古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ヘンリー・キッシンジャー

 古村治彦です。

 私は、ウクライナ戦争は一刻も早く停戦すべきだという考えを持っている。しかし、それに対して「間違っている」「ロシアの味方だ」「ウクライナの人々のことを考えないのか」という非難は当然出てくるものとして受け止めている。アメリカをはじめとする欧米諸国が「火遊び」でNATOの拡大(東進)を行い、ロシアを刺激し、不安感を増大させ、戦争が起きた。そして、戦争が起きれば、欧米諸国はロシアと正式な戦闘状態に入り、最悪の場合には核攻撃を受けるという懸念から、ウクライナに武器を送って(それも致命的なダメージを与える種類は送らない)、ウクライナ人に戦わせるだけのことだ。

ウクライナを戦争前にNATOの正式メンバーにしていれば、NATO諸国は正式にロシアと干戈を交えることになっていたはずだ。ウクライナにどんどんと軍事援助を与え、「実質的にはNATOの一員ですよ」と宣伝しておきながら、いざという事態になれば、欧米諸国はウクライナと共に戦うことはしない。これではウクライナもそしてロシアも馬鹿にされているようなものだ。

 私はこのように考えている。しかし、こうした考えに対しては上記のように非難もあるだろう。それは受け止める。しかし、それならばどうしようと言うのだろうか。ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は停戦を拒絶している。ウクライナの全国土を奪還するまで戦いは止めないとしている。それは2014年の段階でロシアが併合したクリミア半島が入るし、親露勢力の多い東部各州も入る。そのための戦いはどれくらい続くことになるだろうか。クリミア半島までとなると、ロシアにとっては「国土防衛線」ということになる。そうなればこれまで以上に戦争のレヴェルを上げることになる。つまり、核兵器使用の可能性が高まるということになる。

 現在の世界規模での食糧価格の高騰やエネルギー価格の高騰はやはり戦争の影響を受けている。世界規模で、そしてウクライナとロシアの人々のためにも一刻も早い停戦を願っている。そのためにはゼレンスキー大統領の退陣も必要なのではないかとも考えている。太平洋戦争における五本の敗戦直前のことを思えば、指導者の交代で停戦を実現するということもあり得るのではないかと考えている。

 このようなことを書けば「ロシアの手先」と言われてしまうだろう。私としては「そのような時代なのだろう」とそれを淡々と受け止めるしかない。

(貼り付けはじめ)

「平和運動活動家」にとって、戦争はアメリカのことであって、ロシアのことではない(For ‘Peace Activists,’ War Is About America, Never Russia

-彼ら自身の強硬な左翼的世界観は、反西側陣営の侵略者の側につくほど吸収されている。

アレクセイ・コヴァレフ筆

2022年12月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/22/russia-ukraine-war-left-progressives-peace-activists-chomsky-negotiations-diplomatic-solution/

ウクライナ戦争が1年に近づくにつれ、いずれ何らかの交渉で終結することを期待するのは当然のことではある。重要なのは、開戦と終戦の責任をどこに置くかだ。欧米諸国の進歩的な左派の一部にとって、「外交を通じての平和(peace through diplomacy)」とは、滅多に表立っては言わないにせよ、1つの意味を持っている。それは、「ウクライナはロシアの条件に従って降伏する(Ukraine’s surrender on Russia’s terms)」というものだ。

将来、どこかの時点で、交渉が行われるに違いない。ロシアが戦場で目的を達成するための窓はとっくに開いている。しかし、ウクライナが西側諸国から攻撃用兵器の種類を増やしてもらわない限り、ウクライナ軍がハリコフ州やケルソン州で見事に成し遂げたような大規模な反撃を行って残りの国土を解放することは非常に困難だろう。従って、ある時点で、どちらか一方または双方が戦争するための資源を失い、両国が停戦の条件を話し合うテーブルに着くことになる。しかし、ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナが主権国家(sovereign state)として、また独立した国民として存在する権利そのものをまだ認めていない。そうした中で、誠実に交渉し、いかなる合意も守るというロシアの約束は、議論の余地があるという評価以上のことはない。

西側諸国の多くにおいて、国民の大多数はウクライナ支援に賛成している。ウクライナにとって最大かつ最も信頼できるパートナーであるアメリカも同様で、12月21日に行われた米連邦議会合同会議でのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領の歴史的演説では、通路を越えてスタンディングオベイションが起こるなど、ウクライナの主権擁護は超党派の強固な支持を得ている。

しかし、欧米諸国によるウクライナ支援は、政治スペクトルの両端から敵意を呼び寄せている。「アメリカの覇権(U.S. hegemony)」や「アメリカの軍国主義(U.S. militarism)」に反対する西側諸国の強硬左派にとって、彼ら自身の反米・反西西洋的世界観は、反西側陣営のいかなる侵略者の側にも容易に味方するほど吸収されている。同様に、アメリカが支援する国に対しても熱心に反対する。ロシアやイランのような抑圧的な政権に左派の一部が根強く同調するのはこのためだ。抑圧(repression)そのものを肯定しているわけではないが、反米陣営と手を組むことへ傾倒が不支持よりも強いのである。

ウクライナのケースは、以前植民地化された主権国家が、大量殺戮の意図に全く隠さない帝国主義的侵略者から自らを守るという、明確な闘いであることは気にする必要がない。こうした進歩的な極左派は、しばしば平和活動家(peace activists)と自称しているが、ウクライナの社会主義者たちのような、自分たちのイデオロギー的同志から出た証拠であっても無視する。

その代わり、ウクライナに関する極左派の主張は、ウクライナ支援からの撤退を求める西側極右派の主張と見分けがつかないことが多い。進歩的左派の象徴であるジェレミー・コービン元英国労働党党首やフォックス・ニューズの司会者タッカー・カールソンは、クレムリンのお気に入りの論点を自由に繰り返している。たとえば、ウクライナを支援すれば不必要にウクライナ人の苦痛が長引くという皮肉な主張である。

明らかな結果という点では、強硬左派が「ウクライナでの戦争を止めろ(stop the war in Ukraine)」と要求する本当の意味は、「ウクライナの自衛を助けるのを止めろ(stop helping Ukraine defend itself)」ということだ。文書で十分に立証されたロシアの残虐行為、プーティンが宣言したウクライナにおける目標、そして侵略の露骨な植民地主義的性質を無視するように、彼らの自称反戦姿勢には道徳的要請が決して存在しないのだ。このため、論理的な結論は1つしかない。左翼が反対するのは戦争ではなく、一方がアメリカの支援を受ける戦争が存在するという事実である。

ウクライナ人には主体性(agency)がなく、ロシアは代理戦争(proxy wars)の犠牲者であるというこのねじれた世界観は、先月のマンハッタン文化センターでのイヴェントで存分に発揮された。そこでは、このサブカルチャーの最も著名な人物たちが、イヴェントのタイトルの通りに、「ウクライナ和平への真の道(Real Path to Peace in Ukraine)」について議論した。言語学者ノーム・チョムスキー、元アメリカ緑の党大統領候補ジル・スタイン、著名な自称平和活動家メデア・ベンジャミンなど、進歩的左派の象徴的人物が名を連ねていた。

3時間以上にわたる討論は、インターネット上のごく少数の視聴者に向けて配信されたが、ウクライナの平和への第一歩らしきものを提案した発言者は1人としていなかった。このイヴェントの副題は「交渉には賛成!エスカレーションには反対!」だったにもかかわらず、ウクライナ和平への第一歩らしき提案は一人もなかった。「エスカレーションには反対!」という副題がついていたにもかかわらず、誰が交渉するのか、その交渉の立場はどうなるのか、永続的な和平を実現するために誰が何をあきらめるのか、について言及しようとする講演者は1人もいなかった。ウクライナ人の姿はなく、ある講演者は「平和を訴えるのにウクライナ人である必要もロシア人である必要もない」と陳腐な弁明をした。

こうした活動家たちがウクライナの「平和(peace)」や「外交的解決(diplomatic solution)」を訴える際には、必ずと言っていいほど、その詳細は曖昧だ。スタインは、停戦は「ペンのクリックひとつ」で可能だというが、他の講演者と同様、すぐに他の話題に移ってしまった。もちろん、今後の交渉の内容は現時点では机上の空論に過ぎないが、少なくとも他の交渉推進派からは、思惑があるにせよ、具体的な提案が出ている。例えば、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は、2月24日以前の現状に戻すことを要求している。

しかし、強硬な左派にとって、外交的解決への要求は常に、「ウクライナへの援助を止め、ロシアに好きなようにさせる」ということに尽きるようだ。例えば、イギリスの「Stop the War Coalition」が2022年11月に出した嘆願書について考えてみよう。ウクライナでの戦争による多大な人的犠牲を認めながら、イギリス政府に「武器の送付を止める」ことを求め、その上で「当事者全てが即時停戦と和平交渉の要求の高まりに耳を傾ける」よう促しているのだ。「ウクライナに平和を」とは、ウクライナの費用で、ロシアの条件での平和を意味するのだ。

「平和推進(pro-peace)」の活動家に長時間マイクを持たせると、親ロシア的な傾向が表れてしまう。「アメリカは悪であり、反米の独裁者は善である」という教義に従ったブログ「グレイゾーン」の共同設立者マックス・ブルメンタールが、ゼレンスキーが到着した日にワシントンでロシア当局者を罵倒せず、戦争を止めるためにできることをするように要求したのは偶然ではないだろう。その代わりに、ブルメンタールと彼の同志たちは、ロシアの残虐行為を否定するか軽視する一方で、ゼレンスキー個人を誹謗中傷することに力を注いでいるのだ。

他の多くの西側「反戦(anti-war)」活動家たちは、親クレムリン的な偏見(pro-Kremlin bias)を隠そうともしない。様々な極左活動家の傘下団体であるANSWER連合のスポークスマンであるブライアン・ベッカーは、プーティンの修正主義論文であり戦争正当化文書である『ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について』を彼のインスピレーション源の1つと考えていると述べた。

西側の「反戦」の声が、ロシアの残虐行為を認め、自宅で爆撃されたウクライナの市民に同情を示したとしても、それは必ず、残虐行為がロシアの侵略以外の何かのせいにされる、別の反アメリカ的言辞に押し込められている。この道徳的盲点の典型的な例が、「反軍国主義(anti-militarist)」左派の守護聖人(patron saint)であるチョムスキーである。彼は何度も何度もインタヴューやスピーチの冒頭でロシアの「犯罪的侵略(criminal invasion )」を非難しているが、すぐに戦争の原因を軍産複合体がウクライナに武器を押し付けているとされるアメリカのせいにすることに重点を置いている。彼の世界観は、ウクライナだけでなく、ロシアにも主体性を認めない。ロシアは、邪魔をしないことで回避できる自然災害のような存在として描かれている。この現実的な敗北主義者(pragmatically defeatist)の反戦思想では、ウクライナは何があってもダメなのだ。チョムスキーに言わせれば、ロシアは世界を破壊する力を持っているのだから、ロシアの要求にすべて応じるしかないということになる。それを拒否することで、西側諸国は「恐ろしい賭け(ghastly gamble)」(ニューヨークのイヴェントでチョムスキーがそう呼んだ)に従事していると彼は発言した。

ウクライナをはじめ、大きな隣国に侵略されたり、いじめられたりしている国々にとって幸いなことに、西側の自称反戦左派は、1970年代や80年代のような影響力をもはや持っていない。ニッチなイヴェントでも数百人以上の参加者を集めることはほとんどない。少なくともアメリカでは、ウクライナに対する西側の支持に影響を与えるほど大きな聴衆を動員することはない。しかし、影響力を求めるあまり、少数の人々の心を傷つけることはできるだろう。

※アレクセイ・コヴァレフ:『メドューサ』誌調査担当編集者。ツイッターアカウント:@Alexey__Kovalev

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 アメリカと台湾の関係は微妙である。アメリカは米中国交正常化(1975年ニクソン訪中、1977年カーターによる米中共同宣言の内容の再確認、1978年に1979年1月に国交樹立を行うことに合意)以来、「一つの中国」政策を堅持している。これは、「中国本土と台湾は不可分の領土であり、台湾は中華人民共和国の一部であり、中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府だ」とする中国政府の主張について、アメリカ政府が不可分と台湾が中国の一部であることを「認識する(acknowledge)」、合法政府であることを「承認する(recognize)」というものだ。これらの文言は曖昧である。

 台湾(中華民国)は1972年に国連から追放され、多くの国々が台湾を独立国として正式に承認していない。ここで問題は、1978年、米中国交正常化の前に、アメリカ連邦議会が「台湾関係法(Taiwan Relations ActTRA)」を制定した。これは、台湾の安全保障に関して、アメリカ大統領に米軍による行動という選択肢を認めるものであるが、「アメリカ軍が必ずアメリカ軍を守る」ということではない。これは「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」と呼ばれている。しかし、一般的には台湾有事の際にはアメリカ軍が台湾を守ると受け止められている。

 ウクライナ戦争が勃発し、「次は台湾だ(中国が台湾を攻める)」という馬鹿げた主張が多くなされた。そして、その際に「アメリカは台湾を守るのか」という疑問が多くの人々の間に出てきた。ウクライナ戦争ではアメリカは莫大な資金と膨大な数の武器をウクライナに送った。しかし、決定的な攻撃力を持つ武器は送らず、兵員も送っていない。台湾も同様のことになるのではないかという主張が出ている。アメリカ軍が中国人民解放軍と直接戦闘ということになったら、どのような事態が起きるは分からない。エスカレーションを避けたいアメリカは台湾に兵員を送らないだろう。そうなれば台湾は領域の狭さを考えるとウクライナのような抵抗は厳しいだろう。
 そもそも中国が直近で台湾を攻めることはない。台湾が中国にとっての安全保障の脅威になっているということはない。熟柿作戦で柿が熟して落ちるまで待てばよい。そして、台湾の側から見れば、アメリカが頼りにならないとなれば、中国との軍事的な衝突は百害あって一利なしとなる。中国との戦争は馬鹿げたことだ。アメリカに物資だけもらって自分たちだけで戦うというのは自分たちだけが傷つくだけのことだ。軍事的な衝突を避けながら、自分たちが中国の実質的な影響圏、経済圏の中で存在感を保ちながら、繁栄を続けていくということが最善の途だ。

 台湾関係法の曖昧さは対中国という側面もあるが、台湾をアメリカに依存させるために必要である。しかし、ウクライナ戦争でこの曖昧さのメッキがはがれ、「どうせアメリカは頼りにならない。物資だけもらって戦って傷つくなんて愚の骨頂だ」という考えが台湾の人々の間で広がっているだろう。台湾内部で大陸との衝突を避けようとする国民党の任期が上がっているのもうなずける話だ。

(貼り付けはじめ)

バイデンはウクライナが必要としているものを全て与えるべきだ-そして公式に台湾防衛に関与すべきだ(Biden should give Ukraine all it needs — and formally commit to defend Taiwan

ジョセフ・ボスコ筆

2022年11月29日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3753576-biden-should-give-ukraine-all-it-needs-and-formally-commit-to-defend-taiwan/

もしアメリカがロシアの侵略に対する現在のウクライナ支援の形が、中国が台湾を攻撃した後のアメリカの役割のモデルになるとすれば、台湾の人々は大変な目に遭うことになるだろう。

2008年、NATOはジョージ・W・ブッシュ大統領の働きかけを受けて、加盟国26カ国による「グルジアとウクライナがNATOに加盟することに合意した」という内容のコミュニケを発表した。

1997年、ウクライナがソヴィエト連邦時代に保有していた核兵器を放棄する代わりに、アメリカ、イギリス、ロシアがウクライナの安全保障を具体的に保証したにもかかわらず、ウラジミール・プーティンはNATOの姿勢に対して「ロシアの安全保障を脅かすものだ」と強く反発した。

しかし、2008年にロシアがグルジアに侵攻した際、アメリカとNATO各国は何もしなかった。プーティンは、アメリカとNATOの黙認に勇気づけられ、「国家の再統一(national reunification)」と「領土の一体化(territorial integrity)」に向けた次の動きを計画した。

それが、2014年のウクライナ東部とクリミアへの侵攻である。オバマ政権はブッシュ政権のグルジアでの例に倣って、それを止めるためのことは何もしなかった。

アメリカの指導力がないために、NATOもプーティンの第二の侵略行為を受け入れ、必然的にプーティンは決定的な第三の行為を計画するようになった。バイデン政権の「厳しい(severe)」経済制裁の警告を無視して、ロシアがウクライナの国境沿いに侵攻軍を動員したのは、2022年2月のことだった。

ロシア軍がウクライナに侵入し、首都キエフに向かって前進した後、ワシントンとNATOの同盟諸国の政府関係者たちは、ヴォロディミール・ゼレンスキー政権の崩壊が近いと予想した。その場合、西側諸国の役割は、ウクライナの降伏とプーティン支配下での再建のための交渉を促進する、最小限の比較的リスクの少ないものとなるはずだった。ジョー・バイデン米大統領は、ウクライナが要求していないアメリカ軍の地上戦や、要求している飛行禁止区域の設定によってロシアに直接挑むことは、「第三次世界大戦になる可能性がある(would be World War III)」と述べている。

台湾には、ウクライナをロシアの侵略から守るのに失敗したのと同じレヴェルの西側の安全保障しかない。その代わりに、1979年に制定された台湾関係法Taiwan Relations ActTRA)がある。この法律では、「ボイコットや禁輸を含む平和的手段以外で台湾の将来を決定しようとするいかなる試みも、西太平洋地域の平和と安全に対する脅威であり、アメリカにとって重大な懸念であると考えられる」と定めている。

このような敵対行為(hostile action)に対応するため、台湾関係法は、アメリカが「台湾に防衛的性格の武器を提供し、武力または他の形態の強制(coercion)に対抗するアメリカの能力を維持しなければならない」と定めている。

法律成立以降の全てのアメリカ政権は、台湾に防衛的な武器を提供することで、台湾関係法の命令の最初の部分を遵守してきた。ドナルド・トランプ政権とバイデン政権は、中国のエスカレートする暴言とますます敵対的な行動に対応して、台湾の武器売却の量と質を大幅に引き上げさせた。

しかしながら、ワシントンが台湾に提供する兵器の「防衛的(defensive)」性格を強く打ち出していることから、北京は台湾の軍事力を理由に台湾に対する運動行動を抑止することはできないだろう。ここでも、ウクライナの経験は、台湾にとって心強いものではない。

プーティンが何度か予告した核兵器使用の可能性を含む、ロシアのエスカレーションに対するアメリカと西側諸国が恐怖を持ったことで、ウクライナの現在の防衛的立場からロシア領土を攻撃できる西側諸国の兵器の移転を抑制することに成功した。

同様に、アメリカの歴代政権は一貫して、中国の資産を脅かし、北京の紛争を抑止する可能性のある最新鋭戦闘機やディーゼル潜水艦などの兵器システムの台湾への売却を拒否してきた。

近年、アメリカの国防当局は、殺傷能力の高い兵器の提供を控えることを戦略的ドクトリンの領域にまで高めている。彼らは、いわゆる「ヤマアラシ戦略(porcupine strategy)」を推進しており、「多くの小さなもの(many small things)」、例えば地雷、海岸障害物、対水陸両用兵器などによって、台湾を中国軍が攻撃する際の「簡単に負けない」犠牲者(“indigestible” victim)にするというものである。

アメリカの台湾政策は、バイデンが、屈辱を感じたプーティンが大量破壊兵器を持ち出すことを恐れて、ウクライナにロシアを決定的に破るために必要な先進兵器システムを提供するのを阻むのと同じエスカレーションへの恐怖によって阻まれている。

しかし、アメリカが台湾の防衛能力だけでなく、中国の侵略を抑止する能力を制限するほど、台湾関係法が義務付けるアメリカ自身の「抵抗能力(capacity to resist)」を強化する必要性が高まる。

1979年以降、「アメリカは台湾を積極的に防衛する」と明確に宣言した政権はなく、台湾が自衛を試みることができる限定的な武器を送ったに過ぎない。これは戦略的曖昧さ政策(policy of strategic ambiguity)と呼ばれる。

クリントン政権は1995年、中国が台湾を攻撃した場合、アメリカは何をするか分からないと中国当局に伝え、「それは状況次第ということになる(it would depend on the circumstances)」と述べた。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2001年に記者団に対し、アメリカは「必要なことは何でもする(whatever it took)」と述べ、中国がどうするかは分からなくても、私たちがどうするかは分かっていることを示唆した。トランプ大統領は、「中国は私が何をするかを知っている(China knows what I'm gonna do)」と威嚇するような発言を行った。つまり、今、ワシントンと北京の両方が、台湾防衛に対するアメリカの意図を把握していたが、アメリカと中国の両国民は、台湾をめぐる戦争の見通しについて、依然として暗中模索しているのである。バイデンは、アメリカが台湾防衛のために自国の戦闘部隊を派遣するということを、4回の機会をとらえて、より具体的な言葉で述べ、状況に新しい光を当てようとした。

しかし、ホワイトハウスと国務省のスポークスマンは、それぞれの大統領の発言について、アメリカの「一つの中国政策(one China policy)」と両岸の平和的解決(peaceful resolution)に変更がないことを「説明」し、台湾防衛に関する戦略の明確化から何度も逃れている。

国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンは最近、彼の上司であるバイデン大統領が「アメリカは台湾を軍事的に防衛する」と何度も発言したことについて問われ、「私たちの台湾関係法の関与は、アメリカが台湾防衛に必要な物品を提供することを確約する」ことだけだと確認した。

サリヴァンは、同じく台湾関係法で義務づけられている台湾防衛のための「能力(capacity)」を行使するとは言っていない。もう1つの未解決の問題は、台湾が自国を防衛するために必要な「物品(articles)」を誰が定義するのかということだ。つまり、定義するのは、台北かワシントンか、ということである。これは、ウクライナの安全保障上の要求について、ワシントンとキエフが対立しているのと同様である。

現在、ウクライナと台湾は、減少し続けているアメリカが備蓄している武器をめぐって争っている可能性があると報じられている。これは、「無制限(no limits)」の戦略パートナーであるロシアと中国にとって朗報であり、ワシントンの注意と資源を異なる方向に引き寄せようとして協調している。バイデンは、ウクライナが防衛に必要なものを全て手に入れられるようにする一方で、台湾を防衛するというアメリカの責務を正式に表明する理由が更に増えている。

※ジョセフ・ボスコ:国防長官中国国家担当部長(2005-2006年)、人道的援助・災害救援担当アジア太平洋部長(2009-2010年)を歴任。ウラジミール・プーティンのグルジア侵攻時に国防総省に勤務しており、アメリカの対応について国防総省の議論に参加した。ツイッターアカウント:@BoscoJosephA.
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 古村治彦です。

 リチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャーが米中国交正常化を成功させたのは1972年のことだった。ニクソンは北京を訪問し、毛沢東と会談した。米中国交正常化の根回しを行ったのが国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたキッシンジャーだった。ニクソンとキッシンジャーは中ソの離間に成功し、それが冷戦の終結につながることになった。
henrykissingermaozedong1972511

 1970年代から80年代、アメリカの敵は「日本」となった。日本の経済力が高まり、「ソ連と戦っていたら日本という敵が出てきた」ということになった。アメリカは「反共の防波堤(bulwark against Communism)」として日本を復興させたが、それが行きすぎだったということになる。属国である日本を抑え込むのは簡単なことだった。日本は今や衰退国家となりつつある。

 アメリカは「中国に資本主義の素晴らしさを教え、貿易で中国の製品を買ってやることで製造業を育てて国民全体が豊かになれば、アメリカのようになってくれるだろう」ということで、中国を育てた。結果は、アメリカを凌駕するほどの成長を遂げた。

 このことについて、「キッシンジャーが中国という妖怪を生み出した」という批判がなされている。「こんなに難敵になるのならば育てるようなことをしなければよかった」ということになる。キッシンジャーに対するこうした批判はここ10年ばかりずっと続いている。しかし、それは何とも悲しい話である。「引かれ者の小唄」という言葉がある。この言葉は江戸時代に死罪を申し渡された罪人が刑場まで引き立てられていく間、強がって小唄を唄っていたというところから、「負け惜しみを言う」という意味になる。キッシンジャーに対する批判は「引かれ者の小唄」である。

 アメリカの馬鹿げた理想主義(民主政治体制、資本主義、法の支配、人権思想などを世界に拡大する)は時に思わない結果を生み出す。「アメリカみたいな国になってくれる」という馬鹿げた考えに中国が付き合う必要はない。人間関係でも同じだが、「こうして欲しい、こうなって欲しいと思っていたのに」ということは親子であってもなかなか通じない。中国が豊かになればアメリカのようになる、という傲慢な考えがアメリカ自信を苦しめている。そして、米中国交正常化を成功させたキッシンジャーに対する批判となっている。

 世界覇権は交代している。アメリカがそういうことを言うならば、イギリスにしてもフランスにしても同じようなことを言いたくなるはずだ。アメリカから聞こえてくる引かれ者の小唄は世界覇権交代の軋みの音なのかもしれない。
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ニクソン財団、ヘンリー・キッシンジャーと中国:「大戦略の断絶」(The Nixon Foundation, Henry Kissinger and China: The ‘Grand Strategy disconnect’

ジョセフ・ボスコ筆

2022年11月22日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3744873-the-nixon-foundation-henry-kissinger-and-china-the-grand-strategy-disconnect/

第37代アメリカ合衆国大統領リチャード・ニクソンの業績を記念するために創設されたリチャード・ニクソン財団は最近、中国の歴史的なアメリカとの国交正常化50周年を祝った。

このプログラムは、「アメリカの地政学的課題に専心するための大戦略サミット」と題され、ニクソンの初代の国家安全保障問題担当大統領補佐官で2代目の国務長官ヘンリー・キッシンジャーの基調講演から始まった。司会は、キッシンジャーの後任として国家安全保障会議を主宰したロバート・オブライエンが務めた。

キッシンジャーは、ニクソンが大統領に就任したのは、ヴェトナム、中東、ソ連の問題に直面し、中国がアメリカとの関係から外れていた、アメリカの外交政策にとって慌ただしい時期であったと指摘した。

キッシンジャーは、ニクソンの戦略的ヴィジョンと戦術的柔軟性の組み合わせを大いに賞賛した。アメリカの外交政策に戦略的思考を導入することで、ニクソンはこれら全ての重要な問題を同時に進展させることができたのだ、とキッシンジャーは発言した。

キッシンジャーは、ニクソンが外交チームの主要メンバーに送ったメモを紹介した。メモには「それぞれの問題について、いわゆる利益だけを考えて処理するようなやり方は避けるように」と指示されていた。そうでなければ、「侵略者たち(aggressors)」は、アメリカの主要な関心事に集中するのを避けるために、政策担当者たちの気を散らすことを利用し、自分たちの目的に合うように平和的な話し合いから定期的な対決へと移行してしまうからだ。これは簡単な選択であるがよくないことだ。ニクソンは6年半の在任期間中、そのようなアプローチを採用していたとキッシンジャーは述べている。 アメリカの敵は、今日、この戦略を実践している。

キッシンジャーはニクソンの国家安全保障分野の最高責任者であった。従って、ニクソン大統領のアプローチの形成に重要な役割を果たしたのは明白だ。キッシンジャーは著書『中国について』の中で、この新しいアプローチについて「アメリカがリアリズムを発見した」と書いている。これはニクソンが国際関係におけるモラリスト(訳者註:道徳重視)として知られていた訳ではないが、リアリズムこそがアメリカ外交政策への貢献としては彼のトレードマークといえるものとなった。

しかしながら、キッシンジャーがニクソンの「顕著な業績(signal achievement)」と呼んだ対中国交回復については、少なくともキッシンジャーとの中国での共同作業以前は、ニクソン的対応そのものであった。共産中国(Communist China)に対してタカ派であったニクソンは、1967年の『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載した記事「ヴェトナム後のアジア(Asia After Viet Nam)」で新しい考えを示した。ニクソンは「中国は世界の問題であり、責任ある態度で対処しなければならない」と述べた。当時の言葉を借りれば、「赤い中国(Red China)がアジアにとっての急迫した脅威なった」ということになる。ニクソンは次のように書いている。「赤い中国は、アジアにとって最も差し迫った脅威となった。長い目で見れば、中国を永遠に国際社会の外に置き去りにして、そこで幻想を膨らませ、憎しみを抱き、近隣諸国を脅かしている余裕はない」。

キッシンジャーは、自身の著書やハーヴァード大学での講義は、ソ連と核兵器に焦点を当てたものばかりで、中国やアジア一般には全く関心を示していなかった。ボストン周辺の大学の教授や学生たちがヴェトナム戦争について議論していた時も、「自分の意見は表明しないことを望む」と述べていた。

キッシンジャーの側近として中国プロジェクトに参加したウィンストン・ロードは、祝賀のシンポジウムに出席したウィルソン・センターの聴衆たちに、ニクソンの目的の歴史的な偉大さを見た時に、その一員になる機会に無条件で飛びついたと語っている。ニクソンは、中国との予備交渉の主役をキッシンジャーに命じると、その進め方について指導を行った。その内容は「アメリカが何をするかという点で、あまり積極的であってはならない。私たちは台湾から手を引くことになるだろう。そして、私たちはそれを行うだろう。また、別のことをやるだろう」。

しかし、結局、ヘンリー・キッシンジャーとウィンストン・ロードの2人のリアリストは、ニクソンが毛沢東に会いに行く前に、米第7艦隊を台湾海峡から引き揚げ、台湾からアメリカ軍を撤退させるということをやってのけた。

キッシンジャーの講演の後、ニクソン財団の次の講演者はロバート・オブライエンだった。オブライエンはジャーナリストのヒュー・ヒューイットとのインタヴュー形式で講演を行った。オブライエンは、中国を「今、私たちが直面している国家安全保障上の最大の脅威」と呼び、中国共産党は、台湾が中国国民にとって民主政治の具体例であることから「台湾を破壊したいのだ」と述べた。

オブライエンは次のように述べた。「私たちが中国に接近するのは非常に困難なことだろう。中国の知的財産の盗難に目をつぶれば、製造業をアメリカから中国に移転させれば、彼らの人権侵害に目をつぶれば、新疆ウイグル自治区のウイグル弾圧であれチベット併合であれ香港の民主政治の消滅や台湾に対する脅迫であれ、それら全て許せば、中国は貿易を通じて私たちのお金で豊かになり、より自由でより民主的に、より私たちに近くなるという考え方が存在した。彼らはキッシンジャー博士を愛している。しかし、私たちがどうにかして中国に近づき、中国が私たちのようになるという考えは、無邪気すぎる希望(naive hope)であることが判明した。私たちは中国のために多くのことを行った。そして、それらはうまくいかなかった、そのことを私たちは認識する必要がある」。

ニクソン自身も、結局は自分の関与政策(engagement policy)の失敗を認識していた。それは、ロナルド・レーガン、ドナルド・トランプ、そして現在のジョー・バイデン以外の全ての後継者が踏襲し、育んできたものである。しかし、ニクソンが「私たちはフランケンシュタインを作ってしまったかもしれない」と悔やんだずっと後に、中国との関わりを自らの特別な任務として主張したのは、キャリアの後半に中国との関わりを持つようになったキッシンジャーであり、キッシンジャーは今日もそれを主張している。

台湾について言えば、キッシンジャーは一度も訪問したことがない。キッシンジャーは1972年、毛沢東が台湾を奪取するための攻撃を「100年」延期しても構わないと考えていることを冗談交じりに非難し、2007年には中国が「永遠に待つことはない」と台湾の人々に警告している。一方、ニクソンは台湾を何度も訪れ、1994年には台湾の目覚しい経済・政治的発展から、「中国と台湾は政治的に永久に分離される(China and Taiwan are permanently separated politically)」と書いている。

キッシンジャーは、2018年にウッドロー・ウィルソン・センター・フォー・インターナショナル・スカラーズのために、もう一つの50周年記念で「回顧展」を行ったとき、より深く考え直す機会を得たのである。

ニクソンが「赤い中国がアジアにおける最も差し迫った脅威となった」と警告してから半世紀以上経過した後、キッシンジャーは無意識のうちに、関与政策の死角を突く言葉を口にした。「世界の平和と繁栄は、中国とアメリカが協力する方法を見つけることができるかどうかにかかっている。これは現代の重要な問題である」。

しかし、キッシンジャーの発言で最も注目され、明らかになったのは、この禍根を残しかねない展開に対する彼の説明である。「私たちは、米中両国は、政策の遂行において例外的な性質を持っていると信じている。私たちは民主的立憲主義(democratic constitutionalism)の政治システムに基づいており、中国は少なくとも孔子までさかのぼる進化と何世紀にもわたる独自の実践に基づいている」。これは、キッシンジャーの著作でしばしば繰り返されるテーマである。

しかし、キッシンジャーはどっちつかず(どっちもどっち)態度によって、ニクソンが自ら作り出した真の怪物と称した中国共産党には全く触れていない。 キッシンジャーは、今日に至るまで、マルクス・レーニン主義を問題と認識しておらず、オブライエンが「大戦略の断絶(Grand Strategy disconnect)」と呼ぶに値する、洗練され博識ではあるが無邪気さを体現している。

※ジョセフ・ボスコ:2005年から2006年にかけて米国防長官付中国担当部長、2009年から2010年にかけて人道的支援・災害復旧担当アジア・太平洋地域部長を務めた。ウラジミール・プーティンがグルジアに侵攻した際には米国防総省に勤務し、アメリカの対応について米国防総省の議論に参加した。ツイッターアカウント:@BoscoJosephA.

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(終わり)感情に振り回されるのが人間ではあるが少し冷静になって戦争の終わり方について議論することが重要だ

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 古村治彦です。

 2022年2月24日に勃発したウクライナ戦争は年を越した。戦争期間は300日を超え、もうすぐ開戦して1年ということになる。2023年もウクライナ戦争の暗い影が私たちの上にかかってくる。食料や資源価格の高騰を私たちは身をもって感じている。年末年始に買い物をした時に改めて価格の高騰や消費税の重税感を持った人たちも多いと思う。

 昨年12月、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官がウクライナ戦争停戦の提案を行った。提案は、ウクライナはNATOと正式な関係を結び(正式な加盟とは書いていない)、ロシアはウクライナ戦争後に占領した地域から撤退し、戦争前にロシアが掌握している地域での住民投票を行うという内容だ。

 キッシンジャーの提案は、戦争前に戻るということだ。ウクライナがNATOと正式な関係を結ぶという彼の発言内容は気になるところだが、正式加盟ということではないだろう。ウクライナがNATOとの関係を深め、アメリカが軍事支援を行い、ウクライナが増強されていく過程で、ロシアは恐怖感を募らせ、最終的にウクライナ戦争となった。ウクライナの国防をNATOとロシアが交渉してその内容を決めれば、ロシアがウクライナを攻撃することはなく、NATOもウクライナを支援することが可能となる。そういう意味での正式な関係であろう。その内容はロシアも承認できるものであるべきだ。

 ウクライナ政府は、1991年時点でのウクライナ国土を全て奪還することを目指し、このような提案は拒絶している。ウクライナは今回の戦争を通じて、ウクライナ東部とクリミア半島を奪還しようとしている。戦争でなければアメリカをはじめとする西側諸国が支援することはない。支援がなければウクライナは戦争をすることはできない。ウクライナ戦争がなければ、ウクライナは現状を容認するしかない状況だった。しかし、ウクライナ戦争が起きたことで、西側からお手盛りで支援が行われる。それを利用して、東部とクリミア半島をめぐる問題を解決しようとしている。

 しかし、西側諸国には「戦争による疲労」が蓄積している。西側諸国は打ち出の小槌を持っている訳ではない。ウクライナに対する支援は西側諸国の一般国民の血税が原資だ。一般国民は生活が苦しい中で、「いつまで続くのか」という不満を募らせている。

 ウクライナ戦争に関しては、アメリカ政府の中でも停戦を行うべきという声もある。ウクライナ軍がウクライナ戦争後にロシアに占領された地域の奪還までは支援するだろうが、それ以上となると西側諸国は支援を躊躇するだろう。それでもなお、ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領率いるウクライナ政府が戦争を継続し、あくまで全領土の奪還を目指すならば、アメリカはゼレンスキーを処分することだろう。安倍晋三元首相がそうであったように。

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ロシア・ウクライナ戦争を終わらせる交渉のためのロードマップをキッシンジャーが提案(Kissinger proposes roadmap for talks to end Russia-Ukraine war

コリン・メイン筆

2022年12月18日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/3780225-kissinger-proposes-roadmap-for-talks-to-end-russia-ukraine-war/

ヘンリー・キッシンジャーは、ウクライナにおけるロシアの戦争を終わらせるための和平交渉を推し進め、停戦のための枠組みを提供する記事を、土曜日に発表した。

キッシンジャー元米国務長官は『ザ・スペクテイター』誌に寄稿した、ウクライナがNATOと正式な関係を結び、ロシアが侵攻して以来獲得した領土から撤退し、ウクライナ戦争の前にロシアが占領した領土の運命を国民投票で決める可能性があることを示唆した。

キッシンジャーは次のように書いている。「私は、ウクライナにおけるロシアの侵略を阻止するための連合諸国の軍事的な努力に、繰り返し支持を表明してきた。しかし、既に達成された戦略的変化を基礎にして、交渉による平和の実現に向けた新しい構造に統合する時期が近づいている」。

キッシンジャーは5月に、「戦争前の状況(the status quo ante)」に戻るための「境界線(dividing line)」にロシアとウクライナの両者が合意すべきであると述べ、基本的にウクライナに平和と引き換えにクリミア半島やドネツク州の一部を含む領土を割譲するよう求めている。

週末の記事で、99歳の外交官であるキッシンジャーは、これらの領土の支配は停戦合意の後に決定されると述べている。

キッシンジャーは次のように書いている。「戦前のウクライナとロシアの境界線が戦闘や交渉によって達成できない場合、自己決定(self-determination)の原則に頼ることが検討されるだろう。国際的な監督下にある自己決定に関する住民投票(referendums)を、何世紀にもわたって何度も変更されてきた領土に適用することができるだろう」。

そして、キッシンジャーは、ウクライナはウクライナ戦争の期間中、「中央ヨーロッパの主要国(major state in Central Europe)」として「ヨーロッパで最大かつ最も効果的な陸軍(one of the largest and most effective land armies in Europe)」の地位を確立し、西側の安全保障同盟に加盟する道を開いたと主張している。

キッシンジャーは「和平プロセスは、ウクライナを、たとえ表明されたものであっても、NATOと結びつけるべきである。中立(neutrality)という選択肢は、特にフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟した後ではもはや意味をなさない」と書いている。

ウクライナのNATO加盟の可能性は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領によるウクライナへの侵攻の原動力と見なされていた。

ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、今年初めにスイスのダヴォスで開かれた世界経済フォーラムでのキッシンジャーの提案を厳しく批判し取り上げなかった。また、ゼレンスキーの大統領官邸は今週、より詳細な提案を受け入れないと示唆した。

ゼレンスキー大統領の補佐官を務めるミハイロ・ポドリャクはテレグラム錠に次のように投稿した。「単純な解決策を支持する人は皆、次の明白なことを思い出すべきだ。悪魔との合意、つまりウクライナの領土を犠牲にした悪い平和は、プーティンの勝利であり、世界中の独裁者の成功のレシピとなる」

ウクライナ政府は、ロシアへの譲歩を含む和平案を拒否しており、いかなる領土も譲らず、モスクワの軍隊が国内から完全に撤退するまで戦うと主張している。

ウクライナのある外交官は、10月に億万長者のイーロン・マスクが、ロシアとの戦争を終わらせるために、ウクライナの領土を譲り、争いのある地域で新しい選挙を行うことを提案した後、「ふざけるな(f— off)」とマスクに向かって直接吐き捨てたと伝えられている。

米統合参謀本部議長マーク・ミリー陸軍大将は11月、ロシアがケルソンから撤退し、冬の間は「交渉の好機(a window of opportunity for negotiation)」になるかもしれないと示唆し、ウクライナ当局を激怒させた。

ミリー議長はその後、自身の発言の真意を明らかにしようとして、アメリカは「ウクライナを自由にするために必要な限り支援を続ける。いつ交渉するかはウクライナ次第だ」と発言した。

しかしながら、アメリカは、ウクライナを支援する世界各国での戦争による疲労(war fatigue)に対応するため、ゼレンスキー大統領にロシアとの交渉に前向きであることを示すよう促したと複数のメディアが報じている。
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(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争について、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官が「戦争直前のラインで停戦を行うべき」と述べたことはこのブログでもご紹介した。「これ以上続けると、ウクライナの防衛戦争の枠組みを超えて、ロシアに対する新たな戦争になってしまう」とキッシンジャーは警告を発した。国際関係論分野の「リアリスト」と呼ばれる人たちは早期の停戦を主張している。

 それに対してキッシンジャーに反発する人物が書いた論稿をご紹介する。キッシンジャーについては、米中国交回復を実現したことで、中ソ離間を成功させ、ソ連を弱体化させたという評価がある一方で、親中派として中国がここまで成長する手助けをしたという批判がある。アメリカの最大の貿易相手国として中国は急激な成長を続け、それが結果としてアメリカの首を絞めることになったのは何とも皮肉な結果である。

 下に紹介する論稿の著者ジョセフ・ボスコはキッシンジャー批判派である。そして、ウクライナ戦争に関してはゼレンスキーを全面的に支持して、アメリカはより大きな支援を継続して行うべきだと考えている。こうした「ウクライナ頑張れ、アメリカはどんどん支援しよう(どんどん武器をアメリカ政府が替刃防衛産業も儲かるし)」という人々はきちんと出口を見据えて発言しているのだろうか。現状ではウクライナ軍がロシア軍をウクライナ東部から追い落とすこと、更に2014年にロシアが併合したクリミア半島を奪還することは不可能である。はっきり言って膠着状態であり、ウクライナ東部でロシア軍が状況を有利に進めているが、2月24日の戦争勃発前の状態にできるだけ戻す形での停戦が一番現実的である。

 どんどんやれ、ウクライナにどんどん武器を送れと言っても限界がある。欧米諸国はその限界を迎えつつあるのではないか。ヨーロッパの戦争であり、EU諸国が勇ましいことを述べているが、戦費の半分以上をアメリカに負担してもらって、まさに「口だけ番長」状態である。自分たちも一緒になって戦う気もなく、支援もする気がないのでは、EU諸国の存在意義はないに等しい。これが現代の先進諸国の実態である。そして、話を逸らそうと「次は台湾が危ない」などと言いだす。ロシアを叩き潰せない欧米諸国が中国と真剣に戦うことなどできる訳がない。欧米諸国は「張り子の虎(paper tiger)」だ。

 キッシンジャーに文句を言ってみたところで、現状がどうなるものでもない。現実的に考えて、早期停戦こそがより良い結果ということになる。

(貼り付けはじめ)

バイデンはキッシンジャーからのウクライナについて素早く逃げるようにという助言に従っているのだろうか?(Is Biden following Kissinger’s cut-and-run advice on Ukraine?

ジョセフ・ボスコ筆

2022年5月31日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/3506286-is-biden-following-kissingers-cut-and-run-advice-on-ukraine/

ウラジミール・プーティンは2005年、「20世紀最大の地政学的惨事」は第一次世界大戦でもなく、第二次世界大戦でもなく、毛沢東の中国支配でもなく、冷戦でもない、と断言した。プーティンの世界観では、冷戦の終結とソヴィエト連邦の解体こそが歴史的悲劇ということになる。しかし、それによってヨーロッパの数多くの国々と3億人近い人々がソ連の専制政治から解放された。

それから3年も経たないうちに、プーティンは第一次世界大戦とヴェルサイユ条約後のアドルフ・ヒトラーの復古主義を再現し、世界史における耐え難い一章と見なしたものを覆した。2008年にNATOがグルジアとウクライナの加盟を支持すると表明した数カ月後、ロシアはグルジアの一部に侵攻し、占領した。

ジョージ・W・ブッシュ(子)政権とNATOが事実上黙認すると、プーティンはソヴィエト連邦の再構築という次の方策を準備した。2009年にバラク・オバマ大統領は米露関係の「リセット」を発表した。そして2012年にはプーティンにアメリカの「柔軟性」の拡大を約束した。2014年、ロシアはウクライナ東部に侵攻し、クリミアを奪取して反撃した。この時も、西側諸国はロシアの侵略を覆すような、あるいは意味のある処罰を与えるようなことは何もしなかった。プーティンは、帝国再興計画の第3段階の準備を開始した。

ロシアが2021年に次のウクライナ侵攻に向けて軍を増強した際、プーティンの全ての動きを予見していた情報機関を持つワシントンは、侵攻が起こるのをただ見ているだけだった。ジョー・バイデン政権は、その正確な予測を自画自賛しながらも、侵略を阻止するためにNATOとともに直接あるいは適時に行動を起こそうとはしなかった。

その代わりにワシントンは、前例のない経済制裁を行うと脅した。国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンは、ロシアの攻撃後に経済制裁が成功すると主張した。ロシアの拡大を防ぐためではなく、単にロシアに経済的コストを課すために必要だと主張した。ジョー・バイデンは後に、経済制裁がプーティンを抑止したり拘束したりするために「決して機能しない」ことは最初から分かっていたと述べた。

一方、バイデンはウクライナ国内におけるNATOによる飛行禁止区域設定を否定し、ウクライナが求める最も緊急に必要とする兵器を保留し続けた。この政策はオバマ政権に端を発し、トランプ大統領の下でわずかながら変更されただけであった。

ウクライナは、西側諸国から送られた限定的な防衛用兵器を見事に、そして勇敢に活用し、また、アメリカの情報提供を受けてロシアの黒海旗艦を沈めた国産対艦ミサイル「ネプチューン」など、ウクライナ独自の武器も開発している。

ウクライナは首都キエフを守り、他の地域でもロシアの攻勢を阻止することに成功したが、兵器の格差と兵力数で圧倒的に有利なロシアは、その犠牲を払ってロシアの戦略的優位性を維持している。

ロシアは、犠牲を伴う勝利ではあったが、最終的に港湾都市マリウポリを奪取し、黒海封鎖を維持した。ロシアはドンバス地方で少しずつ、しかし着実に前進を続けており、ウクライナ東部のウクライナ軍を広く包囲する恐れがある。

ヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、ウクライナがロシア軍を都市や軍事施設から遠ざけることを可能にする、より重く、より長距離のシステムを繰り返し要求している。しかし、ジョー・バイデン政権は、プーティンが「挑発的(provocative)」だと感じるかもしれない武器の提供を差し控えるという方針を堅持している。もちろん、修辞的かつ道徳的支援を含むあらゆる形態の西側援助は、プーティンにとって忌まわしいものであり、彼のヒトラーに向かうのと同等の怒りと反感を買うものだ。

プーティンの軍隊がウクライナ東部で容赦なく前進する中、ワシントンやベルリン、パリ、ローマなど一部のNATO諸国は、ウクライナの崩壊とロシアの敗北と屈辱を防ぐために提供できる軍事支援の正確なレヴェルについて、貴重な時間とエネルギーを浪費している。軍備の測定は、膠着状態を作り出し、両当事者に妥協を促し、プーティンの面目を保つために行うものである。

究極の国家安全保障の「リアリスト」であるヘンリー・キッシンジャーは、先週スイスのダヴォスで開かれた世界経済フォーラムでのインターネットを通じたスピーチで、プーティンを融和(accommodation)、もしくは宥和(appeasement)させるケースを示した。

「簡単に乗り越えられないような動揺や緊張が生じる前に、今後2ヶ月の間に交渉を始める必要がある。理想的には、分割線は現状復帰であるべきだ」と述べた。これが意味すると事は2月24日にロシア軍が侵攻する直前に存在したそれぞれが支配した領土ということだ。2014年にロシアがクリミアとウクライナ東部に侵攻する以前の状態のことではない。ロシアの侵攻前の状況に「戻す」ことができないのは、当然のことながら、失われ、破壊された何千人ものウクライナ人の命や、破壊された都市や歴史的な場所である。

キッシンジャーは警告を付け加えた。「それ以上の戦争を追求することは、ウクライナの自由のためではなく、ロシアそのものに対する新たな戦争になる」。キッシンジャーは、ウクライナの自由は分割可能であり、2月24日にロシアに支配されていない地域にのみ適用されると考えているようだ。

更に言えば、ウクライナはロシアそのものを攻撃するつもりを意図も持たず、その必要も存在しない。ウクライナに招かれざるロシア人がいるだけでありそれを追い出すだけのことだ。そして、ヒトラーの場合と同様に、領土の譲歩は、侵略者の基本計画の追求における一時停止を意味するに過ぎない。おそらく、キッシンジャーの交渉を勧める理由の1つは、ウクライナ、グルジア、その他NATOへの加盟を希望する国を永久に排除することであろう。しかし、プーティンは、NATOが最終的に1997年の安全保障状況にまで後退することを望んでいることを示唆している。

キッシンジャーは以前外交的手腕を発揮した。中国共産党の周恩来首相と上海コミュニケを発表した時がそうだ。それ以降、台湾の地位に関する、キッシンジャーの巧妙な言葉遣いのせいで、中国は大胆に行動するようになり、西側を悩ませてきた。そして、中国と台湾、中国とアメリカとの間での紛争はこれまでになく緊迫したものとなった。キッシンジャーは、その後の50年間にわたり、アメリカの歴代政権に対して、北京にとって最も有利な取り決めの解釈に固執することになった。2007年の台湾へ送った警告では、「中国が共産主義支配を放棄することは永遠にない」と述べた。

キッシンジャーはまた、ヴェトナムからの撤退を成功させたことでノーベル平和賞を受賞したが、その際、米連邦議会はアメリカからの資金提供を打ち切り、アメリカの同盟国であった南ヴェトナムは北ヴェトナムの最後の大攻勢に対して無防備な状態となった。ヴェトナムからのアメリカの撤退は台湾の主権と引き換えに潔く行われたものではなかった。米ソのデタント(緊張緩和)もまた、モスクワがラテンアメリカ、中東、アフリカで優位に立ったことで、幻想であることが明らかになった。

バイデンには、ウクライナの英雄的なゼレンスキー大統領の言葉に耳を傾けることをお勧めする。ゼレンスキーは、バイデンが述べた自由と独裁の間で起きている巨大な戦闘の先頭にいる。それは、自由主義的国際秩序に反対するプーティンの「無制限の戦略的パートナー(no-limits strategic partner)」である習近平率いる中国の敵対的意図に対する台湾の自由と安全という、この巨大な戦闘における次の戦いにとって、ワシントンに良い影響を与えることになるであろう。

※ジョセフ・ボスコ:国防長官直属中国担当部長(2005年から2006年)、アジア太平洋地域人道支援・災害援助担当部長(2009年から2010年)。ウラジミール・プーティンがグルジアに侵攻した際には米国防総省に在籍し、アメリカの対応について国防総省内での議論に参加していた。ツイッターアカウント:@BoscoJosephA.

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(終わり)※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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