古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ヨーロッパ

 古村治彦です。

 第二次世界大戦後の世界の基軸通貨となったのは、米ドルだ。米ドルが価値の基準であり、米ドルで貿易決済のほとんどが行われてきた。世界の多くの発展途上国(貧乏な国)では、自国の通貨の信用がなく、米ドルが流通するというところも多い。「自国の通貨はいつ紙切れになるか分からないほど信用はないが、米ドルは世界の超大国・派遣のアメリカの通貨だから安心だ」ということになる。日本も外貨準備高でドルを貯めこみ、また、米国債を多く買っている。米ドルは安心だ、だからこれらは安心の資産(運用)ということになる。

 アメリカではインフレ懸念から中央銀行である連邦準備制度(Federal Reserve System)が政策金利の利上げを進めている。これで市場に流れているドルを吸収しようということであるが、これは諸刃の剣だ。政策金利の上昇は住宅ローン金利に反映される。住宅ローンの返済額が大きくなれば、家を持ち切れないという人々が出てくる。そうなれば社会不安が発生する。また、住宅バブルが崩壊することで不景気に突入する可能性が高まる。しかし、金利を上げなければ、インフレ状態は続き、住宅バブルは続く。バブルはいつか弾ける。何より、米ドルの価値が下がる。これは米ドルの信用にもかかわってくる重大な問題だ。政策金利を上げても問題が起き、下げても問題が起きる。「前門の虎、後門の狼」という状態だ。アメリカはドルの信用だけは守らねばならない。そうでなければ、アメリカ国民の生活自体を維持することができなくなるからだ。そのために必死である。

 米ドルが基軸通貨の地位から転落した場合、それに代わる存在は何かということになるが、ユーロはドルと道連れであろうし、円は日本の経済力の低下もあってそのような力はない。中国の人民元が有力候補であるが、ここで出てくるのがBRICs共通通貨という候補だ。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が最初にこれらの国々の間だけで通用する通貨を作る。それが役割を拡大していき、最終的には基軸通貨となるというシナリオだ。金(きん)を後ろ盾にする通貨ということになれば、米ドルよりも信用が高まる可能性が高い。

 ドル覇権の崩壊が現実味を帯びてきたことを考えると、アメリカとノルウェー、NATOによるノルドストリーム攻撃・爆破はドル覇権を守るための動きだったという解釈もできる。ヨーロッパに安価なエネルギー源である天然ガスを供給してきたロシアはその取引決済をドルで行っていたが、西側諸国による制裁の後はルーブルで決済をするように求めた。エネルギー源を買えなければ生活は成り立たない。ヨーロッパ諸国はルーブルを手に入れるようになり、ルーブルの価値は安定することになった。英米が画策したルーブルの価値下落によるロシア経済の破綻というシナリオは崩れた。

これが進んで(これを敷衍して考えると)、BRICsの共通通貨で支払うことを求めるようになれば、共通通貨の使い勝手を考えると(ブラジル、インド。中国、南アフリカともこれで決済ができる)、ドルに頼らないということになる。ドイツにとっての最大の貿易相手国は中国だ(日本もそうだ)。ロシアとのノルドストリームを通じての天然ガス取引が実質的に続けば、ドル覇権が脅かされることになる。
 こうした動きに敏感なのがサウジアラビアだ。現在のサウジアラビアはサルマン王太子がバイデン政権との不仲を理由に、これまで強固な同盟関係にあったアメリカの意向に逆らうような動きを見せている。「西側以外の国々(the Rest)」の仲間に入る姿勢を鮮明にしている。サウジアラビアは米ドルで石油を売るということをやってきた。アメリカは極端な話をすれば、「(打ち出の小槌のように)米ドルを刷れば石油が手に入る」(アメリカ以外の国々は米ドルを手に入れるために苦労しなければならない)ということであった。しかし、米ドルの信用が落ち、ドル覇権の崩壊の足音が近づく中で、西側以外の国々(the Rest)のリーダー国である中国に近づいている。中国の仲介受け入れて、イランとの緊張緩和を決定したのは象徴的な出来事だった。サウジアラビアとしては、BRICs共通通貨の出現を待っている状況なのだろう。そのためには米ドルが紙くずになる前に、自国の資産を保全するという動きに出るだろう。その一つが金(きん)の保有量を増やすことである。

金(きん)価格が高騰しているというのは日本でも報道されている。「新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ戦争といった不安定要素があるから金が買われているんだろう」ということが理由として挙げられている。しかし、それだけではない。米ドルの基軸通貨からの転落に備えての資産保全のために金が買われている。

 私たちは世界の大きな転換点に生きているということを改めて認識すべきだ。アメリカと米ドルがいつまでも強いという確固とした信念を持っている人はまずその信念について点検して、考え直した方が良い。

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ブリックス通貨はドルの支配を揺るがすことになるだろう(A BRICS Currency Could Shake the Dollar’s Dominance

-脱ドル化(De-dollarization)はついに来たのかもしれない

ジョセフ・W・サリヴァン筆

2023年4月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/04/24/brics-currency-end-dollar-dominance-united-states-russia-china/?tpcc=recirc_trending062921

脱ドル化の話が取り沙汰されている。先月、ニューデリーで、ロシア国家議会のアレクサンドル・ババコフ副議長は、ロシアが現在、新しい通貨の開発を主導していると述べた。この通貨はBRICS諸国による国境を越えた貿易に使用される予定だということだ。BRICS諸国にはブラジル、ロシア、インド、中国、そして南アフリカが含まれる。その数週間後、北京でブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルヴァ大統領がこう言った。「毎晩のように、『なぜ全ての国がドルを基軸に貿易を行わなければならないのか(why all countries have to base their trade on the dollar)』と自問自答している」。

ユーロ、円、人民元といった個々の競争相手が存在する中で、ドルが最強の貨幣であるためにドルの支配が安定しているという説を、こうした動きは弱めている。あるエコノミストは、「ヨーロッパは博物館、日本は老人ホーム、中国は刑務所」と表現した。彼は間違ってはいない。しかし、BRICSが発行する通貨は、それとは異なる。BRICSの通貨は、新進気鋭の不満分子の新しい連合体のようなもので、GDPの規模では、覇者であるアメリカだけでなく、G7の合計を上回るようになっている。

ドル依存から脱却しようとする諸外国の政府の動きは、今に始まったことではない。1960年代から、ドル離れ(dethrone the dollar)を望む声が海外から聞こえてくるようになった。しかし、その話はまだ結果には結びついていない。ある指標によれば、国境を越えた貿易の84.3%でドルが使われているのに対し、中国人民元は4.5%に過ぎない。また、クレムリンの常套手段である嘘は、ロシアの発言に懐疑的な根拠を与えている。ババコフの提案に他のBRICS諸国がどの程度賛同しているかなど、現実的な疑問は山ほどあるが、今のところ答えは不明だ。

しかし、少なくとも経済学的な観点からは、BRICS発行の通貨が成功する見込みは新しいと言える。どんなに計画が時期尚早で、どんなに多くの現実的な疑問が残っていても、このような通貨は本当にBRICS加盟国の基軸通貨として米ドルを追い落とすことができるだろう。過去に提案されたデジタル人民元のような競合とは異なり、この仮想通貨は実際にドルの座を奪う、あるいは少なくとも揺るがす可能性を持っている。

この仮想通貨(hypothetical currency)を「ブリック(bric)」と呼ぶことにしよう。

もしBRICSが国際貿易に通貨ブリックのみを使用すれば、ドルの覇権(dollar hegemony)から逃れようとする彼らの努力を妨げている障害を取り除くことができる。こうした努力は、現在、中国とロシアの間の貿易における主要通貨である人民元のような、ドル以外の通貨で貿易を表記するための二国間協定という形で行われることが多い。障害となっているのは何か? ロシアは、中国からの輸入に消極的である。そのため、二国間取引の後、ロシアはドル建て資産に資金を蓄え、貿易にドルを使用している他の国々から残りの輸入品を購入したいと考える傾向がある。

しかし、中国とロシアそれぞれが貿易に通貨ブリックを使うだけなら、ロシアは二国間貿易の収益をドル建てで保管する必要はなくなるだろう。結局、ロシアは輸入品の残りをドルではなくブリックで購入することになる。つまり、脱ドル(de-dollarization)となるのである。

BRICSが貿易にブリックだけを使うというのは現実的な話なのか? その答えはイエスだ。

まず、BRICSは自分たちの輸入代金を全て自分たちで賄うことができる。2022年、BRICSは全体で3870億ドルの貿易黒字(国際収支の黒字としても知られる)を計上した。

BRICSはまた、世界の他の通貨同盟が達成することができなかった、国際貿易における自給自足のレヴェルを達成する態勢を整えている。BRICSの通貨統合は、これまでの通貨統合とは異なり、国境を接する国同士ではないため、既存のどの通貨統合よりも幅広い品目を生産できる可能性が高い。地理的な多様性がもたらすものであり、ユーロ圏のような地理的な集中によって定義される通貨同盟では、2022年には4760億ドルの貿易赤字が発生するという痛ましい事態が起きているが、自給自足の度合いを高めることができるのだ。

しかし、BRICSはその中だけで貿易を行う必要さえないだろう。それは、BRICSの各メンバーはそれぞれの地域で経済的な強者であるため、世界中の国々が通貨ブリックでの取引を希望する可能性が高いからだ。タイが中国と取引するためにブリックを利用せざるを得なくなったとしても、ブラジルの輸入業者はタイの輸出業者からエビを購入することができ、タイのエビをブラジルの食卓に並べ続けることができる。また、ある国で生産された商品を第三国へ輸出し、第三国から再輸出することで、二国間の貿易制限を回避することもできる。これは、関税のような新しい貿易制限を避けようとした結果である。アメリカが中国との二国間貿易をボイコットした場合、その子供たちは中国製の玩具で遊び続け、それがヴェトナムなどの国に輸出され、さらにアメリカに輸出されることになる可能性がある。

BRICS諸国の各政府が「ブリックを絶対に実現する(bric of bust)」ことを貿易条件として採用した場合、BRICS諸国の消費者に降りかかる絶対的に最悪なシナリオを、今日のロシアから予見することができる。アメリカやヨーロッパの政府は、ロシアの経済的孤立を優先してきた。しかし、一部の西側諸国の製品はロシアに流入し続けている。消費者にとってのコストは現実的だが、破滅的なものではない。BRICS諸国が脱ドル志向を強め、現在のロシアをその上限として、脱ドルのリスクとリターンのトレードオフがますます魅力的に見えるようになるであろう。

BRICS諸国の基軸通貨としてドルから変更するために、ブリックは貿易に使わない時に置いておける安全な資産も必要である。ブリックがそのようになるのは現実的なのだろうか? その答えはイエスだ。

まず、BRICSは貿易と国際収支が黒字であるため、ブリックは必ずしも海外からの資金を集める必要はないだろう。BRICSの各国政府は、自国の家計や企業が貯蓄でブリックの資産を購入するよう、飴と鞭を組み合わせて、事実上強制的に市場を出現させ、補助金を与えることができるようになる。

しかし、ブリック建ての資産は、実は海外投資家にとって非常に魅力的な特徴を持つことになる。世界的な投資家たちの資産としての金(きん)の大きな欠点は、分散投資としてのリスク低減効果があるにもかかわらず、金利が付かないことである。BRICSは金(きん)やレアアースのような本質的な価値を持つ金属を新通貨の裏付けとする予定だと言われているので、ブリック建ての利払い資産は、利払いのある金(きん)に似ていることになる。これは珍しい特徴だ。債券の利子と金の多様性の両方を求める投資家にとって、ブリック債は魅力的な資産となり得る。

確かに、ブリック債が単に金(きん)に利子がつくのと同じ効果があるものとして機能するためには、デフォルトのリスクが比較的低いと認識される必要がある。そして、BRICs諸国の政府債務でさえも、明らかになっていないデフォルトリスクがある。しかし、こうしたリスクは軽減することができる。ブリック建ての債務を発行する各国政府は、債務の満期を短くしてリスク性を下げることができる。投資家たちは、南アフリカ政府が「30年後」に返済してくれることを信用するかもしれないが、時間の単位が一年以内である場合、もしくは数年単位である場合はそうではない。また、価格に関しては、単純にそのリスクに対して投資家を補償することもできる。市場参加者がBRICsの資産を買うのに高い利回りを要求すれば、おそらくそれを得ることができるだろう。なぜなら、BRICS諸国政府はブリックの実行可能性に対価を支払うことをいとわないからだ。

公平を期すために、通貨ブリックは現実的に多くの問題を提起している。ブリックは主に国際貿易に利用され、国内での流通はない可能性が高いため、BRICS諸国の中央銀行の仕事は複雑になる。また、ヨーロッパ中央銀行のような超国家的な中央銀行を設立し、ブリックを管理することも必要である。これらは解決すべき課題だが、必ずしも乗り越えられないものではない。

BRICS加盟国間の地政学も茨の道である。しかし、BRICSの通貨は、利害が一致する明確な分野での協力を意味する。インドや中国のような国々は、安全保障上の利害が対立しているかもしれない。しかし、インドと中国は脱ドルという点で利害を共有している。そして、共有する利益については協力し、その他の利益については競争することができる。

通貨ブリックはドルの頭から王冠を奪うというより、その領土を縮小させることになるだろう。BRICSが脱ドルしても、世界の多くは依然としてドルを使用し、世界の通貨秩序は一極集中(unipolar)から多極化(multipolar)することになるだろう。

多くのアメリカ人は、ドルの世界的役割の低下を嘆く傾向にある。嘆く前に考えるべきだ。ドルの世界的な役割は、アメリカにとって常に両刃の剣(double-edged sword)である。ドルの価値を上げると、結果として、アメリカの商品とサーヴィスのコストが上がり、輸出が減少し、アメリカの雇用が奪われてしまう。しかし、アメリカ国内においては、アメリカに切り込む側の武器は研ぎ澄まされ、海外においてアメリカの敵に切り込む武器は鈍化するのであろう

ドルのグローバルな役割が、国内の雇用や輸出競争力を犠牲にしていることを、少なくとも2014年のコメントから理解しているのは、現在ホワイトハウス経済諮問委員会のトップであるジャレッド・バーンスタインだ。しかし、こうしたコストは、アメリカ経済が世界と比較して縮小するにつれて、時間の経過とともに増大する一方だ。一方、ドルの世界的な役割の伝統的な利点の中には、アメリカが金融制裁を利用して自国の安全保障上の利益を増進しようとする能力があることが指摘される。しかし、ワシントンは、21世紀におけるアメリカの安全保障上の利益は、中国やロシアのような国家主体との競争によってますます定義されると考えている。もしそれが正しいなら、そしてロシアに対する制裁の一定しない実績が示すように、制裁はアメリカの安全保障政策においてますます効果のない手段となっていくだろう。

BRICSの基軸通貨がドルに代わってブリックになった場合、その反応は多様で奇妙なものになるだろう。反帝国主義的な気質を持つBRICS諸国の高官、アメリカ連邦上院の共和党の一部、ジョー・バイデン米大統領のトップエコノミストからは、大きな拍手が送られそうだ。ドナルド・トランプ前米大統領と、彼がしばしば対立する米国の国家安全保障コミュニティからも、ブーイングが起こる可能性がある。いずれにせよ、ドルの支配が一夜にして終わることはないだろうが、ブリックが実現すれば、ドルの支配力が徐々に失われていくことになるのだ。

ジョセフ・W・サリヴァン:リンゼイ・グループの上級顧問。トランプ政権下のホワイトハウス経済諮問会議議長特別顧問・スタッフエコノミストを務めた。ツイッターアカウント:@TheMedianJoe
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争は膠着状態に陥っている。東部はロシアが既に抑え、バフムトをめぐり激戦が展開されていると報道されている。春季大攻勢(spring offensive)に向けて、ウクライナは軍の態勢を立て直しているとも報じられている。主流メディアの報道では、ウクライナ軍が優勢のはずであるが、実際には苦戦している。主流メディアのウクライナ戦争の戦況報道で利用されているのが、アメリカの戦争研究所(Institute for the Study of War)というシンクタンクの出すデータである。

この戦争研究所は食わせ物のシンクタンクだ。ネオコン一族であるケーガン家の次男で文尾塚・評論家のフレデリックの妻キンバリー・ケーガンが所長をしている。長男は文筆家・評論家のロバート・ケーガン、ロバートの妻が悪名高いヴィクトリア・ヌーランド米国務次官だ。「ネオコンのこうあって欲しい」が先に来るシンクタンクのデータであるということを踏まえて見ておかないと、「メディアの報道ではウクライナ側がかなりロシア側を押し返してないとおかしいよな」ということになる。日本の戦時中の大本営発表と同じだ。

 アメリカでは、最高機密を含むウクライナ戦争に関する米国防総省の機密文書が流出したことが話題を呼んでいる。それによれば、ウクライナ側が苦戦しており、戦争はしばらく続くだろうが、ウクライナ側がロシアを押し返すことは難しいという分析が出ているということだ。簡単に言えば、ウクライナは戦争目的となった(ゼレンスキー大統領が主張している)、「クリミア半島を含む独立時の領土全ての奪還」は不可能であるということである。不可能であることにアメリカは多大なお金を注ぎ込まねばならないことになる。それで軍産複合体が儲かれば良いということになるが、その原資はアメリカ国民の税金であり、アメリカ国民を含む世界中の人々が購入するアメリカ国債だ。

 アメリカとしてはウクライナ戦争を停戦させたい。昨年にヘンリー・キッシンジャー元米国務長官が提示したウクライナ東部をロシア側が実効支配し、ウクライナのNATO加盟は認めないという内容での停戦しかない。しかし、それではヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は失脚し、現在のウクライナ政府は持たないということになる。ゼレンスキー大統領を支え、焚きつけているのはイギリスである。イギリスはロシアを消耗させ、ヨーロッパ大陸諸国家のエネルギー源を自国の北海油田産の石油にさせて生殺与奪の権を握ろうとしている。イギリスはウクライナ戦争の停戦には反対するだろう。後ろ盾のイギリスの意向もあり、ゼレンスキーは停戦に応じることはできないということになれば、直近での停戦はできない。しかし、ウクライナ側も限界に近付いている中で、今年中に停戦を求める声も出てくるだろう。その時にゼレンスキーが邪魔であれば処分されることになる。属国の指導者の運命は悲しい。

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アメリカの情報漏洩でウクライナ戦争努力に大打撃が与えられている(US intelligence leak deals severe blow to Ukraine war effort

ブラッド・ドレス、エレン・ミッチェル筆

2023年4月10日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/3943086-us-intelligence-leak-deals-severe-blow-to-ukraine-war-effort/

ここ10年で最大のアメリカ軍機密漏洩は、ウクライナの戦争努力に深刻な打撃を与え、今年の春予想される反転攻勢を前に、ウクライナ軍にとって情報面での脅威となる。

ソーシャルメディアに流出した機密文書は、戦闘の重要な局面における軍需品、訓練、防空システムに関する詳細な情報を提示している。米国防総省は現在も文書の有効性を検証している最中だ。

アメリカとNATOの機密文書数十件(一部は「最高機密(Top Secret)」と表示されている)は、1月にインターネットの目立たない場所で流出し始め、その後はツイッターやテレグラムに流出し、先週注目を集め始めた。

これらの文書は、今年3月までの紛争状況を示しているに過ぎないが、大隊の規模、先進兵器の訓練、レオパルドII戦車などの重戦闘車両の配備など、ウクライナの軍事能力に関する情報を明らかにしている。

また、漏洩された機密情報はキエフの欠点を示している。少なくとも1つの資料には、ソ連時代の対空ミサイルシステム用の弾薬がまもなく底をつき、ウクライナの防空システムの潜在的脆弱性を露呈する可能性があると記されている。

ヨーロッパ政策分析センターの著名な研究員であるカート・ヴォルカーは、ウクライナ戦争に関するアメリカの評価と判断の「スナップショット」を世界に示すものであり、今回の流出は悪影響が懸念されると指摘している。

ヴォルカーは、「ウクライナ人、ロシア人、その他の人々に対して、『われわれの考えはこうだ』というシグナルを送ることになる」とし、「われわれの情報の質、どこから得ているのか、いくつかの手がかりを与えるかもしれない。そうなれば、私たちが情報を集めさせている人たちに、それを停止させるだろう」と述べた。

おそらく最も憂慮すべきリークは、ウクライナの防空に関する情報についてだろう。

2月の日付のついたある文書によると、S300のミサイルは5月までに、SA-11ガドフライミサイルシステムは3月末までに枯渇する。NATOによれば、両システムはウクライナの防空機能の89%を占めており、頻繁に行われるロシアのミサイル攻撃をかわすのに極めて重要である。

ロシアの軍事ブロガーたちは既に、ウクライナが配備している防空システムや戦闘機などの航空機の数を推定した文書など、流出した文書を幅広く拡散している。

NATOの評価では、ウクライナはロシアのミサイル攻撃に対しては後数波しか耐えられないとし、同時に防空システムの設置場所を示す地図も提供している。

大西洋評議会ユーラシアセンターのシニアディレクターで、元駐ウクライナ米大使のジョン・ハーブストは、ウクライナの防空に関する情報を、流出した文書の中で「最も不幸な」部分と言及した。

しかし、ハーブストは、どの文書にも、NATOの同盟国やロシアの諜報機関が既に知っている以外の重要な情報は含まれていないと述べた。

ハーブストは、「情報漏洩された結果、ウクライナの戦争努力に何らかの損害が生じたことは間違いないと思う。しかし、その損害は圧倒的なものかと言えば、おそらくそうではないだろう」と述べた。

他の複数の文書では、ウクライナの旅団の強さや能力、ウクライナがどの兵器システムで訓練を受けたかなどが説明されている。2月の日付のついたある文書では、ウクライナが保有する戦車、歩兵戦闘車、砲兵部隊の数を推定されている。

ロシア国営のタス通信は情報漏洩文書の詳細を報道したが、ロシアはこのリークについて不自然なまでに沈黙を保っている。

ロシアの軍事ブロガーたちは文書について懐疑的なようで、あるアカウント「ウォークロニクル」は、資料の誤字脱字や間違いの存在を指摘し、文書の信ぴょう性に疑義を呈している。

テレグラムで100万人以上のフォロワーを持つブロガー、ライバーは、ウクライナ側が準備不足のように見せかけ、最終的にロシアのミスを促すための「コントロールされたリークと大規模な偽情報キャンペーン」であると主張している。

米国防総省がロシア軍とその能力に関する重要な情報をどのように収集しているかをロシアが把握する可能性があるため、今回のリークはアメリカにとっても懸念となる。

情報漏洩文書には、ウクライナ軍だけでなく、戦車から大砲、航空機に至るまで、ロシア軍に関する詳細な評価も含まれている。

ブルッキングス研究所の上級研究員であるマイケル・オハンロンは、今回の情報漏洩について、「ロシアが通信セキュリティを強化し、彼らの次の動きに関する私たちの知識が減少する可能性がある」と電子メールで述べている。

現在、どれだけの文書がインターネット上に出回っているかは不明だが、複数の報告書やアナリストによると、少なくとも100の別々の文書がネット上に出現しているという。

米国防総省は月曜日、流出の規模や範囲についてコメントを避け、国防総省がまだ調査中であることを明らかにした。

広報担当のクリス・ミーガー国防長官補佐は「米国防総省は24時間体制で、流出の範囲と規模、評価された影響、緩和策を検討している」と記者団に語った。

「私たちは、問題の範囲だけでなく、どのようにこれが起こったかをまだ調査している。この種の情報がどのように、誰に配布されるかを詳しく調べるための措置がとられている。また、何が流出しているのかについてはまだ調査中である」と付け加えた。

ミーガーはまた、文書の形式が、「ウクライナやロシア関連の作戦に関する日々の最新情報や、その他の情報更新を上級指導者に提供するために使用されているものと同様の形式で、国家安全保障に非常に深刻なリスクをもたらしている」と明かした。

調査団体「べリングキャット」は、ユーザーが主にゲームなどの話題について議論するウェブサイト「ディスコード」のチャンネルを通じて、3月上旬に文書が流出したことを突き止めた。

最も早く確認されたリークでは、人気ビデオゲーム「マインクラフト」に関連するディスコードのチャンネルに10件の文書が投稿されたのが最も早く確認されたリークである。べリングキャットは、別のディスコードのサーバーで1月の時点でリークがあった可能性があると発表している。

米国防総省は先週、文書流出について調査し、それに関する正式な刑事調査を司法省に任せる決定を行ったと発表した。米政府関係者は月曜日、調査は「最優先事項」であるとし、文書の一部が改ざんされていることを指摘し、文書を調べる際には注意を促した。

米国防総省は、何枚が改ざんされているかは明らかにしていない。しかし、先週注目された文書では、戦死したウクライナ人の数が膨らみ、ロシアの犠牲者の数が大幅に少なく表示されていた。

ウクライナ大統領府長官顧問のミハイロ・ポドリアックは、情報漏洩について、西側同盟諸国間の「注意をそらし」「不和を招く」試みと形容した。

月曜日、米国防総省は、更に多くの文書がネット上に現れる可能性があるのか、米国防総省の何人の職員がこれらの文書にアクセスできたのかについては質問を受けても説明しなかった。複数の政府関係者によると、今回の情報流出により、米国防総省は一部の機密情報が誰にどのように共有されているかを見直すための措置を講じることになったということだ。
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 国際関係論において重要な概念に「安全保障のディレンマ(security dilemma)」がある。安全保障のディレンマとは、ある国が自国の安全保障環境を改善しようとして、同盟強化や国防費増額、軍備拡張といった行動を取った結果、周辺国などの他国も同様の行動を取ることで、より安全になるのではなく、緊張が高まって、最終的に戦争に至るという状況のことである。軍拡を行うことがかえって安全を脅かす負のスパイラルに陥るということだ。

 安全保障のディレンマが大きな理由に「コミュニケイションができない」ということが挙げられる。世界各国は首脳会談をはじめとして様々なレヴェルで会談や会議を行っている。それは、お互いの意図を理解するためである。冷戦中であれば、米ソ両超大国間には首脳同士の「ホットライン」が準備されていた。これはジョン・F・ケネディ米政権とニキータ・フルシチョフ書記長率いるソ連が核戦争手前まで緊張を高めた、キューバ危機の反省から、両国間でホットラインが設置された。

 ある国は周辺国の意図を行動や事象から判断する。防衛予算(軍事予算)や防衛装備の変化、外交政策の変化から意図を読み取ろうとする。そうした中で、「不安感」「恐怖感」を募らせると、防衛力強化に走る。一方、その国を見ている周辺国は、「防衛力強化を行っているが、何か軍事的な意図があるのではないか」ということで、こちらも「不安感」「恐怖感」を募らせる。そうして軍拡競争が始まる。「軍拡競争に負ければ、相手の下風に立たねばならない」ということで無理をするが、その最高点で、「これ以上は無理だが、今なら乾坤一擲で勝負ができるかもしれない」ということで、冒険的、賭博的な行動に出ることがある。

 日本は岸田政権になっても軍拡の姿勢を強めている。アメリカによる軍事予算のGDP2%までの引き上げを進めようとしている。また、先制攻撃可能な体制を整えようとしている。日本政府は「周辺の安全保障環境が不安定なので防衛力を強化しなければならない」という大義名分を掲げている。それを周辺諸国から見れば「軍事力強化」ということになる。そうなれば、周辺諸国もまた軍事力を強化することになる。そうなれば「周辺の安全保障環境が不安定」ということになる。日本は安全保障のディレンマに陥っていることになる。

 このブログで私は何度も書いているのでもう繰り返さないが、日本は日本国憲法第9条を堅持し、軍拡を進めてはいけない。安全保障のディレンマから脱出しなければならない。

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「安全保障のディレンマ」を理解している人はまだいるのか?(Does Anyone Still Understand the ‘Security Dilemma’?

-古典的な国際関係理論が厄介な国際的な諸問題を説明するのに役立っている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2022年7月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/07/26/misperception-security-dilemma-ir-theory-russia-ukraine/

「安全保障のディレンマ(security dilemma)」は、国際政治や外交政策を研究する上で、中心的な概念である。安全保障のディレンマとは、ある国家が自国の安全性を高めるために取った行動(軍備の増強、警戒態勢の強化、新たな同盟関係の構築など)が、他国の安全性を低下させ、他国も同様の対応を取るようになるというものだ。1950年にジョン・ヘルツによって初めて提唱され、その後、ロバート・ジャーヴィス、チャールズ・グレイザーなどの研究者によって詳細に分析されている。その結果、敵対関係のスパイラルが拡大し、どちらの国も以前より良い状態にはならないということになる。

もし、あなたが大学で国際関係の基礎的な授業を受けたにもかかわらず、この概念について学ばなかったのであれば、その大学に連絡して返金を求めるのが良いだろう。しかし、その単純さと重要性を考えると、外交・安全保障政策を担当する人々が、しばしばこの概念に気づいていないように見えることに、私はしばしば驚かされる。

NATO本部からツイートされた、同盟に関するロシアの様々な「神話(myths)」に答える最近のプロパガンダ・ビデオを見てみよう。このヴィデオは、NATOが純粋に防衛的な同盟であることを指摘し、ロシアに対する攻撃的な意図は持っていないと述べている。これらの保証は事実として正しいかもしれないが、安全保障のディレンマは、何故ロシアがNATOの主張を額面通りに受け取らず、NATOの東方拡大を脅威と見なす正当な理由があるのかを説明している。

NATOに新しい加盟国を加えることで、これらの国々の一部はより安全になったかもしれない(だからこそ加盟を希望したのだから)。しかし、何故ロシアがそのように考えないか、またそれに対して様々な好ましくないこと(クリミア奪取やウクライナ侵攻など)をするかもしれないことは明らかであるはずである。NATO高官たちはロシアの恐怖を空想や「神話」と見なすかもしれないが、だからといってそれが全く馬鹿げているとか、ロシア人が純粋に信じていないということにはならない。驚くべきことに、著名な元外交官を含む多くの賢くて教養のある西洋人たちは、自分たちの善意が他人には明白でない(their benevolent

また、イランとアメリカ、そしてアメリカにとって最重要な中東の従属諸国(clients)との間にある、疑いの深い、非常に対立的な関係について考えてみよう。アメリカ政府当局は、イランに厳しい制裁を加え、体制転換(regime change)をちらつかせ、核インフラに対するサイバー攻撃を行い、イランに対する地域連合を組織することでアメリカと中東地域のパートナー諸国がより安全になると考えていると思われる。一方、イスラエルはイランの科学者を暗殺することで自国の安全が高まると考え、サウジアラビアはイエメンに介入することでリヤドをより安全にできると考えている。

驚くべきことではないが、国際関係論の基本理論によれば、イランはこうした様々な行動を脅威(threatening)と見なし、ヒズボラの支援、イエメンのフーシ派の支援、石油施設や船舶への攻撃、そして何よりも自前の核抑止力構築の潜在能力を開発するなど、独自の対応を行っている。しかし、こうした予測可能な対応は、近隣諸国の恐怖心を煽り、再び安全性を低下させ、スパイラルを更に拡大させ、戦争の危険性を高めるだけのことだ。

同じ大きな動きがアジアでも起こっている。こちらも驚くべきことではないが、中国はアメリカの長年にわたる地域的影響力、特に軍事基地ネットワークと海・空のプレゼンスを潜在的脅威(potential threat)と見なしている。中国が豊かになるにつれて、その富の一部をアメリカの地位に対抗できる軍事力の構築に充てるようになったのは当然である。皮肉なことに、ジョージ・W・ブッシュ政権はかつて中国に対し、軍事力の強化を追求することは「時代遅れの道」であり、「自国の偉大さの追求を妨げる」ことになると伝えようとしたが、その一方でワシントン事態の軍事費は急増していた。

近年、中国はいくつかの領域で既存の現状を変えようとしている。このような行動により、中国の一部の近隣諸国は安全性を低下させ、政治的に接近し、アメリカとの関係を強化し、自国の軍事力を増強することによって、北京は、アメリカが中国を「封じ込め(contain)」ようと組織的に努力しており、中国を永久に脆弱なままにしておこうとしていると非難するに至っている。

これら全てのケースにおいて、安全保障上の諸問題と見なされるものへの対処は、相手側の安全保障上の懸念を高めるだけであり、その結果、相手側の懸念がより強まるという反応を引き起こした。このような場合、お互いに相手の行動に対する防衛的な反応としか考えられず、「誰が始めたか」を特定することは事実上不可能になる。

重要な洞察は、武力行使などの攻撃的行動は、必ずしも悪(evil)や攻撃的な動機(aggressive motivations)、言い換えれば、それ自体のための富、栄光、力への純粋な欲求から生じる訳ではない、ということだ。しかし、リーダーたちが自分の動機は純粋に防衛的なものであり、この事実は他人には明らかであるべきだと考えている場合(上記のNATOのヴィデオが示唆しているように)、相手の敵対的な反応を、強欲(greed)、生来の好戦性(innate belligerence)、または悪意のある外国の指導者の悪意と譲れない野心(evil foreign leader’s malicious and unappeasable ambitions)の証拠として見る傾向がある。そして、外交はやがて罵り合い(name-calling)の場へと変化する。

確かに、この問題を理解し、安全保障のディレンマがもたらす悪弊を緩和しようとする政策を選択した世界の指導者たちもいる。例えば、キューバ危機の後、ジョン・F・ケネディ米大統領とニキータ・フルシチョフ・ソ連首相は、有名なホットラインを設置し、核軍備管理のための本格的な取り組みを開始することによって、将来の対立(confrontations)のリスクを減らす努力をし、成功させた。

オバマ政権は、イランとの核合意を交渉した際にも同様のことを行った。それが、イランが爆弾に手を出すことを阻止し、時間をかけて関係を改善する可能性を開く第一歩になると考えたからだ。この取引の最初の部分はうまくいったが、その後、ドナルド・トランプ政権がこれを放棄する決定を下したことは、全ての当事者に不利益をもたらす大失策だった。モサドの元長官タミール・パルドが分析しているように、イスラエルがドナルド・トランプ米大統領(当時)に協定からの離脱を説得するために行った大規模な努力は、「国家樹立以来最も深刻な戦略的失敗の1つ」であった。

作家のロバート・ライトが最近指摘したように、2014年のロシアのクリミア占領後、バラク・オバマ米大統領(当時)がウクライナに武器を送らないという決定を下したのも、同様に安全保障のディレンマの論理を理解してのことであった。オバマは、ウクライナに攻撃的な武器を送ると、ロシアの恐怖を悪化させ、ウクライナ人がロシアのそれまでの利益を覆すことができるとロシア人が考えるようになり、それによって更に大規模な戦争が引き起こされることを理解していたとライトは主張している。

悲劇的なことに、トランプ政権とバイデン政権がキエフへの西側諸国製兵器の提供を強化した後、ほぼ同様のことが起こった。ウクライナが急速に欧米諸国の軌道に乗るという恐怖がロシアの恐怖を高め、プーティンを違法かつ高価で長引く予防戦争(preemptive war)を引き起こすという結果に至ったのである。ウクライナの自衛能力向上を支援することは理にかなっていたとしても、モスクワを安心させることなくそうすることは、戦争の可能性をより高めることになった。

それでは、安全保障のディレンマの論理は、代わりに融和政策(policies of accommodation)を規定するのだろうか? 残念ながらそうではない。その名が示すように、安全保障のディレンマとは、ある国家だけが一方的に武装解除したり、相手に譲歩を繰り返したりしても、その安全が保証されないというディレンマのことである。敵対関係の核心が相互不安(mutual insecurity)であるとしても、一方に有利な譲歩(concessions)をすることで、克服しがたい優位を獲得し、永続的に自国の安全を確保しようと、攻撃的な行動に出るかもしれないのだ。残念なことに、無政府状態(anarchy)に内在する脆弱性(vulnerabilities)に対して、迅速で簡単、かつ100%確実な解決策は存在しない。

その代わり、政府は国家戦略(statecraft)、共感(empathy)、そして合理的な軍事政策(intelligent military policies)を通じてこれらの問題を管理するよう努めなければならない。ロバート・ジャーヴィスが1978年に発表した『ワールド・ポリティックス』誌掲載の記事の中で説明したように、状況によっては、特に核の領域で防衛的な軍事態勢を整備することによって、このディレンマを緩和することができる場合がある。この観点からすれば、第二次報復戦力抑止力(second-strike deterrent capability)によって国家を守るが、相手国の第二次報復戦力を脅かさないため、安定化させることができる。

例えば、弾道ミサイル潜水艦は、より信頼性の高い第二次攻撃力を提供するが、互いに脅威を与えないため、安定化するのである。これに対して、反撃兵器、戦略的対潜水艦戦能力、ミサイル防衛は、相手国の抑止力を脅かし、安全保障上の不安を増大させるため、不安定化させるものである。批評家たちが指摘するように、通常戦力を扱う場合、攻撃と防御の区別ははるかに困難だ。

また、安全保障のディレンマが存在する以上、国家は自らを脆弱にすることなく信頼を構築できる分野を探すべきであると考える。その1つが、互いの行動を監視し、敵対国が事前の合意に対して不正を行っていることを明らかにできる制度を設けることである。また、安定を望む国家は、通常、現状を尊重し、事前の合意を遵守することが賢明であることを示唆している。露骨な違反は信頼を失い、一度失った信頼はなかなか回復しない。

最後に,安全保障のディレンマとおよび誤認に関する多くの関連文献の論理は,国家は,自分たちの真の懸念と何故そのように行動しているのかを説明し,説明し,もう一度説明するために,通常よりも多く努力をしなければならないことを示唆している。ほとんどの人、そして政府は、自分の行動は実際よりも相手に理解されやすいと考える傾向があり、相手が理解しやすく、信じやすい言葉で自分の行動を説明することはあまり得意ではない。この問題は、現在、特にロシアと欧米諸国の関係で顕著で、互いに相手を言い負かし、相手の行動に何度も驚かされているような状況だ。

特に、自分のしていることにインチキな理由をつけることは有害だ。それは、インチキな理由付けをしてしまうと、他人が自分の言葉をまともに受け止めないと感覚的に判断してしまうからである。経験則から言うと、敵対者はあなたのやっていることとその理由に関して最悪の事態を想定しているので、彼らの疑念が誤りであることを説得するために多大な努力が必要となる。何より、このアプローチは政府に共感すること、つまり相手の視点から問題がどのように見えるかを考えることを促すものであり、相手の見解が的外れであっても常に望ましいことである。

残念ながら、これらの方策は、国際政治を苦しめる不確実性を完全に排除したり、安全保障のディレンマを無意味なものにしたりすることはできない。より多くの指導者たちが、良かれと思った政策が意図せず他人を不安にさせていないかどうかを考え、その不安をある程度は軽減するような形で問題の行動を修正できないかどうかを検討すれば、より安全で平和な世界が実現するはずである。この方法はいつもうまくいくとは限らないが、もっと頻繁に試されるべきだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 日本でも様々な物品で値上げラッシュが続いている。世界規模で食料価格とエネルギー価格の高騰が続いている。今年の夏の電気代を見て驚いた人も多いだろう。ヨーロッパ諸国とアメリカは、ウクライナ戦争勃発後に、対ロシア制裁を行い、ロシアを早期に屈服させる意図があったがこれに失敗し、戦争は続き、世界各国で深刻な物価高が起きている。ヨーロッパ諸国はロシアからの天然ガス輸入に依存していたところに、それが途絶してしまったために、厳しい状況になっている。そして、よりエネルギーを必要とする冬はより厳しい状況になると予想されている。
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天然ガスの価格の推移

 以下の記事によると、ヨーロッパ諸国は通常よりも10倍も高い価格で天然ガスを購入している。そして、通常であれば夏の時期に天然ガス貯蔵施設を満杯にして冬に備えることになっているのが、それができない状況になっている。そこで、ロシア以外の国々からの輸入を企図しているが、それもうまくいっていないということだ。

 ヨーロッパ諸国では、ネクタイをしない、エアコンをかけている店のドアを開けっぱなしにしないといった、涙ぐましい努力がなされている。今年の冬はエアコンに頼らないということで、薪を貯蔵している人々も出ているようだ。

 こうした厳しい状況の中で、「ウクライナ戦争を早く止めるべきだ」「アメリカが停戦に持っていくか、天然ガスの供給を行うかをすべきだ」という声がヨーロッパ諸国で大きくなっている。ウクライナ戦争がこのまま継続すれば、エネルギー価格高騰のままで冬を迎えることになれば、ヨーロッパ諸国に住む人々にとっては自分たちの生活や生命が脅かされる事態となる。そうなればウクライナのことに構っていられるか、という考えが出てくるのは自然なことだ。

 ヨーロッパ諸国が天然ガスの供給を世界規模に拡大すれば、世界のエネルギー価格は高騰したままだ。天然資源を輸入に依存している日本にとっても他人事ではない。ヨーロッパ諸国と天然ガスをめぐって競争しなければならない状況になる。中国やインドといった国々はヨーロッパに向かうはずだったロシアからの天然ガスを手に入れることが出来るので、この競争に参加しないだろうからこれはまだ救いとなる。しかし、現状が続けば、日本もまた厳しい冬を迎えねばならない。

 ウクライナ戦争は一刻も早く停戦すべきだ。そして、対ロシア制裁を解除して、ロシアからの天然資源(肥料の原材料も含む)が世界規模で流通するようにすべきだ。これは善悪の問題ではない。貧困に苦しむ世界中の多くの人々の生存に関わる問題だ。

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ヨーロッパのエネルギー危機がどれほど深刻かをあなたは知らない(You Have No Idea How Bad Europe’s Energy Crisis Is

-天然ガスの価格は通常よりも10倍になっており、産業界は停滞し、消費者たちは怒り、政治家たちはパニックに陥っている。

クリスティーナ・ルー筆

2022年8月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/26/europe-energy-crisis-natural-gas-economy-winter/

世界のほとんどの国がエネルギー価格の上昇に苦しんでいるとすれば、ヨーロッパは、冬の到来とともに消費者たちに大きな経済的苦痛を与えないために、緊急の救済策や対策を講じなければならないほど、窮地に追い込まれている。

最大の問題は天然ガス価格の高騰で、ヨーロッパ全域に大打撃を与え、インフレを加速させ、産業を停滞させ、一般市民が電気料金の請求書を手にしたときに戦慄するような事態を引き起こしている。ヨーロッパの天然ガス価格は現在、過去10年間の平均の約10倍で、アメリカの約10倍の価格になっている。コンサルタント会社「ラピダン・エネルギー・グループ」のグローバル・ガス市場の専門家であるアレックス・マントンは、ヨーロッパの天然ガスは非常に高価で、原油1バレルに500ドル払っているようなものだと言う。しかも、これはまだましな時期の話だ。

マントンは「事態は危機的状況にある。ガス需要がピークを迎える冬まで、あと数カ月しかない。冬の間、需要に見合うだけのガスが確保できるかどうか、本当に不安だ」と述べた。

天然ガス問題は、ロシアのウクライナ戦争によるところが大きい。ウクライナ戦争によって、ロシア産ガスのヨーロッパへの輸出が途絶え、他の地域でも価格が上がっている。しかし、戦争だけが原因ではない。気候変動によって河川が枯渇し、ヨーロッパ各地の原子力発電所の多くが停止している。また、ヨーロッパの政策立案者たちの間では、システムにショックアブソーバーを組み込む方法について、10年以上にわたって混乱が続いている。ドイツとフランスの電力価格は今週再び記録的な水準に達し、大陸の電力危機がますます深刻化していることを反映している。各国が経済的な圧力に屈する中、絶望的な時間が絶望的な手段を求めている。イギリスは家庭用エネルギーコストの上限を80%引き上げると発表し、ドイツは約500ユーロの値上げを行った。

ドイツのロベルト・ハーベック経済大臣は、「ドイツのエネルギー市場は崩壊し、それに伴ってヨーロッパのエネルギー市場の大部分も崩壊してしまうだろう」と述べた。

通常、ヨーロッパでは、夏の間にガス貯蔵量を補充し、使用量の多い冬に賄うことができる。しかし、寒さに向かう時期を控え、ロシアが天然ガスの流れを制限している今、ヨーロッパは時間との戦いに突入している。専門家たちによれば、これまでのところ、ヨーロッパ諸国はほぼ計画通りに進んでいるが、だからといって冬になったら困るというわけではないということだ。

マントンは次のように述べている。「冬になると、ヨーロッパは通常、「貯蔵しているガスを大量に使い、同時に他の供給源から大量のガスを輸入する。その両方が必要だ。しかし、今年の冬を考えると、ロシアのガスがまったく供給されなくなるという現実的な脅威がある」。平時には、ロシアは、ヨーロッパの天然ガス輸入の約40パーセントを供給している。

冬にロシアの天然ガス供給がなければ、ヨーロッパ諸国はアメリカなどからの液化天然ガス(LNG)の輸入に更に頼らざるを得なくなるだろうとマントンは付け加えた。問題は、液化天然ガスの大口需要先であるアジアが、同じように液化天然ガスの供給を競っていることだ。つまり、ヨーロッパ東部からの古いパイプ式ガスよりも常に価格が高くなる。

マントンは更に「それが、ヨーロッパと世界が直面している危機だ」と述べた。

ヨーロッパがモスクワのエネルギー供給を放棄したため、多くの指導者たちが他の国との代替取引と供給の確保を急いだ。イタリアはアルジェリアからより多くの天然ガスを確保し、他の国々はアゼルバイジャン、ノルウェー、カタールに目を向けている。ドイツはカナダとの新たな液化天然ガス取引に期待を寄せているが、カナダはあまり楽観的でない。また、ドイツは5つの浮体式液化天然ガス基地を建設中であり、オランダ、フィンランド、イタリアも浮体式液化天然ガス基地を建設してガス輸入の準備を進めているなど、液化天然ガスインフラへの投資がかなり進んでいる。

しかし、当面の間、エネルギー専門家は、各国が供給を補強するためにできることは限られていると指摘する。コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターの創設者であり、バラク・オバマ前米大統領の元特別補佐官であるジェイソン・ボードフは、「ヨーロッパへの追加供給には当面限界がある」と述べている。

ヨーロッパの指導者たちも内向きになり、電力使用量を抑制するための広範囲な省エネ策を制定している。スペインは以前、節電のために労働者にネクタイをしないよう勧告していたが、今週、消費を抑えるための冷暖房規則を含む新しい節電計画を承認した。フランスは、冷房の効いた店舗がドアを閉めない場合、罰金を科すと圧迫し、ドイツはベルリンのモニュメント脇のスポットライトを消した。また、一部のドイツ人は自らの手で、来るべき冬に備え、薪を備蓄している。このような動きは、ドイツが現在進行中の危機を理由に最後の原子力発電所の段階的廃止を延期することを議論している時に起こったものである。

ボードフは次のように語っている。「ヨーロッパが過去に経験したことのないような最悪のエネルギー危機の最中に、更に原子力発電所を廃止するのは見当違いに思える。それは、失われた原子力の供給を補い、人々のために電力を供給し続けるために、天然ガスのような代替エネルギーの供給量を見つける必要があり、穴を少しばかり深くするだけのことだ」。

ラピディアン・エネルギー・グループのグローバルなガス市場の専門家であるマントンは、施設を稼働させ続けることは口で言うほど簡単なことではないと言う。マントンは「これらの原子力発電所を運営する企業は、特定の時点、つまり今年の年末に運転を終了する計画で動いており、すでにそれに基づいて発電所を管理している。今、“継続させたい”と言えば、状況はより複雑になる」と述べている。

技術者たちが奔走する一方で、政治家たちは集まって協議しようとしている。金曜日、チェコのヨゼフ・シケラ産業相は、チェコ共和国がヨーロッパ連合のエネルギー理事会に臨時会合を開くよう要請すると述べた。

産業界と家庭がどれだけ持ちこたえられるかは不明である。コンサルタント会社オックスフォード・エコノミクスによれば、エネルギー価格の高騰とGDPの大幅な下方修正により、英国は2桁のインフレイションに見舞われているという。ヨーロッパもそれほど良い状況にない。オックスフォード・エコノミクスは報告書の中で次のように書いている。「ヨーロッパの製造業は今後複数の四半期にわたって景気後退を経験すると思われるが、家計にも影響が及ぶだろう。ガソリンと電気料金の値上げは消費者に大きな打撃を与え、値上げ幅が大きいため、政府の更なる介入の実施可能性は高いと考えられる」。

今のところ、ヨーロッパ大陸は長く辛い道のりを歩んでいるように見える。マントンは「ヨーロッパは、事態が好転する前に悪化することを覚悟しているようなものだ。大きな問題は、事態がどの程度悪化するかだ」と述べた。

※クリスティーナ・ルー:『フォーリン・ポリシー』誌編集員。ツイッターアカウントは@christinafei
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 古村治彦です。

 ロシアのウラジミール・プーティン大統領の「頭脳」と呼ばれるアレクサンドル・ドゥーギンという学者については日本でも報道されている。ドゥーギンの「ユーラシア主義」という考えを基にしたシナリオ通りにプーティン大統領が動いているというものだ。ドゥーギンの主張するユーラシア主義とは、ユーラシア大陸の多くの部分を占めるロシアが中国も含めて、ヨーロッパからアジア地域まで支配する帝国を構築するというものだ。これは現状、「偉大なロシア帝国」という歴史を捻じ曲げた妄想に基づいた戯言ということになる。
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アレクサンドル・ドゥーギン

 ロシア帝国、その後のソ連は、版図は巨大であり、その軍事力も強大だった。ソ連時代にはある時期までは経済力も高かった。しかし、「世界を支配するロシア帝国」という時代はなかった。また、これからもそれはないだろう。人口が少なく、経済力も弱く、世界各国への影響力も限定的だ。一方、ロシアが支配するとした中国は経済力、軍事力、世界への影響力を見れば、ロシアを大きく凌駕する。歴史的に見ても、中国の歴代王朝、帝国は世界を支配するほどの力を持っていた。また、世界初の世界帝国はモンゴル帝国である。現在にモンゴル帝国を復活させるとすれば、それは中国であって、「タタールの軛」という言葉もあるように何百年も支配されてきたロシアではない。

 ロシアは「ヨーロッパに裏切られてきた」という強い考えがあるのだろうと私は考える。ヨーロッパが華やかできらびやかで、様々な近代的な価値観やイデオロギーを広めてきて、それらを受け入れてみたら、大失敗だったという思いがあるのだろう。その最たるものが、共産主義と革命ということになるだろう。ロシアはそれらによって汚された、ロシアらしい発展を阻害されたという思いがあるのだろう。この点は理解できる。そのために、「偉大なロシア帝国」という幻想を持つのも理解できる。そして、反西洋としての動き、ロシアの影響圏にあるべきウクライナがヨーロッパに奪われることの危機感からウクライナ戦争を起こしたということにもなる。

 ヨーロッパ諸国はロシアを恐れながら馬鹿にしてきた。そして、ヨーロッパの一員として迎え入れるということをしてこなかった。ロシアの天然資源に依存しながら威張り腐って、「ロシアは国家体制から変革しないとね、とても私たちの仲間だとは言えませんよ」という舐め腐った態度を取ってきた。ヨーロッパの反ロシア感情は理解できるが、冷戦が終わった段階でNATO(旧ソ連を標的とした軍事同盟)を解体できなかったことが現在の状況を生み出したとも言える。

 ロシアはヨーロッパを離れ、中国のジュニアパートナーとなって、一帯一路計画に協力することで生き延びる、これしかない。

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論説:「プーティンの頭脳」と呼ばれる男が描くヨーロッパの分裂と中国の没落(OpinionThe man known as ‘Putin’s brain’ envisions the splitting of Europe — and the fall of China

デイヴィッド・フォン・ドレール筆

2022年3月22日

『ワシントン・ポスト』紙

https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/03/22/alexander-dugin-author-putin-deady-playbook/

ロシアのウラジミール・プーティン大統領は、ウクライナ侵攻の前夜、ウクライナとウクライナ人の存在を否定する長々とした演説を行い、欧米諸国のアナリストたちが演説の内容が奇妙でかつタガが外れたものだと感じた。奇妙なこと、まさにそうだ。しかし、そうではない。その分析は、アレクサンドル・ドゥーギン(Aleksandr Dugin)というロシア帝国を最大限に利用するファシストの預言者の著作から直接もたらされたものだ。
ドゥーギンがロシアの指導者に与えた知的影響は、ポスト・ソビエト時代を研究している人たちにはよく知られており、中でもドゥーギン(60歳)は「プーティンの頭脳」と呼ばれることがある。彼の研究は、ドゥーギンが30年近く中心的存在であったヨーロッパの「新右翼(new right)」や、アメリカの「オルト・ライト(alt-right)」にもよく知られている。実際、ロシア出身で白人民族主義者のリーダー、リチャード・スペンサーの元妻であるニーナ・クープリアノヴァは、ドゥーギンの著作をいくつか英語に翻訳している。

しかし、ウクライナへの無差別爆撃を世界が恐怖と嫌悪の目で見ている今、ドゥーギンの致命的に危険な思想をより広く理解することが必要である。ロシアは過去20年間、彼のプレイブックを実行してきた。そしてその結果、私たちは再び世界大戦の瀬戸際に立たされることになった。

ソ連末期の衰退の産物であるドゥーギンは、失敗した現在を説明するために、神秘主義を吹き込み、権威に従順な、強力で輝かしい過去を発明する政治理論家の長く悲惨な系譜に属している。未来は、リベラルで商業的でコスモポリタンな現在(しばしばユダヤ人に代表される)から、この過去を取り戻すことにあるのだ。このような思想家は、100年前、第一次世界大戦のヨーロッパの残骸の中で全盛期を迎えていた。イタリアン・ファシズムの狂僧ユリウス・エボラ、反動的なフランス人ナショナリストであるシャルル・モーラス、アメリカの狂信的なラジオ司会者チャールズ・コフリン、そして『我が闘争』というドイツ語の本の著者がそうであった。

ドゥーギンは、ロシアの視点から、本質的に同じ物語を語っている。近代化が全てを台無しにする前に、精神的に動機づけられたロシアの人々は、ヨーロッパとアジアを一つの大きな帝国に統合し、ロシア民族が適切に支配することを約束した。しかし、アメリカやイギリスが率いる腐敗した金儲け最優先の個人主義者たちが、ロシアの運命を妨げ、「ユーラシア(Eurasia)」(将来のロシア帝国を指す彼の言葉)を衰退させたのである。

1997年に刊行された大著『地政学の様々な基盤:ロシアの地政学的将来』で、ドゥーギンはそのゲームプランを詳細に描いている。その内容は以下の通りだ。ロシアの工作員たちは、アメリカ国内の人種的、宗教的、部門的な分裂を煽り、アメリカの孤立主義的な派閥の成長を促すために活動する。イギリスでは、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの分離主義運動やヨーロッパ大陸との歴史的な対立を悪化させることに焦点を当てた心理オペレーションが必要である。一方、西ヨーロッパ諸国は、石油、ガス、食糧などの天然資源の魅力によってロシアの方向に引き寄せられるはずである。NATOは内部から崩壊するだろう。

プーティンはドゥーギンの助言に忠実に従った。アメリカ連邦議会の廊下で窓を割る暴徒、イギリスのEU離脱、ドイツのロシア天然ガスへの依存の高まりを見て、うまくいっていると感じたに違いない。西側諸国を貶めることがうまくいったので、プーティンはドゥーギンのテキストのページに目を向け、こう宣言した。「ウクライナは領土的野心を持った独立国家であり、ユーラシア全体にとって大きな危険性を持っている」「ウクライナ問題の解決なしに、大陸政治を語ることは一般的に無意味である」と宣言している。

では、プーティンがウクライナにおける「ロシア問題」を「解決」できたとして、次に来るものは何だろうか。ドゥーギンは、ヨーロッパをドイツとロシアの勢力圏に徐々に分割し、最終的にドイツの資源ニーズを掌握することでロシアが主導権を握ることを想定している。イギリスが崩壊し、ロシアがその破片を拾い上げるとき、ユーラシア帝国は、ドゥーギンの言葉を借りれば、「ダブリンからウラジスヴォストクまで」広がるだろうということだ。

プーティンの中東への二枚舌の侵攻は、ドゥーギンの考えるモスクワ・テヘラン軸の影響を受けている。イスラエル政府は目を覚まし、サモワールの匂いを嗅いで、ロシアとの駆け引きをやめるべきだ。ニューデリーの民族主義政府を誘惑しているのは、ユーラシア帝国はインド洋まで広がっていなければならないというドゥーギンの主張の反映である。

西側諸国の意思決定者がドゥーギンの神秘的な誇大妄想を真剣に受け止めることが重要であるのと同様に、中国の習近平にとってもそれは急務である。習近平とプーティンは先月、アメリカを切り崩すための提携を発表した。しかし、ドゥーギンによれば、中国もまた倒れなければならない。アジアにおけるロシアの野望は、「中国国家の領土的崩壊、分断、政治的・行政的分割」を必要とするとドゥーギンは書いている。極東におけるロシアの自然なパートナーは、ドゥーギンによれば、日本である。

ある意味で、600ページに及ぶドゥーギンの著書は、一つの思想に集約される。第二次世界大戦に勝利したのは間違った同盟(wrong alliance)である。ヒトラーがロシアに侵攻しさえしなければ、イギリスは崩壊していたかもしれない。アメリカは自国にとどまり、孤立主義で分裂しただろう。日本はロシアのジュニアパートナーとして旧中国を支配していただろう。

アイルランドから太平洋まで広がるファシズム。これは妄想だろうか? あくまで幻想であって欲しい。しかし、暴君がこうした妄想を抱くとなればは現実世界にとって極めて重要なこととなる。

※デイヴィッド・フォン・ドレール:『ワシントン・ポスト』紙の隔週コラムニスト。『タイム』誌元編集長。4冊の著作を発表しており、『偉大さへの台頭:エイブラハム・リンカーンとアメリカの最も危険な年』と『三角形:アメリカを変えた火』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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