古村治彦です。
2016年11月17日(日本時間では18日)に、安倍省はニューヨークに立ち寄り、ドナルド・トランプ次期大統領と会談を行います。食事を摂りながらの会談になると言われています。
トランプが当選し、「青菜に塩」の状態になっていた、マイケル・グリーン先生は以下のような論稿を発表しています。
「青菜に塩」という言葉を使ったマイケル・グリーン
マイケル・グリーンは、トランプはアジア諸国に対する戦略を明確にしていないので、安倍首相が聞き役に回り、なだめすかしながら、トランプのアジア戦略の輪郭を明確にすべきで、それが出来たら、他のアジア諸国やトランプ自身に対しての大きな貢献となる、と述べています。
トランプから最初に言質を取っておく、日本やアジアの防衛から手を引かないということを明言させるのが安倍首相の役割だとマイケル・グリーンは述べています。これは、「自分はトランプに散々反対してきたから、彼に近づけないので、安倍さん、どうかトランプからこれからも日本を守るという言葉を引き出して、私の関与する場所を確保して欲しい」という願望が下敷きとしてあるのではないかと思います。
日本を操るジャパン・ハンドラーズの若きリーダーがこの自信なさげな感じというのは何とも新鮮です。しかし、恐らくはグリーン先生の思っておられるようにはうまくいかないでしょう。入門編として、日本の首相が一番やりやすい相手でしょう。トランプは選挙期間中にメキシコを訪問して、手痛い反撃を受けていますが、日本に、そして安倍首相にそこまでのことはできないでしょから、慣らし運転という点では最適の相手、露骨に言えば「噛ませ犬」として最適だと判断されて、あべ主将は外国の首脳では初めてトランプ次期大統領と会うということになったと思います。
また、マイケル・グリーンは、「日本の反米主義者、極右、極左がトランプの当選を歓迎している」と書いています。マイケル・グリーン先生に褒めていただいて、大変光栄だと思っておられる日本人もたくさんおられることでしょう。私もその末席を汚す者でありますが。
(貼り付けはじめ)
ドナルド・トランプの安倍晋三の会談:アジアに関する最初のテスト(Donald
Trump’s Meeting With Shinzo Abe: First Test on Asia)
マイク・グリーン筆
2016年11月15日
『フォーリン・ポリシー』誌
http://foreignpolicy.com/2016/11/15/donald-trumps-meeting-with-shinzo-abe-first-test-on-asia/
2016年11月17日、ドナルド・トランプ次期大統領は、ニューヨーク市のトランプ・タワーで日本の首相である安倍晋三と会談する予定となっている。今回のアジアの指導者との事実上の首脳会談は、11月9日に安倍からの気軽な電話での提案から実現したものだ。2人は昼食か夕食を共にする。安倍首相はアジア太平洋経済協力機構の年次総会でペルーに向かう途中にニューヨークに立ち寄る。アジアとヨーロッパの各国はこの会談を注視するだろう。
私は、安倍首相はトランプと協力関係を築けるかどうか疑問に思っている。安倍首相は、最初は聞き役に回るだろう。彼の友人は、モディ、プーティン、ネタニヤフ、エルドアンといった世界各国で強い権力を持っている人たちばかりだ。
安倍首相は反エリートの波によって権力を握った人物ではない。2009年、日本では中道・左派の民主党が選挙で大勝し、権力の座に就いたことがあった。安倍首相は彼独自のナショナリスト的主張を持っている。彼は決断をできる人物だ。トランプはそのことをすぐに認識するだろう。日本は、これからも友好的な姿勢を崩さないであろうが、その表面の裏では、日本は、日本以外のアジア諸国、更には世界と同様、中国と北朝鮮による脅威が増大していく中で、トランプ新大統領は自国の安全保障にとってどんな意味を持つのかについて懸念をも持っている。
この不安は、大統領選挙後に日本で行われた世論調査の結果にも出ている。約7割の日本人がトランプ大統領に否定的な見方をしている。選挙前の世論調査でオーストラリア国民の半数は、トランプが当選したらアメリカから距離を置くべきだと答えた。同じ世論調査で、米豪同盟についてはこれまでで最高の支持率を記録したにもかかわらず、だ。トランプの主要なアドヴァイザーの中には、ワシントンにあるアジア諸国の大使館に対して、アメリカ軍の前方展開部隊の駐屯について再考することになる、もしくは国内のテロリズムと経済に関する問題に集中するためにアジア諸国から手を引くと語った人々がいる。
トランプは環太平洋経済協力協定(TPP)に反対してきた。そのため、安倍首相のこの秋の国会運営は難しいものとなる可能性がある。アメリカ国内でTPPに対する支持がしぼんでいく中で、安倍政権はTPPの勢いを持続させるためにTPPの批准を国会で通過させることに注力している。日本国内の反米の主張をする人々、極右、極左は、トランプ当選を歓迎している。そして、アメリカからの更なる別離を主張している。同様の動きは、オーストラリア、韓国、アジア地域のアメリカの同盟諸国で起きている。
他方、日本とアジア諸国にとっては、安心感を持てる兆候も存在している。シカゴ外交評議会が行った最新の世論調査では、アメリカ国民の3分の2は、グローバライゼーションは素晴らしいと考え、6割が自由貿易を支持しているという結果が出た。ピュー・リサーチセンターの世論調査では、大多数のアメリカ国民が、日本と韓国が攻撃された場合に、両国を防衛するべきだと答えている。こうした動きが示しているのは、反エスタブリッシュメントの選挙結果は、自国問題解決優先主義(アイソレイショニスト)的な有権者の感情によってもたらされたものではないということだ。マイク・ペンスが副大統領に、レインス・プリーバスが大統領首席補佐官にそれぞれ選ばれたことは、ケリー・アヨッテ、スティーヴ・ハドリー、ボブ・コーカーのようなより常識的な国家安全保障観を持っている人々が、もちろんまだ確定している訳ではないが、国家安全保障を担当するポジションに登用されるという希望を膨らませてくれる人事であった。投開票日の1日前、トランプのアドヴァイザーであるアレクサンダー・グレイとピーター・ナヴァーロは、『フォーリン・ポリシー』誌に、オバマ大統領のアジア回帰政策に対する批判論文を発表した。フォーリン・ポリシー誌には私たち専門家が「シャドウ・ガヴァメント」欄で多く論稿を発表してきた。
共和党が過半数を占めている連邦議会は、予算管理法と予算の上限を破る姿勢を示している。そうした中で、日本の防衛省の幹部たちは、アジアの軍事バランスの変化のためにJapanese defense officials also see the prospect of real resources
emerging for the military aspects of the rebalance to Asia. グレイとナヴァーロは論稿の中で、アジア地域にあるアメリカの同盟諸国は、防衛負の負担増加を「尊敬を持って」新政権から求められることになると指摘した。しかし、こうした主張は選挙期間中のトランプの発言からかけ離れたものだ。選挙期間中、トランプは、アメリカにたかりきっている同盟諸国など防衛しないと主張し続けた。安倍首相は日本国憲法の解釈を変更することで、日米同盟においてリスクを更に分担することで面目を施すことになると指摘するであろうが、安倍首相はトランプを楽しませねばならない立場に置かれるだろう。もし指導者2人が会談から積極的な結論を得たいと望むならば、協力できる共通の地盤を数多く持つことだ。
つまり、日本国民は、トランプが選挙期間中に行った発言を忘れることはないだろう。トランプの一連の発言によって、日本国民のアメリカに対する信頼は揺るがされることになった。日本の官僚たちの中には、安倍首相に対して、TPPと日本の駐留米軍の負担の分担について、トランプに反論するように主張している人々がいる。安倍首相は言いたいことを後ろに隠して、日米関係とアジアに関するトランプの戦略の輪郭を明確にすることに集中するだろう。現在まで、トランプはこれらについての戦略を示していない。こうしたことができれば、安倍首相はアジア諸国とトランプ次期大統領に対して大きな貢献をしたことになる。
(貼り付け終わり)
(終わり)