古村治彦です。

 ロシアによるウクライナ侵攻に伴う経済制裁として、欧米諸国を中心にロシアからの石油輸入を禁止する措置を取る国が多く出ている。一方で、中国、インド、メキシコ、中東諸国、イスラエル、南アフリカ、ブラジルといった国々は慎重な態度を保っている。結果として、石油価格が高騰し、物価高(インフレーション)に拍車をかけている。エネルギーや物流コストを押し上げることで、私たちの生活に大打撃を与えることになる。ロシアへの厳しい制裁に乗り出していない国々に対してはロシアも様々な方法で石油や天然資源を現在よりも安い価格で提供するということを行うだろう。欧米諸国はそうした動きを批判するだろうが、そうした国々にまで経済制裁を科すということになれば、世界経済の混沌はますます深刻化する。

 アメリカのジョー・バイデン政権は中東諸国に石油の増産を求めているが、アメリカとサウジアラビアとの関係は緊張関係にあり、この試みもうまくいっていない。民主党の一部議員は中東諸国における人権状況を批判しており、そうした国々にいざとなったら膝を屈して石油の増産をお願いしなければならないということに不満を高めているようだ。また、サウジアラビア出身のジャーナリストだったジャマル・カショギが殺害された事件もアメリカとサウジアラビアとの関係を悪化させる原因となっている。

 サウジアラビアは高みの見物を決め込んでいる。石油価格が高騰すれば利益は勝手に転がり込んでくる。何もわざわざ石油の増産によって石油価格を安くする必要などない。特にアメリカの今の政権は自分たちを批判してきた民主党だ。何を協力してやる必要があるのかということになる。

 国際関係は複雑であり、学級会的な正義感や単純な感情論では動かない。このことを私たちはよく理解しておく必要がある。

(貼り付けはじめ)

アメリカ・サウジアラビア間の緊張関係は石油増産への動きを複雑化させている(US-Saudi tensions complicate push for more oil

ロウラ・ケリー、レイチェル・フラジン筆

2022年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/598828-us-saudi-tensions-complicate-push-for-more-oil

サウジアラビアとアメリカとの緊張関係は、バイデン政権がリヤドに石油生産の強化を説得する努力を複雑にしている。サウジアラビアが石油増産をすれば、ウクライナでのロシアの戦争によって悪化した物価高騰の中で、消費者にある程度の救済を与える可能性がある。

2018年に『ワシントン・ポスト』紙所属のジャーナリスト、ジャマル・カショギがイスタンブールのサウジ領事館に誘い込まれて殺害されて以来、アメリカ政府はサウジアラビアへの批判を強めてきた。

サウジアラビアの人権記録やイエメン内戦をめぐる緊張が、アメリカ連邦議会から超党派で批判され、アメリカとサウジアラビアの間での争いに拍車をかけている。

ジョー・バイデン政権はサウジアラビアとアラブ首長国連邦に増産を求めているが、アメリカとサウジアラビアとの間の緊張関係のために、苦境に追い込まれている。

バラク・オバマ政権で人権問題の最高責任者を務めたトム・マリノウスキー下院議員(ニュージャージー州選出、民主党)は今週、記者団に「サウジアラビアに石油の増産を求めなければならないのは嫌なことだ」と述べた。

マリノウスキー議員はまた「バイデン政権が、私の選挙区の有権者たちが給油所で搾取されないように、サウジアラビアとの関係をどう利用するかを考えなければならないのが嫌だ」とも述べた。

サウジアラビアが戦略的石油備蓄(strategic oil reserves)を支配しているため、中間選挙を前に、インフレーションとガソリン価格の高騰の中で消費者を少しでも救済するよう圧力を受けているバイデン政権は、リヤドに対する戦略を見直す必要に迫られるかもしれない。

バイデン大統領は、リヤドの人権記録に対する懸念を表明する一方で、安全保障上の利益とエネルギー需要の共有に焦点を当てた現実的な関係を再構築しようとしている。

これは、トランプ政権がリヤドに対して過度に友好的で個人的な取引を行い、イエメンの壊滅的な内戦でサウジアラビア主導の攻撃を無条件で支持したこと(carte blanche support)からの急反転を意味する。

しかし、バイデンの戦略は今、世界的に必要な時期に彼自身の政権を不利な立場に追い込んでいるように見える。

王国の実質的な支配者であり、後継者候補でもあるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、ロシアのウクライナ侵攻の初期に、ロシアへの支援活動の一環としてバイデンからの電話を拒否したと報じられた。

ホワイトハウスはこの『ウォールストリート・ジャーナル』紙の報道に対して反論し、ジェン・サキ報道官は「不正確」と述べた。

サキ報道官は「大統領の関心は、今後、私たちの関係を前進させること、つまり、私たちがどこで協力できるのか、経済や国内の安全保障でどう協力できるかということにある。大統領は、この関係が続くことを期待している」と先週のブリーフィングで記者団に語った。

ロシアによるウクライナ衣侵略によって悪化したガソリン価格の高騰は、産油国の主要グループであるOPEC+のメンバーであるサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)を戦略的な立場に立たせることになった。

サウジアラビアとアラブ首長国連邦は「余剰生産能力(spare capacity)」を持っているため、原油を市場に対して即座に追加供給し、それを一時期維持することができる。

しかし、ワシントンのアラブ湾岸諸国研究所上級研究員のフセイン・イビッシュによれば、リヤドとアブダビは両国それぞれの経済を強化するためにロシアと交わした合意の一環として、供給量の増加を求める声に抵抗してきたという。

イビッシュは最新の論文の中で「サウジアラビアとUAEは、国家発展と経済移行計画の基礎として、ロシアと締結したOPEC+の石油生産協定に依存している」と書いている。

サウジとアラブ首長国連邦は、ロシアの侵攻を非難する露骨な声明を出すことにも抵抗している。その代わり、両国のトップはアメリカを批判している。

カショギを「捕獲または殺害」する計画を承認したとアメリカの情報機関が発表したムハンマド皇太子は、今月出版された『アトランティック』誌の長時間におよぶインタヴューで、バイデン大統領が自分をどう思っているかについて、「単純に」気にしないと述べ、アメリカがサウジ王政を遠ざけることがバイデン大統領を傷つけることになると示唆した。

「アメリカの国益を考えるのは彼次第だ」と同誌は彼の言葉を引用したが、ムハンマド皇太子は肩をすくめながら「まぁ頑張ってみれば」と述べた

アメリカ政府の高官たちは2月17日に最後にリヤドを訪問し、ロシアの侵攻を前にサウジアラビアに石油の増産を求めようとした。国務省のネッド・プライス報道官は今週、「私たちは日常的にサウジアラビアのパートナーと連絡を取り合っている」と述べた。

しかし、サウジアラビアとアラブ首長国連邦はアメリカへの不満を解消することに熱心なように思われる。

ユセフ・アル・オタイバ駐米アラブ首長国連邦大使は今月、ワシントンとアブダビが「ストレス耐性テスト」を受けていると述べたと報じられている。

「しかし、私たちはそこから抜け出し、より良い場所にたどり着くと確信している」とアブダビで開催された防衛会議で述べたとも報じられた。

アラブ首長国連邦は、アラブ首長国連邦へのF-35戦闘機の納入を承認するようバイデン政権に求めている。また、バイデン大統領が取り消したイエメンのフーシ派分離主義勢力を外国テロ組織として再指定するようバイデンに迫っている。

バイデン大統領はテロリストリストの再指定を検討していると述べたが、人権団体や民主党議員の一部は人道支援の提供を妨げることになると警告している。

ワシントン近東政策研究所の研究員で、財務省でイスラエルと湾岸諸国を担当の高官を務めたキャサリン・バウアーは、アメリカと湾岸諸国の間の特定の緊張は、この地域からのアメリカの後退という、より大きな感情の一部であると指摘する。

バウアーは「アメリカが十分な注意を払っていないという感覚がそうだ。アメリカが十分な注意を払っていないという感覚は、アメリカが過去に最も信頼できるパートナーでなかったという感覚に拍車をかけると思う」と述べた。

しかし、湾岸諸国との関係を改善し、石油の生産量を増やすことは、ロシアのエネルギー輸出を受け入れることに等しい、それは両者が重大な人権侵害に責任があるからだと考える人たちもいる。

複数の人権団体は、サウジアラビア主導の空爆によって何千人もの民間人が犠牲になっており、この戦禍の国が世界最悪の人道危機と分類されていることに加え、無差別暴力が形成されているということを記録している。バイデン大統領は就任1カ月でイエメンにおけるサウジアラビアの攻撃作戦に対するアメリカからの軍事支援を終了した。

「クインシー・インスティテュート・フォ・レスポンシブル・ステイトクラフトの上級研究員であるウィリアム・ハートゥングは、「サウジアラビアがイエメンで行ってきたことは、実際にはもっと悪いことだと考えているが、あまり注目されていないのだ」と述べた。

ハートゥングは続けて「ロシアが感じている圧力のほんの一部でもサウジアラビアにかければ、イエメンでの殺害を食い止めるチャンスは十分にあると思う」と述べた。

一方で、共和党側は、ガソリン価格の高騰をバイデンの責任として非難することを重要な攻撃戦略としている。

バイデンの政策よりもむしろ、複数の国際的な要因が価格高騰の主な原因である。

共和党員も一部の政権関係者も、米国での掘削をもっと進めるよう求めている。

エネルギー省のジェニファー・グランホルム長官は、今月の業界会議で、「私たちは戦争状態にあり、緊急事態であり、責任を持って短期的な供給を増やさなければならない」と述べている。

これはギリシャを含むヨーロッパの一部のアメリカの同盟諸国から支持されている主張である。

ギリシャのバルヴィシオティス・ミルティアディス外務副大臣は今週ワシントンで行った、本誌とのインタヴューの中で、「石油の輸入をロシアやペルシア湾岸諸国に依存すべきではないと思う」と述べた。

ミルティアディスは更に、「私たちは、システムをより安定させるために、目に見える、身近なエネルギー資源を開発しなければならない」とも語った。

しかし、アメリカ企業がより多くの石油を増産化するには時間がかかるため、バイデン政権は最も即効性のある解決策を模索している。

NATO大使のカート・ヴォルカーは、ロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー不足の代替を湾岸諸国に求めるというバイデン政権の戦略は正しいと指摘する。彼は、ヨーロッパ連合とイギリスもバイデンに倣ってロシアの石油と天然ガスの輸入を禁止すべきだと主張した。

ヴォルカーは「私はそれが正しいことだと考える。石油と天然ガスの市場について全員と話し合うべきだ」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)


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