古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:フーシ派

 古村治彦です。2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界の構造は大きく変化しつつあります。「衰退し続ける西側諸国(ザ・ウエスト、the West)対発展し始めた西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)」の二極構造が出現しつつあります。英米対中露の争いとも言えます。こうしたことを分析しました。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 世界の物流の重要地域である紅海で、イエメンの反政府組織フーシ派が民間船舶に対する攻撃を断続的に行い、それに対して、イギリスとアメリカが攻撃を行っている。地中海とスエズ運河を通じてつながっている紅海は、そのままインド洋、太平洋ともつながっており、世界の海運の最重要ゾーンと言える。ここを通れない船舶は、アフリカ大陸を迂回するルートを選択することになり、日数と輸送料、保険料が増えていくことになる。結果として、それが物価に影響を与え、食料やエネルギーの価格が高騰することになる。
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 イエメンの反政府組織フーシ派は、イエメン内戦に政府側として介入してきたサウジアラビアと戦っている。しかし、同時にサウジアラビアはフーシ派と交渉を続け、停戦に持っていこうとしていた。しかし、英米による攻撃によって、この交渉が頓挫してしまった。フーシ派と長年にわたり戦ってきたサウジアラビアが英米の攻撃に冷淡なのは、サウジアラビアからすれば、「余計なことをして状況を悪化させやがって」という不快感を持っていることを示している。
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 中国の一帯一路構想は、こうした状況にうまく対処できる方策を示している。それは、ヨーロッパと中国を陸路で結ぶ「シルクロード構想」でる。鉄道や高速、一般道路、パイプラインなどを通じて、海運の代替輸送が可能になっている。ヨーロッパ諸国にとって中国は最大の貿易相手国である。スエズ運河を使えず、紅海を使えないとなればそれは死活問題となるが、陸路という代替手段があることは重要である。中国は現在のような状況を予見していたかのように、2013年から一帯一路構想を推進してきた。
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 私は更に、この一帯一路構想は、インドを締め上げるという意図と、更には、アメリカを国際物流から切断することもできる方策を持つ意図があるのだろうと考えている。BRICSにおいて、西側に一番気を遣っているのがインドである。それはそれで戦略として正しいが、インドが裏切らないようにするために、中露は北と南から包囲する形を取っている。また、ユーラシアとアフリカ、南米をつなぐ、BRICS圏と一帯一路を完成させることで、北アメリカを孤立させることもできる。

 紅海危機(Red Sea Crisis)は、フーシ派はパレスティナ支援の一環として、西側の船舶を対象にして攻撃を行うようになっている。イスラエルの過剰なガザ地区への攻撃は、国際的な非難を浴びている。イスラエルだけではなく、イスラエルを支援するアメリカに対しても非難の声が上がっている。今回の紅海危機は、フーシ派が攻撃を行っていることで起きているが、紅海湾岸の諸国や中東諸国は静観している。英米とは一線を画している。フーシ派にはイランが支援を行っており、イランの大後方には中国が控えている。イギリスとアメリカが中東地域の安全保障分野における大きな役割を果たしてきた。しかし、中東諸国は、今回、そうした動きを謝絶している、そのように私には見える。

(貼り付けはじめ)

紅海危機は中国が先手を打っていたことを証明した(The Red Sea Crisis Proves China Was Ahead of the Curve

-一帯一路構想は邪悪な陰謀ではなかった。それは、不確実性(uncertainty)と混乱(disruption)の時代に全ての国が必要とするものの青写真だった。

パラグ・カンナ筆

2024年1月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/20/url-red-sea-houthis-china-belt-road-suez-trade-corridors/

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2021年3月27日、エジプト。紅海の港湾都市スエズ近郊のスエズ運河南口で、スエズ運河通貨を待つために停船している船舶の航空写真。

過去2カ月にわたり、紅海とアラビア海を結ぶ戦略上重要なバブ・エル・マンデブ海峡でフーシ派反政府勢力の攻撃が激化し、世界最大規模の海運各社はスエズ運河の航行を数週間停止し、更にはルート変更をしなくてはならなくなった。アメリカとイギリスがイエメンへの攻撃を開始し、状況がエスカレートしたため、民間の船舶はこの地域を避けるようになった。

地中海やアラビア海峡を行き来する船舶が選択肢を検討している一方で、バブ・エル・マンデブ海峡を完全に迂回する船舶もある。2023年12月中旬、サウジアラビアは、アラブ首長国連邦のジェベル・アリやバーレーンのミナ・サルマンといったペルシア湾の港に滞留している物資について、トラックでイスラエルのハイファ港まで自国領内を通過できるようにするための、アラビア湾から地中海への「陸橋(land bridge)」の構築を承認した。

これで分かるだろう。2023年10月7日のハマスからのイスラエルへの激しい攻撃によってアブラハム合意(UAEとイスラエルの国交正常化合意)が破棄されることはなかった。また、サウジアラビアとUAEは二国家共存によるパレスティナ紛争解決を強く支持しているが、紅海上の混乱に対処するために両国ともイスラエルとのインフラ協力を加速させている。サウジアラビアとUAEはイスラエルとの協力姿勢を崩していない。そして、紅海上の混乱を収めようとするのは、もちろん、通常であればエジプトの金庫に流れ込むであろう通過料金がきちんと徴収されるようにするためでもある。しかし、陸路輸送を促進することで、ペルシア湾岸・イスラエル間の航路が紅海の海上ルートから10日間短縮されるのは大きな利益となる。

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地図が示している通り、アラビア海から紅海に入り、スエズ運河を通って地中海に出る紅海周辺の国々サウジアラビア、イエメン、エジプト、イスラエルは、世界的な貿易の重要地点である。

出典:アメリカエネルギー情報局

紅海での海上テロやロシア・ウクライナ戦争による地政学的ショックは、世界経済、とりわけ発展途上各国が新型コロナウイルス感染拡大(パンデミック)による財政的痛手からの回復に苦闘している中で、物流コストと食料品価格を押し上げている。最近もアイスランドで火山が噴火し、航空運賃が上昇した。

今日の永続的な変動に対する解決策は、北京とワシントンの首脳会談やG7のグループ・セラピー・セッション、あるいは世界経済フォーラムや国連気候変動会議のようなトーク・フェスティバルからは生まれないだろう。その代わりに、深刻な相互不信と予測不可能な危機に悩まされる世界が、世界的な公益のために意味のある集団行動を起こすための道筋は、まさに1つしかない。供給ショックの解決策は、サプライチェィンを増やすことである。経済ベルト(belts)を増やし、通行路(roads)を増やすことだ。

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2023年10月18日、北京の人民大会堂で開催された第3回「一帯一路」国際協力フォーラムの開幕式で演説する中国の習近平国家主席。

中国はこのことを何年も前から認識し、それに基づいて行動してきた唯一の国だ。中国が昨年10月、こうした構想を象徴する、一帯一路構想(Belt and Road Initiative BRI)発足10周年を記念して130カ国以上の指導者や代表を北京に招集した際、10年前と同様、多くの西側諸国の指導者たちは不快感を示した。西側の指導者たちは、中国を世界貿易ネットワークの中心に置くことで西側主導の国際秩序を弱体化させるステルス計画として、一帯一路構想を捉えてきた。

しかし、機能的な観点から見れば、一帯一路構想は全ての国が自国の国益のために行うべきことを象徴している。すなわち、国家の利益は、不測の事態に対するヘッジ(hedge、備え)として、また自国の資源や製品とのアクセス性と影響力を高めるために、需要に見合った供給経路をできるだけ多く構築することである。

このようなヘッジの必要性は、2021年、巨大コンテナ船エバー・ギブン号がスエズ運河で座礁し、新型コロナウイルス感染拡大不況の中で世界が貿易の復活を模索していた矢先、ヨーロッパとアジア間の貿易が全面的に凍結されたことで明らかになった。滞貨の大部分は2週間以内に解消されたものの、世界のジャスト・イン・タイムのサプライチェィンにとっては、摩擦のない貿易を前提に、メーカーや小売業者が部品や商品の在庫を低く抑えている中で、不安な経験となった。また、出荷が遅れた場合の保険料も毎週高額となった。

海上のチョークポイントの脆弱性が、紅海でのフーシ派のテロ、黒海でのロシアの穀物封鎖、パナマ運河の干ばつ、あるいはマラッカ海峡近くの潜在的な南シナ海紛争によって露呈したとしても、世界経済の最大ゾーンである北アメリカ、ヨーロッパ、アジアは、このような散発的で制御不能な出来事の人質とされるべき理由は存在しない。

確かに、船舶はアフリカの喜望峰を巡るスエズ運河以前のルートを選択し、通常の20から 30日の輸送時間に、更に10から14日追加される可能性がある。しかしその代わりに、中国とヨーロッパ諸国(互いの最大の貿易相手国)はより賢明な方法を選択した。ユーラシア大陸横断鉄道の貨物輸送は、2021年初頭に月間1000本の貨物列車となり、列車数が倍増して、信頼性と定時性が向上した。

ユーラシアを網羅する高速道路や鉄道、インド海や北極海沿いの港湾の更なる建設・整備は、世界経済の適切な機能に依存する世界の貨物・商品貿易に柔軟性と代替ルートを生み出すために不可欠である。このような投資は、保護主義、地政学、気候変動から生じるインフレショックに対する効果的な予防措置となる。

一帯一路構想が変革をもたらしていないと主張するのは難しい。 2013年以来、約1兆ドルの資金が建設プロジェクトや非金融投資として一帯一路加盟諸国に流入した。

特に人口過密の発展途上諸国にとって、国内需要に対応し、経済乗数効果(economic multiplier effects)を生み出し、世界経済との接続を構築するには、強固なインフラが不可欠だ。ハンガリーやセルビアなどのヨーロッパの周縁諸国も一帯一路構想の受益者であるが、ザンビアやスリランカなどの他の国々と同様、過剰債務(excessive debt)と中国による一部の政治的支配という代償を払ってこれらを実現した。

西ヨーロッパに関しては、イタリアが2019年に一帯一路構想に加盟し、2023年末に離脱したが、これは大規模な二国間貿易において中国市場への十分な相互アクセスが得られなかったことに対するヨーロッパの不満の表れである。

一方、昨年9月にニューデリーで開催されたG20サミットでは、提案されている200億ドル規模の多様なインド・中東・欧州経済回廊(India-Middle East-Europe Economic Corridor IMEC)は、一帯一路のライバルとして、アメリカによってすぐに歓迎されたが、それははるかに地元密着型である。

一例を挙げると、インドのナレンドラ・モディ首相も、イラン経由でロシアへの貿易回廊(trade corridor)を宣伝しているが、これはワシントンの耳にはまったく愉快な音楽ではない。同様に、サウジアラビアとUAEがアメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国、インド、日本に同時に求愛していることからも明らかなように、自信に満ちた湾岸アラブ諸国は、いわゆる新冷戦でどちらの味方もしている訳ではない。その代わりに、彼らはヨーロッパ、アフリカ、アジアの間の地理的な交差点としての役割を高めるために、巧みな複数の同盟(multialignment)を実践している。

これらの地理を組み合わせた造語は「アフロ・ユーラシア(Afro-Eurasia)」だ。この用語は学者たちが植民地時代以前の文明と商業の軸を指すために使用しており、事実上、いわゆる新世界(the New World)の発見に先立って既知の世界を構成するということになる。

今日、アフリカ・ユーラシアは再び世界の人口動態、経済学、地政学の中心地となっている。このインド太平洋システムに属する全ての国は、グローバライゼーションを低下させるのではなく、更なるグローバライゼーションを望んでいる。最もつながりのある大国は、貿易国家に他国の地理ではなく自国の地理を使用させることで勝利する。

彼らは、分断されるのではなく、ますます混ざり合い、階層化する世界から恩恵を受けている。実際、負けじとばかりに、同じG20サミットで、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領も、イラク南部のバスラ港を経由してトルコを経由してヨーロッパに至る別の貿易通過回廊を提案した。

EU加盟諸国は、インド太平洋における中国の戦略的影響力に対抗し、中国による太陽光パネルや電気自動車のダンピングから自国市場を守るという点でアメリカと歩調を合わせている。しかし、ヨーロッパはまた、各国首脳がインド、ヴェトナム、インドネシア、シンガポールを頻繁に訪問していることから分かるように、アラブ諸国やアジア経済への輸出拡大にも熱心な姿勢を保っている。 2016年に中国企業COSCOがギリシャのピレウス港の株式の過半数を取得したことをめぐる騒動にもかかわらず、それはIMEC複合一貫航路で想定されている終着点と全く同じである。

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2018年11月10日、スリランカのコロンボで建設中の新しい高層ビルが見られる中、ゴール・フェイス・グリーン沿いにたむろするスリランカの若者たち。

西側諸国の外交官やアナリストたちはもはや中国の一帯一路構想を否定はしていないが、根底にある背景をまだ完全には把握していない。一帯一路構想は攻撃的というよりも防御的な試みとして始まった。中国は世界の工場となり、拡大する産業基盤を強化するために大量のエネルギーと原材料の輸入を必要としていたが、今日世界のサプライチェインを悩ませているのと同じ難所に対して脆弱なままだった。同時に、鉄鋼やその他の商品の膨大な余剰生産を吸収できる市場を模索した。

中国の国防費、武器輸出、ならず者国家やアメリカの同盟諸国との戦略的関係が同様に拡大するにつれ、一帯一路構想は中国の大戦略の中核要素であり、世界を切り開く邪悪な陰謀と見なされるようになった。しかし、地政学は非線形(nonlinear)だ。中国は、インドとのヒマラヤ国境を越えて南シナ海への積極的な侵攻と、一部の批評家が「債務罠外交(debt-trap diplomacy)」と呼ぶ厄介な財政条件で、すぐに自ら疑惑を引き起こした。

その後、西側諸国と同盟大国は対抗策を講じ始めた。軍事分野では、オーストラリア、インド、日本、米国のクアッド連合(Quad coalition)はインド太平洋で海洋協力を強化し、ヴェトナムなど南シナ海の沿岸諸国への武器販売を強化し、フィリピンを支援している。中国が埋め立てを行ったのと同じように、島々を要塞化している。

インフラおよび商業分野においては、アメリカの戦略的競争法(the Strategic Competition Act)とCHIPSおよび科学法(the CHIPS and Science Act)、米国際開発金融公社(the U.S. International Development Finance Corp)、EUのグローバル・ゲートウェイ・イニシアティヴ(Global Gateway initiative)、日本とインドの「接続回廊(connectivity corridors)」、多国籍サプライチェィン・レジリエンス・イニシアティヴ(multinational Supply Chain Resilience Initiative)やG7の「より良い世界を取り戻す(Build Back Better World)」は、各国を誘導して、中国の金融機関ではなく多国籍金融機関から優遇金利で借り入れたり、中国の企業(フアウェイ)よりも西側の企業(スウェーデンのエリクソンなど)と契約させたりするために考え出された無数の計画の一部に過ぎない。5G ネットワーク、またはインターネット・ケーブルの分野でこのようなことが起きている。

西側諸国は、口先だけではなく実際に行動することを学びつつある。インフラ整備競争(infrastructure arms race)は現在進行中だ。西側諸国が何十年も無視してきた後、中国は世界の問題として、インフラを強化したことで評価されるべきだが、世界が共同して重要なインフラに投資すればするほど、全ての道が中国に通じている(all roads lead to China)可能性は低くなる。西側諸国はこのグレイトゲームの最新ラウンドには出遅れているかもしれないが、既に競争条件を平等にすることに成功している。

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2020年5月26日に中国東部の海安の物流拠点を出発するヴェトナム行きの輸送コンテナを運ぶ中国・ヨーロッパの貨物列車が写っている。

中国主導対西側主導の取り組みはゼロサムの試みとして描かれているが、ほとんどの場合、港湾や送電網などのインフラは利用を排除できないものであり、競合するものではなく、あらゆる商用ユーザーに開かれており、それらのユーザーに平等なサーヴィスを提供する。パイプラインであれ、送電網であれ、インターネット・ケーブルであれ、それぞれのしっぺ返しプロジェクト(tit-for-tat project)は、意図せずして、世界を相互接続されたサプライチェィンシステムに変えるというはるかに壮大なプロジェクトを前進させる。

今日の激動の世界において、これ以上に伝えるべき重要な真実はない。需要を満たすための供給経路が増えると、インフレショックを回避できる。私たちは、より多くの国でより多くの食料を清算し、より多くの半導体を生産し、より多くのレアアース鉱物を加工し、世界中での移動に単一障害点(single point of failure)を確実になくす必要がある。

輸送手段をスエズ運河からユーラシア鉄道、あるいはよる高速な北極海航路に自発的に移行できることは、まさに世界経済がショックに対してより回復力を持ち、ナシム・ニコラス・タレブの言葉を借りれば「反脆弱性(antifragile)」にさえなれる方法だ。この点だけでも、インフラ的に関連性の高い(hyperconnected)世界は望ましいものであり、現在のシステムよりも優れている。気候変動が加速する中で、それは文明の生存にとっても不可欠だ。

気候ストレスは今世紀中に10億人以上の移動を促す可能性があり、人口は沿岸部から内陸部へ、標高の低い地域からより高い地域へ、そしてより暑い気候からより涼しい気候へ再定住することになる。私たちは既に、南アジアや東南アジアからヨーロッパや中央アジアへといった、これまで経験したことのない大規模な移住の新たなベクトルを目の当たりにしている。人類の大多数がユーラシア大陸に居住していることを考えると、東ヨーロッパや中央アジア全域のより気候変動に強い地域への人々の必然的な循環が予測され、住宅、交通、医療、その他の施設といった必要な都市インフラが構築されていることが重要だ。

石油パイプラインなどの古いインフラが依然として多すぎて、海水淡水化プラント(water desalination plants)、太陽光発電所、エネルギー効率の高い手頃な価格の住宅、水耕栽培食品センター(hydroponic food centers)などの新しいインフラが少なすぎる。これらの投資は、世界経済を促進する大規模な地球規模のリサイクルの一部である。インフラは雇用を創出し、生産性を向上させ、消費と貿易の成長を促進し、人材と資本の流れを引き寄せる。

現代文明を定義する都市部集住(urban settlements)の構築と接続は、過去1万年にわたる人類の物語である。ローマの道路からイギリスの鉄道、アメリカの基地に至るまで、私たちが蓄積したインフラの層は、インフラの管理の権限は変わるものの、長期的にはゼロサムゲームではないという事実の永続的な証拠だ。インフラの運命に関する質問に対する答えは、インフラが支えるグローバライゼーションに対する回答と同じだ。それは、「より多く」である。

※パラグ・カンナ:クライメット・アルファ創設者兼最高経営責任者。最新刊に『ムーヴ:人々はより良​​い未来を求めてどこへ向かうのか(MOVE: Where People are Going for a Better Future』がある。ツイッターアカウント:@paragkhanna

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。近いうちにある週刊誌にて紹介していただけることになりました。詳しくは決まりましたらお知らせいたします。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イエメン内戦は長期化している。政府側と反政府組織フーシ派の間の戦いとなっているが、政府側をサウジアラビアが支援し、フーシ派側をイランが支援している。あ氏アラビアとイランとの間で国交正常化が合意されたことにより、この構図も変化を見せつつある。サウジアラビアがフーシ派と停戦交渉を行っている。そうした中で、アメリカとイギリスが共同でフーシ派を攻撃した。アメリカとイギリスは、紅海上において、フーシ派が民間船舶(中国やイランの船舶を除く)に対して攻撃を行い、世界の物流に影響を与えていることを理由に挙げている。フーシ派は、イスラエルによるガザ地区への過剰な攻撃に対する攻撃として、紅海上で民間船舶を攻撃している。これを受けて、世界の海運各社は航路変更を余儀なくなされている。これに対して、サウジアラビアは、アメリカやイギリスに同調せず、静観の構えを見せている。
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紅海の地図
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フーシ派の関連地図

 アメリカとイギリスの攻撃は沈静化しかけていた紅海の状況を再び不安定化させている。サウジアラビアとしては、アメリカとイギリスには介入して欲しくなかったところだが、アメリカとイギリスとしては、物流の停滞による物価高もあり、何もしないという訳にはいかなかった。そして、西側諸国においては、「中国はイランとの関係も深いのだから、紅海の状況を何とかせよ、フーシ派をおとなしくさせるために何かやれ」という批判の声が上がっている。中東地域は中国にとっても、エネルギー面において重要な存在であり、中国も中東地域において重要な役割を果たしつつある。サウジアラビアとイランの国交正常化合意を仲介したのは中国である。
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紅海航路と迂回航路の違い
 パレスティナ紛争や紅海の危機的な状況において、中国は何もしていないという批判の声が上がっている。しかし、これはなかなか難しい。中国が中東地域において活発に動き始めてまだ20年くらいだ。それに対して欧米諸国は戦前から植民地にするなど長期間にわたって深くかかわってきた。中東地域においての役割については欧米諸国の方が先輩であり、一日(いちじつ)の長がある。そして、欧米諸国の政策の失敗が現在の状況である。それを修正して、正常化するのは欧米諸国の責任だ。どうしても駄目だ、万策尽きたということならば、他の国々の出番もあるだろう。「中国が何とかせよ」というのが、「自分たちの力ではどうしようもありません、私たちが馬鹿でした、どうもすいません」ということならばまだしも、ただの自分勝手な言い草であるならば、中国が何かをするという義理はない。欧米諸国は一度徹底的に追い込まれて、自分たちの無力を自覚することだ。それが世界の構造の大変化の第一歩である。

 

(貼り付けはじめ)

紅海危機が中国の中東戦略について明らかにする(What the Red Sea Crisis Reveals About China’s Middle East Strategy

-中国は確かに中東地域のプレイヤーになったが、今でもまだ極めて利己的なゲームをしている。

ジョン・B・アルターマン筆

2024年2月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/14/red-sea-crisis-china-middle-east-strategy-egypt-yemen/

昨年(2023年)3月、中国の王毅外相の顔に満足感があったのを見逃すことはできなかった。サウジアラビアとイランの間の和平合意を仲介したばかりの、王毅中国外相(当時)は、二国の代表を優しく近づけた。王毅は彼らの間に立ち、しっかりとコントロールしていた。

王毅外相が満足する理由は複数存在した。多くの人が不可能だと考えていたことを中国がやってのけただけでなく、それが可能な唯一の国でもあった。サウジアラビアとイランの両国は敵対していたが、それぞれが中国を信頼していた。アメリカは中東の安全保障を重視していたが、中国は実際にそれを提供していた。王毅のあり得ない成功は、中東における中国の役割の重要性の高まりを示す新たな兆候となった。

しかし、この4ヵ月の間、2023年3月のような自信に満ちた中国外交は影を潜めている。半世紀以上にわたるパレスティナ人への支援、10年以上にわたるイスラエルとの緊密な関係、イラン、サウジアラビア、エジプトなどへの数百億ドル規模の投資にもかかわらず、最近の中国は静けさを保っている。

さらに明らかなのは、紅海の海運に対するフーシ派による3ヶ月に及ぶ攻撃によって、中国の貿易が大打撃を受け、中国の一部の地域パートナー諸国が首を絞められ始めたとき、北京はしばしば、外交的、軍事的、経済的に、パートナー諸国はおろか、自国の広範な利益を追求するために行動することができないか、あるいはしたくないように見えたことである。

中国は自らを台頭する世界大国(rising global power)として宣伝しようとし、平和と繁栄を確保するという世界的な野望を達成できていないアメリカを非難することを好む。アラブのコメンテイターらは、2022年12月にサウジアラビア・リヤドで行われた中国の習近平国家主席を招いての首脳会談をめぐる温かさを、その5カ月前にジェッダで行われたジョー・バイデン米大統領とサウジアラビア指導部とのより緊迫した会談を対比させた。『アルリヤド』紙は「西側の独立筋」の主張を引用し、「中東地域は中期的には独裁と覇権(hegemony)から離れ、開発、投資、人民の幸福、紛争からの距離に基づく中国の影響力を通じての、戦略地政学的なバランスと政治的正義の段階に移行するだろう」と主張した。

それこそが、中国がこれらの国に望んでいる未来の姿である。間違ってはいけないのは、中国はアメリカを主要な戦略的挑戦と見なしており、それ以外のものは重要ではないということだ。

驚くべきことは、これがどれほど真実であるかということである。過去4カ月間の中国の行動と不作為は、数十年にわたる中東への投資にもかかわらず、北京がこの地域で重視しているのは、依然としてアメリカを弱体化させるためであることを浮き彫りにしている中国は確かに中東地域のプレイヤーになったが、今でもまだ極めて利己的なゲームをしている。

中国の中東への関心の大元はエネルギーだ。中国は30年前に初めて石油の純輸入国となり、過去20年間のほとんどにおいて、世界の石油需要の増加のほぼ半分を中国が占めてきた。この期間を通じて、中国の輸入石油の約半分は中東地域から来ている。

中国にとって、中東への依存は一貫して脆弱性ともなる。アメリカは半世紀にわたり、この地域の安全保障を支配してきた。中国人の多くは、米中両国が敵対した場合、アメリカが中国にとって不可欠なエネルギー供給を遮断することを恐れている。同様に、中東にはホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ海峡、スエズ運河という、世界貿易に不可欠な3つの海運の重要地点(chokepoints)がある。アフリカ、ヨーロッパ、そしてアメリカ東海岸に向かう多くの中国製コンテナは、この3つの地点すべてを通過する。アメリカ海軍は現在、これら全ての重要地点を守る態勢を整えているが、同時に通行を阻害することも可能だ。

中国の戦略は、アメリカと対立するのではなく、アメリカと共存することであり、アメリカとの関係とともに中国との関係も発展させるよう地域諸国を説得することだ。10年ほど前、中国はアルジェリア、エジプトとの「包括的戦略パートナーシップ(comprehensive strategic partnerships)」を宣言し、後にサウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦をリストに加えた。偶然にも、北京は昨年8月、後者4カ国がBRICSブロック(当時はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成)に加盟するよう働きかけ、新規加盟国全体の5分の4を占めた。中国は、中東全域で経済関係を深め、その過程で貿易と開発を促進することを主張している。

中東諸国は中国の地域的役割の拡大を歓迎している。その理由として、中国が西側諸国の自由化圧力から解放してくれることが挙げられる。また、中国が厳格な規制よりもスピードを重視する経済パートナーとなってくれるからでもある。中東諸国は中国を台頭する世界大国と見ている。10年以上にわたって歴代米大統領が「ワシントンの主要な利益はアジアにある」と宣言してきたのだから、中東諸国が中国と強固な関係を築かないということはあり得ないのである。

中国が提示している主張は、各国は西側諸国との関係とともに中国との関係も発展させることができるというものだ。原則としては正しいが、現実問題としてはより複雑である。西側諸国の政府は、中国がこの地域に技術投資を行うのは、中国のスパイ活動の道具を組み込むためだと非難している。その結果、西側諸国の政府は、中東地域の各国政府がその技術を獲得することを、安全保障上の多種多様な協力体制の確立にとっての障害と見なしている。

中国の学者たちは、アメリカの地域安全保障の取り組みを厳しく批判してきた。ある著名な中国人学者は、「中国は、アメリカの無謀な軍事行動とプレゼンスの結果としての地域の不安定化の犠牲になっている」と書いている。王毅が2022年1月に中東6カ国の外相と会談したことを伝える中国メディアの記事では、王毅が「中東の主人は中東の人々だと私たちは確信している。『力の空白(power vacuum)』など存在せず、『外からの家父長制(patriarchy from outside)』など必要ない」と述べたことを伝えた。

中国の専門家たちが頻繁に主張しているには、アメリカのアプローチは中東諸国への敬意が不十分だということだ。ある学者は「あまりにも長い間、覇権国であったため、アメリカは自国の利益のために他国に圧力をかけることに慣れているが、他国の懸念には耳を貸さない」と指摘している。

2023年3月にサウジアラビアとイランの合意が成立したとき、中国側はこれを「中東の平和と安定の実現のための道をならすものであり、対話と協議を通じて国家間の問題と意見の相違を解決する素晴らしいモデルとなる」とし、「中国は建設的な役割を継続する」と公約した。

しかし、中東で暴力が勃発してから数カ月、中国は世界的な懸念声明に便乗することはあっても、独自の声明を発表することはほとんどなかった。最も明確に非難したのは、2023年10月にイスラエルがガザ市のアル・アハリ病院を攻撃したと当初は考えられていたが、後にパレスティナ側のロケット弾の誤射によるものと判明した事件に対してである。

中国は、2023年10月7日に発生したハマスによるイスラエル民間人に対する攻撃も非難しておらず、紅海の船舶に対するフーシ派の攻撃も非難していない。和平会議の開催が一般的には望ましいと表明すること以外に、この地域で展開し相互に関連する危機のいかなる要素にも対処するための中国の外交提案はない。中国にとって、高官の訪問、奨励と懲罰、調停などの外交手段は全てが保留されている。

2024年1月のジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官と王毅外相とのタイでの会談での議題は紅海の安全保障についてであった。この会談の前に、中国とイランの政府関係者は口をそろえて、中国はイラン政府に対し、フーシ派への支援について苦言を呈したが無駄だったと主張した。このような発言は、単にアメリカの圧力から王毅を守るためなのか、それとも中国がイランの思惑に影響を与えることができないという現実を反映したものなのかは明らかではない。

一方で、西側諸国と中東諸国の外交官たちは、人命を守り、緊張を緩和し、世界貿易の自由をより促進するための、何らかの方法を見つけようと、互いに深く関わっている。

この地域での出来事が中国の利益を直接的に傷つけるものではないと主張するのは難しい。まずフーシ派から話を始めることができる。彼らはイランから年間約1億ドルを受け取っている。イランは中国との貿易が全体の3分の1を占めているが、その貿易額は中国貿易の1パーセントにも満たない。

中国はイランよりも世界の他の国々に対してより注意を払っている。一部の報告によると、通常は紅海南部を通過するコンテナ船の90%が同海域を避けるために航路を変更したということだ。平常時、紅海航路は世界のコンテナ輸送量の約 3分の1、アジアとヨーロッパ間の全貿易量の40% を占めている。輸送のボトルネック(bottleneck)となっているのは、コンテナ価格が3倍から4倍に高騰しており、ヨーロッパに向かうエネルギー輸送がアフリカを迂回し、配送の遅れによりサプライチェインが麻痺していることだ。

中国は貿易立国(trading nation)であると同時に海洋立国(maritime nation)でもある。世界貿易における争いは中国に直接影響を与えるだけでなく、将来の混乱を避けるために、投資家たちを「ニアショアリング(nearshoring)」(サプライチェインの依存をより近くて友好的な国々にシフトすること)に向かわせる。

混乱はまた、中国の中東への投資にも打撃を与える。中国は紅海の各種施設に数百億ドルを注ぎ込んできた。ジブチの軍事基地だけでなく、東アフリカ、サウジアラビア、スーダンの港湾施設、鉄道、工場、その他無数のプロジェクトに注ぎ込んできた。これらの投資は一帯一路計画の一部だ。これらのプロジェクトは全て、紅海航路の断絶によって危機に瀕している。

中東全域で、イランの代理諸勢力がこの地域を戦争に導くと脅しており、その一部はイスラエルへの攻撃を通じてその脅迫に説得力を持たせている。イスラエル自身もほぼ20年にわたって中国との関係を着実に強化してきた。アメリカン・エンタープライズ研究所の中国グローバル投資トラッカーによると、中国は過去10年間でイスラエルに90億ドル近く投資し、30億ドル相当のプロジェクトを構築した。

中国がイランの代理になるどころか、イランをコントロールできると期待する人はほとんどいないが、中国がそのつもりすらないようであることは注目に値する。しかし、今回の紅海危機において中国はチャンスも見出している。

中国はこの危機を利用するために2つのことを行った。 1つ目は、中東におけるアメリカの役割に対するグローバル・サウスの敵対心を刺激しようとして、アメリカを批判することだ。2023年10月に『チャイナ・デイリー』紙に掲載されたあるコラムは、「アメリカはガザ地区において、『歴史の間違った側(wrong side of history)』に属しており、ガザ地区におけるより大きな人道危機の回避を支援することで、世界唯一の超大国としての世界的責任を果たすべきだ」と主張した。中国メディアは、グローバル・サウスの反米感情と反イスラエル感情両方を煽る形で、アメリカの外交努力を非難し続けている。中国メディアは、今回の紛争を根本的に解決するためには二国家解決策の追求が必要であるが、それを阻害しているのは、根本的に、アメリカのイスラエルの肩入れが存在している(これが今回の紛争の基底にある)、と時に間接的に、時に直接的に、主張している。

 中国が行っている2番目のことは、当面の経済的利益に配慮することだ。中国船舶の需要が高まっており、荷主はフーシ派が中国籍の船舶を攻撃しないと信じている。紅海を航行する一部の船舶は、攻撃を避けるために「全員が中国人の乗組員」を船舶追跡装置に表示されるようにしていると発表している。

中国は中東において、急速に変化する状況に適応するために外交が緊張していることを示している。加えて、共通の利益につながる困難なことを行うことへの嫌悪感を示している。中国当局者たちは協力する代わりに、パートナー諸国や同盟諸国を犠牲にして自国の利益を推進するためのギリギリの方法を模索している。

それは、中国がしばしば名刺代わりとして宣伝するような「ウィン・ウィン(win-win)」の論理ではない。現在、中国を含む全員が負けている中で、中国は状況を傍観している。

※ジョン・B・アルターマン:戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)上級副所長、ブレジンスキー記念国際安全保障・戦略地政学(geostrategy)部門長、中東プログラム部長。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を発売しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 サウジアラビアは隣国イエメンの内戦で政府側を支援し、反体制派フーシ派との戦いを続けてきた。フーシ派を支援しているのはイランである。同時に、サウジアラビアは、フーシ派との和平交渉を続けてきた。中国が仲介したサウジアラビアとイランの国交正常化交渉開始も追い風になっている。しかし、これに水を差す形になったのは、アメリカとイギリスによるフーシ派への攻撃だ。これによって、サウジアラビアとフーシ派との和平交渉はとん挫する形になった。
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 アメリカはイスラエルと中東諸国との間の和平を進めている。実際に一部の中東諸国とイスラエルとの間に和平が成立している。サウジアラビアもアメリカの仲介でイスラエルとの和平、国交正常化を続けてきたが、2023年10月8日のハマスによるイスラエル攻撃、その後のイスラエルの過剰報告によって、サウジアラビアとイスラエルとの和平は絶望的になっている。イスラエルは中東で孤立状態になっている。
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 フーシ派は紅海で船舶攻撃を行っている。紅海はスエズ運河を通じて、地中海とインド洋を繋ぐ重要地点である。紅海の安全が保障されない状況では、世界の物流も厳しい状況になる。結果として、物価にも影響が出る。サウジアラビアは自国の安全を最優先にして、フーシ派を暴れさせないように、和平交渉を行ってきた。フーシ派はパレスティナ紛争をめぐり、イスラエルとの和平を行った各国への攻撃も行う可能性を持っている。こうなれば中東全体の不安定要因となる。サウジアラビアの和平交渉が重要であったのだが、米英両国によるフーシ派攻撃によって状況は悪化することになった。

 中東の状況がこれから悪化することになる。注目していかねばならない。

(貼り付けはじめ)

紅海上での衝突をサウジアラビアが傍観している理由(Why Saudi Arabia Is Staying on the Sidelines in the Red Sea Conflict

-フーシ派との数年にわたる戦争の後、リヤドは何よりも自国の安全を確保しようとしているが、和平交渉は不安定であり、この計画は裏目に出る可能性がある。

ヴィーナ・アリ=カーン筆

2024年1月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/16/saudi-arabia-red-sea-conflict-houthis-us-strike/?tpcc=recirc_trending062921

ほんの数年前であれば、サウジアラビアはフーシ派の拠点を狙った米英共同攻撃の機会を利用しようとしただろう。リヤドはほぼ10年間、フーシ派と残酷な戦争を戦ってきた。しかし今日、イエメン内戦から手を引き、国境を越えた攻撃から自国を恒久的に守るためにフーシ派指導部と微妙な和平交渉を行っているリヤドにとって、イエメンのグループであるフーシ派に対する西側の攻撃はまさに望むところとは正反対である。

紅海における緊張が高まる中、サウジアラビアは紛争に関わらないことを選択した。その代わり、サウジアラビアとフーシ派の間のコミュニケーションラインはオープンなままであり、リヤドは攻撃の標的にならないよう、あからさまにワシントンに味方することを避けている。今のところ、この戦略はうまくいっているように見えるが、長期的にサウジアラビアの保護が保証されるのかという大きな疑問が残る。

1月12日未明。米英軍機はイエメンのフーシ派軍事拠点数十カ所を標的とした。その翌日、ワシントンはフーシ派の拠点への新たな空襲を開始し、司令部、弾薬庫、ミサイル発射システム、無人機を標的にした。復讐を誓うフーシ派は1月15日、アメリカ所有のコンテナ船に弾道ミサイルを発射した。(ワシントンは1月16日に再び報復した)。

これらの攻撃は、紅海の商業船舶に対するフーシ派の2ヶ月にわたる攻撃に続くもので、反政府勢力フーシ派は、ガザ地区のパレスティナ人との連帯を示すものだと主張している。フーシ派は、これらの攻撃はイスラエルと関係のある船舶に限定されていると言っているが、実際には、射程距離圏内にある全ての船舶を標的にしている。これまでに30件近いフーシ派による国際海運への攻撃により、少なくとも50カ国が影響を受けている。

世界の主要なコンテナ海運会社のほとんどが、世界の輸送量の約15%、最大で3分の1を扱うスエズ運河に通じる重要な水路である紅海を避ける決定を発表するまでに時間はかからなかった。

アントニー・ブリンケン米国務長官の最近の中東歴訪は、ガザ紛争を封じ込めるよう地域アクターに圧力をかけることを意図したものだった。しかし、ペルシャ湾岸諸国はフーシ派をよく知っており、彼らに対する影響力も限られているため、大した反応はしなかった。別の試みとして、アメリカはサウジアラビアに対し、反体制派との和平交渉において紅海の危機を考慮し、交渉のペースを落とすよう促した。

それにもかかわらず、フーシ派とリヤドは、紅海の危機が両者の合意を妨げることを避けるために、協議を継続することを選択した。米英両国の攻撃を受けて、サウジアラビア外務省は「大きな懸念(great concern)」を表明し、エスカレートを避けるために「自制(self-restraint)」を求めた。

リヤドには、フーシ派との新たな手に負えない紛争に巻き込まれる気はまったくない。サウジアラビアは反政府勢力への軍事対処を通じて過去の教訓から学び、直接戦闘を行うことの危険性を痛感している。

フーシ派が主張した2019年のアラムコ攻撃は、2つの主要石油施設を標的とし、サウジアラビアの石油生産の半分を一時的に停止させたが、これが転機となった。その原因はアメリカの対応の遅れにあった。アメリカから裏切られたと感じたリヤドは、その後数年間、外交政策を急速に見直し、ワシントンの救援に頼るのではなく、地域の頭痛に対する外交的解決策(diplomatic solutions to its regional headaches)を模索するようになった。

最近では、リヤドは代わりにイランとの対話を続けている。イエメン攻撃の前日、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハン外相はイランのホセイン・アミール=アブドラヒアン外相から連絡を受けた。サウジアラビアの皇太子であるムハンマド・ビン・サルマンにとって、待望の「ビジョン2030(Vision 2030)」(国民経済の多様化を目的とした大規模な改革計画)に向けた重要な数年間において、状況を混乱させるようなエスカレーションは最も避けたいことだ。その結果、サウジアラビアは紅海の危機において沈黙を守ることを選択し、2023年春に発表された中国が仲介するイランややフーシ派とのコミュニケーションチャンネルが、地域の混乱や将来のフーシ派の攻撃から自国を守ることになると期待している。

これらの新しいコミュニケーションラインは、紅海におけるフーシ派の行動を阻止することを目的としている訳ではない。むしろ、どのような状況であれ、地域のエスカレーションからサウジアラビアを孤立させるための、より広い努力の現実的な一部なのだ。今のところ、この戦略はうまくいっているようで、リヤドは標的にされていない。実際、サウジアラビアがフーシ派に対するアメリカ主導の海上連合(maritime coalition)に参加しないという決断を下した理由には、イランとアメリカの緊張の矢面に立たされた経験が影響している。

サウジアラビアの最優先事項は自国を守ることだ。サウジアラビアはイエメン戦争からの迅速な撤退を望んでおり、西側諸国と反体制派との最近のいざこざがこれを台無しにすることはないだろう。2021年以来、オマーンが促進したフーシ派との交渉は困難な中で進んできた。リヤドはようやくフーシ派との効果的な意思疎通が可能になった。それゆえサウジアラビアは、紅海でのアメリカの作戦を支援するためだけに、フーシ派の攻撃から自国を守るのに十分だとサウジアラビアが考えているこの関係を危うくする価値はないと判断している。

むしろ、最近のエスカレーションは、サウジアラビアにできるだけ早く合意をまとめようとする、更なる誘因を与えた。 2023年11月末に向けて、リヤドはイエメン政府とフーシ派との間の将来の国連主導の協議の基礎を築くことを目的とした提案草案を国連イエメン担当特使に提出した。伝えられるところによると、協定の一部にはサウジアラビアの最優先事項である国境を守るための緩衝地帯(buffer zone)が含まれている。

リヤドも自画自賛している。サウジアラビアは以前から、フーシ派がより高度なドローン能力を獲得し、紅海に近い地域を支配する危険性についてワシントンに警告してきたが、彼らの目には、精彩を欠いた対応しか受けられなかった。それゆえ、サウジアラビアは、フーシ派に対する残忍な戦争で何年も自国を批判してきた同じ西側のパートナーを、なぜ支援しなければならないのかと疑問を呈している。

しかし、サウジアラビアの計算は間違っている可能性がある。最終的な和平合意はまだ確実なものとなっていない。現在存在しているのは、いつ崩壊するか分からない脆弱な理解だけだ。正式な和平合意がなければ、将来的にフーシ派が紅海やその国境でサウジアラビアを標的にすることを阻止するものはない。

状況がエスカレートすればするほど、その可能性は高まるばかりだ。フーシ派自身も、リヤドの保護が、より広範な紛争に関与しないという決断にかかっていることを内心認めている。フーシ派はサウジアラビアの弱点である国境を認識しており、いつでもこれを利用することができる。アメリカによる第2次空爆のわずか数時間後、フーシ派はサウジ国境沿いで軍事作戦を実施し、アメリカに味方した場合の潜在的な結果についてサウジアラビアに警告を発した。

問題を更に複雑にしているのは、もしリヤドがイスラエルとの国交正常化交渉を再開することになれば、サウジアラビアは再び反政府勢力の格好の標的になりかねないことだ。フーシ派は、アブラハム協定(2020年にイスラエルと一部のアラブ諸国がアメリカの仲介によって国交正常化した協定)に対する批判の声を避けておらず、この問題はアラブ首長国連邦に対する批判の中心となっている。

サウジアラビアが国交正常化交渉を進めれば、フーシ派がゴールポストを移し、イスラエルと同盟関係にあると思われる国々を標的にすると宣言し、和平交渉でサウジから更なる譲歩を引き出す正当な理由にする可能性が高い。確かなことは、リヤドはフーシ派による将来の標的の可能性に留意しながら、イスラエルとの協議を再開する必要があるということだ。

サウジアラビア・フーシ派両陣営にとって理想的な世界であれば、和平交渉は紅海の危機から切り離されたままであろう。しかし、今日の現実はそうではない。この地域は急速にヒートアップしており、イエメンの脆弱な和平プロセスを完全に脅かしかねない事態に、より多くの関係者が次々と参戦している。アメリカがフーシ派を対外テロ組織として指定するなど、非軍事的なアプローチを選択すれば、フーシ派の国連主導の和平交渉への参加は危うくなり、イエメンの地域紛争が再燃し、事実上の停戦が終わる恐れが出てくる。

他方、米英がイエメンへの攻撃を続ければ、フーシ派は、バーレーンを含むこの地域にある米軍基地や、イスラエルと連携しているとみなす湾岸諸国の首都を標的にすることで、これまで彼らが脅してきたように、状況をさらに悪化させる可能性がある。少なくとも、このような攻撃は和平交渉を完全に頓挫させ、サウジアラビアに行動を起こさせ、イエメンをより複雑な地域戦争(regional war)に巻き込むことになるだろう。

全体として、イエメンにおいてサウジアラビアに残された、自分たちを有利にする選択肢はない。2つの問題を区分するという戦略は、今のところリヤドを守ることに成功しているが、これは公式な和平合意がない場合の一時的な応急処置にすぎない。イエメン紛争の将来は、今や紅海の動乱と表裏一体であり、イエメンの和平プロセスはこの不快な現実についてきちんと考慮しなければならない。

※ヴィーナ・アリ=カーン:ニューヨークを拠点とするイエメンとペルシア湾地域の研究者。イスタンブールで、インターナショナル・クライシス・グループのイエメン研究担当を務めた経験を持つ。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回はアメリカとサウジアラビアの関係、更にウクライナ戦争開始以降の両国関係に関する記事を紹介する。長くなってしまって読みにくくなってしまっていることをお詫び申し上げる。ご紹介したい関連記事が複数あってこのように長くなってしまった。
 現在、世界の石油価格は高騰している。新型コロナウイルス感染拡大で石油価格が下落していたが、その騒ぎも収まりつつある中で石油価格が上昇していった。それに加えて2月末からのウクライナ戦争で対ロシア経済制裁と先行き不安のために石油価格は高騰している。

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石油価格の推移(2021年11月から) 

 アメリカはロシアからの石油が輸入の7%を占めていたがそれが入らなくなったために、これまでさんざん虐めてきたヴェネズエラとの関係修復を試みている。しかし、世界全体では増産まで時間がかかる上に、何より最大の産油国であるサウジアラビアがアメリカに非協力的であるために、石油価格が上昇している。

 サウジアラビアのアメリカに対する非協力的な態度はサウジアラビアの実質的な支配者であるサルマン王太子のバイデン政権に対する怒りが源泉となっている。ジョー・バイデン米大統領は大統領選挙期間中からサウジアラビアとサルマン王太子に対して批判的であり、『ワシントン・ポスト』紙記者だったジャマル・カショギ殺害にサルマン王太子が関与しているというインテリジェンスレポートを公表するということを約束しており、就任後に実際に公表した。また、バイデン政権は、ドナルド・トランプ前政権との違いを強調するためもあり、サウジアラビアの人権状況に批判的となっている。更には、サウジアラビアが関与しているイエメンの内戦でサウジアラビアの立場を支持してこなかった。こうしたことはサルマン王太子とサウジアラビア政府を苛立たせてきた。そして、サルマン王太子の中国とロシアへの接近ということになった。

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プーティンとサルマン王太子
 今回のウクライナ戦争で、アメリカは慌ててサウジアラビアとの関係を改善しようとしている。サルマン王太子とジョー・バイデン米大統領との直接の電話会談を実現させようとしたが、サウジアラビア側から拒否された。バイデン政権はサウジアラビアからしっぺ返しをされている。また、イエメン内戦でイランから支援を受けているフーシ派武装勢力がサウジアラビアの石油関連施設に攻撃を加えていることで、「石油の増産したいのだが、フーシ派が邪魔をしてうまくいかない」という大義名分も手に入れた。
 アメリカは理想主義的な建前外交をやって、アメリカ国民と世界の人々の生活を苦境に陥れている。実物を握っている国々はいざとなったら強い。だから、理想主義でどちらか一方に偏っていざとなったらしっぺ返しを食ってしまうという外交は結果としてよくない。汚い、裏がある、両天秤をかけて卑怯だ、そんな人々から嫌われるような外交がいざとなったら強い。「敵とも裏でつながっておく」ことが基本だ。

 

(貼り付けはじめ)

フーシ派からの攻撃の後、サウジアラビアは石油不足について「責任を持たない」と発表(Saudi Arabia says it 'won't bear any responsibility' for oil shortages after Houthi attack

クロエ・フォルマー筆

2022年3月21日

『ザ・ヒル』

https://thehill.com/policy/international/middle-east-north-africa/599014-saudi-arabia-says-it-wont-bear-any

サウジアラビアは、イランに支援されたフーシ派の反政府勢力が国営石油施設を最近攻撃したことによる流通への影響について、イエメンの内戦に対処するアメリカを明らかに非難し、石油増産に対して責任を取らないことを明らかにした。

国営サウジアラビア通信は、世界最大の石油輸出国サウジアラビアは、「石油施設へ攻撃を受けたこともあり、世界市場への石油供給が不足しても、いかなる責任も負わないことを宣言する」と報じている。

サウジアラビア外務省は、「イランに支援されたテロリストのフーシ派民兵から我が国の石油施設が攻撃されたこと」を受けて声明を発表した。

サウジアラビアの指導者たちは、エネルギー市場を安定させ、禁輸されているロシアの石油を相殺するために供給を増やして欲しいというアメリカらの要請に抵抗しているため、ロシアのウクライナ侵攻でアメリカ・サウジ間の緊張は既に高まっている。

サウジアラビアのエネルギー省は日曜日、国営石油大手アラムコが所有する石油製品流通ターミナル、天然ガスプラント、製油所などがドローンとミサイルによる攻撃を受けたと発表した。

サウジアラビアのエネルギー省は、この攻撃により「製油所の生産が一時的に減少したが、これは在庫から補填される」と述べた。

サウジアラビア外務省は、西側諸国がサウジアラビアと共にイランとフーシを非難し、「世界のエネルギー市場が目撃している、この極めて微妙な状況において、石油供給の安全に対する直接的な脅威となる彼らの悪意ある攻撃を抑止する」よう呼びかけた。

2018年にイスタンブールのサウジアラビア領事館に誘い込まれて殺害された『ワシントン・ポスト』紙のジャーナリスト、ジャマル・カショギの殺害以来、アメリカ政府はサウジアラビアへの批判を強めている。

サウジアラビアの人権記録やイエメン内戦をめぐる緊張が、アメリカ連邦議会において超党派の議員たちからの批判を招き、それがまた両国間の争いに拍車をかけている。

しかし、アメリカのジョー・バイデン政権は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に最大限の圧力をかけるために外交政策を立て直し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子との関係を再構築しようとしていると複数のメディアが報じている。

『ウォールストリート・ジャーナル』紙は日曜日、ここ数週間にわたり、アメリカはサウジアラビアに「相当数」のパトリオット迎撃ミサイルを送り込んだと報じた。サウジアラビア政府はアメリカ政府に対してフーシ派からの攻撃に対処するための防衛的な武器を送るように求めていた。

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フーシ派勢力がサウジアラビアのエネルギー施設に複数のミサイルを発射(Houthi's fire missiles at Saudi energy facility

オラミフィハーン・オシン筆

2022年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/middle-east-north-africa/598959-houthis-fire-missiles-at-saudi-energy-facility?utm_source=thehill&utm_medium=widgets&utm_campaign=es_recommended_content

ロイター通信は、サウジアラビア政府は、イエメンのイランから支援を受けているフーシ派が土曜日の夜から日曜日の朝にかけて、様々なエネルギー施設や淡水化施設に向けて複数のミサイルを発射したと発表したと報じた。

サウジアラビアのエネルギー省は日曜日に発表した声明で、ジザン地方の石油製品流通ターミナル、天然ガスプラント、紅海のヤンブ港にあるヤスレフ製油所がドローンとミサイルによる攻撃を受けたと発表した。

サウジアラビアのエネルギー省からの声明には、「ヤスレフ製油所への攻撃により、製油所の生産が一時的に減少したが、これは在庫から補填される」と書かれている。

サウジアラビアのエネルギー省はまた、多くの石油物流工場が攻撃され、ある工場で火災が発生したと付け加えた。サウジアラビア政府のある高官によると、火災は制御され、死傷者は報告されていないということだ。

フーシ派のスポークスマンであるヤシャ・サレアは、過激派グループがサウジアラビアで多くの施設を攻撃したことを認めた。

サウジアラビア主導の軍事連合によると、武装勢力フーシ派はこの他、アル・シャキークの海水淡水化プラント、ダーラン・アル・ジャヌブの発電所、カミス・ムシャイトのガス施設などを攻撃対象として攻撃を加えてきた。ロイター通信によると、サウジアラビア国防軍は弾道ミサイル1発とドローン9機を迎撃したと報じている。

ハンス・グルンドベルグ国連特使は、数万人が死亡し、数百万人が飢餓に直面している7年間の戦闘を終わらせるための条約の可能性について、双方が協議したと述べたとロイター通信は報じている。

ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は日曜日の声明の中で、フーシ派からの攻撃を非難した。

サリヴァン補佐官は声明の中で、「アメリカは内戦終結に向けた取り組みを全面的に支持し、フーシ派の攻撃から自国の領土を守るパートナーを今後も全面的に支援していく。国際社会にも同じことをするよう求める」と述べた。

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ムハンマド・ビン・サルマンはバイデンに対して影響力を持ち、それを利用している(Mohammed bin Salman Has Leverage on Biden—and Is Using It

-サウジアラビアの原油価格引き下げへの協力は欧米諸国の価値観の犠牲の上に成り立つ。

アンチャル・ヴォウラ筆

2022年3月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/24/mohammed-bin-salman-saudi-ukraine-oil-biden-opec/?tpcc=recirc_trending062921

ウクライナ侵攻後にロシアへ科された制裁によって、世界のエネルギー市場には大混乱がもたらされた。西側諸国は、1バレル140ドル近くまで高騰した原油価格をどう抑制するか、ロシアのエネルギー供給への依存からどのように脱するかでパニックに陥った。アメリカとイギリスはロシアの石油購入の禁止を発表し、伝統的な同盟国であるサウジアラビアに対して石油の供給を開始し、世界の石油価格を下げるように説得することに躍起となっている。

しかし、最大の産油国であるサウジアラビアとアラブ首長国連邦は、この危機を自分たちの好機と捉えて、それに応じようとはしなかった。アメリカと欧米諸国へのメッセージは明白である。サウジアラビアは、人権侵害で批判され続ける対象として扱われるには、あまりにも大きな影響力を地政学的に持っている、ということである。

サウジアラビアはアラブ首長国連邦以上に油田の鍵を握っており、油田を開放し、親ロシアの石油政策を転換する前に、アメリカから大きな譲歩を得ることを期待している。エネルギー安全保障のために人権が再び犠牲になることを、活動家たちは恐れている。アメリカもイギリスも、サウジアラビアが3月中旬に行った81人の大量処刑を公然と批判していない。欧米諸国の対サウジアラビア政策は、消費者の財布への圧力を緩和するためのおだてが中心となっている。

サウジアラビアとアラブ首長国連邦は日量300万バレル以上の余力を持ち、その一部を放出することで原油価格を下げることができる。さらに、ロシアは日量約500万バレル、その8割近くを欧州に輸出しているため、リヤドとアブダビが支援を確約すれば、欧州諸国の懸念を払拭し、ロシアへの依存を減らすよう促すことができる。

しかし、湾岸諸国は、ロシアを含む石油カルテルの拡大版である「OPEC+1」への参加を理由に、これを控えている。その理由は、ウクライナ戦争は今のところ石油の供給に大きな支障をきたしていないため、生産量を増やす必要がないためだとしている。しかし、専門家たちは、これは世界政治の大きな変化を反映した政治的決断であると見ている。ロシアの戦争マシーンをも利する価格を維持する選択は、湾岸諸国の独裁者たちがもはやアメリカの緊密な同盟諸国の地位にいる必要性を感じず、同じような権威主義者たちとの新たな同盟を受け入れていることを示すものである。過去に何度か、サウジアラビアの支配者はアメリカの同盟諸国を喜ばせるために増産や減産を行ったことがある。

しかし今回、サウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマン王太子は、ジョー・バイデン米大統領に復讐をするチャンスが到来したと見ているようだ。サルマンはこれまでバイデンから数々の侮辱を受け、優遇されてこなかったと考えているようだ。バイデンはまだ大統領選挙の候補者だった時期に、サウジアラビアをパーリア国家(pariah state 訳者註:国際社会から疎外される国家)と評し、大統領就任後にサウジアラビアの反体制派でワシントン・ポスト紙の記者ジャマル・カショギの暗殺に王太子が関与したとする情報報告書を公開した。さらに、サウジアラビアもアラブ首長国連邦も、イラン核合意の再開の可能性についての懸念を持っているがこれは無視され、イエメンのフーシ派が自国の船や都市を攻撃したことに対してアメリカが行動を起こさないことには、軍事同盟国としての義務を果たさなかったと感じたという。最近では、フーシ派を指定テロリストのリストに入れ続けて欲しいという嘆願さえもワシントンによって無視された。

ロシアのプーティン大統領の戦争をきっかけに燃料価格が上昇したため、ホワイトハウスはバイデンと不貞腐れた王太子の電話会談を実現しようと奔走したが拒否された。しかし、サウジアラビアの後継者サルマンはカショギ殺害を命じたという疑惑を通してプーティンの側に立ち、女性人権活動家が逮捕され囚人が大量に処刑されても非難を囁くこともなかった。サルマンはプーティンの緊密な同盟者と見られることに全く不安を感じていないのである。

サウジアラビアが同じ権威主義者プーティンに近づいたのは、当時のバラク・オバマ米大統領との関係が悪化した2015年に遡る。その1年後、ロシアがOPECに加盟した。リヤドはその後、モスクワとの関係を強化する一方、アメリカとの関係は、オバマ時代のイランとの核合意から離脱したドナルド・トランプ米大統領の在任中に改善し、バイデンが指揮を執って合意復活のための協議を再開すると再び悪化するなど、一進一退を繰り返している。トランプ政権時代、ムハンマド・ビン・サルマンは改革者として描かれていたが、バイデン政権下では、サウジアラビアのイエメン攻撃で民間人が死亡したことや、自国内の人権侵害で再び厳しく批判されるようになった。

クインシー・インスティテュート・フォ・レスポンシブル・ステイトクラフトの共同設立者であり上級副会長を務めるトリタ・パルシは、サウジアラビアがロシアを支持している理由は、サルマン王太子がロシア大統領の地位をプーティンが継続し、アメリカで政権交代が起きることを確信しているからだと述べている。

パルシは次のように発言している。「サウジアラビアの王太子サルマンはプーティンに賭けている。サルマンはプーティンを信じているだけでなく、共和党が中間選挙で勝利し、バイデンがレイムダックになることを望んでいる。2025年までに、バイデンと民主党は政権を失い、プーティンはロシアの大統領に留まるとモハメド・ビン・サルマン王太子は信じているようだ」。

今回の危機は、アメリカが主張するエネルギーの独立性を改めて認識し評価することを余儀なくさせた。新型コロナウイルス感染拡大によって大きな損失を被った国内のエネルギー産業をよりよく管理するために、より首尾一貫した長期計画を打ち出すか、口を閉じて権威主義者たちを容認するかのどちらかでなければならない。

エネルギー分野の専門家たちによれば、いずれにせよ、米国のフラッキング企業(訳者註:シェールガス採掘を行う企業)が新たな井戸を掘るには数カ月かかるという。イランやヴェネズエラに対する制裁が解除されたとしても、その石油を世界市場に供給できるようになるにはまだ時間がかかるだろう。先週末、ドイツはカタールと液化天然ガス(LNG)輸入の長期契約に調印した。カタールはロシア、イランに次いで3番目に大きなガス埋蔵量を持つ国であり、この契約によりドイツは液化天然ガスを迅速に輸入することができる。この協定により、ドイツはカタールのガスを輸入できるように2つの液化天然ガス基地の建設を急ぐが、それでもそのガスがドイツの家庭に供給されるまでには何年もかかるだろう。これまでドイツは、パイプラインで輸送される安価なロシアのガスに頼っていた。

現在世界最大の産油企業であるサウジアラムコは、2021年に過去最高益となる1100億ドルを稼ぎ出し、前年の490億ドルから124%増の純利益を記録した。サウジアラムコは石油の増産に向けた一般的な投資を発表したが、短期的に供給を増やすことは何もしていない。サウジアラムコのアミン・ナセルCEO(最高経営責任者)は、「私たちは、エネルギー安全保障が世界中の何十億人もの人々にとって最も重要であると認識しており、そのために原油生産能力の増強に引き続き取り組んでいる」と述べた。

国際エネルギー機関(IEA)は、今年末までにロシアから少なくとも日量150万バレルの原油が失われる可能性があると発表している。それが更なる価格高騰につながることは間違いない。OPEC+は次回今月末に会合を開き、状況を把握して原油の生産量を決めると見られている。しかし、サウジアラビアとアラブ首長国連邦の要求についてアメリカに耳を傾けてもらえたとどれだけ感じられるかに大きく左右される。

彼らは、アメリカが核取引に関する立場を変えないことを確信しているが、イエメンのフーシ派との戦いにおいて湾岸諸国を支援し、人権侵害に対する批判を減らすことができるだろうか? 厳しい国益の世界で最も低い位置にあるのは、個人の自由である。サウジアラビアの活動家たちは、世界の石油の安定と価格の引き下げのために、再び代償を払うことになるかもしれない。しかし、ムハンマド・ビン・サルマン王太子は、バイデンからそれ以上のものを求めるかもしれない。

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バイデンはロシアを支持するサウジアラビアを罰するべきだ(Biden Should Punish Saudi Arabia for Backing Russia

-リヤドは石油市場に変化をもたらすことができたが、アメリカではなく、権威主義者の仲間に味方することを選択した。

ハリド・アル・ジャブリ、アニール・シーライン筆

2022年3月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/22/biden-mbs-oil-saudi-arabia-russia-ukraine/

アメリカとその同盟諸国が一致団結してロシアのウクライナ侵攻に反対している中、サウジアラビアはロシアに味方している。侵略を公に非難せず、OPEC+協定へのコミットメントを繰り返したことで、サウジアラビア政府はアメリカとの長年のパートナーシップに亀裂が入っていることを露呈した。

原油増産の懇願にもかかわらず、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子は、ロシアのプーティン大統領と会談した1週間後に、ジョー・バイデン米大統領との会談を拒否したとされる。ロシアの石油の補償を拒否することで、王太子は国際社会が科す制裁に直面してエネルギーを武器として、エネルギーに依存するヨーロッパ諸国をロシアの石油とガスの人質にすることを許可し、プーティンの侵略を助長している。

月曜日になっても、サウジアラビア政府はロシアの行動を非難することを拒否している。その代わりに、サウジアラビアの外務大臣はロシア側と会談し、両国の二国間関係とそれを「強化・統合する方策」を確認した。

サウジアラビアの強硬姿勢にもかかわらず、バイデン政権は最近、フーシ派がサウジアラビアの水とエネルギー施設を攻撃したため、パトリオット対ミサイルシステムをサウジアラビアに追加配置した。サウジアラビアは、アメリカの保護が必要であることを表明し、これらの攻撃による石油供給不足の責任を否定する声明を出した。米国は、アラムコによる投資拡大の約束にもかかわらず、リヤドによる増産の保証を報告することなく防衛策を送ったのである。

バイデン米大統領から要求を受けてもサウジアラビアが石油の増産に消極的なのは、忠誠心が変化していることを示す最新の兆候である。70年にわたるパートナーシップを通じて、ワシントンはリヤドの主要な安全保障の保証人として機能し、その見返りとして、サウジアラビアの歴代国王はエネルギー問題でアメリカと緊密に協調してきた。しかし、ムハンマド・ビン・サルマン王太子が権力を掌握して以降、二国間関係は、7年間続くイエメン戦争などサウジアラビアの無謀な外交政策の決定や、ジャーナリストのジャマル・カショギの殺害で最も顕著に表れた人権状況の悪化によってますます緊迫してきた。

複雑な関係にもかかわらず、バイデン政権関係者の多くは、サウジアラビアの安全保障に対するアメリカのコミットメントを繰り返し表明し続けた。このような発言は、フーシの越境ミサイルやドローンによる攻撃からサウジを防衛するために最近6億5000万ドルの武器売却を行うなど、サウジアラビア主導のイエメン戦争に対するアメリカの継続的支援に裏打ちされたものである。

更に言えば、アメリカは最近、カタールを重要な非NATO加盟国に指定し、1月にアブダビで起きたフーシ派の無人機攻撃を受けてアラブ首長国連邦に追加の軍事資産を動員するなど、他の湾岸諸国のパートナーの安全確保に献身的であることを示している。このような安心感を持ちながらも、サウジアラビアは石油の増産と引き換えにイエメンでの戦争に対するアメリカの支持をもっと強要しようとしている。

現実には、サウジアラビアはアメリカの安全保障に関する保証を疑っていない。王太子が望んでいるのは、自らの支配を確実にすることである。アメリカは、湾岸諸国のパートナー諸国の物理的な安全を支援するために行動することはあっても、権威主義的なアラブの指導者が行うように、自分たちの好む体制を守るために民間人を攻撃することはないことを示してきた。湾岸諸国の支配者たちは、「アラブの春」におけるアメリカの中立的な姿勢が、エジプトにおけるワシントンの長年にわたるパートナー、ホスニー・ムバラクの失脚を許したと考えている

サウジアラビアの王室は、2011年にサウジアラビアが直接軍事介入したことでバーレーンのアル・ハリファ王家を救うことができた、マナーマの港に米海軍の第5艦隊がいたにもかかわらず、アメリカは役に立たなかったと考えている。それ以来、サウジアラビアの対米不信と国内の異論に対するパラノイア(被害者意識)は高まる一方である。サウジアラビアはサルマン国王とムハンマド・ビン・サルマン王太子の統治下で、ロシアや中国との密接な関係の育成を加速させている。

アメリカと異なり、ロシアと中国にはサウジアラビアを保護した歴史も、湾岸における意味のある軍事的プレゼンスもない。

プーティンや中国の習近平のように、サウジアラビアの歴代の支配者たちは資本主義における独裁的モデルを好み、権威主義体制の生存と国家間関係からの人権の排除に基づいた代替的な世界秩序を構築しているのである。

中国やロシアが両国内のイスラム系少数民族を虐待していることに対してサウジアラビアや他の主要イスラム国家が無関心であることは、これらの政府が人権に反対していることの相性の良さを示している。中国とロシアがイスラム主義運動を政権の不安定要因と考えて偏執狂的に恐れているが、サウジアラビアとアラブ首長国連邦はこうした考えを共有している。

サウジアラビアの国王と王太子は、イスラム教の重要性をサウジアラビアの国家戦略から切り離し、王室の役割を中心に据えることで、イスラム教徒を積極的に疎外しようとしてきた。例えば、2022年2月22日、サウジアラビアは初めて建国記念日を祝った。この新しい祝日は、サウジアラビアがワッハーブ派の創始者であるムハンマド・イブン・アル・ワッハーブと提携し、それによってサウジアラビアの宗教的正当性を高め、領土拡大を開始した1744年ではなく、ムハンマド・ビン・サウドが支配権を得た1727年を起源とするものであった。

西側諸国の多くは、サウジアラビア政府が宗教警察のようなアクターを無力化し、厳しい男女分離を若干緩和する決定を歓迎したが、これらの変化はまた、前例のないレヴェルの内部抑圧に対応している。人権活動家の投獄、海外での反体制派に対する弾圧、そして最近の81名の囚人の大量処刑は、ムハンマド・ビン・サルマン王太子の意図の本質を明らかにしている。それは、かつて国家権力を握っていた聖職者や保守派エリートを含む全ての反対意見を、より西側の社会規範の皮をかぶって黙らせることだ。

カショギの殺害をめぐる長引く憤慨と政治的疎外は、王太子に、欧米諸国から見たサウジアラビアのブランドを再構築する努力は失敗したと確信させたのかもしれない。その代わりに、中国とロシアは、ジャーナリストを殺害した皇太子を決して非難しないパートナーである。ロシアの場合、最近の歴史では、その行為すらも支持する可能性さえある。

しかし、中国とロシアに安全保障の保証に賭けるのはギャンブルである。アメリカと異なり、ロシアと中国にはサウジアラビアを保護した歴史もなければ、湾岸地域における軍事的なプレゼンスもない。仮にサウジアラビアが米国製の軍備から移行する場合、そのプロセスには数十年と数千億ドルを要するだろう。

更に言えば、中国とロシアはイランと緊密な互恵関係にあり、サウジアラビアの顔色をうかがってこの関係を犠牲にすることはないだろう。サウジアラビアは、アメリカと対話する際、イランやイランが支援する集団に対するアメリカの保護をこれまで以上に保証するよう主張してきた。リヤドが北京やモスクワとの提携のためにそうした懸念を払拭したいと望んでいるとすれば、こうした姿勢はテヘランに対するアメリカの不信感を煽ることが主な目的であることが明らかになるであろう。

サルマン王太子のイランへの不安は本物だとしても、それ以上に国内状況への不安もまた大きい。そのためには、民間人に多大な犠牲を強いてでもシリアのアサド政権を維持しようとする姿勢を示したプーティンのようなパートナーが望ましい。今のうちにロシアと手を組んでおけば、サウジアラビア市民の大規模な抗議行動など、いざというときにクレムリンが助けてくれるだろうと期待しているのだ。

現在の米国のサウジアラビア宥和政策は、リヤドがワシントンを必要としている以上にバイデンが自分を必要としているという王太子の認識を強めているだけのことだ。

ムハンマド・ビン・サルマン王太子は、任期付きで選出された欧米諸国の政府高官たちのためにプーティンと敵対するリスクを冒すよりも、むしろプーティン支持という長期的なギャンブルに出るだろう。ボリス・ジョンソン英首相やジェイク・サリヴァン米国家安全保障問題担当大統領補佐官、ブレット・マクガーク米国家安全保障会議中東担当調整官らアメリカ政府高官たちによる最近の直接の懇請の失敗や、アントニー・ブリンケン米国務長官との面会を拒否したことは、サウジアラビア王太子が心を決めていることの証拠である。プーティンのエネルギー力を弱め、ロシアの石油ダラーの生命線を断つような石油政策を採用することはないだろう。彼は、ワシントンよりモスクワを選んだのだ。

同様に、バイデン政権がヨーロッパの同盟諸国にロシアの化石燃料を手放すよう圧力をかけているこの時期に、アメリカ政府がサウジアラビアに石油を懇願するのは止めるべきだ。アメリカの民主政治体制とサウジアラビアの権威主義体制は相容れず、長い間その関係を緊張させてきた。アメリカがサウジアラビアに石油をねだるのを止めるのは、もう過去のことだ。もう一つの残忍な炭化水素を基盤としている独裁国家に力を与えている場合ではないのだ。

ロシアの石油をサウジアラビア、イラン、ヴェネズエラの石油に置き換えるという不愉快な見通しに直面したとき、イラン核取引に再び参加し、イランの化石燃料を世界市場に戻すことは、最近の価格上昇に対処するためという理由はあるにしても、最悪の選択だ。イラン産原油の購入は、再交渉された核取引の条件によって制約されたままである。一方、サウジアラビア(またはヴェネズエラ)の要求に応じれば、アメリカが懸念する分野に対処するための追加の安全措置はないことになる。長期的には、バイデンは化石燃料への依存を減らし、それによって避けることができない石油価格ショックからアメリカ経済を守るよう努力しなければならない。そうしてこそ、アメリカ政府は石油を保有する権威主義者たちとの偽善的な取引を止めることができる。

リヤドは、最近の関係の冷え込みにもかかわらず、依然としてワシントンの保護を当然と考えているようだ。その理由の一つは、カショギの殺害とイエメンの荒廃についてサルマン王太子の責任を追及するというバイデン大統領の約束が守られなかったことが挙げられる。

現在のアメリカのサウジアラビアに対する宥和政策は、リヤドがワシントンを必要としている以上にバイデンが自分を必要としているというムハンマド・ビン・サルマン王太子の認識を強めるだけであり、この見解は、アメリカ政府が自分を支援し続ける以外に選択肢がないと考えて、ロシアや中国とより緊密に提携することを促すだろう。

その代わり、バイデンはこの機会に、全ての武器売却を中止し、サウジアラビア軍への保守(メンテナンス)契約を停止するなど、アメリカとサウジアラビア王国の関係を根本的に見直すべきだ。そうすることで、リヤドに対して唯一の安定した安全保障上のパートナーを失う危険性があることを示すことができる。

もし、サルマン王太子が独裁者たちへの支援を強化するならば、アメリカにとって大きな損失にはならないだろう。

※ハリド・アル・ジャブリは、医療技術の起業家であり、心臓専門医でもある。サウジアラビアから追放され、兄弟2人が政治犯となっている。ツイッターアカウント:@JabriMD

※アニール・シーラインはクインシー・インスティテュート・フォ・レスポンシブル・ステイトクラフト研究員である。ツイッターアカウント:@AnnelleSheline

(貼り付け終わり)

(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。 

 2019年9月14日にサウジアラビアの東部、ペルシア湾岸沿いのアブケイクの石油生産施設が攻撃された。サウジアラビアの1日当たりの産油量が半減する被害が出ているが、死傷者は出なかった。

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サウジアラビア・アブケイクの地図

  アメリカのドナルド・トランプ大統領とマイク・ポンぺオ国務長官は今回の攻撃はイランが実行、もしくは関与しているとして非難している。トランプ大統領は米軍が臨戦態勢にあるとまで発言した。また、サウジアラビア外務省は、イラン製の武器が使われたという声明を発表した。これに対して、イランは関与を完全否定しており、また中国は安易な決めつけをしないように懸念を表明した。

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攻撃後の様子 

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攻撃による被害の様子

  今回の攻撃について、イエメンの反体制勢力ホーシー派(Houthis、フーシ派)が攻撃を実行したという声明を発表した。ホーシー派にはイランが支援を行っている。ホーシー派はイエメン内戦の当事者であり、もう一方の当事者である現政権を支援しているサウジアラビアに対して、これまで数度攻撃を行っている。しかし、これほど重大な被害を与える攻撃となったのは初めてのことだ。 

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ホーシー派

  今回の攻撃については明確になっていないことが多い。誰が攻撃を実行したのか、どのような兵器が使われたのか、イランが実行もしくは関与したというのは真実か、サウジアラビアの自作自演の可能性はどうか、など疑問が次々と出てくる。

 アメリカ政府はイランの実行もしくは関与と決めつけている。また、サウジアラビアもイランを非難する声明を発表した。他の大国は抑制的に対応している。トランプ大統領は米軍が臨戦態勢にあると述べた。しかし、アメリカ軍がイランと直接戦うことは今のところ考えられない。 

 トランプ大統領は米軍の中東とアフガニスタンからの撤退を公約にして当選したことを考えると、来年大統領選挙を控えており、アメリカが新たな戦争をする可能性は低い。アメリカの脅威、圧力が低下する中で、世界規模で不安定さが増している。日韓関係の悪化もアメリカの存在感の低下が原因だ。 

 サウジアラビアとイランはペルシア湾をはさんで対峙している。ペルシア湾岸をはさんで直接戦火を交えることは、お互いが石油輸出を命綱としている以上、ペルシア湾岸を戦場にしたくはないだろう。サウジアラビアが単独でイランと戦うというのもサウジアラビアにとっては貧乏くじを引くようなもので、戦争によって国内が不安定になれば、サウジ王家の存続にまで影響が出る可能性もある。 

 イランにしてみれば、アメリカのトランプ大統領が強硬派のジョン・ボルトン国家安全保障問題担当補佐官を解任してくれ、交渉に前向きな姿勢を見せているのに、わざわざアメリカとの対立を激化させる危険な冒険をするとは考えにくい。

 アメリカが構築した戦後世界体制の緩みがでてきて、世界各地が不安定な状況になっている。アメリカからの距離感の遠近で、「ポスト・覇権国アメリカ」時代への移行期に、どれくらい影響を受けるかが違ってくるだろう。 

(貼り付けはじめ)

 サウジアラビアの石油生産施設に対する複数の攻撃についてあなたが知っておくべきこと(What You Need to Know About the Attacks on Saudi Oil Facilities)

―イランに責任があるとされる攻撃によってもアメリカとの間で軍事衝突には今のところ至っていない。 

ロビー・グラマー、エリス・グロール、エイミー。マキノン筆

2019年9月16日

『フォリーン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2019/09/16/what-you-need-to-know-about-the-attacks-on-saudi-oil-facilities-yemen-houthis-iran-who-attacked/

 土曜日にサウジアラビアの石油生産施設に対して攻撃があった。この攻撃によって、国際石油市場にショックを与え、イランとアメリカとの間の緊張を高めた。ドナルド・トランプ大統領は、アメリカ軍は反撃のために「臨戦態勢にある(locked and loaded)」と警告を発した。

 しかし、攻撃自体にはっきりしない点がまだ多く残っているのが現状だ。誰が攻撃を実行したのか、サウジアラビアの1日の石油生産量の半減させることに成功した発射体もしくはドローンはどこから飛んできたのか、ということをはじめ疑問は多く残っている。アメリカ政府高官たちはイランを非難しているが、イランは関与責任を否定している。

 サウジアラビア外務省は月曜日に発表した声明の中で、「初期調査の結果、攻撃に使用された武器はイラン製の兵器であることが示唆される。攻撃に使用された兵器や物質に関する調査は現在も継続中だ」と述べた。

 イランの支援を受けているイエメンの反体制勢力ホーシー派が攻撃を実行したことを認めた。しかし、専門家たちは、ホーシー派がこのような複雑なそして大胆な攻撃を実行出来るのかどうか、疑問に思っている。

 月曜日、この攻撃をイランが実行したか、もしくは関与したのか、どう考えるかと質問され、トランプ大統領は残された証拠はイランの関与を示していると発言した。大統領は「そのように考えられる。現在調査が続けられている」と述べた。

 アメリカ政府高官は攻撃直後の様子を撮影した衛星写真を後悔した、しかし、イランの関与が疑われる中で、それ以外の諜報関係の資料公表は行っていない。ヨーロッパ連合や中国といった諸大国は状況が不明確な状況で非難を行うことに対して慎重さと懸念を表明した。

 イランとアメリカとの間の対立が続くという重要な状況の中で、不確定な要素が多いが、重要な疑問について考えていきたい。

 ●攻撃はどのようにして実行されたか?

 攻撃がどのように実行されたかということの正確な全容は依然不明瞭だ。しかし、残された証拠などから、ミサイル攻撃、もしくはドローンによる攻撃、もしくはそれら2つを組み合わせたものであろうということだ。複数の攻撃によってサウジアラビアのアブケイクにある油田と石油精製施設が破壊された。

 アメリカ政府高官たちは施設には17か所の着弾があったと述べた。また、攻撃直後の衛星写真が示すところでは、17か所の着弾点は規則的にかつ正確に並んでいた。衛星写真では攻撃がどの地点から行われたことは明確にはなっていない。

●誰が実行者だと考えられているか?

 イランの支援を受けているイエメンの反体制組織ホーシー派は土曜日の攻撃を実行したと発表した。10機のドローンを送り施設を攻撃したと述べた、月曜日、ホーシー派はサウジアラビアの他の石油生産施設に対する更なる攻撃を行うと警告を発した。ホーシー派は所有兵器でサウジアラビア全土を攻撃できると述べた。

しかし、アメリカ政府はホーシー派の主張について疑念を抱いている。今回のような手際のよい攻撃を1つの反体制グループが実行できるだろうか、彼らの能力を超えているとアメリカ政府高官たちは考えている。

 マイク・ポンぺオ米国務長官はすぐにイランを名指しした。ポンぺオは同曜日にツイッターで「私たちは全世界の国々がイランによる攻撃を公式にかつ高らかに非難することを求める」と書いた。更に、イエメンからの攻撃であったことを示す証拠は存在しないと付け加えた。ポンぺオは彼の声明内容の正確性を担保する証拠は出していない。

 シンクタンクであるファンデーション・フォ・ディフェンス・オブ・デモクラシーズのイラン専門家ベウナム・ベン・タレブルは、ホーシー派はこれまでにもサウジアラビア国内の攻撃目標に対してミサイル攻撃やドローン攻撃を行ってきたが、そうした兵器や技術はイランから供与されたものだ、と指摘している。しかし、ホーシー派はこれまでこのようなサウジアラビア領土内深くに存在する重要施設の攻撃に成功したことなどなかった。

 アメリカ政府高官は、衛星写真に写っている施設内部の着弾点から分かることは、攻撃は施設の北部もしくは北西部、イラン、イラク、もしくはペルシア湾から実施されたもので、イエメンからではないということだと述べている。しかし、日曜日に公表された複数の衛星写真にはオイルタンクの西側部分が損傷している様子が写っており、アメリカ政府高官の説明とは食い違っている。

 一つの説得力がありかつ好奇心をそそる可能性として、攻撃はサウジアラビア国内にいるホーシー派の協力者たちによって実行されたというものがある。ホーシー派は攻撃実行を認めた声明の中で、「サウジアラビア王国内の名誉ある人々との協力」に感謝すると述べた。サウジアラビア国内に協力者が存在したということになると、イエメンにいるホーシー派がどのようにして長距離攻撃を行ったのかという技術上の疑問や反対意見に対しての藩論ということになる。

 ●イラン国内の強硬派が独自に攻撃を実行した可能性があるのか?

 イスラム革命防衛隊のような改革派や強硬派のようなイラン国内の複数の派閥は長年にわたりイランの外交・安全保障政策に影響を与えようと張り合ってきた。特に2015年のアメリカとの核開発をめぐる合意において主導権を握ろうと張り合った。

 しかし、専門家たちはイラン国内の1つの派閥がこれらの攻撃を実行したのだろうかと疑問を抱いている。駐アラブ首長国連邦米国大使を務め、現在ワシントン近東政策研究所上級研究員バーバラ・リーフは次のように語っている。「この種の目標を攻撃する場合、イラン政府の指導者たちが承認した攻撃となるはずだと私は考える」。

 ブルッキング研究所の中東専門家スザンヌ・マロニーは、今回の攻撃にイランが関与していると述べるのは早計だと述べている。それでもマロニーは「攻撃の背後にイランがいたと仮定すると、確かに今回のような直接攻撃、しかも正確な攻撃がイランの最高指導者たちの賛意と認識がなければ起きなかったであろう」と述べている。

 ●攻撃はイラク国内から実行された可能性はあるのか?

 専門家やアメリカ政府関係者の中には、イランの代理勢力がイラクもしくはシリアから攻撃を実行した可能性を主張する人々も出てきている。アメリカ政府は5月にサウジアラビアに対して行われたドローンによる攻撃はイラクから発射されたものだと断定している。

 しかし、イラク政府は今回の攻撃がイラクの領土内から実行されたという報道の内容を強く否定している。月曜日、イラク政府は、ポンぺオ米国務長官がイラクのアデル・アブドゥル・マウディ首相と電話会談を行い、その中で、ポンぺオ長官がマウディ首相に対して、「イラクの領土は今回の攻撃に使用されていないこと」を示す情報を持っていると述べた、と発表した。米国務省はイラク政府からのこの発表についてまだコメントを発表していない。

 ●イランが自国領土内から攻撃を実行した可能性があるのか?

 イラン領土内からの攻撃だった可能性についてはアメリカ政府高官の中には可能性のあるシナリオだと述べている。そうだとすると、アメリカとイランの対立を激化させることになる。現役のアメリカ政府高官や元高官たちは、イランの通常のやり方はについて、他国にいる代理勢力を通じて攻撃を行い、自身の関与を見せかけでかつもっともらしく否定できるようにするものだと主張している。

 リーフは、「イランが攻撃に関与したとなると、これはイランの“グレーゾーン”を使う、もしくは後で否定が出来るような行動をとるというこれまでのやり方からは外れていることになる」と述べている。そして、もしそうだとすると、イラン対アメリカと中東地域の同盟諸国との間の対立の「激化のはしごを大きく上った」ことを示しているとしている。

 自国の領土内から軍事攻撃を行うと、イランは破滅的な反撃を受ける可能性に晒されてしまうことになる。イランは代理勢力に頼って自国の利益を守っているが、これは、イランが国防にあたり自国の通常の軍事力を使うことが出来ないためである。イラン領土内から対立国であるサウジアラビアにミサイルを発射することは、こうした代理戦略を放棄したことを意味する。

 シンクタンクであるインターナショナル・クライシス・グループでイラン・プロジェクトのリーダーを務めているアリ・ヴァエズは次のように述べている。「イランはこれまで非対称戦争の術に長けてきた。イランはこれまで自国が報復を受けないようにするために努力を重ねてきた」。

 ●アメリカはどのように対応するだろうか?

 トランプ政権下、アメリカとヨーロッパとアジアの同盟諸国との間で緊張が高まっている。しかし、どの国もペルシア湾岸諸国の石油生産施設に直接的な脅威を与えるようなあからさまな対立が起きることは望んでいない。それはイランも同じだ。ペルシア湾岸から算出される石油は国際エネルギー市場の基盤である。しかし、サウジアラビア外務省は声明の中で、サウジアラビア王国は、「国土と国民を防衛し、こうした侵略行為に対して武力で反応することが出来る能力を有している」と述べた。

トランプ大統領とイランとの間の対立は継続中だ。その中で、トランプ大統領はアメリカ人の人命が損なわれることはアメリカの軍事力を使った報復の最終ラインとなると明確に述べている。サウジアラビアの石油生産施設に対する攻撃への報復としてイランを攻撃することは、大統領選挙を約1年後に控えたトランプ大統領にとって政治的な計算において魅力的な答えとはならない。トランプ大統領は前回の大統領選挙で中東からの米軍の撤退を自身の公約の柱として当選したので、イランとの戦争という選択は賢明なものではないということになる。

 月曜日、トランプ大統領はイランとの戦争は「避けたいと望んでいる」と述べた。そして、ポンぺオ長官をはじめ政権幹部たちが間もなくサウジアラビアを訪問する予定となっている。ポンぺオ長官はイランとの外交は「決して行き詰って」はいないとし、「イラン側が合意を結びたいと考えているのは認識している。ある時点でうまくいくだろう」と発言した。

 元駐アラブ首長国連邦米国大使リーフは、アメリカは、中東地域に利害関係を持つヨーロッパの同盟諸国やそのほかの国々と外交関係を刷新し、それらを使ってイランとの緊張関係を緩和するようにすべきだと述べている。リーフは次のように述べている。「国際社会、特にイランとの強力な関係を誇っている国々からの一致した、そして強硬な反応がない限り、アメリカが同盟諸国との関係を刷新し、イランとの緊張関係を緩和することで、ペルシア湾岸の石油生産施設に関しては、緊張緩和によって各国が安全で自由な行動が出来るようになる」。リーフはイランとの強力な関係を誇っている国々として、日本、中国、ロシアを挙げている。

これまで数か月で、石油タンカーに対する複数回の攻撃とアメリカのドローン偵察機の撃墜といった出来事が起きた。これらの出来事だけではアメリカがイランと開戦するためには不十分だった。その代わりにアメリカは経済制裁とサイバー攻撃によって反撃することになった。ヴァエズは「過去が前兆だということになると、アメリカは直接的な軍事行動ではないがそれに限りなく近い報復行動を選ぶ可能性がある」と述べている。

 (貼り付け終わり)

(終わり)

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