古村治彦です。

 

 『フィナンシャル・タイムズ』紙に、今回のフランス大統領選挙の結果についての分析記事が掲載されていました。学歴、所得、失業、反エスタブリッシュメント意識といった要素からの分析がなされていました。以下に箇条書きした内容の要約をご紹介します。

 

 マクロンに投票したのは、教育程度が高く、社会的に恵まれている人々であり、ルペンに投票したのは、不平不満、フラストレーションを抱えている人々でした。ルペンに投票した人々は、イギリスのEU離脱の国民投票で離脱に投票した人々と同じような特徴を示す人々でした。

 

 既存の保守政党である共和党のフィヨン、リベラル政党である社会党のアモンを支持した有権者のほとんどはマクロンへ投票し、極左のメランションの支持者も多くはマクロンに投票したようです。ルペンは第1回目の投票から支持を10%ほど伸ばしましたが、これはメランションの支持者から流れたと見られています。

 

 ルペンに投票した人々は、反EU、反ドイツ中心、反移民の考えを強く持っている人々ということになります。極右で危険なファシストと罵倒されるルペンが3割の支持を得たということは右傾化という言葉だけでは片づけられないと思います。

 

 近年の西洋諸国の政治状況を見てみると、左派・リベラル政党の退潮が顕著に見られます。イギリスの労働党、オランダの労働党、フランスの社会党、アメリカの民主党、日本の民進党(旧・民主党)といった、政権を担当したこともある諸政党は勢力を落としています。これは、グローバライゼーションが生み出すひずみや格差、マイナスに対処するための政策を打ち出すべきであったこれらの諸政党が、グローバライゼーションを促進する役割を果たしたり、人々の生活を苦しめるような内容の政策を最悪の対民で打ち出してしまったりで、人々の信任を失ったためと考えられます。

 

 こうした左派・リベラル政党の支持者の一部が更に左翼的な政党やポピュリズム(既存の政党や政治に対する怒り)へと移行しているのが現在の状況です。これは「右傾化」という言葉では片づけられないと考えます。低所得やマイノリティの有権者はリベラル政党の再分配政策を支持してきました。社会の高学歴化と都市化と中流化が進み、リベラル政党がこうした恩恵に浴する有権者からの支持を得ようとしてグローバライゼーションを受け入れ、促進する政策を選択するようになり、政権に就くことになりましたが、元は再分配重視の政党ですから、中途半端に終わり、かえって有権者の支持を失っているということが現在起きていることだと思います。

 

 日本で言えば、安倍政権は、本質的には戦前回帰、反米、反国際協調主義なのでしょうが、グローバライゼーションを促進すると主張しています。それであるならば、野党第一党である民進党は、グローバライゼーションによるひずみを解消する、格差を拡大させない、固定化させない政策を主張すべきで、それが旧・民主党が掲げた「国民の生活が第一」というスローガンであったと思います。そして、昨年、ドナルド・トランプは「アメリカ・ファースト!」を掲げて、下馬評を覆して当選しました。トランプが言う「アメリカ」は、普通の一般国民(昔、日本でもパンピー[一般ピープル]なんて言葉が使われましたが)のことですので、旧・民主党のスローガンは時代を先取りしていたということが言えます。

 

 フランスの大統領選挙は、中道マクロンの勝利ということになりましたが、彼がどんな「中道」であるのか、これからはっきりしてくるでしょう。

 

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French election results: Macron’s victory in charts(フランス大統領選挙の結果:マクロンの勝利をチャートで見る)

 

2017/5/8

Financial Times

https://www.ft.com/content/62d782d6-31a7-11e7-9555-23ef563ecf9a

 

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●総評

 

・マクロンは大差をつけて勝利した(66%対34%)。

・マクロンは、第一次投票で左派の候補だったメランションとアモンの支持した有権者の過半数の支持を受けた。中道右派のフィヨンの支持者の半数の支持も得た。

 

・ルペンの増加分はフィヨンを支持した有権者とメランションの支持者の10%の支持であった。

・メランションの支持者の3分の1は棄権したが、これが大勢に影響を与えることはなかった

 

●学歴

 

・学士号を持つ人々の数が多い地域ほど、マクロンへの投票が多かった。

・学歴が高い人が多く住む地域ではマクロンへの投票が多く、低い人々が住む地域ではルペンへの投票が多かった。

 

・このパターンは2016年のイギリスのEU離脱国民投票、アメリカの大統領選挙、オランダの総選挙でも見られた。学歴はポピュリズムに基づく投票行動を示す指標になる。学歴が低い人ほどポピュリズムを選び、学歴が高い人ほどそうではない。

 

●所得

 

・所得が高い人々ほどマクロンに投票すると予想されていた。富裕層を代表するマクロン対貧困層を代表するルペンという構図になっていた。

 

・学歴と所得とは相関関係にある。

・所得が高い人ほど都市部に住む傾向がある。都市部の場合は収入以外の社会的要因が投票行動に影響を与える。

 

・オランダの総選挙でも所得は重要な要因となった、所得が低い地域ではポピュリストのゲルト・ウィルダースへの投票が多かった。イギリスの国民投票でも同様のことが起きた。所得が低い地域ほど離脱への投票が多かった。

 

●労働者階級

 

・学歴に次いで、有権者に占める労働者階級の割合がルペンへの投票の指標となった。特にサーヴィス部門における単純作業に従事する非熟練労働者の数が顕著な指標となった。

 

・労働者階級、特に非熟練労働者は、エスタブリッシュメントに見捨てられたグローバライゼーションの被害者として語られた。

 

・しかし、FTの分析では、学歴と年齢を指標に比べると、労働者階級の人口に占める割合は有意な指標とはならなかった。

 

・大学教育を受けた人々は高い技術を必要としない仕事に就かない傾向にあり、大学教育を受けた人々の数は増加している。

 

・肉体労働者の多い地域では移民の割合も高いが、そうした人々は投票権を持っていないことが多い。

 

●失業

 

・低所得と同じく、失業問題もまたグローバライゼーションのために放置されているとルペンは主張していた。

 

・第1回投票でメランションに投票した有権者は、ルペンに投票した人々よりも失業問題を重視していた。第1回目の投票でマクロンを支持しない理由として失業問題を挙げる人の割合が多かったが、第2回目ではその割合は減少した。マクロンへの支持を巡って、こうした有権者は分裂した。

 

・ルペンは都市部で苦戦した。都市部の低所得者、失業者は第1回目の投票ではメランションに投票した。こうした人々は決選投票でルペンに投票しなかった。

 

●福利と悲観主義

 

・ルペンの支持者たちは将来についてより悲観的だという調査結果が出た。将来に対して楽観的な有権者はマクロンに投票した。

 

・親の世代よりも自分たちは恵まれないという認識を持っている人々はルペンに投票した。

 

●平均寿命

 

・マクロンに投票した地域では人々の平均寿命が長いことが分かった。

 

・平均寿命とマクロンへの投票との間には正の関係があると解釈される。平均寿命が長く福利に恵まれていると考える人々はルペンのマイナスの感情への訴えを拒絶し、マクロンのポジティヴな主張を支持した。

 

●移民

 

・移民の数とルペンへの投票との間で相関関係は発見できなかった。ルペンの支持者たちは移民を重要な問題だと考えている。

 

・イギリスのEU離脱国民投票とよく似ている。移民に対して否定的な考えを持つ人々はEU離脱に投票した。更に言うと、このような考えを持っている人々の方が投票に向かった。

 

●反エスタブリッシュメント意識

 

・左派を支持した有権者はマクロンに投票した。自分を「極左」だと分類した有権者は、「左派」「左派に近い」とした有権者よりもルペンに投票した人が多かった。

 

・西側諸国に長く続いた左右対決というパターンに変化が出てきている。それは、エスタブリッシュメント(中道)対過激勢力との間のイデオロギー上の戦いというものだ。

 

(終わり)





アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22