古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:ラウル・カストロ



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 パナマで開かれた米州首脳会談において、アメリカのオバマ大統領とキューバのカストロ議長の会談が行われました。その詳しい内容が書かれた記事を皆様にご紹介します。

 

 オバマ大統領は「体制転換(regime change)」のためにキューバに圧力をかけることはないと述べました。ここが会談の肝です。これでヒラリーや共和党を縛ることになりました。北米、中米、南米各国の指導者たちが集まる米州首脳会談でこうした発言を行ったことは大きな意味があります。もしこの発言とは違うことをするとなると、アメリカに対する信頼と敬意は大きく傷つけられてしまうからです。

 

 翻って日本の指導者、政治家、官僚、知識人について考えてみると、何とも暗澹たる気持ちになります。

 

==========

 

オバマとラウル・カストロが会談(Obama meets with Raúl Castro

 

エリオット・スミロウウィッツ・マーク・ヘンシュ筆

2015年4月11日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/blogs/blog-briefing-room/news/238537-obama-meets-with-cuban-leader-raul-castro

 

 オバマ大統領は土曜日午後、キューバの指導者ラウル・カストロ(Raul Castro)と会談した。オバマ大統領はこの会談を「歴史的会談」と呼んだ。

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 取材した記者団によると、パナマ・シティで開催された米州首脳会議の場で、キューバの指導者カストロ議長に対して、「私たちは今、共に未来に向かう道筋を進む位置に立っています」と述べた、ということだ。

 

 オバマ大統領は続けて「ゆっくり時間をかけて、私たちはページをめくり、2国の間の新しい関係を構築することが出来ます」と述べた。

 

 オバマ大統領は、アメリカとキューバが最初にやるべき仕事は、それぞれの国の首都に大使館を開設することだと語った。

 

 カストロ議長は通訳を介して、オバマ大統領の発言に全面的に同意すると述べた。カストロ議長は更に自分たちはお互いに対して敬意を払いつつ、一致できない点には不同意を表明することが出来ると述べた。

 

 カストロ議長は次のように述べた。「私たちは全ての議題について議論をしたいと思っているが、それには忍耐も必要です。大変な忍耐が必要となるでしょう。今日同意できないことでも、明日には同意できるということも出てくるでしょう」

 

 2人の指導者たちは、新たに大使館を開設することに向けての大きなハードルは実務面になるだろうと述べた。

 

 オバマ大統領はアメリカの外交官たちにとってキューバで職務を遂行するにあたり、アクセスの緩和を必要とするだろうと述べた。彼は両国の大使がそれぞれ国境を越えて自由に行き来できるようになることを希望すると述べた。

 

オバマ大統領は「私たちは、アメリカの外交官たちがキューバ国内で自由に行動できるための能力を持つことが必要だと考えている」と述べた。

 

 カストロ議長は、アメリカに開設されるキューバ大使館がアメリカの銀行と取引ができるようになることを希望した。

 

 議長はオバマ大統領に対して、アメリカがキューバに科している禁輸措置の撤廃と米国務省のテロ支援国家のリストからキューバを外すように求めた。

 

 オバマ大統領はカストロ議長に対して、「数日中に」テロ支援国家からキューバを外す決定を行うだろうと応じた。

 

 政府関係者たちは、会談が「率直」な雰囲気の中で行われ、緊張はなかったと述べた。2人の指導者は「部屋の中で歴史の重さ」を感じていたようだと語った。

 

 カストロ議長はアメリカとキューバそれぞれの代表団は指導者たちの言うことをよく聞いた方が良いだろうと冗談を言い、オバマ大統領はカストロ議長と共に笑った。

 

 2人の指導者は隣合って腰掛けた。ホワイトハウスの大統領執務室で大統領が政府高官と打ち合わせをする時のように椅子が並べられたのだ。

 

 会談後の記者会見で、オバマ大統領は、キューバ国内での状況は改善しているが、アメリカはこれからも自由と人権に関して関与していくと述べた。同時に、オバマ大統領は、カストロ政権がどれほど続くかに関係なく、体制に対してアメリカが圧力をかけることはないと述べた。

 

 オバマ大統領はキューバ政府との将来におけるかかわりに関して、「私たちは体制転換(retime change)に関与することはありません」と述べた。

 

 オバマ大統領は続けて次のように述べた。「私たちはある種の考えを持っていますし、それを表明することを躊躇することはありません。説得を通じて私たちの支持する価値観を引き上げていくことが出来ると私は自身を持っています」。

 

 オバマ大統領はキューバと再び連絡ができるようになることは、世界政治において大きな転換であると主張した。

 

 オバマ大統領は「私たちが何をやろうとそれとはかかわりなく、キューバでは大きな変化が起きることでしょう」と述べた。

 

長年人々が待ちわびていたのは、それは50年以上行われなかった2国間の指導者たちの最も重要な接触であり、会談であった。

 

 土曜日の朝、オバマ大統領は米州首脳会談の場で、自分とカストロ議長は「歴史的な第一歩を記すために」私たちは喜んで体面を果たすだろうと述べた。

 

 「アメリカの外交政策の変更は米州地域全体のターニングポイントになるでしょう」とオバマ大統領は述べた。

 

 オバマ大統領はキューバとの関係で冷たい部分は存在しないと示唆した。

 

 オバマ大統領は「私が生まれる前に始まった争いを続けていくことに興味も関心もありません。冷戦はとっくの昔に終わっているではありませんか」と述べた。

 

 土曜日の朝のこの時、カストロ議長はオバマ大統領に対して「深甚からの」謝罪を表明した。

 

 「私はオバマ大統領とその他ここにおられる皆さんに謝罪を申し上げます。私はオバマ大統領に謝罪したい。それはオバマ大統領にはアメリカとキューバとの間にある争いに関して何の責任もないからです」とカストロ議長は述べた。

 

 キューバに対するアプローチを刷新するために、オバマ大統領は「何か新しいことを試す時が来たのです」と述べた。

 

 オバマ大統領とカストロ議長は対話を握手から始めた。金曜日の夜、既に2人は実際に対面して握手を交わした。これはキューバとアメリカの指導者の50年ぶりの物理的接触となった。

 

 土曜日、このような外交上のジェスチャーに対して共和党の大統領選挙候補者たちからすぐに批判が浴びせられた。

 

 元フロリダ州知事ジェブ・ブッシュは「オバマ大統領はカストロと会談しているが、ネタニヤフとの会談は拒否した」とツイッターで発信した。これは先月、オバマ大統領がイスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフを冷たく扱ったことを指している。

 

 ジェブ・ブッシュは更に「どうして抑圧的な体制の冷酷な独裁者を合法化できるのだろうか?」と発信した。

 

 マルコ。ルビオ連邦上院議員(フロリダ州選出、共和党)の両親はキューバ人である。ルビオもまたこの雪解けに対して攻撃を行った。カストロ体制が長年にわたりアメリカの苦役に対して敵対してきたのに交渉開始を申し入れたことは不合理極まりないと発言した。

 

ルビオはオバマ政権の政策変更を激しく非難した。彼は「全く持って馬鹿にしている。何をやっているのか全く理解できない」と述べた。

 

 水曜日の夕方、米国務省はオバマ大統領からテロ支援国家のリストからキューバを外すように要請を受け、木曜日にはその手続きの最終確認を行い、大統領に報告した。

 

 オバマ大統領はキューバをリストから外す手続きを進めることになる。リストからの削除はカリブ海の島国キューバに対するアメリカの善意がその方向を変えて向けられることになることを示す。

 

 オバマ大統領が初めてキューバとの国交正常化を行う決断を下したと発表したのが昨年12月であった。政権が正式に禁輸措置と渡航禁止措置の緩和を発表したのは今年の1月15日であった。

 

 キューバとアメリカは1959年にキューバ革命が成功した後に衝突した。ラウル・カストロの兄フィデル・カストロ率いる共産主義者の反乱軍が政府を打ち倒し、ソヴィエト連邦と同盟関係を樹立した。

 

 冷戦が終わるまで、キューバとアメリカは厳しく対立し続けた。ラウル・カストロは兄であるフィデル・カストロが2008年2月に権力の座から退いた後に国家評議会議長に就任した。

 

(終わり)











 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 今回は、アメリカとキューバとの国交正常化交渉の過程についての記事をご紹介します。南米出身初のローマ法王フランシスの役割、オバマ大統領の側近による交渉、オバマ大統領の決意について書かれています。

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こんなに近いアメリカとキューバ 

 

 こうしたものが外交なのだということを改めて考えさせられます。翻って日本について考えてみると暗澹たる気持ちになってしまいます。

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ラウル・カストロ大統領(議長)と電話で話すオバマ大統領 

 

==========

 

アメリカとキューバとの間の秘密の外交交渉は拘留者交換の合意に達し、将来の国交正常化に結び付いた

 

キャロル・モレロ、カレン・デヤング筆

2014年12月17日

ワシントン・ポスト紙

http://www.washingtonpost.com/world/national-security/secret-diplomacy-with-cuba-ended-in-breakthrough-deal/2014/12/17/c51b3ed8-8614-11e4-a702-fa31ff4ae98e_story.html

 

アメリカとキューバとの間で50年以上も続いた敵対関係に終止符を打った。アメリカとキューバとの間で続けられた1年半に及ぶ秘密の外交交渉によってそれは成し遂げられた。

 

 オバマ政権のある高官は取材に対して、両国間の秘密交渉はアメリカからキューバに申し入れがあった時点から始まり、2013年6月にカナダ国内で直接交渉が始められ、それは9回にも及んだ、と述べている。

 

 外交交渉過程においては、異例なことであるが、ローマ法王フランシスの関与もあった。ローマ法王フランシスは、両国の交渉が合意に達するのを助けるために、ヴァチカンの利用を許可し、オバマ大統領とキューバのラウル・カストロ議長(大統領)にそれぞれ親書を送り、拘留者の交換と外交関係の復活を求めた。

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ローマ法王フランシス 

 

 スパイの定義を巡って交渉が一時ストップすることもあったが、結局は3機の飛行機が両国間に拘留されていた人々を同時に交換することで、喜びに包まれる結果になった。

 

 秘密交渉は外交官たちではなく、オバマ大統領の国家安全保障問題担当補佐官2名が行った。これは、キューバ側に対して、アメリカ側が外交交渉と国交正常化はホワイトハウスが直接行うことだということを明確に示すためであった。

 

 交渉の過程で、ジョン・F・ケリー国務長官をはじめとする政権の幹部たちは機会を捉えて、アメリカとキューバとの関係の未来は、アメリカ人の建設業者アラン・グロスの釈放にかかっていると表明していた。グロスはキューバに5年間も拘留され、肉体的、精神的な衰えが進んでいた。

 

 キューバの外相ブルーノ・ロドリゲス・パリラとケリーとの間でこの夏に4階の階段が持たれた。ケリーは会談の度に、グロスがキューバの刑務所に拘留されている限り、二国関係が改善されることは「決して、決して」ないと語った、とある国務省の高官は証言している。この高官は他の交換と同様に匿名を条件としてきたが、私的な会話の内容について取材に答えてくれた。

 

 水曜日に、キューバとアメリカは国交の正常化に動くと発表された。これは、オバマ政権が長年にわたり実行したいと考えていた政策変更であった。

 

 オバマ大統領はキューバ系アメリカ人の親戚への少額の送金や訪問を容易にするための女権の緩和を行ったが、一期目ではそれ以上の劇的な政策変更はできなかった。しかし、オバマ大統領は、二国間の断絶はいつまでも継続すべきではないと確信していた、とある政府高官は語っている。2012年に開催された南北アメリカ大陸諸国サミットの期間中、オバマ大統領は、南米諸国の指導者たちから、アメリカはキューバについて妄想に取りつかれていると激しく批判された。

 

 2013年初頭、オバマ大統領の大統領としての二期目がスタートした直後、大統領はキューバとの間で国交正常化に向けた交渉を行うことを許可した。

 

 アメリカとキューバは双方ともに伝統的な外交チャンネルを使わずに、双方の大統領に近い人々同士で交渉を行うと決めた。ホワイトハウスは、オバマ大統領の信任が厚い国家安全保障問題担当次席大統領補佐官ベンジャミン・J・ローズ(Benjamin J. Rhodes)と国家安全保障会議南米部長リカルド・ズニガ(Ricardo Zúñiga)を代表として選んだ。ズニガは、ハヴァナでアメリカの利益代表部で働いた経験を持っている。キューバ政府も彼らに相当する役職の人々を出してきた。

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ベンジャミン・ローズとオバマ大統領 

 

 交渉に参加したある政府高官は次のように述べている。「双方がそれぞれの大統領の意向を受けて交渉しているということが分かっていることが何よりも重要なことでした」

 

アメリカ、キューバ双方の交渉チームの人数はかなり制限されたと前述の政府高官は述べている。

 

 「私たちはとても団結していました。キューバ側も恐らくそうであっただろうと思います。私たちは、アラン・グロスの釈放という目標の達成を難しくするようなことをするつもりはありませんでした。」

 

 2013年6月、カナダの首都オタワで初めて2つのチームが直接顔を合わせた。双方は友好的な雰囲気で話し合いを行った。それから18カ月、2つのチームはカナダの首都で複数回にわたり話し合いを行った。

 

 キューバ側はまずスパイの交換を提案してきた。キューバに拘留中のグロスと、マイアミの反カストロ活動を行っていたキューバ人の情報をハヴァナに送っていた5名のキューバ人スパイのうちアメリカに拘留中の3名の交換を提案してきた。アメリカ側はこの提案を拒否した。アメリカ側は、グロスが、米国国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)と契約を結んだ建設業者に過ぎず、彼は正当に仕事を遂行していただけだと主張した。しかし、話し合いはすぐに二国間の外交関係の復活に何が必要かというテーマに移っていった。

 

 その前にオバマ大統領はヴァチカンを訪問し、ローマ法王フランシスと会談を持った。彼らの話題がキューバに移った時、史上初の南米出身の法王は、両国間に存在する困難な諸問題を解決する手助けをしたいと申し出を行い、その後、オバマとカストロにそれぞれ親書を送った。

 

 今年に入って、アメリカ側は、キューバ側に拘束されている本物のスパイとアメリカ国内で服役中の3名のキューバ人スパイの交換を提案した。

 

 2014年10月、アメリカとキューバ双方の交渉チームがローマを訪問し、ヴァチカンの幹部たちと会談を持った。そこで、拘留の人たちの交換が最終決定された。そして11月までカナダのオタワで交渉は続けられた。

 

 キューバとアメリカとの間で国交正常化に向けた話し合いを行うという決定を受けてそれに祝意を示すヴァチカンの声明には次のような一節がある。「ヴァチカン(The Holy See)はアメリカとキューバ両国が二国間関係を強化し、それぞれの市民たちの福利を向上させるという試みをこれからも支援し続ける」

 

 この決定に至るまで、オバマ大統領は全くぶれなかった。中間選挙の後、彼は、彼の行政府の長としての力を使って、単独で行動をすることができると感じていると語った。

 

 グロスの退潮が悪化しているという報告も入っていた。グロスは訪問者たちに対して、このままでは新年を迎えることはできないだろうと語っていた。彼の外見は報告ほどに弱っているようには見えなかったが、長期にわたる拘留で肉体的に弱っていくことが懸念されていた。

 

 しかしそのような懸念も今週払拭された。火曜日、オバマ大統領は密かに1時間近くにわたり、カストロと電話で話をした。これは1959年にキューバで革命が起きて以来、初めての大統領級の首脳同士の会話となった。そして、水曜日、オバマ大統領はホワイトハウスからテレビを通じて、アメリカ国民に語りかけた。

 

 オバマ大統領は演説の中で、自分が生まれたのはフィデル・カストロが政権を掌握してから2年後のことであったと述べた。そして、次のように語った。「変化することは難しいことです。私たちの人生においても、そして国家にとっても。特に歴史の重荷を背負っている場合には変化はより困難となります。しかし、今日、私たちは変化を起こそうとしています。それはそうすることが正しいことだからです」

 

 彼は続けて次のように語った。「本日、アメリカは過去からの足枷を断ち切る選択をします。それは、キューバの人々、アメリカの人々、西半球全体、そして世界にとってより良いことを成すことになるのです」

 

 この発表からほんの2、3時間前、3機の飛行機が朝もやの中を飛んでいた。

 

 一機はマイアミを飛び立ってハヴァナに向かった。この飛行機には2011年にスパイ容疑で有罪判決を受けた3名のキューバ人が乗っていた。

 

 もう一機は全く逆のコースを取った。この飛行機には名前が公表されていないアメリカのスパイが乗せられていた。彼はアメリカ国内にいるキューバ側のスパイ情報をアメリカ政府に提供したとして約20年にわたり拘留されていた。

 

 三機目の飛行機はアンドリュース空軍基地を飛び立ち、ハヴァナ近郊の軍事施設に着陸した。そこでアメリカの利益代表部の代表が、夫の帰還を待ちわびた妻ジュディの前へグロスを伴って姿を現した。

 

ジェフ・フレイク連邦上院議員(共和党、アリゾナ州選出)は次のように語っている。「グロス夫妻にとって最高の瞬間でした。とても感動的な光景でしたよ」。フレイク議員は拘留中のグロスの許を何回も訪問し、水曜日の解放にも立ち会った。

 

 アメリカへの途上、パイロットが、飛行機がアメリカの領空内に入ったとアナウンスをした時、グロスは両手を挙げて喜びを表現した。

 

パトリック・J・リーフィー連邦上院議員(民主党、ヴァーモント州選出)はグロスに「あなたは自由の身ですよ」と語りかけたという。

 

「どうやら本当に自由になったようですね」とグロスは答えた。

 

(終わり)








 

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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 昨日、2014年12月18日深夜にツイッター上で「アメリカ政府がキューバ政策について重要な発表をする」というニュースが流れました。そして、アメリカがキューバとの間に国交正常化に向けた交渉を行うと正式に発表されました。

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オバマ大統領とラウル・カストロ議長(左)
 

 キューバとアメリカは1961年に断行して以降、アメリカが一方的に経済制裁を科してきました。キューバはそれ以降、この経済制裁に苦しみながらも、フィデル・カストロ議長の下、独自の政策を行ってきました。現在、西半球に残る最後の共産主義政権が統治する国となりました。

 

 私がアメリカの大学でアメリカ政治の勉強をしていた時、人種と政治が重要なテーマだったのですが、キューバ系アメリカ人の研究についても触れることができました。キューバ系アメリカ人は他のヒスパニックと同じくスペイン語を母語にしています。しかし、キューバ革命時に難民としてアメリカにやって来たのは、お金持ちが多く、フロリダ州のマイアミに定住した後もキューバ社会における階層を維持していたということです。また、他のヒスパニックと違い(マイノリティは民主党支持が多い)、共和党支持が多いのも特徴です。また、お金持ちは私立のフロリダ・インターナショナル大学へ、庶民で勉強ができる人は、州立のフロリダ大学に進学するということでした。

 

 しかし、世代を超えていくにつれて、キューバ系アメリカ人たちの反カストロ意識も薄れてきたでしょうし、キューバ側も豊かな生活を望んでいるでしょう。キューバは教育水準が高く、質の高い労働力になりますし、治安も良いので、魅力的な投資先となるでしょう。フロリダ州にいるキューバ系アメリカ人たちが、華僑のように「玖僑」(キューバは日本式では玖瑪、中文では古巴と書くと先輩にご教示いただきました)となっていくでしょう。

 

 私は、今回のアメリカとキューバの国交正常化交渉の開始は、現在のアメリカの外交・安全保障分野における「内戦」を象徴しているものと考えます。チャック・ヘーゲルを泣く泣く解任しなければならなかったオバマ派ですが、巻き返しの一手として、キューバとの国交正常化を持ってきたのだ、と私は考えました。それは、このニュースが流れる半日ほど前に以下のニュースが流れたことがきっかけでした。

 

(雑誌記事転載貼り付けはじめ)

 

●「USAID Administrator Rajiv Shah to Step Down

 

BY JOHN HUDSON

フォーリン・ポリシー誌 DECEMBER 16, 2014 - 11:46 PM

http://foreignpolicy.com/2014/12/16/usaid-administrator-rajiv-shah-to-step-down/?utm_content=bufferab042&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer

 

After five years of heading the United States Agency for International Development, one of the Obama administration’s most charismatic and well-liked bureaucrats is leaving his job next month, Foreign Policy has learned.

 

Rajiv Shah, a Detroit native and a 42-year-old son of Indian immigrants, will inform his entire staff on Wednesday morning of his decision to step down as USAID administrator on January 30. His next move remains a mystery, though many have speculated at a run for Congress or a jump to private sector development work.

 

I’m not prepared now to talk about my next steps,” Shah told FP in a phone call on Tuesday. “I will continue to stay focused during the transition in ensuring that USAID remains a results-oriented, evidence-based humanitarian enterprise.”

 

Known for his bouncy demeanor and boundless enthusiasm, Shah’s tenure has been most notable for the dramatic changes made in how USAID delivers foreign aid — particularly in weaning Washington off of its dependence on large development contractors.

 

Instead of simply doling out assistance, which has been the USAID model from day one, he tried to change it,” said Peter Pham, director of the Atlantic Council’s Africa Center.

 

At the same time, Shah managed the agency’s $20 billion budget when accountability, corruption, and waste continued to plague U.S. efforts in Afghanistan and a number of embarrassing and poorly-designed democracy-building programs in Cuba jeopardized the aid agency’s reputation.

 

Through it all, Shah managed to maintain a glowing reputation on Capitol Hill, even among the most ardently conservative Republicans.

 

What I like most about Raj is he makes it easy for people of different political backgrounds to support him,” Sen. Lindsey Graham, a hawkish Republican from South Carolina, said last week.

 

Speaking at a dinner organized by the U.S. Global Leadership Coalition (USGLC), a group that advocates for a strong foreign aid budget, Graham marveled at Shah’s ability to defend USAID’s budget at time of heightened partisanship and ever-tightening fiscal constraints. “If you can convince Tom Coburn [that foreign aid] is a good deal, you should open up your own shop,” Graham said, referring to the famously conservative Oklahoma senator.

 

Over the years, the structural changes Shah implemented at the agency have had a dramatic ripple effect on the recipients of foreign aid spending.

 

Rather than dropping billions of taxpayer dollars into sprawling programs designed to reduce poverty, USAID pivoted to directly funding foreign development groups, offering loan guarantees to local banks and launching contests aimed at solving specific global challenges.

 

I give him a lot of credit for that, especially in launching science contests that provide seed money for innovation,” said Pham.

 

One particular example of this is the Ebola Grand Challenge, an idea Shah cultivated at his old job at the Bill and Melinda Gates Foundation. The contest challenged inventors to develop medical equipment and technology for front-line medical workers in West Africa and recently distributed $1.7 million to three contestants.  One of the winners — a team from John Hopkins University — designed a new protective suit that has a battery-powered cooling system and is easier to take off — both innovations that are said to greatly reduce the risk of transmission to the medical worker.

 

Shah steered USAID through important reforms, bringing an effective evidence-based approach to the agency,” said USGLC president Liz Shrayer.

 

Still, Shah has struggled to defend the agency’s disastrous projects in Cuba, which include launching a now-defunct social media site to encourage Cuban youths to revolt against the Castro regime, attempting to co-opt Cuba’s vibrant hip-hop scene and an HIV prevention workshop that served as a front to recruit political activists — all activities that many aid experts say compromised the global perception of USAID as a humanitarian arm of the U.S. government.

 

This is dumb, dumb, dumb,” said Sen. Patrick Leahy, chairman of the Senate Appropriations subcommittee that oversees USAID. “It’s not something that should be done through USAID. They do a lot of great things around the world. … This is not one of them.”

 

Despite those criticisms, Shah maintained that USAID was fulfilling its dual role of fighting extreme poverty and supporting “resilient democratic societies” around the world.

 

As you know, our focus has been on supporting civil society in Cuba and other closed spaces around the world,” he told FP. “It’s difficult to support civil society in places where societies are closed.”

 

(雑誌記事転載貼り付け終わり)


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ラジブ・シャー(インド系アメリカ人)

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任命式の様子(左がヒラリー)
 

 アメリカ国務省(外務省に相当)の参加にありながら予算規模では肩を並べる機関である、米国国際開発庁(United States Agency for International DevelopmentUSAID)のラジブ・シャー(Rajiv Shah)長官が辞任を発表したのが、国交正常化交渉開始の半日ほど前でした。

 

 拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)で書いた通り、このUSAIDという組織は、アメリカの「世界民主化政策」の尖兵です。このUSAIDの長官を5年間も務めたのがラジブ・シャーです。シャーを長官に任命したのが当時のヒラリー・クリントン国務長官です。ヒラリーの国務長官在任時に起きたのが「アラブの春」です。このアラブの春に大きく関与したのがUSAIDです。

 

 USAIDはキューバにも関与していました。私は昨日、2つのニュースを聞いて、咄嗟に次の記事のことを思い出しました。

 

(新聞記事転載貼り付けはじめ)

 

●「米政府、SNSで対キューバ工作」

By JOSÉ DE CÓRDOBA AND DAVID LUHNOW

原文(英語)

ウォールストリート・ジャーナル日本版 2014 4 6 09:38 JST 更新

 

 米国がキューバ政府の弱体化を狙ってミニブログサイト「ツイッター」に似たソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)をキューバ向けに秘密裏に立ち上げていたことがわかった。AP通信が報じた。

 

 AP通信の3日の報道によると、SNSを立ち上げたのは国際開発庁(USAID)。年間数十億ドルに上る対外支援を実施する米国の政府機関だ。

 

 米政府高官は3日、このSNSの存在を認めたものの、社会的な混乱を扇動する工作であることは否定した。

 

 USAIDはメキシコの司法改革推進やハイチ向けの災害援助に取り組むなどさまざまな援助活動を行っている。しかし、工作活動が発覚したことで、UNAIDの今後の援助活動に支障が出る恐れがあるとの見方が出ている。

 

 バージニア州アレクサンドリアの非営利シンクタンク、キューバ・リサーチ・センターの代表、フィリップ ・ピーターズ氏は「こういうことが起きれば、USAIDが実施している優れた経済援助や開発援助に疑念が生じる。USAIDにとってダメージは大きい」と述べた。

 

 ロシアは2012年、野党グループを支援しているとしてUSAIDを追放。翌年にはボリビアも同様の措置を取った。

 

 キューバはインターネットの利用を制限しているが、米国は「スンスネオ」というSNSを立ち上げて規制をかいくぐった。キューバ国民は国営の電話網を使ってこのSNSにアクセスし、メッセージを書くことができる。立ち上げ当初は利用者数を確保するため、スポーツや天気、雑学などの情報を送信していた。

 

 AP通信はUSAIDの内部文書を引用。それによると、SNSを立ち上げた目的は、「国家と社会の間の力のバランスを見直す」ために、政治関連のコンテンツを徐々に紹介して利用者を結集させることだった。

 

 USAID3日、声明を発表し、「スンスネオの目的はキューバ国民同士が自由に話せる場を作ることだった。それ以上は何もなく、われわれはこれを誇りに思っている」と述べた。

 

 USAIDの広報担当者は、スンスネオの存在が公になったことでUSAIDの今後の活動に支障が出るとの見方は否定した。

 

 ホワイトハウスのカーニー報道官は3日、スンスネオについて、秘密工作ではなく慎重に人権促進の活動を行っていたと述べた。連邦政府機関が秘密工作を行う場合、大統領の承認を得なければならない。

 

 キューバ政府の公式新聞グランマ(電子版)は3日、米国がキューバの若者と政府の対立を画策しているというラウル・カストロ大統領の主張が裏付けられたと報じた。

 

 AP通信によると、スンスネオの利用者は2010年時点で約4万人に達していたが、米国が同サービスに関与していたことを全く知らなかったという。また、米国は政治的なメッセージに反応する可能性がある人物を特定するために利用者に関する情報の収集を行っていたが、利用者はこれも承知していなかった。

 

(新聞記事転載貼り付け終わり)

 

 キューバとの国交正常化にはUSAIDの最高責任者シャー長官の首が必要であったということでしょう。そして、これは、ヒラリー系に大きなダメージとなることでしょう。

 

 私がこの状況を「内戦」と書きましたのは、オバマとヒラリーとの関係が相当悪化している、と考えたからです。キューバ系アメリカ人が多く住むフロリダ州は大統領選挙の激戦州です。ここでキューバ系アメリカ人たちのエリート層を怒らせることをすればどうなるでしょうか。フロリダ州は共和党が取ることになります。現在、2016年の米大統領選挙の共和党の有力候補として、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)の2名のフロリダ州にゆかりの深い人物の名前が挙がっています。

 

 私は、オバマ大統領がヒラリーの米大統領選当選阻止のための一手としても今回のアメリカとキューバの国交正常化交渉を利用しているのだろうと考えています。イラン、キューバとオバマ大統領は交渉を始めました。恐らく北朝鮮が次ということになりでしょう。日本はまた頭越しでの外交であたふたしてしまうことでしょう。属国の悲哀ということになるでしょう。


キューバ系アメリカ人の歌姫グロリア・エステファン 

 

(終わり)








 

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