古村治彦です。
2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。西側諸国が600年間も握り続けた世界覇権が西側以外の国々に移動しつつある現在を詳しく分析しています。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
西側先進諸国の政治家たちの支持率が軒並み20%台、30%台であり、40%もあれば立派なものという状況になっている。不支持率は50%、60%を超えており、単純に言えば、有権者の過半数が支持していないということになる。これに対して、アジア諸国の、民主的な選挙で選ばれた国々の指導者たちの支持率は高いということを西側のメディアも注目している。
その理由は極めて単純だ。新興諸国は、国力が伸び、経済状況が改善される中で、国民にどのように還元するか、再分配するかということに集中すれば済む。日本でも高度経済成長期は、国土の発展と国民生活の向上のための再分配に集中していればよかった。公害問題などもあったが、基本的には伸びゆく日本ということで、ある程度の大盤振る舞いができた。しかし、高度経済成長が終わり、低成長、ゼロ成長の時代には大盤振る舞いどころではなくなった。また、少子高齢化など社会の構造を根本から揺さぶる問題もあり、政治家たちにしてもどう対処したらよいのか、アイディアもないという状況だ。先進諸国はどこもそうだ。結果として、国民には不満が募り、政治家たちは非難され、支持率は低下する。
フェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領(フィリピン)
ナレンドラ・モディ首相(インド)
しかし、逆に言えば、国民のニーズをつかみ、国民生活の向上ということをやれば、世界共通で支持率が上がるということになる。日本を含む先進諸国ではそれができていないということになる。
私が注目してきたインドネシアの大統領選挙は、大統領候補プラボウォ・スビアントと副大統領候補ギブラン・ラカブミン・ラカ(ジョコ・ウィドド大統領の長男)のコンビが58%の得票率で、三つ巴の選挙戦を制した。ジョコ・ウィドド大統領が実質的に支持してきたことで、このコンビの大統領選挙での勝利は確実視されていたが、三つ巴の戦いということで、1回目の投票で過半数を得られないので、2回目の決選投票が行われると予想されていた。しかし、結果は1回目の投票で過半数を得る圧勝だった。それだけ、ジョコ大統領の人気が高いということになる。プラボウォは過去にジョコ大統領と選挙で争った間柄であったが、ジョコ大統領の路線を引き継ぐということで、彼の後継者となった。プラヴウォの次は、ジョコ大統領の長男ギブランになる可能性が高い。これから「院政」を敷くであろうジョコ大統領に鍛えられていくだろう。
プラヴウォ(左)とギブラン(右)
先進諸国のリーダーと言うのは大変なことであり、支持率が上がらないのは仕方がないことだろう。しかし、国民生活の改善、向上を行えば、支持率は上がる。そのような当たり前のことができないほどに先進諸国の置かれている状況は悪化しているということも言えるだろう。
(貼り付けはじめ)
アジアの民主的に選ばれた指導者たちはどうしてこうも人気なのか?(Why Are
Asia’s Democratic Leaders So Popular?)
-西側諸国の政治家たちに比べて、アジア諸国の政治家たちは正しいことをしている。
ジェイムズ・クラブトゥリー筆
2024年2月22日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/02/22/asia-democracy-politics-election-modi-prabowo-marcos-india-indonesia-philippines/
プラヴウォ・スビアントが三つ巴の厳しい選挙戦の末、インドネシア大統領選挙で圧勝した。2024年2月14日の選挙戦に関する各種世論調査の結果では、プラヴウォの勝利が確実視されていたが、専門家の多くは、1回目の投票で過半数を獲得する候補者が現れず、2回目の決選投票になるだろうと予測していた。しかし、プラヴウォ国防相は58%の得票率で記録し、予想外の大勝利を収めた。
プラヴウォの勝利には多くの原因が存在した。しかし結果が示しているのは、「アジアの新興市場民主政体国家の多くで政治指導者が驚くべき人気を得ている」という、より広範な流れを示している。豊かな西側諸国の政府首脳たちは、ほぼ例外なく、国民から非難され、多くの議会では、衰退しつつある諸政党が、連立与党を形成することさえ難しくなっている。
対照的にインドネシアでは、80%の支持率を記録して、任期を終えたジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)の後任として、プラヴウォが大統領に就任する。フィリピンでは、フェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領が、前任のロドリゴ・ドゥテルテ大統領と同様に好感を持たれている。そして、4月に始まるインドの選挙では、ナレンドラ・モディ首相が3回連続の圧勝を収めることがほぼ確実視されている。
このように人気の高い指導者たちにポピュリストというレッテルを貼りたいのはやまやまだ。そして、ドゥテルテのようにその言葉に当てはまる人物もいる。パキスタンの元首相イムラン・カーンもそうだ。彼の激しい反体制的なレトリックは、パキスタンの最近の世論調査で彼の政党に関連する無党派層を予想外の成功に導いた。しかし、多くの政治家たちはそうではない。プラヴウォの選挙運動では、多くの仕掛けが施されたが、一般的にポピュリストの選挙運動で見られるような、エリートへの攻撃はほとんどなかった。ジョコウィは、開発、インフラ、社会サービスに重点を置き、クリーンな統治を評価され、インドネシアの有権者から賞賛されている。彼はまた慎重な政治家でもある。
それぞれの指導者が、それぞれの国が置かれている状況の産物であることも明らかだ。プラヴウォの勝利の規模は、ジョコウィ自身の支持によるところもあるが、それはプラヴウォがジョコウィの息子を伴走者に選んだというエリートの策略に従ったものだ。フィリピンでは、有権者はマルコスの冷静な統治スタイルに好感を抱いている。インドでは、モディの人気はその宗教的ナショナリストとしての魅力に起因しており、この要素がジョコウィと世界の主要民主政体国家で、最も人気のある指導者の座を争う一因となっている。
とは言うものの、アジアの民主的な選挙で選ばれた政治家たちが、西側諸国の政治家をはるかに凌ぐ支持率を維持する理由を説明するのに役立つ3つの要素がある。ジョー・バイデン米大統領は先日のスーパーボウルでTikTokデビューを果たした。しかし、アジアの政治家たちは長い間、このようなプラットフォームをキャンペーンの目玉としてきた。元陸軍大将のプラヴウォは、TikTokを利用して軍人としての硬派なイメージを和らげ、漫画のような童顔のおじいさんに扮したクリップを流した。モディの再選に向けた選挙運動は既に始まっており、これもまた非常に洗練されたデジタルキャンペーンを展開している。こうしたことはすべて、人口が若い国々では重要である。インドネシアの2億人の有権者の約半数は40歳以下であり、インドの有権者たちは更に若い。
経済運営に対する特徴的なアプローチは、1つ目の要素と関連する、2つ目の要素となる。多くの場合、これは政治家が無料で物品を配ることに関係している。プラヴウォの選挙運動では、学生に無料の給食と牛乳を提供すると公約した。2022年に勝利したマルコスの選挙運動は、米の価格上限設定の公約によって助けられた。モディの選挙での支持は、調理用コンロの配布やトイレの建設といった政策によって強化されてきた。
インド政府の最高経済顧問を務めたアルビンド・スブラマニアンは、これを「新しい福祉主義(new
welfarism)」の一形態と表現している。政治家が、民間セクターが提供するはずの財やサービスを提供したり、補助金を出したりする。この戦略は、経済運営が混乱している場合には有権者の支持を得にくい。しかし、力強い成長と汚職がほとんどないと思われる指導者が組み合わされれば、有権者に広くアピールするレシピとなる。
3つ目の、そして最後の問題は安全保障である。西側諸国と同様、アジアの有権者も、地政学的リスクの高まりの中で、自分たちを取り巻く世界がより危険になりつつあることを感じている。その結果、有権者は国際的な信頼性を示す指導者に投票するようになっているようだ。ここでのアピールは、伝統的な「ストロングマン(strongman、暴力使用もいとわない実力者)」指導者ではなく、世界の舞台で自国の安全を守ることを正しく主張できる指導者である。フィリピンでは、南シナ海での一連の軍事衝突の後、中国に立ち向かうマルコスの姿勢に有権者は好意的に反応した。モディは昨年のG20サミットのホスト国としての役割を巧みに利用し、世界的な政治家としてのイメージを強調した。
特に経済的な後退に直面した場合、このような高騰した支持率がいつまでも維持できるという訳ではない。例えば、マルコスの支持率は2023年後半、インフレの高騰により多少低下したが、ある世論調査によれば、80%という高い支持率から、65%にまで低下した。人気のある政治家はアジアだけの現象ではない。メキシコでは、左派の現職大統領アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドールが、6年の任期満了に近づいても常に60%以上の支持率を維持している。彼の後継者であるクラウディア・シャインバウムは、6月2日に行われる国政選挙を前に、対立候補を25ポイントの大差をつけてリードしている。
アジアの指導者の多くが人気を集めていることを認めることは、アジア諸国の民主政体の状態についての懸念を軽視することでもない。スウェーデンのイェーテボリ大学のVデム研究所の報告書によれば、インド、インドネシア、フィリピンはいずれも2022年までの10年間で独裁色を強めた。プラヴウォは軍事指導者として疑わしい記録を持っているため、人権侵害の疑いでアメリカへの入国を禁止されており、ジョコウィの息子を副大統領候補に据えるという裏取引と同様に、インドネシアの民主政体の軌道について多くの懸念を起こさせている。モディのヒンドゥー教ナショナリズム政策は、2億人のイスラム教徒人口をはじめとする、インドの少数民族から警戒の目を向けられている。
しかし、アジアの民主的な選挙で選ばれた政治家の人気は、少なくとも、世界の民主政体の健全性について、よりポジティヴなシグナルを示している。西側諸国では、いわゆる民主政治体制の後退に関する報道は、ポピュリズム、ナショナリズム、無謀な指導者によって空洞化した独裁といった悲惨な構図を描いている。しかし、現実は必ずしもそれほど厳しいものではない。プラヴウォが勝利したからといって、インドネシアの民主政治体制が崩壊する訳ではない。マニラでマルコス王朝が復活したからといって、一族がかつて率いていた独裁体制に戻るわけではない。
もちろん、アジアの民主的な選挙で選ばれた指導者たちが完璧であるとは言えない。しかし、有権者は彼らのパフォーマンスに満足している。そして、民主政体が本当に世界中で維持されるのであれば、民主的に選ばれた、人気のある政治家たちを政府の指導的な立場に据えることは、良いスタートになるだろう
※ジェイムズ・クラブトゥリー:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。アジア国際戦略研究所元上級部長。著書に『億万長者による支配:インドの新しい黄金時代を通じての旅路(The Billionaire Raj: A Journey Through India’s New Gilded Age)』がある。ツイッターアカウント:@jamescrabtree
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