古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ポピュリズム

 古村治彦です。

 日本でもアメリカでも政治に関する意見は多種多様だ。それぞれの立場を大きく分類すれば右と左、保守と革新、中道とか、穏健と過激といった言葉にまとめられる。日本で言えば自民党や維新は右、共産党や社民党は左ということになる。アメリカで言えば、共和党が右、民主党が左ということになる。右から左までの分類については以下の図が参考になる。こうした図は政治スペクトラム(political spectrum)と言う。
politicalspectrumstraight511

 右と左は激しく対立し合うということはこれまでの定番の考え方だ。しかし、ドナルド・トランプ大統領誕生以降、こうした単純な、直線的な政治スペクトラムでは分析ができないことが数多く起きている。まず、ドナルド・トランプ大統領誕生からして右と左という枠組みでは分析できない事件だった。

トランプ大統領を支持したのは白人の貧しい労働者たちであったが、彼らは民主党支持であるはずだった。しかし、民主党の強固な基盤であった、アメリカの工業地帯(元・工業地帯と述べた方が正確か)であるラストベルト(Rust Belt)でトランプ大統領は勝利した。トランプは民主党と共和党の主流派に喧嘩を売った。規制の政治や主流派エスタブリッシュメント派やエリートたちに対する一般の人々による怒りが政治を動かした。これをポピュリズム(Populism)と言う。

 民主党側でもポピュリズムの勃興によって生み出されたのが、民主党左派であり、その代表格がアレクサンドリア・オカシオ=コルテス連邦下院議員(ニューヨーク州選出、民主党)だ。彼女もまたエスタブリッシュメント派やエリートたちに対する人々の不満を掬い上げ、連邦下院議員にまで駆け上がった。

 トランプはと言うべき共和党極右派と、社会主義者と揶揄される民主党極左派は同じような行動を取る。ウクライナ戦争勃発直後から戦闘の停止と停戦交渉、ロシアに対する制裁の反対、ロシアからの石油の禁輸反対を訴えている。連邦議会での投票行動でも同様の行動を取っている。こうした状況を説明するのが「蹄鉄理論(horseshoe theory)」だ。下の図を参考にして欲しい。

politicalspectrumhorseshoemodel511

 直線的ではなく、馬の蹄(ひづめ)につける蹄鉄のような形になっている。極左と極右が近づく形で直線ではなく、ぐにゃんと曲がっている。勅撰的なスペクトラムを針金に例えるならば、針金に力を加えてひしゃげた形になる。この加えられた力こそがポピュリズムである。ポピュリズム勃興時代の政治を理解するためには、この蹄鉄理論が有効ということになる。是非、掲載した図を見比べて考えてみて欲しい。

(貼り付けはじめ)

アメリカの極右と極左がウクライナ支援に反対する理由(Why America’s Far Right and Far Left Have Aligned Against Helping Ukraine

-ロシアのウクライナ戦争をめぐる言説は奇妙な仲間を生み出している。

ジャン・ダトキウィックス、ドミニク・ステキュラ筆

2022年7月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/04/us-politics-ukraine-russia-far-right-left-progressive-horseshoe-theory/

2022年2月24日にロシアがウクライナを無差別に攻撃して以来、アメリカ国内で生まれたこの戦争をめぐる言説は奇妙な政治的同志たちを作り出している。ジョー・バイデン米大統領を筆頭にアメリカ国民の大多数がウクライナに支持と支援を提供しているが、左右を問わず、ロシアのウラジミール・プーティン大統領政権を擁護したり、少なくともアメリカがウクライナ防衛に介入しないよう求めたりしている人が少なくない。

フォックス・ニューズの顔であり、アメリカのケーブルニュースで最も人気のある番組の司会者であるタッカー・カールソンは、数カ月にわたってクレムリン寄りの論調を拡散してきた(ロシア国営テレビで頻繁に再放送されている)。他の右派の人物も定期的に反ウクライナの偽情報を主張し、ウクライナへの重火器の提供に異議を唱えている。

一方、アメリカの左翼知識人の大御所であるノーム・チョムスキーは、ドナルド・トランプ前米大統領がウクライナの武装に反対していることを、冷静な地政学的政治家としてのモデルとして持ち出している。『ジャコバン』誌、『ニューレフト・レヴュー』誌、『デモクラシー・ナウ』などの左派は、ロシアの侵略についてNATOの膨張を理由とし、ウクライナへの軍事援助に反対するという党派的な路線に忠実だった。

ネット上では、左翼と右翼の多くのアカウントがウクライナの政治、政策、大統領を批判している。連邦議会では、最も熱烈な保守的トランプ支持者のうち7名の議員たちが、進歩主義派のイルハン・オマル連邦下院議員とコリ・ブッシュ連邦下院議員とともに、ロシアの化石燃料の輸入禁止に反対票を投じた。更に驚くべきことには、オマルとブッシュは、いわゆる「スクアッド」のメンバーであるアレクサンドリア・オカシオ・コルテス、ラシダ・トライブ両議員や共和党の極右派とともに、アメリカ政府がロシアのオリガルヒの資産を差し押さえることに反対したのである。

これらの動きは全て、政治スペクトルの両端が奇妙な同盟関係を結んでいることを浮き彫りにしている。問題は、その理由であり、「何故」なのか?ということになる。

極左と極右が奇妙に一致する、現代版「蹄鉄理論horseshoe theory」のような政治が展開されているようだ。歴史的には悪名高い理論だが、ロシア・ウクライナ戦争をめぐるアメリカの世論を見ると、この理論は驚くほどよく成り立っているように見える。しかし、これはイデオロギーの対称性とはあまり関係がなく、またロシアやウクライナとも関係がない。むしろ、「左翼」「右翼」、「保守主義」「進歩主義」といった単純な概念では、もはや政治の展開を理解するための有用な試行錯誤とはなり得ない、アメリカ政治の脆弱な現状と関係がある。

フランスの哲学者ジャン=ピエール・フェイは、政治的イデオロギーのスペクトルは、従来、社会主義や民主的集団主義からブルジョア・リベラルの中心を経て、全体主義やファシズムに至る直線的なものと考えられてきたが、より離れた政治的立場を結ぶ直線ではなく、むしろ馬蹄形に近く、両極はほとんど磁力を受けて曲がって互いに連動していると考えていたのである。

1930年代初頭のドイツ国内政治においてはファシスト政党と共産党の連携、そしてモロトフ・リッベントロップ協定に代表される国際政治におけるナチス・ソ連の連携が実現した。これらの観察に基づいて、フェイは、政治スペクトラムの従来の解釈が示唆する以上に、両極端に共通点があると信じていた。

政治面での蹄鉄という考えは、その知的厳密性の欠如と、中道派が反対派(主に、表向き反対している保守派と比較されうる左派)の信用を落とすために武器として用いることの両方から、長い間批判を浴びてきた。この理論を批判する人々は「極左と極右の間の政治的立場の収束のように見えるもの、たとえば、自由民主政治体制、グローバライゼイション、社会問題に対する市場ベースの解決策への批判は表面的なもので、はるかに深く乖離した思想や政策の好みを隠している」と指摘する傾向がある。むしろ、極左と極右を結びつけているのは、リベラルな中道に対する反発であり、だからこそ、リベラルな中道は馬蹄を極左と極右を攻撃する棍棒として使うことが多いのだと評論家は主張している。

しかし、この理論は再浮上し続ける。それは、極左と極右が思想と政策の両面で一致し続けるように見えるからである。

その理由の一つは、伝統的な一次元の左派・右派スペクトラムが、アメリカ政治における他の政治的分裂の軸、例えば、進歩主義や保守主義といった伝統的に知的な概念ではなく、「体制派・エスタブリッシュメント(the establishment)」に対する否定的態度や広義のポピュリズムに支配されている軸を説明できないことであろう。以前、私たちの一人が指摘したように、アメリカにおけるポピュリズムは、右派の「アメリカを再び偉大にする(Make America Great AgainMAGA)」と叫ぶトランプ支持者たちに限定されるものではない。むしろ政治的なスペクトラムに分布しており、政治的な左派(例えばバーニー・サンダース連邦上院議員の支持者たち)にも右派(トランプ支持者たち)にもポピュリストがいるのである。

フェイの比喩に従えば、馬蹄の両端を結合しているように見えるのは、保守主義や進歩主義といった高尚な概念ではなく、エリートたち、民主、共和両党のエスタブリッシュメント派、主流派報道機関という伝統的な体制を守る門番たちに対する反対である。ロシアのウクライナ侵攻に関して言えば、蹄鉄理論への支持だけでなく、それを超えるもの、つまり単純な左右のパラダイムではアメリカ政治を理解する上で特に役立たないという考え方もある。

ロシアが今年に入ってウクライナに侵攻して以来、民主、共和両党を支持するアメリカ人の大多数はアメリカ政府の立場を支持している。ウクライナへの軍事・人道支援を支持し、驚くべきことに、ウクライナ難民のアメリカへの受け入れにさえも、かなりの超党派の支持がある。しかし、ロシアにも声が大きい支持者たちがいる。

ヨーロッパ各国の極右政党の多くがクレムリンとイデオロギー的にも金銭的にも密接な関係にあり、プーティンの大量虐殺キャンペーンを支持していることはほとんど知られていない。しかし、共和党所属の連邦議員の一部を含むアメリカの右派のかなりの部分は、侵攻以来、公然とロシア側に立っている。

共和党は歴史的に反ソ連(1989年以前)・反ロシア(1989年以降)の立場を政治的に大きな効果を上げるために行使してきた。何しろ、「ゴルバチョフ氏よ、この壁を取り壊せ!(Mr. Gorbachev, tear down this wall!)」と主張した政党である。2012年、当時の共和党大統領候補ミット・ロムニーは、ロシアをアメリカにとっての地政学上の主要な敵であり、「世界の最悪の行為者のために常に立ち上がる」国であると呼んだ。2022年になると、ドナルド・トランプ前大統領、長男のドナルド・トランプ・ジュニア、マディソン・コーソーン連邦下院議員(まもなく元議員となる)、オハイオ州の連邦上院議員候補のJD・ヴァンス、ローラ・イングラハムなどのフォックス・ニューズのパーソナリティたち、キャンディス・オーエンスなどの保守派有力者たちが、党派を超えてウクライナとそれを支援するアメリカの努力を酷評するようになった。

このような右派から批判の中には、NATOの拡大がプーティンを追い詰め、侵略につながったという主張や、ウクライナへの軍事援助に使う金は国内問題に使った方がよいという主張が繰り返し登場する。たとえ、ミズーリ州選出のジョシュ・ホウリー連邦上院議員のように、アメリカ・メキシコ国境の軍事化の継続を継続すべき国内問題だと主張している人々もいる。

一方、アメリカ民主社会党(Democratic Socialists of AmericaDSA)のメンバーや彼らが支持する政治家たち、左翼の学者やエッセイスト、ネット上で「反帝国主義者(anti-imperialists)」を自称する人々を含む進歩主義的左派の多くは、最近の記憶に残る植民地侵略の明確な例の一つであるロシアに味方する(あるいは少なくとも被害者のウクライナに味方しない)傾向にある。彼らの主要な主張は右派のものと同様だ。戦争の引き金となったのはNATOの拡張とロシアの正当な安全保障上の懸念、そして国内問題の解決に使われるはずの資金の不正使用だが、彼らは戦争全面反対を表明し、時にはロシアを全面的に支持する。その全ては、しばしば「アメリカ帝国主義(U.S. Imperialism)」と解釈されるアメリカの海外介入(U.S. intervention abroad)への反対という言葉に含まれている。

極左には常に、侮蔑的に「タンキーズ(tankies、訳者註:欧米諸国において旧ソ連や現在の中国の政策や行動を称賛する人々)」と呼ばれる少数派の声が存在する。マルクス・レーニン主義者を自認する彼らは、ソ連や中国のような権威主義的な共産主義政府の抑圧的な行動を擁護することが多い。この侮蔑語はもともと、1956年にハンガリーで起きた反ソ連蜂起を弾圧するためにソ連がブダペストに戦車を送り込んだ際に、西側諸国の共産主義者たちが喝采したことに対して、仲間である左翼が投げかけた言葉が始まりである。今日、この言葉は主にネット界で使われ、抑圧的な政権の支持者たちを指し、不透明な資金で運営されるオルタナティブ・ニュースソースで働く、シリアのバシャール・アサド大統領のような独裁者を賞賛する少数派のジャーナリストたちが持つ意見に適用されている。

ウクライナに関して言えば、タンキーズの多くが親モスクワの立場を取り、クレムリンの話法をオウム返しにし、おそらく権威主義的資本主義・寡頭政治国家(authoritarian capitalist-oligarchic state)であるロシアとその前身である権威主義的共産主義国家(authoritarian communist state)であるソヴィエト連邦との区別をつけることに失敗している。こうした立場には、ウクライナの2014年のユーロ・マイダン抗議運動はアメリカが支援したクーデターであるという誤った主張も含まれ、これはアメリカ民主社会党に支持されたニューヨーク市議会議員のクリスティン・リチャードソン・ジョーダンなどの選出議員によって、オンラインのタンキーによる偽情報へのリンクという形で直接共有されてきた。しかし、同様の主張はQアノンを後押しする共和党のマジョ―リー・テイラー・グリーン連邦議員や、ノーム・チョムスキーやシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授など、一見真面目そうな一流の学者たちによってもなされてきた。

実際、ウクライナに関して馬蹄の両端を引き寄せているのは、単に紛争への反対やロシアへの応援ではなく、これらの立場に合った政治的スペクトルを超えた考えをすぐに受け入れていることだ。つまり、馬蹄理論の批判者たちが主張するのとは逆に、ウクライナに関しては、表面的な政治的類似性だけでなく、ご都合主義とはいえ、はるかに深いイデオロギーの一致が見られるのである。

ここで参考になるのが、ミアシャイマーの研究である。ミアシャイマーは国際関係論に大きな影響力を持つ学者で、世界情勢分析における「攻撃的リアリズム(offensive realism)」学派の主要な提唱者の一人として知られている。この学派は、各国家は、特に大国は無秩序な世界システムの中で自国の軍事力を最大化するために合理的に行動する、つまり自国の安全に対する脅威が認識されると暴力的に反応する可能性が高いと主張するものだ。

ミアシャイマーのウクライナに関する議論への最も大きな貢献は、2014年のユーロ・マイダンをアメリカの支援をクーデターと見なしたこと以外に、ロシアのウクライナ侵攻は、NATOが東ヨーロッパやバルト地域でのロシアの勢力圏を拡大し、ウクライナに接近したことが直接的原因であるとするものである。攻撃的リアリストの分析によれば、ロシアの攻撃は、このアメリカ主導の拡張を食い止めるものである。この説は、紛争の初日から広く異議を唱えられたにもかかわらず、ミアシャイマーの説明は広く伝わっている。

ミアシャイマーは『エコノミスト』誌のコラムや『ニューヨーカー』誌のインタヴューでその考えを披露している。ミアシャイマーの各論稿は、億万長者ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団(Open Society Foundation)とコーク財団(Koch Foundation)を資金源とするクインシー記念責任ある国家戦略研究所、コーク財団とランド・ポール連邦上院議員の支援を受けるディフェンス・プライオリティーズなどのシンクタンクに所属する識者たちによって言及されている。同様に、公然と社会主義を掲げる『マンスリー・レヴュー』誌、センスの良い雑誌である『カレント・アフェアーズ』誌、信頼すべき社会民主主義の雑誌『ネイション』などの左派出版社からアメリカのウクライナ政策を批評した人たちにその仕事が紹介されてきた。ミアシャイマーはまた、ロシア外務省にリツイートされている。

通常、ウクライナに関するミアシャイマーの考えは、攻撃的リアリズムに関する彼の広範な理論とは別に議論されることが多い。歴史的な例を挙げれば、1961年にキューバをアメリカの勢力圏内にあるソ連の中継基地として侵略しようとした時、アメリカの進歩主義的なエリートたちがソ連を支持したことは想像に難くない。しかし、この「歯も爪も真っ赤な(red in tooth and claw)」リアリズムは、まさに攻撃的リアリズムが意味するところである。

アメリカの外交政策と残忍な国際介入主義(international intervention)を激しく批判するチョムスキーと、その外交政策と残忍な国際介入主義の多くを構築したヘンリー・キッシンジャー元米国国務長官には、同様の引用の運命が訪れている。ウクライナ紛争の終結をめぐるこの2人の理論が重なると、馬蹄の両端が事実上キスすることになる。最近、この2人は欧米諸国とウクライナに対し、ロシアとの紛争をエスカレートさせず、「和平(peace)」を模索するよう呼びかけた。

そして、彼らは両方とも、しばしば並行して、ウクライナに関する彼らの主張を支持するために左派と右派の両方の批評家たちよって引用されてきた。最新の『ニューヨーク』誌の記事において、左派党派は一緒になって、アメリカには紛争に介入する権利などないが、プーティン大統領とウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領を交渉のテーブルに連れて行く力と権利の両方を持っていると主張している。

もちろん、多様な政治的傾向を持つ人々が同じ専門家の政治分析を参考にしてはならないという理由はないが、自分の受け入れやすい考えを共有しているというだけで学者や政治家を無闇に受け入れるのは、極左も極右も同様に、真の政治分析の欠如を示すものである。両者ともウクライナについては意見が一致しているので、自分たちの立場を確認する専門家(ほとんどがアングロサクソンの大物で、ウクライナの専門家はほとんどいない)を引き合いに出しているのである。

左派がキッシンジャーの主張を認め、共和党がチョムスキーに賛成するというのは、非常に興味深いことだ。しかし、チョムスキーとキッシンジャー(そしてミアシャイマー)が同意しているのなら、彼らが正しいに違いない、という議論になる。しかし、彼らはそうではない。プーティンは最近、自らをピョートル大帝(Peter the Great)になぞらえ、ロシアが以前の植民地に進出する権利を主張し、ウクライナ侵攻の決定に西側からの挑発が大きく関係しているというふりを止めた時、自らそう言ったのである。そして、馬蹄の両端にある最も強い主張、つまり、これはアメリカが主導する西側のせいだという主張が消えた。実は、ウクライナに関する馬蹄の説明は、結局のところ、ウクライナとはあまり関係がない、ということなのかもしれない。

極左と極右の政治的目標や動機はそれぞれ異なるが、両者を結びつけているのは、アメリカ政治との関係である。両者が認識している現状維持の欠点(faults of status quo)に反対し、体制とエスタブリッシュメント派に不信感を抱き、粗野な反米主義を主張している。

政治的右派では、グリーン、コーソーン、ポール・ゴーサー連邦下院議員、マット・ゲーツ連邦下院議員など、アメリカの対ウクライナ支援に反対する議員たちの行動は、民族的・人種的に多様な民主国家であり、2015年に最高裁が下した同性婚合法化判決「オベルゲフェル対ホッジス」が(少なくとも現時点では)実際的な法律(the law of the land)となっているアメリカへの深い嫌悪感によってもたらされているように思える。

極右の多くはその現実を軽視し、ロシアのLGBTQコミュニティの生活を極めて困難にするなど、プーティンの業績と見られるものと自分たちの政治目標がイデオロギー的に近いと認識している。プーティンの一般的な主張は、元トランプ顧問で現在MAGAのインフルエンサーであるスティーヴ・バノンによって賞賛されている。ロシアのプロパガンダ・マシーンは、アメリカの文化戦争(U.S. culture wars)の言語に著しく精通しており、プーティンとロシアはその文化戦争戦線において共和党のMAGAグループと同盟関係にあるという認識が広まっている。

もう一つは、アメリカ政治の二極化の中で、党派性が国益に優先してしまっており、バイデンに対して何らかの支援をすることは単純に容認できないという事実である。バイデンと民主党がある一つの立場を取れば(どんな立場でも)、それは単に間違っていて、悪意を持って反対されなければならないということになる。そのダイナミズムは、2018年のトランプ大統領の集会で、2人の男性が「民主党員であるよりもロシア人でいた方がまし(I’d rather be a Russian than a Democrat)」と書かれたTシャツを誇らしげに着ている有名な写真によって表現されている。残念ながら、私たちが強調してきたように、多くのMAGAを主張する政治家たちは口先だけでなく、その面で実際に行動しているのだ。

進歩主義的な左派の人々は、プーティンの政策に賛同しているというよりも、アメリカの外交政策に対する不信感を抱いている。こうした政治分野にいる多くのアメリカ人は、アメリカは様々な戦争(特にアフガニスタン、イラク、ヴェトナム)を通じて海外に多くの痛みを与えた悪い国際的な行為者であるという物語に非常に深く関与している。その結果、外国の紛争に対するアメリカの政策が何であれ、それは利己的であるか、あるいは帝国主義的であるに違いないという視点が、反射的にデフォルトになってしまっている。このため、多くの左翼は、NATOの拡張をアメリカの一方的な帝国主義であるとするクレムリン寄りの主張を繰り返し、更に奇妙なことに、ミアシャイマーのような人物、加えてキッシンジャーというアメリカ左翼の伝統的敵の名前を引用して、その主張を支持することになる。

もちろん、このような枠組みは、ポーランドなどの国がNATOに加盟するために行った長年のロビー活動や、これらの国々がこの政治方針を追求した理由を見逃しており、これらの国々が自らの未来を切り開くための主体性を暗黙のうちに奪ってしまっている。ソ連崩壊後のスラブ諸国を対象とした単なる文化的優越主義(cultural chauvinism)ではなく、冷戦の分析的な後遺症や明白な人種差別によって説明される可能性がある。同様の一連の議論がスウェーデンとフィンランドに対して展開されている。この両国はどちらもNATOに参加する予定となっている。

どちらかといえば、このアプローチは、進歩主義的な人々がそうでないと公言していることと全く同じであることを導く(あるいは、明らかにする)ものだ。それはアメリカ中心主義である。アメリカを事実上のグローバル・パワーとして扱うことで、たとえ自分たちが反対する大国であっても、アメリカはウクライナで停戦を実現し、その条件をロシアとウクライナの両方に指示すべき(できる)という大国主義を不用意に繰り返してしまう。これには、アメリカはウクライナの領土とそこに住む人々をロシアに譲り渡すよう説得すべきだという考えも含まれている。

ヤルタ会談の考え方を復活させた、しかし左派の、表向きは進歩主義者である者たちは、ウクライナ人の代理人であることを拒否し、アメリカの武力関与(U.S. armed involvement)に反対している。そして、アメリカにはウクライナの平和と引き換えにウクライナの土地を分割する力と権利があると信じている。この倒錯した左翼的反帝国主義(leftist anti-imperialism)の中心には、帝国主義的権力を行使する非帝国主義的衝動がある。しかし、表向きは平和の名においてのみ、現地の人々の意思に関係なく、帝国主義的力を行使するのだ。

アメリカの極右と極左が統一的な外交政策ヴィジョンを共有しているものではないが、ウクライナに対するヴィジョンとして素朴な反介入主義(anti-interventionism)を共有している。しかし、このような奇妙な組み合わせの存在は、馬蹄理論を裏付けるというよりも、政治スペクトラムを左右一体型の政治空間として単純化することに疑問を投げかけるべきかもしれない。

サンダースをはじめとする国際主義(internationalism)、社会正義(social justice)、再分配政策(redistributive policies)などを支持する左派の中には、アメリカの海外軍事展開に反対するなど、彼らの政治観と一致する理由からウクライナを支持する者も少なくない。また、自由市場を信奉し、一般に保守的な社会政治的立場をとる右派の人々も、世界政治における米国の強力な役割のヴィジョンなど、彼らの政治と一致する理由からウクライナの武装化を支持している。広義の中道派もまた、実際の政策では比較的コンセンサスが得られている。

それでは、馬蹄の端が互いに磁気的に引き付けられ、スペクトルの残りの部分から引き離される理由は何だろうか?

その磁力は、スペクトルの両側の政治的内容から来るものではない。政治学者のフィリップ・コンヴァースが1964年に示したように、そしてその後、他の学者も示したように、圧倒的多数のアメリカ人は一貫したイデオロギー的見解を持っていない。そして、そのような人たちは、多くの意味で「はみ出し者(outliers)」である。つまり、馬蹄の背後にある力は、政治の別の側面である。この側面がなければ、チョムスキーとキッシンジャーが、他の多くの点では決して両者に同意しない人々によって受け入れられる理由を、とりわけ理解することは不可能であろう。それはアメリカ政治のポピュリズム、反体制的な側面である。

ポピュリズムという言葉は空疎な記号(signifier)のようなもので、多くの人にとって侮蔑的な言葉になっている。ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領、ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相、ポーランドの政治家ヤロスワフ・カジンスキー、そしてトランプといった土着的な右翼指導者たちと結びついているが、サンダースの大統領選挙キャンペーンともまた結びついている。どちらかというと、アメリカ国内においては、ポピュリズムは歴史的に見て、ポピュリスト党(Populist party)の平等主義的な政治とその後の左翼的な進歩主義的な運動と結びついている。

しかし、ここでいうポピュリズムとは、簡単に言えば、ポピュリストが腐敗しているとみなす「エリートたち(the elites)」に対して、平均的な市民である「民衆(the people)」を対峙させる世界観のことである。このことは、保守的なポピュリストと進歩的なポピュリストとでは、異なる意味を持つ。

例えば、右派では、「アメリカ・ファースト(America First)」のナショナリズム、孤立主義(isolationism)、専門家たちやニューズメディアへの不信感として現れる。一方、左派の場合は、伝統的な政党のエスタブリッシュメント派、ビジネス関係者、主流派のコメンテーターたちに対する不信感という形で現れている。そのため、馬蹄の両側のポピュリストたちは一般に、従来の主流報道機関やそのエリート論客たちに不信感を抱き、より表向きは独立した、明らかにイデオロギー的に整合した情報源から情報を得ようとすることが多くなる。また、アメリカが海外に関与する場合、それは自国の政界や財界のエリートの利益のために行われるという信念に根ざした孤立主義が人々を内向きに押しやっている。

どちらの場合も、ウクライナ支援のような国民的コンセンサスが希薄な問題で、おそらく最も顕著に見られる逆張り主義(contrarianism)を助長している。この場合、左右のポピュリストの動機が対照的であることから、両者は同じ立場に達する。つまり、ウクライナ戦争を「両成敗(both-sides)」し、ウクライナ人の代理権を否定し、プーティンの手にかかるような立場に立つのである。そして、極右思想にも極左思想にも、ロシア支持やウクライナ人の苦境への反発につながるようなものは内在していないにもかかわらず、このようになるのである。

そこで、フェイが概念化した馬蹄理論は、完全には正しくないのかもしれない。政治的スペクトルの両端は、本質的に互いに曲がっている訳ではない、つまり、共産主義者とファシストが本質的に一致しているものではない。どちらかといえば、政治的スペクトルの両端は、意見において幅広い異質性を持つ傾向がある。むしろ、両端にあるポピュリストや反体制の衝動が、イデオロギーが違っても一致する信奉者の細部を切り離してしまうのだ。

もちろん、伝統的で一次元的な政治的スペクトル自体が、人々の政治的コミットメントの全体を理解するための試行錯誤を通じて欠陥があることは、特にアメリカのような国では助けにはならない。経済協力開発機構(Organization for Economic Cooperation and DevelopmentOECD)の基準は、ある人を左派としてマークし、民主的な選挙の結果を否定することは、その人をかなり主流の右翼と見なすことになる。

しかし、ある種のポピュリズムが右にも左にも蔓延し、それがオンラインやメディアにおける議論を形成し、民主党や共和党の所属政治家たちの政治メッセージや政策の優先順位をも形成していることは、政治状況だけでなく政治言説(political discourse)の性質が深く分裂していることを示す。これは単に両極化(polarization)という問題ではなく、政治的現実に対する理解の共有がますます不可能になっているという、より深い問題なのである。ウクライナはこの流れの主人公というよりは、来るべき事態の前兆に過ぎない。

※ジャン・ダトキウィックス:ハーヴァード大学法科大学院ブルックス・マコーミック・ジュニア動物関連法・政策プログラム政策研究員。ツイッターアカウント:@jan_dutkiewicz

※ドミニク・ステキュラ:コロラド州立大学政治学助教授。ツイッターアカウント:@decustecu
(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 本ブログの更新が滞りまして申し訳ございません。年度末ということ、更に5月末にアメリカ政治に関する単著を刊行することになり、その準備にも追われておりました。第一稿が完成しましたので、余裕を持つことができるようになりました。

 私の友人(というのはおこがましいのですが)の藤森かよこさんの最新刊が出ました。『優しいあなたが不幸になりやすいのは世界が悪いのではなく自業自得なのだよ』という、これまでの本よりもより過激なタイトルになっています。興味がある方は是非お読みください。

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優しいあなたが不幸になりやすいのは世界が悪いのではなく自業自得なのだよ

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 今回ご紹介するのは、アメリカの共和党内部の亀裂についての記事だ。具体的にはトランプ派対反トランプ派の戦いということになる。トランプはホワイトハウス退去後、比較的静かに過ごしている。しかし、その存在感は共和党内部で維持されている。トランプに協力的な議員たちは彼からの推薦支持(endorsement)を望んでいる。トランプがこれを与えることで2022年の選挙での勝利が近づくという計算がある。

 トランプ派はより具体的に言えばポピュリズムである。既成の政治の枠組みや汚れたワシントン政治に対する人々の怒りがその原動力だ。一方で反トランプ派は、バイデン政権との協力を目指している。その割には経済政策などでバイデン大統領とは対立しているが。

 共和党がトランプの党になるかどうか、だが、その支持基盤がどうなるかが影響する。つまり、有権者の動向が決めることだ。反トランプ派の議員たちが多く選挙で落選するということになれば、必然的にトランプの党になる。選挙が近づいて、「あの議員はよくない、落選させよう」という呼びかけが出ればそれだけで現職議員の敗北の可能性は高まる。トランプの力はいまだに健在なのだ。

(貼り付けはじめ)

トランプの早々の支持表明は共和党内部の亀裂を示している(Trump's early endorsements reveal GOP rift

アレクサンダー・ボルトン筆

2021年4月12日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/senate/547483-trumps-early-endorsements-reveal-gop-rift

トランプ前大統領は最近、ロン・ジョンソン連邦上院議員(ウィスコンシン州選出、共和党)、ランド・ポール連邦上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)、マルコ・ルビオ連邦上院議員(フロリダ州選出、共和党)に対する推薦支持(endorsement)を表明した。この出来事は、トランプ時代を過去のものにしたい共和党員(Republicans who want to leave the Trump era behind)と、勝利の方程式としてトランプの保守主義におけるポピュリストとしてのブランドを考えている共和党員(those who see his populist brand of conservatism as a winning formula)との間の亀裂を露わにしている。

中間選挙の投開票日までおよそ20カ月を前にして、トランプは一部の連邦上院議員たちに対して連続して支持表明を行った。このことによって、トランプは、共和党所属の連邦議員たちの議論に割って入ることになった。議員たちは党としての先行きをどのようにしたいか、バイデン大統領とどの程度の協力関係を築くかということを議論している。

トランプはまた来年の選挙で共和党内の予備選挙での挑戦者たちから同盟者である現職の議員たちを守ることができるのだというシグナルを送っているということになる。

共和党系のストラティジストであるジム・マクローリンは「挑戦者となるであろう人たちを排除するということは極めて有効な予防的措置となります」と述べた。また、マクローリンは、トランプが、連邦上院共和党選挙対策本部長のリック・スコット連邦上院議員(フロリダ州選出)との間で、「極めて良好な関係」を維持していると指摘した。

マクローリンは、2022年の選挙に早い段階で介入するということは、共和党員に対して、共和党はバイデンの政策に対して戦う必要があるというメッセージを送ることになると述べた。バイデンはトランプ前政権の政策を破棄することを目的としている。

スーザン・コリンズ(メイン州選出)、リサ・マコースキー(アラスカ州選出)、ミット・ロムニー(ユタ州選出)のような一部の共和党所属の連邦上院議員たちはバイデンとの協力を望んでいると公に発言している。今名前を挙げた議員たちは、今年の2月初めにバイデン大統領と会談を持った議員たちの一部だ。この議員たちは大統領との間で、新型コロナウイルス感染拡大対策における経済対策での妥協を模索してバイデンと会談を持った。しかし、バイデンは共和党議員たちの提案を全く不十分だとして即座に退けた。

その結果、共和党所属の連邦議員の中で、バイデンが提案した1兆9000億ドル規模の「アメリカン・レスキュー・プラン」に賛成票を投じた議員は一人も出なかった。

共和党所属の連邦議員たちの一部は、ホワイトハウスからトランプが追い出されたことについて、共和党連邦上院議員会で特に不人気だった特定の政策の破棄する機会となると考えている。連邦上院共和党の中で不人気だったトランプの政策派、貿易関連と外交政策関連のものだった。

共和党所属の連邦議員たちはトランプの貿易政策と関税を放棄するかどうか決定していない。そして、バイデンは現在のところトランプの政策を続けている。

外交政策については、バイデン政権のNATOの同盟諸国との関係改善を行うという決定について共和党連邦上院議員会から大きな反撃は出ていない。今年2月バイデンは「一国に対する攻撃は全加盟国対する攻撃である。これは私たちの確固たる誓いである」と宣言し、アメリカのNATOへの関与を再び強く推進するという決意を示した。

しかし、その他の共和党の政治家たちにとっては、トランプが大統領を退任したことで、自分たちのキャリアを伸ばし、労働者階級の有権者たちの間に共和党の支持基盤を拡大するための機会となる。共和党系のストラティジストたちは、ジョンソン、ポール、ルビオは全員がトランプからの推薦支持を得たいと望んでいた。

ジョシュ・ホーリー連邦上院議員(モンタナ州選出、共和党)はトランプのポピュリズムを支持し、ポピュリズムを共和党の将来に進むべき道だと考えている数少ない議員の一人だ。

ホーリーは今週中に「21世紀のためのトラスト解消のための政策提案」を行うと述べた。その主眼は「ジョージア州についてのバイデンの大きなウソを報じ続ける巨大企業」に集中したものだとしている。

そのような政策主張は保守派全員には受け入れがたいものだ。

共和党系のストラティジストであるブライアン・ダーリンは次のように語っている。「反自由市場(anti-free market)的な政策を主張するその心情は理解できます。共和党が抵抗すべき一点は自分たちとは同意できない巨大企業に反撃するために反トラスト法を使えと促すことです」。

ホーリーは昨年、共和党連邦上院議員会での決定のほとんどに反対しその決定とは異なる行動をした。昨年12月連邦議会では9000億ドル規模の経済支援策、2000ドルの経済刺激のための小切手配布が決定した。共和党連邦上院議員会はこの妥協に反対したが、ホーリーは賛成に回った。トランプ大統領も2000ドルの小切手配布に賛成していたが、共和党の連邦議員たちの多くはこのアイディアに反対した。

もう一方の側にいるのがマコースキーだ。マコースキーは共和党がレーガン大統領時代の共和党のように「大きなテント(big tent)」のような政党に戻って欲しいと願っている。

マコースキーは今年1月、「共和党がトランプの党であり続けるなら、私は共和党に適しているかどうか自信を持つことはできません」と発言した。

金曜日、マコースキーは新たな支援を得た。連邦上院少数党(共和党)院内総務ミッチ・マコーネル連邦上院議員(ケンタッキー州選出、共和党)とつながっているスーパーPACの連邦上院リーダーシップ・ファンドは、2022年の選挙でのマコースキーの再選に推薦支持を表明した。

連邦上院リーダーシップ・ファンドの会長を務めているスティーヴン・ラーは「アラスカ州は経験豊富な代表を出す必要がある。リサ・マコースキーはアメリカ合衆国上院でその役割を担っている」と述べている。ラーは以前マコーネルの首席補佐官を務めた人物だ。

トランプがバイデンに敗れてから、マコーネルはトランプとの関係を切った。共和党の指導者であるマコーネルは昨年12月中頃にトランプと話すことを止め、今年2月、16日に連邦議員たちが選挙人の投票を承認しようとしているそのときにトランプ支持者たちが連邦議事堂に進入したが、この事件についてトランプの示唆があったと激しく非難した。

今年1月上旬にツイッター社から投稿禁止処分を受けて以降、トランプは比較的静かである。しかし、彼の大統領退任後の事務所と「セイヴ・アメリカ」PACからの一連の声明と支持表明が出されていることで、ここ最近、共和党政治において存在感が高まっているように感じられる。

「セイヴ・アメリカ」はトランプに忠実な政治家たちのために8500万ドルを集めている。このことは、トランプが政治の世界で力を持ち続ける意思があることを共和党員や共和党支持者たちに印象付けるものだ。

先週、トランプは、ジョンソン、ポール、ルビオへ支持表明を行った。この3名は連邦上院の中で最もとランプに忠実な議員たちで来年に再選のための選挙が控えている。ジョンソンは、ハンター・バイデンのウクライナのエネルギー企業に招聘されていたことについての調査を主導していた。このハンターの件はトランプの好むものであった。ジョンソン自身は3期目を目指すかどうかまだ発表していない。

トランプはジョンソンに対して、「出馬だ、ロン、出馬だ!」と促した。民主党側は、ジョンソンが共和党の候補者になれば民主党側の勝利の可能性が高まるだろうと考えている。

民主党系のストラティジストであるベン・ナックルスは2018年の選挙でウィスコンシン州知事トニー・エヴァースの勝利に貢献した人物である。ナックルスは次のように述べている。「ジョンソンに出馬して欲しいと願っています。そうすれば民主党側がより簡単に議席を奪取できますからね。ジョンソンは多くの問題について、あまりに急進的で、あまりにも無茶なことを言ってきました。もしジョンソンが出馬するならば、民主党が議席を奪取するのはより容易なことになるでしょう」。

ウィスコンシン州を地元して活動している共和党系ストラティジストであるブランドン・ショルツは、民主党側は2020年の選挙で使用した反トランプ戦術と言葉遣いを再び持ち出すだろうと述べている。

ショルツは、トランプからの支持は、2020年と同じ選挙を再現しようとしている民主党に有利に働くことになる、大統領選挙で反ドナルド・トランプ活動を展開したが、それを連邦上院議員選挙でもやり反ロン・ジョンソン活動をやろうとするだろうと述べた。

ショルツは、2020年の選挙で民主党はウィスコンシン州では課題や問題を取り上げることを中心の選挙戦を展開することはなく、トランプの性格や行動に焦点を当てて選挙活動を行った。

ショルツは「民主党はドナルド・トランプを憎悪していました。これが選挙活動の中心でした。私は、民主党がこの選挙活動を再現しようとしていると考えています」とお述べた。

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 古村治彦です。

 アメリカが堅持してきた二大政党制が崩壊する可能性が高いと私は考えている。今回の大統領選挙をめぐるこれまでの動きの中で、共和党内に大きな亀裂が生まれている。民主党はエスタブリッシュメント対進歩主義派という対立構造があったが、「アメリカの敵・ドナルド・トランプとトランプ支持者たち(本当は民主党が助けなくてはいけない人たちのはずだが)」という共通の敵を作り上げて、今のところは一枚岩だ。

外国に敵を作って、皆でまとまろうという策謀と全く同じ構造だ。これで、「アメリカの融和」などと寝ぼけたことを言っているのは笑止千万だ。これに協力している、進歩主義派も結局、エスタブリッシュメント派の軍門に下り、ワシントンでの楽しい生活を謳歌している。私は大きく失望している。中世ヨーロッパの言葉に「都市の風は人間を自由にする」というものがあるが、それをもじって言えば、「ワシントンの風は人間を徹底的に堕落させる」ということなのだろう。進歩主義だ、貧しい人々のためだ、と意気揚々とワシントンに乗り込んでみたら、取り込まれて、堕落してしまう。その点で、ドナルド・トランプという人物は最後まで、ワシントンの「部外者(アウトサイダー)」だった。

 共和党に目を移せば、「エスタブリッシュメント派対トランプ・ポピュリズム」という対立構図になる。このブログでも紹介したが、共和党支持の有権者たちの間でのトランプ支持は根強い。この有権者たちにそっぽを向かれれば共和党の議員たちは落選して、ただの人となり、楽しいワシントンでの生活からオサラバしなければならない。

 2020年の選挙では連邦上院では共和党と民主党が50対50となり、連邦上院議長は副大統領が務めるので、民主党が過半数を握ることになった。連邦下院では民主党が過半数を維持したが、共和党が議席数を伸ばした。2022年の中間選挙では共和党が議席数を伸ばすことが見込まれている。

 共和党側は、民主党側に対して、「民主党は社会主義の方向に進んでいる」という宣伝戦略を展開している。2022年に向けてもこの戦略を採用しようとしている。これで消極的な民主党支持者たちを取り込もうとしている。民主党側では、進歩主義派の勢力が大きく、バイデン政権と連邦議会民主党執行部としても無視できない。そこで、「大きな政府」政策を実行すると、共和党側の宣伝戦略にはまってしまう。

 一方、共和党側でも「トランプ・ポピュリズム派」は、民主党側からの攻撃目標にされてしまうだろう。「あの連邦議事堂襲撃事件を起こしたトランプを支持する政治家たちを当選させてはいけない」という戦略で共和党攻撃を行うだろう。民主、共和両党はお互いの「急進派」を標的にして攻撃する戦略で2022年の中間選挙を戦うことになる。両党にとって、「急進派」は重要な存在である。そう簡単に切ることができない。このかじ取りが2022年の選挙の結果を左右することになるだろう。

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共和党は2022年に連邦下院で過半数を獲得する道筋を見ている(GOP sees path to House majority in 2022

ジュリー・グレイス・ブラフケ筆

2020年11月18日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/house/526444-gop-sees-path-forward-to-house-majority

共和党は今週連邦議事堂に戻って来た。共和党は予想を裏切り、選挙投開票日に連邦下院での議席を増やして戻って来た。2022年の中間選挙で過半数を獲得する見通しを持っている。

共和党所属の連邦下院議員たちは木曜日、連邦下院少数党(共和党)院内総務ケヴィン・マッカーシー連邦下院議員(カリフォルニア州選出、共和党)をはじめとする連邦下院共和党指導部をそのまま再任することで、その功績に報いた。共和党は、分裂した投票行動を行った有権者たちから支持を受けた。この有権者たちはトランプ大統領をホワイトハウスから追い出しながら、連邦上院と連邦下院の選挙の共和党の候補者たちを支持した。

選挙結果はアメリカ国民が捻じれた政府(訳者註:ホワイトハウスは民主党、議会は共和党)を認めたということであり、共和党側は2年後の中間選挙において連邦下院で過半数を奪還することができるという手ごたえをつかんでいる。中間選挙はこれまで、ホワイトハウスを掌握している政党が連邦議会で議席を減らすということになっている。

まだ結果が出ていない複数の州で共和党の候補者たちが優勢であり、それらを入れて、共和党は20議席近く増やそうとしている。共和党は今回の選挙結果でも過半数まで17議席足りないままである。しかし、民主党側から見れば、第二次世界大戦以降、最も議席差が少ない連邦下院ということになっている。

連邦下院少数党(共和党)幹事ステイ―ヴ・スカリス連邦下院議員(ルイジアナ州選出、共和党)は全米を駆け回って再選を目指す現職たちのために応援演説をしていた。スカリスは本誌の取材に次のように答えた。「今回の選挙で私たちは接戦の選挙区において多くの議席を獲得したことで、多くの人々に衝撃を与えることができました。しかし、私たちはこれからもやらねばならないことがたくさんありますが」。

スカリスは続けて「私たちが接戦で敗れた選挙区においても素晴らしい候補者たちがいるということを既に伝えられています」と述べた。

共和党指導部は2022年の中間選挙について楽観的になることを戒めていると述べている。彼らは現在の状況について良くなっていると感じているが、連邦下院で過半数を奪還するためにはこれからも戦い続けねばならないだろうと述べている。

トム・エマー連邦下院議員(ミネソタ州選出、共和党)は連邦下院共和党の選対委員長を務めたが、共和党は今回の選挙で予想を超える結果を得たが、連邦下院で過半数を奪還できなかったことについては「失望している」と述べた。

共和党全国選挙対策委員会(The National Republican Campaign CommitteeNRCC)委員長エマーは、議席増を当然のこととは考えておらず、過半数奪回に目を向ける必要があると述べている。また、2018年の中間選挙で民主党側の攻勢によって民主党が基盤を築いた選挙区での議席獲得のための道筋はあるとも述べている。

共和党はマイアミで複数の議席を獲得し、失うと予想されていたテキサス州での複数の議席を維持した。しかし、エマーはアリゾナ州、ミシガン州、ニューハンプシャー州、ペンシルヴァニア州の各州で逆転できる可能性があったと述べている。

エマーは本紙の取材に対して次のように述べた。「今回の選挙で私たちがいささか成功したが、これは偶然の産物ではないということを共和党全体が理解しなければなりません。私たちは努力を続けたので、成功するだろうと言われていました。これからも挑戦は変わりません。より努力をしなければなりません」。

エマーは「人々がどんなことを言っても、簡単なことではないのです。世論調査の専門家や予言者の言うことなど聞きません。選挙の結果は全て候補者たち次第なのです。幸運は自分の力で引き寄せねばならないのです」と述べた。

エマーは、共和党が強力な、そして多様性のある候補者たちを登用したことと、民主党内の分裂によって、共和党が民主党の有名議員たちを落選させることができたと述べている。今回の選挙で民主党側は中道派の議員たちが多く落選した。エマーは、共和党全国選挙対策委員会の戦略として、民主党側の進歩主義的な政策を際立たせながら、接戦の選挙区に照準を定めるという戦略を採用するとしている。

エマーは「穏健派・中道派は残っていません。話は変わりますが、民主党がナンシー・ペロシを議長にとどめるならば、それは私たち共和党にとっては悪いことではありません」と述べた。

連邦下院民主党は水曜日、連邦下院議長ナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)をこれからの任期2年間、民主党のトップに据え続けることに決定した。ペロシは1月の全連邦下院議員からの投票で、過半数の支持を必要としている。2019年の連邦下院議長選挙で、民主党所属の連邦下院議員15名が反対票を投じたが、来年の議会に戻ってくるのはそのうちの10名だ。民主党は議員の数を減らしている。それでも、ペロシの再選にとっては高いハードルにはならない。

民主党側で議席を失うことになる5から15議席の議員たちの中には、長年議員を務めたヴェテランや注目を集めつつあったスター議員たちが含まれている。それらの中には、マイアミ・デード郡の選挙区から出ており、クリントン政権で保健福祉長官を務めたドナ・シャレイラ連邦下院議員(フロリダ州選出)、スタテン島の一部が選挙区になっているマックス・ローズ連邦下院議員(ニューヨーク州選出)、共和党が優勢な選挙区で15期にわたって議員を務め、連邦下院農業委員会委員長を務めたコリン・ピーターソン連邦下院議員(ミネソタ州選出)が含まれている。

歴史的に見て、ホワイトハウスを握っていない側の政党は中間選挙で過半数を獲得している。民主党所属の連邦議員の中には、2022年中間選挙に向けて戦略を再検討する必要があると述べている。

ある民主党連邦議員は、共和党側の民主党と社会主義を結び付けるメッセージ戦略について、民主党はこれに対して戦わねばならず、ペロシ議長は、こうした攻撃のために劣勢に立つであろう民主党の議員たちの敗北に責任を持つことになる。

この議員は次のように述べた。「私が言いたいのは、2022年の中間選挙において私たちは良い立場にはいないということです。私たちは劣勢に立っているんですよ。ペロシ議長が議長職にとどまるというのは全くもって不公正なことです。彼女はこれから2年間議長職にとどまりますが、その後の2022年、私たちは大惨敗を喫する可能性が高いのです」。

「私たちが10から15議席を失うだけでなく、連邦下院民主党は過半数を失うことにもなるでしょう。2020年の中間選挙は、民主党側では共和党から議席を獲得し、過半数の議席数を拡大する機会にもなるはずでした。しかし、私たちはこの機会を無駄にしました。私たちは2022年に議席数の減少を阻止するための堤防を築くために、2020年の選挙がどれほど重要なのかはわかっていました」。

流れは共和党に有利な方向に流れているようではあるが、共和党は今回の選挙での躍進を当然のことだと思ってはならず、連邦下院での過半数奪回のためにはこれからいくつもの高いハードルを越えていくことになるだろうと気を引き締めている。

連邦下院共和党筆頭副幹事長ドリュー・ファーガソン(ジョージア州選出、共和党)は次のように語っている。「もし現在の流れについて考えるならば、私たちは歴史的な勝利を収めたと言えるでしょう。私たちは民主党の本性を明らかにしました。民主党はこの国を社会主義の方向に進めようとしているのです。しかし、私たちはいささか押し戻すことができました。人々は考えを変え、戦うために外に出ました。そして、僅差で多数となっている人々が、人々をまとめる方法を主張しています」。

ファーガソンは続けて次のようにも述べた。「従って、私たちはより一生懸命に努力しなければなりませんし、資金集め、良い政策作り、メッセージの発信など全てのことに注力し、これまでの2倍努力しなければなりません。私たちはそれができると確信しています。しかし、それはドアを通って歩いていけば自然に手に入るものではなく、私たちは勝ち取りに行かねばならないのです」。

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 古村治彦です。

 ホワイトハウスを去ったドナルド・トランプが新党を結成するかもしれない、というニュースがしばらく前に出た。その後、続報を聞いていなかったが、世論調査で凄い事実が明らかになった。サンプル数や方法に問題があり、信頼性がそこまで高くないとは言え、『ザ・ヒル』誌が実施した世論調査で、「トランプ新党」の支持率が高いことが分かったのだ。

 「トランプが新党を作ったら」という質問に、共和党支持者の64%がそちらを支持する、そのうちの半分32%はぜひとも支持すると答えた。支持政党なしは28%、民主党支持で15%がトランプ新党を支持すると答えた。そして、有権者全体にすると、37%がトランプ新党を支持すると答えたのだ。

 アメリカの有権者の3分の1以上がトランプ新党を支持するというのは、民主、共和両党にとって衝撃だ。共和党は党内にエスタブリッシュメント派対トランプ・ポピュリズム派の分裂を抱えているが、トランプ支持の有権者たちが離れてしまえば、共和党は選挙で勝てないどころか、第三党に転落してしまう。二大政党制(Two-Party System)の一方の雄、と威張っていたのに、そこから追い落とされる。そうなれば末路は哀れ、消滅してしまう可能性もある。

 トランプは「いつでも新政党をつくるぞ」という姿勢を見せながら、駆け引きができる。エスタブリッシュメント派はトランプにそっぽを向かれたら選挙に負けるということになる。トランプの影響力は大きいままで維持される。

 民主党側は高みの見物を決め込めるかというとそうでもない。民主党内部もエスタブリッシュメント派対進歩主義派の対立を抱えている共通の敵、トランプをとりあえずホワイトハウスから追い出すことができて良かったね、ということで今は対立は激しくないが、進歩主義派の要求にエスタブリッシュメント派は応えたくないということもでてくる。

また、2016年の大統領選挙民主党予備選挙でのヒラリーを勝たせるための民主党全国委員会の不正問題もある。トランプが影響力を行使する、もしくは新党を作るという行動に出た場合、進歩主義派も同様の手段でエスタブリッシュメント派を揺さぶるということも考えられる。

 トランプ新党の具体的な計画はまだ出ていない。しかし、その名前だけでもこれだけの有権者が期待を寄せている。せっかく協力してトランプをホワイトハウスから追い出すことに成功した、民主、共和の既成の二大政党にとっては深刻な問題は続く。

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世論調査:共和党支持の有権者の64%がトランプ率いる新党に参加したいと答えた(Poll: 64 percent of GOP voters say they would join a Trump-led new party

ガブリエル・シュルト筆

2021年2月5日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/hilltv/what-americas-thinking/537442-poll-64-percent-of-gop-voters-likely-to-join-a-trump-led-3rd

最新のヒル・ハリスXの共同世論調査の結果によると、共和党支持の有権者の多数が、もしトランプ前大統領が新しい政党を立ち上げたら、それに参加したいと答えた。

1月28日から29日にかけて実施された世論調査で、有権者登録済の共和党支持の有権者たちのうち64%がトランプ前大統領が新政党を立ち上げるならばそれに参加したいと答えた。そのうちの32%はぜひとも参加したいと答えた。

対照的に、共和党支持の調査対象者の36%が「全く」「それほど」支持しないと答えた。

支持政党なしの28%、民主党支持の15%がトランプ率いる第三党支持に回るだろうと答えた。

調査対象者全体の37%が、もしトランプが新政党を立ち上げたら、支持するだろうと答えた。

先月、トランプ派新しい政党をスタートさせるというアイディアについて話したという報道がなされた。しかし、トランプ率いる第三党に関する具体的な計画は浮上していない。

ハリスXCEO兼主席世論調査分析者のドリタン・ネショーは本誌に対して次のように語った。「議事堂進入という事件はあったが、トランプは政治的な力を維持し、それは真剣に興梠しなければならない程のものだということをこれらの数字は示している。彼は多様な支持基盤から支持を集め、有権者全体の3分の1の支持を集めている。これらの有権者は多くの問題に関して、トランプに魅力を感じている人たちである。これらの問題は民主党と共和党のエリートたちは適切に認識ておらず、対処もしていない」。

ネショーは続けて「トランプが共和党から離れて自分自身の政党を創設したとします。世論調査の結果から見ると、彼はアメリカで第2位の政党を創設するということになります。共和党は第3位に転落します」と語った。

最新のヒル・ハリスXの共同世論調査はオンラインで945名の有権者登録済の人々に対して実施された。その内の340名が共和党支持者であると申告した。今回の世論調査の誤差は3ポイントだ。

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 古村治彦です。

 

 ドナルド・トランプ大統領の保護主義的貿易政策に対して、チャールズ・コーク、デイヴィッド・コークのコーク兄弟は反対を表明しています。政府が経済活動に介入することに反対し、全てを市場に委ねるリバータリアニズムの信奉者であるコーク兄弟としては当然の反応です。これに対して、トランプ大統領はツイッター上でコーク兄弟を非難しています。その言葉が「グローバリスト(globalist)」です。

 

 グローバリストという言葉は副島隆彦先生によって日本に紹介されましたが、世界を一つの価値観でまとめ上げる、具体的にはアメリカの価値観でまとめ上げることを目的に動く勢力のことを指します。そのために外国に積極的に介入します。介入主義者(インターヴェンショニスト、interventionist)とも言います。

 

 リバータリアニズムを信奉するコーク兄弟は、アメリカが外国に介入することに反対します。ですから、チャールズ・コークは古くからヴェトナム戦争に反対し、ジョージ・W・ブッシュ政権下でネオコンが主導したイラク戦争にも強く反対しました。

 

 コーク兄弟は、共和党を支持していますが、これは「民主党は全くもって問題外だが、共和党はまだまし」ということです。共和党内でリバータリアニズムに基づいた政策を支持する政治家を増やそう、それでリバータリアニズムに基づいた政策を実施させようということになります。ネオコンや妥協的な政治家たちを支援しないということで、コーク兄弟は反主流派ともなっています。

 

 現在のトランプ大統領もまた共和党主流派、体制派ではなく、人々の怒りを集めて大統領になったこともあって反主流派ということになります。トランプ政権で閣僚になった人たちの多くがコーク兄弟と関係が深いということは以前本ブログでもご紹介しました。トランプの減税政策はコーク兄弟の利益にも合致するものです。しかし、コーク兄弟は、「大企業優遇の減税は経済システムを歪めるものだ」「一般の人々のためのものではない」と批判しています。

 

 コーク兄弟に関して、トランプ大統領の「グローバリスト」という批判は当てはまりません。コーク兄弟が信奉するリバータリアニズムとトランプ大統領が代表するポピュリズムはともに海外へのアメリカの介入には批判的です。ここでの問題は経済活動に対して政府が介入すべきかどうかということであり、トランプ大統領の関税政策は経済の邪魔になる、市場によってコントロールされている経済を人為的に歪めるというのがコーク兄弟の主張です。この点で両者は対立しています。トランプ大統領としては雇用を生み出すということを公約にして当選している以上、貿易戦争にまで突っ走ってしまうのは当然ということになります。

 

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●「トランプ、反保護主義掲げるコーク兄弟と対立 共和党支持組織を罵倒」

2018年7月31日 ロイター

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/08/post-10707.php

 

米共和党の強力な支持組織として知られるコーク・ネットワークが、トランプ米大統領の貿易政策に批判的な姿勢を示し、大統領が組織を公然と批判する騒ぎに発展している。

 

トランプ氏は31日のツイッター投稿で、大富豪のチャールズとデービッドのコーク兄弟が創設したこの組織について「本物の共和党サークルではまったくの冗談と化したグローバリストのコーク兄弟が、強固な国境、強力な貿易に反対している。私は彼らのカネやひどいアイデアを必要としていないので、一度も彼らの支援を求めたことがない」と罵倒し、ネットワークは「過大評価されている」と続けた。

 

これはコーク・ネットワークの一部幹部が、大統領の貿易政策が景気後退を招くとの懸念を示し、共和党候補への支持を取り下げたい意向だと報じられたのを受けた投稿。

 

コーク側は概ね批判を受け流しており、広報担当者は「われわれはすべての人の生活を向上させる政策を支持する」との声明を出した。

 

コーク財閥は未公開の企業としては全米2位の大きさで、企業寄りの政策やリバタリアン(自由至上主義)思想で知られている。減税、規制緩和、自由貿易を強く主張し、主義主張の近い共和党候補にこれまで数百万ドルを献金してきた。

 

コーク財団とその他自由貿易を支持する団体は、トランプ大統領の進める保護主義的な政策を敬遠しており、11月の議会中間選挙を控え、トランプ氏に同調する共和党候補への支持を見送る可能性が出ている。

 

2016年の大統領選では、コーク兄弟はトランプ氏のイスラム教徒に関する発言などを理由に同氏と距離を置いていたが、トランプ氏の大統領就任後は税制改革法案の成立を支持するなど、和解したように見えていた。

 

しかしその後、コーク・ネットワークはトランプ氏の関税政策に反対する数百万ドル規模のキャンペーンを開始した。

 

=====

 

サンダースは、コーク兄弟が「全ての人々のためのメディケア」に賛成する主張をしてしまったことに感謝(Sanders thanks Koch brothers for accidentally making argument for 'Medicare for all'

 

ブルック・シーペル筆

2018年7月31日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/policy/healthcare/399625-sanders-thanks-koch-brothers-for-accidentally-making-argument-for-medicare

 

バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)が火曜日、保守派の大口献金者であるチャールズ・コークとデイヴィッド・コークに対して、「全ての人々のためのメディケアに間違って賛成してしまった」ことに感謝を示した。コーク兄弟が資金を出した研究では単一支払者制度(single-payer health-care plan、訳者註:政府が保険料を徴収し、医療費の全てを支出する制度)のコストについて分析を行っている。

 

サンダースはツイッター上に掲載したヴィデオの中でコメントを発表した。サンダースは、ジョージメイソン大学メルカトスセンターのチャールズ・ブロハウスが発表した研究成果についてコメントをした。ジョージメイソン大学メルカトスセンターにはコーク兄弟が資金提供を行っている。

 

サンダースは次のように語った。「私はコーク兄弟、また、今回の研究に資金を出してくれた全ての方々に感謝したい。今回の研究では、全ての人々のためのメディケアは10年で2兆ドルものお金を浮かせることが出来るということであった」

 

ブロハウスは研究の中で、サンダースの主張する単一支払者制度では、2022年から2031年の期間、32兆6000億ドルもかかってしまうという結果を発表した。しかし、研究の中で、他の経済学者たちは同じ期間に2兆ドルのお金を浮かせることが出来るだろうという研究結果を発表している。

 

ヴィデオの中で、サンダースは、コーク兄弟が彼の主張している単一支払者制度でお金を浮かせることが出来ることを証明したことに謝意を示した。

 

全ての人々のためのメディケアはサンダースが2016年の大統領選挙で主要政策として主張したことで知られるようになった。全ての人々のためのメディケアは、自己負担や控除なしに全てのアメリカ国民の医療費を支払うことが出来るというものだ。

 

サンダースの提案は左派の人々から支持されている。しかし、その他の人々からは批判の対象になっている。批判者の中にはトランプ大統領も含まれている。トランプ大統領はかつて、単一支払者制度を「アメリカにとって呪い」となると批判した。

 

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