古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:フランス

 古村治彦です。

 最近の中国をめぐる動きとして重要なのは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の訪中とブラジルのルイス・イグナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領の訪中が続けて実施されたことだ。日本のメディアではフランスのマクロン大統領訪中が大きく取り上げられたが、より重要なのはブラジルのルラ大統領の訪中だ。フランスの世界経済に占める割合もそして外交における存在感も衰退し続けている。

マクロン大統領は訪中して中国の習近平国家主席と会談を持ち、何かしらの発言を行ったが、何の影響力もない。フランス国内の年金制度改悪問題でダメージを受けている。ウクライナ戦争に関して、フランスが独自の立場で動いているということはない。NATOの東方拡大(eastward expansion)の一環で、のこのこと間抜け面を晒して、アジア太平洋地域におっとり刀で出てこようとしているが、全てアメリカの「属国」としての動きでしかない。フランスは戦後、シャルル・ドゴール時代には独自路線を展開し、NATO(1948年結成)から脱退(1966年)したほどだったが、2009年のニコラ・サルコジ政権下で復帰している。

 ブラジルはBRICs、G20の一員として、経済、外交の面で存在感を増している。南米、南半球の主要国、リーダー国として、ブラジルは、独自の外交路線を展開している。欧米中心主義の国際体制の中で独自の動きを行おうと模索している。具体的には中国(そしてロシア)との関係強化とアフリカ諸国との連携である。アフリカ諸国との関係強化は南半球のネットワークの強化ということでもあり、かつ、旧宗主国としての西側諸国から自立した地域を目指すということだ。

このような動きが既に始まっている。それを象徴する言葉が「グローバル・サウス」である。また、学問においては、欧米中心の「世界史(world history)」に対抗する「グローバル・ヒストリー(global history)」が勃興している。欧米中心の政治学や経済学、社会学ではこの大きな転換(欧米近代体制500年からの転換)を分析し、理解することはどんどん難しくなっている。

 ウクライナ戦争は世界が既に第三次世界大戦状態に入っていることを示している。第二次世界大戦の際には、世界は連合諸国(Allied Powers、後にUnited Nations)と枢軸国(the Axis)に分かれた。この第三次世界大戦では、世界は大きく、西側諸国(the West)とそれ以外の国々(the Rest)に分かれている。グローバル・サウスはそれ以外の国々の側だ。この戦いでは、それ以外の国々が優勢となっている。これは日本のテレビや新聞といった主流メディアを見ていても分からないことだ。

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ルラ大統領の北京訪問は何故マクロン大統領の訪問よりも重要なのか(Why Lula’s Visit to Beijing Matters More Than Macron’s

-世界の経済の大きな動き、ダイナミズムはグローバル・サウス(global south)に移りつつある。

ハワード・W・フレンチ筆

2023年4月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/04/24/lula-brazil-china-xi-jinping-meeting-ukraine-france-macron-vassal/

今月初め、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が中国を訪問し、中国の習近平国家主席の世界観に同調し、アメリカに対して故意に控えめな姿勢をとり、台湾をめぐる大国の衝突の可能性について、フランスひいては欧州にとって限られた関心事であると発言した。マクロンに対して、ヨーロッパ大陸とアメリカにおいて、批判の声が一斉に上がった。また軽蔑するという声も上がった。

その数日後、ブラジルのルイス・イグナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領が北京を訪れ、マクロンと同様に中国の長年の立場を支持し、ブラジリアがワシントンから政治的に距離を置くことを公にするような発言をした。世界のマスコミは注目したが、それほど大きく取り上げなかった。

それぞれの訪問を個別に考えると、どちらの大統領の中国訪問も、過去との劇的な決別を示すものとは見なされることはないだろう。しかし、5年後、もしくは10年後に、どちらが記憶に残るかということになれば、それは南米の指導者の外交であり、はるかに若いフランスの指導者の外交ではないだろう。

今月、マクロン大統領の訪中がより注目を集めたのは、世界がどのように変化しているかという新鮮で冷静な考えよりも、国際メディアの根強い北大西洋バイアスを反映している。一見したところ、それぞれの国の外交には、他国よりも注目されるだけの根拠がある。GDPが約3兆ドルのフランスは、EUの中ではドイツに次ぐ第2位の経済大国であり、ブラジルGDPの約2倍である。

一方、ブラジルの人口は2億1400万人で、フランスの3倍以上、それだけで南米の人口の3分の1を占めている。人口が全てということはないが、将来を左右する可能性があるという点で、ブラジルに有利な議論はここから始まる。しかし、その前に、マクロンとフランスが、世界の中での重みを増し、アメリカとの距離を縮めようとする、一見、恒常的な試みに対して、懐疑的な理由を更に探る価値があると言えるだろう。

「永続的な(perennial)」という言葉の使用が示すように、世界の主要国に対するマクロンの外交には、本当に独創的なものはほとんど存在しない。歴史家の故トニー・ジャットが書いたように、フランスは1940年春、マース川を越えて押し寄せるドイツの戦車師団の前に軍隊が崩壊し、世界の主要国のクラブから追い出され、それ以来、その地位を回復することはなかった。しかし、そのために、この地位を失ったことに対するノスタルジーと悔しさに基づく外交政策が採用されてきたということもない。

第二次世界大戦がフランスに与えた精神的ショックは計り知れないものだ。伝統的に東ヨーロッパ地域に大きな影響力を持っていたフランスはその力を失った。フランス語は、もはや外交における固定の共通言語ではなくなった。戦勝国である連合諸国に対して、ドイツを解体するほどの懲罰を与えるよう説得することはできなかった。そして、経済的な生存と防衛から、国連安全保障理事会(the United Nations Security Council)という世界外交のトップテーブルへの座を含む、多くの事柄において、フランスが反射的に不信感を抱く「人種(race)」、すなわちアメリカとイギリスのアングロサクソン(the Anglo Saxons of the United States and Britain)の支持と寛容に依存してきた。

左右問わず、フランスの指導者たちはかつての高貴な地位を取り戻そうとして、世界に対して2つの時代遅れのアプローチに固執してきた。第一は、帝国の名残をできるだけ長くとどめることだった。その結果、パリはアルジェリアやインドシナで相次いで植民地支配が生み出す苦難に見舞われ、西洋諸国が帝国を支配することはもはや許されないという新しい時代の到来を受け入れる結果となった。それ以来、アフリカにおいて、フランスは、数年ごとに、軍事的関与と深い経済浸透による支配と干渉の古いパターンは過去のものであると宣言しているにもかかわらず、一連の新植民地関係を放棄することに苦労している。中国を訪問したマクロンは、フランスはアメリカの「属国」にはならないと強く宣言した。結果として、マクロンにとっては何とも厳しい皮肉が出現することになった。

もう一つのフランスの伝統的な戦術は、かつて「旧大陸(Old Continent)」を支配した現実政治(realpolitik)への関与である。これは、その時々の支配的な国に対して、完全に対抗しないまでも、常に緊張関係を保ちながらバランスをとること(balancing in tension with, if not completely against, the dominant power of the day)を意味する。この点で、フランスのアプローチが最も特徴的なのは、戦後、フランスがこのゲームを行った主役は、名目上の同盟国であるアメリカであるということだ。シャルル・ドゴールからフランソワ・ミッテラン、そして現在のマクロンに至るまで、そしてその間にフランスを率いたほとんどの人物を含めて、パリはまるで固定観念に従うかのように、ワシントンの最大のライヴァルと個別の理解や和解を得ようとしてきた。時が経つにつれ、これらにはソヴィエト連邦、毛沢東主席が率いた中国、そして今では経済とますます軍事的超大国である習主席の非常に異なる中国が含まれるようになった。

フランスが自国の問題に関して自律性と独立(autonomy and independence)を望むことを非難するのは間違いだ。しかし、パリはこれまで、その姿勢を持続的に評価させるのに必要な手段をほとんど持たず、ほとんど無能な妨害者として、時には単なる驕りや皮肉屋としてしか映らなかった。

中国に媚びることで、マクロンはエアバスのジェット機の大量発注に関する北京の承認を得るなど、予想通り多くの商業取引を実現したが、他に本当に達成したことはあるのだろうか? ロシアのウクライナ侵攻がヨーロッパの平和と安全への願望に対してどのように脅威を与えているのかを考えるよう習近平主席に求めたマクロン大統領は、北京が台湾への領有権を行使するために武器を使用する可能性に対する緊張が強く高まっている時に、台湾をバスに乗せようとしているように思われた。ヨーロッパでは、台湾をめぐる戦争のリスクが高まることへの懸念だけでなく、民主政体世界に対するシステム的な脅威としての中国への懸念も高まっている。恥ずかしいことに、先週、中国の駐仏大使が、かつてソ連に併合されていたEU加盟国であるバルト三国の主権を疑うような発言をしたのは、マクロンの訪中から1カ月も経っていない中で行われた。

更に言えば、アメリカからのヨーロッパの安全保障の独立を求めるマクロン大統領の新たな主張についてどう考えるべきだろうか? これも立派な考えではある。しかし、ワシントンがキエフに軍事的、外交的支援を提供する際に果たした指導的役割がなければ、ウクライナがロシアのウラジミール・プーティン大統領の侵略をなんとか持ちこたえられたことに疑いの余地はない。

ヨーロッパが自分たちの地域を守れるようになることは望ましいことかもしれない。だが、そのために必要な投資をする現実的な見込みは、当分の間、ほとんどないだろう。西ヨーロッパは、より高度な兵器はともかく、ウクライナが必要とする通常の砲弾を維持することさえできない。マクロンは、防衛と自決(defense and self-determination)に関するヨーロッパの良心(conscience of Europe)として真剣に受け止めるべきなのか、それとも彼の発言は、フランス人の貧しさと失われた関連性への郷愁の最新の表現に過ぎないのか、疑問が出てくる。

こうした背景の中で、ブラジルの最近の外交はもっと注目されるべきものである。確かに、南米のブラジルは、アメリカの外交政策から独立した実質的な行動できる余地を確保しようとする姿勢も以前から持っていた。国際基軸通貨(international reserve currency)としてのドルの存続を批判し、アルゼンチンとの通貨統合を模索し、さらにはウクライナ戦争をめぐって欧米諸国を批判するルラの取り組みは、単に象徴的な進歩主義者(iconoclastic progressive)の気まぐれと見るのではなく、最も重要な国家の1つから台頭しつつあるグローバル・サウスの1国として、その欲求を反映したものとして捉える必要がある。

何よりも、ブラジルの重要性が存在するのがこのグローバル・サウスという舞台だ。散らばっているように見えることもあるが、グローバル サウスは、世界の経済ダイナミズムの大部分が変化している場所だ。これは、世界の豊かな国のほとんど、および中国の悲惨な人口統計と、インド、インドネシア、ブラジル、メキシコなどの国々が世界のGDPランキングで力強く上昇するように設定されている世界経済生産のパターンの変化の中にみられる。そして、アメリカとイギリスを含む伝統的な西側の先進諸国は、現在から2050年の間に緩やかに衰退していくことになる。

ルラの発言は、欧米諸国にとって懸念を掻き立てるもの、更には脅威となると考えるのは間違いだ。マクロン大統領の言葉を借りれば、ブラジルは中国の属国になろうとは思っていない。ブラジルの可能性の多くは、自国の道を切り開くことにある。ドゴールはかつて、ブラジルを評して「未来の国(country of future)だ、これからもそうだ」と言ったという。しかし、多様な経済と豊富なソフトパワーを持つ多民族国家でありながら、対外侵略(extraterritorial conquest)の歴史もなく、他国を支配する野心もないブラジルに関しては、ようやくその時代が到来したということかもしれない。

アルゼンチンとの経済関係の強化が示すように、ブラジルは近隣諸国から恐れられてはいない。しかし、南半球のリーダーとしてのブラジルの将来の鍵を握っているのは、アフリカかもしれない。アフリカ大陸は、世界で最も人口が増加している地域であり、近年は堅調な経済成長を遂げているが、急増する若者たちが必要とする雇用の創出やインフラ整備を支援する新しいパートナーシップを切望している。中国は、これまでアフリカとの貿易や投資を独占してきた欧米諸国を抜き、アフリカにおける欧米諸国の代替的存在として急成長している。

ブラジルは、ルラ大統領の就任後、南大西洋の経済・外交パートナーシップを強化するための投資を開始したことは、別の記事で紹介した通りだ。ブラジルとアフリカは、大西洋横断奴隷貿易の悲劇的な歴史によって深く結ばれている。新しい強力な南北関係を率先して構築することで、ブラジルとアフリカは共に、より良い未来への扉を開くことができるだろう。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。コロンビア大学ジャーナリズム専門大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新作には『黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ツイッターアカウント:@hofrench
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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 NATOはウクライナ戦争以降、大きな注目を集めている。NATOは北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)の略である。NATOは冷戦下の対ソ連に対する集団的自衛のための組織であった。ソ連はワルシャワ条約機構(Warsaw Treaty/Pact Organization)を組織して対抗した。冷戦終結後、ソ連が解体された後も、加盟国を増やしながら存続してきた。その主要な仮想敵国はロシアになった。

 また、NATOに関しては、「ドイツの力を封じ込める」という考え方もある。「日米安全保障条約は日本の力を封じ込めるためのものだ」という「瓶のふた」論と共通する内容だ。NATOの外部ではロシアを、内部ではドイツを抑え込むという二重の構造になっている。しかし、NATOという冷戦の遺物が規模を拡大して残ってしまっていることが、ロシアの恐怖感を強め、ロシアにとっての脅威となり、ウクライナを正式加盟させていないのに、実質的に加盟国のように遇して軍備増強をさせたことがロシアの侵攻につながったということを考えると、NATOの存在が安全保障に資するものなのかどうか甚だ疑問である。アメリカではドナルド・トランプが大統領時代に、NATOは役立たずの金食い虫だと喝破したことがある。NATOの存在意義が議論の対象になっている。

 NATOの在り方に関しては、これまで通り(アメリカに頼りながら)、役割を拡大(アメリカのインド太平洋戦略の補助者として)、ヨーロッパの安全保障に専念してアメリカに頼らないというものであり、下記の論稿の著者スティーヴン・ウォルト教授は最後の在り方を推奨している。

 NATOは現在、アメリカを補助する役割を拡大し、アジア太平洋地域におけるプレゼンスを高めようとする動きが活発だ。イギリスやフランスが空母を派遣し、ドイツも艦艇を派遣するという動きに出ている。イギリスは英連邦(British Commonwealth)、フランスは太平洋に海外領土を持っており、それを大義名分にして空母まで送ってきている。しかし、それは「あなた方の仕事ではないはずだ」と私は考える。ウクライナに対する支援の少なさを考えると、「まずは自分の足元からしっかり見直すべきではないか」と言いたい。

 アジア太平洋地域にこれ以上、外部からしゃしゃり出てこられても困るのだ。しかも、老大国、自分の頭の上のハエを追うことすらままならない国々が、昔アジア太平洋地域を植民地化した古き良き時代が忘れられないのか、アメリカに唆されて嫌々なのかは分からないが、おっとり刀で出て来たところで何の役に立つと言うのか。

 NATOは自分たちの周辺だけでも、旧ソ連、中東、マグレヴ(サハラ砂漠以北のアフリカ諸国)と言ったところで多くの問題を抱えている。まずはそれらにしっかりと対処することだ。更に、内部での独仏の争いについても何とかしなさい、ということになる。仲間割れをして戦争にまでならないように、他のところは他のところできちんとやるから、ということになる。

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どのNATOを私たちは必要とするか?(Which NATO Do We Need?

-環大西洋同盟の4つの可能な未来。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年9月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

Stephen M. Walt

https://foreignpolicy.com/2022/09/14/nato-future-europe-united-states/

絶え間なく変化する世界の中で、大西洋を越えたパートナーシップの耐久性は際立っている。北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganizationNATO)は私の人生よりも歴史が長い。そして、私はもう若くない。NATOの歴史は、エリザベス2世が英国に君臨していた時代よりも長い。「ソヴィエト連邦を排除し、アメリカを取り込み、ドイツを抑える」というNATOの本来の目的は、以前ほど重要ではなくなったが(ロシアのウクライナ戦争は別として)、大西洋の両側ではいまだに尊敬をもって見られている。もし読者である皆さんが、ワシントン、ベルリン、パリ、ロンドンなどで頭角を現すことを望む政策担当者ならば、NATOの不朽の美点を称賛することを学ぶのは、今でも賢い出世術と言えるだろう。

NATOが結成され、「大西洋横断コミュニティ(trans-Atlantic community)」の構想が具体化し始めてから、どれほどの変化があったかを考えると、この長い歴史は特に注目に値する。ワルシャワ条約(Warsaw Pact)は消滅し、ソ連は崩壊した。アメリカは20年以上にわたって中東において、お金ばかりかかってしまって成果の上がらない戦争に国力を費やしてきた。中国は、世界的な影響力を持たない貧しい国から世界第2位の強国へと成長し、その指導者たちは将来、さらに大きな世界的役割を果たすことを望んでいる。ヨーロッパもまた、人口動態の変化、度重なる経済危機、バルカン半島での内戦、そして2022年には長期化しそうな破壊的な戦争と、大きな変化を経験している。

確かに、「大西洋を越えたパートナーシップ(trans-Atlantic partnership)」は完全に固定化されてきた訳ではない。1952年のギリシャとトルコに始まり、1982年のスペイン、1999年からの旧ソ連の同盟国、そして最近ではスウェーデンとフィンランドと、NATOはその歴史の中で新メンバーを増やしてきた。冷戦終結後、ヨーロッパの大半が国防費を大幅に削減するなど、同盟内の負担配分にも変動があった。NATOはまた、様々な教義上の変化を経てきたが、その中にはより大きな影響を及ぼすものもある。

従って、大西洋横断パートナーシップは今後どのような形を取るべきかを問う価値がある。その使命をどのように定め、どのように責任を分担していくべきなのか? 投資信託と同様、過去の成功は将来のパフォーマンスを保証するものではない。だからこそ、最高のリターンを求める賢明なポートフォリオ・マネージャーは、状況の変化に応じてファンドの資産を調整する。過去に起きた変化、現在の出来事、そして将来起こりうる状況を考慮した上で、大西洋横断パートナーシップが存在し続けると仮定した場合、将来どのような広範なヴィジョンを形成すべきなのだろうか?

私は少なくとも4つの異なるモデルを考えることができる。

一つは、官僚的な硬直性(bureaucratic rigidity)と政治的な慎重さ(political caution)を考慮すれば、おそらく最も可能性の高いアプローチで、現在の取り決めをほぼそのまま維持し、できる限り変化を与えないというものだ。このモデルでは、NATOは(その名称の「北大西洋」という言葉が示すように)、主にヨーロッパの安全保障に焦点を当て続けることになる。アメリカは、ウクライナ危機の際もそうであったように、ヨーロッパにとっての「緊急応対者(first responder、ファースト・レスポンダー)」であり、同盟のリーダーとして揺るがない存在であり続けるだろう。負担の分担は依然として偏っている。アメリカの軍事力は引き続きヨーロッパの軍事力を凌駕し、アメリカの核の傘(nuclear umbrella)は依然として同盟の他の加盟諸国を覆っている。「地域外(out-of-area)」の任務は、ヨーロッパそのものに再び焦点を当てることに重点を置くことになるだろう。この決定は、アフガニスタン、リビア、バルカン半島諸国におけるNATOの過去の冒険がもたらした失望的な結果に照らして、理にかなったものだと言える。

公平に見て、このモデルには明らかな長所がある。それは、慣れ親しんだものであり、ヨーロッパにとっての「アメリカのおしゃぶり(American pacifier)」をそのままにしておくことだ。アメリカ(Uncle Sam、アンクルサム)が笛を吹いて喧嘩を仲裁してくれる限り、ヨーロッパ諸国は国家間の紛争を心配する必要はない。再軍備の結果として手厚い福祉国家を切り崩したくないヨーロッパ諸国は、アンクルサムに不釣り合いな負担をさせることを喜ぶだろうし、ロシアに地理的に近い国はアメリカの強力な安全保障を特に望むだろう。不釣り合いな能力を持つ明確な同盟のリーダーがいれば、そうでなければ扱いにくい連合軍内で、より迅速で一貫した意思決定が可能になる。この方式に手を加えようとする者が現れると熱心な大西洋主義者が警鐘を鳴らすのにはそれなりの理由がある。

しかし、通常業務(business-as-usual)モデルには深刻なマイナス面もある。最も明白なのは機会費用(opportunity cost)だ。アメリカをヨーロッパにとってのファースト・レスポンダーとして維持すると、アメリカは、力の均衡(balance of power)に対する脅威が著しく、外交環境が特に複雑なアジアに十分な時間、注意、資源を割くことが難しくなる。アメリカのヨーロッパへの強い関与(commitment)は、ヨーロッパでの潜在的な紛争の原因を減らすかもしれない。しかし、それは1990年代のバルカン戦争を防げなかったし、アメリカが主導してウクライナを西側の安全保障軌道に乗せる努力は現在の戦争を誘発する一因となった。もちろん、これは西側諸国の誰もが意図したことではないが、結果こそが重要なのだ。最近のウクライナの戦場での成功は非常に喜ばしいことであり、今後もそうであって欲しいが、戦争が起きない方がはるかに良かった。

更に、通常業務モデルは、ヨーロッパの保護継続を奨励し、ヨーロッパの外交政策の遂行における全般的な自己満足と現実主義の欠如に寄与している。問題が起きればすぐに世界最強の超大国が味方になってくれると確信していれば、外国のエネルギー供給に過度に依存したり、身近に忍び寄る権威主義(authoritarianism)に過度に寛容であったりするリスクを無視しやすくなる。そして、誰も認めたがらないが、このモデルは、アメリカ自身の安全や繁栄にとって必ずしも重要でない周辺の紛争にアメリカを引きずり込む可能性を持っている。少なくとも、通常業務も出るは、もはや無批判に支持すべきアプローチではない。

●モデル2:国際的な民主政治体制の拡大(Model 2: Democracy International

大西洋横断安全保障協力の第2のモデルは、NATO加盟諸国のほとんどの民主的な特徴の共有と、民主政治体制国家と独裁国家(特にロシアと中国)の間の格差の拡大を強調するものである。このヴィジョンは、バイデン政権が民主政治体制の価値観を共有することを強調し、世界の舞台で民主政治体制が依然として独裁政治体制を凌駕しうることを証明したいと公言していることの背景にあるものだ。元NATO事務総長であるアンデルス・フォグ・ラスムセンの民主国家同盟財団(Alliance of Democracies Foundation)も同様の構想を反映している。

ヨーロッパの安全保障に主眼を置いた通常業務モデルとは異なり、大西洋横断パートナーシップに関するこの概念は、より幅広いグローバルな課題を包含している。現代の世界政治を民主政治体制と独裁政治体制のイデオロギー論争として捉え、この闘いは地球規模で行われなければならないと考えている。アメリカがアジアに軸足を移すのであれば、ヨーロッパのパートナーも同様に、民主政治体制を擁護し促進するというより大きな目的のために軸足を移す必要がある。ドイツの新しいインド太平洋戦略では、この地域の民主国家群との関係を強化することが謳われており、ドイツの国防相は最近、2024年にもアジアにおける海軍のプレゼンスを拡大することを発表している。

このヴィジョンは、民主政治体制が良くて独裁政治体制が悪いという単純な利点はあるが、欠点はその良さよりもはるかに大きい。まず、このような枠組みは、アメリカやヨーロッパが支持する独裁国家(サウジアラビアや湾岸諸国、あるいはヴェトナムなどアジアの潜在的パートナー)との関係を複雑にし、大西洋横断パートナーシップを偽善の塊のようなものとして暴露することは避けられないだろう。第二に、世界を友好的な民主国家と敵対的な独裁国家に分けることは、独裁国家間の結びつきを強め、民主国家間が他国間に対して分割統治を行うことを抑制することにつながる。この観点から、1971年に当時のリチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官が毛沢東率いる中国と和解し、クレムリンに新たな頭痛の種を与えた時に、この枠組みを採用しなかったことを喜ぶべきだろう。

最後に、民主政治体制の価値を前面に押し出すことは、大西洋横断パートナーシップを、可能な限り民主政体を諸外国に植え付けようとする十字軍のような組織にしてしまう危険性をはらんでいる。このような目標は抽象的には望ましいことかもしれないが、過去30年間を見れば、同盟のどのメンバーもこれを効果的に行う方法を知らないことが分かるはずである。民主政体の輸出は非常に困難であり、特に部外者が力づくでそれを押し付けようとする場合にはたいていの場合失敗する。また、現在のNATO加盟諸国の一部で民主政治が悲惨な状態にあることを考えると、これを同盟の主要な存在意義として採用することは非常に奇妙に見える。

●モデル3:「世界に出ていく」対「中国」(Model 3: Going Global vs. China

モデル3はモデル2に近いものであるが、民主政治体制やその他の自由主義的価値を中心に大西洋横断関係を組織するのではなく、中国を封じ込めるためのアメリカの幅広い努力にヨーロッパを参加させようとするものだ。事実上、アメリカのヨーロッパ諸国のパートナーは、アジアに既に存在する二国間ハブ&スポーク協定と一体化し、アメリカが今後何年にもわたって直面する可能性がある唯一の深刻な競合相手に対して、ヨーロッパの潜在力を発揮しようとするものである。

一見したところ、これは魅力的なヴィジョンであり、アメリカ、イギリス、オーストラリア間のAUKUS協定は、その初期の現れであると指摘することができる。ランド研究所のマイケル・マザールが最近指摘しているように、ヨーロッパはもはや中国を単に有利な市場や貴重な投資相手とは見ておらず、中国に対して「ソフトバランス(soft balance)」し始めている証拠が増えつつある。純粋にアメリカの視点に立てば、ヨーロッパの経済的・軍事的潜在力をその主要な挑戦者である中国に向けることは、非常に望ましいことであろう。

しかし、このモデルには2つの明らかな問題がある。第一に、国家はパワーだけでなく脅威に対してもバランスを取っており、その評価には地理的な要因が重要な役割を果たす。中国はより強力で野心的になっているかもしれないが、中国軍はアジアを横断してヨーロッパを攻撃することはないし、中国海軍は世界中を航海してヨーロッパの港を封鎖することはないだろう。ロシアは中国よりはるかに弱いがはるかに近い。最近のロシアの行動は、その軍事的限界を知らず知らずのうちに明らかにしているとしても、憂慮すべきものである。従って、ヨーロッパが期待するのは最もソフトなバランシングであって、中国の能力に対抗するための真剣な努力ではない。

NATOのヨーロッパ加盟諸国は、インド太平洋地域の力の均衡に大きな影響を与える軍事能力を有しておらず、また、すぐにそれを獲得することも考えにくい。しかし、その努力のほとんどは、ロシアに対する防御と抑止を目的とした地上・航空・監視能力の獲得に向けられるだろう。それはヨーロッパの観点からは合理的であるが、これらの能力のほとんどは、中国との紛争には無関係であろう。インド太平洋地域にドイツのフリゲート艦を数隻派遣することは、同地域の安全保障環境の変化にドイツが関心を示していることを示す良い方法かもしれないが、地域の力の均衡を変更したり、中国の計算を大きく変更させたりすることはできないだろう。

もちろん、ヨーロッパは、外国軍隊の訓練支援、武器の販売、地域安全保障フォーラムへの参加など、他の方法で中国との均衡を図ることができ、アメリカはそうした努力を歓迎すべきだ。しかし、インド太平洋地域におけるハードバランシング(hard balancing)をヨーロッパに期待するべきではない。このモデルを実行に移そうとすることは、失望と大西洋における軋轢を増大させることになる。

●モデル4:新しい分業(Model 4: A New Division of Labor

こうなることは分かっていたはずだ。私が考える正しいモデルとは。私が以前から主張しているように(最近『フォーリン・ポリシー』誌上で書いたように)、大西洋横断パートナーシップの最適な将来モデルは、ヨーロッパが自国の安全保障に主な責任を持ち、アメリカがインド太平洋地域に大きな関心を払うという新しい役割分担である。アメリカはNATOの正式加盟国としてその地位にとどまるが、ヨーロッパにとっての緊急応対者ではなく、最終手段(last resort)としての同盟国になるであろう。今後、アメリカは、地域における力の均衡が劇的に損なわれた場合にのみ、ヨーロッパに再び上陸することを計画するが、そうでない場合は、上陸しない。

このモデルは一夜にして実現できるものではなく、アメリカがヨーロッパのパートナーに必要な能力の設計と取得を支援し、協力的な精神で交渉する必要がある。しかし、これらの国々の多くは、アメリカを説得するために全力を尽くすだろうから、アメリカは、これが今後支持する唯一のモデルであることを明確に示す必要がある。NATOのヨーロッパにおける加盟諸国が、自分たちはほとんど自分たちの力でやっていけると本気で思わない限り、そして確信するまでは、必要な措置を取るという彼らの決意は弱いままで、約束を反故にすることが予想される。

アメリカ大統領時代のドナルド・トランプは、虚勢を張って大袈裟で、同盟諸国を無意味に困惑させたが、トランプの次の大統領であるジョー・バイデンは、上記のプロセスを始めるのに理想的な立場にある。バイデンは熱心な大西洋主義者という評価を得ているので、新しい役割分担を推し進めることは、恨みや怒りの表れとは見なされないだろう。バイデンと彼のチームは、ヨーロッパのパートナーに、この措置が全員の長期的な利益につながることを伝えることができるユニークな立場にある。私は、バイデンたちがこのステップを踏むことを期待している訳ではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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古村治彦です。

 2022年2月24日にウクライナ戦争が勃発し、世界は「先進諸国の西側諸国(the West)」対「新興諸国のそれ以外の国々(the Rest)」の深刻な分断構造になっていることが明らかになった。西側諸国にはアメリカ、ヨーロッパ諸国、日本などで、それ以外の国々は中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカなどで構成されている。人口で見れば西側諸国が15%、それ以外の国々は85%であり、GDPは拮抗状態からそれ以外の国々が上回っている状態になっている。

 世界は分断状態になっている中で、アメリカ対中国・ロシアという構造の中で、自分たちの進む方向性に悩むのは属国群である。日本はアメリカの属国であり、アメリカの意向にきちんと従わねばならないということになっている。現在、岸田文雄政権が打ち出している「防衛費GDP比2%」という基準も、「アメリカ様が決めた数字」である。現在の水準よりも倍増することになるが、増えた分の多くはアメリカ製の兵器購入に充てられることになる。お金だけの問題で済めばまだ良いのだが、「充実した」兵器を持つようになり、ミサイルによる「先制攻撃」ができるようになれば、中国と実際にぶつかる係をやらされる危険性が出てくる。日本が中国と実際にぶつかるようになれば、日本は今よりもより悲惨な状況に落ち込んでしまうことだろう。そのようなことはなんとしても避けねばならない。そのためには、積極的に中国と「対話すること」である。

 そのお手本となるのがドイツのようだ。ドイツのオラフ・ショルツ首相は先月、ドイツの産業界のリーダーたちと共に中国を訪問した。ショルツ訪中は、西側諸国から大きな批判を受けた。中国とロシアに対抗するために、西側諸国は団結して臨まねばならないのに、その団結を崩す行為だという批判である。特にドイツとフランスとの間の不仲は西側諸国の団結にとっての大きな懸念材料ということになる。フランスは経済力こそ大したことはないが、ヨーロッパ大陸で唯一の核兵器保有国であり、国連安全保障理事会の常任理事国である。腐っても鯛、大国、昔の表現で言えば列強である。ドイツは、経済力はヨーロッパ随一であるが、軍事面では制限を持っている。フランスはドイツの大国化を懸念しており、西側からの離脱を心配しているのだろう。ドイツが中露と組んでしまえば(その可能性はかなり低いが)、フランスの存在感は消し飛んでしまう。EUNATOでドイツを抑え込んでいるのでフランスは安心していられる。

 オラフ・ショルツ(Olaf Scholz、1958年-、64歳)はドイツ社会民主党(SPDSozialdemokratische Partei DeutschlandsSocial Democratic Party of Germany)所属で、ハンブルク市長からアンゲラ・メルケル内閣(キリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟、社会民主党の連立政権)の副首相兼財務大臣を務めた後、2021年12月にドイツ首相に就任した。オラフ内閣は中道左派の社会民主党、急進左派の緑の党(Bündnis 90/Die GrünenAlliance 90/The Greens)、中道右派の自由民主党(FDPFreie Demokratische ParteiFree Democratic Party)の連立政権となっている。副首相兼経済・気候保護大臣には緑の党のロベルト・ハーベック(Robert Habeck、1969年-、53歳)が、外務大臣には同じく緑の党のアンナレーナ・ベアボック(1980年-、41歳)が就任している。

 問題は、ドイツ国内、ショルツ政権内から中国との関係を断ち切ることを求める声が出ていることだ。その主犯格は、連立政権の緑の党出身閣僚たち、特にアンナレーナ・ベアボック外相だ。アンナレーナ・ベアボックはアメリカで言えば、民主党内の人道的介入主義派のような存在だ。きれいごとを並べながら、実際には好戦的で、世界中の非民主的な国々の指導者たちを打倒しなければならないという狂信的な信念に凝り固まった人物である。子のような人物たちの過度な理想主義的主張が世界を戦争に陥れ、平和をかき乱す。

 「地獄への道は善意で敷き詰められている(The road to hell is paved with good intentions)」という箴言を私たちは嚙み締めねばならない。

(貼り付けはじめ)

ショルツ独首相、習中国主席と会談 ロシアへの働きかけ求める

2022115日 BBC日本語版

https://www.bbc.com/japanese/63524371

ドイツのオラフ・ショルツ首相は4日、中国・北京を訪れ、習近平国家主席と会談した。ショルツ氏は、ウクライナでの戦争を止めるため、中国がロシアへの影響力を行使するよう働きかけた。

新型コロナウイルスの世界的な大流行が発生して以降、ヨーロッパの指導者が北京を訪れるのは初めて。習氏が先月開催された共産党大会で権力の掌握を強めてから、欧州首脳が習氏と会談するもの初めてだ。

ショルツ氏は、ロシアの核による威嚇が「無責任かつ非常に危険」だという認識で両国は一致したと述べた。

習氏はこれまで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による侵略行為を非難していない。

中国の報道によると習氏は、危機を平和的に終わらせるよう国際社会が支援し、核兵器の使用や威嚇に反対すべきだと述べたという。

中国外務省は、習氏が「無責任」「非常に危険」という言葉を使ったとは説明していない。

ショルツ氏と習氏は今回、ウクライナでの戦争、世界の食料とエネルギーの安全保障、気候変動、世界的な感染流行などについて、話し合い続けることで合意した。

台湾に関しては、ショルツ氏は従来どおり、現状のいかなる変更も平和的かつ相互の合意に基づかなくてはならないとするドイツの見解を繰り返した。人権については、特に新疆地区の少数民族について保護の必要があると述べた。

●欧州で懸念広がる

ショルツ氏の今回の訪中は、滞在時間がわずか11時間。現時点での訪中の是非は、ドイツと欧州各国で懸念を呼んでいる。

中国共産党大会が終わってまもないタイミングでもあるだけに、権威主義を強める習氏の国内評価を高める材料にされかねないと、懸念されている。

これについて、ジェニー・ヒルBBCベルリン特派員は、ショルツ氏は、前首相のアンゲラ・メルケル氏と同様、世界の問題は中国との協力することでのみ解決できるという考えの持ち主だと指摘。首相は、直接会うことで、双方が強く対立する問題でも話し合いが進むと考えているという。

BBCのカティヤ・アドラー欧州編集長は、ドイツは欧州連合(EU)の中で最も経済力と影響力をもつ国であり、その言動は重要だと指摘。

ショルツ氏の今回の訪中は、発表はされたものの、EUの他の国々との調整がなかったため、欧州各国の神経を逆なでしたとアドラー編集長は話す。

ヨーロッパがドイツを筆頭にロシア産ガスへの依存から脱却しようとする中、「ドイツはビジネスの見込みに目がくらみ、中国に近づきすぎているのではないか?」と、欧州で疑問視されているのだと、編集長は言う。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が何年も前から、EUの中国への依存を弱めるよう働きかけてきたこともあり、EUは貿易相手国の多様化は賢明なことだと考えるようになっているが、ショルツ氏はその歩調から外れていると懸念されていると、同編集長は解説した。

<解説> ジェニー・ヒル BBCベルリン特派員

ショルツ首相の前任、アンゲラ・メルケル氏も、中国訪問時には必ずドイツ経済界の幹部を同行した。メルケル氏は「貿易を通じた変化」を政策として追求し、中国やロシアといった国々との関係は、経済的な結びつきを通じて、政治的関係にも影響を与えられると考えていた。

ドイツ経済は長く、安価なロシアのエネルギーに依存してきた。しかし、ウクライナでの戦争によって、ドイツのその戦略の本質的な欠陥があらわになった。そしてかつてはパートナーだった中国のことも、ドイツ政府は今ではライバルとみなしている。

習氏は今回の会談で、ドイツとの「より深い協力」をショルツ氏に求めた。すでにドイツ経済が中国と密接すぎると考える人にとって、これはぞっとする発言だったはずだ。中国が台湾に侵攻したらどうなるのか、そういう人たちは心配している。

すでに100万人以上のドイツ人の雇用が、中国との関係に依存している。

例えば、自動車大手ダイムラーは、製造した車の3割以上を中国で販売している。化学メーカーBASFは、中国南部に新工場を開設したばかりで、年内に100億ユーロ(約1.5兆円)の投資を予定している。

ドイツ政府内で、中国との「デカップリング」(切り離し)を主張する人はほとんどいない。ショルツ首相訪中の前夜、経済界の幹部はこう述べた。「今は中国の陶器を割るべき時ではない。それが唯一のアドバイスだ」と。

とはいえ、ドイツが過度に中国に依存するのを防ぎたいと考えている人は多い。

ショルツ氏には、高度な綱渡りが求められている。ドイツ経済を守りながら、ドイツ企業の利益を最優先しているという非難を避けなくてはならないのだ(そうした非難はここ数カ月でかなり出ている)。

変化する中国にどう対応するか。ショルツ政権にとっては、それが決定的な試練となるかもしれない。

(英語記事 Scholz asks China to press Russia to end its war

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オラフ・ショルツは中国に対する西側の結束を弱めている(Olaf Scholz Is Undermining Western Unity on China

-ドイツ首相の独走(go-it-alone approach)は、ドイツ国内、EU、そして国際的なパートナーから疎外されている。

ファーガス・ハンター、ダリア・インピオンベイト筆

2022年11月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/23/germany-china-eu-scholz-xi-meeting-economy-trade-g-20/

「政治指導者たちは、変えられないものを受け入れる冷静さ(serenity)と、変えられるものを変える勇気(courage)、そしてその2つを区別する知恵(wisdom)を持つべきだ」。

中国の習近平国家主席は今月初め、北京でドイツのオラフ・ショルツ首相と会談した際、アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーの「ニーバーの祈り(Serenity Prayer)」を愛読していた西ドイツの故ヘルムート・シュミット首相を引き合いに出して、この言葉を述べた。

この言葉の引用には明確な目的がある。習近平にとって、ショルツの訪中は、10月の中国共産党第20回全国党大会で習近平の権限が更新された後、G7首脳として初めてのことだった。シュルツの訪中は習近平にとって北京の核心的利益(core interests)を再確認する機会であった。ショルツにとって残念だったのは、習主席が平静に受け入れられることを期待していたことのリストに、中国の厄介な少数民族の扱いから南シナ海の軍事化まで、あらゆることが含まれていたことだ。

中国との外交的関与は、特に西側諸国の政府が中国との関係をますます緊張させる中で、非常に重要である。問題は、それをどのように行うかである。ジョー・バイデン米大統領をはじめとする各国首脳が今月、インドネシアのバリ島で開かれたG20サミットを習近平との二国間交渉の場としたのとは異なり、ドイツの首相は先手を打とうとした。オラフ・ショルツ首相は、新型コロナウイルスの流行により、このような二国間会談を3年間中断していたため、習主席と直接話す時期が来たと主張した。ショルツ首相は、独中関係の問題に立ち向かうのは、まさにそれが通常の事態の中ではないからだと述べた。『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』紙に寄稿した論稿で、ショルツは「中国が変われば、私たちの中国へのアプローチも変わるはずだ」と書いている。

しかし、ショルツのドイツ第一主義のアプローチ(Germany-first approach)は、ドイツの連立政権の中国政策展開を混乱させ、ヨーロッパや世界のパートナーを遠ざけている。好戦的になりつつある中国にアプローチする最も効果的な方法は、統一戦線による対処だ。アメリカ民主党政権は、中国に関するレトリックと政策を一致させ、優位な立場でテーブルにつく必要がある。主観的な国益に基づく単独行動は、中国に利用されてしまう脆弱性をもたらす。

今回のG20サミットでは、習近平の戦略的な二国間交渉を優先する志向が顕著に表れた。習近平は、フランス、スペイン、オランダ、イタリアの各首脳と会談し、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長やシャルル・ミシェル欧州理事会議長との正式な会談を避けた。つまり、習近平は、集団的利益を代表する欧州委員会の、中国に対して厳しい姿勢を取る指導者たちを避け、自国の利益と負債を優先する各国首脳を相手に運試しをした。

ショルツ首相は北京で、私的な会合においても、公的な場においても、難しい問題を提起したが、その方法はドイツとEUのそれぞれの中国政策に水を差すことになった。ショルツ首相は、ドイツの対中経済関係の強化が最優先であるという印象を強く残したが、他のヨーロッパの指導者やベルリンでの自身の連立パートナーはその反対を押し進めている。中国は、ショルツ首相のドイツを西側諸国連合の弱点と見なし、これを利用しようとする可能性がある。

ショルツ首相は北京で、ロシアのウクライナ侵攻や中国の人権侵害、台湾海峡でのエスカレート、不公正な経済行為、同じEU加盟国のリトアニアを含む他国への経済的威圧を非難する明確なメッセージを打ち出した。

今回のショルツ首相の訪中では、習近平国家主席が2つの声明を発表したことが大きな成果として挙げられたと専門家たちは強調している。中国の習近平主席は、ウクライナでの核兵器の使用に対して公式に警告し、バイオエヌテック社のワクチンを中国に住む外国人向けに承認することに同意した。これは中国におけるmRNAワクチンの初めての青信号となった。在中国欧州商工会議所会頭のヨルグ・ヴットケは、オーストラリア戦略政策研究所のポッドキャストのインタヴューで、「ショルツ首相がベルリンにとどまって中国を訪問していなかったら、習主席の公約はどれも実現しなかっただろう」と述べた。

しかし、中国は実際にどれだけのものを提供したのかについては明確にしておくべきだ。習近平はウクライナで核兵器を使用すると脅す勢力としてロシアを名指ししなかったし、中国はロシアの侵攻を非難することを拒否し続けた。中国や他の国がウクライナにおけるレッドラインとして核兵器の使用を定義することは、ロシアがそこで続けている通常兵器の侵略を容認するというシグナルを送ることになる。これは中国にとって非常に低いハードルであり、北京は自らを責任あるグローバルプレーヤーと見せかけながら、平和の実現にはほとんど貢献しないということになる。

多くの専門家たちは、今回のショルツ訪中の真の目的は、ドイツの対中商業活動の強化にあったと主張している。シュルツの訪中は、中国の海運大手コスコのハンブルク港への投資を、閣僚や治安当局の反対や懸念にもかかわらず、強引に承認した直後に行われえた。フォルクスワーゲン、シーメンス、BASFといった大企業を含む12名のドイツ産業界のトップと共にシュルツは北京に到着した。

BMWのオリバー・ジプセ会長は新華社通信の取材に対し、「この訪問は中独間の経済協力強化に向けた強いシグナルだ」と述べ、中国の外交官たちや国営メディアも同じ感想を述べた。中国政府が発表したショルツ・習近平会談の公式資料には、「ドイツは中国との貿易・経済協力を緊密化する用意があり、中国とドイツの企業間の相互投資の拡大を支持する」と記されている。もしこれが本当にショルツの立場なら、リトアニアやオーストラリアといったドイツのパートナー国が中国の市場力にさらされることで経済的圧迫に直面している今、非常に甘い態度だと感じられる。

ショルツは、経済・気候変動担当大臣(副首相)のロベルト・ハーベックや外務大臣のアンナレーナ・ベアボック(両者ともに緑の党)といった連立政権の閣僚たちと、中国への対処をめぐって対立してきた。緑の党の閣僚たちは、「これ以上の甘さはなしで(no more naivety)」、中国からの「恐喝(blackmail)」のリスクを減らす努力をするよう求めている。ショルツ連立政権の6名の閣僚はコスコの投資に反対したが、最終的にはハンブルク港における中国の出資比率に上限を設定するという妥協案に合意した。ハーベックは「ドイチェ・ヴェレ」とのインタヴューで、中国に大きく依存するドイツ企業は、台湾をめぐる潜在的な対立など中国に関して地政学的な逆風が吹くと、「ビジネスモデルを危険にさらす(risk their business model)」ことを意識する必要があると警告している。ハーベックは、先週シンガポールで開催されたアジア太平洋地域ドイツビジネス会議では、ドイツの現在の経済多角化の取り組みは適切ではなく、「私たちは中国への依存度を高めつつある」と述べた。

ショルツの行動は、連立政権の閣僚たちの言動と相容れない。今、ドイツ政府が国内企業に対して明確に伝えるべきことは、中国に対する脆弱性(vulnerability)を高めるのではなく、軽減するための支援を行うことだ。

ドイツ首相ショルツは、誤った二項対立で自らのアプローチを正当化しようとしている。ドイツなどは中国との関わりを拒むことはできないと主張し、関係切り離し(デカップリング、decoupling)は「間違った答え(wrong answer)」だと述べた。しかし、中国との本格的な関係切り離し(デカップリング)は真剣に考慮するような命題ではない。中国とドイツ、そして世界経済との融合は巨大であり、それを解体することは非常に複雑で有害な事業となる。むしろ、中国と効果的に関わりながら、特に重要な分野では市場と供給チェーンの多様化を目標に進めていくことが問題となる。例えば、フォルクスワーゲンは利益の半分を中国市場から得ており、中国に30以上の工場を持っている。これは明らかに経済的な過剰依存(economic overreliance)であり、フォルクスワーゲンとドイツの双方をリスクに晒す。

少数の強力な企業経営者たちが、政府の外交政策に不当な影響を与えることを、ショルツは許してはならない。利益至上主義のCEOたちが、北京との関係において、一本調子で近視眼的な考え以上のことを進めると期待を持ってはいけない。各種世論調査によると、ドイツの有権者は中国を信頼しておらず、コスコの港湾投資にも、人権よりも企業活動を優先させることにも反対している。ショルツ首相は、ドイツの長期的な経済的回復力と政治的・安全保障的な懸念を考慮し、より洗練された対中アプローチを展開する必要がある。

習近平はいわゆる二重循環政策(dual circulation agenda)によって、自国の自給自足を高める一方で、他国を中国の輸出品に依存させることを望んでいる。中国政府がどのような保証をしようとも、実質的な開放(opening)と相互依存(reciprocity)は実現しない。ショルツ首相は、中国との貿易に現在も存在する障壁を、自らの政策がいかに危ういものであるかを示すシグナルとして受け止めるべきだろう。

国内的には、ショルツはバーボックやべアベックと連携し、ドイツが首尾一貫して経済的な強度を高め、中国への依存に伴うリスクを確実に減らす必要がある。間もなく発表されるドイツの国家安全保障戦略(national security strategy)と中国戦略(China strategy)は、いずれもドイツ政府の団結に支えられた強固で明確な青写真(blueprint)である必要がある。ドイツの産業界が明確な方向性を示し、その脆弱性を実質的に軽減するためにこれらの文書が必要である。

首尾一貫したドイツの戦略は、EUの中国に対する位置づけにも不可欠である。ヨーロッパがロシアの天然ガスに過度に依存していることに対する高い代償を払っている時に、中国の投資を優先させることは、EUの他の国々、特にEU最大の経済力を持つ国々にとって良い手本とはならない。EUのトップ外交官(欧州連合外務・安全保障政策上級代表)であるジョセップ・ボレルは、EU各国の大使に対する最近の講演で、中国とロシアに経済的に依存することはもはや実現不可能であると述べた。「中国とロシアに経済的に依存することはもはや不可能であり、その調整は困難であり、政治的な問題を引き起こすだろう」と警告した。

ショルツは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領からの北京への招待を拒否したと伝えられており、2人は効果的なパートナーシップを確立するのに苦労している。これは、欧州の最も強力な2人の指導者が、中国に関して結束を示す機会を逃したことになる。ショルツ首相は、マクロン大統領との関係を安定させ、EUの中国への取り組みを支援する必要がある。

欧州を越えて、ドイツは米国やインド太平洋地域の志を同じくするパートナーとともに、中国の悪質な行動に対抗するための協調的な戦略について、更に努力する必要がある。今のドイツは、西側諸国のパートナーの中では弱く見える。ある中国のアナリストは、ショルツ首相の中国訪問後、「ショルツ首相は、ドイツが“同盟(alliance)”という古い道を歩むつもりはないことを明確にしたのだから、中国を孤立させる訳にはいかないのだ」と主張した。ドイツのパートナーもまたやるべきことがある。たとえばアメリカは、中国の半導体産業を抑制する取り組みなど、中国との戦略的競争へのアプローチを鋭くすることで、主要な同盟諸国とより効果的な協議を行うことができるだろう。

自由主義諸国が、習近平の意思決定に真の意味で影響を与え、今後数年間に経済的・政治的な強靭さを構築することを望むなら、国家レヴェル、地域レヴェル、国際レヴェルの連帯(solidarity)が不可欠である。この連帯が信頼に足るものであるためには、戦略的な国内政策と、ベルリン、ヨーロッパ、そして世界各地での協調的な外交活動が必要である。

ファーガス・ハンター:オーストラリア戦略政策研究所アナリスト。ツイッターアカウント:@fergushunter

※ダリア・インピオンベイト:オーストラリア戦略政策研究所アナリスト。ツイッターアカウント:@DariImpio

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フランス・ドイツの協力関係に火がついている(The Franco-German Motor Is on Fire

-ウクライナ戦争はヨーロッパにおけるもっとも有力な国々をこれまでになく対立させている。

キャロライン・デグロイター筆

2022年11月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/21/europe-eu-franco-german-motor-fire/

1990年代のある日、イタリア人の欧州委員会職員リカルド・ペリッシェは、ブリュッセルのオフィスビルの廊下で、当時の欧州委員会委員マヌエル・マリンとばったり会った。スペイン人のマリンは、明らかに何かに怒っている様子でにペリッシェ言った。「リカルド、君は自分が何であるか分かっているか? リカルド、自分が何者か分かっているか?」。ペリッシェが困惑した表情を浮かべると、マリンは次のように続けた。「この場所で問題提起し決定することが許されるのはフランス人とドイツ人だけだ。イギリス人は時々それらが許される。他の人間は質問することしか許されない」。

ペリシッチは、最近、この逸話を持ち出し、EUにとって独仏関係がうまく機能することが重要であると述べた。現在、フランスとドイツの間には様々な摩擦がある。ドイツは、国民や産業界への国家による多額のエネルギー補助金、中国との一方的な取引継続、ウクライナへの不十分な資金・物資支援など、ヨーロッパの国らしくない行動が非難されている。10月には独仏合同議会が中止されたほどだ。しかし、ペリシッチは、EUでは常にフランスとドイツの間で問題が起きていると指摘する。そして、その解決は他の国の問題解決より優先されることが多い。

従って、現在の独仏の摩擦の大部分は当然のことである。しかし、両国の間には、解決するのがより困難な、より深刻な倦怠感(malaise)も存在する。

戦後のヨーロッパで独仏の摩擦が常態化していたのは、単純な理由からである。1950年代に欧州統合(European unification)が始まるまで、ドイツとフランスは大陸における権力をめぐって、1870年から1871年、1914年から1918年、1939年から1945年の3度にわたる大きな戦争を戦い、何百万人もの人々が命を落とし、ヨーロッパの大部分が破壊された。そのため、欧州統合は、ルクセンブルクやデンマークが関与する紛争ではなく、この強力な2国間の紛争を管理することに焦点を当てた。今日に至るまで、EUの使命の1つは、フランスとドイツが問題を平和的に解決し続けることを保証することだ。70年間、政治的・経済的な文化が異なり、何一つ意見が一致しない両国は、一発の銃声も発しなかった。現在のヨーロッパでは、弾薬ではなく、言葉を使って撃ち合う。

ペリシッチが書いているように、他のEU諸国から来た人たちは、頻繁に起こる独仏のいさかいを「希望と苛立ち、そして実際に参加できないことへの不満が混じり合って」見ているが、70年間、そうした状況でうまくいってきたのである。

現在の独仏問題のほとんどは現在の状況から説明することができる。世界は変化し、EUも変化を余儀なくされている。エネルギー政策、予算問題、安全保障など、ロシアのウクライナ戦争による諸問題について、パリやベルリンを中心に妥協点を見出すために、EUは目下多忙を極めている。ブリュッセルの官僚たちは、いつもながら助産婦のような存在で、ヨーロッパの提案の検討や欧州各国首脳の閣僚会議・首脳会議の準備に余念がない。メディアにとっては、匿名の外交官や政治家によるオフレコのブリーフィングで相手を非難したり、密室で行われる交渉の詳細をリークしたりと、多くのドラマがある。繰り返すと次のようになる。これは普通のことだ。おそらく、何らかの妥協が手の届くところにあることを示しているのだろう。

しかし、そこには、戦後のパリとベルリンの関係の根幹に関わる、より深い倦怠感もある。フランソワ・ミッテラン大統領の特別顧問で欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development)の初代総裁を務めたフランスの経済学者ジャック・アタリは最近、「長期的な戦略的利益の違い(difference of long-term strategic interests)」が生じていると指摘し、ヨーロッパが大きく前進することによってのみ対処できるとしている。しかし、独仏戦争の直接的な記憶が薄れつつある現在、両国の現在の指導者たちはこのことを十分に認識していないのではないかと危惧している。その結果は、「フランスとドイツの戦争が再び起こる可能性がある」ということだ。

現在のフランスとドイツの乖離は、EUの中核的な機能の1つである、ドイツが再びヨーロッパでこれほど支配的な存在になることを防ぐ機能にまで遡る。これまでのところ、これは大成功を収めている。欧州統合が始まって70年、ドイツ人はおそらく世界で最も優れた平和主義者になったと言えるだろう。ドイツ連邦軍(Bundeswehr)は資金不足で知られている。ドイツ人自身は、他のヨーロッパ人よりもドイツの力を恐れている、とよく言われる。だから、EUの「貿易を通しての変革(Wandel durch Handelchange through trade)」、貿易関係で政治的変化をもたらす戦略がドイツによく似合うのである。一方、経済的に遅れをとり、ドイツのユーロ保証に財政を依存しているフランスは、ヨーロッパの外交・安全保障・防衛政策の主導権を握っている。

このような独仏による役割分担は、両国だけでなく、EUにとっても長らく好都合であった。フランスとドイツは互いに補完し合い、それぞれが得意分野に集中することができた。ドイツは地政学(geopolitics)を考慮に入れずに貿易に集中でき、フランスは大陸で唯一の核保有国として本格的な軍隊を持ち、国連安全保障理事会の常任理事国として、フランスの債務や赤字をあまり指摘せずに、威勢のいい声を上げることができた。しかし、この関係がアンバランスになっていることは以前から明らかになっていた。ヨーロッパでは、ドイツは自らを小さく見せることが多いが、フランスはその逆を行う傾向がある。

ロシアのウクライナ侵攻以降、独仏間の離間がEUの政治に表面化し、双方に軋轢を生じさせている。戦争によって、ドイツは今、2つの大きな頭痛の種を抱えている。1つ目の頭痛の種としては、対露制裁と豊富なロシア産ガスの突然の遮断によって、ドイツの成長モデルが危機に瀕していることだ。EU加盟国の多くが依存するヨーロッパの中心的な経済主体が、久しぶりに輸出よりも輸入を多くすることになった。ドイツのオラフ・ショルツ首相が今月、批判を浴びた中国訪問を必死に擁護したのはこのためだ。

ドイツにとっての2つ目の頭痛の種は、ロシアの脅威からヨーロッパを守るのはフランスではなく、NATOであるという事実だ。ドイツは突然、ヨーロッパがフランスに依存できない安全保障・防衛政策を緊急に必要としていることを認識した。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ヨーロッパの「戦略的自立性(strategic autonomy)」について興味深い考えを示しているが、それが何を意味し、誰のリーダーシップの下で実現されるべきかについては曖昧なままだ。だからこそ、オラフ・ショルツ独首相は対米関係の改善を新たな優先課題としたのである。ワシントンの政策立案者たちを眠らせないのは、ウクライナでもヨーロッパでもなく中国であることを知りながら、大西洋の連帯を重視していることが、そのことを物語っている。このような状況下で、ベルリンでは、「隠れ蓑(cover)」を求めている。

フランスは鼻で笑われ馬鹿にされたと感じている。フランスのコラムニストであるリュック・ド・バロシュが「ウクライナに18台の戦車を送るのがやっとだった」と書いているように、フランスが軍事的限界を露呈したことにフランスは傷ついた。その結果、パリはベルリンに批判を浴びせている。マクロン大統領の数々のヨーロッパ構想に応じなかったベルリンが、何故独自路線を歩んでいるのか? 何故ショルツは1人で中国に行ったのか? 何故ベルリンは今年、フランスのラファールではなく、アメリカのF-35戦闘機を発注したのか? ドイツがフランスとの調整なしに突然一方的なイニシアチブを取るという事実は、パリとベルリンの間の微妙なバランスを崩す。ハーヴァード大学ビジネススクールのフィリップ・ル・コレは、『ル・モンド』紙に「ドイツの態度は、リスクが十分に立証されているにもかかわらず、自己中心的で短絡的であり、ヨーロッパの利益を考慮していない」と述べている。

過去にも地政学的な変化によって、独仏の間に深い乖離が生じたことがある。指導者たちは、ヨーロッパ統合に飛躍することでこれを解決した。例えば、1989年のベルリンの壁崩壊後、東ドイツと西ドイツが統一され、フランスは突如として桁外れの相手と対峙することになったことがそうだ。この時、フランスのフランソワ・ミッテランとドイツのヘルムート・コールという2人の指導者は、他の10カ国のEU加盟国に対して、ヨーロッパ・プロジェクトの大幅なリセットが必要であると説得した。その結果、欧州共通通貨ユーロの誕生につながった。

こうした歴史的経緯を踏まえ、今、再び大規模なリセットを主張する人々がヨーロッパから出ている。例えばアタリは、大陸の防衛を欧州化すること(Europeanizing)で、独仏の乖離に対処することを提案している。しかし、EUの規模は1989年当時よりはるかに大きくなっている。ショルツとマクロンが、新たな大規模な欧州プロジェクトの必要性に同意し、25人の同僚たちを納得させることができるかどうかは分からない。しかし、現在のヨーロッパにおいて、フランスとドイツの力は以前より相対的に低下しているかもしれないが、他の大陸の国々は、マヌエル・マリン委員がいた時代と同様に、両者の良好な関係を期待しなければならないほど支配的であるということは、紛れもなく事実である。

※キャロライン・デグロイター:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、オランダ紙『ハンデルスブラット』のヨーロッパ担当特派員・コラムニスト。現在はブリュッセル在住。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、西側諸国はウクライナに対して様々な支援を行い、ロシアに対しては制裁を科している。その効果はどれほどのものがあるか、甚だ心もとないのが現状だ、何よりも、アメリカを含めヨーロッパ諸国はウクライナ防衛のために軍隊を出していない、ということが問題だ。アメリカもイギリスもフランスも、これまでに様々な危機的状況が発生した際に軍隊を出している。ユーゴスラヴィア内戦やソマリア問題などで、実際に米英仏の将兵が出動した映像を見た人は多いだろう。何よりも同様な事態となった、イラクのクウェート侵攻の時は連合して軍隊を出した。今回はそのようなことはしていない。

イギリスのジョンソン首相ははっきりと「残念ながら飛行禁止区域の設定は、英国がロシアの航空機を撃墜することを意味します。ロシアと直接戦闘をすることは我々が想定していることではありません。もしそれが起きれば、事態を制御することは非常に困難になるでしょう」と述べて、ウクライナを軍事面で助けることを否定した。

 ウクライナのゼレンスキー大統領はEU加盟の申請書に署名し、申請書はEU本部に送付された。しかし、地元のお店の会員になってディスカウントを受けようというのと訳が違って、「加盟を認めるためには長い年月がかかる」という答えだった。欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は「ウクライナはわれわれの一員。加入してほしい」と発言したが、後に報道官が「ウクライナはEUではなく欧州の一員であり、欧州に迎え入れたいという意味だった」と釈明している。これでは「ウクライナをEUに入れる気などない」と述べているようなものだ。ヨーロッパ諸国やEUの言葉は勇ましいが、実際には何もやっていないのに等しい。

 アメリカとヨーロッパ諸国ここまで何の重要な手助けもせずに、頑張れ頑張れとウクライナを言葉だけで応援するだけで、見捨てているのと同じだ。それに対して、私も感情面では怒っている。欧米諸国は偽善者だとさえ思っている。しかし、個人の感情を脇にどかして、国際政治の面で考えるならば、この非常な冷酷な判断も受け入れざるを得ないものとなる。

 米英仏とロシアが直接ぶつかることは第三次世界大戦の号砲となる。これらの国々は核兵器も所有しており、不測の事態で更なる悲惨な結果を生み出しかねない。ウクライナには独力で頑張ってもらう、そのために援助をするというところが精いっぱいのところで、一緒に戦うことはできない。そのために国際政治は諸大国の間で管理されているということになる。

(貼り付けはじめ)

●「ウクライナ女性が英ジョンソン首相に涙ながらに詰め寄る」

2022年3/2() 7:56配信   TBS ニュース

https://news.yahoo.co.jp/articles/f61cd67e9a7f09759ffcad030edde2921c2c6e93

 イギリスのジョンソン首相にウクライナ人の女性が、NATO=北大西洋条約機構がウクライナ上空に飛行禁止区域を設定するよう涙ながらに詰め寄る一幕がありました。 ジョンソン首相が訪問先のポーランドで開いた記者会見で、二日前にウクライナの首都キエフから逃れてきたというウクライナのNGOの女性が発言しました。

  ウクライナNGO ダリア・カレニュークさん 「貴方はウクライナ人のストイシズムを語りますが、ウクライナの女性と子供たちは空から降ってくる爆弾やミサイルに怯えているんです。私たちは欧米にウクライナの空を守って欲しいと必死にお願いしています。

(ウクラナイ上空に)飛行禁止区域を設定してほしいんです。貴方は今、キエフまで来ていません。リヴィウにも来ていません。怖いからです。 

NATOが我々を守りたくないからです。NATOが第三次世界大戦を恐れているからです。でももう始まっているんです。そしてウクライナの子供たちが被害を受けているんです。私の家族も、私の同僚も、みんな泣いています。どこへ逃げたらいいかわからないんです。これが今起きていることなんです、首相」

 イギリス ジョンソン首相 「ご質問、ありがとうございます。(この場に)来て頂いてありがとうございます。貴方がポーランドにたどり着けたことを嬉しく思います。

 正直に申し上げます。(NATO=北大西洋条約機構がウクライナ上空に)飛行禁止区域を設定することについてですが、(私は)ゼレンスキー大統領に二度申し上げました。

  残念ながら飛行禁止区域の設定は、英国がロシアの航空機を撃墜することを意味します。ロシアと直接戦闘をすることは我々が想定していることではありません。もしそれが起きれば、事態を制御することは非常に困難になるでしょう」

ジョンソン首相はこう述べた上で、ウクライナへの武器支援とロシアへの厳しい経済制裁は効果がある、と理解を求めました。 (0207:35

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EU、ウクライナの加盟申請に冷や水

3/1() 14:59配信

https://news.yahoo.co.jp/articles/927e2f09059c28c98f45768be876aff101627a29

AFP=時事】ウクライナの欧州連合(EU)加盟申請について、EU側は228日、即時承認の期待に冷や水を浴びせた。

 欧州委員会(European Commission)のウルズラ・フォンデアライエン(Ursula von der Leyen)委員長は227日、ユーロニュース(Euronews)のインタビューで「ウクライナはわれわれの一員。加入してほしい」と述べた。

 これを受けてウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は28日、ウクライナのEU加盟を申請する文書に署名。「新たな特別手続きによる即時承認」を求めた。

 さらに「われわれの目標は全欧州人との団結であり、何よりも対等な立場になることだ。実現可能かつ有望だと確信している」と訴えた。

 ポーランドのズビグニエフ・ラウ(Zbigniew Rau)外相は同日、「ウクライナがロシアの侵攻に勇敢に防戦している今こそ、ウクライナをEUに迎え入れるべき時だ」「ポーランドは、ウクライナの加盟手続きに必要なあらゆる支援を提供する」とツイッター(Twitter)に投稿した。

 東欧8か国の大統領は、「ウクライナはEU加盟にふさわしい」とする書簡に署名。加盟国に対しウクライナの即時加盟を実現するための措置を取るよう求めた。

 しかし、EUのジョセップ・ボレル(Josep Borrell)外交安全保障上級代表は、加盟には「長い年月」がかかると述べた。

 欧州委のエリック・マメル(Eric Mamer)報道官は、フォンデアライエン氏の発言を撤回、ウクライナはEUではなく欧州の一員であり、欧州に迎え入れたいという意味だったと釈明した。【翻訳編集】 AFPBB News

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ゼレンスキーがEU加盟申請書に署名(Zelensky signs EU membership application

マイケル・シュニール筆

2022年2月28日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/596124-zelensky-signs-eu-membership-application

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は月曜日、ロシアが自国に侵攻する中、ウクライナのヨーロッパ連合(EU)への加盟を正式に申請する加盟申請書に署名した。

ウクライナ大統領府のアンドリー・シビハ副長官は、ルスラン・ステファンチュク国会議長とデニス・シュミハル首相も共同声明に署名したとツイッター上で発表した。

「ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、歴史的な文書となるウクライナのヨーロッパ連合加盟申請書に署名した」とシビハはツイッター上に投稿した。

シビハは「ウクライナに栄光あれ!」とも投稿した。

投稿されたツイートには、加盟申請書と3人が書類に署名している写真が掲載された。

インターファックス・ウクライナは、シビハがフェイスブックに投稿した記事を引用し、申請書類がブリッセルに向かっている途中だと報じた。

ゼレンスキー大統領は、ロシアによる侵略を食い止めるため、月曜日にウクライナをEUブロックに加えるよう要請した。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、「私たちの目標は、全てのヨーロッパ人と一致協力することであり、最も重要なことは、対等な立場に立つことだ」と述べたと報じた。ゼレンスキー大統領は、「私はそれが公正であると確信している。それが可能だと確信している」とも述べた。"

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は先週、ウクライナへの軍事作戦を命じ、数日間に及ぶ侵攻作戦を開始した。ロシア軍はウクライナの多くの都市に進入しているが、ウクライナの強い抵抗活動によってその努力は遅々として進んでいない。

ヨーロッパ連合理事会は先週、ロシアの侵攻を非難し、ロシアの侵攻作戦を「ウクライナに対するいわれのない、不当な軍事侵攻(unprovoked and unjustified military aggression against Ukraine)」と称した。

欧州連合理事会は「ロシアはこの侵略行為と、それによって引き起こされる破壊と人命の損失に対して全責任を負っている。ロシアはその行動に対して責任を負うことになる」と付け加えた。

EUは先週、プーティン大統領がウクライナのドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国の独立を承認したことを受け、プーティン大統領の側近の主要メンバーに対する制裁を承認した。軍事作戦の後、欧州連合理事会はロシアに対し、金融、エネルギー、運輸部門から軍事転用可能品、輸出管理、輸出金融、ビザ政策に至るまで、更なる制裁を課した。

日曜日、ヨーロッパ委員会は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領がロシアの侵攻を支持したことを受け、ベラルーシに制裁を科すと発表した。また、ロシアの航空機のヨーロッパ域内飛行を禁止するなど、モスクワに対するさらなる制裁を発表した。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。
20220226russiaukrainewarmap506

 ロシアのウクライナ侵攻が始まって数日が経過した。ウクライナ軍の抵抗もあってロシアの侵攻は予想よりも進んでいないようだ。ロシア非難、ウクライナ支援の声が大きくなっている。単純にその声に参加できるならどれだけ楽だろう。誰だって戦争は嫌で、人が怪我をしたり死んだり泣き叫んだりする姿は見たくない。そういう様子を見て、感情が爆発するのは自然なことだ。

しかし、戦争が始まってしまってから、SNSのアイコンにウクライナの国旗をつけたり、連帯しますと言ってみたりして何の意味があるのか、と私は考え込んでしまう。私だってそうしたい。それで何か意味がある影響を結果に及ぼすことができるという確信が持てたらそうしたい。そんな確信がなくてもやりたいからやるというのは結構なことだ。しかし、ほんの数日前までウクライナがどこにあるか、地理的、経済的、政治的、社会的知識もないのにいきなりメディアに踊らされて、馬鹿騒ぎをすること(と私は見えてしまう)は躊躇してしまう。戦争になる前に何かできなかったのか、止めることはできなかったのか、始まってしまったら犠牲者や損害が少ないうちにどうやったら止められるのか、ということを考えてしまう(それこそお前ごときが考えて何の意味があるのかと言われてしまうだろうが)。

ロシアがウクライナ侵攻を開始してからのハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルト教授の論稿をご紹介する。「ロシアが最悪、ウクライナ頑張れ、ロシアを叩け」という大合唱に対する違和感を表明している。ウォルト教授は「(1)アメリカとNATOが表明している決意の強さと、西側同盟の外交姿勢のギャップ、(2)ロシアの意図が理解できないと述べる人々が多いこと(ロシアはNATOの東側への拡大に懸念をずっと表明してきた)、(3)ヨーロッパ諸国がアメリカに頼りきりになる」ということに懸念を持っている。

ウクライナは大国間政治に翻弄されている。具体的には米露中の間で翻弄されている。イギリス、フランス、ドイツと言ったヨーロッパの諸大国は結局何もできないということが分かった。アメリカとしてはロシアに対して制裁を科すことができるが、それ以上の、アメリカ軍をウクライナに救援に向かわせるということはできない。アメリカ軍とロシア軍が直接交戦しアメリカ軍に死者が出れば、アメリカ軍の報復行動を止めることは困難になり、第三次世界大戦をウクライナで演じる、最悪の場合には核兵器の使用まで起きるという危険性もある。今の段階では、戦争が始まってしまった以上、エスカレートをしないこと、何とかすぐに停戦交渉ができて、できれば講和条約から平和条約までの道筋をつけることだ。ロシアがどのような出口戦略を持って侵攻を始めたのかで条件交渉の内容は変わってくるだろうが、何とか即時に停戦をと願うばかりだが、それはあまりにもウクライナにとっては残酷なことでありかつ申し訳ないことで、日本人の私が言うことは僭越極まりないことだと自覚している。死を覚悟して抵抗しているウクライナ軍、ウクライナ国民、戦わされているロシア軍からの犠牲が少ないことを祈るばかりだ。何とも無力で愚かなことだが。

(貼り付けはじめ)

西側がウクライナの戦争に夢遊病者のように入り込んでいく(The West Is Sleepwalking Into War in Ukraine

―ロシアの侵略に対して、アメリカとヨーロッパがどのように対応しているのか、その意味を理解するのは容易ではない。

It’s not easy to make sense of how the United States and Europe are responding to Russia’s aggression.

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年2月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/02/23/united-states-europe-war-russia-ukraine-sleepwalking/

欧米諸国では、一部の例外を除き、ウクライナ情勢について、白黒はっきりつける意見と論評が大半を占めている。それらの主張をまとめると次のようになる。「現在の状況の責任は全てロシアのウラジミール・プーティン大統領が負っているもので、ロシアが主張する不満には何の正当な根拠もなく、考えられる西側諸国の対応は、一切の譲歩を拒否してモスクワに対峙して、ウクライナ国内そのものではなく、ヨーロッパにアメリカ軍を増派し、ロシアが侵略してきたら厳しい経済制裁に踏み切る」というものだ。

ある意味では、私はこうした意見に賛成したい。そうすれば、この複雑な問題について考えるのを止めて、ロシア非難の大合唱に加わることができるからだ。しかし、私はそのようなことができない。なぜなら、この危機の主要な側面が私にとっては不可解であり、過去にアメリカの指導者たちを迷わせたのと同じ信念、型、そして私たちの思考に染み付いた正統派の響きが常に聞こえてくるからだ。このような単純で反射的な反応は悪い状況を更に悪化させ、ウクライナとアメリカのより広範な利益に更に大きな損害を与える可能性がある。

第一に、アメリカとNATOが表明している決意の強さと、西側同盟の外交姿勢のギャップに私は戸惑いを覚えるのだ。ジョー・バイデン米大統領は、アメリカはウクライナのためにアメリカ軍を派遣するつもりはないと明言しており、ヨーロッパの主要な大国も軍隊の派遣を提案していない。アメリカはむしろ、アメリカ軍関係者の撤退や外交官の退避によって、逆のメッセージを発している。一部の好戦的で短慮な人々(hotheads)を除けば、アメリカの外交関係者たちは誰もウクライナのために本当の戦争をしようとは思っていないのだ。

対照的に、ロシアは、ウクライナをNATOに加盟させないという核心的な目的(core objectives)を達成するために、武力を行使する意思があることを明らかにしている。それは現在のことだけでなく、予見できる将来のどの時点でも変わらない。ロシアは2014年にその意思を示したが、バイデンは今、彼らが選択戦争(war of choice 訳者註:予防戦争や侵略戦争を意味する)をしようとしていると考えている。2014年と同様、現在のロシア軍のドンバス地方への移動は、西側から見れば違法であり、非道徳的であり、弁解の余地など全くない。しかし現実には、それにもかかわらずロシアのウクライナ侵攻が起きてしまった。ロシアがより広範な侵略を行わないことを決定したとしても、この危機は既にウクライナにかなりの経済的損害を与えている。

ここで私は戸惑っている。ロシアが重要な利益とみなすもの(よって戦う価値がある)は、西側諸国にとっては重要ではない(よって戦う価値がない)というように、決意に関して著しい不均衡があるだけでなく、直接関連する軍事力にも不均衡があるのだ。アメリカとNATOは全体としてロシアよりはるかに強いかもしれないが、ウクライナはロシアのすぐ隣にあるため、ロシアの空軍と地上軍に対して脆弱である。

しかし、このように能力的にも決意的にも大きな隔たりがあるにもかかわらず、アメリカの交渉姿勢(ひいてはNATO全体の姿勢)は、両者を分断する中心的な問題に関して全く揺らいでいない。その問題とは、ウクライナの将来の地政学的な位置づけだ。私の見落としがない限り、NATOは、ウクライナが加盟基準を満たせばいつでも同盟に参加する権利があると主張している。ウクライナがすぐに加盟するとは誰も思っていないにもかかわらず、西側はモスクワの懸念を払拭するために、この抽象的な原則を曲げない。ちなみに、これはあくまで抽象的なものである。「オープンドア(open door)」とは、NATOが数年前に採用した政策方針であり、誰にでも適用される普遍的な法則ではない。

以前にも私が論じたように、NATOが2008年のウクライナとグルジアの同盟加入宣言をなかなか撤回しないのは理解できることだ。NATOはモスクワに銃口を向けながら譲歩するということを望んでいない。しかし、この核心的問題(core issue)でロシアの要求をある程度受け入れないで、この危機を解決できると西側諸国の指導者たちが考えているのかどうか、私には理解できない。プーティンがミサイル防衛レーダーや他の兵器配備に関する小さな譲歩で満足すると考える理由はほとんどない。相手が軍事的に優位に立ち、自分よりも結果を重視する場合、紛争解決には通常、何らかの調整が必要となる。これは正しいか正しくないかの問題ではなく、影響力の問題である。

今回の危機について、ロシアの視点に共感できない人が多いことも私にとっては不可解だ。国際問題研究者のマシュー・ウォルドマンが2014年に指摘したように、「戦略的共感(strategic empathy)」とは、敵の立場に同意することではない。敵の立場を理解することであり、それによって適切な対応を採ることができるのだ。NATOの拡大についてどのように考えるかは別として、ロシアの指導者たちが当初からNATO拡大に警戒感を抱き、何度も懸念を表明していたことは、圧倒的に多くの証拠がある。モスクワは、国力が回復する過程で、NATOが東に向かうにつれて、ますます反発を強めていった。アメリカは最悪のケースを分析し(worst-case analysis)、遠い国の小さな安全保障問題をあたかも存亡の危機のように捉える傾向がある(もちろん、そうした問題を解決するために武力を行使することも躊躇しない)。そのことを考えると、アメリカの外交政策は、大国が脅威を誇張する傾向を強く意識して、身近な安全保障環境に非常に敏感であると思われる。しかし、それを指摘しようとすると、プーティンの世間知らずの弁明者と糾弾される可能性が高い。

しかし、この危機的状況において、外交政策のエスタブリッシュメントたちの間でおなじみの常套句を簡単に使ってしまうことには、戸惑いはないものの、やはり違和感を覚える。『ワシントン・ポスト』紙、『ジ・アトランティック』誌、アトランティック・カウンシルのウェブサイト、そして本誌『フォーリン・ポリシー』誌でさえ、ここ数週間はタカ派的な姿勢の記事が目白押しで、時折、反対意見が出てくるだけである。プーティンだけが問題の元凶とされ、独裁者アドルフ・ヒトラー、ヨシフ・スターリン、サダム・フセイン、フィデル・カストロ、バッシャール・アル=アサド、イランのエリート政治家全員、習近平、その他私たちがこれまで真剣に対立してきた全ての人々と一緒に悪魔化されている。アメリカは、好戦的ではあるが、そのほとんどが親米の姿勢を取る専制君主や独裁者たちと良好な関係を維持してきた。しかし、西側諸国はこの危機を、核武装した国家間の複雑な利害の衝突(complicated clash of interests between nuclear-armed states)ではなく、善と悪の道徳劇(morality play between good and evil.)として捉えようと努めている。いつものように、社会には、危機に瀕しているのはウクライナの地政学的な位置づけではなく、人類の歴史全体の方向性であると言われている。あたかもプーティンが大量虐殺を行う狂人で、その真の目的はヒトラーが試みたのと同じように全ヨーロッパを征服することであるとされている。第二次世界大戦直前のミュンヘン合意の類推が使われている。プーティンの主張全てと、彼の行動のほとんどを軽蔑することができる。私もそうだ。しかし、この種の単純な警戒心を拒否することもまた可能だ。このような傾向は特に危険で、ひとたび紛争がこのような厳格で道徳的な言葉で組み立てられると、妥協はタブーとなり、受け入れられる唯一の結果は相手側の完全な降伏となるからだ。

このような環境では、外交は単なるつけたしの余興(sideshow)に過ぎなくなる。西側諸国の政策対応も同様だ。対応としては、決意表明、同盟国を安心させるための象徴的な軍隊の派遣、経済制裁の発動といったお決まりのものが考えられるが、戦争のリスクを回避するための妥協案についてはほとんど考慮されていない。もっと悪いことに、このような傾向は相手側でも進行していると思われる理由がある。

残念ながら、もしアメリカの目標がモスクワを引き下がらせ、ウクライナがいつかNATOに加盟できることを黙認あるいは明確に認めることであるならば、失望することになりそうだ。ここにも過去の響きがある。アメリカの外交政策のエリートたちは、アメリカの力の限界を認識し、現実的な目標を設定することができないことを何度も示してきた。1990年代初頭から、米国の指導者たちは、「(1)国際規模の自由主義秩序を構築する、(2)中国を責任あるステイクホルダー(いずれは欧米の政治的価値を受け入れるようになる)に誘い込む、(3)イラク、アフガニスタン、その他いくつかのあり得ない国々を安定した自由民主政治体制国家に速やかに転換する、(4)世界から悪を取り除く、(5)北朝鮮とイランに核計画を放棄させる、(6)ロシアの反撃やモスクワと北京を接近させずに西側の望む通りにNATOを拡充できる」と自分たちに信じ込ませている。これらの目標(およびその他の目標)を達成するために何兆ドルもの資金が費やされたが、その成果はほとんどない。

しかし、このような屈辱的な失敗にもかかわらず、現在の危機は、アメリカが世界中で、たとえ欧米よりも他国にとって重要な地域であっても、政治体制を決定する権利、責任、(とりわけ最重要な)能力を有すると考える反射的傾向が依然として存在することを明らかにした。一極集中体制時代(unipolar era)の最盛期であっても、アメリカはそのような能力を持っていなかったし、現在でもそのような能力は有していない。だからと言って、アメリカが哀れでどうしようもない巨人であるとか、長期にわたってより安全で繁栄するような政策を追求することができないとかいうことはないのだ。アメリカは、度重なる自傷行為や国内での深刻な分裂にもかかわらず、依然として世界最強の国である。しかし、アメリカが達成できることには限界があり、成功するためには明確な優先順位を設定し、達成可能な目標を追求することが依然として必要なのである。

今回の危機的状況の最後の特徴として私が心配していることがある。それは、NATOに加盟しているアメリカの同盟諸国がこの危機を自ら処理する準備ができていないので、アメリカは再びヨーロッパの危機に対する緊急対応者(first responder)の役割を担うことになったということだ。また、ここには膨大な量の官僚的な、筋肉を動かす記憶(muscle memory)が働くことになる。東方からの脅威が生じた時にヨーロッパを強化し、安心させることは、ワシントンの得意とするところだ。もしアメリカとNATOがこの危機を戦争なしに乗り切ることができれば、ヨーロッパは自分たちの安全保障問題を処理できず、必要なときにはアメリカが駆けつけるから努力する必要はないという考えを益々強めることになる。ヨーロッパの防衛力を強化する取り組みは勢いを失い、アメリカの同盟諸国は最終的にロシアからのガス栓を再び開けてもらうことになるだろう。ウクライナとグルジアはNATOのドアを叩き続け、アメリカは何十年も自国の軍事力を萎縮させてきた、ヨーロッパの裕福な民主政治体制諸国を守るために努力し続けることになるのだ。

この結果、誰が一番得をするのか?私はその答えを本当に言わなければならないのか?

(貼り付け終わり)

(終わり)

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