古村治彦です。

 

 ドナルド・トランプ大統領がジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官を解任しました。ボルトンは自分から辞任したと述べていますが、実質的には更迭、馘首です。

 

 現在、ホワイトハウスの国家安全保障担当ティームで、国家安全保障問題担当大統領補佐官と国家情報長官が空席になっています。国家情報長官はアメリカ政府の各情報機関を統括します。ダン・コーツ国家情報長官は2019年8月15日に辞任しました。国家安全保障問題担当大統領補佐官はトランプ政権発足3年間で3名が辞任しました。

 

 国家安全保障問題担当大統領補佐官と国家情報長官の後任についての予測記事をご紹介します。国家安全保障問題担当大統領補佐官の候補者としてリチャード・グレネル(Richard Grenell、1966年―、52歳)です。現在は駐ドイツ米国大使を務めています。


richardgrenelldonaldtrump001
グレネルとトランプ大統領

 

 グレネルはハーヴァード大学行政学大学院修了後に、複数の共和党の連邦議員のスタッフを務めました。そして、ジョージ・W・ブッシュ政権下の2001年から2008年にかけて、国連の米国代表部の報道官を務めました。この時に2005年から国連大使を務めたジョン・ボルトンの知己を得ました。その後はメディア関係のコンサルタントを務めながら、保守系メディアに出演してきました。2017年にトランプ大統領はグレネルを駐ドイツ米国大使に任命しました。

 

 記事にある通り、グレネルは強硬姿勢でドイツに対してアメリカの要望を次々と押し付けることに成功しており、その剛腕ぶりが評価されて国家安全保障問題担当大統領補佐官起用があるのではないかと言われています。アメリカの利益をイデオロギーよりも優先させることが出来る人物でもあるということも起用の理由となるということです。

 

 マイク・ポンぺオ国務長官はブライアン・フック(Brian Hook、1968年―、51歳)を推すだろうということです。フックは現在イラン担当特使を務めています。フックはコンサルタントを務めた後、ジョージ・W・ブッシュ政権下で国務次官補を務めました。2012年の大統領選挙で共和党候補となったミット・ロムニーの外交顧問を務めました。2017年から1年ほどは国務省政策企画本部長(Director of Policy Planning)を務めました。政策企画本部長は重要ポストであり、これを務めた人物は後により重要な職位に就くことが多いです。フックは介入主義的な考えを持っており、そのために2016年の段階でトランプ大統領を批判したということで、国家安全保障問題担当大統領補佐官起用の可能性は低いのではないかと言われています。


brianhook001
 
フック

 

国家情報長官の候補者としてピート・ホークストラ(Pete Hoekstra、1953年―、65歳)の名前が挙がっています。ホークストラはミシガン州第2選挙区で9期連続当選(1993―2011年)しました。連邦下院議員時代には情報・諜報分野の専門家で、連邦下院情報・諜報委員下院の委員長を務め、民主、共和両党から尊敬を集めていたということです。連邦下院議員引退後は、ヘリテージ財団の研究員を務めました。そして、自身のルーツもオランダということもあり、トランプ大統領からオランダ大使に任命されました。オランダ大使となった後に、反イスラム発言で謝罪に追い込まれました。


petehoekstradonaldtrump001
ホークストラとトランプ大統領

 

 こうした人物たちが国家安全保障ティームに参加することになっても、これまでと何か大きく変わるのだろうかということがはなはだ疑問です。ボルトンと基本的な考えがあまり変わらない人たちのようですから、大きく変わらないだろうと思います。ただ、アジアよりもヨーロッパや中東に強い人たちのようですから、アジア、特に中国に対しての敵対的姿勢は弱まるのではないかと思います。トランプ大統領は中国を宥めるためにボルトンを切ったということになるでしょうが、後任の人たちを見ると、イランには引き続き強硬姿勢ということになるでしょう。

 

 それではイランとアメリカが直接戦うかというとそうでもなくて、イスラエルとサウジラビアが呉越同舟の形でイランと戦うということになるのではないかと思います。サウジアラビアの石油製造施設がドローン攻撃で破壊されたということですが、イランのバックにはドローン技術を急速に発達させている中国がおり、支援するということになります。お互いにドローンを飛ばし合い、ミサイルを飛ばし合うということになるでしょう。

 

 アメリカにはそれを止める力があるとは思えません。こうして世界の秩序の再編成が始まっていくのではないかと思います。

 

(貼り付けはじめ)

 

ボルトン退任後のトランプ政権の安全保障担当ティームに入るであろう2人の人物の名前(Two names who would give Trump an all-star security team after Bolton

 

ジョン・ソロモン筆

2019年9月11日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/national-security/460829-two-names-who-would-give-trump-an-all-star-security-team-after-bolton

 

トランプ大統領が好きであっても嫌いであってもどちらでもよい。ドナルド・トランプ大統領は外交政策に関して、自分自身が何を望んでいるのかを正確に分かっている。トランプ大統領は世界におけるアメリカの戦略的利益とは何かについての明確な定義と「戦争は常に最終手段なのだ」という主張を欲している。

 

トランプ大統領のこれら2つの目的に対する頑固なまでの信奉は時に、彼を批判する人々からはナショナリスティックでありまた非介入主義的だと嘲りを受けている。

 

しかし、一定年齢以上の人々であれば覚えているだろうが、これらの諸原理は長い間アメリカの外交政策の基盤となっていた。しかし、ビル・クリントンとバラク・オバマがイランに対する融和策の誘惑に負け、ジョージ・W・ブッシュがアメリカを容赦のない好戦的な世界の警察官としてしまったことで、これらの諸原理がアメリカ外交の基盤であった時代は終わった。

 

これまでの20年間のアメリカの外交政策は暗いものであった。そして、それぞれの国際的な問題におけるアメリカの国益の定義づけを行うことから、より人気取りな、好戦的なアプローチを採用することへと変化していった。これによってブッシュ大統領のイラクの大量破壊兵器に関して誤った主張やシリア国内の内戦に対して無責任な対応のような失敗が起きた。

 

火曜日、ジョン・ボルトンが国家安全保障問題担当大統領補佐官から退くことが発表された。トランプ大統領は外交政策におけるアメリカの戦略的な利益を再構築し、これから国際社会をリードしていくための明確な国際的なドクトリンを構成することが出来る、稀有な機会に恵まれることになった。

 

しかし、そのためには彼がこれまであまり成功してこなかったことをやらねばならない。それは適切な人物を選ぶことだ。

 

ネオコンのボルトンのような、メディアが注目する人物が適材ではない。また、ケリー、マクマスター、マティスのような制服組も適当ではない。また、ダン・コーツのようなエスタブリッシュメントとの妥協が政権内で最もうまく働くことになった。

 

大統領の政策ヴィジョンを共有し、少なくとも個人的なエゴを抑えて大統領の計画を実行することが出来る、決意、明快さ、能力を持つ人物を抜擢するべきだ。

 

新しく司法長官に任命されたウィリアム・バーは、ロシアの「通謀」事件の大失敗の後、一貫性のない司法省を掌握するにあたり、これまでとは異なるアプローチで成功した。マイク・ポンぺオ国務長官もまた前任のレックス・ティラーソンの外交上の失敗、ティラーソンの前歴をかけて言えば石油流出にうまく対処することができた。

 

トランプには2人の候補者がいる。両者ともに連邦上院で他の職位に既に承認されている。両者とも空席になった国家安全保障問題担当大統領補佐官と国家情報長官に就任してその重要な役割を果たし、バーとポンぺオが行ったような立て直しを行うことが出来る。

 

1人目の候補者はリチャード・グレネルだ。グレネルは現在駐ドイツ米国大使を務めている。彼はヨーロッパ連合を率いている女傑アンジェラ・メルケルの世界における影響力を削ぐこと、アメリカの戦略上の勝利を次々とドイツから引き出すことに能力を発揮してきた。

 

ベルリンに赴任してすぐに、グレネルは重量級のボクサーのような破壊力のあるパンチを繰り出した。ニューヨークで長年にわたり暮らしていたナチスの強制労働収容所の看守を務めた95歳の男性の引き渡し問題で、ドイツ政府は腰が引けた姿勢を取っていたが、グレネルの強烈な働きかけで最終的にアメリカ側に対して引き渡しを要求させた。

 

これまでのアメリカの各政権は自分たちの仕事を成し遂げてきたと主張してきた。トランプとグレネルは成功を収めてきた。

 

グレネルは更に次のようなことを行った。

 

・無気力なNATOへの支出について条件をつけることでヨーロッパ各国の指導者たちを苛立たせたが、これはトランプ大統領の重要な戦略的な目的であった。

 

・ドイツ政府を説得し、アメリカからの液化天然ガス輸入のための新しい施設を建設させた。

 

・ドイツ政府に容赦なく圧力をかけノードストリーム2として知られるロシアからの新しい天然ガスパイプライン建設に抵抗させた。

 

・ドイツ政府に対して圧力をかけてドイツ国内にイラン航空の就航を差し止めさせることに成功した。

 

そして今週になってグレネルはトランプ大統領の権威を使って、ドイツ国内でヒズボラが活動することを禁止することに抵抗しているドイツに圧力をかけて、抵抗を軟化させた。

 

グレネルの業績リストを見ると、グレネルはトランプ大統領が望むものを達成することが出来ると証明されている。グレネルはそれを相手に条件を付けさせないで、豪腕で勝利を手にする。グレネルはトランプ大統領と同じくらいにツイッターを愛用しているが、これによって人々との自然で密接な関係を作り上げている。

 

ボルトンの弟子であるグレネルは師匠であるボルトンがある時にはまったく見せることがなかったある特性を持っている。それはイデオロギーよりも実践的な戦略的利益を優先する能力である。ボルトンも多くの機会にこの素晴らしい能力を見せたが、全くダメな時もあった。

 

私の取材源によれば、ボルトンは、ヴェネズエラの争乱が起きている時でもアメリカの石油・エネルギー企業は同地に留まるべきだという考えに強く反対した、ということだ。ボルトンにとってこれは譲れない線だった。しかし、トランプ政権内の国家安全保障担当ティームの構成員のほとんどにとっては、マドゥロ政権が崩壊するまでアメリカのビジネス利益を確保し続けることの重要性の方が優先されるべきであった。それはロシアと中国にヴェネズエラにおける戦略的な既得利益を横取りされないようにするためだった。

 

このような機会を見分ける能力が国家安全保障問題担当大統領補佐官にとって重要だ。

 

ポンぺオはトランプ大統領に対して自分と考えの近い仲間を国家安全保障問題担当大統領補佐官に就けて欲しいと強く要望する可能性がある。その代表格がイラン危機に関する特使を務めるブライアン・フックだ。ポンぺオの発言は常に重要視されるが、フックを補佐官に任命することは、トランプ大統領を批判してきた人物を信頼が必要な職位につけることになるが、これでは大統領がこれまで犯してきた複数の失敗をまた繰り返すことになるだろう。

 

フックはジョン・ヘイ・イニシアティヴ創設に貢献した。このグループは2012年の大統領選挙の候補者だったミット・ロムニー陣営の外交政策アドヴァイザーたちで結成された。ジョン・ヘイ・イニシアティヴは2016年、121名の保守陣営の指導者たちが署名をした重要な書簡を発表する際に、組織化に貢献した。書簡の中には、トランプ大統領はアメリカの安全を損なうことになるだろうと書かれていた。フック自身は書簡に署名しなかったが、彼はトランプ大統領に対しての批判を隠さなかった。

 

フックはイラン問題において素晴らしい仕事をしている。しかし、国家安全保障問題担当大統領補佐官よりも現在の職位に留まる方がより良い仕事が出来るだろう。なぜなら、フックは過去にトランプ大統領を批判しており、そのために国家安全保障問題担当大統領補佐官になっても人々を指揮するための権威を持てない可能性が高い。

 

グレネル同様、ヨーロッパの国の大使を務めている人物で空席となっている国家情報長官に就任すると言われている人物がいる。それは元連邦下院議員で現在は駐オランダ米国大使を務めているピーター・ホークストラである。

 

ダン・コーツはトランプ大統領と意思疎通が出来ていなかった。そして重要な透明性を確保する機会をことごとく逸した。そのためにロシア疑惑の捜査の際に問題が噴出した。その中には連邦議会による重要な事情聴取の機密解除という不手際も含まれている。

 

ホークストラは連邦下院議員時代に、連邦下院情報委員会の委員長として民主、共和党双方から尊敬を集めていた。彼は情報関連コミュニティに理解があり、トランプ大統領の信頼も大きい。ホークストラは物事を実行する際に常識を重視する中西部出身者特有の特徴を持っている。中西部出身者は個人的な栄光を求めない特性を持っている。

 

イラン、ヴェネズエラ、北朝鮮、ロシア、シリアやその他の国際問題に関して、トランプ大統領には、一つの方向に向かって進む、まとまった、能力の高い国家安全保障担当ティームが必要である。

 

トランプ大統領が2人の人物を適材適所で抜擢できると、問題となっている国に対するアメリカの利益を定義するためのトランプ・ドクトリンを固め、アメリカの軍事力を問題解決のための最終手段として取っておくことが出来るようになる。そうすることで、トランプ大統領は大統領選挙候補者時代の別の公約を実現することが出来るだろう。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)

アメリカ政治の秘密日本人が知らない世界支配の構造【電子書籍】[ 古村治彦 ]

価格:1,400円
(2018/3/9 10:43時点)
感想(0件)

ハーヴァード大学の秘密 日本人が知らない世界一の名門の裏側[本/雑誌] (単行本・ムック) / 古村治彦/著

価格:1,836円
(2018/4/13 10:12時点)
感想(0件)