古村治彦の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、以下のアドレスをご覧ください。http://soejimaronbun.sakura.ne.jp/goaisatsu.html 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。よろしくお願いします。

タグ:フランス

 古村治彦です。

 

 『フィナンシャル・タイムズ』紙に、今回のフランス大統領選挙の結果についての分析記事が掲載されていました。学歴、所得、失業、反エスタブリッシュメント意識といった要素からの分析がなされていました。以下に箇条書きした内容の要約をご紹介します。

 

 マクロンに投票したのは、教育程度が高く、社会的に恵まれている人々であり、ルペンに投票したのは、不平不満、フラストレーションを抱えている人々でした。ルペンに投票した人々は、イギリスのEU離脱の国民投票で離脱に投票した人々と同じような特徴を示す人々でした。

 

 既存の保守政党である共和党のフィヨン、リベラル政党である社会党のアモンを支持した有権者のほとんどはマクロンへ投票し、極左のメランションの支持者も多くはマクロンに投票したようです。ルペンは第1回目の投票から支持を10%ほど伸ばしましたが、これはメランションの支持者から流れたと見られています。

 

 ルペンに投票した人々は、反EU、反ドイツ中心、反移民の考えを強く持っている人々ということになります。極右で危険なファシストと罵倒されるルペンが3割の支持を得たということは右傾化という言葉だけでは片づけられないと思います。

 

 近年の西洋諸国の政治状況を見てみると、左派・リベラル政党の退潮が顕著に見られます。イギリスの労働党、オランダの労働党、フランスの社会党、アメリカの民主党、日本の民進党(旧・民主党)といった、政権を担当したこともある諸政党は勢力を落としています。これは、グローバライゼーションが生み出すひずみや格差、マイナスに対処するための政策を打ち出すべきであったこれらの諸政党が、グローバライゼーションを促進する役割を果たしたり、人々の生活を苦しめるような内容の政策を最悪の対民で打ち出してしまったりで、人々の信任を失ったためと考えられます。

 

 こうした左派・リベラル政党の支持者の一部が更に左翼的な政党やポピュリズム(既存の政党や政治に対する怒り)へと移行しているのが現在の状況です。これは「右傾化」という言葉では片づけられないと考えます。低所得やマイノリティの有権者はリベラル政党の再分配政策を支持してきました。社会の高学歴化と都市化と中流化が進み、リベラル政党がこうした恩恵に浴する有権者からの支持を得ようとしてグローバライゼーションを受け入れ、促進する政策を選択するようになり、政権に就くことになりましたが、元は再分配重視の政党ですから、中途半端に終わり、かえって有権者の支持を失っているということが現在起きていることだと思います。

 

 日本で言えば、安倍政権は、本質的には戦前回帰、反米、反国際協調主義なのでしょうが、グローバライゼーションを促進すると主張しています。それであるならば、野党第一党である民進党は、グローバライゼーションによるひずみを解消する、格差を拡大させない、固定化させない政策を主張すべきで、それが旧・民主党が掲げた「国民の生活が第一」というスローガンであったと思います。そして、昨年、ドナルド・トランプは「アメリカ・ファースト!」を掲げて、下馬評を覆して当選しました。トランプが言う「アメリカ」は、普通の一般国民(昔、日本でもパンピー[一般ピープル]なんて言葉が使われましたが)のことですので、旧・民主党のスローガンは時代を先取りしていたということが言えます。

 

 フランスの大統領選挙は、中道マクロンの勝利ということになりましたが、彼がどんな「中道」であるのか、これからはっきりしてくるでしょう。

 

====

 

French election results: Macron’s victory in charts(フランス大統領選挙の結果:マクロンの勝利をチャートで見る)

 

2017/5/8

Financial Times

https://www.ft.com/content/62d782d6-31a7-11e7-9555-23ef563ecf9a

 

=====

 

●総評

 

・マクロンは大差をつけて勝利した(66%対34%)。

・マクロンは、第一次投票で左派の候補だったメランションとアモンの支持した有権者の過半数の支持を受けた。中道右派のフィヨンの支持者の半数の支持も得た。

 

・ルペンの増加分はフィヨンを支持した有権者とメランションの支持者の10%の支持であった。

・メランションの支持者の3分の1は棄権したが、これが大勢に影響を与えることはなかった

 

●学歴

 

・学士号を持つ人々の数が多い地域ほど、マクロンへの投票が多かった。

・学歴が高い人が多く住む地域ではマクロンへの投票が多く、低い人々が住む地域ではルペンへの投票が多かった。

 

・このパターンは2016年のイギリスのEU離脱国民投票、アメリカの大統領選挙、オランダの総選挙でも見られた。学歴はポピュリズムに基づく投票行動を示す指標になる。学歴が低い人ほどポピュリズムを選び、学歴が高い人ほどそうではない。

 

●所得

 

・所得が高い人々ほどマクロンに投票すると予想されていた。富裕層を代表するマクロン対貧困層を代表するルペンという構図になっていた。

 

・学歴と所得とは相関関係にある。

・所得が高い人ほど都市部に住む傾向がある。都市部の場合は収入以外の社会的要因が投票行動に影響を与える。

 

・オランダの総選挙でも所得は重要な要因となった、所得が低い地域ではポピュリストのゲルト・ウィルダースへの投票が多かった。イギリスの国民投票でも同様のことが起きた。所得が低い地域ほど離脱への投票が多かった。

 

●労働者階級

 

・学歴に次いで、有権者に占める労働者階級の割合がルペンへの投票の指標となった。特にサーヴィス部門における単純作業に従事する非熟練労働者の数が顕著な指標となった。

 

・労働者階級、特に非熟練労働者は、エスタブリッシュメントに見捨てられたグローバライゼーションの被害者として語られた。

 

・しかし、FTの分析では、学歴と年齢を指標に比べると、労働者階級の人口に占める割合は有意な指標とはならなかった。

 

・大学教育を受けた人々は高い技術を必要としない仕事に就かない傾向にあり、大学教育を受けた人々の数は増加している。

 

・肉体労働者の多い地域では移民の割合も高いが、そうした人々は投票権を持っていないことが多い。

 

●失業

 

・低所得と同じく、失業問題もまたグローバライゼーションのために放置されているとルペンは主張していた。

 

・第1回投票でメランションに投票した有権者は、ルペンに投票した人々よりも失業問題を重視していた。第1回目の投票でマクロンを支持しない理由として失業問題を挙げる人の割合が多かったが、第2回目ではその割合は減少した。マクロンへの支持を巡って、こうした有権者は分裂した。

 

・ルペンは都市部で苦戦した。都市部の低所得者、失業者は第1回目の投票ではメランションに投票した。こうした人々は決選投票でルペンに投票しなかった。

 

●福利と悲観主義

 

・ルペンの支持者たちは将来についてより悲観的だという調査結果が出た。将来に対して楽観的な有権者はマクロンに投票した。

 

・親の世代よりも自分たちは恵まれないという認識を持っている人々はルペンに投票した。

 

●平均寿命

 

・マクロンに投票した地域では人々の平均寿命が長いことが分かった。

 

・平均寿命とマクロンへの投票との間には正の関係があると解釈される。平均寿命が長く福利に恵まれていると考える人々はルペンのマイナスの感情への訴えを拒絶し、マクロンのポジティヴな主張を支持した。

 

●移民

 

・移民の数とルペンへの投票との間で相関関係は発見できなかった。ルペンの支持者たちは移民を重要な問題だと考えている。

 

・イギリスのEU離脱国民投票とよく似ている。移民に対して否定的な考えを持つ人々はEU離脱に投票した。更に言うと、このような考えを持っている人々の方が投票に向かった。

 

●反エスタブリッシュメント意識

 

・左派を支持した有権者はマクロンに投票した。自分を「極左」だと分類した有権者は、「左派」「左派に近い」とした有権者よりもルペンに投票した人が多かった。

 

・西側諸国に長く続いた左右対決というパターンに変化が出てきている。それは、エスタブリッシュメント(中道)対過激勢力との間のイデオロギー上の戦いというものだ。

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22

 
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr Clip to Evernote

 古村治彦です。

 

 フランスでは大統領選挙が行われています。2017年4月23日に第1回目の投票が行われましたが、過半数を獲得する候補者がいなかったために、5月7日に上位2名による決選投票が行われます。

 

第1回目の投票では、中道の「アン・マルシェ!(前進)」のエマニュエル・マクロンが24.01%、極右の国民戦線のマリーヌ・ルペンが21.30%、保守の共和党のフランソワ・フィヨンが20.01%、左派のジャン=リュック・メランションが19.58%、中道左派の社会党のブノワ・アモンが6.36%の得票率を記録しました。マクロンとルペンが決選投票に進出しました。

 

 第3位となったフィヨンは敗北を認め、支持者たちにマクロンへの投票を呼びかけました。既成大政党である社会党の候補者でありながら、6%台の得票率しか記録できず、代惨敗となったアモンも、元は社会党の現職大統領フランソワ・オランド大統領政権下の閣僚を務めた元社会党員のマクロンへの支持を表明しました。左翼党のメランションは上位2名どちらへの支持も表明しませんでした。フィヨン、メランションを支持した人々の間で、決選投票に参加しない、棄権するという動きが広がっています。ルペンの国民戦線へのけん制と共に、マクロンも支持できないという感情が広がっているようです。

 

 以下に、『ワシントン・ポスト』紙に掲載されたフランス大統領選挙に関する記事をご紹介します。著者はアメリカの保守派コラムニストとして有名なジョージ・F・ウィルです。ウィルは保守派の論客ですから、民主党の大統領であったバラク・オバマには批判的でした。そして、今回のフランスの大統領選挙に関して、エマニュエル・マクロンをフランス版のバラク・オバマ(its own Barack Obama)だと述べています。中身のない候補者だとウィルは皮肉を込めて述べています。

 

 大統領選挙の決選投票に進出した中道と呼ばれるどっちつかずのマクロンと極右のルペンの最大の争点はEUとの関わり方であると思います。マクロンはEU残留を主張し、ルペンはEU離脱を主張しています。

 

 EU(ヨーロッパ連合)の基礎となったヨーロッパ統合の考え方は、ヨーロッパで二度と戦争を起こさない、そのためには、ドイツ問題(ドイツが蠢動するとヨーロッパが不安定化する)の解決と隣国同士であるフランスとドイツの友好を促進するというものです。フランスがEUから離脱するとなると、ヨーロッパ連合の基礎的な理念まで崩壊してしまいますし、物理的にはポルトガルとスペインのリベリア半島が他のEU加盟国と陸路ではつながらなくなるという事態も起きます。ですから、フランスのEU離脱は、EU崩壊のスタートとなることになります。

 

 フランスの社会史(アナール学派)・人工史学者であるエマニュエル・トッドの簡単に手に入るこれまでの書籍を数冊読むと、フランスがEUというシステムの中で、ドイツに従属していることの不満があることが分かります。「ドイツと喧嘩をしたい訳ではないが、ドイツと同じようなことをやらされるのは嫌だ、できない、国民性に合わない」という考えがフランスにあり、反EU、反ドイツの感情がフランス国民の中に沸き起こっているようです。

 

 こうしたフランス国民の多くが抱える不満について、日本でも良く似た事態が戦後に起きました。昭和24年度の国家予算について、その頃は日本政府はSCAP(連合国最高司令官)であるマッカーサー率いる占領当局(GHQ)の承認を必要としていました。昭和24年度の国家予算について、アメリカから派遣されていたジョセフ・ドッジは反対し、補助金を削減し、公共料金の値上げや減税公約の撤廃を求めました。激しいインフレーションに対処するために、日本国民に耐乏生活を求めました。しかし、選挙で勝利していた民主自由党の公約はほぼ通らなかったことになり、日本の政治家と国民は、占領されているからこのような屈辱を受けることになるのだ、と考え、早く独立したい、そのためには、戦争状態を終わらせる講和条約を早急に結び、独立すべきだと考えるようになりました。


 ドイツが求める均衡財政は嫌だし、それを堅持するとフランス国内で格差が拡大するが、EUにいる限りは、ドイツに従わねばならない、という状態が続くことになります。

 

 現在のフランスでも、社会党という社会主義政党が平等を追い求め、富の再配分を行う政策を放棄しなければならないほど、EU、特にドイツの意向に従う状況になっています。そうした中で、人々の中に、反EU、EUからの「独立」を求める声がでているようです。EUはひとまとまりで、アメリカに匹敵するGDPを占めることになります。世界の総GDPに占める割合は、アメリカが25%、EUが25%、中国が14%、日本が6%です。日中韓露で24%となります。EUそれぞれの国に分かれれば、割合は小さくなりますので、規模の経済を活かすにはまとまっていくしかありませんが、各国が抱える事情がそれぞれ異なるので、同床異夢、という状態になっています。

 

 しかし、現在のところ、マクロン対ルペンでは、マクロンがリードしているという世論調査の結果も出ています。マクロンという人物は中道と言っていますが、実際には親米で、親EU、ネオリベラリズム政策を行う人物です。中道というのは大変難しい言葉で、どっちつかず、無原則に何でも取り入れるということにもなりかねません。マクロン対ルペンで恐らくマクロンが勝利することになるでしょうが、フランスのEUからの「独立」を求める声がどれほど大きいものなのか、という点から、ルペンの得票率も大変気になるところです。フランス大統領選挙の結果でEUの将来の道筋が占えるのだろうと私は考えます。EUは国家のかなりの主権をEUに譲るということで成立していますが、これは行き過ぎで、関税同盟や経済連携にまで後退することもしかるべしではないかと考えます。

(貼り付けはじめ)

 

フランスはフランス版のバラク・オバマを選ぶのだろうか?(Will France elect its own Barack Obama?

 

ジョージ・F・ウィル筆

2017年4月26日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/opinions/will-france-elect-its-own-barack-obama/2017/04/26/067f754e-2aa3-11e7-b605-33413c691853_story.html?tid=ss_tw&utm_term=.29a451a0583c

 

フランス人は、他の国や人々の政治的な考えを借りられないほど知的な自惚れが強すぎる。しかし、同時に他の国のスタイルを評価し、取り入れることに興味を持っている。従って、5月7日のフランスの大統領選挙の決選投票で、フランス国民は、「ドゴール的な」バラク・オバマを大統領に選び出す可能性が高い。

 

2008年、新人の連邦上院議員だったオバマは、アメリカにとってのロールシャッハテストの役割を果たした。アメリカ国民は彼らの希望をオバマに投影した。39歳のエマニュエル・マクロンはパリの投資銀行に勤務していた。彼はこれまでの選挙で嫌な思いをしたことがなく、曖昧さをうまく隠せる人物だ。マクロンの公約は、ジョナサン・ミラーが『スペクテイター』誌で書いたように、「ジャコブ通りに住む高額所得者たちから提供されるチョコレートの入ったお菓子箱であり、ソフトな中道的主張」である。中道主義者を自称するマクロンは、現職大統領、社会党のフランシス・オランドの閣僚を務めた人物だ。オランドの最新の支持率は4%となっている。先週の日曜日、社会党の大統領候補者ブノワ・アノンは6.35%の得票率であった。マクロンは自分が率いる運動体を「前進(En Marche!,on the move)」と呼ぶ。これは、オバマ大統領が掲げた「私たちは、私たちが長年待ち望んだ存在となっている」という主張と同じくらいに自己満足で役に立たないものだ。マクロンは、良い人間になることで長く続く経済不況を改善しようと提案している。これは、結局のところ、「彼女」のようにならない、ということを意味している。

 

1984年の大統領選挙で、マリーヌ・ルペンの父ジャン・マリーは反ユダヤ主義と外国嫌悪の主張を掲げ、200万以上の得票を得た。パリのある新聞は見出しに次のように掲げた。「フランスには、218万2248名のファシストがいるのか?」これは、道理にかなわない質問だ。ジャン・マリーは「権威を示す束桿(fasces)の下で国家の全ての勢力をまとめる」と主張したのだ。ジャン・マリーはローマの権力の象徴を主張したのだ。ローマにおける権力の象徴は、斧の周りに木の板を合わせた束桿であった。ここからファシズム(fascism)という言葉が出来た。彼のスローガンは狡猾だった。「私のプログラムはあなたが考えていることだ」というものだ。その意味するところは、「ユダヤ人、移民、負け組について皆さんが語りたがらないこと」というものだった。

 

すっぱりリンゴがなる木から、ジャン・マリーの娘がどれほど離れているのかは明確ではない。マリーヌの選挙運動のスローガンは、「フランスは私たちの家だ(“On est chez nous” “This is our home”)」というものだ。このスローガンは、フランスがどんどんフランスらしさを失っているという懸念の表明である。同化を拒む数百万の移民は、空想の多文化主義の徒労を意味する。空想の多文化主義は移民の急激な流入から関係ない場所で快適に暮らしている人々によって唱導されている。ルペンと血と国土を基礎にしたナショナリズムは、アイデンティティが衰退しているという感情に対する反対の叫び声なのだ。

 

フランスの図書館にはフランスの歴代の憲法がきちんと収められているというのは正しくない。1791年以降、フランス憲法は多くの書き換えが行われた。現在のフランス憲法は59年前に制定された。しかし、一般的に国家のアイデンティティは言語的な統一と強く結びつくものであり、フランスの国家アイデンティティはある意味で、比較的若いものである。政治学者のフランシス・フクヤマは次のように書いている。「1860年代、フランス国民の4分の1はフランス語を話せなかった。また別の4分の1は第二外国語としてフランス語を話した。フランス語はパリの言葉であって、教育を受けたエリートの言葉であった。フランスの地方では、農民たちはブレトン語、ピカード語、フレミッシュ語、プロヴァンス語、その他の方言を話した」。マリーヌ・ルペンは、フランス性の権化だと自称している。しかし、彼女はパリで5%以下の得票率しか記録できなかった。国家アイデンティティが認識された場所パリでルペンは最も強力な選挙運動を展開したが、それほどの得票しかなかった。

 

1977年、フランスのGDPはイギリスのGDPよりも約60%も大きかった。現在はイギリスよりも小さくなっている。この期間、イギリスにはマーガレット・。サッチャーが出現し、フランスは「ネオリベラリズム」に抵抗した。上記のように、外国からの考えを寄せ付けないということを意味する。ネオリベラリズムは、「経済統制政策(dirigisme)」として知られる、強力な国家による経済指導を廃止することを意味する。経済統制はフランスの硬直性を象徴している。フランスの失業率は10%で、若い世代に限ればこの数字が2倍になる。

 

公的部門の支出はフランスのGDPの56%以上を占めている。これは他のヨーロッパ諸国よりも高い割合だ。マクロンは国家主義の一部を少し削り取ることしかできないと約束している。マクロンは彼が追い求めないものを受け取ることはないだろう。退職年齢62歳や週35時間労働、フランスの3500ページに及ぶ労働規制に挑戦する特別な権限を手にすることはないだろう。これによって労働者を解雇することは困難になり、経営者たちは人を雇用することに躊躇することになる。マクロンは、より強力なヨーロッパ連合を求めている。強力なヨーロッパ連合は民主政治体制を損ない、傲慢な規制が幅を利かすようになる。

 

1930年代、ヨーロッパの左翼は狼狽した。それは、資本主義の危機が鼻持ちならない、不快な右翼を利することになったからだ。この時代の右翼は、人々の怒りを基礎にして、経済と文化の面での懸念を融合することで台頭してきていた。今日、グローバライゼーションは、大西洋両岸のアメリカとヨーロッパで似たような激しい動きを起こしている。ルペンの台頭は、彼女を大統領にまで押し上げる可能性が高いところまで来ている。しかし、フランスや他の国々で自己満足している人々は、アメリカで公民権運動が盛んになっていた1963年にアフリカ系アメリカ人作家ジェイムズ・ボールドウィンが警告した、アフリカ系アメリカ人に関わる霊的な言葉を覚えておくべきだ。

 

神はノアに虹のサインを示した。

 

これ以上は水はでないが、次は大規模な火事が起きる、と。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)







このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr Clip to Evernote

ダニエル・シュルマン
講談社
2015-12-09






 

 パリで大規模なテロ事件が起き、多くの人々が犠牲となった事件が発生し、数日経ちました。犠牲となった人々を悼む動きはパリやフランス国内、更には世界中で見られます。犠牲となった人たちを悼むことは人間としてとても自然なことで、その感情もまた人間らしいものです。

 

 インターネットのSNS大手のフェイスブックでは自分のアイコンにフランス国旗を重ね合わせて哀悼と連帯の意を表示できるようになっています。私はあの三色旗の間の線が何かを閉じ込める格子のように見えるなぁと感じていますが、そうしたもまた人間的な感情の発露であると思います。

 

 フランスのオランド大統領は、IS(イスラム国)との「戦争」を宣言し、フランス憲法を改正するということまで発表しました。「自由・平等・博愛」で出来ていたフランスが急速に戦争国家へ転換していっています。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

パリ同時多発テロ:仏大統領、対テロ戦で憲法改正へ

毎日新聞 20151117日 2354分(最終更新 1118日 0113分)

http://mainichi.jp/select/news/20151118k0000m030139000c.html

 

 ◇過激な思想を持つモスクの閉鎖の検討も

 

 【パリ賀有勇】パリ同時多発テロを受け、フランスのオランド大統領は16日、テロ攻撃に柔軟に対応するため、非常事態宣言によらなくても強力な治安対策をとれるよう憲法改正に乗り出す方針を示した。また、国内のテロ対策を強化するため、危険人物を国外に迅速に追放したり、過激な思想を持つモスク(イスラム礼拝所)の閉鎖を命じたりすることの検討を始めた。同時テロで犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆強化だけでなく、国内でもテロ対策に全力を挙げる姿勢を鮮明にした。

 

 非常事態宣言の根拠となる非常事態法は、アルジェリア独立戦争初期の1955年に公布され、現代のテロ攻撃などを想定していない。そのため、発動するには厳しい条件が課せられている。仏ルモンド紙によると、オランド氏は国民の自由に配慮するため、非常事態宣言に代わる手段で治安対策を強化できるよう、憲法改正を行う意向だという。

 

 憲法改正には、上下各院での過半数の賛成に加え、両院合同会議での5分の3以上の賛成か、国民投票での過半数の賛成が必要になる。

 

 また、オランド氏は議会に対し、テロ事件後に出した非常事態宣言を3カ月延長するよう要請した。現行の宣言下では▽裁判所の捜索令状なしでの家宅捜索▽報道規制▽人や車の往来の制限▽集会開催や夜間外出の禁止▽カフェやレストランの閉店−−などを命じることができる。

 

 一方、オランド氏は実行犯の中に監視対象者がいたにもかかわらず、国境を自由に行き来していたことなどを問題視し、新たなテロ対策を打ち出した。テロリストの流入を防ぎ、テロの芽を事前に摘むことを目的に▽過激思想を持つモスクの閉鎖▽危険とみなした外国人を速やかに国外追放するための手続きの簡素化▽国境警備に当たる職員やテロ対策に当たる警察官の増員▽過激思想の持ち主の監視強化−−を検討する。

 

 ISに対する軍事攻撃を巡り、オランド氏は17日、パリでケリー米国務長官と会談。空爆を強化し、圧力を強めていく方針を確認した。また、仏大統領府は、オランド氏がオバマ米大統領とワシントンで24日に、プーチン露大統領とモスクワで26日にそれぞれ会談すると発表した。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

私は昨日まで鶴見俊輔著『思い出袋』(岩波新書、2010年)を読んでいました。鶴見俊輔はハーヴァード大学哲学科卒の哲学者で、ベ平連にもかかわっていた人物です。『思い出袋』は、彼が80代になってから書いた随想を集めた本です。この本を読んで、現在の状況を示唆する部分があったので、以下に引用します。

 


(引用はじめ)

 

もうひとつは、一九四五年日本占領のときに海軍軍医として日本にきた同級生が、名簿をたよりに私をたずねてきた。初対面だったが、彼が最高優等賞を取ってハーヴァード大学を出ていることは後で知った。彼、エリック・リーバーマンが話題にしたのは、米国はこれから全体主義になるだろうということだった。一九三〇年代のアメリカで学生だった私には、信じられなかった。しかし、二〇〇一年九月十一日の同時多発テロのあとにテレビに登場した米国大統領ブッシュが、「私たちは十字軍だ」という演説をしたとき、リーバーマンの予測が六十年たって当たったことを感じた。(50ページ)

 

 そのホッブスはイギリス革命の動乱の中で、終生はなれない恐怖とともに生まれた双子だった。ホッブス『リヴァイアサン』を読むと、自分一個の生命を保つためならば、各個人はなにをしてもいいという強い個人的な思いにその文体が支えられているのを感じる。彼が専制的支配を許すのは、そのような各個人の生命を守りたいためで、ホッブスをひっくりかえしたルソーのほうが全体主義に近い。(56ページ)

 

(引用終わり)

 

 今回のテロ事件に対する反応は2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ事件とその後を髣髴とさせるものです。鶴見のハーヴァード大学の同窓生は、彼に向かって、「アメリカは全体主義国家になる」と予言しましたが、アメリカが帝国として世界を支配する上で、国家の変質が起きているということだったのでしょう。そして、その「地」が暴き出されたのが、2001年の同時多発テロ事件だったのだと思います。

 

 鶴見俊輔はまた、思想家トマス・ホッブスとジャン=ジャック・ルソーを裏表の関係にある存在としてとらえています。ホッブスは各個人が「万人の万人に対する闘争」に嫌気がさして、自分たちの権利を一部放棄してでも、自分たちを食い殺す怪物である国家(リヴァイアサン)の支配を受け入れると主張しました。ルソーは、『社会契約論』で社会の成員全員が一致する一般意思による支配を主張しました。

 

 フランスは「自由・平等・博愛」というルソー的な建前を押し通してきましたが、「生命の危機」に直面することで、その装飾が剥がされ、ホッブス的な専制支配を受け入れる方向に進んでいます。更に言えば、「自由・平等・博愛」という建前の中に、人々を「抑圧」する要素があって、そのために簡単に専制的な方向に転換できるのだと思います。それを鶴見俊輔は「ホッブスをひっくりかえしたルソーの方が全体主義に近い」と喝破しているのだと思います。

 

 西洋の近代的な価値観を体現したようなフランスを戦争国家へと簡単に転換させたテロ事件ですが、アメリカの共和党ネオコンと民主党人道主義的介入派にとっては、大きな追い風となっているようです。今回の事件で誰が「利益」を得るのか、という視点から見れば、今回の事件を仕組んだ人々の存在が浮かび上がってきます。残念なことは、日本、そして安倍政権はその仲間に入っているようだということです。

 

(終わり)



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12


野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23


 
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr Clip to Evernote

このページのトップヘ