古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ベンヤミン・ネタニヤフ

 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。イスラエルとハマスの紛争についても分析してします。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカはイスラエルの建国以来、イスラエルを支援し続けている。イスラエルに対する手厚い支援は、アメリカ国内にいるユダヤ系の人々の政治力の高さによるものだ。そのことについては、ジョン・J・ミアシャイマー、スティーヴン・M・ウォルト著『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策Ⅰ・Ⅱ』(副島隆彦訳、講談社、2007年)に詳しい。

 アメリカが世界帝国、世界覇権国であるうちは、イスラエルもアメリカの後ろ盾、支援もあって強気に出られる。今回、ハマスからの先制攻撃を利用して、ハマスからの攻撃を誘発させて、ガザ地区への過剰な攻撃を行っているのは、二国間共存路線の実質的な消滅、破棄ができるのは今しかない、アメリカが力を失えば、パレスティナとの二国間共存を、西側以外の国々に強硬に迫られ、受け入れねばならなくなる。その前に、実態として、ガザ地区を消滅させておくことが重要だということになる。

 アメリカは自国が仲介して、ビル・クリントン大統領が、パレスティナ解放機構のヤセル・アラファト議長とイスラエルのイツハク・ラビン首相との間でオスロ合意を結ばせた。二国共存解決(two-state solution)がこれで進むはずだった。しかし、イスラエル側にも、パレスティナ側にも二国共存路線を認めない勢力がいた。それが、イスラエル側のベンヤミン・ネタニヤフをはじめとする極右勢力であり、パレスティナ側ではハマスである。両者は「共通の目的(二国共存路線の破棄)」を持っている。そして、残念なことに、イスラエルの多くの人々、パレスティナの多くの人々の考えや願いを両者は代表していない。しかし、武力を持つ者同士が戦いを始めた。ハマスを育立てたのはイスラエルの極右勢力だ、アメリカだという主張には一定の説得力がある。

 アメリカとしてはイスラエルに対しての強力な支援を続けながら、ペトロダラー体制(石油取引を行う際には必ずドルを使う)を維持するためにも、アラブの産油諸国とも良好な関係を維持したい。しかし、中東地域の産油国の盟主であり、ペトロダラー体制を維持してきた、サウジアラビアがアメリカから離れて中国に近づく動きを見せている。サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がブリックスに正式加盟したことは記憶に新しい。

 こうしたこれまでにない新しい状況へのアメリカの対応は鈍い。これまでのような対イスラエル偏重政策は維持できない。しかし、アメリカは惰性でこれからも続けていくしかない。こうして、ますます中東における存在感を減退させ、役割が小さくなっていく。

(貼り付けはじめ)

バイデンの新しい中東に関する計画は同じことの繰り返しである(Biden’s New Plan for the Middle East Is More of the Same

-改訂されたドクトリンでは、変化はほとんど期待できない。

マシュー・ダス筆

2024年2月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/14/biden-middle-east-plan-gaza-hamas-israel-netanyahu/

2023年10月7日の同時多発テロを受け、ジョー・バイデン米大統領とバイデン政権は、10月7日以前の状況に戻ることはあり得ないと強調している。バイデン大統領は10月25日の記者会見で、「この危機が終わった時、次に来るもののヴィジョンがなければならないということだ。私たちの見解では、それは二国家解決(two-state solution)でなければならない」と述べた。

先月(2024年1月)、バイデン大統領は、長年にわたるお気に入りの、『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストであるトム・フリードマンを通じて、新しい中東に関する計画の予告を発表した。フリードマンは、「ガザ、イラン、イスラエル、そして地域を巻き込む多面的な戦争に対処するため、バイデン政権の新たな戦略が展開されようとしている」と書いた。

フリードマンは、「もし政権がこのドクトリンをまとめ上げることができれば、バイデン・ドクトリンは1979年のキャンプ・デービッド条約以来、この地域で最大の戦略的再編成(strategic realignment)となるだろう」と書いている。

私はフリードマンの熱意には感心しているが、中東に対する「大きく大胆な」ドクトリンに関しては、彼の判断に大きな信頼を置くことはできないということだけは言っておきたい。フリードマンがこれほど興奮しているように見えたのは、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子の革命的ヴィジョンに熱中していたときが最後だった。フリードマンが提示するバイデンの中東に関する計画には、目新しいことや有望なものはほとんどなく、アメリカの政策が何十年も続いてきた同じ失敗の轍にとどめる危険性がある。

フリードマンが伝えるところによると、この計画には3つの部分がある。パレスティナ国家樹立のための再活性化、アメリカが支援するイスラエルとサウジアラビアの国交正常化協定(サウジアラビアとの安全保障同盟を含むが、最初の部分についてはイスラエルの支援が条件となる)、そしてイランとその地域ネットワークに対するより積極的な対応である。

第一に、ポジティヴなことに焦点を当てよう。アメリカが管理する和平プロセスの主な問題の1つは、それが概して弱い側であるパレスティナ人に結果を押し付けていることだ。イスラエルにはニンジン(carrot)のみを与え、パレスティナ人には主に棒(stick)を与える。現在、バイデン政権がこのパターンを変える準備ができているという兆候がいくつかある。ヨルダン川西岸の過激派イスラエル人入植者と彼らを支援する組織に制裁を課すことを可能にする最近の大統領令は、アメリカが最終的に双方に結果を課す用意があることを示す小さいながらも重要な兆候である。この命令が単なる粉飾決算(window dressing)であると主張する人は、米財務省金融犯罪捜査網(Financial Crimes Enforcement NetworkFinCEN)からの通知を見て、その内容について説明できる人を見つけるべきだ。

最近のホワイトハウスの覚書でも同様であり、軍事援助には国際法の遵守が条件となっており、バイデン大統領は以前この考えを「奇妙だ(bizarre)」と述べていた。覚書の必要性には疑問があるが、政府は援助条件を整えるために必要なツールと権限を既に持っている実際、そうすることが法的に義務付けられているため、それは正しい方向への一歩である。もちろん、バイデン政権がその方向に進み続けており、新たなプロセスをイスラエルによる人権侵害に関する信頼できる申し立てを書類の山の仲に隠すための単なる手段として扱っている訳ではない。

しかし、パレスティナ人への配慮を除けば、バイデンの2023年10月7日以降の計画は、バイデンの10月7日以前の計画とよく似ている。それは、根本的な優先順位が同じだからだ。バイデンの新たな計画は、中国との戦略的競争(strategic competition)、つまり、バイデン政権が外交政策全体を見るレンズである。アメリカとサウジアラビアの安全保障協定は、中国を中東地域から締め出すために必要なステップであり、バイデン政権にこのような協定を売り込む唯一の方法は、サウジアラビアとイスラエルの正常化協定(もちろん、両国が独自に追求する自由はある)というお菓子で包むことである。このような合意には多くの疑問があるが、重要な疑問がある。何十年にもわたるイスラエルとアメリカの緊密な関係と比類なき軍事支援によって、アメリカがガザでの戦争の行方に影響を与えたり、イスラエルの武器の誤用を抑制したりすることができなかったとしたら、ムハンマド・ビン・サルマン王太子との合意によって、サウジアラビアによる責任ある武器の使用が保証されるのだろうか?

ここ数カ月の出来事が、アブラハム合意の大前提である「パレスティナ人は全くもって重要な存在ではない」ということを、いかに完全に打ち壊したかを認識するために、時間を使うだけの価値はある。これは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と、ワシントンにいる彼の同盟者たちにとって、彼らが長年主張してきたことの証明として提示されたものだった。それは政治的動機に基づく願望であることが判明した。これは驚くべきことではなかった。何しろネタニヤフ首相は、イラク侵略もイラン核合意からの離脱も素晴らしいアイデアだと断言した人物なのだ。彼は、この地域についてほとんど完璧なまでに間違っている。

バイデン政権は現在、アブラハム合意の論理を受け入れて、地域住民の間でのパレスティナ解放の永続的な重要性を大幅に過小評価していたことを理解している。これは歓迎すべき修正であるが、まだ不完全なままだ。 2023年10月以前の中東に関する計画は、パレスチティ人への永続的な弾圧を前提としていたという理由だけで欠陥があったのではない。この政策には欠陥があり、安定をもたらすと約束した虐待的で代表性のない政府による、アメリカ主導の地域秩序を再強化しようとして、地域の全ての国民に対する永続的な弾圧を前提としていたからだ。 10月7日に私たちは再び酷いことを学ばなければならなかったので、このような取り決めはしばらくの間は安定しているように見えるかもしれないが、そうでなくなる時期を迎えるだろう。

緊急の優先課題は、ガザでの殺害を終わらせ、ハマスが拘束している人質の解放を確実にすることだ。2023年10月7日の直後から、バイデン政権は「未来(day after)」についての対話には積極的だが、イスラエルが日々、無条件かつ絶え間ないアメリカの支援を受けながら、現場で作り出している恐ろしい現実がある。この現実こそが、アメリカが語る空想上の未来において、実際に何が可能かを決定することになることを、アメリカ側は十分に理解していないようだ。イスラエルの戦争努力は、殺戮の終了同時に自分の政治的キャリアが終わることを知っており、それゆえに戦闘を長引かせる動機を持っているネタニヤフ首相によって率いられているのだから、深刻に継続していくのである。

人命と家屋、地域と世界の安全保障、そしてアメリカの信用に与えたダメージの多くは、既に取り返しのつかない程度にまでなっている。デイヴィッド・ペトレイアスがアブグレイブの拷問スキャンダルについて語ったように、私たちの国の評判への影響は「生分解不可能[微生物が分解できない]non-biodegradable)」となっている。バイデン大統領が任期を越えてもこの状態は続くだろう。しかし、イスラエルとパレスティナの紛争に関するアメリカの政策を国際法に沿ったものに戻すことから始め、ダメージを軽減するために政権が選択することのできる措置はある。1967年に占領された地域が実際に占領地であると明確に表明することだ。これらの領土におけるイスラエルの入植は違法であるという国務省の立場に戻すことだ。ドナルド・トランプ大統領が閉鎖し、バイデンが再開を約束した在エルサレム総領事館を、パレスティナ人のための米大使館として再開することだ。ロシアのウクライナでの戦争と同様に、国際刑事裁判所があらゆる側面の戦争犯罪の可能性を調査することを支持することだ。国連加盟国の72%にあたる139カ国がパレスティナ国家を承認している。

結局のところ、パレスティナの解放を推進する真剣な取り組みには、バイデンがイスラエルに圧力をかける必要がある。それは避けられない。しかし同時に、バイデン政権が現在の危機を単に地域政策への挑戦としてだけでなく、政権が守ると主張する「ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)」全体への挑戦として捉えることも必要だ。パレスティナ人への対処を前面に出しても、権威主義的支配の耐久性を前提とした安全保障戦略の論理に根本的な欠陥があることには対処できない。ジョージ・W・ブッシュの「フリーダム・アジェンダ(Freedom Agenda)」のバイデン版を私は求めていない。しかし、たとえブッシュの処方箋が間違っていたとしても、彼の基本的な診断、つまり抑圧的な体制に安全と安定を依存することは悪い賭けだということは、認識する価値がある。私たちの政策は、このことに取り組む必要がある。

※マシュー・デス:センター・フォ・インターナショナル・ポリシー上級副会長。2017年から2022年にかけて、バーニー・サンダース連邦上院議員の外交政策補佐菅を務めた。ツイッターアカウント:@mattduss

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を発刊しました。2023年を振り返る際の一助にしていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。


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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年10月8日、ガザ地区を掌握しているイスラム原理主義組織ハマスがイスラエルを攻撃し、人質を連れ去った。その報復として、イスラエルがガザ地区を封鎖し報復攻撃を開始し、民間人に被害者が出ている。イスラエルの報復が過剰な報復であるとして、国際的な批判が起きている。国連安全保障理事会の場では、アメリカの反対によって、実効力を持つ停戦決議は否決された。

 1993年のオスロ合意によって、イスラエルとパレスティナの二国間共存路線が決定され、パレスティナ国家が樹立された。パレスティナ国家はエジプトと地中海に面するガザ地区(Gaza Strip)とヨルダン川西岸地区(West Bank)の2つの地域からなる。ガザ地区を現在、実効支配しているのはハマスである。ハマスはパレスティナ自治政府とも対立関係にあり、一種独立した状況になっている。

 今回ご紹介する論稿では、ハマスが力をつけて、ガザ地区を実効支配し、パレスティナ自治政府を弱体化させたのはネタニヤフ首相であり、「ネタニヤフ首相とハマスは共存関係にある」という主張になっている。私の最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)でも、別の記事をご紹介したが、イスラエル国内では、「今回のハマスの攻撃とパレスティナ紛争はネタニヤフ首相が引き起こした」という批判が起きている。

 私は、パレスティナ紛争によって、「二国共存路線」は破綻したと考えている。そのことを最新刊『』(徳間書店)でも書いたが、この点から、「共に、二国共存に反対の、ネタニヤフ首相とハマスは協力関係にある」と考えた。ネタニヤフ首相をはじめとするイスラエルの極右は自分たちの望む方向に進めることに成功した。そのために、ネタニヤフ首相は、アメリカの鼻面を引きずり回すことになった。アメリカのジョー・バイデン政権、特にジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官の肝いりで、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化交渉が進められていた。これは、中国が進めた、サウジアラビアとイランの国交正常化に対抗するものだ。2023年9月、サリヴァン補佐官は、イスラエルとサウジアラビアの交渉はうまく進んでいると発言していた。その1か月後に、ハマスによる奇襲攻撃が起きた。これでアメリカの努力は無駄になった。イスラエルは中東で孤立することになる。アメリカもそれに付き合わされることになる。

 中東地域において、アメリカの力が落ちている中で、イスラエルの極右勢力がアメリカの仲介した二国間共存路線を放棄する試みを行い、成功しつつある。アメリカの中東における「威光」が低下していることを示している。結果として、アメリカの中東地域安定の試みは失敗してしまっている。イスラエルも、中東地域で孤立し、衰退の道をたどることになるだろう。

(貼り付け終わり)

論説:ネタニヤフ・ハマス連合概史(Opinion | A Brief History of the Netanyahu-Hamas Alliance

-14年にわたり、ネタニヤフの政策はハマスを権力の座に就け続けた。「2023年10月7日」プログラムは、

For 14 years, Netanyahu's policy was to keep Hamas in power; the pogrom of October 7, 2023, helps the Israeli prime minister preserve his own rule

アダム・ラズ筆

2023年10月20日

『ハーレツ』紙

https://www.haaretz.com/israel-news/2023-10-20/ty-article-opinion/.premium/a-brief-history-of-the-netanyahu-hamas-alliance/0000018b-47d9-d242-abef-57ff1be90000?v=1703657408399&lts=1703657446972

ベンヤミン・ネタニヤフ首相とハマスの長年にわたる関係、同盟関係と言える関係については、これまでに多くの記事が発表されてきた。それでもなお、イスラエル首相ネタニヤフ(多くの右派の支持を得て)とイスラム原理主義組織ハマスとの間に緊密な協力関係があったという事実そのものが、現在の分析のほとんどからは消え去っているようだ。誰もが「失敗(failures)」や「間違い(mistakes)」、そして「固定概念[fixed conceptions]contzeptziot、コンツェプツィオー)」について語っている。これを考慮すると、協力の歴史を振り返るだけでなく、明確に結論を下す必要がある。2023年10月7日のポグロム(pogrom、破壊)はネタニヤフ首相にとって、初めてではなく、確実に短期的には彼の統治を維持するのに役立った。

2009年にネタニヤフ首相が首相官邸に復帰して以来、ネタニヤフ首相の政策の手口(modus operandiMO)は、一方ではガザ地区におけるハマスの支配を強化し、他方ではパレスティナ自治政府を弱体化させてきた。

ネタニヤフの政権復帰は、最も穏健なパレスティナの指導者であるパレスティナ自治政府大統領マフムード・アッバスとの和平条約によって紛争を終結させようとした前任者エフード・オルメルトの政策からの完全な転換を伴うものだった。

過去14年間、ヨルダン川西岸(West Bank)とガザ(Gaza)に対する分割統治政策(divide-and-conquer policy)を実施しながら、「アブ・ヤイール(Abu Yair)」(アラビア語で「ヤイールの父」、ネタニヤフ首相は最近の選挙前にアラブ人コミュニティで選挙運動をしていたときにそう呼んでいた)は、ハマス政権に終止符を打つ可能性のあるいかなる試みにも、軍事的であれ外交的であれ抵抗してきた。

実際には、オルメルト政権時代の2008年末から2009年初頭にかけての「キャスト・リード(Cast Lead)」作戦以来、ハマスの支配は真の軍事的脅威に直面していない。それどころか、ハマスはイスラエル首相に支援され、首相の援助で資金を調達してきた。

ネタニヤフ首相が2019年4月、これまでの戦闘後と同様に「ハマスに対する抑止力を回復した」「ハマスの主要補給路を遮断した」と宣言した時、彼は徹底的に嘘をついた。

ネタニヤフ首相は10年以上にわたって、ハマスの軍事的・政治的勢力の拡大に多種多様な形で手を貸してきた。ネタニヤフ首相は、ハマスがわずかな資源しか持たないテロ組織から半国家組織(semi-state body)に変えた張本人だ。

パレスティナの囚人たちを釈放し、カタールの特使が好きなようにガザを行き来して現金の授受を許可し、幅広い物資、特に建設資材の輸入に同意し、その多くが民間インフラ建設用ではなくテロ用に指定されることを承知で、ガザ出身のパレスティナ人労働者のイスラエルでの就労許可数を増やすなどなど。こうした動きはすべて、原理主義的テロリズムの隆盛とネタニヤフ首相の支配の維持との間に共生(symbiosis)を生み出した。

注意:ネタニヤフ首相が、ハマスの犠牲者でもある、貧しく抑圧されたガザの人々の幸福を考えて、資金(その一部は、前述のように、インフラ建設には使われず、むしろ軍事武装に使われた)の移転を許可したと考えるのは間違いだろう。彼の目的は、アッバスを痛めつけ、イスラエルの土地が2つの国家に分割されるのを防ぐことだった。

カタール(とイラン)からの資金がなければ、ハマスには恐怖政治を維持するための資金がなかっただろうし、その政権は自制していただろうということを覚えておくことが重要だ。

実際には、ネタニヤフ首相が支持し承認したカタールからの現金(銀行預金とは対照的に、はるかに責任のある)の注入は2012年以来、ハマスの軍事力を強化するのに役立ってきた。

従って、ネタニヤフ首相は、アッバス大統領がハマスへの資金提供を中止した後、間接的にハマスに資金を提供した。ハマスがこの資金を使って、イスラエル国民を長年にわたって殺害してきた手段を買ったことを無視してはならない。

これと並行して、安全保障の観点から見ると、2014年の「防護エッジ作戦(Operation Protective Edge)」以来、ネタニヤフ首相はロケットや焼夷凧、風船によるテロをほぼ完全に無視する政策を採用してきた。時折、そのような武器が捕獲された時に、メディアはつまらない見世物(dog-and-pony show)を見せられたが、それ以上のことはなかった。

昨年、「変革の政府(government of change)」(ナフタリ・ベネットとヤイル・ラピッド率いる短命に終わった連立政権)が別の政策を行使し、その表現の一つが、スーツケースいっぱいの現金で届くハマスへの資金提供を停止したことを思い出すことには価値がある。ネタニヤフ首相が2022年5月30日、「ハマスは弱いベネット政権の存在に関心を持っている」とツイートした時、彼は国民に嘘をついた。政権交代はハマスにとって大失敗だった。

ネタニヤフ首相にとっての悪夢は、ハマス政権の崩壊であり、イスラエルは、困難な代償を払ったとはいえ、それを早めることができた。この主張の証拠の一つは、「防護のエッジ作戦」の時に示された。

当時、ネタニヤフ首相は、軍が安全保障会議に提出した、ガザを征服した場合に起こりうる影響についてのプレゼンテーションの内容をメディアにリークした。首相は、ガザを占領すれば何百人もの兵士の命が失われると記したこの秘密文書が、地上侵攻に反対する雰囲気を広めることを知っていた。

2019年3月、ナフタリ・ベネットはチャンネル13の番組『ハマコール』に出演し、「行動を起こさない言い訳を作るために、誰かが気を遣ってメディアにリークしたのだ。イスラエルの歴史上、最も重大なリークのひとつだ」と語った。もちろん、クネセット(Knesset、イスラエル議会)のメンバーから多くの要求があったにもかかわらず、このリークは調査されなかった。ベニー・ガンツは、彼がイスラエル国防軍参謀長だった当時、非公開の会話の中で、「ビビ(Bibi、ネタニヤフ首相の通称)がリークした」と述べている。

よく考えてみよう。ネタニヤフ首相は、色々な手段でハマス打倒を目指す内閣の軍事的・外交的立場を妨害するために、「極秘(top secret)」文書をリークした。アビグドル・リーバーマンが10月7日の襲撃の直前に、『イェディオト・アハロノト』紙のインタヴューに答え、ネタニヤフ首相が「すべての標的の暗殺を継続的に阻止した」と述べた。この言葉に耳を傾けるべきだ。

ハマスにガザを支配し続けさせるというネタニヤフ首相の政策は、ガザの物理的占領とハマスの主要人物の暗殺への反対だけでなく、パレスティナ自治政府とファタハ(Fatah)、そしてとくにハマスの間の政治的和解を阻止するという彼の決意によっても表現されたことを強調すべきだ。明確な例としては、ファタハとハマスの交渉が実際に行われていた2017年末のネタニヤフ首相の行動である。

アッバスとハマスの間の根本的な意見の相違は、イスラム主義グループの軍隊がパレスティナ自治政府に従属するかどうかという問題だった。ハマス側は、パレスティナ自治政府がガザのすべての民生問題を管理することに同意したが、武装を放棄することは拒否した。

エジプトとアメリカは和解(reconciliation)を支持し、その実現に努めた。ネタニヤフ首相はこの考えに全面的に反対し、「ハマスとPLOの和解は和平の実現を難しくする」と繰り返し主張した。もちろん、ネタニヤフ首相は和平を追求することはしなかった。彼の立場はハマスのためだけにあった。

何年もの間、政治的スペクトルの両側の様々な人物が、ネタニヤフ首相とハマスの協力関係を繰り返し指摘してきた。一方では、例えば、2005年から2011年までシン・ベト(Shin Bet)治安当局のトップだったユヴァル・ディスキンは、2013年1月、イェディオト・アハロノトの取材に対し、「長年にわたって見てみると、ハマスの強化に貢献している主な人物の一人は、ビビ・ネタニヤフである」と語った。

2019年8月、エフード・バラク元首相はアーミー・ラジオの番組に出演し、ネタニヤフ首相には戦略がないと信じている人々は間違っていると語った。「彼の戦略は、ラマラのパレスティナ自治政府を弱体化させるために、南部の市民を見捨てる代償を払ってでも、ハマスの存続を維持することだ」と述べた。

また、イスラエル国防軍元参謀総長ガディ・アイゼンコットは2022年1月、ネタニヤフ首相は「パレスティナ人と縁を切り、2つの国家を樹立する必要があると判断した国家安全保障会議の国家評価とはまったく反対の行動をとった」と『マーリブ紙』に語った。イスラエルは正反対の方向に動き、パレスティナ自治政府を弱体化させ、ハマス強化を図った。

シン・ベトのナダヴ・アーガマン長官は、2021年に任期を終えた時、このことについて語った。彼は、イスラエルとパレスティナ自治政府の間の対話の欠如は、ハマスが強化される一方で、パレスティナ自治政府を弱体化させる効果があると明確に警告した。

アーガマンは、当時のヨルダン川西岸の比較的静かな状況は欺瞞であり、「イスラエルはパレスティナ自治政府と協力し、パレスティナ自治政府を強化する方法を見つけなければならない」と警告した。アイゼンコットは同じ2022年のインタヴューで、アーガマンの言う通りだとコメントした。「これは起きていることであり、危険なことだ」と彼は付け加えた。

右派の人々も似たようなことを言っていた。繰り返される決まり文句(mantras)の1つは、2015年にクネセト・チャンネルで「ハマスは資産であり、アブ・マゼンは重荷だ」と述べたクネセトの新人議員ベザレル・スモトリッチの言葉だ。

2019年4月、ネタニヤフのメディア担当顧問の1人で、リクードのスポークスマンでもあるジョナタン・ウリッチは、ネタニヤフの功績の1つは、「政治的にも概念的にもガザをヨルダン川西岸から切り離したことだ」と『マコール・リション』紙に語った。ウリッチは、「ネタニヤフ首相は、基本的にこの2つの場所でパレスティナ国家の構想を打ち砕いた。成果の一部は、カタールの資金が毎月ハマスに届くことに関係している」と賞賛した。

2019年の同じ頃、リクード所属のクネセト議員のガリット・ディステル・アトバリヤンは、フェイスブックへの投稿でネタニヤフ首相を無条件に褒め称えた。アトバリヤンは、「ネタニヤフ首相はハマスが立ち上がることを望んでおり、そのためにはほとんどどんな理解しがたい代償も払う用意がある。国の半分が麻痺し、子どもたちや親たちは後遺症に苦しみ、家は爆破され、人々は殺され、野良猫たちが人々を思うままに扱うことになる」。この発言を読んでもまだ信じられないだろうか? この発言の内容は真実だと信じるに値するものだ。なぜなら、これこそがネタニヤフ首相の方針なのだ。

ネタニヤフ首相自身、ハマスに関する立場について短く語ったこともあった。2019年3月、ハマスへの資金供与が議論されていたリクードの会合で、彼は次のように述べた。「パレスティナ国家に反対する者は、ガザへの資金供与を支持しなければならない。なぜなら、ヨルダン川西岸地区のパレスティナ自治政府とガザのハマスの分離を維持することは、パレスティナ国家の樹立を妨げることになるからだ」。

チャンネル13は、その2ヵ月後のツイートで、エジプトのホスニ・ムバラク元大統領がクウェートの新聞のインタヴュー対して語った言葉を引用している。それは次のようなものだ。「ネタニヤフ首相は二国家解決には興味がない。むしろ、彼はガザをヨルダン川西岸から切り離したがっている。彼は2010年の年末にそのように私に語った」。

右翼として有名なゲルション・ハコヘン大将(退役)は、2019年5月のオンライン雑誌『ミダ』誌とのインタヴューの中で、次のように明言した。「ネタニヤフ首相がハマス政権を倒すためにガザで戦争をしなかった時、彼は基本的にアブ・マゼンが統一パレスティナ国家を樹立するのを妨げたのだ。ガザとラマラの間に生まれた分離状況を利用する必要がある。この背景を理解せずして、ガザの状況を理解することはできない」。

2009年以来のネタニヤフ首相の政策全体は、パレスティナ人との外交協定のあらゆる可能性を破壊しようとしている。それは彼の統治のテーマであり、それは紛争の継続にかかっている。民主政治体制の破壊は彼の継続的な統治の別の側面であり、この1年間、私たちの多くが街頭に繰り出した。

同じ2019年のアーミー・ラジオのインタヴューで、バラクは、ネタニヤフ首相が南部を 「常に弱火(on a constant low flame)」にしていると語った。特に注目すべきは、ガザのハマスの「沼の水を抜く(to drain the swamp)」計画を治安当局が何度も内閣のテーブルに並べたが、内閣はそれを議論しなかったというバラクの主張だ。

バラクは、「ネタニヤフ首相は、ハマスと一緒にいる方が、イスラエル国民に『同じテーブルに座る相手も、話す相手もいない』と説明しやすいことを知っていた。もしパレスティナ自治政府が強化されれば、話し合う相手ができることになる」と述べた。

ディステル・アトバリヤンの発言に戻る。彼女は次のように述べ、警告を発している。「私の言葉に注目して欲しい。ベンヤミン・ネタニヤフは、イスラエル全土が『ガザ・エンヴェロップ(Gaza envelope、訳者註:イスラエル南部のガザ地区との境界地帯を指す)』にならないよう、ハマスをしっかりとさせ続けている。ハマスが崩壊した場合には災難が起きる。アブ・マゼンはガザを支配する可能性がある。もしマゼンがガザをコントロールすれば、ユダヤとサマリアを含む交渉と外交的解決とパレスティナ国家の樹立を主張する左派の声が大きくなるだろう」。ネタニヤフ首相の代弁者たちはこのようなメッセージを絶え間なく発信している。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相とハマスには、共通の敵であるパレスティナ自治政府に対する暗黙の政治同盟(unspoken political alliance)がある。言い換えれば、ネタニヤフ首相はイスラエル国家の破壊とユダヤ人の殺害を目的とするグループと協力し、合意しているのだ。

『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストであるトーマス・フリードマンは、変革政府樹立当時の2021年5月に、ネタニヤフ首相とハマスは外交的打開の可能性を恐れていると書いていたが、それは的確であった。フリードマンは、ネタニヤフ首相もハマスも「政治的に破壊される前に、政治変革の可能性を潰したかった」と書いた。

フリードマンは続けて、両者は話し合う必要も合意する必要もないと説明した。フリードマンは、「彼らはそれぞれ、相手が権力を維持するために何が必要かを理解し、意識的にせよ無意識的にせよ、それを確実に実現するように行動している」と書いた。

この協力のテーマについて、私はもっともっと拡大解釈することができるが、先の例がそれを物語っている。2023年のポグロムはネタニヤフ首相の政策の結果である。「コンセプトの失敗ではなく、それこそがコンセプトなのだ」。 ネタニヤフ首相とハマス首相は政治的パートナーであり、双方はそれぞれの立場を全うしている。

今後、その相互理解(mutual understanding)にさらなる光を当てる詳細が明らかになるだろう。ネタニヤフ首相と現政権が決断を下す責任を負っている限り、ハマス政権は崩壊する、というような勘違いを、今でもしてはならない。現在の「テロとの戦い(war against terror)」については、多くの話や火花が散るだろうが、ネタニヤフ首相にとってハマスの存続は、数人のキブツの人々の死よりも重要なことなのだ。

※アダム・ラズ:歴史家・作家。最新刊は『デマゴーグ:政治権力の力学(The Demagogue: The Mechanics of Political Power)』(ヘブライ語)。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 イスラエルのネタニヤフ首相の連邦議会演説、総選挙前と当日の人種差別を煽る発言とこれまで積み上げてきたパレスチナ国家樹立をすべて否定する発言、それ以降の動きについて、ホワイトハウスの大統領首席補佐官デニス・マクドノウと、ジョージ・HW・ブッシュ(父)政権時代に国務長官を務めた重鎮ジェイムズ・ベイカーが同じ場所で語った内容について、ご紹介します。

 

 2人は、左派的な親イスラエルのロビー団体Jストリートの年次総会に出席し、演説を行いました。二人の話した内容はほぼ同じですが、それは、2人が所属する政党は違えども、外交政策に関しては「リアリスト」的な立場を同じくしているからです。

 

 日本でリアリストと言うと、中国や北朝鮮と戦争をやるんだというようなことを言う声の大きなオヤジ、という感じですが、本当のリアリストは、慎重に国益を判断し、現状から最善の結果を導き出す考えをする人たちです。私が拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)で取り上げた、また副島隆彦先生の最新刊『日本に大きな戦争が迫り来る』(講談社、2015年)で分析の枠組として使われた、共和党のネオコン、民主党の人道主義的介入派はそれぞれアメリカと西洋文明の理想を世界に広めて「アメリカ版・八紘一宇」の世界を作り上げようとする人たちです。理想のために現実をいじくることはとても危険なことです。しかし、それをやりたがって、悲惨な結果を招くことを何とも思わない人たちです。

 


 私が拙著『アメリカ政治の秘密』で取り上げたように、オバマ大統領の外交政策の理想は、同じ民主党の歴代大統領ではなく、どちらかと言うと人気がなかったジョージ・
HW・ブッシュ(父)大統領時代のものです。このこともきちんと押さえておく必要があります。

 

 私は2015年から定期的に「副島隆彦の学問道場(http://www.snsi.jp/tops/entry)」内の「今日のぼやき」に寄稿することになりました。このリアリストについても「今日のぼやき」で近々論稿を発表したいと思います。恐らく、会員(年会費が一般1万円、学生6000円、困窮者には救済制度もあります)しか読めない場所に掲載されると思いますが、ご興味がある方は是非会員になって、お読みいただければと思います。宜しくお願い申し上げます。

 

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ホワイトハウスはネタニヤフの謝罪ツアーに何の印象も受けず(White House Not Impressed by Netanyahus Apology Tour

 

ジョン・ハドソン、デイヴィッド・フランシス筆

2015年3月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/03/23/white-house-not-impressed-by-netanyahus-apology-tour/

 

 イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフは、月曜日(3月23日)、謝罪ツアーを継続した。イスラエルのアラブ系国民に対して、パレスチナ国家樹立につながる和平合意に対する支持を撤回すると選挙日当日に発表したが、これは有権者の不安感と恐怖感を煽るための戦術ではなかったと弁解した。しかし、ホワイトハウスは今でも懸念を持ち続けており、ベンヤミン・ネタニヤフの発言をすぐに忘却することはないだろうとある高官は述べている。

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ホワイトハウスの大統領首席補佐官のデニス・マクドノウは、ハト派の親イスラエル・ロビー団体Jストリートがワシントンで開催した年次総会に出席し、「これらの発言がなされなかったというふりをすることはできない」と発言した。更には、「総選挙後、ネタニヤフ首相は自分自身の立場を変えていないと発言した。しかし、イスラエル国民の多くと国際社会は、彼の矛盾に満ちた発言を聞くことで、彼の2国共存による解決への関与に関して甥なる疑問を持たざるを得ない状況になっている」とも述べた。

 

マクドノウは続けて、「パレスチナの子供たちは、イスラエルの子供たちと同じく、自分たちの土地で自由を享受する権利を持っている」と述べた。

 

 ネタニヤフがイスラエル国内の少数派の指導者たちを集めた会合で、選挙前にパレスチナ国家樹立を認めないこと、「アラブ人たちが投票所に押し寄せる」と警告を発したことに関して謝罪した。

 

 『エルサレム・ポスト』紙は、ネタニヤフが「私が数日前に発言した内容でイスラエル国民、アラブ系のイスラエル国民の中に感情を害した人々がいることは分かっている。こうした人々の感情を害することは私の意図ではなかったし、申し訳なく思う」と発言したと報じている。

 

 ネタニヤフが発言内容を撤回したのは、2015年3月19日で、MSNBCのアンドレア・ミッチェルに対して、彼自身は「平和的な」2国共存による問題解決を望んでいるが、「そのためには環境が変化しなければならない」と発言した時からだ。

 

 マクドノウは、「アメリカは和平プロセスに対する私たちのアプローチを再考する」というホワイトハウスの立場を繰り返した。これは明瞭な言葉ではないが、アメリカ政府はイスラエル・パレスチナ紛争を国連の場に持ち出すことを示唆する脅しであった。イスラエル政府はこのような動きには徹頭徹尾反対してきた。

 

 オバマ大統領の片腕、デニス・マクドノウは、イスラエルが永続的にヨルダン川西岸地区とガザ地区とを占領し続ける、1国主義的な解決法を、アメリカは「決して支持することはない」と改めて強調した。マクドノウは「イスラエルが、他国の人々を完全に軍事力によって統制し続けることなど不可能なのだ」と発言した。マクドノウは包括的な和平合意を結ぶことが、国連やその他の機関においてイスラエルを孤立させ、経済制裁を加えようとする試みに対しての「致命的な一撃」になるのだと強調した。

 

 現在行われているイランとの核開発を巡る交渉について、マクドノウは最近47名の共和党所属の連邦上院議員たちが署名した、イランの最高指導者に宛てた公開書簡を引き合いに出し、オバマ大統領が結ぶいかなる合意をも避妊できる連邦議会の力に対して憂慮を示した。

 

 マクドノウはリベラルな考えを持つ聴衆に対して、「私たちは外交に成功するチャンスを与える必要がある(We have to give diplomacy a chance to succeed)」と述べた。聴衆は共和党の連邦上院議員たちが発表した公開書簡に話が及ぶと大きなブーイングを発し、不満の意を露わにした。

 

 月曜日、連邦下院外交委員長エド・ロイスは別の書簡を発表した。これには民主、共和両党の367名の連邦議員たちが署名をした。彼らはイランの核開発を巡る交渉から派生して起きる「致命的かつ緊急の諸課題」について懸念を持っていた。3月20日付でオバマ大統領宛てに出された書簡では、イランのウラニウム濃縮プログラムの規模と、イラン政府の国際原子力機関に対する極めて非協力的な態度に関する懸念が書かれていた。

 

 マクドノウは、アメリカはイランが核兵器を所有できないようにこれからも努力を続けると強調した。しかし、同時に、ホワイトハウスは現在行われている交渉に対して連邦議会が介入しようとして行ういかなる試みに対しても、拒否権を使って対抗するとも述べた。

 

(終わり)

 

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ジェイムズ・ベイカーは、ネタニヤフよりも厄介だったイスラエル首相との思い出話を語った(James Baker Recalls An Israeli Prime Minister More Difficult Than Netanyahu

サマンサ・ラクマン筆

2015年3月23日

『ハフィントン・ポスト』紙

http://www.huffingtonpost.com/2015/03/23/james-baker-j-street-_n_6928042.html

 

 ワシントン発。元国務長官ジェイムズ・ベイカーは月曜日、アメリカとイスラエルとの間の関係が低調である現在であっても、イスラエル・パレスチナ間の紛争のための2国共存による解決について「楽観的である」と発言した。

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 ベイカーは、左派のイスラエル・ロビー団体Jストリートの年次総会で基調講演を行った。この中で、ベイカーは、イスラエルの指導者たちと関わった自分自身の経験から、ネタニヤフ首相とバラク・オバマ大統領が現在の低調な両国関係を乗り越えることが出来れば、中東における和平はまだ実現可能だと述べた。ベイカーはジョージ・HW・ブッシュ元大統領に仕え、現在は共和党の米大統領選挙の有力候補ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事に助言を行っている。

 

 ベイカーは、和平合意が出来なければ、「衝突は継続」するとし、「私は現在も楽観している。私は自分が慎重に事態を見ていることを強調しておきたいが、それでも楽観している。それは、2国共存が実現しなければ、イスラエルの将来は厳しいものとなると考えているからだ」と述べた。

 

 共和党側はオバマ大統領が不当にネタニヤフを攻撃していると批判しているが、ベイカーはこうした批判は的外れだと述べた。

 

 「世界中の誰もアメリカのイスラエルに対する関与の深さを疑うことなどできない。現在もそうだし、未来においてもそうだ」とベイカーは述べた。

 

 ベイカーは自身が国務長官在任当時の、イスラエル首相イツハク・シャミルとの緊迫した外交関係についての思い出話を語った。彼は、「自分が国務長官の時には緊張した瞬間があった」と述べ、それでもイスラエルとアメリカの同盟関係が政策の不一致を乗り越えることが出来たと話し出した。ベイカーは1991年に起きたシャミルとの対立について語った。この当時、ソヴィエト連邦の崩壊に伴って多数のユダヤ人たちがイスラエルへの帰還を果たしていた。それに対して、アメリカ政府は100億ドルの住宅ローン保証をイスラエルに与えるとしたのだが、それにはシャミルがこのお金をヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植地建設には使わないと確約することをベイカーとブッシュは条件とした。

 

 「私はアメリカ・イスラエル関係に関して最初はその複雑さに驚き、それから常に論争が起きることに気付いた。私はブッシュ大統領が行ったことは正しいと考えた。これは今も変わらない」とベイカーは述べた。

 

 ネタニヤフが総選挙前に2国共存による解決を支持しないと発表したことを受けて、オバマ政権は、紛争解決のためのアプローチを再考しているが、このことについて、ベイカーは総会の出席者たちに対して、ネタニヤフはアメリカにとって最も扱いにくいイスラエル首相という訳ではないと述べた。ベイカーは、その当時イスラエルの外務次官を務めていたネタニヤフに対して国務省への出入りを禁止しなければならなかったと思い出話を語った。その理由について、ベイカーは、「彼がアメリカの中東に対する外交政策は、“嘘と歪曲”の上に成り立っていると述べたからだ」と語った。

 

 ベイカーは次のように述べた。「皆さんに申しあげたいのは、25年前、イツハク・シャミルはベンヤミン・ネタニヤフを“柔らかすぎる”と評したことだ。これは、ネタニヤフが若くして首相になった時にシャミルが述べた発言だ。アメリカとイスラエルの国益は常にぴったり一致する訳ではない。全く別のものになるということはこれからもあるだろう」

 

 ネタニヤフの行動は「彼の発言内容と一致してこなかった。入植地の建設は勢いが衰えないままに継続されている」とベイカーは指摘した。しかし、同時に、オバマ大統領とネタニヤフ首相は両者の争いを「悪化」させてはならないとも述べた。

 

 イランの核開発を巡る交渉について、「完璧な(perfect)」合意内容の達成をあくまで求めることには懸念を示した。ネタニヤフは連邦議会の演説でアメリカとイランの交渉の道筋について反対を表明した。

 

 ネタニヤフは次のように語った。「ウラン濃縮をイラン側が行わないこと、これ以外に合意は存在しない。アメリカもイスラエルも、本来の目的を忘れて本末転倒のことをすべきではない(not led the perfect be the enemy of the good)」。(←この英語の言葉がリアリストの真骨頂だと思います。訳者註)

 

ベイカーはまた、オバマ大統領は、必ずしも必要ではないにしても、イランとのいかなる内容の合意を結ぼうともそれについて議会の承認を得られるように努力すべきだ。

 

 Jストリートの年次総会でのベイカーの演説は、Jストリートがイスラエルのヨルダン川西岸地区の占領に対して批判的すぎると考える保守派の人々からは批判された。

 

(終わり)








 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 2015年3月17日にイスラエルで総選挙が行われ、劣勢が伝えられていたベンヤミン・ネタニヤフ首相率いるリクードが第一党となりました。これでネタニヤフ首相は続投となります。

 

 2014年12月の日本の総選挙でも、自民党が300議席に迫る勢いで勝利を収めましたが、この時の衝撃と似ています。

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選挙前のクネセトの議席数 


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選挙後のクネセトの議席数
 

 日本では北朝鮮、イスラエルではイラン(もしくはイスラム国)が「攻めてくる」という恐怖感を煽って、好戦的な政党と政治家が選挙で勝利を収めています。「人々が右傾化している」というよりも、人々が脅されていると言えるのでしょう。

 

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金輪際ネタニヤフを信頼するな(Never Trust Netanyahu

―イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフの最近の政治的な行動が示しているのは、彼が最悪の種類の機会主義者であるということだ。アメリカは彼がこれ以上最悪の行動を取ることを許してはならない。

 

リサ・ゴールドマン筆

2015年3月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/03/19/never-trust-netanyahu-israel-election-obama/

 

 ここ数週間、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフは権力の座に留まるためなら何でもやる人間であることを示し続けてきた。彼が権力に固執することで、イスラエルの最大の同盟国であるアメリカとの関係を弱めることになっても、彼は構わずに権力を握り続けることに拘る。人種差別的な、昔アメリカに存在したジム・クロウ法のような差別的な選挙法を推し進めることになっても、彼は何も気にせずにそれを推し進めるだろう。彼は判断力があって知識もある人々に向かって嘘をつき続けることになっても、嘘をつき続けることだろう。ネタニヤフの人格を理解する上で重要なことは、彼が自己を満足させるために2つのことを気にかけていることを理解することだ。1つは権力の座に留まることであり、もう1つはゴラン高原とパレスチナ占領地域に対するイスラエルの支配を継続することだ。

 

 2015年3月17日、ネタニヤフは総選挙で勝利した。イスラエル国内のリベラル派と外国の専門家たちは選挙結果に衝撃を受けた。選挙戦を通じて、彼らは一般有権者が安全保障問題やネタニヤフが3月3日に行ったアメリカ議会演説よりも、経済問題により大きな関心を持っていると考えていた。更には、ネタニヤフの3月3日のアメリカ連邦議会での演説は賛否両論を巻き起こしたが、これによってネタニヤフは支持率を引き上げることに失敗し、アメリカとの関係を傷つけたことで、反対票が投じられることになると考えていた。ネタニヤフが「人目を引くような行動」をいくらやっても挽回は無理だろうと私の同僚の一人は語っていた。選挙日直前の最終の世論調査では、ネタニヤフ率いるリクードは20議席を獲得し、主なライヴァルであるザイオニスト・ユニオンは24議席を獲得すると見られていた。ネタニヤフは権力の座に長くい過ぎたために、有権者を理解できなくなっているのではないかと思われていた。

 

 実際には、ネタニヤフは誰よりも有権者を理解していたということになった。選挙直前、ネタニヤフは低俗な、人種差別的な大衆煽動ばかりを行ったのだ。彼は有権者の持つ恐怖感と部族(「リクード族」)への所属感を刺激した。彼らは、イギリス人が贔屓のサッカーチームに対するのと同じように、リクードに対して忠実である。

 

 イスラエルのインターネットのニュースサイトであるNRG(アメリカの大富豪シェルドン・アデルソンが所有している)とのインタビューで、ネタニヤフは、「自分の目の黒い内はパレスチナ国家の成立を許さない」と明確に述べた。フェイスブック、ツイッター、SMS,自動ヴォイスメールを通じて、有権者たちに次のように訴えた。「私は皆さんと左翼が率いる政府の間に立っています。左翼政府はエルサレムを分割し、1967年の段階の国境にまで撤退しようとするでしょう。テルアヴィヴとベン・グリオン空港を見下ろすヨルダン川西岸地区を開放することでそこにイスラム国が入り込んでくるでしょう」

 

 選挙日当日、ネタニヤフはフェイスブックに30秒間の酷い内容の動画を掲載した。その中で、彼は中東の地図を背にして立ち、予備役将兵に対して国家安全保障の緊急事態が起きているかのように訴えた。枯れは次のように述べた。「右派の政府は危機に瀕しています。アラブ人たちが町中の投票所に押し寄せています。左派のNGOがバスを使って彼らを投票所に運んでいるのです」。ネタニヤフは、軍隊の緊急時を示す用語である「ツアヴ8」という言葉を使いさえしたのだ。

 

 イスラエルの有名なジャーナリストであるハノク・ダウムがフェイスブックに挙げた文章を多くの人々がシェアした。そこには、超正統派とパレスチナ人の有権者の票を除くと、3人に1人がリクードに投票したことになると書かれていた。そして、クネセトの過半数の議席は、右派とナショナリズム勢力が占めているとも書かれていた。

 

 イスラエル以外の国々で衝撃が走った。しかし、実際にはイスラエルはもはや右派的な社会となり、人種差別的な言辞が普通に使われるようになっている。例えば、「アラブ風」という言葉は、低俗でけばけばしい意味で使われている。イスラエル国会クネセトの右派的な議員たちはここ数年、アラブ系の議員たちに対して、彼らが演説をしている際に、暴力をふるうようになっている。西洋諸国のリベラル派にとっては衝撃的な事例が数多く起きている。しかし、イスラエル国内では無視されている。クネセトの議員たちは、スーダンからの移民たちを「私たちの体に巣食う癌細胞」などと演説の中で言ってしまう始末だ。

 

 同様に、世界中のマスコミは、ネタニヤフのパレスチナ国家の樹立を拒絶発言に関して、ほとんど取り上げてこなかった。昨年7月、イスラエル国防軍が駐留しない限り、パレスチナ国家の樹立を容認しないとネタニヤフは演説の中で述べた。「イスラエル国防軍の駐留」は別の形での軍事占領である。彼の演説は世界中のマスコミが取り上げず、イスラエル国内のマスコミもほとんど報道しなかった。NRGとのインタビューでネタニヤフは、かなり率直な言葉遣いであった。ここがある種の転換点であった。3月3日のアメリカ連邦議会演説でネタニヤフはバラク・オバマ米大統領を大いに侮辱した。このインタビューはそれに続くものであった。

 

 ホワイトハウスは、2国共存を否認することでイスラエルは外交分野において厳しい状況に追い込まれると示唆した。数カ月前、ハアレツは漏えいしたとされるEUの公式文書をすっぱ抜いた。そこには、イスラエルがヨルダン川西岸地区から撤退すること、パレスチナ国家の樹立の交渉を公式に拒絶した場合には、イスラエルに特別な経済制裁を科すと書いてあった。ネタニヤフはやり過ぎだと世界が見ていることを示していた。

 

しかし、ネタニヤフは態度を豹変させた。総選挙の2日後の2015年3月19日(木)、ネタニヤフはMSNBCの記者に対して穏やかな態度で、2国共存の解決法を否認はしなかった。ネタニヤフは「現実が変化したのだ」と述べた。更には、パレスチナのマウムード・アッバス議長は、イスラエルをユダヤ国家として承認することを拒否し、彼はハマスとの間にイスラエルを破壊するための協定を結んだ、とも述べた。

 

 2つの発言は共に実質的には嘘である。2009年にアッバス議長に対してイスラエルをユダヤ国家として承認するという条件を押し付けて状況を変えたのはネタニヤフ自身である。それまでのパレスチナ側との交渉でこうした条件は持ち出されたことはなく、全く新しい条件であった。ハマスとPLOの間に存在すると言われている協定からすれば、この条件は受け入れがたいものであった。ネタニヤフはただ単に嘘をついたのだ。しかし、彼の発言はもっともらしいものである。ネタニヤフはアメリカのマスコミに対応し、簡単な質問に答える時にその準備をしっかりやっている。ネタニヤフが何年もイスラエルのマスコミからの取材を受けつけずに、アメリカのテレビや新聞の取材には積極的に応じてきたのは何の不思議もない。

 

問題は、アメリカがこれからもネタニヤフの行動を許容し続けるかどうかである。ネタニヤフは、ヘブライ語で「自分の目の黒い内はパレスチナ国家の樹立を許容することはない」と明確に言い切った。それから2日後、彼は穏やかな態度でアメリカ人のジャーナリストたちに対して、英語で、そのようなことは言っていないと述べた。彼は流ちょうな英語を話し、英語を母国語としない人にありがちなアクセントもない。

 

 イスラエルはほぼ50年間にわたってヨルダン川西岸地区を占領してきた。ほぼ10年にわたり軍隊を使って、ガザ地区を封鎖してきた。イスラエルはそうした政策を変更する意図を全く見せていない。これは継続可能な状況ではない。イスラエルが支配する地域には約1300万人が暮らしているが、800万人しか投票権を持っていない。「アメリカとイスラエルは価値観を共有している」と主張するアメリカ人はイスラエルに対して、ジム・クロウ法も共有する価値観なのかどうかを尋ねる必要がある。セルマ自由行進50周年の記念式典で、エドマンド・ペタス橋の上で行ったオバマ大統領が行った演説の感動から考えて、ジム・クロウ法はアメリカの価値観でもなんでもない。オバマ政権はもうネタニヤフが自分たちに嘘をついているなどとは考えてないなどと振る舞うことは止めるべきだし、ネタニヤフが信頼できない人物であるかどうかは分からないなどと言う姿勢を取ることも止めるべきだ。オバマ政権がやるべきことはただ一つ、「イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフは歓迎されざる人物(persona non grata)だ」と宣言することだ。

 

(終わり)








 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 3月上旬のイスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフのアメリカ連邦議会での演説とイスラエルの総選挙の結果はアメリカ政治に大きな分裂の原因となりました。今回はそれについての記事を皆様にご紹介します。

 

 アメリカ政治における大きな分裂については、副島隆彦先生の最新刊『日本に恐ろしい大きな戦争が迫り来る』(講談社、2015年)でも詳しく分析されていますし、拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)ではその枠組をいち早く提示したという自負もあります。また、本ブログでは重要な情報をご紹介しております。
 

 

 これからもよろしくお願い申し上げます。

 

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ベンヤミンは勝ったが、AIPACは負けた(When Bibi Won, AIPAC Lost

―イスラエルはアメリカ政治においてより分裂を招く問題になってしまった

 

ピーター・ベイナート筆

2015年3月19日

『ジ・アトランティック』誌

http://www.theatlantic.com/international/archive/2015/03/when-bibi-won-aipac-lost/388203/

 

ベンヤミン・ネタニヤフの勝利の裏には破れ去った犠牲者がいる。イサク・ヘルツォグはネタニヤフを首相の座から追いとしたいと考えていた。バラク・オバマは共和党と一緒になって自分を攻撃しない、そしてイスラエルとパレスチナ二国共存によるパレスチナ問題解決を支持する人物がイスラエルの首相になって欲しいと望んでいた。彼らが犠牲者であることは明らかだ。

 

 分かりづらい犠牲者たちも存在する。ここ数カ月の間にネタニヤフ首相が米国イスラエル広報委員会(American Israel Public Affairs CommitteeAIPAC)に対して行ったことを考えてみよう。AIPACはワシントンにおいて、アメリカ・イスラエル同盟のために活動するロビー団体である。AIPACは右派の組織だと批判する人々もいる。しかし、組織内部は全くそのようなことはない。AIPACのスタッフたちは戦闘的であるが、超党派である。つまり、彼らは誰がワシントンで権力を握ってもそれに関係なく影響力を維持できるようにしている。それでも歴史的に見て、AIPACの会員たちは多くが民主党員や民主党支持者である。 ユダヤ系アメリカ人の多くが民主党員や民主党支持者である。従って、巨大な、そしてユダヤ系アメリカ人世界の主流派を形成するAIPACの会員の多くもまた民主党支持となるのも当然のことだ。

 

 AIPACはイスラエルとパレスチナの共存によるパレスチナ問題の解決(two-state solution)を支持している。それは、「イスラエルは民主政治体制であるのだから、アメリカはイスラエルを支持すべきだ」という主張がAIPACの基本にあるからだ。クリスチャン・ユナイテッド・フォ・イスラエルのような宗教右派グループは、イスラエルとアメリカは宗教上の強いつながりがあるからアメリカはイスラエルを支持すべきなのだと主張する。しかし、そのような宗教を絡めた主張を行うことで、AIPAC内部の民主党支持の会員を含む、多くの民主党員をかえってイスラエル支持から離れさせてしまうことになるとAIPACは認識しているのだ。AIPACは、「民主政治体制への関与、法の支配、信教と言論の自由、人権こそは、アメリカとイスラエルが共有している、両国の核となる価値観である」と強調する。イスラエルがヨルダン川西岸地区の数百万のパレスチナ人たちに市民権、投票権、移動の自由を認めずに、戒厳令下で軍事的な支配を続けることをAIPACは望まないし、支持しないのである。従って、AIPACはイスラエルによるヨルダン川西岸地区の支配は一時的なものであり、パレスチナによる反乱に対して民主的な志向を持つイスラエル政府が心ならずも非民主的な対応をせざるを得なかった、悲しい現実なのだと主張しているのだ。

 

 こうした点から、ネタニヤフの最近の行動は、AIPACにとっては迷惑なものなのである。2009年にパレスチナ国家について不承不承支持することに同意したはずなのに、今回の総選挙の選挙運動の最終盤になってネタニヤフはその支持を撤回する発言を行った。AIPACは自分たちのウェブサイト上で「ユダヤ人国家イスラエルと非武装のパレスチナ国家の2つの国家の共存が交渉を通じて合意された」ことを支持すると発表していたが、ネタニヤフの行動によって困った立場に置かれることになった。AIPACがネタニヤフを支持して、2国家共存への支持を放棄すると、AIPACは世俗的な会員、民主党支持の会員、アメリカとイスラエルが共有している民主政治体制を理由にして支持してくれている会員たちが離れてしまう危険性があり、そうした人々がハト派の親イスラエル団体であるJストリートに向かうと考えられる。しかし、AIPACが自分たちとネタニヤフとの間に距離があるということを公に認めてしまうと、よりタカ派的な会員たちが離れてしまう危険がある。彼らはイスラエル首相が誰であれその人物に対するアメリカ政府の批判をいっさい認めない。彼らはネタニヤフを賞賛しているので特に彼に対する批判を容認しない。

 

 更に言うと、ここ数カ月のネタニヤフはアメリカ国内で全く別の分裂した評価を受ける人物となった。共和党は彼を愛している。それは彼がタカ派であるだけでなく、オバマ大統領の敵であるからだ。民主党員の多くは同じ理由から彼を嫌っている。党派性の強いユダヤ人団体にとってそれは都合の良いことであった。民主党に近いJストリートは、会員たちにネタニヤフからの攻撃に対してオバマを擁護するように呼びかけている。ザイオニスト・ユニオン・オブ・アメリカと、右翼の大富豪であるシェルドン・アデルソンからの資金援助を受けているラビのシュマリー・ボテック率いるディス・ワールド:ザ・ヴァリュー・ネットワークのような団体は、オバマからの攻撃からネタニヤフを擁護するように呼びかけている。AIPACはこの2つの間に挟まれ、何も発言できず、取るに足らない存在のようになっている。

 

 AIPACが取るに足らない存在などではない。ワシントンで最も有力なユダヤ系アメリカ人団体である。しかし、AIPACは党派対立やイデオロギー対立の激しくなっているこの時代にそぐわないのである。一般有権者からすると、共和党と民主党ではイスラエルに対する姿勢が異なっており、その相違が大きくなっているように見える。共和党はイスラエルを、アメリカに憎悪を抱いているイスラム教徒たちに包囲されたユダヤ・キリスト教の最前線基地だと考えている。民主党は、イスラエルを母国アメリカでは人気のない「ネオコンサヴァティヴ」派の人々によって率いられている国だと考えている。AIPACはこの分裂がワシントンを二分させないようにする必要がある。AIPACからすると、民主党所属の連邦議員たちには有権者たちの本能に抵抗して欲しいということになる。共和党に対しては、党派的な利益のためにイスラエルを利用して、有権者たちに取り入るのをやめて欲しいと思っている。そして、民主党支持者たちがAIPACからこれ以上離れないようにして欲しいと願っている。

 

 イサク・ヘルツォグはこのような試みにとっては良いパートナーになったことだろう。彼はオバマ大統領を尊敬しており、そのことで民主党側は安心感を得られたことであろう。しかし、彼がイスラエル国民による選挙の結果としてイスラエル首相になることで、共和党側からはその立場に対する尊重を得ることが出来たことであろう。ヘルツォグが選挙に勝利していれば、自然な形で2国共存の解決を支持したことであろう。そうすればAIPACはこれまでの主張を繰りかえることが出来ただろう。それは、「パレスチナ国家が成立しないのはパレスチナ人側の失敗である」というものだ。これから数年間、ネタニヤフが首相の座に留まることになる。それによってイスラエルはアメリカ国内でより分裂を招く問題となることだろう。AIPACにとってみれば、選挙の投開票があった火曜日は最悪の日ということになる。

 

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ベイナーがイランとの交渉最終日にイスラエルを訪問(Boehner to visit Israel on Iran deadline

 

ベン・カミサール筆

2015年3月20日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/236400-boehner-to-lead-trip-to-israel-meet-with-netanyahu

 

 連邦下院議長ジョン・ベイナー(オハイオ州選出、共和党)は共和党所属の連邦議員のグループを引き連れて、3月31日からイスラエルを訪問し、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフと会談を行う予定であることが明らかになった。3月31日はアメリカとイランとの核開発を巡る交渉の最終日になっている。

 

 イスラエル政府のある高官はCNNに対してベイナーのイスラエル訪問の予定がある子を認め、イスラエルの新聞『ハアレツ』紙は、連邦議員たちは3月31日にイスラエルに到着することになると報じている。この訪問は総選挙前から計画されていたということだ。

 

 共和党の連邦議員たちはオバマ大統領が進めているイランとの交渉に対して批判的であり、交渉によって、イスラエルの破壊を求めているイランに対して行動の自由を認めてしまうことになると主張している。ベイナーは3月上旬に、オバマ政権に相談することなくネタニヤフを議会での演説のために招聘したことでホワイトハウスと民主党の怒りを買った。ホワイトハウスの高官たちはこの行動を外交儀礼に反するものと厳しく批判し、多くの民主党所属の連邦議員たちはネタニヤフの議会演説を欠席した。この演説には政治的な意図が隠されており、数週間後にはイスラエル国会の総選挙が控えていた。

 

しかし、ベイナーと他の共和党所属の連邦議員たちは、ネタニヤフの演説を擁護し、彼が反対しているイランとの核開発を巡る交渉について意見を聞くのは重要だと述べた。

 

 こうした争いはネタニヤフとオバマ大統領の間の冷め切った関係を示すもので、2人は長年にわたり衝突してきた。2012年の米大統領選挙で、ネタニヤフは共和党の候補者ミット・ロムニーを支持したことで批判された。ネタニヤフとロムニーはボストン・コンサルティング・グループで一緒に働いた経験がある。

 

 ネタニヤフは総選挙の前に2国共存への支持を撤回するかのような発言を行ったが、これはここ数十年間のアメリカの外交政策と大きく矛盾するものなのである。ホワイトハウスによると、今週木曜日、オバマ大統領はネタニヤフ首相へ選挙に勝利したことを祝すために電話をかけ、その時に、「アメリカは長年にわたり2国共存による解決のために努力してきたことを再確認」したということである。

 

 ネタニヤフ首相は、NBCのニュース番組「ナリトリー・ニュース」でインタビューを受け、その際に選挙前の発言からトーンを落とした発言を行い、イスラエルとアメリカとの間には強固な関係が存在することを再確認した。

 

 イスラエル国会クネセトの総選挙でリクードが多数を制したことから、ネタニヤフは首相の座に留まると予想されている。

 

(終わり)











 
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