古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ミーガン・オサリヴァン

 古村治彦です。

 ワシントンにある有名なシンクタンクである戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)の副理事長を務めたマイケル・グリーンがシドニー大学アメリカ研究センター(U.S. Studies CentreUSSCCEOに転身したのが今年3月のことだった。これは都落ちの感がある異動であったが、別の面で考えれば、対中封じ込めのために、オーストラリアを取り込むため、最前線にグリーンが移動したということも言えるだろう。今年3月1日には、グリーンは、拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』でも取り上げた、ミッシェル・フロノイ、ミーガン・オサリヴァンらと台湾を訪問している。グリーンはジャパンハンドラーズであるとともに、対アジア外交専門家として活動している。このブログでもマイケル・グリーンの動きは既にご紹介している。
micheleflournoymichaelgreenvsitingtaiwan512
右端がマイケル・グリーン、隣はミッシェル・フロノイ

※「20220610日 ミッシェル・フロノイ創設のウエストエグゼク社がテネオに買収される予定:ミッシェル・フロノイがバイデン政権入りするのではないかと考えられる」↓

http://suinikki.blog.jp/archives/86261152.html

 マイケル・グリーンの論稿では、アメリカは対中強硬姿勢で、民主党と共和党、ジョー・バイデン大統領(民主党)が率いるホワイトハウスと共和党が過半数を握る連邦下院が協力するということになるということだ。アメリカ社会の分断は深刻になっている。政治の世界でもなかなか一致点が見いだせない。そうした場合、外に敵を作って、団結するということはよくあることだ。ドナルド・トランプ政権で始まった米中貿易戦争路線を、ジョー・バイデン政権も引き継いでいる。そして、中間選挙で共和党が連邦下院で過半数を握っても大丈夫、対中強硬路線は引き継がれるということがマイケル・グリーンの主張だ。アメリカがまとまるには外敵をつくるしかないというのは、如何にアメリカ社会の分断が深刻化しているかを物がっている。

(貼り付けはじめ)

アメリカ中間選挙の結果は、国家安全保障にとって正味のプラスになる(U.S. Midterm Results Are a Net Plus for National Security

-トランプ主義が縮小する中、国際主義の共和党(internationalist Republicans)は中国、防衛、貿易でバイデン政権に圧力をかけるだろう。

マイケル・J・グリーン筆

2022年11月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/11/us-midterm-election-republicans-biden-national-security-foreign-policy-defense-china-house-committees/

2022年の中間選挙の直前、私は『フォーリン・ポリシー』誌上で、共和党が連邦下院で勝利しても、アメリカの対中戦略競争にとって悪いことばかりではないと論じた。それは、共和党が国防費や貿易政策に対して注意を払い、バイデン政権のインド太平洋における同盟中心戦略(alliance-centric strategy)を中心に幅広い超党派的な支持を集めているからである。最終的な結果は数日から数週間は分からないにしても、実際の結果はそれ以上に良さそうだ。確かに、連邦下院共和党はハンター・バイデンや議員を退くリズ・チェイニー連邦下院議員を追及するかもしれない。そして、一般的には、バイデン米大統領の弱さを示し、アメリカの同盟諸国には連邦議会が機能不全に見えるような、パンとサーカスを共和党の支持基盤に提供するかもしれない。しかし、共和党が連邦下院の重要な委員会を支配することで、人々は表面に出てくる騒ぎを楽しむにしても、バイデン政権のタカ派と現実主義者が助かるという事実は変わらない。ケーブルテレビでジャコバン裁判を見ながら、外交政策の専門家たちは、作家のマーク・トウェインがドイツの作曲家リチャード・ワーグナーの音楽について言ったことを思い出すことだろう。それは、「そこまで酷いことはない(It's not as bad as it sounds)」だ。

まず、前回の論稿で評価分析したように、連邦下院の国防、国際関係、通商の主要委員会と小委員会のリーダーたちは、いずれも国際主義者で現実主義者(internationalists and realists)であり、国防への資源投入を推進するとともに、原子力潜水艦と先進防衛力を構築する豪英米協定(Australia-U.K.-U.S. agreementAUKUS)など、能力構築や同盟諸国との野心的な構想の進捗状況を精査することになろう。これは、多くの政策分野、特に貿易と抑止力拡大が、政権内の左翼保護主義者たち(left-wing protectionists)と軍備管理信者たち(arms control purists)の妨害に直面するバイデン政権を律するものである。

しかし、それに加えて、選挙の結果によって、共和党が連邦下院を支配し、連邦上院はこの原稿を書いている時点ではまだ未決定であることが予想され、中国との戦略的競争に向けた政権の組織化努力をより促進することになるだろう。

第一に、ドナルド・トランプ前米大統領とトランプ主義全般の縮小は、アメリカの民主政治体制が崩壊しているという有害なシナリオと戦っている海外のアメリカの外交官たちを助けることになる。例えばオーストラリアでは、最近、アメリカの選挙に関する報道がオーストラリアの国政選挙の報道を凌駕しているほどだ。2021年1月6日の暴動、選挙否定論、民主的な規範に対するトランプの非道な攻撃、民主的な選挙プロセスを制限しようとする過激派の運動という醜い光景をオーストラリア人たちが無視することは非常に困難だった。中国の脅威が同盟諸国をアメリカに接近させている今、友好国の政府が民主政治体制の方向性を見失ったかのようなアメリカへの依存を強めることを考えるのは不安であり、ワシントンの外交政策の急変は大統領選挙1回で起きる可能性がある。

先月発表された、アメリカ研究センターの調査では、オーストラリア国民の約半数がアメリカの民主政治体制の方向性について、「非常に懸念する(very concerned)」と答えている。これは、欧米諸国の同盟が共通の脅威(common threat)だけでなく共通の価値観(common values)に基づいている場合の問題点である。中国の公式な対米シナリオでは、中国のモデルよりも民主政治体制とその原則を強く支持する調査結果があるにもかかわらず、民主政治体制は最良の政府形態ではないことの証拠として1月6日の事件を定期的に取り上げている。中間選挙はこのシナリオを変え、世界中でアメリカの外交官の仕事を容易にする可能性が高い。投票率、当選者の多様性、中絶権に関する連邦最高裁の判決に対する反発、そして特にトランプ派の候補者が世論調査で劣勢だったことは、ワシントンの責任者が共和党と民主党のどちらを好むかにかかわらず、アメリカの友人にとって心強いものになる。

第二に、連邦下院での共和党の勝利の規模は、防衛と貿易に関してバイデン政権を後押しするために関連委員会に力を与えるにはちょうど良いと考えられるが、アメリカの関与(engagement)と長期戦略(long-term strategy)を弱めることを求める破壊者たちを更に増やすほど圧倒的なものではないだろう。もしケヴィン・マッカーシー連邦下院議員が連邦下院議長に選出されれば、ウクライナへの支援を削減しようとしたり、NATOに対するアメリカの関与(commitment)に疑問を呈したりする議員たちは、予想以上に少なくなるであろう。連邦上院を民主党が握れば、「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again)」派の国家安全保障分野での行き過ぎた行動を更に封じることができるだろう。連邦議会での戦略的競争に対する超党派の強い支持は、アメリカ研究センターなどの調査によるアメリカ国民の感情を反映しており、それが中間選挙の結果によって裏付けられた。

このことは、バイデンが率いるホワイトハウスが共和党の支配する連邦下院との取引を行うことができるとか、アメリカの同盟諸国がアメリカ政治の極端な部分を心配するのをやめるとか、極端な部分がなくなるとか、そういうことではない。しかし、過去3回の国政選挙(2018年、2020年、2022年)を貫くパターンがあるとすれば、選挙地図には反トランプの強い壁があり、連邦議会は、選挙の度に、最重要な外交政策問題について、分裂よりも統一された形になっているのだ。

※マイケル・J・グリーン:シドニー大学アメリカ研究センター所長、戦略国際問題研究所上級研究員、東京のアジア太平洋研究所名誉研究員。ジョージ・W・ブッシュ(息子)政権の国家安全保障会議のアジア担当幹部スタッフを務めた。ツイッターアカウント:@DrMichaelJGreen

=====

共和党の中間選挙勝利がアメリカの中国戦略を活性化させる(A Republican Midterm Win Will Boost U.S. China Strategy

-バイデン政権の中国政策の下でアメリカ国民を団結させるためには、ホワイトハウスと連邦議会の分裂が本当に必要なのかもしれない。

マイケル・J・グリーン筆

2022年10月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/10/31/us-midterm-elections-republicans-china-biden-trade-geopolitics-strategy/

来週の米中間選挙を前にして、両極化(polarization)が進んでいることは、バイデン政権にとって決して良い兆候ではない。世論調査の通り、共和党が米連邦下院の過半数を握れば、バイデン政権に対する党派的な攻撃の奔流が繰り広げられるだろう。2021年1月6日の事件を調査する委員会は解散し、ジョー・バイデン米大統領の息子、ハンター・バイデンは調査され、バイデンは弾劾手続きに直面する可能性がある。また、フォックスニューズの司会者タッカー・カールソンと彼のクレムリンへの崇拝に従う共和党の一部グループは、ウクライナへの資金提供を阻止すると脅迫するだろう。連邦議会による監視の目が厳しくなるのは歓迎すべきことだが、例えば、アフガニスタン撤退の失敗を検証するなど、ホワイトハウスにとっては苦痛であり、アメリカの指導力を懸念する同盟諸国にとっては不安なことだろう。

しかし、中国との競争に関する限り、バイデン政権の戦略でアメリカ国民を団結させるためには、政府の分裂が本当に必要なことかもしれない。なぜなら、共和党は民主党政権に対して、中国との競争において重要な2つの柱である防衛(defense)と貿易(trade)の公約を実現するよう求める傾向があるからである。同時に、米連邦議会と一般的なアメリカ国民は、中国という課題に立ち向かうという点では、他のどんなことよりも一致しているという事実が、潜在的な分裂を和らげることになるだろう。

歴史的な先例を考えてみよう。1994年の中間選挙に向け、ビル・クリントン政権は医療保険制度改革などの野心的な国内政策に政治的資源の大半を費やしていた。国防費は長期にわたって減少傾向にあり、外交政策は日本との保護主義をめぐる戦いや中国に対する最恵国待遇(most-favored nation status)をめぐる内輪もめに陥っていた。共和党が連邦下院を支配し、当時のクリントン大統領の国内政策が実質的に阻止された後、クリントンは国家安全保障にその努力と政治的資源を集中させた。日本との争いは急停止し、1996年には当時の橋本龍太郎首相が、北朝鮮や台湾など地域の有事に対処するために日米同盟を初めて強化・拡大する共同宣言を出し、わずか数年前まで酷い状態で漂流していた同盟を拡大させた。また、共和党が支配する連邦下院は国防費の削減を撤回し、アメリカ軍予算を着実に増加軌道に乗せた。2010年、バラク・オバマ大統領(当時)の最初の中間選挙で共和党が民主党から連邦下院と連邦上院を奪い、超党派連合が誕生し、オバマ政権が2011年に環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific PartnershipTPP)の枠組み合意文書に署名したときと同じことが起こった。この12カ国の貿易・投資協定は、2017年にドナルド・トランプ政権が協定から離脱しなければ、アジアにおける戦略的バランスを変化させることになっただろう。

懐疑論者たちは、「国防と貿易に前向きな共和党はもはや存在しない、つまり2016年にドナルド・トランプが大統領に当選した時に破壊された」と主張するだろう。確かに、共和党の支持層は貿易協定に懐疑的で、党内の「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again)」派からは危険な国内問題優先主義的な主張(isolationist voices)が出ている。しかし、中国との競争について、連邦議会ではかつてないほど超党派的な意見が交わされているのも事実だ。実際、中国との競争については最近のワシントンでは数少ないコンセンサスのある分野である。今年8月にCHIPS法(CHIPS and Science Act)を連邦議会で可決成立させたのは超党派の議員たちであり、その内容は、アメリカの半導体産業を活性化し、同盟諸国からの投資をアメリカに呼び込み、半導体開発をめぐる競争で中国に対する自由世界の優位性を維持するために、バイデン政権に500億ドル規模の予算を提供するというものだ。人工知能のような新興技術を支配するために。その法案の最初の作成者は、保守派でインディアナ州選出の共和党議員であるトッド・ヤング連邦上院議員であり、ニューヨーク州選出のリベラルなチャック・シューマー連邦上院議員が共同提案者となった。中国の脅威は、実に奇妙な仲間の、呉越同舟の枠組みを生み出している。

連邦下院司法委員会の委員長になると予想されるフリーダム議連所属のポピュリスト、共和党のジム・ジョーダン連邦下院議員は、弾劾審問やFBI・司法省への攻撃で見出しを独占するだろうが、国防、外交、貿易を管轄する委員会は、レーガン時代の国際主義者の指揮下に置かれることになるであろう。連邦下院軍事委員会の委員長に、共和党のマイク・ロジャース連邦下院議員が就任すれば、原子力潜水艦の建造や最先端技術の軍事力利用での協力に関する豪英米協定(通称AUKUS)のような同盟諸国との取り組みを遅らせている官僚的障害(bureaucratic obstacles)を取り除くよう米国防総省に働きかけることが予想される。委員会の共和党議員たちは1兆ドルを超える国防予算について話しており、周辺部の国内問題優先主義者(アイソレーショニスト)の声がどうであれ、インド太平洋のための軍事力の強化を図る可能性が高い。連邦下院貿易委員会の共和党筆頭委員であるエイドリアン・スミス連邦下院議員は、農産物輸出州であるネブラスカ州の出身であり、貿易に関する惰性的な習慣を克服し、アジアで新しい取引を行い、市場を開放するよう、バイデン政権に働きかけることは間違いないだろう。連邦下院外交委員会の共和党筆頭委員であるマイケル・マッコール連邦下院議員は、米国司法省の元テロ対策タスクフォースリーダー、連邦下院国土安全保障委員会委員長という確かな国家安全保障上の信条を持つ人物である。中国の強圧に対抗するため、より強固な同盟関係の構築を明確に打ち出している。

アメリカ国民は、同盟関係の強化、技術競争の加速、より野心的な通商政策も支持している。私が所長を務めるシドニー大学アメリカ研究センター(USSC)の依頼で実施した新しい調査の結果は、シカゴ世界問題評議会、戦略国際問題研究所、ピュー研究所など他の機関による調査結果を補強するもので、アメリカ国民が日本、オーストラリア、韓国との同盟関係を強く支持していることが明らかになった。2年前に行われたUSSCの世論調査と比較すると、これらの同盟がアメリカをより安全にしていると考えるアメリカ国民の割合は14ポイントも上昇している。ロシアのウクライナ侵攻や核の脅威、中国の台湾海峡での妨害行為などを受けて、アメリカ国民は同盟が単なる国際的な善意やワシントンの足かせではない、アメリカ自身の安全保障のためのものだと認識したということだろう。中国との完全な経済的分断(デカップリング)を支持するアメリカ人は20%に過ぎないが、アメリカ、日本、オーストラリアでは、自国が経済的に中国に依存しすぎていると考え、中国製でないスマートフォンにかなり高い金額を支払っても良いと考えており、中国と競争するために民主的同盟諸国の技術革新を支持する人が過半数を占めている。

貿易に関しても、共和党が支配する連邦議会は、予想以上に政権を後押しする可能性がある。バイデンを支持する有権者の過半数は、アメリカはTPPのような貿易協定に参加すべきだと答え、トランプを支持する有権者の大多数は参加すべきでないと答えているが、アメリカ国民全体の3分の2は、「アジアとの貿易と投資を拡大することが重要だ」という意見に同意している。数カ月後にスミス議員が連邦下院貿易小委員会の委員長を務めることになれば、より野心的な貿易政策を求める彼の主張がアメリカ国民に支持されていることに気づくだろう。スミス議員はおそらく、消極的な米国通商代表部に対して、「貿易協定」や「TPP」と呼ばれない限り、「インド太平洋経済枠組み」(単なる対話に過ぎない空想上の名称)を実質的なルール設定のための協定にするように働きかけるだろう。

このことは、アメリカ政治におけるポピュリズム(populism)、分極化(polarization)、ポスト真実の言説(post-truth discourse)の台頭が戦略的帰結をもたらさないことを論じるものではない。ヨルダンによるアメリカ政府機関への焼き討ち攻撃は、国防、外交、貿易に関する立法を行う委員会の平凡で手間のかかる仕事よりも、世界中で確実に注目を集めるだろう。海外の人々は、今回の中間選挙について懸念を持って見ている。USSCの調査によると、日本国民とオーストラリア国民の4分の3が、米中間選挙を自国にとって重要だと考えており、オーストラリア国民の半数はアメリカの民主政治体制の現状を憂慮しているという。しかし、もしバイデンが予想通り連邦下院を、そしておそらく連邦上院も失うことになれば、バイデン政権はインド太平洋における中国との競争について、連邦議会が新たな機運を高めていることに驚くかもしれない。どちらかといえば、最近の連邦下院共和党指導部の公約から判断すると、バイデン政権は連邦議会が中国を追いかけようとする熱意を抑えなければならないかもしれない。バイデンは、このような機会を捉え、中国とインド太平洋の戦略の欠けている部分(ミッシングピース)を埋めるべきである。

※マイケル・J・グリーン:シドニー大学アメリカ研究センター所長、戦略国際問題研究所上級研究員、東京のアジア太平洋研究所名誉研究員。ジョージ・W・ブッシュ(息子)政権の国家安全保障会議のアジア担当幹部スタッフを務めた。ツイッターアカウント:@DrMichaelJGreen

(貼り付け終わり)

(終わり)

bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



ジョージ作・ジェブの外交政策(Jeb’s Foreign Policy, by George

 

―ジェブは41代と43代の大統領に仕えた専門家たちを混合させることで、共和党の強固な支持基盤を形成している人々を宥めようとしている

 

マイケル・ハーシュ(Michael Hirsh)筆

2015年2月18日

『ポリティコ』誌

http://www.politico.com/magazine/story/2015/02/jeb-bush-foreign-policy-115295.html#.VO0tJPmsW3c

 

ジェブ・ブッシュは「自分らしく」やるだろう。彼は大統領選挙の有力候補者として初めての外交政策に関する演説を水曜日に行った。しかし、共和党内のインサイダー情報によると、元フロリダ州知事であるジェブは彼の外交政策ティームをブッシュ家と関わり深い人々から選び出したということである。タカ派の兄ジョージ・Wの下で働いた専門家たちに加えて、穏健派の父ジョージ・HWの下で働いた人たちを混ぜた名簿を発表した。その目的は、ジェブを信用していない、現在でもまだタカ派的な共和党の支持者たちに合わせるためである。

 

 ブッシュの外交政策ティームは、2人の共和党主流派の外交政策専門家が選び出されている。彼らはそれぞれジェブの父親と兄に仕えた人々である。彼らの名前は、リチャード・ハース(Richard Haass)とロバート・ゼーリック(Robert Zoellick)だ。彼らは、共和党内の大物であるジェイムズ・ベイカー(James Baker)をティームに加えた。ベイカーはジェラルド・フォード(Gerald Ford)、ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)に仕え、ジョージ・HW・ブッシュ(George H.W. Bush)政権下では国務長官として辣腕をふるった。更には、イラク戦争を主導したポール・ウォルフォビッツ(Paul Wolfowitz)と当時のディック・チェイニー(Dick Chaney)副大統領の国家安全保障問題担当補佐官であったジョン・ハンナ(John Hannah)といったネオコンの人々もティームに参加させている。

 

今回の外交政策ティームには参加していないが、ジェブから非公式に相談を受けている、共和党の外交政策のヴェテランによると、ネオコンの人々がティームに加えられたのは、ジェブについてほとんど知らない共和党の支持基盤に対して彼の信頼性を高めるためだということであった。ジェブの移民と教育に関する穏健な考えに対して、共和党の支持者たちは既に疑念を持っているというのである。

 

 「ジェブは現在、大口寄付者のネットワークと外交政策専門家のネットワーク形成を行っている」と前述の専門家は述べている。ブッシュは様々な考えを持つ有権者たちを満足させるために、幅広い専門家の登用を望んでいるというのである。

 

 前述の専門家は更に次のように述べている。「彼は熱心な支持者たちを熱狂させる演説を行った。彼の演説は過去15年間で最高のものだった。彼は基本的に長い時間を大口の献金者たちと過ごしてきたが、これから違うだろう」。

 

 ジョージ・W・ブッシュ政権下で大統領国家安全保障問題担当補佐官と国務長官を務め、人気が高かったコンドリーザ・ライス(Condoleezza Rice)が入れば、共和党の予備選で有権者を惹きつける効果があるだろう。コリン・パウエル元国務長官の名前は名簿に入っていない。パウエルの広報担当のペギー・シフリノは、「パウエルは顧問になるように依頼されていないし、新聞で得た情報以上のことは何も知らない」と述べている。ジョージ・W・ブッシュの一期目に国務長官を務めたパウエルは裏切り者とみなされていた。そして、2008年の大統領選挙でパウエルは二度にわたりバラク・オバマへの支持を表明した。ジェブの外交顧問団に名前が入っていない人物として、ブレント・スコウクロフトもいる。彼はジョージ・HW・ブッシュ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務め、ジョージ・HW(父)の親友である。

 

 パウエルの顧問を務めたリチャード・N・ハース(Richard N. Haas)は、パウエルと同じく、イラク戦争に関しては懐疑的であった。ハースは保守派の間では中間的な立場にいたが、保守派から懐疑の目を向けられてきたので、ジェブに対して非公式に助言を行っている。ハースはまた、超党派の非営利団体である外交評議会(CFR)の会長を務めているので、ジェブの外交顧問団に正式に参加することはできないとみられている。ハースの広報担当リサ・シールズは「リチャードは、民主、共和両党の政治家や政府高官や候補者たちの多くに助言を行っている」と述べている。

 

 ゼーリックは、レーガン、ジョージ・HW・ブッシュ(ベイカー国務長官の下で国務次官)、ジョージ・W・ブッシュ(国務副長官、米通商代表部代表、世界銀行総裁)にそれぞれ仕えた。ゼーリックは『ポリティコ』誌の取材にEメールで回答を寄せた。その中で彼は、「私は経済と外交政策の面でジェブを支援したいと考えている。そして、彼を手助けしたいと望んでいる人々をジェブの陣営に参加させたいとも考えている。私が重要だと考えているのは、ジェブ・ブッシュが広範な考えに接することが出来るプロセスを作ることだ。率直に言って、時代は41代、43代(そして42代)とは変わっており、多くの人々の考えを一定の枠に当てはめることは出来なくなっている」。

 

 実際、ジェブの外交政策ティームは幅広い人々によって構成されている。この名簿は水曜日にシカゴでジェブが演説を行う前に発表された。この顔ぶれを見ると、私たちは混乱してしまう。少なくとも候補者として自分の考えを明らかにするものにはなっていない。共和党の外交政策分野におけるヴェテランの1人は「彼は全ての人を満足させようとしている」と述べた。

 

 混乱に加えて、ジェブはかなり限られた時間しかシカゴでの演説に割けなかったと言われている。演説の内容は一般論に終始し、共和党お得意の強い国防力と同盟諸国との関係強化を訴えるだけで、オバマ大統領に対してもほどほどの批判しかできなかったという評価がなされている。

 

 公式的には、ジェブは父や兄のようになるかどうかについて言及することを拒絶しているが、彼は家族に対する忠誠心を使って家族間の相違を埋めようとしている。ジェブは2月に次のように語った。「私は父を愛している。私の父は現在生きている人間の中で最も偉大な人物だ。そして、私は兄を愛している。私は彼が偉大な大統領であったと思っている」。

 

 ジェブ・ブッシュは、ハーヴァード大学のミーガン・オサリヴァン(Meghan O’Sullivan)のような主流派に属する顧問に依存している。オサリヴァンは前述のハースの下でキャリアをスタートさせ、ジョージ・W・ブッシュ政権ではイラクにおける行政を担った。オサリヴァンは穏健な考えをする人で、ベイカーとスコウクロフトに代表される父ジョージ・HW・ブッシュの外交政策ティームの人脈に連なると考えられている。『ウォースストリート・ジャーナル』紙は最近、ジェブ・ブッシュがオサリヴァンを自身の外交政策顧問の首席に据えたいと考えているようだと報じた。

 

 しかし、ジェブは、現在の共和党の支持基盤となっている保守派の人々は父に対して懐疑的だということを知っている。公平であるかどうかは別にして、父ブッシュは彼が1991年に行った「チキン・キエフ」演説によって人々の記憶に残っていると言える。父ブッシュは、この演説の中で、ウクライナの人々に対して、性急にソ連から離脱することのないように、「自殺的なナショナリズム」に陥らないようにと警告を発した。また、ソ連を構成した国々全体に対しても同様の警告を行った。また、第一次湾岸戦争の後にサダム・フセインを権力の座から追い落とさなかった。ジェブは現在、オバマ大統領の優柔不断さと対外政策の弱腰を攻撃している。水曜日の演説でもそうであった。しかし、予備選の間、ジェブに対しても父親の優柔不断さと弱腰に関して批判が向けられるだろう。

 

しかしながら、奇妙なことに、共和党の予備選を勝ち抜いた場合、ジェブは父ブッシュの外交政策に近づくように舵を切らねばならなくなるだろう。父ブッシュの業績は歴史家たちの間で急速に評価を高めており、多くの世論調査の結果では彼の外交政策は多くの人々に評価されているのである。一方、兄ジョージ・W・ブッシュが2009年1月に大統領の座から退いた時、不支持率は68%であった。NBCニュースとウォールストリート・ジャーナル紙が昨年共同で行った世論調査の結果によると、66%の人々がイラク戦争を「やる価値がなかった」と考えているということであった。

 

 ジョージ・W・ブッシュ政権で高官を務めたエリック・エデルマンは次のように語っている。「私は、父ブッシュの評価が高く、兄ブッシュの評価が低いというのはジェブにとって難しい前提となるだろう。父と兄の違いを誇大に宣伝することは簡単だが、二人とも基本的には、共和党の保守的な国際主義に属している点で一緒なのだ。彼らの政策の間に相違はあっただろうか?相違点は確かに会った。しかし、対ロシア政策とジョージ・Wとプーティンとの関係について見てみれば、41代大統領であったジョージ・HWのゴルバチェフに対するアプローチとそこまでの相違はないと考える人も出てくるだろう。対中政策について言えば、大きな相違点があったとは思われない。41代大統領であったジョージ・HWもまたイラクでの戦争を実行したのだ」。

 

 ジェブは演説の中で、「自分にとって、父と兄が大統領執務室でアメリカの外交政策を形成したというのは幸運であった」と語った。

 

 しかし、保守派の論客の中には、この歴史は、ジェブが共和党の大統領選起居候補者になったら二重の負担となるだろうと考えている。

 

 保守的な内容のブログ「レッドステイト・ドットコム」を運営しているエリク・エリクソンは次のように予想している。「ジェブの外交政策と父と兄の行ったことが共和党の予備選挙で大きな争点になることはないだろう。候補者たちは、ランド・ポール以外は多少の違いはあっても、外交政策に関して大きな隔たりは存在しない。ジェブが予備選挙を勝ち抜くには国内政策の方が重要だ。選挙における彼の弱点は、彼がブッシュ家から3人目の大統領になるという点だろう」。

 

(終わり)













このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ