなのだ。不公平な感じであるが、ルールはルールだ。

トランプがホワイトハウスを奪還する可能性について、ヒラリー・クリントンは最近になって次のような警告を発した。「私たちは、これらの嘘や虚偽情報、法の支配や制度を弱体化させる組織的な努力に屈するのか、それとも立ち向かうのか?」。

そうなのだ、これは現実的な可能性を持っているのだ。最近実施された複数の世論調査の結果によると、「2024年の大統領選挙でトランプ対バイデンとなったらどちらを支持するか?」という仮説的な質問について、トランプがバイデンを上回っている。昨年(2020年)のアメリカ大統領選挙で民主党候補者だったジョー・バイデンがアメリカ史上最多の得票数8100万票をかくとくしたことを考えると、この結果は驚くべきものだ。

ヒラリーが2024年大統領選挙に出馬するかもしれない可能性を示すもう一つの兆候は、2016年に読むはずだった勝利演説を読むという彼女の奇妙な決定の形で現れている。これは「マスタークラス」というヴィデオ配信の一部で行われた。それは、読者である皆さん方が今までに見たこともないような、最もぞっとするようなものだった。

元大統領夫人(ファーストレディ)、連邦上院議員、国務長官を務め、民主党大統領選挙候補となった人物が、選挙の敗北演説を読んだ。もちろん、もし私が『ニューヨーク・タイムズ』紙から85%の確率で当選すると言われた選挙で、一度も公職に就いたことのない人物に負けたとしたら、私だって納得して受け入れられないだろう。

しかし、いずれは、5年以上経ったヒラリーが、気品を示すと思う人もいるだろう。謙虚さとある程度の成熟を示すことになるだろうと。そして、もうこのことについて頻繁に話すことはないだろう。

その代わりに、ヒラリーはまだ前面に立っている。5年前に読むはずだった勝利演説を読む敗北候補、それがヒラリーだ。敗北した大統領選挙候補がこんなことをしたことがあるのかと聞かれたら 答えはノーだ。

2016年大統領選挙以来、ヒラリーは、女性差別、性差別、有権者ID法、バーニー・サンダース、前FBI長官ジェームズ・コミー、マット・ラウアー、その他数十の要因とともに、敗因を非難している。(彼女はウィスコンシン州での選挙活動を怠ったことや、“私は彼女と共にある(I'm With Her)”が掴み所のない選挙スローガンであったことは取り上げていない)

ヒラリーの行動は、白昼公の場所で5年間公開セラピーを続けているようなものだ。そして、まともな世界なら、こんな演説を読んだ彼女は失笑されたことだろう。しかし、これはむしろ、クリントンというブランドに対する欲求がまだあるかどうかを確かめるための試運転のように感じられた。

カマラ・ハリスはバイデンのプランBとなるはずだった。彼女は我が国の歴史上初の女性大統領になるよう仕向けられるはずだった。しかし、ハリス副大統領にとってはうまくいっていない。ハリスは既に、世論調査の支持率の数字が低いおかげで、政府高官たちが驚くべき速さで離反している。

ヒラリー・クリントンは、「女性初の大統領」という称号が自分にとって生まれながらの権利であると常に考えていたようだ。そして、ジョー・バイデンが出馬するかどうかにかかわらず、民主党側の人材がいかに哀れであるかを考えると、彼女は、夫があれほど威信を傷つけた米国大統領職を勝ち取るための2度目のチャンスを得ることができるかもしれないのだ。

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ヒラリー・クリントンが2024年大統領選挙でトランプが再び出馬するだろうと予測(Clinton predicts Trump will run again in 2024

マウリーン・ブレスリン筆

2021年12月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/media/585518-clinton-predicts-trump-will-run-again-in-2024

元米国国務長官で2016年大統領選挙民主党候補だったヒラリー・クリントンは、トランプ前大統領が2024年にもう一度大統領の座を狙うとの見方を示し、彼が再び当選した場合、アメリカの民主政治体制の「終焉を迎える可能性がある」と述べた。

クリントンは、NBCのテレビ番組「サンデー・トゥデイ」で放送された、NBCのウィリー・ガイストとのインタビューでこのように述べ、更に「私は賭け事はしないのだが、もし賭け事をする人間ならば、現在の時点では、トランプが再出馬すると言うだろう」とも述べた。

ヒラリーは更に「トランプが準備をしているように見える。そして、彼がこれまで起こしたことの責任を取らないとなれば、また同じことを繰り返すことになる」とも述べた。

ヒラリーはまた、共和党がトランプという「煽動政治家(デマゴーグ)」に乗っ取られていると批判し、彼女の元同僚である共和党議員たちが「選挙に通って議員を続けるために、自分たちの信念を壁にかけてしまっている」と述べた。 "オフィスに入るときに背骨を壁に掛けている

ヒラリー・クリントンは、トランプが再び大統領になる場合、それは民主政治体制にとっての重要な「分岐点」となるだろうと予測した。

ヒラリーは次のように述べた。「民主政治体制の終焉になるだろうと考えている。あまり過激なことを言うつもりはないが、今が分岐点になり得ることを理解してもらいたい。もし、トランプ自身や彼のような人物が再び大統領に選ばれ、彼の言いなりになる議会を持ったとしたら、皆さんはそれがアメリカ、私たちの国だなどとは考えないだろう」。

ヒラリーは、2016年の大統領選挙で敗北を喫したことについて「責任と罪悪感を持つ瞬間があった」とも述べた。

ヒラリーは次のように語った。「私は人々に警告を発しようとしていた。これは本当に危険なことなのだと訴えようとした。トランプが同盟を結んでいる人たち、彼らが言っていること、彼がするかもしれないことは本当に危険なのだと。ジム・コミーと大統領選挙の10日前に彼が行った決定がなければ、私は勝利していただろうと今でも考えている」。

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ヒラリー・クリントンが2016年大統領選挙で読むはずだった勝利演説を初めて公の場で読み上げる(Hillary Clinton publicly reads her 2016 victory speech for the first time

2021年12月10日

ロイター通信

https://www.reuters.com/markets/rates-bonds/hillary-clinton-publicly-reads-her-2016-victory-speech-first-time-2021-12-10/

2021年12月10日付(ロイター通信)。ヒラリー・クリントンは、2016年大統領選挙でドナルド・トランプ前米大統領に勝利した場合に行うはずだった勝利演説を初めて公の場で読み上げた。

前米国務長官であり大統領夫人を務めたヒラリーが立ち直り力(レジリエンス、resilience)について行う「マスタークラス」というヴィデオ配信での授業において、勝利演説の一部を朗読したと、ヴィデオ配信「マスタークラス」は木曜日にプレスリリースで発表した。

「この授業では、2016年の大統領選挙に勝っていたら行いたいと思っていた勝利演説を皆さんと共有したいと思います。これを通じて私の最も公的な敗北の1つに正面から向き合おうと思います 」と、「NBCトゥディ」のトークショーのウェブサイトにあるヴィデオのナレーションでクリントンは言った。

ヴィデオ映像で、クリントンが原稿を開き、団結の重要性に触れた演説の抜粋を読み上げた。

「アメリカ国民の皆さん、今日、皆さんは全世界にメッセージを送りました.私たちは、お互いの違いによってのみ定義されることはなく、“私たち対彼ら”という分断の国でもありません。アメリカン・ドリームは全ての人にとって十分な大きさです」と彼女は読んだ。

そして、ヒラリーは、米国初の女性大統領となった彼女の勝利が、「アメリカと世界にとって画期的な出来事であった」と演説の中で指摘した。

勝利演説には、「私は、女性が選挙権を持つ前に生まれた女性に会ったことがあります。なぜ女性が大統領になったことがないのか、理解できない少年少女に会ったこともあります」と書かれている。

演説には、「私の勝利は、全てのアメリカ人、男性、女性、少年、少女の勝利です。なぜなら、私たちの国が再び証明したように、天井がないとき、空は無限大だからです」と書かれている。

亡き母の過酷な幼少期や、過去に戻れるなら勝利のために何を言ったかなどを話す際に、ヒラリーは涙ぐんでしまった。ヒラリーの母ドロシー・ハウエル・ローダムは2011年に92歳で死去した。

ヒラリーは「私の夢は、彼女のところに行き、“私を見て、私の話を聞いて。あなたは生き残り、自分の良い家庭を持ち、3人の子供を持つことができた”と言うことです」と語った。

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バイデンが2024年の大統領選挙でハリスが副大統領候補になると発言(Biden says Harris will be his running mate in 2024

アレックス・ガンギターノ筆

2022年1月19日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/590487-biden-says-harris-will-his-running-mate-in-2024?utm_source=thehill&utm_medium=widgets&utm_campaign=es_recommended_content

バイデン大統領は水曜日、2024年大統領選挙でハリス副大統領が自分の伴走者(副大統領候補)になると明確に述べた。これは彼が出馬することを示している。

バイデンは、ハリスの投票権法案に関する活動に満足しているか、また、彼女が伴走者になることを約束できるかという質問に対して、「両方の質問に対する答えは、はい、そうですとなる」と答えた。

バイデンは、ホワイトハウスでの2回目の単独記者会見で、自分の答えについて追加の説明をしたいかと聞かれ、「その必要はない」と答えた。

「彼女は私の伴走者になる。そして第二に、私が担当させたのだが、彼女は良い仕事をしていると思う」とバイデンは述べ、ハリスが投票権法案について主導していることに言及した。

記者会見のタイミングは、水曜日に投票権に関する法案を推進する連邦上院の民主党議員たちが、投票権に関する法案を可決するためにフィリバスターを変更することを支持するよう同僚に最終的な嘆願を行ったのと一致する。

ハリスは、月曜日のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア・デーを記念して、投票権に関する法案を可決することによって公民権の巨人の遺産を尊重するよう議員に促した。

先週、ハリスは2024年大統領選挙で大統領選挙候補者として出馬するかどうかに関する質問について全く気にしないと述べた。そして、こうした質問は「ワシントンD.C.のような場所でよくある評論やゴシップの一部」とも述べた。

「バイデンは2024年にリズ・チェイニー連邦下院議員(ワイオミング州選出、共和党)を副大統領候補に据えて、超党派の大統領選を行うべきだ」という『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムが発した提案について、NBCのクレイグ・メルヴィンから質問された。ハリスはその記事を読んでいないと述べ、「私はこのような問題についての高級なゴシップには本当に関心がない」と付け加えた。

しかし、ハリスは先月(2021年12月)、『ウォールストリート・ジャーナル』紙の取材に対し、バイデンと2024年の選挙戦について議論したことなどないと述べ、2024年大統領選挙民主党候補指名に関する憶測に拍車をかけた。

バイデンと側近たちはこれまで繰り返し、バイデンが2024年の大統領選挙に、2期目を目指して出馬する計画だと述べてきた。しかし、彼の年齢が79歳であること、そして最近の世論調査での支持率が下落し続けていることから、将来の計画について常に疑義が出ているのが現状だ。

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『ニューヨーク・タイムズ』紙コラムニストが2024年大統領選挙でバイデン・チェイニーのコンビを主張(NYT columnist floats Biden-Cheney ticket in 2024

ドミニク・マストランジェロ筆

2022年1月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/media/589363-nyt-columnist-floats-biden-cheney-ticket-in-2024

『ニューヨーク・タイムズ』紙のあるコラムニストが、2024年大統領選挙で、バイデン大統領が共和党のリズ・チェイニー連邦下院議員(ワイオミング州選出、共和党)と組んで超党派の態勢で大統領選を戦うことを提案している。

コラムニストのトーマス・フリードマンは木曜日のコラムで次のように書いている。「これが民主政治体制への脅威を打ち倒すための民主的な方法である。この方法を採用しないことは、民主政治体制の滅亡につながる道だ。これがかなり実現不可能な内容だということを私はちゃんと分かっている。アメリカは議会制度の柔軟性を持っておらず、また比例代表システムを採用していない。しかしそれでも、私はこの方法を提案する価値があると思う。現状は、前例のないほど民主政治体制の崩壊に近づいているのだ」。

フリードマンは、最近、多様な国民連合政府が発足したイスラエル・パレスチナの舞台を、米国も見習うべきなのかと考えたと書いている。

「2024年にアメリカが必要としているのは、ジョー・バイデンとリズ・チェイニーというチケットなのか?あるいは、ジョー・バイデンとリサ・マコウスキー、カマラ・ハリスとミット・ロムニー、ステイシー・エイブラムスとリズ・チェイニー、エイミー・クロブシャーとリズ・チェイニーか?あるいは他の組み合わせでもいい」とフリードマンは書いている。

チェイニーは、2021年1月6日のアメリカ連邦議会議事堂襲撃事件以降、トランプ前大統領とその同盟者たちを批判する代表的な人物として登場した。チェイニーは、襲撃事件を調査する議会特別委員会で共に務める民主党議員たちと同様に、2020年の大統領選挙の完全性に関してトランプが繰り返した虚偽の主張が襲撃事件を引き起こし、選挙に対する国民の信頼を脅かし続け、政治暴力のリスクを高めていると述べている。

政治学者のスティーブン・レヴィツキーはフリードマンに次のように語った。「民主党とのイスラエル型の連合の一部として、リズ・チェイニーについて話す用意があるべきだ。今、最優先の目標はただ一つ、民主主義体制を守ることだ」。

レヴィツキーは続けて次のように述べた。「普通の選挙と同じように扱えば、我々の民主政治体制はコイントス(coin flip)の確率で生き残ることができる。そのような確率は、私は実行したくありません。これは、普通の「ロバ対ゾウ(共和党対民主党)」の選挙ではないことを、国民とエスタブリッシュメントに伝える必要がある。これは民主政治体制対権威主義支持者の選挙なのだ」。

フリードマンは、バイデンが定期的にフォローしているとされるメディアの人物の一人であると言われている。フリードマンは昨年夏、中東のイスラエル人とパレスチナ人の対立をうまく和らげることができれば、大統領はノーベル平和賞を受賞する可能性があると書いている。

フリードマン氏のコラムは、2024年の大統領選挙にヒラリー・クリントン前国務長官が出馬するという「もっともらしい」シナリオを示唆する『ウォールストリート・ジャーナル』紙の論説が広く共有されたのと同日に掲載された。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 今年に入り、ミャンマーで国軍がクーデターを起こし、軍事政権の力が強化された。一時は民主化が進むと思われていたが、これではまた昔に逆戻りではないかという失望感が広がった。「せっかく民主化ができたはずなのに」というところだ。

 民主化とは難しいプロセスだ。民主化(democratization)にとって恐らく一番難しい作業は、民主的な制度の確立・強化(consolidation)だ。人々が選挙などの民主的な制度だけが正当性のある制度であると認めること(only game in town)ということにならねばならない。ここがなかなか難しい。特に外国からの介入で行われた民主化は人々の支持を集めにくいために難しくなる。民主化については、拙著『アメリカ政治の秘密 日本人が知らない世界支配の構造』を読んでいただきたい。

 ミャンマーの民主化にとっての最大最高の象徴はアウンサンスーチー女史だ。アウンサンスーチーがまとうイメージは最高のものであり、ノーベル平和賞まで受賞した。更には、2011年にはヒラリー・クリントン国務長官がミャンマーを訪問し、アウンサンスーチーと会談を持ち、2012年にはバラク・オバマ大統領がミャンマーを訪問し、同じくアウンサンスーチーと会談を持った。この頃が彼女にとっての最高の時期であっただろう。 

 その後は、ミャンマーの少数民族ロヒンギャ族に対する弾圧で、ミャンマー国軍を擁護したことで、アウンサンスーチーの評価はがた落ちとなった。彼女また、薄汚れた政治家でしかなかったことが明らかにされた。それと共に、アウンサンスーチーは忘れられた存在となってしまった。

 今年初めのミャンマー国軍によるクーデターは米中の影響権争いの一環であり、ミャンマー国軍は中国側についたということになるだろう。以下に最近の報道記事を貼り付ける。

(貼り付けはじめ)

●「中国、先月ミャンマーに特使派遣 軍トップらと会談」

202191 14:15 

https://www.afpbb.com/articles/-/3364250

91 AFP】中国政府は831日、孫国祥(Sun Guoxiang)アジア問題担当特使が1週間の日程でミャンマーを訪問していたと発表した。同氏の訪問はこれまで公表されておらず、訪問中には軍事政権トップのミン・アウン・フライン(Min Aung Hlaing)国軍総司令官ら幹部たちと協議を行った。

 ミャンマーは今年2月、国軍がクーデターでアウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)国家顧問を拘束し、同氏が率いる国民民主連盟(NLD)から政権を奪取して以来、武力行使による反体制派弾圧が行われるなど政治的混乱に陥っている。

 弾圧を阻止するための国際社会の取り組みは実を結んでいない。欧州連合(EU)は、ミャンマー軍部と同盟関係にあるロシアと中国が、国連安全保障理事会(UN Security Council)でのミャンマーに対する武器禁輸決議の可決を阻止していると非難している。

 在ミャンマー中国大使館の発表によると、孫氏は先月21日から28日までミャンマーを訪問。ミン・アウン・フライン国軍総司令官と会談し、ミャンマーの政治情勢について「意見交換した」。

 孫氏は以前、ミャンマー軍と多数の民族集団間で行われた和平交渉の調整役となった経験がある。中国は、一部の民族集団と同盟関係を築いているとアナリストは指摘している。

 中国は発表で、「社会的安定を回復し、早期に民主的変革を再開しようとするミャンマーの取り組みを支持する」としている。ただし、追放後も自らの政権の正当性を主張するNLDの元閣僚らとの会談については一切触れなかった。

 ミャンマーに多大な影響力を持つ中国は、軍部の行動をクーデターとみなしていない。また、ミャンマーは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路(Belt and Road)」の重要な構成国の一つとなっている。

 中国の習近平(Xi Jinping)国家主席は昨年ミャンマーを訪問した際、「ミャンマーの国情に合った」発展の道を歩めるよう支援すると約束した。

 中国国営メディアは先月31日、中国南西部からミャンマー経由でインド洋に至る新たな海運・道路・鉄道ルートの貨物の試験輸送が成功したと報じた。(c)AFP

(貼り付け終わり)

 ミャンマーは一帯一路計画でインド洋に向かうために重要な位置にある。一帯一路計画については、米中関係の最前線としての分析は、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』で説明している。是非読んでいただきたい。

 ミャンマーのクーデターから分かることは、アメリカの影響圏の衰退と中国の影響圏の拡大、一帯一路計画の足固めが進んでいるということだ。これからは、アメリカの衰退ということを頭に入れて物事を見るようにしなければならない。

(貼り付けはじめ)

誰がミャンマーを失ったのか?(Who Lost Myanmar?

-政権発足後初めての大きな危機に直面し、バイデン政権は10年前とほぼ同じメンバーが集まってアメリカ外交の失敗に対峙しなければならない。

マイケル・ハーシュ筆

2021年2月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2021/02/02/myanmar-coup-us-failure-biden/

ヒラリー・クリントンにとって、2011年のアウンサンスーチーとの会談は国務長官としての職業上の大勝利と個人としての喜びの最高潮の瞬間だった。

当時、米国務長官だったヒラリー・クリントンはミャンマーの首都ヤンゴンを訪問し、ヒラリー自身が「鼓舞してくれる存在」と呼んだ女性の隣に座った。この訪問は、長く孤立状態にあったミャンマーをはじめとする中国の周辺諸国と中国との間を分裂させようとするアメリカのより広範な戦略の一部であった。この戦略はオバマ政権のアジアへの「ピヴォット」の一環であった。国務長官在任中、ヒラリー・クリントンは厳しい調子の演説や「ソフト」な外交以上の成果を上げられなかったが、ミャンマーとの関係改善は珍しく外交上の勝利となった。それから1年後、バラク・オバマは現職のアメリカ大統領として初めてミャンマーを訪問した。その表向きの目的は民主政治を促進することであったが、実際には、ミャンマーをアメリカの影響圏(sphere of influence)に置くというものだった。

10年後、この戦略は消え去った。ノーベル平和賞を受賞した民主活動家アウンサンスーチーはヒラリーを迎え、その後は国家の運営にも参画したが、現在は囚われの身に再び戻ってしまった。それは月曜日にミャンマーの軍部が再びクーデターを起こしたからだ。ミャンマーでは民主政治体制が確立していない。外交面でも進捗はほとんど見られない。アウンサンスーチーとアメリカ政府はすっかり疎遠になってしまっていた。アウンサンスーチーの逮捕の1週間前、バイデン政権は彼女が逮捕されてしまうのではないかという懸念から、アウンサンスーチーに連絡を取ろうとして失敗してしまった。

アメリカの戦略が失敗すれば、アウンサンスーチーの評価も下がってしまうのは当然だ。西側諸国の多くの人々は彼女の釈放を求めているが、アウンサンスーチーはかつてのようなヒロインでもないし、人権保護にとってのスターでもない。アウンサンスーチーは、マイノリティのロヒンギャ族のイスラム教に対するミャンマー国軍の虐殺について、冷血な態度で同意を与えた。これによって世界中で持たれていた彼女のイメージは悪化した。民主化運動家の中からはノルウェー政府に対して彼女へ授与されたノーベル平和賞のはく奪を求める嘆願書が届けられたほどだった。かつては海外からミャンマーへの人権保護の圧力の力を一身に集めていたアウンサンスーチーも、国際的に孤立している状況となった。

今回のクーデターによってミャンマーは30年前に戻ってしまったようだ。今回のクーデターによってもたらされた、21世紀における苦い教訓は、民主政治体制確立の難しさと権威主義(authoritarianism)の権力掌握、そしてこれら2つの間を橋渡しする外交の限界ということであった。

アメリカを含む西洋諸国のほとんどはミャンマーの軍事行動を非難した。中国をはじめとする権威主義体制国家のほとんどは非難しなかった。中国政府は長年にわたり、東南アジアにおける従属国(client states)づくりを進めるアメリカの政策に抵抗してきた。中国政府はクーデターを「内閣改造(cabinet reshuffle)」と呼んだ。先月、中国政府の外交官トップである王毅外交部長はミャンマーを訪問し、アウンサンスーチーの難敵である軍最高司令官ミン・アウン・フライン(Min Aung Hlaing)と会談を持った。ミン・アウン・フラインは今週、ミャンマーの支配者となった。

ジョー・バイデン米大統領の外交政策ティームはミャンマーの挑戦についてよく知っている。なぜならティームのメンバーの多くはミャンマーの挑戦が始まった時点で政府に入っていたからだ。国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めるジェイク・サリヴァンは2011年当時、ヒラリー・クリントン国務長官の次席補佐官を務めた。また、国務省政策企画本部長を務めた。バイデン政権で国家安全保障会議のメンバーに入ったカート・キャンベルはヒラリー・クリントン国務長官の下で、国務省のアジア政策担当のトップを務めた。そして、新しい戦略を統合する重要な役割を果たした。

しかし、10年前の状況とは異なり、バイデン政権の外交政策ティームは、トランプがバイデンの大統領選挙での大勝利を貶めようと試みたことについての奇妙な反響に対応しなければならなくなっている。アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(National League for DemocracyNLD)は、2020年の選挙で、2015年の選挙よりも、より多くの議席を獲得した。その後、ミャンマー軍部はトランプと同様、証拠を提示することなく、選挙不正を宣言した。そして、ミャンマー軍部はアウンサンスーチーを逮捕した。

善かれ悪しかれ、2011年とは異なり、現在のアメリカにアウンサンスーチーが持つアピール力に匹敵する力はない。ミャンマーが民主政治体制への移行を始めた時、ミャンマー国内でのアウンサンスーチーの高い人気は軍事政権(military junta)にとって長期的な脅威であった。アメリカの外交官たちはこのことに気付いており、経済制裁の解除には、自由で公正な選挙の実施を条件に入れようとした。アウンサンスーチーもそうであったと報道されているが、ヒラリー・クリントンも軍事政権側と良好な関係を築こうという熱意を持っており、国連主導の戦争犯罪捜査の要求を取り下げ、即座に援助を提供し、軍事政権による選挙管理を容認した。

アメリカのミャンマーへの関与のペースと範囲はアウンサンスーチーによって動かされてきたということになる。2011年のBBCとのインタヴューの中で、ヒラリー・クリントンは、譲歩し過ぎではないかと質問された。それに対して、ヒラリーは、アメリカ政府はアウンサンスーチーの同意に依存していると答え、「アウンサンスーチーの観点からすると、政治プロセスを検証することが重要だということになる」と述べた。

オバマ政権内で経済制裁緩和について白熱した議論が数度にわたり行われたが、制裁は継続した。2016年にオバマはミャンマーに対する制裁の終了を約束した、また、「ビルマの人々がビジネスの方法と統治の方法を新しくすることで褒章を得ることができるのだと確信するように行動することは正しいことなのだ」と宣言した。アウンサンスーチーは制裁解除を認めた。アウンサンスーチーは 「私たちを経済面で苦しめてきた制裁全てを解除する時期が来たと私たちは考えている」と述べ、これによって、ミャンマーがアメリカの示す民主政治体制に向けたロードマップ通りに進まないにしても、外国企業はミャンマーに投資が可能となるとした。2015年に彼女が率いる国民民主連盟が総選挙で勝利を収めた後(それでも国会の議席の4分の1は軍部のために確保されていたが)、大統領就任は拒絶された。その理由は彼女が外国人と結婚し、子供たちが外国籍だったことだ。

バイデン政権はサイクル全体を再びスタートさせる準備ができているようになっている。ホワイトハウス報道官ジェン・サキは制裁の緩和を「元に戻す」と発言している。これはつまり、新しい制裁が実施されることを示唆している。しかし、バイデン政権は最初に、軍部による政権掌握をクーデターと呼ぶことについて一時しのぎを行った、と報道された。

また、以前の方法が実行された実績があるからと言って、その古い方法が再び効果を発揮するかどうかは明確ではない。アメリカと複数の西洋諸国は数十年にわたりミャンマーに制裁を科してきたが、民主政治体制に向けてほとんど進んでいないのが現状だ。オバマ政権のアプローチを擁護している人々は次のように主張している。バイデン政権の外交ティームの中にはがオバマ政権の外交ティームに参加した人物たちがいるのは事実だが、トランプ政権下の4年間で、世界中野独裁者の力が強まり、外交がより困難になっているのが現状であり、アウンサンスーチーが権力を民主的な方法で獲得しようとする努力がより見えにくくなっている。

しかし、アウンサンスーチーが過去そうであったように、解決策になるのかどうか明確ではない。ミャンマーの専門家の中には、彼女のミャンマー国内での人気は確かであるが、彼女自身が自分の政治的な強さを過大評価し、軍事政権、特に新しい支配者ミン・アウン・フラインに対して過大な要求をしているようだと考えている人々がいる。

ジョージ・ワシントン大学のミャンマー専門家クリスティナ・フィンクは「アウンサンスーチーが軍事政権とある程度の妥協をしていればクーデターを避けることができただろうと私は考えている」と語っている。ミン・アウン・フラインを軍最高司令官、もしくは名目上の大統領に留まることを認めていれば、クーデターは起きなかっただろうということだ。フィンクは「しかし、NLDは交渉をしたいとは考えなかった」と述べている。

他の専門家たちは、アウンサンスーチーは良い結果を得られない無謀な戦いを挑んだと述べている。ロバート・リーバーマンはコーネル大学物理学教授で、映画監督、2011年に「人々はそれをミャンマーと呼ぶ:カーテンを開ける」という映画を撮影した。また、NLDの指導者たちに幅広くインタヴューを行った。リーバーマンは次のように語った。「人々はアウンサンスーチーについて実際の彼女とは違う、あるイメージを常に持っている。彼女はいつも“私は政治家で、それ以上のものではない”と語っている。彼女には選択肢がない。常に細い綱を綱渡りで渡っている。軍部と世界との間でバランスを保っているのだ」。

アウンサンスーチーが2019年に国連国際司法裁判所の証人喚問でロヒンギャ族に対するミャンマー国軍の残虐行為を隠蔽しようとした後、世界中がアウンサンスーチーを玉座に据えておくことを止めてしまったのだ。

新しい軍事政権(junta)は現在、かつては祭り上げられていた反対運動の支援者だった人々からの批判が少ないことと、トランプ政権下で4年間にわたり世界の権威主義的政府が力をつけることを奨励されてきたという居心地の良さに期待をかけている。バイデン政権の外交ティームはかつて、ミャンマーの頭の固い将軍たちを懐柔しようとした。しかし、かつてに比べて、ミャンマーに変革をもたらすための道具の数は少なくなっている。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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