古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:マイケル・グリーン

 古村治彦です。

 ワシントンにある有名なシンクタンクである戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)の副理事長を務めたマイケル・グリーンがシドニー大学アメリカ研究センター(U.S. Studies CentreUSSCCEOに転身したのが今年3月のことだった。これは都落ちの感がある異動であったが、別の面で考えれば、対中封じ込めのために、オーストラリアを取り込むため、最前線にグリーンが移動したということも言えるだろう。今年3月1日には、グリーンは、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』でも取り上げた、ミッシェル・フロノイ、ミーガン・オサリヴァンらと台湾を訪問している。グリーンはジャパンハンドラーズであるとともに、対アジア外交専門家として活動している。このブログでもマイケル・グリーンの動きは既にご紹介している。
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右端がマイケル・グリーン、隣はミッシェル・フロノイ

※「20220610日 ミッシェル・フロノイ創設のウエストエグゼク社がテネオに買収される予定:ミッシェル・フロノイがバイデン政権入りするのではないかと考えられる」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86261152.html

 マイケル・グリーンの論稿では、アメリカは対中強硬姿勢で、民主党と共和党、ジョー・バイデン大統領(民主党)が率いるホワイトハウスと共和党が過半数を握る連邦下院が協力するということになるということだ。アメリカ社会の分断は深刻になっている。政治の世界でもなかなか一致点が見いだせない。そうした場合、外に敵を作って、団結するということはよくあることだ。ドナルド・トランプ政権で始まった米中貿易戦争路線を、ジョー・バイデン政権も引き継いでいる。そして、中間選挙で共和党が連邦下院で過半数を握っても大丈夫、対中強硬路線は引き継がれるということがマイケル・グリーンの主張だ。アメリカがまとまるには外敵をつくるしかないというのは、如何にアメリカ社会の分断が深刻化しているかを物がっている。

(貼り付けはじめ)

アメリカ中間選挙の結果は、国家安全保障にとって正味のプラスになる(U.S. Midterm Results Are a Net Plus for National Security

-トランプ主義が縮小する中、国際主義の共和党(internationalist Republicans)は中国、防衛、貿易でバイデン政権に圧力をかけるだろう。

マイケル・J・グリーン筆

2022年11月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/11/us-midterm-election-republicans-biden-national-security-foreign-policy-defense-china-house-committees/

2022年の中間選挙の直前、私は『フォーリン・ポリシー』誌上で、共和党が連邦下院で勝利しても、アメリカの対中戦略競争にとって悪いことばかりではないと論じた。それは、共和党が国防費や貿易政策に対して注意を払い、バイデン政権のインド太平洋における同盟中心戦略(alliance-centric strategy)を中心に幅広い超党派的な支持を集めているからである。最終的な結果は数日から数週間は分からないにしても、実際の結果はそれ以上に良さそうだ。確かに、連邦下院共和党はハンター・バイデンや議員を退くリズ・チェイニー連邦下院議員を追及するかもしれない。そして、一般的には、バイデン米大統領の弱さを示し、アメリカの同盟諸国には連邦議会が機能不全に見えるような、パンとサーカスを共和党の支持基盤に提供するかもしれない。しかし、共和党が連邦下院の重要な委員会を支配することで、人々は表面に出てくる騒ぎを楽しむにしても、バイデン政権のタカ派と現実主義者が助かるという事実は変わらない。ケーブルテレビでジャコバン裁判を見ながら、外交政策の専門家たちは、作家のマーク・トウェインがドイツの作曲家リチャード・ワーグナーの音楽について言ったことを思い出すことだろう。それは、「そこまで酷いことはない(It's not as bad as it sounds)」だ。

まず、前回の論稿で評価分析したように、連邦下院の国防、国際関係、通商の主要委員会と小委員会のリーダーたちは、いずれも国際主義者で現実主義者(internationalists and realists)であり、国防への資源投入を推進するとともに、原子力潜水艦と先進防衛力を構築する豪英米協定(Australia-U.K.-U.S. agreementAUKUS)など、能力構築や同盟諸国との野心的な構想の進捗状況を精査することになろう。これは、多くの政策分野、特に貿易と抑止力拡大が、政権内の左翼保護主義者たち(left-wing protectionists)と軍備管理信者たち(arms control purists)の妨害に直面するバイデン政権を律するものである。

しかし、それに加えて、選挙の結果によって、共和党が連邦下院を支配し、連邦上院はこの原稿を書いている時点ではまだ未決定であることが予想され、中国との戦略的競争に向けた政権の組織化努力をより促進することになるだろう。

第一に、ドナルド・トランプ前米大統領とトランプ主義全般の縮小は、アメリカの民主政治体制が崩壊しているという有害なシナリオと戦っている海外のアメリカの外交官たちを助けることになる。例えばオーストラリアでは、最近、アメリカの選挙に関する報道がオーストラリアの国政選挙の報道を凌駕しているほどだ。2021年1月6日の暴動、選挙否定論、民主的な規範に対するトランプの非道な攻撃、民主的な選挙プロセスを制限しようとする過激派の運動という醜い光景をオーストラリア人たちが無視することは非常に困難だった。中国の脅威が同盟諸国をアメリカに接近させている今、友好国の政府が民主政治体制の方向性を見失ったかのようなアメリカへの依存を強めることを考えるのは不安であり、ワシントンの外交政策の急変は大統領選挙1回で起きる可能性がある。

先月発表された、アメリカ研究センターの調査では、オーストラリア国民の約半数がアメリカの民主政治体制の方向性について、「非常に懸念する(very concerned)」と答えている。これは、欧米諸国の同盟が共通の脅威(common threat)だけでなく共通の価値観(common values)に基づいている場合の問題点である。中国の公式な対米シナリオでは、中国のモデルよりも民主政治体制とその原則を強く支持する調査結果があるにもかかわらず、民主政治体制は最良の政府形態ではないことの証拠として1月6日の事件を定期的に取り上げている。中間選挙はこのシナリオを変え、世界中でアメリカの外交官の仕事を容易にする可能性が高い。投票率、当選者の多様性、中絶権に関する連邦最高裁の判決に対する反発、そして特にトランプ派の候補者が世論調査で劣勢だったことは、ワシントンの責任者が共和党と民主党のどちらを好むかにかかわらず、アメリカの友人にとって心強いものになる。

第二に、連邦下院での共和党の勝利の規模は、防衛と貿易に関してバイデン政権を後押しするために関連委員会に力を与えるにはちょうど良いと考えられるが、アメリカの関与(engagement)と長期戦略(long-term strategy)を弱めることを求める破壊者たちを更に増やすほど圧倒的なものではないだろう。もしケヴィン・マッカーシー連邦下院議員が連邦下院議長に選出されれば、ウクライナへの支援を削減しようとしたり、NATOに対するアメリカの関与(commitment)に疑問を呈したりする議員たちは、予想以上に少なくなるであろう。連邦上院を民主党が握れば、「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again)」派の国家安全保障分野での行き過ぎた行動を更に封じることができるだろう。連邦議会での戦略的競争に対する超党派の強い支持は、アメリカ研究センターなどの調査によるアメリカ国民の感情を反映しており、それが中間選挙の結果によって裏付けられた。

このことは、バイデンが率いるホワイトハウスが共和党の支配する連邦下院との取引を行うことができるとか、アメリカの同盟諸国がアメリカ政治の極端な部分を心配するのをやめるとか、極端な部分がなくなるとか、そういうことではない。しかし、過去3回の国政選挙(2018年、2020年、2022年)を貫くパターンがあるとすれば、選挙地図には反トランプの強い壁があり、連邦議会は、選挙の度に、最重要な外交政策問題について、分裂よりも統一された形になっているのだ。

※マイケル・J・グリーン:シドニー大学アメリカ研究センター所長、戦略国際問題研究所上級研究員、東京のアジア太平洋研究所名誉研究員。ジョージ・W・ブッシュ(息子)政権の国家安全保障会議のアジア担当幹部スタッフを務めた。ツイッターアカウント:@DrMichaelJGreen

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共和党の中間選挙勝利がアメリカの中国戦略を活性化させる(A Republican Midterm Win Will Boost U.S. China Strategy

-バイデン政権の中国政策の下でアメリカ国民を団結させるためには、ホワイトハウスと連邦議会の分裂が本当に必要なのかもしれない。

マイケル・J・グリーン筆

2022年10月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/31/us-midterm-elections-republicans-china-biden-trade-geopolitics-strategy/

来週の米中間選挙を前にして、両極化(polarization)が進んでいることは、バイデン政権にとって決して良い兆候ではない。世論調査の通り、共和党が米連邦下院の過半数を握れば、バイデン政権に対する党派的な攻撃の奔流が繰り広げられるだろう。2021年1月6日の事件を調査する委員会は解散し、ジョー・バイデン米大統領の息子、ハンター・バイデンは調査され、バイデンは弾劾手続きに直面する可能性がある。また、フォックスニューズの司会者タッカー・カールソンと彼のクレムリンへの崇拝に従う共和党の一部グループは、ウクライナへの資金提供を阻止すると脅迫するだろう。連邦議会による監視の目が厳しくなるのは歓迎すべきことだが、例えば、アフガニスタン撤退の失敗を検証するなど、ホワイトハウスにとっては苦痛であり、アメリカの指導力を懸念する同盟諸国にとっては不安なことだろう。

しかし、中国との競争に関する限り、バイデン政権の戦略でアメリカ国民を団結させるためには、政府の分裂が本当に必要なことかもしれない。なぜなら、共和党は民主党政権に対して、中国との競争において重要な2つの柱である防衛(defense)と貿易(trade)の公約を実現するよう求める傾向があるからである。同時に、米連邦議会と一般的なアメリカ国民は、中国という課題に立ち向かうという点では、他のどんなことよりも一致しているという事実が、潜在的な分裂を和らげることになるだろう。

歴史的な先例を考えてみよう。1994年の中間選挙に向け、ビル・クリントン政権は医療保険制度改革などの野心的な国内政策に政治的資源の大半を費やしていた。国防費は長期にわたって減少傾向にあり、外交政策は日本との保護主義をめぐる戦いや中国に対する最恵国待遇(most-favored nation status)をめぐる内輪もめに陥っていた。共和党が連邦下院を支配し、当時のクリントン大統領の国内政策が実質的に阻止された後、クリントンは国家安全保障にその努力と政治的資源を集中させた。日本との争いは急停止し、1996年には当時の橋本龍太郎首相が、北朝鮮や台湾など地域の有事に対処するために日米同盟を初めて強化・拡大する共同宣言を出し、わずか数年前まで酷い状態で漂流していた同盟を拡大させた。また、共和党が支配する連邦下院は国防費の削減を撤回し、アメリカ軍予算を着実に増加軌道に乗せた。2010年、バラク・オバマ大統領(当時)の最初の中間選挙で共和党が民主党から連邦下院と連邦上院を奪い、超党派連合が誕生し、オバマ政権が2011年に環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific PartnershipTPP)の枠組み合意文書に署名したときと同じことが起こった。この12カ国の貿易・投資協定は、2017年にドナルド・トランプ政権が協定から離脱しなければ、アジアにおける戦略的バランスを変化させることになっただろう。

懐疑論者たちは、「国防と貿易に前向きな共和党はもはや存在しない、つまり2016年にドナルド・トランプが大統領に当選した時に破壊された」と主張するだろう。確かに、共和党の支持層は貿易協定に懐疑的で、党内の「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again)」派からは危険な国内問題優先主義的な主張(isolationist voices)が出ている。しかし、中国との競争について、連邦議会ではかつてないほど超党派的な意見が交わされているのも事実だ。実際、中国との競争については最近のワシントンでは数少ないコンセンサスのある分野である。今年8月にCHIPS法(CHIPS and Science Act)を連邦議会で可決成立させたのは超党派の議員たちであり、その内容は、アメリカの半導体産業を活性化し、同盟諸国からの投資をアメリカに呼び込み、半導体開発をめぐる競争で中国に対する自由世界の優位性を維持するために、バイデン政権に500億ドル規模の予算を提供するというものだ。人工知能のような新興技術を支配するために。その法案の最初の作成者は、保守派でインディアナ州選出の共和党議員であるトッド・ヤング連邦上院議員であり、ニューヨーク州選出のリベラルなチャック・シューマー連邦上院議員が共同提案者となった。中国の脅威は、実に奇妙な仲間の、呉越同舟の枠組みを生み出している。

連邦下院司法委員会の委員長になると予想されるフリーダム議連所属のポピュリスト、共和党のジム・ジョーダン連邦下院議員は、弾劾審問やFBI・司法省への攻撃で見出しを独占するだろうが、国防、外交、貿易を管轄する委員会は、レーガン時代の国際主義者の指揮下に置かれることになるであろう。連邦下院軍事委員会の委員長に、共和党のマイク・ロジャース連邦下院議員が就任すれば、原子力潜水艦の建造や最先端技術の軍事力利用での協力に関する豪英米協定(通称AUKUS)のような同盟諸国との取り組みを遅らせている官僚的障害(bureaucratic obstacles)を取り除くよう米国防総省に働きかけることが予想される。委員会の共和党議員たちは1兆ドルを超える国防予算について話しており、周辺部の国内問題優先主義者(アイソレーショニスト)の声がどうであれ、インド太平洋のための軍事力の強化を図る可能性が高い。連邦下院貿易委員会の共和党筆頭委員であるエイドリアン・スミス連邦下院議員は、農産物輸出州であるネブラスカ州の出身であり、貿易に関する惰性的な習慣を克服し、アジアで新しい取引を行い、市場を開放するよう、バイデン政権に働きかけることは間違いないだろう。連邦下院外交委員会の共和党筆頭委員であるマイケル・マッコール連邦下院議員は、米国司法省の元テロ対策タスクフォースリーダー、連邦下院国土安全保障委員会委員長という確かな国家安全保障上の信条を持つ人物である。中国の強圧に対抗するため、より強固な同盟関係の構築を明確に打ち出している。

アメリカ国民は、同盟関係の強化、技術競争の加速、より野心的な通商政策も支持している。私が所長を務めるシドニー大学アメリカ研究センター(USSC)の依頼で実施した新しい調査の結果は、シカゴ世界問題評議会、戦略国際問題研究所、ピュー研究所など他の機関による調査結果を補強するもので、アメリカ国民が日本、オーストラリア、韓国との同盟関係を強く支持していることが明らかになった。2年前に行われたUSSCの世論調査と比較すると、これらの同盟がアメリカをより安全にしていると考えるアメリカ国民の割合は14ポイントも上昇している。ロシアのウクライナ侵攻や核の脅威、中国の台湾海峡での妨害行為などを受けて、アメリカ国民は同盟が単なる国際的な善意やワシントンの足かせではない、アメリカ自身の安全保障のためのものだと認識したということだろう。中国との完全な経済的分断(デカップリング)を支持するアメリカ人は20%に過ぎないが、アメリカ、日本、オーストラリアでは、自国が経済的に中国に依存しすぎていると考え、中国製でないスマートフォンにかなり高い金額を支払っても良いと考えており、中国と競争するために民主的同盟諸国の技術革新を支持する人が過半数を占めている。

貿易に関しても、共和党が支配する連邦議会は、予想以上に政権を後押しする可能性がある。バイデンを支持する有権者の過半数は、アメリカはTPPのような貿易協定に参加すべきだと答え、トランプを支持する有権者の大多数は参加すべきでないと答えているが、アメリカ国民全体の3分の2は、「アジアとの貿易と投資を拡大することが重要だ」という意見に同意している。数カ月後にスミス議員が連邦下院貿易小委員会の委員長を務めることになれば、より野心的な貿易政策を求める彼の主張がアメリカ国民に支持されていることに気づくだろう。スミス議員はおそらく、消極的な米国通商代表部に対して、「貿易協定」や「TPP」と呼ばれない限り、「インド太平洋経済枠組み」(単なる対話に過ぎない空想上の名称)を実質的なルール設定のための協定にするように働きかけるだろう。

このことは、アメリカ政治におけるポピュリズム(populism)、分極化(polarization)、ポスト真実の言説(post-truth discourse)の台頭が戦略的帰結をもたらさないことを論じるものではない。ヨルダンによるアメリカ政府機関への焼き討ち攻撃は、国防、外交、貿易に関する立法を行う委員会の平凡で手間のかかる仕事よりも、世界中で確実に注目を集めるだろう。海外の人々は、今回の中間選挙について懸念を持って見ている。USSCの調査によると、日本国民とオーストラリア国民の4分の3が、米中間選挙を自国にとって重要だと考えており、オーストラリア国民の半数はアメリカの民主政治体制の現状を憂慮しているという。しかし、もしバイデンが予想通り連邦下院を、そしておそらく連邦上院も失うことになれば、バイデン政権はインド太平洋における中国との競争について、連邦議会が新たな機運を高めていることに驚くかもしれない。どちらかといえば、最近の連邦下院共和党指導部の公約から判断すると、バイデン政権は連邦議会が中国を追いかけようとする熱意を抑えなければならないかもしれない。バイデンは、このような機会を捉え、中国とインド太平洋の戦略の欠けている部分(ミッシングピース)を埋めるべきである。

※マイケル・J・グリーン:シドニー大学アメリカ研究センター所長、戦略国際問題研究所上級研究員、東京のアジア太平洋研究所名誉研究員。ジョージ・W・ブッシュ(息子)政権の国家安全保障会議のアジア担当幹部スタッフを務めた。ツイッターアカウント:@DrMichaelJGreen

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 私が著書『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』を出してから1年が経過した。この本の1章で私は、バイデン政権の外交・安全保障関係の高官たちの分析を行った。特に重要な人物だと考えたのは、コンサルタント会社「ウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社」の創設者であるミッシェル・フロノイ元国防次官だ。ウエストエグゼク社には、現在のジョー・バイデン政権の高官たちが多数在籍していた。アントニー・ブリンケン国務長官は共同創設者である。その他には、ロバート・O・ワーク国防副長官、アヴリル・ヘインズ国家情報長官、ホワイトハウス報道官ジェン・サキ、イーライ・ライトナー国防長官特別補佐官が在籍していた。
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 このウエストエグゼク社を広報会社テネオ社が買収するという話が出ており、合意間近だということだ。テネオ社は創業者が不祥事で辞任して先行き不透明と言いながら、利益は出ており、事業拡大のための買収ということだそうだ。ウエストエグゼク社に在籍していた人物たちがバイデン政権の高官になっているということも買収にとっては大きなポイントになっているということも考えられる。

 今年の3月にジョー・バイデン大統領が台湾に送った代表団の中に、ミッシェル・フロノイが入っていた。下の記事にある写真では右から2番目に写っている。フロノイの隣、右端に写っているのは、ジョージタウン大学教授マイケル・グリーンである。

 この2つの話から、ミッシェル・フロノイがバイデン政権においても重要な役割を果たしていること、更に言えば中間選挙後のバイデン政権1期目後半にはフロノイが政権入りするのではないか、具体的には国防次官もしくは国家安全保障会議に重要メンバーとして入るのではないかと考えている。

 フロノイと共にグリーンが台湾への代表団に入っていたのは気になるところだ。ホワイトハウスの国家安全保障会議でアジア担当上級部長を務めた経歴からの代表団入りだと考えられる。ウクライナ戦争勃発後に、グリーンは「台湾はウクライナだ」という主張を展開していた。フロノイとグリーンが台湾を訪問したということは、台湾への武器売り込みや対中強硬姿勢の確認ということもあったと考えられる。こうした人物たちの暗躍によって、アジア地域における安全環境が乱されるのはどの国にとっても利益とはならない。

 しかしながら、現状のアメリカではアジア地域で戦争が起きてもきちんとした対応はできない。2つの戦争を支えるだけの力はない。そう考えると、本気でぶつかるということではなく、武器を売り込んでアメリカの軍需産業の利益を少しでも上げようということになるのだろう。

 中間選挙後にバイデン政権がどのような動きをするかということを注視する必要がある。

(貼り付けはじめ)

アドヴァイザリー企業テネオ社がウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社買収間近となっている(Advisory Firm Teneo Near Deal to Buy WestExec Advisors

-合意によってテネオ社は地政学的、政策的コンサルタント業務へ専門分野を拡大することになるだろう。

カラ・ロンバルド筆

2022年6月7日

『ウォールストリート・ジャーナル』紙

https://www.wsj.com/articles/advisory-firm-teneo-near-deal-to-buy-westexec-advisors-11654644028

テネオ・ホールディングス・LLCTeneo Holdings LLC)は地政学および政策分野でのコンサルティングの焦点を拡大するアドヴァイザー企業の買収合意間近となっている。有名な広報企業テネオ社がこうした分野に拡大することになる。

テネオ社は、ワシントンD.C.に本社を置くウエストエグゼク・アドヴァイザーズ社(WestExec Advisors)の株式の過半数を購入する契約を、早ければ水曜日に締結する可能性がある。この問題に詳しい関係者はこのように述べている。

およそ1年前、テネオ社の創業者であるデクラン・ケリーが、チャリティーイヴェントでの泥酔による不品行が報じられ、最終的に辞任したことで、テネオ社の将来は不安定な状態に陥っていた。

テネオ社は2021年に5億ドル近い売上を計上し、今年も約10%の成長を見込んでいると同社の関係者たちは述べている。従業員数は約600人増の約1500人で、増加分の約半分はイギリス・デロイト社リストラクチャリング事業を買収したことによるものだ。

ウエストエグゼク社はオバマ政権高官だったミッシェル・フロノイ(Michèle Flournoy)、セルジオ・アグリア(Sergio Aguirre)、ナイティン・チャッダ(Nitin Chadda)によって創設された。ウエストエグゼク社には約40名のスタッフがおり、貿易などの政策や地政学的な諸問題について、顧客の企業が理解し、ビジネス上の意思決定に役立てることを専門としている。特に、安全保障・防衛産業を専門としている。

テネオ社は2021年にウエストエグゼク社に対してマイノリティ投資(過半数の株式を所有しない投資)を行った。ウエストエグゼク社の社名は「ウエスト・エグゼクティヴ・アヴェニュー」から来ている。同社のウェブサイトによると、この通りは、ホワイトハウスの大統領執務室(ウエストウィング)に向かうための一般には閉鎖されている通りである。

テネオ社とウエストエグゼク社のような企業は、アメリカや世界の各企業に対して、舞台裏で影響力を発揮し、取締役会や経営幹部に対して事業戦略やコミュニケーションに関する指導を行っている。中国との緊張の高まりやロシアによるウクライナ戦争など、世界規模で予測すべき、そして対応すべき不安定な政治情勢が絶えない状況下で、こうした企業のサーヴィスに対する需要は高まっている。

広報会社サード・ヴァービネン社は最近、ライヴァルのフィンスブリー・グローヴァー・はーリング社と合併し、FGSグローバル社という大企業になった。

テネオ社は2011年にケリーがクリントン大統領時代のホワイトハウスに勤務したダグ・バンド、元コンサルティング会社のポール・ケアリー(現在は最高経営責任者)と共同で設立し、PR業界に参入した。テネオは、ゼネラル・エレクトリック社やコカ・コーラ社などの顧客企業に助言を行い、リスク・アドバイザリーからエグゼクティヴ・サーチに至るまで、あらゆる分野に焦点を当てた様々な部門を持つまでに成長した。

テネオ社の急成長は、同社にとって長年の「顔」であり続け、最大の利益を生み出す存在であったケリーが、2021年5月に慈善団体「グローバル・シティズン」が主催した有名人が参加したイヴェントで不適切な行動をとり、辞職したことによって脅かされることになった。ケリーは持ち株を売却してテネオ社とは無関係になり、その後、アメリカン・フットボールのスター選手トム・ブレイディをパートナーに迎えた新会社「コンセロ・LLC社」を創設した。

プライヴェート・イクィティ企業であるCVCキャピタル・パートナーズ社は2019年からテネオ社の最大株主となっている。

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●「バイデン米大統領が派遣する代表団、台湾に到着」

発信日: 2022/03/02

『タイワン・トルディ』紙

https://jp.taiwantoday.tw/news.php?unit=148,149,150,151,152&post=215628

アメリカのバイデン大統領の指示を受けた代表団が1日、専用機で台湾に到着した。マイケル・マレン元統合参謀本部議長(右から3人目)が率いる代表団で、メンバーはほかに、ミシェル・フロノイ元国防次官(右から2人目)、メーガン・オサリバン元大統領副補佐官(中央)、国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を務めたマイケル・グリーン氏(右)とエバン・メデイロス氏(左から4人目)。空港では外交部の呉釗燮部長(右から4人目)が一行を出迎えた。(外交部)

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アメリカのバイデン大統領が派遣する代表団が1日、専用機で台湾に到着した。マイケル・マレン元統合参謀本部議長が率いる代表団で、メンバーはほかに、ミシェル・フロノイ元国防次官、メーガン・オサリバン元大統領副補佐官(国家安全保障担当)、それに国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を務めたマイケル・グリーン氏とエバン・メデイロス氏。

外交部の呉釗燮部長(=外相)は1日午後、中華民国政府を代表し、松山空港(台湾北部・台北市)で一行を出迎えた。訪問団一行は2日まで台湾に滞在し、蔡英文総統、頼清徳副総統、行政院の蘇貞昌院長(=首相)、国防部の邱国正部長(=国防相)などと会見する。また、外交部の呉釗燮部長が昼に、蔡英文総統が夜に設宴して一行をもてなす。双方は、台米関係に係る重要な議題について意見を交換するとしている。

マレン氏は2007年から2011年にかけて米統合参謀本部議長を務めるなど、豊富な軍事経験を持つ。フロノイ氏は2014年と2015年の2回にわたり、新アメリカ安全保障センター(CNAS)の「NextGenプログラム(Next Generation National Security Leaders Program)」の訪問団を率いて台湾を訪れたことがある。オサリバン氏は現在、ハーバード大学で教鞭をとっているが、2004年から2007年まで、ブッシュ政権の国家安全保障会議(NSC)でイラク及びアフガン問題を担当した。グリーン氏とメデイロス氏はそれぞれ、ブッシュ政権とオバマ政権下で、国家安全保障会議(NSC)上級アジア部長を務め、台湾問題を担当した。いずれも何度か台湾を訪問したことがある。バイデン政権が台湾に派遣したこの訪問団は、民主党及び共和党に属する政府元高官から構成されており、米国が与野党を問わず台湾問題に関して高いコンセンサスを持っていることと、台湾への揺るぎない支持を見て取ることができる。

バイデン政権が代表団を台湾に派遣するのは、昨年4月のクリス・ドッド元上院議員以来、2回目のこと。外交部は1日に発表したニュースリリースで、「ウクライナ情勢が緊迫する中、バイデン政権が再び重量級の代表団を台湾に派遣したことは、米国の台湾に対する一貫した支持と重視と、米国の台湾に対する約束が『盤石(rock-solid)』であることを改めて示すものだ。マレン氏の訪台を通して、米国政府と緊密な協力を維持する方法を模索し、台米の緊密なパートナーシップを一層強化したい」と述べている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 今回は、ウクライナ危機を受け、アメリカのジャパン・ハンドラーズ(日本操り班)がどのように考えるかを示す論稿をご紹介する。日本の国力低下とともに、日本の利用価値が下がり、ジャパン・ハンドラーズの地位も下がっている。現役で頑張っているのは(笑)、マイケル・グリーンくらいのものだ。今回はそのマイケル・グリーンの論稿をご紹介したい。

 論稿の主張をまとめて言えば、「太平洋インド地域の方がヨーロッパよりも重要だ。だからと言って、今回のウクライナ情勢でアメリカがロシアに譲歩すれば、インド太平洋地域でもうまくいかなくなる。一時的にインド太平洋地域からアメリカ軍やアメリカの資源をヨーロッパに振り向けてもロシアを抑止せよ、そうしなければインド太平洋でも同じことが起きる」ということだ。

 グリーンは中露枢軸(Sino-Russia axis)という言葉を使っている。彼が意識してこの言葉を使っているのかどうか分からないが、これは大変危険な言葉だ。第二次世界大戦直前、日独伊三国軍事同盟に使われた言葉であるし、ジョージ・W・ブッシュがイラン、北朝鮮、イラクを指して使った言葉だ。これらの国々とは共存できず、打倒しなければならないという意味が含まれる。激しい言葉遣いで、危機を煽り立てることで、自分たちの重要性を高めよう、自分たちの影響力を何とか取り戻そうという姑息なやり方だ。あんまりヨーロッパにばかりが注目されてしまうと、自分たちに回ってくるべき予算が回ってこないということもあるのだろう。

 そのためにはアメリカの国防費を増額せよということになる。しかし、どれだけ増やしても、ヨーロッパとインド太平洋地域(アジア)で同時に二正面作戦を展開する力はアメリカにはない。そのため、軍事面でもヨーロッパの同盟諸国とアジア地域の同盟諸国を動員するということになる。アメリカの落日は世界に印象付けられている。超大国の失敗はその実像以上に大きく印象付けられてしまう。

 アメリカが実際に中露と直接激突するとは考えられない。それではもう冷戦などとは言っていられない。それはもう世界大戦ということになってしまう。そこまでのエスカレートを米中露は望んでいない(それぞれの国内には世界大戦を望む勢力がいるだろうが)。雌雄を決するんだ、という決戦主義ではなく、交渉を継続しながら、ずるずると現状を維持しながら、少しずつ状況を改善していくというのが大人の態度だ。勇ましい言葉に踊らされて、気づいたら自分だけ突出していて、最後は孤独に立ち枯れということになってはいけない。

(貼り付けはじめ)

「アジア・ファースト」戦略があるにしても、ウクライナでのロシアを抑止する必要がある(Even an ‘Asia First’ Strategy Needs to Deter Russia in Ukraine

-アメリカのロシアに対する反撃なくしてインド太平洋戦略はありえない。

マイケル・J・グリーン、ガブリエル・.シャインマン筆

2022年2月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/02/17/putin-russia-ukraine-china-indo-pacific-strategy/

ウォルター・ラッセル・ミードが最近『ウォールストリート・ジャーナル』紙上で指摘したように、新しい「アジア・ファースト」運動というものが存在する。この考えは、ウクライナ危機へのアメリカの関与に反対するもので、「世界中に手を伸ばし過ぎた(overstretched)、衰退しつつあるアメリカは慎重に戦うべきであり、地政学的にはロシア、ウクライナ、ヨーロッパの将来よりも中国、台湾、インド太平洋の方が重要である」という考え方だ。その通りである。中国、台湾、インド太平洋の将来は、地政学的により重要である。しかし、ヨーロッパにおけるロシアの侵略に直面して、アメリカが後退することは、インド太平洋における、アメリカの中国との戦略的競争を強化するのではなく、弱体化させることになる。

日本の林芳正外相は、ロシアのプーティン大統領に毅然とした態度で臨み、ウクライナに対する日本の断固とした支援を約束し、アジア・ファーストの主張に大きな風穴をあけた。林外相は、中国がウクライナ情勢を注視していること、ヨーロッパの決意の欠如は北京の強圧と好戦性を助長するだけであると正しく指摘した。台湾の蔡英文総統は「ウクライナの状況に共感する」と述べ、ロシアが引き起こした今回の危機を調査するタスクフォースの設置を命じた。北京も今秋の中国共産党第20回全国代表大会(National Congress of the Chinese Communist Party)で中国自身の台湾戦略を修正することを視野に入れ、プーティンが行う次の動きを注意深く観察することになる。アメリカの成否は、敵味方の別なく慎重に測定される。私たちが警告したように、アメリカがアフガニスタンから突然撤退したことで、プーティンが冒険主義(adventurism)を後押しされなかったとは考えにくい。

しかし、今回、ウクライナ危機とインド太平洋における中国との戦略的競争との関連は、時に不定形な威信や信頼性の問題を超えている。それはより根本的な戦略の問題である。

アメリカの対中戦略とは、アメリカの同盟やパートナーシップを無縁の別々の地域に切り分けるのではなく、相互に補強し合うネットワークに結びつける世界戦略でなければならない。世界の各地域を切り分けて戦略を立てることは、もう分かっているはずだが、まさに北京が実現しようとしていることなのだ。中国は10年以上にわたって、ヨーロッパを内部分裂させ、ヨーロッパをアメリカから切り離そうと努力してきた。中国は、「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative)の資金を使い、ヨーロッパ連合(EU)の弱小諸国に対して、ブリュッセルへの恨みを利用した、「17+1」支援プログラムを実施し、これが功を奏した。ハンガリーなどの国々は、2016年の南シナ海での中国の圧力や2021年の香港の弾圧に対するEUの協調的対応を阻止することで、中国の言いなりになった。

今、プーティンの抑止に成功すれば、後々、インド太平洋からより大きな資源をシフトする必要性を減らすことができるのだ。

しかし、この1年、ヨーロッパの地政学的動向は、アメリカとアジアの同盟諸国にとってより有利なものとなってきている。イギリスはアメリカと共同して、AUKUS協定を通じてオーストラリアの原子力潜水艦建造を支援するようになった。フランスはこの協定によってケチをつけられたことに腹を立てていたが、中国が南太平洋のフランス領の島々や非常に広い排他的経済水域を侵食しているため、今後も味方であり続けるだろう。NATOは今日、協議を通じて中国に対してより前向きな姿勢を見せているが、太平洋に面したカナダは対中対応の努力のための強力なパートナーである。アメリカに対して反抗的なドイツでさえ、アナレナ・バーボック新外相の率いる外務省は、中国との「システム上の競争(systemic competition)」を中国政策の前提にしている。

北京が主導する、「17+1」グループのメンバー諸国も、リトアニア政府が「台北」ではなく「台湾」という名称の台湾代表事務所を開設した後、リトアニアに対する中国の猛烈な経済封鎖に警戒を強めている。リトアニアは「17+1」を脱退した。メンバー諸国は、EUが世界貿易機関(WTO)に中国を正式に提訴するのを阻止することができなかった。EU加盟国は、中国に関連する問題で、北京が加盟国を利用しようとする将来の試みを阻止するために、いわゆる有志連合(coalition of the willing)についても議論している。これらは重要な地政学的傾向であり、もしアメリカが、ここ30年間で最も大きなヨーロッパの危機の瞬間にNATOを放棄したら、その影響は計り知れない。

アジア・ファーストの主張の策定者たちは、主に有限な軍事資源について、ウクライナが与える影響について考えている。一時的にせよ、ヨーロッパにアメリカが地上軍や戦略的資産を増派すれば、インド太平洋で必要とされる同様の資源へのアクセスが減少することは間違いない。しかし、軍事的資源の活用を地理的にだけでなく、時間的にも考えることが重要だ。今、ロシアの抑止に成功し、プーティンにコストを負わせることで、後にインド太平洋からより重要な資源をシフトする必要性を減らすことができる。一方、プーティンがウクライナとベラルーシの併合に成功すれば、現在のロシアとNATOの接する境界線(コンタクトライン、contact line)の長さが4倍になるだけでなく、冷戦時代のNATOとワルシャワ条約機構の境界線よりも長いものとなってしまう。この新しい境界線を適切に防衛することは、その出現を阻止するよりもはるかにコストがかかり、はるかに大きな資源を必要とすることになる。

ウクライナ危機に対して自制を主張する人々は、中国との戦略的競争は全方位的な営為であることも忘れてはいけない。中国が台湾攻撃に伴うリスクとリターンを計算する場合、軍事的な戦闘順序と地政学的な影響の両方を考慮する必要がある。もし中国の習近平国家主席が、アメリカのヨーロッパの同盟諸国が台湾への攻撃に対して経済的・地政学的な罰を与えないと考えるなら、抑止力(deterrence)と説得力(dissuasion)は弱まる。ロシアの侵略に直面してウクライナを放棄すれば、北京が行っている大きなゲームにおいて、ワシントンの手札の数が減少することになる。それだけに、日本やオーストラリアなどの同盟諸国の外交的支援を得てプーティンに対抗することに成功することは、北京にとって、NATOやヨーロッパのパートナーが台湾の十番になったらどうするかという重要な前兆になる。

プーティンと習近平が独自の世界的な連携を強化しつつあることを、リアリズムによってワシントンとパートナー諸国に認識させることになる。中露両首脳は北京冬季オリンピックの開幕前に丸1日かけて、アメリカに対抗するための戦略を調整した。中国はヨーロッパにおけるロシアの要求を正式に支持した。中国とロシアによる、外国に対する干渉活動(foreign interference campaigns)を含む軍事演習や情報活動は、ますます足並みが揃い、慎重に調整されている。西太平洋のアメリカ軍と日本の自衛隊は、空と海における中国とロシアの同時かつ協調的な軍事面での調査活動に対応している。ロシアもまた太平洋地域における大国(Pacific power)である。ロシア太平洋艦隊は300年近くの歴史を有しており、この事実は特に見過ごされることが多い。

バイデン政権が最近発表したインド太平洋戦略では、「ロシア」という言葉がほとんど入っていない。北京とモスクワは、インド太平洋におけるワシントンの複数の同盟関係の効果を削ごうとしている。アメリカは世界中の同盟諸国と協力して、中露の権威主義的枢軸構築を出し抜くべきだ。ロシアが負うべきコストを押し上げることは、中国のコストも押し上げることになる。中露枢軸(Sino-Russian axis)の緊密化は、AUKUSで既に達成されたものを超えて、アメリカとインドとの戦略をさらに調整する潜在的な機会を開くものである。また、米国とNATOの同盟諸国は、東部・西部アフリカに軍事基地を建設しようとする中国への対応について、さらに調整すべき課題を抱えている。ロシアをヨーロッパの孤立した大国として、中国をアジアの孤立した大国として、それぞれを別々に取り扱うことは、非歴史的で、近視眼的で、非現実的で、戦略的とは言えない。

同時に、ヨーロッパとインド太平洋の安全保障上の要求が競合する間の真のトレードオフは、ワシントンにとって警鐘を鳴らすべきものである。国防総省の指導者たちは、官僚的な泥沼を打破することができず、米国アフリカ軍、中央軍、南方軍からインド太平洋に資源をシフトすることができないでいる。国防長官と統合参謀本部議長は、アジアとヨーロッパのトレードオフがより深刻にならないよう、頭を働かせて資源のシフトを選択する必要がある。バイデン政権はまた、2つの重大な軍事的課題に対処するために必要な国防予算を連邦議会に要求しなければならない。国防費の対GDP比は2022年にようやく3%になると予測されており、危険が大きく増大している今、第二次世界大戦後の最低水準である。もしバイデン政権が連邦議会を動かす気がないのなら、新しい連邦議会がバイデン政権を動かすべきだ。最後に、アメリカは中国と全面的な競争関係にあるため、バイデン政権は国際的な経済戦略の欠如を放置してはならない。ホワイトハウスは新しいインド太平洋戦略の中で、この地域の新しい経済的枠組みについて指導力を発揮することを約束している。しかし、その枠組みとは何だろうか。もっと重要なことは、それはどこにあるのか、ということである。経済的安全保障(economic statecraft)と戦略的な影響力は常に密接に関連している。しかし、ある政府高官が私たちに嘆いたように、アメリカの外交政策は今や片手を縛られた状態で運営されているのだ。

これらは政権が解決しなければならない手段に関する問題である。しかし、第二次世界大戦後のアメリカの戦略の目的を劇的に転換させる言い訳にはならないはずだ。安定し、緊密に連携するヨーロッパ諸国は、インド太平洋地域と比較して、かつてほどの重要性を持っていないかもしれない。それでも地球の裏側でアメリカが成功を収めるためには絶対に不可欠な存在であることに変わりはない。

アジア・ファーストの元祖は、ダグラス・マッカーサー元帥かもしれない。1951年にハーバート・ブロックが描いた有名な漫画の中で、マッカーサーは、朝鮮戦争のためにNATOよりもアジアを優先するようジョージ・マーシャル国防長官に働きかけているところを描かれている。マッカーサーの前には、太平洋を頂点とし、ヨーロッパが縁の下に隠れた立方体の地球儀が置かれている。マーシャルは、「我々はもっと丸みを帯びたものを使っていた(we’ve been using more of a roundish one)」と言う。マーシャルの返事は、当時も今も変わらない正論だ。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 

 今月末に橋下徹氏がアメリカの首都ワシントンDCを訪問する予定だということが明らかになりました。トランプ政権の首席ストラティジストであるスティーヴ・バノンやその他の政権幹部との会談ができるように調整中であるということです。また、ワシントンにあるシンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)とヘリテージ財団で講演を行う予定になっています。トランプ政権幹部との面会は調整中でしょうが、CSISとヘリテージ財団での公演は既に決まっているでしょう。これに関連した記事をいかに貼り付けます。

 

(貼り付けはじめ)

 

橋下前大阪市長、今月26日訪米 トランプ政権と会談模索

 

東京新聞 201734 0200

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017030301002199.html

 

 日本維新の会の法律政策顧問を務める橋下徹前大阪市長は3月26日から29日の日程で米首都ワシントンを訪問する方針を固めた。日米関係などをテーマにシンクタンクで講演するほか、トランプ政権幹部との会談も模索している。維新関係者が3日明らかにした。維新メンバーとして外交の表舞台に立つことで政界復帰論が膨らむ可能性もある。

 

 馬場伸幸幹事長と、下地幹郎国会議員団政調会長も同行する。橋下氏はトランプ大統領について、自身のツイッターで「真の政治家」「目的達成のためには犠牲も批判も恐れない」と評価している。

 

(共同)

 

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Ex-Osaka Mayor Hashimoto aims to meet Trump aides — including Bannon — during U.S. visit

 

KYODO

The Japan Times  MAR 4, 2017

http://www.japantimes.co.jp/news/2017/03/04/national/politics-diplomacy/ex-osaka-mayor-hashimoto-aims-meet-trump-aides-u-s-visit/#.WLo3f2-LTIU

 

OSAKA – Former Osaka Mayor Toru Hashimoto will visit Washington this month and is trying to set up a meeting with senior aides to President Donald Trump, sources close to him said Friday.

 

Hashimoto, a high-profile politician whose candid remarks have often stirred criticism at home and abroad, is seeking to arrange a meeting with White House chief strategist Steve Bannon and other senior staffers through the Foreign Ministry, the sources said.

 

He also plans to deliver speeches at think tanks, the Center for Strategic and International Studies and the conservative Heritage Foundation during his March 26-29 visit, which is apparently aimed at boosting his flagging profile.

 

After ending a four-year stint as mayor in 2015, Hashimoto took up a position as an advisor to the opposition party Nippon Ishin no Kai. Before becoming mayor he spent almost four years as Osaka governor.

 

He will be accompanied by senior party lawmakers on the U.S. trip, which could be seen as a forerunner to his return to the political arena.

 

Hashimoto is known for praising Trump, tweeting that he is a “true politician” and “does not fear sacrifice or being criticized to achieve his goals.”

 

Hashimoto had planned a visit to the United States in 2013 but had to cancel amid a backlash after saying it had been necessary for the Japanese military to use so-called comfort women — Koreans and other women forced into wartime brothels — “to maintain discipline” in the military.

 

He had also said that U.S. forces in Okinawa should use the adult entertainment industry to prevent sex offenses by servicemen.

 

(貼り付け終わり)

 

 この時期の橋下氏の訪米には、CSISの副所長にまで出世したマイケル・グリーンがかかわっているでしょう。以下の記事にあるように、マイケル・グリーンは橋下氏を非常に買っていました。しかし、2013年に橋下氏が戦時中の従軍慰安婦問題に絡んで、規律を保つためには必要だった、在日米軍の兵士たちの性犯罪を防ぐために風俗産業を利用すべきだと言った発言が反発を受けて、訪米が取り止めになったこともありました。しかし、今回、CSISとヘリテージ財団での公演がほぼ決まったということで、マイケル・グリーンは、橋下氏を評価しているということが分かります。

 

(貼り付けはじめ)

 

●「「橋下氏、キングメーカーになる」マイケル・グリーン氏-産経新聞 -米国家安保会議 元アジア上級部長」

 

産経新聞 2012年3月22日

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120322-00000524-san-pol

 

 【ワシントン=古森義久】いま日本の政治を揺さぶる大阪市長の橋下徹氏と同氏が率いる「大阪維新の会」について、米国政府の元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長、マイケル・グリーン氏が20日、「橋下氏は異色のリーダーシップ技量を備え、国政舞台では首相の任命を左右するキングメーカーとなりうる」などと論評した。

 

 現在は戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長やジョージタウン大学教授を務めるグリーン氏は、アジアの新リーダーについてのセミナーで、「橋下氏への人気は日本の政治での異色の重要現象で、同氏はポピュリスト(大衆に訴える政治家)として明確な技量を備えている」と述べた。

 

 グリーン氏は、日本では県や市などの地方自治体の長やそのグループが国政にすぐに進出することは構造的に容易ではないと指摘する一方、橋下氏がこの枠を破って国政の場で活躍する可能性もあるとの見解を示した。その場合、「首相あるいは首相の任命を左右できるキングメーカーになることも考えられる。小泉純一郎元首相のような国民の信託を得るリーダーになるかもしれない」という。

 

 日米関係への影響についてはグリーン氏は「橋下氏がたとえ首相になっても日米同盟支持、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)支持の立場を考えると、米国との安保関係も経済関係も円滑にいくだろう」と語った。ただし、橋下氏の反原発の姿勢には「日本の経済を考えれば、夢想しているに等しい」と批判した。

 

(貼り付け終わり)

 
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ヘリテージ財団は、トランプ政権になって重要度を増していますので、簡単に説明します。ヘリテージ財団は、1973年に創設され、1980年代初頭、レーガン政権初期の政策大綱づくりに参加し、1994年に共和党のニュート・ギングリッジ連邦下院議員が発表した「アメリカとの契約」の原案づくりにも携わりました。ヘリテージ財団の大きな主張は、小さな政府、自由市場、規制撤廃、不法移民対策強化、国防強化、対中強硬姿勢です。今回、トランプ政権が軍事費の増額を決めていましたが、これは、昨年のヘリテージ財団の「2012年のレヴェルまで軍事費を戻すべきだ」という主張が受け入れられたためです。

 

ヘリテージ財団には、保守的な大富豪、韓国や台湾が資金を提供しています。トランプのスポンサーで、スティーヴ・バノンを選対に送り込み、またホワイトハウスに送り込むことに成功したレベカ・マーサーのマーサー家や、教育長官となったベッツイ・デヴォスのデヴォス家が創業したアムウェイが大スポンサーです。これらの人々は共和党主流派とは距離を取っています。これらの人々を半周流派のネットワークに取り込んだのが、私が翻訳しました『アメリカの真の支配者 コーク一族』の主人公コーク兄弟です。

 

台湾からの資金が流れていますので、反中国的な提言を行いますし、日本関係でも反中的な主張をする人々との関係が深いようです。2016年8月には「トランプ政権」に参加したい人材募集ページをウェブサイト内に開設しました。このことから、トランプ政権に近いシンクタンクであることが分かります。

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2012年4月、当時の石原慎太郎が訪米し、「尖閣諸島は都が買い取る」という爆弾発表を行ったのがヘリテージ財団です。また、下の写真にもあるように、櫻井よし子も数回、このシンクタンクを訪問し、日本・韓国担当の研究員ブルース・クリングナーと話をしているようです。


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ブルース・クリングナーは、2012年11月に論文を発表しているが、この内容が現在の安倍内閣の施策とほぼ一致している、ということから、ジャパン・ハンドラーの新顔として注目されています。今回の橋下氏訪米でも何らかの役割を果たしたことでしょう。ヘリテージ財団はトランプ政権の「与党」的なシンクタンクですので、人脈を通じて働きかけをすることは可能です。

 

 CSISとヘリテージ財団と日本の接点が、「ジョージタウン大学日米リーダーシッププログラム(Georgetown University Leadership Program、GULP)」です。これは、日本の新聞記者や地方議員をジョージタウン大学に1週間ほど招いて、授業を受けたり、討論をしたり、著名人を招いての優勝会を開いたりするものです。講師にはマイケル・グリーンがいます。また、CSIS(元々ジョージタウン大学内で設立されたので関係は深い)とヘリテージ財団訪問も日程に組み込まれています。このプログラムのスポンサーがアムウェイで、アムウェイの本社があるミシガン州グランドラピッズ市を訪問し、滞在します。

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※アドレスはこちら↓

http://www.amway.co.jp/about-amway/citizenship/achievement?lng=ja

http://www.gulpjapan.com/

 

 話が大分それましたが、橋下氏の今回の訪米には、馬場伸幸幹事長と下地幹郎国会議員団政調会長が同行します。橋下氏は現在政治家ではなく、日本維新の会の法律政策顧問です。従って、このように党の重職、国会議員が一緒についていくのはこの訪米が大変重要なものであることを示しています。

 

 私が大好きな野球に例えるなら、2試合目に登板してきた安倍投手は順調に危なげない投球を続けてきましたが、女房役であるキャッチャーのパスボールや味方のエラーでランナーを塁に出してしまい、苦しい投球になりつつあります。肩で息をし始めた感じなので、監督と投手コーチが投手交代の時期を考えて始めています。ブルペン(投球練習場)には何人か投手が座っていて、「橋下、肩を作っておいて」ということで、投球練習を始めた、ということではないかと思います。橋下氏は国会議員ではありませんから、すぐに総理大臣になることはできませんが、上の記事でマイケル・グリーンが述べているように、近いうちにまずは「キングメーカー」としての役割を果たすことになるかもしれません。

 

(終わり)

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 古村治彦です。

 

 ドナルド・トランプ新政権発足まで1カ月を切りました。閣僚人事もほぼ決定しましたが、日本にとって関心のある駐日大使はまだ明らかになっていません。千葉ロッテマリーンズの監督時代にティームを日本一に導いたボビー・ヴァレンタイン氏の名前も出ていましたが、まだ正式には決まっていません。

 

 トランプ政権になってどうなるかということに関心が移っています。トランプは次期大統領(President-Elect)となっての数カ月で、様々な新機軸を打ち出そうとし、また現実政治にも影響を与えようとしています。世界を驚かせたのは、台湾重視の姿勢です。

 

 アメリカは米中国交正常化を行い、「一つの中国政策」を堅持しつつ、台湾に対しても、台湾関係法で関係を維持してきました。アメリカ国内では、チャイナ・ロビー派(この場合のチャイナは中華民国[台湾])と呼ばれる勢力も大きな力を持っています。しかし、公式には台湾は中国の一部であるという立場を取ってきました。

 

 トランプは「王様は裸だ」と言わんばかりに、台湾を重視する姿勢を見せました。これに対して、中国政府は不快感を表明しました。それは当然のことでしょう。

 

 トランプの対中姿勢には前例がありました。そのことをおなじみのマイケル・グリーン先生が教えてくれています。レーガン大統領の時に、国務省の高官人事が決まる前に、国家安全保障会議のメンバーが決まって、そのメンバーが主導して、レーガン大統領は台湾に肩入れする姿勢を取ったということです。また、レーガン大統領はカリフォルニア州知事時代に個人的に台湾指導部との人脈を築いていたということもあったそうです。

 

 1980年代初頭と現在では中国の置かれている立場は大きく異なります。中国はアメリカに次ぐ世界第二位の経済規模を誇り、経済成長率は鈍化しているとは言え、現在でも世界経済の成長エンジンとなっています。

 

トランプ政権の外交調整役になるであろうヘンリー・キッシンジャーの存在もありますから、中国と激しくぶつかるということはないでしょうが、トランプとしては、簡単に言うと、「アメリカからもっとものを買って欲しい、貿易不均衡を押さえて欲しい」ということで、中国に対して色々と注文や要求を出すことでしょう。

 

 今回は、台湾を使って、中国をけん制する、揺さぶるということをやったのではないかと思います。アメリカ、中国、台湾、中国、韓国、日本の中で、本気で米中がぶつかって得をする国はありません。強いて言えば北朝鮮でしょうが、それでも相当なダメージを受けるでしょう。

 

 トランプ政権になってどうなる、と言うことはみんなが関心を持っていることですが、決してそんな無茶をすることはないだろう、特に外交では、と思います。そして、より内政に力を入れていくだろうと思います。そのようなトランプ政権を利用もせずに、「やったやった、日本の防錆予算を増やす口実にできるわい」とくらいにしか思っていない日本の指導部は大局的には大きな間違いをするでしょう。

 

(貼り付けはじめ)

 

トランプの台湾への電話がどれほど悪いことなのか?(How Bad Was Trump’s Taiwan Phone Call?

 

マイケル・グリーン筆

2016年12月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2016/12/03/how-bad-was-trumps-taiwan-phone-call/

 

ドナルド・トランプ次期大統領は12月2日に、蔡英文台湾総統に電話をかけた。これに国際社会は驚かされた。1979年にアメリカは台湾との外交関係を転換した。アメリカはこの時に「一つの中国」政策の優越性を認めた。それ以降、アメリカ大統領から台湾総統に電話をかけたことはなかった。専門家たちは、中国政府はトランプの政権移行ティームに激しく対応することになるだろうと警告している。彼らは恐らく正しい。また、今回の出来事で、トランプ・オーガナイゼ―ションが台湾の桃園航空城都市開発計画に参加する希望を持っていることについて、利益相反(利益衝突)に関する疑問が出てくるということを指摘している人々もいる。

 

しかしながら、ここでは歴史的な観点が必要である。今回の外交儀礼と慣習の無視は初めてのことではない。1980年から1981年にかけて、当時のレーガン次期政権は、台湾との関係を正常化すると約束し、大統領就任に関連するいくつかの式典に台湾政府高官を招待した。中国政府は激怒した。政権初期のこのような議論を巻き起こした台湾に対しての働きかけは、レーガンのカリフォルニア州知事時代からの台湾政府指導部との深い繋がりが反映されていた。今回のトランプの電話と同じく、こうしたレーガン大統領の動きも当時のリチャード・アレン率いる国家安全保障会議(NSC)ティームが国務長官や国務省高官が決まる前に計画し、主導したものであった。

 

政権発足後の数カ月、アレンとNSCは、台湾政策を巡って、アル・ヘイグと国務省との間で争った。アレンは中国と対峙させるために戦闘機を台湾に売却することを主張した。一方、ヘイグはソ連と対峙させるために中国に戦闘機を売ることを主張した。政権が発足してから18カ月後には、アレンもヘイグもレーガン政権から追い出された。レーガン大統領は「第三の」米中コミュニケを発表した。このコミュニケは、最初の2つのコミュニケの中で確立された米中関係の要素を再確認するものであった。しかし、附則として、台湾の安全保障にとって重要な諸問題について、台湾の頭越しで何かを行うことはないことを約束する「6つの前提」がつけられていた。

 

レーガンを振り向かせようと考えた中国政府は、最高幹部クラスを含む代表団を送り、レーガンに対して、更なる譲歩と「台湾関係法について何らかの処置を行う」ように圧力をかけた。私は出版予定の著作(By More than Providence: Grand Strategy and American Power in the Asia Pacific Since 1783)のためにジョージ・シュルツにインタヴューを行った。その中でシュルツは、レーガンが代表団をじっと見ながら、「あなた方が仰っていることは正しい。私たちは台湾関係法を強化しなくてはいけない!」と語ったと教えてくれた。中国政府は圧力をかけるのを止め、レーガン政権は、それ以前の政権よりも、より生産的で安定した米中関係を構築することができた。同時に、台湾との信頼関係を深めることにも成功した。

 

トランプの電話は、レーガン政権の時と同じような結果をもたらすことになるだろうか?私は民主的に選ばれた台湾の指導者に更なる尊敬を示したいと思うことには同感だ。しかし、トランプ新政権はこれから中国政府と協力して多くの困難な諸問題に対処していかねばならない中で、台湾重視の動きを維持することは大変に難しいと私は考える。

 

NSCの初期メンバーが国務長官や幹部クラス(彼らはより広範な外交上の利益を主張する)が指名される前に台湾重視の姿勢を打ち出したことで、第一次レーガン政権は中国と台湾の角逐を生み出した。これと同じことがトランプ政権でも起こる可能性はある。もちろん、これは誰が国務長官になるかにかかっている。最近のトランプの行動全てを見ても、彼の最初の電話から長期にわたる結論を導き出すのは早計であると言えるだろう。ただ言えることは次のようなことだ。「次期大統領閣下、台湾に配慮することは賞賛に値しますが、歴史が教えるところでは、中国政府とやり合う前に、包括的なアジア戦略を構築する方がより良い方策と考えられます」。

 

(貼り付け終わり)

 

(終わり)



アメリカの真の支配者 コーク一族
ダニエル・シュルマン
講談社
2016-01-22




 

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