古村治彦です。
アメリカ大統領選挙について、大手メディアや大手メディアの情報に依存していた私のような存在は、ドナルド・トランプ当選を予測できませんでした。
私は、どちらを支持するかと言われれば、ヒラリーではなく、トランプと答えていました。私の友人知人の中には、どうして?あんな酷い人なのに、と言う人もいました。私は、アメリカの外交政策の潮流である介入主義と現実主義で、ヒラリーの場合は、人道(女性の権利や子供たちの福祉)を旗印にして安易に外国に軍事介入をしてかえって問題をこじらせることになるから、反対だし、日本の自衛隊がそのお先棒を担がされるのは嫌なので、と答えていました。
しかし、私が大統領選挙の動向を見る場合に、頼るのは世論調査の数字とメディアの記事です。たとえアメリカに滞在していたり、短期間に取材に行ったりしても、あんなに広くて、人口が多い中では、何か価値あることを知ろうとすることは、大海から砂粒を拾うようなものであったでしょう。「空気(直観)」を感じるというのは、私のように、無能、浅学菲才、無知蒙昧のちっぽけな人間にはできません。そこを責められるともうどうしようもありません。私という存在を消してリセットするしかありませんが、現在の技術では、私が一度死んで、私を非難する人々の期待に応えるようなスーパーマンや天才に生まれてくることに賭けるしかありません。
愚痴はここまでにして、世論調査の数字は参考にするのは間違っていないように思います。統計学も間違っていません。統計学が分析するデータが人間から集められたものであると、時に人間の複雑さに追いつけずに、かなり少ない確率で起きるシナリオが起きてしまうことがあります。2008年のリーマンショックはそうであったと思います。世論調査で世論を反映しない数字が出てしまうというのは全く笑い話にもならないものですが、こういう失敗を重ねていくことで世論調査の方法は洗練されていくものと思います。
さて、トランプ勝利(ヒラリー敗北)についての要因の分析がアメリカでも始まっています。以下のワシントン・ポストの記事では、白人有権者たちの動向が選挙の勝敗を決めた、と分析しています。大学教育を受けていない白人男性有権者が2012年に比べて活発に動き、トランプへと投票したことで、トランプが勝利したということになります。
私も世論調査の数字とメディアの記事、更にはこれまでの歴史(この州は過去の大統領選挙でどちらの党が勝ったか)を参考にして、予測をしたのですが、大きく外したと思うのは、ミシガン州とウィスコンシン州、ペンシルヴァニア州です。これらの州は労働組合が強い州でしたので、民主党が強い州でした。しかし、その労組に入っている(入っていた)白人労働者たちがトランプの方が自分たちの代表だ、自分たちを救ってくれる、仕事金をくれると確信して行動して、トランプに勝利をもたらしました。フロリダ州とノースカロライナ州を譬え落としても、ラストベルトを押さえておけば勝利というのがヒラリー側の考えであったでしょうが、それは崩れてしまいました。
今回の選挙で、2000年代に言われるようになった、レッド・ステイト(共和党が強い州)、ブルー・ステイト(民主党が強い州)の色分けの再考が求められるでしょう。そして、共和党、民主党の性格の変質、そしてアメリカ政治への変質へとつながるでしょう。その意味で今回の選挙はチェンジ・エレクションとして歴史に残るでしょう。
(貼り付けはじめ)
5つのイメージで見るトランプ勝利の要因(How Donald Trump did
it, in 5 images)
フィリップ・バンプ筆
2016年11月9日
『ワシントン・ポスト』紙
https://www.washingtonpost.com/news/the-fix/wp/2016/11/09/how-donald-trump-did-it-in-5-images/
ドナルド・トランプがヒラリー・クリントンを全く予期できなかった番狂わせをどのように起こしたのかを描写するための最速の方法は、全国の全カウンティ(郡)レヴェルで、今回のトランプの戦いぶりを、4年前のミット・ロムニーのオバマ大統領に対する戦いぶりと比べてみることだ。火曜日の午前2時までに集まって来た各カウンティ(郡)のデータを基にして、火曜日の朝、私たちは次のような地図を作り上げた。
物語の内容は明確だ。トランプはロムニーに比べて、アメリカ北東部とラストベルトで成功した。南西部でだけロムニーよりも成功しなかった。『アトランティック』誌のロン・ブラウンスタインは火曜日にCNNの選挙後の特別番組に出演し、トランプの勝利は、ゆっくりと進んでいた投票パターンの出現を促進させたと語った。ブラウンスタインは、アメリカ北部に住む白人高齢者たちは共和党支持に動き、一方、南西部の非白人たちの大部分は民主党支持に動いた、と語った。
各カウンティ(郡)の白人とヒスパニックの人口密度の地図と上記の地図を比べてみると、この投票パターンは既に明確になっていることが分かる。
しかし、この物語は白人有権者についてだけのものではない。私たちが選挙期間中に繰り返し言及してきたように、白人有権者の中の教育歴を巡る分裂についてのものであった。教育歴の分裂は、収入と経済的な階級の分裂に相関している。
この分裂は全国的に起きていることは出口調査でも明らかである。大学教育を受けていない白人は、大学教育を受けている白人に比べて、トランプを支持した。彼らは、非白人に比べてもトランプ支持の割合が大きかった。
私たちはこの分裂が存在していることは予想していた。しかし、予備出口調査は、その程度が予想よりも大きいことを示していた。それは、大学教育を受けた白人有権者はトランプに強力に反対するというものであった。大学教育を受けている白人全体の動きと同じく、学士号を持っている白人女性は、共和党に対する反対に動いた。しかし、学士号を持っている白人男性はトランプ支持に動いた。しかし、2012年のロムニーに対する支持に比べて、その割合は少し小さいものとなった。学士号を持っていない白人男性間のトランプ支持と不支持の差は、大変大きかった。
地理的に見てもこの動きは明らかであった。人種、教育、収入、都市部と地方部の人口といった多くの要因の中で、2012年と比べて最も強く相関関係が出たのは、学士号を持つ白人有権者のパーセンテージであった。より正確に言うと、学士号を持っていない人の割合であった。大学教育を受けていない白人の人口密度が高ければ高いほど、2012年のロムニーに対する支持と比較して、トランプ支持へと移行した割合がより大きく出たのである。2012年にはロムニーを支持しなかった大学教育を受けていない白人有権者が、今回はトランプ支持に大きく動いたということになる。
この大きな動きは、大学教育を受けていない白人男性が集中している地域で見られた。白人女性が多く住む地域よりもこの動きは顕著であった。
この大きな動き(大学教育を受けていない白人男性のトランプ支持への移行)によって番狂わせが起きた理由の一つは、2012年に比べて投票率が全体的に下がったことが挙げられる。これは、ヒラリー・クリントンの支持基盤となるべき有権者たちが投票に行かなかったことを示している。しかし、選挙とは投票に行った有権者によって勝利をもたらされるものだ。そして、火曜日には、4年前にロムニーに投票した人たちよりも、今回トランプに投票した人々の方が寄り熱意を持って投票所に向かったのである。
(貼り付け終わり)
(終わり)