古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ビッグテック

 古村治彦です。

 電気自動車製造企業テスラ社の最高経営責任者で宇宙関連メーカーのスペースX創業者でもあるイーロン・マスクがツイッターを買収した。買収額は440億ドル(約6兆2000億円)だった。ツイッターが有料化される、これまで使用禁止されたアカウントの復活がされるのではないかと言われている。ドナルド・トランプ前大統領は大統領選挙期間から大統領在任期間中に、ツイッターを多用し、情報発信や世論形成に利用していたが、終身使用禁止(バン)されてしまった。

 イーロン・マスクのツイッター社買収によって、ツイッターのポリシーが変更になり、「左に偏っている」と主張されていた表示に関するバイアスが亡くなるのではないかということで、保守派や右派の人々はこの動きを歓迎している。

 ツイッターをはじめ、フェイスブック(メタ)、グーグル、アマゾンなどの検索エンジンやSNSを運営する企業にとっての肝は「アルゴリズム(algorism)」である。アルゴリズムとは、膨大なデータの計算方法や処理方法のことで、私たちの日常の経験に引き付けて簡単に言うと、「どのような記事や投稿がトップに来るか、もしくはそれらをどのように並べて表示するか」ということになる。SNSやアマゾンを利用する人たちにはお馴染みだが、自分のパソコンやスマホでの表示では、自分の好みに合った内容が表示されるようになっている。これが個人の好みを反映しているだけならばよいが、それが個人の好みを誘導するということになればそれは洗脳ということになる。アルゴリズムはその点で非常に危険な要素ということになる。そして、このアルゴリズムこそはビジネスの肝である。イーロン・マスクはツイッターのアルゴリズムを公開するのではないかという話も出ているが、そんなことをすればツイッターは崩壊してしまう。しかし、アルゴリズムの危険性を考えれば、このような措置もやむを得ないものとなるだろう。ツイッターをはじめとするSNS支配の危険性については拙訳を是非お読みいただきたい。 

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ビッグテック5社を解体せよ

 SNSの現状を変化させるということで、今回のイーロン・マスクのツイッター買収は大きな転換点になるだろう。その変化が利用者をはじめとする一般の人々にとって有益なものとなるかどうかは、これから注視していかねばならないが、「洗脳」道具とならないような歯止めがかけられようになるならばそれは有益な措置ということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

マスクのツイッター買収についての5つのポイント(Five takeaways on Musk’s Twitter takeover

アレジャンドラ・オコーネル=ドメニク筆

2022年10月28日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/campaigns/3709611-five-takeaways-on-musks-twitter-takeover/

テスラ社最高経営責任者イーロン・マスクは火曜日夜遅く、ツイッター社を440億ドルで正式に買収した。

今回の買収は、ツイッターにとって激震となるが、メディアと政治の世界をもまた揺るがす事態となっている。

ほんの数週間前まで、マスクによるツイッターの買収に向けた取り組みに関して達成できるのかどうか疑問符がついていた。マスクは、多くの政治家やセレブ、メディアが熱心に利用するソーシャルプラットフォームの運営方法を変えると宣言している。

マスクは自らを「絶対的な言論の自由信奉者(free speech absolutist)」と自認しており、そのため、以前に使用禁止とされた人々をツイッターに復帰させるのではないかとも予想されている。

買収決定の直後、マスクは自身が買収したソーシャルネットワークのプラットフォームで、「鳥は解放された」、そして「良い時代を始めよう」とつぶやいた。

マスクのツイッター買収に関する5つのポイントをこれから見ていこう。

(1)トランプの永久使用禁止は覆される可能性がある(Trump’s permanent ban could be reversed

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2022年78日にラスヴェガスのイヴェントで演説するトランプ前大統領

ドナルド・トランプ前大統領は昨年、2021年1月6日に支持者を扇動して連邦議会議事堂を襲撃させたということで、ツイッター使用を永久に停止された。

しかし、マスクが責任者となった今、それが変わる可能性がある。

マスクが今年初めにツイッターを手に入れようとしていた最大の理由は言論の自由への関心にあった。マスクはツイッターのコンテンツ管理規則について、マスクが「左の強固な偏見(strong left bias)」を示していると主張し、経営陣を批判してきた。

トランプ前大統領がホワイトハウスへの新たな立候補を表明するかもしれないタイミングで、トランプがツイッターに復帰すれば大きな話題となるだろう。トランプは、候補者時代や大統領在任中にツイッターを使用してニュースサイクルをコントロールしたが、そうした取り組みを新しいプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」で再現することには成功しているとは言えない。

トランプがツイッターに戻ることを望むかどうかは不明だが、それは、彼がツイッターに復帰すると、トゥルース・ソーシャルにダメージを与えることになるからだ。

金曜日、トランプは自身のプラットフォーム上のメッセージで、ツイッターが「正常な判断ができる人」の手に渡ったことを嬉しく思うと述べたが、復帰を約束するものではない。

今年5月、マスクは『フィナンシャル・タイムズ』紙主催のイヴェントで、ツイッターのプラットフォームで決定された前大統領への禁止措置を覆すと発言した。

(2)マスクの最初の日はクリアリングハウス(手形交換所)と共に始まる(Musk’s first day starts with cleaning house

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ツイッターを正式に買収したスペースXSpaceX)創業者兼テスラ社最高経営責任者イーロン・マスク

ツイッターを買収した後、マスクは、最高経営責任者パラグ・アグラワル、最高財務責任者ネッド・シーガル、法務・政策担当責任者のビジャヤ・ガッデなど同ツイッターの最高幹部数人を直ちに解雇した。

最高幹部3人はいずれも、マスクとの売買契約に「ゴールデンパラシュート」条項があり、世界一の富豪であるマスクは3人に2億400万ドルの退職金を払わなければならない。また、彼らには1年分の給与と健康保険も支給される。

更に重要なのは、ツイッターがここ数年設定してきたコンテンツに関する数々の基準の背後に彼ら幹部がいたことだ。

彼らの退社とマスクの参加によって、ツイッターがいじめや人種・性別に基づく攻撃が抑制されない「ワイルドウエスト」的な環境を助長するのではないかという疑問を投げかける。

(3)政治的右派はマスクのツイッター買収を称揚している(The political right is hailing the takeover
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2022年9月14日(水)に複数の採決に参加するために連邦議事堂に到着するマジョーリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)

共和党は以前からツイッターが左傾していることに不満を抱いており、マスクによる買収にはほとんどの所属議員たちが拍手喝采している。

例えば、テッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出、共和党)は、マスクのツイッター買収を「ここ数十年で言論の自由にとって最も重要な進展 」と呼び喝采を送った。

ツイッター

Tedcruz 12:48 AM · Oct 29, 2022 twitter

連邦下院議員であるジム・ジョーダン(オハイオ州選出、共和党)、マジョーリー・テイラー・グリーン(ジョージア州選出)、ローレン・ボーバート(コロラド州選出、共和党)は、言論の自由についてのお祝いのメッセージをツイートし、ボーバートは「ソーシャルメディアや議会で抑圧された多くの真実が今後2年間で明るみに出る」と約束した。

ツイッターは保守派に敵対する形で偏っているという主張に反発し、右派のコンテンツがツイッター上で多くの読者や視聴者を見つけるのに苦労していないという証拠もある。

(4)ヘイトスピーチが多発している(Hate speech is popping up

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マスクがツイッターを買収してからヘイトスピーチが複数出現している

金曜日未明、多数の匿名のツイッターアカウントがマスクの買収を称賛し、その後、ツイッター上で人種差別や反ユダヤ主義的なコメントを吐き出しはじめた。

「イーロンは今ツイッターを支配している。人種差別を解き放て。K-S AND N--S」と投稿したアカウントや、「私は自分がどれほどn--sを憎んでいるかを自由に表現できる。ありがとう、イーロン」と投稿したアカウントもあったと『ワシントン・ポスト』紙は報じている。

ツイッターとの契約が合意に達する前に、マスクはツイッターにメモを投稿し、ツイッターが自由奔放な無法地帯になりかねないという広告主の懸念を鎮めようとしたようだ。

マスクのメモには「ツイッターが、重大な結果も伴わずに何でも言えるような、自由奔放な地獄絵図になることを明確に否定する。各国の法律を遵守することに加えて、私たちのプラットフォームは、全ての人に暖かく歓迎しなければならない, あなたはあなたの好みに応じて、ご希望の経験を選択することができる」と書かれていた。

言論の自由と、ヘイトスピーチが容認されるような自由奔放さとのバランスを見つけることは、ツイッターの収益性を高めることを誓ったマスクにとって、挑戦となるだろう。

(5)不確実な未来(An uncertain future

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マスクは火曜日に440億ドルでツイッター買収の合意に達した

マスク掌握下のツイッターの未来は予測することが困難になっている。

ツイッターは2013年から株式を公開してきたが、今後は民間企業として四半期ごとに業績について公開する必要はなくなる。

ツイッターの7500人の従業員は、自分たちの職場の将来を懸念している。今月初め、ワシントン・ポスト紙は、マスクがツイッターを買収した場合、ツイッターの従業員の75%を解雇する計画であると報じた。マスクはツイッターの従業員たちに対してそのような大規模な解雇計画を実施することは否定したが、それでも億万長者のリーダーシップの下では解雇が予想される。

ツイッターの社員たちは、報酬の一部として同社の株を受け取っている。しかし、ツイッターが非公開になることが決まった今、マスクは社員たちが既に保有している株式を買い戻し、将来的には現金でボーナスを支給することに同意した。

『ニューヨーク・タイムズ』紙の「ディールブック(DealBook)」によると、この払い戻しは現時点で1億ドル相当で、社員の一部は、マスクが買い戻しの約束を果たす前に解雇に踏み切るのではないかと懸念しているということだ。

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共和党がマスクのツイッター買収で喝采を叫ぶ(Republicans cheer Musk’s Twitter takeover

ナタリー・プリーブ筆

2022年10月28日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/3709197-republicans-cheer-musks-twitter-takeover/

写真

2022年3月1日(火)のジョー・バイデン大統領の一般教書演説を聞きながら、ローレン・ボバート連邦下院議員(コロラド州選出、共和党)とマジョーリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)は共に同僚の連邦議員たちと立っている

共和党所属の連邦上院議員たちは、木曜日午後にツイッター社の売却が成立し、テスラ社最高経営責任者イーロン・マスクがツイッターを保有することになり、快哉を叫んでいる。

ジム・ジョーダン連邦下院議員(オハイオ州選出、共和党)、マジョーリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出、共和党)、ローレン・ボバート連邦下院議員(コロラド州選出、共和党)は言論の自由(freedom of speech)についてお祝いのメッセージをツイートした。ローレン・ボバート議員は「ソーシャルメディアと連邦議会の多くの抑圧された事実はこれから2年間で明らかになるだろう」と約束した。

マスクは、利用者の使用禁止やツイートの検閲についてのツイッターのポリシーを批判してきた。マスクはツイッター上のヘイトスピーチを取り締まる政策を作った経営幹部数人を追い出している。

連邦下院司法委員会共和党議員団のツイッターアカウントはマスクがツイッターを手に入れたことでトランプ前大統領がツイッターに戻る可能性を称賛するメッセージを投稿した。このツイートには「もうすぐ・・・」というキャプションがつけられ、2016年の共和党全国大会でステージに上がるトランプの姿が収められたヴィデオ映像も含まれていた。

▽ツイッターの表示House Judiciary GOP 10:22 PM · Oct 28, 2022

トランプ前大統領は2021年16日の連邦議事堂襲撃事件に関する発言の後にツイッターの使用が禁止された。マスクのツイッター買収後にツイッターへの再登録を行うという動きを見せていない。しかし、トランプ自身の「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」のアカウントで、「ツイッターが正常な判断力を持つ人の手に握られるようになったことは大変に嬉しいことだ」と述べた。

マスクはツイッター上での終身使用禁止(lifetime ban)を終了させる計画を持っていると報じられている。

行きつ戻りつの交渉過程を経て、火曜日にマスクはツイッター側と、440億ドルで買収するという合意に達した。億万長者であるマスクは今年4月に交渉をまとめようと試みたが、裁判が提起されたために交渉継続を余儀なくされた。

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イーロン・マスクのツイッター取得で見るべき5つのポイント(Five things to watch as Elon Musk acquires Twitter

クリス・ロドリゲス、レベッカ・クレアー筆

2022年4月26日
『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/technology/3465002-five-things-to-watch-as-elon-musk-acquires-twitter/

イーロン・マスクとツイッターの取締役会は月曜日、風変わりなテスラCEO(であるマスク)が1株当たり54.20ドルでツイッターを買収する取引に合意した。

世界一の富豪と最も影響力のあるソーシャルメディアプラットフォームの1つ(マスクはその活発な利用者でもある)の結婚は、会社がどのように運営されるのか、それがアメリカの政治や一般的な情報発信に何を意味するのかという疑問を残したままである。

ここでは、ツイッターの新体制の詳細が明らかになるにつれ、私たちが注目する5つのポイントを挙げる。

(1)バン(利用禁止)された利用者たちが戻るのか?(Will banned users return?

マスクは、コンテントモデレイション(内容の検閲)について、永久的な禁止よりも一時的な「タイムアウト」に傾く、より緩やかなヴィジョンを打ち出した。

各社会活動団体は、この切り替えが、トランプ前大統領を含む公人や政治家に対するツイッターの永久的な禁止措置を覆す可能性があると懸念している。

左派系の「メディア・マターズ・フォ・アメリカ」の最高責任者アンジェロ・カルソーネは声明を発表しその中で次のように述べている。「今回の販売によって、ドナルド・トランプのアカウントが、虐待や嫌がらせ、ツイッターのルール違反を繰り返した他の多くのアカウントとともに復活することが十分に予想される。底辺への競争が始まる」。

マジョーリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ジョージア州選出)は、公式アカウントを通じて、マスクが「契約を結んだ」後、今年1月にツイッターの新型コロナウイルス関連情報誤報ポリシーに繰り返し違反したとして禁止された彼女の個人アカウントへのアクセスを「回復」してもらうことを示唆した。

トランプは月曜日、自分はツイッターに戻らず、自身のプラットフォームであるトゥルース・ソーシャルに残ると述べた。しかし、トランプのアドヴァイザーの中には、選挙戦と任期中に大きな注目をもたらしたプラットフォーム(ツイッター)に戻るという申し出を断るとは思えないと『ワシントン・ポスト』紙に語った人物もいる。

「メディア・マターズ」は、「ストップ・ザ・シール」の組織者アリ・アレクサンダーや、マスクのツイッター買収を祝うQアノン上の有名人たちがツイッターに戻ることが許されれば脅威となると主張し、禁止されたツイッターの利用者たちのリストを編集した。

「フリー・プレス」の共同CEOで「チェンジ・ザ・タームズ」の共同創設者であるジェシカ・ゴンザレスは「これらの人々は組織化されている」と述べた。

ゴンザレスは更に次のように述べた。「私は、人々を過激化し、資金を集め、暴力を常態化し、現実に起こっている暴力的で脅迫的な活動のために行動するよう呼びかけるために、これらのプラットフォームを使用する洗練された、協調的な努力について話しているのだ」。

(2)指導部が変更される(Leadership changes

マスクとツイッターは月曜日にツイッターの非公開化について合意したが、買収自体は、株主による合意内容の投票や規制上のハードルをクリアする間に、2022年末までかかる可能性がある。

その期間中に、ツイッター社最高経営責任者パラグ・アグラワルと買収を承認した独立取締役会は、引き続きツイッターの指揮を執ることになる。

ツイッターの取締役会議長であるブレット・テイラーは、月曜日の夜に行われた全社集会で、「この取引によって、署名から取引完了までの間に会社を成功させ続ける能力がこのチームに与えられたと私たちは非常に安心していると思う」と述べたと報じられている。

しかしながら、買収が完了した際に、会社のトップが交代する可能性が高いと見られている。

マスクと現首脳陣との関係は表向きには対立していない。しかし、マスクは取締役会への参加を拒否しており、これは彼がツイッターに関する独自のヴィジョンを追求することに関心があることを示している。

アグラワルは、この取引が成立し、マスクが彼を解雇することを選択した場合、3870万ドルの給与を受け取ることになる。

テスラ、スペースX、ボーイング社、ニューラリンで積極的にリーダーシップを発揮し、あるいは関与していることを考えると、マスクが単独で会社のトップに立つのは難しいだろう。

もしマスク氏が現在のリーダーシップを刷新した場合、誰をツイッターのトップに選ぶかは、このプラットフォームに対する彼の計画の最も明確なシグナルになるかもしれない。

アグラワルは、月曜日のタウンホールミーティングで、「取引が完了したら、プラットフォームがどの方向に進むか分からない」と認めたということだ。

(3)製品はどのように変化する可能性があるか?(How could the product change?

大きな変化が起きるのは取引が完了するまで待つことになりそうだ。

マスクは、「言論の自由(free speech)」への関与を超えて、それらがどのようなものになり得るか、いくつかのヒントを与えている。

マスクは買収交渉の発表時に声明を発表し、その中で「私はまた、新しい機能で製品を強化し、アルゴリズムをオープンソースにして信頼を高め、スパムボットを打ち倒し、全ての人間に対して認証を行うことによって、ツイッターをこれまで以上に良くしたい」と述べている。

マスクは、どのアカウントをフォローするか、どの投稿を閲覧するか、どのトピックを読み込むかについて利用者たちに推奨するアルゴリズムは一般公開されるべきであると述べている。

このような動きは、プラットフォーム上の政治的偏見に対する懸念を和らげ、研究者たちにソーシャルメディアのレヴァーへの切望されたアクセスを与える可能性がある。

しかし、ツイッターは既にそのアルゴリズムの効果についてその多くをオープンにしている。ツイッターは昨年秋に、右寄りの政治家の主張をより増幅させる傾向があるという調査結果を発表している。

複雑なアルゴリズムを完全に公開することは、混乱を招くだけでなく、プラットフォームをサイバーセキュリティに関するリスクに晒すことにもなりかねない。

マスクはツイッター上のスパムを削減したいとの意向を強く打ち出しているが、その方法についてはほとんど具体的なことは述べていない。

ツイッター上の全ての人間を認証するというマスクの提案は、市民社会団体からも心配されている。

投稿前のCAPTCHAのような簡単なチェックでは、スパムボットがゲーム感覚で利用できる可能性が高く、ID認証のような厳しいチェックでは、ツイッターが努力して維持してきた匿名性が破壊されてしまう。

仮に利用者が実名を投稿する必要がないとしても、そのデータはツイッターが収集しなければならず、従って、政府からそのデータの提出を強制される可能性がある。

言論の自由や抗議の権利に与える影響は、特に、ソーシャルメディア上での政府批判を禁じる規則を既に設けている権威主義体制国家では壊滅的なものになる可能性がある。

電子フロンティア財団は「利用者の一部や言論の自由に大打撃を与えることなく認証を義務付ける簡単な方法はない」と声明で述べている。

(4)ワシントンの怒り(Washington’s ire

民主、共和両党所属の連邦議員たちは、複数の強力なハイテク企業に対するそれぞれの戦いに、マスクのツイッター買収を利用している。

共和党は、「ビッグテックの大君主たち(Big Tech overlords)」に対する戦いにおいて、マスクを味方として受け入れている。

アンディ・ビッグス連邦下院議員(アリゾナ州選出、共和党)は「イーロン・マスクは、私たちがビッグテックの大君主たちを倒すのを助けてくれている。私たちのデジタル公共空間を私たちの手に取り戻す必要がある」とツイートしている。

テッド・クルーズ連邦上院議員(テキサス州選出、共和党)は、マスク自身の言葉に共鳴し、マスクがツイッターのプラットフォームを「実際に言論の自由を守り、開かれた言論を奨励する」ものに変えることができれば、プラットフォームの「完全な潜在能力」が最大限引き出されるだろうと述べた。

共和党のマスクへの支持は、ツイッターが保守派へ反対するという偏った姿勢に基づいて、コンテンツを検閲しているという主張をめぐる長年の攻撃の上に成り立っている。

しかし、民主党は、マスクがツイッターを所有することで偽情報の拡散について更なる懸念を抱かせることになると主張している。

「政治支配者(oligarch)が街の広場を支配することは常に懸念されることだ。それがどのように管理されているのか、私たちは多くの注意を払う必要があると考える」とジェフ・マークレー連邦上院議員(オレゴン州選出、民主党)は本誌に語った。

進歩主義的な人々の中には、マスクのツイッター買収を利用して富裕税を推進し、権力統合への懸念を高めている人々もいる。

エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)は「この取引は私たちの民主政治体制(democracy、デモクラシー)にとって危険だ。イーロン・マスクのような億万長者は、他の人とは異なるルールで行動し、自分たちの利益のために権力を蓄積している。富裕税とビッグテックに責任を負わせる強力なルールが必要だ」とツイートした。

(5)ツイッターの社員たちはどのように対応するか?(How will Twitter’s workers respond?

ツイッターは、シリコンヴァレーで最もオープンな職場の1つとして知られている。

社員たちは何年にもわたって、自分の考えや感情をプラットフォーム上で共有することを奨励されてきた。社員の多くは、買収合意のニュースが報道された月曜日に意見を交換し、その中で 混乱と失望を表明した。

ある社員は「誰か私に、私が金持ちになるのか、それとも解雇されるのか、教えて欲しい」と訴えた。

別の社員は「今日のニュースはあまりにもクレイジーで、文字通り新型コロナウイルスについて完全に忘れてしまった」と投稿した。

ツイッターの5000名を超える社員の過半数はリベラルな風土のサンフランシスコで働いており、現在まで、コンテントモデレイション(内容の検閲)のために積極的なアプローチを採用してきた会社で働いてきた。

ツイッターはソーシャルメディアの競合他社をリードし、トランプによる選挙の偽情報の流布や新型コロナウイルスに関する誤報の拡散に対応している。

マスクの言論の自由のヴァージョンは、そのアプローチに反しているように見え、潜在的なイデオロギーの衝突を仕掛けている。

ツイッターは月曜日、来週までプラットフォームの変更を一時的に凍結することで予防策を講じたと報じられている。この動きは、数年前にある従業員がトランプのアカウントを一時的にダウンさせたことを受けてのものだ。

マスクまたは自身の会社の社員たちの待遇についてもあまり良い評判を得ていない。

カリフォルニア州公正雇用住宅局は、カリフォルニア州フリーモントの工場で黒人従業員に対する人種差別とハラスメントの疑いでテスラに対して訴訟を起こしている最中だ。

全米労働関係委員会は、テスラが組合運動の疑いについて労働者を違法に尋問し、脅迫した疑いもあると判断した。

ツイッターで働くことの重要な経済的メリットの1つである株式を失うことは問題解決に貢献しない。

ある社員は次のように述べた。「イーロンはともかく、競争力のある報酬体系を作るための自社株がない以上、ツイッターはどうやって従業員を雇い、維持するのか、誰か説明してくれないだろうか? 私たちの給与のかなりの部分は譲渡制限付株式ユニット(Restricted Stock UnitRSU)だ」。

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 少し古い記事でしかも我田引水のような内容になっていることをまずお断りしておく。今回のウクライナ戦争は物理的にも大量の武器が使われ、多くの生命が失われそして傷つき、建物や財産が失われている。この状況は止まる兆候は見いだせていない。これに加えて、サイバー空間での戦争も激化している。こちらもハッキングなどによって相手のインフラを機能できなくしたり、情報を盗み出したりと行ったことが行われている。ウクライナ政府は世界各国の人々に「サイバー義勇兵となってロシア攻撃に参加して欲しい」と呼びかけ、日本を含む数十万人単位でこうした行為に参加しているようだ。ハッキング行為は違法行為となっている国も多いが、「対ロシア」のハッキングであれば思い切りやって下さい、ということになるのだろう。ロシアに制裁を科してロシアの海外資産を没収するということも含めて、ロシアに対してであればどんなに違法なことでもやって良い、というとても21世紀とは思えない状況が続いている。

 さて、アメリカ政府は各大企業に対して、サイバーに関しての「愛国的な」行動を取ることを求めている。ロシアからのサイバー攻撃から自分たちを守るようにと求めている。しかし、こうした行動はこれまでもやって来たことであろうし、何もロシアからだけサイバー攻撃を受けている訳ではない。しかし、下の記事にあるバイデンの発言は「サイバー空間でも既に相当な闘争が繰り広げられている」ということを示している。アメリカ政府も既にロシアに対して相当な攻撃を仕掛けており、それに対する報復に備えよということも示唆しているのだと考えらえる。私は昨年『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム)という本を出した。宣伝がしつこくて申し訳ないが是非多くの方々に読んでいただきたい。

 サイバー空間での対ロシア攻撃の尖兵となるのはビッグテック各社である。SNSを運営している各ビッグテックは、情報戦のところで「愛国的な」行動を取っている。フェイスブック上ではこれまでネオナチや過激なテロ組織に対する制限を加えていたのに、「アゾフ大隊だけは別」として、人種差別やネオナチ的な文脈でない場合には称賛しても差し支えない、ということになっている。アゾフ大隊の根本思想やこれまでやって来たことを無視して(臭いものにふたをして)、「素晴らしい愛国的な勢力」ということにしてしまっている。フェイブック公認の「愛国的ネオナチ」ということになった。

 ビッグテック各社の情報に関する独占力の凄まじさは拙訳『ビッグテック5社を解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著、徳間書店)でも明らかにされている。私が最近話したある編集者の言葉が印象的だった。それは「古村さん、SNS上にないものはいないのと一緒なんですよ」というものだ。つまり、ビッグテック各社がSNS上で制限したり隠したりして人々の目に触れにくい、もしくは触れない情報は現実世界でも存在しないのと同じということになる、ということだ。それほどの力をビッグテックは持っている。私たちはますます困難な時代をいきることになりそうだ。

(貼り付けはじめ)

ホワイトハウスがロシアはアメリカに対するサイバー攻撃の準備中の可能性があると警告(White House warns Russia prepping possible cyberattacks against US

モーガン・チャルファント筆

2022年3月21日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/599072-white-house-warns-russia-prepping-possible-cyberattacks-on-us

ホワイトハウスは月曜日、ロシア政府がアメリカ国内の重要インフラを標的とした「潜在的なサイバー攻撃の選択肢」を模索していることを示唆する情報が集まっているとして、民間企業にサイバー防御を強化するよう促した。

ホワイトハウスの国家安全保障問題担当大統領副補佐官(サイバー、新技術担当)アン・ニューバーガー(サイバーおよび新技術担当)は、月曜日の午後のブリーフィングで記者団に対し、「明確に述べておきたいが、重要インフラに対するサイバー事件が確実に起きるかどうかは分からない」と述べた。

「それでは、なぜ私はここにいるのか? これは、私たち全員に対する行動の要請であり、責任の要請があるからだ」と続けて述べた。

バイデン政権はここ数週間、ロシアがアメリカ国内外のインフラをサイバー攻撃で狙う可能性があると警告しているが、当局者はこれまで、アメリカに対する具体的で信頼できる脅威はないと述べていた。

ニューバーガーは月曜日、当局がロシア側によるいくつかの「準備活動」を発見しており、政権は先週、影響を受ける可能性のある企業や部門に機密扱いで説明を行ったと述べた。

ニューバーガーは「私たちが特定のインフラに対するサイバー攻撃を予期しているがそれについての確たる証拠はない。私たちが見ているのはいくつかの準備活動で、それは私たちが影響を受けるかもしれないと考えた企業と機密の文脈で情報を共有した」と語った。

ニューバーガーは、準備活動にはウェブサイトのスキャンや脆弱性の探索が含まれる可能性があると述べたが、具体的な内容は明らかにしなかった。 

その後、ニューバーガーは、アメリカ政府はロシア側の「潜在的な意図の変化」を察知したと述べた。

ホワイトハウスはファクトシートを配布し、各企業に対し、多要素認証の使用義務化、システムのパッチ適用、対応策を準備するための緊急訓練の実施、脅威を探すためのセキュリティツールの導入、データのバックアップ、データの暗号化、その他の情報保護とサイバー脅威から守るためのセキュリティ強化を促している。

バイデン大統領は声明で、「私は以前、同盟国やパートナーとともにロシアに課した前例のない経済的コストへの対応としてなど、ロシアがアメリカに対して悪意のあるサイバー活動を行う可能性について警告した。これはロシアの戦術の一部である。本日、ロシア政府がサイバー攻撃の可能性を探っているという新たな情報に基づいて、私の政権はこれらの警告を再度表明する」と述べた。

バイデンはその後、月曜日の夜にワシントンで開催されたビジネスラウンドテーブルの会議で出席したCEOたちに対してこの警告を再度提示した。

バイデンは「ロシアのサイバー能力の大きさはかなり重大であり、攻撃が私たちに近づいて

バイデン政権は先月、ウクライナの国防省と銀行を標的としたサイバー攻撃をロシアに起因するものとしている。これらの攻撃は、224日にロシアがウクライナに侵攻を開始する前に発生した。

ロシア政府が支援しているアクターたちによるサイバー攻撃は以前にもあり、おそらく最も顕著なのは2016年の大統領選挙への干渉作戦とソーラーウィンズ社に対する大規模なハッキングに関連したものだ。

ロシアのサイバー犯罪者たちは、コロニアル・パイプラインへの攻撃にも関与した。 

バイデン政権は過去1年間、大部分が民間企業によって所有・運営されている重要インフラのサイバーセキュリティを向上させる試みに取り組んできた。

ニューバーガーは、具体的にどの重要インフラ部門が標的にされる可能性があるのか、月曜日には言及しなかった。重要インフラには、水道、エネルギー、医療、金融サーヴィスなど、様々な分野が含まれる。

ニューバーガーはバイデン政権がロシアによるサイバー攻撃に対応すると明言した。

「大統領が述べたように、アメリカはロシアとの対決を求めていないが、ロシアが重要なインフラに対して破壊的なサイバー攻撃を行った場合、対応する用意があるとも明言している」とニューバーガーは述べた。 

バイデン大統領は声明の中で、「バイデン政権は重要インフラに対するサイバー攻撃を抑止し、攻撃を破壊し、必要であれば対応するためにあらゆる手段を使い続ける」と述べた。

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バイデンが各大企業のCEOにロシアのサイバー攻撃から守る「愛国的義務」を訴える(Biden tells CEOs they have 'patriotic obligation' to guard against Russian cyberattacks

アレックス・ガンギターノ筆

2022年3月21日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/599118-biden-asks-top-ceos-to-invest-in-combating-potential-cyberattacks

ジョー・バイデン大統領は月曜日、ウクライナ侵攻のさなか、ロシアのウラジミール・プーチン大統領からのサイバー攻撃(cyberattacks)の可能性に対処するため、企業の能力を高めるよう、企業トップに対して呼びかけた。

バイデンは月曜日の夜、ビジネスラウンドテーブルの四半期会議の席上、次のように発言した。「サイバーセキュリティの潜在的な使用で危機に直面しているのは皆さん方の利益だけではない。国益の危機に直面している。私は、皆さん方がサイバー攻撃に対処するための技術的能力を構築したことを確認するためにできる限り投資することが、愛国的義務であると真剣に提案する。そして私たちはいかなる方法でも支援する」。

バイデンはこのような攻撃に対抗するための技術に投資することは、企業を保護し、重要なサーヴィスを提供し続け、アメリカ人のプライバシーを保護することにつながると述べた。

バイデンは、サイバー攻撃はプーティンが「最も使いそうな手段」の1つであると述べた。ホワイトハウスは月曜日、ロシア政府がサイバー攻撃の可能性を探っていることを示唆する情報が集まっているとして、民間企業にサイバー防御を強化するよう促した。

バイデンはビジネスラウンドテーブルでの発言で、「プーティンはサイバー攻撃能力を保持しており、まだ使用してはいないが、プーティンのプレイブックの一部だ」と述べた。

バイデン大統領は、例えば、銀行が全ての顧客に対して追加のサイバーセキュリティ対策をデフォルトで実施にすることで支援できることを示唆した。

バイデンは「どのようなステップを踏むか、その責任は皆さん方にあり、私たちの責任ではない」と述べた。

大統領の四半期総会への出席は金曜日に発表された。ビジネスラウンドテーブルのCEOであり、ジョージ・W・ブッシュ大統領の前チーフスタッフであるジョシュ・ボルテンがバイデン大統領を紹介し、ビジネスラウンドテーブルの議長であり、ゼネラルモーターズのCEOであるメアリー・バーラがCEOと大統領との非公開質疑応答セッションの進行役を務めた。

バイデンはまた、プーティンがヨーロッパで生物兵器や化学兵器を使用することについて、出席したCEOたちに警告を発した。

また、バイデンは、プーティンがヨーロッパで生物兵器や化学兵器を使用することについて、CEOグループに警告を発した。「プーティンの背中が壁にぶつかっているほど、彼が用いる戦術の厳しさは大きくなる」と述べた。

また、バイデンはアメリカがウクライナの反撃を支援するために十分な軍備を提供していないという批判に反論した。

バイデンは次のように発言した。「洗練された装備が十分でないというのは単純に正確ではない。ここで詳細に説明する時間を取るつもりはないが、私たちの軍隊とNATOの軍隊に基づいた合理的な意味を持つ全てのあらゆる装備を彼らは持っているということだ」。

バイデンは続けて、ウクライナ軍はロシア軍に「大混乱を引き起こしている」とも述べた。

バイデン大統領は加えて、アメリカと同盟諸国がロシアに対する制裁を科すのを支援してくれた企業に対して感謝の意を表した。アメリカは最近、モスクワとの貿易関係の正常化を終了した。

バイデン大統領は次のように述べた。「私たちがロシア経済に制裁を科し、コスト、実質的な費用を負担するのを助けるために、皆さんは大変なことをして下さった。そして今、私たちは、皆さんがして下さったことが重要で、本当に大切なことだと理解している。皆さん全員がそうしなければならないとは言わないが、立ち上がってくれた人たちは、大きな影響を及ぼした」と述べた。

アップル、ヴィザ、マクドナルド、ディズニー、コカ・コーラなど、アメリカを拠点とする何百もの企業がロシアでの業務の一部または全部を停止している。

ビジネスラウンドテーブルは月曜日の会合への出席者リストを公表していないが、理事会にはアップルCEOのティム・クック、JPモルガン・チェイスCEOのジェイミー・ディモンド、シティCEOのジェーン・フレーザーなどが出席した。

バイデンは次のように述べた。「私たちが世界の舞台でリードしているのは皆さん方のおかげだ。アメリカ企業が立ち上がり、それぞれの役割を果たし、ウクライナへの寄付や、誰の要請もなく事業を縮小するという点で、皆さんがやっていることを嬉しく思う。このことを明確にしておきたい。ロシアでの事業を自ら縮小している。全てではないが、多くの企業が、皆さん方だけでなく世界中の企業を縮小している」。

月曜日午前、バイデン大統領と政権幹部たちは、石油、クリーンエネルギー、銀行といった様々な産業分野の16の大企業の経営陣と面会し、ロシアに関する情勢について意見交換を行った。

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 私が昨年翻訳した『ビッグテック5社を解体せよ』(ジョシュ・ホウリー著)は、アメリカ国内におけるビッグテック(ツイッター、フェイスブック。アマゾン、アップル、グーグル、これらに最近はネットフリックスを入れる場合が多い)の国民への悪影響について詳しく分析し、その影響を小さくすることを訴えている。

 これらのビッグテック各社のプラットフォームが今回のロシアによるウクライナ侵攻ではウクライナのIT軍に利用されている。一方でロシア側に関しては軒並み使用停止、アカウント削除、画像や映像の削除という措置を取られている。ビッグテック各社のプラットフォームは全世界で使用されており、結果として情報戦ではウクライナ側が勝利ということになっている。

 これまでビッグテック各社は「自分たちは情報伝達の手段を提供しているのに過ぎず、情報の中身に関しては責任を負わない、免責を求める」ということを述べてきた。「自分たちはお皿を用意するがそれに乗せる料理に関しては自分たちの責任ではない」と述べてきたようなものだ。しかし、今回は情報の中身に関してロシア側は全面悪、ウクライナ側は全面善ということにすると決定した。ウクライナ側の出してくる情報は全てが正しい、ロシア側は全てが正しくないという判断・決定をビッグテック各社が下した。この意味は重い。こうした判断・決定には結果責任が伴う。これからは「自分たちも提供される情報に責任を負う」と宣言したのと同じだ。

 そして、ビッグテック各社は「戦争協力者」として「武器」を戦争の一方の当事者にだけ渡しているという状況になった。ビッグテック各社は「中立性」ということをこれからは主張できなくなった。これから戦争が起きれば自分たちが「善い者」と判断・決定した側には使用を許可するが、そうではない「悪者」とした側には使用を許さないということになる。ビッグテック各社はそこまで「偉く」「偉大な」存在になってしまった。私たちは自分たちの思考を組み立てる際に情報を基盤とするが、ビッグテック各社は「これが良い情報です」と予め私たちに選別したものを提供するということになる。これは非常に危険なことだ。世界はジョージ・オーウェルの『一九八四年〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)』で描かれた「ディストピア(dystopia)」への道を進んでいる。

 より露骨に書けば、ビッグテック各社はアメリカ政府が決めた「善い者」を応援し、アメリカ政府が決めた「悪者」を攻撃する。このようになっている。ウクライナ戦争によってこのビッグテックの性質が明らかにされた。サイバー上での戦争はアメリカが絶対的に優位ということになっているが、これから中国がこの分野でも追いつき追い越すということになっていくだろう。いつまでもアメリカとアメリカ発のビッグテックの天下ということは続かないだろう。

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プーティンの戦争がビッグテックを永久に変えた4つの理由(4 Reasons Why Putin’s War Has Changed Big Tech Forever

-この紛争は主要なプラットフォームがビジネスを行う方法を永久に根底から覆した。

スティーヴン・フェルドスタイン筆

2022年3月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/29/ukraine-war-russia-putin-big-tech-social-media-internet-platforms/

戦場からのヴィデオ映像、漏洩されえたドローンの監視カメラの映像など、デジタル・コミュニケーションによって、ロシアのウクライナ侵攻は史上最もインターネットにアクセスしやすい戦争となっている。ツイッター(Twitter)やティックトック(TikTok)などのインターネット・プラットフォーム(internet platform)が戦争に関する主要なニュースソースになっている。しかし、今回のウクライナ戦争がインターネット企業にとっての分岐点となっているのはこうしたことだけが理由ではない。ロシアのウクライナ戦争は、インターネット企業に、これまでほとんど避けてきた地政学的な現実(geopolitical realities)との対峙を迫っている。デジタル・プラットフォームは、コンテンツの削除や政治に対する批判者のブロック、政府の統制が効果を持つローカルオフィスの開設など、世界中の政府からの圧力に長い間直面してきたが、欧米諸国からの圧力とロシアによる弾圧は、テック企業の運営方法のパラダイムシフト(paradigm shift)を加速している。大きな断層(fault line)が生まれ、インターネット・プラットフォームがどのようにビジネスを行うかについて、広範囲に影響を及ぼしている。

その理由は明確だ。デジタル時代において、インターネット・プラットフォームは権力と密接な関係にあるからだ。政府はツイッター、フェイスブック(Facebook)、ユーチューブ(YouTube)、ティックトックを使って、プロパガンダを広め、分裂を生み、批判者を威嚇し、政治的言説を推進する。また、市民運動や活動家も同じプラットフォームを利用して、支持者を動員し、独裁者を罵倒し、政府に対する大規模な行動を組織している。新型コロナウイルス感染拡大により、世界のかなりの部分がオンライン化され、政治と社会におけるデジタル・プラットフォームの中心性が加速された。こうした力学は、ロシアのウクライナ侵攻(新型コロナウイルス感染買う題時代における最初の大規模な国家間紛争)を、インターネット・プラットフォームにとっての兆候になっている。

特に、ウクライナ戦争がプラットフォーム・ビジネスを根底から覆すものであることが、4つの要因によって示されている。

(1)戦争は中立神話(neutrality myth)を打ち砕いた。インターネット・プラットフォームは、そのスタートから今まで、自分たちは情報を配信するだけの中立的なプラットフォームであり、コンテンツには責任を持たないと主張してきた。フェイスブックが世界中に偽情報(disinformation)やヘイトスピーチ(hate speech)を広め、外国によるある国の選挙への干渉を助長しているとして長年圧力を受けてきた後も、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は2018年のインタヴューで、ホロコースト否定論者や陰謀論者がプラットフォームで情報を発信するのを禁止するのは自社の責任ではないと明言した。2020年になって初めて、フェイスブックは控えめなコンテンツ取り締まりを導入し、軌道修正に乗り出した。しかし同時に、主要なインターネット・プラットフォームは、どんなに低劣なコンテンツであっても、情報配信者として編集者(パブリッシャー、publisher)としての機能を行使することはないと主張し、政府の責任を追及する動きに反発し続けた。驚くべきことに、ツイッターが中国やロシアの国家的プロパガンダや偽情報の発信元は中露両国政府であったと断定したのは2020年になってからのことだ。

ウクライナ戦争は、中立性の議論に残っていたものを破壊した。ウクライナ紛争に味方しないことは、抑圧的な政権の道具として奉仕することと同じだというコンセンサスの高まりを反映し、ビッグテックはクレムリンのプロパガンダを抑制するために大規模な措置を講じた。ユーチューブはロシアの国営メディアを世界規模でブロックすると発表し、1000以上のチャンネルと1万5000以上のヴィデオ映像を削除した。フェイスブックは、ヨーロッパ連合(EU)の領域内において、ロシアの公式報道機関であるエルティ―(RT)とスプートニック(Sputnik)へのアクセスを制限し、ロシアの国営メディアによる広告の掲載やプラットフォームのマネタイズを世界規模で禁止した。ツイッターはウクライナとロシアでの広告を一時停止し、ロシアの国営メディアが投稿したツイートの可視性を低下させた。しかし、行動を起こしたのはアメリカのソーシャルメディアプラットフォームだけでなく、他のハイテク企業もこれに追随している。アップルはロシアでの製品販売を全て停止した。オーディオストリーミングのスポティファイ(Spotify)はロシアのオフィスを閉鎖し、エルティ―(RT)とスプートニク(Sputnik)の全コンテンツを削除した。ネットフリックス(Netflix)もロシアでのサーヴィスを停止した。中立性という建前をようやく捨てる決断に至ったことにより、テック企業は混乱した新時代に突入した。テック企業はもはや中立的な技術の提供者として活動することはないのだ。政府が戦争継続期間中にテック企業のプラットフォームをどのように利用するか、どのような種類の表現がヘイト、暴力、プロパガンダの境界を侵すかについて、明確な価値判断を下すようになった。これらの行動は、以前のコンテンツ・ポリシーと矛盾しており、テック企業が最近の出来事に対応して、しばしばその場しのぎでルールブックを急いで書き換えていることを示している。

(2)政府の強制が急激に強まっている。権威主義的な政府からインターネット・プラットフォームに対し、コンテンツの検閲(censor content)を求める圧力(多くの場合、特定の市場でビジネスを継続するための条件として)は新しいものではなく、また、プラットフォームがこれを黙認してきた歴史もない。たとえば、ヴェトナムでは、政府当局がフェイスブックのサーバーをオフラインにした後、現地の「反国家的(anti-state)」投稿に対する検閲を大幅に強化することに同意した。ナイジェリアでは、ツイッターが同国に事務所を開設し、政府とともに「行動規範(code of conduct)」を制定することに同意するまで、ナイジェリア政府は7ヶ月間ツイッターの活動を停止させた。

戦争が始まるまでの間、ロシアの強制は加速していたようだ。『ワシントン・ポスト』紙によると、2021年9月、ロシアのスパイがモスクワのグーグル幹部の自宅にやってきて、「ロシアのウラジミール・プーティン大統領の怒りを買ったアプリを24時間以内に削除しなければ刑務所に入れる」という最後通告を冷酷に行ったということだ。フェイスブックがロシアのプロパガンダ報道をブロックする一方で、ウクライナの利用者たちが戦争でロシア兵を殺害するよう訴えることを許可したことを受けて、ロシアの裁判所は親会社のメタ(Meta)を「過激派(extremist)」とし、ロシア国内でのフェイスブックとインスタグラム(Instagram)の活動を禁止した。しかし、オンライン・プラットフォームに対する強制的な措置を強化しているのは、ロシアだけではない。インド政府はツイッターが与党議員の投稿に対して「操作されたメディア(manipulated media)」というレッテルを貼ったことに対する報復として、ツイッター社のオフィスに特殊部隊を突入させることを許可した。トルコでは、コンテンツ削除とデータローカライゼーション(data localization)の強硬法が施行され、刑事罰が科せられた。これらは、インターネット企業が直面する強制的な現実を表している。

(3)ファウスト的な交渉や不愉快な妥協に注目が集まっている。もちろん、全てのテック企業が権威主義的な政府に逆らうような方策を選ぶ訳ではなく、政府に迎合し、それによって市場への有利なアクセスを維持することを望む。多くの企業は、人権を侵害し、利用者たちを危険に晒すような妥協(compromises)を模索し続けている。たとえば、中国資本のティックトックは、アメリアのプラットフォームに倣ってロシアのプロパガンダを禁止しているが、クレムリンの検閲要求に過剰に応え、ロシアの利用者向けにコンテンツの95%を削除することを選択している。その結果、戦争に関する重要な情報源が、ロシアの一般市民から奪われてしまった。インドでは、ツイッターが農民の抗議活動に関連する数百のユーザーアカウントを停止し、政府によって物議を醸すとみなされた数百の農民支持ツイートをブロックした。グーグルはインドでも同様の政策をとり、警察とデータを共有することで、デモ参加者のためのリソースを提供する共有グーグルドキュメントを編集していた気候変動活動家たちの逮捕につながった。

抑圧的な政府にとって新たな戦略とは、自分たちの言いなりになりやすい代替アプリやプラットフォームを育成することだ。中国では、2010年頃にグーグルとフェイスブックが禁止されたことで、ウィーチャット(WeChat)が中国の主要なデジタル・プラットフォームとなる道が開かれた。便利なことに、ウィーチャットは中国政府にとって強力な監視と検閲の手段にもなっており、国家安全保障機関が公共および個人の言論を監視し、キーワードをトリガーに何十億ものメッセージをフィルタリングするために使用されている。ロシアでは、現地の検索エンジンであるヤンデェックス(Yandex)が、どのニュースサーヴィスがヘッドラインを投稿できるかを、クレムリンが承認したわずか15のメディアアウトレットに制限しています。また、インドでは、ツイッターのコンテンツ・ポリシーに不満を持つ政府が、ツイッターに代わるコミュニケーション・プラットフォームとしてクー(Koo)を積極的に推進している。残念なことに、市場シェアと利益のために抑圧的な政権と不愉快な取引をする企業は、アメリカのプラットフォームであれ、現地のプラットフォームであれ、なんでもあるというのが現実だ。

(4)戦争によってプラットフォームが負うべき新たな責任が出現している。ウクライナ紛争に関する情報を仲介するオンライン・プラットフォームの顕著な役割はそれに関連する問題を提起する。国際人道法の下でインターネット企業はどのような義務を負っているのか? ロシアの捕虜を描いた画像を頻繁にソーシャルメディアに投稿することは捕虜を公衆の好奇心にさらすことを禁じるジュネーブ条約に違反しているのか? インターネットの遮断やプラットフォームの自己検閲(self-censorship)は、民間人が救命のための人道的措置(humanitarian measures)や差し迫ったミサイル攻撃に関する情報にアクセスできないようにすることで、戦争犯罪を幇助しているのだろうか? このような規範はまだ生まれたばかりだが、ロシアの戦争におけるデジタル・プラットフォームの支配的な役割によってこれらの問題は突然スポットライトを浴びることになった。

長年にわたり、ハイテク企業はどこで活動し、どのように抑圧的な政府に対処するかについて、難しい選択をすることを避けてきた。その代わりに、検閲の要求に抗議をすることなしに応じたり、権威主義的な政府との不透明な取引に合意したりして、世界の表現の自由のために立ち上がっていると欧米諸国の利用者たちに伝えながら、この2つを両立させようとしてきたのだ。このようなアプローチは常に偽善的(hypocritical)で、多くの人々が注意を払わない限りは有効であった。ウクライナ戦争、ロシアの反対意見に対する悪質な弾圧、そして権威主義的な国での活動を抑制するよう企業に求める欧米諸国からの圧力の高まりによって、テック企業の混迷したスタンスは維持できなくなっているのだ。

テック・プラットフォームは、戦争継続期間中の情報の取り扱いについて一貫した方針を打ち出すよう迫られているだけでなく、各国の政府は自国の見解や利益を主張することにより熱心になっている、不安定な国際環境をどのように切り抜けるかを考えねばならない状況になっている。欧米諸国は、テクノロジー・プラットフォームの運用方法を制限し、表現の自由(free expression)と偽情報(disinformation)やプロパガンダ(propaganda)への対抗との適切なバランスにより重きを置いた新しい規則を追求している。また、各テック企業は困難な市場から撤退することで収益源を失うことになってもそれを正当化しようとする投資家からの圧力と戦わなければならない。一方、独裁的な政権は、ハイテク企業に対して影響力を行使し続け、市場から締め出すか、より効果的に管理できる自国内の代替企業を優先させると脅すだろう。このような状況から今後数年間は予測不可能で不安定な状況が続くと思われる。

テック企業はプラットフォームサーヴィスを提供する非政治的な企業であるという考えには常に欠陥があったが、ウクライナ戦争はその推定された中立性(neutrality)に杭を打ち込むものであった。大手ハイテク企業各社はこれからは未知の領域に踏み込んでいく。

スティーヴン・フェルドスタイン:カーネギー国際平和財団(Carnegie Endowment for International Peace)の民主政治体制・紛争・ガバナンスプログラムの上級研究員で、オバマ政権で民主政治体制・人権・労働担当元国務副次官補代理(former deputy secretary of state for democracy, human rights, and labor)を務めた。

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、ウクライナによる強力な抵抗、反撃が続いている。ウクライナ政府にはデジタル省があり、デジタル担当大臣はミハイロ・フョードロフという31歳の若さの人物だ。フョードロフ大臣はIT軍を創設し、SNSを使って情報戦を展開している。フェイスブック、ツイッターなどのビッグテック各社も協力的だ。ロシアに対しては世界各国で自発的にハッキングに参加する「義勇軍」が展開されている。その規模は数十万人規模となっている。インターネットを使った情報戦はウクライナが先手を取っている。SNSがウクライナ側につけば情報戦を圧倒できるのはとうぜんということになる。

 フェイスブック(メタ)は、ウクライナ内務省直轄の国家親衛隊に所属しているアゾフ特殊作戦分遣隊(Azov Special Operations Detachment)、通称「アゾフ大隊(Azov Battalion)」と呼ばれる軍事組織をフェイスブック上で称賛することを許可した。アゾフ大隊はネオナチの軍事組織であり、2019年からはアゾフ大隊がフェイスブックを利用することが禁じられ(イスラム国やクー・クラックス・クランと同じ措置)、フェイスブックのユーザーが自由に議論することも許されないという措置が取られてきた。アゾフ大隊の本拠地は激戦地のマリウポリだ。

下の記事にあるように、創設者は白人至上主義者であり、ナチスドイツが使った「劣等民族」という言葉を使って、アーリア人が最後の十字軍として、列島民族と戦うことがウクライナの国家使命だと発言するような人物だ。また、ロシア系の住民に対するレイプ事件や殺害事件を起こしており、このことは国連にも報告されている。

 フェイスブックはロシアによるウクライナ侵攻に伴い、このアゾフ大隊を称賛することを許可することにした。ネオナチ的な言説ではなく、ウクライナのロシアへの抵抗の文脈で称賛するということになる。しかし、これは非常に危険な措置だ。フェイスブックが「公認」するネオナチ・グループが英雄として祀り上げられることは戦後に大きな禍根を残すことになると考えられる。

 ソーシャルネットワークサーヴィスが本格的に戦争の道具として使われるのは今回が初めてだ。今回の事態を受けて、ビッグテック各社は新たなルール作りをするべきであろうと思う。

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ウクライナの善戦を支える「サイバー戦」立役者・31歳副首相の手腕 SNSでは「プーチンを木星に飛ばす」計画も

3/21() 11:15配信

https://news.yahoo.co.jp/articles/5b2f807bf94c0789d4035243b69da40a4349b654

https://news.yahoo.co.jp/articles/5b2f807bf94c0789d4035243b69da40a4349b654?page=2

https://news.yahoo.co.jp/articles/5b2f807bf94c0789d4035243b69da40a4349b654?page=3

 ロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナ軍による必死の抵抗が続いている。一方、SNSを中心とした情報戦においては、ウクライナがロシアを圧倒しており、KGB出身のプーチン大統領は思わぬ苦戦に焦っているようだ。それを指揮するのが、ミハイロ・フョードロフ副首相兼デジタル転換相(31)。台湾のデジタル担当大臣に35歳という若さで就任して話題となったオードリー・タン氏になぞらえてウクライナのオードリー・タンとも評されるフョードロフ氏について、国際ジャーナリストの山田敏弘氏が解説する(文中一部敬称略)。

 * * *

 ロシアのウクライナ侵攻が始まって20日以上になる。戦闘はまだ続いており、ここからどのような形でこの戦争が終焉するのかはわからない。

 ただ、はっきりしていることは、この戦争が本格的にSNSで情報戦が繰り広げられた戦いとして記憶されることになるということだ。さまざまな情報が、SNSを使って世界に発信され、戦況にも影響を及ぼしている。

 ウクライナ政府でSNSを使った情報戦を率いるのは、フョードロフ副首相兼デジタル転換相である。戦闘のための武器ではなくSNSで戦った政府首脳として、フョードロフの名も語り継がれていくはずだ。

 まずフョードロフの存在が広く知られるようになったのは、ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてから数日後の、227日のことだ。フョードロフはこんなツイートを投稿した。

「われわれはIT軍を立ち上げる。デジタル才能が必要だ」

 そこからフョードロフのオンライン上での戦いが始まった。ウクライナのサイバー民兵たちを率いてサイバー攻撃を指揮すると同時に、世界の著名人に直接SNSでメッセージを送る。

 例えば、イーロン・マスクだ。テスラの創業者でもあるマスクは、現在、スターリンクと呼ばれる世界の至る所で高速インターネット接続を可能にする衛星ネットワークシステムを立ち上げている。このスターリンクを使うことで、ウクライナで使われている従来のインターネット網がロシアによって破壊されても、ウクライナでインターネットを継続して利用でき、コミュニケーションも遮断される心配はない。

 プーチン大統領が侵攻後すぐに計画していた作戦として、ウクライナ国内のコミュニケーションシステムの破壊、というものがあったと報告されているが、それを踏まえて、フョードロフはマスクにツイッターで「ウクライナにスターリンクを送ってください」と直談判した。

 するとマスクがそれに反応。「スターリンクのサービスをウクライナでスタートさせた。通信機器を送る」──そして48時間以内に、フョードロフは実際にウクライナに到着した数多くのスターリンクを写真で公開した。とんでもない時代である。

楽天から10億円の寄付を引き出す

 さらにフョードロフは、ロシアでビジネスを展開する欧米側の企業のトップに連絡し、ロシアでのビジネスを停止するよう要請。要請にあたっては公式文書を公開し、国際世論の注目度を高めている。

 楽天が提供する無料通信アプリのViberはロシアなどでも使われているが、フョードロフは楽天にもサービス停止をSNS上で要求。結局、楽天は要請に応じなかったが、その代わりに、ウクライナに10億円を寄付することになった。その資金がロシアとウクライナの戦いに注がれていき、戦況にも影響していくことになる。

 SNS上でこうしたやり取りを報告することで、企業にプレッシャーを与えることもできる。SNSに書かれたら、侵略行為で人権侵害が続くウクライナからの切実な要請を無視するわけにはいかないからだ。

 さらにフョードロフは、無料メッセージングアプリであるTelegramのチャンネルを開設し、チャンネルに登録している30万人以上のハッカーやプログラマーなどにサイバー工作を実施するよう指示を出している。

 実は、このようにインターネットで「愛国者」のハッカーらを妨害工作に巻き込むのは、もともとロシアが得意としていた。例えば、ロシアが2007年にエストニアに激しいサイバー攻撃を行なって国家機能を麻痺させたことがあったが、その際には、ロシア国内でインターネットの掲示板などを使って攻撃先のサーバーのIPアドレスや、サイバー攻撃の実施方法の手順などを情報機関が掲載していた。今回、それと同じことをウクライナがロシアに対して行なっているのは皮肉なことだ。

 ウクライナ側のサイバー空間での攻勢はこれに止まらない。例えば、Telegramで、ロシアに進出しているドイツの卸売店「メトロ」を撤退させる作戦を行ない、IT軍の兵士らに、同社のフェイスブックのページに批判メッセージを送るよう英語の文面まで掲載している。

 またある投稿では、ロシアのニュース機関のYouTubeチャンネルを凍結させるべく、YouTubeに「不適切なコンテンツ」であると通報する方法を指南している。

 ツイッターでは、破壊された街の様子や、住民を助けるウクライナ兵の写真を掲載したり、世界に向けて現場の惨状を伝えている。もちろん「ロシアよ、出ていけ」といった投稿も多く見られる。

 フェイスブックでも同様の投稿が掲載されているが、それ以外にも、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とセルゲイ・ショイグ国防相の電話の会話を盗聴したと思われる音声も公開されている。

メッセージをランダムにロシア人に送る

 ある投稿では、ウクライナ側が設置したウェブサイトのリンクが掲載されている。このサイトに行くと、「ロシアに暮らす約15000万人はウクライナ戦争の原因や実態を知らない」というメッセージが書かれ、SMSや電子メール、無料通信アプリWhatsAppのメッセージをランダムにロシア人に送信できるボタンが設置されている。直接、ロシア人にアクセスしようする試みだ。

 こうしたSNSの投稿などと合わせて、ウクライナがロシアに抵抗を続けるための資金の寄付も募っている。「1億ドルの寄付を達成してプーチンを木星に飛ばしてしまおう」という標語のもと、寄付を募るサイトもウクライナ政府が公開している。仮想通貨で寄付できるクラウドファンディングのサイトも、フョードロフはツイッターで拡散している。

 積極的かつ有効的にサイバー空間での戦いを率いるフョードロフとはどんな人物なのか。1991年生まれで、ウクライナ南部の工業都市ザポリージャの大学を卒業、デジタル系のサービスを提供する企業を立ち上げている。2019年に28歳の若さで副首相兼デジタル転換相に就任しているが、もともと、ゼレンスキー大統領が勝利した選挙戦でもSNS関連は彼が仕切っていた。

 こうしたIT戦は、実際の戦闘が続く限り、続けられるだろう。サイバー空間なら誰でも無料で手軽にウクライナのために「戦争」に参加できるのである。今回、新たな戦い方を、ウクライナは見せつけている。

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ツイッターは私たちの戦争を戦う努力の一部となっている-ウクライナの大臣(Twitter is part of our war effort - Ukraine minister

ジョー・ディディ(サイバーレポーター)筆

2022年3月7日

BBC

https://www.bbc.com/news/technology-60608222

ウクライナ軍と市民がロシアの侵攻軍と戦う中、ウクライナはハイテク技術を駆使してシリコンバレーの支持を集め、敵を弱体化させるという新たな戦線を展開している。デジタル担当大臣のミハイロ・フョードロフ(Mykhailo Fedorov)はその先頭に立つが、彼の戦術の中には分裂を引き起こすものがある。

ウクライナで最も若い閣僚フョードロフは、キエフにある秘密の地下シェルターから、ロシアとのデジタル戦争を繰り広げている。

ミハイロ・フョードロフは、彼自身が好む武器であるソーシャルメディアを使って、大企業の最高経営責任者たちにモスクワとの関係を断つよう促している。彼は更に、「敵」に対してサイバー攻撃(cyber-attack)を仕掛けるために、ヴォランティアの「ウクライナIT軍(IT Army of Ukraine)」を設立するという前代未聞の行動に出たのである。

31歳と若いフョードロフは、携帯電話を通して、あるいは携帯電話上で生活するというライフスタイルを軸に、政府の役割を形成してきた。

戦争勃発前、彼の最大の目標は、行政サービスを100%オンラインで提供する「スマートフォンの中の国家(state in a smartphone)」を構築することだった。今は、このプロジェクトは中断され、デジタル戦争(digital war)に全力を注いでいる。

フョードロフは多国籍企業にロシアをボイコットするよう圧力をかけている。

アップル、グーグル、メタ(フェイスブック)、ユーチューブ、マイクロソフト、ソニー、オラクルなどハイテク分野の大企業はウクライナ政府からの公式書簡を無視しなかった。

フョードロフは世界中の人が見られるように、公式書簡と各企業からの返信の一部をソーシャルメディアに投稿している。

これが企業の行動に影響を与えたかどうかは分からないが、ほとんどの企業はその後、ロシアに対する方針を変更し、アップルのようにロシアでの製品販売を停止したり、事業を停止したりしている。

土曜日にペイパルが発表したロシア国内でのサービス停止は、メディアで報道される前にフョードロフのツイッターに投稿された。サムスンとエヌヴィディアがロシアとの取引を全て停止するというニューズも同様で、フョードロフは彼のソーシャルフィードで公然と呼びかけていたことだ。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まった直後、フョードロフがイーロン・マスクにしたあるツイートは、すぐに結果をもたらした。億万長者のハイテク企業経営者であるイーロン・マスクは、48時間以内にスターリンク衛星を調整し、ウクライナにインターネット接続可能な端末をトラック1台分送り込んだ。

このサーヴィスは、インターネットや通信ネットワークが損傷したり破壊されたりした場合に、政府にとって生命線となり得るものだが、その後、マスクは、衛星アンテナはロシアのミサイルの標的になり得るので、注意して使用するよう警告を発した。

フョードロフはツイッター、フェイスブック、インスタグラム、テレグラムで合計50万人以上のフォロワーを持ち、自分のメッセージを伝えるためにそれら全てを利用している。

フョードロフはEメールを通じてBBCに対して次のように語った。「私たちは、ウクライナで起きているこの恐怖に大企業が関心を持つように、あらゆる機会を利用している。私たちはロシア人に真実を伝え、戦争に抗議させようとしているのだ」。

フョードロフはインターネット上ではほとんどウクライナ語で話しているが、危機が始まってからはツイッター上では英語に切り替え、最も影響力を発揮している。

Twitterは、ロシアの軍事的侵略に対抗するための効率的なツールになりました。ロシア経済を破壊するための、私たちのスマートで平和的なツールなのです」と彼は言う。

"Twitter has become an efficient tool that we are using to counter Russian military aggression. It's our smart and peaceful tool to destroy Russian economy," he says.

ハイテク研究者で作家のステファニー・ヘアはフョードロフが成功を収めていることに驚きを隠せないと述べている。

ヘアは「彼は31歳で、ハイテクとインターネットを理解している」と述べた。

説得(persuasion)やプロパガンダ(propaganda)を利用するのは昔からある戦争の戦術だ。しかし、2000年代にソーシャルメディア企業が重要さを増して以来、「彼らは人々がメッセージを広めることができる速度と幅によって計算を変えた」。

フョードロフの広報担当官は、彼が率いる若いチームが常に新しいアイデアを出し、それをデジタル省が迅速に実行に移そうとしていると話している。先週、キエフは軍の資金調達のために非可溶性トークン(NFT)を発行することを発表した。しかし、他のいくつかは物議を醸している。

例えば、フョードロフは暗号通貨取引所に対して、ロシア国民全ての口座を凍結するよう求めている。この考えは、バイナンス取引所のCEOを含む多くの人が、暗号が存在する理由に「反している(fly in the face)」と述べている。

ハッカー集団「アノニマス」は、プーティン大統領に「サイバー戦争(cyber-war)」を宣言している。

デジタル省は更に、世界中から集まった数千人のヴォランティアハッカーを含む「ウクライナIT軍団(IT Army of Ukraine)」を立ち上げ、そのテレグラム内のグループには現在27万人のメンバーがいるがこれにも不安もある。

フョードロフはBBCの取材に対し、「ハイテクは戦車に対する最良の解決策だ。IT軍は、ロシアとベラルーシの企業、銀行、国家ウェブポータルのデジタルおよびオンラインリソースに向けられている。ロシアの公共サービスのウェブポータル、取引所、タス、コメルサント、フォンタンカ、その他ロシアのトップメディアのウェブサイトなどの運営を停止させた」と述べた。

今のところ、ハッキングのほとんどは低レベルのサイバー破壊行為のようだが、フョードロフのチームは鉄道や電力網への攻撃も明確に呼びかけており、これが成功して十分に混乱すれば、一般市民にも被害が及ぶ可能性がある。サイバーセキュリティの世界では、このことが不安視されている。

戦略国際問題研究所(Centre for Strategic and International StudiesCSIS)のスザンヌ・スポルディングは次のように語った。「この分野では本当に注意が必要だ。もし、市民による重要なインフラへの破壊的な攻撃が行われるようになれば、戦争の不確定要素(fog-of-war)、誤認(misattribution)、予想外の連鎖的な影響に遭遇することになると考える。市民が行ったことに対して、一方から報復を受けるかもしれないし、事態は急速にエスカレートする可能性がある」。

金曜日、フョードロフの部署と密接に連携しているウクライナの国家特殊通信局副局長は、ロシアに対してハッカーを結集させるという決定を擁護した。

局長は侵略が始まった「2月24日に世界秩序が変わった(the world order changed on 24 February)」ため、ハッキング集団「アノニマス(Anonymous)」を含むあらゆるグループからのロシアに対する違法なサイバー攻撃を歓迎すると述べた。

ウクライナに対しても、ロシアに同調する人たちによるハッキングが行われているが、現状ではロシアの方の分は悪いようだ。ロシアの軍事ハッカーは、理由は不明だが、今のところ大きな役割を担っていないようだ。

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フェイスブックはもしロシアの侵攻に対して戦う場合には、ウクライナ国内のネオナチ大隊への称賛を許可する(FACEBOOK ALLOWS PRAISE OF NEO-NAZI UKRAINIAN BATTALION IF IT FIGHTS RUSSIAN INVASION

-このポリシーの逆転現象は、ニュアンスや文脈を無視していると批判されているフェイスブックのブラックリストを基盤としたコンテント・モデレイション(content moderation 訳者註:投稿された内容の検閲)に疑問を生じさせる。

サム・ビドル筆

2022年2月25日

『ジ・インターセプト』誌

https://theintercept.com/2022/02/24/ukraine-facebook-azov-battalion-russia/

フェイスブックは一時的であるが、アゾフ大隊(Azov Battalion)を称賛することを数億人規模の利用者たちに許可することになる。アゾフ大隊はウクライナ国内のネオナチ(neo-Nazi)軍事組織であり、以前であれば、フェイスブックの「危険人物・組織」ポリシーの下で自由に議論することが禁止されていた。

このポリシーの大きな変更は今秋実施されたが、現在進行中のロシアによるウクライナ侵攻とそれに先立つ軍事的エスカレーションに起因している。アゾフ大隊は、より広範な基盤を持つウクライナの白人至上主義的な(white nationalists)アゾフ運動(Azov movement)の武装部門として機能し、2014年に正式にウクライナ国家親衛隊(Ukrainian National Guard)に加わる前は、ヴォランティア(訳者註:志願の意味がある)の反ロシア民兵(anti-Russia militia)として活動を開始した。連隊は、筋金入りの右翼的な過激な民族主義(right-wing ultranationalists)とそのメンバーの間に広まったネオナチ思想で有名である。最近ではネオナチへのシンパシーを隠すようになっていたが、その親和性は決して低くない。アゾフの兵士たちはドイツ第三帝国(Third Reich)のアイコンが描かれたユニフォームを着て行進し、訓練を行う。指導部はアメリカのオルトライトやネオナチの要素を取り入れたと言われている。2010年、大隊の初代隊長で元ウクライナ国会議員のアンドリー・ビレツキーは、ウクライナの国家目的(national purpose)は「世界の白人種をリードし、セム族が率いる人間以下の劣等民族たち(subhumansUntermenschen[ウンターメンシェン]に対する最後の十字軍(crusade)になること」と述べている(訳者註:ナチスがユダヤ人、ロマ、スラブ人といった非アーリア人に使用した言葉)[lead the white races of the world in a final crusade … against Semite-led Untermenschen [subhumans]]。ロシア軍はウクライナ全土の攻撃目標に対して急速に移動していると報じられている。そうした中で、フェイスブック社の投稿内容に関する検閲(content moderation)に対する鈍感な、リストベースのアプローチは、同社を窮地に陥れる。「自由に議論するには危険過ぎると判断したグループが、全面的な攻撃から国を守っている場合にどう対処するのか?」という問題が出てくる。

本誌が入手したフェイブック内部のポリシーに関する資料によると、フェイスブックは 「ウクライナ防衛における役割やウクライナ国家親衛隊の一員としての役割を明示的かつ独占的に賞賛する場合、アゾフ大隊の賞賛を許可する」ということだ。フェイスブックが現在許容できると判断した言論の社内での例としてはあ、「アゾフ運動ヴォランティアたちは真の英雄であり、彼らは私たちの国家親衛隊に大いに必要な支援だ」、「私たちは攻撃を受けている。アゾフはこの6時間、勇気をもって私たちの町を守ってくれている」「この危機の中で、アゾフは愛国的な役割を果たしていると思う」といったものが挙げられている。

内部資料では、アゾフは依然としてフェイスブックのプラットフォームを募集目的や独自の声明を発表するために使用できないこと、連隊の制服やバナーは、アゾフの兵士がそれらを着用・掲示して戦うことがあっても、禁止されたヘイトの象徴のイメージとして扱われることが規定されている。内部資料には、連隊のイデオロギーを暗黙の了解として、新しいポリシーで許されない投稿の例が2つ示されている。それは「ゲッペルス、総統、アゾフ、全てが国家的犠牲と英雄主義の偉大なモデルである」「ウクライナとその白人至上主義の遺産を守るためにアゾフはよく戦っている」だ。

フェイスブックが公式にアゾフの使用を禁止したのは2019年だ。アゾフ大隊はビレツキーのような複数の関連個人とともに、同社のヘイトグループに対する禁止対象に指定され、ユーザーが同社のプラットフォーム上でブラックリストに載った団体の「賞賛、支援、表現」に関わることを禁じる、最も厳しい「ティア1」制限の対象になった。本紙が昨年公開したフェイスブックの非公開とされていた使用禁止グループと人物の名簿では、アゾフ大隊はイスラム国(Islamic State)やクー・クラックス・クランKu Klux Klan)のような団体と並んで分類されており、「深刻なオフライン被害(serious offline harms)」や「民間人に対する暴力(violence against civilians)」の傾向があるとして、ティア1グループに分類されている。実際、国連人権高等弁務官事務所による2016年の報告書では、ロシアの2014年のウクライナ侵攻時にアゾフ大隊の兵士たちが市民をレイプし拷問していたことが判明している。

この免責措置は、同社の混乱した、時には矛盾した検閲ルールを、疲弊した状況下で解釈することを任務とするフェイスブックの検閲担当者たちに混乱をもたらすことは間違いない。フェイスブックのユーザーたちは、アゾフ堕胎の兵士によるロシアに対する今後の戦場での行動を称賛することができるようになったが、新しいポリシーでは、グループによる「暴力の称賛」は依然として禁止されていると記している。フェイスブックがどのような形の非暴力的な戦争を想定してこのような規定を決めたのかは不明瞭だ(it’s unclear what sort of nonviolent warfare the company anticipates)。

 

 

非営利団体「ムネモニック」でコンテント・モデレイションMnemonicでコンテンツモデレイションの現実世界への影響を専門に研究しているディア・カイヤリは、アゾフ大隊に関するフェイスブックの新しいスタンスは、オフライン暴力に対する禁止という文脈では「ナンセンス」だと指摘する。カイヤリは「これは典型的なフェイスブックのやり方だ」と述べ、この免責によって一般のウクライナ人が、さもなければ検閲されるかもしれない身の回りの大惨事についてより自由に議論できるようになる一方で、こうした方針の微調整が必要だという事実は、ブラックリストベースの危険な個人と組織の非公開の方針が機能不全に陥っていることを反映していると指摘する。カイヤリは次のように述べている。「何が危険な組織であるかの評価は常に文脈的であるべきで、ある特定の瞬間という理由だけで、他の方法ではポリシーに適合するようなグループのために何か特別な振り分けが行われるべきではない。フェイスブックは常にその危険性のレヴェルの分析をしているはずだ」。

このポリシー変更は、「広範で大部分が非公開の危険な個人と組織に関するポリシーがオンライン上の表現の自由を抑圧している」と主張している批判者たちにとっては歓迎すべきニューズかもしれない。しかし、フェイスブックがアメリカの外交政策判断に基づいて許される言論を決定していることの更なる証拠にもなっている。例えば、昨年の夏、マザーボードは、フェイスブックが今回と同様にイランでの検閲ポリシーの例外を発表し、2週間の間、ユーザーが「ハメネイに死を」と投稿することを一時的に許可したと報じた。カイヤリはアゾフ大隊に関する検閲緩和と免責について「これはアメリカの外交政策に対する直接的な反応だと思う。そして、今回のことが示しているのは、フェイスブックが作っている禁止リストがどのように機能するのかということだ」。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 本日、2021年11月25日に私が翻訳しましたジョシュ・ホウリー著『ビッグテック5社を解体せよ』(徳間書店)が発売になります。以下に推薦文、目次、訳者あとがきと、ビッグテック各社に関する反独占のバイデン政権の人事についての記事をご紹介します。参考にしていただいて、是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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ビッグテック5社を解体せよ 

(貼り付けはじめ)

推薦文

この度(たび)、今のアメリカでビッグテック解体の急先鋒であるジョシュ・ホウリー Josh Hawley の『ビッグテック5社を解体せよ』の邦訳が出ることを、私は心の底から喜ぶ。

ジョシュ・ホウリーは、1979年生まれで、38歳で上院議員選挙に当選した。私は彼に注目した。彼は一貫してトランプ前大統領に忠実だ。ホウリーはミズーリ州の司法長官を務めた真面目なインテリの大秀才だ。

彼が書いた本の書評を読むと、その中身が「ビッグテックを解体せよ」 Break Up Big Tech だと知った。是非日本でも出版すべきだと考え、この度徳間書店から、私の弟子の古村治彦(ふるむらはるひこ)君に翻訳の話があり古村君が丁寧かつ正確に翻訳した。

本書は、最大手出版社のサイモン&シュスター Simon & Schuster から出版されるはずだった。だがホウリーは今もトランプ派であることを理由にして出版を取り止めた。この決定の裏にはビッグテック5社、特にフェイスブックからの強い「要請」があったとされる。 

その後ホウリーはサイモン&シュスターと和解して、シカゴの老舗の出版社で、保守思想の名門のレグナリー社 Regnery Publishing から、2021年5月に出版された。出版されるとすぐにニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー1位になった(2021年6月)。ビッグテックの一角のアマゾンでもベストセラー入りした。ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙の民主党寄りのリベラル新聞書評では、「内容が不正確」と悪口を書かれた。それを跳ね飛ばしてベストセラー入りを続けたことは痛快だった。

「ビッグテックを解体せよ」の動きは、ドナルド・トランプ前政権が、2020年10月にグーグルを独占禁止法違反で訴えたときから始まった。12月にはフェイスブックを従業員に対する差別的処遇で訴えた。次のバイデン政権も「ビッグテック解体」の動きを受け継ぎ強力に継続している。ビッグテック解体のために3人の若い人間が台頭した。1人目は、FTC(連邦取引委員会 Federal Trade Commission)委員長になったリナ・カーン(Lina Khan 1989年生)女史だ。何とまだ32歳の才媛である。リナ・カーンはイエール大学法科大学院(ラー・スクール)在学中の2017年に、イエール・ラー・レヴュー誌に Amazons Antitrust Paradox 「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を発表して注目を浴びた。内容は「現在の独占禁止法では、価格の面ばかりが強調されている。安い商品とサーヴィスを売りさえすれば正義(ジャスティス)だ、ということはもはや無い。アマゾンが実際に行っている反競争的な諸行為を取り締まるべきである」と書いた。

FTC(連邦取引委員会)の委員長に抜擢されたリナ・カーン(32歳)。イエール大学法科大学院在学中の2017年に「アマゾンの反独占のパラドックス」という論文を書いて一躍注目された才媛。ビッグテックの独占体制を叩き潰す司令塔である。

2人目は、司法省(ジャスティス・デパートメント)の独占禁止法担当の次官補(assistant attorney general for the antitrust division)に指名(現在、人事承認中)されたジョナサン・カンター(Jonathan Kanter 1973年生。48歳)だ。ジョナサン・カンターは弁護士として長年中小業者の代理人となりグーグルやアップルとの裁判を闘ってきた。司法省は2020年10月にグーグルを独禁法違反で提訴した。2023年から公判が始まる。司法次官補になったカンターがこの責任者を務める。

3人目は、ティム・ウー(Tim Wu 1972年生。49歳)だ。ティム・ウーの父親は中国系の移民で、カナダの名門マクギル大学を卒業し、ハーヴァード大学法科大学院を修了した。その後、いくつかの大学で教鞭を執り、2006年からコロンビア大学法科大学院教授。ティム・ウーは、前述したFTC委員長に就任したリナ・カーンとコロンビア大学で同僚である。ティム・ウーはホワイトハウスの国家経済会議(NEC(エヌイーシー))に入り、テクノロジー競争政策担当の大統領特別補佐官(special assistant to the president for technology and competition policy)に就任した。ウーが2021年7月に出た大統領令(executive order(エグゼクティヴ オーダー))を書いた。ホワイトハウスからビッグテックを八つ裂きにする仕事をする。

これに呼応して、立法府のアメリカ連邦議会から、ビッグテック解体の戦いを進めるのが、本書の著者ジョシュ・ホウリーだ。ホウリーは、上院の司法委員会に所属し、独占禁止法(米ではAnti Trust Act(アンチ トラスト アクト))小委員会に入っている。委員長は、2020年の大統領選挙の民主党予備選挙に出馬した、エイミー・クロウブシャー(Amy Klobuchar 1960年生。61歳)議員(ミネソタ州選出)だ。クロウブシャーはクソ真面目な女性政治家としてアメリカ国民の信頼が厚い。本書『ビッグテック5社を解体せよ』と同時期に、クロウブシャーも『独占禁止』 Antitrust という本を出版した。民主、共和両党の上院議員2人が、同趣旨の本を出すのは、「独占禁止法違反だ」とからかわれて話題になった。2人は対ビッグテックということで強力に協力する。

このようにビッグテック包囲網、ビッグテック解体の準備が着々と進んでいる。特にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグに対する攻撃は厳しい。プラットフォーム(巨大窓口)を利用者に無料で使わせて、個人情報を集め、集めた膨大なデータを利用者に断りなくアルゴリズム(コンピュータの計算方法)に当てはめて、個人の嗜好や性格まで分析する。それを広告収入に結び付けて大きな利益を出す。世の中のために何も作らない虚業(きょぎょう)に対する怒りが高まっている。ジョージ・オーウェル(George Orwell 1903~1950年。46歳で没)のディストピア(絶望郷)小説『1984年』に出てくる「ビッグ・ブラザーがあなたを見張っている」をもじった「ビッグテックがあなたを監視している」 Big Tech Is Watching You!’である。 本書『ビッグテック5社を解体せよ』は、アメリカの独占禁止の歴史から、ビッグテックの危険性についてまでの全体を描いている。現在アメリカで何が起きているかの最新の情報を得ることができる。本書は、アメリカ政治の最新の動きを日本に伝える。私が本書を強力に推薦する所為(ゆえん)である。

 2021年10月

                                    副島隆彦

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ビッグテック5社を解体せよ──目次

推薦文 1

序文 Preface 15

第一部

第一章 独占の復活 The Return of the Monopolies 24

●共和政体の守護者セオドア・ルーズヴェルトの敗北 30

●大企業優先自由主義に支配されてきたアメリカ 41

第二章 泥棒男爵たち The Robber Barons 46

●独占資本家たちによる大企業優先自由主義に導いた「泥棒男爵」 50

●巨大ビジネスの先鞭をつけた鉄道事業 53

●企業家たちは自由な競争より独占を選んだ 65

●市民の自立こそが共和国の源泉 71

第三章 最後の共和主義者 The Last Republican 76

●一部のエリートに支配されない自由を確保するのがアメリカの共和主義 80

●大企業経営者たちに挑んだセオドア・ルーズヴェルト 91

第四章 大企業優 先自由主義の大勝利 The Triumph of Corporate Liberalism 97

●企業の巨大化を進歩だと考えたウィルソン 99

●ウィルソンが変質させた自由 105

●ウィルソンによって骨抜きにされた独占禁止法 118

第二部

第五章 依存症に苦しむアメリカ Addicting America 126

●インターネット依存症を蔓延させた罪 132

●こうして市民は単なる消費者に変えられた 144

第六章 反社会的メディア Anti-Social Media 158

●SNSの最大の被害者は子供たち 160

●ネットは怒りを増幅させる装置 171

第七章 検閲担当者たち The Censors 184

●ザッカーバーグと議会で直接対決 188

●ニューズキュレイターによって操作されるニューズ 201

●トランプ当選で半狂乱になったグーグル社員がとった行動 206

●地球最大のニューズ配信装置となったビッグテック 212

●リベラル派の教育機関としてのビッグテック 224

第八章 新しい世界秩序 New World Order 227

●グローバル経済から最大の利益を上げる 230

●中国と結びついたビッグテック 237

●独占から利益を引き出す厚かましいやり口 239

●グローバライゼーションの勝者と敗者 249

第九章 不正操作されているワシントン Rigging Washington 253

●書き換えられた通信品位法第230条がビッグテックの楯となった 255

●ワシントンのエリートを使った強力なロビイング活動 261

●エリートの、エリートによる、エリートのための政府 267

第三部

第十章 私たち一人ひとりにできること What Each of Us Can Do 274

●子供たちにスマホを与えない決断 276

第十一章 新しい政治 A New Politics 286

●グーグルとフェイスブックは独占禁止法違反の容疑者 290

●「追跡をするな」という権利を我らに与えよ 300

●人々を依存状態にする機能を廃止させよ 304

●個人に訴訟する権利を与えよ 306

●アメリカの自治のシステムを回復させよ 308

訳者あとがき 310

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訳者あとがき

本書は、Josh Hawley, The Tyranny of Big TechRegnery Publishing, 2021)の邦訳だ。本書の英語での原題を直訳すれば、「ビッグテックの暴政(ぼうせい)」や「ビッグテックの暴力的支配」となる。しかし、邦題は『ビッグテック5社を解体せよ』とした。それは、著者であるホウリーが実際に使っている言葉であり、本書の内容を簡潔に表していると考えるからだ。

著者のジョシュ・ホウリーについて簡単に紹介する。ホウリーは1979年生まれの41歳。アーカンソー州生まれで生後すぐに父の仕事の関係でミズーリ州に転居した。子供の頃から成績優秀、大いに目立つ存在で、周囲の大人や友人たちは、「ジョシュは将来アメリカ大統領になるに違いない」と噂していたという。

ホウリーは1998年に西部カリフォルニア州の名門スタンフォード大学に進学した。大学を優秀な成績で卒業し、2003年にアイヴィーリーグの名門イェール大学法科大学院に進学した。在学中は、成績優秀者しかなれない学内誌の編集委員を務めた。2006年に法務博士号を取得し、弁護士(法曹)資格を得て、アメリカ合州国最高裁判所主席判事ジョン・ロバーツの事務官からキャリアを始めた。その後は弁護士事務所に勤務し、ミズーリ大学法科大学院准教授として教鞭(きょうべん)を執った。

2017年からミズーリ州司法長官を務めた。この時期に、ビッグテックの危険性を認識し、2017年11月、グーグルがミズーリ州の消費者保護法と独占禁止法に違反した容疑での捜査を開始した。2018年4月には、フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカによるデータ取り扱いに関するスキャンダル(フェイスブックが収集した個人情報をケンブリッジ・アナリティカ2016年の大統領選挙に利用してドナルド・トランプ大統領当選に貢献した)を受け、フェイスブックの捜査を行った。このときに他の州の司法長官たちに一緒に戦おうと呼びかけたが誰も反応しなかった、と彼は本書の中で述懐している。

2018年の中間選挙でのミズーリ州連邦上院議員選挙で共和党の候補者となり、当時現職だった民主党の候補者を破り、連邦上院議員となった。ホウリーは当時のドナルド・トランプ大統領からの強力な支持を得た。これが初当選の後押しとなった。ホウリーは、連邦上院司法委員会の独占禁止法小委員会に所属し、「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網の一員として活躍している。委員会では、ビッグテックの経営陣を召喚(しょうかん)し、不正行為などを厳しく追及している。

本書は大きく分けて三部構成となっている。第一部は第一章から第四章までで構成されている。第一部では、独占monopoly(モノポリー)の出現と繁栄の歴史を詳述している。1870年代から鉄道産業や石油産業を中心に、巨大企業による独占によって、「泥棒男爵」と呼ばれた資本家たち(代表的人物はジョン・P・モルガン)は莫大な富を蓄積した。それと同時に、資本家たちは独占を正当化するために、「大企業優先自由主義corporate liberalism(コーポレイト リベラリズム」というイデオロギーを生み出した。

こうして独占が正当化され、そうした動きに抗うことが難しくなっていく中で、独占に立ち向かったのが、ホウリーが傾倒しているセオドア・ルーズヴェルト大統領(第26代)だった。しかし、彼の闘いは失敗に終わった。

その後、ウッドロウ・ウィルソン大統領(第28代)が出現し、大企業優先自由主義を称賛し、「個人の自由とは個人的な生活の中に限定される。政治に参加する必要はない。また、物質的な豊かさを保証するのは政府と大企業の役割だ」という考えを定着させた。結果として、経済的に自立し、政治参加する普通の人々が力を持ち、統治する政治体制である共和政治体制が危機に瀕することになった。

アメリカの共和政治体制が危機に瀕したこの時期と、現代の状況が酷似(こくじ)しているということを著者であるホウリーは私たちに訴えている。彼がビッグテック解体を叫ぶのは、人々に損害を与える独占の解消ということももちろん理由にあるが、現状が続けば共和政治体制 republic(リパブリック)と民主政治体制democracy(デモクラシー)の護持(ごじ)が困難になるという危機感がその根底にある。

第二部は第五章から第九章までで構成されている。第二部では、ビッグテック各社が、アメリカ社会や経済、そしてアメリカの人々一人ひとりに、いかに損害を与えているかを、多くの具体的な事例を挙げて説明している。

「ツイッターやグーグル、フェイスブックは利用者に無料で使わせているが、どうやって利益を出しているのか」、「広告収入が大きいと聞いたことがあるけれど、どうなっているのか」という疑問を皆さん方も持たれたことがあると思う。第二部では、ビッグテックのビジネスのからくりと実態が明らかにされている。多くの方に自分のこととして、驚きといささかの不快感を読み取ってもらえるはずだ。

ビッグテック、特にソーシャルネットワーク・メディアのプラットフォームplatform(巨大窓口)の最大手フェイスブックのビジネスモデルとは、簡単に言えば、「利用者にプラットフォームを利用させて集めた個人データを断りもなく勝手に使って、より洗練された広告を行うことで、金(かね)に換えている。その副産物として、人々の精神に悪影響を与えている」ということになる。

ビッグテックの共通のモデルは次の通りだ。あらゆる種類の個人データを膨大に集め、それをアルゴリズムalgorithm(コンピュータの計算方式)に当てはめて、利用者よりも早く、その人が欲するものを導き出して、それに合った内容の投稿や記事、そして広告を表示する。その過程で、既存のマスメディアや小売業者に圧力をかけて記事や商品を提供させる。また、ビッグテック、特にフェイスブックは、個人データとアルゴリズムを使って、選挙の際に有権者の投票行動をコントロールしている。また、ビッグテックのプラットフォームが日常生活の中に浸透していき、人々、特に子供や若者たちの精神に悪影響(自殺やうつ症状の増大など)を与えている実態も詳細に紹介されている。

第三部は、第十章と第十一章で構成されている。第三部では、私たちはビッグテックからの悪影響からいかにして自分たちを守るか、そして、アメリカの共和政治体制と民主政治体制をいかに守るか、修復していくかということが書かれている。ホウリーが家族で行っている取り組みは私たちの参考になる。その内容は、スマホやパソコンを一定の時間を決めて使わないこと、子供たちには携帯機器を使わせないで外で遊んだり、一緒に本を読んだりすること、家族や友人、ご近所との付き合いを大切にすることだ。ホウリーは「これこそがビッグテックとの戦いにとって重要な力になる」と述べている。

 ごく当たり前の簡単なことであり拍子抜けしてしまう。しかし、現代において、この当たり前で簡単なことを実行することが難しい。また、スマホやパソコンに何時間も触らないことも難しい。携帯機器に触らないと不安な気持ちになってしまう人も多いはずだ。これは、ビッグテックのプラットフォームや携帯機器が私たちの生活に深く浸透していることを示す証拠だ。本書の中に使われている表現を使えば、私たちは、体の中に溜まったビッグテックからの影響(毒素)を外に排出するために、断食をしなくてはいけない。

本書の校正作業中、「フェイスブックが社名をメタMetaに変更する」というニューズが飛び込んできた(2021年10月29日)。創業以来最大の逆風が吹き荒れる中で、名称変更と仮想空間へ軸足を移すことで危機(内部告発や広告収入の減少など)を乗り越えたいという意図があるとニューズ記事で解説されている。ホウリーをはじめとする政府や議会で形成された「ビッグテック解体」に向けた超党派の包囲網によって、フェイスブックは苦境に陥っている。

ホウリーは2024年の大統領選挙の共和党候補者予想に名前が挙がる人物だ。ある調査では、ドナルド・トランプ、マイク・ペンスに続いて3位につけるほど、知名度と人気が高まっている。ホウリーは共和党に所属しているが、大企業寄りの主流派・エスタブリッシュメントには与していない、トランプ支持派のポピュリストPopulistであることが分かる。

ポピュリズムPopulismとは悪い意味の言葉ではない。日本では大衆迎合政治などと訳されてマイナスイメージだが、本当はそうではない。機能不全に陥った、腐った中央政治に対しての、草の根の人々からの異議申し立て運動のことだ。彼を押し上げ、ワシントンに送り込んだのは、アメリカのごく普通の人々だ。

 ホウリーは「普通のアメリカ人が力を持ち、政治に参加して、共和国としてのアメリカの運命を決めよう」ということを主張している。ジョシュ・ホウリーはこれから、アメリカ政治で存在感を増していき、やがて大統領になるかもしれない。是非これからも注目していきたい楽しみな人物だ。

最後に師である副島隆彦(そえじまたかひこ)先生には、力強い推薦の言葉をいただいだ。また、本書の翻訳にあたり、徳間書店学芸編集部の力石幸一(ちからいしこういち)氏には大変お世話になった。記して深く感謝申し上げます。

 2021年11月

                           古村治彦(ふるむらはるひこ)

 

(貼り付け終わり)

 

(貼り付けはじめ)

独占禁止とビッグテックについて、バイデンは自身の中道派のルーツに戻らねばならない(On antitrust and big tech, Biden must return to his centrist roots

ダニエル・A・クレイン筆

2021年4月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/technology/547921-on-antitrust-and-big-tech-biden-must-return-to-his-centrist-roots

アメリカ合衆国大統領は、独占禁止法とビッグテックをめぐる激しさを待つ議論に介入できる、限定された権限を持っている。その中でも最も重要なのは、連邦取引委員会(FTC)と司法省反独占局(Justice Department Anti-trust Division)という反独占機関の責任者を指名することだ。バイデン大統領は既にこのオプションを実行している。連邦取引委員会委員長にリナ・カーンを指名し、同様の決定として、国家経済会議(NEC)の反独占の責任者(czar)にコロンビア大学のティム・ウー教授を指名した。

カーンとウーは独占禁止についての賢明な、そして実績を積んだ思想家である。それぞれ取引委員会委員長と大統領特別補佐官に選ばれたのは当然だ。しかし、両者は、反独占に関する新ブランダイス主義派出身であり、このグループについては民主党内部でも議論が起きている。バイデンが自分の政権の反独占政策の運命を新ブランダイス派に結びつけたいと思わないのなら、連邦取引委員会委員長や反独占担当司法次官補など他の重要な人事には、異なる哲学的方向性を持つ人物の起用を検討すべきだろう。

反独占の動きは、ビッグテック各社に対する追加訴訟を提起するかどうかから、法改正の可能性、基本的な目的に至るまで、あらゆることが問われる極めて重要な瞬間に立たされている。概して言えば、反独占に関しては大きく3つのグループが存在する。

一つ目の陣営は、実業界に好意的な保守派と呼びたい。このグループは、現在の反独占に関する諸政策と諸原理はほぼ正しく、反独占に関する劇的な変化は経済効率、消費者の福祉、技術革新、経済的自由、そして世界におけるアメリカの国益に脅威を与えるだろうと考えている。二つ目のグループは、改革志向の中道派と呼びたい。このグループは、反独占の動きは消費者の福祉と経済効率に集中すべきだという点で一つ目のグループに同意している。しかし、改革志向の中道派は、現行の反独占の法執行と法律上の諸原理は、独占と支配的な企業に対してあまりにも許容的だと考えている。改革志向の中道派は、政府や民間の原告が訴訟を起こしやすくすることで、独占禁止法の施行を再び活性化させようとしている。最後に、新ブランダイス主義者陣営は、独占禁止法の執行を再活性化することをやはり望んでいるが、消費者の福祉と経済効率の分離されない追求こそが問題の根っこにあると考えている。アメリカ最高裁判事を務めたルイス・ブランダイスの哲学である、巨大さの呪い(The Curse of Bigness)に従い、新ブランダイス主義者たちは、消費者の利益を明らかに脅かすかどうかにかかわらず、企業の支配に異議を唱えるために反独占の動きを展開したいと考える。

これら3つのグループについて興味深いことは、これらのグループの相違が党派の相違のラインに沿ってはいないということだ。政治的に右派の立場を取る人々の多く(彼ら自身は自分たちを新ブランダイス主義者と呼んではいない)は、社会的そして政治的発信についてのビッグテックの強力な支配を打破することといた社会的そして政治的な目的を達成するために独占禁止法を機動的に使用せよと訴えている。対照的に、政治的に左派の立場に立つ人の中には、ビッグテックと協力関係を持ち、過度に攻撃的に反独占政策を進めるとビッグテック製品に大きく依存している有権者たちからそっぽを向かれるのではないかという懸念を持っている人たちもいる。私は、ビッグテックを排除するとそこに力の空白が生まれて結果としてリベラルな政治観に対して共感を持たない企業がそれを埋めてしまうのではないかという懸念の声を多く耳にしている。

こうした政治的な複雑さを考えると、バイデンが新ブランダイス主義者たちとだけ協力するというのは賢い選択ではないということになる。彼が実業界に好意的な保守派を反独占に関する人事で起用することはないというのは明らかだ(選挙結果というのは影響力を持つ!)。しかし、反独占の動きの中に改革志向の中道派を入れることは考慮すべきだ。この結論を支持する2つの重要な理由が存在する。

一つ目の理由は、原理原則に関わることだ。反独占に関しては軌道修正(course correction)が必要だということは幅広いコンセンサスが得られている。しかし、完全な見直し(wholesale re-thiking)が必要だということは動揺のコンセンサスが得ら得ていると結論付けるのは時期尚早だ。新ブランダイス主義者たちが席を占めているのは明らかだが、改革志向の中道派にも席を与えられるべきだ。

二つ目の理由は現実的なものだ。新ブランダイス主義の立場がより広範な政治的な支持を得られるか全く不透明であり、このグループと政権があまりにも緊密な関係を持つことは政治的なリスクを伴うことになってしまう。ニューディール時代、ルーズヴェルト大統領は、独占禁止や競争、大企業について様々な見解を持つ人々を政権内に配置するという現実的な決断を下した。政治的な風向きや現場での事実の変化に応じて、様々な人々に責任者としての役割を求めた。もしバイデンが新ブランダイス主義者たちと感懐を深めれば、ルーズヴェルトのような選択肢は持てないことになる。

独占禁止に関する大きな決断がこれから待っている。ホワイトハウスは、柔軟に対応できるような形で人事を行うべきである。

※ダニエル・A・クレイン:ミシガン大学フレデリック・ポール・ファース記念講座教授

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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